全部門の審査員が決定*サンセバスチャン映画祭2018 ⑳2018年09月18日 15:49

          チケット販売も始まり、開幕が近づいてきました!

 

    

★映画祭チケット販売が始まり、初日に65,135枚、昨年より5,000枚ほど多かった。是枝監督のドノスティア賞授賞式に合わせて上映される『万引き家族』は初日完売、ほか人気が高いのは、アルフォンソ・キュアロンの金獅子受賞作品Roma、ブラッドリー・クーパーの「A Star is Born」(『アリー/スター誕生』)、ベネチア、トロントでもガガ旋風を巻き起こし、東京国際映画祭のオープニング作品にも選ばれ、年内に公開されます。またベネチアのオープニング作品に選ばれたデイミアン・チャゼルのFirst Man / ファースト・マンも好調、アポロ11号船長アームストロングのビオピック、主役のライアン・ゴズリング本人もSSIFFに登場するとかで人気上昇、本邦公開も来年2月に決定、相変わらずUSA映画強しです。

 

★さて本題、若干変更のあったセクションもあったようですが、913日に最終発表がありました。金貝賞を競うセクション・オフィシアル、ホライズンズ・ラティノ部門、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門、他たくさんありますが以下は割愛します。

 

セクション・オフィシアル6人)

製作者に贈られる金貝賞(作品賞)、以下はすべて銀貝賞、監督賞、女優賞、男優賞、撮影賞、脚本賞、以上6賞を審査します。

アレクサンダー・ペイン(委員長)米国の監督・脚本家

Bet Rourich スペインの撮影監督 カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCAC卒 

アグネス・ヨハンセン アイスランドのプロデューサー

ナウエル・ペレス・ビスカヤート フランスの俳優 

  ブエノスアイレス生れだがフランスで活躍、カンピヨの『BPM ビート・パー・ミニット』主演

Constantin Popescu ルーマニアの監督・脚本家、昨年「Pororoca」がSSIFF正式出品男優賞受賞

ロッシー・デ・パルマ スペインの女優

 

    

                  (左から上記の順番)

 

ホライズンズ・ラティノ部門3人)

ラテンアメリカ諸国の映画(スペイン他合作を含む)

Eugenia Mumenthaler(委員長)プロデュー 

アルゼンチン生れだが国籍はスイス、2008年ジュネーブで制作会社Alina Filmを設立。

アドリアナ・パス メキシコの女優、最新作はマヌエル・マルティン・クエンカの「El autor

フェルナンド・フランコ バルセロナ出身のスペイン監督

 

    

                 (左から上記の順番)

 

ニューディレクターズ部門5人)

Katrin Pors(委員長)プロデューサー ラテンアメリカと北欧のコラボに尽力している。

ディエゴ・レルマン アルゼンチンの監督

インマ・メリノ バルセロナ出身の映画評論家・ジャーナリスト

Nashen Moodley 監督、2012年よりシドニー映画祭のディレクター、トロント、ロッテルダム、

東京などの各映画祭で審査員を務めている。

Léa Mysius ボルドー出身の監督・脚本家、デビュー作「Ava」がカンヌの「批評家週間」で評価される。

 

    

                  (左から上記の順番)

 

サバルテギ-タバカレラ部門3人)

Santos Zunzunegui(委員長)

バスク大学オーディオビジュアル情報学部の名誉教授、記号論学者、アナリスト、映画史家

Juliette Duret ヨーロッパ映画アカデミーのメンバー

  2013年よりブリュッセルのBOZAR(芸術センターCentre for Fine Arts)のディレクター

フィリパ・ラモス 作家・映画編集者

 

     

                  (左から上記の順番)

映画国民賞2018はエステル・ガルシアに*「エル・デセオ」プロデューサー2018年09月17日 14:46

         意欲溢れる女性、エステル・ガルシアが映画国民賞を受賞

 

★映画国民賞は1980年から始まり第1回はカルロス・サウラでした。女性初の受賞者は1988年のカルメン・マウラ、女性プロデューサーが受賞するのは今回が初めてです。一時期2人受賞の時代が続きましたが、1995年以降は1人に固定されています。最近の受賞者は、昨年がアントニオ・バンデラス、順に遡ると、アンヘラ・モリーナフェルナンド・トゥルエバロラ・サルバドール(脚本家)J.A.バヨナイボンヌ・ブレイク(故人)と男女交互でしたので、「もっと女性にチャンスを!」運動もあり、今年は女性を予想していました。しかし製作者は俳優や監督と違い、あまり顔が見えない存在ということもあって、エステル・ガルシアを予想していた人は多くはなかったのではないでしょうか。

 

        

         (エル・デセオのプロデューサー、エステル・ガルシア)

 

エステル・ガルシアEsther García Rodríguez(セゴビア、1956)は、製作者、プロダクション・マネージャー、本人はそう思っていないでしょうがチョイ役で10作ほど出演しているので女優です。1986年にアルモドバル兄弟の制作会社「エル・デセオ」に入社、三十数年に亘って兄弟とコラボしている製作者が今年の受賞者に選ばれました。「意志の強さと仕事に対する計り知れない可能性」が受賞理由ですが、加えて女性たちの地位向上に尽力していることが評価された。彼女ほどスペイン映画界で愛され尊敬されているプロデューサーはそんなに多くないはずです。女性プロデューサーも監督同様増加しておりますが、裏方の受賞は後に続く人にとっても励みになるでしょう。

 

★最初から映画界に興味があったわけではなく、19歳のときペドロ・オレア<マドリっ子三部作>2作目「Pim, pam, pum...! Fuego!」(75)にプロダクション助手として雇われたのがきっかけ。本作はコンチャ・ベラスコ、フェルナンド・フェルナン・ゴメスなどが出演したコメディ、その魅力にすっかりハマってしまった。それ以来、フェルナンド・トゥルエバ、フェルナンド・コロモ、マルティネス・トレスなど、新生の監督作品に参加していった。1975年というのはフランコ体制が終焉を迎えた年でした。

 

1985年、フェルナンド・トゥルエバの第3作「Sé infiel y no mires con quién」にプロダクション・マネージャーとして本格的に第一歩を踏みだす。本作はアナ・ベレン、カルメン・マウラ、ベロニカ・フォルケ、アントニオ・レシネスなど芸達者が顔を揃えたコメディでした。1986年「エル・デセオ」に入り、アルモドバルの『マタドール』にプロダクション・マネージャーのアシスタントとしてアルモドバル作品に参画した。続いて『欲望の法則』、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』『アタメ!』『ハイヒール』『私の秘密の花』・・・・そしてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』99)で、2個目となるゴヤ賞作品賞も受賞した。ゴヤ賞作品賞は4貰っていますが、1個目はアレックス・デ・ラ・イグレシア『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』93)、監督も新人監督賞にノミネートされた。イサベル・コイシェ『あなたになら言える秘密のこと』05)、そしてアルモドバルの『ボルベール<帰郷>06)です。

 

      

 (『ハイル・ミュタンテ~』のポスター、アントニオ・レシネス左とフレデリック・フェデル)

    

★ゴヤ賞イベロアメリカ映画部門を加えると、アルゼンチンのダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)、パブロ・トラペロ『エル・クラン』15)がある。「エル・デセオ」は、積極的にラテンアメリカ映画に資金を提供しており、二人の他にメキシコのギレルモ・デル・トロ(『デビルズ・バックボーン』)、アルゼンチンのルクレシア・マルテル(『頭のない女』『サマ』)、今年のSSIFF「ペルラス部門」上映のルイス・オルテガEl ángerなどが代表作として挙げられるだろう。ゴヤ賞以外で『人生スイッチ』がフォルケ賞2015「ラテンアメリカ部門」の作品賞をアグスティン・アルモドバルと一緒に受け取った。

 

       

 (フォルケ賞2015ラテンアメリカ部門で『人生スイッチ』が受賞、A.アルモドバルとガルシア)

   

     

  (ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画部門の『エル・クラン』が受賞、ゴヤ胸像を手にした)

