ペネロペ・クルスが映画国民賞2022を受賞 ― 2022年06月25日 15:45
いつもの年とは違った2021年、「パラレル・マザーズ」とヴォルピ杯受賞

(オスカー賞2022にノミネートされたペネロペ・クルス、授賞式にて)
★6月6日、今年の映画国民賞2022の受賞者はペネロペ・クルスとの発表がありました。文句なしの満場一致で決まったと各紙が報道しました。エル・パイス紙のコラムニストは「これまで彼女に授与しなかったのは侮辱だった」とまで言い切った。本賞は必ずしも年功序列ではありませんから侮辱とまでは思いませんが、国際的な貢献度を考えるといささか失礼だったかもしれません。オスカー賞の『ベルエポック』の監督が、2015年に受賞が発表されると「今さら貰っても・・・」と受賞を拒んだことを思い出しました。賞なら誰もが歓迎するとは言えず、タイミングが必要ということです。しかし今回はグッドタイミング、ベネチア映画祭のヴォルピ杯受賞、『パラレル・マザーズ』でオスカー主演女優賞ノミネート、サンタ・バーバラ映画祭モンテシート賞受賞と、いつもの年とは別格な2021年なのでした。

(スペイン女優初のヴォルピ杯を手にしたクルス、ベネチアFF2021にて)
★本賞の選考母体はスペイン文化スポーツ省と、映画部門では映画視聴覚芸術研究所ICAAです。ということは時の政権に若干左右されるケースが出てくる可能性があります。国民賞には他に文学、音楽、美術、スポーツ・・・などがあり、映画部門が参加したのは1980年から、第1回目の受賞者はカルロス・サウラで、まだゴヤ賞などがなかった時代でした。前年に国際的な活躍をした、監督、製作者、俳優、脚本家、撮影、音楽、映画産業に関わる全ての人々が対象です。副賞は3万ユーロと少ないがゴヤ賞を凌ぎます。女性の初受賞者カルメン・マウラ(1988)以降、女優はラファエラ・アパリシオ、マリア・ルイサ・ポンテ、マリサ・パレデス、メルセデス・サンピエトロ、マリベル・ベルドゥ、アンヘラ・モリーナ、他に故イボンヌ・ブレイク衣装デザイナー、ローラ・サルバドール脚本家、エステル・ガルシア製作者、ホセフィーナ・モリーナ脚本家、イサベル・コイシェ監督などが受賞しています。
★因みに最年少受賞者は、『インポッシブル』(12)でスペイン映画史上最高の興行成績を上げたフアン・アントニオ・バヨナの38歳でした。夫君ハビエル・バルデムは『ノーカントリー』(07)出演でアカデミー賞助演男優賞を受賞した2008年に選ばれており、夫婦揃っての受賞者になりました。昨年ベテラン演技派のホセ・サクリスタンが84歳で受賞したときは、「えっ、まだ貰っていなかったの!」と驚いたのでした。

(モンテシート賞のトロフィーを手に、サンタ・バーバラ映画祭2022にて)
★話をペネロペ・クルスに戻すと、キャリア&フィルモグラフィーについては既に何回もアップさせています。1974年マドリードの郊外アルコベンダス生れの48歳、早すぎる受賞というほど若くはありません。何しろ14歳でデビュー、30年以上のキャリアの持主、ハリウッドで活躍していた一時期には「ペネロペって、スペイン人だったの?」と揶揄されもしましたが、今ではそんな陰口をたたく人はいないでしょう。ビガス・ルナに始まって、フェルナンド・トゥルエバ、ペドロ・アルモドバル、アレハンドロ・アメナバル、イサベル・コイシェ、フリオ・メデム、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、海外勢とのコラボでは、ジョン・マッデン、セルジオ・カステリット、ウディ・アレン、リドリー・スコット、アスガー・ファルハディ・・・など錚々たる監督とタッグを組んでいます。
★母親になってからの挑戦は目を見張るものがあり、強靭で柔軟、ドラマからコメディへ容易に移れる多様性、母語のほか、英語、イタリア語、フランス語が堪能なのも強み、勤勉で探求心の強い努力家の証です。小さいときから人が選ばない生き方をしてきた女優は、見た目とは違って「水面近くでいつもアップアップしています」とも語っています。映画以外にも本人は公表していませんが、メディアの裏側ではソーシャルワークに非常に熱心です。マドリードの病院への援助、医療関係者が使用するマスク15万枚以上を寄付、オスカル・カンプスが2015年設立したスペインのNGOプロアクティバ・オープン・アームズのサポートもしています。この難民救助の活動を実話に基づいて描いた、マルセル・バレナの「Mediterraneo」(21)を当ブログでご紹介しています。
*「Mediterraneo」の作品紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
★主な受賞歴は、4回のオスカー賞ノミネート、うち2009年にウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』で助演女優賞受賞、4回目のノミネートが今年の『パラレル・マザーズ』主演女優賞でした。2018年フランス・アカデミーのセザール栄誉賞、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞、イギリスのバフタ賞、カンヌ映画祭2006のアルモドバルの『ボルベール〈帰郷〉』で異例のグループ女優賞、イタリアのドナテッロ主演女優賞も受賞しています。他に先述したようにベネチア映画祭のヴォルピ杯、サンタ・バーバラ映画祭のモンテシート賞、女優が一番大切にしているというゴヤ賞は13回ノミネートで3賞(『美しき虜』『ボルベール』『それでも恋するバルセロナ』)他、ヨーロッパ映画賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞など書ききれない。

(オスカー助演女優賞のトロフィーを手に、アカデミー賞2009年)

(プレゼンターが恩師アルモドバルだったセザール賞2018)

(スペイン女優2人目の受賞者となったドノスティア賞2019)
★彼女は常に根気よく努力すること、犠牲をはらって物事の価値を優先するよう躾けられて育った。また将来に確実なものなどなく、常に疑問を持ち続けるようにしているとも語っている。美容師だった母親と義母になった闘う女優ピラール・バルデムの影響が大きいと語っています。肺気腫を病みながら生涯現役を貫いたピラールは昨年7月に82歳で旅立ってしまいましたが、支援を必要としている人々の側に立つことを教えてくれた人生の先輩でもありました。また二人の子供については「子供たちは私の優先事項です」ときっぱり宣言、公私の区別にぐらつきはない。
★少女がいつ女優になろうと決心したのか定かではありませんが、アルコベンダスの映画館で観た『アタメ』に目が眩んだという。これがアルモドバルとの最初の出会いだったかもしれません。それから『ライブ・フレッシュ』(97)に辿りつくまで時間がかかりましたが、その後の活躍は書くまでもないでしょうか。『オール・アバウト・マイ・マザー』のシスター・ロサ役に始まって、『ボルベール〈帰郷〉』のライムンダに到達、これで完結したかと思っていたら『パラレル・マザーズ』のシングルマザー役に続いていたのでした。

(2022年秋劇場公開予定の『パラレル・マザーズ』のフレームから)
★成功の陰で忘れられがちなのが2000年前半の出演作、例えばホラー映画『ゴシカ』、リュック・ベンソン製作のフランス映画『花咲ける騎士道』(リメイク版)、マシュー・マコノヒーと共演した『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』、そしてイタリア映画『赤いアモーレ』では、セルジオ・カステリットからメロドラマ的な手法で内部から自身を壊すチャンスを与えられたと言われ、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ主演女優賞を受賞した。
★現在、マイケル・マンの「Ferrari」に没頭しています。アダム・ドライバーが演じるフェラーリの創業者でレーシング・ドライバーでもあったエンツォ・フェラーリの妻ラウラに扮します。イタリアで撮影しますがアメリカ映画ですね。それが終わる秋には、イタリア映画祭2012で上映され公開もされた『海と大陸』の監督エマヌエーレ・クリアレーゼの新作「L’mmensita」が公開されます。1970年代のローマが舞台だそうで、主役クララを演じます。そして友人でもある俳優フアン・ディエゴ・ボットの監督デビュー作に製作者として参加するようです。まだ詳細はアップされていません。『パラレル・マザーズ』の日本公開は今年の秋ということです。
◎主な関連記事◎
*クルスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年05月20日
*セザール栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年03月08日
*ドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2019年10月04日
*ピラール・バルデムの紹介記事は、コチラ⇒2017年06月13日
第14回ガウディ賞2022*結果発表 ― 2022年03月10日 17:48
世代交代が鮮明になったガウディ賞、若手女性監督が勝利の杯を手にした

