ゴヤ賞2017授賞式*あれこれ落穂ひろい ⑫ ― 2017年02月11日 17:48
男女平等をアピールした栄誉賞受賞者、アナ・ベレン
(勢揃いした受賞者たち)
★授賞式はマドリード・マリオット・オーディトリウム・ホテルで2月4日(土)22:00より少し遅れて開始されました。スペイン国営テレビが18:00から赤絨毯に現れるシネアストたちを中継して盛り上げるという大イベントでした。ベスト・ドレッサーにも選ばれた栄誉賞受賞のアナ・ベレンは 2011年に他界したスペインのデザイナー、ヘスス・デル・ポソが創設したデルポソDelpozonoブランドのオフホワイトのドレスで赤絨毯を踏みました。一緒だったのはアトリエ・ヴェルサーチがご贔屓の黒い衣装を纏ったペネロペ・クルス、昨年も同じヴェルサーチのミラノ・ファッションでした。今回は夫君ハビエル・バルデムは欠席、アルモドバルと旧交を温めていたようです。
(アルモドバルとぴったり肌を被った黒いドレスのペネロペ・クルス)
★授賞式は約3時間と時間短縮がアナウンスされていたように、総合司会者のダニ・ロビラの皆さん「おやすみなさい、そして名画を」(00:57)で無事お開きとなりました。受賞者が友人、両親、祖父母、叔父さん叔母さんなど長々と感謝の辞を連ねる場合には、壇上に控えるフィルム・シンフォニー・オーケストラが警告の足踏みを始めるとなっていました(笑)。茶目っ気のある魅力的な素質がぎっしり詰まったダニ・ロビラの進行ぶりを「よくやった」と褒める人が多かったようです。開会前に「政治の話は10秒だけ」と冗談をとばしていた通り、政治的発言を自らに封じたこともあったかもしれない。
(3度目の総合司会者ダニ・ロビラ)
★一番会場が盛り上がったのは、もちろん栄誉賞でした。プレゼンターは3人の監督、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、フェルナンド・コロモ、ホセ・ルイス・ガルシアと実に豪勢でした。アナ・ベレンは手にしたメモを見ながら「私は約50年前から映画界で仕事をしているが、女性シネアストは正当に評価されていない」というようなことをスピーチした。1972年に結婚した作曲家で歌手のビクトル・マヌエルに触れて「彼なしの人生はなかった」と感謝の言葉、ビクトルは娘さんと赤絨毯を踏みました。栄誉賞は一度きり、さすがに時間制限はなかったのか長かった。最後に「健康と映画を祝して」で締めくくりました。
(左から、アナ・ベレン、M・ゴメス・ペレイラ、F・コロモ、J・L・ガルシア)
★初めてではないがアカデミー映画会長が女性ということもあって、男女平等、機会均等が叫ばれ、クカ・エスクリバノのように「もっと女性にチャンスを」と編み込んだショールを纏って赤絨毯を踏んだ女優も現れました。活躍が目立つようになったのはここ十年くらいで、第1回ゴヤ賞1987では女性受賞者は女性でしか貰えない主演・助演女優賞だけでした(新人賞は未だなかった)。初めて監督賞を受賞したのは、ピラール・ミロ(1997『愛は奪った』)、次がイシアル・ボリャイン(2004『テイク・マイ・アイズ』)、そしてイサベル・コイシェ(2006『あなたになら言える秘密のこと』)と続きました。三人とも来日しています。ノミネーションまで広げるなら昨年のパウラ・オルティス、2回のグラシア・ケレヘタなどがあげられます。最近来日予定のチュス・グティエレス、今回新人監督賞ノミネートのネリー・レゲラ、他のカテゴリーで自作がノミネーションされている監督では、マリア・リポル、マリナ・セレセスキー、イサ・カンポと層の厚さを感じさせます。また例外的なのは衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアー賞の2部門、受賞者の半分以上が女性です。
(クカ・エスクリバノ)
ラウル・アレバロの執念が実った夕べでした!
★最初から決定していたのではないかと思われたのが作品賞の”Tarde para la ira”の受賞でした。制作会社はLa Canica Filmsのベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ監督でした。『E.T.』やブルース・リーに夢中だった少年が撮った映画は、構想9年、俳優の仕事を掛け持ちしながらの脚本執筆、資金集めと執念のデビュー作でした。国営テレビの資金援助は受けたが民放TV局からは受けずに、200万ユーロで撮ったことがアカデミー会員の心象を好くした一因かもしれない。今までに培った人間関係なくしてこの映画は完成させられなかっただろうことは、キャスト、スタッフの顔ぶれをみればわかることす。新人監督賞、オリジナル脚本賞、マノロ・ソロが助演男優賞と4賞を制した。『ゴモラ』(08、マッテオ・ガローネ)、『わらの犬』(71、サム・ペキンパー)やダルデンヌ兄弟、ジャック・オーディアール、カルロス・サウラの映画がミックスされているそうです。
(ベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ)
★監督賞ノミネーションはオール男性でしたが、作品賞にはベアトリス・ボデガスの他、『ジュリエッタ』のエステル・ガルシア、メルセデス・ガメロは『スモーク・アンド・ミラー』と “Que Dios nos perdone” の2作、同じく “Que Dios nos perdone” のマリエラ・ベスイエブスキー、”Un monstruo viene a vermme” のベレン・アティエンサという具合に、男性陣に交じって女性プロデューサーの進出が顕著でした。
★以前から本作を本命としていた「エル・パイス」の批評家カルロス・ボジェロ、辛口でめったに褒めない批評家として嫌われ者だが、今回は「この胡散臭い、過激で、見る人を不安にさせる、地方都市の風土をぎっしり詰め込んだ映画が受賞することに、何ら異論の余地はない」とアレバロの並外れた活力、透明な才知を称賛しています。それが即 ”Un monstruo viene a vermme” や ”Ocho apellidos vascos”、<トレンテ・シリーズ>のような興行成績につながらない現状が悩みの種かもしれません。
ずっとうるうるだったフアン・アントニオ・バヨナ監督
★どうしてフアン・アントニオ・バヨナがうるうるだったかというと、自身の監督賞以外に撮影・編集・美術・録音以下8賞も受賞してしまったから。その度に壇上の受賞者から感謝の言葉が贈られるので涙の乾く暇がなかったというわけでした(笑)。なかにはうんざり組も大勢いたことでしょうが、何しろ2016年の興行成績が国内だけでダントツの2600万ユーロ(観客動員数450万人)ですから大目にみなければなりません。4位の『バンクラッシュ』、6位の『KIKI~』以下は桁が違います。2位、3位、5位はノミネートされていませんでした。
(涙腺が開いたままのフアン・アントニオ・バヨナ)
★フランコ体制時代に一家でバルセロナ市郊外のベッドタウンに移り、『スーパーマン』に魅せられながら育ったバヨナ少年も41歳、スペイン人俳優を起用せず英語で撮った作品で効率よく9賞をゲットした。彼の涙に感染した来場者も多かったようだが、先のボジェロ氏曰く「映画を見て泣いた人は僅かだったのでは」とワサビの効きすぎた批評、だから嫌われる。本作は『永遠のこどもたち』『インポッシブル』に続く「母子三部作」の最終作、第2作目は世界規模の成功を収めて、危機に瀕したスペイン経済の外貨獲得に寄与した。政府もその貢献度に報いるため2013年度の「国民賞」(映画部門)を贈った。これは今後とも破られることがない最年少受賞でしょう。これからのスペイン映画界を背負う存在なのは間違いありません。本作の日本公開は初夏6月の予定です。
エンマ・スアレス、主演・助演のダブル受賞は30年ぶりの快挙
★エンマ・スアレスのダブル受賞に違和感を覚えたファンも少なからずいたことでしょう。とりあえずアルモドバルが無冠にならずほっとした関係者がいたに違いありません。アルモドバルも登壇しましたが、女優賞に監督まで登壇するのはあまり例を見たことがありません。ダブル受賞は第2回ゴヤ賞1988のベロニカ・フォルケ以来のこと、フェルナンド・コロモのコメディ”La vida alegre” で主演、ガルシア・ベルランガの同じくコメディ"Moros y Cristianes"で助演を受賞しました。女優男優を問わずノミネーションは結構おりますが受賞までいかない。アルモドバル嫌いはスアレスの魅力的な演技を褒めたついでに「映画は空虚なまやかしの悲劇」とくさし、ペネロペ・クルスの演技は申し分なかったと、無冠に終わったフェルナンド・トゥルエバに気配りした。何事によらず十人十色です。
(ゴヤの胸像をを両手にエンマ・スアレス)
★主演男優賞のロベルト・アラモは、三大映画賞(フォルケ、フェロス、ゴヤ)を制したことになりますが、これまた『スモーク・アンド・ミラー』の「エドゥアルド・フェルナンデスの演技は完璧だった」と、暗にアラモの三冠に異を唱える意見も聞かれました。アラモ登壇の折には若いロドリゴ・ソロゴイェン監督もバヨナと同じく目を潤ませていました。
シルビア・ペレス・クルスの歌曲賞「Ai, ai, ai」に会場盛り上がる
★エドゥアルド・コルテスのミュージカル・ドラマ ”Cerca de tu casa” の中で、シルビア・ペレス・クルスが歌う「Ai, ai, ai」が歌曲賞に輝いた。経済危機のあおりを受けて二人とも失業してしまった若い夫婦の物語。彼女はこの妻ソニア役で新人女優賞にもノミネートされていた。家賃が払えずアパートを追い出され、仕方なく10歳の息子を連れて親の家に転がり込むが、両親も・・・という切ない話ですが、ゴヤの胸像を胸にシルビアが「耐えられないのは住む家のない人、住む人のいない家」と「アイ・アイ、アイ」の一節を歌った。これは出席者の心を揺さぶる瞬間だったとか。
(「アイ・アイ、アイ」を口ずさむシルビア・ペレス・クルス)
★残念ながら無冠に終わった『KIKI~』組の皆さん、ビシッときめた白装束でカメラに収まったパコ・レオン監督を中央にベレン・クエスタ(新人女優賞)とカンデラ・ペーニャ(助演女優賞)の曲者3人組。
作品賞候補者の5監督がスペイン映画の可能性を語り合う*ゴヤ賞2017 ⑪ ― 2017年02月08日 13:34
「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とフアン・アントニオ・バヨナ
★授賞式を目前にした1月28日(土)の午前中、作品賞ノミネーションの5監督が一堂に会する座談会が「エル・パイス」紙の編集室でもたれました。ガラ以前にアップするつもりで準備しておりましたが、順序が逆になってしまいました。今では恒例になっている座談会のようですが、1961年生れのアルモドバルが最年長と、平均年齢も下がって世代交代の印象を受けました。増税問題(7%から21%の増税)に対する考えも少しずつニュアンスが異なり、それがとりもなおさず映画制作の違いにもなっているようです。出席5監督とは、以下の5人です。
(左から、J.A.バヨナ、R.アレバロ、R.ソロゴイェン、A.ロドリゲス、P.アルモドバル)
ペドロ・アルモドバル(カルサダ・デ・カラトラバ1949、67歳)
“Julieta” 『ジュリエッタ』(作品・監督賞以下7個)
アルベルト・ロドリゲス(セビーリャ1971、45歳)
