準備が進むコロナ禍のゴヤ賞授賞式*ゴヤ賞2021 ⑭2021年03月02日 17:48

          綱渡りのセレモニー、テレマティクスとライブの混成

 

      

 (左から、マリアノ・バロッソ、アントニオ・バンデラス、マリア・カサド、プレス会見2月)

 

★去る22日、第35回ゴヤ賞2021授賞式の詳細が少し明らかになりました。出席者はスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ、総合司会者のマラガ出身の俳優アントニオ・バンデラスとバルセロナ出身のジャーナリストマリア・カサド3氏。カサドは以前にご紹介したように昨年からマラガに転居しています。授賞式は予定通り36マラガのソーホー・カイシャバンク劇場です。新型コロナのパンデミアの動向のせいで、テレマティクスとライブの混成、生放送は進行役の総合司会者、トロフィーのプレゼンター、ミュージカルでバックを構成するミュージシャンに限られるようです。

 

マリアノ・バロッソ会長は「今年公開できた作品を歓迎し、称賛するためのセレモニーを全力を尽くしてやり遂げたい。状況に応じて責任ある安全安心をモットーに行いたい」と決意のほどを語った。今回のノミネーション発表で採用したテレマティクスをガラでも利用する。ゴヤ賞授賞式の長い歴史のなかでも初めての体験になります。赤絨毯に現れるお目当てのシネアストとの自撮りはできませんけれど、各家庭のお茶の間で受賞者が明らかになる瞬間をダイレクトに見ることができる。関係者はすべてPCR検査を済ませており、マスク着用は言うまでもなく、ソーシャルディスタンスを守って、最善の準備をしていることを強調した。

 

★総合司会者のバンデラスは、「現実が私たちに残した亀裂のなかに巻き込まれていることは分かっていますが、それはすべて怒りと錯覚です。ゴヤ賞の授賞式は疫病から心を回復させるスタートの合図でした。テレマティクスとライブの混成ですが、従来の仕来りを重んじながら、参加している人々の安全を確保しつつ観客に或るメッセージを送り届けられるよう自覚しています」と。ゴヤ賞は映画産業で働く全メンバーの祭典、特にカメラの前面ではなく、ずっと後方にいる人々なしに映画は製作できない。「賞を手にするチャンスのない人々も不可欠なことを示したい。運転手さんやケータリングの事業者の他、多くのファミリーが映画に依存して生活している」とバンデラス。「後ろにいる人々、より後方の人々、観客の存在に感謝しています」とマリア・カサドが挨拶を引き取った。

 

        

       (メディアの取材を受けるアントニオ・バンデラスとマリア・カサド)

 

★主なミュージシャンは、マラガのシンガーソングライターのバネサ・マルティンMaría Vanesa Martín Mata1980)バルセロの歌手アイタナAitana Ocaña Morales1999)とアナウンスされました。ライブ演奏も限られた昨今では、彼女たちの出演が映画ファンのみならず音楽ファンを大いに喜ばせることになるでしょう。今年は見る価値がありそうです。「上品で節度をもった」ガラにしたいと主催者。

 

(バネサ・マルティン)

   

 

(アイタナ)

      

 

         今年のゴヤ賞は生誕100年の「ベルランガ年」とコラボする

 

★スペイン国民から最も愛されたルイス・ガルシア・ベルランガ監督の生誕100周年にあたり(バレンシア1921~マドリード2010)、パンデミアの困難のなかて迎えることになりました。まだ詳細ははっきりしません。ベルランガ映画は残念ながら1本も公開されておりませんので奇異に思われるでしょうが、バレンシアのサッカー・チーム「バレンシアCF」のファンであったことから、89歳で亡くなったときには試合前に黙祷が捧げられたほど愛されていたのでした。葬儀には映画関係者以外の会葬者が押しよせて別れを忍びました。京橋フィルムセンターで開催されたスペイン映画祭1984『ようこそマーシャルさん』53)と『カラブッチ』57)が上映されただけ、昨年のスペインクラシック映画上映会2020では、前者と彼の最高作と称される『死刑執行人』63)がオンラインで上映されました。

 

     

                   (最晩年のルイス・ガルシア・ベルランガ監督)

 

     

(最高作と称される『死刑執行人』のポスター)

 

★生前ベルランガは、マドリードのセルバンテス協会本部に設置された個人ボックスに或る書類を預けました。生誕100年目となる2021612日まで封印されており、間もなく中身が明らかになります。検閲に苦しんだフランコ時代の具体的な内容の書類が含まれているのではないかと期待されています。もし期待通りならスペイン映画史の空白が埋められるかもしれません。

    

『カラブッチ』の紹介記事は、コチラ⇒ 2020年06月03日

『ようこそマーシャルさん』の紹介記事は、コチラ20200522

『死刑執行人』の紹介記事は、コチラ202006090610


「Black Beach」 エステバン・クレスポの新作*ゴヤ賞2021 ⑬2021年02月27日 16:32

              アフリカで暗躍する石油カンパニーのアクション・スリラー

 

   

 

エステバン・クレスポの新作Black Beachは、ゴヤ賞ノミネート6カテゴリーと大いに気を吐いています。撮影・編集・美術・プロダクション・録音・特殊効果賞と地味な部門だが、マラガ映画祭上映後、1ヵ月後には公開されている。Netflixが絡んでおり、フランスの1月を皮切りに23日にはアメリカ、イギリスなど各国で既に配信が始まっております。日本はまだ準備中とかで待たされていますが、言語を選んで視聴できます。詳細はそれからにしたいが、ラウル・アレバロカンデラ・ペーニャ、チリのパウリーナ・ガルシアの他、アレバロのパートナーであるメリナ・マシューズがドラマでも夫婦役を演じています。一応データ、キャスト、ストーリーをご紹介しておきたい。 

          

      (エステバン・クレスポ監督、マラガ映画祭2020のフォトコールから)

 

 Black Beach

製作:LAZONA Films / David Naranjo Villalonga / Crea SGR / Scope Pictures /

    Nectar Media / Macaronesia Films / Nephilim Producciones  協賛RTVE、ICAA

監督:エステバン・クレスポ

脚本:エステバン・クレスポ、ダビ・モレノ

音楽:アルトゥーロ・カルデルス

撮影:アンヘル・アモロス

編集:ミゲル・ドブラドフェルナンド・フランコ

美術・プロダクション・デザイン:モンセ・サンス

プロダクション・デザイン:カルメン・マルティネス・ムニョス

プロダクション・マネージメント:ハルナ・セイドゥ、マクロード・アイス・インプライム、他

キャスティング:パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ、アナ・サインス=トラパガ

録音:コケ・F・ラエラセルヒオ・テストンナチョ・ロヨ・ビリャノバ

特殊効果:ラウル・ロマニリョスジャン=ルイ・ビリヤード

製作者:ダビ・ナランホ、(エグゼクティブ)ヘスス・ウリェド・ナダル、コンチャ・カンピンス(マドリードGhana)、ダビ・ラゴニグ(ベルギー)、他

 

データ:製作国スペイン=ベルギー=米、スペイン語・英語、2020年、アクション、政治スリラー、115分、撮影地グラン・カナリア、マドリード、ガーナ共和国、ブリュッセル、撮影期間201959日~71日、公開スペイン2020925日。ネット配信は20211月仏、2月伊、米、英などで開始。

映画祭・受賞歴:マラガ映画祭セクション・オフィシアル(823日上映)、ゴヤ賞20216カテゴリーにノミネーション(36日発表)

 

キャスト:ラウル・アレバロ(カルロス・フステル)、パウリナ・ガルシア(カルロスの母エレナ)、カンデラ・ペーニャ(NGOアレ/アレハンドラ)、クロード・ムスンガイ(グラハム)、バブ・チャム(ギジェルモ・ムバ将軍)、リディア・ネネ(ルシア)、メリナ・マシューズ(カルロス妻スーザン)、エミリオ・ブアレ(大統領の息子レオン)、ムーリー・ジャルジュ(グレゴリオ・ンドング大統領)、アイダ・Wellgaya(カルロスの元恋人アダ)、ジミー・カストロ(カルロスの友人カリスト・バテテ)、テレシタ・エブイ(アダの母親)、ダイロン・タジョン(カリストJr.)、フェンダ・ドラメ(アレの助手エバ)、オリビエ・ボニ、フレッド・アデニス(ダグラス)、ジョン・フランダース(ドノバン)、ルカ・ぺロス、ジュリアス・コッター(ONU職員ロナルド)、アンバー・シャナ・ウィリアムズ(アフリカ人記者)、その他大勢

 

ストーリー:カルロス・フステルは、アメリカの石油カンパニーのスペインCEOに昇進したばかり、8ヵ月になる身重の妻スーザンと国連のベテラン外交官の母親とベルギーのブリュッセルで暮らしている。贅沢三昧の上流階級に属しているが会社の共同経営者になることを期待している。妻により豊かな生活が送れるようニューヨークへの移住を計画している。そんな折も折、はるか彼方のアフリカの島国でカンパニーの技術者が、カルロスの古い友人カリスト・バテテによって誘拐される事件が起き、調停役としてカルロスに白羽の矢が立った。かつて暮らしていたアフリカに飛び、ンドング大統領の息子レオン所有の家に居を定める。スペインNGOの協力者アレと再会するが、想像以上の危険なミッションであることが分かる。元恋人のアダがカリストと結婚して息子がいること、ブラック・ビーチ刑務所に収監されていることを突き止めるカルロス。政治的対立で起きた誘拐事件は何百万もの契約を危険に晒すことになる。

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けている印。

 

 

        タイトル「Black Beach」は赤道ギニアの最恐の刑務所の名前

 

★タイトルのBlack Beachブラック・ビーチというのは、かつての植民地時代にアフリカ中部に位置する赤道ギニア共和国の首都マラボに建設された刑務所の名前、スペイン語でPlaya Negraと言い、地下牢のある世界でも最恐の刑務所の一つであった。独立前はスペイン、フランス、ポルトガルが宗主国、従って現在の公用語も3語である。現大統領テオドロ・オビアン・ンゲマが当時の刑務所長でした。常に即決裁判、政治的な反主流派に対しては残酷な拷問などを科した。

    

★クレスポ監督がこのタイトルを選んだのは、現在でも金権政治を行っているとか暴君であるとか明白ではないにしろ、符合する事実もあるからです。というのも2016年副大統領に就任した息子が高級車に目がなく、2019年スイス検察の公金横領事件の捜査打ち切りの司法取引に応じて高級車25台を没収され競売にかけられた事件が報じられた。背景には石油の利権に群がる欧米の強国が片棒を担いでいる。

 

★スリラーであることから結末を書くことは控えたいが、遠いアフリカの小国を背景に登場人物が入れ乱れ、政治的、部族的対立、ONUの画策などが複雑に絡み合ってアクション映画では一概に括れない。有能なビジネスマンがセンチメンタルな過去と向き合う倫理的なメロドラマの部分もあり、加えて家族の相克、無実の民の死屍累々、親しい友人の死など、テーマは盛りだくさんです。ヤッピー世代のオデュッセイア、カルロスは無事に帰還できるのか。

 

             

           (カルロスとグラハム役のクロード・ムスンガイ)

 

★過去にも同じようなテーマを扱った映画はかなり多い。アフリカで暗躍する多国籍企業をテーマにしたジョン・ル・カレの小説の映画化、フェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』05)では、レイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。同じ年には舞台は中東の架空の国シリアナの石油利権をめぐる陰謀を描いたスティーヴン・ギャガンの政治スリラー『シリアナ』も製作され、こちらはCIA工作員役のジョージ・クルーニーがアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞している。

 

ラウル・アレバロは、1979年マドリード近郊のモストレス生れの監督、俳優。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の初監督作品Tarde para la ira邦題『物静かな男の復讐』でアップしています。彼は本作でゴヤ賞2017新人監督賞を受賞している。バツグンの演技で存在感を示したカンデラ・ペーニャイシアル・ボリャインLa boda de Rosaで主演女優賞にノミネーションされています。スーザン役のメリナ・マシューズ(バルセロナ1986)は、アレバロの現パートナーということですが、以前のアリシア・ルビオとは別れたようですね。

ラウル・アレバロの主な紹介記事は、コチラ20170109

 

     

     

          (ラウル・アレバロとカンデラ・ペーニャ、映画から)

 

★監督紹介:エステバン・クレスポは、1971年マドリード生れ、監督、脚本家、2012年に撮った短編6作目Aquel no era yo25分)が、米アカデミー賞2014にノミネートされたことで、オスカー賞ノミネート監督としばしば紹介される。本作はゴヤ賞2013短編映画賞受賞の他、マラガ映画祭2012銀のビスナガ短編賞CinEuphoria2014、メディナ映画祭ほか、国内外の受賞歴を誇る。アフリカの少年兵の記事にインスパイアされて製作した。英語の分かる子供たちを選んで起用、アフリカを再現しているが、実際の撮影はトレドとその近郊の農場で、新作と同じアンヘル・アモロスが手掛けた。

  

       

                   (ゴヤ賞2013短編映画賞のトロフィーを手にした監督

    

       

       (アフリカの少年兵をテーマにしたAquel no era yo」のポスター

 

