ドキュメンタリー 『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』の監督来日 ― 2017年02月01日 15:42
『デリリオ~歓喜のサルサ』のチュス・グティエレス監督来日
★ドキュメンタリー『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』公開に合わせてチュス・グティエレス監督が来日します。公開前日の2月17日、東京セルバンテス文化センターで「映画監督との出会い:チュス・グティエレス」という催しのご案内です。
『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』
(ドキュメンタリー ”Sacromonte: los sabios” 2014)
日時:2017年2月17日(金曜日)18:00~(入場無料、要予約)
場所:東京セルバンテス文化センター、地下1階オーディトリアム
セルバンテス文化センターの紹介文はコチラ⇒
*フラメンコ発祥の地、グラナダの洞窟サクロモンテに生きた伝説的アーティストらのドキュメンタリー『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』。この作品の公開に向け監督チュス・グティエレスが来日します。グラナダ出身の彼女は、映画監督、脚本家、女優、アーティストそして映画産業に携わる女性らの平等を求める協会に携わるなど幅広い活動をしています。同ドキュメンタリー製作にまつわる逸話をはじめ、スペインの映画事情などについてお話を伺います。
★「ラテンビート2014」上映の『デリリオ~歓喜のサルサ~』と同じ年の製作です。フィクションとドキュメンタリーというジャンルの違いもありますが、スペインでの評価は本作のほうが高かったようです。公式サイトも起ちあがっておりますので詳細はそちらにワープしてください(2017年2月18日、有楽町スバル座、アップリング渋谷ほか、全国順次公開)。監督紹介は『デリリオ~歓喜のサルサ~』をアップした折の記事を再構成したものを参考資料として載せておきます。
*キャリア&フィルモグラフィー*
★チュス・グティエレスChus Gutiérrez (本名María Jesús Gutiérrez):1962年グラナダ生れ、監督、脚本家、女優。本名よりチュス・グティエレスで親しまれている。8歳のとき家族でマドリードに移転、1979年17歳のときロンドンに英語留学、帰国後映像の世界で働いていたが、1983年本格的に映画を学ぶためにニューヨークへ留学し、グローバル・ビレッジ研究センターの授業に出席、フレッド・バーニー・タイラーの指導のもと、スーパー8ミリで短編を撮る(“Porro on the Roof”1984、他2篇)、1985年、シティ・カレッジに入学、1986年、最初の16ミリ短編“Mery Go Roundo”を撮る。ニューヨク滞在中にはブランカ・リー、クリスティナ・エルナンデス、同じニューヨークでパーカッション、電子音楽、作曲を学んでいた弟タオ・グティエレスと一緒に音楽グループ“Xoxonees”を立ち上げるなどした。2007年には、CIMA(Asociacion de Mujeres de Cine y Medios Audiovisuales)の設立に尽力した。これは映画産業に携わる女性シネアストたちの平等と多様性を求める連合、現在300名以上の会員が参加している。
*1987年帰国、長編デビュー作となる“Sublet”(1991)を撮る。まだ女優業に専念していたイシアル・ボリャインを主人公に、製作は女性プロデューサーの代表的な存在であるクリスティナ・ウエテが手掛けた。夫君フェルナンド・トゥルエバの『ベルエポック』『チコとリタ』『ふたりのアトリエ~』ほか、義弟ダビ・トゥルエバの ”Living Is Easy with Eyes Closed”(『「僕の戦争」を探して』DVD) も手掛けたベテラン・プロデューサー。
受賞歴:カディスのアルカンセス映画祭1992金賞、バレンシア映画祭1993作品賞、1993シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)、ゴヤ賞1993では新人監督賞にノミネートされ、イシアル・ボリャインもムルシア・スペイン・シネマ1993が、ベスト女優賞にあたる「フランシスコ・ラバル賞」を受賞した。
*第2作“Alma gitana”(96)は、プロのダンサーになるのが夢の若者がヒターノの女性と恋におちるストーリー、新作『デリリオ~』と同じように二つの文化の衝突あるいは相違がテーマとして流れている。5人の若手監督のオムニバス・ドキュメンタリー ”En el mundo a cada rato” (04) が『世界でいつも・・・』の邦題で「ラテンビート2005」で上映された。第3エピソード、アルゼンチンの3歳の少女マカがどうして幸せかを語る ”Las siete alcantarillas” を担当、アルゼンチンで撮影され「七つの橋」の邦題で上映されている。
*他に代表作として“El Calentito”(05『ヒステリック・マドリッド』)も高い評価を受け、こちらも「ラテンビート2005」で上映された。ベロニカ・サンチェスを主役に、フアン・サンス、ルス・ディアス(ゴヤ賞2017新人賞ノミネート)、マカレナ・ゴメス『トガリネズミの巣穴』のヒロイン、本作でマラガ映画祭新人女優賞のヌリア・ゴンサレスなど若手の成長株を起用したコメディ。
受賞歴:モンテカルロ・コメディ映画祭2005作品賞他受賞、マラガ映画祭2005ジャスミン賞ノミネート、トゥールーズ映画祭で実弟タオ・グティエレスが作曲賞を受賞した。なお彼は姉の全作品の音楽を担当している。
*最も高い評価を受けたのが7作目“Retorno a Hansala”(08)当時、実際に起きた事件に着想を得て作られた。海が大荒れだった翌日、カディスのロタ海岸にはモロッコからの若者11名の遺体が流れ着いた。服装からサハラのハンサラ村の出身であることが分かる。既に移民していたリデアはその一人が弟のラシッドであることを知る。リデアは葬儀社のオーナーと遺体を埋葬するため故郷に向かう。これは異なった二つの社会、価値観、言語の違いを超えて理解は可能か、また若者の海外流失を止められないイスラム共同体の誇りについての映画でもある。
受賞歴:バジャドリード映画祭審査員特別賞、カイロ映画祭2008作品賞「ゴールデン・ピラミッド賞」&国際批評家連盟賞、トゥールーズ映画祭脚本賞、グアダラハラ映画祭監督・脚本賞など受賞。ゴヤ賞2009ではオリジナル脚本賞にノミネートされた。
*『デリリオ~歓喜のサルサ』の監督&作品紹介記事は、コチラ⇒2014年9月25日
第31回ゴヤ賞2017*結果発表 ⑩ ― 2017年02月05日 20:33
今宵の主人公はラウル・アレバロとフアン・アントニオ・バヨナでした!
