"No sé decir adiós" リノ・エスカレラのデビュー作*気になる俳優たち ― 2017年06月25日 12:16
「さよなら」のタイミング―どうしようもない別れについての物語
★マラガ映画祭2017以来ずっとアップしたいと思いながら後回しになっていたリノ・エスカレラのデビュー作 “No sé decir adiós” のご紹介。審査員特別賞、脚本賞、女優賞(ナタリエ・ポサ)、助演男優賞(フアン・ディエゴ)、審査員スペシャル・メンション他を受賞しながら紹介を怠っていました。監督紹介はさておき、キャストの顔ぶれは地味ですが、視点を変えればこれほど豪華な演技派揃いも珍しいといえます。末期ガンの父親にフアン・ディエゴ、意見の異なる二人の姉妹にナタリエ・ポサとロラ・ドゥエニャス、脇を固めるのがミキ・エスパルベ、パウ・ドゥラ、オリオル・プラ、エミリオ・パラシオスなど。
(左から、エミリオ・パラシオス、監督、ナタリエ・ポサ、フアン・ディエゴ、マラガ映画祭)
★今年のスペイン映画の珠玉の一編という高い評価を受けていますが、マラガ映画祭は春開催ということもあって、翌年2月のゴヤ賞まで大分時間があくので不利になります。しかし本作は残ると踏んでいますが予想通りになるでしょうか。単なる死についての物語でも、末期ガンについての物語でもないところが評価されているらしく、表面的には父と娘二人の話に見えながら、私たち自身の話でもあるようです。過去にあった家族の確執は直接スクリーンでは語られないが、それは必要なかったからだと監督、お互い傷を負っているということで十分であるということです。したがって観客はそれぞれ想像力を要求されるわけで、観客によって印象が変わるということかもしれません。
(ポスター左から、ナタリエ・ポサ、フアン・ディエゴ、ロラ・ドゥエニャス)
“No sé decir adiós”(“Can't Say Goodbye”)2017
製作:Lolita Films / White Leaf Producciones
監督・脚本・製作者:リノ・エスカレラ
脚本(共)・製作者:パブロ・レモン
音楽:パブロ・トルヒーリョ
撮影:サンティアゴ・ラカRacaj
編集:ミゲル・ドブラド
美術:ファニー・エスピネテEspinet
キャスティング:トヌチャ・ビダル
メイクアップ・ヘアー:アンナ・ロシリョ
プロダクション・マネージメント:ダミアン・パリス、マムエル・サンチェス・リャマス
製作者:ロサ・ガルシア・メレノ、セルジイ・モレノ、(エグゼクティブ)ダミアン・パリス
データ:スペイン、スペイン語・カタルーニャ語、2017年、ドラマ、96分、製作資金約600.000ユーロ、撮影地アルメリア、バルセロナ、ジローナ、期間4週間、公開スペイン5月18日
映画祭・映画賞:マラガ映画祭2017正式出品、審査員特別賞、脚本賞、女優賞、助演男優賞、審査員スペシャル・メンション他受賞
キャスト:ナタリエ・ポサ(カルラ)、フアン・ディエゴ(父ホセ・ルイス)、ロラ・ドゥエニャス(ブランカ)、ミキ・エスパルベ(セルジ)、パウ・ドゥラ(ナチョ)、オリオル・プラ(ココ)、マルク・マルティネス(マルセロ)、ノア・フォンタナルス(イレネ)、エミリオ・パラシオス(ダニ)、グレタ・フェルナンデス(グロリア)、ハビ・サエス(医師)、セサル・バンデラ(看護師)、ブルノ・セビーリャ(看護師)他
プロット:人生のエピローグは、早かれ遅かれ誰にも訪れる。しかし「どうして今なの?」「どうして私の父親なの?」、まだ娘には心の準備ができていない。バルセロナで暮らすカルラは、数年前故郷アルメリアを後にして以来帰っていない。姉妹のブランカから突然電話で父ホセ・ルイスの末期ガンを知らされる。カルラは子供時代を過ごした家に飛んで帰ってくる。医師団は父の余命が数か月であると家族の希望を打ち砕くが、カルラには到底受け入れられない。失われた時を取り戻すかのように、バルセロナで治療を受けさせようと決心して準備に着手する。父は自分を取りまく状況を知らないでいたい。父に寄り添ってきたブランカは、現実を直視できないカルラと対立する。より現実的なブランカの目には、コカインを手放せないカルラが現実逃避をしているとしかうつらない。どうしようもない別れに解決策は存在しない。ただいたずらに時間だけが走り去っていくだけである。
痛みを前にして身を守るメカニズム
★42歳というリノ・エスカレラ監督の長編デビュー作。脚本推敲に7年の歳月を掛けたという。コンビで脚本を執筆したパブロ・レモンとは2009年に出会った。ちょうど短編 ”Elena quiere”(07、19分)が完成した後で次作の構想を模索していた時期だったという。Max Lemckeの ”Casual Day” を見て脚本がとても良かったので接触した。同作はフアン・ディエゴやルイス・トサールが出演した話題作、2008年のシネマ・ライターズ・サークル賞の作品・監督・脚本・主演男優・助演男優の5冠を受賞している。「最初の構想は肉体的な病に冒されている父と精神的な病をもつ娘の話だった。それをこのように膨らませてくれたのはパブロのお蔭です。自分一人では到底できなかった」と語っている。「パブロはスペインの優れた脚本家の一人」と篤い信頼を寄せている。
(左から、パブロ・レモン、リノ・エスカレラ、プレス会見にて)
*シネヨーロッパのインタビューを要約すると、「アルメリアを舞台にしたのは、製作費が節約できること以外に、以前短編を撮って気に入っていたからだが、この小さな町は登場人物の家族にぴったりの美しい景色だったことです。カタルーニャのスタッフたちも受け入れてくれて、他にバルセロナやジローナでも撮影した。意思疎通が難しい家族は現在では珍しくないこと、そういうテーマを掘り下げることに関心があったことが根底にある」と語っていた。この家族が特殊なケースではなく、どこの家族も抱えている問題が観客に受け入れられたのではないか。2002年に短編デビュー、過去に5編ほど手掛けている。うち前出の ”Elena quiere” がアルメリア短編映画祭、イベロアメリカ短編映画祭に正式出品、後者でビクトル・クラビホが男優賞を受賞した。同作はYouTubeで鑑賞できる。
★カルラを演じたナタリエ・ポサ(1972、マドリード)は、「彼女は深い傷を抱えて自己否定のなかで生きている。窒息しそうな自分を仕事に追いやり、コカインやアルコールで麻酔をかけている」と分析している。問題は父親の病気にあるのではなく彼女自身の中にある、ということでしょうか。ナタリエ自身も8年前に父親をガンで見送っている。「脚本を読むなり眩暈がした。自分が体験したことが書かれていたからです」と語っている。突然の死で「さよなら」の準備ができていなかったが、本作に出演したことでもう一度「さよなら」の過程を体験したようです。現実にある病院で本物の医者や患者に囲まれて撮影された。「脚本は完璧でコンマ一つ変えなかった」とナタリエ。「私のような年齢になって、自分の経験やパッションが生かされるような類まれな美しい脚本にめぐり合えることは滅多にあることではありません」と、幸運なめぐりあわせをかみしめている。これがハリウッドなら女性の40代は90歳の老婆です。
