ロドリーゴ・ソロゴイェンの”Stockholm”2014年06月17日 11:41

★ロドリーゴ・ソロゴイェンの5年振りとなる新作Stockholmは、マラガ映画祭2013の正式出品映画です。デビュー作8 citasがマラガ映画祭2008で紹介されて以来テレビに戻っていた。新作は監督賞、共同脚本執筆のイサベル・ペーニャと新人脚本賞、アウラ・ガリードが女優賞と3賞を制覇しました。これが快進撃の始まりでしたが、高い評価にも拘わらず配給元が見つからず「映画祭だけの映画」の陰口も聞こえてきて、今もってスペインでさえ未公開です。もっとも彼と同じ世代は映画館に足を向けないのですが。

 


★本ブログではアウラ・ガリードについては新年の挨拶とゴヤ賞2014予想記事の主演女優賞の項113日)、監督と新人男優賞を受賞したハビエル・ペレイラについては新人監督賞・新人男優賞の項114日)でご紹介しています。最近ルーマニアのトランシルバニア映画祭でグランプリを受賞したこと、低予算(6万ユーロ!)でも映画製作が可能であること、ネットでの資金集めなど、大資本に頼らないで危機を乗り越えようとしている若手監督にエールを送りたいと改めてアップいたします。

 

ルーマニアのトランシルバニアで2002年にスタートした比較的新しい国際映画祭。東京国際映画祭と同じように若手育成を目的にデビュー作から2作目までの監督がコンペティション対象者。ルーマニアは初代大統領のチャウシェスクの独裁政権が24年間も続き、ルーマニア革命で1989年末に銃殺刑に処されたことは世界が知ってることです。映画後進国といってもよいかと思いますが、カンヌ映画祭2007のパルムドールを受賞したクリスチャン・ムンジウの『4ヶ月、3週と2日』など近年の躍進は目覚ましく、ラテンアメリカ諸国からもサンダンスやロッテルダム映画祭と同じように本映画祭の応募が増えてきています。2012年のスペイン語映画では、ドミンガ・ソトマジョール・カステージョのデビュー作『木曜から日曜まで』(チリ≂オランダ、東京国際FF上映邦題)の撮影監督バルバラ・アルバレスが撮影賞を受賞、『ウイスキー』や『幸せパズル』を撮っているベテラン。監督はロッテルダムのタイガー賞を受賞しています。2013年ではアドリアン・サバのEl limpiador(ペルー)が国際批評家連盟賞、アナ・ゲバラ&レティシア・ホルヘのTanta agua(ウルグアイ≂メキシコ他)が審査員特別賞を受賞、前者は1回イベロアメリカ・プラチナ賞男優賞部門にビクトル・プラダがノミネートされた優れた作品です(417UP)。

 

   Stockholm

製作: Caballo Films / Tourmalet Films

監督・脚本:ロドリーゴ・ソロゴイェン

脚本(共同):イサベル・ペーニャ

撮影:アレハンドロ・デ・パブロ

編集:アルベルト・デル・カンポ

 

キャスト:アウラ・ガリード(彼女)/ハビエル・ペレイラ(彼)/ロレナ・マテオ/
          ヘスス・カバ

データ:スペイン、スペイン語、2013年、撮影地マドリード・撮影期間13日間、90分       

受賞歴&ノミネート:マラガ映画祭2013(上記参照)/ゴヤ賞2014新人男優賞ハビエル・ペレイラ受賞、新人監督賞&主演女優賞アウラ・ガリードがノミネート/シネマ・ライターズ・サークル賞2014新人監督賞・女優賞・新人男優賞受賞及び作品賞・撮影賞・編集賞・脚本賞ノミネート/マイアミ映画祭20141作品コンペ部門出品/Feroz 2014作品賞受賞/サン・ジョルディ賞スペイン女優賞受賞、トランシルバニア映画祭グランプリ、主演の二人がパフォーマンス賞を受賞、その他モントリオール、トゥールーズ、ワルシャワ、モンペリエ、セルビア、ベルグラード各映画祭に正式出品された。

                    (写真:マラガ映画祭2013でのペレイラ、監督、ガリード)

 

プロット:ディスコで初めて会った<><彼女>の恋の行方。突然声をかけられた女は警戒して男になかなか心を開かない。恋に落ちてしまった男は諦めきれず<夜の廃墟>マドリード散策に誘い、やっとベッドに辿りつく。翌日<>は自分の想っていたような<彼女>でなかったことに気づく、何が起きたのか? ディスコで、しつこくなく感じも良い男に突然愛を告白されて一夜を過ごす。翌日<彼女>は自分が考えていたような<>でなかったことに気づく、何が起きたのか?

 

   キャリア&フィルモグラフィー

ロドリーゴ・ソロゴイェン(ソロゴジェン)Rodrigo Sorogoyen 1981年マドリード生れ、監督・脚本家・プロデューサー。マドリードの大学で歴史学の学士号を取得、大学の学業とオーディオビジュアルの勉強の両立を目指して映画アカデミーで学ぶ。その間3本の短編を制作して卒業。2004ECAMの映画脚本科に入り、並行してテレドラ の脚本執筆を始める。最終学年にペリス・ロマノとの共同脚本と監督のチャンスが訪れる。それが上記のデビュー作8 citasであり高い評価を受ける。本作にはフェルナンド・テヘロ、ベレン・ルエダ、ベロニカ・エチェギ、ラウル・アレバロ、ハビエル・ペレイラも出演しており、かなりの収益を上げることができた。

ECAMEscuela de Cinematografía y del Audiovisual de la Comunidad de Madridの頭文字。マドリード市が若手育成のためにスポンサーになっている。

 


その後テレビに復帰、代表作は<ローコスト>で制作したImpares2008)、Pecera de Eva2010)、Frágiles2012)など。テレドラの仕事はとても勉強になったと語っている。2012年よりStockholmの準備に入り、今回の数々の受賞を手にした。現在3作のプロジェクトが動き出しており、2015年の完成を目指して進行中である。その一つが脚本をダニエル・レモンと共同執筆しているEl presenteであり、資金が集まることを願っている。いずれバイオレンスをテーマに推理物を撮りたい。

 

「ボーイ・ミーツ・ガール」

★タイトルの<ストックホルム>って何のことですか。いわゆる「ストックホルム・シンドローム」のことでしょう。セルフ・マインドコントロール、恐怖と生存本能に基づく自己欺瞞的心理操作です。同じタイトルの映画が他にもあるのは、ちょっと興味の惹かれるタイトルだからでしょう。本作では危険な大都会の夜が醸しだすミステリアスな顔と、朝のまぶしい光線に守られた日常が対照的に映し出される。夜のあいだは無理して隠していた<彼女>の内面の問題がはっきりしてくる。数時間前には恋する男であった<>の唯一つの願いは、女が自分の視界から消えること。男は誘惑ゲームを終わりにしたいが、女は暫くつづけてもいい。「ボーイ・ミーツ・ガール」の行方はどうなるのか。 


★「二人の人間がどうやって関係を結ぶのかというテーマで映画を作りたかった」と監督。現代の若者はどうやって男と女の関係を築くのか、どこで、どのように始めるのか、ということですね。本能的な暴力が常に存在するなかで、「関係が上手くいかなくなったとき、素晴らしいのは嘘で言い逃れができたとき」とも語っている。大人の世界に入る条件は嘘をつけることだ。ここでは真実は語られず、話せば話すほど不自然さが明らかになる。

 

新しい試みwebでの資金調達の呼びかけ

★「本作はホントにミニチュアな映画です。13日間で撮影、製作費はトータルで6万ユーロでした。でも僕たちの映画の成功を信じてくれた多くの人々の支えで完成させることができました」。どういうことかと言うと、脚本を携えて次々とプロダクションの門を叩いてまわったが、脚本は突き返された。どうしても諦めきれず、「それなら自分たちで立ち上げよう」、そうしてweb verkami で資金協力を呼びかけた。40日間で8000ユーロ、最終的には13000ユーロという満足いく額になった。約300人の出資者が最少で5ユーロから最多2000ユーロと、塵も積もればナントヤラですね。お金がないから映画が作れないと嘆くだけが能ではありません。

 

★映画産業に携わっている関係者の間でディベートが盛んだそうですが、採用してくれるプロダクションがあるならそれに越したことはない。「この方法を何度も繰り返したいとは思わない」し、「スペインでは自分の世代は映画館に行かない人が多い。映画が広がるには配給会社が見つかることだが、できればテレビで放映してもらえるといい」と語っています。どの国でも配給システムは上手く機能しているとは思えないし、規模の大きいTVチャンネルが放映する映画は、かなり広範な人間を惹きつける必要がある。こういう地味な映画はその条件を満たせない。これからは「在来とは違う様式、例えばネット配信など、配給方法の新路線に順応していかねばならない」と考えているようです。

