アルモドバルの『ジュリエッタ』*ゴヤ賞2017 ⑧ ― 2017年01月14日 15:51
ゴヤ賞は7個ノミネーションだが、いくつゲットできるか?
★間もなくセビーリャのマエストランサ劇場で開催される(1月14日)フォルケ賞には、長編映画部門の作品賞とエンマ・スアレスの女優賞がノミネートされており、結果が分かるのは日本時間では15日になります。続くフェロス賞には作品賞、監督賞を含めて9個、数だけで判断できないのが映画賞です。4月公開と早いこと、アルモドバル・アレルギーなどを勘案すると勝率は低いと予想します。最近のアルモドバル作品は必ず劇場公開されますが、プロット重視の観客には物足りないかもしれない。もともと監督もプロットで勝負するつもりはありませんから、それはそれで良いのです。楽しみ方はいくつもあって、それぞれ観客が視点を定めて愉しめばいいことです。赤を基調としながらもヒロインの心理状態で巧みに変化する色使いが素晴らしかったとか、アルモドバルが初めて起用したジャン=クロード・ラリューの荒々しいガリシアの海が良かったとか、『私の秘密の花』(95)以来、アルモドバルの専属みたいなアルベルト・イグレシアスの音楽を堪能したとか、いろいろ楽しみ方は考えられます。
(初期タイトル”Silencio”のポスター、エンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ)
★アルモドバルはスペインの監督としては国際的に一番知名度があると思いますが、ゴヤ賞ノミネーションの選考の仕方に異議を唱えてからというもの、スペイン映画アカデミーとの長い軋轢が続いていた。ノミネーションを受けてもガラには欠席続き、なんとか解消したのが『私が、生きる肌』でした。今でも完全に修復されたとは思えませんが、そんなこんなでゴヤ賞には恵まれていない。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1989、作品賞・脚本賞)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(00、作品賞・監督賞)、最後の『ボルベール〈帰郷〉』(07、作品賞・監督賞)以来、監督としては賞から遠ざかっている。
(左から、マリア・バランコ、アントニオ・バンデラス、カルメン・マウラ、
フリエタ・セラーノ、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』から)
★アルモドバル・ファンには二つの流れがあって、『グローリアの憂鬱』(84)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』あたりまでが好きな人、『オール・アバウト・マイ・マザー』でオスカー監督になってからを好む人、大勢は後者です。前者のファンには最近の彼の映画は見ないというファンもおり、『抱擁のかけら』(09)など批評に値しない駄作と切り捨てた批評家もおります。「プロなのにあまりにも感情的すぎる」と考える管理人は前者に属しているが必ず見るという両刀使いです。両刀使いにお薦めの鑑賞法は、理詰めにストーリーを追うことを止めて、他の監督には真似できない色彩感覚、過去の監督作品へのオマージュ、背景が雄弁に物語るデティール、監督が仕掛けた遊びごころを楽しむことです。手法は新しくても本質は良質なメロドラマ、ブラック・コメディ作家、スペインで最も愛された映画監督ガルシア・ベルランガの優等生がアルモドバルなのです。
(本作を最後にミューズを卒業したペネロペ・クルス、『抱擁のかけら』から)
★「最初から二人の女優を起用しようと決めていた」と監督、その一人、現在のジュリエッタを演じたエンマ・スアレスが主演女優賞にノミネートされただけで、若い頃のジュリエッタを力演したアドリアナ・ウガルテはノーマークでした。助演というわけにもいかず新人でもないしで不運でした。主演男優賞のように4人枠に二人を押し込むことは無理だったようです(5人枠のフェロス賞には二人ともノミネーションされています)。ライバルはカルメン・マチ、ペネロペ・クルス、バルバラ・レニーです。エンマ・スアレスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの“La próxima piel”で助演女優賞にもノミネーションされており、確率的にはこちらのほうが高いかもしれない。ライバルはテレレ・パベス、カンデラ・ペーニャ、シガニー・ウィーバーです。
(監督、二人のジュリエッタ、エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテ)
★ノミネーション14回目になるアルベルト・イグレシアス(1955、サンセバスチャン)が初めて映画音楽を手掛けたのは、フリオ・メデムの『バカス』(92)、いきなりゴヤ賞にノミネートされた。同監督の『赤いリス』(93)で1個めをゲット、『ティエラ~大地』、『アナとオットー』、『ルシアとSEX』とメデム作品で4個受賞、アルモドバル作品の1個めは、『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)、続いて『トーク・トゥ・ハー』、『ボルベール〈帰郷〉』、『抱擁のかけら』、『私が、生きる肌』(11)、2監督で9個、更にイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)を加えると合計10個というゴヤ胸像のコレクター。今年で31回目を迎えるゴヤ賞だが、うち14回ノミネートされている。スペイン映画に限らずアカデミー賞にノミネートされた『ナイロビの蜂』、『君のためなら千回でも』、『裏切りのサーカス』など、海外の監督からも熱い視線が寄せられている。授賞式では恥ずかしそうに登壇、短いスピーチと謙虚さで好感度抜群ではないでしょうか。
(『私が、生きる肌』で10個めのゴヤ胸像を手にしたイグレシアス、2012年授賞式)
★未だタイトル“Silencio”と出演者パルマ・デ・ロッシだけがアナウンスされたときから記事をアップしていたので、実際にスクリーンを前にしたときには新鮮味が失せていた。パンフの宣伝文句にあるような「数奇な運命に翻弄された母と娘の崇高な愛の物語」という印象ではなく、それは失踪したジュリエッタの娘アンティアの人格の描き方に説得力がなかったせいかと思います。むしろスペインによくある古いタイプの「負の父親像」やアルモドバルが拘る「死」が、ここでもテーマの一つになっていた。どの作品にも監督本人が投影されているわけだから、根本的に変化したというふうには感じられないのは当然かも知れない。また偶然が重なりすぎると、メロドラマでも嘘っぽくなるのではないかと感じた。ストーリー、スタッフ、キャスト紹介は以下にアップしています。
*エマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2015年4月5日
*アルモドバル、主な作品紹介の記事は、コチラ⇒2016年2月19日・2016年5月8日
*『ジュリエッタ』のトレビア記事については、コチラ⇒2016年9月3日
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