 

★本邦公開のアルモドバル作品、例えば2002年の『トーク・トゥ・ハー』(02から、『バッド・エデュケーション』『抱擁のかけら』『私が、生きる肌』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、2016年の最新作『ジュリエッタ』までの全てを手掛けている。そして映画国民賞受賞の知らせは、現在進行中のDolor y gloriaの撮影現場であるエル・エスコリアで、有線電話にて文化相からの「おめでとう」を直々に受けた。同僚のトニ・ノベリャが大声で「ちょっと、ちょっと、みんな聞いて!」と叫んでロケ隊に知らせたようだ。しかし撮影は続行され、仕事が終わった9時半に小エビとシャンペンでお祝いしたそうです(撮影期間は46日間の予定で当日は39日目だった由)。

 

            (ガルシアが手掛けたアルモドバル作品)

 

★進行中のDolor y gloria公開2019年が予定されているが、撮影現場には昨年の受賞者アントニオ・バンデラスもいて「お祝いの抱擁を受けた、勿論アグスティンからも。ペドロは感動してしまって」と彼女は喜びを語った(P.アルモドバルは1990年受賞)。映画の詳細はまだ分かりませんが、バンデラスの他、ペネロペ・クルス、ラウル・アレバロ、ノラ・ナバス、レオナルド・スバラグリア、セシリア・ロス、アシエル・エチェアンディア、フリエタ・セラノ他、豪華メンバーを揃えています。来年のカンヌを目指しているのかもしれない。

 

★自分はエル・デセオしか経験がないが「ここは仕事がしやすい。自由に作品を選ばせてくれるから・・・居心地がいい。ほかでキャリアを積んだら、と言われるが、その必要を感じない」。ガルシアにとって、受賞は付加価値がつく。「この受賞は映画製作を可能にしているグループの他のメンバーに陽が当たったと思う。だって多くの人々は誰が映画を支えているか知らないもの。プロデューサーという職業は、人の目に見えない存在、特に女性はまだまだよ」と。最後に厳しい仕事をサポートしてくれる家族への感謝の言葉で締めくくった。

 

★授賞式はサンセバスチャン映画祭期間中に行われるのが慣例、スペイン教育文化スポーツ大臣の手で授与される。交代がなければ今年6月に就任したホセ・ギラオ・カブレラ大臣になります。922日(土)が予定されており、どんな受賞スピーチをするのか見守りたい。

2014年受賞者ロラ・サルバドールの紹介記事は、コチラ⇒2014年07月24日

2015年受賞者フェルナンド・トゥルエバの紹介記事は、コチラ⇒2015年07月17日


リド島にやってきたレイガダス夫妻*ベネチア映画祭20182018年09月12日 13:15

         キュアロンの「Roma」が金獅子賞を受賞して閉幕しました。

                

★もたもたしているうちに、アルフォンソ・キュアロンRomaが金獅子賞を受賞してベネチア映画祭は閉幕してしまいました。昨年の金獅子賞受賞者にして親友、今回の審査委員長ギレルモ・デル・トロからトロフィーを受け取りました。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督を交えた三人組は、制作会社「チャチャチャFilms」を2007年設立した。今年もメキシコ監督がベネチアを制しました。本作は Netflix が製作、キュアロン監督はカンヌを希望していたようですが、Netflix を排除しているカンヌに拒否されベネチアにもってきた。というわけで本作が Netflix 製作の金獅子賞第1号となった。これに止まらず脚本賞受賞のコーエン兄弟の西部劇「The Ballad of Buster Scruggs」もNetflix、マイク・リーの「Peterloo」はアマゾン・スタジオが製作しているらしく、動画配信の存在が大きくなってきた。これが映画の将来にとって良いことなのか悪いことなのか。「Roma」については、いずれアップする予定です。

 

             

       (審査委員長デル・トロからトロフィーを受け取るキュアロン監督)

  

 

        レイガダスは「Nuestro tiempo」のなかで彼の現実を押し広げた

 

★応援していたカンヌ映画祭の常連さんカルロス・レイガダス長編6作めNuestro tiempoは無冠に終わりました。ベネチアは初参加ですが、カンヌでなかったのはNetflixとは無関係、単に間に合わなかったからのようです。作品はサンセバスチャン映画祭2018で紹介したばかりなので割愛します。

Nuestro tiempo」の紹介記事は、コチラ20180902

 

リド島入りする前にモザイク芸術の宝庫ラヴェンナのガッラ・プラキディア(プラチディア)廟堂を訪れて、その神秘的に抽象化された廟堂内部のモザイク画にいたく感動したようです。ガッラ・プラキディアはテオドシウス1世の娘にしてホノリウス帝の異母妹、生涯カトリックに帰依していたといわれています。5世紀前半に建築され、外観は簡素だが内部のモザイク画は素晴らしく、入口上部の壁面に十字架を手にしたキリストが羊に囲まれて座っている。エル・パイス紙の記事によると、レイガダスは「モザイクだけで作られており、神の牧者が羊に囲まれて座っている。現実を押し広げたある抽象化があることに気づきます。現実の純粋なコピーではありませんが、同時代に誰でもその魅力や神秘さに触れられるような完璧さがあります」と絶賛していた。1996年ユネスコによって世界遺産に登録され、イタリア旅行のツアーコースの一つになっている。

 

         

      (ナタリア・ロペスとカルロス・レイガダス、ベネチア映画祭、95日)

 

★監督自身と夫人ナタリア・ロペスが俳優デビューした経緯、その結果夫妻に起こった変化についても語っています。監督は「トラスカラ州で闘牛種を育てる牧場を経営している家族の物語、結婚15年後、妻の不倫を機に訪れた夫婦の危機を語った映画である」と紹介したようです。自身が夫フアンを演じたことで、ストーリーに誘発され、禁じられていることがもつ魅力というものが理解できたと付け加えた。夫人ナタリアもカメラの前に立つのは自身同様初めてであり、二人の子供は、メキシコシティの南方、テポストゥランにある自宅で撮影した『闇のあとの光』に出演しているので、役者としては先輩になる(笑)。

 

★観客の中には実人生で起こったことと解釈する人がいるかもしれないが、全く無関係である、とインタビューで否定しました。監督にとって夫婦の不満足を演じるためにカメラの前に立つなど陳腐以外の何物でもないということです。想定内の質問が出たようですね。しかしレイガダスが映画の中でより個人的な何かを求めていることは明らかでしょう。クランクインして「2週間経ったとき登場人物になりきれた。同じようなことがナタリアにも起こった」とインタビューに応えていた。最初から妻エステル役に夫人が決定していたわけではなく、プロアマ300人に面接したあとに、結局ナタリアが演じることになったようです。

 

★言いたいことは他にもいろいろあるが、脚本はいつものように自身が執筆、3回書き直しされ、最初のシナリオは150ページあり、4時間30分を3時間(上映時間173分)に縮めた。「子供たちを含め家族全員が出演しているが、自分は信者ではない宗教について低地ドイツ語で撮った『静かな光』より自伝的な要素は少ない」ことなども付け足した。これはチワワ州に自給自足のコミュニティを作って暮らす、アナバプテストの教派メノナイトの移民一家を描いた作品でした。

 

           

          (カンヌ映画祭2007審査員賞受賞の『静かな光』スペイン語版ポスター)

 

★「昨今のフィクションは低迷しています。物語を重要視する映画は以前よりどんどん少なくなっていると思います。私たちが視点や感じ方、表現方法より独創性ばかり追っていると、映画はますますおかしくなって力を失っていきます」「私にとって人物の創造が究極の目標ですが、現実を展開させるときに神秘さを追うことができる。もし現実を展開させなければ、それは現実の単なるコピーでしかない。私には現代映画の最も深刻な欠点の一つに思える」とも。

 

★ベネチア映画祭コンペティション部門には、他にゴンサロ・トバルAcusada(「The Accused」アルゼンチン=メキシコ)も出品されていましたが、こちらも無冠でした。

 

アルゼンチンから「El motoarrebatador」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑲2018年09月07日 16:50