★短編の受賞歴は以下の通り:

2005年「Amar」ポルト短編映画祭2006大賞受賞

2009年「Lala」メディナFF観客賞、ラルファス・デル・ピ映画祭監督賞ほかを受賞

2011年「Nadie tiene la culpa」ラルファス・デル・ピFF観客&脚本賞、

    モントリオール映画祭2011審査員賞を受賞

2012Aquel no era yo」上記

 

★長編デビュー作Amarはマラガ映画祭2017にノミネートされ、本邦では『禁じられた二人』という全く意味不明の邦題でNetflixで配信された。ない知恵を絞らないで欲しい。2005年に同タイトルで短編を撮っている。個人的には評価できなかったので紹介を断念したが、功績は新人マリア・ペドラサとポル・モネンを世に送り出したこと。新作が第2作目になります。

 

            

              (長編デビュー作Amar」のポスター

  

マリオ・カサス、初のゴヤ賞ノミネート*ゴヤ賞2021 ⑫2021年02月23日 11:01

         まさかのゴヤ賞初ノミネートにびっくり――マリオ・カサス

      

       

       (ノミネート対象作品のダビ・ビクトリの「No matarás」)

 

★ゴヤ賞2021主演男優賞は、マリオ・カサス(ダビ・ビクトリ「No matarás」)、ハビエル・カマラ(セスク・ゲイ「Sentimental」)、エルネスト・アルテリオ(アチェロ・マニャス「Un mundo normal」)、ダビ・ベルダゲル(ダビ・イルンダイン「Uno para todos」)の4人、ノミネーション発表の最初からカサスかカマラのどちらかと予想しています。ダビ・ビクトリNo matarás以外は作品紹介をしているので、公平を期して作品紹介もしておこうとしたら、なんとマリオ・カサスはゴヤ賞は初ノミネートに驚きました。というのもTVシリーズも含めると20年近いキャリアがあり、それも話題作に出演していたからです。本邦でもアクション、スリラーが多いので、映画祭上映、ビデオやDVDNetflix配信などで知名度があり、当ブログでも度々登場させていたから、受賞は別としてノミネートくらいはあると思っていたのでした。

 

             

            (マリオ・カサス、「No matarás」から)

 

★マリオ・カサスは1986年、ガリシア州の県都ア・コルーニャ生れ、5人弟妹の長子、大工だった父親が19歳、母親が17歳のときに生まれた。1994年家族でバルセロナに転居、1995年からスペイン国有鉄道RENFEレンフェのコマーシャルに出演している。本格的に俳優を目指して18歳でマドリードに、演技はアルゼンチン出身の女優が設立したクリスティナ・ロタ演劇学校で学んだ。クリスティナ・ロタはフアン・ディエゴ・ボトー(助演ノミネート)、マリア・ボトーの母親でもある。卒業生にはゴヤ賞2021ノミネートのエルネスト・アルテリオ(主演)のようなアルゼンチン出身者だけでなく、ナタリエ・ポサ(助演)、アルベルト・サン・フアン(助演)、ペネロペ・クルス、エドゥアルド・ノリエガなどがおり、スペイン映画の隆盛に貢献している。

 

        

        (マラガ映画祭主演男優賞を受賞した「La mula」のポスター)

 

★ダビ・ビクトリの「No matarás」主演で、ホセ・マリア・フォルケ賞に初ノミネートされましたが、ライバルのハビエル・カマラの手に渡った。現在結果が出ているのはサン・ジョルディ賞(スペイン男優賞)とディアス・デ・シネ賞(スペイン男優賞)の2賞です。今年はコロナ禍で映画賞は軒並みガラ開催が遅れています。ゴヤ賞(36日)、フェロス賞(32日)、ガウディ賞(321日)と大きい映画賞の発表はこれからです。以下に主なフィルモグラフィーを年代順に列挙しておきます。(邦題、原題、監督名、主な受賞歴の順)

 

2006年「El camino de camino」脇役、アントニオ・バンデラス

2009年『セックスとパーティーと嘘』(『灼熱の肌』「Mentiras y gordas」)群像劇

   アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス 

   マドリード・レズビアン&ゲイ映画祭2009レズゲイ賞、サラゴサFF 2009若い才能賞受賞   

2009年「Fuga de cerebros」主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ

    サラゴサ映画祭2009若い才能賞受賞

2010年「Carne de neón」主役、パコ・カベサス

2010年『空の上3メートル』(「Tres metros sobre el cielo」)主役、

    フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ   ACE2011新人男優賞受賞

2012年『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』(「Grupo 7」)脇役、アルベルト・ロドリゲス

       フォトグラマス・デ・プラタ賞2013映画部門男優賞受賞

2012年『その愛を走れ』(「Tengo ganas de tí」)主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ

2013年「La mula」主役、マイケル・ラドフォード マラガ映画祭2013主演男優賞受賞

2013『スガラムルディの魔女』(「Las brujas de Zugarramurdi」)

    アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2014助演男優賞受賞

2013年「Ismael」マルセロ・ピニェエロ

2015年『チリ33人、希望の軌跡』(「Los 33」)群像劇、パトリシア・リッヘン

2015年『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』(「Mi gran noche」)

    アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2016助演男優賞受賞

2015年『ヤシの木に降る雪』(「Palmeras en la nieve」)主役、フェルナンド・G・モリーナ

    フォトグラマス・デ・プラタ賞2016映画部門男優賞受賞

2016『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「Toro」)主役、キケ・マイーリョ

2016『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(「Contratiempo」)主役、オリオル・パウロ

2017『クローズド・バル 街角の狙撃兵と8人の標的』(「El bar」)群像劇、

    アレックス・デ・ラ・イグレシア

2017年『オオカミの皮をまとう男』(「Bajo la piel de lobo」)主役、サム・フエンテス

2018『マウトハウゼンの写真家』(「El fotógrafo de Mauthausen」)主役、マル・タルガロナ

2019年「Adiós」パコ・レオン

2020『その住民たちは』(「Hogar」)脇役、ダビ&アレックス・パストール

2020年『パラメディック――闇の救急救命士』(「El practicante」)主役、カルレス・トラス

    ディアス・デ・シネ賞2021スペイン男優賞受賞

2020No matarás省略

ゴチック体は当ブログに紹介記事があります。ビデオ、短編、TVシリーズは割愛。

 

『スガラムルディの魔女』の紹介記事は、コチラ20141012

『ザ・レイジ 果てしなき怒り』の紹介記事は、コチラ20160414

『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』の記事は、コチラ201702170414

『クローズド・バル 街角の狙撃兵と8人の標的』の紹介記事は、コチラ20170404

『マウトハウゼンの写真家』の紹介記事は、コチラ201903030305

『その住民たちは』の紹介記事は、コチラ20200331

 

TVシリーズでお茶の間ファンを獲得、映画デビューはアントニオ・バンデラスEl camino de caminoに脇役で出演した。これはバンデラス監督と同郷の作家アントニオ・ソレルの同名小説の映画化だった。カサスをスターにしたのはMentiras y gordasでした。お茶の間のアイドル脱出を模索していたときにオファーを受け、結果を出した。邦題は英語タイトルの直訳、原題を直訳すると「嘘っぱちとデブ女たち」になるが、gordaは強めの要素で会話などで使う「まさかそんなこと嘘でしょ」くらいになる。コメディと紹介されることもあるが、それは見た目だけで的外れ、居場所のない孤独と愛を探す若者たちを描いた青春ドラマでした。カサスは好きな親友に愛を告白できないゲイを演じた。本作はアルモドバルのカンヌ映画祭パルムドールにノミネートされた『抱擁のかけら』を抜いて興行成績ナンバーワンになったが、批評家の評価は当然のごとく分かれた。1996年のダニー・ボイル『トレインスポッティング』が下敷きになっているようです。本作でユアン・マクレガーはスターの座にのしあがった。

 

           

             (『セックスとパーティーと嘘』から)

 

★ゴヤ賞関連では、共演者はノミネートされるが、カサス自身は外されることが多く、アルベルト・ロドリゲスUNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』で助演男優賞ノミネーションを期待したが、共演者のフリアン・ビジャグランがノミネートされ受賞した。またサム・フエンテス監督のオファーを台本を読まずに話だけでOKした『オオカミの皮をまとう男』でもノミネートがなく、翌年の『マウトハウゼンの写真家』では減量して挑戦したもののまたもや素通り、映画アカデミーから嫌われているのかと思っていた。新作「No matarás」の監督は、マリオ・カサスを念頭において脚本を書いたと語っているが、サム・フエンテスもカサスに惚れ込んで「彼しかこの役はできない」とインタビューに応えていた。以下に新作の紹介をしておきます。

 

    

                  (『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』から)

 

      

          (『マウトハウゼンの写真家』のポスター

 

 

No matarás(英題「Cross the Line」)

製作:Castelao Pictures / Castelao Production / Filmax / Movistar/ RTVE / TV3 他

監督:ダビ・ビクトリ

脚本:ダビ・ビクトリ、ジョルディ・バリェホ、クララ・ビオラ

音楽:フェデリコ・フシド、エイドリアン・フォルケス

撮影:エリアス・M・フェリックス

編集:アルベルト・グティエレス

キャスティング:アレハンドロ・ヒル

プロダクション・デザイン&美術:バルテル・ガジャルト

衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツゥ・カンポス

メイクアップ&ヘアー:ナタリア・アルベール、パトリシア・レイェス、(特殊メイク)ルシア・ソラナ

舞台装置:Thais・カウフマン

プロダクション・マネージメント:エステル・べラスコ、アルフレッド・アベンティン

製作者:ラウラ・フェルナンデス・Brites、(エグゼクティブ)カルロス・フェルナンデス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語・英語、2020年、アクション・スリラー、92分、撮影地バルセロナ、シッチェス映画祭20201010日上映)、公開スペイン1016日、チリ1016日(ネット)、アルゼンチン121日、ドイツ225日(DVD発売35日)、他

 

キャストマリオ・カサス(ダニ)、ミレナ・スミット(ミラ)、フェルナンド・バルディビエルソ(レイ)、エリザベス・ラレナ(ラウラ)、ハビエル・ムラ(ベルニ)、アレックス・ムニョス(デルガド)、アンドレウ・Kreutzer(フォルニド)、オスカル・ぺレス(従兄弟)、シャビ・シレス(刑事)、ミゲル・アンヘル・ゴンサレス(物乞い)、アルベルト・グリーン、ヘラルド・オムス(ヘラルド)、シャビ・サエス(ルベン)、ビクトル・ソレ(見張り役)、ミゲル・ボルドイ(ダニの父親)、他

ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされている俳優、新人女優賞、新人男優賞

 

ストーリー:ダニはここ数年、病気の父親の介護をしながら旅行会社で働いていた。父親が亡くなると自分の人生を変えようと世界をめぐる旅に出ようと決心する。そんな折も折、セクシーだが精神が不安定なミラという女性と運命の出会いをしてしまう。その夜を境にダニの人生は本物の悪夢と化してしまうだろう。ミラはダニを想像もできない破局に導いていく。本作はもし平凡な人間が誰かを殺すことが可能かどうか考える物騒な映画。

 

    

            (マリオ・カサス、映画から)

 

★カサスによると、シナリオを読むなりこのプロジェクトに参加したいと思った。「この役柄を演じられる自信はなかったが、これも挑戦だと魅了された。スリラーが好きなのです」と。監督もカサスについて「脚本は常にマリオを念頭において書きすすめた」と打ち明ける。「マリオの視線を通して、この登場人物を変身させる。観客もこの人物のなかにある真実を体験できるだろう」とコメントしている。

 

       

                (撮影中の監督とカサス)

 

ダビ・ビクトリ1982年バルセロナ生れの監督、脚本家、製作者。スペインと米国で映画を学んだ。2008年短編「Reaccion」でデビュー、同Zero15)がアリカンテのラルファス・デル・ピ映画祭で監督賞と作品第2席を受賞、2018年長編デビュー作El pactoは公開された。ベレン・ルエダやダリオ・グランディネッティが出演している。本作は第2作目。

 

   

   (シッチェス映画祭2020、フォトコール)

 

      

          (マリオ・カサスとミレナ・スミットに挟まれた監督)

 

★ゴヤ賞新人女優賞にノミネーションされている、ミレナ・スミット1996年エルチェ生れ、ホテルのフロントで働いていたところをスカウトされた。未だ24歳だが妖艶な雰囲気があり、もしかすると受賞するかもしれない。次回作はアルモドバルの新作Madres paralelasに出演が決まり、既にクランクインしている。共演者はペネロペ・クルスとアイタナ・サンチェス=ヒホン、他にアルモドバル常連のロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ、イスラエル・エレハルデなど賑やかです。ゴヤ賞のライバルは「Ane」のホネ・ラスピウルか。

 

    

    

            (ミレナ・スミットとカサス、映画から)

 

★新人男優賞ノミネーションのフェルナンド・バルディビエルソは、1984年マドリード生れ。2005年短編でデビュー、主にTVシリーズに出演している。2008イサベル・デ・オカンポのスリラー短編「Miente」でラルファス・デル・ピ映画祭2008男優賞を受賞している。当ブログで作品紹介をしているダニエル・カルパルソロのスリラーHasta el cieloに警官役で出演している。特異な風貌から役柄が限られそうだが、異色の新人として大いに脈がありそうです。

