ニューディレクターズ、コロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2023 ⑧2023年08月11日 16:33

     フアン・セバスティアン・ケブラダ「El otro hijo / The Other Son

 

        

 

2)El otro hijo / The Other Son(コロンビア=フランス=アルゼンチン)

  2023年、ドラマ、90分、長編デビュー作

  Foro de Coproducción Europa-América Latina 2020

監督フアン・セバスティアン・ケブラダ(メデジン1987)は監督、脚本家、編集者、製作者。ブエノスアイレスの映画大学で映画製作を学ぶ。バルセロナのカタルーニャ映画視聴覚上級学校 ESCAC 大学院で編集を学んだ。2015年 BAFICI ブエノスアイレス国際インデペンデンス映画祭に、監督、脚本、製作を手掛けた中編「Días extraños」(68分)を正式出品して注目される。短編「La casa del árbol」(1716分)はトロント映画祭に出品された。フィルム編集を多数手がけている。

    

      

             (中編「Días extraños」のポスター)

 

★この度「El otro hijo / The Other Son」で長編デビューを果たした。予期せぬ弟の死に直面して、生き延びるために必要な力を模索するドラマ。兄弟二人が本当は所属していない上流階級の学校で覚える喪失感、監督自身が経験した思春期のトラウマなどが描かれる。既にコロンビアのFDCをセサル・アセベドと受賞している。アセベドは『土と影』がラテンビート2015で上映されたコロンビアの監督。

    

       

           (フアン・セバスティアン・ケブラダ監督)

 

キャスト:ミゲル・ゴンサレス、イローナ・アルマンサ、ジェニー・ナバレテ

ストーリー:フェデリコとその弟シモンの物語。フィエスタでバルコニーから転落したシモンが亡くなる日まで二人はともに人生を生きていた。一方まわりの家族はフェデリコの目前でばらばらに崩壊していった。フェデリコは学校の最後の数週間を普通に送ろうとします。嘆き悲しむことができず、シモンのガールフレンドのラウラに接近していく。彼女に慰めを見出そうとする。コロンビアの階級社会で自分の居場所を探す青年の物語。

 

       

            (フェデリコ役のミゲル・ゴンサレス)

 

★オリソンテス・ラティノス部門が発表になっていますので、ニューディレクターズ部門は2作にして、移行します。


セクション・オフィシアル(コンペ部門)④*マラガ映画祭2023 ⑦2023年03月12日 17:58

13)Rebelión (仮題「反乱」)

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=アメリカ、スペイン語、2022年、伝記、105分、タイトルはジョー・アロヨのシンボリックな曲から採られた。長編映画3作目、ボゴタ映画祭202210月)、タリン・ブラック・ナイト映画祭202211月)、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭20233月)、マラガ映画祭(3月)正式出品、公開ペルー202211

監督紹介ホセ・ルイス・ルヘレス・グラシア、監督、脚本家、製作者。TVシリーズ、映画、コマーシャルなど25年以上のキャリアのある制作会社「Rhayuela Films」設立、長編フィルモグラフィーは、2010年「García」、2015年「Alias María」は、カンヌ映画祭「ある視点」部門でプレミアされ、ハイファ映画祭2015国際部門のカルメル賞、フリボーグ映画祭2016エキュメニカルを受賞、アカデミー賞コロンビア代表作品に選ばれた。新作については「古典的なミュージカルを期待しないでください」と監督。

 

         

      

                               (第2作「Alias María」のポスター)

 

キャスト:ジョン・ナルバエス(ジョー・アロヨ)、マルティン・シーフェルド(ウモ)、アンジー・セペダ(メアリー)、フアン・ミゲル・パエス、グスタボ・ガルシア、エドガー・キハダ、アルマンド・キンタナ、ロジェ・デュグアイ

ストーリー:本作は、コロンビアの歴史上おそらく最も重要な傷つきやすい無名のサルサ歌手ジョー・アロヨが、人生のさまざまな瞬間と空間を超越した旅を切り取っている。音楽の天才、シンガーソングライターであるジョーの音楽とその独特な声は、ステージに収めることができなかった。1970年代のサルサ全盛期のリーダーであるアロヨの音楽への献身、孤独、狂気、さまざまに交錯した感情、混沌が描かれる。

    

   

     

 

     

14Saudade fez morada aqui dentro (英題「Bittersweet Rain」)

データ:製作国ブラジル、2022年、ポルトガル語、字幕上映、ドラマ、107分、長編映画2作目(単独では1作目)、第37回マル・デル・プラタ映画祭2022で作品・監督賞を含む4冠を制した。

監督紹介ハロルド・ボルヘス、監督、脚本家、撮影監督、フィルム編集者。制作会社 Plano3 Filmsのメンバー。ドキュメンタリー「Jonas e o circo sem lona」(15Jonas and the Backyard Circus」)は、IDFAでプレミアされ、トゥールーズ映画祭2019観客賞を含む13冠、長編デビュー作「Filho de Boi」(「Son of Ox」)はエルネスト・モリネロと共同で監督した。釜山、グアダラハラ映画祭に出品され、マラガ映画祭2019ソナシネ部門の銀のビスナガ観客賞を受賞している。

   

       

   (トロフィーを手にしたハロルド・ボルヘス、マル・デル・プラタFF2022にて)

    

     

 (デビュー作「Filho de Boi」のポスター

 

キャスト:ブルーノ・ジェファーソン、アンジェラ・マリア、ロナルディ・ゴメス、テレーナ・フランサ、ウィルマ・マセド、ヘラルド・デ・デウス、ビニシウス・ブスタニ

ストーリー:ブラジル内陸部の小さな町に住んでいる若者は、変性眼疾患のため徐々に視力を失う危険に直面している。視力が衰えるにつれ、片思いだった初恋に混乱し、別の目で人生を見る方法を学ばねばならなくなる。父親のいない15歳の若者の棘のある思春期が描かれる。

 


    
                   (ブルーノ・ジェファーソン、フレームから)

 

                

 

15Sica (仮題「シカ」)

データ:製作国スペイン、2023年、ガリシア語、字幕上映、ドラマ、90分、ベルリン映画祭2023ジェネレーション14 plus でプレミアされた。

   

     

  (左から、ヌリア・プリムス、スビラナ監督、ほか主演者たち、ベルリンFF 2023

 

監督紹介カルラ・スビラナ1972年バルセロナ生れ、監督、脚本家、10年の教師歴。スペイン内戦で反フランコ派の祖父が、1940年死刑に処され、女性3世代の家族の中で育つ。映画ファンの祖母の影響で映像の世界に入る。ドキュメンタリーとフィクションのあいだを行き来した最初のドキュメンタリー「Nadar08、カタルーニャ語)は史実と個人的な記憶についての自伝的要素をもっている。ロッテルダム映画祭で上映され、ガウディ賞2009にノミネートされた。3人の共同監督ドキュメンタリー「Kanimambo」(スペイン語・カタルーニャ語・ポルトガル語)はマラガ映画祭2012で審査員のスペシャル・メンションを受賞している。同「Volar」(12、スペイン語)はセビーリャ・ヨーロッパ映画祭に出品された。短編映画「Atma169分)は、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭、D'A映画祭に出品され、Fiver 17でナショナル・ダンス賞を受賞した。創造性ワークショップで後進を指導している。

    

       

       

              (ドキュメンタリー「Nadar」のカタルーニャ語版ポスター

 

キャスト:タイス・ガルシア・ブランコ(シカ)、ヌリア・プリムス(母親カルメン)、マリア・ビジャベルデ・アメイヘイラス(レダ)、カルラ・ドミンゲス、ルーカス・ピニェイロ(シモン)、マルコ・アントニオ・フロリド・アニョン(スソ)、ロイス・ソアシェSoaxe(エル・ポルトゲス)、マリア・デル・カルメン・ヘステイロ(教師)、ほか多数

  

ストーリー14歳になるシカは、ガリシアのコスタ・ダ・モルテで難破した父親の遺体を海が戻してくれることに取りつかれている。崖に沿って歩いているとき、シカはストームハンターだという15歳の風変わりな少年スソと知り合います。彼女は事故の状況を調査し、苦痛を伴う発見の旅に乗り出します。彼女の目にうつるのは、自分が育った漁村が海の残酷さとアンバランスな自然の増大によって特徴づけられている所であること、それが決して以前のように戻らないということでした。ガリシアの海の沈黙、失ったものへの強迫観念、父親の不在による無力感と悲しみ、夫や父親の死に対する諸々が女性キャラクターの視点で語られる。事実にインスパイアされている。

 

      

      (シカとカルメン)

 

      

              (シカとスソ、フレームから)

   

        

 

16)Tregua(s) (仮題「休戦」)

データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、コメディ・ドラマ、90分、撮影地マドリード、長編デビュー作

監督紹介マリオ・エルナンデス1988年カスティーリャ・ラ・マンチャのアルバセテ生れ、監督、脚本家、戯曲家、舞台演出家。アリカンテのシウダード・デ・ラ・ルス・スタジオで監督の学位を取得する。2015年短編「A los ojos」で監督デビュー、アルバセテのABYCINEの短編映画賞、マドリード市のヤング・クリエーターズ賞を受賞、2016年「Por Sifo / Slow Wine」はバジャドリード映画祭で短編賞を受賞、2017年、難民危機に関連する詩人ミゲル・エルナンデスのオマージュ「Vientos del pueblo Sirio」(20分)をギリシャのレスボス島で撮影、2020年フリオ・コルタサルの作品にインスパイアされた「Salvo el crepúsculo」は、バジャドリード映画祭のSEMINCI Factoryの脚本賞を受賞した。舞台演出家兼戯曲家としても活躍、カラモンテ賞を受賞するなどしている。現在、RNEのラジオ・プログラムの作成者およびコーディネーターです。

 

   

   

(左から、ブルーナ・クシ、監督、サルバ・レイナ、マラガFF2023のフォトコール)

 

