第36回ヨーロッパ映画賞2023*結果発表2023年12月18日 11:09

     作品賞はジュスティーヌ・トリエの『アナトミー・オブ・ア・フォール』

    

               

        (作品・監督・脚本賞受賞のジュスティーヌ・トリエ)

 

129日、36回ヨーロッパ映画賞2023の結果発表がベルリンの本部でありました。ジュスティーヌ・トリエ監督の『アナトミー・オブ・ア・フォール』が、作品・監督・脚本・編集・女優賞のトロフィーをゲット、大勝利を収めました。少し白けた方もいたのではないでしょうか。今年は長編アニメーション部門にノミネートされていたパブロ・ベルヘルの『ロボット・ドリームズ』が受賞、J. A. バヨナの『雪山の絆』からメイクアップ&ヘアー賞にアナ・ロペス=プイグセルベルベレン・ロペス=プイグセルベルダビ・マルティモンセ・リベ4人、視覚効果賞にフェリックス・ベルヘスラウラ・ペドロ、締めくくりは3賞ある栄誉賞のうち、ワールドシネマ栄誉賞イサベル・コイシェ、など大勢が受賞しました。ゴヤ賞2024とも関連するので番外編として纏めてみました。

          

      

        (長編アニメーション賞を受賞したパブロ・ベルヘル)

 

パブロ・ベルヘル(ビルバオ1963)の長編4作目となる『ロボット・ドリームズ』は、今年の東京国際映画祭アニメーション部門で上映されたこともあり、早々と鑑賞できた作品です(予告編、Q&AトークショーがYouTube 配信中)。1980年代のニューヨークに暮らすドッグと彼のマスコットのロボットのあいだの関係を通して友情への賛歌が描かれている。サラ・ヴァロン(シカゴ1971)の同名グラフィック小説のアニメ化ですが、彼女から自由に解釈してよいというお墨付きを得て、舞台を監督が過ごした1980年代のニューヨークに移している。彼の青春時代や人生観が色濃く投影されている。「終わりなきアニメの可能性を探求する」製作者サンドラ・タピア他、アニメーターたちを励まし、このトロフィーを「創造力豊かで高揚したスペイン・アニメーション業界に捧げる」とスピーチした。

パブロ・ベルヘルの主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、

 コチラ2016052920170705

    

        

         (パブロ・ベルヘルと製作者のサンドラ・タピア)

 

★本作はカンヌ映画祭2023でワールドプレミアムされ、ヨーロッパ映画賞以外でもアヌシー・アニメーション映画祭作品賞、シッチェスFF観客賞、富川アニメーションFF観客賞、オクトパスFFオクトパス賞ほかを受賞、これから発表になるフォルケ賞2024以下、フェロス賞、ゴヤ賞、ガウディ賞にノミネートされている。カンヌに連れだって参加したプロデューサーでカメラや音楽エディターの監督夫人Yuko Harami ハラミ・ユウコの功績も見逃せない。ニューヨークで出会った両人は、以来ベルヘルの全4作『トレモリノス73』、『ブランカニエベス』、『アブラカダブラ』を二人三脚で製作している。

    

          

       

     (ベルヘル監督とハラミ・ユウコ、カンヌFF20235月フォトコール)

 

★また週末にはスペイン公開が決定しており、1221日に発表になるオスカー賞のプレセレクション15作に選ばれるかどうかを待っている。待っているのは本作だけでなくゴヤ賞2024ノミネートのフェルナンド・トゥルエバ&ハビエル・マリスカルの「Dispararon al pianista」、ゴヤ賞2023受賞のアルベルト・バスケスの「Unicorn Wars」(『ユニコーン・ウォーズ』)も同じである。

         

★ヨーロッパ映画賞の栄誉賞は、イサベル・コイシェが受賞したワールドシネマ栄誉賞、イギリスの女優ヴァネッサ・レッドグレイヴが受賞した生涯功労賞、ハンガリーのタル・ベーラが受賞した特別栄誉賞3つがある。レッドグレイヴは高齢で参加が難しくビデオテープでの出席ということでした。タル・ベーラは2011年、『ニーチェの馬』(ベルリンFF審査員グランプリ銀熊賞)を最後に引退を表明、現在は後進の指導に当たっているという伝説の映画作家。

 

★スペイン語映画に拘らず英語の作品のほうが多いコイシェは、監督になって直ぐ気づいたのは「カメラの背後には、国境も、パスポートも、国旗も、境界もないということでした。世界がこのようであったらと思います」とスピーチした。また「Green Border」で今年の作品賞・監督賞にノミネートされていたポーランドのベテラン監督アグニエシュカ・ホランドへの愛を語り、細長い形のトロフィーについて冗談を言った。「ある人が、私ではありませんよ、性玩具のようだと言いましたが、アカデミーが来年は彼女に賞を与えてくれると素晴らしい」と締めくくった。

    

       

      (トロフィーを手に受賞スピーチをするイサベル・コイシェ)

 

★男優賞はデンマークのマッツ・ミケルセン(「The Promis Land」)、女優賞は『アナトミー・オブ・ア・フォール』の主役サンドラ・ヒュラー/フラー)、音楽賞にマルクス・バインダー(「Club Zero」)、ドキュメンタリー賞にAnna Hintsの「Smoke Sauna Sisterhood」、国際映画批評家連盟 FIPRESCI ディスカバリー賞にモリー・マニング・ウォーカーの「How To Have Sex」、同カテゴリーにはエスティバリス・ウレソラ・ソラグレンの『ミツバチと私』がノミネートされていました。プロダクション・デザイン賞にエミータ・フリガート(「La Chimera」)、メイクアップ&ヘアー賞と視覚効果賞は上記の通りです。

   

           

        (ジュスティーヌ・トリエ監督とサンドラ・ヒュラー)

 

★以下は上記で紹介した受賞者に絞っており、総合写真の一部分です

  

 

(上段左から、イサベル・コイシェ、ベレン・ロペス=プイグセルベル、アナ・ロペス=プイグセルベル、マルクス・バインダー、パブロ・ベルヘル、右端モリー・マニング・ウォーカー。下段左から、ラウラ・ペドロ、エミータ・フリガート、サンドラ・ヒュラー、Anna Hints、ジュスティーヌ・トリエ)

 

追加情報:フォルケ賞アニメーション部門に『ロボット・ドリームズ』が受賞したようです。次回全受賞者の結果をアップする予定です。


アウト・オブ・コンペティション2作*サンセバスチャン映画祭2023 ④2023年07月19日 17:19

   ロス・ハビスのTVシリーズと特別上映のトゥルエバ&マリスカルの新作

 

         

          (ロス・ハビスのTVシリーズ「La mesías」から)

 

★コンペ外の2作、ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ(マドリード1984)とハビエル・カルボ(ムルシア1991)のスリラー「La mesías」は7話からなるTVシリーズ、アウト・オブ・コンペティションだが2人がセクション・オフィシアルに参加するのは初めてである。舞台演出家でもあるロス・ハビスは『パキータ・サラス』(16)、「Veneno」(20)、「Caldo」(21)などのTVシリーズを成功させている。長編映画デビュー作「La llamada / Hoiy Camp」(17)は、『ホーリー・キャンプ!』の邦題でラテンビートFFで上映されている。出演者は『ブラック・ブレッド』の好演が記憶に残るロジェール・カザマジョール、アンブロッシ監督の実妹でもある『ブランカニエベス』や『ホーリー・キャンプ!』のマカレナ・ガルシア、『海を飛ぶ夢』のロラ・ドゥエニャス、カメレオン女優のカルメン・マチ、ほかアナ・ルハス、アルベルト・プラ、アマイアなど豪華キャストがクレジットされている。

『ホーリー・キャンプ!』の作品&監督紹介は、コチラ20171007

   

      

    (ハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボ)




 

フェルナンド・トゥルエバ(マドリード1955)とハビエル・マリスカル(バレンシア1950)のアニメーション「They Shot the Piano Player」(Dispararon al pianista)もセクション・オフィシアルのコンペ外である特別上映作品です。コンビは音楽アニメーションChico Rita」(10)でタッグを組み、ラテンビート2011で『チコとリタ』として上映された。オスカー賞にノミネートされ、ゴヤ賞2011では長編アニメーション賞を受賞している。マリスカルはバルセロナ・オリンピックのマスコットでも知られているアーティスト。トゥルエバは新作について「この映画は、70年代に軍事クーデタで不当に命を奪われた天才の人生を、15年間にわたって調査したもである」と語っている。