         ホライズンズ・ラティノ部門第3弾―バイクひったくり魔の心の遍歴

 

     

★ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品パラグアイの「Las heredoras」、チリの「Marilyn」、ウルグアイの「La noche de 12 anos」、メキシコの「Nuestro tiempo」を既に紹介しているので、今回はラテンアメリカの映画大国アルゼンチンからEl motoarrebatadorをアップします。アグスティン・トスカノ監督の紹介は後述するとして、本作はカンヌ映画祭併催の「監督週間」2018正式出品、データ蒐集もしておきながら賞に絡めずお蔵入りさせてしまった作品。彼はブエノスアイレス出身のシネアストとは一味違う、トゥクマン州サン・ミゲル生れ、将来が有望視されている監督の一人。8月下旬に開催されるチリのサンティアゴ映画祭Sanficマルセロ・マルティネシの「Las heredoras」を押さえて作品賞を受賞したばかりです。

 

             

        (ミゲル役のセルヒオ・プリナ、El motoarrebatador」から

  

  El motoarrebatador(「The Snatch Thief」)2018

製作:Rizoma Films / Murillo Cibe / Oriental Features Films /

     協賛Gloria Films / INCAA / ICAU / IBERMEDIA / トゥクマン州政府

監督・脚本:アグスティン・トスカノ

撮影:アラウコ・エルナンデス・ホルツ

プロダクション・デザイン&衣装:ゴンサロ・デルガド・ガリアナ

編集:パブロ・バルビエリ・カレラ

録音:カト・ビルドソラVildosola

音楽:マキシ・プリエット

製作者:ヘオルヒナ・バイスチGeorgina Baisch(エグゼクティブ)、ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ、セシリア・サリン、(共)サンティアゴ・ロペス

 

データ:製作国アルゼンチン、ウルグアイ、フランス、スペイン語、2018年、94分。ベルリナーレ・タレント・プロジェクト・マーケット、サンセバスチャン映画祭IV Foro de Coproduccion Europa-America Latina 2015 参加作品。撮影トゥクマン州サンミゲル市&郊外、公開アルゼンチン67

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の「監督週間」2018で5月15日上映、ワールドプレミア。チリ・サンティアゴ映画祭2018作品賞受賞、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門正式出品作品。

 

キャスト:セルヒオ・プリナ(ミゲル)、リリアナ・フアレス(エレナ)、レオン・セララジャン、ダニエル・エリアス(ミゲルの引ったくり仲間)、カミラ・プラアテ、ミレージャ・パスクアル、ピラール・ベヌテス・ビバルト、他

    

物語:ミゲルはアルゼンチン北部トゥクマンの町で「モトチョロ」をして生計を立てていた。コンビを組んでバイクに乗ったまま獲物目がけて所持品を引ったくるバイクひったくり犯だ。年配の女性エレナのバッグを盗んだとき、数メートル引きずって大怪我を負わせ、気を失ったままの女性を置き去りにしてしまう。この偶発的な出来事から罪の意識が芽生え、犠牲者を忘れることができなくなる。バッグの中のIDから病院を突き止めると秘かに訪れる。エレナは記憶喪失になっている。ミゲルは彼女の近親者になりすまして世話をしはじめる。エレナに近づけば近づくほど嘘を重ねることになるが、恐ろしくて真実は話せないミゲル。過去に苦しみながらも真の救いを得られない。                         

     

              

             (ミゲルのバイクに引きずられるエレナ)

 

 

     フィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれている

 

アグスティン・トスカノAgustin Toscanoは、1981年サン・ミゲル・デ・トゥクマン生れ、監督、脚本家、編集者、俳優。トゥクマンの国立大学で演劇を学び、俳優として出発したが、並行して短編映画El hostil06)を撮る。2009年、Zuhair JuryEl piano mudoSobre el éxodo y la esperanza」に出演、これはピアニスト、ミゲル・アンヘル・エストレージャの軍事独裁時代に焦点を絞ったビオピック。長編デビュー作Los dueños13)は、同郷のエセキエル・ラドスキーとの共同監督、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」2013に出品され、揃ってスペシャル・メンションを受賞した他、アルゼンチン映画批評家協会賞2015のデビュー作に贈られるオペラ・プリマ「銀のコンドル」を受賞した。

 

     

    (デビュー作Los dueños」のポスター)

 

      

  (エッフェル塔をバックに、ラドスキー、トスカノ両監督、カンヌ映画祭2013にて)

  

★第2作目El motoarrebatadorで一本立ちした。「motoarrebatador」はモーターバイクと貴金属品(時計、ブレスレット、ネックレスなど)を引ったくって盗む人の造語、アルゼンチンでは「motochorro モトチョロ」という。「ドラえもん」に出てくるジャイアンの名台詞「お前の物は俺の物、俺の物も俺の物」思考をもつ人は、貧富の違いとは無関係にどこにでも存在する。トゥクマンでは警察官ストが始まると、略奪行為は日常茶飯事、ミゲルが犯している盗みは珍しくないという。モトチョロがサイテイなのは自身より弱者を餌食にすることだ。本作はフィクションだが今現在アルゼンチンで起きている現実が描かれているというのが観客のコメントに多く見かけられた。監督自身の母親が襲われたことがヒントになっているようです。自分勝手な哲学で引ったくる、逃げる、そして罪と向き合う」ミゲル、ダルデンヌ兄弟が描く世界と雰囲気が似ているか。

 

   

  (本作撮影中のアグスティン・トスカノ監督)

 

       

      (セルヒオ・プリナ、リリアナ・フアレス、監督、カンヌ映画祭2018にて)

 

★ミゲルを演じるセルヒオ・プリナは、監督デビュー作「Los dueños」にも出演しているほか、TVシリーズ・アニメーションMuñecos del destino12)にボイス出演、本作にはトスカノ監督、エセキエル・ラドスキー監督、共演者のリリアナ・フアレス、ダニエル・エリアスも共演しており、このアニメ出演が接点のようです。ホルヘ・ロッカEl mejor de nosotros14)は、子供のころ一緒に育った5人の若者の青春群像、その一人エル・チノに扮した

 

        

(コメディ・アニメーションMuñecos del destino

 

       

                  (エレナの世話を焼くミゲル、El motoarrebatador

 

★エレナ役リリアナ・フアレスは、プリナ同様Muñecos del destino」と「Los dueños」に出演して高い評価を受けた。本作でカンヌにも同行している。ミゲルのモトチョロ仲間になるダニエル・エリアスは短編Pichuko11)を撮っており、トスカノ監督が編集を手掛けている。

  

       

            (リリアナ・フアレス、Los dueños」から)

  

今年の話題作「メイド・イン・スペイン」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑱2018年09月05日 11:53

         11作品のうちデビュー作が5作も選ばれた「メイド・イン・スペイン」

 

   

★今年スペインで公開された話題作を纏めて見ることができる部門、ラテンビート以下ミニ映画祭で公開される可能性が高いので賞には絡みませんがタイトルをアップしておきます。なかには既にNetflixで放映されている作品、例えばラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』なども含まれています。長編デビュー作5作、ベテラン監督作品5作、ドキュメンタリー2作です。マラガ映画祭でプレミアした「Casi 40」、「Les distancies / Las distancias」、「Mi querida cofradia」ほかが含まれています。

 

Casi 40監督ダビ・トゥルエバ(マドリード、1969

★マラガ映画祭2018審査員特別賞銀賞受賞作品

紹介記事は、コチラ20180404 

 

   

 

Les distancies / Las distanciasエレナ・トラぺ(バルセロナ、1976

★マラガ映画祭2018の最高賞「金のビスナガ」、監督賞、主演女優賞(アレクサンドラ・ヒメネス)受賞作品、長編2作目。

紹介記事は、コチラ20180427

 

  

 

Mi querida cofradía」同マルタ・ディアス・デ・ロペ・ディアス(ロンダ、1988

★長編デビュー作、マラガ映画祭2018の観客賞、助演女優賞(カルメン・フロレス)受賞作品  

カルメンは年配のカトリックのマラゲーニャ、人生の夢は女性初となる信徒会の名誉ある会長になること、目下奮闘中であるが、イグナシオという男性会員が・・・。

 