 

  

    

       (フェルナンド・バルディビエルソ、シッチェスFFのフォトコール)

 

バホ・ウジョアの5年ぶりの新作 「Baby」*ゴヤ賞2021 ⑪2021年02月18日 10:44

          監督賞ノミネートの「Baby」は5年ぶりのセリフのないドラマ

 

      

 

フアンマ・バホ・ウジョア5年ぶりの新作Babyは、監督賞の他オリジナル作曲賞(メンディサバル&ウリアルテ)がノミネートされています。バホ・ウジョアは1967年ビトリア生れ、かつてバスクの若手監督四天王と称されたグループの一人。アレックス・デ・ラ・イグレシア1965生れ、『スガラムルディの魔女』)、エンリケ・ウルビス1962生れ、『悪人に平穏なし』)、パブロ・ベルヘル1963生れ、『ブランカニエベス』)、3人はビルバオ生れです。もはや若手とは言えませんが、21世紀初頭は言語こそスペイン語でしたが、バスクの若手監督が塊りになって国際映画祭で認められるようになった時代でした。

 

 Baby2020

製作:Frágil Zinema / La Charito Films / La Charito

監督・脚本:フアンマ・バホ・ウジョア

音楽:Bingen Mendizábal、コルド・ウリアルテ

撮影:Josep M. Civit

編集:デメトリオ・エロルス

キャスティング:ルシ・レノックス

プロダクション・デザイン:リョレンク・マス

セット・デコレーション:ジナ・ベルナド・ムンタネ

衣装デザイン:アセギニェ・ウリゴイティア

メイクアップ&ヘアー:(メイク)ベアトリス・ロペス、(ヘアー)エステル・ビリャル

プロダクション・マネージメント:カティシャ・シルバ

製作者:フアンマ・バホ・ウジョア、(エグゼクティブ)フェラン・トマス、(共)ディエゴ・ロドリゲス、(ライン)ハビエル・アルスアガ

 

データ:製作国スペイン、言語スペイン語・無声、ドラマ、104分、撮影地バスク自治州、スペイン公開1218日、ナバラ州1214日、サンタ・クルス・デ・テネリフェ12月14日、バレンシア12月17

映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2020上映(1011日)オリジナル・サウンドトラック賞受賞、タリン映画祭(エストニア)、バジャドリード映画祭、カイロ映画祭、イスラ・カラベラ・ファンタジック映画祭(カナリア諸島テネリフェ)。映画賞ノミネーションは、第8回フェロス賞音楽賞(32日発表)、第13回ガウディ賞撮影賞(321日発表)、第35回ゴヤ賞監督賞・オリジナル作曲賞(36日発表)

 

キャスト:ロジー・デイ(若い母親)、ハリエット・サンソム・ハリス(ザ・ウーマン)、ナタリア・テナ(ザ・ウルビノ)、マファルダ・カルボネル(ニーニャ)、チャロ・ロペス(家主)、ナタリア・ルイス(ディーラー)、カルメン・サン・エステバン(カップル)、スサナ・ソレト(カップル)、他

 

ストーリー:麻薬中毒の娘が衰弱しながら男の子を出産した。彼女には自身が生き残るための困難の他に育児が負い被さる。部屋代が払えず家主から養子を勧められる。家主は児童密売で働く女性に接触させ、娘は借金を返済して生き残れる金額で赤ん坊を裕福な婦人に売り渡してしまう。しかし部屋の中に転がっていたおしゃぶりを見て後悔の念に駆られる。生と死についての創造物語、母親が息子を愛することがテーマではなく、私たちが他者を愛することができるかどうかです。

                                    (文責:管理人)

 

    

             (赤ん坊を売り渡す母親と裕福な婦人)

 

 

     物語が危険に晒されている――セリフがないと観客は理解できないか?

 

★バホ・ウジョア映画ファンにとって、ダイヤローグがないと聞いても驚かないでしょう。監督によると「多くの脚本家は、観客がセリフがないと理解できないのではないかと怖れてダイヤローグを書くが、そんな心配はいらない。今は物語が危険に晒されている。既に映画を作り始めて24年前になるが、今日の社会は好奇心が強く、幼稚で独断的」と語る。また「鏡を見て、自身を愛し許すことができるとき、この映画で起きたような他人を愛することができるようになるチャンスがある」、つまり自分が好きでないと他人を好きになれない。「登場人物に名前を付けなかったのは意図したこと、人間の本質、魂の本質に、また怖れや欲望の本質にも名前はいらない。登場する動物には、シンボリックな役割を与えている」と監督。テーマは本質は何かのようで、白馬やアフガン・グレイハンドを登場させている。

 

             

            (ロジー・デイ、白馬が見える)

 

2作になるLa madre muertaの主役を演じたアナ・アルバレスは一言も喋らなかった。幼いとき母親を殺害した犯人を見てしまったせいで、大人になっても立ち直れない女性の役でした。それでもストックホルム映画祭やカルタヘナ映画祭で女優賞を受賞している。主役に必要な本質的な能力を獲得していることが重要ということでしょうか。4作目の「Frágil」でも長い時間セリフがなかった。新作の重要な要素は、セット、光と闇、音楽が担っており、入念に仕上げられたビジュアル効果が予告編からも見てとれる。息子を売って自分の過ちに気づくドラッグ中毒の若い母親の話だが、かなり奥は複雑なようです。セリフがないだけに個々人の解釈が問われ、好き嫌いがはっきり分かれそうです。ナタリア・テナ扮するアルビノは両性具有のキャラクター、クランクインで最初にセットに入ってきたとき、彼女は「私たちを不安にさせ、怖がらせた」と監督、適役だったわけです。コロナによるパンデミックが始まる前に撮影を終了していたのも幸運なことだった。

   

      

          (ナタリア・テナ扮する両性具有のアルビノ)

 

 

           『スター・ウォーズ』に魅せられた少年時代、

 

監督紹介フアンマ・バホ・ウジョアは、1967年ビトリア(バスク語ガステイス)生れ、監督、脚本家、撮影監督、ミュージシャン。父親はブルガリア人、母親はアンダルシア出身、生れはアラバ県の県都ビトリアだが、育ったのはサンセバスティアン、3人兄妹の真ん中。父親が写真館を経営、十代から証明写真の作成や土曜日ごとの結婚披露宴のライト持ちなどして父親の仕事を手伝った。彼を映画の虜にしたのは、1977年のジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』だった。17歳の1984年に最初の制作会社「Gazteiko Zinema」を設立、兄エドゥアルド・バホ・ウジョアとスーパー8ミリや16ミリで短編を撮り続けた。1989年の短編El reino de Víctor30分)がゴヤ賞1990短編映画賞を受賞したときは弱冠22歳でした。

 

      

    (ゴヤ賞1992Alas de mariposa新人監督賞と主演女優賞のシルビア・ムント

 

★長編映画デビュー作Alas de mariposaがサンセバスチャン映画祭1991金貝賞を受賞、最年少受賞者の記録を作った。華々しいデビューは、当然のごとく翌年のゴヤ賞では、新人監督賞、共同執筆をしたエドゥアルド・バホ・ウジョアとオリジナル脚本賞、母親役を演じたシルビア・ムントに初の主演女優賞をもたらした。息子の誕生をひたすら待ち望む母親にシルビア・ムント、6歳になる少女の弟殺しというショッキングな悲劇に驚愕した。余談だが、2016年の暮れ、兄弟で受賞した脚本賞をビトリアの中古品店に4999ユーロで売却するという前代未聞のニュースに関係者は絶句した。これには後日談として、店側と監督側の話に食い違いがあり、プロダクションも否定するなど真相は謎のままになった。

★第2La madre muerta」はベネチア映画祭でプレミアされ、海外の映画祭で称賛された。以下に短編とドキュメンタリーを除くフィルモグラフィーを年代順に列挙すると、

 

1991Alas de mariposa」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1993La madre muerta」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1997年「Airbag」コメディ、監督・脚本(カラ・エレハルデ他と共同執筆)

2004年「Frágil」監督・脚本

2015年「Rey Gitano」コメディ、監督・脚本

2020年「Baby」監督・脚本

以上6作です。

 

       

                (長編デビュー作のポスター)

 

★ゴヤ賞関連では、第2作目La madre muerta」で特殊効果賞(ポリ・カンテロ)、第3作目Airbagで編集賞(パブロ・ブランコ)が受賞している。パブロ・ブランコは第2作と第4作を手掛けるほか、『スガラムルディの魔女』や『悪人に平穏なし』などバスク監督の作品にゴヤ賞をもたらしている。前者はファンタスポルト1995で監督賞と観客賞、モントリオール映画祭監督賞、ストックホルム映画祭FIPRESCIなど国際映画祭での評価が高く、カラ・エレハルデを主役に起用したことが次作のコメディ「Airbag」に繋がった。「騒々しいだけで中身がない」という批評家の酷評にもかかわらず、1997年の興行成績ナンバーワンになった。つまり観客の意見は専門家と違ったわけです。フリーガン・コメディという新しいジャンルを作ったと称され、今では専門家の意見も変わり、20世紀のスペイン映画ベスト50作に選ぶ批評家もいる。出演者には鬼籍入りした人も多く「騒々しい」には違いないが、今見ても古さを感じないのではないか。前2作からは想像できない変身ぶりでした。

      

      

        (コメディ「Airbag」のおバカ3人組、左からカラ・エレハルデ、

         フェルナンド・ギジェン・クエルボ、アルベルト・サン・フアン)

 

★「Airbag」が戻ってきたと言われた、第5作目のRey Gitanoには、「Airbag」で活躍した俳優、カラ・エレハルデ、マヌエル・マンキーニャの他、今は亡きロサ・マリア・サルダ、バルデム兄弟の実母ピラール・バルデム、新たにアルトゥーロ・バルスマリア・レオン、ベテランチャロ・ロペスも加わっている。ロペスは新作にも出演している。

      

      

                    (「Rey Gitano」撮影中のカラ・エレハルデと監督)

 

    

  (アルトゥーロ・バルスやマリア・レオンも加わった「Rey Gitano」のポスター)

 

    

(ロサ・マリア・サルダとチャロ・ロペス、「Rey Gitano」)

   

寡作な監督だが、彼が情熱を捧げている一つに音楽がある。ドラマの間に2本の音楽ドキュメンタリーを撮っている。2008年のHistoria de un grupo del rockと、2016年のRockNRollersである。他にロック・グループのビデオクリップを多数作成している。子供のときからの音楽好きで、最初はフルート、後にはギターとピアノを学んだ。とにかく規格外の才能の持ち主である。映画を撮っていないときは、ミュージシャンの仕事で多忙を極めている。独立心旺盛な、体制には反抗的な性格を自認している。

 

★もう一つがカメラ、「Baby」のポスターには何種類かあるが、これはその一つ。赤ん坊のおしゃぶりは手工芸品の職人が丁寧に作ってくれたものだが、背景の蜘蛛はバザールで売っていたもの、セットにした家で撮影した。このポスターにはデビュー作「Alas de mariposa」の雰囲気を思い出させるものがある。

 

      

               (監督が作成したポスター)

 

 

       個性的な女優陣――チャロ・ロペスが第65回エスピガ栄誉を受賞

 

キャスト紹介:本作のノミネーション・カテゴリーは監督賞なのでキャスト陣については簡単にしますが、英国の女優ロジー・デイと米国のハリエット・サンソム・ハリスを主役に起用、ナタリア・テナは生れも育ちもイギリスだが両親がスペイン系なのでスペイン語に堪能、海外勢でも毛色の変わった女優を選んでいる。ロジー・デイ(ケンブリッジ1995)は、女優の他、まだ20代だが監督、作家でもある。1999TVシリーズでデビュー、ポール・ハイエットの「The Seasoning House」(12『復讐少女』)で主役に抜擢され、2014年ジョナサン・イングリッシュの『アイアンクラッド ブラッド・ウォー』、ロドリゴ・コルテスの『ダーク・スクール』(18)などが代表作。

 

        

          (麻薬中毒の若い母親を演じたロジー・デイ)

 

ハリエット・サンソム・ハリス(テキサス州フォートワース1955)は、1993年の『アダムス・ファミリー、2』、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』(17)、TVシリーズ『デスパレートな妻たち』(1128話出演)など。本作では赤ん坊を買う裕福な婦人役。

 

      

            (ハリエット・サンソム・ハリス、映画から)

 

ナタリア・テナ(ロンドン1984)は、上述したように生粋のロンドン子だが、両親がスペイン系なのでスペイン語が堪能のことから、カルロス・マルケス=マルセのデビュー作10,000KMの主役に抜擢された。本作は第17回マラガ映画祭2014に正式出品され、監督が作品賞「金のビスナガ」賞、彼女は女優賞を受賞した。

ナタリア・テナ紹介記事は、コチラ20140411

 

   

        (ナタリア・テナとハリエット・サンソム・ハリス)

 