(セルジ役のミキ・エスパルベ、カルラ役のナタリエ・ポサ、映画から)
*テレビ界で活躍の後“El otro lado de la cama”(02)で映画デビュー、マルティン・クエンカの“La flaquesa del bolchevique”に出演。ゴヤ賞ノミネートはダビ・セラーノの“Días de fútbol”(03)で助演女優賞、マヌエル・マルティン・クエンカの“Malas temporadas”(05『不遇』)で主演女優賞、マリアノ・バロソの“Todas las mujeres”(13)で助演女優賞があるが受賞はない。守りに入らない演技派女優です。すべて未公開なのが残念です。 最近アルモドバルの『ジュリエッタ』、来月公開のセスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』などに脇役で出演している。前述したように “No sé decir adiós” で銀のビスナガ女優賞を受賞した。
★ブランカ役のロラ・ドゥエニャス(1971、バルセロナ)は、診断の結果を受け入れ、父亡き後の心の準備を始める。カルラとは正反対のリアクションを起こす。カルラのように都会に逃げ出さず、小さな町に止まって父を見守ってきたブランカには、カルラの知らない辛い人生があった。日本デビューは群集劇『靴に恋して』の他、代表作としてアメナバルの『海を飛ぶ夢』とアントニオ・ナアロ他の ”Yo, también” でゴヤ賞主演女優賞を2回受賞している。アルモドバル作品として『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール』『抱擁のかけら』など他多数。アルモドバル作品の出演が多いことから、ナタリエ・ポサより認知度は高いようです。
(父ホセ・ルイス、カルラ、ブランカ、映画から)
★父親ホセ・ルイス役のフアン・ディエゴ(1942、セビーリャ)は、「私たち出演者は、生と死と愛の脚本を前にしていた。これは言わば現実を超越している映画です。私にとって一番重要なことはただ語ることではなく、どのように語るかです。だって死はいつかは誰にも訪れてくるからね」と語っています。当ブログでは、フアン・ディエゴについては贔屓俳優として度々登場させています。
*マラガ映画祭2014、及びキャリア紹介は、コチラ⇒2014年4月21日/4月11日
*スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞の記事は、コチラ⇒2015年8月1日
(父親役のフアン・ディエゴ)
★来年のゴヤ賞2018に絡みそうなこと、お気に入りの俳優が出演しているということでご紹介いたしました。なおIMDbのコメント欄に “Todo saldrá bien” のパクリという酷評が載っていますが、これはヴィム・ヴェンダースの3D映画『誰のせいでもない』(“Every Thing Will Be Fine” スペイン題 “Todo saldrá bien”)とは別の作品です。2016年に公開されたヘスス・ポンセ作品(ここでは父親でなく母親)です。予告編を一見した印象では似ていると感じました。
アントニオ・バンデラスに「名誉金のビスナガ」*マラガ映画祭2017 ― 2017年04月01日 10:11
ジュネーブで心臓の外科手術を受けていた!
(名誉金のビスナガ受賞、セルバンテス劇場、3月25日)
★俳優、監督、プロデューサー、マラガの名誉市民アントニオ・バンデラスに「名誉金のビスナガ」が贈られた。真っ白の顎髭にびっくりしたファンもいたでしょうか。授賞式に先立って行われる恒例の記者会見は、彼の健康不安についての質問から始まった。「凄い痛みであったが、幸いにも大事に至らずダメージは残っていない・・・冠状動脈の中に3本のステント(人体の管状部分を広げる医療機器)を挿入する手術を受けた。ずっと以前から不整脈があったが、報道されているような大げさなことじゃないですよ」と。マラガに来る前の先週、手術の経過の検査のためジュネーブにいた由、病気とはうまく付き合っていくしかないでしょう。
(プレス会見席上でのバンデラス、アルベニス映画館、3月25日)
★去る1月26日、ロンドン近郊サリーにある自宅でのトレーニング中、激しい心臓の痛みに襲われ病院に駆けつけたニュースは、日本の一部のメディアでも報道された。軽い心臓発作ということで入院することもなかったが、その後大事をとってジュネーブにある世界有数の心臓病病院で外科手術を受けていたことを明かした。 自身もそれほど深刻でないとツイートしていたから報道が間違っていたわけではないが、かなり重症だったようですね。授賞式にも間に合い現在は健康も回復して仕事に復帰できるということです。 現在のパートナーは、20歳年下のオランダの投資銀行家ニコール・ケンプルさん、あるパーティで知り合ったとか。 バンデラスは投資家としてのキャリアが長い。
(2年前からの新ガールフレンド、ニコール・ケンプルに付き添われて、スイスの病院前)
「故郷で有名人でいるのは何はともあれ大変なことです」とバンデラス
★マラガは生れ故郷、ピカソの次くらいに有名、マラガ名誉市民、マラガ映画祭の初めからの資金提供者、大兄弟会連合の会員にしてセマナ・サンタのプレゴネロでもあるバンデラスが、第20回という節目に「名誉金のビスナガ」をもらうについて異存はないでしょう。今回事務局からの借金返済の申し出を断ったようです。返してもらうつもりはないし、マラガがあってこそ今の自分があるのだから、自分に対して借りなど何もないというわけです。「故郷では有名人もただの人」という格言はもじって、「故郷で有名人でいるのは何か大変なこと、心づかいに大いに感激しています」と語ったバンデラス。渡米直後のラテン・コミュニティーのこと、ハリウッドに到着したころのヒスパニック系の人間関係の複雑さ、さらに闘いについても語った。現在でも解消されていない、反対に強まっていると思える偏見、差別に晒されていたことは語らずとも分かります。
★恩師アルモドバル監督について、「とっても」も恩義を感じています。「仕事に関してはとても厳しく、凝り性で気難しい」と。なぜなら撮影は「豊かな想像力のせいで地獄にいるような状況」に変えてしまうからと語っていた。今後やりたいことは、再び監督に戻って3作目を撮りたいらしく、過去の2作品は多分、自分の経験不足もあって「あまりに未熟」だったとも。2作品とは、元妻メラニー・グリフィスを主人公にしたコメディ「Crazy in Alabama」(99『クレイジー・イン・アラバマ』ビデオ2001)、マーク・チャイルドレスの小説の映画化、翻訳書も出版されている。第2作目がスペイン語で撮った「El camino de los ingleses」は、2006年11月マラガでプレミアした後、サンダンスやベルリン映画祭2007に英題「Summer Rain」として出品され、同年ラテンビートでも『夏の雨』の邦題で上映されている。
「ゲルニカ」制作中のピカソと同じ56歳になった!
