マルセロ・ピニェイロ、レトロスペクティブ賞ガラ*マラガ映画祭2024 ⑨ ― 2024年03月18日 17:04
アルゼンチンの監督マルセロ・ピニェイロにレトロスペクティブ賞

★3月8日金曜日、日刊紙マラガ・オイがコラボするレトロスペクティブ賞―マラガ・オイが、アルゼンチンの監督、脚本家、製作者のマルセロ・ピニェイロに与えられました。総合司会者はセリア・ベルメホでした。本賞は映画功労賞の意味合いがありベテラン・シネアストが受賞する賞です。1953年ブエノスアイレス生れのピニェイロは、70歳を超えていますが勿論現役です。プレゼンターは撮影監督のアルフレッド・マヨ、監督で製作者のヘラルド・エレーロ、Netflix ラテンアメリカ担当の副会長フランシスコ・ラモス、俳優のホアキン・フリエル、作家で脚本家のクラウディア・ピニェイロの5名でした。

★プレゼンター各氏の温かい紹介スピーチを会場で聞き入っていた受賞者は、セリア・ベルメホに促されて颯爽と登壇すると、クラウディア・ピニェイロの手からトロフィーを受けとりました。40代で監督デビューした受賞者は、「まず何よりも、私を受賞者に選んでくださったフェスティヴァルに御礼を申し上げたい。以前にこの賞を誰が受賞したか知ったとき、この賞の価値に気づきました。私は多くの素晴らしい人々に支えられて幸運でした、例えば映画や演劇の先生、脚本家、撮影監督、プロデューサー、俳優、私の映画を輝かせてくれた沢山の人々です。皆さんにありがとうを言いたい」と拍手に囲まれながらエモーショナルに締めくくった。

(右端にクラウディア・ピニェイロ)
★当ブログでは2回にわたってキャリア&フィルモグラフィー紹介をしていますが、系統だった記事ではないので補足します。アルゼンチンのラプラタ大学で映画を専攻、1983年、ルイス・プエンソと制作会社シネマニアを設立、アルゼンチンに初めてオスカー像をもたらした『オフィシャル・ストーリー』(85)の製作を手掛けました。アルゼンチン映画アカデミー設立メンバーの一人で副会長に就任している。1993年、「Tango feroz: la leyenda de Tanguito」で監督デビュー、監督第1作に与えられる銀のコンドル賞オペラ・プリマ賞を受賞した。監督デビューが遅かったこともあり、映画作家としては寡作です。しかし評価は高く多くが映画祭や映画賞を受賞している。フィルモグラフィーは以下の通り:
1995年「Caballos salvajes」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)
サンダンス映画祭1996オナラブルメンション、レリダ映画祭1997観客賞
1997年「Cenizas del paraíso」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)
ゴヤ賞1998スペイン語外国映画賞、ハバナFF1997脚本賞、レリダFF1998観客賞
2000年「Plata quemada」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
邦題は『炎のレクイエム』『逃走のレクイエム』『燃やされた現ナマ』
ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞、銀のコンドル脚色賞
2001年「Historias de Argentina en Vivo」監督
2002年「Kamchatka」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
カルタヘナ映画祭2003脚本賞、バンクーバーFF2003ポピュラー賞、
ハバナ映画祭2003脚本賞・サンゴ賞3席
2005年「El método」監督・脚本(共同マテオ・ヒル)
ゴヤ賞2006脚本賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、フランダース映画祭観客賞
2009年「Las viudas de los jueves」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
『木曜日の未亡人』DVDタイトル
2013年「Ismael」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス、ベロニカ・フェルナンデス)
2021~23年「El reino」TVシリーズ、監督・脚本(共同クラウディア・ピニェイロ)
邦題『彼の王国』Netflix配信、銀のコンドル2022オリジナル脚本賞、
イベロアメリカ・プラチナ賞2022 TVミニシリーズ部門作品賞
★クラウディア・ピニェイロとは、彼女のベストセラー小説 “Las viudas de los jueves”(2005年刊)を映画化した。公開には至らなかったが『木曜日の未亡人』(09)の邦題で2010年DVD化された。最近ではTVミニシリーズ「El reino」(8話)の共同執筆者でもあり、また今回のマラガ映画祭セクション・オフシアルの審査委員長を務めている。また本シリーズには主演男優賞を受賞したホアキン・フリエルが重要な役どころで出演している。アップが受賞結果と前後したので3月8日段階では 分からなかったが、監督お気に入りのようです。

(監督と脚本家クラウディア・ピニェイロ)

(ヘラルド・エレーロ、監督、ホアキン・フリエル)
★アルフレッド・マヨは「Caballos salvajes」「Cenizas del paraíso」「Plata quemada」「Kamchatka」「El método」とヒット作を手掛けているスペインの撮影監督です。マドリード出身のヘラルド・エレーロは監督と同じ1953年生れ、スペインだけでなく多くのラテンアメリカの監督とタッグを組んでいる。ピニェイロとは、「Plata quemada」や「El método」を製作している。
*「El método」の作品紹介は、コチラ⇒2013年12月19日
*『逃走のレクイエム』の作品紹介は、コチラ⇒2022年06月16日
第27回マラガ映画祭2024結果発表*マラガ映画祭2024 ⑧ ― 2024年03月14日 15:16
金のビスナガは「Segundo premio」と「Radical」が受賞

