第24回ホセ・マリア・フォルケ賞2019*結果発表2019年01月17日 16:20

   ハビエル・フェセル「Campeones」が作品賞とCine y Educación en Valores のダブル受賞

 

       

  

                   

              (第24回フォルケ賞受賞者一同)

 

112日夕べ、第24回ホセ・マリア・フォルケ賞の授賞式がサラゴサで盛大に開催されました。先日、作品賞とアントニオ・デ・ラ・トーレの男優賞受賞のニュースはアップいたしましたが、全容は以下の通りです。フォルケ賞は、監督ではなく縁の下の力持ちとして映画産業を支える製作者に光を当てるべく設けられた賞で監督賞はありません。本来なら制作会社名をを入れるべきなのですが、認知度のある監督名を便宜的に入れておりますが、今回受賞作には追加しました。選考母体はオーディオビジュアル著作権管理協会EGEDA(会長エンリケ・セレソ)です。ゴヤ賞の行方を占うにはカテゴリー数が少ないのですが、ある程度の目安にはなると思います。

 

              

            (スピーチをする、EGEDA会長エンリケ・セレソ)

 

2018年の長編映画賞はイサベル・コイシェ『マイ・ブックショップ』3月公開予定)とマヌエル・マルティン・クエンカEl autorが分け合い、ゴヤ賞作品賞は前者、男優賞は後者の主役だったハビエル・グティエレスの手に渡りました。総合司会者のうち女性は昨年に引き続きジャーナリストのエレナ・サンチェス、男性は俳優のエドゥ・ソトに代わりました。

 

     

   (平土間に降りてきて候補者にインタビューするエレナ・サンチェスとエドゥ・ソト)

 

昨年の栄誉賞に当たるEGEDA金のメダル受賞者カルロス・サウラA.J. バヨナロドリゴ・ソロゴジェンアランチャ・エチェバリア、候補者ホセ・コロナドペネロペ・クルスエバ・リョラチ、フォルケ氏の一人娘ベロニカ・フォルケの姿もありました。教育文化スポーツ相ホセ・ギラオ、アラゴン州知事ハビエル・ランバンも列席、ミュージカル仕立てで、7カテゴリーにもかかわらず2時間近い授賞式でした。

 

       

長編映画賞(フィクション&アニメーション、副賞30,000ユーロ)

Campeonesハビエル・フェセル(アカデミー外国語映画賞スペイン代表作品)

 制作会社:Morena Films / Pelícuias Pendeltón SA / Telefónica Audiovisual Digital  

Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』アランチャ・エチェバリア

  (カンヌ映画祭「監督週間」)

El reinoロドリゴ・ソロゴジェン(サンセバスチャン映画祭コンペティション)

Entre dos aguasイサキ・ラクエスタ(サンセバスチャン映画祭金貝賞・監督賞受賞)

 

      

  (トロフィーを掲げているのが女優グロリア・ラモス、その右がハビエル・フェセル監督)

 

   

長編ドキュメンタリー賞(同6,000ユーロ)

El silencio de otrosロバート・バハーアルムデナ・カラセド

(ベルリンFF「パノラマ」のドキュメンタリー観客賞、オスカー賞スペイン代表作品

  制作会社:España BTeam Pictures /(共同)El Deseo

Apuntes para una película de atracosエリアス・レオン・シミニアニ

Dessenterrando Sad Hill」『サッド・ヒルを掘り返せ』(2017ギジェルモ・デ・オリベイラ

Camarón: flamenco y revoluciónアレシス・モランテ

   

      

    (トロフィーを手にアルムデナ・カラセド)

 

 

短編映画賞(同3,000ユーロ)

Nueve pasosマリサ・クレスポモイセス・ロメラ

Cerditaカルロタ・ペレダ

 制作会社:Pantalla Partida / Imval Producciones

Matriaアルバロ・ガゴ

   

     

 (製作者マリオ・マドゥエニョとルイス・アンヘル・ラミレスに挟まれたカルロタ・ペレダ) 

 

 

男優賞(同3,000ユーロ、Aisge基金より)

アントニオ・デ・ラ・トーレEl reino

ハビエル・グティエレスCampeones

ハビエル・バルデムTodos lo saben」『エブリバディ・ノウズ』アスガー・ファルハディ

  (カンヌ映画祭オープニング作品)

ホセ・コロナドTu hijoミゲル・アンヘル・ビバス

  (バジャドリード映画祭オープニング作品)

 

  

      

   (受賞を確信していたアントニオ・デ・ラ・トーレ)

 

 

女優賞(同3,000ユーロ、Aisge基金より)

アレクサンドラ・ヒメネスLas distanciasエレナ・トラペロ

 (マラガ映画祭「金のビスナガ」)

エバ・リョラチQuién te cantaráカルロス・ベルムト

 (サンセバスチャン映画祭コンペティション)

ペネロペ・クルスTodos lo saben

バルバラ・レニーPetraハイメ・ロサーレス(カンヌ映画祭「監督週間」、

  サンセバスチャン映画祭「ペルラス」)

 

    

 (ペネロペ・クルスやアレクサンドラ・ヒメネスをおさえて受賞したエバ・リョラチ)

 

 

長編イベロアメリカ映画賞(同6,000ユーロ)

ROMA」『ローマ』アルフォンソ・キュアロン(ベネチアFF「金獅子賞」)メキシコ

 制作会社:Esperanto Filmoj / Participante Media

Las herederas」『相続人』マルセロ・マルティネシ

  (ベルリンFF「アルフレド・バウアー」賞他)パラグアイ他 

La noche de 12 años12年の長い夜アルバロ・ブレッヒナー(ベネチアFF「オリゾンティ」、

  サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」)ウルグアイ他 

Sergio y Serguei」『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』エルネスト・ダラナス

  (サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」)キューバ他 

 

     

    (サプライズ・ゼロの受賞作「ROMA」、キュアロン監督は欠席でした)

 

 

Cine y Educación en Valores(副賞なし)

Campeones

Carmen y Lola

La enfermrdad del domingo」『日曜日の憂鬱』ラモン・サラサール

  (ベルリン映画祭「パノラマ」)

 

  

 EGEDA 金のメダル(栄誉賞)

ホセ・フラデJose Angel Frade Almohalla、マドリード1938、映画&テレビのプロデューサー)

ホセ・フラデ受賞はノミネーション段階(125日)では未決定でしたが、半世紀に及ぶ映画&テレビ界への功績が讃えられて贈られることになりました。1996年、マドリードを中心に放映するCanal 7 Televisiónの設立者の一人。主なフィルモグラフィーとして、フランコ体制時代では検閲逃れのピンクコメディ、アルフレッド・ランダを主役にしたNo desearás al vecino del quinto70ティト・フェルナンデス)やサスペンスもの、1973年にはエウヘニオ・マルティンのミュージカルLa chica del Molino Rojoを天才少女マリソル主演で製作している。

 

                  

             (EGEDA 金のメダル受賞のホセ・フラデ)

 

フランコ没後の民主化移行期には、ペドロ・オレア監督と組んでTormentoPim,pam,pum...!fuego!

1978ホセ・サクリスタンが女装して出演したUn hombre llamado Flor de Otoño」、ハイメ・カミーノとは70年代後半の優れた作品の一つと評価されたLas largas vacaciones del 193676)を手掛けている。1989年のハビエル・エロリエタSangre y arenaは、ビセンテ・ブラスコ・イバニェスの同名小説の映画化、言語が英語、人気の高い闘牛物ということで、邦題『血と砂』で公開された。まだそれほど有名でなかったシャローン・ストーンや『ミツバチのささやき』のアナ・トレントが出演していた。

 

90年代後半からはTVシリーズの製作が中心、2016年のTVシリーズLa sonata del silencio9話)、今年からアレクサンドラ・ヒメネス主演のコメディHospital Valle Norteが始まります。

 

『12年の長い夜』 アルバロ・ブレッヒナー*ゴヤ賞2019 ⑥2019年01月15日 19:01

            イベロアメリカ映画賞―アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』

 

      

   

★イベロアメリカ映画賞は、アルフォンソ・キュアロンROMA/ローマ』にほぼ決まりでしょうが、昨年暮れからアルバロ・ブレッヒナーの第3La noche de 12 añosが、邦題12年の長い夜』Netflixで配信が開始されました。サンセバスチャン映画祭2018「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉としてすぐさま記事をアップしましたおり、ゴヤ賞ノミネーションを予想いたしました。予想通りになりましたが前大統領ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレが助演男優賞候補になるとは思っていませんでした。スペインも製作国の一つですから規則違反ではありませんが、少し強引でしょうか。

 

★デ・ラ・トーレはロドリゴ・ソロゴジェンEl reinoで主演男優賞にもノミネートされており、虻蜂取らずにならないことを祈りたいところです。彼が欲しいのは1個持っている助演ではなく、素通りつづきの主演のはずです。スペイン映画賞としては最初に蓋を開けるフォルケ賞2019が、112日夜に発表になり、幸先よくEl reino」の演技が認められて男優賞を受賞しました。因みに作品賞は予想通りハビエル・フェセルが監督したCampeonesで、本作はCine y Educacion賞とのダブル受賞、こういうケースは初めてだそうです。ゴヤ賞を占ううえで重要な映画賞、フォルケ賞2019の受賞結果は次回にアップいたします。

 

         

             (フォルケ賞のトロフィーを手にしたアントニオ・デ・ラ・トーレ)

 

12年の長い夜』の作品・監督キャリア・キャスト紹介は、コチラ20180827

前回と重複しますがキャストとストーリーを以下に若干補足訂正して再録、前回アップ後の映画賞受賞歴も追加しました。

 

 12年の長い夜』の主な出演者

アントニオ・デ・ラ・トーレ(ペペ、ホセ・ムヒカ・コルダノ、201015年ウルグアイ大統領)

チノ・ダリン(ルソ、マウリシオ・ロセンコフ)

アルフォンソ・トルト(ニャト、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、201685日没)

セサル・トロンコソ(トゥパマロス壊滅作戦「死の部隊」を指揮した軍人)

セサル・ボルドン(アルサモラ軍曹)

ミレージャ・パスクアル(ムヒカの母親ルーシー)

ソレダー・ビジャミル(精神科医)