“El homre de las mil caras”『スモーク・アンド・ミラーズ』(作品・監督賞以下11個)
ロドリゴ・ソロゴイェン(マドリード1981、35歳)
“Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(作品・監督賞以下6個)
ラウル・アレバロ(モストレス1979、37歳)
“Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(作品・新人監督賞以下11個)
フアン・アントニオ・バヨナ(バルセロナ1975、41歳)
“Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(作品・監督賞以下12個、西米英カナダ)
★J.A.バヨナが「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とまず口火を切った。彼はスペイン映画の危機は増税だけが問題ではなく、もっと学校教育など社会構造的な問題があると常日頃から発言しています。それに対してアルモドバルは、それは勿論そうだがこれを除外することはできない、小さな問題ではないからと主張する。「大きい問題には違いないがそれが唯一ではない・・・フランスでは興行成績が落ち込んだとき、文化大臣と製作者たちが会合をもって改善策を話し合った。しかしスペインでは決してそうならない」とバヨナ。「それは一理あるが、私たちはフランスにいるわけじゃないから、両国のやり方を比較しても始まらない。フランス人は過度の自国崇拝主義者だし、フランス映画はすでに減価償却している。私たちは観客にスペイン映画を好きになってくれとは頼めない。子供のときからスペイン映画はスペイン的特質を誇張したものばかりだと蔑む意見を聞かされてきた」とアルモドバル。ごもっともな意見です。「私たちは観客に何かを要求すべきじゃないが、政府には言うべきことは言うべきです」と一番若いR.ソロゴイェン、増税と闘う必要があるという立場をとった。
(左から、ロベルト・アラモ、ソロゴイェン、デ・ラ・トーレ“Que Dios nos perdone”)
「財政赤字が解消されたら消費税を見直します」とメンデス・デ・ビゴ文化相
★文化にかける大幅消費税IVA増税問題は下火になる気配は全くない。文化相メンデス・デ・ビゴは、「財政赤字が解消されたら見直します」と口約束しているが、いつ「解消」されるのか。財政はかなり上向きになってきているようだが厳しさは変わらない。それに財務省がおいそれと首をたてに振るとは思えない。
★バヨナが学校教育の在り方に拘るのは、「文化などにお金をかける必要はないと考えていた軍事独裁政が40年間も続いたから、70年前には読み書きができない人々がたくさんいた。このような悲しむべき歴史的な遺産を乗り越えて、最近の数十年で飛躍的な向上を遂げた。政府の消費税減税などはうわべを取り繕っているだけ。スペイン映画の問題は、学校教育や統治者たちの姿勢にかかっている」と主張。それに対して「フランスでは、文化の保護と輸出がある程度一致しているから恵まれている」とソロゴイェン。伝統というものは革新以上に隅に置けない。
★「質問があるんですが、『無垢なる聖者』(84、マリオ・カムス)が公開されたときは興行的にも成功した。うちは中流家庭に属していて父や叔父たちから素晴らしい映画だったとずっと聞かされていました。僕は小さかったから当時は見ていませんが、現在公開してもほんのわずかしか観客は集まらないのではないか。父の世代も今見たらテンポが遅く長く感じると。庶民は退行したのでしょうか」とR.アレバロ。「映画の好みが変化してしまった。私が思うに悪いほうにね。この変化をもたらしたのが私たちなのかどうか分からないし、元に戻す方法も分からない」とアルモドバル。「観客は退行しているようです。『無垢なる聖者』を再公開しても切符売り場には足を運ばないかもしれない」とアレバロ。
(“Tarde para la ira”撮影中のアレバロ)
★「変化はスペインだけのことではなく世界的現象、情報は増え続けるが知識は減る一方、デジタル情報ばかりで何を見たらよいのか教えてくれない。作家性の強い映画を作るには覚悟がいる。第一にすべきことは学校が映画館に連れていくこと、私たちは『タシオ』(84、モンチョ・アルメンダリス)や『無垢なる聖者』を見て大きくなったんだ」と学校教育の重要性に拘るバヨナ監督でした。日本でもテレビがなかった時代には、教師に引率されて映画館に出かける「映画教室の日」があって、ディズニーのアニメ『ピノキオ』や『ダンボ』、チャップリン映画を見に連れて行った。中学生にはイングリッド・バーグマンがジャンヌに扮した『ジャンヌ・ダーク』(48、ヴィクター・フレミング)などが選ばれていた。
「映画は映画館の椅子に座って見てほしい」と言うけれど・・・
★スペインではラテンアメリカや欧州の一部で事業展開しているモビスターMovistar(テレフォニカ傘下の携帯電話事業会社)の加入者が2200万人と多く、米国のオンラインDVDレンタル配信会社ネットフリックスNetflix(DVD4200万枚保有している)やアマゾンは少ない。司会者より両者を競争させたらスペインの映画産業は変化するだろうかと質問が投げかけられた。「莫大な資金投入が産業界の変革を促すかどうか分からない」と懐疑的なA.ロドリゲス。お金が産業界変革の全てではない立場のようです。「現実は、若い人々が以前のようには映画館に出かけなくなった。演劇も見なくなったし本も読まなくなった。ほかの分野、例えばテレビゲームだ。米国の大学生にスピーチしたとき感じたことだが、彼らもビリー・ワイルダーのような作品をよく知っていると思えなかった」とアルモドバル。映像媒体の多様化は世界規模です。
(ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』から)
★「デジタル・プラットフォームの導入は有力なテレビチャンネルの寡頭政治を少しはセーブする」とソロゴイェン。映画の成功が有力なテレビチャンネルに握られている現状は、作家性の強い映画作りをしている監督には不利にはたらく。この現状を少しでも和らげるにはネットフリックスなどの到着は役に立つかもしれない。映画は映画館のスクリーンで見るという世代は、もはや絶滅危惧種なのかもしれませんが、同じ作品でもスクリーンで見るのとテレビとでは雲泥の差があることを強調したい。
★「プラットフォームの到着に気をもんでいる。中流階級の人は既に映画館で見なくなっているばかりかこのプラットフォームで見ている。映画館で見るのはスペクタクル映画だけと考えるのは間違っている。観客はスーパーヒーローや特殊効果だけを見に行くわけではない。私たちの作品を映画館で見てほしい。映画愛を育てる教育が必要なのです」とバヨナ。映画を「映画館の椅子に座って見ることは独特な素晴らしさがある」と観客の醸しだす雰囲気を楽しむのがロドリゲス。「反対に携帯を持ち出してみている観客に注意が散漫になる」と一部の観客の無作法を口にするソロゴイェン。「少し前、映画好きの学生たちと一緒に見ていて気付いたことだが、彼らは2000年以前の映画を見ていない」と驚きを隠さないアレバロ。「それは観客の罪ではなく現代社会のせいだ」とロドリゲス。「つまるところ、観客は見たい映画を自由に選んでいいのだと思う。それに応じて私たちは映画作りをしている。できれば私の作品を見てほしいものだが」とアルモドバルがケリをつけました。
「最終候補5作品のどれも見ていない」とマリアノ・ラホイ首相
★政治家は映画館に足を向けない、忙しくてそんな時間はないからと。その筆頭がマリアノ・ラホイ首相です。「最終候補5作品のどれも見ていない」ときっぱり。「時間が取れない、時間があれば小説を読んでいる。映画は自宅か事務所のテレビで見ている」が、まだ候補作はどれも見ていない。時間があっても見ない派ですね。あれば小説を読むと言ってるから。とにかく伝統的に国民党PPは社労党PSOEほど文化にお金を使いたがらない。今年のガラにはメンデス・デ・ビゴ文化相の姿もあったが、壇上から批判されたり暗に皮肉を言われたりするために忙しい時間はさけないというのがホンネでしょう。以前は当日にマドリードを離れて海外出張に出かける文化担当相もいたほどです。
★スペイン映画は民間のテレビ局の協力なしには立ちいかなくなっている。「手の負えなくなっているのは、テレビ局がスペイン映画のプロデューサーたちで占められているだけでなく、スペイン映画の屋台骨になっている・・・スペイン映画が民放用の映画に変化してしまったことです」が、それは必ずしも「民放だけの罪ではない」とバヨナ、「勿論彼らの罪ではない。少なくとも控えめなら、観客育成に役に立つからね」とアルモドバル。もはやテレビやスマホなどで映画を見るデジタル世代の時代になったということです。
(バヨナ“Un monstruo viene a verme”をバックに)
皆さん、スピルバーグの映画はいかがですか?
★なかなか映画の話にならない。そこで「まだ映画の中身について話し合っていません。そろそろ私たちが作った映画の話、どうしてフィルモテカ(フィルム・ライブラリー)や映画アカデミーが重要なのか?」というバヨナの提案で、やっと核心にたどり着きました。アレバロの「そうですね、始めましょう、スピルバーグ映画はどうですか」に一同大笑い。「とてもいいよ」とバヨナ。「僕がとっても好きなのは”Las amigas de Agata”と、素晴らしかったのは『KIKI~愛のトライ&エラー』です」とソロゴイェン。前者はライア・アラバート、アルバ・クロス、ほか女性4人が監督したカタルーニャ語の映画、ガウディ賞2017にノミネートされた作品です。パコ・レオンの『KIKI~』は残念ながら無冠でした。アレバロは“María(y los demás”と”La próxima piel”を挙げました。
★「ノミネートの有無に関係なく挙げると”Esa sensación”と”La próxima piel”それに君たちの作品だ。年に3作か4作はとても興味を引く映画に出会う」とアルモドバル。前者はノーマークですが、フアン・カサベスタニー以下、男性3人が監督したコメディです。ロッテルダム映画祭でワールド・プレミア、マラガ、バルセロナ、リオなどの映画祭に出品されています。ロドリゲスとバヨナは具体的な作品名を挙げませんでしたが、ロドリゲスは「1作品に10個とか12個とかノミネーションが集中するのは問題」と不透明なノミネーションの在り方に警鐘を鳴らしました。これは誰が見ても異論なく問題です。それぞれ撮影や編集の苦労話、サプライズに触れていましたが割愛です。
(アルモドバルの『ジュリエッタ』から)
★既に結果は発表になっておりますが、どのくらい字幕入りで見られるか、あるいは見られないか、楽しみにしています。バヨナの“Un monstruo viene a verme”は2017年6月公開が決定しているようです。『インポッシブル』の監督だし、オリジナル言語が英語ですから6月は遅すぎるくらいです。ゴヤ、フォルケ、フェロスとスペインの三大映画賞を制したアルバロの“Tarde para la ira”はどうでしょうか。
第31回ゴヤ賞2017*結果発表 ⑩ ― 2017年02月05日 20:33
今宵の主人公はラウル・アレバロとフアン・アントニオ・バヨナでした!