★3月10日、第27回マラガ映画祭は、スペイン映画部門に「Segundo premio」(監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス)、イベロアメリカ映画部門にメキシコの「Radical」(監督クリストファー・ザラ)を選んで閉幕しました。前者は受賞候補として一馬身抜けており、驚きはなかったでしょうか。驚いたのは登壇したスタッフ、キャスト陣の数の多さとラクエスタ監督のギター演奏でした。これには特別な理由がありました。監督と製作者イサ・カンポのひとり娘ルナが数ヵ月前に白血病で鬼籍入りしていたということなのでした。まだ小学生くらいだったルナも一緒に3人で来日したことがあり、管理人も驚きを隠せませんでした。ギター演奏と歌、トロフィーもルナとグラナダのバンド「ロス・プラネタス」に捧げられました。本作は監督賞と編集賞の3冠を受賞しました。後者はサンダンス映画祭でプレミアされ高評価を受けていたので何らかの賞に絡むとアップを予定しておりましたが、まさか金賞を取るとは思いませんでした。
★ミュージカル・ドラマ、ストーリーは1990年代後半、グラナダはアートと文化が盛んでした。そんななか、インディーズのロックバンド「ロス・プラネタス」は、スペインの音楽状況を変えようとしていました。しかし3枚目となるニューアルバムの制作直前、グループは深刻な危機を迎えていました。
★キャスト:ダニエル・イバニェス(歌手)、クリスタリノ(ギタリスト)、ステファニー・マグニン(メイ)、マフォ(ドラマー)、チェスコ・ルイス(ベーシスト)、他多数

(ギターで娘ルナを偲ぶイサキ・ラクエスタ)
★総合司会者は、ジャーナリストでテレビ司会者のエレナ・サンチェスと、コメディアンで俳優のフリアン・ロペス、スペインでは二人を知らない人はいないでしょう。会場を楽しませたミュージシャンは、出演順に紹介すると、ピアニストのアレハンドロ・ペラヨは、カルロス・サウラの『カラスの飼育』で使用されたことで大ヒットとなったジャネットの ”Porque te vas” やマリソルの “Tómbola” などで会場を盛り上げました。フラメンコ歌手のキキ・モレンテはルス・カサルの “Piensa en mí”、テネリフェ出身のシンガーソングライターのST. ペドロは自身のヒット曲 “Dos extraños”、インディーロックバンドのベトゥスタ・モルラは最新作 “La sábana de mis fantasmas” を演奏しました。

(アレハンドロ・ペラヨ、フリアン・ロペス、エレナ・サンチェス)
★セクション・オフィシアルの審査員は、委員長がアルゼンチンの作家、脚本家、戯曲家のクラウディア・ピニェイロ、サンセバスチャン映画祭メインディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス、チリの女優アントニア・セへレス、ボリビアの監督アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、アルゼンチンの脚本家ダニエラ・フェヘルマン、スペインの監督ハビエル・ルイス・カルデラの6名でした。金のビスナガを発表するさい全員登場、クラウディア・ピニェイロ委員長とレボルディノスが挨拶しました。

(左端が審査委員長クラウディア・ピニェイロ)
★金賞は製作者に与えられる作品賞のみで、以下はすべて銀賞です。最後の2カテゴリー、観客賞と批評家審査員特別賞は補完的な賞です。マラガ映画祭は他にソナチネ部門、ドキュメンタリー、短編映画など各部門ごとに受賞作が発表になっていますが割愛です。セクション・オフィシアルの受賞作、受賞者は以下の通りです。プレゼンターを分かる範囲でアップしています。
*第27回マラガ映画祭セクション・オフィシアル受賞結果*
◎金のビスナガ(スペイン映画)
*プレゼンター:審査員ホセ・ルイス・レボルディノス
「Segundo premio」 製作BTeam Pictures / Capricc Films / Ikiru Films 他
監督イサキ・ラクエスタ、ポル・ロドリゲス


(バスでマラガ入りしたスタッフとキャスト)

(「Segundo premio」のフレームから)
◎金のビスナガ(イベロアメリカ映画)
*プレゼンター:審査委員長クラウディア・ピニェイロ
「Radical」 製作フェルナンド・リエラ
監督クリストファー・ザラ(欠席、ビデオ出演)

(受賞者を紹介するピニェイロ審査委員長)

(フェルナンド・リエラ)

◎審査員特別賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:ウナックス・ウガルデ&ネレア・バロス
「Los pequeños amores」 監督セリア・リコ


◎監督賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:ダニエル・モンソン&マリア・ボット
イサキ・ラクエスタ、ポル・ロドリゲス 「Segundo premio」

(各自に1個ずつトロフィーが渡された)

(ラクエスタ監督が共同監督ロドリゲスにトロフィーを、右はプレゼンター)
◎主演女優賞(ホテルACマラガ・パラシオ銀のビスナガ)
*プレゼンター:ルイサ・ガバサ、スシ・サンチェス、アントニア・サエラ(審査員)
ロラ・アモレス 「La mujer salvaje」 監督アラン・ゴンサレス

(プレゼンターのベテラン女優)

◎主演男優賞(銀のビスナガ、今回は2人)
*プレゼンター:ハビエル・ペレイラ&マギー・シバントス
ルイス・サエラ(欠席、ビデオ出演) 「Pájaros」 監督パウ・ドゥラ

(サエラは忙しくて、と代理でトロフィーを受け取った監督)

(ルイス・サエラ右、共演者ハビエル・グティエレス、フレームから)
ホアキン・フリエル 「Descansar en paz」 監督セバスティアン・ボレンステイン


(アルゼンチンのフォルクローレ、マランボを踊る受賞者)
◎助演女優賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:ゴヤ・トレド&フェリックス・ゴメス
アドリアナ・オソレス 「Los pequeños amores」 監督セリア・リコ・クラベリーノ

◎助演男優賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:リカルド・ペレイラ&ベレン・ロペス
ガブリエル・ゴイティ 「Descansar en paz」
*受賞者欠席で共演者のホアキン・フリエルが代理で受け取った。

(受賞者ガブリエル・ゴイティ、フレームから)
◎脚本賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:ホセ・コルバッチョ&マリア・アダネス
アレックス・モントーヤ、ジョアナ・オルトゥエタ 「La casa」

◎音楽賞オリジナルスコア(銀のビスナガ)
*プレゼンター:アンドレ・ラモグリア&カルメン・アルファ
フェルナンド・ベラスケス 「La casa」

◎撮影賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:ナタリア・サンチェス&アライン・エルナンデス
フアン・カルロス・マルティネス 「Golán」 監督オルランド・クルサト

(受賞者欠席で監督が代理で受け取った)