★去る3月6日、ガウディ賞の授賞式がバルセロナのカタルーニャ美術館MNACで開催された。昨年もノミネーションを割愛、受賞作品&受賞者をアップしただけでした。ゴヤ賞、フォルケ賞、フェロス賞とは異なり、カタルーニャ映画アカデミーが選考母体、作品賞はカタルーニャ語映画、カタルーニャ語以外の映画に分かれている。後者も他の3賞とは視点が異なり、バルセロナ派のスペイン語映画がノミネートされる傾向にある。従って登壇してトロフィを受け取る顔ぶれも違ってくる。今年はロシアのウクライナ侵攻に反対する青と黄色のリボンを付けている人が目立ち、ノーモア戦争が鮮明の授賞式でした。
★カタルーニャ語作品賞にネウス・バリュスの「Sis dies corrents」(「Seis días corrientes」)、カタルーニャ語以外にはクララ・ロケの「Libertad」(『リベルタード』)が受賞、共に若手女性監督が大賞を制した。前者は作品・監督・主演男優・助演男優・編集の5冠、後者は作品・脚本・主演女優・撮影の4冠と、二人で主要カテゴリーを制した。カロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」に出演したアンヘラ・セルバンテスが助演女優賞を受賞するなど、若手女性監督が輝いたガウディ賞の夕べでした。バリュス監督の新作は未紹介ですが、ロカルノ映画祭でプレミアしたおり、ヨーロッパシネマ賞や主演・助演男優賞などを受賞、バジャドリード映画祭では銀の麦の穂賞と観客賞、トロント映画祭では「The Odd-Job Men」の英題で出品された。いずれアップを予定しています。

(カタルーニャ語版のポスター)

(ヨーロッパ映画賞を受賞した監督と主演者、ロカルノ映画祭)
★ゴヤ賞では撮影賞にキコ・デ・ラ・リカが受賞しただけのマルセル・バレナの「Mediterraneo」は、プロダクション・オリジナル作曲・視覚効果・観客賞の4賞、ダニエル・モンソンの「Las leyes de la frontera」は、美術・衣装デザイン・メイクアップ&ヘアーの3賞、ゴヤ賞では監督とホルヘ・ゲリカエチェバリアが脚色賞、チェチュ・サルガドが新人男優賞を受賞していた。ほとんどカテゴリーの受賞者が一致しないのが特徴的でした。
*第14回ガウディ賞2022受賞結果*
◎作品賞(カタルーニャ語)
「Sis dies corrents」 監督ネウス・バリュス


(5冠制覇の「Seis días corrientes」チーム)
◎作品賞(カタルーニャ語以外)
「Libertad」(邦題『リベルタード』) 監督クララ・ロケ

(中央がクララ・ロケ監督)

◎監督賞
ネウス・バリュス、「Sis dies corrents」

◎脚本賞
クララ・ロケ、「Libertad」


◎主演女優賞
マリア・モレラ、「Libertad」


◎主演男優賞
モハメド・メラリ、「Sis dies corrents」

(息子と登壇した新人モハメド・メラリ)
◎助演女優賞
アンヘラ・セルバンテス、「Chavalas」

◎助演男優賞
バレロ・エスコラル、「Sis dies corrents」

◎撮影賞
グリス・ジョルダナ、「Libertad」
◎プロダクション賞
アルベルト・エスペル、Kostas Sfakianakis、「Mediterraneo」
◎美術賞 *
バルテル・ガリャル 「Las leyes de la frontera」
◎編集賞
ネウス・バリュス、アリアドナ・リバス、「Sis dies corrents」
◎オリジナル作曲賞
アルナウ・バタジェール、「Mediterraneo」
◎衣装デザイン賞 *
Vinyet Escobar 「Las leyes de la frontera」
◎録音賞 *
ダニエル・フォンロドナ、オリオル・タラゴ、マルク・ビー、マルク・オルス「Tres」
◎視覚効果賞
アレックス・ビリャグラサ 「Mediterraneo」
◎メイクアップ&ヘアー賞 *
サライ・ロドリゲス、ナチョ・ディアス、ベンハミン・ぺレス
「Las leyes de la frontera」

(3冠の「Las leyes de la frontera」のスタッフ、レッド・カーペット)
◎ドキュメンタリー賞
「El retorn:La vida després de l’ISIS」 監督アルバ・ソトラ

◎アニメーション賞
「Mironins」監督ミケル・マス、Txesco Montalt
◎短編映画賞
「Farrucas」 監督イアン・デ・ラ・ロサ

◎TV映画賞
「Frederica Montseuy, la dona que paela」 監督ラウラ・マニャ

◎ヨーロッパ映画賞 *
「Otra ronda」(デンマーク、邦題『アナザーラウンド』)監督トマス・ヴィンターベア

◎観客特別賞
「Mediterraneo」

★ガウディ栄誉賞
撮影監督のトマス・プラデバル・フォンタネ Tomas Pradevall Fontanet、プレゼンターはバルセロナ派を代表するベテラン俳優、ジョセップ・マリア・ポウとメルセ・サンピエトロでした。


(左から、ジョセップ・マリア・ポウ、受賞者、メルセ・サンピエトロ)

★以上が23カテゴリーの受賞者です。観客賞に選ばれた「Mediterraneo」は、バルセロナ出身のオスカル・カンプスが設立した人道支援組織オープン・アームズ NGO Proactiva Open Armsの活動を描いた実話、受賞はほぼ決定しておりました。(*印はゴヤ賞と結果が同じ)
★今年は8月下旬に開催されていたマラガ映画祭が、コロナウイリス以前の3月開催に決定(3月18日~27日)しており、ノミネーションも発表になっている。新作が揃ったマラガ優先にアップしたい。
セシリア・バルトロメ*第9回フェロス栄誉賞受賞 ― 2022年02月09日 16:17
反フランコを貫く勇敢な映像作家セシリア・バルトロメ

(フェロス栄誉賞のポスターを背にしたセシリア・バルトロメ)
★第9回フェロス栄誉賞を受賞したセシリア・マルガリタ・バルトロメ・ピナは、1940年9月10日バレンシア州のアリカンテ生れ、映画監督、脚本家、製作者。7歳のとき父親が当時のスペイン植民地で映画検閲の責任者に任命されて以来、家族と赤道ギニアのフェルナンド・ブー島に移住した。当地の演劇学校で演技と演出を学び、10代後半には先住民高等学校の生徒たちを指導した。20歳のときマドリードに引っ越すまで暮らしている。数年後のインタビューで「私は適応するのに時間がかかった途方もない不道徳と、間違いを認めようとしないマチスモに出会った」と語っている。後にここの体験をテーマにした長編「Lejos de África」(96)を撮ることになる。

(自らの少女時代の体験を織り込んだ長編「Lejos de África」のポスター)

(受賞を前にしたセシリア・バルトロメ、マドリードの8 2/1書店にて)
★スペインに戻ると、大学で工学と経済科学を専攻したが断念、1947年に開校したマドリードの国立映画研究所*に入学して、本格的に映画を学ぶことにした。1969年、今は亡きピラール・ミロ、現役で活躍するホセフィーナ・モリーナと共に卒業、本校最初の女性シネアストの一人になった。既に「La noche del doctor Valdés」など数編の短編を送り出しており、1970年の離婚をテーマにしたミュージカル「Margarita y el lobo」(モノクロ、45分)が卒業制作作品。本作はフランコ政権を挑発しているということで検閲に引っかかり、民主主義の到来まで国外で秘密裏に上映されていた。バルトロメの名前はブラックリスト入りしてしまい、卒業後は宣伝や産業ドキュメンタリーしか撮ることが出来なくなった。他の監督のプロジェクトでも背後に彼女の影を見つけると検閲が通らず、長いブランクを余儀なくされた。セクシュアリティや離婚、中絶問題、女性の自由などは検閲を通らない時代であった。
*国立映画研究所は、イタリア映画のネオレアリズモの流れをくむ新しい考え方をもとに設立され、内容の乏しい映画を拒否した。スペイン映画史に名を残したフアン・アントニオ・バルデム、ガルシア・ベルランガなどが第1期生卒業生、後マドリードのコンプルテンセ大学に発展解消された映画研究所。

(35ミリで「La noche del doctor Valdés」を撮影するバルトロメ、1964年)