(アカデミー会長イボンヌ・ブレイクと副会長マリアノ・バロッソ)
★“Tarde para la ira”が作品賞と新人監督賞、“Un monstruo viene a verme”が監督賞と大賞を分け合いました。終わってみれば前者がノミネーション11個で4個ゲット、後者が最多ノミネーション12個で9個と2作品に集中しました。エンマ・スアレスが主演と助演の二つをものにして、ゴヤ賞1996、ピラール・ミロの『愛は奪った』で主演女優賞を受賞して以来、遠ざかっていたガラで20年ぶりに脚光を浴びました。まずは結果発表だけアップしておきます。
(3度目の総合司会者ダニ・ロビラ)
★受賞結果は以下の通り(☆印は当ブログ紹介作品)
作品賞
“El homre de las mil caras”“Smoke&Mirrors”『スモーク・アンド・ミラーズ』(11個)
監督アルベルト・ロドリゲス ☆
“Julieta” 『ジュリエッタ』(7個)監督ペドロ・アルモドバル ☆
“Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(6個)監督ロドリゴ・ソロゴイェン ☆
◎“Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(11個)監督ラウル・アレバロ ☆
製作者:ベアトリス・ボデガス
“Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(最多12個、西・米・英・カナダ)
監督フアン・アントニオ・バヨナ ☆
(ベアトリス・ボデガスとアレバロ監督、プレゼンターはアメナバルとペネロペ・クルス)
監督賞
アルベルト・ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』
ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”
◎フアン・アントニオ・バヨナ“Un monstruo viene a verme”
(J・A・バヨナ、プレゼンターはジェラルディン・チャップリンとホセ・コロナド)
新人監督賞
◎ラウル・アレバロ“Tarde para la ira”
サルバドル・カルボ“1898, Los últimos de Filipinas”(9個)
マルク・クレウエト“El rey tuerto” ☆
ネリー・レゲラ“María (y los demás)” ☆
(ラウル・アレバロ)
オリジナル脚本賞
ホルヘ・ゲリカエチェバリア“Cien años de perdón”『バンクラッシュ』
監督ダニエル・カルパルソロ ☆
ポール・ラヴァティ“El olivo”『The Olive Tree』監督イシアル・ボリャイン ☆
イサベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴイェン“Que Dios nos perdone”
◎ダビ・プリド、ラウル・アレバロ“Tarde para la ira” ☆
脚色賞
◎アルベルト・ロドリゲス、ラファエル・コボス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』
フェルナンド・ペレス、パコ・レオン“Kiki, el amor se hace”『KIKI~愛のトライ&エラー』☆
パトリック・ネス“Un monstruo viene a verme”
(アルベルト・ロドリゲス、プレゼンターはアイタナ・サンチェス・ヒホン)
オリジナル作曲賞
フリオ・デ・ラ・ロサ『スモーク・アンド・ミラーズ』
パスカル・ゲイニュ『The Olive Tree』
アルベルト・イグレシアス『ジュリエッタ』
◎フェルナンド・ベラスケス“Un monstruo viene a verme”
(フェルナンド・ベラスケス)
オリジナル歌曲賞
ルイス・イバルス‘Descubriendo India’(“Bollywood Made in Spain”)
監督ラモン・マルガレト
◎シルビア・ペレス・クルス‘Ai, ai, ai’(“Cerca de tu casa”)
監督エドゥアルド・コルテス
セルティア・モンテス‘Muerte’(“Frágil equilibrio”、ドキュメンタリー)
監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
アレハンドロ・アコスタ、パコ・レオン他‘Kiki―Mr. Ki feat Nita’
(『KIKI~愛のトライ&エラー』)
(シルビア・ペレス・クルス)
主演男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス『スモーク・アンド・ミラーズ』
◎ロベルト・アラモ“Que Dios nos perdone”
アントニオ・デ・ラ・トーレ“Tarde para la ira”
ルイス・カジェホ“Tarde para la ira”
(ロベルト・アラモ、プレゼンターはノラ・ナバスとリュイス・オマール)
主演女優賞
◎エンマ・スアレス『ジュリエッタ』
カルメン・マチ“La puerta abierta”(“The Open Door”)監督:マリナ・セレセスキー
ペネロペ・クルス“La reina de España”監督:フェルナンド・トゥルエバ ☆
バルバラ・レニー“María (y los demás)”
(エンマ・スアレスとアルモドバル、プレゼンターはマリア・ブランコ)
助演男優賞
カラ・エレハルデ“100 metros”監督:マルセル・バレラ ☆
ハビエル・グティエレス『The Olive Tree』
ハビエル・ペレイラ“Que Dios nos perdone”
◎マノロ・ソロ“Tarde para la ira”
(M・ソロ、プレゼンターはナタリア・デ・モリーナ、ミゲル・エラン、ダニエル・グスマン)
助演女優賞
カンデラ・ペーニャ『KIKI~愛のトライ&エラー』
◎エンマ・スアレス“La próxima piel”監督:イサキ・ラクエスタ、イサ・カンポ ☆
テレレ・パベス“La puerta abierta”
シガニー・ウィーバー“Un monstruo viene a verme”
(ゴヤ胸像を両手にしたエンマ・スアレス)
新人男優賞
リカルド・ゴメス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロドリゴ・デ・ラ・セルナ『バンクラッシュ』
◎カルロス・サントス『スモーク・アンド・ミラーズ』
ラウル・ヒメネス“Tarde para la ira”
(カルロス・サントス)
新人女優賞
シルビア・ペレス・クルス“Cerca de tu casa”
◎アナ・カスティージョ『The Olive Tree』
ベレン・クエスタ『KIKI~愛のトライ&エラー』
ルス・ディアス“Tarde para la ira”
(アナ・カステージョ、プレゼンターはカジェタナ・ギジェン・クエルボとマカレナ・ゴメス)
プロダクション賞
カルロス・ベルナセス“1898, Los últimos de Filipinas”
マヌエラ・オコン『スモーク・アンド・ミラーズ』
ピラール・ロブラ“La reina de España”
◎サンドラ・エルミダ・ムニィス“Un monstruo viene a verme”
撮影監督賞
アレックス・カタラン“1898, Los últimos de Filipinas”
ホセ・ルイス・アルカイネ“La reina de España”
アルナウ・バルス・コロメル“Tarde para la ira”
◎オスカル・ファウラ“Un monstruo viene a verme”
編集賞
ホセ・M・G・モヤノ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アルベルト・デル・カンポ、フェルナンド・フランコ“Que Dios nos perdone”
アンヘル・エルナンデス・ソイド“Tarde para la ira”
◎ベルナ・ビラプラナ、ジャウマ・マルティ“Un monstruo viene a verme”
美術監督賞
カルロス・ボデロン“1898, Los últimos de Filipinas”
ぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモ『スモーク・アンド・ミラーズ』
フアン・ペドロ・デ・ガスパル“La reina de España”
◎エウヘニオ・カバジュロ“Un monstruo viene a verme”
衣装デザイン賞
◎パオラ・トーレス“1898, Los últimos de Filipinas”
ロラ・ウエテ“La reina de España”
クリスティナ・ロドリゲス“No culpes al karma de lo que te pasa por gilipollas”
