マルク・レチャ、息子への愛の賛歌*サンセバスチャン映画祭2015 ⑩2015年10月01日 15:08

        テーマは父性についての考察

 

★結果は無冠に終わりましたが、オフィシャル・セレクションにノミネートされていたマルク・レチャUn dia perfecte per volar (Un dia perfecto para volar)が静かな感動を呼び起こしていたようです。オリジナル版はカタルーニャ語です。父親と7歳になる息子ロックの物語。子供は父親手作りの凧を空高く揚げたいと思っている。風が吹いてくるが一人で揚げられない、凧の糸が灌木の茂みに引っ掛かってしまって解けない、父親の手助けが必要だ。自然のまっただ中で、父と子はゆったりと過ごす。息子にせがまれて、父親はいつもお腹をすかしている巨人の話、幻覚キノコや赤い耳のウサギの話を語っている。次第に現実と幻想の境がぼやけていく。これは父性とは何かについての個人的な考察だ。

 


    (サンセバスチャン映画祭に出席した出演者とスタッフ、右端がレチャ監督)

 

  Un dia perfecte per volar (Un dia perfecto para volar)

製作:Batabat / カタルーニャTV / スペイン国営テレビTVE

監督・脚本:マルク・レチャ

撮影:Helene Louvart

音楽:パウ・レチャ(監督の兄弟)

データ:スペイン、カタルーニャ語、2015年、ミニ長編の70分、撮影地バルセロナ近郊のガラフGarraf自然公園(シッチェス市)、スペイン公開1023

キャスト:セルジ・ロペス(父親)、ロック・レチャ(息子)

 


           (凧を飛ばそうとするセルジ・ロペスとロック少年)

 

★子を演じるのは、いや演じているのではないようだが、監督自身の息子ロック、未だ上の前歯が生えかわっていない。幼児というほど幼くないが少年ともいえず、現実と幻想の垣根が低い年頃だ。サンタの存在に疑いを抱き始めているが、毎年枕元にあったプレゼントを忘れない。この年頃は短く、総じて体験主義者だから存在しているほうに傾く。カメラの前でも物怖じしない。撮ってるのは大好きなパパだし、パパ役はお隣りの小父さんだから、子供は自由で自然にふるまっている。ここに出てくる父親は、私たちが見なれている、生涯にわたって息子を苦しめる映画の対極にあるようだ。

 


           (大空に舞い上がった凧、ガラフ自然公園にて)

 

★父親にはセルジ・ロペス、セルジ・ロペスで思い出すのは、ギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』で憎きファッシスト、少女の義父になったビダル大尉だ。しかしここでは息子に限りない愛をそそぐ父親になった。レチャ監督とロペスは友人というよりお隣りさん、だからロックにとっては隣りの小父さんにすぎない。「カメラの前でも緊張せず、つまり息子を俳優にする必要がなかったんだ」と監督。ドキュメンタリーの手法を活用しているが、これはあくまでもフィクション、撮影は地中海沿岸近くのガラフ自然公園で期間はたったの5日間だった由。テクノロジーを使用せず、大量消費とは無縁だが、こういう映画の編集は難しかったのではないかと想像する。

 


           (撮影中の監督とロック、こちらは実際の父子)

 

★ここに出てくるのは、手作りの凧、子供とその父親、人気のない小高い山、鄙びた自然の美しさ、父親が語る巨人の話、多くのスタッフや多額の資金も必要なく、ささやかな家族の物語が綴られる。しかし最後に観客は一緒に歩いてきた小道に落ちていたものが何だったかを理解するのではなかろうか。イングマール・ベルイマンのように生涯子供を罰したり苦しめたりする映画の対極にあるように思えます。テクノロジー優先の映画に食傷気味のシネマニアにも殊のほか好評で、特に子供のいる人々にはある種の感動を呼び起こしたようです。勿論退屈だった観客もいたわけで、みんなを満足させる映画などありません。それでもセルジ・ロペスの素晴らしい演技を褒める批評家が多かった。商業的な成功を求めずに撮ったにもかかわらず、1023日にスペイン公開が決定している。

 

   監督紹介&主なフィルモグラフィー

マルク・レチャ監督は、1970年バルセロナ生れ、監督、脚本家、デビュー作のEl cielo sube1991)以外、カタルーニャ語で映画を撮っており、ドキュメンタリーの映像作家としての評価も高い。1988年から数多くの短編を発表、デビュー作“El cielo sube”は、トゥリア賞(第1作作品賞1993)、ムルシア・ウイーク・オブ・スパニッシュ・シネマ賞(第1作作品賞1992)を受賞した。第2L’arbre de les cireres(“Tree of Cherries1998)が、ロカルノ映画祭で国際映画批評家連盟賞、トゥリア賞の新人監督賞、シッチェス映画祭カタラン賞などを受賞、第3Pau i el seu germa(“Pau and His Brother2001)が、

カンヌ映画祭にノミネートされ国際的な知名度をあげたほか、オンダス賞の監督賞を受賞した。第6Petit indi(“Little Indi2009は、ガウディ賞にノミネートされ、新作の主役セルジ・ロペスが出演している。基本的にはカタルーニャ語にこだわって映画を撮っているが、スペイン語、英語などが混在している作品も多い。