キャスト:サルバ・レイナ(エドゥ)、ブルーナ・クシ(アラ)、アブリル・モンテージャ(シルビア)、ホセ・フェルナンデス(ダビ)、マルタ・メンデス(アリシア)

ストーリー:アラとエドゥは、新人の女優、脚本家だった10年間、恋人同士でした。二人の〈公式な〉関係とは別に、一緒にいるときは常にオアシスを見つけています。現在、二人ともそれぞれ別のパートナーと暮らし、かなり深刻な関係になっています。お互いに会わずにいた1年後、映画祭を利用して再会しますが、この切望した〈休戦〉でさえ、彼らの実生活を支配する嘘と郷愁から解放されることはありません。

 

 

 

      

ホライズンズ・ラティノ部門 ③*サンセバスチャン映画祭2022 ⑨2022年08月25日 17:28

           ホライズンズ・ラティノ部門

 

 9)「Carvao / Charcoal (Carbón) 」ブラジル

データ:製作国ブラジル=アルゼンチン、2022年、ポルトガル語・スペイン語、スリラードラマ、107分、脚本カロリナ・マルコヴィッチ、撮影ペペ・メンデス、編集ラウタロ・コラセ、音楽アレハンドロ・Kauderer、製作 & 製作者Cinematografica Superfilmes(ブラジル)Zita Carvalhosaジータ・カルバルホサ / Bionica Films(同)カレン・カスターニョ / Ajimolido Films(アルゼンチン)アレハンドロ・イスラエル。カルロヴィ・ヴァリ映画祭2022正式出品され、トロント映画祭上映後サンセバスチャンFFにやってくる。

トレビア:主任プロデューサーのカルバルホサは、マルコヴィッチの長編2作目「Toll」を手掛けている。また主人公イレネに扮したメイヴ・ジンキングスは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16)でソニア・ブラガ扮するクララの娘を演じた女優。

 

     

 

監督カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)監督、脚本家。短編アニメーション「Edifício Tatuapé Mahal」(1410分)は、サンパウロ短編FFで観客賞、パウリニアFFでゴールデン・ガール・トロフィーを受賞、2018年の実話にインスパイアされた「O Órfao」(16分)は、カンヌFFクィア・パルマ、シネマ・ブラジル大賞、サンパウロFF観客賞他3冠、ハバナFFスペシャル・メンション、ほかビアリッツ、マイアミ、ヒューストン、クィア・リスボア、リオデジャネイロ、SXSWなどの国際映画祭巡りをした。サンセバスチャンは今回が初めてである。宗教、生と死、義務とは何かを風刺的に描いている。

        

                  

               (カロリナ・マルコヴィッチ)

 

キャスト:メイヴ・ジンキングス(女家長イレネ)、セザール・ボルドン(麻薬王ミゲル)、ジャン・コスタ(息子ジャン)、カミラ・マルディラ(ルシアナ)、ロムロ・ブラガ(夫ジャイロ)、ペドロ・ワグネル、ほか

ストーリー2022年ブラジル、サンパウロから遠く離れた田舎町で、木炭工場の傍に住んでいる家族が、謎めいた外国人を受け入れるという提案を承諾する。宿泊客を自称していたが実は麻薬を欲しがっているマフィアだということが分かって、家はたちまち隠れ家に変わってしまった。母親、夫と息子は、農民としてのルーチンは変えないように振舞いながら、この見知らぬ客人と一つ屋根の下の生活を共有することを学ぶことになります。多額の現金と引き換えに単調さから抜け出す方法を提案されたら、人はどうするか。社会風刺を得意とする監督は、木炭産業で生計を立て、結果早死にする人々の厳しい現実を描きながらも、大胆な独創性、鋭いユーモアを込めてスリラードラマを完成させた。

 

     

           (木炭にする木材を運ぶ子供たち、フレームから)

 

 

10)1976」チリ

Ventana Sur Proyecta 2018Cine en Construccion 2022

データ:製作国チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、2022年、スリラードラマ、95分、脚本マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット、撮影ソレダード・ロドリゲス、美術フランシスカ・コレア、編集カミラ・メルカダル、音楽マリア・ポルトゥガル、キャスティング、マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ、衣装ピラール・カルデロン、製作 & 製作者オマール・ズニィガ / Cinestaciónドミンガ・ソトマヨール / アレハンドロ・ガルシア / Wood Producciones アンドレス・ウッド / Magma Cine フアン・パブロ・グリオッタ / ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他、販売Luxbox。カンヌ映画祭2022「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、エルサレム映画祭インターナショナル・シネマ賞受賞(デビュー作に与えられる賞)

   

      

 

監督マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)女優、監督、脚本家、監督歴は数本の短編のあと本作で長編デビュー。女優としてスタート、2003年ゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」でデビュー、ハバナ映画祭で女優賞を受賞するなど好発進、出演本数はTVを含めると30本を超える。2作目アンドレス・ウッドの『マチュカ-僕らと革命-』(04)でチリのアルタソル賞を受賞、アリネ・クッペンハイムと共演している。同監督の「La buena vida」(08)は『サンティアゴの光』の邦題で、ラテンビート2009で上映されている。当ブログでは、アリシア・シェルソンがボラーニョの小説を映画化した「Il futuro」(13、『ネイキッド・ボディ』DVD)で主役を演じた記事をアップしています(コチラ20130823)。

別途詳しい作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーを予定しています。

作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日

 

キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス司祭)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、アマリア・カッサイ(カルメンの娘レオノール)、他多数

ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの司祭が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。

        

     

     (カルメン役のアリネ・クッペンハイムとエリアス役のニコラス・セプルベダ)

   

   

        (パールのネックレスが象徴する裕福な中流階級に属するカルメン)

 

 

11)「Tengo sueños eléctricos」コスタリカ

Ventana Sur Proyecta 2020

データ:製作国ベルギー=フランス=コスタリカ、スペイン語、2022年、ドラマ、102分、Proyecta 2021のタイトルは「Jardín en llamas」。脚本バレンティナ・モーレル。カンヌ映画祭と併催の第61回「批評家週間」正式出品、第75回ロカルノ映画祭に出品され、国際コンペティション部門の監督賞、主演女優賞(ダニエラ・マリン・ナバロ)、主演男優賞(レイナルド・アミアン)の3賞を得た。

 

    

         (トロフィを手にした3人、右端が監督、ロカルノFFにて)

 

監督バレンティナ・モーレル(サンホセ1988)、監督、脚本家。パリに留学後、ベルギーのブリュッセルのINSASで映画制作を学んだ。コスタリカとフランスの二重国籍をもっている。短編「Paul est la」は2017年のカンヌ・シネフォンダシオンの第1席を受賞した。第2作「Lucía en el limbo」(1920分)はコスタリカに戻って、スペイン語で撮った。体と心の変化に悩む10代の少女の物語、カンヌ映画祭と併催の第58回「批評家週間」に出品されたほか、トロント、メルボルンなど国際短編映画祭に出品されている。長編デビュー作「Tengo sueños eléctricos」は、第61回「批評家週間」や、ロカルノ映画祭に出品されている。監督はCineuropaのインタビューに「私は父娘関係を探求する映画をそれほど多く見たことがなかったので、それを描こうと思いました」と製作動機を語っている。「これは少女が大人になる軌跡を描いたものではなく、自分の周囲に大人がいないことに気づいた少女の軌跡です」と。また麻薬関連の物語や魔術的リアリズムをテーマにした異国情緒を避けたかったとも語っている。芸術家であった両親の生き方からインスピレーションを得たようです。

    

    

           (バレンティナ・モーレル、ロカルノFFにて)

 

キャスト:レイナルド・アミアン・グティエレス(エバの父親)、ダニエラ・マリン・ナバロ(エバ)、ビビアン・ロドリゲス、アドリアナ・カストロ・ガルシア

ストーリー:エバは16歳、母親と妹と猫と一緒に暮らしている。しかし引き離された父親のところへ引っ越したいと思っている。母親が離婚以来混乱して、家を改装したがったり、猫を邪険にしたりすることにエバは我慢できない。ここを出て、猫のように混乱して第二の青春時代を生きている父親と暮らしたい。アーティストになりたい、愛を見つけたいという望みをもって再び接触しようとする。しかし、泳ぎを知らない人が大洋を横断するように、エバもまた何も知らずに父親の暴力を受け継ぎ苦しむことになるだろう。彼にしがみつき、十代の生活の優しさと繊細さのバランスをとろうとしています。思春期が必ずしも黄金時代ではないことに気づいた少女の肖像画。

 

       

                      (エバ役のダニエラ・マリン・ナバロ)

 

     

      (ダニエラ・マリン・ナバロとレイナルド・アミアン・グティエレス)

 

 

12)「La jauría」コロンビア

データ:製作国フランス=コロンビア、スペイン語、2022年、ドラマ、86分、脚本アンドレス・ラミレス・プリド、音楽ピエール・デブラ、撮影バルタサル・ラボ、編集Julie Duclaux、ジュリエッタ・ケンプ、プロダクション・デザイン、ジョハナ・アグデロ・スサ、美術ダニエル・リンコン、ジョハナ・アグデロ・スサ、製作 Alta Rocca Filmsフランス / Valiente Graciaコロンビア / Micro Climat Studios フランス、 製作者ジャン=エティエンヌ・ブラット、ルー・シコトー、アンドレス・ラミレス・プリド。配給Pyramide International

カンヌ映画祭2022「批評家週間」グランプリとSACD賞受賞、エルサレム映画祭2022特別賞受賞、ニューホライズンズ映画祭(ポーランド)、トロント映画祭出品

   

     

 

監督アンドレス・ラミレス・プリド(ボゴタ1989)監督、脚本家、製作者。本作はトゥールーズのCine en Construccionに選ばれた長編デビュー作。ティーンエイジャーの少年少女をテーマにした短編「Mirar hacia el sol」(1317分)、ベルリン映画祭2016ジェネレーション14 plusにノミネートされ、ビアリッツ・ラテンアメリカFF、釜山FF、カイロFFなどで短編作品賞を受賞した「El Edén」(1619分)、カンヌ映画祭2017短編部門にノミネートされた「Damiana」(1715分)を撮っている。

