ダビ・トゥルエバの「Casi 40」正式出品*マラガ映画祭2018 ⑦2018年04月04日 17:12

       『「ぼくの戦争」を探して』のダビ・トゥルエバの新作Casi 40

 

★開幕10日を切りましたが未だコンペティション部門の全作品発表に至っておりません。現在上映が決定されているダビ・トゥルエバの新作Casi 40のご紹介。本映画祭がワールドプレミアということで詳しい情報は入手できていませんが、トゥルエバのデビュー作La buena vida1996)出演のルシア・ヒメネス1978、セゴビアフェルナンド・ラマリョ1980、マドリードが主役ということです。二人とも監督同様本作で映画デビューしており、ちょっと話題になりそうです。La buena vida」はゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、ラマリョも新人男優賞にノミネートされた。カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1監督賞)を受賞した作品

 

 Casi 40 2018

製作:Buenavida Producciones / Perdidos G.C.

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ

データ:製作国スペイン、スペイン語、2018年、マラガ映画祭2018コンペティション部門出品

キャスト:ルシア・ヒメネス、フェルナンド・ラマジョ、カロリナ・アフリカ、ビト・サンス

 

プロット:青春時代に友人だった二人の男と女の慎ましい物語が語られる。彼女は歌手として成功したが、もうステージからは降りている。彼は化粧品のセールスマンとしてなんとか暮らしているが、若いころの音楽への夢を再び活動させたいと思っている。演奏旅行をするために二人は再び集まることにする。

 

      

         (ルシア・ヒメネス、フェルナンド・ラマリョ、映画から)

 

    

          (左から、撮影中のルシア・ヒメネス、監督、フェルナンド・ラマリョ)

 

★詳しい情報が入手でき次第、追加する予定です。カロリナ・アフリカは脚本家でもあるが、フェルナンド・トゥルエバの「La reina de España」や『「ぼくの戦争」を探して』に出演している。ビト・サンスは前回アップしたマテオ・ヒルのオープニング作品「Las leyes de la termodinámica」の主役を演じている。

 

ダビ・トゥルエバDavid Trueba1969年マドリード生れ、監督、脚本家、俳優、小説家、ジャーナリスト(日刊紙「エル・パイス」や「エル・ムンド」紙)。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業、フェルナンド・トゥルエバ監督は実兄。2013年のVivir es fácil con los ojos cerrados邦題『「ぼくの戦争」を探して』では、念願のゴヤ賞2014の作品・監督・脚本・主演男優・助演女優・オリジナル作曲賞の6冠を受賞した。以下で主なフィルモグラフィーを紹介しています。

Vivir es fácil con los ojos cerrados」内容紹介は、コチラ2014130

監督フィルモグラフィー紹介は、コチラ20141121

 

       

 ダビ・ロドリゲスの主なフィルモグラフィー(短編・俳優は割愛)

1991 「Felicidades, AlbertiTV映画脚本

1992Amo tu cama rica」(脚本、監督はエミリオ・マルティネス=ラサロ)

1993El peor programa de la semanaTVシリーズ5)監督デビュー

1996 La buena vida監督・脚本、長編映画デビュー作)

2003 Soldados de Salamina」(オスカー賞2004スペイン代表作品、コペンハーゲン映画祭脚本賞、

  トゥリア賞受賞、ゴヤ賞ノミネーション)

2006Bienvenido a casa」(監督・脚本、マラガ映画祭監督賞受賞)

2006La silla de Fernando」(ドキュメンタリー)

2007Rafael Azcona, oficio de guionistaTVドキュメンタリー)、

2011Madrid, 1987」(主役のホセ・サクリスタンフォルケ賞男優賞受賞)

2013Vivir es fácil con los ojos cerrados『「ぼくの戦争」を探して』(2016年発売DVDタイトル)

2016Salir de casa

2018Casi 40」マラガ映画祭2018正式出品

 

脚本のみ参加作品は、フェルナンド・トゥルエバの『あなたに逢いたくて』(95)や『美しき虜』(98)、エミリオ・マルティネス=ラサロの『わが生涯最悪の年』(94)や、カルロス=ハビエル・バルデム兄弟が出演したアレックス・デ・ラ・イグレシアの『ペルディータ』(97メキシコとの合作、英語・西語)では、監督やホルヘ・ゲリカエチェバリアなどと共同執筆している。その他、初期には「オチョ・アペジード」で空前のヒット作を生み出したエミリオ・マルティネス=ラサロ監督とのコラボレーションが多く、なかで「Amo tu cama rica」にはハビエル・バルデムも出演、主役を演じたアリアドナ・ヒルと結婚したが後離婚、現在はそれぞれ別のパートナー、アリアドナは『アラトリステ』で共演したヴィゴ・モーテンセンと2009年に再婚している。彼女が主演した Soldados de Salamina」は、ハビエル・セルカスの同名小説の映画化、小説は『サラミスの兵士たち』の邦題で翻訳されている。上記したようにオスカー賞スペイン代表作品に選ばれたが落選した。

 

La silla de Fernando」は、監督、俳優として長きにわたって活躍、彼抜きでスペイン映画史は語れないという巨人フェルナンド・フェルナン=ゴメスの人生を語ったドキュメンタリー、本作は批評家から絶賛された。続くTVドキュメンタリー「Rafael Azcona, oficio de guionista」は、脚本の恩師であり、ダビ・トゥルエバのシナリオ作家としての才能を開花させたと言われる名脚本家ラファエル・アスコナの業績を辿った作品20082月に鬼籍入りしたが、現在でも「アスコナ亡き後の脚本は面白くなくなった」と惜しむアスコナ・ファンは多い


オープニング作品はマテオ・ヒルの新作*マラガ映画祭2018 ⑥2018年04月02日 17:38

        マイアミ映画祭2018「監督賞」受賞作品「Las leyes de la termodinámica

 

★まだコンペティション部門の全体像は見えてきませんが、マテオ・ヒルのオープニング作品Las leyes de la termodinámica他、スペインからはダビ・トゥルエバCasi 40パウ・ドゥラFormentera Ladyエレナ・トラぺLas distancias、キューバからエルネスト・ダラナス・セラーノSergio y Serguéiヘラルド・チホーナLos buenos demonios、アルゼンチンからヴァレリア・ベルトゥチェッリのデビュー作La reina del miedoなどが発表されています。例年の3月開催から4月にシフトしたことで、本映画祭がワールドプレミアではなくなっています。マテオ・ヒルやダラナス・セラーノの作品は、マイアミ映画祭201839日~18日)にエントリーされており、そのほかヴァレリア・ベルトゥチェッリの作品も、サンダンス映画祭(118日~28日)がプレミア、監督自身が主演して演技賞(女優賞)を受賞しています。今後もこのケースが増えるかもしれません。

 

        

    (開幕上映作品、マテオ・ヒルのLas leyes de la termodinámica」ポスター

 

マテオ・ヒルの新作「Las leyes de la termodinámica」は、第35マイアミ映画祭の監督賞受賞作品、受賞したから選ばれたわけではなく開催前に決定しておりました(37日発表)。因みに作品賞はディエゴ・レルマンの『家族のように』でした(ラテンビート2017)。クランクインした201610月から話題になっており、それは前作のロマンティックSFProyecto Lázaro16、英題Realive)が観客に受け入れられたことと関係があると思います。2083年という未来の世界では、科学に重きを置く、宗教を蔑ろにする不信人者たちであふれ、人生はより不明確で曖昧になる。矛盾が許され、どこまで行っても不可能だが、やはり愛を求めている。モラル的な願いを込めて構成されたロマンティックSF

   

  

  (主役のトム・ヒューズ、ウーナ・チャップリンなど、Proyecto Lázaro」ポスター

 

  「Las leyes de la termodinámica英題「The Laws of Thermodynamics

製作:Zeta Cinema / Atresmedia Cine / On Cinema 2017 / Netflix /    Televisió de Catalunya / Atresmedia / ICAA / ICEC

監督・脚本:マテオ・ヒル

撮影:セルジ・ビラノバ

音楽:フェルナンド・ベラスケス

編集:ミゲル・ブルゴス

美術:フアン・ペドロ・デ・ガスパル

衣装デザイン:クララ・ビルバオ

製作者:フランシスコ・ラモス、(エグゼクティブ)ラファエル・ロペス・マンサナラ

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2018年、ロマンティック・コメディ、撮影地バルセロナ。配給元ソニー・ピクチャー、スペイン公開420日決定。

映画祭・受賞歴:マイアミ映画祭2018正式出品(Knight Competition Grand Jury)監督賞受賞、マラガ映画祭正式出品(オープニング作品)

 