(アカデミー会長イボンヌ・ブレイクと副会長マリアノ・バロッソ)
★“Tarde para la ira”が作品賞と新人監督賞、“Un monstruo viene a verme”が監督賞と大賞を分け合いました。終わってみれば前者がノミネーション11個で4個ゲット、後者が最多ノミネーション12個で9個と2作品に集中しました。エンマ・スアレスが主演と助演の二つをものにして、ゴヤ賞1996、ピラール・ミロの『愛は奪った』で主演女優賞を受賞して以来、遠ざかっていたガラで20年ぶりに脚光を浴びました。まずは結果発表だけアップしておきます。
(3度目の総合司会者ダニ・ロビラ)
★受賞結果は以下の通り(☆印は当ブログ紹介作品)
作品賞
“El homre de las mil caras”“Smoke&Mirrors”『スモーク・アンド・ミラーズ』(11個)
監督アルベルト・ロドリゲス ☆
“Julieta” 『ジュリエッタ』(7個)監督ペドロ・アルモドバル ☆
“Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(6個)監督ロドリゴ・ソロゴイェン ☆
◎“Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(11個)監督ラウル・アレバロ ☆
製作者:ベアトリス・ボデガス
“Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(最多12個、西・米・英・カナダ)
監督フアン・アントニオ・バヨナ ☆
(ベアトリス・ボデガスとアレバロ監督、プレゼンターはアメナバルとペネロペ・クルス)
監督賞
アルベルト・ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』
ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”
◎フアン・アントニオ・バヨナ“Un monstruo viene a verme”
(J・A・バヨナ、プレゼンターはジェラルディン・チャップリンとホセ・コロナド)
新人監督賞
◎ラウル・アレバロ“Tarde para la ira”
サルバドル・カルボ“1898, Los últimos de Filipinas”(9個)
マルク・クレウエト“El rey tuerto” ☆
ネリー・レゲラ“María (y los demás)” ☆
(ラウル・アレバロ)
オリジナル脚本賞
ホルヘ・ゲリカエチェバリア“Cien años de perdón”『バンクラッシュ』
監督ダニエル・カルパルソロ ☆
ポール・ラヴァティ“El olivo”『The Olive Tree』監督イシアル・ボリャイン ☆
イサベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”
◎ダビ・プリド、ラウル・アレバロ“Tarde para la ira” ☆
脚色賞
◎アルベルト・ロドリゲス、ラファエル・コボス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』
フェルナンド・ペレス、パコ・レオン“Kiki, el amor se hace”『KIKI~愛のトライ&エラー』☆
パトリック・ネス“Un monstruo viene a verme”
(アルベルト・ロドリゲス、プレゼンターはアイタナ・サンチェス・ヒホン)
オリジナル作曲賞
フリオ・デ・ラ・ロサ『スモーク・アンド・ミラーズ』
パスカル・ゲイニュ『The Olive Tree』
アルベルト・イグレシアス『ジュリエッタ』
◎フェルナンド・ベラスケス“Un monstruo viene a verme”
(フェルナンド・ベラスケス)
オリジナル歌曲賞
ルイス・イバルス‘Descubriendo India’(“Bollywood Made in Spain”)
監督ラモン・マルガレト
◎シルビア・ペレス・クルス‘Ai, ai, ai’(“Cerca de tu casa”)
監督エドゥアルド・コルテス
セルティア・モンテス‘Muerte’(“Frágil equilibrio”、ドキュメンタリー)
監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
アレハンドロ・アコスタ、パコ・レオン他‘Kiki―Mr. Ki feat Nita’
(『KIKI~愛のトライ&エラー』)
(シルビア・ペレス・クルス)
主演男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス『スモーク・アンド・ミラーズ』
◎ロベルト・アラモ“Que Dios nos perdone”
アントニオ・デ・ラ・トーレ“Tarde para la ira”
ルイス・カジェホ“Tarde para la ira”
(ロベルト・アラモ、プレゼンターはノラ・ナバスとリュイス・オマール)
主演女優賞
◎エンマ・スアレス『ジュリエッタ』
カルメン・マチ“La puerta abierta”(“The Open Door”)監督:マリナ・セレセスキー
ペネロペ・クルス“La reina de España”監督:フェルナンド・トゥルエバ ☆
バルバラ・レニー“María (y los demás)”
(エンマ・スアレスとアルモドバル、プレゼンターはマリア・ブランコ)
助演男優賞
カラ・エレハルデ“100 metros”監督:マルセル・バレラ ☆
ハビエル・グティエレス『The Olive Tree』
ハビエル・ペレイラ“Que Dios nos perdone”
◎マノロ・ソロ“Tarde para la ira”
(M・ソロ、プレゼンターはナタリア・デ・モリーナ、ミゲル・エラン、ダニエル・グスマン)
助演女優賞
カンデラ・ペーニャ『KIKI~愛のトライ&エラー』
◎エンマ・スアレス“La próxima piel”監督:イサキ・ラクエスタ、イサ・カンポ ☆
テレレ・パベス“La puerta abierta”
シガニー・ウィーバー“Un monstruo viene a verme”
(ゴヤ胸像を両手にしたエンマ・スアレス)
新人男優賞
リカルド・ゴメス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロドリゴ・デ・ラ・セルナ『バンクラッシュ』
◎カルロス・サントス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ラウル・ヒメネス“Tarde para la ira”
(カルロス・サントス)
新人女優賞
シルビア・ペレス・クルス“Cerca de tu casa”
◎アナ・カスティージョ『The Olive Tree』
ベレン・クエスタ『KIKI~愛のトライ&エラー』
ルス・ディアス“Tarde para la ira”
(アナ・カステージョ、プレゼンターはカジェタナ・ギジェン・クエルボとマカレナ・ゴメス)
プロダクション賞
カルロス・ベルナセス“1898, Los últimos de Filipinas”
マヌエラ・オコン『スモーク・アンド・ミラーズ』
ピラール・ロブラ“La reina de España”
◎サンドラ・エルミダ・ムニィス“Un monstruo viene a verme”
撮影監督賞
アレックス・カタラン“1898, Los últimos de Filipinas”
ホセ・ルイス・アルカイネ“La reina de España”
アルナウ・バルス・コロメル“Tarde para la ira”
◎オスカル・ファウラ“Un monstruo viene a verme”
編集賞
ホセ・M・G・モヤノ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アルベルト・デル・カンポ、フェルナンド・フランコ“Que Dios nos perdone”
アンヘル・エルナンデス・ソイド“Tarde para la ira”
◎ベルナ・ビラプラナ、ジャウマ・マルティ“Un monstruo viene a verme”
美術監督賞
カルロス・ボデロン“1898, Los últimos de Filipinas”
ぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモ『スモーク・アンド・ミラーズ』
フアン・ペドロ・デ・ガスパル“La reina de España”
◎エウヘニオ・カバジュロ“Un monstruo viene a verme”
衣装デザイン賞
◎パオラ・トーレス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロラ・ウエテ“La reina de España”
クリスティナ・ロドリゲス“No culpes al karma de lo que te pasa por gilipollas”
監督マリア・リポル
アルベルト・バルカルセル、クリスティナ・ロドリゲス“Tarde para la ira”
(パオラ・トーレスは欠席、マヌエル・ブルケが代理で受け取った)
メイクアップ&ヘアー賞
アリシア・ロペス、ミル・カブレル、ペドロ・ロドリゲス“1898, Los últimos de Filipinas”
ヨランダ・ピナ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アナ・ロペス=プイグセルベル、ダビ・マルティ、セルヒオ・ペレス・ベルベル『ジュリエッタ』
◎ダビ・マルティ、マレセ・ランガン“Un monstruo viene a verme”
録音賞
エドゥアルド・エスキデ、フアン・フェロ他“1898, Los últimos de Filipinas”
セサル・モリナ、ダニエル・デ・サヤス他『スモーク・アンド・ミラーズ』
ナチョ・ロジョ=ビリャノバ、セルヒオ・テスタン“Ozzy”(アニメーション、西・カナダ)
◎オリオル・タラゴ、ペーター・グロスポ“Un monstruo viene a verme”
特殊効果賞
カルロス・ロサノ、パウ・コスタ“1898, Los últimos de Filipinas”
ダビ・エラス、ラウル・ロマニリョス“Gernika. The Movie”『ゲルニカ』監督コルド・セラ ☆
エドゥアルド・ディアス、レジェス・アバデス『ジュリエッタ』
◎フェリックス・ベルヘス、パウ・コスタ“Un monstruo viene a verme”
アニメーション賞
“Ozzy” 監督アルベルト・ロドリゲス、ナチョ・ラ・カサ
◎“Psiconautas, los niños olvidados”監督ペドロ・リベロ、アルベルト・バスケス
“Teresa eta Galtzagorri”(“Teresa y Tim”)
監督アグルツァネ・インチャウラガAgurtzane Intxaurraga
ドキュメンタリー賞
“2016, Nacido en Siria”監督エルナン・シン
“El Bosco, El jardín de los sueños”(西仏)監督ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
◎“Frágil equilibrio” 監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
“Omega”ヘルバシオ・イグレシアス、ホセ・サンチェス=モンテス
イベロアメリカ映画賞
“Anna”(コロンビア・仏)監督ジャック・トゥールモンド
“Desde alla”“From Afar”『彼方から』(ベネズエラ・メキシコ)監督ロレンソ・ビガス ☆
◎“El ciudadano ilustre”『名誉市民』(アルゼンチン・西)
監督(共同)ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン ☆
“Las elegidas”『囚われた少女たち』(メキシコ)ダビ・パブロス ☆
★ノミネーションを割愛したヨーロッパ映画賞・短編映画賞・短編ドキュメンタリー賞・短編アニメーション賞の結果は以下の通りです。
*ヨーロッパ映画賞:”Elle”(仏・独・ベルギー、言語フランス語)
監督ポール・ヴァーホーヴェン(Paul Verhoeven)
*短編映画賞:”Timecode” 『タイムコード』監督フアンホ・ヒメネス・ペーニャ
*短編ドキュメンタリー賞:”Cabezas Habladoras” 監督フアン・ビセンテ・コルドバ
*短編アニメーション賞:”Decorado” 監督アルベルト・バスケス
★ヨーロッパ映画賞のポール・ヴァーホーヴェンはオランダ出身の監督、オランダ語読みだとパウル・ヴァーフーヴェ(ン)となる由。ついでながら彼は「ベルリン映画祭2017」の審査委員長に就任しました。ほかの審査員に、ディエゴ・ルナ、マギー・ギレンホール、ゾフィー・ショルなどもアナウンスされています。
★これまたついでながら、アルモドバルが自作と縁の深い「カンヌ映画祭2017」(5月17日~28日)の審査委員長に決定しました。「ありがたく、名誉なことですが、少しばかり重荷です」とコメント。
(栄誉賞受賞のアナ・ベレン)
(歓談するアルモドバルとペネロペ・クルス)
授賞式はお金をかけず短くスピード上げて軽快に*ゴヤ賞2017 ⑨ ― 2017年01月18日 15:23
本番に先立って開催されるプレ授賞式に全員集合!