 

キャスト:ジョジャン・エステバン・ヒメネス(エリウ)、マイコル・アンドレス・ヒメネス(エル・モノ)、ミゲル・ビエラ(セラピストのアルバロ)、ディエゴ・リンコン(看守ゴドイ)、カルロス・スティーブン・ブランコ、リカルド・アルベルト・パラ、マルレイダ・ソト、ほか

ストーリー:エリウは、コロンビアの密林の奥深くにある未成年者リハビリセンターに収監され、親友エル・モノと犯した殺人の罪を贖っている。ある日、エル・モノが同じセンターに移送されてくる。若者たちは彼らの犯罪を復元し、遠ざかりたい過去と直面しなければならないだろう。セラピーや強制労働の最中、エリウは人間性の暗闇に対峙し、あまりに遅すぎるが以前の生活に戻りたいと努めるだろう。暴力の渦に酔いしれ閉じ込められている、コロンビアの農村出の7人の青年群像。

 

    

(エリウ役のジョジャン・エステバン・ヒメネス)

    

  

    (センターの本拠地である遺棄された邸宅に監禁されている青年たち)

 

 

★以上12作がホライズンズ・ラティノ部門にノミネートされた作品です。セクション・オフィシアルは16作中、女性監督が2人とアンバランスでしたが、こちらは半分の6監督、賞に絡めば映画祭上映もありかと期待しています。

  

 

(カロリナ・マルコヴィッチ、マヌエラ・マルテッリ、バレンティナ・モーレル、

 アンドレス・ラミレス・プリド)


*追加情報:第35回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)でアンドレス・ラミレス・プリドのデビュー作が『ラ・ハウリア』として上映決定。

 

ホライズンズ・ラティノ部門②*サンセバスチャン映画祭2022 ⑧2022年08月22日 13:43

                         ホライズンズ・ラティノ部門

 

5)Un varón」コロンビア

WIP Latam 2021作品

データ:製作国コロンビア=フランス=オランダ=ドイツ、2022年、スペイン語、ドラマ、81分、製作Medio de Contención Producciones コロンビア/ Black Forest Filmsドイツ / Fortuna Filmsオランダ / In Vivo Films フランス/ RTVC Play 他、脚本ファビアン・エルナンデス、撮影ソフィア・オッジョーニ、音響イサベル・トレス他、音楽マイク&ファビアン・クルツァー、編集エステバン・ムニョス、プロダクション・デザイン、フアン・ダビ・ベルナル、製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、クレア・シャルル=ジェルヴェ、他。撮影地ボゴタ。カンヌ映画祭2022「監督週間」(英題「A Male」)でプレミア、グアダラハラ映画祭インターナショナル部門出品、

 

監督ファビアン・エルナンデス(ボゴタ1985)監督、脚本家、公立学校で映画の教鞭をとる。本作は長編デビュー作。2015年、制作会社Niquel Films 設立、自身の短編「Mala maña15)、「Tras la montña」(16)、「Golpe y censura」(18)、「Las ánimas」(20)を撮る。監督「わたしの作品は、コロンビアの他の映画とはアプローチの仕方が異なり、より深いです。人々や地域を尊重しています」と語っている。

 

     

          (カンヌで使用された英題「A Male」のポスター)

 

キャスト:ディラン・フェリペ・ラミレス(カルロス)

ストーリー:カルロスはボゴタの中心街にある青少年の保護施設に住んでいる。クリスマスには家族と一緒に過ごしたいと切望している。休暇に向けて施設を出ると、カルロスは最強のアルファ・マッチョの法則が支配するバリオの暴力に向き合うことになります。また彼は、自分がそういう人物になれることを証明しなければなりません。彼の内面はこれらの男らしさと矛盾していますが、ここで生き延びるためには決心しなければなりません。カルロスの心はこの狭間でぶつかり合っています。自分の感受性、脆弱性を認め、本当の男らしさとは何かを求めている。

 

      

     

        

      

       (路上で銃の取り扱い方を伝授されるカルロス、フレームから)

 

 

6)Dos estaciones」メキシコ

Foro de Coproducción Europa-América Laten 2019  WIP Latam 2021作品 

データ:製作国メキシコ=フランス=アメリカ、2022年、スペイン語、ドラマ、99分、脚本フアン・パブロ・ゴンサレス、アナ・イサベル・フェルナンデス、イラナ・コールマン、音楽カルミナ・エスコバル、撮影ヘラルド・ゲーラ、編集フアン・パブロ・ゴンサレス、リビア・セルパ、製作者イラナ・コールマン、ブルナ・ハダッド、ジェイミー・ゴンサルベス他、製作In Vivo Filmsフランス / Sin Sitio Cine、配給Luxboxサンダンス映画祭ワールド・シネマ部門でプレミア、主役テレサ・サンチェスが審査員特別賞を受賞、その他、ボストン・インディペンデントFF審査員大賞、ロスアンゼルス・アウトフェス審査員大賞、サンディエゴ・ラティノ、ヒューストン・ラティノ、シカゴ・ラティノなど映画祭出品多数。テレサ・サンチェスは、有望な若手監督ニコラス・ペレダの「Minotauro」(15)、「Fauna」(20)などの常連です。

     

      

 

監督フアン・パブロ・ゴンサレス(ハリスコ1984)監督、脚本家、本作は長編デビュー作、短編デビュー作「The Solitude of Memory」(14)はモレリア映画祭でプレミアされた。「Las nubes」(17)、瞑想的なスタイルを確立したと評価されたドキュメンタリー「Caballerango」(18)他。デビュー作のフィクションの感性とノンフィクションの要素の融合は、前作のドキュメンタリーの手法を受け継いでいるようです。

 

キャスト:テレサ・サンチェス(マリア・ガルシア)、ラファエラ・フエンテス(ラファエラ)、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、タティン・ベラ(トランスジェンダーの美容師タティン)

ストーリー:ロス・アルトス・デ・ハリスコにある伝統的なテキーラ工場の相続人であるセニョーラ・マリアは、外国企業の進出が強まる市場で受け継いだ工場の存続に努力しています。彼女は新しい管理者にラファエラを雇い、危機を乗り越えようと情熱を傾けている。しかし、長びく大災害と予期せぬ洪水がプランテーションに取り返しのつかない損害を与えたとき、マリアは地域コミュニティの富と誇りを救うため、彼女が手にしているすべてをかけて対応せざるを得なくなる。マッチョ文化が長いあいだ支配されてきた場所にも、社会的な変化のいくつかが語られる。

 

       

      

         (断髪したセニョーラ・マリアの目、フレームから)

 

 

7)「Mi país imaginario / My Imaginary Country」チリ

オープニング作品

データ:製作国チリ、2022年、スペイン語、ドキュメンタリー、83分、撮影サミュエル・ラフ、編集ローレンス・マンハイマー、音楽Miranda & Tobal、製作者レナーテ・ザクセアレクサンドラ・ガルビス、製作Arte France Cinéma / Atacama Productions、配給Market Chile、販売 Pyramide International。カンヌ映画祭2022コンペティション部門セッション・スペシャル特別上映、エルサレム映画祭(ベスト・ドキュメンタリー賞)を経て、サンセバスチャン映画祭上映となった。フランスでは8月にリミテッド上映だがチケット売れ切れの盛況だったが、チリのサンティアゴでのプレミア上映は、観客全員がマスクを着用、十数人を超えることはなかったという。

    

      

 (製作者レナーテ・ザクセ、監督、製作者アレクサンドラ・ガルビス、カンヌFF2022にて)

 

監督パトリシオ・グスマン(サンティアゴ1941)は、監督、脚本家、フィルム編集、撮影監督、ドキュメンタリー作家、現在はパリ在住。キャリア&フィルモグラフィー紹介、特に「チリ三部作」は以下にアップしています。本祭との関りは、2015年ホライズンズ・ラティノ部門に『真珠のボタン』、2019年に『夢のアンデス』(「La cordillera de los Suños」)が正式出品されています。

『光のノスタルジア』(10)の紹介記事は、コチラ20151111

『真珠のボタン』(15)の紹介記事は、コチラ20150226同年1116

『夢のアンデス』(19)の紹介記事は、コチラ20190515

   

      

 

主な女性出演者:女優で劇作家ノナ・フェルナンデス、撮影監督ニコル・クラムジャーナリストのモニカ・ゴンサレス、政治学者クラウディア・ハイス、チェス競技者ダマリス・アバルカ、元憲法制定会議議長エリサ・ロンコンほか多数

解説:「201910月、予想外の革命、社会的激動、150万人の民衆がサンティアゴの街頭で、もっとデモクラシーな社会、誇りのもてるより良い生活、より良い教育と医療制度、そして新しい憲法を要求してデモ行進をしました。チリはかつての記憶を取り戻したのです。1973年の学生闘争以来、私が待ち望んでいた出来事が遂に実現したのです」と語ったグスマンは、抗議行動を記録するために、在住しているフランスからチリに撮影クルーを組織しました。1年後、監督はインタビューを実施し、新憲法のための国民投票を撮影するため故国に戻ってきました。半世紀の間の時代の変化を体験した監督は、新作では著名な女性作家、ジャーナリスト、シネアストなどの視点を多く取り入れました。海外での評価は高かったが、故国では厳しかったようです。内からと外からの視点は違うということでしょうか。

賞には絡まないと思いますが、いずれ詳しい紹介記事を予定しています。

    

     

        (闘いを決心した目出し帽着用の20代の女性、フレームから)

    

     

      (「20191018日バンザイ」のステッカーを掲げるデモ参加者)

 

 