シルビア・ペレス・クルス(ウイドブロの妻イヴェット、劇中ではグラシエラ

ニディア・テレス(ロセンコフの母ロサ)

ルイス・モットーラ(少尉

ジョン・デ・ルカ(マルティネス、兵士)

ロドリゴ・ビジャグラン(アルメイダ、兵士)

ダビ・ランダチェ(軍人)

ロヘリオ・グラシア

ルチアノ・Ciaglia(ゴメス)  

 

ストーリー19736月、ウルグアイは軍事クーデタにより軍部の政治介入が実現した1971年の大統領選で左派連合が敗北してからは、都市ゲリラ「トゥパマロス」民族解放運動勢いも失速、壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。1973年9月7日夜、軍部の掃討作戦で捕えられていたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出され秘密裏に何処かへ護送されていった。これは12年という長きにわたって、全国に散らばっていた営倉を連れまわされることになる孤独の始りだった。それ以来、精神的な抵抗の限界を超えるような新式の実験的な拷問と孤独に耐え抜くことになる。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らしめる」ことなのは明らか、彼らは囚人ではなく軍部の人質だった。一日の大半を頭にフードを被せられ、足枷をはめられたまま独房に閉じ込められてい3人の人質とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。        (文責:管理人)   

         

         ウルグアイ軍事独裁政権の闇と孤独を描く12年間

 

A: 本作は「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を書き残そう」と誓い合った、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロマウリシオ・ロセンコフの共著Memorias del calabozoをもとに映画化されました。映画では3人に絞られていますが、実際は他にトゥパマロスのリーダー6人、合計9名だった。本著はこの9名の証言をもとに纏められたものです。

B: 民政移管になった1985年に釈放、バスで家族のもとに戻るさいに連呼された、ホルヘ・ベニテス、カルロス・ゴンサレス、ロベルト・イポリト、ワシントン・ゴンサレス・・・などが証言に応じた他の6人でしょうか。

A: 1993年にエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊されたものを検索しましたが確認できませんでした。おそらく苦しみを分かち合った他の仲間たちへの敬意が込められていたのでしょう。収監中に亡くなった人が約100名、いわゆるデサパレシードス行方不明者が140名という記録が報告されています。

 

       

          (txalaparta社から1993年に再刊されたMemorias del calabozoの表紙

 

B: 隣国アルゼンチンの軍事独裁政権の犠牲者3万人に比べれば桁違いですが、闘争中に射殺されたメンバーも多かった。屋根裏に逃げ込んだニャト(アルフォンソ・トルト)が逮捕されたとき、その家主夫婦が射殺されたシーンはそれを示唆しています。

A: そのときの掃討作戦を行なった<死の部隊>の指揮官の名前は映画では明らかにされなかった。当然分かっていたはずですが、IMDbにも軍人と表示されているだけです。セサル・トロンコソが演じていましたが、彼はウルグアイ出身、本邦ではセザール・シャローン&エンリケ・フェルナンデスの『法王のトイレット』(ラテンビート2008上映)の主役を演じている他、ルシア・プエンソXXY(同2007)にも出演しているベテラン俳優です。

 

     

           (憎まれ役の軍人に扮したセサル・トロンコソ)

 

B: 石をぶつけたいぐらい憎々しかったと褒めておきます。アルフォンソ・トルトもウルグアイ、その他にウルグアイからはルソ(チノ・ダリン)にラブレターを代筆してもらうアルサモラ軍曹役のセサル・ボルドン、ルソの母親ロサ役のニディア・テレスがウルグアイです。

A: エル・ペペの母親ルーシー役のミレージャ・パスクアルもウルグアイ、彼女については前回ご紹介しています。例の『ウイスキー』でデビューした独特の雰囲気のある女優です。ニディア・テレスはアルバロ・ブレッヒナー監督の第2Mr. Kaplan14)のカプラン夫人でデビューした遅咲きの女優です。以上がウルグアイの主な出演者です。

B: 多数の受賞歴をもつMr. Kaplan」についても、前回の監督キャリア紹介にワープして下さい。

 

    

                  (ルソにラブレターの代筆をしてもらうアルサモラ軍曹

 

A: アルゼンチンからはチノ・ダリンの他、精神科医を演じたソレダー・ビジャミル、スペインからはエル・ペペ役のアントニオ・デ・ラ・トーレの他、ニャトの妻になったシルビア・ペレス・クルスがそうですが、それぞれ前回簡単に紹介しています。監督がデ・ラ・トーレの出演交渉のためマドリードに出向きカフェで会った。すると「10分後には快諾してくれた」とベネチア映画祭のインタビューに答えていました。出演は即決だったようで、デ・ラ・トーレらしい。

 

       

    (左から、ムヒカ前大統領、監督、デ・ラ・トーレ、ベネチア映画祭のプレス会見にて)

 

B: 幼児から80歳に近いエキストラは、ウルグアイの新聞に出した募集広告を見て参加してくれた方だそうです。200名ぐらい参加している。1985年民政移管になって釈放された9名を刑務所の門前や沿道で出迎えた家族、支持者たちを演じてくれた。

A: ウルグアイの人々にとって1970年代はそんなに昔のことではないのですね。ウルグアイの軍事独裁政権は、いわゆるブラジル型といわれる官僚主義体制で、隣国アルゼンチンのように軍人が大統領ではなかった。しかしトゥパマロス掃討に功績のあった軍部の政治介入を許した警察国家体制ではあった。

 

B: 劇中で「お前たちは囚人でなく人質だ」と言い放った<死の部隊>の指揮官がその典型、囚人でないというのは裁判の権利がないということです。都市型ゲリラのトゥパマロスの抵抗に長いあいだ煮え湯を飲まされ続けていた軍部の憎しみは、相当根深かったと言われていますね。

 

       

              (再会を喜ぶニャトと家族、周囲の人は募集に応じたエキストラ)

 

       1981年軍政合法化についての憲法改正の是非を問う国民投票

 

A: 劇中では1973年から1985年までの12年間が収監日数と共に表示される。197397日、9人のトゥパマロスのリーダーが収監されていた刑務所から、軍部の手で秘密裏に南部のリオ・ネグラらしき軍の施設に移送される。

B: 刑務所ではなく、ベッドも便器も一切ないから重営倉の兵士が入れられる独房のようです。約1年後に別の軍施設に移動、803日目の1975年から収監日数が表示される。およそ1年ごとに移動しており、その都度19761074日目、19771529日目・・・19802757日目という具合に日数が表示される。

 

A: 1981年に軍部の政治介入を合法化する「憲法改正」の是非を問う国民投票が実施され、国民の答えはNoだった。19833883日目に、ルソが恋文を代筆したアルサモラ軍曹の兵舎に戻ってくる。軍曹の計らいで手錠をされたままではあったが目隠しなしで初めて太陽の日差しを浴びることができた。

 

   

   (初めて目隠しなしで顔を合わせる3人、生きていることを実感するシーン)

 

B: 観客にも解放の日の近いことを暗示するシーン、人間らしさを失わなかった軍人は彼一人だったでしょうか。そして19843984日目に仲間の多くが収監されていた最初の刑務所に戻ってくる。

A: ニャトがよたよたしながら刑務所の中庭でサッカーのボールを蹴る真似をする。窓からは「ニャト、ニャト、ゴール」の大歓声、社会の無関心に絶望していた過去が一気に吹き飛ぶ忘れられないシーンでした。彼らを苦しめたのは孤独と自分たちは忘れられてしまったという社会の無関心でした。

B: 母親が差し入れた便器に種をまき咲かせたヒナゲシの植木鉢を抱えてムヒカが出所する。日数の表示は、19854323日目が最後になる。

 

      

  (ピンクの便器を抱えて刑務所を出るエル・ぺぺ、201075歳でウルグアイ大統領になる)

 

          冷戦時代の米国がもっとも恐れた裏庭の赤化

 

A: 各自逮捕時期は異なっており、この日数はあくまで197397日が起点のようで、囚人ではなく<人質>だった日数です。各自刑務所とシャバを出たり入ったりしていますから、別荘暮らしはトータルでは15年くらいだそうです。時には各人の幻覚や逮捕時の回想シーンが織り込まれておりますが、映画は時系列に進行していくので観客は混乱しません。

B: ウルグアイだけではありませんが、ラテンアメリカ諸国は二つの世界大戦には参戦しておりませんが、米ソ冷戦時代の煽りを食ったラテンアメリカ諸国の実態は複雑で、少しは時代背景の知識があったほうがいいかもしれません。

 

A: 劇中にもニカラグア革命との連携を疑う軍部やCIAの画策など、米国の関与を暗示するセリフが挿入されています。裏庭の赤化を恐れていたアメリカが軍事独裁政権の後ろ盾であったことは、後の調査で証明されています。赤化より軍事独裁政権のほうがマシというわけです。

B: ラテンアメリカ諸国が、人権や民主主義を標榜する大国アメリカを嫌うのには、それなりの理由があるということです。1979年、左派中道派からの要請で赤十字国際委員会が調査に現れるが、そのおざなりの調査にはあきれるばかりです。

 

A: どこからか入った横槍に屈したわけです。ほかにもカトリック教会批判がそれとなく挿入されている。精神を病んだペペが、ソレダー・ビジャミル扮する精神科医に「神を信じているか」と訊かれる。ペペの返事は「もし神がいるなら、私たちを救ってくれているはず」だった。

B: カトリック教会が軍部と結託していたことを暗示しているシーン。他のラテンアメリカ諸国も金太郎の飴ですが、保身に徹したカトリック教会と軍事独裁政権は太いパイプで繋がっていました

       

           (ペペを診察する精神科医役のソレダー・ビジャミル)

 

A: 信者が多いにもかかわらず、ラテンアメリカ諸国から長いあいだローマ法王が選ばれなかった経緯には、この軍事独裁政権との結託があったからでした。現ローマ法王サンフランシスコも加担こそしませんでしたが、民主化後に見て見ぬふりをしていたことを謝罪していたからなれたのでした。

B: バチカンも危険を冒してまで選出できなかった。ラテンアメリカ諸国のカトリック教徒の減少は、幼児性愛だけが理由ではありません。

 