   

      

      (久々にタッグを組んだ「They Shot the Piano Player」から)

    

      

        (フェルナンド・トルゥエバとハビエル・マリスカル)

 

★新作「They Shot the Piano Player」英語、2023

製作:Fernando Trueba Producciones Cinematograficas / Les Films dIci / Lola Films / Gao Shan Pictures

配給:ソニー・ピクチャーズ・クラシックス、フランスはSophie Dulac Distribution

製作者:クリスティナ・ウエテ、セルジュ・ラルー、ウンベルト・サンタナ

ナレーション:ジェフ・ゴールドブラム

製作国:スペイン、フランス、オランダ、ペルー、ポルトガル

 

解説:ブラジルのミュージシャン、ボサノバの音楽運動を推進した天才ピアニスト、テノリオ・ジュニオール(リオデジャネイロ1941~ブエノスアイレス1976、享年34歳)の謎の失踪の背後にある真実を追求しようと旅に出るニューヨークの音楽ジャーナリストの物語。ラテンアメリカ諸国が軍事政権に飲み込まれる直前の6070年代を背景に、歴史の転換点にあるラテアメリカの創造的自由がはじける束の間の時間をとらえている。1976年、トキーニョとヴィニシウス・デ・モラエスと一緒にブラジルからアルゼンチンに演奏に出掛けたきり姿を消したフランシスコ・テノリオ・ジュニオールの失踪事件にインスパイアされている。

   

      

  (フランシスコ・テノリオ・ジュニオール)

 

出演者:ナレーターは俳優でミュージシャンのジェフ・ゴールドブラム(ピッツバーグ1952)、他ブラジルのミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、パウロ・モウラ、トキーニョ、ヴィニシウス・デ・モラエス、ジョアン・ドナート(2023717日没)、ビル・エヴァンス(米国、1980年没)、ベボ・バルデス(キューバ、2013年没)、など。

 

        

             (左ジェフ・ゴールドブラム)

 

            


   


スペイン映画14作ノミネート発表*サンセバスチャン映画祭2023 ③2023年07月17日 16:04

          コンペティション部門にイサベル・コイシェの新作がノミネート

    

         

           (スペイン映画14作が一挙に発表になった)

 

714日マドリード発、スペイン映画アカデミーはスペイン製作の映画を中心に、セクション・オフィシアル(3作)、アウト・オブ・コンペティション(1作)、特別上映(1作)、ニューディレクターズ(1作)、ベロドロモ(2作)、オリソンテス・ラティノス(2作)、サバルテギ-タバカレラ(4作)の各部門合計14作を発表いたしました。今回はセクション・オフィシアルにノミネートされ金貝賞を競う、イサベル・コイシェ、ハイオネ・カンボルダ、イサベル・エルゲラの3女性監督の新作をアップします。特別上映枠にフェルナンド・トゥルエバハビエル・マリスカルのコンビがアニメーション映画「They Shot The Piano Player」(Dispararon al pianista)で久々に登場します。いずれご紹介したい。

   

 

        71SSIFF セクション・オフィシアル② ◎

   

8)O Corno / The Rye Horn (スペイン=ポルトガル=ベルギー)長編2作目

  ガリシア語、ポルトガル語、103

 *イクスミラ・ベリアク 2020

監督ハイオネ・カンボルダJaione Camborda(サンセバスティアン1983)は監督、脚本家、アートディレクター。映画はプラハとミュンヘンの映画学校で学んだ。長編デビュー作「Arima」は、セビーリャ・ヨーロッパFF2019「新しい波」セクションの監督賞受賞、ほかヒホン映画祭の受賞を経て、SSIFF 2020メイド・イン・スペインで上映されている。2作目でコンペティション部門に選出されるのは幸運です。本作はガリシア語で金貝賞を目指す最初の作品です。イクスミラ・ベリアクのプロジェクトに参加して完成させた。怖ろしい事件に巻き込まれ、島から逃亡せざるをえなかった女性マリアの人生が描かれる。ガリシアのポンテベドラのアロウサで撮影された。撮影監督は『サマ』など国際的に活躍するルイ・ポカスが手掛けている。

 

キャスト:ジャネット・ノバス(マリア)、シオバンSiobhan・フェルナンデス、カルラ・リバス、ダニエラ・エルナン・マルチャン、マリア・ラド、フリア・ゴメス、ホセ・ナバロ、ヌリア・レステガス、ディエゴ・アニド

  

ストーリー1971年アロウサ島、マリアはエビやカニなどの海産物を採って生計を立てている。また他の女性のお産を手助けするなど、島では献身的な女性として知られた存在でした。しかし予期せぬ出来事により島を脱出しなければならなくなり、生き残りを賭けた危険な旅をすることになる。マリアは自由を求めて、ガリシアとポルトガル間の密航ルートに沿って国境を越えようと決心する。ガリシア語で撮られた映画のノミネート1作目となります。

Arima」の作品紹介は、コチラ20200912

    

     

 

9)El sueño de la sultana / Sultanas Dream(スペイン=ドイツ)SFアニ、85

監督:イサベル・エルゲラ(サンセバスティアン1961)は、視覚アーティスト、製作者、アニメーションの監督。本作は長編アニメーションのデビュー作、1905年、ベンガル出身のイスラム教徒でフェミニストの作家、社会改革者であったロケヤ・ホセインRokeya Hossain18801932)のSF小説、英語で出版された。当時女性が英語を学ぶことは不適切とされていたが、夫の理解を得て学んだ。女性が統治しているユートピア「レディランド」をベースにしている。短編アニメーション「La gallina ciega」がゴヤ賞2007短編アニメーション部門にノミネートされている。他「Kutxa beltza」(16)、「Amore d'inverno」(15)、「Bajo la almohada」(12)、「Ámár」(10)などを撮っている。

 

ストーリー:〈スルタン王妃の夢〉は、1905年インドのベンガル地方で書かれたSF小説にインスパイアされて製作された。女性たちがすべてを統治管理しているフェミニストの理想郷レディランドが舞台。男性は隔離されている。ユートピアでは「男性は強くて頭がいい、女性は弱くて愚か」という固定観念が壊れるというジェンダー逆転が生まれている。

 

      

 

10)Un amor(スペイン)スペイン語、ドラマ、140

監督:イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)、セクション・オフィシアル初参加となる本作は、サラ・メサのベストセラー小説 Un amor 2020年刊)の映画化、ライア・コスタが主役ナタリアに扮する。脇を固めるホヴィク・ケウチケリアン、ウーゴ・シルバ、ルイス・ベルメホなど演技派を揃えている。本祭との関りでいうと、1988年ニューディレクターズ部門に「Demaciado viejo para morir joven」がノミネートされている。またドキュメンタリー「El techo amarillo」がセクション・オフィシアルで特別上映され、RTVE「ある視点」賞、ドゥニア・アジャソ賞スペシャル・メンションを受賞している。翌年のゴヤ賞ドキュメンタリー賞にノミネートされた。

 

キャスト:ライア・コスタ(ナット/ナタリア)、ホヴィク・ケウチケリアン(アンドレアス)、ウーゴ・シルバ、ルイス・ベルメホ、イングリッド・ガルシア≂ヨンソン、フランチェスコ・カリル

 

ストーリー:都会での息苦しい生活を逃れ、30代のナットはスペインの奥地に典型的な小さな村ラ・エスカパに避難所を見つけます。素朴な廃屋でナットは再び人生を立て直そうと決意します。家主は歓迎のしるしとして、飼いならしていない犬を連れてくる。やがて家主との対立や村民の不信感に直面して、隣人アンドレアスの不穏な性的提案を受け入れて、自分自身を驚かせることになる。この奇妙で矛盾をはらんだ出会いから、貪欲で強迫的な情熱が芽生えてくる。ナットは今まで彼女が自分だと思っていた女性は、本当の自分なのだろうか、実存への疑念と性的役割の破壊力を探求する。

本作については、別途作品紹介を予定しています。

 

    

     

   

   (左から、ハイオネ・カンボルダ、イサベル・エルゲラ、イサベル・コイシェ)