◎編集賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:マリア・ロマニリョス&ガブリエル・ゲバラ
ハビ・フルトス 「Segundo premio」

◎批評家審査員特別賞(銀のビスナガ)
*プレゼンター:パウラ・エチェバリア&アルフォンソ・バサベ
「Nina」 監督アンドレア・ハウリエタ


◎観客賞(銀のビスナガ)
「La casa」 監督アレックス・モントーヤ



★14カテゴリーのうち「Segundo premio」と「La casa」が3個ずつ、「Los pequeños amores」が2個とスペイン映画に偏っている。いずれも配給会社はLatido Films が手掛けている。これからカンヌ、ロカルノと映画祭が開催されるから忙しいことでしょう。「La casa」のアレックス・モントーヤは、マラガ映画祭2021ソナチネ部門に出品した「Lucas」が作品賞、観客賞、主演男優賞を受賞しており次作が待たれていました。新作はスタイリッシュな家族ドラマのようで紹介予定です。
★「Los pequeños amores」のセリア・リコ・クラベリーノは、前作「Viaje al cuarto de una madre」(18)で高い評価を受けゴヤ賞2019新人監督賞にノミネートされている。新作は3冠ですから紹介すべきでしょう。アルゼンチンの「Descansar en paz」のセバスティアン・ボレンステインは、リカルド・ダリン映画の監督としてお馴染みですが、今回はダリンの姿はありません。主演・助演男優賞を受賞しており、キャスト紹介もしたいところです。
★特別賞のレトロスペクティブ賞のマルセロ・ピニェイロの授与式のアップも終わらないうちに閉幕してしまいました。依怙贔屓なく紹介したい。ガラは進行役のエレナ・サンチェスが「来年のマラガ映画祭は3月14日から23日まで、同じここセルバンテス劇場でお会いしましょう」でお開きになりました。

(締めくくりをしたエレナ・サンチェス)
ダビ・トゥルエバの新作「El hombre bueno」*マラガ映画祭2024 ⑦ ― 2024年03月08日 14:43
夫婦関係について、別離に至る苦悩についてを熟考するドラマ

★3月6日、ダビ・トゥルエバの新作「El hombre bueno」の第1回上映がアルベニス映画館でありました。監督は出演者ホルヘ・サンス、マカレナ・サンス、ビト・サンスとともにフォトコールにおさまりました。苗字が同じサンスでも血縁関係はないそうです。映画祭も折り返し点を過ぎ、セクション・オフィシアルの1回目の上映はほぼ終わり、各プレス会見も行われています。
★昨年ダビ・トゥルエバは、カタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラの悲しみと喜び、想像力を結集させた「Saben aquell」でファンを楽しませたばかりですが、ホルヘ・サンス久々の出演ということで作品紹介をいたします。低予算で製作された本作は、「作るのがとても楽しい映画でした。私は敬愛するホルヘ・サンスと再び仕事がしたかったのです」と、プレス会見で製作の動機を語った。ホルヘ・サンスは監督が宿願のゴヤ賞を初めて受賞した『「ぼくの戦争」を探して』に出演しています。サンスは監督が愛する実父の人格が投影されている役を演じたのでした。
*「Saben aquell」の作品紹介は、コチラ⇒2023年12月30日
*『「ぼくの戦争」を探して』の作品・監督キャリア紹介は、コチラ⇒2014年11月21日

(左からビト・サンス、監督、マカレナ・サンス、ホルヘ・サンス、3月6日フォトコール)
「El hombre bueno」
製作:Buenavida Producciones / Perdidos G.C.
監督・脚本:ダビ・トゥルエバ
撮影:イグナシオ・ガバサ
音楽:ライモン、”Veles e vents”
編集:マルタ・ベラスコ
録音:サロメ・リモン
データ:スペイン、2024年、ドラマ、79分、撮影地マジョルカ島(バレアレス諸島)、配給・販売Buenavida Producciones
キャスト:ホルヘ・サンス(アロンソ)、マカレナ・サンス(ベラ)、ビト・サンス(フアン)
ストーリー:ベラ、フアン、娘のマヌエラは、フアンの元同僚で上司でもあったアロンソが所有する海辺の快適な家で数日間過ごそうとマジョルカにやってきた。アロンソはパートナーを亡くしたことで引退を決意していた。一方フアンとベラは離婚を決意しており、「善き人」アロンソに彼らの仲介役を担ってもらいたいと考えていた。喧騒から遠く離れた海辺の家で、3人の秘密が明らかになるにつれ、それぞれの愛と喪失に向き合うことになる。

(フアン役のビト・サンス、アロンソ役のホルヘ・サンス、フレームから)
★情報が少なく、破綻寸前の夫婦の仲介者アロンソが善き人なのかどうか分からない。トゥルエバ監督はプレス会見で、「愛は最初に人を築き、次に人を破壊します。・・・ブーメランになる可能性もあります。いずれにせよ3人は完璧でも、正直でもなく、自分自身に満足していません。最も難しいのは、他人のアイディア、他人の欠点を尊重することなのです」と述べている。

(マカレナ・サンス、監督、ホルヘ・サンス、プレス会見にて)
★フアン役のビト・サンスは「登場人物たちは善人でも悪人でもなく、両方を少しずつ持っている」。またその演技を絶賛されたマカレナ・サンスは、「本作は劇場向きの脚本で、とても複雑でした。毎晩でも演じたい、そうすれば毎晩新たな気づきが得られる脚本だからです」と語っている。
★ホルヘ・サンス(マドリード1969)については『「ぼくの戦争」を探して』でフィルモグラフィーを紹介をしています。子役からの俳優で既に3桁の作品に出演しています。アンソニー・クイーンと共演した『バレンチナ物語』が、1985年公開され日本でも認知度が高いか。また監督の実兄フェルナンドがオスカー賞を受賞した『ベルエポック』に4人姉妹の恋人役で出演しており、トゥルエバ兄弟とは縁が深い。最近ダビ・トゥルエバとはTVミニシリーズ「¿ Qué fue de Jorge Sanz ?」(8話、2010~17)で主役を演じており、現在では助監督をしている息子メルリン・サンスも4話だが出演している。