 

フェイスブックもツイッターもやらない

★日刊紙「ラ・ラソン」のインタビュアーから、自宅マンションを撮影場所にした理由を訊かれて、「僕たちは自己顕示欲の強い世代ですが、部屋を借りるお金がなかっただけで、本当は自宅での撮影は避けたかった」と語っています。フェイスブックもツイッターもやらないそうで、今時の若者にしては珍しい。

 

★キャストもスタッフも若く大体30代の半ばまで、「だからそれ以外の世代の人がどのように感じるかに関心があります」と監督。第1作がマラガで評価されたこともあって、第2作もマラガを意識していたようで、それはマラガの審査員は他と比べて若い監督に興味を示してくれるからだそうです。2014年の「金のジャスミン賞」もカルロス・マルケス≂マルセのデビュー作10.000KMでした(44UP)。

 

アウラ・ガリード Aura Garrido1989年マドリード生れ。父親は作曲家で指揮者、母親は画家、母方の祖母と叔母はオペラ歌手だったという芸術一家の出身。4歳からピアノ、5歳でバレエ、女優の道をまっしぐらに歩んできた。TVドラ・シリーズDe repente, los Gómez2009)でデビュー、映画初出演のフアナ・マシアスのPlanes para mañana2010)でゴヤ賞2011の新人女優賞にノミネート、他マラガ映画祭助演女優賞とスパニッシュ・シネマ・ムルシア・ウイークでパコ・ラバル賞を受賞している。ハビエル・ルイス・カルデラのPromoción fantasma2012)は『ゴースト・スクール』の邦題で、「スクリーム・フェスト・スペイン2013」ミニ映画祭で上映された。オリオル・パウロのEl cuerpo2012、邦題『ロスト・ボディ』)にも出演、本作での演技が認められ「ビルバオ・ファンタスティック映画祭2013」で新人に与えられるFantrobia賞を受賞。Stockholmは上記の通り。

 


ハビエル・ペレイラ Javier Pereira Collado1981年マドリード生れ。まだ32歳だが20作近い長編に出演、TVドラ、短編を含めると40本を超える。短編に出たのが16歳、テレビ界が17歳だから納得の本数か。子供のときから俳優を天職と考え、14歳でクリスティナ・ロタの演劇学校に入学して演技を学んだ。彼女は夫ディエゴ・フェルナンド・ボトーとアルゼンチンの軍事独裁を逃れて、1978年にスペインに亡命してきた女優にして舞台演出家、マリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー姉弟の母親。 


長編に限ると、代表作は今世紀に入ってからでパブロ・マロのFrío sol de invierno2004)、マロ監督がゴヤ賞2005新人監督賞を受賞した話題作、ヘラルド・エレーロのHeroína2005、マリア・リポルのTu vida en 65 minutos2006)で主役のダニを演じた。ソロゴイェンの8 citasにも参加、これが本作出演に繋がった。モンチョ・アルメンダリスのNo tengas miedo2011)、短編だがダニエル・サンチェス・アレバロのTraumalogía2007)の出演で成長したと言われ、Stockholm以降出演依頼が殺到している。サムエル・グティエレスのLa sangre de Wendy2014)、最新作はチェマ・ロドリーゲスのAnochece en la Indiaなど。2011年にはルベン・オチャンディアノが演出したチェーホフの『かもめ』で舞台に立った(舞台監督までしてるとは知りませんでした)。オチャンディアノとは、TVドラやアルメンダリスのNo tengas miedoで共演しています。彼はイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』(1999)で映画デビュー以来、『タパス』、『抱擁のかけら』、『ビューティフル』などでお馴染みになっていますが、ハビエル・ペレイラは多分まだ登場していないと思います。

              (写真:ゴヤ賞2014新人男優賞のトロフィーを手にしたペレイラ)

 

ゴヤ賞2014*あれやこれやの雑談2014年02月13日 14:08

 

  「ゴヤ授賞式はまるで反PPキャンペーン大会だ」とオカンムリ

 

: 雨が降って赤絨毯もそぼ濡れてぬかるんで、そのうえ気温も懐も冷え冷え、それでも無事イベントは終了しました。結構感動ドラマもあったようでそれはまた後ほど。

: 入口玄関前に「コカ・コーラ閉鎖反対」のゼッケンを付けた200名ほどの解雇者が陣取っていて、いつもと違う異様な雰囲気でした。「消費税増税反対」に蔽われた政治ショーでもありましたが、いつまでもお祭り気分に浸ってもいられません。

 

: もともと映画関係者は文化政策にお金を出さないPPPartido Popular国民党・与党)嫌いが多い。そこへ入場料に大幅な消費税(IVA)をかけてきた。ただでさえ入館者の減少に苦しんでいるところへね。8年間つづいた前政権の社会労働党(PSOE)が比較的文化事業に予算を回してくれた反動もあるようです。

: 国家破産の瀬戸際にいるわけだから仕方ないのかもしれない。政府としては「EUの重病人」から早く脱却を図りたい。昨年もかなり政治的な発言が目立ちましたが、今年はそれ以上です。

 

: 昨年は消費税増税の移行期間にあってまだ据え置かれていた。スペインの消費税は複雑で細かく分かれている。食品も牛乳やパンは比率が低く贅沢品と区別している。入場料は以前は確か8%だったが、現在は21%です。5%から8%になるのとは次元の違う話です。

: あまりの反発に下げる方向にあるようですが。

 

: 現政権の教育文化スポーツ省のホセ・イグナシオ・ベルテ(Wert)大臣は評判がよくない。ゴヤ賞授賞式に招待されているが、わざわざブーイングされに行く気はなく、それで欠席の正当な理由づけにマドリードにいられないスケジュールを組んだ。「私の体は一つ、同時に二つの場所には居られない」と()

: 敵前逃亡ではないと。癌治療のため勇退したマドリード前市長エスペランサ・アギーレ氏(PP)が「賢明な判断、尊敬に値する。野次られるために反PPキャンペーン大会に行く必要はない。文化相がやるべき最重要な案件ではないし、政府にとっても文化省にとっても益にならない」とエールを送っていました。

 

: 前市長が口出すことではないでしょう。お茶の間で多くの人が生放送を楽しむテレビショーなんですよ。ただベルテ氏は巷で言われているような人ではなく、聡明で、辛辣な議論好き、知的な教養人なんだそうです。映画関係者すべてがPSOE支持者じゃないわけで、当日インタビューを受けた俳優のなかには理解を示す人もいましたね。

: 最近‘ivazo’イバッソ という新語を目にしますが、「IVAイバでノック・ダウンされてしまった」という意味でしょうか。20代から30代前半では失業率50%を超える、二人に一人は職がない、働いた経験がないと失業保険もない、若者の『月曜日にひなたぼっこ』が日常化している。

 

   ダビ・トゥルエバ「永遠に二番手」の世評を葬った

 

: ゴヤ賞レースは「トゥルエバ丸」乗員の大勝利、7個ノミネートで6個獲得ですから効率がいい。ダビ・トゥルエバの監督&脚本賞受賞、「永遠に二番手」と囁かれていましたが、もう敗者ではありません。義姉クリスティナ・ウエテの作品賞、ハビエル・カマラ主演男優賞、ナタリア・デ・モリーナ新人女優賞、パット・メセニー作曲賞、大賞6個ですから満足でしょう。ダビ・トゥルエバ11回ノミネート、ハビエル・カマラ6回、合計17回にしてやっとゴヤを抱きしめました



: 二人の合言葉「僕たち、1個もゴヤを持ってない」でした。「受賞はせめてハビエル・カマラだけでも」と先日の座談会で話していましたが、やはり自分が一番欲しかった()。英語教師アントニオのモデル、フアン・カリオン氏も89歳ながら御健在。

(写真は喜びの記者会見に臨む「トゥルエバ丸」船長以下乗員一同)

 

: 10個ノミネートで8個受賞のLas brujas de Zugarramurdiについてはどうですか。

: テレレ・パベス助演女優賞受賞は、ハイライトのひとつでしょう。登壇するときから泣いてましたよ。周囲も涙、涙の大洪水、涙声でスピーチがよく分からなかった。

: 「今まで生きてきて、こんな嬉しいことはない」じゃないですか。12歳でデビュー、現在74歳の初受賞には驚きます。半世紀以上に及ぶ役者人生ですから。もっともゴヤ賞は1987年から、活躍していた時代がそれ以前だと珍しくないことです。5回目のノミネートで宿願を果たしました。ガルシア・ベルランガ(19212010)の第3Novio a la vista1953「一見、恋人」仮題)がデビュー作です。


 


: 監督アレックス・デ・ラ・イグレシアと同じビルバオ生れ、彼がゴヤ監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』(1995)にも出演しています。

