『エル・ニド』の監督ハイメ・デ・アルミニャン逝く*訃報2024年05月12日 14:25

     ブラックコメディ「Mi querida señorita」に隠された批判精神

    

      

           (在りし日のハイメ・デ・アルミニャン)

 

★去る49日、フランコ時代を生き抜いた監督にして脚本家、戯曲家のハイメ・デ・アルミニャン97歳の長い生涯を閉じました。映画、テレビ、舞台と半世紀以上にわたって活躍した。192739日マドリード生れ、スペイン内戦時代の子供としてサンセバスティアンで育ちました。マドリードのコンプルテンセ大学で法学を学び、卒業後は弁護士のかたわら雑誌に記事を書き、1957年にTVシリーズの脚本家としてスタートを切りました。1950年代にはカルデロン・デ・ラ・バルカ賞やロペ・デ・ベガ賞など受賞歴のある劇作家としての地位を築いていた。当時人気のあったホセ・マリア・フォルケ監督作品の脚本を手掛けていました。以下に簡単なキャリア&フィルモグラフィーをアップしております。

コチラ20140117同年0121

 

★「Mi querida señorita」(72)と「El nido」(80)で2度の米アカデミー賞外国語映画(現在の国際長編映画)部門にノミネートされながら、日本での公開作品はおそらく『エル・ニド』1作かもしれません。妻を亡くしたばかりの初老の孤独な男にエクトル・アルテリオ、早熟で子供特有の攻撃性と嫉妬心を見事に演じた13歳の女の子にアナ・トレント、二人の複雑に絡み合った愛憎関係、誰からも理解されない無償の愛を描いた作品。民主主義移行期とはいえフランコ時代の残滓があった時代の映画としては斬新なテーマだった。198411月に開催された「1回スペイン映画祭」(全10作)に『巣』の邦題で上映された後、1987年に上記のタイトル『エル・ニド』として公開されました。

   

      

      (エクトル・アルテリオとアナ・トレント、『エル・ニド』から)

   

    

  (日本語版のチラシ)

 

★この映画祭には『クエンカ事件』のピラール・ミロー監督を団長にフアン・アントニオ・バルデム、『血の婚礼』のカルロス・サウラ、『庭の悪魔』のマヌエル・グティエレス・アラゴン、『ミケルの死』のイマノル・ウリベ、『パスクアル・ドゥアルテ』のリカルド・フランコ、それにハイメ・デ・アルミニャンが各々自身の新作を携えて来日しました。この映画祭にはビクトル・エリセの『エル・スール 南』も上映されましたが、来日は翌年の公開まで待たされました。20世紀スペイン映画史に残る粒揃いだったことが分かります。

 

★アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされた「Mi querida señorita」(仮題「愛しのお嬢さま」)は、〈お嬢さま〉として育てられながら中年になって男性であることが分かり、性転換手術を受け、かつて女中として雇っていた若い女性に恋をするコメディ。女性が社会に出ることを求めていない教育制度のせいで、男性として生きようとするも仕事が見つからない。成人学級に入学して高等教育を受けるなどコメディ仕立てでカモフラージュされているが、性転換、タブーであった性的指向をテーマにしており、随所に社会批判が首をだす。フランコ検閲時代によく脚本がパスしたと思わずにいられない。脚本はホセ・ルイス・ボラウとの共同執筆、主役のホセ・ルイス・ロペス・バスケスがシカゴ映画祭1972の銀のヒューゴー賞主演男優賞を受賞した他、シネマ・ライターズ・サークル賞(監督・脚本・男優賞)、サン・ジョルディ賞1973の作品賞ほか受賞歴多数。

    

     

 

★第28ゴヤ賞2014の栄誉賞を受賞、当時すでに86歳でしたが「シネアストに引退なんて言葉はないんです。私と同じ思いのシネアストたちは引退なんかできないのです」と語っていました。日刊紙エル・ムンドのコラムニストだったし、戯曲を執筆しておりましたから現役でした。しかし、映画は2008年の「14, Fabian Road」を最後に撮っておりません。本作はマラガ映画祭にノミネートされ、共同執筆した子息エドゥアルド・アルミニャン銀のビスナガ脚本賞を受賞しました。愛の物語とはいえ、復讐、秘密、不信、許し、忘却が入りまじって語られ、何よりもキャストが素晴らしかった。『エル・ニド』主演のアナ・トレント、1995年の「El palomo cojo」出演のアンヘラ・モリーナ、アルゼンチン出身のフリエタ・カルディナリ、イタリアのオメロ・アントヌッティ、フェレ・マルティネスなどが起用された。

 

★代表作の一つ「El palomo cojo」には、1989TVシリーズのヒット作「Juncal」(全7話)で主役の元花形闘牛士フンカルに扮したパコ・ラバル、アルモドバルのかつての「ミューズ」たちのカルメン・マウラやマリア・バランコも初めて参加した。サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされ、翌年のゴヤ賞にも脚色賞にノミネートされましたが受賞は叶いませんでした。結局、ゴヤ賞は2014年の栄誉賞だけ、当時のスペイン映画アカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョからトロフィーを受けとりました。

    

         

    

     (ハイメ・デ・アルミニャン、2014120日、ゴヤ賞ガラ)

 

1974年の「El amor del capitán Brando」は、ベルリン映画祭に出品され、観客賞を受賞、ナショナル・シンジケート・オブ・スペクタクル監督賞を受賞している。亡命先から帰国した初老の男と女教師、その教え子との三角関係を描いている。性的、政治的抑圧をテーマにすることからベルリンとは相性がよく、1985年の「Stico」も出品され、フェルナンド・フェルナン・ゴメスに銀熊主演男優賞をもたらした。

 

★時には過小評価されることもあったが、新しい世代のロス・ハビスことハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボによって「Mi querida señorita」のリメイク版が製作されているようです。Netflixということなのでいずれ字幕入りで鑑賞できるかもしれません。

   

   

               (ポスターとロス・ハビス)

  

A.J. バヨナ監督がパルムドールの審査員に*カンヌ映画祭20242024年05月07日 16:25

       審査委員長は『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督に!

   

       

 

★間もなく開催される第77回カンヌ映画祭2024514日~25日)のコンペティション部門の審査団が発表になっています。日本からも是枝裕和監督が選出されたことがニュースになっていました。審査団の委員長に『バービー』や『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督(1983)が選ばれ、女性監督が委員長を統べるのはジェーン・カンピオン以来とか。女優、脚本家としての豊富なキャリアの持ち主だが長編映画としては『バービー』が3作目になり、40歳の委員長は最年少ではないがいかにも若い。以下9名がパルムドールを選ぶ重責を担うことになりました。

 

★審査委員長グレタ・ガーウィグ(米の監督・脚本家・女優)、オマール・シー(仏の俳優・製作者)、エブル・ジェイラン(トルコの脚本家・写真家)、リリー・グラッドストーン(米の女優)、エヴァ・グリーン(仏の女優)、ナディーン・ラバキー(レバノンの監督・脚本家・女優)、A.J. バヨナ(西の監督・脚本家・製作者)、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(伊の俳優)、是枝裕和(監督・脚本家)

   

   

          (審査委員長グレタ・ガーウィグ監督)

   

 

   

★バヨナ監督は、長編デビュー作『永遠のこどもたち』(07)がカンヌ映画祭と併催の「批評家週間」にノミネートされた以外、本祭との関りは薄く、最近イベロアメリカ・プラチナ賞6冠の『雪山の絆』もベネチア映画祭でした。オマール・シーは、東京国際映画祭2011のさくらグランプリ受賞作『最強のふたり』で刑務所から出たばかりで裕福な貴族の介護者を演じた俳優、ナディーン・ラバキーは、2018年の審査員賞を受賞した『存在のない子供たち』の監督、2018年は是枝監督が『万引き家族』でパルムドールを受賞した年でした。

     

       

         (A.J. バヨナ監督、ベネチア映画祭2023年9月10

 