キャスト:ビト・サンス(マネル)、ベルタ・バスケス(エレナ)、チノ・ダリン(パブロ)、ビッキー・ルエンゴ(エバ)、フアン・ベタンクール(ロレンソ)、アンドレア・ロス(アルバ)、イレネ・エスコラル(ラケル)、ジョセップ・マリア・ポウ(アマト教授)他

 

物語:ちょっとノイローゼ気味だが前途有望な物理学者マネルの物語。人気モデルで新米女優のエレナとの関係をどのように証明するか計画を立てる。彼のせいで散々な結果になっているのは、まぎれもなく物理学の原則、つまりニュートンやアインシュタインのような天才、あるいは量子力学の創始者たちの原理から導きだしているからだ。それは特に熱力学の三原則によっているからだ。

      

     

     (左から、フアン・ベタンクール、ベルタ・バスケス、ビト・サンス、映画から)

 

★自由意志は存在するのか否か、人々は自分自身で決定する能力、または自然の法則によって定められた能力を持っているのかどうか、私たちの関係が上手くいかない責任は自ら負うべきか、現実を変えようとするのは無意味なことか、と監督は問うているようです。主役のビト・サンス、ベルタ・バスケス、チノ・ダリン、ビッキー・ルエンゴの4人は当ブログでは脇役として登場させているだけですが、最近人気が出てきた若手のホープたちです。ビト・サンスはいずれアップしたいダビ・トゥルエバの新作「Casi 40」にも起用されている。チノ・ダリンはリカルド・ダリン・ジュニア、フェルナンド・トゥルエバの「La reina de España」に出演している。ベルタ・バスケスフェルナンド・ゴンサレス・モリナの「Palmeras en la nieve」でマリオ・カサスと禁断の恋をするヒロインを演じ、2015年の興行成績に寄与している(Netflix『ヤシの木に降る雪』)。ビッキー・ルエンゴは当ブログ初登場です。

 

         

     (監督を囲んだ4人のキャスト、201610月クランクインしたときの写真)

 

マテオ・ヒルMateo Gil1972年ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア生れ、監督、脚本家、製作者、撮影監督。1993年、短編Antes del besoで監督デビュー、1996年、アレハンドロ・アメナバルの『テシス 次に私が殺される』や翌年の『オープン・ユア・アイズ』の脚本を共同執筆する。エドゥアルド・ノリエガを主役に起用した長編デビュー作(1999『パズル』)以来、奇妙で一風変わった、それでいて興味深い映画を撮り続けている。『パズル』ではアメナバルが音楽を手掛けている。初期にはアメナバル、ノリエガと組んだ作品が多い。

 

       

 主なフィルモグラフィー短編を除く)

1996Tesis」『テシス 次に私が殺される』脚本、監督アメナバル

1996Cómo se hizo Tesis監督

1997Abre los ojos」『オープン・ユア・アイズ』脚本、監督アメナバル

1999Nadie conoce a nadie」『パズル』監督、脚本、東京国際映画祭上映

2004Mar adentro」『海を飛ぶ夢』脚本、監督アメナバル、ゴヤ賞2005脚本賞

2005El todo」脚本、監督マルセロ・ピニェイロ、ゴヤ賞2006脚本賞

2006スパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット』TV、監督・脚本、TV放映

2009Agora」『アレクサンドリア』脚本、監督アメナバル、ゴヤ賞2010脚本賞

2011Blackthorn」『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』監督

   トゥリア賞2012新人監督賞、TV放映

2016Proyecto Lázaro」「Realive」監督、脚本、ファンタスポルト映画祭2017作品・脚本賞

2018Las leyes de la termodinámica」監督、脚本、マイアミ映画祭監督賞

  

ロドリゴ・ソロゴイェンにマラガ才能賞*マラガ映画祭2018 ③2018年03月26日 11:24

       エロイ・デ・ラ・イグレシア賞がマラガ才能賞に衣替え

 

マラガ才能賞(エロイ・デ・ラ・イグレシア)-La Opinión de Málaga

★今回から各種特別賞にそれぞれ協賛者の名前が入ることになったらしく、エロイ・デ・ラ・イグレシア賞は上記のように長たらしい「マラガ才能賞Premio Malaga Talent(エロイ・デ・ラ・イグレシア)」と名称まで変更になりました。コラボしているLa Opinión de Málagaは、マラガやアンダルシア中心の情報(経済、文化、スポーツ)を発信している日刊紙です。

エロイ・デ・ラ・イグレシアの紹介記事は、コチラ201447

 

キャリア、フィルモグラフィー紹介

★受賞者のロドリゴ・ソロゴイェンソロゴジェンRodrigo Sorogoyenは、1981年マドリード生れ、監督・脚本家・プロデューサー。マドリードの大学で歴史学の学士号を取得、大学の学業とオーディオビジュアルの勉強の両立を目指して映画アカデミーで学び、3本の短編を制作して卒業。2004、マドリード市が資金援助をしているECAMEscuela de Cinematografía y del Audiovisual de la Comunidad de Madridの映画脚本科に入り、並行してTVドラ の脚本執筆を始める。最終学年2008年にデビュー作8 citasを撮り(脚本ペリス・ロマノとの共同執筆)マラガ映画祭2008に出品され高い評価を受ける。本作にはフェルナンド・テヘロ、ベレン・ルエダ、ベロニカ・エチェギ、ラウル・アレバロ、ハビエル・ペレイラなど、現在活躍中の演技派が出演した。

    

    

 

2011年、Caballo Films製作で長編第2作となるStockholmの脚本に共同執筆者イサベル・ペーニャと着手する。資金難からクラウドファンディングで賛同者を募り完成させる。マラガ映画祭2013監督賞、新人脚本賞を受賞、ゴヤ賞2014新人監督賞ノミネート、シネマ・ライターズ・サークル賞2014新人監督賞受賞、Feroz 2014ドラマ部門作品賞受賞トランシルバニア映画祭グランプリ、その他マイアミモントリオール、トゥールーズ他の映画祭正式出品。

Stockholmとキャリア紹介記事は、コチラ2014617

 

     

 

2016年、第3作目となるスリラーQue Dios nos perdone(英題「May God Save Us」)の脚本をイサベル・ペーニャと共同執筆、キャストにアントニオ・デ・ラ・トーレ、ロベルト・アラモを起用した。サンセバスチャン映画祭2016脚本賞を受賞、主演のロベルト・アラモがゴヤ賞2017、フォルケ賞、フェロス賞で主演男優賞を受賞した。本作は201810月「ワールド・エクストリーム・シネマ2017」の一つとして『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』の邦題で短期間ながら公開された。

 

         

        (アントニオ・デ・ラ・トーレとロベルト・アラモ、映画から)

 

2017年、短編Madreは映画賞60以上の受賞に輝く。アルカラ・デ・エナーレス短編映画祭217観客賞・作品賞・監督賞、「マドリード市短編週刊」で短編映画賞、マラガ映画祭2017観客賞・女優賞(マルタ・ニエト)、アリカンテ映画祭監督賞、フォルケ賞2018(短編フィクション部門)作品賞、ゴヤ賞2018(フィクション部門)短編映画賞など多数受賞している。

Madre」関連記事は、コチラ2018210

 

     

     (トロフィーを手に受賞スピーチをする監督、ゴヤ賞2018授賞式23日)

 

2018年、長年撮りたかったと語っていたスリラーEl Reinoが長編第4作となる。既に公開928日が予定されている。製作TornasolAtresmedia、脚本共同執筆イサベル・ペーニャ、出演者は主役にアントニオ・デ・ラ・トーレ、バルバラ・レニー、ジョセップ・マリア・ポウなど演技派を揃えている。 

     

       (バルバラ・レニーとアントニオ・デ・ラ・トーレ、映画から)

 

フアン・アントニオ・バヨナにレトロスペクティブ賞*マラガ映画祭2018 ②2018年03月24日 18:18

       『怪物はささやく』のバヨナ監督、レトロスペクティブ賞受賞 

 

レトロスペクティブ賞は、貢献賞、栄誉賞の色合いが濃く、どちらかというとベテラン勢が受賞することが多かった。当ブログ誕生後の過去4年間を遡る受賞者は、2014ホセ・サクリスタン1937)、2015イサベル・コイシェ1960)、2016グラシア・ケレヘタ1962)、昨2017年はフェルナンド・レオン・デ・アラノア1968)でした。1975年生れのフアン・アントニオ・バヨナは、輝かしいキャリアの持ち主とはいえ、世代的には一回りほど若くベテラン枠には入らない。今年から賞名が日刊紙「Málaga Hoy」とのコラボレーションとなりPremio RetrospectivaMálaga Hoyに変更されました。

  

 