ブニュエルを主人公にしたアニメーション*ゴヤ賞2020 ⑱2020年02月05日 18:39

    サルバドール・シモーの「Buñuel en el laberinto de las tortugas」が受賞

 

   

 

★ゴヤ賞2020アニメーション部門は、サルバドール・シモーBuñuel en el laberinto de las tortugas18が受賞した。他に新人監督賞、脚色賞、オリジナル作曲賞がノミネートされていたが叶わなかった。受賞はほぼ確実だったのに作品紹介が後回しになっていた。マラガ映画祭2019ASECAN賞、アヌーシー・アニメーション映画祭審査員賞受賞作品。本作はエストレマドゥーラ州カセレス出身のイラストレーター、フェルミン・ソリス(カセレス1972のモノクロ同名コミックの映画化です(カラー版として約10年後に再版された)。原作は2008年ビルバオのAstiberri社からエストレマドゥーラだけで発売され、翌年一般公刊された。コミック国民賞2008の最終候補に残った。いわゆる国民賞選考母体は文化省で、副賞の賞金は少ないが権威のある賞です。コミック部門が設けられたのは2007年、その2回めの最終候補に残りましたが、パコ・ロカArrugasに敗れた(2011年に映画化され、本邦でも『しわ』の邦題で劇場公開された)。 

パコ・ロカと『しわ』の紹介は、コチラ⇒2018年04月15日

    

            

            (本作をバックにしたサルバドール・シモー)

 

★映画化するに対してシモー監督は、もう一人の協力者にイラストレーターのホセ・ルイス・アグレダ(セビーリャ1971をアート・ディレクターとして迎えた。物語1930年代当時のスペインで最も貧しかったというエストレマドゥーラのラス・ウルデスのドキュメンタリー『ラス・ウルデス(糧なき土地)』1933Las Hurdes. Tierra sin pan27)をルイス・ブニュエル如何にして製作したか、そのプロセスが語られるアニメーションです。

 

(ホセ・ルイス・アグレダ)

  

   

   

  (ホセ・ルイス・アグレダによるブニュエルの下絵)

 

★登場人物はブニュエル自身、彼の親友で製作者のラモン・アシン、『ヴォーグ』誌の特派員でシュールレアリスト詩人のピエール・ユニク、カメラマンのルーマニア出身のエリー・ロタール4人が主演者、ところどころに挿入される『ラス・ウルデス(糧なき土地)』の実写で構成されています。タイトルの直訳「カメの迷宮の中のブニュエル」は、ラモン・アシンが「撮影隊が村を探索した際、道は迷路のように曲がりくねり、屋根がカメの甲羅に似た箱型の家屋がびっしりひしめきあっていた」と指摘したことから付けられたようです。

 

 

    

     (ラス・ウルデスの村を探索するクルー、カメの甲羅のような屋根)

 

    

       (迷路のように曲がりくねった道、ドキュメンタリーから)

 

 

 Buñuel en el laberinto de las tortugasBuñuel in the Labyrinth of the Turtles

製作:Sygnatia Films / Glow Animation(バダホス)/ Hampa Animation Studio(バレンシア)/

   Submarine(オランダ)

   協賛RTVE / Moviastar+ / Telemadrid / エストレマドゥーラTV / アラゴンTV / ICCA

監督:サルバドール・シモー

脚本:エリヒオ・R・モンテロ、サルバドール・シモー、(原作)フェルミン・ソリス

音楽:アルトゥーロ・カルデルス

編集:ホセ・マヌエル・ヒメネス

アート監督:ホセ・ルイス・アグレダ

プロダクションマネージメント:フリアン・サンチェス

製作者:マヌエル・クリストバル、ホセ・マリア・フェルナンデス・デ・ベガ、アレックス・セルバンテス、ブルノ・フェリックス、Femke Wolting

 

データ:製作国スペイン=オランダ=ドイツ、スペイン語・フランス語、2018年、77分、アニメーション(+実写)、伝記ドラマ、スペイン公開2019426日、オランダ同418日、フランス同619日、米国同816日、他

映画祭・受賞歴:アニメーションFF201810月プレミア(ロスアンジェルス)、マイアミ映画祭2019、グアダラハラFF、マラガFFASECAN賞、音楽賞アルトゥーロ・カルデルス)、アヌーシー・アニメーションFF(審査員賞・オリジナル作曲賞アルトゥーロ・カルデルス)、ヨーロッパ映画賞2019アニメーション賞受賞、ペリフェリアスFF2019観客賞、シネマ・ライターズ・サークル賞2020新人監督賞・脚色賞(エリヒオ・R・モンテロ&サルバドール・シモー)、ゴヤ賞アニメーション賞受賞、他多数

 

キャスト(ボイス):ホルヘ・ウソン(ルイス・ブニュエル)、フェルナンド・ラモス(ラモン・アシン)、ルイス・エンリケ・デ・トマス(ピエール・ユニク)、シリル・コラールCyril Corral(エリー・ロタール)、ハビエル・バラス(少年時代ルイス)、ガブリエル・ラトーレ(ルイスの父)、ペパ・グラシア(ルイスの母)、フェルミン・ヌニェス(マエストロ/馬方)、ラケル・ラスカル(ノアイユ子爵夫人)、サルバドール・シモー(サルバドール・ダリ)、マリア・ぺレス(コンチータ)、エステバン・G・バリェステロス(村長/鶏肉売り)、ピエダ・ガリャルド(宝くじ売り)、ほか多数

 

ストーリー:ブニュエルは長編デビュー作『黄金時代』の上映中に起きた事件のせいで、フランスでの新しい作品を撮れなくなっていた。モーリス・ルジャンドルというスペインのラス・ウルデス地方の民族史研究をしている人類学者から、この地域の社会的な現実についてのドキュメンタリーを撮る気はないかという打診を受ける。最初は資金的な問題から不可能に思われたが、結果的に撮れることになった。それはブニュエルの親友の一人ラモン・アシンが、もしクリスマス宝くじに当たったら、賞金の一部を提供すると約束していたからだ。19321222日、クリスマス宝くじが当選、ラッキーナンバーは「29757」だった。アシンは約束を守り、撮影隊はラ・アルベルカの町でクルーを起ち上げた。監督のブニュエル、製作者のラモン・アシン、撮影のエリー・ロタール、脚本を共同で手掛けるピエール・ユニクたちは、修道院を宿舎にして、この不毛の土地の探索に着手する。                                 (文責:管理人)

 

 

      純粋なドキュメンタリーではなかった『ラス・ウルデス(糧なき土地)』

 

★ドキュメンタリーを可能にしてくれたラモン・アシンは、1888年アラゴン州のウエスカ生れ、アナーキストで画家だった。監督と同じアラゴン人だったが、イデオロギーの異なるアナーキストとコミュニストのブニュエルが親友同士というのもおかしなことだが、自分は共産主義の「シンパ」だったに過ぎないと語っている。ある日サラゴサのカフェで「ルイス、もし宝くじが当たったら、映画のお金を出してあげるよ」と言ってくれた。10万ペセタ当たり、2万ペセタくれた。約束を守ってくれたわけです。利益が出たらお礼をするわけだったが上映禁止で収益はゼロ、それでもアシンは文句を言わなかった。クリスマス宝くじは、日本でいうと年末ジャンボ宝くじにあたる。

 

1936年スペイン内戦が勃発すると、アシンはフランコ軍に抵抗したことで身に危険が迫り、自宅に隠れていた。しかしフランコ軍が家探しにきて、応対に出た妻を暴行した。その悲鳴を聞いて出てきたところを即逮捕、86日にウエスカで銃殺された。妻コンチータ・モンラスもアナーキストで、犯罪者を匿った廉で17日後に殺害された。多分、クレジットにあるコンチータではないかと思う。ドキュメンタリーは1936年まで上映禁止だったが、1960年までアシンの名前はクレジットから削除されていた。

 

(アニメとよく似ているラモン・アシン)

     

    

(ラモンとルイス、アニメーションから)

 