(中編ミュージカル「Margarita y el lobo」のポスター)
★フランコ没後の民主主義移行期に最初に撮った、1977年の「Vámos, Bárbara」は、マーティン・スコセッシの『アリスの恋』(74)に触発された作品、スペイン最初のフェミニスト映画といわれる。エンディングを変更して、スペインのアリスは白馬に乗った王子様を夢見ない、自立した自身を見つける女性として描いている。主役アナをアンパロ・ソレル・レアルが扮し、バルバラは12歳になる一人娘の名前。撮影監督はパートナーだったホセ・ルイス・アルカイネが手掛けている。

(アンパロ・ソレル・レアルと娘バルバラ役のクリスティナ・アルバレス)
★1979年から翌年にかけて、兄ホセ・フアン・バルトロメと移行期のスペインを描いたドキュメンタリー2編「Después de.....」(No se os puede dejar solos / Atado y bien atado)の撮影に取りかかり完成させる。しかし独裁政権の終りのスペインの変化を批判的に描いているため公開が遅れ、1981年のクーデタ未遂事件を経て、3年後の1983年、ピラール・ミロが映画総局長に就任したことで紆余曲折があったにしろ陽の目を見ることができた。検閲は1976年4月全廃されたが表現の自由は直ぐには手に入らなかった。ミロ監督は1984年の「第1回スペイン映画祭」の企画者で、団長としてフアン・アントニオ・バルデムやカルロス・サウラ以下と一緒に来日している。心臓にトラブルを抱えており、撮影中に心臓発作で急死している。

(ドキュメンタリー「Después de.....」のポスター)

(ホセ・アントニオ・バルトロメとセシリア・バルトロメ)
★1996年、脚本を兄ホセ・フアン・バルトロメと共同執筆した長編「Lejos de África」を撮る。キューバとの合作で、キューバで撮影した。アフリカにおけるスペイン植民地主義に関する最初の映画といわれ、二十歳まで暮らしていた赤道ギニアの体験を織り込んでいる。白人と黒人という2人の少女の友情と冒険という単純なストーリーのなかに、少女たちの無垢な目を通して、異文化間の対立、人種差別、政治情勢の推移を描いている。

(2人の少女を演じたニーニャ、フレームから)
★2005年、放映時間には通りに人影が途絶えたと言われた長寿TVシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(01~)のドキュメンタリー編「Especial Carrero Blanco: el comienzo del fin」を撮る。フランコ総統の右腕であった軍人ブランコ首相の生涯と暗殺事件を精査、分析したドキュメンタリーである。これが最後の作品となっている。女性映画製作者協会 CIMA の名誉会員。
*映画祭の受賞歴、映画賞は以下の通り:
2009年、アリカンテ大学と女性学センターが共催した回顧展が企画された。
2012年、第50回ヒホン映画祭で ”Mujeres de cine” 賞を受賞。
2014年、美術功労賞〈金のメダル〉受賞、スペイン文化省が選考母体。
2018年、バレンシア視聴覚アカデミー賞受賞。
2019年、スペイン映画アカデミー主催の「マエストロ」プログラムが企画される。
2021年、第4回女性映画祭のキャリア賞受賞。
2022年、フェロス栄誉賞受賞

(フェリペ6世、レティシア王妃、国王夫妻列席のもと授与された〈金のメダル〉
授与式は2015年2月)

(盟友ホセフィーナ・モリーナから〈金のメダル〉を手渡される)
第9回フェロス賞2022*受賞結果発表 ― 2022年02月05日 16:49
作品賞はコメディ部門「El buen patrón」とドラマ部門「Maixabel」が受賞

★去る1月30日、第9回フェロス賞2022の授賞式がマドリードからサラゴサ・オーディトリアムに舞台を移して開催されました。ゴヤ賞前哨戦という立ち位置ですが、結果は以下の通りになりました。作品賞は下馬評通り「Maixabel」(2賞)と「El buen patrón」(3賞)になりましたが、監督賞が当ブログではノーマークだったロドリゴ・コルテスの「El amor en su lugar」となりました。第二次世界大戦中の劇場への個人的なオマージュということです。コルテス監督といえばその斬新な切り口でファンを驚かせた「Buried」(10、英語・アラビア語)の監督、国際的に大ヒットして、我が国でも『リミット』のタイトルで公開されました。
★アルモドバル監督も主演のペネロペ・クルスも赤絨毯を踏みませんでしたが、「Madres paralelas」は、アイタナ・サンチェス=ヒホンが助演女優賞、アルベルト・イグレシアスがオリジナル音楽賞、ハビエル・ハエンのポスター賞の3賞をゲットしました。TVシリーズ(ドラマ部門)のアナ・ルハスとクラウディア・コスタフレダの「Cardo」受賞は番狂わせとか。主役を演じたアナ・ルハスは主演女優賞も受賞しました。カテゴリーの数も種類もゴヤ賞とは異なり、こちらのほうが視聴者の目線に近いかもしれない。コメディ部門は2作しか紹介できませんでしたが、スペイン人のコメディ好きは相変わらずです。

(PCR 検査をする、総合司会者のナチョ・ビガロンド監督とコメディアンのパウラ・プア)
★昨年新設された二つの特別賞(フィクション&ノンフィクション)がFeroz Arrebato 賞となり、「激しい爆発」という意味なので、一応「フェロス爆発賞」と訳しておきます。今回はドラマ部門の作品賞にもノミネートされたチェマ・ガルシア・イバラのロカルノ映画祭特別賞受賞作SFコメディと、アドリアン・シルベストレのトランスジェンダーの心の傷を描いたドキュメンタリーが受賞しました。国内ネットワークでは放映されませんでしたが、YuoTubeで楽しめたようです。降格されてもフェロス賞は生き残る必要があるということです。以下が受賞結果、脚本賞以下は受賞者のみをアップ、ゴチック体が受賞者、*印は当ブログで作品紹介をしたものです。
*第9回フェロス賞2022受賞結果*
◎作品賞(ドラマ部門)
Espíritu sagrado 監督チェマ・ガルシア・イバラ
Libertad クララ・ロケ 邦題『リベルタード』 *
Madres paralelas ペドロ・アルモドバル *
Tres フアンホ・ヒメネス・ペーニャ&ペレ・アルタミラ
Maixabel イシアル・ボリャイン *
*製作者はコルド・スアスア、フアン・モレノ、ギジェルモ・セムペレ。ウルコ・オラサバルの助演男優賞の2冠に終わりました。オリジナル音楽賞ダブル・ノミネートのアルベルト・イグレシアスはアルモドバル映画で受賞、フェロス賞女優賞受賞者のブランカ・ポルティーリョなどは残念でした。

(イシアル・ボリャイン)

(左側が製作者コルド・スアスア)
◎作品賞(コメディ部門)
El cover 監督セクン・デ・ラ・ロサ *
Chavalas カロル・ロドリゲス・コラス
Seis días corrientes ネウス・バリュス
Un efecto óptico フアン・カベスタニー
El buen patrón フェルナンド・レオン・デ・アラノア *
*製作はレオン・デ・アラノア、ジャウマ・ロウレス、ハビエル・メンデス・ソリとの共同製作、フェロス賞受賞は初めて。

(左から2人め、ハビエル・バルデム、レオン・デ・アラノア監督、セルソ・ブガージョ、
アルムデナ・アモール)
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル Madres paralelas
イシアル・ボリャイン Maixabel
フェルナンド・レオン・デ・アラノア El buen patrón
クララ・ロケ Libertad
ロドリゴ・コルテス El amor en su lugar

(第5作目で受賞者となったロドリゴ・コルテス)
◎主演男優賞
ロベルト・アラモ Josefina *
リカルド・ゴメス El sustituto
エドゥアルド・フェルナンデス Mediterráneo *
ルイス・トサール Maixabel
ハビエル・バルデム El buen patrón
*フォルケ賞は受賞がほぼ決定していましたが欠席、今度はさすがに出席しました。フェロス賞は『誰もがそれを知っている』(18)でノミネートされただけで今回が初受賞です。

(下馬評通りの受賞者ハビエル・バルデム)
◎主演女優賞
タマラ・カセリャス Ama *
ペネロペ・クルス Madres paralelas
マルタ・ニエト Tres
ブランカ・ポルティーリョ Maixabel
ペトラ・マルティネス La vida era eso『マリアの旅』
(ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス) *
*60年のキャリアを持つペトラに今宵もっとも大きな拍手喝采が送られました。「私の同僚の女優たちはみんな素晴らしいのです。しかし最高の女優は私です」と、お茶目なスピーチをして満場を沸かせたそうです。