★マラガ映画祭には特別賞として、前回アップのマラガ賞以下、リカルド・フランコ賞エロイ・デ・ラ・イグレシア賞銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞「金の映画」などがあり、コンペティション発表前に決まりしだい順次アナウンスされます。先頭を切って131日に発表されたのが本賞でした。今回の受賞者は長編3作すべてがヒットした、批評家からも観客からも受け入れられた稀有な監督、全作が劇場公開されました。日本語ウイキペディアでも詳しい情報が入手できますので簡単なデータ紹介にとどめます。

 

フアン・アントニオ・バヨナ Juan Antonio Bayona197559日バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACの監督科出身、Mis vacasiones99)、El hombre esponja02)など、短編多数を制作する。1993年、長編デビュー作『クロノス』を手にシッチェス映画祭に出席していたギレルモ・デル・トロより、将来的に制作支援を確約してもらえ、それが果たされたのが「母子三部作」の第1El orfanato『永遠のこどもたち』)、製作総指揮をデル・トロが担いました。カンヌ映画祭2007でプレミアされ、翌2008年のゴヤ賞新人監督賞を受賞した。

   

  

 

2012年「母子三部作」の第2Lo imposible『インポッシブル』)は、ハリウッド俳優を起用した英語映画にもかかわらず国内外で空前のヒット作となる。国内だけでも600万人以上が映画館に足を運び、ゴヤ賞5冠、彼は監督賞を受賞した。2004年スマトラ島沖地震の津波に巻き込まれたカタルーニャ一家の実話がもとになっている。ナオミ・ワッツ演じた母親マリア・ベロンがものした記録を、前作と同じ脚本家セルヒオ・G・サンチェスが脚色した。スペイン映画としては製作費$45,000,000は半端ではなかったが、トータルで$180,300,000を叩き出し、その功績のお蔭か、翌2013年の映画国民賞に歴代最年少で選ばれた。スペイン文化省とスペイン映画アカデミーが選考母体、格式はゴヤ賞より上でしょうか。時の文化教育スポーツ大臣出席のもとサンセバスチャン映画祭で授与式が行われる。2013年は消費税が3倍近く急騰した年だったことから、「教育を疎かにし文化にたいしては消費税増税をした」と、文化教育に冷たい政権に苦言を呈するという異例の受賞スピーチをして話題になった。

    

  

(国民党ラホイ政権の文化相ホセ・イグナシオ・ウェルトから授与されたバヨナ監督)

 

2014年、アメリカのテレビ局ショウタイムShowtime が企画し、サム・メンデス他によってプロデュースされたゴシック・ホラー、TVシリーズPenny Dreadful(第1話・第2話)を監督する。翌年WOWOWが「ナイトメア~血塗られた秘密」という邦題で放映された。

 

2015年、Oxfam Intermón のために短編ドキュメンタリー9 días en Haití37分、仮題「ハイチでの9日間」)を撮る。世界の極貧国の一つと言われるハイチの現状、開発協力の重要性、危機的状況からの緊急的脱出の必要性、またハイチの子供たちの目を通して、チャンスを得られる権利を訴えたドキュメンタリー。

 

          

      (自身出演した短編ドキュメンタリー9 días en Haitíのポスター)

 

2016年「母子三部作」の第3Un monstruo viene a verme(『怪物はささやく』)、本作はゴヤ賞2017では最多受賞の9冠、うち彼は監督賞を受賞した。

 

2017年、セルヒオ・G・サンチェスのホラー・スリラーEl secreto de Marrowboneをプロデュースする。ゴヤ賞2018新人監督賞にノミネートされた。サンチェスは『永遠のこどもたち』と『インポッシブル』の脚本家。

 

2018年、Jurassic World: El reino caídaを撮る。「ジュラシック・ワールド」シリーズの第5作、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮、201868日スペイン公開予定、日本公開は邦題『ジュラシック・ワールド/炎の王国』で713日がアナウンスされている。他にグスタボ・サンチェスの長編ドキュメンタリーI Hate New Yorkの製作を手掛ける。ニューヨークのアンダーグラウンドで生きる4人の女性アーティスト、トランスジェンダー活動家を追ったドキュメンタリー、本作は今年のマラガ映画祭で上映される予定。

    

   

ギレルモ・デル・トロに「マラガ-スール」賞*マラガ映画祭2018 ①2018年03月22日 17:41

      アカデミー賞に続いてマラガ—スール賞受賞――今年はデル・トロの年

 

  

★第21回マラガ映画祭2018413日に開幕します。コンペティション部門の正式発表はまだですが、オープニング作品にマテオ・ヒルLas leyes de la termodinámica」というSF映画が決定しております。他にはダビ・トゥルエバエルネスト・ダラナス・セラーノ(キューバ)、アニメーション2D/3Dでは20年のキャリアの持ち主カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴが確定しています。いずれ全作品が発表された時点でアップしたい。

 

★本映画祭の大賞マラガ—スール賞ギレルモ・デル・トロエロイ・デ・ラ・イグレシア賞ロドリゴ・ソロゴジェン監督、リカルド・フランコ賞に衣装デザイナーパコ・デルガドがアナウンスされました。「金の映画」にはペドロ・オレアUn hombre llamado Flor de Otoñoが公開40周年を記念して選ばれています。主役のホセ・サクリスタンが女装に挑戦、サンセバスチャン映画祭1978の男優銀貝賞を受賞した作品です。

 

★まずは、米アカデミー賞作品・監督賞を受賞した(34日)興奮も覚めやらない39日に、マラガ—スール賞受賞の朗報を貰ったギレルモ・デル・トロから始めたい。現在の178センチの巨漢からは、青い目の金髪、ひどく痩せていた子供だったとは想像できないが、中身はシャイで繊細、モンスターの恋人、妖精物語が大好きな少年そのままです。子供のときの夢は「海洋生物学者か作家、イラストレーター」、「海の中の混沌や恐怖に惹かれる」と、かつて語っていたデル・トロ、『シェイプ・オブ・ウォーター』は子供のころの夢と繋がっているのでしょうか。

昨年までの「マラガ賞」が、今回から映画動向に詳しい「Diario Sur」のコラボレーションにより賞名変更になったようです。本賞受賞者は海沿いの遊歩道に等身大の記念碑を立ててもらえる。 

 

     

                 (ギレルモ・デル・トロ)

 

★受賞にとどまらず、マラガ映画祭が出版社Luces de Galiboとコラボして、デル・トロの人生やキャリアに関したアントニオ・トラショラスDel Toro por Del Toroという本を出版する。彼のオピニオン、逸話、意見、年代順ではない自由自在に歩き回る伝記まで網羅したデル・トロ紹介本のようです。デル・トロは長編映画『デビルス・バックボーン』2001)を初めてスペインで撮ったメキシコ監督としてスペインではファンが多い。著者アントニオ・トラショラスは、本作の共同執筆者の一人で旧知の間がら、二人の対談も含まれている由。

 

★アルモドバル兄弟の制作会社エル・デセオが手掛けたホラー・ミステリー『デビルス・バックボーン』は、国際的に非常に高い評価を受けながらも興行的には芳しくなかった。後年『パンズ・ラビリンス』06)がハリウッドで成功した折に「わたしの映画は、いくつかの分野にまたがっているので評価が分かれる。『ヘルボーイ』04)は興行的に成功したが、批評家からは無視された。『デビルス・バックボーン』は批評家からは評価されたが、観客にはそっぽを向かれた。両方が納得してくれたのが、この『パンズ・ラビリンス』だ」と語ることになる。十年以上の歳月を経て、『シェイプ・オブ・ウォーター』で再びハリウッドに戻ってきて、自身が念願の作品賞・監督賞の2冠を手にしたほか、作曲賞・美術賞も受賞した。

   

     

  (オスカー像と抱き合って喜ぶデル・トロ、アルゼンチン出身のアウグスト・コスタンソ筆)

  

★中古車売買業者フェデリコ・デル・トロ・トレスを父に、女優グアダルーペ・ゴメスを母に、1964109日、グアダラハラ、ハリスコに生れる。監督、脚本家、製作者、小説家。厳格なカトリックの家庭で育ち、不可知論者。8歳のとき母親の影響を受け短編を撮る。少年青年期には2日に1冊のスピードで読了した本好き、子供向け古典シリーズから家庭医学百科事典、「芸術の鑑賞法」10巻など、絵画、人体について多くを本から学んだ。「これらの百科事典を読んでいたせいで、早くから心気症ヒポコンドリー患者になってしまった」と昨年のシッチェス映画祭2017で語っていた。1986年ロレンサ・ニュートンと結婚、2017年に離婚したが、できるだけ2人の娘と過ごす時間を大切にしている。

 

      

        (最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』をバックにした監督)

 

