ミシェル・フランコの最新作「Memory」*ベネチア映画祭20232024年07月08日 11:24

     ジェシカ・チャステイン主演の傷ついたラブストーリー「Memory

 

       

 

★昨年の第80回ベネチア映画祭2023の記事など今更の感無きにしも非ずですが、メキシコの監督ミシェル・フランコの長編8作目Memory」の紹介です。主演がジェシカ・チャステインピーター・サースガードということですから言語は英語です。若年性認知症を患っている主人公を演じたサースガードがベネチアの男優賞ヴォルピ杯を受賞しています。ベネチアにはサースガードと結婚した女優で2021年に『ロスト・ドーター』で監督デビューも果たしたマギー・ジレンホール(英語読みギレンホール)も出席していた。

   

  

      (左から、ミシェル・フランコ監督、ジェシカ・チャステイン、

       ピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023フォトコール

  

★第77回ベネチア映画祭2020銀獅子審査員グランプリ受賞のNuevo orden」(20、『ニューオーダー』公開)以来、フランコ映画は記事にしておりませんでした。翌2021年、同じベネチアFFにノミネートされた7作目Sundown」(メキシコ・スイス・スウェーデン)は、舞台をメキシコのアカプルコに設定していますが、キャストはティム・ロスとシャルロット・ゲンズブール、言語は英語とスペイン語でした。メキシコのイアスア・ラリオスがベレニス役で共演していました。ラリオスは最近発表になったアリエル賞2024で最多ノミネーション15部門のリラ・アビレスの「Tótem」に出演している演技派女優、TVシリーズ出演が多そうで受賞歴はありませんが、ポストプロダクションで主役に起用されている映画が目白押しで将来が楽しみです。

6作目『ニューオーダー』(20)の紹介記事は、コチラ20220613

Tótem」(23)の作品紹介は、コチラ20230831

 

ミシェル・フランコ(メキシコシティ1979の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、以下にアップしております。監督にとどまらず制作会社「Teoréma」を設立して、プロデューサーとしてラテンアメリカ諸国(ロレンソ・ビガスの『彼方から』『箱』など)や独立系の米国映画(ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』など)に出資して映画産業の発展に寄与しています。

4作目『ある終焉』(16)は、コチラ2016061518

5作目『母という名の女』(17)は、コチラ20170508

 

   

 Memory

製作:High Frequency Entertainment / Teoréma / Case Study Films / MUBI / 

   Screen Capital / The Match Factory

監督・脚本:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カペ

編集:オスカル・フィゲロア、ミシェル・フランコ

キャスティング:スーザン・ショップメーカー

プロダクションデザイン:クラウディオ・ラミレス・カステリ

製作者:エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、ミシェル・フランコ、ダンカン・モンゴメリー、アレックス・オルロフスキー

 

データ:製作国メキシコ、米国、2023年、英語、ドラマ、103分、撮影地ニューヨーク、公開米国、イギリス、アイルランド、イタリア、トルコ、ポーランド、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、デンマーク、スウェーデンなど多数

映画祭・受賞歴:第80回ベネチア映画祭2023コンペティション部門ノミネート、男優賞ヴォルピ杯受賞(ピーター・サースガード)、キャスティング・ソサエティ・オブ・アメリカ(キャスティング賞スーザン・ショップメーカー)、トロントFF、チューリッヒFF、シカゴFF、モレリアFF、ほかBFIロンドン、シンガポール、シドニー、各映画祭で上映されてる。

 

キャスト:ジェシカ・チャステイン(シルビア)、ピーター・サースガード(ソール・シャピロ)、メリット・ウェヴァー(シルビアの姉妹オリビア)、ジェシカ・ハーパー(シルビアの母親サマンサ)、ブルック・ティムバー(シルビアの娘アンナ)、ジョシュ・チャールズ(ソールの兄弟アイザック)、エルシー・フィッシャー(サラ)、他多数

 

ストーリー:シルビアとソールの物語。シルビアは10代の娘を育てているシングルマザー、ソーシャルワーカーとして忙しい毎日を送っている。克服しようとしているアルコール依存症は、幼少期の虐待の結果による。姉妹のオリビアとは関係を保っているが、母親サマンサとは疎遠になっている。ソールは最近妻を亡くして兄アイザックと暮らしている。記憶が少しずつあいまいになっていく若年性認知症に直面して落胆の日々を過ごしている。シルビアは高校の同窓会の帰途、先輩だったソールにストーカーされる。シルビアはかつて彼女をレイプしようとした少年たちの一人と間違える。二人の漂流者の意外な出会いは、シルビアの日常生活に混乱を生じさせてくる。多くの記憶を覚えている人と記憶を忘れ始めている人のあいだのラブストリー。