★1月12日、本番前のゴヤ賞候補者の顔合わせミニ・カクテル・パーティが行われました。14日のセビージャでのフォルケ賞ガラを目前にして全員集合とはいきませんでしたが、大方は出席したようです。初ノミネーションの「新人」たちにとっては、製作者や監督たちに自分を売り込むチャンス、授賞式以上に重要です。ここでもフォルケ賞作品賞を受賞した“Tarde para la ira”の一行が、メディアのフラッシュを浴びていたようです。集合写真はアップしても小さすぎて最前列しか分からないので割愛。
(“Tarde para la ira”のグループ、左から3番めがラウル・アレバロ監督)
★資金不足が大きな理由の一つですが、スペイン映画アカデミー会長イボンヌ・ブレイク、副会長マリアノ・バロッソが語るところによると、2017年は質素に、まず時間はスペードアップして2時間半と例年より大幅に短縮する。つまり24時前に終了させる(長い受賞スピーチは誰も望まない?)。歌手や交響管弦楽団の演奏はライブだが、ダンスはカットする方針、不満の人も出てきそうです。確かに前夜祭のカクテル・パーティの時間も短め、振る舞われたカクテルの量も少なめだったとか。3回目の総合司会者となるダニ・ロビラの進行も予測がつかない、何か起こってもおかしくないかもしれない。
(ダニ・ロビラ、二度目となる第30回ゴヤ賞2016の総合司会者)
★最近の報道では長引いた政治の混乱にもかかわらず、昨年のスペインのGDP経済成長率は2%以上と、EU域内では優等生なのだとか。日本の消費税に当たるIVAが21パーセントに値上げされたからというもの映画産業の先行きが危ぶまれておりましたが、スペイン映画健在が数字になって示されました。映画館に足を運んだ観客が約1億人を突破、それも上位にスペイン映画が18作も含まれていた。
★その貢献度ナンバーワンがフアン・アントニオ・バヨナの“Un monstrous viene a verme”、450万人が足を運び興行成績は2600万ユーロでした(『君の名は。』には到底及びませんが。スペイン公開はこれからです)。ゴヤ賞ノミネーションも最多の12個、しかし「作品賞」受賞は微妙、それとこれとは別です。もし受賞したら論争が起こるだろうという。監督以下のスタッフ陣はスペインだが、キャストは海外勢、オリジナル言語は英語と、果たしてスペイン映画といえるかどうかというわけです。サンセバスチャン映画祭2016年では、オープニングにこそ選ばれたがコンペティション外でした。ここいらがスペイン人の平均的心情なのかもしれない。因みに第2位は米国の3Dアニメーション『ペット』の2130万ユーロ、日本でも『君の名は。』が公開される前はダントツで首位を走っていた。もう「アニメ=お子さま」の時代は終わりました。
(“Un monstrous viene a verme”のポスターをバックにしたバヨナ監督)
★100万人以上の観客を集めた作品は、殆どのプロダクションがテレビ局との共同、テレビでがんがん宣伝してもらえる。クチコミも大きいが、テレビ・マジックが大きく物を言う時代になっている。上位6位のうち、ゴヤ賞にノミネートされたのは、バヨナを含めて4位の『バンクラッシュ』(ダニエル・カルパルソル)と6位の『KIKI~愛のトライ&エラー』(パコ・レオン)の3作でした。サンセバスチャンで評価された『スモーク・アンド・ミラーズ』、“Que Dios nos perdone”、オスカー賞スペイン代表作品 『ジュリエッタ』などにはお金を使わないようです。因みに『ジュリエッタ』は、イギリスのアカデミー賞といわれるBAFTAの外国語映画賞部門5作に選ばれています。未公開なので未だ見ておりませんが、女性監督マレン・アーデの“Toni Erdmann”(ドイツ=オーストラリア)と予想します。
(ルイス・トサールと新人賞候補のロドリゴ・デ・ラ・セルナ、『バンクラッシュ』)
★『ジュリエッタ』で主演、“La próxima piel”で助演と、久しくゴヤ賞から遠ざかっていたエンマ・スアレスが今宵のヒロインでもあった。受賞すれば今は亡きピラール・ミロの『愛は奪った』(“El perro del hortelano”95)で主演女優賞を受賞して以来になる。共演者のカルメロ・ゴメスも既に俳優引退宣言をして、時代の流れを感じずにはいられない。ノミネーションは2回ありますが、今回ほど近い位置についていなかった。「ミロ監督のことはいつも頭のなかにあります。意見の相違はあっても、女優が自分の天職だと気づかせてくれる。自由は与えられるものではなく勝ち取るものです」とスアレス。ミロ監督は毀誉褒貶のある監督でしたが、個人的には女性シネアストの道を開拓してくれたと評価しています。
(エンマ・スアレス、『ジュリエッタ』から)
★バルバラ・レニーは『マジカル・ガール』で受賞したばかり、ペネロペ・クルスは今回ないと予想(私生活の本拠地がアメリカということもあって夕べには欠席)、カルメン・マチに貰ってほしいところですが、エンマ・スアレスが先頭を走っているような気がします。スペインでは俳優の仕事で食べていけるのは、わずか8パーセントという数字を信じれば、なかなか厳しい話です。候補者の中にはウエイトレスやボーイなどを兼業している人もおり、バルバラ・レニーだってついこないだまではそうでした。
(バルバラ・レニー、“María (y los demás)”から)
アルモドバルの『ジュリエッタ』*ゴヤ賞2017 ⑧ ― 2017年01月14日 15:51
ゴヤ賞は7個ノミネーションだが、いくつゲットできるか?
★間もなくセビーリャのマエストランサ劇場で開催される(1月14日)フォルケ賞には、長編映画部門の作品賞とエンマ・スアレスの女優賞がノミネートされており、結果が分かるのは日本時間では15日になります。続くフェロス賞には作品賞、監督賞を含めて9個、数だけで判断できないのが映画賞です。4月公開と早いこと、アルモドバル・アレルギーなどを勘案すると勝率は低いと予想します。最近のアルモドバル作品は必ず劇場公開されますが、プロット重視の観客には物足りないかもしれない。もともと監督もプロットで勝負するつもりはありませんから、それはそれで良いのです。楽しみ方はいくつもあって、それぞれ観客が視点を定めて愉しめばいいことです。赤を基調としながらもヒロインの心理状態で巧みに変化する色使いが素晴らしかったとか、アルモドバルが初めて起用したジャン=クロード・ラリューの荒々しいガリシアの海が良かったとか、『私の秘密の花』(95)以来、アルモドバルの専属みたいなアルベルト・イグレシアスの音楽を堪能したとか、いろいろ楽しみ方は考えられます。
(初期タイトル”Silencio”のポスター、エンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ)
★アルモドバルはスペインの監督としては国際的に一番知名度があると思いますが、ゴヤ賞ノミネーションの選考の仕方に異議を唱えてからというもの、スペイン映画アカデミーとの長い軋轢が続いていた。ノミネーションを受けてもガラには欠席続き、なんとか解消したのが『私が、生きる肌』でした。今でも完全に修復されたとは思えませんが、そんなこんなでゴヤ賞には恵まれていない。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1989、作品賞・脚本賞)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(00、作品賞・監督賞)、最後の『ボルベール〈帰郷〉』(07、作品賞・監督賞)以来、監督としては賞から遠ざかっている。
(左から、マリア・バランコ、アントニオ・バンデラス、カルメン・マウラ、
フリエタ・セラーノ、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』から)
★アルモドバル・ファンには二つの流れがあって、『グローリアの憂鬱』(84)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』あたりまでが好きな人、『オール・アバウト・マイ・マザー』でオスカー監督になってからを好む人、大勢は後者です。前者のファンには最近の彼の映画は見ないというファンもおり、『抱擁のかけら』(09)など批評に値しない駄作と切り捨てた批評家もおります。「プロなのにあまりにも感情的すぎる」と考える管理人は前者に属しているが必ず見るという両刀使いです。両刀使いにお薦めの鑑賞法は、理詰めにストーリーを追うことを止めて、他の監督には真似できない色彩感覚、過去の監督作品へのオマージュ、背景が雄弁に物語るデティール、監督が仕掛けた遊びごころを楽しむことです。手法は新しくても本質は良質なメロドラマ、ブラック・コメディ作家、スペインで最も愛された映画監督ガルシア・ベルランガの優等生がアルモドバルなのです。
(本作を最後にミューズを卒業したペネロペ・クルス、『抱擁のかけら』から)
★「最初から二人の女優を起用しようと決めていた」と監督、その一人、現在のジュリエッタを演じたエンマ・スアレスが主演女優賞にノミネートされただけで、若い頃のジュリエッタを力演したアドリアナ・ウガルテはノーマークでした。助演というわけにもいかず新人でもないしで不運でした。主演男優賞のように4人枠に二人を押し込むことは無理だったようです(5人枠のフェロス賞には二人ともノミネーションされています)。ライバルはカルメン・マチ、ペネロペ・クルス、バルバラ・レニーです。エンマ・スアレスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの“La próxima piel”で助演女優賞にもノミネーションされており、確率的にはこちらのほうが高いかもしれない。ライバルはテレレ・パベス、カンデラ・ペーニャ、シガニー・ウィーバーです。
(監督、二人のジュリエッタ、エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテ)
★ノミネーション14回目になるアルベルト・イグレシアス(1955、サンセバスチャン)が初めて映画音楽を手掛けたのは、フリオ・メデムの『バカス』(92)、いきなりゴヤ賞にノミネートされた。同監督の『赤いリス』(93)で1個めをゲット、『ティエラ~大地』、『アナとオットー』、『ルシアとSEX』とメデム作品で4個受賞、アルモドバル作品の1個めは、『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)、続いて『トーク・トゥ・ハー』、『ボルベール〈帰郷〉』、『抱擁のかけら』、『私が、生きる肌』(11)、2監督で9個、更にイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)を加えると合計10個というゴヤ胸像のコレクター。今年で31回目を迎えるゴヤ賞だが、うち14回ノミネートされている。スペイン映画に限らずアカデミー賞にノミネートされた『ナイロビの蜂』、『君のためなら千回でも』、『裏切りのサーカス』など、海外の監督からも熱い視線が寄せられている。授賞式では恥ずかしそうに登壇、短いスピーチと謙虚さで好感度抜群ではないでしょうか。