★カルロス・サウラの「ゲルニカ」出演について。まだIMDbもアップされていませんが、サウラは以前からパブロ・ピカソが「ゲルニカ」制作に打ち込んだ33日間を軸にした映画を企画していて、ピカソ役に同郷のバンデラス起用をアナウンスしていた。バンデラスによると、「まだ詳しいことは分からないが、新しい脚本の権利問題がクリアーできたと聞いている。カルロスの前の脚本には自分も関わっており、奥の深いエモーショナルなインパクトがあった。制作中のドン・パブロ・ピカソの年齢が56歳、自分も同じ年になり、映画を撮るには理想的な年齢に達した。今は最初の脚本が推敲されてクランクインされるのを待っています」ということです。どんなピカソが見られるのか、しかし今年中のクランクインはなかなか難しいかもしれない。
マラガ映画祭2017*結果発表 ― 2017年03月27日 16:16
作品賞は「Verano 1993」と「Ultimos días en La Habana」が受賞
(マラガ生れのポスター制作者ハビエル・カジェハとマラガ映画祭2017のポスター)
★マラガ映画祭2017の結果発表がありました。スペインとラテンアメリカの垣根が取り払われた最初のフェスティバルでしたが、結局のところ最優秀作品賞は両方から1作ずつ選ばれました。スペイン最優秀作品賞金のビスナガは、カルラ・シモンのデビュー作「Verano 1993」、イベロアメリカ最優秀作品賞金のビスナガは、キューバのフェルナンド・ぺレスの「Ultimos días en La Habana」が受賞しました。副賞としてそれぞれに12.000ユーロの賞金が与えられます(昨年まではラテンアメリカの作品賞だけに与えられていたものです)。金賞は作品賞だけで、その他はすべて銀賞です。
★当日にアントニオ・バンデラスの「名誉金のビスナガ」の授与式も行われましたが、これは次回に回します。ガラに先だって昼間行われたプレス会見の席上、1月26日に心臓発作を起こして療養していたことを明かしました。大変だったようです。受賞スピーチを含めて別途アップします。
(プレス会見席上のアントニオ・バンデラス、3月25日)
★受賞結果は以下の通り、審査員はご紹介済みですが再度アップしますと、審査委員長にエミリオ・マルティネス=ラサロ、以下パブロ・ベルヘル監督(1963年ビルバオ、『ブランカニエベス』)、マリア・ボトー(アルゼンチン出身のスペイン女優)、イバン・ヒロウド・ガラテ(1994~2010までハバナ映画祭ディレクター)、エレナ・ルイス(1997年バルセロナのカルドナ、編集者)、アレハンドラTrolles(1974モンテビデオ、ウルグアイのプロデューサー)の6名です。国名表記なしはスペイン。
◎作品賞金のビスナガ(スペイン)
Verano 1993 カルラ・シモン
*監督&作品紹介は、コチラ⇒2017年2月22日
◎作品賞金のビスナガ(イベロアメリカ)
Últimos días en La Habana フェルナンド・ぺレス(キューバ)
その他、Gas Natural Fenosa観客賞(銀のビスナガ)を受賞
*作品紹介は、コチラ⇒2017年3月8日
◎審査員特別賞(銀のビスナガ)
No sé decir adiós リノ・エスカレラ
その他、審査員スペシャル・メンションを受賞
◎監督賞(銀のビスナガ)
ビクトル・ガビリア La mujer del animal (コロンビア)
◎女優賞(銀のビスナガ)
ナタリエ・ポサ No sé decir adiós
◎男優賞(銀のビスナガ)
レオナルド・スバラグリア El otro hermano(監督:アドリアン・カエタノ、アルゼンチン)
*邦題『キリング・ファミリー 殺し合う一家』の紹介は、コチラ⇒2017年2月20日
「シネ・エスパニョーラ」2週間限定公開中(3月25日~4月7日)
◎助演女優賞(銀のビスナガ)
ガブリエラ・ラモス Últimos días en La Habana(監督:フェルナンド・ぺレス)
◎助演男優賞(銀のビスナガ)
フアン・ディエゴ No sé decir adiós(監督:リノ・エスカレラ)
◎脚本賞(銀のビスナガ)
パブロ・レモン、リノ・エスカレラ No sé decir adiós(監督:リノ・エスカレラ)
◎音楽賞(銀のビスナガ)
パスカル・ゲイニュ Plan de fuga(監督:イニャキ・ドロンソロ)
*邦題『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』の紹介は、コチラ⇒2017年3月4日
「シネ・エスパニョーラ」2週間限定公開中(3月25日~4月7日)
◎撮影賞(デラックス銀のビスナガ)
Walter Carvalho Redemoinho(監督:ホセ・ルイス・ビリャマリン、ブラジル)
◎編集賞(銀のビスナガ)
エチエンヌ・ブサック La mujer del animal(監督:ビクトル・ガビリア、コロンビア)
*ブサックはチロ・ゲーラの『彷徨える河』を手掛けている。
◎審査員スペシャル・メンション
Selfie ビクトル・ガルシア・レオン .