★興味深いのがトルコのエブル・ジェイランで、カンヌの常連監督である夫ヌリ・ビルゲ・ジェイランの共同脚本家として活躍している。2003年のグランプリ『冬の街』、2008年の監督賞『スリー・モンキーズ』、2011年のグランプリ『昔々、アナトリアで』、そして劇場初公開となった2014年のパルムドール『雪の轍/ウィンター・スリープ』などの脚本を共同で執筆している。2014年の審査委員長がジェーン・カンピオン監督でした。

 

★また異色の審査員がリリー・グラッドストーン、先住民の血をひく女優で、2016年のケリー・ライヒャルトの群像劇『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』で、複数の助演女優賞を受賞している。またスコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で、先住民出身の女優として初めてゴールデングローブ賞2024主演女優賞を受賞したばかり、今年の審査団はコンペティションの作品以上に興味が尽きない。

 

 

★スペインからは、カンヌ本体とは別組織が運営する「批評家週間」(515日~24日)の審査員に、『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)のロドリゴ・ソロゴジェンが選ばれています。本作は2022年カンヌ・プレミェール部門で上映されました。彼にしろバヨナにしろ、比較的若手ながらバランス感覚の優れたシネアストが審査員に選ばれるようになりました。

   

     

  (本作でセザール外国映画賞を受賞したロドリゴ・ソロゴジェン、2023224日)


第11回イベロアメリカ・プラチナ賞2024*結果発表2024年05月03日 17:56

           作品賞を含めて6カテゴリーを制したバヨナの『雪山の絆』

 

   

 

420日、メキシコのリビエラ・マヤのシカレ公園内にあるエルグラン・トラチコ劇場で11回イベロアメリカ・プラチナ賞の授賞式がありました。本賞については2019年の第6回以降ノミネーションも結果発表も、金太郎飴の結果にうんざりして記事にしませんでした。今回アップするのは、一つにはフアン・アントニオ・バヨナ『雪山の絆』がフィクション部門の作品賞以下6カテゴリーを独占したこと、23カテゴリーのうち16部門をスペイン作品が制するというラテンアメリカ諸国の不振、これではイベロアメリカ映画賞の名が泣くばかりです。さらに昨年1223日アルゼンチン大統領となったハビエル・ミレイの映画産業を脅かす言動が話題にのぼったこともあってアップすることにしました。

 

『雪山の絆』で6冠(作品・監督・撮影・編集・録音・男優賞)を制したフアン・アントニオ・バヨナは、昨今のアルゼンチンにおけるミレイ大統領の文化軽視に警鐘を鳴らした。監督賞受賞の舞台で映画は「表現の道具」として守る必要性があるとスピーチした。私が「本日この舞台に立っているのは両親のお蔭です。両親は学んだり仕事を選んだりする自由を持ちませんでした。父親は15歳から、母親は9歳から働き始めました。しかし彼らにとって子供たちの教育や教養は最も重要な課題だったのです」と語った。バルセロナのトリニダード・ビエハの貧しい家庭で育ったことは、スペイン版ウイキペディアにも載っていますが、このようなハレ舞台で話すのは初めてではないでしょうか。彼の謙虚さ常識にとらわれない斬新な発想の源は、この両親のお蔭と思わずにはいられない素晴らしいスピーチでした。

 

    

       (勢揃いしたトロフィー6個の『雪山の絆』クルー、

左からアンドレス・ジル、オリオル・タラゴ、監督、エンツォ・ヴォグリンチッチ、

      アルゼンチンの俳優フェリペ・ゴンサレスとフアン・カルソ)

 

 

       11回イベロアメリカ・プラチナ賞2024受賞結果

 

 映画部門

作品賞(フィクション)

La sociedad de la nieve」(『雪山の絆』)スペイン&アルゼンチン、

 監督フアン・アントニオ・バヨナ

 

 

    

 (出演者に囲まれた監督、左フアン・カルソ、右フェリペ・ゴンサレス)


    

コメディ賞(フィクション)

Bajo terapia」スペイン、監督ヘラルド・エレーロ

「映画の質は俳優たちと無関係ではない、彼らと一緒に仕事ができて満足している」と出演者を称賛した。

      


         

オペラ・プリマ賞

20,000 especies de abejas」(『ミツバチと私』)スペイン、

 監督エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン

『雪山の絆』に次ぐ4冠で、監督は「多様性」が認められたことを称揚した。製作者のバレリー・デルピエールは「デビュー作として撮るのは冒険だったが、この映画をご覧になれば私たちの現実を見つけることができます。結局、映画は現実の扉なのです」とスピーチした。

このカテゴリーは、アルゼンチンの「Blondi」、プエルトリコの「La pecera」、チリの「Los colonos」(『開拓者たち』)、ベネズエラの「Simón」、コスタリカの「Tengo sueños eléctricos」と、まんべんなくノミネートされたがスペイン映画が受賞した。当ブログではすべての作品を紹介しています。

   

    

         (スピーチする製作者のバレリー・デルピエール)

    

ドキュメンタリー賞

La memoria infinita」 チリ、監督マイテ・アルベルディ

    

       

          (左側はプレゼンターのパブロ・ラライン)


   

アニメーション賞(フィクション)

Robot Dreams」(『ロボット・ドリームズ』)スペイン&フランス、

 監督パブロ・ベルヘル

 


 

監督賞

フアン・アントニオ・バヨナ 『雪山の絆』

原作なしに本作は存在しなかったこと、アンデスの事故で生還した人々、生還できなかった人々やその家族に感謝の言葉を述べた。壇上に上がるまえに出演者たちと抱き合って共に喜び合っていた姿が印象的でした。

    

 

  

脚本賞

エスティバリス・ウレソラ 『ミツバチと私』

 

  

 

撮影賞

ペドロ・ルケ 『雪山の絆』

受賞者欠席のため代理でフアン・アントニオ・バヨナ監督が登壇して、受賞者のメッセージを読み上げた。

   

オリジナル音楽賞

アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 『ロボット・ドリームズ』

   

  

 

編集賞

アンドレス・ジルジャウマ・マルティ 『雪山の絆』

   

   

             (アンドレス・ジルが登壇した)

 

美術賞

ロドリゴ・バサエス 「El conde」(『伯爵』) 監督パブロ・ラライン

   

 

 

  

録音賞

オリオル・タラゴホルヘ・アドラドスマルク・オルツ 『雪山の絆』

    

  

           (オリオル・タラゴが登壇した)

  

女優賞

ライア・コスタ 「Un amor」(『ひとつの愛』)スペイン、監督イサベル・コイシェ

受賞を予期していなかったのか欠席、本作での受賞は初かもしてない。友人のカロリナ・ジュステが代理で受けとった。彼女はダビ・トゥルエバの新作「Saben aquell」でノミネートされていた。

   

    

            (代理のカロリナ・ジュステ)

 

男優賞

エンツォ・ヴォグリンチッチ 『雪山の絆』

「チャンスに恵まれないウルグアイから来て、この幸運に感謝したい。誰でも人生を変えるチャンスが与えられる」と。ずっと受賞を取り逃がしていたから喜びも一入身にしみた受賞者でした。何しろ体重を半分くらいに落としたのでした。

 

   

 

 

助演女優賞

アネ・ガバライン 『ミツバチと私』 

受賞者欠席で、製作者と監督が登壇した。

 

     

    (アネ・ガバラインのスマホのメッセージを読み上げるウレソラ監督)

 

助演男優賞

ホセ・コロナド 『瞳をとじて』スペイン、監督ビクトル・エリセ

マドリードで撮影中の受賞者は欠席で、製作者の一人が代理で受けとった。

 

      

    

  (ホセ・コロナド、フレームから)

 

価値ある映画と教育賞

『ミツバチと私』 

 