★ブニュエルのドキュメンタリーが正確な意味ではフィクション部分を含んでいることは、生前のインタビューや自伝で周知のことだが、彼が「この作品は現実をもとに撮られている」と述べているのも確かなことでしょう。ブニュエルがスタッフの反対を押し切って、劇的な効果のために多くのシーンをやってもらった。例えば、山羊が足を滑らせて崖から転落するという話から、そういうシーンを撮りたいと思ったが、短い撮影期間を考えると事故を待つわけにいかなかった。それでピストルで発砲して山羊を転落させたという。発砲の煙が画面に残ってしまったが、村人の憤激を怖れて撮り直しはできなかったと語っている。しかし山羊が崖から転落するのは事実である。

 

    

    (谷底に落下する山羊、ドキュメンタリー「Las Hurdes. Tierra sin pan」から)

 

★雄鶏の首をひきさくという地元の伝統を再現させるためにラモンに農民を雇わせたり、また村人の苦しみの象徴として、大切な家畜ロバがハチに刺されて死ぬようなシーンも手配させたという。しかし村人の貧しさは撮影隊をゾッとさせ、孤児たちは彼らの潤沢な食べ物を求めて群がってきたという。ブニュエルは路上で死んでいる少女を目にしたときには無力感に襲われたという。

 

    

                           (雄鶏の頭を切り裂く農民)

      


(ドキュメンタリーから)

  

モーリス・ルジャンドルというのは、1878年パリ生れのフランス人だがスペイン文化研究家で、1955年マドリード没。当時マドリードのフランス研究所の所長だった。ラス・ウルデス地方の動植物学、気候学、社会学などの総合研究をしており、20年間、夏になるとこの地方を訪れていた。ブニュエルはその論文を読んでおり、19329月には現地に赴いていた。このドキュメンタリーの原作としてクレジットされている。ブニュエルの協力者として、もう一人サンチェス・ベントゥーラが同行したが、アニメーションには登場しない。原作者のフェルミン・ソリスが入れなかったからで、後に原作者はそのことを後悔することになる。

 

     

            (フェルミン・ソリスとコミックの表紙)

 

★ブニュエルの『ラス・ウルデス』が正確な意味ではドキュメンタリーでなかったことは前述したが、シモー監督によれば、私たちのアニメも現実には正確ではありません。ブニュエルはアニメ版のようではなかったかもしれない。これは「フィクションとして撮った」と語っている。アニメーションもソリスの原作に敬意を払っているが、多くの変更が加えられた。コミックと映画が別物であることは、どの作品にも言えることです。ソリスは脚色家のエリヒオ・R・モンテロに、2つのシーンだけは削らないで欲しいと頼んだ。一つはブニュエルは子供時代に悪夢に苦しめられていた。母親の顔をした聖母マリアで登場させること、もう一つはブニュエルが修道女に変装するシーンを削除しないことだった。シモーは「ブニュエルはラス・ウルデスに変化をもたらそうとしたが、反対にラス・ウルデスが彼を変えてしまった」と説明している。親の遺産を食いつぶしていた監督にとって、この地方の貧困は想像に絶するものだったに相違ない。

     

     

               (修道女に変装したブニュエル)

 

  

         (脚色を監督と手掛けたセリヒオ・R・モンテロ)

 

★アヌーシーFFやマラガ映画祭でオリジナル作曲賞を受賞したアルトゥーロ・カルデルスは、1981年マドリード生れのピアニスト、作曲家。サラマンカの高等音楽院、ロンドンの王立音楽院、ブタペストのフランツ・リスト・アカデミー、ボストンのバークリー音楽大学などで学んでいる。ゴヤ賞2020でもオリジナル作曲賞にノミネートされていたが、『ペイン・アンド・グローリー』のアルベルト・イグレシアスが受賞した。

 

   

             (アルトゥーロ・カルデルス)

 

★最後のご紹介となったサルバドール・シモー(シモ・ブソン)は、1975年バルセロナ生れ、監督、アニメーター、視覚効果やライターなどカバー範囲は広い。監督デビューは2000年の短編「Aquarium」、TVシリーズ、長編アニメーションの監督は本作が初めて、受賞歴は上記の通り。米国でも活躍、『ウルフマン』(10)や『パイレーツ・オブ・カリビアン最後の海賊』(17)などでビジュアル効果を担当している。

  

   

        (ヨーロッパ映画アニメーション賞2019を受賞したシモー監督、127日ガラ)


(続)ベロドロモ部門のアニメーション*サンセバスチャン映画祭2019 ⑦2019年08月06日 15:26

           ビクトル・モニゴテのデビュー作「La gallina Turuleca

 

      

              (オリジナル・タイトルのポスター)

    

★ベロドロモ部門のもう1作はスペイン=アルゼンチン合作のアニメーション、ビクトル・モニゴテエドゥアルド・ゴンデルLa gallina Turuleca、卵は産めないが、人と話ができるだけではなく歌も歌えるという風変わりなめんどりトゥルレカのお話。もともと同じ題名の童謡があるようです。719日のノミネーション発表には、共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテと製作者で脚本家のパブロ・ボッシが出席しました。スペインの子供たちに人気の童謡は、YouTubeで聴くことができます。

 

      

    (左から、パブロ・ボッシとビクトル・モニゴテ、サンセバスチャン、719日)

 

 

La gallina Turuleca(オリジナル・タイトル「Turu, the wacky hen」)

製作:Brown Films AIE / Pampa Films / Tandem Films / Producciones A Fonsagrada /

   Gloriamundi Producciones / Mogambo

監督:ビクトル・モニゴテ、エドゥアルド・ゴンデル

脚本:パブロ・ボッシ、フアン・パブロ・ブスカリニ、エドゥアルド・ゴンデル

音楽:セルヒオ・モウレ・デ・オテイサ

撮影:アレハンドロ・バレンテ

プロダクション・デザイン:ビクトル・モニゴテ

美術:ベアトリス・カストロ・エレディア

プロダクション・マネージメント:フローラ・カンペロ、クリスティナ・スマラゴ、他

録音エディター:フアン・フェロ、他

製作者:アグスティン・ボッシ、クリスティナ・スマラゴ、ディエゴ・ロペス・アルバレス(以上エグゼクティブ)、パブロ・ボッシ、リカルド・マルコ・ブデー、カルロス・エルナンデス、イグナシオ・サラサル=シンプソン、他多数

アニメーション:マティ・ベンリョチ、フェルナンド・ガルシア=ソトカ、エドゥアルド・オリデン・エルミダ、他

 

データ:製作国スペイン、アルゼンチン、スペイン語、2019年、アニメーション・コメディ、配給元Filmax、スペイン公開20200101

キャスト(ボイス):エバ・アチェ(めんどりのトゥルレカ)、ホセ・モタ(悪党アルマンド)

 

ストーリー:トゥルレカは卵を産めないめんどり、そのせいで他のにわとりからの嘲笑に苦しんでいる。しかしながら、元音楽教師イサベルがトゥルレカの特異稀な隠れた才能、人間と話ができるだけでなく歌まで上手に歌えることを発見して以来、トゥルレカの人生は永遠に変わってしまう。二人は親しくなるが、ある日のこと、イサベルがアクシデントに見舞われ記憶喪失になってしまい、大都会の病院に連れていくことになる。トゥルレカは連れていく方法を調査した結果、ダエダルス・サーカスの芸人たちの魅惑的なグループと合流することに決めた。この素晴らしい旅のなか、トゥルレカはその音楽的才能とカリスマ性でサーカスのスターとなっていく。しかし好事魔多し、この奇跡のめんどりを手に入れたい悪党アルマンド・トラマスによってサーカスは脅迫されてしまうのである。

    

    

  

       

 (めんどりのトゥルレカ、アニメーションから)

 

  

★共同監督の一人スペインのビクトル・モニゴテVitor "Monigote")は本作で監督デビューしました(monigote は愛称、でくの坊という意味)。イラストレーター、ミュージシャン、歌手、俳優、声優と多才、今回はそれに監督が加わった。「どこがでくの坊なの?」―「背は低いし、ハンサムじゃないし、貧乏だ。ブランコ曲芸師でもサッカー選手でもない・・・」からだそうです。モーターバイクで世界を走り回っている。

   

     

         (ハンサムでないのは確か、愛車とビクトル・モニゴテ)

 