    

 

La enfermedad del domingoラモン・サラサール(マラガ、1973

★ベルリン映画祭2018パノラマ部門正式出品、『日曜日の憂鬱』の邦題でNetflixで放映

紹介記事は、コチラ201802220621

 

   

 

The Bookshop(「La librería」イギリス合作)同イサベル・コイシェ(バルセロナ、1960

★ゴヤ賞2018作品賞・監督賞・脚色賞受賞作品、本邦公開が予告されている。

紹介記事は、コチラ201801070208

 

    

 

Perfectos desconocidesアレックス・デ・ラ・イグレシア(ビルバオ、1965

紹介記事は、コチラ20171217 

 

    

 

Con el viento(「Amb el vent」アルゼンチン・仏合作)

   同Meritxell Colell(バルセロナ、1983

★長編デビュー作、短編ドキュメンタリーを撮っているほか、長編映画8作の編集を手掛けている。本作はベルリン映画祭「フォーラム」部門、グアダラハラ映画祭正式出品、マラガ映画祭2018Zonazine」部門の作品賞受賞作品。将来が期待できる監督。

*モニカは47歳のバレリーナ、父危篤の電話をうけ、20年ぶりに生れ故郷ブルゴスに戻ってくる。既に父は亡くなっており、母親から家の売却を手伝ってほしいと頼まれる。

 

  

 (コンチャ・カナル、モニカ・ガルシア)

 

 

El avisoダニエル・カルパルソロ(バルセロナ、1968

★三大映画祭にノミネートされた経験をもつ、ベテラン監督カルパルソロの最新作。日本では『パサヘス』(96、未公開・TV放映)、『インベーダー・ミッション』(12)、『バンクラッシュ』(16)などが紹介されている。公開が期待できる新作の主役は、『インベーダー・ミッション』にも出演したラウル・アレバロが起用されている。

ダニエル・カルパルソロのキャリア紹介は、コチラ20160703

  

  

 (ラウル・アレバロ、アントニオ・デチェント)  

 

I Hate New Yorkドキュメンタリー 同グスタボ・サンチェス(ハエン、1978

★長編デビュー作、マラガ映画祭2018正式出品作品。2007年から2017年のあいだ、脚本なしでニューヨークのアンダーグラウンドのサブカルチャーを撮り続けた。トランスジェンダーのアマンダ・レポレほか4人のアーティストの怖れと希望を描くエモーショナルな証言で構成されている。監督はジャーナリストでもある。

 

 

 

Trinta lumes / Thirty Soulsディアナ・トウセド(ポンテべドラ、1982

★長編デビュー作、ベルリン映画祭2018「パノラマ」部門、マラガ映画祭2018Zonazine」部門正式出品作品。ガリシア出身だがバルセロナ自治大学付属上級映画学校ESCACで学び、バルセロナに軸足をおいている。長編ドキュメンタリーEn todas as mans15、ガリシア語)はガリシア限定で公開された。ほか短編ドキュメンタリーを撮っている。これまでにドキュメンタリーを含む長短編映画20作以上の編集を手掛けており、なかで昨年のカンヌ映画祭併催の「批評家週間」にエントリーされたラウラ・フェレスの短編ドキュメンタリー「Los desheredados」がDiscovery賞を受賞している。

本作は12歳の少女アルバの物語、生と死の闘いの神秘さを知るため無邪気に出かける旅。

  


   

 

Querido Fotogramasドキュメンタリー 同セルジオ・オクスマン(サンパウロ、1970

★セルジオ・オクスマンSergio Oksmanは、監督、脚本家、製作者。サンパウロでジャーナリズムを、映画をニューヨークで学び、マドリード在住のブラジルの監督。「Una historia para Los Modlin」でゴヤ賞2013短編ドキュメンタリー賞を受賞している。本作は70年の歴史をもつ、スペインの映画月刊雑誌Fotogramas19461115日、バルセロナで創設)への関係者と映画ファンへのオマージュを込めて製作された。20186月、本拠地をバルセロナからマドリードに移したことが報じられている。

出演者は、Toni Ulled Nadal(編集長)以下の編集者、フェルナンド・コロモ、イサベル・コイシェ、J.A.バヨナ、ゴンサロ・スアレス(以上監督)、以下順不同にマリサ・パレデス、アンヘラ・モリーナ、ホセ・サクリスタン、コンチャ・ベラスコ、カルメン・マウラ、アイタナ・サンチェス=ヒホン、エンマ・スアレス、ハビエル・バルデム、レオノル・ワトリング、ベレン・ルエダ、アナ・トレント、他多数。

SSIFF上映922日、スペイン公開105

 

     

(出演のマリサ・パレデス)

 

         

  (Fotogramas」の表紙を飾るのが夢だったというホセ・サクリスタン、20186月号)

 

イザベル・ユペール公式ポスターの顔に*サンセバスチャン映画祭2018 ⑰2018年09月03日 15:56

            66回サンセバスチャン映画祭2018の公式ポスターが決定

 

        

★第66回サンセバスチャン映画祭の公式ポスターにフランスの女優イザベル・ユペールが選ばれました。ユペールは2003年のドノスティア賞受賞者です。公式ポスターは1000部印刷され映画祭会場やその他関連施設に張り出される。そのほかカタログの表紙、ガイドブックにも使用される。公式ポスターはGetty Imagesの写真からナゴレ・ガルシア・パスクアルやチェマ・ガルシア・アミアノ他によって、TGA ドノスティアのデザイン・スタジオが作成した。

 

★紹介するまでもないのですが、イザベル・ユペール(パリ、1953)は、三大映画祭の受賞者として老若男女を問わずファンが多いと思います。先ず1978年、初めてクロード・シャブロルとタッグを組んだ『ヴィオレット・ノジエール』(未公開)でカンヌ映画祭女優賞、1988年同監督の『主婦マリーがしたこと』でベネチア映画祭女優賞、1995年再び『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』でベネチア映画祭女優賞、2001ミヒャエル・ハネケ『ピアニスト』でカンヌ映画祭女優賞とヨーロッパ映画賞女優賞他を受賞した。2002年、フランソワ・オゾンのスリラー・コメディ8人の女たち』では、女優8人全員がベルリン映画祭芸術貢献賞(銀熊)とヨーロッパ映画賞女優賞を受賞した。本作ではカトリーヌ・ドヌーヴと仲の悪い姉妹を演じた。1980年マイケル・チミノの『天国の門』でアメリカに進出したこともあり、製作費の10分の1も回収できなかった失敗作と言われたが、ユペール本人は国際的スターとして認知されたのではないか。

 

       

          (共演のブノワ・マジメルと、『ピアニスト』から)

 

2012年、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(カンヌFFのパルムドール受賞作品)に出演、本作はオスカー像も手にした成功作。そのほか最近の出演映画は、マルコ・ベロッキオの『眠れる美女』(12、伊仏合作)、ポール・ヴァーホーヴェンのスリラー『エル ELLE16)はサンセバスチャン映画祭にもエントリーされ、ゴールデン・グローブ賞、ヨーロッパ映画賞、セザール賞などの女優賞を独占した。ミア・ハンセン=ラヴの『未来よ、こんにちは』(16)、ハネケの『ハッピーエンド』(17)では『愛、アムール』と同様ジャン=ルイ・トランティニャンと父娘を演じている。

 

      

             (ヴァーホーヴェンの『エル ELLE』から

 

2009年カンヌ映画祭審査委員長をつとめ、この年のパルムドールはハネケの『白いリボン』だったから彼女自らが監督にトロフィーを手渡した。同映画祭2017の「ウィメン・イン・モーション賞」を受賞している。最新作は公開されたばかりのブノワ・ジャコー『エヴァ』、第68回ベルリン映画祭のコンペティションに正式出品された。ファム・ファタールのエヴァを演じる。

 

      