 TVシリーズ

作品賞

Barrabrava」(8話『バーラブラバ~ギャングたちの熱狂』)アルゼンチン、ウルグアイ 

 創案者ヘスス・ブラセラス

エグゼクティブプロデューサーのサンティアゴ・ロペスが登壇した。「受賞するとは思わなかったのでスピーチを用意していなかった。キャスト陣、スタッフたち感謝したい」とスピーチした。プライムビデオ配信が2023623日に開始されている。

  


             (サンティアゴ・ロペス)

 

 

  

創案者賞

ダニエル・ブルマン 「Iosi, el espía arrepentido

 (『悔い改めたスパイ』シーズン2、8話)アルゼンチン

二重スパイのイオシ・ぺレスの物語、プライムビデオ配信2023年10月27日。受賞者は『僕と未来とブエノスアイレス』の監督、脚本家、製作者。1994年のアルゼンチン・イスラエル相互協会ビル爆破事件を背景にしている。『安らかに眠れ』のセバスティアン・ボレンステインも監督の一人として参加している。

   

     


    

女優賞

ロラ・ドゥエニャス 「La Mesías」スペイン 創案者ロス・ハビス  

連戦連勝の受賞者です。

  

      

  

 

男優賞

アルフレッド・カストロ 「Los mil días de Allende」(全4話)

 チリ、スペイン、アルゼンチン、監督ニコラス・アクーニャ

チリ70年代、サルバドール・アジェンデ大統領(1970~73)を体現した演技で受賞した。残念ながら欠席、トロフィーは代理が受けとり、受賞者のスピーチ「20世紀のもっとも重要な政治家にして思想家アジェンデを演じることができたのは望外の喜びでした」をスマホで読み上げた。

    

  

            (受賞者のメッセージを読み上げる)

            


   

助演女優賞

カルメン・マチ 「La Mesías

 

助演男優賞

アンディ・チャンゴ 「El amor después del amor」(全8話)アルゼンチン、米国 

 創案者フアン・パブロ・コロジエ

アルゼンチンのシンボリックなロックスター、フィト・パエスの人生を辿るドラマ、受賞者はチャーリー・ガルシアを演じた。Netflix配信の可能性あり。

    

     

      (アルゼンチンでは「文化が抹殺されている」とスピーチした)

 

栄誉賞

セシリア・ロス 

★プレゼンターのエンリケ・セレソからトロフィーを受けとり「私たちの映画に注意を払わねばなりません。何故なら常に危険にさらされていますから。イベロアメリカ共同体は一つになり、ある国に問題が生じれば助け合わなければなりません」とスピーチした。1956年ブエノスアイレス生れ、アルモドバルのミューズの一人、アルゼンチンとスペインの国籍を持つ女優。

キャリア&フィルモグラフィーの主な紹介記事は、

 コチラ2014120720190328

 

 

   

  (エンリケ・セレソからトフィーを受け取る受賞者) 


ボレンステインの『安らかに眠れ』鑑賞記*ネットフリックス配信2024年04月30日 16:56

      アルゼンチン1990年代の政治経済危機をバックにしたサスペンス

 

     

 

セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963『安らかに眠れ』のネットフリックス配信が始まりました。マルティン・バイントルブの同名小説の映画化、マラガ映画祭2024の銀のビスナガ主演男優賞、同助演男優賞受賞作品、『明日に向かって笑え!』の監督作品、などなど期待をもって鑑賞しました。


★主役のホアキン・フリエルの熱演は認めるとして、1994718日に実際にブエノスアイレスで起きたアルゼンチン・イスラエル相互協会AMIA爆破事件までのスピード感が、後半失速してしまった印象でした。国民にとっては90年代にアルゼンチンを襲った政治経済の危機的状況、ユダヤ系移民のアルゼンチンでの立ち位置などは周知のことでも、知識がない観客には主人公の短絡的な行動が分かりにくいのではないか。また後半にまたがる20011223日の史上7回目となる債務不履行〈デフォルト〉という国家破産についてもすっぽり抜け落ちていました。

 

AMIA爆破事件1994718日、ブエノスアイレスのアルゼンチン・イスラエル相互協会(共済組合)AMIAAsociacion Mutual Israelita Argentina)本部ビルの爆破事件、死者85人、負傷者300人という大規模なテロ事件。イスラエルと敵対関係にあるイランの関与が指摘されているが真相は今以って未解決。1992年のイスラエル大使館爆破事件(死者29人、負傷者242人)に続くテロ事件。アルゼンチンにはユダヤ系移民のコミュニティーが多く存在し、ラテンアメリカでは最大の約30万人が居住している。シリアやレバノンからのアラブ系移民のコミュニティーの中心地でもあることから両国は複雑な政治的関係にある。

   

    

(左から前列製作者フェデリコ・ポステルナクとチノ・ダリン、後列ホアキン・フリエル、

  ボレンステイン監督、グリセルダ・シチリアニ、ラリ・ゴンサレス、マラガFF2024

 

セバスティアン・ボレンステインのキャリア&フィルモグラフィー紹介

『コブリック大佐の決断』の作品紹介とフィルモグラフィーは、コチラ20160430

『明日に向かって笑え!』の作品紹介は、コチラ20200118

 

 『安らかに眠れ』原題「Descansar en paz」英題「Rest in Peace」)

製作:Benteveo Producciones / Kenya Films

監督:セバスティアン・ボレンステイン

脚本:セバスティアン・ボレンステイン、マルコス・オソリオ・ビダル

   (原作:マルティン・バイントルブ)

音楽:フェデリコ・フシド

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ

美術:ダニエル・ヒメルベルグ

製作者:フェデリコ・ポステルナク、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、エセキエル・クルプニコフ、(エグゼクティブ)フアン・ロベセ

 

データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、サスペンス・ドラマ、107分、撮影地ブエノスアイレス、パラグアイの首都アスンシオン、撮影期間9週間、2023325日クランクイン。公開アルゼンチン2024321日、Netflix 配信2024327

映画祭・受賞歴:第27回マラガ映画祭2024セクション・オフィシアル上映、銀のビスナガ主演男優賞(ホアキン・フリエル)、同助演男優賞(ガブリエル・ゴイティ)受賞

 

キャスト:ホアキン・フリエル(セルヒオ・ダシャン/ニコラス・ニエト)、グリセルダ・シチリアニ(妻エステラ・ダシャン)、ガブリエル・ゴイティ(高利貸しウーゴ・ブレンナー)、ラリ・ゴンサレス(ゴルドの妻イル)、ラウル・ドマス/ダウマス(エル・ゴルド電器店主ルベン/愛称ゴルド)、マカレナ・スアレス(セルヒオの娘フロレンシア)、ソエ・クニスキ(フロレンシア12歳)、フアン・コテット(セルヒオの息子マティアス)、ニコラス・Jurberg(マティアス/マティ)、アルベルト・デ・カラバッサ(フロレンシアの夫アリエル)、エルネスト・ロウ(セルヒオの弟ディエゴ)、ルチアノ・ボルヘス(セルヒオの友人ラウル)、サンティアゴ・サパタ(役人)、アリシア・ゲーラ(ベアトリス/愛称ベア)、他多数

 

ストーリー1994年ブエノスアイレス、多額の借金に追い詰められたセルヒオは、偶然AMIA本部ビルの爆破事件に遭遇する。軽い怪我を負ったセルヒオは、この予測不可能な状況を利用して姿を消すことを決意する。自分の死を偽装したセルヒオは、ニコラス・ニエトという偽りの身分でパラグアイの首都アスンシオンに脱出する。過去を封印した15年の歳月が流れるが、ネットで偶然故国に残してきた家族を発見したことで望郷の念に駆られ、それは強迫観念となっていく。安定しているが偽りの人生を続けるか、危険を冒して故国に戻るか。人間は一つの人生を永遠に消し去り、別の人生を生きることができるのか。ネット社会の功罪、現実逃避などが語られる。

     

   

    (爆破されたAMIA本部ビルの瓦礫に佇むセルヒオ、フレームから

 

 

   「映画は映画、文学は文学であって別物」と語る原作者バイントルブ

 