 

 

サンセバスチャン映画祭2015*受賞結果 ⑨2015年09月29日 12:02

         ダリンとカマラ、仲良く二人で男優賞を分け合いました

 


★今年のサンセバスチャンはあまり盛り上がらないうちに終わってしまいました。金貝賞はアイスランドのRunar RunarssonSparrowsが受賞、以下銀貝賞の審査員特別賞、監督賞、脚本賞などもスペイン語映画を素通り、なんとか男優賞と女優賞、審査員スペシャル・メンション、ほかにバスク映画賞などで踏ん張りました。以下はオフィシャル・セレクション部門で受賞したスペイン語(バスク語)映画。

 

最優秀男優賞(銀貝賞)

リカルド・ダリンハビエル・カマラ

Truman”セスク・ゲイ監督、スペイン=アルゼンチン

 


     (仲良く二人で分け合った。忠実な犬のトルーマンは登壇しなかった)

 

最優秀女優賞(銀貝賞)

ヨルダンカ・アリオサ 

El Rey de La Habana”アグスティ・ビリャロンガ監督、 スペイン=ドミニカ共和国

ラテンビート2015上映作品『ザ・キング・オブ・ハバナ』、既に記事をアップしています。

『ザ・キング・オブ・ハバナ』の記事は、コチラ⇒2015917

 


         (夢心地のシンデレラ・ガール、ヨルダンカ・アリオサ)

 

バスク映画賞(Irizar賞)

アシエル・アルトゥナAmama”スペイン(バスク語)

 


         (トロフィーを手にしているアルトゥナ監督と出演者たち)  

 

審査員スペシャル・メンション

フェデリコ・ベイロー El Apóstata”スペイン=ウルグアイ=フランス

 

                            

                       (フェデリコ・ベイロー監督)

 

★ホライズンズ・ラティノ部門は、例年になく粒揃いの作品が多かった印象でしたが、サンティアゴ・ミトレの『パウリナ』の独り勝ちでした。作品賞、ユース賞、「もう一つの視点賞」と3賞を独占、腑に落ちない観客もいたかと思うが、間もなく始まるラテンビートで確認しましょう。

 

最優秀作品賞、ユース賞、「もう一つの視点TVE-Otra mirada」賞

Paulina / La patota サンティアゴ・ミトレ、アルゼンチン=ブラジル=フランス

カンヌ映画祭2015「監督週間」グランプリ受賞作品

ラテンビート2015上映作品『パウリナ』、既にカンヌ映画祭の項で記事をアップしています。

『パウリナ』の記事は、コチラ⇒2015521日/523

 


             (作品賞のトロフィーを手にミトレ監督)

 

印はこれからアップ予定の作品。来年のゴヤ賞候補作品としてセスク・ゲイのTruman、またはラテンビート鑑賞後にアップする予定の作品です。今回は受賞結果だけにしておきます。


イベロアメリカ映画にスペイン協同賞新設*サンセバスチャン映画祭2015 ⑧2015年09月23日 15:33

        優れたイベロアメリカ映画に賞金15,000ユーロを授与

 

★サンセバスチャン映画祭ディレクター、ホセ・ルイス・レボルディノスが、「スペイン協同賞」を新設したと発表した。対象は本映画祭「コンペティション」「ホライズンズ・ラティノ」「ニュー・ディレクターズ」の3部門にノミネーションされたイベロアメリカ映画(スペインとの合作)。さらに人類の発展、貧困の根絶、基本的人権の完全な行使に寄与しているなどの条件付き、製作者に与えられる賞です。かなり社会的政治的な意味合いが濃い。

 

★今年の例で言うと、「コンペティション」部門では、“El rey de La Habana”(アグスティ・ビリャロンガ『ザ・キング・オブ・ハバナ』ドミニカ共和国)、“Eva no duerme”(パブロ・アグエロ、アルゼンチン)の2作、「ホライズンズ・ラティノ」では、“El abrazo de la serpientes”(チロ・ゲーラ、コロンビア)、“El botón de nácar”(パトリシオ・グスマン『真珠のボタン』チリ)、“Ixcanul”(ハイロ・ブスタマンテ『火の山のマリア』グアテマラ)、“Paulina”(サンティアゴ・ミトレ『パウリナ』アルゼンチン)、“La tierra y la sombra”(セサル・アウグスト・アセベド『土と影』コロンビア)などが候補になっている。

 

★映画祭実行委員長のレボルディノスは、新設した賞の目的は「新しい才能発掘の促進、映画プロジェクトの活性化、そして映画の商品化や国際化を強化するため」に設けられたと説明した。映画祭で高評価を受けても、完成したときに資金が底をつき、プロモーションに回すだけの余裕が残っていない現状がありますね。賞金15,000ユーロが多いか少ないかは別として、製作者たちへの「応援歌」の足しにはなりそうです。審査員は、ルベン・ロペス・プリド(スペイン協同通信部長)、パブロ・ベラステギ(サンセバスチャン2016のディレクター)、ハイオネ・アスカシバル(バスク文化通信部長)で構成されることになっている。写真中央のイジアル・タボアダは、スペイン協同局AECIDの文化科学担当ディレクター。

 


    (賞新設の発表をした左から、レボルディノス、イジアル・タボアダ、プリド)

 

★映画祭も後半に入りました。ラテンビート上映予定のデ・ラ・イグレシアの『グラン・ノーチェ~』も上映済み、批評家の評判は如何に?