A: 主演の3人、ぺぺ(1935)、ルソ(1933)、ニャト(19422016)は、共にウルグアイ生れだが、一番年長のルソは両親の時代にポーランドから移民してきたユダヤ教徒、ナチ時代にはポーランドに残った親戚の多くがゲットーやアウシュビッツで亡くなっている。

B: 3人のなかではルソ役のチノ・ダリンが一番若かったのでちょっと違和感があった。

 

A: 反対に一回り若いニャトはクランクイン前に鬼籍入りしてしまった。彼の一族はスペインからの移民です。リーダー格のぺぺの祖先も、1840年代にスペインのバスク州ビスカヤから移民してきた。

B: ウルグアイはまさに移民国家です。ミレージャ・パスクアルが演じていたペペの母親ルーシー・コルダノは、実名で映画に出ていた。ムヒカは当時独身、それで面会に来るのは母親でした。上院議員のルシア・トポランスキ(1944)との結婚は2005年だった。

 

       

          (ホセ・ムヒカと夫人ルシア・トポランスキ、2010年)

 

A: 彼女は2期目となるタバレ・バスケス政権の副大統領を20179月から務めている。映画でも女性の力の大きさが際立っていましたが、土壇場で力を発揮するのは女性です。

B: 面会に来たルソの父親イサクの狼狽ぶりと母親ロサの気丈さが印象に残っています。女性のほうが打たれ強いのかもしれません。

 

A: 前回アップしたときは受賞歴はそれほどではありませんでしたので、以下に追加します。

 

  映画祭・受賞歴

アミアン映画祭:観客賞

ビアリッツ映画祭(ラテンアメリカシネマ)観客賞

カイロ映画祭:ゴールデン・ピラミッド賞、FIPRESCI国際映画批評家連盟賞

カンヌ・シネフィル:グランプリ

オーステンデ映画祭(ベルギー)審査員賞

ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭:観客、カサ・デ・イベロアメリカ、作品、脚本、撮影の各賞

シルバー・コロン(監督・男優アルフォンソ・トルト)賞 

ハバナ映画祭:作品賞(カサ・デ・ラス・アメリカス、キューバ映画ジャーナリズム協会)

サンゴ賞(編集、録音)、グラウベル・ローシャ賞、ラジオ・ハバナ賞

レジスタンス映画祭:監督賞

テッサロニキ映画祭:観客賞

ウルグアイ映画批評家協会:作品、監督、男優(アルフォンソ・トルト)

女優(ミレージャ・パスクアル)、録音の各賞

 

以上は2018年開催の映画祭受賞歴(ノミネーションは割愛)

ゴヤ賞2019ノミネーションは、イベロアメリカ映画賞、脚色賞、助演男優賞(アントニオ・デ・ラ・トーレ)の3カテゴリー。

 

新人監督賞アンドレア・ハウリエタのデビュー作*ゴヤ賞2019 ⑤2019年01月08日 14:26

             アンドレア・ハウリエタのデビュー作「Ana de día

 

★新人監督賞ノミネーション最後のご紹介は、アンドレア・ハウリエタ7年の歳月を掛けて完成させたというAna de día、マラガ映画祭2018でプレミア、限定ながら11月初旬に公開された。いわゆるドッペルゲンガーものらしいが、コメディを含んだ心理サスペンスということです。主演のイングリッド・ガルシア・ヨンソンが、昼間はアナ、夜間はニナの二役を演じ分ける。タイトル「Ana de día」(「Ana by Day」)はそこからきているが、ルイス・ブニュエルの『昼顔』(「Belle de jour67)の西題「Bella de díaへの目配せです。またクシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』(91)、クロード・シャブロルのサスペンス『ヴィオレット・ノジエール』(78)のような作品と対話しているとか。シャブロルのは未見だが、昼間は娼婦、夜はお嬢さまということで想像をたくましくするしかない。一部クラウドファンディングで資金を集めている。

 

     

          (フェロス賞2019ポスター賞にノミネートされている)

 

Ana de día(「Ana by Day」)

製作:Andrea Jaurrieta PC / No Hay Banda / Pomme Hurlante Films /

   クラウドファンディング、協賛ナバラ州政府

監督・脚本・製作:アンドレア・ハウリエタ

撮影:フリ・カルネ・モルトレル

音楽:アウレリオ・エドレル=コペス

編集:ミゲル・A・トルドゥ

キャスティング:アランチャ・ぺレス

プロダクション・デザイン:リタ・エチェバリア

衣装デザイン:ハビエル・ベルナル、クラウディア・ペレス・エステバン

メイクアップ:ルス・アルカラ

製作者:イバン・ルイス、マルティン・サンペル

 

データ:スペイン、スペイン語、2018年、コメディ、心理サスペンス、110分、撮影地ナバラとマドリードで20166月末~8月(約5週間)、製作費約45万ユーロ、販売Media Luna New Films、スペイン公開2018119日(限定上映)

 

映画祭・映画賞:マラガ映画祭2018414日上映)、バルセロナD'A映画祭2018正式出品、トゥールーズ・シネエスパーニャ2018「ベスト・ファースト・フィルム」スペシャル・メンション、第34回アレキサンドリア地中海映画祭2018作品賞・女優賞受賞、アンダルシア映画賞ASECAN作品賞・主演女優賞・助演女優賞(モナ・マルティネス)受賞、他

 

キャスト:イングリッド・ガルシア・ヨンソン(アナ/ニナ)、モナ・マルティネス(ソレ)、アルバロ・オガリャ(マルセロ)、マリア・ホセ・アルフォンソ(マダム・ラクロア)、フランシスコ・ビダル(アベル)、フェルナンド・アルビス(マエストロ)、イバン・ルイス(ラ・ビエハ)、イレネ・ルイス(アンヘラ)、イニャキ・アルダナス(イバン)、カルラ・デ・オテロ(ラ・ムエルタ)、アントニオ・ポンセ(ペペ)、アベル・セルボウティ(アシス)、ほか

 

ストーリー:アナは26歳、中流家庭の<フツウ>の教育を受けた模範的な女性である。新米弁護士として近く結婚を予定している。ある日、アナは誰かが自分のアイデンティティに取って代わっていることに気づく。最初は恐怖に陥るが、時間とともに自分の責任と義務を解放してくれる分身の存在に、自分が果たして本当にアイデンティティを主張する価値があるのか、あるいは以前の自己から別の自己になる価値があるのかどうか迷い始める。分身が自分の代わりをしているあいだ、アナは自分が完全に自由であることに気づくと、新しい匿名性と自由の限界を試そうと、または自分自身の存在の意味を求めて夜のマドリードに繰り出していく。キャバレーは闇に紛れて消えてしまいたい人々で溢れていた。                       (文責:管理人)

 

           

                (マドリードのキャバレーで自身に反乱を起こしているアナ)

 

       

ASECAN賞助演女優賞受賞のモナ・マルティネス、映画から)

 

          自分自身から逃げることは可能か不可能か?

 

★かなり野心的な映画のようだが、観客を疲れさせ混乱させる印象です。ストーリーの背後に見え隠れするのは、モラル的偽善が横行する時代におけるアイデンティティの希薄化についての問いかけのようだ。アナは夢想と現実のあいだで恐怖しているが、それが監督の意図でないことは明白でしょう。ニナはアナのドッペルゲンガーとして登場し、無名であることの恐れに直面するが、精神的な不滅を見つけ、匿名性の魅力から生まれる新しいアイデンティティに身を任せる。どういう結末を迎えるかでアカデミー会員の評価は分かれるだろう。

 

     

(アナとマルセロ役のアルバロ・オガリャ)

    

   

                    (マエストロ役のフェルナンド・アルビス)

 

★アナとニナを演じたイングリッド・ガルシア・ヨンソンの演技を賞賛する批評家が多かったが、残念ながらゴヤ賞でのノミネーションはなかった。マラガ映画祭では主演女優賞候補になった。スウェーデン出身の女優だが、セビーリャで幼少時を過ごしたのでスペイン語は堪能、スウェーデン語の他に英語、フランス語をこなす。ハイメ・ロサーレスの「Hermosa juventud」がカンヌ映画祭2014「ある視点」にノミネートされた折り、キャリアを簡単にご紹介しています。

イングリッド・ガルシア・ヨンソンのキャリア紹介は、コチラ20140504

      

      

アンドレア・ハウリエタAndrea Jaurrietaは、1986年パンプローナ生れ、監督、脚本家、プロデューサー、女優。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCAC、及びコンプルテンセ大学で学ぶ。現在、複数の教育センターの映画講座で教鞭をとっている。

 

    

2013年、短編「Los años dirán」(15分)でデビュー、ヒロインを演じたのが、本作でラ・ムエルタになったカルラ・デ・オテロである。アルモドバルの『ジュリエッタ』(16)に監督補助として参加、ビデオ制作など手掛け、2018年「Ana de día」で長編映画デビューを果たす。女優としてはフェデリコ・ベイロフ(ベイロー)の『信仰を捨てた男』(「El apóstata15、タイトルNetflix)に脇役で出演している。ここで信仰を捨てた男を演じたのが、本作でマルセロになったアルバロ・オガリャである。余談だがベイロフ監督は、サンセバスチャン映画祭2015で審査員スペシャル・メンションを受賞している。

 

    

       (撮影中の監督とイングリッド・ガルシア・ヨンソン)

 

   

(左から、監督、イングリッド・ガルシア・ヨンソン、イレネ・ルイス、マラガ映画祭にて)


新人監督賞セリア・リコ・クラベリーノのデビュー作*ゴヤ賞2019 ④2019年01月06日 20:49

        セリア・リコ・クラベリーノのデビュー作「Viaje al cuarto de una madre 

 

       

★今年のゴヤ新人監督賞は、ノミネーション4作のうち女性監督が3人という珍しい女性対決の年になっています。女性監督が複数の年は第22回(08)のイシアル・ボリャイングラシア・ケレヘタ1回のみでしょうか。今回のように3人は記憶にありません。そもそも女性監督の受賞は1997年の第11回が最初で、今は亡きピラール・ミロの『愛は奪う』でした。その後第18回には『テイク・マイ・アイズ』のイシアル・ボリャイン、「La suerte dormida」の新人アンヘレス・ゴンサレス=シンデと女性監督がダブルで受賞する異例の年になりました。続いて『あなたになら言える秘密のこと』のイサベル・コイシェ20回、英語)、『家族との3日間』のマル・コル24回、新人、カタルーニャ語)と、昨年はコイシェが再び英語で撮った「The Bookshop」が作品・監督・脚色の3賞をゲット、新人カルラ・シモンがカタルーニャ語で撮った『悲しみに、こんにちは』も受賞、確実に女性が認められる時代になってきています。