A: 冒頭で本作は同名小説の映画化と書きましたが、マラガ映画祭のプレス会見でボレンステイン監督は「小説にインスパイアされたものだが、同じテーマの2冊の作品を土台にしている」と語っております。作家からは「映画と小説は別物であってよい」と、脚本に一切口出しは控えてくれたようです。

B: 小説の映画化でも「映画は映画、文学は文学であって別物」が原則です。作家によっては違うと文句いう人いますが。

 

A: 監督によると「小説の主人公はもっと嫌な人物で、映画のように頭に怪我を負っていない。想定外のテロ事件を利用して姿を消す決心をして、証拠となるようカバンを投げ捨て遁走する。

B: アリバイ工作をするわけですが、映画では意識が戻ったとき、カバンは持っていなかった。

A: 妻エステラも嘘つきのうえ夫に不実な女性で、総じて夫婦関係は壊れている。どちらかというと二人とも互いに憎みあっていたという人物造形のようです。

 

B: エステラが既に夫を愛していなかったのは映画からも読み取れます。贅沢が大好きで、夫を睡眠薬漬けにして苦しめた高利貸しブレンナーとちゃっかり再婚している。

A: 字幕はブレナーでしたが、この高利貸しの人物造形も一筋縄ではいかない。苗字から類推するにドイツからのユダヤ系移民のように設定されている。裏社会に通じていることは明白ですが、主人公を脅迫してまで容赦なく返済を迫っていた彼が、彼の妻エステラには借金を棒引きにしている。

B: これがユダヤ式のルールなのでしょうか。実父セルヒオをスーパーマンのように尊敬していたマティ少年をアブナイ道に誘い込んでいる。

 

A: ブレンナーを演じたガブリエル・ゴイティは、俳優のほかコメディアンとして〈El Puma Goity ピューマ・ゴイティ〉として知られています。本作の危険な男の役柄で「新境地を拓いた」と評価を高めています。マラガ映画祭には不参加でしたが、銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。

B: 敵役のホアキン・フリエルが代理でトロフィーを受けとった。

  

A: 本作に登場する人物では主人公が第二の人生を送るパラグアイの人々に比して、アルゼンチン人はこの国特有の嫌らしい気質で描かれていて面白かった。

B: 劇中、アルゼンチンでの仕事をゴルド社長から頼まれたセルヒオに「アルゼンチン人は注文が多くて行きたくない」と言わせており、図星をさされたアルゼンチンの観客は大笑いしたことでしょう。実態とかけ離れた特権意識が強いアルゼンチン人は、近隣諸国からはおしなべて嫌われていている。

        

     

  (笑顔で脅迫する不気味なブレンナー役のガブリエル・ゴイティ、フレームから)

  

A: 主人公の過去を不問にして闇の身分証明書IDを入手してくれたエル・ゴルドをサンタクロースの衣装で急死させている。少し都合がよすぎて笑えましたが、このゴルド役ラウル・ダウマスは、映画データバンクによれば映画初主演です。舞台俳優かもしれない。

    

       

            (エル・ゴルド役のラウル・ダウマス)

 

B: エル・ゴルドの話の分かる賢い妻イルを演じたラリ・ゴンサレスの演技が光っていましたが。

A: パラグアイ出身、1986年アスンシオン生れ、映画、舞台、TVシリーズで活躍するベテラン女優、弁護士でもある。フアン・カルロス・マネグリア&タナ・シェンボリの「7 cajas」で映画デビュー。本作はゴヤ賞2013スペイン語外国映画賞にノミネートされ脚光を浴びることになった。映画市場の小さいパラグアイでは活躍の場が少なく、本作のようにアルゼンチンや国外の映画に出演している。他の代表作は「Luna de cigarras」(14)、「El jugador」(16)など、ロマンス、アクション、スリラーなど演技の幅は広い。

7 cajas」の紹介記事は、コチラ20151213

    

          

         (イル役のラリ・ゴンサレスとホアキン・フリエル)

 

B: ベッドシーンは監督とカメラマンのみで行われ、監督の配慮に感謝したとか。

A: ラテンアメリカ諸国は数は減少しているとはいえ多くがカトリック信者です。すっぽんぽんには抵抗感があるからでしょう。

 

      ストーリーのありきたり感を救ったホアキン・フリエルの演技

 

B: 主人公は前半を借金で首の回らないセルヒオ・ダシャンとして、後半を遁走中に乗ったタクシーの運転手の名前ニコラス・ニエトとして二つの人生を生きる。

A: まず名前から分かるように主人公の家族もユダヤ教徒のアルゼンチン人であることです。だから借金まみれでもユダヤ教徒に欠かせない女子の成人式を祝うバトミツワーのパーティーをしたわけです。本作はユダヤ系アルゼンチン人社会を背景にしたドラマであることを押さえておく必要があります。

   

  

  (娘の12歳の成人式バトミツワーのパーティーで幸せを演出するダシャン一家)

 

B: ホアキン・フリエルが演じたセルヒオの苗字Dayanは、イスラエルではダヤンが一般的と思いますが、字幕も発音もダシャンでした。

A: スペイン語の〈y〉と〈ll〉の発音は国や地域によって違いがあり、アルゼンチンでもブエノスアイレス周辺では、日本語のシャ行に近い音になる。同じスペイン語とはいえ、先住民やそれぞれの移民コミュニティーの言語の影響を受けて違いが生じるのは当り前です。

 

B: 金貸しウーゴ・ブレンナーのBrennerはドイツ系の苗字、アルゼンチンはドイツからの移民も多く、第二次世界大戦後にはニュルンベルク裁判を逃げおおせたナチス戦犯を含めたナチの残党、反対にヒットラーに追われたユダヤ系ドイツ人の両方を受け入れている。

A: アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンや、戦時中にユダヤ人に人体実験を行っていた医師ヨーゼフ・メンゲレがアルゼンチンに潜伏できたのも、この強固なドイツ人コミュニティーのお蔭です。この歴史的事実は幾度となくドキュメンタリーやドラマ化されており、監督がAMIA爆破事件を取り入れた理由のひとつではないでしょうか。

 

B: 移民国家であるアルゼンチンは、セルヒオ同様、やむなく偽りの人生を送っている人が多いのかもしれない。裏社会に通じているブレンナーの謎の部分は詳しく語られないが、彼がユダヤ教徒であることは、フロレンシアとアリエルの結婚式ではっきりします。

 

A: ホアキン・フリエルは、1974年ブエノスアイレス生れの俳優、舞台俳優としてスタートを切る。最初はTVシリーズ出演が多く、映画デビューは実話をベースにしたセバスティアン・シンデルの「El patrón, radiografía de un crimen」(14)、本作で銀のコンドル賞、グアダラハラ映画祭男優賞、アルゼンチン・アカデミー主演男優賞などを受賞した。その他同監督の「El hijo」(19)と公開されたダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(16)で、アルゼンチン・アカデミー賞にノミネートされている。最近は映画にシフトしており、Netflix配信の『シャチが見える灯台』(16)、フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー、血族の秘密』(18)などが字幕入りで観ることができます。

          

       

       (クロリンダ市から国境線パラグアイ川を越えるセルヒオ)

      

        

   (銀のビスナガ主演男優賞のトロフィーを手に、マラガ映画祭2024ガラ)

 

B: 妻エステルを演じたグリセルダ・シチリアニは、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(22)に出演しています。

A: ダニエル・ヒメネス・カチョ扮する主人公の妻役、サンセバスチャン映画祭2022に監督たちと参加しています。1978年ブエノスアイレス生れの女優、TV女優として出発、2012アルマンド・ボーの『エルヴィス、我が心の歌』で銀のコンドル賞にノミネート、スペインのセスク・ゲイの「Sentimental」で、ゴヤ賞2021新人女優賞ノミネートの他、サン・ジョルディ賞とモンテカルロ・コメディ映画祭の主演女優賞を受賞している。