8)「Vicenta B.」キューバ

WIP Latam 2021  EGEDAプラチナ賞受賞作品

データ:製作国キューバ=フランス=米国=コロンビア=ノルウェー、2022年、スペイン語、ドラマ、75分、脚本カルロス・レチュガ、ファビアン・スアレス、撮影デニセ・ゲーラ、編集ジョアンナ・モンテロ、音楽サンティアゴ・バルボサ、ハイディ・ミラネス、音響ベリア・ディアス、製作・製作者Cacha Films(キューバ)クラウディア・カルビーニョ、ROMEO(コロンビア)コンスエロ・カスティーリョ、Promenades Films(フランス)サミュエル・ショーヴァン、Dag Hoel Filmproduksjon(ノルウェー)ダグ・ホエル、販売Habanero(ブラジル)。トロント映画祭2022正式出品。

    

     

 

監督カルロス・レチュガ(ハバナ1983)監督、脚本家、本作は長編3作目、WIP Latam 2021 EGEDA(視聴覚著作権管理協会)プラチア賞受賞作品。また第2作目「Santa y Andrés」は2016年のホライズンズ・ラティノ部門に選出されている。本作は第38回ハバナ映画祭で上映するよう選出されていたにも拘らず、ICAIC のお気に召さず拒否された。当ブログで作品紹介記事をアップしています。

Santa y Andrés」の作品、監督キャリア紹介は、コチラ20160827

 

      

    WIP Latam 2021 EGEDAプラチア賞、サンセバスティアンFF2021授賞式にて)


監督によると「ビセンタは、孤独な母親が多い国の物語です。現在キューバには考え方が違うという理由だけで多くの若者が投獄されています」と、昨年711日に同時多発的に起きた大規模な抗議デモで拘束された人々の脱出劇について言及した。またハバネロ・フィルム・セールスのパートナーであるパトリシア・マルティンは、本作のように「政治について明確に語っていない場合でも、根本的に政治的です」と述べている。

 

キャスト:リネット・エルナンデス・バルデス(ビセンタ・ブラボ)、ミレヤ・チャップマン、Aimee Despaigne、アナ・フラビア・ラモス、ペドロ・マルティネス

ストーリー:ビセンタ・ブラボは、人の運勢をカードで占ったり将来を洞察できる特殊な才能をもっているサンテラである。毎日、悩みを抱えた人々が解決を求めてやってくる憩いの場になっている。ビセンタは一人息子とは上手くやっていたが、それもこれも彼がキューバを出たいと決心するまでのことでした。これがすべての崩壊の始りだった。自分のまわりで何が起きているのか、解決の糸口が見つからないまま危機に陥ってしまう。天賦の贈り物を失ったビセンタは、誰もが信仰を失ったように思われる国の内面への旅に出発するだろう。黒人や貧しい女性の実存が脅かされるとどうなるか、魂の探求、信仰の危機、家族の孤立に光が当てられている。

     

   

 

                (フレームから)

 

 

   

(左から、ファビアン・エルナンデス、フアン・パブロ・ゴンサレス、パトリシオ・グスマン、カルロス・レチュガ)


セクション・オフィシアル追加作品*サンセバスチャン映画祭2022 ⑤2022年08月09日 16:27

          70回セクション・オフィシアル追加作品

   

★セクション・オフィシアルの追加4作、2017年の『家族のように』以来、久々の登場となったアルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El suplente / The Substitute」、カンヌ・シネフォンダシオン・レジデンスに選ばれて製作したアメリカのマリアン・マタイアスのデビュー作「Runner」、ポルトガルのマルコ・マルティンスがイギリスを舞台にポルトガル出稼ぎ労働者をテーマにした「Great Yarmouth-Provisional Figures」、コロンビアのラウラ・モラがメデジンの10代のアマチュア5人を起用して撮った第2作目「Los reyes del mundo / The Kings of the World」、以上4作のご紹介。

         

9)El suplente / The Substitute」 アルゼンチン

ヨーロッパ-ラテンアメリカ共同製作2019 

監督:ディエゴ・レルマン(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、製作者、舞台監督。新作は6作目になる。本祭との関りは、2014年、ホライズンズ・ラティノ部門に4作目「Refugiado」がノミネート、2017年、5作目となる「Una especie de Familia」がコンペティション部門に正式出品され、新作でも共同執筆者であるマリア・メイラと脚本賞を受賞した。ラテンビート2017で『家族のように』の邦題で上映されている。2010年、3作目の「La mirada invisible」が国際東京映画祭で『隠れた瞳』として上映された折り、ヒロインのフリエタ・シルベルベルクと来日している。

 

データ:製作国アルゼンチン=伊=仏=西=メキシコ、スペイン語、ドラマ、110分、脚本マリア・メイラ、レルマン監督、ルチアナ・デ・メロ、フアン・ベラ、製作Arcadiaスペイン / Bord Cadre Films / El Campo Cine アルゼンチン/ Esperanto Kinoメキシコ / Pimienta Filma / Vivo Filmイタリア、製作者ニコラス・アブル(エグゼクティブ)、ディエゴ・レルマン、他多数、撮影ヴォイテク・スタロン、編集アレハンドロ・ブロダーソンBrodersohn、美術マルコス・ペドロソ、主要スタッフは前作と同じメンバーが多い。トロント映画祭202298日~18日)でワールドプレミアム。

 

キャスト:フアン・ミヌヒン(ルシオ)、アルフレッド・カストロ(エル・チレノ)、バルバラ・レニー(マリエラ)、マリア・メルリノ(クララ)、レナータ・レルマン(ルシオの娘ソル)、リタ・コルテセ(アマリア)、他

ストーリー:ルシオは名門ブエノスアイレス大学の文学教授ですが、このアカデミックな生活に倦んでいる。自分の生れ育ったブエノスアイレスのバリオの学校で自分の知識を活用させたいと思っている。彼は復讐のため地域の麻薬組織のボスに追いまわされている学生ディランを救おうとして事件に巻き込まれていく。

別途に作品紹介を予定しています。

 

  

                  (ルシオ役のフアン・ミヌヒン、フレームから)

 

   

         (フアン・ミヌヒン、監督、バルバラ・レニー)

 

 

10)「Runner」アメリカ

監督マリアン・マタイアス Marian Mathias(シカゴ1988)監督、脚本家、デビュー作。ニューヨークのブルックリン在住。カンヌ・シネフォンダシオン・レジデンス2018に選出されたほか、トリノ・ヒューチャーラボ201950.000ユーロ)、ベネチア映画祭プロダクション・ブリッジ・プログラム2020、ニューヨーク芸術財団などの資金援助を受けて製作されている。

データ:製作国アメリカ=ドイツ=フランス、2022年、英語、ドラマ、製作 Killjoy Films ドイツ / Man Alive アメリカ / Easy Riders フランス、脚本マリアン・マタイアス、撮影ジョモ・フレイ、製作者ジョイ・ヨルゲンセン、音楽Para One、キャスティングはケイト・アントニート、衣装スージー・フォード、撮影地ミシシッピー、イリノイ。トロント映画祭ディスカバリー部門でプレミアされ、ヨーロッパは本祭がプレミアとなる。

 

     

      (製作者ジョイ・ヨルゲンセンとマタイアス監督、トリノ・ラボ2019

 

キャスト:ハンナ・シラー(ハース)、ダレン・ホーレ(ウィル)、ジーン・ジョーンズ、ジョナサン・アイズリー

ストーリー18歳になるハースは、ミズリー州の孤立した町で父親に育てられた。突然父親が亡くなり一人残された。ミシシッピー川沿いの生れ故郷に埋葬して欲しいという父親のかつての願いを叶えるため出立する。厳しい気候や不景気と闘っているコミュニティで芸術的な魂を持っているウィルと出会う。彼は家族を養うため遠く離れた土地から出稼ぎに来ていた。彼はハースに引き寄せられ、彼女はウィルに引き寄せられる。彼はハースに生きることを教え、彼女はウィルに感じることを教え、お互いを発見します。ハースの愛と喪失、ふたりの友情と別れが語られる。

   

         

              (ハースとウィル、フレームから)

 

 

11)「Great Yarmouth-Provisional Figures」ポルトガル マルティンス?

監督マルコ・マルティンス Marco Martins (リスボン1972)監督、脚本家。本祭との関りは今回が初めてだが、2005年製作の「Alice」がカンヌ映画祭「ある視点」部門の作品賞を受賞した他、ラス・パルマスFF(新人監督)、マル・デル・プラタFF(監督・FIPRESCI)、ポルトガルのゴールデン・グローブ賞などを受賞している。他ベネチアFFのオリゾンティ部門にノミネートされた「Sao Jorge」(16)では、新作でも主演しているヌノ・ロペスが男優賞を受賞、ほかに「How to Draw a Perfect Circle」(09)が代表作。

 

    

     (中央が監督、右ヌノ・ロペス、第73回ベネチア映画祭フォトコールにて)

 

データ:製作ポルトガル=フランス=イギリス、ポルトガル語・英語、2022年、ドラマ、113分。製作Damned Films / Les Films de IApres-Midi / Uma Pedra no Sapato、脚本リカルド・アドルフォと監督の共同執筆、製作者カミラ・ホドル、フィリパ・レイス、(エグゼクティブ)イアン・ハッチンソン、サスキア・トーマスほか、撮影ジョアン・リベイロ、衣装イザベル・カルモナ、撮影地イギリスのグレート・ヤーマス

 

キャスト:ベアトリス・バタルダ(タニア)、ヌノ・ロペス、クリス・ヒッチェン、ボブ・エリオット、ヴィクトル・ローレンソ、リタ・カバソ、ロメウ・ルナ、ピーター・コールドフィールド(ジョー)、ウゴ・ベンテス(カルドソ)、アキレス・Fuzier(ロマの少年)、セリア・ウィリアムズ(看護師)、ほか

 