(引退して画家を目指しているアロンソ)
ハビエル・カマラにマラガ-スール賞ガラ*マラガ映画祭2024 ⑥ ― 2024年03月06日 18:12
プレゼンターは作家エルビラ・リンド―ハビエル・カマラにマラガースール賞

(エモーショナルな受賞スピーチをしたハビエル・カマラ)
★3月4日、セルバンテス劇場でハビエル・カマラ(リオハ1967)のマラガ・スール賞のガラが開催されました。ガラに先立って地中海を臨むマラガの遊歩道アントニオ・バンデラス通りに受賞者の手形入りのモノリス記念碑の除幕式がありました。マラガ出身のバンデラスは本祭に資金提供をしているマラガ名誉市民です。除幕式にはマラガ市長フランシスコ・デ・ラ・トーレ、マラガ文化市議会議員マリアナ・ピネダ、コラボの日刊紙「スール」編集長アナ・ペレス≂ブライアン、総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルが参加しました。

(自身の手形入り記念碑の前のハビエル・カマラ、3月4日)

(左から、フアン・アントニオ・ビガル、受賞者、マラガ市長デ・ラ・トーレ、
市議会議員マリアナ・ピネダ、スール編集長アナ・ぺレス≂ブライアン)
★ガラの進行役はリカルド・フランコ賞ガラと同じマラガ出身の女優ノエミ・ルイス、トロフィーのプレゼンターはジャーナリスト、作家、脚本家、女優と幾つもの顔をもつエルビラ・リンド、監督フェリックス・サブロソ、パロマ・フアネス、リカルド・フランコ賞2008の受賞者でもあるキャスティングディレクターのルイス・サン・ナルシソの4人が登壇しました。日本では『めがねのマノリート』で認知度が高いエルビラ・リンドがプレゼンターには少し驚きましたが、彼女が脚本を手掛けたホルヘ・トレグロッサの「La vida inesperada」(仮題「予期せぬ人生」)主演の繋がりでしょうか。俳優として更なる成功を求めてニューヨークに渡るも現実は厳しく期待したようにはならない。従兄役のラウル・アレバロが共演している。マラガ映画祭2014のクロージング作品だった。

(左から、エルビラ・リンド、ハビエル・カマラ、フェリックス・サブロソ、
パロマ・フアネス、ルイス・サン・ナルシソ)
★エルビラ・リンドは、市井の人物を演じるカマラを「私たちは一目で友人になった。やがていとこになり、今では姉弟です。生れながらの演技者、詩人、語りて、アーティスト。あなたのような人材が必要であり、人生を捧げて庶民を体現するコメディアンである」と称賛した。フェリックス・サブロソは「彼の創造的な成熟と生命力は、その芸術的プロセスに影響を与えたシネアストの一人」と評し、才能だけでなく彼のやさしさを強調した。ルイス・サン・ナルシソは「ハビエルについては議論されていないが賞賛されている」と語り、女優のパロマ・フアネスは、「彼は偉大な俳優だが、それ以上に人間的」と断言した。

(エルビラ・リンド、ハビエル・カマラ、フェリックス・サブロソ)
★受賞者は、「ありがとう、ありがとう、ありがとう、この町が私に与えてくれた沢山の愛情に圧倒されています。度々私を招いて賞を授与してくれました」と感謝の言葉を述べた。スペインの小さな町で俳優になるための勉強をしている若い世代に向けて「マドリードやマラガのような都会にやってきた人々を励ましたい。この仕事には皆さんのような才能が必要です。私たちは計り知れない才能を秘めている若い世代を引き受けねばなりません」と変革を訴えたようです。トロフィーを俳優、映画製作者を目指しているすべての人々に捧げました。リオハの片田舎から20歳で大都会マドリードにやってきた受賞者らしいスピーチでした。
「監督も私もマラガには本当に感謝しています」とハビエル・カマラ
★セルバンテス劇場内のロッシーニ・サロンで、恒例のフアン・アントニオ・ビガルによるインタビューがありました。マラガでの受賞歴は、2004年パブロ・ベルヘルの『トレモリノス73』と2008年ナチョ・G・ベリリャの『シェフズ・スペシャル』の銀のビスナガ男優賞、プラス今回のマラガ―スール賞の3賞です。そういえば『トレモリノス73』のパブロ・ベルヘルの姿はなく、多分オスカー賞にノミネートされている『ロボット・ドリームズ』のプロモーションで国内にいないのでしょう。
★カマラは「コメディ役者としてやってきたが、マラガは『トレモリノス73』以来ずっと私を支えてきてくれたと思っています。パブロ・ベルヘルも、役者の私も本当にマラガには感謝しています。本映画祭は常に才能ある人々を支えてくれています」とインタビューに答えている。ベルヘルにとってはデビュー作、カマラもアルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)のベニグド役でゴヤ賞主演男優賞にノミネートこそされたが、コメディ俳優の本領を発揮できたとは言い難かった。

(フアン・アントニオ・ビガルのインタビューを受けるハビエル・カマラ)
★現在台頭してきた女性映画製作者について「彼女たちの声に耳を傾け、サポートすべき」と指摘した。また見向きもされない才能が隠れているので、それを探す必要性を語り、映画製作は複雑だが、特権を持つ人々が古いままではいけない、新しい才能に対して両手を広げることも重要と力を込めていた。おしゃべり好きな受賞者は「準備万端整えてセットに出向きます。口出しをしてはいけないときは黙っていますが、それが私には難しい」と冗談をとばした。
★スペイン映画での演技者の成長過程や共に作品を作り上げていく監督たちの貢献については「できる限りよくなるように仕事をしているし、監督たちが私を成長させてくれる。成長にはプロフェッショナルだけでなく個人的なものも必要である」と断言している。カマラは映画俳優を夢見ていたわけではなく舞台俳優を目指していた。しかし落ちこぼれを経験して、ある教師から本格的に演技学校で学ぶように忠告された。しかし演技学校に入ると、舞台は彼の目には小宇宙に見え、自分のやりたいことができるように感じられなかったとも語っている。
★カマラをお茶の間の人気者にした長寿TVシリーズ「7 vidas」(99~06)の撮影休憩中に、共演中のベテラン女優アンパロ・バロ(1937~2015)に、リハーサルではナーバスになるが、あなたはどうですかと聞いたら、「もっともっと多くなるのよ、ハビエル」と言われた。経験を積めば積むほど、それだけ責任も重くなる。「その通りです、この大女優の言葉を肝に銘じています」と締めくくった。