『エルヴィス、我が心の歌』の作品紹介は、コチラ20160622

    

       

     (死んだはずの夫の姿を目撃して驚愕するエステラ、フレームから)

 

           伏線の巧みさと高利貸しの深慮遠謀

 

B: 幸い軽傷ですんだ爆破事件に遭遇した後、姿を消す決心をする引き金はどの辺でしょうか。セリフは全くありません。

A: 公衆電話でどこかに電話しますが繋がらない辺りでしょうか。失ったカバンはいずれ瓦礫の中から発見され、遺体が見つからなくても犠牲者の証拠品となる。伏線でブレンナーに返済すべき現金はカバンでなくウエストポーチに入れたと確認するシーン、好況だったときに掛けた高額な生命保険金で借金が完済できることなどが観客に知らされている。

 

B: 姿を消す条件は揃った。夫の苦悩より子供の授業料やクラブ費を優先する妻にはもはや未練はないが、二人の子供と別れるのは辛い。しかし子供の幸せには代えられない。

A: 伏線を張るのが好きな監督です。犬を連れた路上生活者が冒頭のシーンに出てくるが、これなんかもその一例。主人公は自分の将来の姿と重ねて怯えている。パラグアイで野良犬を名前も付けずに15年間飼い続けている。犬は心を許せる友であって唯の犬ではないのです。

 

B: 成長した娘フロレンシアをネットで偶然目にしたことで、偽りの人生に疲れ始めていた彼は自制心を失っていきます。

A: ネット社会の功罪が語られるわけですが、これは発火点にしか過ぎない。果たして人間は過去の人生を永遠に消し去ることができるのかという問い掛けです。このあたりから結末は想像できますが、管理人の場合、大筋では合っていましたが少し外れました。

 

B: お金が絡むと兄弟喧嘩はつきものだし、主人公は娘の養父が自分の運命を狂わせた高利貸しだったことに驚愕するわけですが、アルゼンチンのように政治経済や社会が常に不安定だと何でもありです。

A: ストーリーには多くの捻りがあり、それなりに魅力的でしたが、後半の継ぎはぎが気になりました。しかしセルヒオに欠けていた高利貸しの深慮遠謀や素早い行動力は、社会が常に不安定な国家では褒めるべきでしょう。現実逃避だけでは解決できません、悪は存在していますから。


アルゼンチン映画『安らかに眠れ』*ネットフリックス配信2024年04月16日 11:30

       セバスティアン・ボレンステイン新作――ホアキン・フリエルの熱演

    

        

★しばらく休眠しておりましたが近所のサクラ並木も葉桜になり、お花見団子も食べたことだし、そろそろ再開します。オスカー賞にノミネートされていたフアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』もイギリス代表のジョナサン・グレイザー『関心領域』(5月24日公開)に軍配があがり、メイク・アップ&ヘアー賞は『哀れなるものたち』に、パブロ・ベルヘルの『ロボット・ドリームズ』は宮崎駿作品に、マイテ・アルベルディの長編ドキュメンタリーはウクライナ=アメリカ合作の『マリウポリの20日間』(426日公開)にと、軒並み賞を逃しました。特にロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間の実録に勝つのは難しかったことでしょう。本作がウクライナ映画史上初のオスカー受賞作ということでした。

 

★マラガ映画祭で紹介予告をしていたセバスティアン・ボレンステインの新作『安らかに眠れ』(「Descansar en paz)も、気づけば配信されていたのでした。まだ一度しか観ていないので詳細は次回に回しますが、個人的にはリカルド・ダリンルイス・ブランドニのベテラン二人を起用したコメディ『明日に向かって笑え!』(「La odisea de los giles192021年公開)のほうが好みでしょうか。ただ主演のホアキン・フリエルがマラガ映画祭2024主演男優賞、ガブリエル・ゴイティが助演男優賞を受賞しており、紹介を兼ねてアップしたい。

La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ20200118

 


          (ホアキン・フリエル、フレームから)

 

    

                   (ガブリエル・ゴイティ、フレームから)

 

★当ブログ紹介のロドリゴ・モレノの「Los delincuentes」が東京国際映画祭2023の好評もあってか、邦題『ロス・デリンクエンテス』で公開されることになりました。公開、ネット配信の違いはありますが、アルゼンチン映画が字幕入りで観る機会が増えたことを素直に喜びたい。

Los delincuentes」の作品紹介は、コチラ20230511

    

   

★カンヌ映画祭もコンペティションと「ある視点」部門のノミネート作品が発表になりました。ポルトガルのミゲル・ゴメスの『グランド・ツアー』(2025年公開予定)ほか、コッポラ、クローネンバーグ、アンドレア・アーノルドなど大物監督の名前がずらり、もしかしたらと期待していたフリオ・メデムやルクレシア・マルテルのドキュメンタリーは姿を消し、スペイン語映画はお呼びでないようです。


マルセロ・ピニェイロ、レトロスペクティブ賞ガラ*マラガ映画祭2024 ⑨2024年03月18日 17:04

        アルゼンチンの監督マルセロ・ピニェイロにレトロスペクティブ賞

     

       

38日金曜日、日刊紙マラガ・オイがコラボするレトロスペクティブ賞―マラガ・オイが、アルゼンチンの監督、脚本家、製作者のマルセロ・ピニェイロに与えられました。総合司会者はセリア・ベルメホでした。本賞は映画功労賞の意味合いがありベテラン・シネアストが受賞する賞です。1953年ブエノスアイレス生れのピニェイロは、70歳を超えていますが勿論現役です。プレゼンターは撮影監督のアルフレッド・マヨ、監督で製作者のヘラルド・エレーロNetflix ラテンアメリカ担当の副会長フランシスコ・ラモス、俳優のホアキン・フリエル、作家で脚本家のクラウディア・ピニェイロ5名でした。

      

        

  

 ★プレゼンター各氏の温かい紹介スピーチを会場で聞き入っていた受賞者は、セリア・ベルメホに促されて颯爽と登壇すると、クラウディア・ピニェイロの手からトロフィーを受けとりました。40代で監督デビューした受賞者は、「まず何よりも、私を受賞者に選んでくださったフェスティヴァルに御礼を申し上げたい。以前にこの賞を誰が受賞したか知ったとき、この賞の価値に気づきました。私は多くの素晴らしい人々に支えられて幸運でした、例えば映画や演劇の先生、脚本家、撮影監督、プロデューサー、俳優、私の映画を輝かせてくれた沢山の人々です。皆さんにありがとうを言いたい」と拍手に囲まれながらエモーショナルに締めくくった。

       

             

             (右端にクラウディア・ピニェイロ)

    

★当ブログでは2回にわたってキャリア&フィルモグラフィー紹介をしていますが、系統だった記事ではないので補足します。アルゼンチンのラプラタ大学で映画を専攻、1983年、ルイス・プエンソと制作会社シネマニアを設立、アルゼンチンに初めてオスカー像をもたらした『オフィシャル・ストーリー』85)の製作を手掛けました。アルゼンチン映画アカデミー設立メンバーの一人で副会長に就任している。1993年、「Tango feroz: la leyenda de Tanguito」で監督デビュー、監督第1作に与えられる銀のコンドル賞オペラ・プリマ賞を受賞した。監督デビューが遅かったこともあり、映画作家としては寡作です。しかし評価は高く多くが映画祭や映画賞を受賞している。フィルモグラフィーは以下の通り:

 

1995年「Caballos salvajes」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)

    サンダンス映画祭1996オナラブルメンション、レリダ映画祭1997観客賞

1997年「Cenizas del paraíso」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)

    ゴヤ賞1998スペイン語外国映画賞、ハバナFF1997脚本賞、レリダFF1998観客賞

2000年「Plata quemada」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)

    邦題は『炎のレクイエム』『逃走のレクイエム』『燃やされた現ナマ』

    ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞、銀のコンドル脚色賞

2001年「Historias de Argentina en Vivo」監督

2002年「Kamchatka」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)