★一方スペイン勢は、家主役のチャロ・ロペス(サラマンカ1943)は、舞台やTVシリーズで活躍、5年前の「Rey Gitano」に出演している。1943年生れということは、デビューがフランコ体制ということで、主役を演じて活躍していた時代は、ゴヤ賞も始まっていなかった。従ってビセンテ・アランダ1940年代のスペインを舞台にしたTiempo de silencio86)に出演したときには既に母親役だった。ゴヤ賞はホセフィナ・モリーナLo más naturalで主演女優賞にノミネートされたが受賞にいたらず、モンチョ・アルメンダリス『心の秘密』(97)で初めて助演女優賞を受賞、本作はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた話題作でした。第65回バジャドリード映画祭2020エスピガ栄誉賞を受賞、バホ・ウジョア監督にエスコートされて登壇、トロフィーを手にした。「パンデミアでも文化や私たちの健康に影響を及ぼさない」とスピーチした。2020年の栄誉賞受賞者はイサベル・コイシェ、マリア・ガリアナを含めて6人と大盤振舞いでした。

    

   

(エスピガ栄誉賞トロフィーを手にスピーチをするチャロ・ロペス、20201026日)

 

★ニーニャ役を演じたマファルダ・カルボネス2008)は、2018TVシリーズでスタート、本作を見たマリア・リポル監督が大いに気に入ってVivir dos veces19)にスカウトした。脚本を手直しするなどしてデビューさせた甲斐あって、子役ながらバレンシア・オーディオビジュアル賞を受賞してしまった。共演者の認知症グレーゾーンの祖父役オスカル・マルティネス、母親役インマ・クエスタのベテランを喰ってしまった。評価はこれからの12歳です。

     

★ディーラー役のナタリア・ルイス()は、Rey Gitano」やマリアノ・ビアシンMarisol05、アルゼンチン、モノクロ)、カルロス・バルデムの小説を映画化したサンティアゴ・サンノウの「Alacran enamorado」(13『スコーピオン反逆のボクサー』)などに出演している。

   

     

  (監督、マファルダ、ナタリア・テナ、ナタリア・ルイス、シッチェスFF 2020の赤絨毯


イサベル・コイシェの新作「Nieva en Benidorm」*ゴヤ賞2021 ⑩2021年02月11日 14:36

       イサベル・コイシェの新作はスリラー仕立ての大人のラブロマンス?

   

          

          (ハビエル・マヨラルが手掛けたポスター)

 

イサベル・コイシェの新作Nieva en Benidormは、監督賞とプロダクション賞の2カテゴリーにノミネートされています。2020年のコイシェ監督は、国民映画賞受賞、バジャドリード映画祭SEMINCIエスピガ栄誉賞を受賞するなど記念すべき年でした。本作はSEMINCIのオープニング作品に選ばれ1024日にプレミアされた。タイトルにあるベニドルムという町は、バレンシアのアリカンテ県コスタ・ブランカの海岸沿いにある大リゾート地、現在は <地中海のニューヨーク> と称されるほどですが、フランコ時代は典型的な漁村にすぎなかった。いわゆるリゾートとして計画された都市です。夏季休暇だけでなくフランドルやイギリスから訪れる観光客は、充実したバーやクラブの夜の街を愉しめるようになっている。温暖な気候からスペインの裕福な退職者の人気の都市の一つでもある。

   

     

  (観光客で賑わうベニドルムの海岸、2012年完成の摩天楼In Tempoビルが見える)

 

 「Nieva en Benidorm(英題「It Snows in Benidorm」)2020

製作:Benidorm Film Office / El Deseo / Movistar/ RTVE

監督・脚本:イサベル・コイシェ

音楽:アルフォンソ・デ・ビラリョンガ

撮影:ジャン=クロード・ラリュー

編集:ジョルディ・アサテギ

美術:ウシュア・カステリョ

キャスティング:サラ・ビルバトゥア

衣装デザイン:スエビア・サンペラヨ・バスケス

メイクアップ&ヘアー:(メイク)シルビエ・インベルト、(ヘアー)イグナシ・ルイス、ユディット・ガルシア

プロダクション・マネージメント:トニ・ノベリャ

製作者:アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーション)

 

データ:製作国スペイン=イギリス、スペイン語・英語、2020年、スリラードラマ、117分、撮影地アリカンテ県ベニドルム、配給Bteam。スペイン公開20201211

映画祭・受賞歴バジャドリード映画祭SEMINCI 2020オープニング作品(1024日)、マドリード・アカデミア・デ・シネ(1110日)、バルセロナ映画祭(1126日)、ゴヤ賞2021監督賞、プロダクション賞(トニ・ノベリャ)ノミネーション

 

キャスト:ティモシー・スポール(ピーター・リオーダン)、サリタ・チョウドリー(アレックス)、カルメン・マチ(警察官マルタ)、ペドロ・カサブランク(エステバン・カンポス)、アナ・トレント(ルシア)、エドガル・ヴィットリノ(レオン)、レオナルド・エルティスグリス(ワルダー)、ベン・テンプル(銀行理事)、マルコルム・マッカーシー(警察官)、ラウラ・カレロ(詩人シルヴィア・プラス)、他多数

 

ストーリー:ピーターは人生の大半を過ごしたマンチェスターの銀行を早期退職して、何年も会っていない弟ダニエルを訪ねようと決心する。彼は独身で几帳面な性格だが、気象現象をとても気にする偏執的なところがあった。ダニエルはスペインの観光地ベニドルムでバーレスクのクラブを経営しているはずだったが、ピーターが到着したときには行方不明になっていた。ダニエルの身に何が起きたのだろうか、唯一の手掛かりはクラブしかなかった。そこで働いていたミステリアスな女性アレックスと知り合うことになる。二人は警官マルタの助けをかりて行方を突き止めようとする。マルタは50年代後半にハネムーンでベニドルムを訪れたアメリカの詩人シルヴィア・プラスの存在と関係があると考えている。ピーターは今まで不可能と思い込んでいたことが実はそうではないことに気がつく。もしベニドルムに雪が降るならば、どんなことでも起りえるのではないか。ピーターは真剣に人生を見つめなおすことにする。

   

      

    

    (ピーター役のティモシー・スポールとアレックス役のサリタ・チョウドリー

 

イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)の紹介は、英語映画ながらゴヤ賞2018の作品・監督・脚色賞3賞を受賞した『マイ・ブックショップ』17)、Netflixストリーミング配信の『エリサ&マルセラ』19)にアップしています。その後のフィルモグラフィーは、TVシリーズを挟んで本作になります。上述したように2020年の国民映画賞受賞、バジャドリード映画祭のエスピガ栄誉賞、他第48回ウエスカ映画祭ルイス・ブニュエル賞を受賞しています。国民映画賞受賞が報じられると、既に受賞していると思い込んでいたメディアやファンを驚かせた。選考母体は文化省と映画部門はICAA(映画と視聴覚芸術協会、1985設立)で、一種の生涯功労賞です。他に文学、科学、音楽、スポーツなど多数。

『マイ・ブックショップ』の主な紹介記事は、コチラ20180107

『エリサ&マルセラ』の主な紹介記事は、コチラ20190211同年0612

   

          

           (新作撮影中のコイシェ監督、ベニドルムにて)

 

 

     コメディでもロマンスでも純粋なノワールでもない「ネオノワール」と監督

 

★コイシェ監督の映画は圧倒的に英語が多い。ゴヤ賞受賞8個のうちドキュメンタリーを除く受賞作品『死ぬまでにしたい10のこと』や『あなたになら言える秘密のこと』、そして『マイ・ブックショップ』まで一貫して英語、スペインの観客は吹替や字幕入りで見た。どの作品も主役が英語話者だったからです。本作もイギリスの俳優を起用、スペイン公開は字幕入りでした。必要とあればどこにでも出かけていき説得に骨身を惜しまない。ジャンルもさまざま、今回はコメディでもロマンスでも、純粋なノワールでもなく、それらをミックスした<ネオノワール>と説明している。行方不明あり、バーレスクのエロティシズムあり、熟年のラブロマンスあり美食ありで大いに愉しめそうです。

    

      

(左から、ティモシー・スポール、サリタ・チョウドリー、アグスティン・アルモドバル、

 コイシェ監督、ベニドルムの浜辺で)

 

★主役ピーターには、イギリスの俳優ティモシー・スポール(ロンドンのバタシー1957)が起用された。『秘密と嘘』(96)、『人生は、時々晴れ』(02)、画家ターナーに扮した『ターナー、光に愛を求めて』やチャーチル役の『英国王のスピーチ』などで日本でも知名度が高い。スポールによると、スコットランドのグラスゴーで撮影中に訪ねてきてオファーされたという。10分ほど話してOKしたが、実際コラボしてみてよかった。スペイン側のスタッフや俳優に学ぶことが多かったと語っている。ピーターはお金が必要ない人々に融資をし、本当に必要な人々には融資を断る銀行に、自分の人生を捧げてきたことを後悔する。上司との意見の相違でぷつんと糸が切れてしまう。

 

           

           (ベニドルムの夜の繁華街を探し回るピーター)

 

★アレックス役のサリタ・チョウドリー(ロンドン1966)は、当ブログで紹介したコイシェの『しあわせへのまわり道』14)に起用されている。父親がベンガル人ということでエキゾチックな雰囲気の女優、インド映画『カーマ・スートラ/愛の教科書』(96)、『シークレット・パーティ』(12)、『ハンガー・ゲーム、パート2』(15)など。「監督から『この役はやりたいと思わないよ』と台本を渡された。ホンを読んだら気乗りしなかったので『はっきり言って演りたくないわ』と答えた。それからコーヒーを飲みながら雑談しているうちに気がついたら演ることになっていたの」とチョウドリー。「コイシェは天才ね。撮影中はアメリカ映画を撮っているときのようなストレスがなく、それにボカディージョが美味しくて」と。どうやらベニドルムがすっかり気に入ったようでした。熟女のエロティシズムが楽しめるとか。

 

   

          (バーレスク・ショーに出演のアレックス)

      

          詩人のシルヴィア・プラスとはどんな人?

    

     

  (脇をかためるカルメン・マチ、ペドロ・カサブランク、アナ・トレントの3人)

 

カルメン・マチ(マドリード1963)扮する警察官マルタは愛情深く親切、アメリカ出身の詩人で作家のシルヴィア・プラスの作品を愛してやまない。「こんな役をスペインで演れるのは彼女以外にいない」と監督。確かに重みのある声、その存在感は他の追随を許さない。ラテンビート2010で『ペーパーバード幸せは翼にのって』が上映された折り、エミリオ・アラゴン監督と来日している。スクリーンとは打って変わって物静か、映画では別人に変身できると思ったことでした。ゴヤ賞関連ではエミリオ・マルティネス=ラサロOcho apellidos vascos出演で助演女優賞を受賞している。アルモドバルやアレックス・デ・ラ・イグレシア映画の常連さん、Netflix 配信の『ティ・マイ希望のベトナム』や『ダンシング・ドライブ』主演で、本邦でもファンを獲得している。

主なキャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ20150128

 

★「ハイ、スタート、カットと言いながら死にたい」という監督がカメレオン女優に出会うのは自然な成り行きだったでしょうか。因みにシルヴィア・プラスは、1932年ボストン生れの詩人で作家、詩人のテッド・ヒューズと結婚、1956年ベニドルムにハネムーンで訪れている。ヒューズの不倫で離婚、心機一転ロンドンに移住した。若い頃から鬱病に苦しんでいたが、何回か自殺未遂を繰り返した後、1963211日に2児を残して自死、享年30歳だった。マルタとシルヴィアはどう絡んでくるのでしょうか。

 

           

         (ダニエル捜索に尽力する警官マルタ役のカルメン・マチ)

 

★今でも愛され続ける『ミツバチのささやき』のアナ・トレント(マドリード1966)が、これまたミステリアスな清掃人ルシア役で登場する。ダニエル失踪の秘密を知っているようなのです。こういう謎めいた人物を演じるには抑制力がないと上手くいかない。またダニエル失踪の重要人物エステバン・カンポス役のペドロ・カサブランク(モロッコのカサブランカ1963)の存在が壮観とか。土地取引で危ない橋を渡っているようだ。こうしてみると、重要登場人物がスポール以外、全員1960年代生れ、スペイン側はフランコ時代の教育を受け、激動の民主化移行期に青春時代を送った世代です。

 

       

               (ルシア役のアナ・トレント)

 

★コイシェ映画の専属撮影監督と称していいジャン=クロード・ラリューは、『死ぬまでにしたい10のこと』以来、『あなたになら言える秘密のこと』、東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』、『マイ・ブックショップ』など殆どを手掛けている。今回ゴヤ賞ノミネートはないが、シネマ・ライターズ・サークル賞にノミネートされている。ゴヤ賞関連では2018年の『マイ・ブックショップ』と、監督が「ぶっ飛んだ女優」と激賞したジュリエット・ビノシェを起用し、ノルウェーの猛吹雪の中で撮影を敢行したNadie quiere la noche15)でノミネートされている。その他、編集のジョルディ・アサテギ、メイクアーティストのシルビエ・インベルトなど、スタッフ陣は申し分ない。インベルトはゴヤの胸像を3個、マラガ映画祭2017のリカルド・フランコ賞を受賞しているベテラン。

       