ストーリー201910月、ブレグジットの3ヵ月前、英国ノーフォーク州グレート・ヤーマスに何百人ものポルトガル人出稼ぎ労働者が、地元の七面鳥工場での仕事を求めて押しよせてきた。タニアはこれらの養鶏場で働いていたが、現在はイギリス人のホテルの経営者と結婚している。彼女はポルトガルの労働者にとって頼りになる人だったが、今では英国の市民権も取り、夫所有の使われていないホテルを高齢者向け施設に改装して、このやりがいのない仕事を辞めたいと夢見ていた。

 

     

                (フレームから)

 

 

12)「Los reyes del mundo / The Kings of the World」 コロンビア

監督ラウラ・モラ(メデジン1981)は監督、脚本家。新作は第2作目。メルボルン・フィルムスクールRMITで映画制作と監督を専攻する。本祭との関りは、2017年ニューディレクターズ部門に出品されたデビュー作「Matar a Jesús / Killing Jesús」がクチャバンク賞スペシャル・メンション、ユース賞、Fedeora 賞、SIGNIS 賞を受賞している。2002年に殺害された父親の実体験から構想された力作。カイロ映画祭で銀のピラミッド監督賞以下、コロンビアのマコンド賞、カルタヘナFF観客賞、フェニックス賞、シカゴ、パナマ、パーム・スプリングス、各映画祭受賞歴多数。他にTVシリーズ「Pablo Escobar: El Patrón del Mal」(12120話のうち83話を監督する。これは『パブロ・エスコバル 悪魔に守られた男』の邦題でNetflix 配信されている。

新作はプロフェッショナルな女性スタッフの協力と、演技経験のないアマチュアの15歳から22歳の若者5人とのトークを重ねながらクランクインできた。モラ監督は「この映画は男らしさを反映した映画ですが、撮影、録音以外は女性が手掛けています」と。本祭プレミアが決定した折りには「遂に映画をリリースできて、とても嬉しいです。非常に長く厳しいプロセスでしたから。それにサンセバスチャンの公式コンペティションで、私たちが深く尊敬している監督たちに囲まれて初演できることを光栄に思います」と語っている。

 

    

             (新作について語るラウラ・モラ)

 

データ:製作国コロンビア=ルクセンブルク=フランス=メキシコ=ノルウェー、スペイン語、2022年、ドラマ、脚本は『夏の鳥』(18)の脚本を執筆したマリア・カミラ・アリアスと監督との共同執筆、製作 Ciudad Lunar Productions / La Selva Cine、製作者は『彷徨える河』(15)のプロデューサー、『夏の鳥』の監督兼製作者のクリスティナ・ガジェゴと、TVシリーズを数多く手掛けているミルランダ・トーレス資金提供メデジン市。撮影地メデジン、配給 Film Factory Entertainment、公開コロンビア106

キャスト:カルロス・アンドレス・カスタニェダ、ダビッドソン・アンドレス・フロレス、ブライアン・スティーブン・アセベド、クリスティアン・カミロ・ダビ・モラ

 

   

 

  (5人の王たち、フレームから)

 

ストーリー:メデジンのストリートチルドレン、ラー、クレブロ、セレ、ウィニー、ナノの5人の若者の不服従、友情、誇りについての物語。5人の王たちには王国も法律も家族もなく、本当の名前すら知らない。最年長のラーは、かつて民兵組織が祖母から押収した土地に関する政府からの手紙を受け取った。彼と仲間は約束の地を求めて旅の準備に着手する。破壊的な物語は荒々しいが深遠なグループを通して現実と妄想が交錯する。すべてが生じた無に向かっての旅が語られる。


 

       

(左からディエゴ・レルマン、マリアン・マタイアス、マルコ・マルティンス、ラウラ・モラ)

フェルナンド・トゥルエバの『あなたと過ごした日に』劇場公開2022年07月28日 17:09

      コロンビアのエクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説の映画化

 

      

 

★当ブログでは原題の「El olvido que seremos」で紹介していたコロンビア映画が邦題『あなたと過ごした日に』で劇場公開されています。アンティオキアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説 El olvido que seremos の映画化、製作はコロンビアのカラコルTV(副社長ダゴ・ガルシア)だが、監督にビリー・ワイルダーを師と仰ぐフェルナンド・トゥルエバ、作家の父親エクトル・アバド・ゴメスハビエル・カマラ、脚色に監督の実弟ダビ・トゥルエバ、編集にトゥルエバ映画を数多く手掛けているマルタ・ベラスコなどスペインサイドが受けもった。キャストはカマラ以外オールコロンビアという合作映画。1987年、メデジンの中心街で私設軍隊パラミリタールの凶弾に倒れた、医師で国内外の人権擁護に尽力したアバド・ゴメスの生と死が描かれている。

   

       

            (作家エクトル・アバド・ファシオリンセ)

 

★おそらく邦題には苦労したと思われますが、『あなたと過ごした日に』では味もそっけもない。原題はホルヘ・ルイス・ボルヘスのソネットAqui, hoy の冒頭の1行目「Ya somos el olvido que seremos」から採られている強いて訳せば「我らは既に忘れ去られている」か。知人友人に贈る詩集として300部限定で出版されたものです。小説刊行後にその存在を疑問視する事態になった経緯があり、それが活かされなかったのが残念です。人間は何でも直ぐ忘れてしまうのですが、邦題もこれではいずれ忘却の彼方に消えてしまうでしょう。

 

★本作はカンヌ映画祭2020コンペティション部門に選ばれた作品でしたが、カンヌが対面イベントの開催を見送ったため、サンセバスチャン映画祭でプレミアされた。セクション・オフィシアルでもアウト・オブ・コンペティション上映になったのは、既にコロンビアで公開されていたことがあった。クロージング作品に選ばれた。オンライン上映となったラテンビート映画祭2020では、Forgotten We'll Beの英題でオープニング作品として唯一つ新宿バルト9での特別上映でした。またゴヤ賞2021のイベロアメリカ映画賞にコロンビアを代表してノミネートされ、結果受賞しました。本作の公式サイトは、主人公エクトル・アバド・ゴメス以下、スタッフ陣紹介も含めて非常に充実しています。当時のコロンビアの時代背景が知りたい方にお薦めです。

   

    

  (トゥルエバ監督とハビエル・カマラ、サンセバスチャン映画祭2020、フォトコール)

 

作品紹介、作家紹介、製作余話などの記事は、コチラ20200614

サンセバスチャン映画祭2020の記事は、コチラ20201010

ラテンビート2020の特別上映の記事は、コチラ20201023

ゴヤ賞2021の授賞式の記事は、コチラ20210308

 

『あなたと過ごした日に』公開

東京都写真美術館ホール(恵比寿)、2022720日~、全国順次公開


シモン・メサ・ソトの「Amparo」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑭2021年08月23日 11:22

     2弾――コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作「Amparo

 

     

 

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介2作目は、コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作Amparoです。カンヌ映画祭2014短編部門のパルムドール受賞作Leidiに続いて、2016年にMadreがノミネート、長編が待たれていました。1986年アンティオキア県都メデジン生れ、アンティオキア大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、後にロンドン・フィルム・スクールの奨学金を貰い映画製作の修士号を取得しています。パルムドール受賞作は同スクールの卒業制作作品だった。短編2作とキャリア&フィルモグラフィーは以下の通り:

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

Madre」の作品紹介は、コチラ20160512

 

       

             (シモン・メサ・ソト監督)

 

 Amparo

製作:FDC Proimagenea Colombia / Antioquia Film Commission /

   Swedish Film Institute / Goethe Institut Bogota / Magin Comunicaciones

監督・脚本:シモン・メサ・ソト

音楽:ベネディクト・シーファー

撮影:フアン・サルミエント・G

編集:リカルド・サライバ

キャスティング:ジョン・ベドヤ

衣装デザイン:フリアン・グリハルバ

メイクアップ:フアニータ・サンタマリア

プロダクション・デザイン:マルセラ・ゴメス・モントーヤ

録音:テッド・クロトキエフスキー Krotkiewski、カルロス・アルシラ、ホルヘ・レンドン

製作者:フアン・サルミエント・G、シモン・メサ・ソト、(エグゼクティブ)マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、エクトル・ウリョケ、(共同)マルティン・エルディエス、ダビ・エルディエス、ほか

 

データ:製作国スペイン=スウェーデン=ドイツ=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、95分、撮影地メデジンほか

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021併催の「批評家週間」に正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞受賞(サンドラ・メリッサ・トレス)、イスラエル映画祭国際シネマ賞ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門ノミネート

 

キャスト:サンドラ・メリッサ・トレス(アンパロ)、ディエゴ・アレハンドロ・トボン(息子エリアス)、ルチアナ・ガジェゴ(娘カレン)、ジョン・ハイロ・モントーヤ、ほか

 

ストーリー:メデジン1998年、二人の子供を育てているシングルマザー、アンパロの物語。アンパロが縫製工場での長時間に及ぶ夜勤を終えて帰宅すると、子供たちの姿がなかった。18歳になる息子エリアスが軍に強制的に連れ去られ、国境近くの危険な戦闘地に配備されてしまったことが分かってくる。彼の運命は閉じられてしまったのか。アンパロがエリアスのファイルの内容を変更して、ここから脱出できるよう或る人物に接触したのは、エリアスが徴兵された前日のことだった。殆ど選択肢のないアンパロにとって、汚職や暴力が支配する社会で自分の息子を強制徴兵から救出する方法はあるのか、彼女は時間との闘いに投げ込まれる。

   

       

            (息子を探しまわるアンパロ)

 

 

  貧しい人々によって戦われる戦争「コロンビアで生きる普通の母親たちに捧ぐ」

 

★カンヌ併催の第60回「批評家週間」のオープニング作品に選ばれた本作は、主演サンドラ・メリッサ・トレス(メデジン、31歳)に新人賞に当たる「ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞」をもたらした。全く演技経験のない新人、本作のオーディションに応募する前の職業は、家電製品店で働いていた。「映画と同じようなことを自分の母親が経験していたので、物語に入り込むのは難しくありませんでした」とサンドラ。監督も「プロではありませんでしたが飲み込みが早く、役柄へのアプローチが的確で、私たちを驚かせた」と賛辞を惜しまない。カンヌでの受賞がコロンビアにもたらされたとき「サンドラ・メリッサって誰?」と話題になったようです。