その他、批評審査員特別賞(銀のビスナガ)を受賞。
★以上が長編コンペティションの受賞者。他にANEXOとして、受賞作品に協力した製作会社、テレビ局、関連機関、協力団体などに付属賞が与えられました。
*EL OTRO HERMANO, イスラエル・アドリアン・カエタノ
Rizoma Films (アルゼンチン), Oriental Films (ウルグアイ), MOD Producciones (西) , Gloria Films (仏)
*LA MUJER DEL ANIMAL, ビクトル・ガビリア
Polo a Tierra & Viga Producciones (コロンビア)
*NO SÉ DECIR ADIÓS, リノ・エスカレラ
Lolita Films, Mediaevs, White Leaf Producciones (スペイン)
*PLAN DE FUGA イニャキ・ドロンソロ
Atresmedia Cine, Runaway Films AIE, Lazona Films y Sonora Estudios (スペイン)
*REDEMOINHO ホセ・ルイス・ビジャマリン
Vania Catani (ブラジル)
*SELFIE ビクトル・ガルシア・レオン
Apaches, Gonita, II Acto (スペイン)
*ÚLTIMOS DÍAS EN LA HABANA フェルナンド・ぺレス
ICAIC (キューバ) & Wanda Visión (スペイン)
*VERANO 1993 カルラ・シモン
Inicia Films, Avalon P.C., con el apoyo de Media, ICAA, ICEC, y la participación de TVE y TV3 (西)
★ドキュメンタリー部門の受賞者は以下の通り:
◎ドキュメンタリー賞(長編、銀のビスナガ)
La balada del Oppenheimaer Park フアン・マヌエル・セプルベダ(メキシコ)賞金8.000ユーロ
ドキュメンタリー3作目、ラテンビート2011マイケル・ロウの『うるう年の秘め事』の撮影監督を手掛けている。
◎監督賞(銀のビスナガ)
ダビ・アラティベル Converso(スペイン、61分)
ドキュメンタリー2作目、コンベルソはユダヤ教やイスラム教からキリスト教への改宗者をさし、教会オルガン、家族、調和についてのフィルム。デビュー作は2013年の「Oírse」
◎審査員スペシャル・メンション
Al otro lado del muro パウ・オルティス(メキシコ、67分)
デビュー作、ホンジュラスからメキシコに移民してきた4人兄弟のドキュメンタリー。母親は10年の刑で収監中、幼い兄弟の面倒を見なければならない13歳のロシオと18歳のアレは、厳しい状況を打開するために米国行きを考えている。
◎観客賞(銀のビスナガ)
Donkeyoto チコ・ペレイラ(ドイツ、スペイン、イギリス、スペイン語、86分)
長編第2作目、マノロとロバのゴリオンは西部への旅を計画する。ロッテルダム映画祭2017(1月28日)上映、サンフランシスコ映画祭2017(4月15日)上映予定。
★短編(フィクション、ドキュメンタリー、アニメーション)その他は割愛します。受賞スピーチや時間切れでアップが間に合わなかった作品、例えば脚本賞・女優賞・助演男優賞を受賞したリノ・エスカレラの「No sé decir adiós」など、秋の映画祭を視野に入れて紹介するつもりです。
銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月25日 17:41
ベテラン女優フィオレリャ・ファルトヤノが受賞
★フィオレリャ・ファルトヤノFiorella Faltoyano(本名María Blanca Fiorella Renzi Gil)は、1949年マラガ生れ(父親はガジェゴ、後にビゴのパントン町長になった。母親はマドリード出身)、映画、テレビ、舞台女優。1967年ペドロ・マリオ・エレーロの「Club de solteros」(仮題「独身クラブ」)で映画デビュー、つまり今年は映画との金婚式のお祝いというわけです。半世紀の出演本数は映画・テレドラ、舞台をひっくるめれば大変な本数になります。私生活では最初の結婚相手ホセ・ルイス・タファル・カランデ(製作者)との間に1男、2人の孫がいます(1983離婚)、現在のパートナーはフェルナンド・メンデス=レイテ(1944マドリード)、映画評論家、テレビドラマを手掛ける監督、一時期(1968~81)出身大学バジャドリードで映画理論と映画史の教鞭をとっていました。
(赤絨毯を踏むフェルナンド・メンデス=レイテとフィオレリャ・ファルトヤノ)
★注目を集めた作品は、民主主義移行期に製作されたホセ・ルイス・ガルシの「Asignatura pendiente」(1977、仮題「未合格科目」)のヒロイン役、ホセ・サクリスタンとタッグを組みました。ガルシのデビュー作であり、大ヒット作でもあった。ベッドでの大胆な下着姿が話題になりました。フランコ時代には好ましからざることとして検閲をうけ削除されるケースだったからです。長いキャリアをもちながら受賞歴が少ないのは、活躍時期にはゴヤ賞(1987年から)などもなく、1995年から映画を離れてテレビに軸足を変えたからと思います。スペイン映画芸術科学アカデミー(AACCE)が設立されたのは1986年、ということはAACCEが選考する「金のメダル」も同年から、さらに国民賞に映画部門が加わったのは1980年でした。サンセバスチャン映画祭は国際映画祭ですから、スペイン映画が受賞するのは1970年代は1作、80年代も1作でした。
(ホセ・サクリスタンと下着姿のフィオレリャ、「Asignatura pendiente」から)
★「Asignatura pendiente」の5年後ガルシ監督は、『黄昏の恋』(82)で、初めてスペインにオスカー像をもたらしたのですが、それには出演しませんでした。ガルシはスペイン代表作品監督の常連となり、1994年の「Canción de cuna」が四度の代表作品に選ばれ、今度は主演女優にフィオレリャを抜擢しました。しかし残念ながら落選となりました。前年トゥルエバの『ベルエポック』が受賞したこともあり、元々可能性は少なかったのです。国内の受賞では、1995年シネマ・ライターズ・サークル(スペイン)女優賞を受賞しました。これがノミネートは別として唯一の受賞、ですから今回の銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞は朗報だったに違いありません。1995年エウヘニオ・マルティンの「La sal de la vida」が最後の長編映画となり、現在はシリーズのテレビドラマに出演しています。
(ホセ・ルイス・ガルシの話題作「Canción de cuna」から)
★その他の主な出演映画、マリアノ・オソレスのコメディ・ミュージカル「Cristóbal Colón, de oficio...descubridor」(82)では、カトリック女王イサベルに扮した。カミロ・ホセ・セラの同名小説を映画化したマリオ・カムスの『蜂の巣』(ベルリン映画祭1983グランプリ受賞、「映画講座・スペイン新作映画」で上映)と「Después del sueño」(92)、ホセ・ルイス・クエルダの「Tocande fondo」(93)などがあげられる。2014年には、『Aprobé en septiembre』というタイトルの本をLa Esfera de los Liblosから刊行している。21日に授賞式がありました。
(エッセイ『Aprobé en septiembre』の発売記念日から)
(銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」のガラ)
★序でにそのほかの特別賞ガラのうち、23日にクラウディア・リョサの「エロイ・デ・ラ・イグレシア」賞、24日にはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「レトロスペクティブ」賞も終了しました。残るはクロージングに行われるアントニオ・バンデラスの「名誉金のビスナガ」賞のみになりました。
(クラウディア・リョサ)
(フェルナンド・レオン・デ・アラノア)
第20回マラガ映画祭が開幕*オープニングは『クローズド・バル』 ― 2017年03月21日 14:28
最新のサプライズはアントニオ・バンデラスに「名誉金のビスナガ賞」授与
★特別賞のうち銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞の紹介が残っておりますが(受賞者はマラゲーニャ女優フィオレリャ・ファルトヤノ)、もたもたしているうちに開幕してしまいました。1週間ほど前に「アントニオ・バンデラスに名誉金のビスナガ賞授与」のニュースが飛び込んできました。レトロスペクティブ賞の他にこんな賞あったかしらね。バンデラスはマラガ出身、20代初めに故郷を後にしてからも、第1回映画祭からずっと名誉総裁みたいに本映画祭に尽力してきた。マラガ市の名士、名誉市民でもあるから誰も異存はない。ゴヤ賞2015の栄誉賞受賞のときほどは驚かないでしょう。メインディッシュの授賞式は閉会式とアナウンスされました。離婚後さっそくマラガに新居を購入するなど生れ故郷に軸足を移してきています。
*バンデラスのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2014年6月21日
*バンデラスのゴヤ賞栄誉賞の主な記事は、コチラ⇒2014年11月5日
マラガ映画祭はスペイン映画祭ではなくイベロアメリカ映画祭?