   

    

     (ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード、フレームから)

   

     「チャステインはハリウッドでもっとも輝いている女優」と監督

 

★記憶に優れている人とすべてを忘れてしまう人との間の愛は不可能な物語になるが、その行きすぎた世界観に誠実に向き合う。最初の出会いの一連の不幸は、直ぐに誤解であることが分かる。トラウマに囚われている男と女をテーマを撮りつづけている監督にとって、それだけでは充分ではないでしょう。監督は登場人物の立ち位置を外見が異なるだけの社会的文脈に設定し、彼らの出会いにある一定の意味を与えて、心の傷を掘り下げ癒すのではなく、反対にトラウマを追加していく。

   

      

   

            (シルビアとソール、フレームから)

   

★インタビューでジェシカ・チャステイン起用の理由を質問された監督は、「チャステインが今ハリウッドでもっとも輝いている女優だから」と応じている。彼女が相手役ソールにピーター・サースガードを推薦したそうで、本作が二人の初共演の由。ジェシカ・チャステインは1977年カリフォルニア州サクラメント生れ、女優、製作者。キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』12)主演でゴールデングローブ賞を受賞、製作も兼ねたマイケル・ショウォルター『タミー・フェイの瞳』21)でアカデミー主演女優賞を受賞している。

 

        

★女性の権利を守る活動家でもあり、映画で語られる現実とかけ離れた女性像に落胆しているフェミニスト。昨年、全米映画俳優組合のストライキ中にベネチア映画祭に出席するに際し、かなり躊躇した由。組合員がストライキ中に過去現在にかかわらず「出演した映画の宣伝をすることは禁じられている」からです。しかし本作が資金不足のインディペンデント映画であったことで了解されたという。というわけで「SAG-AFTRA ON STRIKEとプリントされたTシャツを着てフォトコールに出席した。

SAG-AFTRA(サグ・アフトラ)映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟、米国の労働組合。

   

       

    (ジェシカ・チャステイン、ベネチア映画祭202398日、フォトコール)

 

★ピーター・サースガードは、1971年イリノイ州ベルビル生れ、俳優。ビリー・レイの『ニュースの天才』03)で全米映画批評家協会助演男優賞受賞、サム・メンデスの『ジャーヘッド』(05)、イギリス映画でロネ・シェルフィグの『17歳の肖像』(09)、ロバート・F・ケネディに扮したパブロ・ララインの『ジャッキー/ファーストレディ』(16)、他ヴィーナ・スードの『冷たい噓』(20)に主演、上述したように妻マギー・ジレンホールが監督デビューした『ロスト・ドーター』にも出演、本作でジレンホールがベネチア映画祭2021の脚本賞を受賞しており、夫妻にとってベネチアは幸運を呼ぶ映画祭となった。『ジャーヘッド』で共演したジェイク・ギレンホールは義弟になる。

   

      

   (マギー・ジレンホールとピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023

 

        

       (ヴォルピ杯のピーター・サースガード、同映画祭授賞式)

 

スタッフ紹介:メキシコ・サイドの製作者エレンディラ・ヌニェス・ラリオスは、フランコと一緒に『ニューオーダー』、ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』や、サンセバスチャンFF2023 オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた、ダビ・ソナナの「Heroico / Heroic」を手掛けている。米国のダンカン・モンゴメリーは、チャーリー・マクダウェルの『運命のイタズラ』(22)、サンセバスチャン映画祭2015で監督のピーター・ソレットがセバスティアン賞を受賞した『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)などが字幕入りで鑑賞できる。

    

  

     (右2人目がエレンディラ・ヌニェス、右端は映画祭ディレクターの

      ダニエラ・ミシェル、モレリア映画祭2023フォトコール)

 

★フランコが信頼して撮影を任せているのがイヴ・カペ1960年ベルギー生れ、フランコ映画では『ある終焉』、『母という名の女』、『ニューオーダー』、「Sundown」と連続してタッグを組んでいる。公開作品が多いフランス、ベルギー映画では、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(12)を筆頭に、時系列に列挙するとマルタン・プロボの『ヴィオレット ある作家の肖像』(13)、『ルージュの手紙』(17)、セドリック・カーンのコメディ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』(19)、エマニュエル・ベルコの『愛する人に伝える言葉』(22)などがある。


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