メキシコ代表作品 「Ya no estoy aqui」*ゴヤ賞2021 ⑨2021年02月07日 17:28

      メキシコのアカデミー賞アリエル賞10部門制覇の「Ya no estoy aquí

 

      

                 (スペイン語版ポスター)

 

★ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にノミネートされたフェルナンド・フリアスの長編デビュー作Ya no estoy aquíは、先月末第93回米アカデミー賞2021国際長編映画賞メキシコ代表作品にも選ばれました。昨年のアリエル賞10部門制覇の勢いが続いているようです。20205月、Netflixでストリーミング配信された影響かもしれませんが、それだけでは選ばれません。メキシコのオスカー賞監督、ギレルモ・デル・トロやアルフォンソ・キュアロンの温かい賛辞が功を奏していることもあるかもしれません。メキシコのモレリア映画祭2019で幸先よく作品賞と観客賞を受賞しています。モレリアFFはメキシコの映画祭の老舗グアダラハラFFより若い監督の力作が集まる映画祭と評価を上げています。本作はコロンビアからの移民が多く住んでいるメキシコ北部ヌエボ・レオン州の州都モンテレイが舞台です。

 

       

     (トロフィーを披露するフェルナンド・フリアス監督、モレリアFF2019にて)

 

★監督紹介:フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラ(メキシコシティ1979)は、監督、脚本家、製作者。父は弁護士、母はパンアメリカン航空に勤務していた。メキシコで情報学と写真撮影を学び、フルブライト奨学金を得て、ニューヨークのコロンビア大学修士課程で脚本と映画演出を専攻した。2008年ドキュメンタリーCalentamiente local52分)を、第6回モレリア映画祭FICMに出品、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞、2012年、長編デビュー作となるRezeta85分)FICMのセレクション・オフィシアル上映、ミラの映画祭2014監督賞受賞、ユタ州で開催されるスラムダンス映画祭2014で審査員大賞受賞、他ノミネーション多数、レゼタはコソボ生れの若いモデルでメキシコにやってくる。主人公の名前がタイトルになっている。本作Ya no estoy aquíが長編第2作目となる。他にTVシリーズのコメディも手掛けている。

  

          

                              (長編デビュー作のポスター)

 

★主人公ウリセス役のフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ(モンテレイ2000)は、ミュージシャン、本作で俳優デビューした。モンテレイで開催された音楽フェスティバルでフリアス監督の目にとまりスカウトされた。クンビア・レバハールのダンスは出演決定後に学んだという。本作でカイロ映画祭2019の男優賞、アリエル賞2020新人男優賞を受賞した。次回作はブカレスト出身の監督テオドラ・ミハイの長編デビュー作「La Civil」(ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作、スペイン語)に出演しており、どうやら二足の草鞋を履くようです。

 

     

          

    (クンビア・レバハーダを無心に踊るウリセス、映画から)

 

    

  (ダニエル・ガルシア、監督、製作者アルベルト・ムッフェルマン、FICMプレス会見にて)

 

 

Ya no estoy aquí(英題「I'm No Longer Here」、邦題『そして俺は、ここにいない』)

製作:Panorama Global / PPW Films / Margate House Films

監督・脚本:フェルナンド・フリアス(・デ・ラ・パラ)

撮影:ダミアン・ガルシア

編集:Yibran Asuad

美術プロダクション・デザイン:ジノ・フォルテブオノGino FortebuonoTaisa Malouf

衣装デザイン:マレナ・デ・ラ・リバ、ガブリエラ・フェルナンデス

メイクアップ&ヘアー:ラニ・バリー、エレナ・ロペス・カレオン、イツェル・ペナItzel Pena

録音;ハビエル・ウンピエレス、オライタン・アグウOlaitan Agueh

キャスティング:ベルナルド・ベラスコ、エスラ・サイダム

製作者:アルベルト・ムッフェルマンMuffelmann、ゲリー・キム、ヘラルド・ガティカ、フェルナンド・フリアス、他

 

データ:製作国メキシコ=米国、スペイン語・英語・北京語、2019年、ドラマ、112分、Netflix配信(日本語字幕あり)2020527

映画祭・受賞歴:モレリア映画祭2019正式出品(1021日上映)作品・観客賞受賞、カイロ映画祭2019ゴールド・ピラミッド作品賞、男優賞(ダニエル・ガルシア)受賞、マル・デ・プラタ映画祭、トライベッカ映画祭、スウェーデンのヨーテボリ映画祭2020、他ノミネート多数。アリエル賞2020作品・監督・脚本・撮影・編集・美術・メイクアップ・録音・衣装デザイン・新人男優賞10部門受賞。ゴヤ賞2021イベロアメリカ映画賞とオスカー賞2021ノミネーション、他

 

キャスト:ダニエル・ガルシア(ウリセス・サンピエロ)、コラル・プエンテ(チャパラ)、アンジェリーナ・チェン(リン)、ジョナサン(ヨナタン)・エスピノサ(友人ジェレミー/イェレミー)、レオ・サパタ(イサイ)、レオナルド・ガルサ(ペケシージョ)、ヤイル・アルダイYahir Alday(スダデラ)、ファニー・トバル(ネグラ)、タニア・アルバラド(ウェンデイ)、ジェシカ・シルバ(パトリシア)、アドリアナ・アルベラエス(NYバルのホステス、グラディス)、ソフィア・ミトカリフ(Ice Agent)、ブランドン・スタントン(NYのカメラマン)、チョン・タック・チャンChung Tak Cheung(ミスター・ロー、リンの祖父)、他多数

 

ストーリー2011年、17歳のウリセスはメキシコ北東部ヌエボ・レオン州の州都モンテレイの貧困家庭が暮らすバリオに住んでいる。コロンビアを代表する音楽、スロー・テンポのクンビア・レバハーダのファナティックなグループ「ロス・テルコス」のリーダーである。仲間のチャパラ、ネグラ、ペケシージョ、スダデラたちと一緒に、地元ラジオ局から聞こえてくるクンビアに合わせて踊るのが楽しみである。麻薬密売のカルテルの抗争に巻き込まれ、家族を救うためアメリカへの逃亡を余儀なくされる。居場所を見つけられない若者ウリセスの物語。

クンビアの語源はアフリカ・バントゥー語群(中央から東アフリカで話されている言語)のクンベcumbeからきている。宴とかお祭り騒ぎという意味、クンビア・レバハーダはクンビアをスロー・テンポにしている。ゆったりしているが膝を曲げ中腰の姿勢のまますり足て踊るから体力がいる。

 

 

       機会均等を奪われた若者の物語、コロンビア移民=犯罪者?

 

A: ウリセスが暮らすバリオの住民は、コロンビアからの移民が多い。彼は故郷の舞曲クンビアをスロー・テンポにした<クンビア・レバハーダ>を聴きながら踊るのが日常。地元のラジオ局が朝早くからどうでもいい誰も聞いていないニュースを挟みながらリクエストを受け付けている。ロス・テルコスLos TERKOSは、頑固な人を意味するtercoからきている。

 

B: 生き方を簡単には変えないことから、モンテレイでクンビアを踊ることは一種の抵抗の意味もあるという。時代を麻薬戦争が激化する少し前の2011年に設定している。モンテレイはドラッグ消費国アメリカの国境に近いことからカルテルの抗争が絶えない。本作の構想は2013年と語っているから7年間温めていたということです。

 

A: 昨年東京国際映画祭やラテンビート・オンラインで上映されたフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』に登場した母親の一人が「息子はモンテレイの友人に会いに行く」と言ったきり行方不明になったように、モンテレイは危険と隣り合わせだった。

B: 映画は「ロスF」と「ロス・ペロネス」の2大カルテルの対立を背景にしている。テルコスはロス・ペロネスの下部組織ではないが守ってもらっている。ロス・ペロネスPelonesは髪の薄いペロンpelónの複数形、従って剃髪したスキンヘッドがトレードマークです。Netflix 配信が始まると、視聴者からモンテレイは映画のようではないと苦情が寄せられたとか。

   

       

                  (ウリセスとスキンヘッドのロス・ペロネスのメンバー)

 

A: モンテレイは日本の企業も多く進出しているメキシコ第三の大都市ですから気持ちは分かります。監督は「これはモンテレイを代表する映画ではなく、文化の多様性に価値があることを理解できない、人と違っていることを差別する社会に生きている青年の物語だ」と反論している。メキシコではコロンビア移民イコール犯罪者という偏見が存在しているようです。

B: ウエストの下がったぶかぶかのズボン、「頭に鶏がのっかっている」ような髪型だけで差別する「偏見や汚名」について語りたかった。

 

          

        (クンビア・レバハーダを踊るウリセスとテルコスの仲間たち)

 

A: 入り組んだ狭い坂道に折り重なるように家が建っている。スラムというのはリオデジャネイロでもそうだが上に行くほど貧しい。下から家が建っていき上しか行き場がないから、つまり天国に近いところが一番貧しい。ロス・テルコスの仲間は上のほうに住んでいる。夜になるとモンテレイの夜景が一望できる。ウリセスには赤ん坊の弟がいるから父親はいるのだろうが姿は見えない。カルテルのメンバーである兄は刑務所にいる。ここではムショが一番安全なのだ。

   

B: 典型的な父親不在、どうやって生活費を得ているのか語られない。カルテルから見つけしだい家族も殺害すると脅され母親と妹弟を連れて、坂道を転げ落ちるようにして親戚の家に逃げ込む。ウリセスは言葉の分からない北の隣国へ逃亡するしか生きる道がない。

 

A: リックサックにはチャパラ(コラル・プエンテ)から渡されたMP3プレイヤーに故郷の記憶を全て押し込んで出立する。このプレイヤーは500ペソ値切って1500で買ったテルコス全員の財産なのだ。

B: 「私用でこれは売り物ではない。バジェナート、アルゼンチンやペルーのクンビアも収録している」とお店の主がもったい付けていた代物。バジェナートもクンビアとともにコロンビアで人気の民謡。

 

       

       (仲間と愛するクンビアを捨て、母親と最後の別れをするウリセス)

  

 

      祖国喪失のオデュッセイア――モンテレイからNYへ、再びモンテレイへ

 

A: ウリセスという名前はギリシャ神話の英雄オデュッセウスの英語読みユリシーズ、ホメロスの『オデュッセイア』の主人公でもある。つまりモンテレイへ戻ることが暗示されている。密行の方法は終盤に明かされるが、ウリセスはニューヨークはクイーンズ地区、ジャクソンハイツで日雇い仕事をしている。この地区はヒスパニック系やアジア系の移民が多く住んでいる。雇い主のミスター・ローも中国からの移民という設定でした。

B: 好奇心旺盛な16歳の孫娘リン(アンジェリーナ・リン)がウリセスに絡んでくるが、スペイン語を解さないリンと英語がちんぷんかんなウリセスとの言葉の壁もテーマの一つのようです。

 

       

           (シュールな会話で難儀するウリセスとリン)

 

A: テーマは大別すると移民問題とアイデンティティとしての音楽でしょう。移民が新参者の移民を差別する構図が描かれ、ウリセスは元の生活スタイルを頑固に守ろうとするので、仕事仲間に痛めつけられて巷に放り出される。監督によると、よくモンテレイのスラムにカメラを持ち込められたとびっくりされたが、撮影が大変だったのはジャクソンハイツだったと語っている。

B: フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』15、公開2019)を見て、最初からここに決めていたようです。ヒスパニックやアジア系の他、ユダヤ教徒、167の言語が飛び交う多様なアイデンティティをもつ人々を紹介している。

 

A: 多様性を大切にするジャクソンハイツでも、ウリセスのような根なし草は生きていけない。コロンビアからの移民、クラブでホステスをするグラディス(アドリアナ・アルベラエス)から、このままでは刑務所行きになると諭されるが、その通りになる。

B: ずっと抵抗して切らなかった髪を切るシーンは切なかった。後半の山場の一つでした。リンにもグラディスにも見放されると、行き着く先は路上生活者、警官に逮捕というお決まりのコースで、数ヵ月後に強制送還される。

 

   

       (自分で鋏を入れ、大切にしてきた髪型を変えたウリセス)

  

 

         aqui とはどこ? アメリカ、あるいは故郷モンテレイ?