★大西洋を挟んでイベリア半島と中南米大陸が一つになったマラガ映画祭のオープニング作品は、コンペ外のアレックス・デ・ラ・イグレシア『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』、監督以下スタッフやキャストが現地入りしてファンの期待に応えました(日本でも3月25日から2週間限定で公開されます)。今年からラテンアメリカ映画の質向上を願って、二つに分かれていたオフィシャル・セクションの垣根が取り払われました。正式出品23作のうち、コンペティションは17作、スペイン側が9作、ラテンアメリカ側が8作、コンペ外が6作です。
(左から、ハイメ・オルドーネス、セクン・デ・ラ・ロサ、監督、ブランカ・スアレス、
カルメン・マチ、マリオ・カサス、マラガ映画祭2017にて)
★審査委員長にエミリオ・マルティネス=ラサロ、以下パブロ・ベルヘル監督(1963年ビルバオ、『ブランカニエベス』)、マリア・ボトー(アルゼンチン出身のスペイン女優)、イバン・ヒロウド・ガラテ(1994~2010までハバナ映画祭ディレクター)、エレナ・ルイス(1997年バルセロナのカルドナ、編集者)、アレハンドラTrolles(1974モンテビデオ、ウルグアイのプロデューサー)の6名です。
★イスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』も上映されました。主役のレオナルド・スバラグリアのマラガ賞授与式も済んだようです(18日、上映は19日でした)。プレゼンターは母親で女優のロクサナ・ラドンがアルゼンチンからはるばる息子のために馳せつけました。他に「キリング・ファミリー」のダニエル・エンドレル、同じくオフィシャル・セクションにノミネートされているマルティン・オダラのスリラー「Nieves negra」の面々も登壇して、涙、なみだの授賞式だったようです。エンドレルは監督でもあり、今回「El candidato」がノミネーションされている。授賞式の行われるセルバンテス劇場はどうやらアルゼンチン一色だったようです。「Nieves negra」の主役はリカルド・ダリンとスバラグリア、仲の悪い兄弟に扮する。マラガ賞受賞者は海沿いの遊歩道に記念碑を建ててもらえる。写真下は記念碑の前でカメラにおさまるスバラグリア。
(左側が母親ロクサナ・ラドン、トロフィーを手に喜びのスバラグリア)
(自身の記念碑の前で、レオナルド・スバラグリア)
★翌日19日は、シルヴィ・インベールのリカルド・フランコ賞授賞式、20日は『ベルエポック』が「金の映画」に選ばれたフェルナンド・トゥルエバの授賞式がありました。
(シルヴィ・インベール)
(フェルナンド・トゥルエバ)
『ベルエポック』が「金の映画」受賞*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月19日 16:35
フェルナンド・トゥルエバのオスカー受賞作『ベルエポック』
★フェルナンド・トゥルエバのオスカー受賞作『ベルエポック』(1992)が「金の映画」に選ばれました。昨年、『美しき虜』(98)の続編「La reina de España」が公開され、ベルリン映画祭2017のベルリナーレ・スペシャル部門で上映されこと、『ベルエポック』も第43回ベルリン映画祭の正式出品、そして節目の25周年にあたることも受賞理由かもしれない。昨年の「金の映画」は、前年2015年6月に鬼籍入りしたビセンテ・アランダに哀悼の意をこめて、彼の代表作『アマンテス/ 愛人』が受賞しているからです。
★『ベルエポック』は、ホセ・ルイス・ガルシの『黄昏の恋』以来10年ぶりに、スペインに2個目のオスカー像をもたらした。もはや古典映画入りしているが、その活力あふれた、魅力的な語り口で内戦勃発5年前の「ベルエポック」良き時代を語りながら、時として悲劇をも入り込ませている。シュルレアリスムでメランコリックでさえある。本作でトゥルエバは自身の自画像を描いたと評されたが、例えば美に対する厚い尊敬の念、人間の知恵、喜び、寛容さ、そして自由意志である。価値ある生き方とは何か、彼が考えている愛国心が何であるかを語った作品です。
(オスカー像を手にした製作者アンドレス・ビセンテ・ゴメスとフェルナンド・トゥルエバ)
★長編第5作『目覚めの年』(86)で初めてコンビを組んだ、名脚本家ラファエル・アスコナは既に鬼籍入りしており、そのほかにもフェルナンド・フェルナン・ゴメス、アグスティン・ゴンサレスやチュス・ランプレアベなどの名優たちが旅立った。当時若さにあふれていた脱走兵ホルヘ・サンス、ペネロペ・クルス(四女)、アリアドナ・ヒル(次女)などは実人生では父親や母親になり、マリベル・ベルドゥ(三女)はドラマやコメディに出ずっぱり、ミリアム・ディアス・アロカ(長女)はテレドラ出演と、各自キャリアを積んでトゥルエバが予測した通りの活躍をしている。
(美しい4人姉妹に囲まれて幸せいっぱいの脱走兵ホルヘ・サンス)
★『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(12)がラテンビート2013で上映されたとき初の来日を果たしている。2015年の国民賞(映画部門)受賞の折に紹介記事を書いております。ビリー・ワイルダーを映画の神様と尊敬して、オスカー受賞スピーチで「ミスター・ワイルダー、ありがとう」と述べ、後日「もしもし、こちらは神様です」とお茶目な神様からお祝いの電話をもらった。スペインではガルシア・ベルランガを師と仰ぎ、彼の「Plácido」(61)と『死刑執行人』(63)をスペイン映画2大傑作と語っている。ベルランガとトゥルエバの共通項は脚本家のラファエル・アスコナとタッグを組んだことでしょう。
★今年のベルリン映画祭のインタビューでも語っていたことですが、「大切なのは物語を語ること、自分にとって映画を作れることはそれぞれ奇跡に近いのです。それで感謝するのは、特に私のプロデューサー、クリスティナ・ウエテです。年がら年中彼女と格闘しています」。クリスティナ・ウエテとは監督夫人のこと、夫唱婦随の反対とか(笑)。
*『ふたりのアトリエ~』のラテンビートQ&Aの記事は、コチラ⇒2013年10月31日
*国民賞(映画部門)受賞とフィルモグラフィーの記事は、コチラ⇒2015年7月17日
*「La reina de España」の記事は、コチラ⇒2016年2月28日
レトロスペクティブ賞にフェルナンド・レオン*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月18日 10:29
レトロスペクティブ賞はフェルナンド・レオン・デ・アラノア
★レトロスペクティブ賞は貢献賞または栄誉賞の色合いが強い賞、直近では2014年ホセ・サクリスタン、2015年イサベル・コイシェ、昨年がグラシア・ケレヘタ、2年連続で女性監督でした。さて、今年のフェルナンド・レオン・デ・アラノアは、1968年5月マドリード生れの監督、脚本家、製作者。マドリード・コンプルテンセ大学情報科学部卒、テレビドラマの脚本家としてキャリアをスタートさせた。48歳と受賞者としては若いほうかもしれません。マラガ映画祭にエントリーされた映画もなく、個人的には少し意外感がありました。何かしら社会に意義を唱える作家性の強い監督だが、同時に商業映画としての目配りもおろそかにしないバランスの良さ、いわゆる社会の空気が読める柔軟性がある。