    カルタヘナ映画祭2003脚本賞、バンクーバーFF2003ポピュラー賞、

    ハバナ映画祭2003脚本賞・サンゴ賞3

2005年「El método」監督・脚本(共同マテオ・ヒル)

    ゴヤ賞2006脚本賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、フランダース映画祭観客賞

2009年「Las viudas de los jueves」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)

   『木曜日の未亡人』DVDタイトル

2013年「Ismael」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス、ベロニカ・フェルナンデス)

2021~23年「El reinoTVシリーズ、監督・脚本(共同クラウディア・ピニェイロ)

 邦題『彼の王国Netflix配信、銀のコンドル2022オリジナル脚本賞、

  イベロアメリカ・プラチナ賞2022 TVミニシリーズ部門作品賞

  

クラウディア・ピニェイロとは、彼女のベストセラー小説 Las viudas de los jueves2005年刊)を映画化した。公開には至らなかったが『木曜日の未亡人』09)の邦題で2010DVD化された。最近ではTVミニシリーズ「El reino8話)の共同執筆者でもあり、また今回のマラガ映画祭セクション・オフシアルの審査委員長を務めている。また本シリーズには主演男優賞を受賞したホアキン・フリエルが重要な役どころで出演している。アップが受賞結果と前後したので3月8日段階では 分からなかったが、監督お気に入りのようです。

    

       

           (監督と脚本家クラウディア・ピニェイロ)

    

       

         (ヘラルド・エレーロ、監督、ホアキン・フリエル)

 

アルフレッド・マヨは「Caballos salvajes」「Cenizas del paraíso」「Plata quemada」「Kamchatka」「El método」とヒット作を手掛けているスペインの撮影監督です。マドリード出身のヘラルド・エレーロは監督と同じ1953年生れ、スペインだけでなく多くのラテンアメリカの監督とタッグを組んでいる。ピニェイロとは、「Plata quemada」や「El método」を製作している。

 

El método」の作品紹介は、コチラ20131219

『逃走のレクイエム』の作品紹介は、コチラ20220616

第27回マラガ映画祭2024結果発表*マラガ映画祭2024 ⑧2024年03月14日 15:16

       金のビスナガは「Segundo premio」と「Radical」が受賞

    

       

 

310日、第27回マラガ映画祭は、スペイン映画部門に「Segundo premio」(監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス)、イベロアメリカ映画部門にメキシコの「Radical」(監督クリストファー・ザラ)を選んで閉幕しました。前者は受賞候補として一馬身抜けており、驚きはなかったでしょうか。驚いたのは登壇したスタッフ、キャスト陣の数の多さとラクエスタ監督のギター演奏でした。これには特別な理由がありました。家督と製作者イサ・カンポのひとり娘ルナが数ヵ月前に白血病で鬼籍入りしていたということなのでした。まだ小学生くらいだったルナも一緒に3人で来日したことがあり、管理人も驚きを隠せませんでした。ギター演奏と歌、トロフィーもルナとグラナダのバンド「ロス・プラネタス」に捧げられました。本作は監督賞と編集賞の3冠を受賞しました。後者はサンダンス映画祭でプレミアされ高評価を受けていたので何らかの賞に絡むとアップを予定しておりましたが、まさか金星取るとは思いませんでした。

    

   

           (ギターで娘ルナを偲ぶイサキ・ラクエスタ)

 

★総合司会者は、ジャーナリストでテレビ司会者のエレナ・サンチェスと、コメディアンで俳優のフリアン・ロペス、スペインでは二人を知らない人はいないでしょう。会場を楽しませたミュージシャンは、出演順に紹介すると、ピアニストのアレハンドロ・ペラヨは、カルロス・サウラの『カラスの飼育』で使用されたことで大ヒットとなったジャネットの Porque te vas やマリソルの Tómbola などで会場を盛り上げました。フラメンコ歌手のキキ・モレンテはルス・カサルの Piensa en mí、テネリフェ出身のシンガーソングライターのST. ペドロは自身のヒット曲 Dos extraños、インディーロックバンドのベトゥスタ・モルラは最新作 La sábana de mis fantasmas を演奏しました。

    

        

     (アレハンドロ・ペラヨ、フリアン・ロペス、エレナ・サンチェス)

 

★セクション・オフィシアルの審査員は、委員長がアルゼンチンの作家、脚本家、戯曲家のクラウディア・ピニェイロ、サンセバスチャン映画祭メインディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス、チリの女優アントニア・セへレス、ボリビアの監督アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、アルゼンチンの脚本家ダニエラ・フェヘルマン、スペインの監督ハビエル・ルイス・カルデラ6名でした。金のビスナガを発表するさい全員登場、クラウディア・ピニェイロ委員長とレボルディノスが挨拶しました。

    

     

          (左端が審査委員長クラウディア・ピニェイロ)

 

★金賞は製作者に与えられる作品賞のみで、以下はすべて銀賞です。最後の2カテゴリー、観客賞と批評家審査員特別賞は補完的な賞です。マラガ映画祭は他にソナチネ部門、ドキュメンタリー、短編映画など各部門ごとに受賞作が発表になっていますが割愛です。セクション・オフィシアルの受賞作、受賞者は以下の通りです。プレゼンターを分かる範囲でアップしています。

 

     27回マラガ映画祭セクション・オフィシアル受賞結果

 

金のビスナガ(スペイン映画)

プレゼンター:審査員ホセ・ルイス・レボルディノス

Segundo premio 製作BTeam Pictures / Capricc Films / Ikiru Films  他  

           監督イサキ・ラクエスタポル・ロドリゲス

   

 

 

(バスでマラガ入りしたスタッフとキャスト)

  


   

金のビスナガ(イベロアメリカ映画)

プレゼンター:審査委員長クラウディア・ピニェイロ

Radical 製作フェルナンド・リエラ

       監督クリストファー・ザラ(欠席、ビデオ出演)

       

         

 (受賞者を紹介するピニェイロ審査委員長)

      

     

               (フェルナンド・リエラ)  

        

     

 

審査員特別賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:ウナックス・ウガルデ&ネレア・バロス

Los pequeños amores 監督セリア・リコ

    

      

 

   

監督賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:ダニエル・モンソン&マリア・ボット

イサキ・ラクエスタポル・ロドリゲス 「Segundo premio

           

                   

                      (各自に1個ずつトロフィーが渡された)


     

    (ラクエスタ監督が共同監督ロドリゲスにトロフィーを、右はプレゼンター

  

主演女優賞(ホテルACマラガ・パラシオ銀のビスナガ)

プレゼンター:ルイサ・ガバサ、スシ・サンチェス、アントニア・サエラ(審査員)

ロラ・アモレス 「La mujer salvaje」 監督アラン・ゴンサレス

       

   

    (プレゼンターのベテラン女優) 

 

   

    

主演男優賞(銀のビスナガ、今回は2人)

プレゼンター:ハビエル・ペレイラ&マギー・シバントス

ルイス・サエラ(欠席、ビデオ出演) 「Pájaros」 監督パウ・ドゥラ

    

      

       (サエラは忙しくて、と代理でトロフィーを受け取った監督)

    

  

 (ルイス・サエラ右、共演者ハビエル・グティエレス、フレームから)

 

ホアキン・フリエル 「Descansar en paz」 監督セバスティアン・ボレンステイン

   

        

     

 (アルゼンチンのフォルクローレ、マランボを踊る受賞者)

 

助演女優賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:ゴヤ・トレド&フェリックス・ゴメス

アドリアナ・オソレス 「Los pequeños amores」 監督セリア・リコ・クラベリーノ

    

 

       

助演男優賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:リカルド・ペレイラ&ベレン・ロペス

ガブリエル・ゴイティ 「Descansar en paz

受賞者欠席で共演者のホアキン・フリエルが代理で受け取った。

        

                

                    (受賞者ガブリエル・ゴイティ、フレームから)

 