(77歳とは思えない受賞者ペトラ・マルティネス)
◎助演男優賞
セルソ・ブガージョ El buen patrón
ペレ・ポンセ El sustituto
チェチュ・サルガド Las leyes de la frontera *
マノロ・ソロ El buen patrón
ウルコ・オラサバル Maixabel

(ウルコ・オラサバル)
◎助演女優賞
アルムデナ・アモール El buen patrón
アンナ・カスティーリョ La vida era eso
ミレナ・スミット Madres paralelas
カロリナ・ジュステ Chavalas (カロル・ロドリゲス・コラス)
アイタナ・サンチェス=ヒホン Madres paralelas

(大人の気品あふれる受賞者アイタナ)
◎脚本賞
フェルナンド・レオン・デ・アラノア El buen patrón

(2冠達成のフェルナンド・レオン・デ・アラノア)
◎オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス Madres paralelas

(トロフィーを手にしたアルベルト・イグレシアス)
◎ポスター賞
ハビエル・ハエン Madres paralelas

(ハビエル・ハエン)
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ La abuela パコ・プラサ監督 *
*2015年の 『マジカル・ガール』 ノミネート以来7回目、2019年の 『シークレット・ボイス』、2020年のパコ・カベサスの 「Adiós」 と2回受賞しているベテラン、今回の受賞で3勝目となった。

(ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ)
◎TVシリーズ作品賞(ドラマ部門)
Cardo 創作者アナ・ルハス&クラウディア・コスタフレダ
製作Suma Latina(ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ)/ Atresmedia Television
*プロデューサーのハビエル・アンブロッシはステージで「若い才能に声をかけたら、彼らに任せてください。彼ら自身に物語を語らせてください」と懇願しました。ロス・ハビスは『ホーリー・キャンプ!』を共同で監督しました。1話25分のミニシリーズ(全6話)

(アナ・ルハス、クラウディア・コスタフレダ)


(80年代ファッションを着たハビエル・カルボとハビエル・アンブロッシ)
◎TVシリーズ作品賞(コメディ部門)
Venga Juan 創作者ディエゴ・サン・ホセ 製作TNT España / 100 Bala
*昨年の第2シーズン「Vamos Juan」に続いて受賞した、政治家フアン・カラスコを主役にした政治コメディ。長寿TVシリーズの第3シーズン。脚本家ディエゴ・サン・ホセは、「オーチョ・アペジードス」シリーズを手掛けたベテランです。

(中央がディエゴ・サン・ホセ)
◎TVシリーズ主演男優賞
ハビエル・カマラ Venga Juan
*主役の政治家フアン・カラスコに扮して、昨年逃したトロフィーを手にした。今回は相棒のマリア・プハルテも助演女優賞を受賞した。


(昨年トロフィーを逃したハビエル・カマラ、マリア・プハルテ)
◎TVシリーズ主演女優賞
アナ・ルハス Cardo

(デュオールのドレスで登壇したアナ・ルハス)
◎TVシリーズ助演男優賞
エンリク・アウケル Vida perfecta (監督レティシア・ドレラ)
*ゴヤ賞2020新人男優賞受賞から注目されている若手俳優、フェロス賞2020に続く2度目の受賞。目が離せなくなった個性派です。

(1970年代に流行した幅広のパンタロン姿で登壇した)
◎TVシリーズ助演女優賞
マリア・プハルテ Venga Juan

(マリア・プハルテ)
◎フェロス爆発賞賞(フィクション部門)
Espíritu sagrado 監督チェマ・ガルシア・イバラ

(チェマ・ガルシア・イバラ)
◎フェロス爆発賞(ノンフィクション部門)
Sedimentos (ドキュメンタリー) 監督アドリアン・シルベストレ
*6人のトランスジェンダーの女性の人生について欄外から描いたドキュメンタリー。タイトルは心の傷、わだかまりの意。

(左側、アドリアン・シルベストレ)
◎フェロス栄誉賞
セシリア・バルトロメCecilia Bartolomé(1940年アリカンテ生れ)
*監督、脚本家、プロデューサーとして、スペインの女性たちに課せられたタブーに挑戦した映画業界のパイオニア的存在。鬼籍入りしているピラール・ミロや未だ現役の先輩ジョセフィナ・モリーナ監督などと協力して、女性シネアストの地位向上に尽くしている。別途キャリア紹介を予定しています。コチラ⇒2022年02月09日


(多くの女性シネアストたちが登壇して祝福しました)
★以下は話題を呼んだレッドカーペット上のファッション・ショー、若手の男性たちのルックスは、黒のジャケットを脱ぎ捨てて以前とは大分変わりました。女性の人気ファッションは相変わらずモノクロが多かった印象です。

(毎回ベストドレッサーに選ばれるクララ・ラゴ)

(TVシリーズ「La fortuna」で主演女優賞ノミネートのアナ・マリア・ポルボロサ)

(「Madres paralelas」で助演女優賞ノミネートのミレナ・スミット)

(TVシリーズの助演男優賞プレゼンターのインマ・クエスタ)

(カルメン・アルファト)

(「Chavalas」で助演女優賞ノミネートのカロリナ・ジュステ)

(「Tres」で主演女優賞ノミネートのマルタ・ニエト)

(『マリアの旅』で助演女優賞ノミネートのアンナ・カスティーリョ)

(TVシリーズ『ペーパー・ハウス』で助演女優賞ノミネートのナイワ・ニムリ)

(TVシリーズ「Hierro」で主演女優賞ノミネートのカンデラ・ペーニャ)

(「El buen patrón」で助演女優賞ノミネートのアルムデナ・アモール)

(「Vida perfecta」の監督レティシア・ドレラ)

(エレガントなAICA会長マリア・ゲーラ、ポデモス統一のヨランダ・ディアス)
★アルモドバルは国内では振るいませんでしたが、イギリスのアカデミー賞と言われるバフタ賞 BAFTA(英語以外の映画部門)にノミネートされ、濱口竜介、セリーヌ・シアマ、パオロ・ソレンティーノなどと競います。
フェルナンド・レオンの「El buen patoron」が受賞*フォルケ賞受賞結果 ― 2021年12月14日 16:39
作品賞はフェルナンド・レオンの「El buen patorón」が受賞

(作品賞受賞の「El buen patorón」のフレームから)
★12月11日、ホセ・マリア・フォルケ賞のガラが開催され、受賞結果が発表になりました。監督賞がありませんのでフェルナンド・レオンもアルモドバルもイシアル・ボリャインの姿もなく、唯一「Mediterráneo」のマルセル・バレナが男優賞にノミネートされていたエドゥアルド・フェルナンデスと一緒に姿を見せていました。殆ど下馬評通りの受賞結果、サプライズといえば候補者やトロフィーのプレゼンター、招待客の奇抜な衣装だったかもしれません。昨年同様マスク着用が義務づけられ、メディアのインタビューも着用のまま、許されたのはフォトコールだけでした。
★そしてお祝いムードの余韻が残るなか、13日午前ベロニカ・フォルケの突然の訃報のニュースが駆けめぐりました。フォルケ賞は1995年72歳で癌に倒れたベロニカの父親ホセ・マリア・フォルケを讃えて、翌年設立された映画賞です。本賞の顔として毎年出席していたベロニカでしたが、今年は姿を見せませんでした。死因などはいずれアップするつもりですが、底抜けに明るい表の顔とは異なる、心に闇を抱えた66年の生涯でした。アルモドバル・ガールの1人として、『グロリアの憂鬱』『マタドール』『キカ』、フェルナンド・トゥルエバの『目覚めの年』、フェルナンド・コロモの「La vida alegre」など、心に残る映画が思い起こされます。
*第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021受賞結果*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)
「Madres paralelas」* 製作:EL DESEO / REMOTAMENTE FILMS
「Maixabel」* 製作:FEELGOOD MEDIA / KOWASLKI GILMS / MAIXABEL FILM
「Mediterráneo」* 製作:ARCADIA MOTION PICTURES / CADOS PRODUCCIONES /
FASTEN SEAT BELT / KARNAVAS-KONTROVRAKIS&SIA CO/HERETIC / LASTOR MEDIA
「El buen patorón」* 製作:BASCULAS BLANCO / THE MEDIAPRO STUDIO /
REPOSADO PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS

◎長編ドキュメンタリー賞
「Buñuel, Un cineasta surrealista」(21,83分)* 監督ハビエル・エスパダ
「Héroes, Silencio y rock & roll」(19,94分) 監督アレシィス・モランテ
「Quien lo pidee」(21、220分)* 監督ホナス・トゥルエバ
「100 Días con la Tata」(21、82分) 監督ミゲル・アンヘル・ムニョス


◎短編賞
「Mindanao」(21、17分) 監督ボルハ・ソレル
「The Monkey」(21、17分アニメーション)
監督ホセ・サパタ、ロレンソ・デグルイノセンティ
「El monstruo invisible」(19、29分)監督ハビエル・フェセル、ギジェルモ・フェセル


◎シリーズ賞
「Historias para no dormir」(21)
監督ロドリゴ・コルテス、ロドリゴ・ソロゴイェン、パコ・プラサ、パウラ・オルティス
「La fortuna」*(21) 監督アレハンドロ・アメナバル
「Maricón perdido」(21) 監督アレハンドロ・マリン
「Hierro」(19) 監督ホルヘ・コイラ、製作者ペペ・コイラ、アルフォンソ・ブランコ


◎男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス「Mediterráneo」 監督マルセル・バレナ
ルイス・トサール「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン
ウルコ・オラサバル「Maixabel」同上
ハビエル・バルデム「El buen patorón」 監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア

◎女優賞
マルタ・ニエト「Tres」 監督フアンホ・ヒメネス
ペネロペ・クルス「Madres paralelas」 監督ペドロ・アルモドバル
ペトラ・マルティネス「La vida era eso」(20、邦題『マリアの旅』)*
監督ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス
ブランカ・ポルティリョ「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

◎シリーズ男優賞
アルバロ・メル「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル
ダリオ・グランディネッティ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ
ハビエル・グティエレス「Reyes de la noche」(21)
監督カルロス・テロン、アドルフォ・バロール
ハビエル・カマラ「Venga Juan」(21~22)創作者ディエゴ・サンホセ

◎シリーズ女優賞
アナ・ポルボロサ「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル
マリベル・ベルドゥ「Ana Tramel, El juego」(21)
監督サルバドール・ガルシア、グラシア・ケレヘタ
ナディア・デ・サンティアゴ「El tiempo que te doy」(21)
監督イネス・ピントル・シエラ、パブロ・サンティドリアン
カンデラ・ペーニャ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

◎ラテンアメリカ映画賞
「98 segundos sin sombra」(ボリビアほか、21) 監督フアン・パブロ・リヒター
「Lavaperros」(アルゼンチンほか、18) 監督カルロス・モレノ
「Los lobos」(メキシコほか、19) 監督サムエル・キシ・レオポ
「Noche de fuego」*(メキシコほか、21) 監督タティアナ・ウエソ

◎Cine y Educacion en Valores価値ある映画と教育賞
「100 Días con la tata」
「Madres paralela」
「Mediterráneo」
「Maixabel」

★以上が10カテゴリーの受賞結果でした。他EGEDA金のメダルをAtipica Filmsのプロデューサーであるホセ・アントニオ・フェレスが受賞しました。『漆黒のような深い青』、『マーシュランド』、『スモーク・アンド・ミラーズ』、『SEVENTEENセブンティーン』、TVシリーズ「La Peste」などのヒット作を手掛けている。『SEVENTEENセブンティーン』でフォルケ賞2020の価値ある映画と教育賞をダニエル・サンチェス・アレバロ監督と受賞している。(EGEDAオーディオビジュアル著作権管理協会が選考母体、現会長エンリケ・セレソ)

(金のメダルを手にしたホセ・アントニオ・フェレス)

(フォルケ賞2020価値ある映画と教育賞を受賞)
マルセル・バレナの「Mediterraneo」*フォルケ賞2021 ― 2021年12月13日 20:27
フォルケ賞&ゴヤ賞にノミネートされた「Mediterráneo」

★マルセル・バレナの「Mediterráneo」は実話に基づいている。フォルケ賞とゴヤ賞の両方の作品賞にノミネートされながら作品紹介が未だでした。本作は第94回オスカー賞のスペイン代表作品の最終候補3作の一つでした。結果はフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「El buen patorón」になりました。エドゥアルド・フェルナンデスが扮するオスカル・カンプス(バルセロナ1963)というライフガードがモデルです。地中海を横断する移民と難民を救助する人道支援組織NGO Proactiva Open Arms(プロアクティバ・オープン・アームズ)の設立者です。発端は2015年秋9月、トルコの海岸に打ち上げられたクルド出身のシリアの3歳児アイランの溺死体の画像でした。その映像が瞬く間に世界中を駆けめぐったのは、そんなに昔の話ではない。
★バルセロナのバダロナで人命救助の会社を所有していたカンプスは、ギリシャのレスボス島に辿りついたシリア難民支援を決意しました。資金は仲間と一緒に旅行するために節約して貯めた15,000ユーロでした。時間の経過とともに、ソーシャルネットやメディアの報道を通じて、オープン・アームズのインフラや支援能力を向上させていきました。映画はその活動の始りに焦点を当てています。
「Mediterráneo」(The Low of the Sea)
製作:Arcadia Motion Pictures / Cados Producciones / Fasten Films /
Lastor Media / Heretic 協賛RTVE / Movistar+/ TVC / ICAA / ICEC
監督:マルセル・バレナ
脚本:ダニエル・シュライフ、マルセル・バレナ
撮影:アルナウ・バタリェル
音楽:キコ・デ・ラ・リカ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
キャスティング:マキス・ガジス
美術:マルタ・バザコ、ピネロプ・イ・バルティ、エレナ・バルダバ
衣装デザイン:デスピナ・チモナ
メイクアップ&ヘアー:(メイク)エレクトラ・Katsimicha、ロウラ・リアノウ、(ヘアー)マリオナ・トリアス、アンジェリキ・バロディモウ、他
プロダクション・マネージメント:アルベルト・アスペル、他
製作者:アドリア・モネス、イボン・コルメンザナ、イグナシ・エスタペ、セルジ・モレノ、トノ・フォルゲラ、(エグゼクティブ)サンドラ・タピア、他
データ:製作国スペイン=ギリシャ、言語スペイン語・ギリシャ語・英語・カタルーニャ語・アラビア語、2021年、アクション・スリラー、実話、112分、撮影地レスボス島、アテネ、バルセロナ、期間2020年9月4日~10月26日、スペイン公開2021年10月1日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2021、オーレンセ映画祭観客賞受賞、ローマ映画祭観客賞受賞、パラブラ映画祭2021男優賞(エドゥアルド・フェルナンデス、ダニ・ロビラ)受賞、テッサロニキ映画祭、ノミネート:第27回フォルケ賞2021作品賞・男優賞(E.フェルナンデス)、ゴヤ賞2022(作品賞以下9カテゴリー)、フェロス賞主演男優賞(E.フェルナンデス)、他
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(オスカル・カンプス)、ダニ・ロビラ(ジェラルド・カナルス)、アンナ・カスティーリョ(エステル)、セルジ・ロペス(ニコ)、メリカ・フォロタン(ラシャ)、パトリシア・ロペス・アルナイス(ラウラ・ラヌザ)、アレックス・モネル(サンティ・パラシオス)、コンスタンティン・シンシリス(バックパッカー)、バシリス・ビスビキス(マソウラス)、ヤニス・ニアロス(ロウカス)、ジオタ・フェスタ(ノラ)、スタティス・スタモウラカトス(ストラスト)、ロセル・ビリャ=アバダル(ジェラルドの妻)、他エキストラ多数
ストーリー:2015年秋、ライフガードのオスカルとジェラルドは、ギリシャのレスボス島に旅行に出掛け、地中海で溺死した幼児の写真に衝撃を受ける。武力抗争から逃れるため、何千人もの難民が不安定なボートで海を渡ってくる冷酷な現実に圧倒される。しかし誰も救助活動を行いません。エステルとニコ、他のメンバーと一緒に、彼らは救助を必要としている人々をサポートしようと決意する。この旅は全員にとって自身の人生を刻むオデッセイになるだろう。