監督マリア・リポル
アルベルト・バルカルセル、クリスティナ・ロドリゲス“Tarde para la ira”
(パオラ・トーレスは欠席、マヌエル・ブルケが代理で受け取った)
メイクアップ&ヘアー賞
アリシア・ロペス、ミル・カブレル、ペドロ・ロドリゲス“1898, Los últimos de Filipinas”
ヨランダ・ピナ『スモーク・アンド・ミラーズ』
アナ・ロペス=プイグセルベル、ダビ・マルティ、セルヒオ・ペレス・ベルベル『ジュリエッタ』
◎ダビ・マルティ、マレセ・ランガン“Un monstruo viene a verme”
録音賞
エドゥアルド・エスキデ、フアン・フェロ他“1898, Los últimos de Filipinas”
セサル・モリナ、ダニエル・デ・サヤス他『スモーク・アンド・ミラーズ』
ナチョ・ロジョ=ビリャノバ、セルヒオ・テスタン“Ozzy”(アニメーション、西・カナダ)
◎オリオル・タラゴ、ペーター・グロスポ“Un monstruo viene a verme”
特殊効果賞
カルロス・ロサノ、パウ・コスタ“1898, Los últimos de Filipinas”
ダビ・エラス、ラウル・ロマニリョス“Gernika. The Movie”『ゲルニカ』監督コルド・セラ ☆
エドゥアルド・ディアス、レジェス・アバデス『ジュリエッタ』
◎フェリックス・ベルヘス、パウ・コスタ“Un monstruo viene a verme”
アニメーション賞
“Ozzy” 監督アルベルト・ロドリゲス、ナチョ・ラ・カサ
◎“Psiconautas, los niños olvidados”監督ペドロ・リベロ、アルベルト・バスケス
“Teresa eta Galtzagorri”(“Teresa y Tim”)
監督アグルツァネ・インチャウラガAgurtzane Intxaurraga
ドキュメンタリー賞
“2016, Nacido en Siria”監督エルナン・シン
“El Bosco, El jardín de los sueños”(西仏)監督ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
◎“Frágil equilibrio” 監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
“Omega”ヘルバシオ・イグレシアス、ホセ・サンチェス=モンテス
イベロアメリカ映画賞
“Anna”(コロンビア・仏)監督ジャック・トゥールモンド
“Desde alla”“From Afar”『彼方から』(ベネズエラ・メキシコ)監督ロレンソ・ビガス ☆
◎“El ciudadano ilustre”『名誉市民』(アルゼンチン・西)
監督(共同)ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン ☆
“Las elegidas”『囚われた少女たち』(メキシコ)ダビ・パブロス ☆
★ノミネーションを割愛したヨーロッパ映画賞・短編映画賞・短編ドキュメンタリー賞・短編アニメーション賞の結果は以下の通りです。
*ヨーロッパ映画賞:”Elle”(仏・独・ベルギー、言語フランス語)
監督ポール・ヴァーホーヴェン(Paul Verhoeven)
*短編映画賞:”Timecode” 『タイムコード』監督フアンホ・ヒメネス・ペーニャ
*短編ドキュメンタリー賞:”Cabezas Habladoras” 監督フアン・ビセンテ・コルドバ
*短編アニメーション賞:”Decorado” 監督アルベルト・バスケス
★ヨーロッパ映画賞のポール・ヴァーホーヴェンはオランダ出身の監督、オランダ語読みだとパウル・ヴァーフーヴェ(ン)となる由。ついでながら彼は「ベルリン映画祭2017」の審査委員長に就任しました。ほかの審査員に、ディエゴ・ルナ、マギー・ギレンホール、ゾフィー・ショルなどもアナウンスされています。
★これまたついでながら、アルモドバルが自作と縁の深い「カンヌ映画祭2017」(5月17日~28日)の審査委員長に決定しました。「ありがたく、名誉なことですが、少しばかり重荷です」とコメント。
(栄誉賞受賞のアナ・ベレン)
(歓談するアルモドバルとペネロペ・クルス)
作品賞候補者の5監督がスペイン映画の可能性を語り合う*ゴヤ賞2017 ⑪ ― 2017年02月08日 13:34
「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とフアン・アントニオ・バヨナ
★授賞式を目前にした1月28日(土)の午前中、作品賞ノミネーションの5監督が一堂に会する座談会が「エル・パイス」紙の編集室でもたれました。ガラ以前にアップするつもりで準備しておりましたが、順序が逆になってしまいました。今では恒例になっている座談会のようですが、1961年生れのアルモドバルが最年長と、平均年齢も下がって世代交代の印象を受けました。増税問題(7%から21%の増税)に対する考えも少しずつニュアンスが異なり、それがとりもなおさず映画制作の違いにもなっているようです。出席5監督とは、以下の5人です。
(左から、J.A.バヨナ、R.アレバロ、R.ソロゴイェン、A.ロドリゲス、P.アルモドバル)
ペドロ・アルモドバル(カルサダ・デ・カラトラバ1949、67歳)
“Julieta” 『ジュリエッタ』(作品・監督賞以下7個)
アルベルト・ロドリゲス(セビーリャ1971、45歳)
“El homre de las mil caras”『スモーク・アンド・ミラーズ』(作品・監督賞以下11個)
ロドリゴ・ソロゴイェン(マドリード1981、35歳)
“Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(作品・監督賞以下6個)
ラウル・アレバロ(モストレス1979、37歳)
“Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(作品・新人監督賞以下11個)
フアン・アントニオ・バヨナ(バルセロナ1975、41歳)
“Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(作品・監督賞以下12個、西米英カナダ)
★J.A.バヨナが「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とまず口火を切った。彼はスペイン映画の危機は増税だけが問題ではなく、もっと学校教育など社会構造的な問題があると常日頃から発言しています。それに対してアルモドバルは、それは勿論そうだがこれを除外することはできない、小さな問題ではないからと主張する。「大きい問題には違いないがそれが唯一ではない・・・フランスでは興行成績が落ち込んだとき、文化大臣と製作者たちが会合をもって改善策を話し合った。しかしスペインでは決してそうならない」とバヨナ。「それは一理あるが、私たちはフランスにいるわけじゃないから、両国のやり方を比較しても始まらない。フランス人は過度の自国崇拝主義者だし、フランス映画はすでに減価償却している。私たちは観客にスペイン映画を好きになってくれとは頼めない。子供のときからスペイン映画はスペイン的特質を誇張したものばかりだと蔑む意見を聞かされてきた」とアルモドバル。ごもっともな意見です。「私たちは観客に何かを要求すべきじゃないが、政府には言うべきことは言うべきです」と一番若いR.ソロゴイェン、増税と闘う必要があるという立場をとった。
(左から、ロベルト・アラモ、ソロゴイェン、デ・ラ・トーレ“Que Dios nos perdone”)
「財政赤字が解消されたら消費税を見直します」とメンデス・デ・ビゴ文化相
★文化にかける大幅消費税IVA増税問題は下火になる気配は全くない。文化相メンデス・デ・ビゴは、「財政赤字が解消されたら見直します」と口約束しているが、いつ「解消」されるのか。財政はかなり上向きになってきているようだが厳しさは変わらない。それに財務省がおいそれと首をたてに振るとは思えない。
★バヨナが学校教育の在り方に拘るのは、「文化などにお金をかける必要はないと考えていた軍事独裁政が40年間も続いたから、70年前には読み書きができない人々がたくさんいた。このような悲しむべき歴史的な遺産を乗り越えて、最近の数十年で飛躍的な向上を遂げた。政府の消費税減税などはうわべを取り繕っているだけ。スペイン映画の問題は、学校教育や統治者たちの姿勢にかかっている」と主張。それに対して「フランスでは、文化の保護と輸出がある程度一致しているから恵まれている」とソロゴイェン。伝統というものは革新以上に隅に置けない。