エミリー・ワトソン、ドノスティア賞受賞*サンセバスチャン映画祭2015 ⑦2015年09月07日 12:28

          今年の受賞者はエミリー・ワトソン一人だけ?

 

★第63回サンセバスチャン映画祭のドノスティア賞エミリー・ワトソンとアナウンスされました(94日)。授賞式は映画祭のメイン会場クルサール・ホールで925日になる模様。2012年は第60回という記念すべき年だったので5名と大盤振る舞い、2013年はカルメン・マウラヒュー・ジャックマン2人、2014年もベニチオ・デル・トロデンゼル・ワシントン2人でした。これから追加もあるかもしれませんが、どうやら2015年はワトソン一人でしょうか。

 

★エミリー・ワトソンは、1967年ロンドン生れの英国女優、話題作は公開されているからご紹介は不要でしょうか。どんな役をやっても頭の良さが前面に出てきてしまう女優さん、それもそのはずブリストル大学で英文学を専攻している。卒業後仕事をしながらドラマ・スタジオ・ロンドンで演劇を学び、チェーホフの『三人姉妹』やイプセンの『海の夫人』に出演している。1992年ロイヤル・シェクスピア・カンパニーに所属、映画はラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』1996)、無垢で宗教心の厚い女性を演じて、ヨーロッパ映画賞女優賞、全米映画批評家協会賞ほかを受賞、アカデミー賞女優賞にもノミネーションされ、幸運なデビューを果たした。

 


             (エミリー・ワトソン、『奇跡の海』より)

 

★その後、ダニエル・デイ≂ルイスと共演した『ボクサー』(97)、『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』98)が再びアカデミー賞女優賞にノミネーションされた。ほか話題作としてアラン・パーカーの『アンジェラの灰』(99)、『ゴスフォード・パーク』(01)、『レッド・ドラゴン』(02)、ピーター・セラーズの最初の妻になった『ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方』(04)、『孤独な嘘』(05DVD)、『ミス・ポター』(06)、『ウォーター・ホース』(07)、『戦火の馬』(11)、『オレンジと太陽』(12)、最近ではホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』(14)で最初の妻になるジェーンの母親役で顔を出していた。最新作は、日本でも11月に公開が決定しているバルタザール・コルマウクルの3D『エベレスト』(15)、ベネチア映画祭のオープニングに選ばれたので、スタッフもともども現地入りしている。

 

         

       (現地入りしているエミリー・ワトソン、ベネチア映画祭、94日)

 

2002年から舞台に復帰、シェークスピアの『真夏の夜の夢』やチェーホフの『ワーニャ伯父さん』に出演、後者でイギリスでもっとも権威のある演劇賞「ローレンス・オリヴィエ賞」にノミネーションを受けた。映画に舞台にテレビにと、二足も三足も草鞋を履いて活躍中。


サンセバスチャン映画祭2015*グアテマラ映画”Ixcanul” ⑥2015年08月28日 15:09

                オール初出演のグアテマラ映画“Ixcanul

 


ハイロ・ブスタマンテがベルリン映画祭2015アルフレッド・バウアー賞」(銀熊賞)を受賞したときにはデータが揃わず受賞のニュースだけをアップいたしました。受賞のお蔭か、その後グアダラハラ、カルタヘナ、香港、シドニー、台湾、カルロヴィ・ヴァリ、トゥールーズ、サント・ドミンゴ、スロバキア共和国アート・フィルム・フェス、スロベニア共和国マルタなど国際映画祭を旅して、やっとサンセバスチャンに舞い戻ってきました。というのも本作は本映画祭2014Cine en Construccion」参加作品でした。ベルリン映画祭のアルフレッド・バウアー賞というのは新しい視点を示した作品に贈られる賞、昨年は大御所アラン・レネの遺作となってしまった『愛して飲んで歌って』が受賞したのでした。どうも何か賞を獲りそうな予感がいたします。

 

    Ixcanul(英題Ixcanul Volcano)グアテマラ=フランス

製作La Casa de Producción(グアテマラ)/ Tu Vas Voir(フランス)

監督・脚本・製作者:ハイロ・ブスタマンテ

音楽:パスクアル・レジェス

撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ

編集:セサル・ディアス

美術・製作者:ピラール・ペレド(アルゼンチン人でフランスのTu Vas Voirのプロデューサー

衣装デザイン:ソフィア・ランタン

メイクアップ&ヘアー:アイコ・サトウ

製作者:イネス・ノフエンテス(エグゼクティブ)、マリナ・ペラルタ(グアテマラ)、エドガルド・テネムバウム

データ:グアテマラ≂フランス、スペイン語・マヤCakchiquelカクチケル語、201593分、撮影地:パカヤ火山の裾野の村エル・パトロシニオ。サンセバチャン映画祭2014Cine en Construccion」参加作品。822日エル・パトロシニオで先行上映後、グアテマラ公開827日、フランス1125