*長編第1作「Familia」(1996)は、幸運にも「スペイン映画祭1998」に『ファミリア』の邦題で上映された。この映画祭のラインナップは画期的なものでアルモドバルが面白かった時期の『ライブ・フレッシュ』、失明の危機にあったリカルド・フランコの『エストレーリャ』、モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』など名作揃いだった。そして本映画祭で初めて知った監督がフェルナンド・レオン・デ・アラノアだった。中年の独身男(フアン・ルイス・ガリアルド)が1日だけ理想的な家族を演じる人々を募集して、対価を払って家族ごっこをする。社会制度としての永続的な家族に疑問を呈した。役者もよかったが辛口コメディとして成功した。妻役がアンパロ・ムニョス、十代の娘役になるのが本作がデビュー作となるエレナ・アナヤだった。ゴヤ賞新人監督賞受賞、バジャドリード映画祭では国際映画批評家連盟賞と観客賞を受賞した作品。写真下、和やかなのは疑似家族だから。
*第2作が「Barrio」(98)は、現代のどこの都市でも起こり得るマージナルな地域バリオで暮らす3人の若者群像を描いた。サンセバスチャン映画祭監督賞、ゴヤ賞監督賞と脚本賞を受賞したほか、フォルケ賞、サン・ジョルディ賞、トゥリア賞など、スペインの主だった映画賞を受賞している。
*第3作がハビエル・バルデムを主役に迎えた「Los lunes al sol」(02)、『月曜日にひなたぼっこ』の邦題で「バスクフィルム フェスティバル2003」で上映された。バスクと言ってもスペイン語映画で、主にバスク出身の若い監督特集映画祭の色合いが濃かった。アレックス・デ・ラ・イグレシアが『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』をお披露目かたがた来日した。マドリード出身のフェルナンド・レオンの映画が加わったのは異例で、それは北スペインの造船所閉鎖にともなう労働争議が舞台背景にあり、ヒホン造船所がモデルだった。撮影はヒホンと雰囲気が似通っているガリシアの港湾都市ビゴが選ばれたと言われている。ビゴはルイス・トサールの出身地でもある。ゴヤ賞監督賞を受賞したほか作品賞を含めてバルデムが主演、トサールが助演、ホセ・アンヘル・エヒドが新人と男優賞全てをさらった。さらにアカデミー賞スペイン代表作品にも選ばれるなどした(ノミネーションには至らなかった)。スペイン北部の造船所閉鎖によって失業を余儀なくされた落ちこぼれ中年男たちの群像劇。観客を憂鬱にさせないユーモアを効かせた筋運び、それでいてしっかり怒り、挫折、失望、人生の浮沈を織り込んでいる。デモシーンの実写を取り入れる画面構成もなかなか迫力があった。一番の成功作かもしれない。
(ルイス・トサールとハビエル・バルデム)
*第4作がカンデラ・ペーニャを起用しての「Princesas」(05)、本作で初めてプロデューサーとして参画、主役に初めて女性を据え、二人の女優に友人同士の娼婦を演じさせた。一人はスペインの娼婦、もう一人はドミニカから移民してきた娼婦、女性の一番古い伝統的職業である娼婦、スペインへ押し寄せる移民という問題を取り入れた。二人ともゴヤ賞主演にカンデラ・ペーニャ、新人女優賞にミカエラ・ネバレスが受賞した他、マヌ・チャオがオリジナル歌曲賞を受賞した。
(カンデラ・ペーニャとミカエラ・ネバレス)
*ゴヤ賞に絡まなかったのは第5作「Amador」(10)だけ。第6作は英語で撮った「A Perfect Day」。スペイン語題は「Un dia perfecto」でカンヌ映画祭2015「監督週間」で上映され、ゴヤ賞2016では脚色賞を受賞、プレゼンターだった再婚ホヤホヤのバルガス=リョサからゴヤ胸像を受け取った。本作については紹介記事をアップしています。
*「Un dia perfecto」の紹介記事は、コチラ⇒2015年5月17日
(バルガス=リョサからゴヤ胸像を手渡されて、ゴヤ賞ガラ2016年)
★長編ドキュメンタリーも4作あり、第3作「Invisibles」(07)はイサベル・コイシェやマリアノ・バロッソ以下5監督合作だが、ゴヤ賞2008長編ドキュメンタリー賞を受賞している。寡作ではあるがゴヤ賞との相性がよい監督である。最新ドキュメンタリーは、新党ポデモスを追った「Politica, manual de instrucciones」(16)である。政治的には旗幟鮮明ということもあって評価は分かれるようですが、何はともあれスペイン映画の一つの顔であることには間違いない。運も幸いしているのかもしれませんが彼のような映画も必要だということです。
★コロンビアのメデジン・カルテルの伝説的な麻薬王エスコバルのビオピックを撮るとアナウンスして大分経ちますが、やっと2016年10月クランクインした。1980~90年代のエスコバルをハビエル・バルデム、その愛人のビルヒニア・バジェッホにペネロペ・クルス、両人とも久々のスペイン語映画になります。元ジャーナリストだったビルヒニア・バジェッホの同名回想録“Amando a Pablo, odiando a Escobar”(2007年刊)の映画化。タイトルはズバリ“Escobar”です。今年後半公開の予定ですが、あくまで予定は未定です。これは公開を期待していいでしょう。
(まだ未完成だがポスターは完成している)
エロイ・デ・ラ・イグレシア賞にクラウディア・リョサ*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月16日 16:37
クラウディア・リョサがエロイ・デ・ラ・イグレシア賞を受賞
★前回に続いてマラガ映画祭の特別賞受賞者のご紹介、エロイ・デ・ラ・イグレシア賞受賞のクラウディア・リョサについてはマラガ映画祭2014に長編第3作「No lleres, vuela」がエントリーされた折に少しだけ紹介しました。本作の原題は「Aloft」で英語で撮られた初めての作品、ニコラス・ボルデュクが撮影監督賞を受賞した。リカルド・フランコ賞のシルヴィ・インベールは初めて当ブログ登場のメイクアップ・アーティストです。片仮名表記はこれでOKでしょうか。
◎エロイ・デ・ラ・イグレシア賞
★クラウディア・リョサ Claudia Llosaは、1976年リマ生れ、ペルー出身の監督、脚本家、製作者。伯父にノーベル賞作家で政治家のマリオ・バルガス=リョサ、映画監督のルイス・リョサ、母親パトリシア・ブエノ・リッソは造形アーティスト、エンジニアの父親アレハンドロ・リョサ・ガルシアと、ペルーでは裕福な一族の家庭に生まれる。ニュートン・カレッジを卒業後、リマ大学で映画演出を専攻、続いて1998年アメリカに渡り、ニューヨーク大学やサンダンス・インスティテュートでも学ぶ。同時期にはマドリードの私立学校TAI(Transforming Arts Instituto)のマスター・コースでも映画を学んでいる。しかし生まれ故郷ペルーに軸足をおいて映画を撮っているようです。デビュー作、第2作とも舞台はアンデス、ここが彼女の原点なのかもしれない。
(クラウディア・リョサ)