(アンパロ・バロと、TVシリーズ「7 vidas」から)
★ハビエル・カマラのフィルモグラフィー紹介として、ダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』でアップしておりますが、それ以降の話題作はセスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(15)、ゴヤ賞2016助演男優賞受賞、コロンビア映画になりますがフェルナンド・トゥルエバの『あなたと過ごした日に』(20)を紹介しています。
*『「ぼくの戦争」を探して』の主な記事は、コチラ⇒2014年11月21日
*『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ⇒2016年01月09日/2017年08月04日
*『あなたと過ごした日に』の主な記事は、コチラ⇒2020年06月14日
マラガ才能賞&リカルド・フランコ賞授与式*マラガ映画祭2024 ⑤ ― 2024年03月05日 10:02
アナ・アルバルゴンサレスにリカルド・フランコ賞

(メンデス=レイテからトロフィーを受け取るアナ・アルバルゴンサレス)
★3月2日セルバンテス劇場で、特別賞の一つ、リカルド・フランコ賞の授与式がありました。プレゼンターはマラゲーニャのノエミ・ルイス、登壇した列席者はスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス≂レイテ、フアン・ルイス・イボラ監督、製作者のイソナ・パソラほか。カルロス・サウラ、ビセンテ・アランダ、ヘラルド・ベラ、アグスティ・ビリャロンガの美術や衣装デザインを手掛けたアナ・アルバルゴンサレスに光が当たった。サウラ以下監督すべてが既に鬼籍入りしており、30年以上というキャリアに感慨無量です。


(受賞スピーチをする受賞者)

ピラール・パロメロ監督にマラガ才能賞
★3月3日セルバンテス劇場で、マラガ才能賞―マラガ・オピニオンの授与式が賑やかに行われました。受賞者ピラール・パロメロの母親も登壇するというちょっとしたサプライズ、親孝行娘に母親も大喜びでした。プレゼンターはセリア・ベルメホ、デビュー作『スクールガールズ』(20)出演者のナタリア・デ・モリーナ、ソエ・アルナウ、アンドリア・ファンドス、第2作「La maternal」(22)のカルラ・キルス、マラゲーニョの応援団アントニオ・デ・ラ・トーレ、若い監督を見守る製作者バレリー・デルピエール、母親、兄弟も登壇するという賑やかさでした。


(ピラール・パロメロ監督と母親)

(壇上に並んだデルピール左端、デ・モリーナ右端、デ・ラ・トーレなどの応援団)

(総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルのインタビューを受ける監督)
★3月4日には大賞マラガ・スール賞のハビエル・カマラが予定されています。
続セクション・オフィシアル・ノミネート*マラガ映画祭2024 ④ ― 2024年03月04日 14:22
★ラテンアメリカ諸国の作品はアルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ、コロンビア、キューバ、ブラジルなどがノミネートされました。
12)La mujer salvaje
データ:キューバ、2023年、監督・脚本アラン・ゴンサレス(キューバ、デビュー作)、共同脚本ヌリ・ドゥアルテ、93分
キャスト:ロラ・アモレス、ジャン・マルコス・フラガ・ピエドラ、イソラ・モラレス、
グリセル・モンソン、ヤイテ・ルイス、レアンドロ・セン、ホルヘ・ぺルゴリア、ほか多数


13)Lluvia
データ:メキシコ、2023年、監督ロドリゴ・ガルシア・サイス(デビュー作)、脚本パウラ・マリコヴィッチ、95分
キャスト:ブルノ・ビチル、アルセリア・ラミレス、マウリシオ・アイザック、マルタ・クラウディア・モレノ、マユコ・ニヘイ、エステバン・カイセド、クリスチャン・フェレル、ほか多数


14)Descansar en paz(Rest in Peace)
データ:アルゼンチン、2024年、監督セバスティアン・ボレンステイン、脚本マルコス・オソリオ・ビダル、セバスティアン・ボレンステイン、105分、Netflix 3月27日配信、邦題『安らかに眠れ』
キャスト:ホアキン・フリエル、グリセルダ・シチリアニ、ガブリエル・ゴイティ、ラリ・ゴンサレス
*紹介作品多数、作品紹介予定作品


15) Golán
データ:コロンビア、2024年、監督・脚本オルランド・クルサト(デビュー作)、99分
キャスト:ハコボ・ベラ、マルセラ・アグデロ、ハイメ・カスターニョ、ラウラ・シェル


16) Los terrenos
データ:アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、2023年、監督・脚本ベロニカ・チェン(アルゼンチン、6作目)、108分
キャスト:アスル・フェルナンデス、セサル・トロンコソ、ビクトリア・オレリャナ・ムニョス、レオン・チェン、マリア・ウセド、フェデリコ・リス、ほか多数


17) Naufragios
データ:アルゼンチン、ウルグアイ、2024年、監督・脚本ヴァニナ・スパタロ(アルゼンチン、デビュー作)、共同脚本ダニエル・ガルシア・モルト、90分
キャスト:アルフォンソ・トルト、ソフィア・パロミノ、マイアマル・アブロドス、ラウタロ・ベットニ、ロミナ・ペルッホ、マテオ・チアリノ


18) Radical
データ:メキシコ、2024年、監督・脚本クリストファー・ザラ(ケニア、現グアテマラ在住、3作目)、127分
キャスト:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ、ミア・フェルナンダ・ソリス、ダニロ・グアルディオラ
*作品紹介を予定しています。


19) Yana-Wara
データ:ペルー、2023年、監督ティト・カタコラ(ペルー、デビュー作)、監督脚本オスカル・カタコラ(ペルー、先住民アイマラ、遺作)、104分
キャスト:ルス・ディアナ・ママニ、セシリオ・キスペ、フアン・チョケウワンカ、イルマ・D・ペルッカ、ホセ・D・カリサワ、フランシスコ・F・トレス、アリピオ・パウロ、フェリックス・R・ティケ、イラリア・カタコラ、他多数


★以上19作がセクション・オフィシアルにノミネートされました。話題作をアップしていきます。
セクション・オフィシアル・ノミネート*マラガ映画祭2024 ③ ― 2024年03月03日 18:08
マラガ映画祭2024スペイン映画の目玉は?