★グアダラハラ大学の付属校映画製作研究センターで、特に特殊効果を学ぶ。1985年、特殊効果の制作会社ネクロピア Necropia を設立、翌年シリーズHora marcadaで監督デビュー、6話を手掛ける。20歳のときハイメ・ウンベルト・エルモシージャ監督(1942生れ)と出会い、彼から「もし道がなければ、自分で切り開きなさい」という言葉を貰った。さらに「監督からは若いシネアストへの援助の重要性も教えられた。フアン・アントニオ・バヨナのデビュー作『永遠のこどもたち』のエグゼクティブ・プロデューサーを手掛けたのもその教えです」と。エルモシージャ監督はグアダラハラ大学オーディオビジュアル・アート校で後進の教育に当たっている。

 

★現在はロスとトロントのどちらかで暮らしているが国籍はメキシコ、「何故なら私はメキシコ人だからです」。ゴチック風の家には膨大な珍しいモンスターなどのコレクション、書籍、おもちゃ類、コミック類が収蔵されている。『デビルス・バックボーン』の撮影地マドリードにも、約5000冊のお気に入りコミック類と一緒に旅をしたというコミック・オタクです。

  

    *主なフィルモグラフィー*(短編・テレビ・脚本・製作のみは省く)

1993 Cronos 『クロノス』監督・脚本

1997 Mimic 『ミミック』同上

2001 El espinazo del diablo 『デビルス・バックボーン』監督・脚本・製作

2002 Blade II 『ブレイド2』監督

2004 Hellboy 『ヘルボーイ』監督・脚本

2006 El laberinto del fauno 『パンズ・ラビリンス』監督・脚本・製作 

  アカデミー賞撮影・美術・メイクアップ賞の3賞を受賞した作品

2008 Hellboy 2: el ejercito dorado 『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』監督・脚本

2013 Pacific Rim 『パシフィック・リム』監督・脚本・製作

2015 La cumbre escarlata『クリムゾン・ピーク』監督・脚本・製作

2017 La forma del agua『シェイプ・オブ・ウォーター』監督・脚本・製作

  ベネチア映画祭2017金獅子賞、ゴールデン・グローブ賞監督賞、アカデミー賞作品・監督賞他

多数の受賞歴のあるアリエル賞、ゴヤ賞、英国アカデミー賞、他ノミネーションは割愛。

 

パノラマ部門にスペインから3作*ベルリン映画祭2018 ③2018年02月22日 18:22

         『靴に恋して』のラモン・サラサールの新作「La enfermedad del domingo

 

     

★コンペティション部門の次に重要なセクションが「パノラマ部門」、後にヒットする作品が多く含まれております。スペインからは、ラモン・サラサールの第4作めLa enfermedad del domingoと、アルムデナ・カラセドロバート・バハーのフランコ独裁時代に起きた事件についてのドキュメンタリーEl silencio de los otros(「The Silence of Others」)、ディアナ・トウセドのガリシアの神話と人々を語るために現実と虚構をミックスさせた初監督作品Trinta Lumes3作がノミネートされました。なかで少しは知名度のあるサラサール監督の新作をご紹介します。主役は『マジカル・ガール』でファンを増やしたバルバラ・レニー、『ジュリエッタ』でヒロインの母親を演じたスシ・サンチェスです。

 

        

      (スシ・サンチェス、監督、バルバラ・レニー、ベルリン映画祭2018にて)   

     

La enfermedad del domingo(「Sunday's Illness」)

製作:ICEC(文化事業カタルーニャ協会)、ICOInstituto de Credito Oficial)、ICAA

監督・脚本:ラモン・サラサール

撮影:リカルド・デ・グラシア

音楽:ニコ・カサル

編集:テレサ・フォント

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

衣装デザイン:クララ・ビルバオ

特殊効果:エンリク・マシプ

視覚効果:イニャキ・ビルバオ、ビクトル・パラシオス・ロペス、パブロ・ロマン、

     クーロ・ムニョス、他

製作者:ラファエル・ロペス・マンサナラ(エグゼクティブ)、フランシスコ・ラモス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語・フランス語、2018年、113分、ドラマ、撮影地バルセロナ、ベルリン映画祭(パノラマ・スペシャル)上映220日、スペイン公開223

 

キャスト:バルバラ・レニー(キアラ)、スシ・サンチェス(アナベル)、ミゲル・アンヘル・ソラ(アナベルの夫ベルナベ)、グレタ・フェルナンデス(グレタ)、フレッド・アデニス(トビアス)、ブルナ・ゴンサレス(少女時代のキアラ)、リシャール・ボーランジェ(アナベルの先夫マチュー)、デイビット・カメノス(若いときのマチュー)、Abdelatif Hwidar(町の青年)、マヌエル・カスティーリョ、カルラ・リナレス、イバン・モラレス、他

 

プロット8歳のときに母親アナベルに捨てられたキアラと呼ばれる少女の物語。35年後、キアラは変わった願い事をもって突然母親のもとを訪れてくる。理由は言わずに10日間だけ一緒に過ごしてほしいと。アナベルは娘との関係修復ができるかもしれないと思って受け入れる。しかし、キアラには隠された意図があったのである。ある日曜日に起こったことが、あたかも不治の病いのように人生を左右する。長い不在の重み、地下を流れる水脈のような罪の意識、決して消えることのない永続する感情が、静謐なピレネーの森の湖をバックに語られる。      (文責:管理人)               

    


    

          (母親に本当の願いを耳打ちするキアラ、映画から)

 

★物語からは暗いイメージしか伝わってこない。主役の娘役バルバラ・レニーは、『マジカル・ガール』(14、カルロス・ベルムト)以来日本に紹介された映画、例えば『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』(16、オリオル・パウロ)、『家族のように』(17、ディエゴ・レルマン)と、問題を抱えこんだ女性役が多い。サラサール作品は初めてだが、コメディも演れる今後が楽しみな女優である。本作では彼女が着る普段着に或る意味をもたせているようです。母親アナベルの豪華な衣装は、母娘の対照的な生き方を象徴している。衣装デザイナー、クララ・ビルバオのセンスが光っている。

バルバラ・レニーのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ2015327

 

★母親を演じたスシ・サンチェス1955、バレンシア)は、今まで脇役専門のような印象でしたが、本作では何故8歳になる娘を放棄したのかという謎めいた過去をもつ難役に挑戦した。日本初登場は今は亡きビセンテ・アランダの『女王フアナ』(01)のイサベル女王役だと思いますが、他にもアランダの『カルメン』(04)や、ベルリン映画祭2009金熊賞を受賞したクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(スペイン映画祭09)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』(11)、アルモドバルの『私が、生きる肌』(11)、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、『ジュリエッタ』など、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)に出演している。 

        

                  (スシ・サンチェスとバルバラ・レニー、映画から)

      

      

    (撮影中のスシ・サンチェス、バルバラ・レニー、サラサール監督)

 

★サラサール作品では、『靴に恋して』以下、「10.000 noches en ninguna parte」(12)でゴヤ賞助演女優賞にノミネートされた他、俳優組合賞の助演女優賞を受賞した。TVシリーズは勿論のこと舞台女優としても活躍、演劇賞としては最高のマックス賞2014の助演女優賞を受賞している。その他の共演者についてはアルゼンチンからミゲル・アンヘル・ソラ、フランスからリシャール・ボーランジェなど、国際色豊かです。グレタ・フェルナンデスフレッド・アデニスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの『記憶の行方』(16)に出演している。

 

     

       (プレス会見をするサラサール監督、ベルリン映画祭2018にて)

 

 監督フィルモグラフィー

ラモン・サラサールRamón Salazarは、1973年マラガ生れの監督、脚本家、俳優。アンダルシア出身だがバルセロナでの仕事が多い。1999年に撮った短編Hongosが、短編映画祭として有名なアルカラ・デ・エナーレスとバルセロナ短編映画祭で観客賞を受賞した。長編デビュー作Piedrasがベルリン映画祭2002に正式出品され、ゴヤ賞2003新人監督賞にもノミネートされたことで、邦題『靴に恋して』として公開された。問題を抱えた年齢も職業も異なる5人の女性が登場する。オムニバスの体裁をとっているが、お互いつながりあって、いわゆるバルセロナ派の監督が得意とする合唱劇といわれるジャンルに近い。原題の意味は石の複数形、邦題には苦労したろうと思います。「石」はしっかり抱えている大切なものを指すようです。女性それぞれがその置き場所が見つからないでいる。登場人物の描き方は極端だが、観客は5人の誰かに自分の姿を重ねて見ることになる。 

      

            (ベルリナーレの『靴に恋して』のポスター)

 

★その他200520 centimetrosは、ロカルノ映画祭に正式出品、マラガ映画祭批評家賞、マイアミ・ゲイ&レスビアン映画祭スペシャル審査員賞などを受賞した。201310.000 noches en ninguna parteはセビーリャ(ヨーロッパ)映画祭でアセカン賞を受賞している。2017年の短編El domingo12分)が本作の習作のようです。キアラと父親は森の中の湖にピクニックに出かける。ママは一緒にいかない。帰宅すると家の様子が一変している。キアラは窓辺でママの帰りをずっと待ちわびている。キャストはキアラの少女時代を演じたブルナ・ゴンサレスとキアラの父親役のデイビット・カメノスの二人だけ、スタッフはすべてLa enfermedad del domingoと同じメンバーが手掛けている。