ハビエル・フェセル1964年生れ)の『カミーノ』に俳優とアートディレクターで参加、「ラテンビート2009」で上映されたとき監督と一緒に来日している。その後、同監督のアニメーションMortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo14)にはボイス出演の他、美術とアニメーションを手掛け、翌年のゴヤ賞の美術部門でノミネートされた。ゴヤ賞の美術部門にアニメーションが選ばれるのは初めての快挙だった。もともとはハビエルの兄ギジェルモ・フェセル(脚本家、監督、1960年生れ)と親しく、ギジェルモのCándida06)出演が俳優デビューだった。モニゴテは年内に公開が予定されているハビエル・フェセルの『チャンピオンズ』18)でも美術を担当している。

『チャンピオンズ』の作品紹介は、コチラ2018061220190701

 

     

                                    (制作中のビクトル・モニゴテ)

     

       

     (アニメ「Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo」とフェセル監督) 

 

★共同監督エドゥアルド・ゴンデルEduardo Gondellは、アルゼンチンの監督、脚本家、アートディレクター、俳優。代表作はアニメーションValentina, la película0865分)、ホセ・ルイス・マッサのUn hijo genial03)の美術を手掛けている。その他、アルゼンチンのTVミニシリーズを手掛けている。

 

(エドゥアルド・ゴンデル)

  

     

       

           (英語版Valentina, la película」のポスター

 

★めんどりトゥルレカのボイス出演のエバ・アチェ(本名Eva María Hernández Villegasは、1972年セゴビア生れ、女優、コメディアン、テレビ司会者、舞台女優として出発した。主に映画よりTVシリーズ出演が多く、国営テレビの他、テレ5、アンテナ3などでテレビ司会者として活躍、お茶の間では知られた顔である。そういうこともあって、ゴヤ賞2012年と2013年授賞式に連続で総合司会者を務めた。

 

★悪党アルマンド・トラマスのボイスを受けもつホセ・モタJosé Motaは、1965年シウダレアル生れ。コメディアン、俳優、声優、監督、脚本家。サンティアゴ・セグラの「トレンテ・シリーズ」の常連。アレックス・デ・ラ・イグレシア『刺さった男』12)では、首に鉄筋が刺さってしまった男を演じ、パブロ・ベルヘル『アブラカダブラ』16)では、催眠術にハマってしまったヒロインの従兄役に扮して笑わせた。

『アブラカダブラ』のスタッフ&キャスト紹介は、コチラ20160529


『アナザー・デイ・オブ・ライフ』アニメーション*ラテンビート2018あれこれ ⑩2018年11月19日 20:39

 

         

          (主な登場人物を入れたフランスのポスター)

    

★後半はラウル・デ・ラ・フエンテダミアン・ネノウ『アナザー・デイ・オブ・ライフ』CGアニメーションと実写の融合が最後を飾りました。最終回に相応しく会場から拍手が起こりました。1975年のアンゴラ内戦初期、ポーランドの報道記者リシャルト・カプシチンスキは首都ルアンダ取材に派遣される。凄惨な戦場を駆けめぐった3ヵ月の体験記録、ノンフィクションAnother Day of Life(英語版1976刊)の映画化。当時のアンゴラは宗主国ポルトガルとの休戦協定に調印したが、現実はソ連主導のMPLAと米国主導のFNLAの対立により混迷を深めていた。ストーリー、時代背景、映画化の動機、その複雑な経緯、原作者リシャルト・カプシチンスキ、両監督フィルモグラフィーなどは既に紹介しております。

 

『アナザー・デイ・オブ・ライフ』の紹介記事は、コチラ20181008

スペイン版タイトルUn día más con vida

 

     「悪夢の瞬間もありましたが、最終的には求めていた作品になりました」

 

A: 導入部で冷戦時代の米ソの対立構図が説明されますが、少し予備知識が必要かな。分からないと楽しめないというほどではありませんが、知っていたほうがよりベター。何しろ遠い大西洋に面したアフリカの、今から40年前の内戦だから、生まれていなかった観客も多かったでしょう。

B: 高校の世界史では学ばない? 公用語が元の宗主国ポルトガルの言語、アフリカ最大のポルトガル語人口を擁している共和国です。

 

A: 作品の言語もポルトガル語、英語、スペイン語、ポーランド語、日本語字幕なしでは厳しい。翻訳者は大変な作業だったでしょう。YouTube予告編では英語または西語入りなどあります。

B: Toutubeでも描線の美しさは伝わってきますが、スクリーンは圧倒的、比較になりません。映画ファンと一緒に同じ空間と時間を共有しているからかもしれない。

A: いくらネットで簡単に見ることができる時代になっても、映画は映画館で観るは変わらない。デ・ラ・フエンテ監督が「観客がカプシチンスキの心の中に入り込めるように努力した」と語っていたが、それはある程度成功したのではないか。

 

      

                                (凄惨を極めたルアンダ)

 

B: 最初からアニメーションで撮ろうとしたわけではなく、結果的にそうなったと。

A: アニメ作家ではありませんからね。製作の発端は10年前、デ・ラ・フエンテと公私ともにパートナーである製作者で脚本家のアマイア・レミレスが原作を読み、二人同時に感銘を受けたこと7年前のアンゴラ取材旅行から本格始動した。2012年にリスボンに行き、国立シネマテカを訪れた。そこで1975年当時のアンゴラで撮影された16ミリのコピーを見た。そこにカルロタが現れた。

 

        

  (サンセバスチャン映画祭観客賞受賞のアマイア・レミレスとラウル・デ・ラ・フエンテ)

 

B: 映画ではカプシチンスキと別れた後、死が伝えられた女性革命家カルロタのことすね。

A: 死の数時間前の映像で、圧倒的な存在感があったということです。彼女を軸にして脚本が進みだした瞬間だった。「想像してみてよ、40年前には生きていた若い女性ゲリラの姿が映っていたの」とアマイア・レミレス。本作のアイデアはカルロタに負っている部分が大きいとも。

B: カルロタへのオマージュを強く印象づけられた。

 

      

                             (カプシチンスキとカルロタ)

 

A: シュールなシーンは実写よりアニメーションのほうがいいということで、ワルシャワで仕事をしていた友人を通じて原作者の故国ポーランドに打診した。最初「どうしてスペインの監督がカプシチンスキのノンフィクションをアニメ化したいのか、びっくりというかショックを受けた」とデ・ラ・フエンテ。

B: そしてヨーロッパでも有数のアニメ・スタジオPlatige Imageとコンタクトが取れ、共同監督ダミアン・ネノウとタッグを組むことになった。完成までの道程は大分長かった。

 

A: 配給に尽力してくれたナバラのGolem のホセチョ・モレノのように完成を見ずに鬼籍入りした関係者もいた由、彼の死は思い出しても辛い。「悪夢の瞬間がいくつもありましたが、最終的には求めていた作品になりました」とデ・ラ・フエンテ。

B: 製作国は最初はポーランドとスペインだけだった。しかしベルギー、ドイツが続き、最終的にハンガリーにも参加してもらえた。

 

A: ジャーナリズムとアートの境界線は消えてしまっていた。不条理な惨い現実がカプシチンスキを報道記者から作家に転身させてしまった。

B: デ・ラ・フエンテは、カプシチンスキはジャーナリストというより活動家だったと語っていますが。

A: 理想主義者だったのではないでしょうか。この作品は無名の英雄たち、カプシチンスキファルスコルイス・アルベルトアルトゥル・ケイロカルロタほか内戦で亡くなった多くの市民に捧げられています。これにてラテンビート2018はお開きにいたします。

 

 *カンヌ映画祭以降の主なデータ(管理人覚え)

〇アヌーシー・アニメーション映画祭(612日)

〇ビオグラフィルム映画祭(伊、618日)

T-Mobil New Horizons(ポーランド、728日)

〇サンセバスチャン映画祭(922日)

CPH PIX(デンマーク、928日)

〇アニメーション・イズ・フィルムフェス(米、1020日)

〇ストックホルム映画祭(117日)

〇ラテンビート(1111日)

〇メルボルン映画祭(20198月)

〇第2回ヨーロッパ・アニメーションEmile賞ノミネーション

★公開:スペイン、ポーランド、ポルトガル、公開予定:フランス、イタリア、他

 

アニメーション『アナザー・デイ・オブ・ライフ』*ラテンビート2018 ③2018年10月08日 16:42

     カンヌ映画祭からサンセバスチャン映画祭へ、アニメファンを魅了した!