(『私が、生きる肌』で10個めのゴヤ胸像を手にしたイグレシアス、2012年授賞式)
★未だタイトル“Silencio”と出演者パルマ・デ・ロッシだけがアナウンスされたときから記事をアップしていたので、実際にスクリーンを前にしたときには新鮮味が失せていた。パンフの宣伝文句にあるような「数奇な運命に翻弄された母と娘の崇高な愛の物語」という印象ではなく、それは失踪したジュリエッタの娘アンティアの人格の描き方に説得力がなかったせいかと思います。むしろスペインによくある古いタイプの「負の父親像」やアルモドバルが拘る「死」が、ここでもテーマの一つになっていた。どの作品にも監督本人が投影されているわけだから、根本的に変化したというふうには感じられないのは当然かも知れない。また偶然が重なりすぎると、メロドラマでも嘘っぽくなるのではないかと感じた。ストーリー、スタッフ、キャスト紹介は以下にアップしています。
*エマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2015年4月5日
*アルモドバル、主な作品紹介の記事は、コチラ⇒2016年2月19日・2016年5月8日
*『ジュリエッタ』のトレビア記事については、コチラ⇒2016年9月3日
マリナ・セレセスキー”La puerta abierta” *ゴヤ賞2017 ⑦ ― 2017年01月12日 11:37
カルメン・マチ、激戦区の主演女優賞に初めて挑戦
★女優マリナ・セレセスキーの長編映画初監督作品“La puerta abierta”のご紹介、母娘二代にわたる売春婦家族の物語と聞けば何やら悲惨なイメージをかき立てられますが、これはコメディ仕立てのドラマ。今は現役を引退した母親にテレレ・パベス、母親の稼業を引き継いだ現役娼婦にカルメン・マチ、同じピソに暮らす性転換娼婦にアシエル・エチェアンディア、この3人を軸にドラマは展開します。現在スペインには約30万人の娼婦がいるということですが、多いのか少ないのか皆目分かりません。ワールドプレミアが2016年のアムステルダム・スパニッシュ映画祭と他のノミネーション作品に比して早くスペイン公開も9月2日ですから、投票者の記憶も薄れて若干分が悪いかもしれない。新人監督賞・主演女優賞・助演女優賞と3カテゴリーにノミネートされました。
*以下ゴチック体はゴヤ賞ノミネートを受けたもの、◎印はフェロス賞にもノミネートされたもの
(左から、テレレ・パベス、監督、カルメン・マチ、アシエル・エチェアンディア)
“La puerta abierta”(“The Open Door”)2016
製作:Ad hoc studios / Babilonia Films S.L. / Meridional Producciones
監督・脚本:マリナ・セレセスキー ◎
音楽:マリアノ・マリン
撮影:ロベルト・フェルナンデス
美術:ハビエル・クレスポ、他
編集:ラウル・デ・トーレス
衣装デザイン:マラ・コリャソ、マウロ・ガストン、パトリシア・ロペス、クルス・プエンテ他
視覚効果:オスカル・ゴメス
キャスティング:ロサ・エステベス
製作者:セルヒオ・バルトロメ、R・フェルナンデス、アルバロ・ラビン、ホセ・A・サンチェス
基本データ:スペイン製作、スペイン語、2016年、82分、コメディ・ドラマ、製作費約766,000ユーロ、IMDb7.9点、filmaffinity(スペイン)6.7点、スペイン公開2016年9月2日
映画祭・受賞歴:アムステルダム・スパニッシュ映画祭2016正式出品、トランスシルバニア映画祭TIFF 2016(観客賞)、アリカンテ映画祭正式出品、トゥールーズ・スパニッシュ映画祭(観客賞)、アルカラ・デ・エナーレス短編映画祭正式出品、第32回グアダラハラ映画祭2017(3月開催)出品予定。フォルケ賞2017女優賞(カルメン・マチ)、フェロス賞(コメディ部門)作品賞・女優賞(C・マチ)、ゴヤ賞新人監督賞・主演女優賞・助演女優賞、いずれもノミネーション。
キャスト:カルメン・マチ(ロサ)◎、テレレ・パベス(ロサの母アントニア)、アシエル・エチェアンディア(ルピータ)、ルシア・バラス(リュウバ、マーシャの娘)、パコ・トゥス(パコ)、ソニア・アルマルチャ(フアナ)、ヨイマ・バルデス(テレサ)、エミリオ・パラシオス(ユーリ、リュウバの兄)、モニカ・コワルスカ(ロシア人娼婦マーシャ)、クリスティアン・サンチェス(カルロス)、スサナ・エルナイス(スサナ)、アナ・パスクアル(チャロ)、他多数
物語:ロサは母親から受け継いだ娼婦稼業を任されている。サラ・モンティエルの熱烈なファンであった母親アントニアは、最近では自分のことを彼女と錯覚して混乱のなかにいる。このマドリード界隈のピソに暮らしている人々は、性転換した娼婦ルピータのように概ね幸せからは見放された規格品外の住人である。実際のところロサは幸せとは無縁であった。そんな折、同じ階のロシア人娼婦がドラッグの過剰摂取で死んでしまい、幼い娘リュウバを世話する羽目に陥ってしまう。リュウバには既におとなになっている兄の存在もわかってくる。リュウバは3人が失ってしまった無垢と希望を運んできてくれるのだろうか。
(左から、一家団欒の母親アントニア、ロサ、リュウバ、ルピータ、映画から)
★ロサは仕事に出かけるとき、初期の認知症になった母親のために常に玄関のドアにカギを掛けない、それがタイトルになった。母親に死なれたリュウバはやすやすと部屋に侵入でき、帰宅したロサが女の子を発見する。そこからドラマが展開していく。ロサは路上で客引きをする立ちん坊の娼婦だから現実は厳しい。役作りに「実際の娼婦3人に会ったが、それぞれ状況は異なっていても普通の人、ただし社会から排除されていた」とカルメン。エル・パイス紙でも「カルメン・マチ以外にこの役を演じられる女優はいない」と絶賛されており、批評家と観客の乖離が少ない印象です。1963年マドリード生れ、エミリオ・アラゴンの『ペーパー・バード 幸せは翼にのって』(10)が「ラテンビート2010」で上映された折、監督と来日している(翌年公開)。
(路上で客引きをするロサ、映画から)
★TVシリーズ「Aidaアイーダ」 他で、数々の受賞歴のあるカルメンだが、ゴヤ賞主演女優賞ノミネーションは初めてである。アルモドバル作品でお馴染みの女優だが、殆ど脇役だからゴヤ賞には縁が薄かった(数年前ゴヤ賞授賞式の総合司会をしたことがある)。スペイン中がフィイバーした“Ocho apellidos vascos”(14)でやっと助演女優賞受賞をゲットした。今年の主演女優賞は、『ジュリエッタ』のエンマ・スアレス、“La reina de España”のペネロペ・クルス、“María(y los demás)”のバルバラ・レニーと激戦区ではあるが、可能性は高いと予想しています。受賞したらもう少し詳しいキャリア紹介の予定。
★母親役のテレレ・パベスもアレックス・デ・ラ・イグレシア作品でお馴染み、『スガラムルディの魔女』(13)で、ゴヤ賞2014助演女優賞を受賞しています。ラテンビートで上映されたときキャリア紹介をアップています(2014年10月18日)。最初のキャスティングではアントニア役は、TVドラでカルメンと共演しているアンパロ・バロが予定されていた。しかし間もなく体調を崩し、結局癌に倒れて帰らぬ人となった(2015年1月29日、享年77歳)。映画では仲の悪い親子、娘を不幸にしてしまう母親になるわけですが、「誰がなりたくて無慈悲な母親になりたいなどと思いますか」とカルメン、母と娘の関係は難しい。プロットにあるサラ・モンティエル(1928年生れ)は、往時ではグラマーで歌える美人女優として有名、作中ではラファエル・ヒルのミュージカル“Samba”(65)のなかでサラが歌った「ファンタジー」を、テレレ・パベスが歌うということです。
(母アントニア役のテレレ・パベス、映画から)
★ゴヤ賞には絡んでおりませんが、もう一人の重要人物ルピータ役のアシエル・エチェアンディアは、1975年ビルバオ生れの41歳、俳優、歌手、TV、演劇でも活躍しています。ビスカヤの学校でエグスキ・スビアとフアン・カルロス・ガライサバルから演技の指導を受けている。他の教師とは水と油の関係だったようで、「する必要のないことを沢山学んだ」と語っている。20歳のときバスクを離れマドリードに移り、セックス・ショップで働きながら演技の勉強を続けた。TV“Un paso adelante”(02)のホモセクシュアルな青年役が評価される。歌える俳優としてミュージカル“Cabaret”(スペイン版、03)にも出演、俳優組合の新人男優賞を受賞している。
★映画デビューは、ナチョ・ペレス・デ・ラ・パス&ヘスス・ルイス監督の“La mirada violeta”(04)、フェルナンド・コロモ、エミリオ・マルティネス・ラサロなどに起用されている。最近、フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエルの『トガリネズミの巣穴』(14、ラテンビート2014)で登場している。他フリオ・メデムの“Ma ma”(14)、パウラ・オルティスの「La novia」(15)では花嫁役インマ・クエスタの花婿を演じて、ゴヤ賞2016主演男優賞にノミネートされた。演劇、TVドラでの受賞歴多数。
(ルピータ役のアシエル・エチェアンディア、映画から)
★マリナ・セレセスキー Marina Seresesky は、1969年ブエノスアイレス生れの女優、監督、脚本家、製作者。短編“El cortejo”(10)で監督デビュー、オルデンブルク映画祭ジャーマン・インデペンデンス賞ノミネーション、バージニア州のラッパハノック・インデペンデント映画祭審査員賞受賞、短編第2作“La boda”(12)がティラナ映画祭(スペシャル・メンション)、ニューヨーク・シティ短編映画祭(作品賞・観客賞)、ポルトガルのアロウカ映画祭(作品賞)など国際映画祭で多数受賞した。ゴヤ賞2013でも短編映画賞部門にノミネートされている。長編デビュー作は上記の通り。
(観客賞を手にした監督、トランスシルバニア映画祭授賞式、2016年6月5日)
ラウル・アレバロのデビュー作”Tarde para la ira”*ゴヤ賞2017 ⑥ ― 2017年01月09日 10:13
ラウル・アレバロは監督もできます!