★「質問があるんですが、『無垢なる聖者』(84、マリオ・カムス)が公開されたときは興行的にも成功した。うちは中流家庭に属していて父や叔父たちから素晴らしい映画だったとずっと聞かされていました。僕は小さかったから当時は見ていませんが、現在公開してもほんのわずかしか観客は集まらないのではないか。父の世代も今見たらテンポが遅く長く感じると。庶民は退行したのでしょうか」とR.アレバロ。「映画の好みが変化してしまった。私が思うに悪いほうにね。この変化をもたらしたのが私たちなのかどうか分からないし、元に戻す方法も分からない」とアルモドバル。「観客は退行しているようです。『無垢なる聖者』を再公開しても切符売り場には足を運ばないかもしれない」とアレバロ。
(“Tarde para la ira”撮影中のアレバロ)
★「変化はスペインだけのことではなく世界的現象、情報は増え続けるが知識は減る一方、デジタル情報ばかりで何を見たらよいのか教えてくれない。作家性の強い映画を作るには覚悟がいる。第一にすべきことは学校が映画館に連れていくこと、私たちは『タシオ』(84、モンチョ・アルメンダリス)や『無垢なる聖者』を見て大きくなったんだ」と学校教育の重要性に拘るバヨナ監督でした。日本でもテレビがなかった時代には、教師に引率されて映画館に出かける「映画教室の日」があって、ディズニーのアニメ『ピノキオ』や『ダンボ』、チャップリン映画を見に連れて行った。中学生にはイングリッド・バーグマンがジャンヌに扮した『ジャンヌ・ダーク』(48、ヴィクター・フレミング)などが選ばれていた。
「映画は映画館の椅子に座って見てほしい」と言うけれど・・・
★スペインではラテンアメリカや欧州の一部で事業展開しているモビスターMovistar(テレフォニカ傘下の携帯電話事業会社)の加入者が2200万人と多く、米国のオンラインDVDレンタル配信会社ネットフリックスNetflix(DVD4200万枚保有している)やアマゾンは少ない。司会者より両者を競争させたらスペインの映画産業は変化するだろうかと質問が投げかけられた。「莫大な資金投入が産業界の変革を促すかどうか分からない」と懐疑的なA.ロドリゲス。お金が産業界変革の全てではない立場のようです。「現実は、若い人々が以前のようには映画館に出かけなくなった。演劇も見なくなったし本も読まなくなった。ほかの分野、例えばテレビゲームだ。米国の大学生にスピーチしたとき感じたことだが、彼らもビリー・ワイルダーのような作品をよく知っていると思えなかった」とアルモドバル。映像媒体の多様化は世界規模です。
(ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』から)
★「デジタル・プラットフォームの導入は有力なテレビチャンネルの寡頭政治を少しはセーブする」とソロゴイェン。映画の成功が有力なテレビチャンネルに握られている現状は、作家性の強い映画作りをしている監督には不利にはたらく。この現状を少しでも和らげるにはネットフリックスなどの到着は役に立つかもしれない。映画は映画館のスクリーンで見るという世代は、もはや絶滅危惧種なのかもしれませんが、同じ作品でもスクリーンで見るのとテレビとでは雲泥の差があることを強調したい。
★「プラットフォームの到着に気をもんでいる。中流階級の人は既に映画館で見なくなっているばかりかこのプラットフォームで見ている。映画館で見るのはスペクタクル映画だけと考えるのは間違っている。観客はスーパーヒーローや特殊効果だけを見に行くわけではない。私たちの作品を映画館で見てほしい。映画愛を育てる教育が必要なのです」とバヨナ。映画を「映画館の椅子に座って見ることは独特な素晴らしさがある」と観客の醸しだす雰囲気を楽しむのがロドリゲス。「反対に携帯を持ち出してみている観客に注意が散漫になる」と一部の観客の無作法を口にするソロゴイェン。「少し前、映画好きの学生たちと一緒に見ていて気付いたことだが、彼らは2000年以前の映画を見ていない」と驚きを隠さないアレバロ。「それは観客の罪ではなく現代社会のせいだ」とロドリゲス。「つまるところ、観客は見たい映画を自由に選んでいいのだと思う。それに応じて私たちは映画作りをしている。できれば私の作品を見てほしいものだが」とアルモドバルがケリをつけました。
「最終候補5作品のどれも見ていない」とマリアノ・ラホイ首相
★政治家は映画館に足を向けない、忙しくてそんな時間はないからと。その筆頭がマリアノ・ラホイ首相です。「最終候補5作品のどれも見ていない」ときっぱり。「時間が取れない、時間があれば小説を読んでいる。映画は自宅か事務所のテレビで見ている」が、まだ候補作はどれも見ていない。時間があっても見ない派ですね。あれば小説を読むと言ってるから。とにかく伝統的に国民党PPは社労党PSOEほど文化にお金を使いたがらない。今年のガラにはメンデス・デ・ビゴ文化相の姿もあったが、壇上から批判されたり暗に皮肉を言われたりするために忙しい時間はさけないというのがホンネでしょう。以前は当日にマドリードを離れて海外出張に出かける文化担当相もいたほどです。
★スペイン映画は民間のテレビ局の協力なしには立ちいかなくなっている。「手の負えなくなっているのは、テレビ局がスペイン映画のプロデューサーたちで占められているだけでなく、スペイン映画の屋台骨になっている・・・スペイン映画が民放用の映画に変化してしまったことです」が、それは必ずしも「民放だけの罪ではない」とバヨナ、「勿論彼らの罪ではない。少なくとも控えめなら、観客育成に役に立つからね」とアルモドバル。もはやテレビやスマホなどで映画を見るデジタル世代の時代になったということです。
(バヨナ“Un monstruo viene a verme”をバックに)
皆さん、スピルバーグの映画はいかがですか?
★なかなか映画の話にならない。そこで「まだ映画の中身について話し合っていません。そろそろ私たちが作った映画の話、どうしてフィルモテカ(フィルム・ライブラリー)や映画アカデミーが重要なのか?」というバヨナの提案で、やっと核心にたどり着きました。アレバロの「そうですね、始めましょう、スピルバーグ映画はどうですか」に一同大笑い。「とてもいいよ」とバヨナ。「僕がとっても好きなのは”Las amigas de Agata”と、素晴らしかったのは『KIKI~愛のトライ&エラー』です」とソロゴイェン。前者はライア・アラバート、アルバ・クロス、ほか女性4人が監督したカタルーニャ語の映画、ガウディ賞2017にノミネートされた作品です。パコ・レオンの『KIKI~』は残念ながら無冠でした。アレバロは“María(y los demás”と”La próxima piel”を挙げました。
★「ノミネートの有無に関係なく挙げると”Esa sensación”と”La próxima piel”それに君たちの作品だ。年に3作か4作はとても興味を引く映画に出会う」とアルモドバル。前者はノーマークですが、フアン・カサベスタニー以下、男性3人が監督したコメディです。ロッテルダム映画祭でワールド・プレミア、マラガ、バルセロナ、リオなどの映画祭に出品されています。ロドリゲスとバヨナは具体的な作品名を挙げませんでしたが、ロドリゲスは「1作品に10個とか12個とかノミネーションが集中するのは問題」と不透明なノミネーションの在り方に警鐘を鳴らしました。これは誰が見ても異論なく問題です。それぞれ撮影や編集の苦労話、サプライズに触れていましたが割愛です。
(アルモドバルの『ジュリエッタ』から)
★既に結果は発表になっておりますが、どのくらい字幕入りで見られるか、あるいは見られないか、楽しみにしています。バヨナの“Un monstruo viene a verme”は2017年6月公開が決定しているようです。『インポッシブル』の監督だし、オリジナル言語が英語ですから6月は遅すぎるくらいです。ゴヤ、フォルケ、フェロスとスペインの三大映画賞を制したアルバロの“Tarde para la ira”はどうでしょうか。
ゴヤ賞2017授賞式*あれこれ落穂ひろい ⑫ ― 2017年02月11日 17:48
男女平等をアピールした栄誉賞受賞者、アナ・ベレン
(勢揃いした受賞者たち)
★授賞式はマドリード・マリオット・オーディトリウム・ホテルで2月4日(土)22:00より少し遅れて開始されました。スペイン国営テレビが18:00から赤絨毯に現れるシネアストたちを中継して盛り上げるという大イベントでした。ベスト・ドレッサーにも選ばれた栄誉賞受賞のアナ・ベレンは 2011年に他界したスペインのデザイナー、ヘスス・デル・ポソが創設したデルポソDelpozonoブランドのオフホワイトのドレスで赤絨毯を踏みました。一緒だったのはアトリエ・ヴェルサーチがご贔屓の黒い衣装を纏ったペネロペ・クルス、昨年も同じヴェルサーチのミラノ・ファッションでした。今回は夫君ハビエル・バルデムは欠席、アルモドバルと旧交を温めていたようです。
(アルモドバルとぴったり肌を被った黒いドレスのペネロペ・クルス)