(マラガ映画祭2024開幕、中央がマルタ・エトゥア、3月1日)
★3月1日、マラガ映画祭2024はセルバンテス劇場で既に開幕されています。開幕セレモニーの司会者は女優のマルタ・エトゥア、俳優のラ・ダニ、オマール・バナナの二人が援護しました。当日アップしたばかりのビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞の授与式が早速あり、受賞者ロラ・エレーラに盟友エクトル・アルテリオがトロフィーを手渡しました。フラメンコのレジェンドである親友のカルメン・リナーレスの歌に迎えられ、座席からハイヒールで颯爽と登壇、壇上で抱き合いました。カルメン・マウラ、モニカ・クルス、世界で最も成功したスペイン人の歌手ラファエル他からビデオレターの祝辞が贈られました。受賞スピーチは「私のパッションは常に舞台にあり、映画は少ししか出演しておりませんのに、こんな大きな賞をいただけるなんて、本当に感謝の言葉もありません」と。若々しさを印象づけた受賞者でした。

(トロフィーを手に受賞スピーチ、左はプレゼンターのエクトル・アルテリオ)
★セクション・オフィシアル19作を順を追って、タイトル、製作国、製作年、監督、脚本、上映時間、主なキャストをスペイン映画、アメリカラテン映画の2回に分けてアップします。オープニング作品、サルバドール・シモ&李建平のアニメーション「Dragonkeeper(Guardiana de dragones)」(スペイン=中国)が上映されました。
*第27回マラガ映画祭2024セクション・オフィシアル全19作*
1)Dragonkeeper(Guardiana de dragones)
データ:スペイン=中国、2024年、監督サルバドール・シモ&李建平、脚本キャロル・ウィルキンソン、パブロ・カストリージョ、イグナシオ・フェレラス、99分
キャスト:ビル・ナイ、アンソニー・ハウエル、ビル・ベイリー、マヤリニー・グリフィス

2)As neves
データ:スペイン、2023年、監督・脚本ソニア・メンデス、83分
キャスト:アンドレア・バレラ、ダビ・フェルナンデス、アンティア・マリニョ、イレネ・ロドリゲス、パトリシア・バスケス、他多数

3)Tratamos demasiado bien a las mujeres
データ:スペイン≂フランス、2023年、監督クララ・ビルバオ、脚本ミゲル・バロス、97分
キャスト:カルメン・マチ、アントニオ・デ・ラ・トーレ、フリアン・ビリャグラン、イサク・フェリス、ディエゴ・アニド、ルイス・トサール、カミロ・ロドリゲス、フェリペ・ピラサン、ほか多数

(カルメン・マチ)

4)El hombre bueno
データ:スペイン、2024年、監督・脚本ダビ・トゥルエバ、79分
キャスト:ホルヘ・サンス、マカレナ・サンス、ビト・サンス


5)La abadesa
データ:スペイン=ベルギー、2024年、監督・脚本アントニオ・チャバリアス、122分
キャスト:ダニエラ・Brown、ブランカ・ロメロ、カルロス・クエバス、エルネスト・ビジェガス、ベルタ・サンチェス、オリオル・ヘニス、ホアキン・ノタリオ


6)La casa
データ:スペイン、2023年、監督・脚本アレックス・モントーヤ、共同脚本ジョアナ・M・オルトゥエタ、83分
キャスト:ダビ・ベルダゲル、ルイス・カジェホ、オスカル・デ・ラ・フエンテ、オリビア・モリーナ、マリア・ロマニーリョス、ロレナ・ロペス、マルタ・ベレンゲル、ジョルディ・アギラル、ミゲル・レリャン


7)Segundo premio
データ:スペイン、2023年、監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス、脚本イサキ・ラクエスタ、フェルナンド・ナバロ、109分、ミュージカル
キャスト:ダニエル・イバニェス(歌手)、クリスタリノ(ギタリスト)、ステファニー・マグニン(メイ)、マフォ(ドラマー)、チェスコ・ルイス(ベーシスト)、エドゥ・レホン、他

8)Los pequeñoa amores
データ:スペイン=フランス、2023年、監督・脚本セリア・リコ・クラベリーノ、95分
キャスト:マリア・バスケス、アドリアナ・オソレス、アイマル・ベガ


9)Pájaros
データ:スペイン、2023年、監督・脚本パウ・ドゥラ、共同脚本アナ・M・ペイロ、100分
キャスト:ハビエル・グティエレス、ルイス・サエラ、テレサ・サポナンヘロ、ディアナ・カヴァリオッティ

(ハビエル・グティエレス、ルイス・サエラ)

10)Nina
データ:スペイン、2024年、監督・脚本アンドレア・ハウリエタ、105分
キャスト:パトリシア・ロペス・アルナイス、ダリオ・グランディネッティ、アイナ・ピカロロ、イニィゴ・アランブル、マル・ソドゥペ、ラモン・アギーレ、ほか多数


11)Un hipster en la España vacía
データ:スペイン、2023年、監督エミリオ・マルティネス≂ラサロ、脚本ダニエル・カストロ、100分
キャスト:ラロ・テノリオ、ベルタ・バスケス、パコ・レオン、マカレナ・ガルシア、ロベール・ボデガス、ティト・バルベルデ、ミゲル・レリャン、マヌエル・マンキーニャ