受賞歴:ベルリン映画祭2015「アルフレッド・バウアー賞」、トゥールーズ映画祭2015審査員賞と観客賞、カルタヘナ映画祭2015作品賞、ドミニカ共和国のサント・ドミンゴ映画祭2015初監督作品賞、スロベニア共和国のマルタ映画祭2015撮影賞、スロバキアのアート映画祭2015作品賞「青の天使賞」と助演女優賞(マリア・テロン)など受賞歴多数、目下更新中。

 

キャスト:マリア・メルセデス・コロイ(マリア)、マリア・テロン(マリアの母フアナ)、マヌエル・マヌエル・アントゥン(マヌエル)、フスト・ロレンソ(イグナシオ)、マルビン・コロイ(エル・ペペ)、映画はオール初出演

 


プロット:マヤ族カクチケルのマリアは17歳、グアテマラの活火山パカヤの山腹で両親と一緒に暮らしている。コーヒー農園で働いていたが、両親が農園主イグナシオとの結婚を取り結んだことで平穏が破られる。マリアはインディヘナとしての運命を変えたいと思っていたが、この結婚から逃れることはできない。妊娠という難問をかかえており、都会の病院は高額すぎて彼女を助けることができない。マリアは火山の反対側の新世界アメリカを夢見る若いコーヒー刈り取り人が彼女を置き去りにしたとき、改めて自分の世界と文化を発見する。しかし先住民の伝統や文化についての映画ではなく、ましてやフォークロアなどではない。後継者のいない富裕層の養子縁組のために生れるや連れ去られてしまう残忍なテーマ、先住民の女性たちが受ける理不尽な社会的差別、母と娘の内面の葛藤が語られるだろう。 (文責管理人)

 


     (パカヤ火山を背にマリア役のマリア・メルセデス・コロイ、映画から)

 

トレビア:タイトルの‘Ixcanul’(イシカヌルか)はカクチケル語で「火山」という意味。グアテマラの公用語はスペイン語であるが、先住民マヤ族の言語は21種もあり、多言語国家でもある。そのうちカクチケル語の話者は約50万人いると言われ最も重要な言語の一つであり、メキシコにも話者は多い。本作の主人公に扮する2人のマリアのようにバイリンガルな人もいるが、スペイン語ができない人も多い。識字率が70%に満たない低さで、ラテンアメリカ諸国のうちでも最低の国に数えられている。それは前世紀後半グアテマラに吹き荒れた36年間に及ぶ内戦が深くかかわっている。1960年から始まり1996年に終結したが、死者約20万人、うち犠牲者の80%以上がマヤ族の武器を持たない性別を選ばない赤ん坊から老人まで、グアテマラ内戦が「ジェノサイドだった」と言われる所以である。内戦の後遺症は尾を引き、現在でも治安は悪く、真の平和は遠いと言われている。

 

★今年のベルリンは本作の他、チリのパブロ・ララインEl Culbが審査員賞、同パトリシオ・グスマン『真珠のボタン』の脚本賞と、ラテンアメリカのシネアストが評価された年であった。 


  (クロージングに出席した監督と民族衣装に身を包んだ二人のマリア、2015214日)

 

 

    監督キャリア & フィルモグラフィー

ハイロ・ブスタマンテJayro Bustamanteは、監督、脚本家、製作者。映画の舞台となったグアテマラのマヤ族カクチケルが住む地域で育った。現在37歳ということなので1978年ころの生れか。まさにグアテマラ内戦(196096)の中で生れ育った世代。パリやローマで映画製作を学び、多数の短編を製作、そのなかの“Cuando sea grande”(2011)が評価される。のち本作を撮るために故郷に戻ってきた。

 


        (受賞のトロフィーを手にした監督、ベルリン映画祭にて)

 

メーキング:ブスタマンテ監督によると、「まず現地でワークショップを開催、彼らの生き方を自身の口から語ってもらうことにした。近距離からマヤの人々が現在置かれている状況を調査した。そうすることで、女性たちとの特別なコネクションができ、母親や祖母世代の慣習や仕来たりを学んでいった」という。グローバル化からはほど遠い、あまり知られていない日常的な日課が我々を待っているが、先住民文化についての映画ではない。「この映画が世界に受け入れやすくするための方針はとらなかった。また同世代の監督が陥りやすい民族的な悲惨さを描くのを避けた」とも語っている。必要なのは観客を魅了する人間ドラマを撮ること、それには互いの立場を尊敬しあうことでしょうね。

 

★まだカメラ経験のないアマチュアの出演者を探すのに奔走した。主人公マリアの母親を演じたマリア・テロンから「多くのリハーサルに時間をかけるのか、もしそうなら私はあなたを信頼しない」と質問された。勿論「ノー」と答えた。「監督することであなた方から多くのことを学びたい」。「分かったわ、そうであるなら、教えてあげましょう」とテロン。彼女は映画は初出演だが舞台女優の42歳、「映画に出てくる火山のようにエネルギュッシュな女性」と監督、スロバキアの映画祭で助演女優賞受賞した理由は、「物語の最初から最後まで緊張状態を維持した。母親役を言葉ではなく優しさと才覚で演じた」その演技力が評価された。

 


             (マリア・テロン、ベルリン映画祭にて)

 