 

     

 (ママの帰りを待ちわびるキアラ役のブルナ・ゴンサレス、El domingo」から

 

   

                  (ブルナ・ゴンサレスと父親役のデイビット・カメノス)

    

イサベル・コイシェの「The Bookshop」*ゴヤ賞2018 ②2018年01月07日 12:12

                 ノミネーション12個でも作品賞は難しいか

  

    

イサベル・コイシェ1960、バルセロナ)のLa librería(原題The Bookshop)のノミネーション数は、作品賞を含む12個、残念ながら言語は英語、従ってキャストの顔ぶれも大方が英国、米国人です。長編、短編、ドキュメンタリー、オムニバス映画などを含めると30作を超えるから、資金不足で45年おきにしか撮れない監督が多いなかで飛びぬけている。自国での製作に拘らず、スペインを脱出して海外に軸足を置く、主に英語で撮る、などが理由として挙げられる。これらは多分に中央のマドリード派ではなくバルセロナ派に属していることが影響している。コイシェの映画はスペインというよりカタルーニャ映画といえる。また初期段階からアルモドバル兄弟の制作会社「エル・デセオ」の資金援助を得られたことも幸運だった。大の寿司好き、寿司に欠かせない山葵に因んで、2000年に自ら「ミス・ワサビ・フィルムズMiss Wasabi Films」という制作会社を設立している。

 

    

1989年の長編デビュー作Demaciado viejo para morir joven(西語)が、ゴヤ賞1989新人監督賞ノミネート、初めて英語で撮ったThing I Never Told YouCosas que nunca te dije)がゴヤ賞1997オリジナル脚本賞にノミネートされるなど、受賞には至らなかったがゴヤ賞とは縁が深い。後者は2004年から始まったヒスパニック・ビート映画祭(現ラテンビート)で『あなたに言えなかったこと』という邦題で上映されたが、監督名はイサベル・コヘットで、コイシェになるまで時間が必要でした。

 

   

   (アンドリュー・マッカーシーとリリー・テイラー、『あなたに言えなかったこと』)

 

★日本でブレイクしたのは、同じ英語で撮ったスペイン=カナダ合作My Life Without MeMi vida sin mí)、邦題は『死ぬまでにしたい10のこと』でこれは公開された。ナンシー・キンケイドの短編の映画化、カナダ人のサラ・ポーリーを主役に起用、本作で初めてゴヤ賞2003脚色賞を受賞した。続いて2006年『あなたになら言える秘密のこと』(原題「The Secret Life of Wards」)で、オリジナル言語が英語ながら作品賞受賞に漕ぎつけた。コイシェ自身も監督賞オリジナル脚本賞、他に「エル・デセオ」のエステル・ガルシアプロダクション賞を取った。以降の活躍は日本語版ウイキペディアに詳しいから割愛しますが、当ブログでは、サイコ・スリラーAnother Me13、「Mi otro yo」)、Learning to Drive14、『しあわせへのまわり道』)、Nobody Wants the Night15、「Nadie quiere la noche」)の紹介をしています。

 

    

  (サラ・ポーリーとティム・ロビンス、『あなたになら言える秘密のこと』から)

    

      

                    (ソフィー・ターナーと監督「Another Me」から)

 

Another Me」の紹介記事は、コチラ2014727

Learning to Drive」の紹介記事は、コチラ2015829 

Nobody Wants the Night」の紹介記事は、コチラ201531 

 

最新作La librería」は、62Seminci(バジャドリード映画祭20171021日開幕)のオープニング作品、イギリス作家ペネロピ・フィッツジェラルドの The Bookshop の映画化です。時代は1959年、イギリスのサフォーク州ハーバーグの小都市が舞台です。ペネロピ・フィッツジェラルド(20162000)は、英国ではノーベル文学賞より話題になるというブッカー賞1979を『テムズ側の人々』(原作Offshore)で受賞している作家です。

 

          

             (在りし日のペネロピ・フィッツジェラルド

 

★主役のフローレンス・グリーンに『マッチポイント』や『レオニー』のエミリー・モーティマー、バイオレット・ガマールに『エレジー』『しあわせへのまわり道』パトリシア・クラークソン、エドモンド・ブルンディッシュに『ラブ・アクチュアリー』(03)や主役を演じた『パレードへようこそ』(14)のビル・ナイと、ベテランの演技派を起用している。モーティマーは松井久子の『レオニー』(10)撮影で来日しています。また彼女はクラークソンとはスコセッシとディカプリオがタッグを組んだスリラー『シャッターアイランド』(10)で共演しています。

 

        

         (撮影中のビル・ナイ、監督、パトリシア・クラークソン)

 

The Bookshop(スペイン題La librería

製作:Diagonal TV / A Contracorriente Films / Zephyr Films / One Two Films / Green Films

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:ペネロピ・フィッツジェラルドの同名小説

撮影:ジャン・クロード=ラリュー

編集:ベルナ・アラゴネス

プロダクション・デザイン:リョレンス・ミケル

美術:Marc Pouマルク・ポウ

音楽:アルフォンソ・デ・ビラリョンガ

衣装デザイン:メルセ・パロマ

製作者:ジョルディ・べレンゲル(西ライン・プロデューサー)、アレックス・ボイド(英ライン・プロデューサー)、ジャウマ・バナコローチャ、ジョアン・バ、アドルフォ・ブランコ、クリス・カーリング、他多数

メイクアップ&ヘアー:ラウラ・ガルシア(メイク)、ラウラ・バカス(メイク&ヘアー)他多数

 

データ:製作国スペイン=イギリス=ドイツ、英語、2017年、112分、撮影201689月、撮影地北アイルランド、バルセロナ他、製作資金約340万ユーロ。バジャドリード映画祭2017オープニング作品、ベルリン映画祭2018(コンペティション外)スペシャル上映。ゴヤ賞ノミネーション12個、ガウディ賞カタルーニャ語以外部門12個、フォルケ賞1個、フェロス賞3個、ノミネーション。スペイン公開20171110

 

キャストエミリー・モーティマー(フローレンス・グリーン)、ビル・ナイエドモンド・ブルンディッシュ)、パトリシア・クラークソン(バイオレット・ガマール)、ジェームズ・ランス(ミロ・ノース)、オナー・ニーフシー(クリスティン)、フランシス・バーバー(ジェシー)、マイケル・フィッツジェラルド(ミスター・レイヴン)、ハンター・トレマイネ(ミスターKeble)、ハーヴェイ・ベネット(ウォーリー)、他

(以上ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされた人)

 

プロット1959年、フローレンス・グリーンはロンドンを離れ、サフォーク州の海岸沿いの眠り込んだような小さな町ハーバーグに移ってくる。彼女は先の大戦で夫を亡くしていたが、自由な精神と進取の気象に富んだ女性だった。そこで今まで胸の中に閉じ込めていた大きな夢を実現しようと決心する。それはかつてなかったような書店を開くこと、それは亡夫の思い出にも繋がっていた。長年使われていなかった古い家を借り受け、地元の冷淡や無関心という抵抗を受け、今まで気づくことのなかった社会的不公平を体験するが、彼女は自身の自立に向かって奮闘する。間もなくナボコフのスキャンダラスな『ロリータ』、レイ・ブラッドベリの近未来小説『華氏451度』などを店頭に並べ、この保守的で表面上は穏やかだが何世紀も変化のなかった活気の乏しい社会に波風が立ち始める。フローレンスのアクティブな行動が、やがて彼女を同じ開明的な精神の持ち主であるミスター・ブルンディッシュと出会わせるだろう。反面、店舗に不満をもつ土地の有力者ガマール夫人の非常に曖昧な理由による抵抗も受けることにだろう。権力の恣意性についての、本と言葉と孤独についての物語。                            (文責管理人)

 

  

          (フローレンス役のエミリー・モーティマー、映画から)

 

★前作Nobody Wants the Night」のジュリエット・ビノシュが演じたヒロインは動の人だったが、フローレンスはどちらかというと静の人、監督と重なる部分が多いかもしれない。「出る杭は打たれる」の諺通り、ヒップスターは批判と侮辱を受けやすい。現在カタルーニャ自治州は独立問題で二派に分裂しているから、立ち位置がどちらでも相手側から批判される。本作は政治的な映画ではなく個人的色彩が濃いが、こういう厳しい現実を考えると、個人的にはカタルーニャ問題を連想してしまいます。前回のゴヤ賞2016は無冠に終わりましたが、今回は賞に絡みそうな予感がします。長年タッグを組んでいる撮影監督のジャン・クロード・ラリュー、音楽のアルフォンソ・デ・ビラリョンガは作曲と歌曲の両方にノミネーションを受けている。