      

★ポーランドの作家リシャルト・カプシチンスキによるノンフィクションAnother Day of Lifeの映画化。原作はポーランド語だが映画は1976年に刊行された英訳本によっている。時代背景は、冷戦時代の米ソ代理戦争の典型と言われるアンゴラ内戦、首都ルアンダに赴いて3ヵ月間取材したときの記録。内戦は19753月勃発、2002年までつづいた紛争だが、本作は内戦初期に限られている。脆弱だったアンゴラ解放人民運動MPLAの分析、1976年までのアンゴラの簡単な外史で構成されている。当時アンゴラは、ソ連・キューバ主導のMPLA 、米国・南ア・ザイール・中国主導のアンゴラ民族解放戦線FNLA、アンゴラ全面独立民族同盟ウニタUNITAの三つ巴の闘争が続いていた。しかしアンゴラは19753月、宗主国ポルトガルとの休戦協定に調印した。現実はソ連主導のMPLAと米国主導のFNLAの対立により混迷を深めていたが、形式的には一応独立を果たした。

 

      

             (サンセバスチャン映画祭用のポスター)

 

★原作者のリシャルト・カプシチンスキ19322007)は、当時ポーランド領だったミンスク出身のジャーナリスト、報道記者、作家。現在のミンスク市はベラルーシ共和国の都市。家族は1945年ポーランドに移住、ワルシャワ大学で歴史学を学んだ。「ジャーナリズムの巨人」または「20世紀の最も偉大な報道記者」とも称されるが、当然毀誉褒貶は避けられないようです。ノーベル文学賞の候補に数回選ばれており、翻訳書も多数あるが、「Another Day of Life」は未訳のようです。関連翻訳書としては、40年に亘ってアフリカ諸国を取材して綴ったルポルタージュ「Heban」(2001)が、『黒檀』の邦題で刊行されている(著作目録・年譜付き)。

 

   

             (リシャルト・カプシチンスキ)

 

 『アナザー・デイ・オブ・ライフ』(原題「Another Day of Life」)アニメーション+実写

製作:Kanaki Films(西)/ Platige Image(ポーランド)/ Puppetworks Animation(ハンガリー)/

   Walking The Dog(ベルギー)/ Umedia(ベルギー)/ Animationsfabrik(独)、他

監督:ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・ネノウ

脚本:ラウル・デ・ラ・フエンテ、アマイア・レミレス、ニール・ジョンソン、他

原作:リシャルト・カプシチンスキ著「Another Day of Life

撮影:ゴルカ・ゴメス・アンドリュー、ラウル・デ・ラ・フエンテ

編集:ラウル・デ・ラ・フエンテ

音楽:ミケル・サラス

製作者:アマイア・レミレス(西)、Jaroslaw Sawko(ポーランド)、Ole Wendorff Ostergaad、他

 

データ:製作国スペイン・ポーランド・ハンガリー・ベルギー・ドイツ、言語ポーランド語・英語・ポルトガル語・スペイン語、2018年、アニメーション+実写、86分、3D-CG、ビオピック、内戦。撮影地アンゴラ・キューバ・ポルトガル。公開ポーランド2018112日、ポルトガル118日、フランス2019123

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2018コンペティション外出品ワールドプレミア、アヌシー・アニメーション映画祭、ビオグラフィルム・フェスティバル(伊)観客賞受賞、ポーランド映画祭「他の視点」出品、サンセバスチャン映画祭「ペルラス」部門、観客賞受賞、副賞として50.000ユーロが授与された。

 

出演:ミロスワフ・ハニシェフスキ(リシャルト・カプシチンスキ)、Vergil J. Smith(ケイロツQueiroz/ルイス・アルベルト/ネルソン)、Tomasz Zietek(ファルスコ少佐Farrusco)、オルガ・Boladz(カルロタ)ほか(以上実写部分)。ケリー・シェール(リシャルト・カプシチンスキ)、ダニエル・フリン(ケイロツ)、Youssef Kerkour(ファルスコ)、リリー・フリン(カルロタ)ほか(以上アニメーション部分のボイス)

 

ストーリー:ポーランドの報道記者カプシチンスキは、冷戦時代の1975年、危険なミッションを受けてアフリカの戦場アンゴラへ出発する。カリスマ的な女性ゲリラのカルロタと知り合うが、混沌とした内部への旅は理想主義者のジャーナリストを永遠に作家に変えてしまう。映画はカプシチンスキの体験に基づいており、私たちは40年前の恐怖に向き合うことになるだろう。主人公はジャーナリスト自身というより革命家カルロタのようで、彼女を女性が公正に評価され、新しい社会の中核的な存在であることの象徴として描いている。アニメ部分80パーセント、残りが実写部分だが、二つの境界はぼやけていく。                      (文責:管理人)

   

     

                              

      

 

 

    

     

        

 監督キャリア&フィルモグラフィー

ラウル・デ・ラ・フエンテ Raul de la Fuente、監督、脚本家、編集者、製作者。ナバラ大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科卒業。1996年よりTV番組やドキュメンタリーを手掛ける。2006年長編ドキュメンタリーNomadak Tx(パブロ・イラブル他との共同監督、89分)がサンセバスチャン映画祭SSIFF2006に出品される。2013年短編ドキュメンタリーMinerita28分、ボリビアとの合作)が同じくSSIFFのシネミラ部門の短編映画Kimuakに出品、翌年のゴヤ賞短編ドキュメンタリー賞を受賞する。ボリビアのポトシ鉱山で働く女性労働者たちに寄り添い、自らも坑内に入って撮影、暴力、セクハラ、希望を語らせて胸を打つ。ポーランドのクラクフ映画祭2014ゴールデン・ドラゴン賞のスペシャル・メンション、サンディエゴ・ラテン映画祭コラソン賞を受賞している。 

        

 

       

     (中央の二人が製作者アマイア・レミレスと監督、ゴヤ賞2014授賞式にて)

 

2014年ドキュメンタリーI am Haiti60分、ハイチとの合作、仏語)はSSIFF「シネミラ」部門のイリサルIrizarを受賞、2017年短編ドキュメンタリーLa fiebre del oro25分「Gold Fever」モザンビークとの合作)もSSIFFKimuakに出品、以上でドキュメンタリー三部作になっている。3作とも脚本家で制作会社Kanaki Filmsの代表者アマイア・レミレスが手掛けている(2009年にデ・ラ・フエンテと設立、本部はサンセバスチャン)。二人は公私ともにパートナーであり、レミレスの視点が注目される。

 

    

        (ラウル・デ・ラ・フエンテとアマイア・レミレス)

 

最新作『アナザー・デイ・オブ・ライフ』は上記の通りカンヌ映画祭でワールド・プレミアした。製作の発端は10年ほど前に読んだ原作に二人が同時に感銘を受けたこと、本格始動は「7年前のアンゴラ取材旅行」とインタビューに応えている。最初の構想はアニメーションと実写のミックスではなかったが、シュールなシーンはアニメのほうが適切だったこと、また将来の可能性に賭けたかったことの2つを上げている。「カプシチンスキがポーランド人だったので、制作会社 Platige Imageにコンタクトを取り、最終的にダミアン・ネノウとのコラボが決定した」とレミレス。距離的に遠く離れていたので専らスカイプで連絡を取り合った。カプシチンスキの時代のテレックスとは様変わりしている。カプシチンスキについては「ジャーナリストというより、活動家だった」と監督。カンヌよりも緊張すると話していたサンセバスチャンで、見事「観客賞」を受賞した。

 

    

(デ・ラ・フエンテ、ダミアン・ネノウ、アマイア・レミレス、カンヌ映画祭フォトコール)

 

   

  (観客賞受賞のデ・ラ・フエンテとレミレス、ネノウ監督は帰国、SSIFF2018ガラ)

 

ダミアン・ネノウDamian Nenow1983年ポーランドのクヤヴィ=ポモージェ県都ビドゴシュチ生れ、監督、脚本、編集、視覚効果、アニメーター。ポーランド第2の都市ウッチのウッチ映画学校卒、2005Platige Image Film Studioに入り、3Dによるアニメーションの制作、監督、編集を手掛ける。短編アニメーションThe Aimでデビュー、ウッチの国際アニメーション映画祭で若い才能に贈られるオナラブル・メンションを受賞、2006The Great Escapeが多くの国際映画祭に出品される。2010Paths of Hate10分)がコルドバ国際アニメーション映画祭2011で審査員賞、アヌシー国際アニメーション映画祭2011スペシャル栄誉賞、サンディエゴ・インディペンデント映画祭審査員チョイス、札幌国際短編映画祭で『パス・オブ・ヘイト』の邦題で上映され、最優秀ノンダイアログ賞を受賞している。第84回アカデミー賞2011のプレセレクション10作にも選ばれている。