      (エヴァに翻弄される共演者ギャスパー・ウリエルと、『エヴァ』から)

 

カルロス・レイガダス、6年ぶりの新作*サンセバスチャン映画祭2018 ⑯2018年09月02日 15:54

        イガダス一家総出演で「Nuestro tiempo」―ホライズンズ・ラティノ第2弾

 

    

2012年の『闇のあとの光』の後、カルロス・レイガダスは新作がなかなか完成しませんでしたが、沈黙していたわけではなく、2016年のベルリンやカンヌのフィルムマーケットではワーキングタイトル「Where Life is Born」が噂になっていた。予定していた今年のカンヌに間に合わなかったのか、ベネチア映画祭2018でワールドプレミアされることになった。最終的にタイトルはNuestro tiempoOur Time)になりました。他にトロント映画祭「マスターズ」部門上映も決定しています。デビュー作『ハポン』(02)以来、レイガダスを支えている制作会社Mantarraya Produccionesハイメ・ロマンディアと、監督自身のNoDream Cinema が中心になって製作された。

 

      

         (ワーキングタイトルWhere Life is Bornのポスター)

   

   Nuestro tiempoOur Time2018

製作:Mantarraya Producciones / NoDream Cinema / Bord Cadre Films / Film i Väst / Snowglobe Films / Le Pacto / Luxbox / Mer Films / Detalla Films

監督・脚本・編集・製作:カルロス・レイガダス

編集:(共)カルラ・ディアス

撮影:ディエゴ・ガルシア

プロダクション・デザイナー:エマニュエル・Picault

衣装デザイン:ステファニー・ブリュースターBrewster

録音:ラウル・ロカテッリ

製作者:ハイメ・ロマンディア、(以下共同製作者)エバ・ヤコブセン、ミケル・Jersin、アンソニー・Muir、カトリン・ポルス

 

データ:製作国メキシコ・仏・独・デンマーク・スウェーデン、スペイン語・英語、2018年、ドラマ、173

映画祭:ベネチア映画祭コンペティション部門(上映95日)、トロント映画祭「マスターズ」部門(同99日)、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品作品

 

キャスト:カルロス・レイガダス(フアン)、ナタリア・ロペス(エステル)、フィリップ・バーガーズ(フィル)、ルートゥ・レイガダス、エレアサル・レイガダス

 

物語:闘牛用の牛を飼育しているある家族の物語。エステルは牧場を任されていおり、夫のフアンは世界的に有名な詩人であると同時に動物の選別や飼育をしている。エステルがフィルと呼ばれるアメリカ人の馬の調教師と恋に落ちると、夫は嫉妬心を抑えられない。夫婦は感情的な危機を乗りこえるために闘うことになる。

            

★目下のところ情報が少なくて(わざと伏せているのでしょうか)、こんなありきたりの筋書で173分も続くのかと不安ですが、そこは一筋縄ではいかないレイガダスのことだから、幾つも秘密兵器が隠されているのではないかと期待しています。監督自身が夫フアン役、いつもは編集を手掛けている監督夫人ナタリア・ロペスが妻エステルを演じている。ルートゥとエレアサルは夫妻の実子、前作『闇のあとの光』にも出演していた。6年経っているからかなり大きくなっている。

 

★ベネチア映画祭公式作品紹介の監督メッセージによると「私たちが誰かを愛しているとき、彼女または彼の幸福安寧をなによりも望んでいるでしょうか。あるいは、そのような寛大な無条件の行為は、自分にあまり影響を与えない程度のときだけでしょうか。要するに、愛は相対的な問題なのではないか?」とコメントしています。

 

              

                 (カルロス・レイガダス)

 

ハイメ・ロマンディアJaime Romandia は、『ハポン』02、カンヌFFカメラドール受賞)、『バトル・イン・ヘブン』05、カンヌFFノミネート)、『静かな光』07、カンヌFF審査員賞受賞)、『闇のあとの光』12、カンヌFF監督賞受賞)とレイガダスの全作を手掛けている。ほか『ハポン』で助監督をつとめたアマ・エスカランテのデビュー作『サングレ』04、カンヌFF「ある視点」国際映画批評家連盟賞受賞)、『よそ者』08)、『エリ』13、監督賞受賞)、『触手』16、ベネチアFF監督賞受賞)、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソ『約束の地』14、カンヌFF国際映画批評家連盟賞)など、三大映画祭の話題作、受賞作をプロデュースしている。

 

ナタリア・ロペスNatalia Lópezは、映画編集、製作、脚本、監督。今回本作で女優デビュー。レイガダスの『静かな光』、『闇のあとの光』、アマ・エスカランテの『エリ』、リサンドロ・アロンソの『約束の地』などの編集を手掛けるほか、短編「En el cielo como en la tierra」(0620分)を撮っている。

 

      

            (エステル役のナタリア・ロペス、映画から)

 

フィリップ・バーガーズPhil (Philip) Burgersは、アメリカの俳優、脚本家、プロデューサー。代表作はアメリカTVシリーズThe Characters16、全8話)の1話に出演、脚本、エグゼクティブプロデューサーとして製作も手掛ける。本作は『プレゼンツ:ザ・キャラクターズ』としてNetflixで配信されている。アメリカン・コメディSpivak18)など。レイガダスはプロの俳優は起用しない方針と思っていたが、そういうわけではなかったようです。

 

                

        (フィル役バーガーズとフアン役のレイガダス、映画から)

 

★評価の分かれた第4作『闇のあとの光』は、カンヌ映画祭2012の監督賞受賞作品。全員一致の受賞作品は皆無だそうですが、最も審査員の意見が割れたのがレイガダスの監督賞受賞だった。カフェでは13年振りに戻ってきたレオス・カラックスに上げたかったようだ。個人的にはメディアの悪評にレイガダスはあり得ないと思っていたが、審査委員長ナンニ・モレッティによるとレイガダス、カラックス、ウルリッヒ・サイドルの三人に意見が分かれた。結局アンドレ・アーノルド監督がレイガダスを強く推して決まったと。続いてサンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門でも上映されたが酷評が目立ったスペインではレイガダス・アレルギーが結構多い。多分『静かな光の続きを期待していた人には不評だったのかもしれない。レイガダスが求めるものと他の監督が求めるものとは違うから評価は分かれる。監督自身はメディアの酷評謙虚に分析していたようです。

 

      

         (カンヌ映画祭監督賞受賞の『闇のあとの光』ポスター)

 

★本映画祭の今年のスペイン映画の話題作を集めた「メイド・イン・スペイン」部門11作が発表になったり、アルフォンソ・キュアロンRomaがベネチア映画祭コンペティションに選ばれたり、5回フェニックス賞2018のノミネーションが発表になったりとニュースが多く、アップ順位に迷っています。またマラガ映画祭2018のオープニング作品マテオ・ヒルのLas leyes de la termodeinámica『熱力学の法則』の邦題で早くもNetflixで配信が始まっています。

ジュディ・デンチにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2018 ⑮2018年08月31日 19:00

        伝説的な英国女優ジュディ・デンチ、ドノスティア賞受賞

     

★ベネチア映画祭がいよいよ開幕(29日)、審査委員長ギレルモ・デル・トロも元気な姿を現しました。金獅子賞を競うコンペティション部門21作中に女性監督作品はたったの1、既に女性監督数30%に及ばんというにしては少なすぎるのではないかと、ひと頃のMeToo運動を思い出して溜息をついていましたら、EWA(欧州女性オーディオビジュアル・ネットワーク、現会長イサベル・コイシェ)がベネチア映画祭のディレクター、アルベルト・バルベラに抗議の書簡を送ったニュースに接しました。1作では全体の5%にも満たないから、不公平感は否めません。サンセバスチャン映画祭も「ドノスティア賞に男性2人はどうかな」と思っていた矢先、前述したように去る28日にジュディ・デンチ受賞の報がありました。

オーストラリアのジェニファー・ケントの「The Nightingale」、世界三大映画祭初参加作品、スペインのメディアでは話題になっています。

 

       