★製作者には、二人の女性プロヂューサーが初参加、グアテマラのLa Casa de Producción マリナ・ペラルタ、この製作会社はブスタマンテ監督が設立した。もう一人はアルゼンチンのピラール・ペレド、フランスのTu Vas Voir に所属している。


サンセバスチャン映画祭*ホライズンズ・ラティノ全14作品 ⑤2015年08月25日 14:04

     ブラジル映画を含めて全14作品が出揃いました

 

84日にアップしたときには、パトリシオ・グスマンのドキュメンタリーEl botón de nácar(チリ・西・仏)とサルバドル・デル・ソラルのMagallanes(ペルー・アルゼンチン・コロンビア・西)の2作だけでした。前者は10月に『真珠のボタン』の邦題で公開が決定しています。ベルリン、カンヌ、ベネチア、各国際映画祭の受賞作品に集中しており、ということはその折々に当ブログでご紹介しているわけです。今年のラテンビート上映作品はまだ3作しか分かっておりませんが、そのうちメキシコのダビ・パブロスのLas elegidasが選ばれ、『選ばれし少女たち』の邦題で上映が決定しています。柳の下の2匹目、3匹目の泥鰌を期待して一応全14作をアップしておきます。 


         ホライズンズ・ラティノ

1El clubパブロ・ラライン(チリ・仏・西)オープニング作品

ベルリン映画祭審査員賞グランプリ受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015222

 


2600 millasガブリエル・リプスタイン(メキシコ)

*ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門で初監督作品賞受賞作品

 


3El abrazo de la serpienteチロ・ゲーラ(コロンビア・アルゼンチン・ベネズエラ)

カンヌ映画祭「監督週間」正式出品、作品賞受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015524527

 


4El botón de nácar パトリシオ・グスマンチリ・仏・西)ドキュメンタリー

ベルリン映画祭2015銀熊脚本賞受賞作品。『真珠のボタン』1010日公開、岩波ホール

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015226

 


5Chronicマイケル・フランコ(米・メキシコ)

カンヌ映画祭2015コンペティション正式出品、脚本賞受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015528

 


6Desde alláロレンソ・ビガス(ベネズエラ)

ベネチア映画祭2015コンペティション正式出品(ベネチアは92日開幕)

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒201488

 


7Las elegidas ダビ・パブロス(メキシコ)

カンヌ映画祭「ある視点」正式出品。『選ばれし少女たち』ラテンビート2015上映(10月)

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015531

 


8Ixcanulハイロ・ブスタマンテ(グアテマラ・仏)

ベルリン映画祭2015アルフレッド・バウアー賞」受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015226

 紹介記事を追加しました。 コチラ⇒2015年8月28日


9Magallanes サルバドル・デル・ソラル(ペルー・アルゼンチン・コロンビア・西)

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒201584

 


10La obra del sigloカルロス・M・キンテラ(キューバ・アルゼンチン・独・スイス)

ロッテルダム映画祭2015タイガー賞」受賞作品

 


11Paulinaサンティアゴ・ミトレ(アルゼンチン)

カンヌ映画祭「批評家週間」正式出品、グランプリ受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2014521523

 


12Para Minha amada moetaAl y Muritiba ブラジル

*サンセバスチャン映画祭2014Cine en Construcción」参加作品

 


13Te prometo anarquiaフリオ・エルナンデス・コルドン(メキシコ・独)

ロカルノ映画祭2015コンペティション正式出品

 


14La tierra y la sombraセサル・アウグスト・アセベド
コロンビア・チリ・ブラジル・オランダ・仏

カンヌ映画祭「批評家週間」正式出品、カメラドール受賞作品

作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015519527

 


★ブラジル映画を含めて未紹介作品4作については、時間が許せばアップしていきます。今回は取りあえずラインナップだけにいたしました。

 

 

アメナバルの”Regression”が開幕上映*サンセバスチャン映画祭2015 ④2015年08月16日 11:48

         「アメナバルが嫌いな映画祭があるかい?」とディレクター

 

★まあ、ないでしょうね()。オープニング(918日)は大抵コンペティション外から選ばれますが、“Regresión”(西題)も同じコンペ外です。アメリカでは映画祭前の828日に公開予定、スペインは102日封切りがアナウンスされています。ドイツ101日、イギリスの109日と欧州各国で順次公開されます。

★今年初めに2015年公開される映画として既に記事をアップしており、キャスト、プロットなど基本データをご紹介しております。製作国は米国とスペイン、言語は英語、サンセバスチャンではスペイン語吹替え上映のようです(スペイン語の予告編あり)。製作国は米国とスペインですが、IMDbによるとスペイン、カナダとなっております。撮影がカナダのオンタリオ州ミシサガが中心だったせいかと思われます。また時代背景を1880年代とご紹介しておりますが、最近のエル・パイス紙やウィキィでは1990年代とあり、スリラーなのに肝心の内容まで錯綜しております()

Regression”の紹介記事は、コチラ⇒201513

 


            (エマ・ワトソンに演技指導をするアメナバル)

 

 

劇場公開情報、岩波ホールで2作品一挙上映が決定

「ホライズンズ・ラティノ」部門でご紹介したパトリシオ・グスマンのドキュメンタリーEl botón de nácar 2014、チリ≂西≂仏)が、『真珠のボタン』の邦題で公開されることになりました。前作『光のノスタルジア』2010仏≂独≂チリ)と2本立て、前作は既に公開が決定しておりました。 