*2006年デビュー作「Madeinusa」がロッテルダム映画祭で国際映画批評家連盟賞受賞を皮切りに、サンダンス、マル・デル・プラタ、マラガ(ラテンアメリカ部門)、トゥールーズ(同部門)ほか、各映画祭で上映された。リマ映画祭の第1回監督作品賞とCONACINE賞を受賞する。本作は2003年ハバナ映画祭で脚本がプレミアされ脚本賞を受賞、翌2004年カロリーナ財団他の資金援助を受けてアンデスを舞台に撮る。ラテンビート2006で『マデイヌサ』の邦題で上映された。2007年にもカルタヘナ映画祭作品賞を受賞するなど受賞ラッシュは続き、14歳の少女マデイヌサを演じたマガリ・ソリエルは全くの素人だったが、この成功で女優の道に進む決心をした。
(『マデイヌサ』のポスター)
*第2作「La tita asustada」は、再びマガリ・ソリエルを主演に起用、アンデスに吹き荒れたペルー内戦を舞台に恐怖から解放されるまでの若い女性の自立の旅を描いた。デビュー作の成功もあって、ベルリン映画祭2009に正式出品、金熊賞と国際映画批評家連盟賞FIPRESCIを受賞した。続くグアダラハラ、リマ、ボゴタ、ハバナなど各映画祭でも受賞、ゴヤ賞2010イスパノアメリカ部門、オスカー賞外国語映画賞にもノミネートされ、アリエル賞イベロアメリカ部門の作品賞を受賞した。スペイン映画祭2009で『悲しみのミルク』の邦題で上映された。
(金熊賞のトロフィーを手に喜びの監督とマガリ・ソリエル、ベルリン映画祭)
*第3作が上述した「Aloft」です。ジェニファー・コネリー、メラニー・ロラン、キリアン・マーフィーを起用して、今回は母娘ではなく母と息子の関係を描いている。撮影は主にカナダのマニトバで行われた。本作もベルリン映画祭に正式出品、後マラガ、リオ、プサン、サンダンス、トライベッカなど各映画祭で上映された。他に短編「Loxoro」(2011)がベルリン映画祭2012の短編部門のテディ賞を受賞している。マラガ映画祭に縁が深いとはいえ、長編3作品で本賞受賞は珍しいケースかもしれない。
シルヴィ・インベールがリカルド・フランコ賞を受賞
◎リカルド・フランコ賞
★シルヴィ・インベールSylvie Imbertは、メイクアップアーティスト。1995年フランス映画、パトリック・アレサンドランのコメディ「Ainsi soient elles」(仏=西合作、西題「Mujeres a flor de piel」)のメイクアップでキャリアを出発させるが、アーティストは複数だった(アレサンドランは2003年の『赤ちゃんの逆襲』が公開されている)。1996年、一人で担当したのがヘラルド・エレロの「Malena es un nombre de tango」とペドロ・ぺレス・ヒメネス「Mambrú」の2作、続いてアメナバルの『オープン・ユア・アイズ』にメイクとヘアーを担当してゴヤ賞1998にノミネートされた。
(シルヴィ・インベール)
*以後1年に2~3作のペースで仕事をこなし、2008年ホセ・ルイス・クエルダの「Los girasoles ciegos」、アルモドバルの『私が、生きる肌』(11)、コメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』(12)でゴヤ賞を受賞した。他にゴヤ賞受賞はイサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」(15)があり、同作はガウディ賞も受賞した。他にフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ ある彫刻家とモデル』(12)、ベルヘルの第3作「Abracadabra」(17)など。目下はテリー・ギリアムの「The Man Who Killed Don Quixote」(西題「El hombre que mató a Don Quijote」公開2018予定)を担当している。
(初のゴヤ胸像を手にしたインベール、『ブランカニエベス』ゴヤ賞2013授賞式)
★シルヴィ・インベールは、『エレファント・マン』や『エイリアン』、またはデル・トロの『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』のメイクアップを担当したダビ・マルティ、ジャウマ・バラゲロの『REC』のような特殊メイクを得意とするダビ・アンビトのようなタイプではない。しかしメイク・アーティストとしてのテクニックの高評価が受賞につながったようです。
マラガ賞にレオナルド・スバラグリア*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月13日 09:30
一番の大賞であるマラガ賞に『キリング・ファミリー』のスバラグリア
★コンペティション作品紹介前にマラガ映画祭の主な特別賞を簡単に列挙しておきます。スペイン製作とイベロアメリカ諸国製作の垣根が取り払われたこともあるのか、受賞者にアルゼンチンとペルー出身者が選ばれました。二人とも日本での認知度はあるほうだと思います。まずはマラガ賞からご紹介。
*各賞の性格については、コチラ⇒2014年4月7日
◎マラガ賞 レオナルド・スバラグリア(1970年ブエノスアイレス生れ、俳優)
★特別賞のうち一番の大賞が「マラガ賞」、最近の受賞者は2014年マリベル・ベルドゥ、2015年アントニオ・デ・ラ・トーレ、2016年パス・ベガとスペイン勢が受賞しています。最近はスペインを本拠地にアルゼンチンとスペインを行ったり来たりして活躍しているが、アルゼンチン出身のレオナルド・スバラグリアに贈られるのは珍しい。国内外の受賞歴を誇るリカルド・ダリンでさえもらっていないが、スペイン映画出演ではスバラグリアのほうが多い。最近アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』でキャリア紹介をしておりますが、マラガ賞受賞ですから少しばかり補足して再構成します。16歳でデビュー以来トータルで50作を超えます。節目になった作品、受賞した話題作に絞ってのご紹介になります。
(喜びのレオナルド・スバラグリア)
*キャリア&フィルモグラフィー*
★16歳の1986年に『ナイト・オブ・ペンシルズ』(監督エクトル・オリヴェラ)で長編映画デビューを果たす。本作では軍事独裁政権に抵抗する学生の一人に扮した。その後7年間はテレドラ出演が続き、1993年マルセロ・ピニェイロの「Tango feroz: la leyenda de Tanguito」(スペイン合作)に脇役で出演、その演技が監督の目に止まり、2年後の「Caballos salvajes」(ウエルバ映画祭主演男優賞)や「Cenizas del paraiso」(97)出演につながった。当時はピニェイロの若手お気に入り俳優だった。1998年スペインに渡り活躍の場をスペインにも広げる。テレドラ出演と並行して2000年、ふたたびピニェイロの『炎のレクイエム』にエドゥアルド・ノリエガやパブロ・エチャリと出演、「銀のコンドル賞」にノミネートされるなど大成功を収めた。実話に基づいて書かれた小説の映画化、アルゼンチンでは映画より小説のほうが面白いと評されたが、映画も充分堪能できたのではないか。
(札束を燃やすシーンのノリエガとスバラグリア、『炎のレクイエム』から)