: 生れはビルバオでも育ったのはマドリードです。彼女の一族も有名な芸術家一家、いずれ御紹介する機会をつくりたい。今月のセルバンテス土曜映画上映会は、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』1984、字幕英語)ですが、これに主人公の妻レグラ役で出演しています。ミゲル・デリーベスの同名小説の映画化、1960年代のスペイン農民のレクイエムです。これは20世紀スペイン映画史に残る名画、パベスの最高傑作と言ってもいい。残念ながらまだゴヤ賞は始まっていませんでした。(写真はゴヤ胸像を手に涙、涙のテレレ・パベスとプレゼンターのハビエル・バルデム)

 

: 前回「8個は貰いすぎ」と言ってましたが・・・

: まず10個のなかに監督賞・作品賞が含まれていない。10個もノミネートしながら指揮官たる船長が無視されるなんて変だと思いませんか。彼のゴヤ賞は、『ビースト、獣の日』一作だけと聞いたら「まさかぁ」と思うでしょ。

: なるほど、まず候補者の選択が気に入らないのですね。

: 「興行成績が好調なら名画だ」とはいくらなんでも言いません。以下は授賞式前の大雑把な数字ですが、La gran familia española300万ユーロ、これ1作で他の4作を超えています。Vivir es fácil con los ojos cerrados70万ユーロ、La herida12.2万ユーロなど。候補作にならなかった次の3作品『アイム・ソー・エキサイテッド』、Tres bodas de másLas brujas de Zugarramurdi が各400万ユーロです。勿論Vivir es fácil con los ojos cerradosのような大賞受賞作品はこれから再上映されますから上方修正されるはずです。

 

: アカデミーと観客の乖離は今に始まったことではありませんが、こういう数字を見ると、映画産業の低迷の一端はアカデミーにもありそうです。

: トゥルエバのは既に60館が再上映を決定、リターンマッチに挑むことになっています。もともと181部コピーを製作していたところ配給元との意見の不一致で50部がお蔵入りになった経緯があったようです。「今更犯人捜しをしても始まらないが、はっきりしていることは私たちには大打撃だった」と語っています。

 

: ゴヤ賞は何の役に立つか、それは次の映画が作れるということに繋がる。トゥルエバは次回作の予定はなく小説を執筆中と話しておりましたが、自作の映画化も期待できるかな。

: 大賞とは関係なく、Las brujas de ZugarramurdiDVDやブルーレイが来月早々発売されます。ラテンビートも期待できるし、年内か来年初めには劇場公開になりますね。現在のスペイン映画界でデ・ラ・イグレシアほど機知に富んだ、並外れた想像力の持主を見つけるのは難しい。あのアタマのなかにぎっしり詰まった才能は枯れることがない。

 



: フランコのLa heridaは、受賞しても観客は期待できないでしょうか。90万ユーロかけても1213万では厳しいですね。見ていて辛くなる映画はなかなか足を運んでもらえない。アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』も辛い内容でしたが、受賞後興行成績を伸ばすことができた。

: ちょっと難しそうですね、テーマも個人的な病気と違いますから。『ブラック・ブレッド』は、スペインの大人なら全員が経験した事柄がテーマでした。カタルーニャ映画がゴヤ賞の作品賞・監督賞を含む9個制覇は、ゴヤ賞始まって以来の快挙でもあった。87万ユーロが、授賞式当日に110万、数字は増え続け最終的には270万になったそうです。

 

: 積み残しは沢山ありますが、一応ゴヤ賞関連記事はこれで打ち止めにしましょうか。

: 「今スペインで映画を撮ることは、英雄的行為です」とアカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョが挨拶しましたが、厳しくても難しくてもやはり撮って下さい。

(写真は新人監督賞のフランコ、主演女優賞のマリアン・アルバレス)


ゴヤ賞2014授賞式2014年02月10日 13:06

★例年、こんな順序で受賞者が決まっていきます。栄誉賞を除くと28部門です。夕べの集いにして

は長すぎますね。今頃やけ酒飲んで飲みつぶれているか、まだ祝杯を上げているかどちらかでしょ

う。グラシア・ケレヘタの無冠、Las brujas de Zugarramurdi 貰いすぎ、ダビ・トゥルエバは

やっと宿願を果たしました。ハビエル・カマラもサンティアゴ・セグラから「今度は貰えるよ」と

言われていたとか、でも誰も知らないはずなんですよ。昨年大外れだったイベロアメリカ映画賞、

今年は当りました。大方の人は『ワコルダ』を予想していたのではないか。


1 新人男優賞:ハビエル・ペレイラ  Stockholm.

2 美術賞:アルトゥロ・ガルシア  Las brujas de Zugarramurdi

3 衣装デザイン賞:フランシスコ・デルガド・ロペスLas brujas de Zugarramurdi 

4 編集賞: パブロ・ブランコ Las brujas de Zugarramurdi.

5 短編ドキュメンタリー賞:Minerita ラウル・デ・ラ・フエンテ 

6 短編アニメーション:Cuerdas  ペドロ・ソリス・ガルシア 

7 短編映画賞: Abstenerse agencias Gaizka Urresti

8 栄誉賞: ハイメ・デ・アルミニャン

9 オリジナル歌曲賞 Do You Really Want To Be In love?  La gran familia española

10 オリジナル作曲賞:パット・メセニー Vivir es fácil con los ojos cerrados

11 録音賞:Charly Schmukler  Las brujas de Zugarramurdi

12 プロダクション賞: カルロス・ベルナセスLas brujas de Zugarramurdi

13 新人女優賞:ナタリア・デ・モリーナ  Vivir es fácil con los ojos cerrados


14 オリジナル脚本賞:ダビ・トゥルエバ  Vivir es fácil con los ojos cerrados 

15 脚色賞:アレハンドロ・エルナンデスマリアノ・バロッソ Todas las mujeres

16 主演女優賞マリアン・アルバレス  La herida

17 撮影賞:パウ・エステベ   Caníbal

18 特殊効果賞: フアン・ラモン・マリナ他 Las brujas de Zugarramurdi

19 新人監督賞フェルナンド・フランコ  La herida

20 助演男優賞:ロベルト・アラモ  La gran familia española


21
 助演女優賞:テレレ・パベス Las brujas de Zugarramurdi

22 メイク&ヘアメイク賞:マリア・ドロレス・ゴメス Las brujas de Zugarramurdi

23 ヨーロッパ映画賞:『愛、アムール』ミハエル・ハネケ

24 イベロアメリカ映画賞: Azul y no tan rosa ミゲル・フェラーリ(ベネズエラ)

25 長編アニメーション賞: Futbolín  フアン・ホセ・カンパネラ

26 長編ドキュメンタリー賞: Las maestras de la República ピラール・ペレス・ソラノ

27 主演男優賞 ハビエル・カマラ  Vivir es fácil con los ojos cerrados 

28 監督賞ダビ・トゥルエバ  Vivir es fácil con los ojos cerrados

29 作品賞: Vivir es fácil con los ojos cerrados

フォームの始まり

フォームの終わり

ゴヤ賞2014*作品賞候補者座談会2014年02月06日 19:28

★ゴヤ賞授賞式が目前になると、テレビ局や新聞社企画の作品賞ノミネート監督を招いての座談会が恒例となっています。ゴヤ賞、票の行方、製作の苦労、DVD海賊版、経済危機、映画界の現実など多義に渡って語りあっています(「エル・パイス」紙企画)。今年は平均年齢がぐっと下がって、グラシア・ケレヘタが≪最高齢≫と若返りました。各人賞の評判にやや神経質になっている時期なので、タテマエ&ホンネ半々の座談会となっています。授賞式前の総括も混ぜて各監督の近況をお伝えいたします。

 


★口を揃えて「映画を撮る環境でなくなった」こと、「有力なテレビのスポンサーがつかないと、仮に撮れても配給元が見つからない」など悲観的な意見が多かった。次回作が決まっていない「休閑中」の監督に顕著だった。長引く不況、脆弱な経済、政治の混迷、破格な消費税増税(チケット代の高騰)が映画界を脅かしている印象でした。しかしスペインの映画界が危機でなかった時代などなかったと思うんですよ。

(写真左より、フランコ、クエンカ、サンチェス・アレバロ、トゥルエバ、ケレヘタ)

 

 


ダビ・トゥルエバ1969年マドリード)Vivir es fácil con los ojos cerrados7部門)

現在は小説の新作を準備中、映画は目下予定がない。映画が産業として成り立たなくなって私たちは苦しんでいるが、映画館に足を運ばなくなった今の状況は1980年代の終わりに似ているという。良質の映画が沢山あったのに観に来なかった。私の世代は既に生活は安定しているはずなのにそうなっていない。以前だったら「今晩の夕食は何処で食べようか」だったが、「今晩はどうやって夕食にありつこうか」になっているという。