★以上が製作国スペインの11作です。次回アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ、コロンビア、ペルーなど、アメリカラテン諸国をアップします。
ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞*マラガ映画祭2024 ② ― 2024年03月01日 20:57
ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞―ロラ・エレーラの軌跡

(権力や性的虐待を避けることが「最重要」と語る受賞者、2024年2月)
★ロラ・エレーラ(バジャドリード1935)、舞台、テレビ、映画女優として68年のキャリアを誇る現役女優です。20歳でマドリードのコメディ劇場でエドガー・ウォーレス作品で舞台女優としてのキャリアをスタートさせる。個性の強い奮闘する女性を得意としている。1979年、マドリードのマルキナ劇場でミゲル・デリーベスの ”Cinco horas con Mario”(翻訳タイトル『マリオとの五時間』*)の一人舞台で好評を博し、40年間のロングランという成功をおさめる。カルメン・ソティリョ役で美術サークル金のメダルを受章、2006年には勤労功労勲章金のメダルも受章した。さらに2022年にはこのカルメン役で生れ故郷バジャドリード金のメダルを受賞している。
*ストーリーは心臓発作で急死した夫マリオの通夜に、23年間連れ添った妻カルメンが彼の無理解、利己主義を亡骸にえんえんと独白するが、最後には自らの不実にも直面するという人間の孤独を描いたベストセラー小説。

(生れ故郷のバジャドリード金のメダルを受賞、2022年2月)
★現在でもマギー・ミラの演出で、息子ダニエル・ディセンタ・エレーラとフアンマ・ゴメスの「Adictos」の舞台に立っており、国内を巡業している。また第41回演劇祭(1月21日、22日、マラガのセルバンテス劇場)にも参加している。

(3人の女性が織りなす「Adictos」のポスター、中央がエレーラ)
★60年代後半からフランコ独裁政権が終わる1976年まではもっぱらTVシリーズに専念し、コメディ「Las viudas」(77、7話)で金のTP賞(TP de Oro)1978の女優賞、「El señor Villanueva y su gente」と「La barraca」の2作で金のTP 1980女優賞を受賞している。コメディ・ミュージカル「Un paso adelante」(02~05)82話に出演してフォトグラマス・デ・プラタ2003のTV部門女優賞を受賞、金のTPにノミネートされるなどした。本賞は「テレプログラマ」誌が与える賞で1972年に始まり2011年に終了しており、直前の2010年に生涯功労賞を受賞している。2016年に銀幕からは遠ざかっているが、TVシリーズには「UPA Next」(22~23、8話)他に出演しているが、本命は舞台女優。
★さて映画デビューは1970年、ハイメ・デ・アルミニャンの「La Lola, dicen que no vive sola」、マリアノ・オソーレスの「La graduada」(71)、エロイ・デ・ラ・イグレシアの「La semana del asecino」(72)、ジル・カレテロの「Abortar en Londres」(77)、ホセ・マリア・グティエレスの「Arriba Azaña」(78)、1981年には、元夫のダニエル・ディセンタ(俳優、声優2014没)と出演したホセフィナ・モリーナのドキュメンタリー「Función de noche」でコロンビアのカルタヘナ・デ・インディアス映画祭の女優賞を受賞している。本作には二人の間にできた息子ダニエル・ディセンタ・エレーラと娘ナタリア・ディセンタ(女優)も出演している。

★以下に主なフィルモグラフィーを年代順に紹介しておきます。
1982「La próxima estacion」 監督アントニオ・メルセロ
1987「En penumbra」 同ホセ・ルイス・ロサーノ
1996「El amor perjudica seriamente la salud」コメディ 同マヌエル・ゴメス・ペレイラ
2002「Primer y último amor」コメディ 同アントニオ・ヒネネス・リコ
2006「Por qué se frotan las patitas」コメディ・ミュージカル 同アルバロ・ベヒネス
2016「Pasaje al amanecer」 同アンドレウ・カストロ、銀幕最後の作品
★ロラ・エレーラは政治的には左派で「自由が大切であると教えられて育った」と語り、「ナディア・カルビーニョ**が劇場にもっとも足を運んでくれた政治家」と語っている。エレーラの家系は母親が95歳、叔母が105歳と長命であり、88歳で旅立つには未だ早いということでしょうか。もはや怖いものなしのチャーミングな女性です。
**第2次サンチェス内閣の第1副首相(任期2021年7月~2023年月)だった。経済学者でもあり、現職は欧州投資銀行総裁を務めている。
第27回マラガ映画祭ノミネーション発表*マラガ映画祭2024 ① ― 2024年02月29日 18:46
セクション・オフィシアル19作、うち11作がスペイン映画

(第27回マラガ映画祭2024の公式ポスター)
★今年で第27回を迎えるマラガ映画祭の季節がやってきました。去る2月15日、マドリードのスペイン映画アカデミー本部でセクション・オフィシアル(全19作)を含む全カテゴリーが、総指揮のフアン・アントニオ・ビガル、マラガ市議会文化市議会員マリアナ・ピネダ、映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテなどの列席にて発表になりました。開催期間は3月1日から10日まで、前回は10日から19日、前々回は18日から27日でしたので大分早まりました。3月になったらと、のんびり構えていましたがとんだ番狂わせです。セクション・オフィシアルの紹介も間に合わず、すべてが後追いのアップになります。例年通り大賞マラガ―スール賞を含む特別賞から紹介いたします。