 

       

    

   

(アニメーション『パス・オブ・ヘイト』から

 

2011City of Ruins5分、ポーランド題「Miasto ruin」)は、ワルシャワ映画祭出品、2015年ホラー・アニメFly for Your Life5分、米国)はインターネットで配信された。

 

 (ダミアン・ネノウ)

      

 

    

  (カンヌではしゃぐ、ダミアン・ネノウとラウル・デ・ラ・フエンテ)

  

     

       (ラウル・デ・ラ・フエンテ、ダミアン・ネノウ、アマイア・レミレス、

         ポーランド製作者Jaroslaw Sawko、サンセバスチャン映画祭2018

   

ベロドロモにパコ・レオンのTVシリーズ*サンセバスチャン映画祭2018 ⑪2018年08月19日 15:37

          大型スクリーンで楽しむベロドロモに今年はアニメを含む5作品

 

★既に「ホライズンズ・ラティノ」部門の12作品が発表になっておりますが、一足先にアナウンスされていた「ベロドロモ」部門5作品からご紹介します。サンセバスチャン郊外にあるベロドロモ・アントニオ・エロルサというスポーツ複合施設(5500人収容)で上映される。自転車レースやモトクロスのようなスポーツ以外のコンサートや映画祭でも使用され、SSIFFでは大型スクリーン(400平方メートル)を設置することから約3000人くらいになる。例年、家族で楽しめるエンターテインメント作品が選ばれ、今年はアニメーションが2作エントリーされている。

 

  

             (ベロドロモ・アントニオ・エロルサの内部

 

Arde Madrid(スペイン)パコ・レオン&アンナ・R・アコスタ 

★モビスターMovistar+製作のTV新シリーズArde Madrid(全8話)の先行上映。パコ・レオンが監督・脚本・主演を兼ね、アンナ・R・アコスタと共同監督する。背景は1961年のフランコ独裁政権時代のマドリード、アメリカ女優エバ・ガードナーや失脚後アルゼンチンから亡命してきたフアン・ドミンゴ・ペロン元大統領が登場するスリラー・コメディ。フラメンコ、治安警備隊、諜報機関、セックス、ウィスキー、ロックン・ロールが入り乱れる、ローマを舞台にしたフェリーニの『甘い生活』のマドリード版。時代を反映したモノクロ撮影が話題になっている。

 

      

(製作記者会見をする左から、インマ・クエスタ、パコ・レオン、アンナ・R・アコスタ監督、

 Movistar+ディレクターのドミンゴ・コラル、20171128日)

 

キャスト:パコ・レオン(マノロ)、インマ・クエスタ(アナ・マリ)、デビ・マサル(エバ・ガードナー)、アンナ・カスティージョ(ピラール)、フリアン・ビジャグラン(フロレン)、オスマル・ヌニェス(フアン・ドミンゴ・ペロン)、ファビアナ・ガルシア・ラゴ、モレノ・ボルハ、ミレン・イバルグレン、ケン・アプレドルン(ビル・ギャラガー)、エドゥアルド・カサノバ、他 

 

物語1961年マドリード、アナ・マリは独身、脚が不自由なフランコ主義者、女性部門のインストラクターである。フランコ総統の命令でアメリカの女優エバ・ガードナーが諜報活動をしていないか探るため彼女の家にお手伝いとして住みこむことになる。それには既婚者のほうが都合がよく、エバの運転手で詮索好きのマノロと偽装結婚をする羽目になる。

 

     

   (エバ・ガードナーに扮したデビ・マサル)

 

   

(左から、インマ・クエスタ、アンナ・カスティージョ、レオン、左端エドゥアルド・カサノバ)

 

 

Dilili a Paris / Dilili in Paris(仏・独・ベルギー、アニメーション)

  ミッシェル・オスロ

★日本でも2003年公開されたミッシェル・オスロの『キリクと魔女』(98)から20年、その映像は溜息が出るほど美しい。日本のアニメーターも多数参加する「アヌーシー・アニメーション映画祭」ほか国際映画祭での受賞を記録し、本邦でも公開された。新作はニューカレドニアの少女ディリリが活躍するミステリー・アニメ。フランス公開20181010日。

            

   

          (ポスター、左端がディリリ、中央が配達人の友達)

 

物語:ニューカレドニア生れの少女ディリリは、ベルエポック時代のパリで若い娘たちを狙った連続誘拐事件の謎を調査するため、配達人の友達と協力する。調査の過程で手掛かりを与えてくれるたくさんの人々に出会うことになる。

 

        

           (大人も子供も魅了する美しい映像、本作から)

 

Ni distintos ni diferentes: Campeones(スペイン、ドキュメンタリー)

  アルバロ・ロンゴリア

Campeonesとダブル・セッションですが、同作に出演した登場人物たちの現実を描いたエモーショナルなドキュメンタリー。彼らが生きている世界を殆ど知らない観客は、学ぶべき多くのことを発見するだろう。アルバロ・ロンゴリア監督が製作も手掛けている。ロンゴリア監督の「The Propaganda Game」はSSIFF2015に出品されている。北朝鮮に入って政治プロパガンダ戦略の真相に迫るドキュメンタリー。現地で暮らす人々へのインタビューを交えている。ゴヤ賞2016ドキュメンタリー映画賞にノミネーションされ、『プロパガンダ・ゲーム』の邦題でNetflixで配信されている。

 

 

 

Campeones(スペイン)ハビエル・フェセル

★本作はアカデミー賞外国語映画賞スペイン代表作品にノミネーションされており、紹介記事も既にアップしております。コチラ2018612

 

     

 

Smallfoot(米国、アニメーション)カレイ・カークパトリック

カレイ・カークパトリックは、ニック・パークのストップモーション・アニメーション『チキンラン』(00)の脚本を手掛けており、初監督した『森のリトル・ギャング』06)も公開されている。Smallfootはセルヒオ・パブロスの原作「Yeti Tracks」をベースにしてアニメ化した。若くて利口な雪男が存在しないと思っていた<あるもの>に出くわしてしまう。<あるもの>とは人間ですね。それで雪男のコミュニティが大騒動になる。いずれ日本でも公開されるでしょう。

 

 

  

パコ・ロカのコミックのアニメーション*マラガ映画祭2018 ⑪2018年04月15日 15:44

       ビデオゲーム作家カルロス・フェルフェルが映画に戻ってきた!

 

    

★カンヌ映画祭2018のコンペティション部門と「ある視点」のノミネーションが発表になりました。まだ全部ではないようですがよく見る顔と初めての顔とが入り混じっています。この時期は、例年ならマラガは終了していたのですが、今年はオープニングしたばかりです。オープニング作品マテオ・ヒルの新作「Las leyes de la termodinamica」の批評も出ました。これから紹介するカルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ(カルロス・フェルフェル)のアニメーションMemorias de un hombre en pijamaも既に上映されました。実際はアニメ部分80%、実写部分20%、ということでキャスト紹介はヴォイスになっておりません。

 

    

        (カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ、マラガ映画祭にて)

 

 Memorias de un hombre en pijama」 2018

製作:Dream Team Concept / Ezaro Films / Hampa Studio / Movistar/ TVE 他多数

監督:カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ

脚本:パコ・ロカ、アンヘル・デ・ラ・クルス、ディアナ・ロペス・バレラ

撮影:マルコス・ガルシア・カベサ

音楽:Love of Lesbian

編集:エレナ・ルイス

視覚効果:マルコス・ガルシア・カベサ、モイセス・レハノ・アルホナ

アニメーション監督:ロレナ・アレス

製作者:マリア・アロチェ(エグゼクティブ)、アンヘル・デ・ラ・クルス、マヌエル・クリストバル、ジョルディ・メンディエタ、アレックス・セルバンテス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2018年、アニメーション+ 実写、74分、コメディ・コミック、マラガ映画祭2018正式出品(上映414日)