 

映画は社会を反映している。中流階級にボディブローが効いてきて、映画界も御多分にもれずとなっている。生き残るにはごく小さなプロジェクトだけでやるか、民間の大規模なテレビ局の援助を受けるかです。その援助を断ると、監督は(資金調達のための)別の戦いを始めなければならない。交渉が嫌だと配給元が見つからない。わたしのケースでは前作のMadrid 19872011)がそうでした(公開が翌年になり、主演の老ジャーナリスト役ホセ・サクリスタンが「フォルケ賞男優賞」を受賞したのが2013年でした。管理人)。 

 

海賊版の横行には、DVD関係者にも責任の一端があります。新聞を3カ月契約するとDVDが貰えた、と述べていました。

ゴヤ賞については、アスコナがよく言ってたことだが、疲労困憊のすえにご褒美なしで終わるのが普通なんだ、これは今でも同じことが言えると。予想は難しい、5人とも中堅だから。仮に75歳の監督がいれば間違いなくその人にいく。引退の花道になるからね。その年までは貰えなくてもいいんだよ。70ぐらいから意識しはじめて少し経って貰い引退すればちょうどいい。(ダニエル・サンチェス・アレバロから「じゃ、あなたもそうするの?」と聞かれて、「引退しないよ。ダニ、つまり私たちには挫折が必要だという意味だよ。特に君にはね。より良き人間、映画人になるためには辛い挫折の積み重ねが必要なんだ。まじめな話、幸運からさえ身を守るべきなんだ」と答えていました。受賞して欲しいのは「自分より≪戦友)ハビエル・カマラに」と言いきっています。過去に10回ノミネートされ成果はゼロだそうです(新人監督賞、脚本賞、その他を含めた数)。

アスコナRafael Azcona19262008):スペインを代表する脚本家。ゴヤ賞受賞は『ベルエポック』『にぎやかな森』『歌姫カルメーラ』『蝶の舌』、ホセ・ルイス・クエルダのLos girasoles ciegos”(2008)の脚色が遺作となった。翌年のゴヤ賞は16部門ノミネート、脚色賞を受賞した。半世紀以上に渡る彼の偉業を讃える受賞でもあった。脚本家としてのトゥルエバの才能を早くから注目して、トゥルエバのお師匠さんでもあった。

 


グラシア・ケレヘタ1962年マドリード)15 años y un día7部門)

本作が7作目になる。昨年は映画の先輩でもあった父エリアスの死去にともない数多くのセレモニーに出席して忙しかった。自分の映画人生も長くなりベテランの仲間入りになった。脚本を書いては撮り、書いては撮りして歩んできたが、今は執筆しても何時撮れるのだろうか分からない。映画を撮り続けられるかどうか不安になる。前なら良い物語に出会えば、その物語に相応しい方法を探したが、今は最初から如何に小規模に出来るか考えてしまう。いくつかシークエンスを描いて撮ることができたが、今は「シークエンスは1つ」です。若いプロデューサーに言われたことだが、「映画は既にローコストでなく、ノーコストだ」と。

 

トゥルエバの「世間では映画関係者は社会の周辺の人々だとは考えず、金持ちでいい暮らしをしていると誤解している。スペインでは、基本的に芸術を疑いの目で見ているのが大勢、こういう根本的な不一致がアート、文化、社会にはびこっていると思う。ジル・デ・ビエドマのような例が、最も悲惨な例なんだ」という意見に対して、「世間がインテレクチュアルな特質を持っている人々を理解するのは難しい」と応じていました。

Jaime Gil de Biedma 192990):スペイン≪50年世代≫のシュールリアリズムの重要な詩人の一人。同性愛者だったことで差別されペシミスティックな詩が多い。ジークフリード・モンレオンがEl cónsul de Sodoma2009)のタイトルで彼の伝記映画を撮った。主役のジョルディ・モリャが2010年のガウディ賞、ゴヤ主演男優賞にノミネートされた作品。

 

DVDの海賊版については、海賊版でタダ同然で観ることができるならそれで観るようになる。DVD市場はもはや死に体、トップ・マンタの人々を気の毒には思うが、どうしようもないと。

top manta というのは、違法コピーのCDDVDを繁華街で路上販売すること。警察が通報を受けて駆けつけると、急いでmanta(毛布)にくるんでドロンすることから付けられたようです。警官がいなくなるとまたショウバイを始める。

 

ゴヤ賞については、息子から「永遠に二番手だと」言われたらしく、「一つもないかも」と悲観的、それでも出来たら作品賞、だってスタッフ全員で頑張ったから。でもどんな賞でも嬉しい、次のプロジェクトを立ち上げる力になるから。エミリアノ・ピエドラが「どんな小さな賞でも貰うべきだよ。家に帰ったとき君がどんな賞を貰ってきたか誰も分からなくてもだよ」と教えてくれたそうです。

Emiliano Piedra193191):プロデューサー、代表作はカルロス・サウラのフラメンコ三部作(『血の婚礼』『カルメン』『恋は魔術師』)など。

 

 


マヌエル・マルティン・クエンカ1964年アルメリア)Caníbal (8部門)

次回作の予定がなく、目下休閑ちゅう。スペイン映画については、産業的に不確かだから常に不安定で、今は不確実の時代、何がモデルで、どうやるのがベターか分からない。すべてがあまりに細分化されて、どうやってプロデュースしているのかも不明です。変化が速くて、それぞれ一人で何作も掛け持ちしている。それは良くないですよ。だから突然、同時に3作ぐらいが完成している。おかしくないですか。(確かに最近の映画はプロデューサーの数が多くて誰が何を担当しているのか分からないし、俳優もじっくり一つの作品に取り組んでいる余裕はない。管理人)

 

映画を作る情熱も流行に左右される。ジャーナリズムとかコストのかからない方法の採用。これでは後退してるようなもので危険です。自分はそういうパッションとかモードを利用する気はない。配給元のチャンネルとか仲介者と交渉するのが不愉快なんです。「君はこうやって作りなさい、そうしたら私たちが配給してあげます」的なのが嫌なんです。それを飲めば大金が動きます。この世界はタダ働きになるケースが多い、例えばプジョーの工場でタダで働いたら「素晴らしい」なんて思いますか、誰も思いませんよね。

トップ・マンタについては、Caníbalを自分用に買ってしまった。トゥルエバから「消去するためにかい?」と聞かれて、「違うよ、思い出にとっとくためさ」と答えていました。

ゴヤ賞について、「決まっているよ、オリジナル作曲賞さ」と応じて皆を大笑いさせていました。何故ならノミネートされておりません!

 

 


ダニエル・サンチェス・アレバロ1970年マドリード)La gran familia española11部門)

次回作の脚本の執筆を始めており、「スリラー仕立て」のようです。キャスト陣も彼の黄金トリオ、キム・グティエレス、ラウル・アレバロ、彼の全作に出演しているアントニオ・デ・ラ・トーレに決定している。

データから判断すれば、毎年それなりに良い映画が作られていると楽観的。私たちは映画界を取りまく雑音にさらされているから、脚本は自宅で書こうとする。一方で現在生じていることを頭に叩き込むべきだし、スクリーンのなかで語るべきなんだ。また一方ですべてが悪い方向に向かっていることが僕をがんじがらめにしている。「いくつもシークエンスを書くな、どうせ撮れないのは分かってるだろ」と。

 

映画を作りつづけるのは悪いことばかりじゃない。これ以上の危機は来ない。想像力は危機を乗り越える強力な武器となるが、明らかに支配的なモデルではないかもしれない。映画祭の長い行列をみれば、この傾向が消えない限り、みんなが映画を見たがっているんだと思える。映画館に行くのは高いという考えが社会のなかに植えつけられている。(トゥルエバが「まったく馬鹿げている」と相槌をうっている。)

 

ゴヤ賞について、トゥルエバから「リラックスしてる?」と聞かれて、「僕はテニスにだって負けるのは嫌だよ」と返事して、「ゴヤ賞とテニスを比較するなんて」と呆れられていました。

La gran familia españolaがオスカー賞2014のスペイン代表作品の一つに選ばれたら、近所の人からまるで受賞したかのようにお祝いを言われた。「まだ候補者にもなっていないのにィ!」

 

 


フェルナンド・フランコ(1976年セビリャ)La herida6部門)

本作が長編デビュー作となるフランコは、第2作が進行中、現在次の脚本を書いている由。デビュー作がいきなりノミネートされたわけで、過去の映画界のことが分からないせいか、「自分には良くなっているのか悪くなっているのか分からないが、創造力豊かなもの、前とは異質なものが撮られている」と答えています。

 