★授賞式は約3時間と時間短縮がアナウンスされていたように、総合司会者のダニ・ロビラの皆さん「おやすみなさい、そして名画を」(00:57)で無事お開きとなりました。受賞者が友人、両親、祖父母、叔父さん叔母さんなど長々と感謝の辞を連ねる場合には、壇上に控えるフィルム・シンフォニー・オーケストラが警告の足踏みを始めるとなっていました(笑)。茶目っ気のある魅力的な素質がぎっしり詰まったダニ・ロビラの進行ぶりを「よくやった」と褒める人が多かったようです。開会前に「政治の話は10秒だけ」と冗談をとばしていた通り、政治的発言を自らに封じたこともあったかもしれない。
(3度目の総合司会者ダニ・ロビラ)
★一番会場が盛り上がったのは、もちろん栄誉賞でした。プレゼンターは3人の監督、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、フェルナンド・コロモ、ホセ・ルイス・ガルシアと実に豪勢でした。アナ・ベレンは手にしたメモを見ながら「私は約50年前から映画界で仕事をしているが、女性シネアストは正当に評価されていない」というようなことをスピーチした。1972年に結婚した作曲家で歌手のビクトル・マヌエルに触れて「彼なしの人生はなかった」と感謝の言葉、ビクトルは娘さんと赤絨毯を踏みました。栄誉賞は一度きり、さすがに時間制限はなかったのか長かった。最後に「健康と映画を祝して」で締めくくりました。
(左から、アナ・ベレン、M・ゴメス・ペレイラ、F・コロモ、J・L・ガルシア)
★初めてではないがアカデミー映画会長が女性ということもあって、男女平等、機会均等が叫ばれ、クカ・エスクリバノのように「もっと女性にチャンスを」と編み込んだショールを纏って赤絨毯を踏んだ女優も現れました。活躍が目立つようになったのはここ十年くらいで、第1回ゴヤ賞1987では女性受賞者は女性でしか貰えない主演・助演女優賞だけでした(新人賞は未だなかった)。初めて監督賞を受賞したのは、ピラール・ミロ(1997『愛は奪った』)、次がイシアル・ボリャイン(2004『テイク・マイ・アイズ』)、そしてイサベル・コイシェ(2006『あなたになら言える秘密のこと』)と続きました。三人とも来日しています。ノミネーションまで広げるなら昨年のパウラ・オルティス、2回のグラシア・ケレヘタなどがあげられます。最近来日予定のチュス・グティエレス、今回新人監督賞ノミネートのネリー・レゲラ、他のカテゴリーで自作がノミネーションされている監督では、マリア・リポル、マリナ・セレセスキー、イサ・カンポと層の厚さを感じさせます。また例外的なのは衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアー賞の2部門、受賞者の半分以上が女性です。
(クカ・エスクリバノ)
ラウル・アレバロの執念が実った夕べでした!
★最初から決定していたのではないかと思われたのが作品賞の”Tarde para la ira”の受賞でした。制作会社はLa Canica Filmsのベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ監督でした。『E.T.』やブルース・リーに夢中だった少年が撮った映画は、構想9年、俳優の仕事を掛け持ちしながらの脚本執筆、資金集めと執念のデビュー作でした。国営テレビの資金援助は受けたが民放TV局からは受けずに、200万ユーロで撮ったことがアカデミー会員の心象を好くした一因かもしれない。今までに培った人間関係なくしてこの映画は完成させられなかっただろうことは、キャスト、スタッフの顔ぶれをみればわかることす。新人監督賞、オリジナル脚本賞、マノロ・ソロが助演男優賞と4賞を制した。『ゴモラ』(08、マッテオ・ガローネ)、『わらの犬』(71、サム・ペキンパー)やダルデンヌ兄弟、ジャック・オーディアール、カルロス・サウラの映画がミックスされているそうです。
(ベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ)
★監督賞ノミネーションはオール男性でしたが、作品賞にはベアトリス・ボデガスの他、『ジュリエッタ』のエステル・ガルシア、メルセデス・ガメロは『スモーク・アンド・ミラー』と “Que Dios nos perdone” の2作、同じく “Que Dios nos perdone” のマリエラ・ベスイエブスキー、”Un monstruo viene a vermme” のベレン・アティエンサという具合に、男性陣に交じって女性プロデューサーの進出が顕著でした。
★以前から本作を本命としていた「エル・パイス」の批評家カルロス・ボジェロ、辛口でめったに褒めない批評家として嫌われ者だが、今回は「この胡散臭い、過激で、見る人を不安にさせる、地方都市の風土をぎっしり詰め込んだ映画が受賞することに、何ら異論の余地はない」とアレバロの並外れた活力、透明な才知を称賛しています。それが即 ”Un monstruo viene a vermme” や ”Ocho apellidos vascos”、<トレンテ・シリーズ>のような興行成績につながらない現状が悩みの種かもしれません。
ずっとうるうるだったフアン・アントニオ・バヨナ監督
★どうしてフアン・アントニオ・バヨナがうるうるだったかというと、自身の監督賞以外に撮影・編集・美術・録音以下8賞も受賞してしまったから。その度に壇上の受賞者から感謝の言葉が贈られるので涙の乾く暇がなかったというわけでした(笑)。なかにはうんざり組も大勢いたことでしょうが、何しろ2016年の興行成績が国内だけでダントツの2600万ユーロ(観客動員数450万人)ですから大目にみなければなりません。4位の『バンクラッシュ』、6位の『KIKI~』以下は桁が違います。2位、3位、5位はノミネートされていませんでした。
(涙腺が開いたままのフアン・アントニオ・バヨナ)
★フランコ体制時代に一家でバルセロナ市郊外のベッドタウンに移り、『スーパーマン』に魅せられながら育ったバヨナ少年も41歳、スペイン人俳優を起用せず英語で撮った作品で効率よく9賞をゲットした。彼の涙に感染した来場者も多かったようだが、先のボジェロ氏曰く「映画を見て泣いた人は僅かだったのでは」とワサビの効きすぎた批評、だから嫌われる。本作は『永遠のこどもたち』『インポッシブル』に続く「母子三部作」の最終作、第2作目は世界規模の成功を収めて、危機に瀕したスペイン経済の外貨獲得に寄与した。政府もその貢献度に報いるため2013年度の「国民賞」(映画部門)を贈った。これは今後とも破られることがない最年少受賞でしょう。これからのスペイン映画界を背負う存在なのは間違いありません。本作の日本公開は初夏6月の予定です。
エンマ・スアレス、主演・助演のダブル受賞は30年ぶりの快挙
★エンマ・スアレスのダブル受賞に違和感を覚えたファンも少なからずいたことでしょう。とりあえずアルモドバルが無冠にならずほっとした関係者がいたに違いありません。アルモドバルも登壇しましたが、女優賞に監督まで登壇するのはあまり例を見たことがありません。ダブル受賞は第2回ゴヤ賞1988のベロニカ・フォルケ以来のこと、フェルナンド・コロモのコメディ”La vida alegre” で主演、ガルシア・ベルランガの同じくコメディ"Moros y Cristianes"で助演を受賞しました。女優男優を問わずノミネーションは結構おりますが受賞までいかない。アルモドバル嫌いはスアレスの魅力的な演技を褒めたついでに「映画は空虚なまやかしの悲劇」とくさし、ペネロペ・クルスの演技は申し分なかったと、無冠に終わったフェルナンド・トゥルエバに気配りした。何事によらず十人十色です。
(ゴヤの胸像をを両手にエンマ・スアレス)
★主演男優賞のロベルト・アラモは、三大映画賞(フォルケ、フェロス、ゴヤ)を制したことになりますが、これまた『スモーク・アンド・ミラー』の「エドゥアルド・フェルナンデスの演技は完璧だった」と、暗にアラモの三冠に異を唱える意見も聞かれました。アラモ登壇の折には若いロドリゴ・ソロゴイェン監督もバヨナと同じく目を潤ませていました。
シルビア・ペレス・クルスの歌曲賞「Ai, ai, ai」に会場盛り上がる
★エドゥアルド・コルテスのミュージカル・ドラマ ”Cerca de tu casa” の中で、シルビア・ペレス・クルスが歌う「Ai, ai, ai」が歌曲賞に輝いた。経済危機のあおりを受けて二人とも失業してしまった若い夫婦の物語。彼女はこの妻ソニア役で新人女優賞にもノミネートされていた。家賃が払えずアパートを追い出され、仕方なく10歳の息子を連れて親の家に転がり込むが、両親も・・・という切ない話ですが、ゴヤの胸像を胸にシルビアが「耐えられないのは住む家のない人、住む人のいない家」と「アイ・アイ、アイ」の一節を歌った。これは出席者の心を揺さぶる瞬間だったとか。
(「アイ・アイ、アイ」を口ずさむシルビア・ペレス・クルス)
★残念ながら無冠に終わった『KIKI~』組の皆さん、ビシッときめた白装束でカメラに収まったパコ・レオン監督を中央にベレン・クエスタ(新人女優賞)とカンデラ・ペーニャ(助演女優賞)の曲者3人組。
スペイン映画公開作品*2017年前半 ― 2017年02月15日 17:45
かつてのホラーからスリラー&アクション映画へ?