 

A: 英語題I'm No Longer Hereはオリジナル版と同じですが、邦題は少し違和感がありますね。それはさておき、「ここ」とはどこか。モンテレイかアメリカかです。

B: 本作はフラッシュバックで二つの場所を行ったり来たりする。ウリセスは夢のなかではバリオで踊っている。しかし自分は現実には「もはやここモンテレイにはいない」。

A: または、実際には米国にいるが本当の自分は「もはやここアメリカにはいない」とも解釈できる。アメリカに止むなく逃亡してきたウリセスのような移民にとって、米国は決していたいところではない。そう考えるとaqui とは米国をさすことになる。

 

B: 強制送還されてモンテレイに戻ってきても彼には居場所がない。半年ほどしか経っていないのにバリオは様変わり、バリオはロスFに支配され、テルコスの仲間も彼らに取り込まれている。かつての仲間の一人イサイ(レオ・サパタ)の葬列に出くわす。

     

     

               (イサイの葬儀のシーンから)

    

A: 友人イェレミー(ジョナサン・エスピノサ)に会いに行くと、いまではキリスト教に改宗してラップ形式で伝道者としての日々を送っている。ウリセスは一人ぼっちであることを受け入れ、MP3の電池が無くなるまで一人でクンビア・レバハーダを踊り続ける。

 

        ギレルモ・デル・トロとアルフォンソ・キュアロンの後方支援

 

B: 麻薬戦争時代を背景にしながらドンパチは一度切り、全体はゆっくりと静かに進む。クンビアをスローテンポで踊るのは、そうすると「深い味わいがあるからだ」と劇中でウリセスが言うように、見終わると、深い余韻が残る。

A: フリアスは基本的にカメラの位置を固定している。カメラを動かすときもゆっくり、取り込み方がすぐれている。前作Rezeta」もNetfixで配信されたようだが日本は外されたようです。

 

       

     (ロス・テルコスのサイン、星のマークを実演する監督、モレリアFFにて)

 

B: 前述したように、大先輩監督のギレルモ・デル・トロアルフォンソ・キュアロンが大いに関心を示してくれたとか。米アカデミー賞「国際長編映画賞」メキシコ代表作品にも選ばれた。ロスでのロビー活動のノウハウを伝授してもらえるでしょうか。

A: メキシコ人なら「メキシコの現実が描かれているから是非見て欲しい」と後方支援をしてくれた。しかしモレリアFFで感動してくれた観客に借りができている。自分たちもナーバスになったが、観客にモラル的な恩義を受けたと語っている。何本かシナリオを手掛けている由、今後に期待しましょう。

  

      

               (評価をしてくれたギレルモ・デル・トロ)

  

セスク・ゲイの新作コメディ 「Sentimental」*ゴヤ賞2021 ⑧2021年02月01日 10:12

     「トルーマン」の監督が戻ってきた―― 舞台「Los vecinos de arriba」の映画化

 

      

 

★ゴヤ作品賞5作品の一つセスク・ゲイSentimentalは、作品賞の他、監督賞、脚色賞、ハビエル・カマラの主演男優賞、グリセルダ・シチリアーニ新人女優賞の5カテゴリーにノミネーションされています。セスク・ゲイは、Truman15、『しあわせな人生の選択』)でゴヤ賞2016の監督・脚本賞を受賞しています。アルゼンチンの名優リカルド・ダリンとハビエル・カマラという芸達者を起用して映画そのものは楽しめましたが、邦題は平凡すぎて陳腐、全くいただけなかった。本作の作品紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーはアップ済みです。

『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ2016010920170804

 

           

          (セスク・ゲイ監督、サンセバスチャン映画祭2020

 

Sentimental」は、もともとは2015年バルセロナで、翌2016年マドリードで公演されたLos vecinos de arriba(仮題「上階の隣人」)という舞台劇の映画化、英題のThe People Upstairsはこちらを採用した。下の階の住人がハビエル・カマラとグリセルダ・シチリアーニの結婚歴15年という倦怠ぎみの中年夫婦、上の階の住人がまだアツアツのアルベルト・サン・フアンベレン・クエスタのカップル、4人だけの室内劇のようです。監督がチリの小説家イサベル・アジェンデの Sentimental という作品にインスパイアされて脚本を執筆したという記事が目にとまりましたが、確認できませんでした。

 

(英題のポスター)

     

    

Sentimental」 (「The People Upstairs」) 

製作:Impossible Films / Sentimental Film / TV3 / Movistar/ RTVE / カタルーニャ文化協会

監督・脚本:セスク・ゲイ

撮影:アンドレウ・レベス

編集:リアナ・アルティガル

プロダクション・デザイン(美術):アンナ・プジョル・Tauler

衣装デザイン:アンナ・グエル

録音:アルベルト・ゲイ、イレネ・ラウセル、ヤスミナ・プラデウス

製作者:マルタ・エステバン、(エグゼクティブ)ライア・ボッシュ 

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2020年、コメディ、82分、撮影地バルセロナ、公開スペイン1030日、ロシア202117

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020924日上映)、トロント映画祭上映、第26フォルケ賞2021男優賞受賞(ハビエル・カマラ)、第8回フェロス賞2021、作品(コメディ部門)・監督・主演男優(ハビエル・カマラ)・助演男優(アルベルト・サン・フアン)の4カテゴリーにノミネーション、ガウディ賞2021作品賞(カタルーニャ語以外)、監督・脚本、主演男優、助演男優、美術、衣装デザイン、録音の9部門ノミネーション、シネマ・ライターズ・サークル賞2021男優、脚色2部門ノミネーション、ゴヤ賞は省略

 

キャストハビエル・カマラ(フリオ)、アルベルト・サン・フアン(サルバ)、ベレン・クエスタ(ラウラ)、グリセルダ・シチリアーニ(アナ) 

ゴチック体はゴヤ賞ノミネート)

 

ストーリー:フリオとアナのカップルは既に結婚歴15年となり、やや倦怠ぎみの中年夫婦、連日議論に明け暮れている。片や上階のフレンドリーな隣人、サルバとラウラの夫婦はまだアツアツ。アナが上階のカップルをディナーに招待しようと提案する。フリオは夜の騒音を疎ましく思っているので乗り気でない。やがて手料理を携えて隣人夫婦がやってきた。夜が更けるにつれ、互いの夫婦の秘密が明らかになっていくのだが、隣人は驚くべき提案をする。どんな提案なのでしょうか。ノイローゼ患者の良薬は常に笑い。

 

            

            (左から、ラウラ、サルバ、アナ、フリオ)

 

 

          舞台劇の映画化――フリオはウエルベックの熱烈な読者

 

★シネヨーロッパのインタビューで、二組の夫婦の偽善的な関係がエスカレートしていくマイク・ニコルズの『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66)やロマン・ポランスキーの『おとなのけんか』(11)との関連性を問われて、ベースにしていることを監督は認めている。アメリカン・コメディを参考にしていると語っていた。小説や戯曲の映画化は大きくジャンルが異なるので違いがでる。シアターとフィルムもなかなか難しいが、本作は自分が書いた戯曲をフィルム用に脚色したのでスムーズだったとも語っている。キャスティングは舞台とは別、バルセロナではカタルーニャ語、マドリードではスペイン語という棲み分けだったようです。男性陣のハビエル・カマラとアルベルト・サン・フアンは家族同様、息の合ったセリフ合戦が楽しめそうです。

 

               

             (フリオとサルバの関係はどうなる?)

 

★フリオはフランスの小説家ミシェル・ウエルベックの熱烈な読者という設定、2015年当時ムスリム批判で火中の人物、世界が騒然としたシャルリー・エブド襲撃事件では危険を避けるため、警察が一時的に保護していた。どう絡みあうのか興味は尽きない。フリオ夫婦はどうやらセックスレスのようだ。サルバは消防士でラウラは精神分析医という設定です。そして互いに打ちとけるには無駄話が一番いい、ここにはセックス中でも無駄話を止めない人物が登場する。「ノイローゼの良薬は常に笑い」と監督。

 

      

                 (撮影中の4人と監督)

 

 

★早口で喋りまくるのがトレード・マークのカマラに『しあわせな人生の選択』では沈黙を要求した。今回はいつものカマラが戻ってきます。新人女優賞ノミネートのグリセルダ・シチリアーニ(ブエノスアイレス1978)は、アルゼンチンではTVシリーズで活躍のベテラン女優ですが、スペインでは <新人> です。年齢は無関係、昨年はオリベル・ラシェの『ファイアー・ウイル・カム』出演の御年84歳のベネディクタ・サンチェスが受賞しています。ただゴヤ賞はスペイン映画アカデミー会員の投票で決まるから、外国勢はどうしても不利です。アルベルト・サン・フアン(マドリード1967)はセスク・ゲイのUna pistola en cada mano12)に出演、ゴヤ賞関連では、フェリックス・ビスカレッドの「Bajo las estrellas」でゴヤ2008主演男優賞受賞以来、久々のノミネーションです。唯一人選ばれなかったベレン・クエスタは、ASECAN 2021にノミネートされていますが、昨年のホセ・マリ・ゴエナガ他の「La trinchera infinita」で主演女優賞を受賞していますから妥当な選考かなと思います。

 

       

       (ゴヤ賞ノミネートのハビエル・カマラとグリセルダ・シチリアーニ)

      

パトリシア・ロペス・アルナイス主演の「Ane」*ゴヤ賞2021 ⑦2021年01月27日 20:37

           ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」はバスク語映画

 

              

             (英題Ane is Missingのポスター)

     

★ゴヤ賞の作品賞以下5カテゴリーにノミネートされたダビ・ペレス・サニュドAneは、昨年のサンセバスチャン映画祭2020バスク映画イリサル賞受賞作品です。主演のパトリシア・ロペス・アルナイスが、第26フォルケ賞2021女優賞を受賞したばかりです。さらに28日に発表される第8回フェロス賞(ドラマ部門)では、作品賞、脚本賞、女優賞にノミネートされています。パトリシアは脇役やTV 出演が多かったので紹介が遅れていましたが、気になる女優の一人でした。アメナバル『戦争のさなかで』19)でウナムノの次女マリア役で既に登場しているほか、Netflix配信では結構目にします。バスク自治州ビトリアの出身ということもあってバスク語ができる。本作でアネの母親リデに抜擢されて初めて主役を演じています。先ずは映画のアウトラインからスタートします。

 

        

    (ミケル・ロサダ、パトリシア・ロペス・アルナイス、ペレス・サニュド監督)

  

Ane(英題「Ane is Missing」)

製作:Amania Films / EiTB Euskal Irrati Telebista / 協賛バスク自治州政府、ICAA、他

監督:ダビ・ペレス・サニュド(新人監督賞)

脚本:ダビ・ペレス・サニュドマリナ・パレス(脚本賞)

撮影:ビクトル・ベナビデス

音楽:ホルヘ・グランダ(作曲)

編集:リュイス・ムルア

美術:イサスクン・ウルキホ

キャスティング:チャベ・アチャ

衣装デザイン:エリサベト・ヌニェス

メイクアップ:エステル・ビリャル

プロダクション・マネージメント:ケビン・イグレシアス

製作者:アグスティン・デルガド、ダビ・ペレス・サニュド、(エグゼクティブ)カティシャ・シルバ、他

 

データ:製作国スペイン、バスク語、2020年、ドラマ、100分、撮影地アラバ県ビトリア他、公開スペイン20201016

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020「ニューディレクターズ」部門ノミネーション、バスク映画イリサル賞・脚本賞受賞、ワルシャワ映画祭コンペティション部門109日上映。フォルケ賞2021女優賞受賞(パトリシア・ロペス・アルナイス)、第8回フェロス賞作品・脚本・女優賞ノミネーション、第35回ゴヤ賞は省略。

 

キャストパトリシア・ロペス・アルナイス(リデ)、ホネ・ラスピウルJone Laspiur(リデの娘アネ)、ミケル・ロサダ(リデの元夫フェルナンド)、フェルナンド・アルビス(校長)、ナゴレ・アランブル(イサベル)、ルイス・カジェホ(エネコ)、アイア・クルセ(レイレ)、アネ・ピカサ(ミレン)、ダビ・ブランカ(ペイオ)他多数

ゴチック体がゴヤ賞ノミネート)

 

ストーリー2009年ビトリア、リデは高速列車の工事現場のガードマンとして働いている。17歳のときから育てている年頃の娘アネと暮らしている。仕事から帰宅すると二人分の朝食の準備をする。しかしその日はアネの姿がなかった。翌朝になっても帰ってこなかった。リデは平静を保とうとするが、前日にした激しい口論のせいかもしれないと不安を募らせる。別れた夫フェルナンドとアネの居場所を尋ねまわるが、二人は娘の世界を何も知らなかったことに気づくのだった。娘の失踪によって親子関係の希薄さ、無頓着さ、配慮のなさを突きつけられる。折しもETAに所属しているらしい二人の若者の逮捕が報じられる。                (文責:管理人)

 

      

             (娘を尋ね歩くリデ、映画「Ane」から)

 

           バスクの対立を背景に親子の断絶と和解が語られる

           

ダビ・ペレス・サニュド(ビルバオ1987)は、2010年プロデューサーとしてスタート、10本以上の短編を手掛け、その多くが国際短編映画祭で受賞している。2012年制作会社「Amania Films」をパートナーのルイス・エスピナソと設立、メイン・プロデューサーはエスピナソ。ビルバオとマドリードを拠点にしている。本作がバスク語で撮った長編デビュー作となる。バスクの対立とか労働者階級の闘いなどは、背景の一つであって真のテーマではない。あくまでもコミュニケーションがとれていない親子の断絶と開いた傷口の縫合が語られるようです。英題ポスターに見られるように同じ方向に向かっているが、上下に別れた道路を歩いているので出会えない。

 

            

           (長編デビュー作のポスターを背にした監督)

 