★昨年の2月にラウル・アレバロ監督デビューの第一報をお届けしてから早くも1年近くの歳月が流れました。ベネチア映画祭2016「オリゾンティ」部門に正式出品された折にも追加記事をアップするなどして注目しておりましたが、ゴヤ賞作品賞・新人監督賞を含む11個ノミネートには驚きました。作品賞はともかく、新人監督賞のトップを走っているのは間違いありません。1馬身差で追っているのが前回ご紹介したサルバドル・カルボの“1898, Los últimos de Filipinas”と予想しています。今どき俳優の監督掛持ちなど珍しくもありませんが、改めて飛び飛びだった記事をまとめて再構成することにしました。
*以下、ゴチック体はゴヤ賞ノミネートを受けたもの、◎印はフェロス賞にノミネートされたもの
“Tarde para la ira”(“The Fury of a Patient Man”)2016
製作:Agosto la Pelicula / La Canica Films / TVE ◎
監督・脚本:ラウル・アレバロ ◎
脚本(共):ダビ・プリド ◎
撮影:アルナウ・バルス・コロメル
編集:アンヘル・エルナンデス・ソイド
音楽:ルシオ・ゴドイ
衣装デザイン:アルベルト・バルカルセル・ロドリゲス、クリスティナ・ロドリゲス
美術:セラフィン・ゴンサレス
メイクアップ&ヘアー:マルタ・アルセ、エステル・ギリェム、ピルカ・ギリェム
特殊効果:イケル・デ・ラ・カジェ・ラタナ、ラオル・ロマニリョス
録音:タマラ・アレバロ、ミゲル・バルボサ、ほか
製作者:ベアトリス・ボデガス、セルヒオ・ディアス
基本データ:製作国スペイン、スペイン語、2016年、スリラー・ドラマ、92分、製作費約120万ユーロ、スペイン国営放送RTVEの援助、撮影開始2015年7月より6週間、撮影地はマドリードほかセゴビアなど。スペイン公開2016年9月9日、IMDb7.5点
映画祭・受賞歴:ベネチア映画歳2016「オリゾンティ」正式出品、ルス・ディアス女優賞受賞。トロント映画祭、ロンドン映画祭、テッサロニキ映画祭、ストックホルム映画祭などに正式出品
映画賞:フォルケ賞2017作品賞・男優賞(アントニオ・デ・ラ・トーレ)、ガウディ賞2017撮影賞、フェロス賞2017作品賞以下7部門、いずれもノミネーション。
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ)◎、ルイス・カジェホ(クーロ)◎、ルス・ディアス(アナ、フアンホの義妹)◎、ラウル・ヒメネス(フアンホ)、アリシア・ルビオ(カルメン)、マノロ・ソロ(トリアナ)◎、フォント・ガルシア(フリオ)、ピラール・ゴメス(ピリ)、ベルタ・エルナンデス(ホセのガールフレンド)、ルナ・マルティン(サラ)その他多数
解説:ホセとクーロの物語、無口だが用心深いホセはフアンホがオーナーのバルで終日ウエイターとして働いている。不眠症に苦しんでおり、フアンホの義姉妹アナを想っている。そんな折、フアンホの兄弟クーロが8年ぶりに出所してくる。2007年8月マドリード、クーロは仲間と宝石店を襲い販売員を昏睡状態にしたうえ仲間の一人が女店員を殺害してしまうという事件を起こしていた。暗い過去の亡霊にとり憑かれているが、アナと小さな息子と一緒に人生をやり直そうと考えていた。しかしアナの愛は既にクーロになく、見知らぬ男ホセと出逢うことで歯車が狂ってくる。やがて販売員がホセの父親だったこと、女店員がホセのガールフレンドだったことが明らかになってくる。人間の心の闇に潜む暴力、復讐、父と子の関係が語られることになるだろう。
(アントニオ・デ・ラ・トーレとルイス・カジェホ)
*監督キャリア紹介*
★ラウル・アレバロRaúl Arévalo、1979年マドリード生れ、俳優、監督、脚本家。クリスティナ・ロタの演劇学校で演技を学んだ。「妹と一緒に父親のカメラで短編を撮っていた。17歳で俳優デビューしたのも映画監督になりたかったから」というから根っからの監督志望だった。俳優としてキャリアを磨きながら、今回やっと長年の夢を叶え、監督としても通用することを証明した。
★日本デビューはダニエル・サンチェス・アレバロの第1作『漆黒のような深い青』(06、ラテンビート2007上映)、同作にはサンチェス・アレバロ監督と「義」兄弟の契を結んでいるアントニオ・デ・ラ・トーレも共演している。彼はデビュー作の主人公ホセ役として出演している。サンチェス・アレバロは合計4作撮っているが、二人とも全4作に出演しています。ゴヤ賞絡みではサンチェス・アレバロの第2作『デブたち』(09)で助演男優賞を受賞している。ホセ・ルイス・クエルダ(“Los girasoles ciegos”)、公開作品ではアレックス・デ・ラ・イグレシア(『気狂いピエロの決闘』)、イシアル・ボリャイン(『ザ・ウォーター・ウォー』)、アルモドバル(『アイム・ソー・エクサイテッド!』)、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』、今年ゴヤ賞脚本賞にノミネートされたダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(“Cien años de perdón”)などに起用されている。舞台にも立ち、TVドラ出演も多く、NHKで放映された『情熱のシーラ』で日本のお茶の間にも登場した。
*トレビア*
★アレバロ監督は「脚本執筆に7年、資金集めに4年の歳月をかけたのに、撮影に6週間しかかけられなかったのはクレージー」と嘆いている。それでも長年の夢をやっと叶えることができた。マドリードとセゴビアのマルティン・ムニョス・デ・ラス・ポサダスというアレバロが育った町で2015年夏にクランクインした。町の人々がエキストラとして協力しており、主人公の一人クーロ役のルイス・カジェホもセゴビア出身。ホセ役のアントニオ・デ・ラ・トーレとはダニエル・サンチェス監督の全作で共演している。さらにカルメン役のアリシア・ルビオは恋人ということです。監督と俳優が互いに知りすぎているのは、時にはマイナスにはたらくことも懸念されたが杞憂に過ぎなかった。
★ベネチア映画祭2016「オリゾンティ」部門の女優賞受賞者ルス・ディアス談、「自分の名前が呼ばれたときには思わず涙が出てしまいました」と語っていたルス・ディアス、1975年カンタブリアのレイノサ市生れ、女優、監督。舞台女優として出発、1993年『フォルトゥナータとハシンタ』が初舞台、映画、テレビで活躍。チュス・グティエレスの『デリリオ―歓喜のサルサ―』(ラテンビート2014)に出演、他にジャウマ・バラゲロ、ハビエル・レボージョなどの監督とコラボしている。2013年 “Porsiemprejamón” で短編デビュー、脚本も手がけている。ただし、「何よりもまず、私は女優」ときっぱり。
(ルス・ディアスとアントニオ・デ・ラ・トーレ、映画から)
★二人の主役、アントニオ・デ・ラ・トーレは1968年生れ、ルイス・カジェホは1970年生れと監督より一回り年上であり、それぞれ映画デビューも早い。ゴヤ賞では主役二人がダブルで主演男優、助演にマノロ・ソロ、新人にラウル・ヒメネス、主演女優にルス・ディアスと5人もノミネートされた。特にマノロ・ソロの演技を評価する批評家が多く、昨年のダビ・イルンダインの“B, la pelicula”に続いて2回めのノミネーションであるが、長い芸歴に比して少ない印象を受ける。脇役に徹しているせいか日本での知名度は低いが、『パンズ・ラビリンス』『プリズン211』『ビューティフル』『カニバル』、最近の『マーシュランド』ではフリーの新聞記者を演じていた。また、デ・ラ・トーレはフェロス賞2017の総合司会を務めることになっている。
(中央がマノロ・ソロ、映画から)
追加情報: 邦題『物静かな男の復讐』で ネットフリックス配信されました。
サルバドル・カルボ ”1898, Los ultimos de Filipinas” *ゴヤ賞2017 ⑤ ― 2017年01月05日 14:40
歴史に基づく勝利無き英雄たちのアクション・アドベンチャー
★スペインで戦争歴史映画といえば、イコール「スペイン内戦」、今もって懸案事項の一つであり続けています。しかし本作は内戦物ではなく、その時代背景はタイトル通り19世紀末の1898年、舞台はフィリピンのルソン島にあるシティオ・デ・バレル、そこの小さな教会に337日間立てこもって戦ったスペイン駐屯軍のレジスタンスが語られる。1898年は、スペイン人にとっては植民地キューバに続いてフィリピンも失い、かつて栄華を誇ったスペイン帝国が完全に瓦解した不名誉な年である。
(左から、カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス、アルバロ・セルバンテス、
ルイス・トサール、ハビエル・グティエレス、カルロス・イポリト、リカルド・ゴメス)
★サルバドル・カルボの長編デビュー作“1898, Los últimos de Filipinas”のご紹介。ゴヤ賞ノミネーション9個(新人監督・新人男優・撮影・プロダクション・美術・録音・衣装デザイン・メイク&ヘアー・特殊効果)、フォルケ賞作品賞ノミネーション(Enrique Cerezo P.C.)と熱い視線が注がれている。デビュー作とはいえ、カルボ監督は既にTVドラで活躍中、それがキャスト、スタッフの豪華さに繋がっている。撮影は2016年の5月から6月にかけて、赤道ギニア共和国やカナリア諸島のグラン・カナリアで9週間にわたって行なわれた。1945年、アントニオ・ロマンが“Los últimos de Filipinas”のタイトルで映画化している。そこでは当時の政権に不都合だったエピソードは語られることはなかったが、本作では隠された真実も姿を表わすようです。
“1898, Los últimos de Filipinas”2016
制作:13TV / CIPI Cinematografica S.A. / Enrique Cerezo Producciones Cinematograficas S.A. / ICAA / TVE
監督:サルバドル・カルボ
脚本:アレハンドロ・エルナンデス
音楽:ロケ・バニョス・ロペス
撮影:アレックス・カタラン・フェルナンデス
美術:カルロス・ボデロン
録音:エドゥアルド・エスキデ、フアン・フェロ、ニコラス・デ・ポウルピケ
編集:ハイメ・コリス
衣装デザイン:パオラ・トーレス
メイクアップ&ヘアー:アリシア・ロペス、ペドロ・ロドリゲス、ほか
特殊効果:パウ・コスタ、カルロス・ロサノ
プロダクション:カルロス・ベルナセス
製作者:エンリケ・セレソ、ペドロ・コスタ
基本データ:製作国スペイン、スペイン語、2016年、105分、戦争歴史物、製作費約600万ユーロ、撮影地・期間、赤道ギニア共和国、グラン・カナリア、9週間、フォルケ賞2017作品賞ノミネーション、ゴヤ賞9部門ノミネーション、映倫PG12、IMDb評価6.7点、スペイン公開2016年12月2日
キャスト:ルイス・トサール(サトゥミノ・マルティン・セレソ中尉)、ハビエル・グティエレス(ヒメノ軍曹)、エドゥアルド・フェルナンデス(エンリケ・デ・ラス・モレナス艦長)、アルバロ・セルバンテス(兵士カルロス)、カラ・エレハルデ(カルメロ司祭)、カルロス・イポリト(ロヘリオ・ビヒル・デ・キニョネス医師)、リカルド・ゴメス(兵士ホセ)、ミゲル・エラン(兵士カルバハル)、パトリック・クリアド(兵士フアン)、ペドロ・カサブランク(クリストバル・アギラール中佐)、フランク・スパノ(タガログ人の密使)、アレクサンドラ・マサングカイ(先住民テレサ)、エミリオ・パラシオス(モイセス)、シロ・ミロ(騎馬兵)ほか多数
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされたスタッフとキャスト
(指揮官エドゥアルド・フェルナンデス)