★2月末から3月にかけて短期間ながら公開されるスペイン映画(1日1回上映、レイトショーを含む)スリラー2本のご紹介。ヒューマントラストシネマ渋谷、上映スケジュールが変則です。特に『バンクラッシュ』の上映時間は要確認です。
◎『スモーク・アンド・ミラー 1000の顔を持つスパイ』(「El hombre de las mil caras」)
監督:アルベルト・ロドリゲス(『マーシュランド』)、サスペンス、2016、123分
ヒューマントラストシネマ渋谷、レイトショー21:05~
2月25日(土)~27日(月)、3月1日(水)~3月3日(金)、3月7日(火)
DVD発売2017年4月5日
*当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ⇒2016年9月24日
(左から、ロルダン役のカルロス・サントス、カモエス役のホセ・コロナド)
(ロルダンとその妻マルタ・エトゥラ)
◎『バンクラッシュ』(「Cien años de perdón」)スペイン・アルゼンチン・フランス、2016
監督:ダニエル・カルパルソロ(『インベーダー・ミッション』)、スリラー、96分
ヒューマントラストシネマ渋谷
2月28日(火19:15)、3月4日(土11:40)、3月5日(日15:20)、3月6日(月19:30)、
3月8日(水19:30)、3月9日(木21:30)、3月10日(金11:40)
DVD発売2017年3月3日
*当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ⇒2016年7月3日
★3月25日(土)よりシネマート新宿とシネマート心斎橋にて、2週間限定で公開される「シネ・エスパニョーラ2017」のご紹介。アレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作を含む5本です。『キリング・ファミリー 殺し合う一家』は、アルゼンチン、ウルグアイ他の合作映画、アドリアン・カエタノ監督は1969年モンテビデオ生れのウルグアイの監督、脚本家。デビュー作「Bolivia」(01)がカンヌやロッテルダム映画祭で高評価、その後「Un oso rojo」(02)、「Cronica de una fuga」(06)、「Francia」(09)などすべて未公開ながら問題作を撮っている実力者。新作はカルロス・ブスケドの小説「Bajo este sol tremendo」の映画化、邦題が凄まじいがお薦め作品です。またデ・ラ・イグレシアの新作は今秋のラテンビート上映はなくなりそうですね。
*上映スケジュール、紹介記事はコチラ⇒
http://www.albatros-film.com/movie/cineespanola2017/
◎『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「Toro」)2016
監督:キケ・マイジョ(『EVAエヴァ』)、マラガ映画祭2016コンペティション外上映作品、
スリラー・アクション、107分
*当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ⇒2016年4月14日
(ポスター左から、ルイス・トサール、マリオ・カサス、ホセ・サクリスタン)
◎『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(「Contratiempo」)2016
監督:オリオル・パウロ(『ロスト・ボディ』)、サスペンス、106分
(ポスター左から、ホセ・コロナド、マリオ・カサス、アナ・ワヘネル、バルバラ・レニー)
◎『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』(「Plan de Fuga」)2017
監督:イニャキ・ドロンソロ、サスペンス・アクション、105分
(ポスター左から、アライン・エルナンデス、アルバ・ガローチャ、ルイス・トサール、
ハビエル・グティエレス)
◎『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』(「El bar」)2017
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア(『スガラムルディの魔女』)、107分
ベルリン映画祭2017コンペティション外上映作品、スリラー群集劇
*当ブログの簡単な紹介記事は、コチラ⇒2017年1月22日
(バルに閉じ込められた8人と中央にデ・ラ・イグレシア監督)
◎『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(「El otro hermano」、英題「The Lost Brother」)、2017
アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス合作、マイアミ映画祭2017上映
監督:イスラエル・アドリアン・カエタノ、犯罪ドラマ、113分
(ポスター左から、ダニエル・エンドレル、レオナルド・スバラグリア)
『インビジブル・ゲスト』オリオル・パウロ*「シネ・エスパニョーラ2017」」 ― 2017年02月17日 14:04
『ロスト・ボディ』のオリオル・パウロ第2作目、早くも劇場公開!
★3月25日から始まる「シネ・エスパニョーラ2017」の上映作品の一つ『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のご紹介。先日ベルリン映画祭に出品されるアレックス・デ・ラ・イグレシアの新作をご紹介ついでに、「こちらは公開されるかもしれない」と予想した通りになりました。こちらとは本作のこと、スペイン公開が1月6日、まだDVD発売もクローズ期間中に公開されるとは思いませんでした。現在デ・ラ・イグレシア監督のお気に入りマリオ・カサスがやり手の実業家アドリアン・ドリアを演じる。彼は愛人殺害の容疑者として突然逮捕される。その愛人ラウラにバルバラ・レニー(『マジカル・ガール』)、息子の復讐に燃える父親にホセ・コロナド(『悪人に平穏なし』『スモーク・アンド・ミラー』)、重要人物の辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンにベテランのアナ・ワヘネル(『ビューティフル』『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』)という申し分のないキャスト陣で展開されます。
『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(“Contratiempo” 英題 ”The Invisible Guest”)2016
製作:Atresmedia Cine / Think Studio / Nostromo Pictures / TV3 Films / ICAA / Movister / ほか
監督・脚本:オリオル・パウロ
撮影:ハビ・ヒメネス(『アレクサンドリア』”Palmeras en la nieves”)
音楽:フェルナンド・ベラスケス(『インポッシブル』“Gernika”)
編集:ジャウマ・マルティ(『インポッシブル』”Un monstruo viene a verme”)
美術:エバ・トーレス
衣装デザイン:ミゲル・セルベラ
メイクアップ&ヘアー:ルベン・マルモル
製作者:ソフィア・ファブレガス(エグゼクティブ)、メルセデス・ガメロ、サンドラ・エルミダ、アドリアン・ゲーラ、他多数
データ:製作国スペイン、スペイン語、2016、106分、スリラー、製作費約400万ユーロ、撮影地バルセロナ自治州テラサTerrassa、ピレネー山地のVall de Núria、期間2015年12月ほか、配給元ワーナー・ブラザース・ピクチャー・スペイン。米国ファンタスティック・フェスト(2016年9月23日)、ポートランド映画祭2017年2月、ベルグラード映画祭2017年3月、スペイン公開2017年1月6日、日本公開同3月25日、他