 

★ラテンビート上映の『カルメン&ロラ』アランチャ・エチェバリアSin finホセ&セサル・エステバン・アレンダ兄弟は紹介済み、残る2作のうち始めにセリア・リコ・クラベリーノViaje al cuarto de una madreからご紹介したい。サンセバスチャン映画祭2018「ニューディレクターズ」部門正式出品、ユース賞・審査員スペシャルメンション・批評家連盟賞受賞作品、かつては「貧乏人の子沢山」が一般的だったスペインでも少子化が進み、家族、特に親子の関係の在り方が難しくなってきている。離れたいが離れられない母と娘の物語。 

       

 

    

Viaje al cuarto de una madre(「Journey to a Mother's Room」)

製作:Amorós Producciones / Arcadia Motion Pictures / Sisifo Films AIE / (共)Pecado Films / Noodles Production(仏)/ 協賛Canal Sur Televición / TVE / Movistar/ ICAA / アンダルシア評議会、他

監督・脚本・製作:セリア・リコ・クラベリーノ

撮影:サンティアゴ・ラカ

編集:フェルナンド・フランコ

美術:ミレイア・カルレス

録音:アマンダ・ビリャビエハ、アルベルト・マネラ

衣装デザイン:Vinyet Escobar エスコバル

キャスティング:ロサ・エステベス

製作者:ジョセップ・アモロス、イボン・コルメンサナ、(以下エグゼクティブ)アンヘル・ドゥランデス、イグナシ・エスタペ、マル・メディル、サンドラ・タピア、他

 

データ:スペイン、スペイン語、2018年、ドラマ、90分、スペイン公開2018105

映画祭・映画賞:サンセバスチャン映画祭2018「ニューディレクターズ」部門(924日上映)、ユース賞・審査員スペシャルメンション・批評家連盟賞受賞、ロンドン映画祭、ワルシャワ映画祭、モンペリエ地中海映画祭、トゥールーズ・シネエスパーニャ映画祭、ヒホン映画祭、ウエルバ映画祭、アルメリア映画祭、他フェロス賞2019(作品・脚本・主演ロラ・ドゥエニャス、助演アンナ・カスティーリョ)、ガウディ賞(監督・脚本・主演女優・助演女優・美術・録音・衣装デザイン・カタルーニャ語以外作品賞)、ゴヤ賞(新人監督・編集・主演女優・助演女優)各ノミネーション。

 

キャスト:ロラ・ドゥエニャス(母エストレーリャ)、アンナ・カスティーリョ(レオノル)、ペドロ・カサブランク(ミゲル)、アデルファ・カルボ(ピリ)、マリソル・メンブリージョ(アゲダ)、スサナ・アバイトゥア(ラウラ)、シルビア・カサノバ(ロサ)、アナ・メナ(ベア)、マイカ・バロッソ(メルチェ)、ルシア・ムニョス・ドゥラン(ロシータ)、ノエミ・ホッパー(アンドレア)ほか

 

ストーリー:家を出る時期だったのだが、レオノルは迷っていた。母を一人置いていく決心がつかないのだ。出ていくことを母が望んでいないからだ。しかしエストレーリャは娘を引き留めることはできないと分かっていた。母と娘は共に不安定なまま人生の岐路に立っていたが、互いに分かれて暮らせるだろうか。離れることができるかどうかは愛が証明するだろう。

   

          
    

              (母エストレーリャと娘レオノル)

 

セリア・リコ・クラベリーノ(クラベジーノ)Celia Rico Clavellino1982年セビーリャ生れ、監督・脚本家・製作者・女優と幾つもの顔をもつ。セビーリャ大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科卒、バルセロナ大学で文学理論、比較文学を専攻、その後、映画文献調査、分析、脚本編集、オーディオビジュアル制作を学ぶ。現在Amorós ProduccionesArcadia Motion Picturesのようなさまざまな制作会社で仕事をしているほか、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』(12)のキャスティング、ホセ・ルイス・ゲリンの『ゲスト』にも参加している。

 

          

      (ゴヤ賞新人監督賞ノミネーションのセリア・リコ・クラベリーノ監督)

 

2012年に短編Luisa no está en casaで監督デビュー、この短編が本作の土台になっている。同年アントニオ・チャバリアスのホラー『フリア、よみがえり少女』にセリア・リコとして出演、2016年、ポル・ロドリゲスのコメディQuatretondetaの脚本執筆など。

    

          

       (本作の土台となった短編「Luisa no está en casa」のポスター)

 

★撮影は監督のホームグラウンドであるセビーリャのコンスタンティナという町で、それも監督の実家に主演のロラ・ドゥエニャスアンナ・カスティーリョを両親と同居させて撮ったそうです。「仕事がやりやすいと同時に自分を奮起させるような地元で撮ろうと決めていた。私の母は裁縫師でロラ(ドゥエニャス)に裁縫を教えるのにも都合よかった。母の部屋を舞台にしたので、みんなで撮影が終了するまで同居したのです。こんな経緯で映画を完成させたのです。それでこの映画が私の人生と深いところで融合していたことに後で気づいたのです」と監督。しかしアンダルシアに典型的な色調、白壁の家並みはほんの少ししかスクリーンに現れない。特に冬だと消えてしまう。

 

     

       (セビーリャから北方87キロにある冬のコンスタンティナ)

 

★「手工芸的な映画を作りたかった」と監督、しかし人生は複雑で、「今になればはっきりするけれど、撮影中はエモーショナルな負担に気づかなかった」とも。人口7000人未満の小さな町で撮影するとなれば、お祭り騒ぎになるのは必然だから「自分を部屋に閉じ込め思索する場所を見失った」と語っている。物語は母の視点と娘の視点から構成されており、観客は二つの視点の間で揺れながら平衡を保たねばならない。一方だけを追っていると迷子になってしまうようだ。「娘が工場でアイロンがけしているときでも、背後に母親の存在があり、母親がベッドメーキングしているときでも、ドア越しに娘のベッドを見ている」。

 

    

     (ゴヤ賞助演助演女優賞ノミネーションのアンナ・カスティーリョ)

 

★この映画は社会的な問題提起をしているわけではないが、監督のカメラが街路を映しだすとき、スペインの現実が描かれる。「私は子供のときから母親のミシンの音を聞きながら育った。想像することへの私のパッションは、母親が洋裁しているときの観察からきています。一枚の布からドレスを作り出すという、これほど創造的な仕事を他に思い浮かべることができません」。母へのオマージュなのかもしれません。

 

     

       (ゴヤ賞主演女優賞ノミネーションのロラ・ドゥエニャス)

 

ポル・ロドリゲスのQuatretondeta」の作品紹介は、コチラ20160422

    

新年のご挨拶*2019年元旦2019年01月01日 14:45

            明けましておめでとうございます 今年はどんな映画が見られるの?

 

★慌ただしい年末に更新もままならず、積み残しをしたまま年が明けてしまいました。去る1228日からアルバロ・ブレッヒナーLa noche de 12 años12年の長い夜』の邦題でNetflix配信が開始されました。サプライズと喜んでいいのかどうか複雑な心境ですが、さっそく見てしまいました。本作はベネチア映画祭のコンペティション外で上映後、サンセバスチャン映画祭でもエントリー、ゴヤ賞2019イベロアメリカ映画賞ノミネーション、当ブログではかなり詳しくご紹介してきました。大筋で齟齬はきたさなかったと思いますが、書き足したいこともあり後日アップしたい。地味な映画ですがウルグアイ現代史に止まらずラテンアメリカ史を知る上での情報が詰まった作品です。ウルグアイ前大統領ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレは本作で助演男優賞、ロドリゴ・ソロゴジェンEl reinoで主演男優賞とダブルノミネート、一ファンとしても今回はぜひ受賞して欲しい。

La noche de 12 años」の紹介記事は、コチラ20180827

 

               

       (12年の長い夜』撮影中の監督とアントニオ・デ・ラ・トーレ

 

12年の長い夜』はゴヤ賞2019イベロアメリカ映画賞にもノミネートされておりますが、受賞はアルフォンソ・キュアロンROMA/ローマ』にほぼ決定でしょうか。2作とも一見すると無関係なテーマに思えますが、深いところで繋がっており、現在のラテンアメリカ諸国が抱えている暗部にメスを入れたことでは、甲乙つけがたいと感じました。どちらもNetflixプレゼンツなのが気になります。キュアロンは「私が大好きな映画の多くは、大画面で見たことがない」と語っていたが、Netflixを受け入れた背景には、このような思いがあるのかもしれません。見たい映画が公開されず、年々街から映画館が消えつつある現代、映画館で映画を見るのは難しくなっている

 

       

               (ROMA/ローマ』のポスター

 

★ゴヤ賞にノミネートされている作品賞5作品、イベロアメリカ映画賞4作品は既にご紹介済みなので、新人監督賞のうち未紹介作品&監督紹介から今年は出発したい。次回は将来が楽しみなセリア・リコ・クラベリーノViaje al cuarto de una madreから、キャストは母親にロラ・ドゥエニャス(主演女優賞候補)、娘にアンナ・カスティーリョ(助演女優賞候補)が扮します。

 

        

 (ロラ・ドゥエニャスとアンナ・カスティーリョ、Viaje al cuarto de una madreから)


第33回ゴヤ賞2019ノミネーション発表 ③2018年12月23日 17:42

 

       

1212日(水)第33回ゴヤ賞2019のノミネーション発表がありました。プレゼンターはパコ・レオンロッシ・デ・パルマ、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソと書記エバ・サンス、プレセレクションはフィクション84作、ドキュメンタリー63作、アニメーション4作の151作品、イベロアメリカ映画賞16作だったことが報告されました。当然のことですがフォルケ賞、フェロス賞と重なっております。カテゴリーによってはドキュメンタリー賞のようにフォルケ賞と全く同じです。

 

       

              (パルマ・デ・ロッシとパコ・レオン)