ジュディ・デンチは、1934年ヨークシャー州ヨーク生れ、女優。クエーカー教徒の家庭で育つ。ロンドンの「セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマ」に入学、1957年『ハムレット』のオフィーリア役で初舞台ということから、その優等生ぶりが分かる。1961年ストラトフォード・アポン・エイヴォンを拠点にする劇団「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー」に入団、1977年『マクベス』でローレンス・オリヴィエ賞ドラマ主演女優賞受賞を皮切りに5度、ミュージカル主演女優賞とドラマ助演女優賞を1度ずつ、1999年にはトニー賞ドラマ主演女優賞を受賞している。

 

1957年から舞台と併行してTVシリーズにも出演、映画界入りは、クライトン・チャールズの「The Third Secret」(64)、タッグを組んだ監督には例えば、ジェイムズ・アイヴォリー『眺めのいい部屋』86、英国アカデミー賞BAFTA助演女優賞受賞)、ジョン・マッデンQueen Victoria 至上の恋』97BAFTA主演女優賞、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞ほか受賞歴多数)、マッデンとは続いてエリザベスⅠ世役でアカデミー賞、BAFTAの助演女優賞を受賞した『恋におちたシェイクスピア』99)にも出演した。

 

                    

                                (マッデン監督の『Queen Victoria 至上の恋』から)

   

       

     (エリザベスⅠ世に扮した『恋におちたシェイクスピア』から)

 

ラッセ・ハルストレム『ショコラ』00)は、ジョアン・ハリスの同名小説の映画化、主演のジュリエット・ビノシュともどもアカデミー賞以下ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされたが叶わなかったが、デンチが全米映画俳優組合賞助演女優賞を受賞した。2001年、晩年アルツハイマーになった小説家アイリス・マードックのビオピック、リチャード・エアー『アイリス』で主役を演じ、BAFTA主演女優賞を受賞した。スティーヴン・フリアーズ『ヘンダーソン夫人の贈り物』05)で主役を演じた。本作はイギリス初のヌード・レビューを興行した富豪の未亡人ローラ・ヘンダーソン夫人の実話に基づいて映画化された。2006年リチャード・エアーの『あるスキャンダルの覚え書き』06)、この2作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。

 

     

            (『ヘンダーソン夫人の贈り物』のポスター)

 

★しかし、一番デンチを有名にしたのは、なんといっても「007シリーズ」の女性初となる3代目「M」役でしょうか。1995年のマーティン・キャンベルの007ゴールデンアイ』から2012年のサム・メンデス007スカイフォール』まで17年間、7作に出演して大いに知名度を上げた。

 

     

  (6代目ボンド役ダニエル・クレイグと、最後のM役となる『007 スカイフォール』から)

 

20122月、加齢黄斑変性症による視力低下で台本が読みづらくなっていることを公表した。しかし2013年にはスティーヴン・フリアーズのイギリス映画『あなたを抱きしめる日まで』に出演、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、BAFTAの主演女優賞にノミネートされ、女性映画批評家協会賞他を受賞した。本作は第70回ベネチア映画祭に正式出品され、クィア獅子賞、脚本賞を受賞したこともあって吹替版でテレビ放映された。さらに2017にはVictoria & Abdulで再びヴィクトリア女王に扮している。同年ケネス・ブラナー『オリエント急行殺人事件』にもロシアのドラゴミロフ公爵夫人役で相変わらず現役続行中です。

   

         

    (息子探しの旅を共にするジャーナリスト役のスティーヴ・クーガンとデンチ。

     『あなたを抱きしめる日まで』から)

 

授賞式は925日、サンセバスチャン映画祭には初めての参加ということです。デンチが主役を演じる、サー・トレバー・ナンの新作スリラーRed Joanの上映がある。ジェニー・ルーニーのベストセラー「Red Joan」(2013年刊)の同名小説の映画化。実在したメリタ・ノーウッドの人生に触発されて書かれた小説。舞台は1930年代半ば、ケンブリッジ大学の学生ジョーン・スタンレーはソビエトと共産党の信奉者だった。間もなくイギリスの公務員に雇われるが、やがてKGBにスパイとしてリクルートされる。半世紀以上に渡ってKGBに仕え、英国をスパイし続けていたことを晩年になって暴露する。若いころをソフィー・クックソン、現在をデンチが演じる。本作はトロント映画祭2018「ガラ」部門で97日に上映される予定。順次スペイン、ロシア、イギリス、オランダで公開される。

      

     

    

                       (ジュディ・デンチ、「Red Joan」から)

 

★ナン監督とは初顔合わせでしょうか。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーやブロードウェイの仕事が中心だから、映画は4作しか撮っていない。1986年の第2作『レディ・ジェーン/愛と運命のふたり』(未公開、ビデオ発売)と、公開された1996年の第3作目『十二夜』が、SSIFFのコンペティション部門に正式出品された。第4作目になる本作で22年ぶりにフィルムに戻ってきたから、復帰を願っていたファンは待ち遠しいことでしょう。

 

ダニー・デヴィートにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2018 ⑭2018年08月30日 09:51

          今年のドノスティア賞受賞者が3人になりました?

 

★「ホライズンズ・ラティノ」のご紹介中ですがドノスティア賞に、アメリカの俳優、監督、プロデューサーのダニー・デヴィートとイギリス女優のジュディ・デンチ受賞の発表がありました。もう一人女性が受賞するのではないかと予想していましたが、820日にデヴィート受賞の発表があり「男性優先?」と気分を害していましたら、28日にデンチ受賞のアナウンスがありました。既に是枝裕和監督の受賞が決まっているので、今年は3人のようです。デヴィートもデンチも日本語版ウイキペディアで充分と思いますが、発表順に先ずはデヴィートから簡単にご紹介しておきます。

 

     

ダニー・デヴィートDanny DeVitoは、1944年ニュージャージー州ネプチューン・シティ生れ、イタリア系アメリカ人、俳優、監督、プロデューサー。1975年ミロス・フォアマンの『カッコーの巣の上で』で映画デビュー、TVシリーズ「Taxi」(197883)のルイ・デ・パルマ役でエミー賞(助演男優賞)受賞。1987年ブラックコメディ『鬼ママを殺せ』で監督デビュー、自身も出演して共演者アン・ラムジーと揃ってゴールデン・グローブ賞の男優賞、女優賞にノミネートされ、ラムジーはオスカー賞助演女優賞にもノミネートされた。本邦未公開だが「どうしてなんだ?」とファンから苦情がでた映画。

   

       

       (アン・ラムジーとダニー・デヴィート、『鬼ママを殺せ』から)

 

★監督・製作を手掛け、親友マイケル・ダグラスが主演した『ローズ家の戦争』89)、ジャック・ニコルソン主演の『ホッファ』92)は、ベルリン映画祭のコンペティション部門に正式出品された。ティム・バートンの『バットマン・リターンズ』のペンギン役、またファンタジー映画『ビッグ・フィッシュ』03)にも出演した。いずれも何度もテレビ放映されている。代表作の一つが『マチルダ』96、監督・出演・製作)、イギリスの作家ロアルド・ダールの『マチルダは小さな天才』に材をとったファンタジー・コメディ。赤ん坊にして既に読み書きができたという天才少女マチルダを�りとばす横暴な父親ハリー役を演じた。

 

    

 (マチルダ役のマーラ・ウィルソンと、子供と並ぶと身長147センチには見えない?)