この映画は90万ユーロしか資金がなく、プロダクションからは無理だと言われた。ストーリーが面白かったので実現できると思った。この仕事が好きだから仲間と一緒に常に映画を作ってきた。フィルム編集の仕事で生活していた。(テレビ局の援助を受けノーコストで映画を作ることには躊躇しているようだが、実績を積み上げている先輩のようにはいかない印象。)

ゴヤ賞については、「一つは欲しい。もし(主役の)マリアン・アルバレスが主演女優賞をもらえたら」と発言して、ケレヘタとサンチェス・アレバロから同時に「やめてよ、もう」と言われていました。結構みんな神経がピリピリしているようです。

 

★トゥルエバがノミネートの数を果物屋から「ゴヤ賞は1つですか」と聞かれたので、「いいや、7つだよ」と答えたら、「えっ、7つも映画つくったの?」と聞き返されてギャフンとなった話で締めくくりました。映画ファンは「ゴヤ賞、ゴヤ賞」と大騒ぎするが、関係ない人にはこんなものです。 


サンティアゴ・サンノウ”Alacran enamorado”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年02月02日 14:26

★ラテンビート2009で上映されたなかで際立っていた映画の一つが、サンティアゴ・A・サンノウの第1『クアホ、逆手のトリック』2009)でした。その後、スペイン・サッカー連盟設立100周年のドキュメンタリー、また西アフリカ、ギニア湾岸のベニン共和国出身の父親が37年振りに故国に帰還するドキュメンタリー**を撮っていて、なかなか新作が届かなかった。昨年4月スペイン公開となった第2Alacrán enamoradoオスカー賞2014スペイン代表最終候補4作の一つに残った情報をキャッチ、ゴヤ賞ノミネートを待っておりました。字幕入り上映が期待できますからね。

 


  Alacrán enamoradoScorpion in Love

製作:エル・モンヘ・ラ・ペリクラAIE、モレナ・フィルム

監督:サンティアゴ・サンノウ

脚色:サンティアゴ・サンノウ、カルロス・バルデム(小説と脚色)

撮影:フアン・ミゲル・アスピロス

音楽:ヴォルフランク・サンノウ?(Woulfrank Zannou

美術:リョレンス・ミケル(Llorenç Miquel

データ:スペイン・スペイン語 2013 ドラマ・スリラー ボクシング 人種差別 ナチズム

  2013412日スペイン公開

 

キャスト:アレックス・ゴンサレス(フリアン・ロペス‘アラクラン’)、カルロス・バルデム(カルロモンテ)、ミゲル・アンヘル・シルベストレ(ルイス)、Judith Diakhate(アリッサ)、ホビック・コイヒケリアン(ペドロ)、ハビエル・バルデム(ソリス)、エリオ・トファナ(フェリペ‘ロコ’)、カルロス・カニオヴィスキー(フリアン父)、マレナ・グティエレス(フリアン母)他

 

プロット:やり場のない憎しみで凝りかたまった青年フリアンの物語。サソリのような毒をもったフリアンと親友ルイスは、ネオナチ主義者のカリスマ「ソリス」がリーダーの暴力グループの一員だ。ボクシング・ジムに通うようになり、そこで引退ボクサーのトレーナー「カルロモンテ」に出会う。彼の誠実さに惹かれていくなかで、ジムで働くアリッサと恋に落ちてしまう。少しずつ人生を変えようとするが、グループは彼の離脱を許さない。血と汗と涙が流れる、闘いと解放の物語。

 

★ゴヤ賞ノミネート:助演男優賞(カルロス・バルデム)、新人男優賞(ホビック・コイヒケリアン)、オリジナル脚色賞(監督、カルロス・バルデム)、美術賞(リョレンス・ミケル)の4部門

オリジナル脚色賞(サンノウ監督、カルロス・バルデム)、カルロス・バルデムの同名小説の映画化。彼は作家として既に数冊の小説を出版しており、Muertes Ejemplaresが、1999年ナダル賞の審査員特別賞(佳作)を受賞しています。

ゴヤ賞以外のノミネート:シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)に、オリジナル脚色賞、助演男優賞、新人男優賞と、美術賞以外はゴヤ賞と同じセクションにノミネート。

 

 


サンティアゴ・A・サンノウ Santiago A Zannou は、1977年マドリードのバリオ、カラバンチェル生れ。1970年ごろベニンから移民してきた父とアラゴン生れの母の三人兄弟の末っ子として生れた。音楽担当のWoulfrankは長兄で音楽プロデューサーをしており、デビュー作『クアホ、逆手のトリック』で既にゴヤ賞オリジナル歌曲賞を受賞しています。10代後半にマジョルカに移り店員やボーイ、3部リーグのチームでサッカーをしていた。映画を天職にしようとしたきっかけは、兄が担当していた短編のサウンドトラックを手伝ったことだった。その後バルセロナのカタルーニャ映画スタジオ・センターで映画を学んだ。同じ時期に生れ故郷マドリードを訪れた折り、同じカラバンチェル生れの「エル・ランギ」ことフアン・マヌエル・モンティーリャと知り合い、これが『クアホ、逆手のトリック』誕生に繋がっていった。

(写真はゴヤ賞2009授賞式の舞台に上がった監督とフアン・マヌエル・モンティーリャ)

フィルモグラフィー

2004Cara sucia 短編20分、ゴヤ賞短編映画賞ノミネート

2005 Mercancias 短編15

2008 El truco del manco クアホ、逆手のトリックゴヤ賞新人監督・新人男優・歌曲賞受賞、ラテンビート2009上映時の邦題

2009 El alma de La Roja ドキュメンタリー(La Roja赤は選抜チームのユニフォームの色)

2011 La puerta de no retorno **ドキュメンタリー

 

 


カルロス・バルデムCarlos Encinas Bardem 俳優・脚本家・作家。1963年、女優ピラール・バルデムと父ホセ・カルロス・エンシナス(1995没)の長男としてマドリードに生れる。オスカー俳優ハビエルは弟。1955年カンヌで国際批評家連盟賞を受賞した『恐怖の逢びき』の監督フアン・アントニオ・バルデムは伯父(2002没)。マドリード自治大学で歴史学を専攻。ゴヤ賞がらみでは、2010年にダニエル・モンソンの『第211号監房』(2009)のアパッチ役で助演男優賞にノミネートされただけ。同作でスペイン俳優組合賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、他を受賞しています。

今年の助演男優賞の面々はいささか精彩を欠くのではないでしょうか。主演とダブル・ノミネートのデ・ラ・トーレ、ロベルト・アラモ、フアン・ディエゴ・ボトとドングリの背比べの感がします。今回はボクシングのトレーナー役カルロス・バルデムの可能性が高いと予想しています。弟ハビエルのオスカー賞で母ピラールが流した涙が再び見られるかもしれない。

(写真はアレックス・ゴンサレスのヘルメットを調整するバルデム、映画のワンシーンから)

 

 


★新人男優賞のHovik Keuchkerian の正確な読みが分かりませんが、一応ホビック・コイヒケリアンと表記しました。新人男優賞紹介記事の繰り返しになりますが、1972年レバノン共和国の首都ベイルート生れ。父親はドイツ人、母親がナバラのスペイン人、3歳からマドリードの北西に位置するアルペドレテ(エル・エスコリアルがある)で育つ。元ヘビー級チャンピオンのボクサー、KO勝ち15回という記録保持者。2004年引退後は詩人(数冊出版)、コメディアン、俳優として活躍している異色の人物。本作はボクサー物語ですが、本物のボクサーは「僕一人」と言ってます。ボクシングの指導もしたわけです。40歳を過ぎて変身を遂げた≪新人≫です。(写真は本作撮影時のコイヒケリアン)

 

★ストーリーを読んで「観たいなぁ」と思う人は多くないと思う。殆どの人が「これってクリント・イーストウッドの『ミリオンダラーベイビー』のスペイン版?」、はたまた『ロミオとジュリエット』の現代版をイメージするのじゃないか、何しろ≪恋におちたスコルピオン≫なんだから。デビュー作『クアホ、逆手のトリック』を見ていなければ、サンノウ監督の履歴を知らなければ、網に引っ掛けなかったと思う。バルデム兄弟が出ているとはいえ(ハビエルのファナティックな演技は必見)、キャスト陣だけでは魅力に欠けますから。たぶんストーリーで見せる映画ではなく、役者たちの「眠っていた才能」の掘り起こしに成功した演技を楽しむ映画なんだと思う。俳優たちが今までのテクニックを一度ご破算にして生れかわった姿を見る映画なのかもしれない。サトウキビのように彼らを100パーセント絞れるだけ絞った、「私は製糖工場の経営者」と監督。

 