 

    

       (ジュリエット・ビノシュ、Nobody Wants the Night」のポスター

 

★『ロリータ』(1955)は1962年キューブリック、1997年エイドリアン・ラインと2回、『華氏451度』(1953)もトリュフォーが1966年に映画化している。テーマは共に権力の恣意性でしょうか。


スペイン内戦をバスクを舞台にコメディで*「La higuera de los bastardos」2017年12月03日 16:28

           アナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」―小説の映画化

  

    

★今年のサンセバスチャン映画祭で上映された(928日)ボルハ・コベアガFe de etarraは、カンヌで話題になった『オクジャ』と同じネットフリックスのオリジナル作品だったから、さっそく『となりのテロリスト』の邦題で配信されました。エタETA(バスク祖国と自由)の4人のコマンドが、ワールドカップ2010を時代背景にマドリードで繰り広げる悲喜劇。脚本にディエゴ・サン・ホセと、大当たり「オチョ・アペリード」シリーズ・コンビが、今度は人気のハビエル・カマラを主役に迎えて放つ辛口コメディ。いずれアップしたい。

 

★今回アップするアナ・ムルガレンLa higuera de los bastardosは、スペイン内戦後のビスカヤ県ゲチョGetxoが舞台、時代は大分前になるがスペイン人にとって、特にバスクの人にとっては、そんなに遠い昔のことではない。本作はラミロ・ピニーリャ(ビルバオ1923~ゲチョ2014)の小説 La higuera2006)の映画化。ピニーリャはビスカヤについての歴史に残る作品を書き続けたシンボリックな作家、1960年に Las ciegas hormigas でナダル賞、2006年、バスクのような豊かだが複雑な世界についての叙事詩的な「バスク三部作」ほか、彼の全作品に対して文学国民賞が贈られている。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの回想録『ウォールデン 森の生活』(1854刊)から採った自宅「ウォールデンの家」で執筆しながら人生のほとんどを過ごした。

 

    

     (ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を手にしたピニーリャ)

 

★「健康だし未だ頭もはっきりしている。実際のところ私の精神年齢は20歳なんですよ。死は怖くはありませんが、ただ残念に思うだけです。まだそこへ行きたいとは考えていません、何もないのでしょうね。健康が続くかぎり生きていかねばなりません」とインタビューに応えるラミロ・ピニーリャ。若いころは生活のために船員、ガス会社勤務など多くの職業を転々、小説家デビューは1960年と比較的遅かった。以降半世紀以上バスクの物語を書き続けた。インタビューの約1ヵ月後、1023日老衰のため死去、享年91歳でした。

 

  

 (「ウォールデンの家」でインタビューに応じるラミロ・ピニーリャ、2014914日)

 

 

 「La higuera de los bastardosThe Bastards Fig Tree2017

製作:The Fig Tree AIE / Blogmedia 協賛Ana Murugarren PC

監督・脚本・編集:アナ・ムルガレン

原作:ラミロ・ピニーリャ La higuera

撮影:Josu Inchaustegui(ヨス・インチャウステギ?)

録音:セルヒオ・ロペス=エラニャ

音楽:アドリアン・ガルシア・デ・ロス・オホス、アイツォル・サラチャガ

製作者:ヨアキン・トリンカダ(Joaquin Trincada

データ:製作国スペイン、スペイン語、2017、コメディ・スリラー、103分、2016年夏ビスカヤ県ゲチョで撮影。11月開催のオランダのフリシンゲン市「Film By The Sea2017に正式出品、スペイン公開1124

 

キャスト:カラ・エレハルデ(ロヘリオ)、エルモ(カルロス・アレセス)、ペパ・アニオルテ(村長の妻シプリアナ)、ジョルディ・サンチェス(村長ベニート)、ミケル・ロサダ(ペドロ・アルベルト)、アンドレス・エレーラ(ルイス)、ラモン・バレア(ドン・エウロヒオ)、イレニア・バグリエットYlenia Bagliettoロレト)、マルコス・バルガニョン・サンタマリア(ガビノ)、キケ・ガゴ(ガビノ父シモン・ガルシア)、エンリケタ・ベガ(ガビノ母)、アレン・ロペス(ガビノ兄アントニオ)、アスセナ・トリンカド(ガビノ姉妹)、イツィアル・アイスプル(隣人)他

 

プロット・解説:市民戦争が終わった。ファランヘ党のロヘリオは、毎晩のこと仲間と連れ立ってアカ狩りに出かけていた。なかにはアカと疑われる人物も含まれていた。ある日のこと、一人のマエストロとその長男を殺害した。下の息子が憎しみを込めた目でロヘリオを睨んでいた。その視線が彼の人生をひっくり返してしまう。少年は父と兄を埋葬し、その墳墓にはイチジクの小さな苗を植えることだろう。やがて大人になれば復讐するにちがいない。ロヘリオは己れを救済するために似非隠者になり、毎朝毎晩イチジクがすくすくと成長するように世話しようと決心する。新しい村長の妻シプリアナは、ロヘリオ似非隠者の名声を利用して、この地を聖地の一大センターに変えようと画策する。そんな折りも折り、家族を捨ててきた告げ口屋の強欲なエルモが現れる。イチジクの木の下に宝物を隠しているにちがいないと確信して、ロヘリオから離れようとしなくなる。10歳の少年ガビノの視点とロヘリオを交錯させながら物語は進んでいく。

 

   

            (マルコス・バルガニョン・サンタマリアが扮するガビノの視線)

 

    

          (父親のキケ・ガゴと兄のアレン・ロペス)

 

(父親と兄を埋葬するガビノ)

  

     寓意を含んだ贖罪の物語、紋切型の市民戦争を避ける

 

★アナ・ムルガレンの長編第2作。作品数こそ少ないがキャリは長い。2006年刊行の原作を読んだとき、二つの映画のシーンが思い浮かんだという。「一つはブニュエル『砂漠のシモン』の中で柱に昇ったままのシモン、もう一つがフェリーニ『アマルコルド』の中で大木に登ったままの狂気の伯父さんのシーンでした。その黒さのなかに思いつかないようなアスコナ流のユーモアのセンスに出会って驚いた」と。「本作で製作を手掛けたトリンカドと私は作家と知り合いになった。ピニーリャ自身が映画化するならと薦めてくれたのが本作でした。多分、この小説は突飛でシニカルなユーモアが共存しているからだと思います。コメディとドラマがミックスされている非常にスペイン的な何かがあるのです」とも。

 

★ステレオタイプ的な市民戦争ではなく、コメディで撮りたかったという監督。コメディを得意とするカラ・エレハルデカルロス・アレセスペパ・アニオルテを主軸に、常連のミケル・ロサダアスセナ・トリンカド、バスク映画に欠かせないラモン・バレアを起用した。資料に忠実すぎて動きが取れなくならないように、演技にはあまり制約をつけなかったようです。

 

   

(ファランヘ党員のロヘリオ、カラ・エレハルデ)

 

(密告屋エルモ、カルロス・アレセス)

   

★「スペインは対立を克服できなかったヨーロッパで唯一の国、それを現在まで引きずっている。そのため今もってイチジクの木の下で眠っている人は浮かばれない」と語るエレハルデ。「カラ・エレハルデのような優れた俳優に演じてもらえた。ロヘリオの人間性に共感してもらえると思います。このファランヘ党員は隠者になったことを悔やんでいない。はじめは恐怖から始まったことだが、次第にイチジクの木を育てることに寛ぎを感じ始めてくる」と監督。当然「粗野なメタファー満載だ」との声もあり、評価は分かれると予想しますが、コメディで描く内戦の悲痛は、深く心に残るのではないか。

 

    

          (ポスターを背に、ロヘリオ役のカラ・エレハルデ)

 

 監督キャリア・フィルモグラフィ

アナ・ムルガレンAna Murugarren1961年ナバラのマルシーリャ生れ、監督、編集者、脚本家。バスク大学の情報科学部卒。198090年代に始まったバスクのヌーベルバーグのメンバーとしてビルバオで編集者としてキャリアを出発させる。メンバーには本作で製作を手掛けたヨアキン・トリンカド、ルイス・マリアス、『悪人に平穏なし』のエンリケ・ウルビス、『ブランカニエベス』のパブロ・ベルヘル、日本ではお馴染みになったアレックス・デ・ラ・イグレシアなどがいる。 

 

2005年「Esta no es la vida privada de Javier Krahe」ドキュメンタリー、監督・編集

   (ヨアキン・トリンカドとの共同監) 

2011年「El precio de la libertad」監督・編集(TVミニシリーズ2話)

2012年「La dama guerrera」監督・編集(TV映画)

2014年「Tres mentiras」監督・編集、長編映画デビュー作

2017年 本作割愛

他にエンリケ・ウルビス、パブロ・ベルヘル、ヨアキン・トリンカドの編集を手掛けている。

 

    

         (アナ・ムルガレンとヨアキン・トリンカド、20167月)

 

★受賞歴:「Tres mentiras」がフィリピンのワールド・フィルム・フェス2015で「グランド・フェスティバル賞」を受賞、他に主役のノラ・ナバスが女優賞を受賞した。他にサラゴサ映画祭2015作品賞、サモラ県のトゥデラ映画祭20141回監督賞他を受賞している。エンリケ・ウルビスの「Todo por la pasta」でシネマ・ライターズ・サークル1991の最優秀編集賞を受賞している。

 

        

             (本作撮影中のアナ・ムルガレン監督)


サウラの伝記ドキュメンタリー "Saura(s)" *フェリックス・ビスカレト2017年11月11日 14:44

 

               「パパは85歳」になりました!