              (『光のノスタルジア』のポスター)

 

★新作『真珠のボタン』が、ベルリン映画祭2015で銀熊脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。前作は公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったチリのドキュメンタリーが1010日から2作揃って公開の運びとなりました(1120日まで)。地味なドキュメンタリーが一挙公開は珍しいケースかもしれません。公式サイトが立ちあがっております。一般1回券1500円、2回券は2800円と割引になります。

ベルリン映画祭2015パトリシオ・グスマンの記事は、コチラ⇒2015226

 


(トロフィーを手に喜びの監督と製作者レナート・サッチス監督夫人、ベルリン映画祭にて)

 

 

サンセバスチャン映画祭2015*ノミネーション発表(スペイン作品) ③2015年08月04日 17:32

       近年になくスペイン映画のノミネーションが多い  

 

722日、マドリードのアカデミー本部でサンセバスチャン映画祭2015のノミネーション発表がありました。既に当ブログでご紹介した作品も何作か目に入りましたが、これからぼちぼち気になる作品をアップしていきますが、取りあえずメモランダムに、タイトル・監督・製作国・キャストの順で大枠だけ載せておきます。(は作品紹介する予定のもの)

 

 *オフィシャル・セレクション*

Amama アシエル・アルトゥナ(スペイン)

 出演:イライア・エリアス、アンパロ・バディオラ、アンデル・リオウス、マヌ・ウランガ他

 


El Apóstata フェデリコ・ベイロフ(西・ウルグアイ・仏)

 出演:アルバロ・オガリャ、バルバラ・レニー、マルタ・ララルデ、ビッキー・ペーニャ他

 


Un dia perfecte per volarUn día perfecto para volar)マルク・レチャ(スペイン)

 出演:ロック・レチャ(監督息子)、セルジ・ロペス

 


Eva no duerme パブロ・アグエロ(アルゼンチン・仏・西)

 出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、デニス・ラバント、イマノル・アリアス他

 

El rey de La Habana アグスティ・ビリャロンガ(西・ドミニカ共和国)

 出演: マイコル・ダビ・トルトロ、ヨルダンカ・アリオサ、エクトル・メディナ他

トレビア:ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴで撮影。『ブラック・ブレット』の監督。

 

Truman セスク・ゲイ(西・アルゼンチン)

 出演:リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、ドロレス・フォンシ、忠犬トルーマン

トレビア:『クランパック』(東京国際レズ&ゲイ映画祭2000上映、シネフィル・イマジカで『ニコとダニの夏』として放映された)、『イン・ザ・シティ』(ラテンビート2004上映)のバルセロナ派の監督。 


  *コンペティション外*

Mi gran noche アレックス・デ・ラ・イグレシア(スペイン)

 出演:カルロス・アレセス、カロリーナ・バング、マリオ・カサス、カルメン・マチ、テレレ・パベス、ウーゴ・シルバ、ペポン・ニエト他

トレビア:歌手ラファエルとのコラボが実現、デ・ラ・イグレシア学校のお馴染みさん総出演のコメディ。(写真下:打ち合わせ中の監督とラファエル)

本作は既にアップしています。コチラ⇒2015314

 


 *特別上映セクション*

Lejos del mar イマノル・ウリベ(スペイン)

 出演:エレナ・アナヤ、エドゥアルド・フェルナンデス、ベロニカ・モラル、オリビア・デルカン、ホセ・ルイス・ガルシア・ペレス、他

トレビアETAをテーマにしたラブ・ストーリー。『時間切れの愛』や『キャロルの初恋』が代表作。問題作『ミケルの死』も第1回スペイン映画祭1984で上映されたバスク映画の重鎮。

本作は既にアップしています。コチラ⇒2014年11月30日


No estamos solos ペレ・ジョアン・ベントゥラ(スペイン)

 出演:アンサンブル・ドラマ(合唱劇) 

  *ニューディレクターズ*

Paula エウヘニオ・カネバリ(アルゼンチン・西)

トレビア:ブルジョア家族の牧場で子守をして働く娘パウラの物語。父親の責任をとろうとしない男の子供を身ごもっている。昨年の「Cine en Construccion」に出品、長編初監督作品。2013年には「国際映画学生ミーティング」部門に“Gorila baila”(15分)が出品された。このセクションはだいたい10~20分の短編が上映される。 

Pikadero ベン・シャーロック(西・英)

 出演:バルバラ・コエナガ、Joseba Usabiaga

トレビア:お金がないため両親の家に居候して過ごしている若いカップルの物語。経済問題が足枷となって、次々におきる難問に二人の愛も風前のともし火、ロマンティック・コメディ。

 

*ホライズンズ・ラティノ*

El botón de nácar パトリシオ・グスマン(チリ・西・仏)ドキュメンタリー

トレビア:本作がベルリン映画祭2015で脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったドキュメンタリー『光、ノスタルジア』(2010)が今秋10月に岩波ホールで公開の運びとなりました。

ベルリン映画祭2015「脚本賞」受賞の記事は、コチラ⇒2015226

 