★人種差別や性差別の映画も過去にたくさんある。スタンリー・クレイマーの『招かれざる客』(1967)は、黒人男性と白人女性の結婚をめぐる家族の葛藤を描いてキャサリン・へプバーンがオスカー像を手にした。スペンサー・トレイシーの遺作となった作品。また西ドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが描いた『不安は魂を食いつくす』(1974、未公開、DVD2011発売)は、白人とアラブ人の結婚がテーマ。監督は「かつてスペインはアラブ人とユダヤ人を追放した歴史を持つ、そして今日ではアフリカ移民を追い出そうとしている国、人種差別もネオナチも過去の問題ではない」と言い切る。

 

★自分が生まれ育ったマドリードのカラバンチェル地区は、貧しく慎ましく希望がもてない人々が多い。「カラバンチェルを訪ねたとき、失業して親の家に戻ってきた友人が多かった」。「悪の温床になっているところから抜け出すには、監督とか、芸術家とか、ネオナチとかになる・・・」とも。長引く不況で20代若者の失業率は高く、大幅な消費税増税とあいまって映画館に足を向けない。「観客はバカじゃないからつまらない映画は観てくれない」のですね。

 

フェルナンド・フランコ”La herida”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月31日 14:22

★作品賞ノミネーションの「落ち穂拾い」、以下の2作品はゴヤ賞ノミネーション以前にご紹介しておりますが、少し追加いたします。

 

  La herida Wounded

★サンセバスチャン映画祭2013の正式出品作、主演のマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。その記事はコチラです。またフォルケ賞については結果のみお知らせしましたが(1月14日)、本作は作品賞とマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。

  


★ゴヤ賞ノミネート:作品賞
コワルスキ・フィルム、S.L. コルド・スアスア他)、新人監督賞(フェルナンド・フランコ・ガルシア)、オリジナル脚本賞(監督とエンリク・ルファス)、主演女優賞マリアン・アルバレス)、録音賞(アイトル・ベレンゲル・アバソロ、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス)、編集賞(ダビ・ピニリョス)の6部門

 

下馬評では最有力候補のようですが、新人監督賞と主演女優賞の受賞は間違いないでしょう。録音賞のハイメ・フェルナンデスはLa gran familia españolaとのダブル・ノミネートです。

 

  *CaníbalCannibal

★トロント国際映画祭2013の参加作品としてご紹介した記事はコチラです。気になる贔屓監督として早々とアップ致しました。主演のアントニオ・デ・ラ・トーレについてもご紹介しています。本作はダニエル・サンチェス・アレバロのLa gran familia españolaと同様、2014年オスカー賞スペイン代表作品の最終候補作品でしたが、結果はガルシア・ケレヘタの15 años y un díaになりました。

  


★ゴヤ賞ノミネート:作品賞(ラ・ローマ・ブランカP.C.S.L. マヌエル・マルティン・クエンカ他)、監督賞(マヌエル・マルティン・クエンカ)、オリジナル脚色賞(監督、アレハンドロ・エルナンデス)、主演男優賞アントニオ・デ・ラ・トーレ)、新人女優賞(オリンピア・メリンテ)、撮影監督賞(パウ・エステベス・ビルバ)、 録音賞(エバ・バリーニョ他) 美術賞(イサベル・ビニュアレス)の8部門

 


好き嫌いがはっきり分かれる映画なので作品賞は難しいかなと思いますが、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード 孤独のかけら』のようなサプライズを思い出すと一概に言えません。

今年の主演男優賞は演技派揃い、デ・ラ・トーレは器用貧乏というかカメレオン俳優というか、星の巡り合わせも悪くて賞に恵まれない。「今までのなかで役作りが一番難しかった」とインタビューに答えていました。エドゥアルド・フェルナンデスはフォルケ賞を受賞したから、スペイン・アカデミーの皆さん、今回はハビエル・カマラかデ・ラ・トーレに投票してね。
(写真:主演の二人 サンセバスチャン映画祭にて)

 

ダビ・トゥルエバ”Vivir es facil con los ojos cerrados”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月30日 23:13

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(3

 


Vivir es fácil con los ojos cerradosLiving is Easy With Eyes Closed”)

製作:フェルナンド・トゥルエバ P.C. S.A.
(クリスティナ・ウエテ フェルナンデス=マキエイラ)
作品賞ノミネート

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ 監督賞・オリジナル脚本賞ノミネート

撮影:ダニエル・ビラル

音楽:パット・メセニー オリジナル作曲賞ノミネート

他のゴヤ賞ノミネート、主演男優賞(ハビエル・カマラ)、新人女優賞(ナタリア・デ・モリーナ)、衣装デザイン賞(ララ・ウエテ)の合計7部門ノミネート、ウエテ姉妹が揃ってノミネートされています。

 

キャスト:ハビエル・カマラ(アントニオ)、ナタリア・デ・モリーナ(ベレン)、フランセスク・コロメール(フアンホ)、ホルヘ・サンス(フアンホ父)、アリアドナ・ヒル(フアンホ母)、ロヘリオ・フェルナンデス(ブルーノ)、ラモン・フォントセレ(ラモン)他

ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーの映像も登場する。

 

データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 108分 
撮影地アルメリア県(アンダルシア州)
 1031日公開

サンセバスチャン映画祭2013コンペティション正式出品。

パーム・スプリングス映画祭2014「ラテン映画賞」受賞。カリフォルニア州のパーム・スプリングス市で1月に開催される国際映画祭。アマ・エスカランテの『エリ』と賞を分かち合いました。

 

プロット1966年、ジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来る。ビートルズの歌を教材に英語を教えていた高校教師のアントニオは、彼のヒーローに会おうと決心、休暇をとって旅に出る。道中家出してきた16歳フアンホと、何かから逃げてきた若い娘ベレンが仲間に加わり、1966年のアルメリアは3人にとって生涯忘れられない季節になる。

 


ダビ・トゥルエバ David Rodriguez Trueba 1969年マドリード生れ、監督・脚本家・作家・俳優・ジャーナリスト。トゥルエバ8人兄弟の末っ子、『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(ラテンビート2013上映)で初来日したオスカー賞監督フェルナンド・トゥルエバは実兄。母親に甘やかされて7歳まで学校に行かなかった話は有名。父親はタイプライターの訪問販売業を営み、そのタイプライターで幼少時から物を書いていたという早熟な子供だった。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業。1992年米国に渡り「アメリカン・フィルム・インスティチュート」脚本科に入学。

(写真はトゥルエバ監督、ロケ地アルメリアの海岸にて)

 

ゴヤ賞トレビア:テレビ映画Felicidades, Alberti1991)の脚本家として出発、長編映画La buena vida1996)がデビュー作、ゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1作に与えられる賞)を受賞した。2003年の話題作Soldados de Salaminaは、ハビエル・セルカスの同名小説の映画化、オスカー賞スペイン代表作に選ばれるも最終候補に残れなかった。またコペンハーゲン映画祭脚本賞、トゥリア賞(スペイン映画部門)を受賞したが、ゴヤ賞はノミネートに終わっている。大学在学中に脚本を書き始め、エミリオ・マルティネス・ラサロに認められ、後に彼の『我が生涯最悪の年』(1994の脚本を書き、ゴヤ賞1995脚本賞にノミネートされている。これまた受賞に至らずゴヤは「道険し」の感がありますね。

Los peores anos de nuestra vida日本スペイン協会創立40周年記念を祝して開催された「スペイン映画祭1997」で上映されたときの邦題。フアンホの両親役に扮するホルヘ・サンスとアリアドナ・ヒルが恋人役で出演している。ヒルはトゥルエバ監督と結婚していたが別れたようだ。

 

★ビートルズ・ファンなら題名を見て、ジョン・レノンの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967)から取られたことが分かるでしょう。ビートルズ映画を撮った監督リチャード・レスターの『ジョン・レノンの僕の戦争』撮影のため、レノンは実際にアルメリアに滞在していた。しかしこれはレノンの伝記映画ではない。1960年代スペインの、ちっとも言うことを聞かない生徒にうんざりした英語教師と出奔女性と家出少年三人の物語だ。時代は1966年と監督の生れる前のスペイン、民主主義の足音も遥か彼方、スペインは灰色に沈んでいた。アルメリアの人々は農業と漁業に従事して生活は貧しく、自由に憧れる若者にとってビートルズはまさにヒーロー、希望の星でもあった。

原題How I Won the War1967イギリス、パトリック・ライアンの同名小説の映画化。未公開だったがビデオが発売されたときに付けられた邦題(廃盤)。戦争の愚かさをブラック・ユーモアで笑い飛ばした映画で、本作のメタファーにもなっている。

 

 

 
        (写真左からフランセスク・コロメール、ハビエル・カマラ、ナタリア・デ・モリーナ)

 