 

    

★今年のラテンビートでは、カルロス・サウラの新作J:ビヨンド・フラメンコ』が上映されました。「ホタJota」というアラゴン起源の民俗舞踊と音楽をテーマにしたドキュメンタリー。現在ではリオハやナバラなどでも演奏され、歌、アコーディオン、ガイタ(ガリシアのバグパイプ)、リュート、バンドゥーリアというギターに似た楽器で演奏されます。サウラの生れ故郷ウエスカはアラゴン州の県都です。個人的には初期の『狩り』(65)や1960年代末から1970年代に撮られた作品群の強烈な印象がわざわいして、いわゆるフラメンコ物やタンゴ、ファド、ソンダの音楽舞踊がメインの作品には飽きがきています。

 

70年代の作品群の中には、『アナと狼たち』(72)、『従姉アンヘリカ』(73)、『カラスの飼育』(75公開)、『愛しのエリサ』(77)、『ママは百歳』(79)、『急げ、急げ』(81)など大体はジェラルディン・チャップリンがサウラの「ミューズ」であった時代の映画(9作ある)、または製作者エリアス・ケレヘタとタッグを組んでいた時代の映画です。公開されたのは『カラスの飼育』のみ、それも12年後の1987年、他はミニ映画祭上映でした。日本公開作品が如何にフラメンコ物に偏っているかが分かります。ラテンビートで即日完売となった『フラメンコ・フラメンコ』(10)は、本国の映画館では閑古鳥が鳴いていたのでした。

 

    

  (母子を演じたジェラルディン・チャップリンとアナ・トレント、『カラスの飼育』から)

 

★前置きが長くなりましたが、ご紹介したいのはフェリックス・ビスカレトのサウラの伝記ドキュメンタリー Saura(s)1785分)です。1932年生れのサウラは今年85歳になりました。だからではないと思いますが、父親サウラとそれぞれ世代の異なる子供7人と会話を通して対峙させてドキュメンタリーを撮ろうという企画が持ち上がり、7人からは承諾をもらえた。しかし肝心の父親は過去については当然乗り気でない。過去のことなど重要じゃない、これからが大切だというわけでしょう。

 

★しかし監督は企画に固執する。サウラは描写に拘る。監督は屈服しない。サウラも降参しない。両人とも相譲らなかった。そういう性格のドキュメンタリーのようです。逃げきろうとする老監督の核心にどこまで迫れたか、惚れっぽい女性行脚への匙加減、市民戦争がトラウマになっている先輩の数々の仕事、留守がちだった父親に対する子供たちの言い分、どこまで過不足なく描き切れたかどうかが決め手でしょうか。サウラに限らず過去の自作など恥ずかしくて一切見ない監督は結構おりますね。

 

      

     (撮影中の左から、次男アントニオ・サウラ、監督、カルロス・サウラ)

 

★本作はサンセバスチャン映画祭「サバルテギ部門」で上映後、113日にスペインで公開されました。鑑賞後の批評には、個人的な部分への立ち入り禁止と同時に、過去の作品の分析回避が顕著だとありました。7人の子供たちといっても第1子カルロスは1958年生れ、末子アンナは1994年生れと親子ほども開きがあります。母親も4人なのでキャスト欄には母親の名前も入れておきました。出典はスペイン語ウイキペディアによりました。日本語版と異なるのは、最初のアデラ・メドラノとは正式に結婚せず(しかしサウラを名乗る)、ジェラルディン・チャップリンと同じパートナーとなっている点です。IMDbには7人のうちシェイン・チャップリンはアップされておりません。

 

主なキャスト

カルロス・サウラ(1932ウエスカ)

エウラリア・ラモン2006結婚~現在、女優、4人目)

カルロス・サウラ・メドラノ(1958、製作者、助監督、母親アデラ・メドラノ1人目)

アントニオ・サウラ・メドラノ(1960、製作者、同上)

シェイン・チャップリン(1974、心理学者、母親ジェラルディン・チャップリン2人目)

マヌエル・サウラ・メルセデス(1981、母親メスセデス・ぺレス1982結婚~離婚、3人目)

アドリアン・サウラ(1984、同上)

ディエゴ・サウラ(1987、撮影監督、同上)

アンナ・サウラ・ラモン1994、女優、母親エウラリア・ラモン)

 

★映画界で仕事をしている子供は、父親の作品にそれぞれ参画しています。ジェラルディン・チャップリンとは、デヴィッド・リーンが『ドクトル・ジバゴ』(65)を撮影費が安く上がるスペインで撮影中、撮影風景を見学に行ったサウラと知り合った。意気投合した二人は以後1979年にパートナー関係を解消した。多分『ママは百歳』が最後の出演映画と思います。1974年には1子を出産したが籍は入れなかった。1979年、チリの撮影監督パトリシオ・カスティーリョと結婚、1986年に高齢出産で生まれたのが女優ウーナ・チャップリンである。前回アップしたセビーリャ映画祭のオープニング作品 Tierra firme のため母子で赤絨毯を踏んだ。シェインとウーナは異父兄妹になる。

 

★メルセデス・ぺレス(1960年生れ)とは、1978年ごろから関係をもち、最初のマヌエル誕生後の1982年に結婚している。女優エウラリア・ラモンとは、1990年代の自作起用(『パハリコ』『ボルドゥのゴヤ』)が機縁、正式には2006年再婚して現在に至っている。

 

     

      (娘アンナ、サウラ監督、妻エウラリア、ゴヤ賞2012ガラに3人揃って登場)

 

★海千山千の老獪な監督のガードは固かったと想像できますが、サウラ像の核心に迫れたかどうか。来年1月下旬、デヴィッド・リンチ(1946)を主人公にしたドキュメンタリー『デヴィッド・リンチ:アートライフ』が公開されます。リンチの「アタマの中」を覗ける、かなり刺激的なドキュメンタリーのようです。今年のカンヌ映画祭で特別上映された『ツイン・ピークス The Return』で観客を驚かせたリンチ、こちらは本人が謎解きをしてくれるとか。切り口は違うが、二人の監督自身がドキュメンタリーの被写体になったのは偶然か。偶然といえば、リンチも4婚している。

 

    

          (サウラと監督、サンセバスチャン映画祭2017にて)

 

フェリックス・ビスカレトFelix Viscarretは、1975年パンプローナ生れ、監督、脚本家、製作者。短編 Soñadores99)、El álbum blanco05)など発表、国内外の短編映画祭で好評を博し受賞歴多数。2007Bajo las estrellas で長編デビュー、批評家、観客両方から受け入れられ、マラガ映画祭「銀のビスナガ」監督賞・新人脚本賞、ゴヤ賞2008では脚色賞、主演のアルベルト・サン・フアンが主演男優賞を受賞、その他受賞歴多数。

 

  

                 (デビュー作 Bajo las estrellas ポスター)

 

★その後、TVミニシリーズで活躍、最近ではサンセバスチャン映画祭2016で、キューバとの合作映画TVミニシリーズ Cuatro estaciones en La HabanaFour Seasons in Havana)と Vientos de La Habana が上映された。日本でもファンの多いレオナルド・パドゥラの「マリオ・コンデ警部補シリーズ」のスリラーもの。Cuatro estaciones en La Habana は、ハバナの春夏秋冬が描かれ、それぞれ約90分のドラマ、そのうちコンデ警部補役ホルヘ・ぺルゴリア以下常連のカルロス・エンリケ・アルミランテほか、フアナ・アコスタ、マリアム・エルナンデスが出演した Vientos de La Habana が独立して、20169月に公開された。

 

  

     (Vientos de La Habana のポスターを背に、アコスタとぺルゴリア

     

 

  (Vientos de La Habana の原作者レオナルド・パドゥラ、ビスカレト監督、  

  後列、アコスタ、ぺルゴリア、エルナンデス、サンセバスチャン映画祭2016にて

   

ルクレシア・マルテルの新作『サマ』*ラテンビート2017 ⑤2017年10月13日 12:32

              どうしてサマの人生を撮ろうとしたのか?