 

     

                  (サンドラ・メリッサ・トレス、フレームから)

  

      

       (ソト監督とサンドラ・メリッサ・トレス、カンヌFF2021

   

     

 (証書を披露するサンドラ・メリッサ・トレス)

 

2014年に「Leidi」が短編部門でパルムドールを受賞したシモン・メサ・ソトは、この映画は「普通のお母さんたち、コロンビアで暮らしている全ての人々に捧げます」と、また「これは非常に政治的な映画です」ともカンヌで語っていた。アンパロはメロドラマのステレオタイプ的な造形からはかけ離れている。脚本執筆時から自分の母親が念頭にあった。「私の家庭は中産階級に属していましたが、母はアンパロと同じシングルマザーで、私たち兄弟を守るためにはあらゆることをしました」と監督。監督をコロンビア軍からの自由を買うために有力者に会いに行く、これは90年代のコロンビアでは非常に一般的なことでした。兵役を果たさなかった場合、軍に誘拐される可能性が高かった。「通りを歩くのが怖かった」と監督。軍隊と犯罪者は同じ穴の狢ということです。当時のメデジンは世界で最も暴力的な都市の一つ、麻薬密売が国の秩序を破壊していた。

    

      

               (母アンパロと息子エリアス)

 

★監督は「カール・テオドア・ドレイヤーのサイレント映画『裁かるるジャンヌ』(28)の最初のフレームに大きな影響を受けている」、ジャンヌ役のルネ・ファルコネッティのノーメイクの美しさ、キャラクターに密着したクローズアップに魅了されたという。「古典的で非常にフォーマルな映画を作りたかった。古典的な映画、キェシロフスキベルイマンの調和のとれた映画を撮りたかった。自国の映画にはなかったタイプの映画です。何十年にもわたって支配してきた政治的領域に疑問を投げかけたい。私たち新世代には明らかな不適合感があり、本作は私の母が生きていた経験を背景にして、暴力を体系的に取りあげた非常に政治的な映画です」と述べている。因みにスペイン語のアンパロamparoという単語には、保護とか避難場所という意味があり、示唆的です。

 

         

              (母アンパロと娘カレン)

 

2016年の「Madre」から長編は時間の問題と思われていたが、5年も掛かってしまったのは矢張り資金不足が原因ということでした。コロンビア政府の文化助成金のほか、2017年のトリノ・フィルム・ラボを経て、スウェーデン映画協会から映画プロジェクト助成金を獲得して完成させた。製作者で撮影監督のフアン・サルミエント・G(コロンビア1984)とは、8年前の「Leidi」以来の友人でもあり、監督にとって非常に重要な存在、将来的な連携を視野に入れ、2017年に制作会社「Ocútimo」を二人で設立した。フアン・サルミエントのカメラは、ダイナミックなサンドラ(アンパロ役)を追い、彼女が主導するエネルギーとリズムを維持することを心掛けたということです。音楽担当のベネディクト・シーファー(独ローゼンハイム1978)は、ブラジルのカリン・アイヌーズA vida invisívelを手掛けている。ラテンビート2019で『見えざる人生』の邦題で上映された。

コロンビアから短編 『15の夏』*ラテンビート2020 ⑨2020年11月04日 16:57

     ベネチア映画祭オリゾンティ短編映画賞受賞作品――マリアナ・サフォン監督

 

      

 

★ラテンビート2020上映最後の作品は、コロンビアはボゴタ生れでメデジン育ちの若手監督マリアナ・サフォンの短編第3Entre tú y Milagros(「Between You and Milagros」)、15の夏』の邦題でオンライン上映されます。今年のベネチア映画祭(92日~12日)でコロンビアから唯一ノミネートされた作品として、コロンビアでは話題になっていました。まだ母親の愛情と関心を求めている15歳のミラグロスと母との関係、対立ではない緊張などが綴られていますが、ママが母親だけでなく一人の女性であることも語られているようです。デジタルではない16mmで撮影されておりますが、何故高額な16mmで撮ったかは、監督の映画への情熱が始まったときに見た映画がセルロイドで撮られていたことに関係があるようです。

 

      

 (短編映画賞のトロフィーを手にしたマリアナ・サフォン、ベネチアFF2020912日)

 

 15の夏』Entre tú y Milagros短編20分)2020

監督:マリアナ・サフォン

脚本:マリアナ・サフォン、ナタリエ・アルバレス・メセン

撮影:アルフォンソ・エレーラ・サルセド

編集:アンドリュー・ステファン・リー

音楽:ジェームス・ケニー

美術:ディエゴ・ガルシア

メイクアップ:カロリナ・ウリベ

製作者:ディアナ・パティーニョ・マルティネス、マリアナ・サフォン、ホルヘ・グラナドス・ロス(メキシコ)、他

 

データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、短編ドラマ、20分、撮影地アンティオキア県シウダ・ボリバルとラ・ピンタダ、撮影期間20195月の5日間、アメリカのミロス・フォルマン奨学基金ほかを獲得。

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2020オリゾンティ短編部門、作品賞受賞、レイキャビック映画祭(9月)短編部門スペシャル・メンション、ハンプトンズ映画祭(10月、バーチャル・シネマ)ゴールデン・スターフィッシュ賞、ピーター・マクレガー・スコット・メモリアル賞受賞など

 

キャスト:ソフィア・パス(ミラグロス)、マルセラ・マル(母ロレンサ)、オルガ・ルシア・タボルダ(バシリア)、マリア・フェルナンダ・ヒラルド(ラウラ)、アレハンドロ・ハラミーリョ(ミゲル)、ペドロ・フェルナンデス(バイロン)、他多数

 

ストーリー:ミラグロスはまだ母親の愛情と関心を求めている15歳。今夏、予期せぬ死との出会いがミラグロスの中でカタルシスを引き起こし、母との関係と自分自身の存在に疑問を抱くようになる。「映画の世界は私の世界であり、自身が持っている特権の解体を明白に探求しています」と語るサフォン監督、かなり個人色の強い作品。

    

       

       

          (母ロレンサ役のマルセラ・マル、ミラグロス役のソフィア・パス)

    

 

          

                     (16mmで撮影中のマリアナ・サフォン)

 

 

    女性監督作品が44パーセント――活躍の目立った第77回ベネチア映画祭

 

監督紹介マリアナ・サフォンは、ボゴタ生れの監督、脚本家、製作者。ハベリアナ大学で情報学とオーディオビジュアル制作を専攻する。その後映画のスクリプトとして2年間働いたのち、ニューヨークに渡る。コロンビア大学の映画科で演出と脚本の修士号を取得、学位論文が本作Entre tú y Milagros」だった。2014年、短編デビュー作Al otro lado de la montaña18分)は、ダニエラ・カマチョとの共同監督、共同執筆、第2Bajo el agua(英題Submerged14分)は、脚本を第3作同様ナタリエ・アルバレス・メセンと共同執筆した。コロンビア、メキシコ、米国でコマーシャルを制作、現在は長編デビュー作La Botero」をメデジンで撮るための準備をしている。

 

          

                        (短編第2作「Bajo el agua」のポスター)

 

★監督によると「自分の母親との関係に基づいているわけではないが、1年半前30歳になったとき気づいたのは、私の母は2歳の女の子を抱えて既に離婚しており、その女の子というのが私です。それまで私は母を母以外の存在として認識していなかったことに気づいたのです。女性に子供ができると社会は唯一の役割が母親であることを要求します。彼女たちに母性以外にやりたいものが他にあるとは考えない。それで母との関係や過去全体を再考するようになった」と語っている。これは世界共通で日本社会にも少なからず当てはまります。

 

ベネチアFFノミネートの報せはニューヨーク滞在中に知ったという監督は、「自分の作品が認められるだけでなく、ベネチア映画祭に参加することは夢でした」と。映画祭では「ベネチアのような伝統ある重要な映画祭は、非常に厳しいキュレーターシップがあります」と。今年は44パーセントが女性監督作品が選ばれていますが、これは強力なメッセージでしょう。「短編映画を撮るのは長編を作る資金がないからですが、短編映画をスクリーンで上映してくれる映画祭の存在」も理由の一つのようです。

 

★製作者のディアナ・パティーニョ・マルティネスは、当ブログでアップしたシモン・メサ・ソトLeidi14)を手掛けています。これはカンヌ映画祭2014「短編映画」部門のパルムドールを受賞した作品、その後国際映画祭巡りをして幾つもの受賞を手にした。

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

 

      

             

     

                         (撮影中のディアナとサフォン監督)

 

★母親ロレンザを演じたマルセラ・マルは、1979年ボゴタ生れ、女優。最近はTVシリーズ出演が多く、Netflixで配信された『エル・チャボ』(1812話出演)にベルタ・アビラ役で出演、映画ではラテンビート2013上映のアンドレス・バイスのデビュー作『ある殺人者の記録』07Satanás)に出演しています。実話をもとにした同名小説の映画化、こちらでキャリア紹介しております。

『ある殺人者の記録』の紹介記事は、コチラ20131007

 

   

 

   

  

        (アンドレス・バイスの『ある殺人者の記録』ポスター、中央がマルセラ)

 

★一方、娘ミラグロスにソフィア・パスルベン・メンドサNiña errante18Wandering Girl」)で12歳になる主役アンヘラを演じた。アンヘラと3人の異母姉妹の物語。マラガ映画祭2019に出品され、ソフィアは賞を逃したが共演者の長女役を演じたカロリナ・ラミレスが銀のビスナガ助演女優賞を受賞した。評価はこれからです。コロンビアは南米随一の美人国と言われますがキャストだけでなくスタッフも美人揃いです。