キャスト:マリオ・カサス(実業家アドリアン・ドリア)、アナ・ワヘネル(弁護士ビルジニア・グッドマン/エルビラ)、バルバラ・レニー(ドリアの愛人ラウラ・ビダル、写真家)、ホセ・コロナド(ダニエルの父トマス・ガリード)、フランセスク・オレリャ(ドリアの顧問弁護士フェリックス・レイバ)、パコ・トウス(運転手)、ダビ・セルバス(ブルーノ)、イニィゴ・ガステシ(ダニエル・ガリード)、マネル・ドゥエソ(ミラン刑事)他
物語:突然災難に見舞われるハイテク企業の経営者アドリアン・ドリアの物語。アドリアンは山岳ホテルの部屋に踏み込まれた警察によって目覚める。傍らには愛人ラウラの死体があり、ラウラ殺害容疑者として逮捕される。彼は辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンを雇い入れることを決心する。二人は無実を証明するべく事件解明に着手するが、彼は昨晩のことをよく思い出せない。どうしても刑務所への収監を逃れたいアドリアンは、愛人ラウラとの関係、自動車衝突事故によるダニエル・ガリードの死に二人が苦しんでいたことを語った。そこで弁護士は新証人を登場させて混乱させる戦略に出る。ほとんど完成が不可能と思われるジグソーパズルの真実と嘘を嵌めこむことになるだろう。
(アドリアン・ドリア役のマリオ・カサス)
(ラウラ・ビダル役のバルバラ・レニー)
(グッドマン弁護士役のアナ・ワヘネル)
(ダニエル・ガリードの父親役のホセ・コロナド)
(マリオ・カサスとバルバラ・レニー)
★オリオル・パウロOriol Pauloは、1975年バルセロナ生れ、監督、脚本家。1998年「McGuffin」で短編デビュー、カタルーニャTVのドラマ・シリーズ「El cor de la ciutat」(カタルーニャ語2004~09、70エピソード)を執筆して脚本家として経験を積む。2010年ギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』の脚本を監督と共同執筆、2012年『ロスト・ボディ』で長編デビュー、ゴヤ賞2013の新人監督賞にノミネートされた。本作が第2作となる。
(ホセ・コロナドに演技指導をするオリオル・パウロ監督)
★原タイトルの「Contratiempo」の意味は、不慮の出来事、災難のこと、邦題は英語題のカタカナ起こしです(多分字幕は英語訳と思います)。いずれにせよ、フアン・アントニオ・バヨナやアメナバル作品を手掛けているスタッフ陣、スペインでもベテラン中堅若手と実力派で固めたキャスト陣、特に脇役の弁護士フェリックス・レイバ役のフランセスク・オレリャ(『ロスト・アイズ』)、ミラン刑事役のマネル・ドゥエソ(『EVAエヴァ』『ロスト・ボディ』)はバルセロナ派のベテランです。デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル~』やキケ・マイジョの『ザ・レイジ~』主演のマリオ・カサス以下は当ブログでも度々登場させています。映画祭上映、公開作品も多いので既にスペイン映画ファンにはお馴染みの面々かと思います。
*公式サイトと固有名詞の表記が若干異なりますが、当ブログではスペイン語読みに近い表記でアップしております。
『キリング・ファミリー』アドリアン・カエタノ*「シネ・エスパニョーラ2017」 ― 2017年02月20日 15:10
『キリング・ファミリー 殺し合う一家』は犯罪小説の映画化
★3月25日から2週間限定で開催される「シネ・エスパニョーラ2017」5作品の一つ、アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』のご紹介。前回アドリアン・カエタノ映画はオール未公開と書きましたが、未公開には違いないのですが、2013年の前作「Mala」が『イーヴィル・キラー』の邦題でDVD発売(2013年9月)されておりました。本作の原題「El otro hermano」が『キリング・ファミリー 殺し合う一家』と、いささかセンセーショナルな邦題になった遠因かもしれません。新作はアルゼンチンの作家カルロス・ブスケドの小説『Bajo este sol tremendo』に着想を得て映画化されたもの。
『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(「El otro hermano」英題「The Lost Brother」)2017
製作:Rizoma Films(アルゼンチン) / Oriental Films(ウルグアイ) / MOD Producciones(西) / Gloria Films(仏) 協賛:Programa Ibermedia/ INCAA / ICAU / ICAA
監督・脚本:イスラエル・アドリアン・カエタノ
脚本(共):ノラ・Mazzitelli(マッツィテッリ?) 原作:カルロス・ブスケド
撮影:フリアン・アペステギア
音楽:イバン・Wyszogrod
編集:パブロ・バルビエリ・カレラ
製作者:ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ
データ:アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス合作、スペイン語、2017年、犯罪スリラー、113分、撮影地:サン・アントニオ・デ・アレコ(ブエノスアイレス)、ラパチト(アルゼンチン北部のチャコ州)など、撮影は2016年1月25日から3月11日の約7週間、これから開催される第34回マイアミ映画祭2017がワールド・プレミア、第20回マラガ映画祭2017の正式出品が決定しています。
キャスト:ダニエル・エンドレル(ハビエル・セタルティ)、レオナルド・スバラグリア(ドゥアルテ)、アンヘラ・モリーナ(マルタ・モリナ)、パブロ・セドロン(古物商)、アリアン・デベタック(ダニエル・モリナ)、アレハンドラ・フレッチェネル(エバ)、マックス・ベルリネル、ビオレタ・ビダル(銀行出納係)、エラスモ・オリベラ(死体安置所職員)他
プロット・解説:ラパチトで暮らしていた母親と弟エミリオの死を機に闇の犯罪組織に否応なく巻き込まれていくセタルティの物語。セタルティは打ちのめされた日々を送っていた。仕事もなく、何の目的も持てず、テレビを見ながらマリファナを吸って引きこもっていた。そんなある日、見知らぬ人から母親と弟が猟銃で殺害されたという情報がもたらされる。ブエノスアイレスからアルゼンチン北部の寂れた町ラパチトに、家族の遺体の埋葬と僅かだが掛けられていた生命保険金を受け取る旅に出発する。そこではドゥアルテと名乗る町の顔役が彼を待ち受けていた。元軍人で家族の殺害者モリナの友人で遺言執行人もあるという。しかしドゥアルテの裏の顔はこの複雑に入り組んだ町の闇組織を牛耳るボス、誘拐ビジネスを手掛けるモンスターであった。セタルティは次第に思いもしなかったドゥアルテのワナにはまっていく。
(ドゥアルテ役のスバラグリアとセタルティ役のエンドレル)
★まだワールド・プレミアしていないせいか、現段階ではプロットが日本語公式サイトとスペイン語版にかなりの齟齬が生じています。映画化の段階で変更したとも考えられます。監督が小説にインスピレーションを受けて映画化したと語っているので、映画化の段階で変更したとも考えられます。プロットも映画のほうが複雑になっています。原作と映画は別作品ですから人名やプロットの変更は問題なしと思います。
(ダニエル・エンドレル、映画から)
★本作クランクイン時のインタビューで「登場人物の行動を裁く意図はなく、むしろアウトサイダー的な生き方しかできない彼らに寄り添いながら旅をして支えていく、そういう彼らの紆余曲折を語りたい。そうすることが政治的な不正や反逆の方向転換になると考えるから」と語っている。存在の空虚さ、責任感のなさ、拷問についての政治的な倫理観の欠如、これらは過去の監督作品「Un oso rojo」や『イーヴィル・キラー』の通底に流れるテーマと言えます。
(フリオ・チャベスが好演した「Un oso rojo」のポスター)