(後列左から4人目メンデス=レイテ、マリアナ・ピネダ、アントニオ・ビガル)
★ナリタ・スタジオ制作の公式ポスターはマラガ市の三大要素を表現したそうで、バックの青色はマラガのコスタ・デル・ソルの海と空、白色は海岸ゾーンの日陰棚パーゴラを表したヤシ林、丸いオレンジ色はマラガを代表するポピュラーなお菓子トルタ・ロカ、パイ生地を2枚重ねた中にカスタードクリームを入れ、上にオレンジのフロスティングとサワーチェリーをトッピングしたケーキの三つです。
★マラガ映画祭はスペイン語(カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語を含む)とポルトガル語の映画に特化した映画祭、従ってスペイン、ポルトガル以外ではラテンアメリカ諸国からの応募が主ですが、2言語であれば国は問わないということです。2月10日に開催されたゴヤ賞でもノミネーション、受賞作が本祭から選ばれており、秋のサンセバスチャン映画祭同様重要な春の映画祭です。メイン会場はセルバンテス劇場で、前庭にレッドカーペットが敷かれます。
*マラガ映画祭2024特別賞*
◎マラガ―スール賞(スール紙とのコラボ)
ハビエル・カマラ(俳優、監督)、1967年ラ・リオハ生れ、舞台俳優を目指してログローニョの演劇学校で演技を学んだ後、マドリードの王立演劇芸術上級学校PESADで本格的に学ぶ。キャリア&フィルモグラフィーは、ダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』で紹介していますが、別途アップの予定。
*キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2014年11月21日

◎レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ(マラガ・オイ紙とのコラボ)
マルセロ・ピニェイロ(監督、脚本家、製作者)、1953年ブエノスアイレス生れ、代表作は実話をベースにした『逃走のレクイエム』(20)がヒット、ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞を受賞した。2009年『木曜日の未亡人』、2013年『イスマエル』、2005年の「El método」でキャリア&フィルモグラフィー紹介をしています。
*『逃走のレクイエム』の作品紹介は、コチラ⇒2022年06月16日
*キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2013年12月19日

◎マラガ才能賞―マラガ・オピニオン(マラガ・オピニオン紙とのコラボ)
ピラール・パルメロ(監督、脚本家)、北スペインのサラゴサ生れ、2020年デビュー作『スクールガールズ』がベルリン映画祭でプレミアされ、同年マラガ映画祭の金のビスナガ作品賞を受賞した。続く第2作「La maternal」はサンセバスチャン映画祭2022セクション・オフィシアルにノミネートされた。キャリア&フィルモグラフィー紹介をしています。
*『スクールガールズ』の作品紹介は、コチラ⇒2020年03月16日
*「La maternal」の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月01日

◎リカルド・フランコ賞(映画アカデミーとのコラボ)
アナ・アルバルゴンサレス(美術監督、プロダクションデザイナー、衣装デザイナー)、1962年マドリード生れ、1984年、ヘラルド・ベラが美術監督を務めたイタリアと共同製作したTVシリーズ「Las pazos de Ulloa」の衣装デザイナーとしてキャリアをスタートさせた。1986年、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「La mitad del cielo」(金貝賞受賞作品)の衣装を手掛けたベラのアシスタントとして参加、後にベラが監督した「La Celestina」ではゴヤ賞1997美術賞にノミネートされた。当時若手女優として脚光を浴びるようになったペネロペ・クルスやマリベル・ベルドゥが着用する中世末期の衣装の時代考証が評価されたもの。他にカルロス・サウラの『恋は魔術師』(86)、リカルド・フランコの「Berlin Blues」(88)など、ベラのアシスタントとして実績を重ねていく。

★またイボンヌ・ブレイクのアシスタントとして彼女の薫陶を受けている。ブレイクはイギリス出身だがスペイン映画アカデミー会長を引き受け、その在任中の2018年に急逝したオスカー賞受賞者でもある衣装デザイナーでした。サウラの「La noche oscura」でゴヤ賞1990衣装デザイン賞にノミネート、カンヌ映画祭1995でプレミアされたケン・ローチの『大地と自由』(英独西伊仏米合作)でも衣装デザインを手掛けている。2011年、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』で遂にゴヤ賞とガウディ賞の美術賞をダブるで受賞でき、遂にトロフィーを手にすることができた。ビリャロンガとは「Incerta Gloria」でガウディ賞2018にノミネートされている。TVシリーズの超大作『ゲーム・オブ・スローンズ』(11~19)に2015年から17年にかけて美術監督として20話手掛けている。TVシリーズではHBOのため2022年「¡Garclia!」(6話)、古くはエンリケ・ウルビスの『貸金庫507』のプロダクションデザインと美術に参加している。

(美術賞のトロフィーを手にしたアナ・アルバルゴンサレス、ゴヤ賞2011授賞式)
◎ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞
ロラ・エレーラ(映画、舞台、TV女優)、1935年バジャドリード生れ、88歳の現役女優です。初登場、長いキャリアということで次回別途にアップいたします。

◎金の映画
「Las nuevos españoles」(1974、仮訳「新しいスペイン人」)、監督ロベルト・ボデガス(マドリード1933~2019)は監督、脚本家。ナショナル・シンジケート・オブ・スペクタル1974年の最優秀芸術功績賞、作品・脚本賞他を受賞。キャストはホセ・サクリスタン、マリア・ルイサ・サン・ホセ、アンパロ・ソレル・レアル、アントニオ・フェランデス、マヌエル・アレクサンドル他、スペインの保険会社が多国籍企業に吸収合併されたため近代化を図ることになる。従業員は新しい状況と目標に適応するための訓練を家族ぐるみで受けねばならなくなる。70年代の多国籍企業のエリート社員をからかったコメディ。

(ホセ・サクリスタン、マリア・ルイサ・サン・ホセを配したポスター)
★ボデガスはポピュラーとインテレクチュアルの中間を狙った第三の路線〈tercera vía〉を模索した監督。長年にわたって助監督を務め、1971年、「Españolas en París」(仮訳「パリのスペイン女性たち」)で長編デビュー、1970年代にパリにメイドとして出稼ぎに行く女性たちの姿を描いた。昨年鬼籍入りしたラウラ・バレンスエラ、ゴヤ賞2024のホストを務めたアナ・ベレンなどが主演している。1972年のシネマ・ライターズ・サークル新人賞、作品賞、女優賞(ラウラ・バレンスエラ)など受賞歴多数。

(晩年のロベルト・ボデガス)
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