 

★現在は製作や声優の仕事が多いようです。2012年の3Dアニメーション『ロラックスおじさんの秘密の種』のロラックスおじさん役でボイス出演、日本版では志村けんが吹替に初挑戦して話題になった。ドノスティア賞の授賞式922日、映画祭メイン会場のクールサルで手渡される。翌日3000人が収容できるベロドロモ・アントニオ・エロルサで、カレイ・カークパトリックの新作アニメーションSmollfootが上映される。従ってボイス出演です。

Smollfoot」の紹介記事は、コチラ20180819

 

 

 

★次回にジュディ・デンチをアップします。


ウルグアイ映画「La noche de 12 años」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑬2018年08月27日 15:48

           「ホライズンズ・ラティノ」第1弾-「La noche de 12 años

 



        

★サンセバスチャン映画祭より一足先にベネチア映画祭2018「オリゾンティ」部門で上映される、アルバロ・ブレックナーLa noche de 12 añosは、簡単に言うと前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ(任期201015)のビオピックであるが、1970年代ウルグアイに吹き荒れた軍事独裁時代の政争史の色合いが濃い。物語は1973年から民主化される1985年までの12年間、刑務所に収監されていた都市ゲリラ組織トゥパマロスのリーダーたち、ホセ・ムヒカエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロマウリシオ・ロセンコフ3人を軸に展開される。ウルグアイ前大統領ムヒカ、元防衛大臣で作家のウイドブロ、ジャーナリストで作家のロセンコフのビオピックでもある。

 

★獄中で「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を必ず書き残そう」と誓い合ったロセンコフとウイドブロの共著Memorias del calabozo(「Memories from the Cell」)をベースに映画化された。

Memorias del calabozo」(3巻)198788年刊、1989年「バルトロメ・イダルゴ賞」を受賞。2013年に優れたジャーナリストで作家のエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊された。

 

         

                 (本作のベースになった「Memorias del calabozo」の表紙)

 

★ホセ・ムヒカは大統領退任後の201645日に来日(~12日)、収入のあらかたを寄付、月1000ドルで質素に暮らしていることから「世界で最も貧しい大統領」と日本では報道された。愛称エル・ペペ、今年のベネチア映画祭にはコンペティション外ではあるが、ムヒカを主人公にした、鬼才エミール・クストリッツアが5年がかりで撮ったドキュメンタリーEl Pepe, una vida suprema(ウルグアイ、アルゼンチン、セルビア、74分)もエントリーされ、思いがけず話題を集めている。このセクションには他に『笑う故郷』のガストン・ドゥプラット、『エル・クラン』のパブロ・トラペロの新作も上映され、ラテンアメリカが気を吐いている。

 

La noche de 12 años(ワーキングタイトル「Memorias del calabozo」)2018

製作:Tornasol Films / Alcaravan AIE / Hernández y Fernández Producciones Cinematográficas(以上西)、Haddock Films(アルゼンチン)/ Salado Media(ウルグアイ)/ Manny Films(仏)、Movistar+参画

監督・脚本:アルバロ・ブレックナー

撮影:カルロス・カタラン

編集:イレネ・ブレクア

音楽:フェデリコ・フシド

プロダクション・デザイン:ラウラ・ムッソ

製作者:フェルナンド・Sokolowicz、マリエラ・ベスイエブスキー、フィリップ・ゴンペル、Birgit Kemner、(エグゼクティブプロデューサー)セシリア・マト、バネッサ・ラゴネ、他多数

 

データ:製作国スペイン、アルゼンチン、フランス、ウルグアイ、スペイン語、2018年、実話に基づくビオピック、撮影地モンテビデオ、マドリード、パンプローナ、20176月クランクイン、公開ウルグアイ920日、アルゼンチン927日、スペイン1123

映画祭:ベネチア映画祭2018オリゾンティ部門正式出品(91日上映)、サンセバスチャン映画祭2018ホライズンズ・ラティノ部門正式出品

 

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ・ムヒカ)、チノ・ダリン(マウリシオ・ロセンコフ)、アルフォンソ・トルト(エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ)、セサル・トロンコソ(軍人)、ソレダー・ビジャミル(精神科医)、シルビア・ペレス・クルス(イヴェット)、ミレージャ・パスクアル(ルーシー)、ニディア・テレス(ロサ)ルイス・モットーラ(軍人)、他多数

 

物語19739月、ウルグアイは軍事クーデタにより独裁政権が実権を握った。都市ゲリラ「トゥパマロス」運動は勢いを失い壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。ある秋の夜、軍部の秘密作戦で捕えられたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出されてきた。全国の異なった営倉を連れまわされ、死に関わるような新式の実験的な拷問、それは精神的な抵抗の限界を超えるものであった。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らせる」ことなのは明らかだった。一日の大半を頭にフードを被せられ繋がれたまま狭い独房に閉じ込められた12年間だった。この3人の囚人とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。

 

        

          (独房から引き出された3人の囚人、映画から

 

         1970年代ラテンアメリカ諸国を覆った軍事独裁の本当の黒幕

 

ホセ・ムヒカ(モンテビデオ、1935)の最後になる逮捕は1972年、民政移管になった19854月釈放だから、大雑把に約12年間になるが(正確には116ヵ月7日間だそうです)、それ以前の収監を含めると約15年間に及ぶという。映画では3人に絞られているが、他にトゥパマロス(ツパマロス)のリーダー6人も収監されており、上述の「Memorias del calabozo」は全9人の証言で構成されているようです。

 

★冷戦時代の1970年代のラテンアメリカ諸国は、ウルグアイに限らずアルゼンチン、チリ、ブラジル、ペルーなどが米国の後押しで軍事独裁政権が維持されていた。アメリカは人権より我が家の裏庭の赤化を食い止めるのに必死だったというわけです。米国にとっては赤化より軍事独裁制のほうが国益に叶っていたからです。新式の拷問とはCIAがベトナム戦争で培ったノウハウを、領事館員やビジネスマンに偽装して潜入させ伝授したことは、その後の資料、証言、調査で明らかになっている。 

(ホセ・ムヒカ)

     

エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ(モンテビデオ、19422016、享年74歳)は、196910月逮捕されたが、19719110人の仲間と脱走に成功した。しかし1972414日再逮捕、これが最後の逮捕となって以後1985年まで収監されている。ですから彼もトータルで刑期は15年くらいになるようです。釈放後は政治家としてムヒカ大統領のもとで防衛大臣、作家としては上記以外にプンタ・カレタス刑務所から110名の仲間とトンネルを掘って脱獄した体験を書いた「La fuga de Punta Carretas」(2巻、1990)、本作は1992年モンテビデオ市賞を受賞した。その他多数の著作がある。

 

(晩年のウイドブロ)

  

マウリシオ・ロセンコフ(本名Moishe Rosenkopf、ウルグアイのフロリダ、1933)は、ジャーナリスト、作家、脚本家、詩人、戯曲家。両親は1931年、ナチの迫害を逃れてポーランドから移民してきたユダヤ教徒。2005年からモンテビデオ市の文化部長を務め、週刊誌「Caras y Caretas」のコラムニストとして活躍している。2014年ウルグアイの教育文化に貢献した人に贈られる「銀のMorosli」賞を受賞。「Memorias del calabozo」の他、著作多数。

 

(マウリシオ・ロセンコフ)

    

 

キャスト紹介

アントニオ・デ・ラ・トーレは、1968年マラガ生れ、俳優、ジャーナリスト。本作でホセ・ムヒカを演じる。当ブログでは何回も登場させていますが、いずれも切れ切れのご紹介でした。大学ではジャーナリズムを専攻、卒業後は「カナル・スール・ラディオ」に入社、テレビのスポーツ番組を担当、かたわら定期的にマドリードに出かけ、俳優養成所「クリスティナ・ロタ俳優学校**で演技の勉強を並行させていた。TVシリーズ出演の後、エミリオ・マルティネス・ラサロのコメディ『わが生涯最悪の年』(94)のチョイ役で映画デビュー、俳優としての出発は遅いほうかもしれない。

**クリスティナ・ロタ俳優学校は、アルゼンチンの軍事独裁政権を逃れてスペインに亡命してきた女優、プロデューサー、教師クリスティナ・ロタが1979年設立した俳優養成所。現在スペインやアルゼンチンで活躍中のマリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー、ヌル・アル・レビ姉弟妹の母親でもある。

 

        

               (ホセ・ムヒカに扮したデ・ラ・トーレ、独房のシーンから)

 