Magallanes サルバドル・デル・ソラル(ペルー・アルゼンチン・コロンビア・西)

 出演:ダミアン・アルカサル(マガジャネス)、マガリ・ソリエル(セリナ)、フェデリコ・ルッピ、クリスティアン・メイエル、タチアナ・アステンゴ

トレビア:マガジャネスはタクシー運転手、彼の車に乗り込んだきた女性客に見覚えがあった。記憶は兵士だった20年前に遡る。農婦セリナとの間には未解決の事件があった。骨太の政治スリラー。「Cine en Construccion2014年の最優秀作品賞を受賞した。サルバドル・デル・ソラルは1970年リマ生れ、俳優として出発、初監督にしてはメキシコ、アルゼンチンのベテランを起用できた理由が長い俳優歴。マリオ・バルガス=リョサの小説をフランシスコ・J・ロンバルディアが映画化した『パンタレオン大尉と女たち』(未公開、ビデオ『囚われの女たち』)で主役を演じた。

 


★このセクションはラテンアメリカ諸国が参加する、上記2作はあくまでもスペインが製作国に参加した作品。別途全作をアップします。

 

    *サバルテギ*

Un día vi 10.000 elefantes アレックス・ギマラ&フアン・パハレス(スペイン)

アニメ・ドキュメンタリー

 出演:Gorsy Edu声(アンゴノ・ンムバAngono Mba

トレビア:資料映像や写真、両監督の手になるアニメーションをミックスさせた意欲的なドキュメンタリー。1944年から2年間、旧スペイン領ギニア(現在の赤道ギニア共和国)にあるという神秘的な湖を探して撮影隊を組織して現地に赴いたマヌエル・エルナンデス・サンフアン監督を描いたドキュメンタリー。1万頭の象を見ることになるだろう。遠征隊のポーターをつとめたのがアンゴノ・ンムバとその子供たち。映画は彼のナレーションで進行する。

 


Isla bonita フェルナンド・コロモ(スペイン)

 出演:フェルナンド・コロモ、ティム・Bettermann、オリビア・デルカン、リリアナ・カロ、ヌリア・ロマン、ミゲル・アンヘル・フロネス

トレビア:フェルナンドは最近危機に陥っているベテランの広告業者。友人ミゲル・アンヘルからメノルカ島(バレアレス諸島の一つ)に招待される。そこで反体制派の彫刻家ヌリアとその娘オリビアと再び出会うことになるだろう。 


Mi querida España メルセデス・モンカダ(スペイン)ドキュメンタリー

 出演:ヘスス・キンテロ

トレビア:ヘスス・キンテロ、スペインのラジオ・テレビ界を代表するジャーナリスト、司会者、名インタビュアー。民主主義時代の原資料を含む放送・未放送の映像で構成された目で見る現代スペイン史。

 

La novia パウラ・オルティス(西・トルコ・独)

 出演:インマ・クエスタ(花嫁)、アシエル・エクステアンディア(花婿)、レティシア・ドレラ(レオナルドの妻)、アレックス・ガルシア(レオナルド)、マリアナ・コルデロ(姑)

トレビア:オルティスの第2作め、花嫁は花婿との婚礼を前にして惨めさと不安に悩んでいた。目に見えない残酷で遮ることができない運命の糸に操られて、花嫁とレオナルドが結びつく。お馴染みロルカの戯曲『血の婚礼』を下敷きにした作品。


The Propaganda Game アルバロ・ロンゴリア(スペイン)ドキュメンタリー

トレビア:北朝鮮が舞台にびっくりする。さらに実際に現地で撮影されたとは尚更である。共産主義政府のために働く唯一人の外国人アレハンドロ・カオ・デ・ベノスが特別に許可を貰って撮影した貴重なフィルム。真実を操作するための<ギャンブラーたち>が利用する戦略や誤って伝えられる情報を分析している。真実を知るための困難さについてのドキュメンタリー。

 

Duellum Tucker Davil Wood (スペイン)短編

トレビア:森の中の決闘、ある平凡な一日。

 

*サバルテギZabaltegiは、バスク語で「自由」という意味、というわけでそれこそ言語やジャンル、長編短編を問わず自由に約30作品ほどが選ばれるセクションです。今回は合作を含めスペインから6作が上映される。

 

         *ベロドロモ*

El desconocido ダニ・デ・ラ・トーレ(スペイン)スリラー

 出演:ルイス・トサール、ゴヤ・トレド、ハビエル・グティエレス


ベロドロモVelódromoは、英語のvelodromeと同じくスペイン語でも「競輪場」を指します。作品は35作品と少なく皆で楽しめる娯楽アクションものが多い。3000人収容の大型スクリーンで上映、かつてアレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』もここで上映された。

 

 

サンセバスチャン映画祭2015*今年も資金不足が懸念される ②2015年07月07日 10:47

          オフィシャル・パートナーに援助のラブコール

     

★資金不足が恒常的となっている映画祭はサンセバスチャンに限りませんが、昨年度の運営費740万ユーロに到達していないため、事務局はオフィシャル・パートナーの「ガス・ナトゥラル・フェノーサGas Natural SDG, S.A.」以下にさらなる助成金の増額を要請しています。この会社は主たるスポンサーの一つで、スペインのエネルギー(ガスと電力)事業を総括している多国籍企業。協賛金の受付締め切りは628日、月が変わりましたがどうなったでしょうか。