 

キャスト:ラウル・アレバロ(パコ)、マリア・カストロ(ヒルゲロ)、マヌエル・マンキーニャ(メッセンジャー)、サンティ・バルメス(エスコルピオ)、フリアン・サルダリアガ(タウロ)、ジョルディ・ブルネト、タチョ・ゴンサレス、エレナ・S・サンチェス

 

プロット40代の独身男性パコの物語。子供のときからの夢を手に入れ充実した人生を送っている。つまりパジャマを着たまま家でずっと仕事をして、まさに幸福感を満喫していた。ところがまったく予期せぬことが出来してしまった。ヒルゲロに出会い恋してしまったのだ。カップルが直面せざるを得ない日々の困難が語られる。パコは相変わらずパジャマを手放そうとはせず、家の中に留まることの正当性を主張する。二人の友人たちの忠告や彼らの人生を織り交ぜながら、物語はコミカルな色合いのなかで進んでいくことになる。

 

     

             (パコ役、アニメと実写のラウル・アレバロ) 

 

★本作はパコ・ロカ(フランシスコ・ホセ・マルティネス・ロカ、1969年バレンシア生れのコミック作家)原作のコミックの映画化です。20年以上のキャリアをもつ、スペインを代表する漫画家。パコ・ロカは2007年のArrugasが国際的にも大成功をおさめ、日本でも『皺』の邦題で翻訳刊行(ShoPro Book20117月刊)された。20122月に来日、セルバンテス文化センターで講演会が持たれました。映画化の邦題は『しわ』となり、イグナシオ・フェレーラス監督も翌年6月の劇場公開時に来日していたはずです。今回映画化されたMemorias de un hombre en pijama」のコミック版は2011年刊、既に映画化が決定していたから完成の道のりは長かった。

 

        

              (パコ・ロカと原作コミック)

 

★脚本の共同執筆者アンヘル・デ・ラ・クルスは『しわ』でもタッグを組んでいる。ウェンセスラオ・フェルナンデス・フローレスの同名小説「El bosque animado」をアニメ化(2001)した監督、脚本家、アニメの脚本を多数手掛けている実力者です。この小説は1987ホセ・ルイス・クエルダがアルフレッド・ランダを主役にして既に映画化しており、『にぎやかな森』の邦題で第2回スペイン映画祭上映後公開されています。ディアナ・ロペス・バレラはクレジットされておりませんが、同じように参加していたようです。製作者マヌエル・クリストバルも『しわ』El bosque animado参加組の一人です。

 

      

               (日本版『しわ』のDVDポスター)

   

 監督キャリア&フィルモグラフィー

カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ(カルロス・フェルナンデス・フェルナンデス)は、ビデオゲーム作家、監督、脚本家、製作者。ニックネーム、カルロス・フェルフェル(IMDb)、カルロス・F・ビダルなど、幾つもの名前がある。ビゴ大学卒。ガリシアのビゴ出身から本作ではカルロス・フェルナンデス・デ・ビゴでクレジットされている。アニメーション2D/3Dのキャリアは20数年になり、2012年ビデオゲームFireplacing(ニンテンドーWii)や2014Zombeer(ソニー・プレイステーション3)などがある。監督は主演者ラウル・アレバロともどもマラガ入りしており、上映後のプレス会見も済んだようです。

 

      

             (上映後のプレス会見、中央が監督、右端がラウル・アレバロ)

 

2013年短編アニメーション3DMortiを撮る。長編アニメはMemorias de un hombre en pijamaが初となる。これからの予定としてSFアクションTesla 3327SFホラーSkizoがアナウンスされています。毎年6月にフランスで開催される「アヌシー国際アニメーション映画祭2018」に出品されます。それに先立ってカンヌ映画祭のフィルム・マーケットのなかの「Goes to Cannes」で519日に一部分の上映が決定したようで、宣伝効果が期待されます。この映画祭では宮崎駿の『紅の豚』や、ついこのあいだ鬼籍入りした高畑勲の『平成狸合戦ぽんぽこ』、昨年は湯浅正明の『夜明け告げるルーのうた』がグランプリを受賞している世界最大のアニメーション映画祭です。 

     

                       (短編アニメーションMorti」のポスター

  

「モルタデロとフィレモン」アニメ3D*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑩2015年02月01日 16:50

 ハビエル・フェセルが3Dアニメで帰還:ノミネーション6

★アニメ部門は割愛するつもりでしたが、なにしろ「モルタデロ&フィレモン」だし、6個だし、封切り12週調べで48万人が見たという話だし、あれやこれやでアップすることにしました。いずれ公開されますから()、その折り再アップしますので今回は手短かにいきます。

 


   Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo

長編アニメーション賞:Zeta Cinema(フランシスコ・ラモス、ルイス・マンソ)

脚色賞:ハビエル・フェセル、クリストバル・ルイス、クラロ・ガルシア

プロダクション賞:ルイス・フェルナンデス・ラゴ、フリアン・ララウリ

オリジナル歌曲賞:“Morta y File”ラファエル・アルナウ作曲

美術賞:ビクトル・モニゴテ

録音賞:ニコラス・デ・ポウルピケ、ジェイムズ・ムニョス

 

*データ:スペイン、スペイン語版とカタルーニャ語版、2014、アニメーション3D、コメディ、91分、製作:Zeta Cinema TVE、カタルーニャTV他、配給ワーナー・ブラザーズ・ピクチャー、スペイン公開1128

受賞歴:フォルケ賞2015「ドキュメンタリー&アニメーション」部門で作品賞受賞

ノミネーション:間もなく発表される「シネマ・ライターズ・サークル賞」(22日)、「ガウディ賞」(21日)に多数ノミネートされている。

 


*キャスト:(ヴォイス)カラ・エレハルデ(モルタデロ)、ハンフリ・トペラ(フィレモン)、ビクトル・モニゴテ、ホセ・アティアス、マリアノ・ベナンシオ(上司エル・スーパー)、ガブリエル・チャメ(ジミー・エル・カチョンド)、エンリケ・ビリャン(バクテリオ教授)、ベルタ・オヘア(オフェリア)、エミリオ・ガビラ(ロンペテチョス)、アテネア・マタ、他。(スペイン語版のヴォイスです)

 

解説:ジミー・エル・カチョンドとその子分たちは、諜報機関から小型バッグの中にあった、T.I.A.の極秘書類を盗みだすことに成功した。エル・スーパー局長は書類奪還と悪漢懲らしめの任務をモルタデロとフィレモンの二人に託すほか手がなかった・・・(管理人:二人では心もとないですね)。

 

★フェセル監督が、フランシスコ・イバニェスのコミック“La gran aventura de Mortadelo y Filemón”(2003)を実写化した第1作は『モルタデロとフィレモン』の邦題で公開された。ミゲル・バルデムが監督した第2作“Mortadelo y Filemón, Mision: salvar la Tierra”(2008)に続く第3弾が本作。「モルタとフィレ」シリーズとしては3作目ですが、フェセル監督としては2作目になります。詳細は公開が決まってからにして、ヒントはいわゆる23-Fと言われる、1981223日に起きた軍事クーデタ未遂事件のパロディだそうです。アントニオ・テヘロ中佐が200人の治安警備隊員と下院に押し入り、首相以下350人の議員を人質にとった。テレビで生中継されたのでスペイン国民の多くが未だ記憶している。まあ、そんなこと知らなくても楽しめるはずです。

 


★前2作に出演していたマリアノ・ベナンシオ(エル・スーパー)、ベルタ・オヘア(オフェリア)、エミリオ・ガビラ(ロンペテチョス)は、同じ役柄のヴォイスを担当、バクテリオ教授を演じていたハンフリ・トペラはフィレモンに変わった。フェセル監督、美術監督ビクトル・モニゴテ、製作者ルイス・マンソのダンゴ三兄弟は、『カミーノ』がラテンビート2009で上映されたとき来日、Q&Aに参加してくれました。スタッフ、キャストに『カミーノ』のメンバーも重なっていますね。“モニゴテ”は児童劇シンデレラの指導者、マリアノ・ベナンシオはカミーノの父親になった俳優です。カラ・エレハルデは“Ocho apellidos vascoa”で助演男優賞にノミネーションされているから、2015年は記念すべき年になりそうです。