★スペイン映画では、2001年フアン・カルロス・フレスナディジョの『10億分の1の男』がヒット、一気に国際舞台に躍り上がった。翌年のゴヤ賞新人男優賞を受賞、監督も新人監督賞を受賞した。日本でも公開され話題を呼んだサスペンス。しばらくスペイン映画出演が多くなる。例えば2002年ヘラルド・ベラの「Deseo」ではセシリア・ロスやレオノル・ワトリングと共演、2003年にはマリア・リポルの『ユートピア』やビセンテ・アランダの『カルメン』など。その後アルゼンチンに戻り、2004年ルイス・プエンソの『娼婦と鯨』(スペイン合作)にアイタナ・サンチェス=ヒホンと、次いで最後のガローテ刑に処せられた実在のサルバドール・プッチ・アンティックにダニエル・ブリュールを迎えて撮った実話、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)では看守役になり、ゴヤ賞助演男優賞にノミネートされた。2007年ゴンサロ・ロペス=ガジェゴの「El rey de la montaña」、2009年ヘラルド・エレロの「El corredor nocturno」、同年マルセロ・ピニェイロのサスペンス群集劇『木曜日の未亡人』では、銀のコンドル賞とスール賞にノミネートされた。
(危険なゲームを強要された男トマスを演じた『10億分の1の男』から)
★2010年以降もアルゼンチンとスペインで活躍、2012年ロドリゴ・コルテスのハリウッド・デビュー作スリラー『レッド・ライト』(米国=西)にロバート・デ・ニーロやシガニー・ウィバーなどの大物俳優と共演、ハリウッド映画に出演したアルゼンチン俳優の一人となった。最近オスカー賞外国語映画賞2015ノミネーションのダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(第3話「エンスト」)他、アナイ・ベルネリのロマンティック・ドラマ「Aire libre」や、マラガ映画祭2017正式出品の『キリング・ファミリー 殺し合う一家』、同正式出品のマルティン・オダラの「Nieve negra」にも出演、ここではリカルド・ダリンと渡り合う。既にアルゼンチンでは公開されており、面白い、いや駄作と観客の評価は真っ二つに分かれている。コメディからサスペンス、シリアスドラマ、イケメンながら汚れ役も厭わない成長株。
(「Nieve negra」のポスターをバックにしたスバラグリア、右側がダリン)
*『キリング・ファミリー』の紹介記事は、コチラ⇒2017年02月20日
*『人生スイッチ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月29日
「Brava」ロセル・アギラルの第2作*マラガ映画祭2017 ― 2017年03月11日 14:40
罪と苦しみから抜け出す出口を模索する女性の物語
★ロセル・アギラルRoser Aguilarは、1971年バルセロナ生れ、監督、脚本家、バルセロナ派に属する。新作「Brava」は長編2作目にあたります。バルセロナ・オーディオビジュアル大学でジャーナリズムを専攻、続いてバルセロナ大学付属のカタルーニャ・シネマ・オーディオビジュアル学校ESCACで監督演出を学ぶ。数編の短編を撮った後、2007年「La mejor de mí」をロッテルダム映画祭に正式出品、ヒロインのマリアン・アルバレスが最優秀女優賞を受賞するなど高い評価を受ける。監督自身も国内のサンジョルディ賞、トゥリア賞、他を受賞している。主な短編、「Cuando te encontré」(1999、14分)、「Ahora no puedo」(2011)は、ガウディ賞2012の短編部門で作品賞、アルカラ・デ・エナーレス短編映画祭ではヒロインのクリスティナ・ブランコが女優賞を受賞した。
*「Brava」* 2016、スペイン
製作:Setmagic Audiovisual / Iberrota Films / TV ON Producciones(カタルーニャTV3)
後援 ICCA / Media Desarrollo / IVAC(バレンシア映画協会)他
監督・脚本:ロセル・アギラル
脚本(共):アレハンドロ・エルナンデス
音楽:ビンセント・バリエレ
撮影:ディエゴ・ドゥスエル
編集:リアナ・アルティガル、フランク・グティエレス
製作者:(エグゼクティブプロデューサー)オリオル・マルコス、パロマ・モラ、他
データ:製作国スペイン、スペイン語、2016年、ドラマ、91分、撮影地バレンシア、本映画祭「オフィシャル・セクション」がプレミア、3月21日上映。
キャスト:ライア・マルル(ジャニーヌ、ジャニネ?)、ブリュノ・トデスキーニ(ピエール)、フランセスク・オレリャ、エミリオ・グティエレス・カボ、ミケル・イグレシアス(ルベン)、セルヒオ・カバリェロ(マルティ)、エンパル・フェレール、マリア・リベラ、他
プロット:母親の死にあいながらもジャニーヌの人生はすべて順調に過ぎていくように思えたが、それもメトロで強盗にあうまでの話だった。以来、歯車が狂って罪の意識と不安に苛まれるようになる。恋人から離れて、内なる苦しみから抜け出そうと父親が暮らしている小さな村を目指して出発する。そこで鉄で彫刻をしている風変わりな男ピエールと出会う。自分の罪と恐れを悟られないように寛いでいるように振舞うが、内実は自己破壊的な悪循環に陥っていた。自身の人生を立て直す唯一つの出口は現実と対峙することだが、果たして痛みを乗り越えて罪を明らかにすることができるだろうか。
(ライア・マルルとブリュノ・トデスキーニ、映画から)
(ライア・マルル、映画から)
★ヒロインのライア・マルルLaia Marullは、1973年バルセロナ生れ、TVドラ、舞台でも活躍。ミゲル・エルモソの「Fugitivas」(00)でゴヤ賞2001新人女優賞を受賞、イシアル・ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』(03)でルイス・トサールとタッグを組んで夫婦役を演じた。本作でゴヤ賞2004に二人揃って主演男優・主演女優賞を受賞、他に作品賞、監督賞、脚本賞、マルルの妹役を演じたカンデラ・ペーニャも助演女優をもらった話題作。他にゴヤ賞助演女優賞を取ったアグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』(02)と出演数が少ないわりには女優がもらえる3賞を獲得している。昨年のマラガ映画祭コンペティション出品のポル・ロドリゲスのブラック・コメディ「Quatretondeta」(16)に出演していた。こちらでより詳しいキャリアをご紹介しております。
*「Quatretondeta」の作品紹介記事は、コチラ⇒2016年4月22日
★ピエール役のブリュノ・トデスキーニBruno Todeschiniは、1962年スイス生まれ。パトリス・シェロー監督のシリアス・ドラマ『ソン・フレール 兄との約束』(03、フランス映画)が公開されている。ベルリン映画祭2003銀熊賞受賞作品。難病に冒され死期の迫った兄と彼を見守る弟の関係、また生と死が描かれた。彼は十数キロ体重を落として兄を演じて話題を呼んだ。
(ブリュノ・トデスキーニ、『ソン・フレール』から)
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