 

★今年は「El reino」の13個が最高、続いて「Campeones」の11個が続きますが、数の多さは当てになりません。ダブルノミネートはアントニオ・デ・ラ・トーレのみ、彼はノミネーションの数こそダントツですが、受賞は『漆黒のような深い青』(07)の助演賞のみと最近は不運続き、ダブル受賞はないと思いますがそろそろ主演が欲しいところです。今年の主演男優賞はことのほか混戦状態です。なお読みが分からない人名はママにしてあります。

 

(左から、エバ・サンス、マリアノ・バロッソ、ロッシ・デ・パルマ、パコ・レオン)

 

★ゴヤ賞28部門の内訳は以下の通り。(印は当ブログ紹介作品)

◎作品賞

  • Campeones 

  • Carmen y Lola『カルメン&ロラ』 

  • El reino 

  • Entre dos aguas 

  • Todos lo saben『エブリバディ・ノウズ』 ★   

  •     

  •  

  • ◎監督賞

  • ハビエル・フェセルCampeones」  

  • ロドリゴ・ソロゴジェンEl reino

  • イサキ・ラクエスタEntre dos aguas

  • アスガー・ファルハディ『エブリバディ・ノウズ』「Todos lo saben

◎新人監督賞

  • アンドレア・ハウリエタAna de día

  • セリア・リコ・クラベリーノViaje al cuarto de una madre★ 

  • アランチャ・エチェバリア『カルメン&ロラ』

  • ホセ&セサル・エステバン・アレンダ兄弟「Sin fin」 ★  

◎オリジナル脚本賞

  • ダビ・マルケス&ハビエル・フェセルCampeones 

  • アランチャ・エチェバリア『カルメン&ロラ』 

  • イサベル・ペニャロドリゴ・ソロゴジェンEl Reino 

  • アスガー・ファルハディ『エブリバディ・ノウズ』

◎脚色賞

  • マルタ・ソフィア・マルティンスナチョ・ロペスJefeセルヒオ・バレホン 

  • アルバロ・ブレッヒナーLa noche en 12 años」『12年の長い夜』アルバロ・ブレッヒナー 

  • ボルハ・コベアガディエゴ・サン・ホセSuperlópezエミリオ・マルティネス=ラサロ 

  • ポール・ラヴァティYuliイシアル・ボリャイン  

◎オリジナル作曲賞

  • オリビエル・アルソン El reino 

  • イバン・パロマレスEn las estrellas ソエ・ベリアトゥア 

  • マヌエル・リベイロハビ・フォントLa sombra de la ley」『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』ダニ・デ・ラ・トーレ

  • アルベルト・イグレシアス Yuli

◎オリジナル歌曲賞

  • Este es el momento コケ・マリャCampeones

  • Me vas a extrañarパコ・デ・ラ・ロサ 『カルメン&ロラ』

  • Tarde azul de abrilロケ・バニョス&テシィ・ディエス・マルティン「El hombre que mató a Don Quijote

  • Una de esas noches sin final ハビエル・リモン 『エブリバディ・ノウズ』

◎主演男優賞

  • ハビエル・グティエレスCampeones 

  • アントニオ・デ・ラ・トーレEl reino

  • ハビエル・バルデム 『エブリバディ・ノウズ』

  • ホセ・コロナドTu hijoミゲル・アンヘル・ビバス 

  •      

主演女優賞

  • スシ・サンチェスLa enfermedad del domingo」『日曜日の憂鬱』ラモン・サラサール 

  • ナイワ・ニムリQuién te cantará」『シークレット・ヴォイス』カルロス・ベルムト 

  • ペネロペ・クルス『エブリバディ・ノウズ』

  • ロラ・ドゥエニャスViaje al cuarto de una madre

  •      

  •   

◎助演男優賞

  • フアン・マルガーリョ Campeones

  • ルイス・サエラ El reino

  • アントニオ・デ・ラ・トーレ La noche de 12 años」『12年の長い夜』

  • エドゥアルド・フェルナンデス『エブリバディ・ノウズ』 

◎助演女優賞

  • カロリナ・ジュステ『カルメン&ロラ』

  • アナ・ワヘネルEl reino 

  • ナタリア・デ・モリーナQuién te cantará」『シークレット・ヴォイス』

  • アンナ・カスティーリョViaje al cuarto de una madre

◎新人男優賞

  • ヘスス・ビダルCampeones

  • モレノ・ボルハ 『カルメン&ロラ』

  • フランシスコ・レイェス El reino

  • カルロス・アコスタ Yuli

◎新人女優賞

  • グロリア・ラモス Campeones

  • ロシー・ロドリゲス 『カルメン&ロラ』 

  • サイラ・ロメロ 『カルメン&ロラ』

  • エバ・リョラチ Quién te cantará」『シークレット・ヴォイス』

◎プロダクション賞

  • ルイス・フェルナンデス・ラゴ Campeones 

  • エドゥアルド・バジェスHanga KuruczEl fotógrafo de Mauthausen マル・タルガロナ

  • ユーセフYousaf BokhariEl hombre que mató a Don Quijoteテリー・ギリアム

  • イニャキ・ロスEl reino 

◎撮影監督賞

  • アレハンドロ・デ・パブロEl reino

  • Josu Incháustegui  『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』

  • エドゥアルド・グラウ Quién te cantará

  • アレックス・カタラン  Yuli

◎編集賞

  • ハビエル・フェセルCampeones

  • アルベルト・デル・カンポ El reino

  • Hayedeh Safiyari 『エブリバディ・ノウズ』 

  • フェルナンド・フランコ Viaje al cuarto de una madre

◎美術賞

  • ロサ・ロス El fotógrafo de Mauthausen 

  • ベンハミン・フェルナンデス El hombre que mató a Don Quijote 

  • フアン・ペドロ・デ・ガスパル 『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』 

  • バルテル・ガジャルトSuperlópez

◎衣装デザイン賞

  • メルセ・パロマEl fotógrafo de Mauthausen

  • レナ・モスムEl hombre que mató a Don Quijote 

  • クララ・ビルバオ 『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』

  • アナ・ロペス・コボスQuién te cantará」『シークレット・ヴォイス』

◎メイクアップ&ヘアー賞

  • Caitlin Acheson,  ヘスス・マルトス パブロ・ペロナ   El fotógrafo de Mauthausen

  • シルビエ・インベルトアンパロ・サンチェスパブロ・ペロナ 

  •   「El hombre que mató a Don Quijote

  • ラケル・フィダルゴノエ・モンテスアルベルト・オルタス 

  •     『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』

  • ラファエル・モラアナベル・ベアトQuién te cantará」『シークレット・ヴォイス』

◎録音賞

  • アルマン・シウダドチャーリー・Schmuklerアルフォンソ・ラパソCampeones 

  • ロベルト・フェルナンデスアルフォンソ・ラパソ El reino 

  • ダニエル・デ・サヤスマリオ・ゴンサレス Quién te cantará」『シークレット・ヴォイス』

  • エバ・バリニョペラヨ・グティエレスアルベルト・オベヘロ Yuli

◎特殊効果賞

  • オスカル・アバデスHelmuth BarnertEl reino

  • ホン・セラノダビ・エラスErrementari (El herrero y el Diablo)

  • リュイス・リベラフェリクス・ベルヘス 『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』

  • リュイス・リベララウラ・ペドロSuperlópez

アニメーション賞

  • Azahar Granada Film Factory

  • Bikes The MovieAnimation Bikes / A.I.E.

  • Memorias de un hombre en pijama Dream Team Concept / Ézaro Films S.A./ Hampa Studio

  • Un día más con vida Kanaki Films / Platige Films

◎ドキュメンタリー賞

  • Apuntes para una película con atracos Avalon Productora Cinematográfica, S.L.

  • Camarón: flamenco y revolución Media Events / Lolita Films

  • Desenterrando Sad Hill Sadhill Desenterrado, A.I.E / Zapruder Pictures

  • El silencio de otros Semilla Verde Productions / Lucernam Films

◎イベロアメリカ映画賞

  • El ángel  (2018アルゼンチン) ルイス・オルテガ 

  • La noche de 12 años 」『12年の長い夜』(2018ウルグアイ) アルバロ・ブレッヒナー 

  • Los perros (2017チリ) マルセラ・サイド 

  • ROMAROMA/ローマ (2018メキシコ) アルフォンソ・キュアロン 

◎ヨーロッパ映画賞

  • Cold War」(2018ポーランド) パヴェウ・パヴリコフスキ

  • El hilo invisible」(2018米国)『ファントム・スレッドポール・トーマス・アンダーソン 

  • Girl」(2018ベルギー Lukas Dhont

  • The Party」(2017イギリス サリー・ポッター

◎短編作品賞

  • 9 pasos マリア・クレスポモイセス・ロメラ 

  • Bailaora ルビン・ステイン

  • Cerdita カルロタ・ペレダ

  • El niño que quería volar ホルヘ・ムリエル

  • Matria アルバロ・ガゴ

◎短編ドキュメンタリー賞

  • El tesoro マリサ・ラフエンテネストル・デル・カスティーリョ

  • Gaza」 カルレス・ボベル・マルティネスフリオ・ペレス・デル・カンポ

  • Kyoko ジョアン・ボベルマルコス・カボタ

  • Wan Xia. La última luz del atardecer シルビア・レイ・カヌド   

  • ◎短編アニメーション賞

  • Cazatalentos」 ホセ・エレーラ

  • El olvido  クリスティナ・バエリョXenia Grey 

  • I Wish...ビクトル・L.ピネル 

  • Soy una tumba Khris Cembe 

  • ★イベロアメリカ映画賞のうちチリのマルセラ・サイドの「Los perros」(17)が選ばれているのは、スペイン公開が20186月という理由によります。想定していたパラグアイのマルセロ・マルティネシの『相続人』は未公開で対象外になりました。ゴヤ賞も米国アカデミー賞と同様の縛りがあり、公開が重要です。
  •   

  • ★第33回ゴヤ賞授賞式は、22日、マドリードを離れてセビーリャ開催、総合司会者は女優のシルビア・アブリルTV司会者のアンドリュー・ブエナフエンテのコメディアン夫婦が務めます。

     

  •         

  •            (コメディアン夫婦シルビア&アンドリュー)