(レスボス島に流れ着いた難民を救助するライフガードたち、フレームから)
地中海は地球上で最大の集団墓地になっていた!
★監督紹介:マルセル・バレナ、1981年バルセロナ生れ、監督、脚本家、俳優、製作者。2010年TVムービー「Cuatro estaciones」がガウディ賞を受賞、ドキュメンタリー「Món petit」(12)がアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2013で受賞するなどした。またゴヤ賞2014ドキュメンタリー賞部門にノミネートされている。2016年に「100 metros」で長編デビュー、本作は『100メートル』の邦題でNetflixが配信した。多発性硬化症と診断されたラモン・アロヨ(ビルバオ1971)の実話がベースになっている。「Mediterráneo」が第2作目になり、本作について「ラブストーリーでもあるが、ロマンティックな愛ではなく、自分が人間であると感じることのできる人の物語」と語っている。現在オンライン上映の具体的な話はないそうだが、たとえばFilminが目下最有力候補ということです。ということは日本は無理かもしれない。
*ドキュメンタリー「Món petit」の紹介記事は、コチラ⇒2014年01月19日

(オープン・アームズの シャツを着た監督、サンセバスチャンFF2021フォトコール)

(左から、セルジ・ロペス、エドゥアルド・フェルナンデス、バレナ監督、
ダニ・ロビラ、アンナ・カスティーリョ、同上)
★エドゥアルド・フェルナンデス、1964年バルセロナ生れ、演劇、映画、TV俳優。バルセロナの演劇研究所(1913設立)でパントマイムを学ぶ。シェイクスピア劇(2006年「ハムレット」でフォトグラマス・デ・プラタ俳優賞)、ベケット、アーサー・ミラーのような現代劇にも出演、TVシリーズ出演は1985年、日本で公開された最初の映画はビガス・ルナの『マルティナの海』(01)ではないかと思います。三つの分野を両立させながら今日に至っている。
★当ブログ登場も多く、ゴヤ賞には「Fausto 5.0」(監督アレックス・オリェ、イシドロ・オルティス、カルルス・パドリサ)で2002主演男優賞、セスク・ゲイの「En la ciudad」(03)とアメナバルの『戦争のさなかで』(19)のミリャン・アストライ役で助演男優賞と3個のゴヤ胸像を手にしている。他にサンセバスチャン映画祭2016のアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』で元諜報員フランシスコ・パエサを演じて銀貝男優賞、ガウディ賞も3個、マラガ映画祭でもビスナガ男優賞3個と受賞歴が多く、ノミネートは数えきれない。これまでも歴史上の人物を具現化してきた。上述したミリャン・アストライやフランシスコ・パエサの他に、フェリペ2世、ヘスス・デ・ガリンデスなどだが、キャラクターが生きている場合は「演じる人物の動機を知り、なぜそうしたか、その理由を理解することです」と語っている。私事になるが共演作もある、活躍目覚ましい女優グレタ・フェルナンデスは一人娘である。
*『戦争のさなかで』の作品紹介は、コチラ⇒2019年11月26日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』の作品紹介は、コチラ⇒2016年09月24日

(オスカル・カンプス役のエドゥアルド・フェルナンデス、フレームから)
★ダニ・ロビラ、もう一人の主人公ジェラルド・カナルスを演じた。「オーチョ・アペジードス」の大ヒットで上昇気流に乗っていたさなかの2020年3月にホジキンリンパ腫という癌で闘病生活を余儀なくされた。本作出演は復帰第2作目になる(第1作目は夏公開されたジャウム・コレット=セラの『ジャングル・クルーズ』)。彼はマルセル・バレナ監督のデビュー作「100 metros」で主人公のラモン・アロヨを演じた。30代の若さで、100メートルさえ歩けないと言われたラモンが、トライアスロンの鉄人レースに挑戦した実話をベースにしたヒューマンドラマでした。既にキャリア&フィルモグラフィー紹介をしております。バレナ監督によると、新作の撮影は悪天候や新型コロナウイリス感染の影響で困難続きだったという。エキストラになってくれたシリア難民が収容キャンプ地に足止めされてしまった。しかしもっと大変だったのは、ダニのホジキンリンパ腫の罹患だったという。
*ダニ・ロビラのホジキンリンパ腫闘病&キャリア紹介は、コチラ⇒2021年05月24日

(エドゥアルド・フェルナンデス、ダニ・ロビラ、アンナ・カスティーリョ)
★オスカル・カンプスは、1963年バルセロナ生れ、人道支援組織NGO Proactiva Open Arms(プロアクティバ・オープン・アームズ)の設立者。23歳のときレンタカーの会社を立ち上げ成功させた。その後離婚したときに慰謝料として妻に渡した。赤十字に参加した経験をもとにライフガードの仕事に携わることになった。「ライフガードは、世界の他の地域では尊敬されていますが、ここではプールでごっこ遊びをしていると思われています」と語り、アイラン少年と同じ年齢の息子がいたこともNGOオープン・アームズ設立の動機の一つのようでした。「船員には漂流者を救助する義務があり、その後、彼らをどうするかは指導者の責任である」とも語っている。オープン・アームズは約10万人以上の難民を救助した。

(「私たちは子持ちの離婚経験者」と仲のいいフェルナンデスとカンプス)
第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021*ノミネーション発表 ― 2021年12月08日 11:07
1ヵ月前倒しのフォルケ賞授賞式――2021年12月11日

★新春最初のスペインの映画賞として1月初旬に開催されていたホセ・マリア・フォルケ賞が、1ヵ月前倒しになり、間もなくの12月11日(土)に行われます。最終ノミネーション発表は11月に発表になっていました。従って2021年は第26回と第27回の2回という異例の開催です。10カテゴリーと変わりません。製作サイドに陽があたるよう始まった映画賞、特徴は監督賞がないことです。選考母体がオーディオビジュアル著作権管理協会(初代会長がホセ・マリア・フォルケ)ということもあって、前回アップしましたゴヤ賞とはカテゴリーの内容も視点も若干異なっています。初期には今日のような俳優賞やシリーズ部門はありませんでした。次々カテゴリーが増えていく傾向にあります。(*印は紹介作品)
*第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021ノミネーション*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)
「El buen patorón」* 製作:BASCULAS BLANCO / THE MEDIAPRO STUDIO /
REPOSADO PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS

「Madres paralelas」* 製作:EL DESEO / REMOTAMENTE FILMS

「Maixabel」* 製作:FEELGOOD MEDIA / KOWASLKI GILMS / MAIXABEL FILM

「Mediterráneo」 製作:ARCADIA MOTION PICTURES / CADOS PRODUCCIONES /
FASTEN SEAT BELT / KARNAVAS-KONTROVRAKIS&SIA CO/HERETIC / LASTOR MEDIA

◎長編ドキュメンタリー賞
「100 Días con la Tata」(21、82分) 監督ミゲル・アンヘル・ムニョス

「Buñuel, Un cineasta surrealista」(21,83分) 監督ハビエル・エスパダ

「Héroes, Silencio y rock & roll」(19,94分) 監督アレシス・モランテ

「Quien lo pidee」(21、220分)* 監督ホナス・トゥルエバ

◎短編賞
「El monstruo invisible」(19、29分)監督ハビエル・フェセル、ギジェルモ・フェセル

「Mindanao」(21、17分) 監督ボルハ・ソレル

「The Monkey」(21、17分アニメーション)
監督ホセ・サパタ、ロレンソ・デグルイノセンティ

◎シリーズ賞
「Hierro」(19) 監督ホルヘ・コイラ

「Historias para no dormir」(21)
監督ロドリゴ・コルテス、ロドリゴ・ソロゴイェン、パコ・プラサ、パウラ・オルティス

「La fortuna」*(21) 監督アレハンドロ・アメナバル

「Maricón perdido」(21) 監督アレハンドロ・マリン

◎男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス「Mediterráneo」 監督マルセル・バレナ

ハビエル・バルデム「El buen patorón」 監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア

ルイス・トサール「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

ウルコ・オラサバル「Maixabel」同上

◎女優賞
ブランカ・ポルティリョ「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

マルタ・ニエト「Tres」 監督フアンホ・ヒメネス

ペネロペ・クルス「Madres paralelas」 監督ペドロ・アルモドバル

ペトラ・マルティネス「La vida era eso」(20、邦題『マリアの旅』)*
監督ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス

◎シリーズ男優賞
アルバロ・メル「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル

ダリオ・グランディネッティ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

ハビエル・カマラ「Venga Juan」(21~22) 創作者ディエゴ・サンホセ

ハビエル・グティエレス「Reyes de la noche」(21)
監督カルロス・テロン、アドルフォ・バロール

◎シリーズ女優賞
アナ・ポルボロサ「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル

カンデラ・ペーニャ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

マリベル・ベルドゥ「Ana Tramel, El juego」(21)
監督サルバドール・ガルシア、グラシア・ケレヘタ

ナディア・デ・サンティアゴ「El tiempo que te doy」(21)
監督イネス・ピントル・シエラ、パブロ・サンティドリアン

◎ラテンアメリカ映画賞
「98 segundos sin sombra」(ボリビアほか、21) 監督フアン・パブロ・リヒター

「Lavaperros」(アルゼンチンほか、18) 監督カルロス・モレノ

「Los lobos」(メキシコほか、19) 監督サムエル・キシ・レオポ

「Noche de fuego」*(メキシコほか、21) 監督タティアナ・ウエソ

◎Cine y Educacion en Valores価値ある映画と教育賞
「100 Días con la tata」
「Madres paralela」
「Maixabel」
「Mediterráneo」
★以上が10カテゴリーのノミネーションです。
ジョニー・デップ栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2021 ㉕ ― 2021年09月24日 17:57
史上最も物議を醸したドノスティア栄誉賞受賞者ジョニー・デップ

★9月22日、予定通りジョニー・デップのドノスティア栄誉賞の授賞式が行われました。というのも栄誉賞受賞が発表されると、スペイン女性映画製作者協会CIMA(Asociación de Mujeres Cineastas de España)が元妻アンバー・ハード(2016年離婚)への家庭内暴力DV疑惑を理由に抗議の声を挙げたからでした。日本でも報道されているように、ジョニデを「DV夫」と報じたイギリスの大衆紙ザ・サンをめぐって起された訴訟で敗訴したからです。対して映画祭事務局が「我々が入手できたデータによると、彼は女性に対する暴力で逮捕、起訴、または有罪判決を受けておりません」と反論、無罪の推定の権利を擁護した。なんとももやもやした経緯でもたれた授賞式でした。
*キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年08月31日
★授賞式の当日午前中に行われたフォトコールには、関係者にガードされ、最近では定番になった帽子と衣装で時間通り姿を見せ、報道陣の要求に気軽に応じていました。50分に及ぶプレス会見は、モデレーターがCIMAの件についての質問を許可しなかったからか概ね好意的な雰囲気で、ジョニー・デップは「私を追い出すつもりだと思っていた」などと冗談を言い、最後には「ありがとうございました」とスペイン語で締めくくったということです。

(カメラにおさまったジョニー・デップ、9月22日のフォトコール)
★デップは敗訴後ワーナー・ブラザーズから映画シリーズ「ファンタスティック・ビースト」の大規模プロジェクトを解雇され、窮地に立たされ行き詰っています。ハリウッドから離れた仕事しかできないことから、今回の栄誉賞をとても感謝しているようでした。2010年代半ばから顕著になった<キャンセル・カルチャー>*は、「Me Too」運動とも連動していますが、一歩間違うと社会における検閲機関となりかねません。沈黙は金とジャーナリストや作家が公に発言することを恐れるようになる可能性がある。日本では9月23日から公開が始まった、アンドリュー・レヴィタスの新作『MINAMATA~ミナマタ』も米国での公開は決まっていない。

(プレス会見でのジョニー・デップ、9月22日)
★プレス会見では「私が子供の頃、テレビで見た映画は無声が基本でした。チャールズ・チャップリン、バスター・キートンなどです。大きくなってモノクロのクラシック・ホラーを見ました。私はホラーの大ファンで、それがティム・バートンに繋がりました。このジャンルは仮面とかメイクの後ろに隠れて重力の負荷から逃れることができました。ロン・チャイニー**が姿を消してキャラクターになる能力について考えます。衣装や義肢は、私を自身から遠ざけ、キャラクターに集中させます」と。
「あなたを沈めるには、たった一つのフレーズを言うだけで充分です」
★夜のステージでのキャンセル・カルチャーについての発言は、既に日本のメディアでも伝えられていると思いますが、ゆっくりとしたリズムで考え考えながらスピーチした。「今夜、まず第一に、ホセ・ルイス、映画祭関係者、市民の方に感謝します。私が選ばれたのは感動的です」と。このフェスティバルには3、4回来ていますが、これが本当の映画祭だと思って気に入っています。私はあえて自分をアーティストとは言いませんが、映画のクリエイティブな側面の一部であるよう感じています。「とても謙虚に感謝しています」、「この賞は皆さまのものです、観客がいなければ映画には意味がありません。観客は私の主人です」などとスピーチした。そしてハリウッドは大衆を過小評価し、物語の力が観客を魅了するのを忘れていますとも。「あなたを沈めるには、たった一つのフレーズを言うだけで充分です。防御できません」と、アンフェアな立場にいることを訴え、「愛する人や信じている人が被害者である場合には立ち上がってください」と述べた。スピーチは女性の聴衆によって何度も中断された。やれやれ・・・

*キャンセル・カルチャー:主に著名人や権力をもつ人物団体の法的、社会的、倫理的違反を糾弾し、公の非難を通じて責任を問うやり方。デップのケースは映画テレビ出演を一方的に中止させることで、社会的排除の動きを加速させている。どちらに正義があるか今後の推移を待ちたい。彼がアンバー側を名誉棄損で訴えた裁判はパンデミックで遅れ、来年になる由。
**ロン・チャイニー(1883~1930)は、メイクと演技力で<千の顔を持つ男>と言われたサイレント時代の米国の名優、『ノートルダムのせむし男』(23)の鐘つき男カジモト、『オペラ座の怪人』(25)の怪人が有名。1957年ジェームズ・ギャグニー主演の『千の顔を持つ男』で、その生涯が映画化された。
マリオン・コティヤール栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2021 ㉓ ― 2021年09月20日 15:14
ペネロペ・クルスによって手渡されたドノスティア栄誉賞

(69の数字が浮き上がったクルサール会場)
★9月17日、第69回サンセバスチャン映画祭がメイン会場クルサールで開幕しました。本日プレミア上映のあるシネアストが朝から続々と宿泊するマリア・クリスティナ・ホテルに吸い込まれて行きました。カルロス・サウラ父娘をはじめ、本日ドノスティア栄誉賞を受賞するマリオン・コティヤール、セクション・オフィシアルの審査員テッド・ホープ以下女性陣4名、「Maixabel」チームのイシアル・ボリャイン、ブランカ・ポルティリョ、ルイス・トサール、ペルラス部門オープニング作品「Competencia oficial」出演のアントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス、イレネ・エスコラルなど見慣れた顔がマスク姿で現れ、報道陣の要望でカメラにおさまるときだけ外していました。観客は50%に制限されており、悪賢いコロナウイルスの波状攻撃をうけ、今後もしばらく続くのではないでしょうか。
★昨年は新型コロナのパンデミックで許されなかったハグが解禁されたのか、あちこちでハグする姿が見られた。新作がオープニング作品に選ばれたチャン・イーモウは現地入りしてないのか見つかりませんでした。上映は早々と午前9時から開始されましたが、セレモニーは午後9時から、マリオン・コティヤールのドノスティア栄誉賞授与式、オープニング作品に追加ノミネートのチャン・イーモウの「Yi Miao Zhong / One Second」(104分、広東語・北京語)、カルロス・サウラの短編「Rosa Rosae. La Guerra Civil」(5分)の上映がありました。

(壇上でハグするマリオン・コティヤールとペネロペ・クルス)

(登壇したカルロス・サウラ)
★ドノスティア栄誉賞のプレゼンターは、恒例になっている映画祭総指揮のホセ・ルイス・レボルディノスではなく、第67回(2019)に史上最年少45歳で受賞したペネロペ・クルスの手からコティヤールに渡されました。クルスの場合もプレゼンターはU2のボノという意表をつく人選でした。「まあ、驚いたこと、この女性は私を魅了する、とっても愛しています」とコティヤール。主催者には「受賞は私の映画人生の新しい1ページを開いてくれました。ありがとうございます」とスピーチした。


(マリオン・コティヤールとペネロペ・クルス、9月17日)
★マリオンコティヤールは1975年9月パリ生れの45歳、期せずして同い年の受賞者になり、さらにクルスがフランスのセザール栄誉賞を受賞したときのプレゼンターは、恩師アルモドバルとマリオン・コティヤールでした。両人とも2児の母親とは思えない若々しさで、近年、栄誉賞の年齢もすっかり若返るようになりました。翌18日にはカンヌ映画祭で特別上映されたフロール・ヴァスール監督のドキュメンタリー「Bigger Than Us」が上映され、共同製作者として二人揃って赤絨毯を踏みました。