 

     

              (ルベン・メンドサのNiña errante」出演のソフィア・パス

 

      

      (右からカロリナ・ラミレス、ソフィア・パスの4人姉妹をあしらったポスター)

 

F・トゥルエバの新作はコロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2020 ⑱2020年10月10日 10:25

    クロージングに選ばれたコロンビア映画「El olvido que seremos

 

      

 

★カンヌ映画祭2020のコンペティション部門にノミネートされた作品El olvido que seremosは、コロンビアの医師で人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスの伝記映画、1987825日、メデジンの中心街でパラミリタールの凶弾に倒れた。アバド・ゴメスの息子エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。カンヌFFはパンデミックのせいで開催できなかった。その時点でサンセバスチャン映画祭上映が視野に入っていたのだが、結果は予想通りになった。既に本国で公開されていたことも考慮されたのかアウト・オブ・コンペティションながらクロージング作品に選ばれた。コロンビア映画なのに監督も主役も脚本もスペイン人になった経緯は、カンヌFFの紹介記事で既にアップしています。他に小説家アバド・ファシオリンセのキャリア、ボルヘスのソネットから採られたという原題の経緯なども紹介しています。部分的に重なりますが、ラテンビート一押しの作品として再度アップすることにしました。フェルナンド・トゥルエバ監督もハビエル・カマラも、ラテンビートが縁で来日したシネアストですから脈があるかもしれない。

El olvido que seremos」の作品紹介は、コチラ20200614

  

  

             (エクトル・アバド・ファシオリンセ)

 

   

 「El olvido que seremos(「Forgotten We'll Be」)2020

製作:Dago García Producciones / Caracol Televisión

監督:フェルナンド・トゥルエバ

脚本:エクトル・アバド・ファシオリンセ(原作)、ダビ・トゥルエバ

撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ

音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

編集:マルタ・ベラスコ・ディアス

美術:カルロ・オスピナ

衣装デザイン:アナ・マリア・ウレア

メイクアップ:ラウラ・コポ

プロダクション・マネジメント:マルコ・ミラニ(イタリア)

助監督:ロレナ・エルナンデス・トゥデラ(マドリード)

録音:ヌリア・アスカニオ

視覚効果:ブライアン・リナレス

スタント:ミゲル・アレギ、ジョン・モラレス

製作者:マリア・イサベル・パラモ(エグゼクティブ)、ダゴ・ガルシア、クリスティナ・ウエテ

 

データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、136分、カラー&モノクロ、伝記、撮影地メデジン、ボゴタ、マドリード、トリノ。公開コロンビア2020822日、スペイン20213月予定

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2020コンペティション部門正式出品(パンデミックで上映なし)、サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品(926日)

 

キャスト:ハビエル・カマラ(エクトル・アバド・ゴメス)、パトリシア・タマヨ(妻セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ(長男エクトル・アバド・ファシオリンセ)、セバスティアン・ヒラルド(アルフォンソ・ベルナル)、ダニエラ・アバド、アイダ・モラレス、ホイット・スティルマン(ドクター・リチャード・サンダース)、他多数

 

ストーリー1987825日メデジンの中心街、医師でカリスマ的な人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスは、二人組のパラミリタールのシカリオの凶弾に倒れた。アバドが撃たれた日は、子供たちが最愛の父親を、妻が善き夫であり優れた同志を奪われた日でもあった。1980年代、暴力が吹き荒れたメデジンで、アバドは医師として家族の長として、また大学教授として後進を育てていた。我が子たちは教育を受け寛容と愛に包まれていたが、恵まれない階級の子供たちのことが常に心に重くのしかかっていた。悲劇が顔を覗かせていた。

  

         

          (ハビエル・カマラ扮する父と息子、映画から)

 

          カラーとモノクロで描く暗殺された父に捧げる永遠の愛

 

★原作はベストセラーだったが、映画化までの道のりは長かった。一つには複雑なコロンビアの社会状況と無縁ではなく、およそ3年前、コロンビアのカラコルTV社長ゴンサロ・コルドバ(2012~)の発案で映画化が企画され、オスカー監督フェルナンド・トゥルエバに白羽の矢が立った。交渉に当たったのは副社長ダゴ・ガルシアで、長い紆余曲折の後、本格的に始動したのは2019年だった。紆余曲折については、後ほど監督に語ってもらいます。本作では女優として出演しているダニエラ・アバドは、主人公の孫娘、つまり作家エクトル・アバドの娘です。彼女は映画監督として祖父暗殺をめぐるアバド家の証言集Carta a una sombra15)というドキュメンタリーを撮っています。

 

     

            (エクトル・アバド・ゴメスと娘たち)

 

 

★予告編から推測するに、本作は作家アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)がまだ少年だった1970年代前半はカラーで、成人した80年代はモノクロで撮るという2部構成になっているようです。下の家族写真によれば、作家は6人姉弟の第5子にあたる。

 

   

   (父親役のハビエル、一人置いて母親セシリア役のパトリシア・タマヨ)

 

   

 (就寝前に父親に絵本を読んでもらうエクトルと妹)

 

                   

               (80年代の父とフアン・パブロ・ウレゴ扮する息子)

    

    

      (息子とその恋人か)

           

★エクトル・アバド・ファシオリンセの小説「El olvido que seremos」が上梓されたのは200511月、年内に3版したというベストセラー、スペインでの発売は2006年だった。サンセバスチャン映画祭上映に合わせて現地入りしたトゥルエバ監督と主人公アバドを演じたハビエル・カマラにインタビューしたエルパイス紙の記事によると、「何年ものあいだ、私はこの本に敬意を表してきた。私の人生に贈られてきたと思っていた」、しかし「ハビエル・カマラを主人公にした映画化の依頼には最初は断りました」と監督。依頼を受けて監督するという経験はなく、「私は個人的な映画をつくるだけで、というのも映画は第三者を介しないのが一番いいからです。もし外部から提案がきた場合、内面化できるなら引き受けるだけです。小説については視覚化できると感じていました」と説明する。

 

        

     (監督とハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル、926日)

 

★「小説は私的な絆が感じられるアングルを多く持っている。例えば家族物語、父と息子の関係などが語られている。私にとってこの映画は、幸福について、愛について、素晴らしいあわだちについて語っており、そして現実がいかにしてフィエスタを台無しにしてしまうかを伝えている。更に5人の姉妹や母親、メイドやシスターなど女性ばかりに囲まれて育つ男の子エクトルの魅力の虜になった。私が好きな映画や本をいくつも思い出させた」。にもかかわらずコロンビアのプロデューサーの提案をできるだけかわそうとした。それは「映画館に連れ出すのは難しそうに思えたからです。私の母が人生で再読した2冊のうちの1冊だったのですが」と苦笑する。幾度となく会合がもたれたが、ありがたいことだがその都度お断りした。

            

             

               (撮影中の監督とカマラ)

 

★彼の背中を押したのは製作者の妻クリスティナ・ウエテだった。彼女はたった一日で再読してしまうと、同意してしまった。それで彼も受け入れることにした。「不可能もここで受け入れるなら可能になるかもしれない。クリスティナはいつも不意を衝く」と思ったそうです。コロンビア行きが決定した。斯くのごとくこのカップルは夫唱婦随ならぬ婦唱夫随なのでした。クリスティナ・ウエテについては、本作の脚色を手掛けた義弟ダビ・トゥルエバが、ゴヤ賞2014を総なめにした「『ぼくの戦争』を探して」でご紹介しています。主役のハビエル・カマラと監督が宿願のゴヤの胸像を初めて手にした映画です。ウエテはスペインの女性プロデューサーの草分け的存在であり牽引役を担っている。

「『ぼくの戦争』を探して」の主な紹介記事は、コチラ201401301121

クリスティナ・ウエテについては、コチラ20140112

   

     

            (監督とカマラ、サンセバスチャンFFフォトコール、9月26日)

 

    

  

     (上映後のプレス会見、同上)

 

★実話を題材にするということはデリケートさが求められる。「二人(監督とカマラ)にとって資料集めをするのは興味あることだったが、私は映画を撮るためにここに来て、現実は既に滑走路で待機していた」と監督。「最初に私が考えた心配の種は、カマラがコロンビア人でないことでした。そのとき作家アバドから監督を引き受けてくれた感謝と、父親そっくりの俳優ハビエル・カマラは理想的だというメールが届いた」。父親を演じる俳優はコロンビア人から探すのが理想だと返事した。カマラはコロンビア訛りも分からないしメデジンもよく知らない。それだけでなくエクトル・アバド・ゴメスとは違いが大きすぎる。しかしハビエルは多くの好条件を兼ね備えていた。例えば非常に優秀な役者であることに加えて、アバド・ゴメスのように人生を愛し、生きることを謳歌している。これは上手く化けられるかもしれない。

 

★当のカマラはアバドの人格を「アメリカ人がよく口にする、実際より大きい」と定義した。また「ほとんど捉えどころのない」驚きの人だったとも。資料集めの段階でコロンビアにはアバドも載っていた脅威のリストというのがあるのを知った。このリストに載っている人は急いでコロンビアから出ていった。このリストに載っていたある人物から、例えばもしシンボリックな存在で親切で良心的な人なら残ってはいけなかった、とカマラは聞かされた。「そのとき、現実のアバドという人間の重みを感じ、撮影からは切り離そうと思った」。「とても興味深いのは、それぞれがエクトルに親切にしてもらったとか、娘たちは娘たちで父は優しいパパだったとか口にした。どうも彼は感動を演出する才に長けていたようだ」とカマラ。

 

    

(現地入りしたハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル玄関前、923日)

 