アルフォンソ・キュアロンの新作『ROMA /ローマ』②2018年12月21日 14:39

     

           

       (モード雑誌『ヴォーグ』の表紙を飾ったヤリッツァ・アパリシオ)

    

★ゴヤ賞2019イベロアメリカ賞ノミネーション、アカデミー外国語映画賞プレセレクション9作品のなかに『夏の鳥』と一緒に選ばれたほか、ラスベガス映画批評家賞(作品・監督・撮影・編集)の4賞、女性映画批評家オンライン協会賞(作品・監督・撮影)の3賞など、続々と受賞結果が入ってきました。スペインではNetflix配信と同時に期間限定で劇場公開も始まったようです。Netflixと大手配給会社が折り合ったわけです。更にはクレオ役のヤリッツァ・アパリシオがなんと『ヴォーグ』の表紙になるなど、びっくりニュースも飛び込んできましたが、確かこの雑誌は映画雑誌ではなかったはずですよね(笑)。冗談はさておき、前回の続きに戻ります。

 

           子供の記憶に残る「血の木曜日」事件

 

A: 196111月生れのキュアロンは、1971610日に起きた「聖体の祝日の木曜日の虐殺」当時9歳半になっていた。反政府デモの虐殺事件としては、300人以上の死者を出した1968年メキシコオリンピック10日前に起きた「トラテルコ事件」(102日)のほうが有名です。

B: 当時メキシコは一党独裁の制度的革命党PRIが政権をとっており、時の大統領はルイス・エチェベリア、反政府運動が日常的な時代だった。スラムの水不足解消のため視察に来た政治家の演説の中に一度だけ名前が出てきた。

      

          

          (政治家の演説も空しい水溜りだらけの水不足地域)

       

A: 皮肉なことに水溜まりが散在する土地柄だった。政府に批判的な学生や知識人などの動きを封じるため、政権が私設軍隊パラミリタールを組織し、そこにクレオの恋人フェルミンが加入していた。正規の軍隊とは別で、軍隊、警察、パラミリタールが民間人を殺害した。監督の「聖体の祝日の木曜日の虐殺」の記憶は鮮明のようです。

    

          

     (1971610日に起きた「聖体の祝日の木曜日の虐殺」を背景にしたポスター)

 

B: ソフィアの母テレサ夫人とベビーベッドを買いに家具屋を訪れていたクレオは、ここで民間人殺害に加担していたフェルミンと遭遇、衝撃で破水してしまう。

A: 本作ではスラムの水溜まりに限らず、タイル敷きの床を洗い流す汚水は排水口に上手く流れ込まない、水道栓からぽたぽた漏れる水、排水管が詰まっているのかシンクに溜まる水、森林火事の前時代的なバケツリレー、極め付きは子供たちに襲いかかる獰猛な高波、制御できない水が時代の流れを象徴するかのように一種のメタファーになっている

 

         飛行機、外階段、地震、森林火災、高波、犬の糞が象徴するもの

 

B: 水だけでなく、飼い犬の糞のメタファーは、メキシコが吐き出す悪の象徴ともいえる。久しぶりに帰宅した父親アントニオが糞の不始末に文句を言っていたが、彼の車の吸殻入れは満杯だ。

A: ファーストとラストカットに現れる飛行機は円環的な構成になっており、クレオとの関係も面白い。最初は洗剤の泡が混じった汚水に映る飛行機、ラストは外階段を上っていくクレオが見上げる飛行機。どちらもカメラは動かない。

 

B: カメラの位置は定点か、動いても回り灯篭のようにゆっくりと水平か斜めに動き、もっぱら動くのは被写体です。ロングショットが多く、したがってクローズアップは少ないのがいい。

A: 劇場公開を念頭において撮っていたからです。結果的にはNetflixプレゼンツになってしまったが、しつこく言いますがスクリーンで見たい映画です。

 

B: 日本の家屋に比べると、建物の構造が大分変わっている。門を開けると両側に建物があり、中央が車庫を兼ねた通路になっている。自家用車のフォードギャラクシーを止めるにはぎりぎりの幅しかなく、夫婦とも駐車に苦労している。

A: いわば身の丈に合わない生活をしているわけです。パティオというスペイン建築に典型的な中庭があり、母屋と使用人の住居が囲んでいる。洗濯場は3階の屋上にあって外階段で昇降している。中流家庭なのに洗濯機がないのにはびっくりした。

B: 日本では60年代後半には既に一般家庭に普及していましたね。

 

         

           (ヤリッツァ・アパリシオに演技指導をする監督)

 

A: クレオが病院の新生児室を覗いているときに起きた小さな地震は、9500人の犠牲者を出した1985年のメキシコ大地震を予感させる。

B: ブルジョア家族たちが新年を過ごすトウスパン大農園の森林火災の意味はいろいろ想像できますが、大航海時代にやって来て以来、先住民を支配し続けている大農場主階級の終焉、さらにはこのアシエンダに集って新年を楽しむブルジョア階級の将来像でもあるでしょう。1970年代はメキシコの転換期でもあった。

 

          やはり本作は乳母リボに捧げられたフィクション

 

A: 監督が生後9ヵ月のときにキュアロン家に乳母として雇われたリボリボリア・ロドリゲスに捧げられている。監督はあるインタビューで「ショットの90パーセントは自分の記憶だ」と語っている。記憶は時間とともに創作され変容していく。半自叙伝的と銘打っていますが、自分の幼少時代にインスパイアーされたフィクションでしょうね。

B: しかし、マリナ・デ・タビラが扮したソフィア夫人の人格は自分の母親に近いとも語っています。プロの俳優は少なく、彼女の他、クレオを侮辱した恋人、フェルミン役のホルヘ・アントニオ・ゲレーロ、武術の指導者ソベック先生のラテン・ラヴァーくらいでしょうか。

 

A: ビクトル・マヌエル・レセンデス・ヌニオが本名で、90年代から今世紀にかけてルチャリブレの人気プロレスラーだった人。引退後モデルになり、本作で映画デビューした。劇中では武術のほか力自慢のテレビ番組にも出演しているショットがありました。

 

         

            (武術の先生ソベック役のラテン・ラヴァー)

 

B: 父親役のフェルナンド・グレディアガも新人、実父についての情報は検索できませんでした。

A: スペイン語ウィキペディアには名前だけしか載っていない。父親が原子物理学者で国際原子力機関に務めているという情報は英語版に載っている。つまり病院勤務の医師ではなかった。1961年生れの監督は3人兄弟の長男ですが、劇中の長男トーニョに重ねていいのかどうかです。

B: 監督はトーニョであり、やんちゃなパコでもあり、末っ子のペペであるのかもしれない。

 

A: 主役はあくまでクレオ、つまり純粋で寛大だったリボ、時には生みの親より育ての親というように、彼女は家族にとっていなくてはならない存在だった。またセットに使った家具の70パーセントは自分の家にあったものをかき集め、残りはメンバーたちの家族のものだそうです。

B: あんな古いテレビがよくありましたね。ちゃんと映っていた。見ていた番組は「三馬鹿大将」シリーズですか。

A: 分かりませんでしたが、テレサお祖母さまとクレオに付き添われて子供たちが見に行った映画は、1964年にマーティン・ケイディンが発表した小説をもとに、ジョン・スタージェスが映画化したアメリカ映画『宇宙からの脱出』(69)、これが『ゼロ・グラビティ』13)に繋がったのでしょう。

 

B: 売却することになったフォードギャラクシーで家族がベラクルス近くのトゥスパン村に旅行に出かける。そこで父親がケベックのオタワに住んでないことが子供たちに知らされる。

A: 次男のパコは電話の盗み聞きで、トーニョは映画を観に行ったとき、若い女性と手をつないでいる父親を偶然目撃して事実を知っていた。

B: 父親に愛されていると思っていた子供たちには辛すぎる話です。兄弟は互いに知っていることを秘密にしているが、口にできない辛さや父親への怒りは、取っ組み合いの兄弟喧嘩として発散される。

 

             

        (子供たちに「パパはもう帰ってこない」と話すソフィア夫人)

 

A: こういう巧みな描写が至るところに散らばっている。プロットだけを読むと平凡すぎて食指が動きませんが、今年見たお薦め映画5本に入ります。監督が『ゼロ・グラビティ』の成功後、新作の構想を話しても誰も乗ってこなかったという。なかでカンヌ映画祭の総指揮者ティエリー・フレモーも首を傾げた一人ということでした。

B: 勿論映画ですから映像が良くなくては話になりませんが、モノクロなのに奥行きがあり、繰り返し見たくなります。その都度新しい発見がある。

 

B: 少ない台詞、ストーリーの流れの自然さ、対立する明るさと暗さ、残酷と優しさ、穏やかさと暴力、日常を淡々と描きながら突然襲う非日常が鮮やか。

A: シンプルのなのに複雑なのが人生というものでしょう。監督は自分が幼少期に過ごした家に帰る必要があったのだと思います。前述したように、アカデミー外国語映画賞プレセレクション9作に『ROMA/ローマ』と『夏の鳥』が残った。『万引き家族』も残った。多分『夏の鳥』は選ばれないと思いますが、他の2作は脈ありです。

 

B: しかし最近の米国アカデミー外国語映画賞は、初参加国が選ばれる傾向もあり分かりません。同じモノクロで撮ったポーランドのパヴリコフスキの「Cold War」も手強い。

A: キュアロンは既にオスカー監督ですが、メキシコ代表作品が受賞したことはありません。受賞すればメキシコ初となります。

 

     

             (本作撮影中のアルフォンソ・キュアロン)

 

 監督の主なフィルモグラフィー

1991『最も危険な愛し方』(「Sólo con tu pareja」スペイン語)

1995『リトル・プリンセス』

1998『大いなる遺産』

2001『天国の口、終りの楽園。』(「Y tu mamá también」スペイン語)

2004『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

2006『トゥモロー・ワールド』

2013『ゼロ・グラビティ』

2018ROMA/ローマ』(「ROMA」スペイン語)

 

ベネチア映画祭金獅子賞受賞の記事は、コチラ20180912

 ホナス・キュアロンに関する記事は、コチラ2015092520170423

  