(コティヤールとフロール・ヴァスール、9月18日フォトコール)
*マリオン・コティヤールキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年09月02日
*ペネロペ・クルスのドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2019年10月04日
★もう一人の受賞者ジョニー・デップの授与式は、9月22日が予定されています。
映画国民賞2021はホセ・サクリスタン*授賞式はサンセバスチャンFF ― 2021年07月13日 16:54
教育文化スポーツ省が選考母体の国民賞

★ホセ・サクリスタン映画国民賞受賞の報せに、すぐ思い出したのが2015年の受賞者フェルナンド・トゥルエバだった。「今さら貰っても・・・」と、受賞を拒んだのでした。選考母体の教育文化スポーツ省の大臣も「断れるかな」と恐る恐る電話したというから笑える。授賞にはタイミングというものがあるということです。当時トゥルエバ監督の最新作は3年前の『二人のアトリエ~ある彫刻家とモデル』と大分前、『美しき虜』(98)の続編である「La reina de España」は、まだ準備中でクランクインもしていなかった。文化の重要性を軽視して文化予算を削り、チケット代に21%の消費税をかける政府に怒りを露わにしていた時期だった。結局は妻で製作者のクリスティナ・ウエテにとりなされて受けっとったのでしたが。
*国民賞の沿革、トゥルエバ受賞の記事は、コチラ⇒2015年07月17日
★ホセ・サクリスタン(マドリードのチンチョン1937)が未だだったとは実に意外というか驚きでした。おそらく本人がニュースを知った最後の一人だったろうと言う。というのも彼はフェルナンド・コロモの新作「Cuidado con lo que deseas」の撮影でセゴビアの森の中にいて連絡が取れなかった。妻のアンパロ・パスクアルが制作チームのメンバーを通じて彼を捜しだし受賞を知らせたという。しかし数年、最有力候補者の一人だったそうですから、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス文化大臣の電話を敬遠したのではないかと忖度する人もいるそうですw。お祝いに数分中断しただけで何事もなかったように撮影は続行された。

(フェロス賞2015に揃って出席したサクリスタンとアンパロ・パスクアル)
★撮影が終わって帰宅したサクリスタンは「賞はどれも歓迎です。それを祝う最良の方法は仕事をすることです。私にとってそれが重要だからです。この職業を続けてエンジョイできるようにするためです」と、エルパイスのの記者に電話で語った。仕事あっての人生というわけです。映画も芝居も引退の気はさらさらないが、83歳の俳優にとって撮影の手順は日増しに厳しくなっているようです。「早起きとか、待ち時間の長さ、寒さ暑さ・・・舞台のほうがずっと落ちつける」と弱音もチラリ。
★最初電話が繋がらなかった大臣も最終的には繋がった。「私たちは、ベルランガの年にスペイン映画史で最も偉大な俳優を選びたかった。電話で話せましたよ、勿論。渓谷の麓で撮影中の彼を見つけだしてね。ありがとう、ペペ、本当に。大いなる愛をこめて!」だそうです。遅かったのはベルランガの年を待っていたからというわけ。2021年はベルランガ生誕100周年、コロナに負けずイベントも目白押し、ペペはホセの愛称です。
★受賞の理由にはサクリスタンが「ルイス・ガルシア・ベルランガやフェルナンド・フェルナン・ゴメスなどスペイン映画史上に残るシネアストと仕事をしてきたこと、また若い監督カルロス・ベルムトやイサキ・ラクエスタ、ハビエル・レボーリョなどアクティブな監督とコラボしていることを審査員たちは挙げている。彼の多様性、60年代のコメディ、70年代後半からの社会派のスリラーまで幅の広いことも挙げている。本賞は映画部門の受賞だが、映画のみならず演劇、周囲を驚かせた90年代の「ラマンチャの男」や「マイ・フェア・レディ」のようなミュージカル出演も視野に入れたということです。
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーについては何回か登場させておりますが、1960年舞台でスタート、1965年のフェルナンド・パラシオスのコメディ「La familia y uno más」で映画デビューした。60年代は、アルフレッド・ランダ、ホセ・ルイス・ロペス・バスケスのトリオの一人として、おびただしい数のコメディに起用されている。フランコ体制末期の1975年、ハイメ・カミーノの『1936年の長い休暇』で生物学者を演じた。内戦勃発でカタルーニャ地方の山間避暑地に閉じ込められた人々を敗者の視点で描いた作品。翌年のベルリン映画祭に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞した。日本では1984年に開催された「スペイン映画の史的展望 1955~77」で上映されている。1977年にはホセ・ルイス・ガルシのデビュー作「Asignatura pendiente」(仮題「未合格科目」)で主役に抜擢された。
★そして転機になったのが、ペドロ・オレアのホモセクシュアルをテーマにした「Un hombre llamado Flor de Otoño」(仮題「秋の花と呼ばれた或る男」)主演だった。サンセバスチャン映画祭1978銀貝男優賞、ほかサンジョルディ男優賞など受賞、続いてマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)でACE賞1984とフォトグラマス・デ・プラタ賞1983を受賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」(93)などシリアス・ドラマに起用された。オレア作品は、マラガ映画祭2018「金の映画」に選ばれ、監督と一緒にマラガを訪れている。
*マラガ映画祭2018「金の映画」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月22日

(昼は弁護士、夜は女性歌手に変身する「Un hombre llamado Flor de Otoño」のポスター)

(マラガに連れ立って参加したオレア監督とサクリスタン)
★どの作品も大好きで誇りを感じており、私の人生の一部になっていると語るが、「デビュー作で受けたような衝撃をその後一度も感じたことはありません。アルベルト・クロサスが私を見たときの視線のことで、その夜は眠れませんでした。デビュー作は私の心の中で特別な場所を占めています」と。アルベルト・クロサスというのは、「La familia y uno más」の主役で、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)で主役の大学教師を演じた俳優です。俳優も監督も鬼籍入りしています。
★2005年から2011まで舞台に専念していたが、ダビ・トゥルエバの「Madrid, 1987」で銀幕に復帰、フォルケ賞2013男優賞を受賞した。続いてハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」で、余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じて、サンセバスチャン映画祭2012の二度目となる銀貝男優賞、初となるゴヤ賞2013主演男優賞、ガウディ賞主演男優賞、銀幕カムバック後は受賞ラッシュとなった。
*ゴヤ賞・フォルケ賞受賞でキャリア紹介、コチラ⇒2013年08月18日


(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするペペ)
★他にイサキ・ラクエスタのコメディ「Murieron por encima de sus posibilidades」(14)、他に当ブログ紹介作品では、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14、フェロス賞2015助演男優賞)、キケ・マイジョのアクション・スリラー「Toro」(16)でのマフィアのボス役、ポル・ロドリゲスのブラック・コメディ「Quatretondeta」(16)では、妻に先だたれ認知症の兆候が出はじめた寡役、パウ・ドゥラのコメディ「Formentera Lady」(18)では、バレアレス諸島のフォルメンテラ島を舞台に、老いた元ヒッピーを演じた。
*「Quatretondeta」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月22日
*「Formentera Lady」の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月17日

(サクリスタンを配した「Formentera Lady」のポスター)
★『Alta mar アルタ・マール:公海の殺人』(22話出演、ネットフリックス配信)のようなTVシリーズを含めると150作を超えるから、いくら紹介してもこれで充分という気になれない。役者稼業は死ぬまで続けるというから終りがない。目下撮影中のフェルナンド・コロモの「Cuidado con lo que deseas」は、今年11月19日公開が予告されている。
★上記の受賞以外に、バジャドリード映画祭2013栄誉賞、マラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞、フェロス栄誉賞(2014)、ヒホン映画祭2015ナチョ・マルティネス賞、スペイン俳優組合2015栄誉賞、メリダ映画祭ケレス賞、アルゼンチンの銀のコンドル賞(1993、2011)、シネマ・ライターズ・サークル賞2020金のメダル、などなど。授賞式は第69回サンセバスチャン映画祭2021(9月17日~25)です。セクション・オフィシアル部門以下8部門のポスターは発表されましたが、ノミネーションは未だです。シガニー・ウィバーがポスターの顔になりました。
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