脚本賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:ホセ・コルバッチョ&マリア・アダネス

アレックス・モントーヤジョアナ・オルトゥエタ 「La casa

    

    

 

音楽賞オリジナルスコア(銀のビスナガ)

プレゼンター:アンドレ・ラモグリア&カルメン・アルファ

フェルナンド・ベラスケス 「La casa

    

      

  

撮影賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:ナタリア・サンチェス&アライン・エルナンデス

フアン・カルロス・マルティネス 「Golán」 監督オルランド・クルサト

     

  

           (受賞者欠席で監督が代理で受け取った)

 

   

   

編集賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:マリア・ロマニリョス&ガブリエル・ゲバラ

ハビ・フルトス 「Segundo premio

    

    

 

批評家審査員特別賞(銀のビスナガ)

プレゼンター:パウラ・エチェバリア&アルフォンソ・バサベ

Nina 監督アンドレア・ハウリエタ

    

 

   

   

観客賞(銀のビスナガ)

La casa 監督アレックス・モントーヤ

    

  

       


   

14カテゴリーのうち「Segundo premio」と「La casa」が3個ずつ、「Los pequeños amores」が2個とスペイン映画に偏っている。いずれも配給会社はLatido Films が手掛けている。これからカンヌ、ロカルノと映画祭が開催されるから忙しいことでしょう。「La casa」のアレックス・モントーヤは、マラガ映画祭2021ソナチネ部門に出品した「Lucas」が作品賞、観客賞、主演男優賞を受賞しており次作が待たれていました。新作はスタイリッシュな家族ドラマのようで紹介予定です。


★「Los pequeños amores」のセリア・リコ・クラベリーノは、前作「Viaje al cuarto de una madre」(18)で高い評価を受けゴヤ賞2019新人監督賞にノミネートされている。新作は3冠ですから紹介すべきでしょう。アルゼンチンの「Descansar en paz」のセバスティアン・ボレンステインは、リカルド・ダリン映画の監督としてお馴染みですが、今回はダリンの姿はありません。主演・助演男優賞を受賞しており、キャスト紹介もしたいところです。

 

★特別賞のレトロスペクティブ賞マルセロ・ピニェイロの授与式のアップも終わらないうちに閉幕してしまいました。依怙贔屓なく紹介したい。ガラは進行役のエレナ・サンチェスが「来年のマラガ映画祭は314日から23日まで、同じここセルバンテス劇場でお会いしましょう」でお開きになりました。

   

   

            (締めくくりをしたエレナ・サンチェス)


ダビ・トゥルエバの新作「El hombre bueno」*マラガ映画祭2024 ⑦2024年03月08日 14:43

          夫婦関係について、別離に至る苦悩についてを熟考するドラマ

 

     

36日、ダビ・トゥルエバの新作「El hombre bueno」の第1回上映がアルベニス映画館でありました。監督は出演者ホルヘ・サンスマカレナ・サンスビト・サンスとともにフォトコールにおさまりました。苗字が同じサンスでも血縁関係はないそうです。映画祭も折り返し点を過ぎ、セクション・オフィシアルの1回目の上映はほぼ終わり、各プレス会見も行われています。

 

★昨年ダビ・トゥルエバは、カタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラの悲しみと喜び、想像力を結集させた「Saben aquell」でファンを楽しませたばかりですが、ホルヘ・サンス久々の出演ということで作品紹介をいたします。低予算で製作された本作は、「作るのがとても楽しい映画でした。私は敬愛するホルヘ・サンスと再び仕事がしたかったのです」と、プレス会見で製作の動機を語った。ホルヘ・サンスは監督が宿願のゴヤ賞を初めて受賞した『「ぼくの戦争」を探して』に出演しています。サンスは監督が愛する実父の人格が投影されている役を演じたのでした。

Saben aquell」の作品紹介は、コチラ20231230

『「ぼくの戦争」を探して』の作品・監督キャリア紹介は、コチラ20141121

      

    

(左からビト・サンス、監督、マカレナ・サンス、ホルヘ・サンス、36日フォトコール)

 

El hombre bueno

製作:Buenavida Producciones / Perdidos G.C.

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ

撮影:イグナシオ・ガバサ

音楽:ライモン、Veles e vents

編集:マルタ・ベラスコ

録音:サロメ・リモン

 

データ:スペイン、2024年、ドラマ、79分、撮影地マジョルカ島(バレアレス諸島)、配給・販売Buenavida Producciones

キャスト:ホルヘ・サンス(アロンソ)、マカレナ・サンス(ベラ)、ビト・サンス(フアン)

  

ストーリー:ベラ、フアン、娘のマヌエラは、フアンの元同僚で上司でもあったアロンソが所有する海辺の快適な家で数日間過ごそうとマジョルカにやってきた。アロンソはパートナーを亡くしたことで引退を決意していた。一方フアンとベラは離婚を決意しており、「善き人」アロンソに彼らの仲介役を担ってもらいたいと考えていた。喧騒から遠く離れた海辺の家で、3人の秘密が明らかになるにつれ、それぞれの愛と喪失に向き合うことになる。

   

      

       (フアン役のビト・サンス、アロンソ役のホルヘ・サンス、フレームから)

 

★情報が少なく、破綻寸前の夫婦の仲介者アロンソが善き人なのかどうか分からない。トゥルエバ監督はプレス会見で、「愛は最初に人を築き、次に人を破壊します。・・・ブーメランになる可能性もあります。いずれにせよ3人は完璧でも、正直でもなく、自分自身に満足していません。最も難しいのは、他人のアイディア、他人の欠点を尊重することなのです」と述べている。

    

      

           (マカレナ・サンス、監督、ホルヘ・サンス、プレス会見にて)

  

★フアン役のビト・サンスは「登場人物たちは善人でも悪人でもなく、両方を少しずつ持っている」。またその演技を絶賛されたマカレナ・サンスは、「本作は劇場向きの脚本で、とても複雑でした。毎晩でも演じたい、そうすれば毎晩新たな気づきが得られる脚本だからです」と語っている。

 

★ホルヘ・サンス(マドリード1969)については『「ぼくの戦争」を探して』でフィルモグラフィーを紹介をしています。子役からの俳優で既に3桁の作品に出演しています。アンソニー・クイーンと共演した『バレンチナ物語』が、1985年公開され日本でも認知度が高いか。また監督の実兄フェルナンドがオスカー賞を受賞した『ベルエポック』に4人姉妹の恋人役で出演しており、トゥルエバ兄弟とは縁が深い。最近ダビ・トゥルエバとはTVミニシリーズ「¿ Qué fue de Jorge Sanz ?」(8話、201017)で主役を演じており、現在では助監督をしている息子メルリン・サンスも4話だが出演している。

   

       

       

                      (引退して画家を目指しているアロンソ)

   

ハビエル・カマラにマラガ-スール賞ガラ*マラガ映画祭2024 ⑥2024年03月06日 18:12

    プレゼンターは作家エルビラ・リンド―ハビエル・カマラにマラガースール賞

   

         

       (エモーショナルな受賞スピーチをしたハビエル・カマラ)

 

34日、セルバンテス劇場でハビエル・カマラ(リオハ1967)のマラガ・スール賞のガラが開催されました。ガラに先立って地中海を臨むマラガの遊歩道アントニオ・バンデラス通りに受賞者の手形入りのモノリス記念碑の除幕式がありました。マラガ出身のバンデラスは本祭に資金提供をしているマラガ名誉市民です。除幕式にはマラガ市長フランシスコ・デ・ラ・トーレ、マラガ文化市議会議員マリアナ・ピネダ、コラボの日刊紙「スール」編集長アナ・ペレス≂ブライアン、総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルが参加しました。

    

     

       (自身の手形入り記念碑の前のハビエル・カマラ、34日)

       

   

 (左から、フアン・アントニオ・ビガル、受賞者、マラガ市長デ・ラ・トーレ、

   市議会議員マリアナ・ピネダ、スール編集長アナ・ぺレス≂ブライアン)