アルフォンソ・キュアロンの新作『ROMA/ローマ』①2018年12月17日 15:16

                ビエンナーレ2018金獅子賞受賞作品「ROMA」を見る

 

アルフォンソ・キュアロンの長編8作目になるROMAは、第75回ベネチア映画祭の金獅子賞受賞作品、Netflixプレゼンツ作品が初金星という記念碑を打ち立てた。本邦では東京国際映画祭TIFFで邦題ROMA/ローマ』で特別上映されただけです。メキシコでは91日メキシコシティのトナラ館でプレミア後、「ロス・カボス映画祭」(117日~11日)で118日に特別上映された。スペインではほんの短期間(125日~14日)マドリード、バルセロナ各2館、マラガの1館だけで上映された。    

   

       (金獅子賞のトロフィーを手にしたアルフォンソ・キュアロン)

 

    

(左から、ナンシー・G・ガルシア、ヤリッツァ・アパリシオ、監督、マリナ・デ・タビラ)

 

4月にNetflixの配給権がアナウンスされると、フランス国内での公開ができない作品は、コンペティションから除外するという法律のためカンヌ映画祭は本作の上映を見送った。監督はカンヌを希望していたということでしたが、結果的にベネチア映画祭でプレミアされることになった。フランスではグラン・リヨン映画祭で1015日上映されたが、カンヌが直面している問題は、公開後3年間はVOD(ビデオ・オンデマンド)での使用権を取得できないというフランスの法律の厳格さであり、これはいかにも長すぎるのではないか。Netflix1214日から世界同時配信されたが、190ヵ国、ユーザー13000万人という数字は、監督のみならず関係者にとって実に魅力的ではないだろうか。フランスとNetflixが共に合意点を見つける努力を拒否していないが、詳細は明らかになっていない。今や巨人となったNetflixのストリーミングと大手配給会社との闘いは、今後どうなっていくのだろうか。

   

ROMA/ローマ』(原題ROMA

製作:Esperanto Filmoj(メキシコ)/ Participant Media(米)

監督・脚本・製作・撮影・編集:アルフォンソ・キュアロン(クアロン)

編集:(共)アダム・ゴGough

キャスティング:ルイス・ロサーレス

美術:カルロス・ベナシーニ、オスカル・テジョ

プロダクション・デザイナー:エウヘニオ・カバジェロ

衣装デザイナー:アンナ・テラサス

音響:セルヒオ・ディアス、スキップ・リエヴセイ、クライグ・ヘニハン

製作者:ガブリエラ・ロドリゲス、ニコラス・セリス、(以下エグゼクティブ)ジョナサン・キング、デヴィッド・リンド、ジェフ・スコール

 

データ:製作国メキシコ=米国、スペイン語・ミシュテカ語・英語、2018年、ドラマ、135分、モノクロ、撮影地メキシコシティ、ゴールデン・グローブ賞2019(作品・脚本・監督)ノミネーション、第91回アカデミー外国語映画賞メキシコ代表作品、Netflixプレゼンツ作品(配信開始20181214日)

   

映画祭・映画賞:ベネチア映画祭2018金獅子賞SIGNIS賞受賞、テルライド映画祭にて北米プレミア、トロント映画祭観客賞受賞、サンセバスチャン映画祭、アトランタ映画批評家サークル賞(トップテンフィルム・外国語映画・監督・撮影)受賞、ワシントンDC映画批評家協会賞(作品・監督・撮影・外国語映画)受賞、ハリウッド映画賞(ヤリッツァ・アパリシオがニューハリウッド賞)、ニューヨーク映画批評家サークル賞(作品・監督・撮影)受賞、パームスプリングス映画祭、TIFF特別上映、他多数

 

キャスト

ヤリッツァ・アパリシオ(オアハカ出身の乳母クレオ・グティエレス)

マリナ・デ・タビラ(ソフィア夫人)

マルコ・グラフ(三男ペペ)

ダニエラ・デメサ(長女ソフィ)

ディエゴ・コルティナ・Autrey (長男トーニョ)

カルロス・ペラルタ(次男パコ)

ベロニカ・ガルシア(ソフィアの母テレサ夫人)

ナンシー・ガルシア・ガルシア(家政婦アデラ)

フェルナンド・グレディアガ(ソフィアの夫アントニオ氏)

ホルヘ・アントニオ・ゲレーロ(クレオの恋人フェルミン、ラモンの従兄弟)

アンディ・コルテス(使用人で運転手のイグナシオ)

ホせ・マヌエル・ゲレーロ・メンドサ(アデラの恋人ラモン)

エノック・レアニョ(政治家)

ラテン・ラヴァー(武術の先生ソベック)

ホセ・ルイス・ロペス・ゴメス(小児科医)

サレラ・リスベス・チノジャ・アレジャノ(ベレス産婦人科医)

パメラ・トレド(クレオの代役)

他、飼い犬ボラスなど

 

ストーリー:政治的混迷に揺れる1970年、メキシコシティのローマ地区に暮らす、ある裕福な医師家族の1年間が若い乳母クレオ――下層階級、先住民、女性という三重の社会的経済的圧力のなかで生きている――の視点を通して語られる。ローマ地区は中産階級が多く住んでおり、コミュニティの名前がタイトルになった。キュアロン映画に特徴的なテーマ、寛容、愛、感謝、孤独、別離、裏切り、移動、そして希望も語られるだろう。監督自身の記憶に基づく半自叙伝的な家族史であるが、同時にメキシコ現代史の一面が切りとられている。       (文責:管理人)

 

           政治的混迷を深める1970年初頭のメキシコを描く

 

A: 開けてびっくり玉手箱とばかり、配信開始を首を長くして待っておりました。待ってる間に雑音が入りすぎてしまいましたが、待っただけの甲斐がありました。モノクロ映画の新作を見るのは、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』以来でしょうか。

B:  残念なニュースが目立った2018年でしたが、年の瀬にささやかなクリスマス・プレゼントが贈られてきました。

A: 『オクジャ』でも感じたことですが、こういう映画こそ最初は劇場で見たかった。チケットがアッという間に完売になった東京国際映画祭で鑑賞できた人が羨ましいかぎりです。

 

B: 特に冒頭のクレジット部分の静謐さは、さぞかし大画面だったら素晴らしかったろうと思いますね。長編映画としては、キュアロンが初めてカメラを回した作品でもありました。

A: 短編では数多く撮影を手掛けています。デビュー作Sólo con tu pareja92『最も危険な愛し方』)以来、監督と二人三脚でカメラを回し続けているエマニュエル・ルベツキではなかった。モノクロで撮るには撮影期間が短すぎてスケジュールが合わなかったということでしたが、他にも事情があるらしい。前作の『ゼロ・グラビティ』13)では、キュアロンが監督賞、ルベツキが撮影賞と両人ともオスカー像を手に、トータルで7個のオスカー像をゲットした。結果的にはキュアロンで良かったのではないか。

 

B: 前作からだと5年のブランクがありますが、大成功の後の次回作は、どの監督にとっても厳しい。

A: 監督によると、成功のあと、大きな製作会社からより多くの資金、大物スターのラインナップでオファーを受けたが、受けるべきではない考えた。ROMAが彼を待っていたからでした。

B: 賞は素晴らしいがそれなりの副作用がありますね。今度は故国メキシコに戻り、自分の記憶にある子供時代をスペイン語とミシュテカ語で、更にはモノクロで撮ると決めていた。

 

         ミシュテカ生れの乳母リボに捧げられた『ROMA/ローマ』

 

A: ROMA/ローマ』は、生後9ヵ月のときから監督乳母であったリボリボリア・ロドリゲスに捧げられています。本作は自分の人格形成に最も寄与してくれた女性の一人、体を張って育ててくれたリボへの謂わばラブレターです。メキシコでもっとも貧しいと言われるオアハカ州の先住民ミシュテカ出身、母語はミシュテカ語です。

B:  ヤリッツァ・アパリシオが演じたクレオ・グティエレスのモデルというか分身です。劇中では同じ先住民の家政婦アデラとミシュテカ語で喋っていた。アパリシオ自身も村を出て、クレオの役を射止めてデビューしたということです。

 

A: アデラはクレオ同様使用人ですが、主に料理を担当する家政婦です。ブルジョア階級の家庭は必ず乳母nanaを雇っている。乳母というのは、掃除洗濯のような家事一般の他、笑顔を絶やさずに子供たちを躾け、忍耐強く世話をする、もう一人のママ、家じゅうで一番早く起き、一番最後に寝る人です。欧米の家政婦メイドとは違うのです。

B: クレオは家の戸締り、消灯をして最後に自室に戻っていた。まだ小さい末っ子のペペには母親より大事な人みたいで「クレオが大好き」を連発していた。

 

     

            (幼稚園の帰り道、ランランのペペとクレオ)

  

    

  (今「死んでるもん」とペペ、「死んでるのもイイね」とクレオ、印象深い洗濯場のシーン)

 

A: ミシュテカの子守歌を歌ってソフィを寝かしつけていたのもクレオでした。彼女は下層階級出身の先住民女性という三重の差別を受けている。女性であることがそもそも差別の対象なのです。マリナ・デ・タビラが扮した雇い主のソフィア夫人も、後ろ盾となっていた夫に捨てられたことで侮辱的なセクハラを受ける。

B: 男性の不実は許されている。上層階級の女性であるソフィア奥様も夫あっての存在でしかない。現代も半世紀前の1970年も大して変わっていないかもしれない。

 

     

(テレビを楽しむ最後の家族団欒シーン、翌日父親が家を去るのを知らない子供たち)

 

      

       (走り去る夫アントニオの車を怒りを込めて睨むソフィア)

 

A: 貧しさに圧しつぶされてパラミリタールに入ったクレオの恋人フェルミン、クレオの妊娠を知った途端手のひらを返すようにクレオを捨てる。無責任に貧富の差は関係ない。

B: クレオの妊娠を受け入れたソフィア夫人、女性が子供を授かることは自然とクレオを咎めない先住民女性の大らかさ、総じて女性たちの強さ、勇気、優しい団結が印象的でした。

A: 一人として堕胎を強要しない。望まぬ妊娠でも生まれてくる子供に罪はない。それだけにクレオが最後に発する言葉「生まれて欲しくなかったの」は衝撃的、クレオがどんな心境で大きなお腹を抱えて過ごしていたのかと想像すると、その辛さの大きさに涙を禁じえなかった。本作の凄さは映像よりも、観客が見落としてしまうような台詞の巧みさです。ソフィア夫人も最後には新たなチャレンジを子供たちに宣言、希望を抱かせるラストでした。

 

           

          (一番素晴らしかった海辺のシーンを使用したポスター)

 

B: 家族史だけでなく暴力が根幹にあるメキシコ社会についても映画は語っています。

A: マチスモ、不平等、偽善、パラミリタールという私設軍隊、特に1971610日に起きた「聖体の祝日の木曜日の虐殺」を、記憶に残る事件として監督は挙げている。日本で「血の木曜日事件」といわれる反政府デモを軍隊が弾圧した事件、次回に回します。

  

マルティネス=ラサロが三度ダニ・ロビラとタッグを組んだ「Miamor perdido]」2018年12月14日 15:10

        二人は法的に結婚していませんが「事実上のカップル」です!