物語:1898年の夏、ルソン島の海岸沿いの小村バレル、スペインの兵士たちが独立のため蜂起した先住民の一団に苦戦している。立てこもった教会を包囲された指揮官エンリケ・デ・ラス・モレナスとマルティン・セレソ中尉は、50名にも満たないわずかな陣容で戦わざるをえなかった。指揮官の死後、ヒメノ軍曹とともに駐屯軍を指揮したセレソ中尉は、熱病やマラリアにも苦しめられながら勝利も栄光もない戦いを強いられた。度重なる警告にも拘わらず何の対策も打ち出せなかった政府は、米国の援助を受けた反乱軍を前にしてなす術もなく、領土の割譲を余儀なくされる。1898年6月30日から翌年6月2日、337日間に及ぶ兵士たちの抵抗はパリ条約の締結により終りを告げた。
(左から、ルイス・トサール、カルロス・イポリト、後方が籠城したバレルの教会)
*トレビア*
★サルバドル・カルボSalvador Calvo:1970年マドリード生れのテレビ&映画監督。2000年TVドラ・シリーズ“Policias, en el corazón de la calle”の助監督として出発、2002年には同ドラマ4挿話を監督する。代表作は“Las aventuras del capitán Alatriste”(2013、4挿話)や“Hermanos”(2014、4挿話)、ほか多数手掛けておりテレビ監督としてはベテラン。46歳で長編映画デビューを果たした。
★監督談によると、最初のプランは村の教会に閉じ込められたスペイン駐屯軍のウエスタン風の「潜水艦ドラマ」を構想していた。しかし最後の植民地喪失がスペイン帝国の決定的な崩壊であることを明確にして、そのメタファーを強める意味で敢えて「1898年」という崩壊の年号をタイトルに入れ、新しい時代の出発を強調したかった。実際は米国に敗北して領土割譲という屈辱的なパリ条約を締結するわけですから、本質的にはペシミスティックではあるが、この独創的なスペインの未来に期待しているのかもしれない。
★製作会社「Enrique Cerezo Producciones Cinematograficas S.A.」の設立者エンリケ・セレソは、フォルケ賞を主催するEGEDA会長、それで作品賞にノミネーションされたのでしょうか。と言うのも12月2日公開だから、本当は来年回しのはずです(対象は2015年12月1日~2016年11月30日)。多分受賞はないと予想しますが、原則論者からは不満が出るかもしれない。
(サルバドル・カルボ監督とプロデューサーのエンリケ・セレソ)
★アントニオ・ロマンの「1945年版」では監督以下、アルマンド・カルボ(中尉役)、ホセ・ニエト(指揮官役)、ギジェルモ・マリン(医師役)ほか、日本でもクラシック映画で知名度の高いフェルナンド・レイ、フアン・カルボ(アルマンドの実父)、トニー・ルブランなどが出演、当然ながら殆どが鬼籍入りしています。兵士の逃亡などは、フランコ政権の不都合によりカットされていたようです。
★俳優陣のうち、ルイス・トサール(『プリズン211』『暴走車 ランナウエイ・カー』)、エドゥアルド・フェルナンデス(『スモーク・アンド・ミラーズ』『エル・ニーニョ』)、ハビエル・グティエレス(『マーシュランド』『The Olive Tree』)、カラ・エレハルデ(『ネイムレス』『ザ・ウォーター・ウォー』)のベテラン勢は日本語ウィキペディアで紹介記事が読める。当ブログにも度々登場願っているので割愛。
(左から、カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス、ルイス・トサール)
★若手で今回「新人男優賞」ノミネートのリカルド・ゴメスは、1994年マドリード生れの俳優、テレビ、舞台でも活躍の22歳。現在マドリードのコンプルテンセ大学比較文学科に在籍中、勉学と俳優業の二足の草鞋を履いている。2001年から始まったTVドラ・シリーズ“Cuéntame cómo pasó”に7歳でデビュー、スペインで放映時間が近づくと通りから人影が消えてしまうと言われた人気ドラマ。「フランコ小父さんって何をした人なのか僕たちに話してよ」と、軍事独裁時代を知らない若者にドラマでスペイン現代史を教えるという内容。もちろん秘密のベールに覆われていた時代だから、大人でさえも知らないことだらけ、それで一家揃ってお茶の間に陣取った。マドリードに暮らすアルカンタラ一家の8歳になる末っ子カルロスの人生が語られ、時間とともに成長するカルリート・ゴメスをスペイン人はずっと見てきており、現在も続行中です。
(リカルド・ゴメスの今と昔)
★映画デビューは、アントニオ・ナバロのアニメ“Los Reyes Mago”(03)のボイス、ホセ・ルイス・ガルシのコメディ“Tiovivo c. 1950”(04)、同作はオスカー賞スペイン代表作品の候補にもなったが、アメナバルの『海を飛ぶ夢』に敗れた。というわけで本作出演が成人してからの本格的な映画デビューと言っていいでしょう。
(プレス会見でインタビューに応えるリカルド・ゴメスと共演者アルバロ・セルバンテス)
★脚本を執筆したアレハンドロ・エルナンデスは、キューバ出身の脚本家、2000年にスペインに移住しているシネアスト流出組の一人。今回ノミネートはありませんでしたが、以前紹介したマヌエル・マルティン・クエンカの“Malas temporadas”(『不遇』)を監督と共同執筆しています。ノミネーションを受けた撮影監督のアレックス・カタランは『マーシュランド』でゴヤ賞を受賞したばかり、『スモーク・アンド・ミラーズ』も手掛けているが、今回はどうでしょうか。スペイン各紙の映画評は概ね好意的で、何かの賞には絡むのではないかと思います。
*追記:邦題『1898:スペイン領フィリピン最後の日』で Netflix 配信されました。
ゴヤ賞2017ノミネーション発表 ④ ― 2016年12月28日 11:01
作品賞ノミネーションはフェロス賞と全く同じ!
★米国のゴールデン・グローブ賞と同じ位置づけで2013年から始まったフェロス賞とカブるのは当たり前の話とも言えますが、作品賞は全く同じでした。ゴヤ賞は、前もって決定している栄誉賞を除くと28カテゴリーと多く、例えば監督賞・男優・女優に「新人」枠があり、今後のスペイン映画の行方を占うのに役立ちますし、音楽賞も作曲賞と歌曲賞の2カテゴリーに分かれているなど、やはり大枠だけでもアップしておきます。字幕入り上映も『スモーク・アンド・ミラーズ』、『ジュリエッタ』、『The Olive Tree』、『KIKI~愛のトライ&エラー』、『名誉市民』、『囚われた少女たち』(DVD題名、映画祭題名『選ばれし少女たち』)ほか映画祭を含めると7~8作あります。当ブログ未紹介ながら気になる作品も散見いたしますので、つまみ食いしながらご紹介したいと思います。2017年の栄誉賞は既にご紹介しております通り女優で歌手のアナ・ベレン、ガラ総合司会者は3年連続のダニ・ロビラです。
(作品賞ノミネーションを読み上げるハビエル・カマラとナタリア・デ・モリーナ、12月14日)
*ゴヤ賞2017ノミネーション*
(原題・英題・邦題・監督の順、初出には監督名を入れ、★印はフェロス賞ノミネーションとカブるもの、☆印は紹介作品、合作は国名、多数ノミネーションには個数を入れました)
作品賞
“El homre de las mil caras”“Smoke&Mirrors”『スモーク・アンド・ミラーズ』(11個)
監督アルベルト・ロドリゲス ★☆
“Julieta” 『ジュリエッタ』(7個)監督ペドロ・アルモドバル ★☆
“Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(6個)監督ロドリゴ・ソロゴイェン ★☆
“Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(11個)監督ラウル・アレバロ ★☆
“Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(最多12個、西・米・英・カナダ)
監督フアン・アントニオ・バヨナ ★☆
(この3作に絞られるか、右側か左側のどちらかを予想)
監督賞
アルベルト・ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』★
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』★
ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”★
フアン・アントニオ・バヨナ“Un monstruo viene a verme”★
新人監督賞
ラウル・アレバロ“Tarde para la ira” ★
サルバドル・カルボ“1898, Los últimos de Filipinas”(9個)
マルク・クレウエト“El rey tuerto” ☆
ネリー・レゲラ“María (y los demás)” ☆
オリジナル脚本賞
ホルヘ・ゲリカエチェバリア“Cien años de perdón”『バンクラッシュ』
監督ダニエル・カルパルソロ ☆
ポール・ラヴァティ“El olivo”『The Olive Tree』監督イシアル・ボリャイン ☆
イサベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”★
ダビ・プリド、ラウル・アレバロ“Tarde para la ira”★ ☆
脚色賞
アルベルト・ロドリゲス、ラファエル・コボス『スモーク・アンド・ミラーズ』★
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』★
フェルナンド・ペレス、パコ・レオン“Kiki, el amor se hace”『KIKI~愛のトライ&エラー』☆
パトリック・ネス“Un monstruo viene a verme”★
オリジナル作曲賞
フリオ・デ・ラ・ロサ『スモーク・アンド・ミラーズ』★
パスカル・ゲイニュ『The Olive Tree』
アルベルト・イグレシアス『ジュリエッタ』★
フェルナンド・ベラスケス“Un monstruo viene a verme”★
オリジナル歌曲賞
ルイス・イバルス‘Descubriendo India’(“Bollywood Made in Spain”)
監督ラモン・マルガレト
シルビア・ペレス・クルス‘Ai, ai, ai’(“Cerca de tu casa”)
監督エドゥアルド・コルテス ★
セルティア・モンテス‘Muerte’(“Frágil equilibrio”、ドキュメンタリー)
監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
アレハンドロ・アコスタ、パコ・レオン他‘Kiki―Mr. Ki feat Nita’
(『KIKI~愛のトライ&エラー』)
主演男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス『スモーク・アンド・ミラーズ』★
ロベルト・アラモ“Que Dios nos perdone”★
アントニオ・デ・ラ・トーレ“Tarde para la ira”★
ルイス・カジェホ“Tarde para la ira”(フェロス賞は助演★)
主演女優賞
エンマ・スアレス『ジュリエッタ』★
カルメン・マチ“La puerta abierta”(“The Open Door”)監督:マリナ・セレセスキー ★
ペネロペ・クルス“La reina de España”監督:フェルナンド・トゥルエバ ☆
バルバラ・レニー“María (y los demás)”★
助演男優賞
カラ・エレハルデ“100 metros”監督:マルセル・バレラ ☆
ハビエル・グティエレス『The Olive Tree』
ハビエル・ペレイラ“Que Dios nos perdone”★
マノロ・ソロ“Tarde para la ira”★
助演女優賞
カンデラ・ペーニャ『KIKI~愛のトライ&エラー』★
エンマ・スアレス“La próxima piel”監督:イサキ・ラクエスタ、イサ・カンポ ☆
テレレ・パベス“La puerta abierta”★
シガニー・ウィーバー“Un monstruo viene a verme”
新人男優賞
リカルド・ゴメス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロドリゴ・デ・ラ・セルナ『バンクラッシュ』