★英語教師アントニオにはモデルがいる。監督によれば、ずっと以前のことだがアドルフォ・イグレシアスという記者が書いた「カルタヘナの英語教師」という記事を目にした。フアン・カリオンという美声の英語教師がビートルズの歌を使って英語を教えている。そしてジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来るというので会いに出掛けた、という記事だ。そこに先輩監督フアン・アントニオ・バルデムがフランコ没後の第1作として撮ったコメディEl puente1977、仮題「夏季休暇」)がひらめいた。主役のアルフレッド・ランダが夏季休暇を利用してバイクでマドリードからトレモリーノスへ旅をする話で、一種のロードムービー。そこでトゥルエバはカルタヘナ(ムルシア州)をアルバセテ(カスティリャ=ラマンチャ州)に変更してオリジナル脚本を書いたというわけです。

直訳だと「橋」ですが、休日に挟まれた平日に「橋」をかけて連休にする意味もあり、ここでは「夏季休暇」にした。読みかじりですが本作にもモデルがいたようです。横道になりますが、モスクワ映画祭グランプリ受賞作品、主役のアルフレッド・ランダが一躍注目を集め、この成功はマリオ・カムスの『無垢なる聖者』(1984)、ホセ・ルイス・クエルダの『にぎやかな森』(1987)へと繋がっていく。

 

★舞台となるアルメリア(県都)もかれこれ40年も経てば様変わりしていて、60年代を再現するのは難しかった。ここには2日間しかいなかった。ロケ地探しには苦労したようで、アルメリア県内の内陸部のタベルナス、ロダルキラル、地中海沿いのカボ・デ・ガタなどで撮影は行われた。

 


★新人女優賞にノミネートのナタリア・デ・モリー Natalía de molina は、アンダルシアの観光地ハエン近郊のリナレス生れ、グラナダで育った(正確な生年がIMDbでもアップされていないが、201311月に受けたインタビューで23歳と答えているので1990年ごろか)。俳優・歌手・バレエダンサー(短編で共演しているセリナ・デ・モリーナとは姉妹)。マラガ高等演劇芸術学校で2年間ミュージカルの基礎を学んだ後、マドリードに出て、演劇学校ガレージ・リュミエールGaraje Lumiere やスタジオ・コラッサEstudio Corazzaで演技を学ぶ。長編第1作でゴヤ新人女優賞にノミネートされた。インタビュアーから「スター誕生ですね」と言われて、「そうなれば嬉しい」と答えている。今年の新人女優賞は激戦だからどうでしょうか。

本作では独身で妊娠してしまった21歳のマラゲーニャ役、アンダルシア訛りが出来ることが出演の幸運を呼び込んだ。写真でも分かるようにナタリー・ポートマンに似ているが、よく言われるとのこと。彼女も踊れて演技できるから「とても光栄に思っている」由。

 


★フアンホ役のフランセスク・コロメールは、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』の少年アンドレウで既に新人男優賞をゲットしています。3年ですっかり若者になりましたが、あの独特の目ですぐ分かります。今回はカツラなしで登場のハビエル・カマラはご紹介するまでもないですね。

 

ダニエル・サンチェス・アレバロ”La gran familia espanola”*ゴヤ賞2014ノミネーション2014年01月27日 13:27

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(2

 


  La gran familia española Family United

製作:アトレスメディア・シネ(ミケル・レハルサ)、アティピカ・フィルム、S.L.(ホセ・アントニオ・フェレス)他 作品賞ノミネート     

監督・脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ 監督賞オリジナル脚本賞ノミネート

撮影:フアン・カルロス・ゴメス

音楽:Josh Rouse Do You Really Want To Be In Love? 歌曲賞ノミネート

アントニオ・デ・ラ・トーレとロベルト・アラモが揃って助演男優賞、パトリック・クリアドが新人男優賞にノミネート、他に編集賞(ナチョ・ルイス・カピジャス)、録音賞(カルロス・ファルオロ他)、特殊効果賞(フアン・ラモン・モリーナ他)、メイキャップ&ヘアデザイン賞(ロラ・ロペス他)を含めて10部門(ただし助演男優賞が二人なので≪11≫とカウントしている)の最多ノミネート。

 

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(長男アダン)/ロベルト・アラモ(次男ベンハミン)/キム・グティエレス(三男カレブ)/ミケル・フェルナンデス(四男ダニエル)/パトリック・クリアド(五男エフライン)/ベロニカ・エチェギ(クリス)/サンドラ・マルティン(モニカ)/アランチャ・マルティ(カルラ)/アリシア・ルビオ(マリサ)/エクトル・コロメー(父親)他

 

データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 撮影地マドリード(20128月下旬より10月中旬まで) 2013913日公開(封切り1週目732.000ユーロ)

ノミネート歴:シネマ・ライターズ・サークル2014にベロニカ・エチェギ助演女優賞・ロベルト・アラモ助演男優賞。

 

プロット:人生とはサッカーのようなもの、ゴールを入れる決まった方法は一つじゃない。戦略を練って決断し、気力と夢と喜びをシャカシャカ振って作ったカクテルだ。勿論ちょっぴり運も必要なんだ。妻に5人の息子を押しつけられ逃げられた父親は未だにそのトラウマから抜け出せない。長男は鬱ぎみ、その娘は次男の≪無垢なる≫オトナと大の仲良し、三男は恋人クリスを四男に横取りされたショックでアフリカへ2年振りに帰国する、そして今日2010711日に18歳の五男が花婿になる。花嫁カルラのお腹は既にサッカー・ボール、なのに幼馴染のモニカが忘れられない。あいにく今日は南アフリカ・ワールド・カップの決勝戦、招待客は結婚式などそっちのけ、スペインじゅうがテレビに釘付けだ。スペインが決勝戦まで勝ち進むなんて誰が予想した!

 

(写真:ダニエル・サンチェス・アレバロ)

ダニエル・サンチェス・アレバロDaniel Sanchez Arevaloは、1970年マドリード生れ。父ホセ・ラモン・サンチェス、母カルメン・アレバロは共にシネアスト、母親は本作にも出演している。以前にご紹介したことの繰り返しになるが、長編4作となるLa gran familia español”は、負け組5人兄弟のミクロな世界を描きながら、今やEUのお荷物となっているスペインの、嘘でかためた社会が抱えるマクロな問題にメスを入れている。彼自身16年間も精神分析を受けている思惑の人だから、兄弟の人格には彼が少しずつ投影されている。背景にハリウッドの古典、ブロードウェイでもロングランしたスタンリー・ドーネンの『掠奪された七人の花嫁』(1954)への目配せがあると語っておりましたが、あちらのようにハッピーエンドにはなりません。ワールド・カップ優勝のような目出度しメデタシでもないようです。

監督が「兄さん、兄さん」と呼んでるアントニオ・デ・ラ・トーレの紹介はあちこちでしてるから、今回初ノミネートの2人だけに致します。

 

(写真:ロベルト・アラモ)

ロベルト・アラモ Roberto Alamo 1970年マドリード生れ。テレビ出身、人気TVシリーズAguila Roja200913)にレギュラー出演。サンチェス・アレバロの第2作『デブたち』、公開作品ではアルモドバルの『私が、生きる肌』、ボジャインの『あなたに目をあげる』、未公開だが最近セルバンテス文化センター土曜映画上映会(字幕なし)で上映されたダビ・セラーノのDias de fútbol2003)、2012年ゴヤ賞新人監督賞他ノミネートで話題となったパウラ・オルティスのDe tu ventana a la mía2011)などがある。ゴヤ賞ノミネートは今回が初めて

 

                     (写真:左からアランチャ・マルティ、パトリック・クリアド、サンドラ・マルティン)

パトリック・クリアド Patrick Criado 1995年マドリード生れ。テレビ出身、ロベルト・アラモと同じTVシリーズAguila Roja200913)のヌーニョ役でお茶の間にはお馴染み、ホセ・ラモン・アジェラのAguila Roja, la pelicula2011)にも同役で出演。本作の年齢設定が18歳、実年齢を演じたわけです。映画デビューはエミリオ・マルティネス・ラサロのLas 13 rosas2007)、本作は2008年ゴヤ賞作品賞以下10部門を制覇、次のホセ・ルイス・クエルダのLos girasoles ciegos2008)も2009年ゴヤ賞作品賞以下8部門を受賞していて、最初の出だしから恵まれている。ただし本人のゴヤ賞ノミネートは今回が初めて甘いマスクだけでは生き残れない。

 

★今年は混線状態だからノミネーションの数だけでは判断できないが、いくつかは受賞するでしょう。サンチェス・アルバロ監督は第1作『漆黒のような深い青』からラテンビートやスペイン映画祭などで紹介されている珍しい存在。愛あい、涙なみだ、そして品あるユーモア、今年のラテンビートも期待できるかな。