 

   

        (ダニ・ロビラとミシェル・ジェンネルを配した「Miamor perdido」)

 

エミリオ・マルティネス=ラサロ(マドリード、1945)の新作Miamor perdidoは、「オチョ・アペリードス・バスコス」『オチョ・アペリードス・カタラネス』と三部作の体裁をとっているようです。監督はステージでダニ・ロビラ(マラガ、1980)の2時間に及ぶ独演会を見てからというものぞっこんで、浮気もせずにひたすらダニを想っている。「私たちは映画では事実上のカップルです。それで(彼を主役に)長編3作をひたすら撮り続けています。つまり彼より私のほうが誠実だということです」。それなのにダニは「僕は、若気の至りというか、ちょっぴり尻軽で、あっちこっちつまみ食いが必要なんです」と自己分析。たくさんの監督からオファーを受けて、エミリオ一筋とはいかないのです(笑)。

 

         

         (ミシェル・ジェンネル、エミリオ・マルティネス=ラサロ、ダニ・ロビラ)

 

★ロビラは Netflix で配信された『オチョ・アペリードス・カタラネス』のあと本作まで5作に出演しています。なかで先月下旬500館で封切られた、スーパーマンのパロディSuperlópez20年ぶりの新バージョン、批評家の評価も高く、興行成績もバツグンとくれば言うことなしです。1973Janによって造形されたコミックの映画化。監督は『SPY TIMEスパイタイム』のハビエル・ルイス・カルデラがメガホンをとりました。ルイス・カルデラもダニ・ロビラにご執心で、「オチョ・アペリードス・バスコス」撮影中から交渉していたと語っています。共演者にアレクサンドラ・ヒメネスフリアン・ロペスマリベル・ベルドゥペドロ・カサブランクなど芸達者が勢揃い、脚本は「オチョ・アペリードス」の二人組ボルハ・コベアガ&ディエゴ・サン・ホセですから、面白くならないはずがありません。

 

           

        (髭を生やしたスーパーロペスことフアン・ロペス役のダニ・ロビラ)

 

★一方Miamor perdido」は、1214日に封切られる。ダニ・ロビラのお相手はアルモドバルの『ジュリエッタ』に出演していたミシェル・ジェンネル(ジェナー)の他、コメディの大ベテランを自負しているアントニオ・レシネス、人気上昇中のビト・サンスアントニオ・デチェントウィル・シェファードハビビ(『アブラカダブラ』)、エトセトラ。ビト・サンスはマテオ・ヒルのロマンティック・コメディLas leyes de la termodinámica(Netflix 邦題『熱力学の法則』)で主役を演じているほか、ダビ・トゥルエバの新作Casi 40にも起用されている。ウィル・シェファードはラ・コルーニャ生れの黒人俳優、大御所フェルナンド・コロモが久々に撮ったコメディLa tribuNetflix『ダンシング・トライブ』)に、パコ・レオンカルメン・マチと共演している。パコの母親にカルメンが扮して両人とも達者なダンスを披露している。 

  

       

                                  (マリオ役のダニとオリビア役のミシェル)

   

      

           (この飼い猫も主役らしい?)

 

ミシェル・ジェンネルMichelle Jenner1986)は、声優の父親がミゲル・アンヘル・ジェナーと表記されていることからジェナーが多く、『ジュリエッタ』の公式カタログではジェネール、バルセロナ出身なのでジェネ(ー)ルかジェンネル、日本語表記は定まっていない。父親同様アニメーション(「タデオ・ジョーンズの冒険」など)の声優として活躍しているほか、「ハリー・ポッター・シリーズ」や『美女と野獣』では、エマ・ワトソンの吹替を担当している。長編映画の主役としては、ダニエル・サンチェス・アレバロ&ボルハ・コベアガSFEn tu cabezaダニ・デ・ラ・トーレのサスペンスLa sombra de la leyではルイス・トサールと共演、アナーキストの活動家として登場している。本作は1920年代のバルセロナの銃社会の裏側を描いている。スペイン公開後直ぐに『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』の邦題で1031日から Netflix 配信されている。シリアス・ドラマもコメディもこなせる女優として、将来が期待されている。

 

       

           (スペイン題La sombra de la ley」のポスター

         

               

            (父ミゲル・アンヘル・ジェナーと、20128月)

 

★「現代社会は誤解からくる怒りや傷つけられたと過度に感じやすくなっている。だからユーモアの限界について語るときにはよく検討しないといけない。・・・何がユーモアで何がそうでないか議論することはできますが、人に余裕がないときは直ぐ限界がきてしまう」と監督。ユーモアの匙加減が難しい時代になってきたようです。音楽はロケ・バニョス、撮影フアン・モリナ、編集は「オチョ・アペリードス」を手掛けたベテランのアンヘル・エルナンデス・ソイド。いよいよスペインで封切られます。


第6回フェロス賞2019*ノミネーション発表2018年12月07日 18:32

      ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」が最多の10個ノミネーション

   

     

125日「フェロス賞」2019のノミネーションが発表になりました。「フォルケ賞」の次に開催され、ゴヤ賞の前哨戦といわれていますがカテゴリーが異なっていたり、TVシリーズがあったりと重なりません。選考母体のAICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)は、ゴールデン・グローブ賞と同じ批評家やジャーナリストなどプロの団体ですから、自ずとゴヤ賞とは評価の視点が違っています。第6回は2019119、マドリードを離れてバスク州の州都ビルバオで開催されます。2019年はゴヤ賞がセビーリャ、フォルケ賞がサラゴサ、ガウディ賞がバルセロナと、マドリード開催は一つもないという異例の年になります。下の写真は、昨年『ホーリー・キャンプ!』でコメディ部門の受賞者となったハビエル・アンブロシハビエル・カルボのコンビ、通称「ロス・ハビ」と、マリア・ゲーラAICE会長です。

 

       

        (ロス・ハビに挟まれたマリア・ゲーラ会長、2018125日)

 

★今年のサンセバスチャン映画祭「金貝賞」の受賞作品、フォルケ賞にもノミネーションされていたイサキ・ラクエスタの「Entre dos aguas」がゼロ個というのはサプライズです。今回最多の10個をノミネートされた「El reino」は、反対にSSIFFでは無冠に終ったのでした。下の写真は、左上段「El reino」のアントニオ・デ・ラ・トーレArde Madrid」のパコ・レオンインマ・クエスタアンナ・カスティーリョ下段Quién te cantará」のナイワ・ニムリEl día de mañana」のオリオル・プラアウラ・ガリード、この4作がどうやら映画部門(ドラマ)とTVシリーズ部門の有力候補のようです

    

      

          (ドラマ部門とTVシリーズ部門の有力候補

 

 5回フェロス賞の結果発表は、コチラ20180123

 

   映画部門ノミネーション(初出に監督名、印は当ブログ紹介作品)

 

◎作品賞(ドラマ)
Carmen y Lolaカルメン&ロラ 監督アランチャ・エチェバリア 4
Petra 監督ハイメ・ロサーレス 5
Quién te cantará 監督カルロス・ベルムト 8 

El reino 監督ロドリゴ・ソロゴジェン 10
Todos lo saben『エブリバディ・ノウズ』 監督アスガー・ファルハディ 6
Viaje al cuarto de una madre 監督セリア・リコ・クラベリーノ 3

◎作品賞(コメディ)
Campeones 監督ハビエル・フェセル ★
Casi 40 監督ダビ・トゥルエバ ★
Mi querida cofradía 監督マリア・ディアス・デ・ロペ
Superlópez 監督ハビエル・ルイス・カルデラ 
Tiempo después 監督ホセ・ルイス・クエルダ

◎監督賞
アランチャ・エチェバリアCarmen y Lola 
ハビエル・フェセルCampeones 
ラモン・サラサールLa enfermedad del domingo」『日曜日の憂鬱』
ロドリゴ・ソロゴジェンEl reino
カルロス・ベルムトQuién te cantará

 主演女優賞
ペネロペ・クルス Todos lo saben
ロラ・ドゥエニャス Viaje al cuarto de una madre
アレクサンドラ・ヒメネス Las distancias
バルバラ・レニー Petra
エバ・リョラチ Quién te cantará

主演男優賞
ハビエル・バルデム Todos lo saben
ホセ・コロナドTu hijo 監督ミゲル・アンヘル・ビバス ★
ハビエル・グティエレスCampeones

ハビエル・レイSin fin 監督セサル=ホセ・エステバン・アレンダ ★
アントニオ・デ・ラ・トーレEl reino

助演女優賞
アンナ・カスティーリョViaje al cuarto de una madre 
バルバラ・レニーTodos lo saben
ナタリア・デ・モリーナQuién te cantará
マリサ・パレデスPetra
アナ・ワヘネルEl reino

 助演男優賞
ジョアン・ボテイPetra
エドゥアルド・フェルナンデスTodos lo saben
イグナシオ・マテオスAnimales sin collar 監督ホタ・リナレス
ホセ・マリア・ポウEl reino
ルイス・サエラEl reino

 ◎脚本賞
アランチャ・エチェバリア Carmen y Lola
ハイメ・ロサーレスミシェル・ガスタンビデクララ・ロケPetra
カルロス・ベルムトQuién te cantará 
ロドリゴ・ソロゴジェンイサベル・ペニャEl reino