カルロス・サントス『スモーク・アンド・ミラーズ』(フェロス賞は助演★)
ラウル・ヒメネス“Tarde para la ira”
新人女優賞
シルビア・ペレス・クルス“Cerca de tu casa”
アナ・カスティージョ『The Olive Tree』(フェロス賞は主演★)
ベレン・クエスタ『KIKI~愛のトライ&エラー』
ルス・ディアス“Tarde para la ira”(フェロス賞は助演★)
プロダクション賞
カルロス・ベルナセス“1898, Los últimos de Filipinas”
マヌエラ・オコン『スモーク・アンド・ミラーズ』
ピラール・ロブラ“La reina de España”
サンドラ・エルミダ・ムニィス“Un monstruo viene a verme”
撮影監督賞
アレックス・カタラン“1898, Los últimos de Filipinas”
ホセ・ルイス・アルカイネ“La reina de España”
アルナウ・バルス・コロメル“Tarde para la ira”
オスカル・ファウラ“Un monstruo viene a verme”
編集賞
ホセ・M・G・モヤノ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アルベルト・デル・カンポ、フェルナンド・フランコ“Que Dios nos perdone”
アンヘル・エルナンデス・ソイド“Tarde para la ira”
ベルナ・ビラプラナ、ジャウマ・マルティ“Un monstruo viene a verme”
美術監督賞
カルロス・ボデロン“1898, Los últimos de Filipinas”
ぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモ『スモーク・アンド・ミラーズ』
フアン・ペドロ・デ・ガスパル“La reina de España”
エウヘニオ・カバジュロ“Un monstruo viene a verme”
衣装デザイン賞
パオラ・トレス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロラ・ウエテ“La reina de España”
クリスティナ・ロドリゲス“No culpes al karma de lo que te pasa por gilipollas”
監督マリア・リポル
アルベルト・バルカルセル、クリスティナ・ロドリゲス“Tarde para la ira”
メイクアップ&ヘアー賞
アリシア・ロペス、ミル・カブレル、ペドロ・ロドリゲス“1898, Los últimos de Filipinas”
ヨランダ・ピナ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アナ・ロペス=プイグセルベル、ダビ・マルティ、セルヒオ・ペレス・ベルベル『ジュリエッタ』
ダビ・マルティ、マレセ・ランガン“Un monstruo viene a verme”
録音賞
エドゥアルド・エスキデ、フアン・フェロ他“1898, Los últimos de Filipinas”
セサル・モリナ、ダニエル・デ・サヤス他『スモーク・アンド・ミラーズ』
ナチョ・ロジョ=ビリャノバ、セルヒオ・テスタン“Ozzy”(アニメーション、西・カナダ)
オリオル・タラゴ、ペーター・グロスポ“Un monstruo viene a verme”
特殊効果賞
カルロス・ロサノ、パウ・コスタ“1898, Los últimos de Filipinas”
ダビ・エラス、ラウル・ロマニリョス“Gernika. The Movie”『ゲルニカ』監督コルド・セラ ☆
エドゥアルド・ディアス、レジェス・アバデス『ジュリエッタ』
フェリックス・ベルヘス、パウ・コスタ“Un monstruo viene a verme”
アニメーション賞
“Ozzy” 監督アルベルト・ロドリゲス、ナチョ・ラ・カサ
“Psiconautas, los niños olvidados”監督ペドロ・リベロ、アルベルト・バスケス
“Teresa eta Galtzagorri”(“Teresa y Tim”)
監督アグルツァネ・インチャウラガAgurtzane Intxaurraga
ドキュメンタリー賞
“2016, Nacido en Siria”監督エルナン・シン
“El Bosco, El jardín de los sueños”(西仏)監督ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
“Frágil equilibrio” 監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
“Omega”ヘルバシオ・イグレシアス、ホセ・サンチェス=モンテス
イベロアメリカ映画賞
“Anna”(コロンビア仏)監督ジャック・トゥールモンド
“Desde alla”“From Afar”『彼方から』(ベネズエラ・メキシコ)監督ロレンソ・ビガス ☆
“El ciudadano ilustre”『名誉市民』(アルゼンチン西)
監督(共同)ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン ☆
“Las elegidas”『囚われた少女たち』(メキシコ)ダビ・パブロス ☆
★以下、ヨーロッパ映画賞・短編映画賞・短編ドキュメンタリー賞・短編アニメーション賞は割愛します。受賞結果のみアップする予定。短編映画賞のなかにはフアンホ・ヒメネス・ペーニャの『タイムコード』(カンヌ2016の短編パルムドール受賞作品)のようにご紹介記事も混じっております。イベロアメリカ映画賞には、スペイン公開が遅かったせいか2014年の『彼方から』と2015年の『囚われた少女たち』がノミネートされており、時間が逆戻りした印象でした。
(アルフレッド・カストロとルイス・シルバ、『彼方から』)
★受賞してもらいたい作品はあっても星取表には興味が沸かないので割愛、年明けに未紹介の作品をアップする予定なので、そのなかで随時触れたいと思います。ドキュメンタリー賞の監督のなかにはプロデューサーとして数々の問題作に関わったベテランの名前も散見します。反対に編集賞のなかには“Que Dios nos perdone”のフェルナンド・フランコのように、“La herida”(13)でゴヤ賞新人監督賞を受賞した監督も混じっております。技術スタッフは掛持ちで仕事をしているせいか複数でノミネートされ、毎年顔ぶれが同じように感じるのは管理人んだけでしょうか。
★フェロス賞ノミネーション0個のフェルナンド・トゥルエバの“La reina de España”が7個と違いをみせました。フランコ体制終焉から40年、それでもフランコ支持者は意気軒昂、上映館を取り巻く彼らのボイコット運動に恐れをなして客足に影響があるとかないとか。75年経っても戦後は終わらないのと同じです。
(トゥルエバ監督とヒロインのペネロペ・クルス)
ゴヤ賞を初めて統率する映画アカデミー会長イボンヌ・ブレイク ― 2016年12月20日 14:11
困難な会長職を引き受けたわけ――私たちはカオスの中にいる
★去る12月14日、ゴヤ賞2017のノミネーション発表がありました。次回の授賞式を統率するのが新会長イボンヌ・ブレイク、マンチェスター生れのイギリス系スペイン人、母語は英語なので話が込み入ってくると了解を得ながらも英語混じりになる。なり手のなかった会長職をどうして引き受けたかというと、理事会役員の仲間から説得されたからだという。特に女優のアンパロ・クリメント、女性プロデューサーの草分け的存在のソル・カルニセロ、アルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の中心的な製作者エステル・ガルシア・ロドリゲスなど、女性シネアストからの懇望に負けたからだという。
(イボンヌ・ブレイク、映画アカデミー本部にある事務所にて、11月29日)
★問題山積の中でも、新会長の肩に重くのしかかるのが活動資金調達の困難さ、「とにかく資金不足、掻き集めてくれる外郭団体があるにはあるが、問題は司令塔が存在しないこと」だと。「2017年はもう間に合わないが、2018年には授賞式を催すための他のグループを立ち上げたい。より多くの後援者を見つけないと今後は開催できなくなる事態になる」、パトロン探しが重要と新会長。2017年は質素なガラになるようです。より現代的な舞台装置、ミュージカル風でなく、多分本来の授賞に重きをおき、興行的にはしない方針のようです。10月15日の就任以来、殆ど休みなく朝に夕に本部に詰めているという。
*ブレイク新会長の女性ブレーン紹介*
*アンパロ・クリメントは、バレンシア生れの女優、最近はTVドラ出演が多いのでご紹介するチャンスがありませんが、かつてはグティエレス・アラゴンの『庭の悪魔』(82)やホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスの「Tranvia a la Malvarrosa」(96)に出演しているベテラン女優。
*ソル・カルニセロは、1963年スペインテレビTVEのプログラム制作で第一歩を踏み出した。スペイン人から最も愛されたと言われる監督ガルシア・ベルランガの「ナシオナル三部作」といわれる辛口コメディ、ピラール・ミローの1910年代の実話に基づいた『クエンカ事件』(79)、治安警備隊の拷問シーンが残酷すぎると上映阻止の動きがあり、ミロー監督も一時的に収監されるという前代未聞の事態に発展した。民主化移行期とはいえフランコ時代が続いていたことを内外に知らせる結果になった。1年半後に公開されると空前のヒット作となった。
*エステル・ガルシア・ロドリゲスは「エル・デセオ」のプロデューサー、2015年、数々の映画賞をさらったダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』で、第20回フォルケ賞をアグスティン・アルモドバルと一緒に受賞しています。
*イボンヌ・ブレイクのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年10月29日
ヨーロッパ映画賞は全滅でした!
★スペイン語映画は全滅でした。ドイツ=オーストリア合作のマーレン・アデの「Toni Erdmann」が独占、ちょっと口をあんぐりの結果でした。「最多ノミネーション5個(作品、監督、脚本、女優サンドラ・フラー、男優ペーター・シモニシェック)、どれか一つくらい受賞するのではないでしょうか」と予想はしていましたが、なんと全部受賞してしまいました。過去にこのような例があるのかどうか調べる気にもなりませんが、他の映画もちゃんと観てくれた結果なのでしょうか。『ジュリエッタ』グループもアルモドバル監督以下揃って現地入りしていましたが、無冠に終り残念でした。
*ヨーロッパ映画賞ノミネーションの紹介記事は、コチラ⇒2016年11月8日
(監督賞トロフィーを手に喜びのマーレン・アデ)
(監督を挟んでサンドラ・フラーとペーター・シモニシェック)
アカデミー賞外国語映画賞プレ・セレクション9作品も全滅でした!
★2015年ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(アルゼンチン他)、2016年チロ・ゲーラの『彷徨える河』(コロンビア他)と2年続きでノミネートされたオスカー賞、2017年はプレ・セレクション9作品にも残れませんでした。有力視されていた(?)アルモドバルの『ジュリエッタ』、パブロ・ララインの「Nerudaネルーダ」も手が届きませんでした。ヨーロッパ映画賞を独占したドイツのマーレン・アデ「Toni Erdmann」は、予想通り残っていますね。来年まで勢いが続くかどうか、ハリウッドはドイツ嫌いが多い印象を受けています。
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