(写真下は左から、アンドリュー・ブエナフエンテ、ホセ・ルイス・レボルディノス、ジョルディ・ガルシア・タベルネロ、パコ・レオン、617日サンセバスチャンにて)

 


918日開催まで3カ月を切りました。ギリシャのデフォルト危機で欧州経済は混迷を深めていますが、スペインも対岸の火事と眺めてはいられないはず。取りあえずガス・ナトゥラル・フェノーサのジョルディ・ガルシア・タベルネロ氏(2009年からグループの情報及びゼネラル・マネジャー)が承諾の署名をしてくれたということです。写真の笑顔から判断するに、映画祭総括ディレクターのJL・レボルディノスは一応胸をなでおろしている様子。一番の大口スポンサーですから。

 

アンドレウ・ブエナフエンテ氏は、バルセロナに本部をおくオーディオビジュアルのプロダクション「El Terrat de Producciones, S.L.」(1989年設立)の創設者、作家でコメディアンと多才な人。テレビ、映画、ラジオ、インターネット、演劇のプログラムを製作している大手プロダクション。『タパス』のホセ・コルバチョ監督、俳優のパコ・レオン、『タパス』やTVドラで活躍のエドゥアルド・ソト、ブエナフエンテの奥さんシルビア・アブリルは女優でコメディアン、サンティアゴ・セグラのシリーズ「トレンテ」345に出演しているから日本でもお馴染みの女優。俳優ほかスタッフ400名が所属している大所帯のプロダクションです。

 

★今年のテーマはユーモアだそうで、ジャンルはコメディが多くなりそう。パコ・レオンは今年は積極的に参加するようで、映画祭用の短編をカルメン・マウラとセクン・デ・ラ・ロサ主演で撮る。他にサンティアゴ・セグラは、アナベル・アロンソ、エンリケ・ビジェン、ホアキン・レイジェスを起用、イサベル・コイシェはシルビア・アブリル、フリアン・ロペス、キラ・ミロー他、監督の要請でブエナフエンテ自身も引っ張り出されるらしい。将来のシネアストのタマゴたる学生たちの参加も予定されている。撮影には「El Terrat」のテクニカル・グループが協力、ホセ・コロナドの援助も得られるとアナウンスされた。どうやら楽しいサンセバスチャンが期待されそう。

 

              

           (映画祭2015のコンペティション部門のポスター)


サンセバスチャン映画祭2015*9月18日開幕 ①2015年06月12日 21:15

          今年は日本のインディペンデント映画の特集が組まれています

 

★第63回を迎えるサンセバスチャン映画祭もいよいよ動き始めました。毎年5月に入ると大枠が発表になります。今年のオフィシャル・セレクションのポスターは前年の地味なモノトーンとは打って変わって色鮮やか。当映画祭ディレクター、ホセ・ルイス・レボルディノスによれば「奇妙なモンスター」、頭のてっぺんからひと粒の真珠を指で摘んだ手がのびて、二つの目の上に落としている。よく分からないが「作り手と受け手の共生へのオマージュ」だそうです。観客の話題になるのは確かでしょう。去年はシンプルなのが気に入ったと述べていたレボルディノスだが、今年のポスターも関係者一同とても気に入っているそうです。

 

      

      (ポスターを背にしたJ.L.レボルディノス、右はニューディレクターズ部門のポスター)

 

     

    (昨年の第62回サンセバスチャン映画祭コンペティション他のポスター)

 

★当映画祭は、大きく分けて6部門に分かれている。オフィシャル・セレクション、ニューディレクターズ、ホライズンズ・ラティノ、パールズ、サバルテギ、料理シネマ。サバルテギZabaltegiはバスク語で「自由」という意味で、それこそ言語やジャンルを問わず約30作品ぐらいが上映される。その他、賞に絡まない「メイド・イン・スペイン」部門があり、最近1年間の話題作が上映されるから、纏めてスペイン映画の良作が楽しめる。さらに監督特集が組まれ、今年はメリアン・C・クーパー(18931973)などが選ばれ、彼の代表作『キングコング』(1933)が上映されるという。また2000年から2015年にかけて製作された日本のインディペンデント映画の特集が組まれています。 

                

                             (サバルテギ部門のポスター)

 

★審査員メンバーは未発表だが、金貝賞Concha de Oro以下、合計6賞の選出をする。基本的にはカンヌ映画祭と同じように「1作につき1賞」ですが、例外的に昨年の“Magical Girl”のように金貝賞と銀貝賞(監督賞)のダブル受賞もある。

*金貝賞(作品賞として製作者に与えられ、金賞はこれ一つ)

*銀貝賞として、監督賞/ 女優賞/ 男優賞 の3

*審査員賞として、撮影賞/ 脚本賞    の2賞      

 

★グッドニュースは、何でも削減削減の時代風潮のなか、EU欧州連合からの助成金が34,000から100,000ユーロに増額されたこと。既に公式コンペティションも6作ほど決定しているそうで、なかには昨年の『フラワーズ』のようなバスク語の映画もあるそうです。