 

★ガラの進行役はリカルド・フランコ賞ガラと同じマラガ出身の女優ノエミ・ルイス、トロフィーのプレゼンターはジャーナリスト、作家、脚本家、女優と幾つもの顔をもつエルビラ・リンド、監督フェリックス・サブロソパロマ・フアネス、リカルド・フランコ賞2008の受賞者でもあるキャスティングディレクターのルイス・サン・ナルシソ4人が登壇しました。日本では『めがねのマノリート』で認知度が高いエルビラ・リンドがプレゼンターには少し驚きましたが、彼女が脚本を手掛けたホルヘ・トレグロッサの「La vida inesperada」(仮題「予期せぬ人生」)主演の繋がりでしょうか。俳優として更なる成功を求めてニューヨークに渡るも現実は厳しく期待したようにはならない。従兄役のラウル・アレバロが共演している。マラガ映画祭2014のクロージング作品だった。

       

   

  (左から、エルビラ・リンド、ハビエル・カマラ、フェリックス・サブロソ、

    パロマ・フアネス、ルイス・サン・ナルシソ)

 

★エルビラ・リンドは、市井の人物を演じるカマラを「私たちは一目で友人になった。やがていとこになり、今では姉弟です。生れながらの演技者、詩人、語りて、アーティスト。あなたのような人材が必要であり、人生を捧げて庶民を体現するコメディアンである」と称賛した。フェリックス・サブロソは「彼の創造的な成熟と生命力は、その芸術的プロセスに影響を与えたシネアストの一人」と評し、才能だけでなく彼のやさしさを強調した。ルイス・サン・ナルシソは「ハビエルについては議論されていないが賞賛されている」と語り、女優のパロマ・フアネスは、「彼は偉大な俳優だが、それ以上に人間的」と断言した。

   

      

      (エルビラ・リンド、ハビエル・カマラ、フェリックス・サブロソ)

 

★受賞者は、「ありがとう、ありがとう、ありがとう、この町が私に与えてくれた沢山の愛情に圧倒されています。度々私を招いて賞を授与してくれました」と感謝の言葉を述べた。スペインの小さな町で俳優になるための勉強をしている若い世代に向けて「マドリードやマラガのような都会にやってきた人々を励ましたい。この仕事には皆さんのような才能が必要です。私たちは計り知れない才能を秘めている若い世代を引き受けねばなりません」と変革を訴えたようです。トロフィーを俳優、映画製作者を目指しているすべての人々に捧げました。リオハの片田舎から20歳で大都会マドリードにやってきた受賞者らしいスピーチでした。

    

    「監督も私もマラガには本当に感謝しています」とハビエル・カマラ

 

★セルバンテス劇場内のロッシーニ・サロンで、恒例のフアン・アントニオ・ビガルによるインタビューがありました。マラガでの受賞歴は、2004パブロ・ベルヘルの『トレモリノス73』と2008ナチョ・G・ベリリャの『シェフズ・スペシャル』の銀のビスナガ男優賞、プラス今回のマラガ―スール賞の3賞です。そういえば『トレモリノス73』のパブロ・ベルヘルの姿はなく、多分オスカー賞にノミネートされている『ロボット・ドリームズ』のプロモーションで国内にいないのでしょう。

 

★カマラは「コメディ役者としてやってきたが、マラガは『トレモリノス73』以来ずっと私を支えてきてくれたと思っています。パブロ・ベルヘルも、役者の私も本当にマラガには感謝しています。本映画祭は常に才能ある人々を支えてくれています」とインタビューに答えている。ベルヘルにとってはデビュー作、カマラもアルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)のベニグド役でゴヤ賞主演男優賞にノミネートこそされたが、コメディ俳優の本領を発揮できたとは言い難かった。

    

       

    (フアン・アントニオ・ビガルのインタビューを受けるハビエル・カマラ)

 

★現在台頭してきた女性映画製作者について「彼女たちの声に耳を傾け、サポートすべき」と指摘した。また見向きもされない才能が隠れているので、それを探す必要性を語り、映画製作は複雑だが、特権を持つ人々が古いままではいけない、新しい才能に対して両手を広げることも重要と力を込めていた。おしゃべり好きな受賞者は「準備万端整えてセットに出向きます。口出しをしてはいけないときは黙っていますが、それが私には難しい」と冗談をとばした。

 

★スペイン映画での演技者の成長過程や共に作品を作り上げていく監督たちの貢献については「できる限りよくなるように仕事をしているし、監督たちが私を成長させてくれる。成長にはプロフェッショナルだけでなく個人的なものも必要である」と断言している。カマラは映画俳優を夢見ていたわけではなく舞台俳優を目指していた。しかし落ちこぼれを経験して、ある教師から本格的に演技学校で学ぶように忠告された。しかし演技学校に入ると、舞台は彼の目には小宇宙に見え、自分のやりたいことができるように感じられなかったとも語っている。

 

★カマラをお茶の間の人気者にした長寿TVシリーズ「7 vidas」(9906)の撮影休憩中に、共演中のベテラン女優アンパロ・バロ19372015)に、リハーサルではナーバスになるが、あなたはどうですかと聞いたら、「もっともっと多くなるのよ、ハビエル」と言われた。経験を積めば積むほど、それだけ責任も重くなる。「その通りです、この大女優の言葉を肝に銘じています」と締めくくった。

    

        

         (アンパロ・バロと、TVシリーズ「7 vidas」から)

 

★ハビエル・カマラのフィルモグラフィー紹介として、ダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』でアップしておりますが、それ以降の話題作はセスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(15)、ゴヤ賞2016助演男優賞受賞、コロンビア映画になりますがフェルナンド・トゥルエバの『あなたと過ごした日に』(20)を紹介しています。

『「ぼくの戦争」を探して』の主な記事は、コチラ20141121

『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ2016010920170804

『あなたと過ごした日に』の主な記事は、コチラ20200614


マラガ才能賞&リカルド・フランコ賞授与式*マラガ映画祭2024 ⑤2024年03月05日 10:02

           アナ・アルバルゴンサレスにリカルド・フランコ賞

     

     

    (メンデス=レイテからトロフィーを受け取るアナ・アルバルゴンサレス)

 

32日セルバンテス劇場で、特別賞の一つ、リカルド・フランコ賞の授与式がありました。プレゼンターはマラゲーニャのノエミ・ルイス、登壇した列席者はスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス≂レイテ、フアン・ルイス・イボラ監督、製作者のイソナ・パソラほか。カルロス・サウラ、ビセンテ・アランダ、ヘラルド・ベラ、アグスティ・ビリャロンガの美術や衣装デザインを手掛けたアナ・アルバルゴンサレスに光が当たった。サウラ以下監督すべてが既に鬼籍入りしており、30年以上というキャリアに感慨無量です。

  

       

           

              (受賞スピーチをする受賞者)

  

        

 

           ピラール・パロメロ監督にマラガ才能賞

 

33日セルバンテス劇場で、マラガ才能賞―マラガ・オピニオンの授与式が賑やかに行われました。受賞者ピラール・パロメロの母親も登壇するというちょっとしたサプライズ、親孝行娘に母親も大喜びでした。プレゼンターはセリア・ベルメホ、デビュー作『スクールガールズ』(20)出演者のナタリア・デ・モリーナ、ソエ・アルナウ、アンドリア・ファンドス、第2作「La maternal」(22)のカルラ・キルス、マラゲーニョの応援団アントニオ・デ・ラ・トーレ、若い監督を見守る製作者バレリー・デルピエール、母親、兄弟も登壇するという賑やかさでした。

    

         

      

                     (ピラール・パロメロ監督と母親)

     

   

(壇上に並んだデルピール左端、デ・モリーナ右端、デ・ラ・トーレなどの応援団)

       

   

 (総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルのインタビューを受ける監督)

 

34日には大賞マラガ・スール賞のハビエル・カマラが予定されています。