★作家が脚本を辞退したのは「小説を書いていたときの苦しみを二度と味わいたくなかった」からだと監督。それに脚本執筆の経験がなかったからとも語っているが、作家は娘ダニエラのドキュメンタリーの脚本を手掛けていた。撮影が始まると邪魔をしたくないと、ヨーロッパへ旅立ってしまった。「しかし最終的にはお会いできた」とカマラ。「3年前に監督に頂いた小説にサインしてもらいたかった。そして彼は彼で姉妹たちに渡したい私の写真を撮った。私が彼に映画は見たかと尋ねると、『いや、あなたが私のお父さんと同じだと思ったら興奮してしまうだろうね』と返事した。これ以上の褒め言葉はなかったでしょう」とカマラは述懐した。

 

 

       マジックリアリズムが今でも浮遊するコロンビア

 

★撮影中は実際のドクター・アバドの逸話が溢れていたとご両人。「脇役の俳優が背広を着てやってくると、私はアバド先生に2度お会いしています。2度目のときこの背広を着ていました。もし映画で着ることができたらと思ってと話した。ある女優さんは私の夫はアバド先生に命を助けてもらいました」など。カマラは「こういうことが次々に起こったのです」と強調する。通りで行き会う人々は、彼があたかも実際のドクターであるかのように接した。「マジックリアリズムはここコロンビアでは実際に存在しています。本の中だけでなく人々の中に存在し、彼らの視線を通してそれに気づかされます」。同じように憎しみも感じます。例えば埋葬のシーンを撮るための建物が必要だったが、教会はどこも拒絶したのです。

 

★トゥルエバ監督は「コロンビアはまだ闘いが終わっていないのです」と力をこめる。「アバドと妻セシリアが最後の会話をするシーンを撮ろうとした日、いくつかの道路が通行止めになった。そのニュースをラジオで聞いたセシリアは、直ぐタクシーで現場に駆けつけ、警察のバリアの前に立っていた。彼らから『どこに行くつもりだ』と尋問されると、『うるさいわね、通しなさい、私が主人公よ!』」ww。おそらく90歳はとうに過ぎていると思うが、かつての闘士の面目躍如。

 

       

  (セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス、息子とのツーショット、201711月)


追加情報: 英題 『Forgotten We'll Be で、ラテンビート2020のオープニング上映が決定。
        本作はオンラインではなく劇場上映です。
追加情報: 『あなたと過ごした日に』 の邦題で2022年7月劇場公開されました。

フェルナンド・トゥルエバの「El olvido que seremos」*カンヌ映画祭2020年06月14日 17:23

      コロンビアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化

 

      

 

★第73回カンヌ映画祭2020は例年のような形での開催を断念した。マクロン大統領の「719日まで1000人以上のイベントは禁止」というお達しではどうにもならない。63日、一応オフィシャル・セレクション以下のノミネーションが発表になりました。開催できない場合は、ベネチア、トロント、サンセバスチャンなど各映画祭とのコラボでカンヌ公式映画として上映されることになりました。それでカンヌでのワールドプレミアに拘っている監督たちは来年持ち越しを選択したようです。赤絨毯も、スクリーン上映も、拍手喝采もないカンヌ映画祭となりました。

   

フェルナンド・トゥルエバEl olvido que seremos(「Forgotten We'll Be」)は、コロンビアのカラコルTVが製作したコロンビア=スペイン合作映画、コロンビアはアンティオキアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセのノンフィクション小説El olvido que seremos」(プラネタ社200511月刊の映画化です。作家の父親エクトル・アバド・ゴメス192187)の生と死を描いた伝記映画です。医師でアンティオキアのみならずコロンビアの人権擁護に尽力していた父親は、1987年メデジンの中心街で私設軍隊パラミリタールの凶弾に倒れた。1980年代は半世紀ものあいだコロンビアを吹き荒れた内戦がもっとも激化した時代でした。アバド家は子だくさんだったが作家はただ一人の男の子で、父親が暗殺されたときは29歳になっていた。

 

         

     (主人公ハビエル・カマラを配したEl olvido que seremos」のポスター

   

 

          アバド家の痛み、コロンビアの痛みが語られる

 

★エクトル・アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)の原作は、200511月に出版されると年内に3版まで増刷され、コロンビア国内だけでも20万部が売れたベストセラーです。先ずスペインでは翌年 Seix Barral から出版、メキシコでも出版された他、独語、伊語、仏語、英語、蘭語、ポルトガル語、アラビア語の翻訳書が出ている。21世紀に書かれた小説ベスト100に、コロンビアでは唯一本作が選ばれている。ポルトガルの Casa da América Latina から文学賞、アメリカのラテンアメリカの作品に贈られるWOLA-Duke Book 賞などを受賞している。

  

             

           (アバド・ファシオリンセの小説の表紙

  

           

                                   (父と息子)

 

★タイトルのEl olvido que seremos」は、ボルヘスのソネット Aqui, hoy の冒頭の1行目「Ya somos el olvido que seremos」から採られた。父親が凶弾に倒れたとき着ていた背広のポケットに入っていた。あまり知られていない出版社から友人知人に贈る詩集として300部限定で出版されたため公式には未発表だった。そのため小説がベストセラーになると真偽のほどが論争となり、作家の捏造説まで飛びだした。調査の結果本物と判明したのだが、スリルに満ちた経緯の詳細はいずれすることにして、目下は映画とかけ離れるので割愛です。

  

          

                      (ボルヘスのソネット Aqui, hoy のページ

 

★コロンビアの作家とスペインの監督の出会いは、カラコルCaracol TVの会長ゴンサロ・コルドバが仲人した。スペイン語で書かれた小説を映画化するにつき、先ず頭に浮かんだ監督は「オスカー監督であるフェルナンド・トゥルエバだった」とコルドバ会長。主役エクトル・アバド・ゴメスにスペインのハビエル・カマラを起用することは、作家のたっての希望だった。「父親の面影に似ていたから」だそうです。映画化が夢でもあり悪夢でもあったと語る作家は、出来上がった脚本を読むのが怖かったと告白している。手掛けたのは監督の実弟ダビ・トゥルエバ、名脚本家にして『「ぼくたちの戦争」を探して』の監督です。

 

        

         (作家エクトル・アバド・ファシオリンセと監督フェルナンド・トゥルエバ)

 

★最初トゥルエバ監督はこのミッションは不可能に思えたと語る。その一つは「小説は個人的に親密な記憶だが、映画にそれを持ち込むのは困難だからです」と。しかし「二つ目のこれが重要なのだが、良い本に直面すると臆病になるからだった」と苦笑する。カラコルTVの副会長でもある製作者ダゴ・ガルシアの説得に負けて引き受けたということです。スペイン側は脚本、正確には脚色にダビ・トゥルエバ、主役にハビエル・カマラ、編集にトゥルエバ一家の映画の多くを手掛けているマルタ・ベラスコの布陣で臨むことになった。キャスト陣はハビエル以外はコロンビアの俳優から選ばれた。

 

      

                           (撮影中の監督とハビエル・カマラ)

 

★作家の娘で映画監督でもあるダニエラ・アバトアイダ・モラレスパトリシア・タマヨ(作家の母親セシリア・ファシオリンセ役)、フアン・パブロ・ウレゴがクレジットされている。母親も人権活動家として夫を支えていたエネルギー溢れた魅力的な女性だったということです。当ブログ初登場のダニエラ・アバドは作家の娘、主人公の孫娘に当たり、映画は彼女の視点で進行するようです。今回は女優出演だが、祖父暗殺をめぐるアバド家の証言を集めたドキュメンター「Carta a una sombra」(15)は、マコンド賞にノミネートされ、続くドキュメンタリー「The Smiling Lombana」(18)は、マコンド賞受賞、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ2019で観客賞を受賞している。バルセロナで映画は学んだということです。

 

     

       (父エクトル・アバド・ファシオリンセと語り合うダニエラ・アバド、2015年)

 

★スタッフ陣も編集以外はコロンビア側が担当、撮影監督はセルヒオ・イバン・カスターニョ、撮影地は家族が暮らしていたメデジン、首都ボゴタを中心に、イタリアのトリノ(作家は私立のボリバリアーナ司教大学で学んだ後、トリノ大学でも学んでいる)、マドリードなどで行われた。モノクロとカラー、136分と長めです。音楽をクシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』や「トリコロール愛の三部作」を手掛けたポーランドの作曲家ズビグニエフ・プレイスネルが担当することで話題を呼んでいた。彼はトゥルエバのLa reina de España16)の音楽監督だった。プロダクション・マネージメントはイタリアのマルコ・ミラニ(『ワンダーウーマン』)と、コロンビア映画にしては国際色豊かです。

 

★本作はまだ新型コロナが対岸の火事であった21日、カルタヘナで毎年1月下旬に4日間行われるヘイ・フェスティバルHay Festival Cartagenaという文学祭で、作家と監督が出席しての講演イベントがありました。もともとは1988年、ウェールズ・ポーイスの古書店街が軒を連ねるヘイ・オン・ワイで始まったフェスティバルが世界各地に広がった。コロンビアではカルタヘナ、スペインはアルハンブラ宮殿で開催されている。現在は文学講演、サイン会、書籍販売の他、音楽や女性問題などのイベントに発展している。YouTubeを覗いたら150名の招待者のなかにマリベル・ベルドゥとか、作家のハビエル・セルカスも出席していました。下の写真は映画の宣伝も兼ねた講演会に出席した両人。フェスティバル期間中にトゥルエバの『美しき虜』が上映されていた。

   

              

      (アバド・ファシオリンセとトゥルエバ監督、21日、アドルフォ・メヒア劇場)

 

★現在の中南米諸国のコロナ感染状況は、コロンビアを含めてレベル3(渡航は止めてください)だから滑り込みセーフのフェスティバルでした。スペインも渡航中止対象国ですから、サンセバスチャン映画祭(918日~26日)が予定通り開催できるかどうか分かりません。開催された場合はカンヌ映画祭公式セレクション作品としてワールド・プレミアされる可能性が高いと予想しています。

   

追加情報:英題でラテンビート2020のオープニング作品に選ばれました。

追加情報『あなたと過ごした日に』の邦題で2022年7月劇場公開されました。