グラシア・ケレヘタ”15 años y un día”*ゴヤ賞20142014年01月26日 11:26

★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(1


 *15 años y un día15 Years and One Day

製作:Tornasol Films S.A. / Castafiore Films S.L. ヘラルド・エレーロ 作品賞ノミネート

監督:グラシア・ケレヘタ (監督賞ノミネート

脚本:グラシア・ケレヘタ、アントニオ・メルセロ

撮影監督:フアン・カルロス・ゴメス (撮影賞ノミネート)

音楽:パブロ・サリーナス、アロン・ピペル、セシリア・フェルナンデス・ブランコ

   (歌曲賞ノミネート、“Rap 15 años y un día”)

キャスト:ティト・バルベルデ(マックス)/マリベル・ベルドゥ(マルゴ)/アロン・ピペル(ホン)/ベレン・ロペス(アレド)/スシ・サンチェス(カティ)/ボリス・クカロン(トニ)/パウ・ポチ(ネルソン)/スフィア・モハメド(エルサ)他


 (写真:アロン・ピペルとマリベル・ベルドゥ)

上記以外のノミネート:ティト・バルベルデ(主演男優賞)、マリベル・ベルドゥ(助演女優賞)、ベレン・ロペス(新人女優賞)合計7部門

データ:スペイン・スペイン語 2013 96分 ドラマ 撮影地 Alacant(バルセロナ市)

オスカー賞2014スペイン代表作品、モントリオール映画祭2013出品、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペインで上映、他。

 

受賞・ノミネート歴

マラガ映画祭2013「金のジャスミン」作品賞・「銀のジャスミン」脚本賞

シネマ・ライターズ・サークル賞2014(スペイン)ノミネート:作品賞・監督賞・男優賞・助演女優賞・脚本賞・新人女優賞

 

プロット:思春期の混乱の中にある若者ホンと退役軍人の祖父マックスの物語。母親のマルゴはホンが退学処分を受けると、息子の将来を考えてコスタ・デ・ラ・ルスの小村で暮らす父に託そうと決心する。危険な年頃の孫、退役後の人生を静かに心地よく暮らしたい祖父、二人は互いに抑制と不安を抱えて向き合うことになる。

 

(写真:アロン・ピペルとティト・バルベルデ)

グラシア・ケレヘタGracia Querejeta監督については若干「ゴヤ賞2014ノミネーション①」で写真とともにご紹介しております。1962年、大物プロデューサーだった父エリアス・ケレヘタと母マリア・デル・カルメン・マリンとの間にマドリードで生れる。母親はマイキ・マリンMaiki Marínの名でサウラやエリセの作品を手掛けている衣装デザイナー、娘の映画もデビュー以来ほぼ全作に携わっています。さしずめ両親の「七光り」という幸運の星の下で映画人生を始める。女優には全く興味がなく、マドリード・コンプルテンセ大学で古代史を専攻した。   

主要長編作品

1992Una estación de paso バジャドリード映画週間特別審査員賞受賞

1994El último viaje de Robert Rylands シネマ・ライター・サークル賞作品・監督・撮影・音楽・編集を受賞

1999Cuando vuelvas a mi lado サンセバスチャン映画祭特別審査員賞(監督)、撮影賞を受賞

2004Héctor マラガ映画祭金のジャスミン作品賞、女優賞(アドリアナ・オソレス)受賞

2007Siete mesas de billar francés ゴヤ作品賞・監督賞ノミネート。主演女優賞(マリベル・ベルドゥ)、助演女優賞(アンパロ・バロ)受賞

ドキュメンタリー、短編、2007年からテレビ・シリーズ多数。特に2007年からはテレビの仕事が多い。昨年の暮、新しいテレビ・シリーズがクランクアップしたばかり、今年お茶の間に登場する。

 

★テーマに家族を取り上げることが多いせいか、本作がオスカー賞2014スペイン代表作品に選ばれた際の記者会見でも同じ質問がでた。「こういうテーマが好きなこともあるが、息子が2歳くらいのとき夫と別れた。一人で子供を育てるのは常に不安で、息子との関係も緊密すぎてぎすぎすしたものがあった。家族のテーマを追求するなかで不利な点や複雑さを解消して喜びや利点に変えるべきだと考えるようになった」と語っている。マラガ映画祭でも「4年前に息子の身の上に起こった私自身の恐怖が織り込まれている」とも。スペインの若者は夢を見ることができなくなっており、彼らを取りまく環境はゾッとするようなものということです。これはスペインに限りませんね。

 

★本作は父エリアス・ケレヘタのプロデュースなしで作られた最初の作品だが、今後も父の助けなしで作ることになる。次回作はマリベル・ベルドゥを主役にして、タイトルもFelices 140に決まり、6月には撮影に入るということです。

 

第28回ゴヤ賞ノミネーション⑦2014年01月21日 12:21

ゴヤ栄誉賞の胸像、ハイメ・デ・アルミニャンの手に 120日(現地時間)マドリードのカナル劇場で今年の候補者が参加して授賞式がありました。司会者カエタノ・ギジェン・クエルボが式進行、アカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョの「ハイメ、この会場で一番若々しいのはあなたです」というゴヤ賞初受賞のお祝いに始まり、半世紀以上に渡るスペイン映画とテレビの功績に尊敬と感謝の言葉を贈りました。Mi querida señoritaも『エル・ニド』もゴヤ賞がなかった時代の映画、El palomo cojoはノミネートだけに終わったから≪初≫受賞なのでした。

監督は自分の映画については語らず、映画に対する熱い思いを語った。まだ映画がヨチヨチ歩きだった頃に活躍したカルメン・セビリャやアウロラ・バウティスタに触れ、あの時代の映画は空中ブランコや猛獣使いが華だったサーカスのようだったと。つまり映画は観客に笑いと驚きを届けるものだったということでしょうか。最後に「本当にホントにありがとう。もしここが闘牛場だったら、“Juncal”の歌に乗って喝采を浴びながら闘牛場を一周したい気持ちです」と締めくくった。「フンカル」というのは、引退した花形マタドールの渾名をタイトルにした人気テレビ・シリーズのタイトル、今は亡きパコ・ラバルがフンカルに扮したアルミニャンの代表作です。

 

(写真はフリア・グティエレス・カボからゴヤ胸像を受け取るアルミニャン、
後方にハビエル・カマラやペレレ・パベスの顔も見える)

 

続々・落ち穂拾い

ガウディ賞(カタルーニャ語以外の映画部門)で一番人気のLos últimos díasが、特殊効果賞・プロダクション賞の2つとはちょっと意外です。バルセロナとマドリードでは空気というか温度差が違うんですね。

(写真:出演のホセ・コロナドとキム・グティエレス)

*特殊効果賞ではフアン・ラモン・モリーナがLa gran familia españolaLas brujas de Zugarramurdiでダブル・ノミネート、昨年受賞のフェリックス・ベルヘスはないとして、La gran familia españolaが作品賞か監督賞を取ればフアン・ラモン・モリーナ他になるか。仮りにガウディ賞を取ったとしても難しそうかな(22日発表)。この手の映画はハリウッド製の類似作品が多いから、きちんとドラマが描かれているか否か決め手になります。

*プロダクション賞は脈がありそう。ジョセプ・アモロスJosep Amoros は、昨年『ブランカニエベス』でノミネート、同年ガウディ賞にもフェルナンド・ゴンサレス・モリーナのTengo ganas de tiでノミネートされています。今年は本作でゴヤとガウディ両方のノミネートです。賞には関係ありませんが、公開作品にジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス/無名恐怖』(1999)があります。

 

メイク・ヘアメイク賞ノミネートのエウヘニオ・ミラのGrand Piano は、Los últimos díasと同じくガウディ賞にもノミネートされている作品。早くも3月には『グランドピアノ~狙われた黒鍵』の邦題で公開されるようで、アメリカとの合作だとさすがに早い。プロモーションにかけるお金がハンパじゃないし、これはガウディ賞のところでも書いたように言語は英語です。主演のピアニストにイライジャ・ウッド、彼を狙うスナイパーにジョン・キューザックとキャスト陣も申し分なしだ。


*アナ・ロペス・プイグセルベル(主にメイキャップ)、ベレン・ロペス・プイグセルベル(主にヘアデザイン)は姉妹のようですね。アナはホセ・マリア・カステルビのPoppers1984)でデビュー、アメナバルの『海を飛ぶ夢』でゴヤ賞受賞(ハビエル・バルデムに6時間かけてメイキャップした話は今でも語り草)、ホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』、アメナバルの『ザ・アザーズ』、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ~最後のガンマン』(劇場未公開、WOWOW放映)でノミネートされています。30年のキャリアの持ち主です。ベレンの初仕事は、マヌエル・イボラのコメディOrquesta Club Virginia1992)、『海を飛ぶ夢』以外はアナと同じです。ゴヤ賞以外では二人とも公開代表作として『チェ28歳』『チェ39歳』があります。