 

  

★ラテンビートのサイトでも、ルクレシア・マルテル『サマ』が、第90回米アカデミー賞外国語映画賞のアルゼンチン代表作品に選ばれたニュースが掲載されました。もう、そういう季節なのでした。それはさておき、久々のマルテル映画がラテンビートにやってきます。出身地のサルタを舞台に撮った「サルタ三部作」の最終作『頭のない女』(2008)以来ですから約十年ぶりです。今年のブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIZama が正式出品されたとき、記事にしようかどうか迷った作品。BAFICIは開催日がマラガとカンヌの両映画祭に挟まれているせいで優先順位が低い。アルゼンチンの作家アントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 Zama1956年刊)の映画化。最大の関心は、どうしてマルテルが自国の優れた小説の映画化という、後戻りのできない新しい分野に斬りこもうとしたか、です。

 

Zamaの表紙)

  

★『頭のない女』はカンヌでブーイングを受けた映画ですが、これは映画祭向きではなかったと思います。そもそも監督は上映後すぐのQ&Aは好きじゃないと語っています。彼女の映画は観客が咀嚼というか消化する時間が必要だからでしょうか。というわけかどうか分かりませんが、今年のカンヌは素通りしました。秋のベネチア映画祭には、コンペティション外でしたがエントリーされ、ベネチアには監督、ディエゴ・デ・サマ役のダニエル・ヒメネス=カチョ、共演者のロラ・ドゥエニャスが現地入りしておりました。製作国はアルゼンチン、スペイン、メキシコ、ブラジルを含めて9ヵ国、プロデューサーもエグゼクティブや共同、アシスタントを含めて総勢28人、まともじゃないが全部は紹介できない。ラテンビートでは追加作品だったから、カタログ掲載が間に合わなかったようです。東京会場バルト9では最終回上映、鑑賞後改めてアップするとして、今回はデータ中心にしました。

 

   

 (左から、ロラ・ドゥエニャス、監督、ダニエル・ヒメネス=カチョ、ベネチア映画祭にて)

 

『サマ』 Zama2017

製作:Rei Cine(亜)/ Bananeira Films(ブラジル)/ LemmingFilm(蘭)/ Canana(メキシコ)/

   El Deseo(西)/ KNM(スイス)/ Louverture Films(米)他

   協賛:INCAAICAACNC(仏)、Netherland Filmfund(蘭)、Programa Ibermedia 他

監督・脚本:ルクレシア・マルテル

原作:アントニオ・ディ・ベネデットの小説 Zama 

撮影:ルイ・ポサス

編集:カレン・ハーレー、ミゲル・シュアードフィンガー

キャスティング:ナタリア・スミルノフ、ベロニカ・ソウト

美術:レナータ・ピネイロ

衣装デザイン:フリオ・スアレス

メイクアップ&ヘアー:マリサ・アメンタ(メイク)、アルベルト・モッチア(ヘアー)、他

音楽:グスタボ・モンテネグロ

プロダクション・マネージメント:フカ・ディアス、パブロ・Trachter

録音:グイド・ベレンブラム Guido Berenblum、マヌエル・デ・アンドレス、ホセ・カルダラロ、他多数

製作者:ヴァニア・カタニ、ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、(エグゼクティブ)ガエル・ガルシア・ベルナル、アンヘリサ・ステイン、(共同)アルモドバル兄弟、エステル・ガルシア、パブロ・クルス、ルイス・ウルバノ、フアン・ベラ、他総勢28

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン、フランス、オランダ、USA、メキシコ、ブラジル、ポルトガル、レバノン、スイス、言語スペイン語、2017年。映画祭上映BAFICI、ベネチア、トロント、ニューヨーク、ロンドン、ムンバイ、釜山、各映画祭2017、他。撮影地はアルゼンチンの他、ブラジル、スペイン、フランス、メキシコ、ポルトガル、オランダ、米国など。公開アルゼンチン928日、スペイン2018126

 

キャスト:ダニエル・ヒメネス=カチョ(ドン・ディエゴ・デ・サマ)、ロラ・ドゥエニャス(ルシアナ・ピニャレス・デ・ルエンガ)、マテウス・ナシュテルゲール(ビクーニャ・ポルト)、フアン・ミヌヒン(ベントゥラ・プリエト)、ナウエル・カノ(マヌエル・フェルナンデス)、マリアナ・ヌネス、ダニエル・ベロネセ(総督)、カルロス・デフェオ、ラファエル・スプレゲルブルド(キャプテン・イポリト・パリィリャ)他

 

解説:ドン・ディエゴ・デ・サマは知らせを待ちつづけている。サマはスペイン国王により植民地統治のためパラグアイに派遣されてきていた。ブエノスアイレスへの異動信書を運んでくるはずの船を待ち侘び、地平線を見つめるのが日課だった。妻や子供たちと切り離され、時が永遠に止まってしまったかのような未知の世界で孤独を募らせていく。18世紀末の植民地時代を背景に、自分が思い描いていた世界が壊れそうになっていく男の物語。先述したようにアントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 Zama1956年刊)の映画化。

 

   

        (ドン・ディエゴ・デ・サマ、ダニエル・ヒメネス=カチョ)

 

  

                       (国王の信書を待ちわびるサマ)


  
  (サマに戯れる役人の妻ルシアナ、ロラ・ドゥエニャス)

 

★物語も時代背景も全く異なるのに、前作『頭のない女』とテーマは似ているかなという印象です。これも運転中に何かを轢いたかもしれないという或るきっかけを境いに、自分の世界が壊れそうになっていく女性の話でした。『サマ』も自分が思い描いていた世界が壊れていく男の人生を描いている。孤独のなかで「待望に捉えられた」男の苦しさを描いている。

 

★原作者のアントニオ・ディ・ベネデットは、1922年メンドサ生れ、作家、ジャーナリスト、映画脚本家。日刊紙「ロス・アンデス」の記者として出発している。アルゼンチンのジャーナリズムで仕事をしていて、軍事独裁と無縁であった人は僅かでしょうか。彼は1976324日の軍事クーデタ勃発当日に、ロス・アンデスの編集室で逮捕されている。197794日に釈放されたときには精神がずたずただったという。その後すぐにフランスに脱出、マドリードに移って6年間の亡命生活を余儀なくされた。名ばかりとはいえ民主主義になった1984年に帰国したが、198610月に63歳で死去している。ディ・ベネデットはドストエフスキーやルイジ・ピランデルロ(1934年、ノーベル賞受賞)に魅了されて作家の道に進んだという。アルゼンチンではボルヘスも評価していた作家だそうで、フリオ・コルタサル、エルネスト・サバトと並ぶようですが、それにしては翻訳書が目下のところないのが不思議です。『サマ』の英訳も最近出版されたばかりのようです。

 

(アントニオ・ディ・ベネデット)

 

ルクレシア・マルテルLucrecia Martelの簡単紹介。19661214日、アルゼンチン北部のサルタ州生れ。長編デビュー作が『沼地という名の町』(2001La Ciénaga)、NHKが資金提供しているサンダンス映画祭でNHK賞を受賞した。他にハバナ映画祭サンゴ賞(作品賞)、ベルリン映画祭アルフレッド・バウアー賞、アルゼンチンのクラリン賞など受賞歴多数。日本では一度だけNHKBS)で深夜放映された。2作目が『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004La niña santa)、カンヌ映画祭正式出品、クラリン賞、サンパウロ映画祭審査員賞など受賞している。本作は第1回ヒスパニック・ビート映画祭2004(現ラテンビート)で上映された。

  

   

          (ルクレシア・マルテル監督、ブエノスアイレスにて)

 

3作目がカンヌ映画祭でブーイングを受けたという『頭のない女』(2008La mujer sin cabeza)、しかし国内での評価は高く、アルゼンチン・アカデミー賞、シルバー・コンドル賞、またリマ映画祭審査員賞、リオデジャネイロ映画祭FIPRESCI賞などを受賞、ラテンビート2008で上映されました。プロデューサーが来日、質疑応答の機会がもたれたが、通訳が上手く噛みあわなかった。以上3作は、生れ故郷サルタが舞台だったことから、「サルタ三部作」といわれている。第4作が『サマ』です。短編、TVドキュメンタリーを除いています。

 

  

            (『サマ』撮影中のルクレシア・マルテル)

 

3作『頭のない女』については、現在休眠中のCabinaブログに感想をコメントしております。カビナさんのユニークな紹介記事は、コチラ

   http://azafran.tea-nifty.com/blog/2008/09/la-mujer-sin-ca.html