1990年代から2000年初めまでは、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』『テイク・マイ・アイズ』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ビースト 獣の日』、『どつかれてアンダルシア』、『13 みんなのしあわせ』、サンティアゴ・セグラの「トレンテ」シリーズなど同じ年に掛け持ちで出演しているが、どんな役だったか記憶にないほどの脇役に甘んじていた。転機が訪れたのは、ダニエル・サンチェス・アレバロの短編デビュー作Profilaxis03、仮題「予防法」)で主役を演じたことだった。バダホス短編映画祭2004で監督が作品賞、デ・ラ・トーレも男優賞を受賞した。

 

     

     (33キロ体重を増やして臨んだ『デブたち』、義兄弟のサンチェス・アレバロ監督と)

 

★サンチェス・アレバロの家族が一丸となって資金集めに奔走して完成させた長編デビュー作『漆黒のような深い青』がブレーク、ゴヤ賞2007で新人監督賞、主役のキム・グティエレスが新人男優賞、彼も助演男優賞を受賞した他、俳優組合賞も受賞した。続いて体重を33キロ増量して臨んだ『デブたち』(09)、『マルティナの住む街』(11)と二人はタッグを組んでいる。監督と彼は義兄弟の契りを結んでおり、監督は彼を「兄さん」と呼ぶ仲、以上3作に共演したラウル・アレバロも親友、2016年アレバロが念願の監督デビューした『静かなる復讐』Netflix『静かな男の復讐』)では主役の一人を演じた。

 

       

                        (ラウル・アレバロの『静かなる復讐』から)

 

★その他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『気狂いピエロの決闘』の悪役ピエロ(サン・ジョルディ賞・トゥリア賞)や『刺さった男』、アルモドバルの『ボルベール<帰郷>』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、アルベルト・ロドリゲスの『ユニット7』と『マーシュランド』、今までで一番難役だったと洩らしたマヌエル・マルティン・クエンカ『カニバル』ではゴヤ賞こそ逃したが、フェロス賞2014の男優賞、シネマ・ライターズ・サイクル賞、俳優組合賞の男優賞を制したほか、「El autor」にも出演している。グラシア・ケレヘタのコメディ「Felices 140」、パブロ・ベルヘルのコメディAbracadabraロドリゴ・ソロゴジェンの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強盗殺人事件』、そして新作El Reinoが今年のSSIFFコンペティション部門に正式出品され主役に起用されています。

 

     

                     (人肉を食するデ・ラ・トーレ、『カニバル』から)

 

★何しろトータルでは既に出演本数が100本を超えており紹介しきれないが、『カニバル』以下『マーシュランド』、「Felices 140」、Abracadabra」、El autor」などは、個別に紹介記事をアップしております。ゴヤ賞には嫌われてノミネーションのオンパレードで受賞に至らないが、マラガ出身ということもあってかマラガ映画祭2015で一番の大賞といわれる「マラガ賞」(現マラガ-スール賞)を受賞して、地中海を臨む遊歩道に等身大の記念碑を建ててもらっている。「La noche de 12 años」はウルグアイ映画なのでゴヤ賞の対象外になると思いますが、「El Reino」で7度目の正直で主演男優賞を受賞するかもしれません。

 

★マウリシオ・ロセンコフを演じるチノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスのEn fuera de juego11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』Muerte en Buenos Aires14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニのPasaje de vida15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。

『ブエノスアイレスの殺人』の紹介記事は、コチラ201409月29日

 

   

 

         

                                          (フードを被せられていたロセンコフ)

 

★アルゼンチンのお茶の間で人気を博したのがパブロ・トラペロの『エル・クラン』のTVシリーズ版Historia de un clanでの長男役でした。今年はルイス・オルテガのデビュー作El Ángelで早くもカンヌ入りを果たした。父親もアスガー・ファルハディのTodos lo sabenでカンヌ入り、家族でカンヌを満喫した。今年のSSIFFにも多分ダリン一家は揃ってサンセバスチャン入りするでしょう。

 

    

                    (『ブエノスアイレスの殺人』のポスター)

 

★ウイドブロ役のアルフォンソ・Tort(トルト?)はウルグアイ出身、昨年のSSIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門にノミネートされたアドリアン・ビニエスLas olasで主役を演じた折に紹介したばかりです。アルバロ・ブレックナーのデビュー作「Mal dia para pescar」に出演している。2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作25 Wattsで初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノCrónica de una fuga06)、主役を演じたCapital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)07)、他ビニエス監督のEl 5 de Talleres にも出演している。「ウイドブロ役はとても複雑で難しい役だった」と語っている。

Las olas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年09月13日

 

       

                      (アルフォンソ・トルト、後ろはチノ・ダリン)

 

★女優陣のうち、精神科医役のソレダー・ビジャミルは、フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』で、リカルド・ダリンが思いを寄せる上司役を演じて一躍有名になった。ほかアナ・ピーターバーグのスリラー『偽りの人生』などが公開され、一卵性双生児を演じたヴィゴ・モーテンセンと夫婦役を演じた。イヴェット役のシルビア・ペレス・クルス(ジローナ、1983)は、サウンドトラックを多く手掛けているミュージシャンで、エドゥアルド・コルテスのミュージカルCerca de tu casa16)でゴヤ賞オリジナル歌曲賞を受賞している。ルーシー役のミレージャ・パスクアル(モンテビデオ、1954)は、かの有名な『ウィスキー』でデビュー、淡々とマルタ役を演じて忘れられない印象を残した女優。男優女優ともスペイン、アルゼンチン、ウルグアイと満遍なく起用していることが分かる。

 

      

                           (精神科医役のソレダー・ビジャミル)

    

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー

アルバロ・ブレックナー(ブレチネル?)Alvaro Brechner1976年モンテビデオ生れ、現在マドリード定住のウルグアイの監督、脚本家、プロデューサー。ウルグアイのカトリック大学でメディア学の学位を取り、その後スペインに渡り、1999年バルセロナ自治大学マスターコースのドキュメンタリー制作の学位を取得した。ドキュメンタリー映画で出発、約10本ほど撮り、TVで放映された。のち2003年に短編「The Nine Mile Walk」、2005年「Sofia」、2007年「Segundo aniversario」などで評価を得る。

 

 (本作撮影中の監督)

     

★長編映画デビュー作Mal dia para pescar09、スペインとの合作)は、ウルグアイの作家フアン・カルロス・オネッティの短編「Jacob y el Otro」にインスパイアーされて製作された(オネッティも軍事独裁を嫌って1976年にスペインに亡命した)。カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に正式出品、カメラドール対象作品に選ばれた。その後、モントリオール、マル・デ・プラタ、ワルシャワ、モスクワ、上海、ロスアンジェルス・ラテン、オースティン、釜山、ヒホン、リマ、サンパウロ他、世界各地の映画祭に出品され、受賞歴多数。本国のウルグアイでは、ウルグアイ映画賞を総なめにして、オスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品に選ばれた。

 

★第2Mr. Kaplan14、西・独との合作)はスリラー・コメディ。退職して年金暮らしのハコボ・カプランと運転手のコントレラスは、近所のドイツ人が逃亡ナチではないかと疑って身辺捜査を開始する。ミスター・カプランにチリのベテラン、エクトル・ノゲラ、ドイツ人にロルフ・ベッカーを起用し、本作もオスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品、ゴヤ賞2015のイベロアメリカ映画賞ノミネート、第2回イベロアメリカ・プラチナ賞2015では、作品賞、監督賞、脚本賞以下9部門にノミネートされたが、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』に敗れた。

 

  

★第3作が前作とはがらりと趣向を変えてきたLa noche de 12 años、監督によると、2011年にプロジェクトを立ち上げたが、まだ前作の「Mr. Kaplan」の撮影中だった由。「どんな賞でも拒否はしないが、賞を取るために作っているわけではない。私にとって映画は旅であって観光旅行ではない」とインタビューに応えていた。201512月、米国のエンタメ雑誌「バラエティ」が選ぶ「ラテンアメリカ映画の新しい才能10人」の一人に選ばれた。

 

     

                            (撮影中のデ・ラ・トーレと監督)