2013年短編第2作目となるAgurが評価され、その後Malas vibraciones14、共同)、Artifitial15)、De-mente16)と立て続けに発表、サンセバスチャン映画祭に出品されたミステリー・コメディAprieta pero raramente ahoga15分、17)が、ヒホン映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した。他にも国内外の映画祭の受賞歴の持ち主である。他に2018Aneという短編を撮っている。ここではアネはETAメンバーのようで、長編の下敷きになっているようです。2018年からはTVシリーズも手掛けており、仕事の幅を広げている。今年のゴヤ新人監督賞は激戦区の一つ、ライバルは「Las ninas」のピラール・パロメロ、『メキシカン・プレッツェル』のヌリア・ヒメネスなど受賞歴を誇る粒揃い、侮れない相手です。

 

     

       (評価された短編「Aprieta pero raramente ahoga」のポスター)

              

       

             (イリサル賞受賞のペレス・サニュド監督、SSIFF2020授賞式にて)

   

          

       (ペイオ役のダビ・ブランカ、製作者カティシャ・デ・シルバ、監督)

 

 

      「リデはチャンスを求めて闘っている戦士で闘士」とパトリシア

 

★主演女優賞ノミネートのパトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アラバ県の県都ビトリアの小さな村で幼少期を過ごし、後にマドリードにフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー血族の秘密』(17)やフェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の第1『パサジャウンの影』17)がNetflixで配信されている。後者は第2部、第3部も日本語字幕はないが、スペイン語、英語なら視聴できます。脇役で出番も限られるので日本の観客には馴染みがない。長寿TVシリーズLa otra mirada1819、全21話)のテレサ役が評価され、オンダス賞2018ACE2019の女優賞を受賞している。TVシリーズではLa pesteにも出演、スペインでは知名度が高い。

   

       

  (テレサに扮したパトリシア・ロペス・アルナイス、TVシリーズ「La otra mirada」から)

 

★上述したようにアメナバルの『戦争のさなかで』でスクリーンに登場していますが、映画デビューは、2010年のホセ・マリ・ゴエナガジョン・ガラーニョ共同監督のバスク語映画80 eguneanFor 80 Days)でした。当時は必ずしも女優を目指していなかったと語っている。ダビ・ベルダゲルが主演男優賞にノミネートされているダビ・イルンダインUno para todosにも出演、本作と「Ane」でディアス・デ・シネ2021の女優賞を既に受賞している。最近の2年間で人生に革命が起きたと述懐しているように女優としての転機を迎えている。

 

     

  (フォルケ賞2021最優秀女優賞のトロフィーを抱きしめるパトリシア、2021116日)

 

★本作が生れ故郷のビトリアでクランクインしたことも幸いした。また「労働者階級に属しているリデは、チャンスを求めて闘っている戦士で闘士である」ともインタビューに応えている。自身と重なる部分があるということでしょうか。ライバルはイシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、ゴヤの胸像は既に主演1個(06)、助演2個(0413)をゲットしているが、そろそろ欲しいところです。

Uno para todos」の作品紹介は、コチラ20200416

80 eguneanの作品紹介は、コチラ20150909

 

      

      (人生に革命が起きたと語るパトリシア、映画の1シーンから)

 

 

           新人女優賞にノミネートされた個性派女優ホネ・ラスピウル

 

★新人女優賞ノミネートのホネ・ラスピウルJone Laspiur サンセバスチャン1995)は、バスク大学で美術を専攻したという変り種、マドリードのコンプルテンセ大学やマセオ・ソシアル・アルヘンティノ大学でも学んでいる。子供のときからピアノを学び、合唱団に所属していた。ミュージック・グループNogenを経て、現在はコバンKobanの合唱団員として舞台に立っている。25歳デビューは遅いほうか。

    

       

 

★映画界入りは、パブロ・アグエロAkelarreの音楽を担当していたミュージシャンのMursegoマイテ・アロタハウレギ)の目にとまりスカウトされた。歌えて踊れる若い女性を探していた。サンセバスチャン映画祭2020オフィシャル・セレクションに正式出品された本作は、ゴヤ賞主演女優賞(アマイア・アベラスツリ)を含めて9カテゴリーにノミネートされている。彼女は魔女アケラーレの一人マイデルに抜擢された。

Akelarre」の作品紹介は、コチラ20200802

 

         

        (「Akelarre」の魔女アケラーレの一人を演じた、映画から)

     

          

          (サンセバスチャン映画祭2020のフォトコールにて)

 

★まだ「Akelarre」と「Ane」の他、バスクTVミニシリーズAlardea4話)に出演しただけだが、ゴヤの話題作2作に出演している旬の個性派女優として地元のメディアに追いかけられている。日本でも話題になったホセ・マリ・ゴエナガジョン・ガラーニョの『フラワーズ』や『アルツォの巨人』のようなバスク語映画を見ることで新しい道が開けているとインタビューに応えている。第62回ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭ZINEBI 20201959年設立)のバスク作品賞と脚本賞を受賞したエスティバリス・ウレソラの短編Polvo Somosが公開されるほか、コロナ禍の影響でどうなるか分からないが、新しいプロジェクトの撮影も2月クランクインの予定。

 

        フェルナンド・アルビスを筆頭にベテラン勢が脇を固めている

 

★リデの別れた夫フェルナンドを演じたミケル・ロサダ(ビスカヤ県エルムア1978)は、本作と同じようにパトリシア・ロペス・アルナイスと夫婦役を演じた『パサジャウンの影』のフレディ役、バスク語映画の代表作はアルバル・ゴルデフエラハビエル・レボーリョAlaba Zintzoa(「La buena hija)、アナ・ムルガレンのTres mentirasや、当ブログ紹介のLa higuera de los bastardos、同じくルイス・マリアスFuegoなど。

La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ20171203

Fuego」の作品紹介は、コチラ20141211

  

       

                   (インタビューを受けるパトリシアとミケル・ロサダ)

 

      

    (リデとフェルナンド、映画から)

 

★校長役のフェルナンド・アルビス(ビトリア1963)は、ダビ・ペレス・サニュド監督の短編「Agur」出演以来、「Aprieta pero raramente ahoga」や短編「Ane」他に出演している。他にたっぷりした体形を活かしたダニエル・サンチェス・アレバロ『デブたち』で、スペイン俳優ユニオン2010助演男優賞を受賞している。イサベル役のナゴレ・アランブルは、『フラワーズ』で匿名の贈り主から花束を受け取る中年女性役を演じた女優、レイレ役のアイア・クルセは短編「Ane」で主役アネを演じている。

    

                         

                     (校長役のフェルナンド・アルビス、映画から)

      

       
   (短編Ane」でアネを演じたアイア・クルセ

      

    


サルバドール・カルボの 「Adú」*ゴヤ賞2021 ⑥2021年01月24日 13:26

                3本の軸が交差するサルバドール・カルボのスリラー「Adú

    

             

            (少年アドゥを配したポスター)

 

★ゴヤ賞2021のノミネーション発表では、サルバドール・カルボ(マドリード1970)のAdúが最多の13カテゴリーとなりました。Netflix 配信という強みを活かしてアカデミー会員の心を掴むことができるでしょうか。本作はデビュー作1898:スペイン領フィリピン最後の日』16)に続く第2作目になります。Netflixで日本語字幕入りで配信され幸運な滑り出しでしたが、第2作目は残念ながら日本語字幕はありません。第1作より時代背景も舞台も今日的ですが、アフリカ大陸、特に舞台となるカメルーンやモーリタニア、モロッコの位置関係に暗いと、登場人物がそれぞれ移動する都市に振り回される。安全な日本で暮らしていると、やはりアフリカは遠い世界と実感しました。監督キャリア&フィルモグラフィーはデビュー作でアップ済みです。

1898:スペイン領フィリピン最後の日』の作品紹介は、コチラ20170105

   

    

(左から、アナ・カスティーリョ、アダム・ヌルー、監督、ルイス・トサール、118日)

 

★アンダルシア人権協会APDHAの調査によると、2018年、国境を越えてスペインへ到着した違法移民は、陸路海路を含めて64,120人に上る。翌2019年は33,261人と減少したが、子供の数は7,053から8,066人と反対に増加した。不法移民の約30%はモロッコの若者と子供であったという。これが監督の製作の意図の一つとしてあったようです。エンディングに2018年の難民7千万人のテロップが流れる。この数は移民できずに国内に止まっている難民を含めている。スペイン語、ほかに元の宗主国であるフランスやイギリスの言語が飛び交う複雑さが、現代のアフリカを象徴している。第2作目とはいえ、20年前からTVシリーズを手掛けているベテランです。主人公はルイス・トサールではなく、アドゥ少年を演じた当時6歳だったムスタファ・ウマル君と思いました。

      

Adú2020

製作:Ikiru Films / Telecinco Cinema / La Terraza Films / Un Mundo Prohibido / Mediaset España

     協賛 ICAA / Netlix

監督:サルバドール・カルボ

脚本:アレハンドロ・エルナンデス

音楽:ロケ・バニョスCherif Badua

撮影:セルジ・ビラノバ 

美術:セサル・マカロン

編集:ハイメ・コリス

録音:エドゥアルド・エスキデハマイカ・ルイス・ガルシ、他

プロダクション:アナ・パラルイス・フェルナンデス・ラゴ

メイクアップ:エレナ・クエバスマラ・コリャソセルヒオ・ロペス

衣装デザイン:パトリシア・モネ

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ

編集者:アルバロ・アウグスティン、ジスラン・バロウ(Ghislain Barrois)、エドモン・ロシュ、ハビエル・ウガルテ、他多数

 

データ:製作国スペイン、言語スペイン語・フランス語・英語、2020年、ドラマ、119分、撮影地ムルシア、ベナン共和国、モロッコ他、公開スペイン131日、インターネット配信630日(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、イギリス、イタリア、他)、スペイン映画2020年の興行成績第2

映画祭・受賞歴:ホセ・マリア・フォルケ賞2021作品賞とCine en Educación y Valores賞、2ノミネーション、フェロス賞2021オリジナル音楽賞(ロケ・バニョス)ノミネーション、ゴヤ賞省略。

 

キャスト:ルイス・トサール(環境活動家ゴンサロ)、アルバロ・セルバンテス(治安警備隊員マテオ)、アンナ・カスティーリョ(ゴンサロの娘サンドラ)、ムスタファ・ウマル(アドゥ6歳)、ミケル・フェルナンデス(マテオの同僚ミゲル)、ヘスス・カロサ(マテオの同僚ハビ)、アダム・ヌルー(マサール)、Zayiddiya Dissou(アドゥの姉アリカ)、アナ・ワヘネル(パロマ)、ノラ・ナバス(カルメン)、イサカ・サワドゴ(ケビラ)、ヨセアン・ベンゴエチェア(治安警備隊指揮官)、エリアン・シャーガス(Leke)、ベレン・ロペス(国連職員)、マルタ・カルボ(マテオの弁護士)、Koffi Gahou(マフィアのネコ)バボー・チャム(カメルーンの青年)、カンデラ・クルス(NGO職員)、ほか多数

*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされたシネアスト。

 

ストーリー:アリカとアドゥの姉弟は自転車で散歩中に象の密猟の現場を偶然に目撃してしまう。現場に置き忘れた自転車がもとで二人は地元ボスから追われることになり、故郷を後にする。飛行機の貨物室に忍びこんでカメルーンからヨーロッパに脱出しようと、滑走路の傍にうずくまっている。ここからそう遠くないジャー自然保護区では環境保護活動家のゴンサロが、密猟者に牙を抜かれた痛ましい象の死骸と向き合っている。間もなくスペインからやって来る娘サンドラとの問題も抱えている。北へ数千マイル先のメリリャでは治安警備隊員マテオのグループが、国境線のフェンスを攀じ登ってくるサハラ以南の群衆を押しとどめる準備をしていた。彼らは交差する運命であることを未だ知らないが、元の自分に戻れないことを知ることになる。国境を越えてヨーロッパに押し寄せるサハラ以南の難民問題を軸に、3本の糸が絡みあう群像劇。 (文責:管理人)

 

          アフリカの現実を照らしだす3本の軸

 

A: 日本では評価がイマイチだったデビュー作1898:スペイン領フィリピン最後の日』よりテーマが今日的なこと、認知度のあるルイス・トサールやアナ・カスティーリョの出演もあって受け入れやすいと思っていましたが、目下Netflix配信はオリジナル作品ながら日本語字幕はありません。

B: スペイン人にとって1898という年は、キューバ独立に続くフィリピン、プエルトリコという最後の植民地を喪失する忘れられない屈辱の年でした。経済的よりスペインの没落を象徴する精神的な打撃のほうが大きかったから、海外の視聴者の受け止め方とは事情が異なっていました。

 

A: 第2作は貧困や民族対立を抱えるサハラ以南からヨーロッパに押し寄せる爆発的な難民や違法移民の流入、地元マフィアが支配する動物密猟などが背景にあります。スペインはアフリカに最も近い国ですから、難民の受入れ窓口になっているという事情があります。

B: 姉アリカとアドゥ少年が暮らしていたのは、カメルーン人民共和国のムブーマMboumaでカメルーン唯一の世界遺産に登録されているジャー自然動物保護区に隣接している。この少年を軸に物語は進行する。

 

A: この保護区で絶滅の危機にある象の保護活動をしているのがルイス・トサール扮するゴンサロです。彼には常に不在な父親を理解できないアンナ・カスティーリョ扮する娘サンドラがいて、間もなくカメルーンに到着することになっている。これが2本目の軸。

 

       

    (平生は疎遠な父娘に隙間風が吹く、ルイス・トサールとアンナ・カスティーリョ)

 

B: 3本目がアフリカ大陸にあるスペインの飛地の一つメリリャで治安警備隊員として国境を守る任務についているマテオ、ミゲル、ハビのグループ、この3本の軸が最後にメリリャとモロッコの国境に集結することになる。

A: 主任らしいマテオを演じるアルバロ・セルバンテスが助演男優賞にノミネートされている。身体を張って危険な任務についているのに、6メートルの金属フェンスを攀じ登ってくる越境者の事故死が原因でグループは訴訟を起こされてしまう。セルバンテスは裁判に勝訴するまでの複雑な心の動きを表現できたことが評価された。米国とメキシコの国境の壁には及びませんが、二重に張り巡らされた金属フェンスの高さがアフリカとヨーロッパの現実を語っています。

  

                

    (マテオ役のアルバロ・セルバンテス)

 

       

              (左から、訴訟を起こされた治安警備隊員マテオ、ハビ、ミゲル)

 

B: トサールもそうですが、彼もカルボ監督のデビュー作に兵士の一人として出演しているほか、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の2部と3部に医師役で出演している。他にTVシリーズ出演が多いのでお茶の間の認知度は高い。 

 

          

           アリカとアドゥの出演料は16歳までの教育資金援助

 

A: アドゥが移動する都市名の位置関係が先ず描けない。あっという間に字幕が変わるから1回目は字幕を無視してストーリーを掴み、2度目に気になった個所をおさえることにした。分からなくても楽しめるが、分かったほうがメッセージがより届きやすい。

B: カメルーンの首都はヤウンデYaunde、姉弟はムブーマに住んでいる。しかしカメルーンでは撮影していないから、多分二人の出身国ベナン人民共和国でしょうか。

 

A: 撮影当時6歳だったアドゥ役のムスタファ・ウマルはカメルーン人ではない。監督談によると、キャスティング監督がベナン北部、首都ポルトノボから遠く離れた町の街路で出会った少年だそうで、何か惹きつけられてスカウトした。勿論まだ読み書きはできないし、象など見たこともなかった。

B: 映画出演料は姉アリカ役のZayiddiya Dissouを含めて、16歳までの教育費援助を条件に契約した。これは素晴らしい。

        

           

  (7歳になったムスタファ・ウマル少年と監督)

 

A: 恐ろしい密猟を目撃してしまったことで自転車を置いたまま逃げ帰る。それが災いして地元のボスから脅される。母親を殺された二人は行き場を失い親戚を頼って故郷を出る。アドゥが密猟者の顔を見てしまっている。密猟者は外部からやってくるのではなく地元の人なのだ。二人は父親がいるというヨーロッパを目指すことになる。

B: しかしカメルーンから何千キロ先のヨーロッパに如何にして二人を脱出させるか。脚本家アレハンドロ・エルナンデスは、飛行機での密航というとんでもないことを思いついた(笑)。ちょっとあり得ないストーリー展開でした。

 

           

          (象の密猟を偶然に目撃してしまうアリカとアドゥ)

 

A: エルナンデスはカルボ監督のデビュー作を手掛けたほか、当ブログでは度々登場させています。キューバ出身、2000年にスペインに亡命以来、ベニト・サンブラノの『ハバナ・ブルース』(05)以外は故国とは関係ない作品を手掛けています。ゴヤ賞ノミネートは本作が5回目、2014年にはマリアノ・バロッソTodas las mujeresで共同執筆した監督と受賞、もっぱらマヌエル・マルティン・クエンカとタッグを組んでいる他、アメナバル『戦争のさなかで』19)に起用されノミネートされた。

B: 最近は映画よりTVシリーズに専念している。

 

A: 映画に戻ると、公式サイトのストーリー紹介文では、どうして子供二人が飛行機の貨物室に忍び込んでヨーロッパを目指すのか分からなかった。また実際は貨物室ではなく、驚いたことに車輪格納庫だった。神のご加護があっても99パーセント生き延びられない設定です。

B: 生存は上空の極寒と低酸素状態で不可能ではないかと思いますが、皆無ではないそうです。専門家によると生存者の多くは仮死状態だったという。姉アリカは到着時には凍死しており、着陸のため開いた車輪格納庫から転落してしまう。このシーンは前半の見せ場の一つでした。

 

       違法移民を企てるマサールとの出会い――セネガルの首都ダカール

 

A: 到着したのはパリでもマドリードでもなく、なんとセネガルの首都ダカール空港、一気にメリリャに近づいた。保護された警察でアダム・ヌルー扮するマサールと出会い、姉を失ったアドゥは彼と二人三脚でメリリャを目指すことになる。青年は時々軽い咳をしているので、観客は結核かエイズを疑いながら不安に駆られて見ることになる。

B: 途中から予測つきますが、エイズ問題も重いテーマです。未だコロナがアジアの他人事であった当時では一番厄介な病気でした。新人男優賞にノミネートされているが、いつもながら新人枠は予測不可能ですね。

  

              

           (いつも腹ペコのアドゥとマサール、映画から)

       

A: ダカールから陸路を北上、泥棒をしながらモーリタニアの首都ヌアクショットに、さらにトラックを乗り継いで、遂にモロッコの北岸モンテ・グルグーの難民キャンプに到着する。メリリャの灯りが見える小高い岬、マサールはここで医師の診察を受ける。

B: 国境なき医師団のマークとは違うようでしたが、欧米ではこういうボランティア活動が当たり前に行われている。マサールの病状は進行していて検査入院を勧められるが時間の余裕がない。目指すメリリャは目の前なのだ。

    

      

        (メリリャの灯りを見つめながら絶望の涙にくれるサマール)

       

A: この難民キャンプには金網フェンス越えに失敗した死者、怪我人が運び込まれてくる。子供連れのフェンス越えを断念したマサールは、古タイヤを体に巻きつけて海を泳いで渡る決心をする。脚本家エルナンデスは、再びとんでもないことを思いつきました。

B: その昔、キューバ人のなかには筏でマイアミに渡った人々がいたのを思い出しました。二人は離れ離れになりながらも対岸に辿りつく。治安警備隊員マテオのグループが乗った巡視艇が二人を発見して救助する。ここで初めてアドゥとマテオが交錯する。アドゥを抱きかかえたマテオは、もう以前のマテオではない。

 

      「パパはわたしの友達ではなく、父親」とサンドラ、和解のときが訪れる

 

A: サンドラは長いことスペインに帰国しない父親にわだかまりをもっている。ゴンサロは「私たちは今までも友達同士として上手くやってきたではないか」と言う。しかし娘が求めているのは友達ではなく父親の存在、「パパはわたしの友達ではなく、父親よ」とサンドラ

B: もう大人だと思っていた娘が親の愛に飢えていたとは気づかなかった。しかし娘には別の仕方で愛を注いでいたのだ。それを最後に娘は気づいて大粒の涙を流すことになる。愛とは難しい。

 

         

         (父娘を演じたカステーリョとトサール、公開イベントにて)

 

A: ゴンサロは愛情こまやかタイプではなく、絶滅の危機にある象の保護で頭がいっぱい。いま手を打たないと明日では手遅れになる。「カメルーンに来て2ヵ月しか経たないが、4頭の象が殺害された」と嘆く。

B: しかし地元の人々はそうは考えていない。欧米の価値観をストレートに持ち込んでも理解されない。お金になる密猟はやめられないし、象の保護など白人のお節介。かつての支配者への不信は何代にもわたって続く。

A: 互いの乖離は埋めがたい。活動家は常に身の危険と背中合わせですね。次の派遣地がアフリカ南部、インド洋に面したモザンビークというのも驚きです。

 

B: メリリャの検問所までサンドラを送ってきたゴンサロは、少年センターに送られる途中のアドゥとすれ違う。登場人物全てがここメリリャに集合したことになる。

A: サンドラが押している自転車は姉弟が密猟現場に残してきた自転車、常に2本の軸は知らずに繋がっていたのでした。ゴンサロは以前カメルーンでヒッチハイクをする姉弟とすれ違っていた。本作では父娘の和解以外、何も解決していない。しかし観客は何かを学んだはずです。ニュースと映画の違いかもしれません。

 

B: アナ・ワヘネルノラ・ナバスは特別出演、出番こそ少ないが二人の演技派女優が映画に重みをもたせている。両人とも監督たちの信頼は厚い。受賞に関係ないと思いますが、ナバスは映画アカデミーの副会長です。

 

A: 監督によると、1月公開作品はゴヤ賞では不利にはたらく。というのも1年前の映画など皆忘れてしまうからです。しかし昨年は3月からは映画館も閉鎖、公開できただけでも幸運だったと言う。収束の目途が立たない現状で一番恐れているのは、映画館が消滅してしまうことだという。それは映画製作者というより観客としてだそうです。

B: TVと映画は本質的に異なるというのが持論、TV界出身なのだから映画館が減っても困らないだろうというのは間違いだと。コロナは経済や医療を直撃していますが、文化も破壊している。2020年に撮影が始まった作品は少ないから、今年はともかく来年のゴヤ賞はどうなるのか。   


第35回ゴヤ賞ノミネーション発表*ゴヤ賞2021 ⑤2021年01月21日 10:24

           予定通り28部門のノミネーション発表がありました

 

  

 

★去る118日、第35回ゴヤ賞2021ノミネーション発表がスペイン映画アカデミー本部でありました。マリアノ・バロッソ会長の挨拶に続いて、司会のアナ・ベレンダニ・ロビラが登場、カテゴリー28部門を代わるがわる淡々と候補者を読み上げ、拍手は最後だけという静かなものでした。全員マスクは勿論のこと、机上に置いてある消毒液で手を消毒してから読み上げていました。

 

     

  (左から、スペイン映画アカデミー書記長フェデリコ・ガラヤルデ・ニーニョ、

  ダニ・ロビラ、アナ・ベレン、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)

  

★多くの予想を覆したのが、作品賞以下13回も読み上げられたサルバドール・カルボAdúでした。フォルケ賞はノミネーションに終わり、フェロス賞(28日発表)にいたってはノミネートさえありません。しかし公開されたことやNetflixで配信されていることなどが有利に働いたのかもしれません(日本語字幕はなく、スペイン語や英語などで鑑賞できます)。昨年の興行成績が桁外れのナンバーワンだったサンチャゴ・セグラPadre no hay más que uno 2は、ついに最後まで一度も読み上げられることはありませんでした。長編アニメーションのノミネートは1作だけなので、ガラを待たずに受賞が決定、今までになかったのではないか。

 

★司会者のダニ・ロビラは、難しい癌を克服して初めて公衆の前に姿を現しました。元気そうでしたが不安を抱えての再出発ではないでしょうか。アナ・ベレンは抑制力のある声でしたが、いつもの笑顔は最後だけでした。ノミネーションの数については初出に挿入しています。本番のガラ会場はメインがマラガ、サブがバレンシアで、総合司会者はアントニオ・バンデラスマリア・カサド36開催の予定、現在のコロナ時代ではあくまで予定です。

    

     

 

 35回ゴヤ賞2021ノミネーション

 

作品賞(5作ノミネーション)

Adú             (ノミネーション13個) 

 

 

   

Ane        (ノミネーション5個) 

      

       

La boda de Rosa  (ノミネーション8個) 

 

   

 

  

Las niñas     (ノミネーション9個) 

   

    

Sentimental      (ノミネーション5個) 

 

     

 

監督賞

サルバドール・カルボ (Adú

フアンマ・バホ・ウジョア (Baby) 2個  

   

      

イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa

イサベル・コイシェ (Nieva en Benidorm) 2個  

   

 

   

新人監督賞

ダビ・ペレス・サニュド (Adú

ベルナベ・リコ (El inconveniente) 3

  

   

ピラール・パロメロ (Las niñas

ヌリア・ヒメネス(My Mexican Bretzel)『メキシカン・プレッツェル』なら国際FF、2個  

    

  

 

オリジナル脚本賞

アレハンドロ・エルナンデス (Adú

クラロ・ガルシア&ハビエル・フェセル(Historias lamentables)監督ハビエル・フェセル、3

   

  

アリシア・ルナ&イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa

ピラール・パロメロ (Las niñas

 

脚色賞

ダビ・ペレス・サニュド&マリナ・パレス (Ane

ベルナルド・サンチェス&マルタ・リベルタ・カスティーリョ (Los europeos

     監督ビクトル・ガルシア・レオン 3

      

    

ダビ・ガラン・ガリンド&フェルナンド・ナバロ(Origenes secretos

  監督ダビ・ガラン・ガリンド、『秘密の起源』Netflix 3

 

  

セスク・ゲイ (Sentimental

 

オリジナル作曲賞

ロケ・バニョス (Adú

アランサス・カジェハ&マイテ・アロイタハウレギ(Akelarre)監督パブロ・アグエロ、9個 

   

    

Bingen Mendizabal &コルド・ウリアルテ (Baby

フェデリコ・フシド (El verano que vivimos) 監督カリオス・セデス、 3

 

    

 

オリジナル歌曲賞

ロケ・バニョス& Cherif Badua (Ad