★イスラエル・アドリアン・カエタノIsrael Adorián Caetanoは、1969年モンテビデオ生れのウルグアイの監督、脚本家。ウルグアイは小国でマーケットが狭く主にアルゼンチンで映画を撮っている。デビュー作「Bolivia」(01)がカンヌやロッテルダム映画祭で高評価を受け、その後「Un oso rojo」(02「A Red Bear」)、「Crónica de una fuga」(06「Chronical of an Escapa」)、「Francia」(09)、「Mala」(13、英題「Evil Woman」『イーヴィル・キラー』DVD)などの問題作を撮っている。その他、短編、長編ドキュメンタリー、シリーズTVドラなどで活躍している実力者。
(イスラエル・アドリアン・カエタノ監督)
(本作撮影中の監督とダニエル・エンドレル)
★原作者カルロス・ブスケドは、1970年チャコ州のロケ・サエンス・ペニャ生れ、現在はブエノスアイレス在住。小説執筆の他、ラジオ番組、雑誌「El Ojo con Dientes」に寄稿している。
(原作者カルロス・ブスケド)
★キャスト陣、ドゥアルテ役のレオナルド・スバラグリアは、1970年ブエノスアイレス生れ、エクトル・オリヴェラの『ナイト・オブ・ペンシルズ』(86)でデビュー、TVドラで活躍後、1998年スペインに渡り活躍の場をスペインに移す。マルセロ・ピニェイロの『炎のレクイエム』(00)、フアン・カルロス・フレスナディジョの『10億分の1の男』(01)、ビセンテ・アランダの『カルメン』(03)のホセ役、マリア・リポルの『ユートピア』(03)など、スペイン映画出演も多い。最近ヒットしたダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)の第3話「エンスト」でクレージーなセールスマンを演じてファンを喜ばせた。
*『人生スイッチ』やキャリア紹介は、コチラ⇒2015年7月29日
(レオナルド・スバラグリア、映画から)
★母親役アンヘラ・モリーナはパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』の祖母役、アルモドバルの『抱擁のかけら』の母親役、細い体にもかかわらず5人の子だくさんは女優として珍しい。海外作品の出演も多く、昨2016年の国民賞(映画部門)を受賞した。仕事と家庭を両立させていることが、ペネロペ・クルスのような若手女優からも「将来なりたい女優」として尊敬されている。
*アンヘラ・モリーナの紹介記事は、コチラ⇒2016年7月28日
(最近のアンヘラ・モリーナ)
★当ブログ初登場のダニエル・エンドレルは、1976年モンテビデオ生れのウルグアイの俳優、監督、脚本家、製作者。本作のカエタノ監督同様アルゼンチンで活躍している。2000年、ダニエル・ブルマンのいわゆる「アリエル三部作」の主人公アリエル役でデビュー。第一部『救世主を待ちながら』は東京国際映画祭で特別上映され、2004年、第二部『僕と未来とブエノスアイレス』は、ベルリン映画祭の審査員賞グランプリ(銀熊)、クラリン賞(脚本)、カタルーニャのリェイダ・ラテンアメリカ映画祭では作品・監督・脚本の3賞を独占した。第三部「Derecho de familia」(06)は未公開、今作ではかつてのアリエル青年も結婚した父親役を演じた。公開作品ではパブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャのウルグアイ映画『ウイスキー』(04)にも脇役で出演、両監督の「25 Watts」でも主役を演じた。
(邦題『僕と未来とブエノスアイレス』と訳された「El abrazo partido」のポスター)
(父親役を演じたアリエル、「Derecho de familia」の一場面)
ベルリン映画祭2017*結果発表 ― 2017年02月22日 21:35
セバスティアン・レリオの新作、銀熊脚本賞を受賞
★この映画祭はやたらカテゴリーが多くて(コンペ、パノラマ、フォーラム、ゼネレーション、他)、イベロアメリカ映画だけに絞っているのに漏れが避けられない。コンペティション部門は、セバスティアン・レリオの「Una mujer fantástica」(チリ独米西)だけだったから、さすがに漏れは避けられた。下馬評が高得点だったので何かの賞に絡んで欲しいと思っていた。思いが通じたか監督とゴンサロ・マサが共同執筆した「銀熊脚本賞」とエキュメニカル審査員賞スペシャルメンション、テディー賞を受賞した。
(左から、主役のダニエラ・ベガ、監督、共同執筆者ゴンサロ・マサ)
(テディ賞のトロフィーを手にしたダニエラ・ベガ)
★前作『グロリアの青春』(13)ではグロリアに扮したパウリナ・ガルシアが女優賞を受賞、監督にとってベルリン映画祭は相性がいい。ラテンビート上映後公開される幸運に恵まれました。本作もラテンビートあるいは2016年から「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」と名称が変わった映画祭などを期待していいでしょう。ダニエラ・ベガが扮するマリナ・ビダルはトランスジェンダーの女性、テーマとしては抵抗ないですね。現在27歳になるベガ自身も偏見の根強いチリにもかかわらず、両親や祖父母の理解のもと10代の半ばに女性として生きることを決心した。
(プレス会見に臨んだセバスティアン・レリオ、ベルリン映画祭より)
カルラ・シモンのデビュー作、第1回作品賞オペラ・プリマ賞を受賞
★スペインからはジェネレーション部門出品のカルラ・シモンの「Verano 1993」(原題「Estiu 1993」、「Summer 1993」)が、第1回監督作品賞、国際審査員賞を受賞した。母親の死にあって親戚の家に養女に出される6歳の少女フリーダの物語。友達やバルセロナともさよならして、新しい家族となった養父母と一緒に最初の夏を過ごす。少女は悲しみを抱えたまま新しい世界に溶け込むことを学んでいく。両親をエイズで亡くした監督の子供時代がもとになっている。フリーダをライア・アルティガス、養母をブルナ・クシ、養父をダビ・ベルダゲルが演じる。各紙誌ともこぞってポジティブ評価で、今年のスペイン映画の目玉になりそうです。田園の美しい映像、情感豊かで細やかな描写は予告編を見るだけで伝わってきます。子役とアニマルが出る映画には勝てないと言われるが、どうやらハンカチが必需品のようだ。
(フリーダのライア・アルティガス)
★カルラ・シモンは、1986年バルセロナ生れの監督、脚本家。2009年バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業、その後カリフォルニア大学で脚本と監督演出を学び、試験的な短編「Women」と「Lovers」を制作する。2011年、ロンドン・フィルム学校に入り、ドキュメンタリーやドラマを撮っている。アルベルト・ロドリゲス監督の強い後押しのお蔭で製作できたと語っている。いずれ詳細をご紹介したい作品です。
(カルラ・シモン、ベルリン映画祭にて)
エベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリー、アムネスティ映画賞を受賞
★ベルリナーレ・スペシャル部門のアムネスティ国際映画賞受賞作品は、メキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリー「La libertad del diablo」(「Devil's Freedom」)。ベルリンの観客を身動きできなくさせたと報道された暴力と悪事が主人公のドキュメンタリー。現在のメキシコで起きている地獄の暴力が描かれており、同情は皆無、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などの証言で綴られている。
★昨年のモレリア映画祭の受賞作品、ベルリンがワールド・プレミア。「残虐な行為はいとも簡単に行われる」とゴンサレス監督。
(エベラルド・ゴンサレス監督、ベルリン映画祭にて)
★今年の金熊賞はハンガリーのIldiko Enyediイルディコ・エニェディの「On Body and Soul」が受賞した。他に国際批評家連盟賞FIPRESCIもゲット、寡作ですがカンヌやベネチアでも受賞しているベテラン、1955年ハンガリーのブダペスト生れの監督、脚本家。監督賞に甘んじたフィンランドのアキ・カウリスマキを推す審査員もいたのではないでしょうか。グランプリ審査員賞はセネガル、アルフレッド・バウアー賞はポーランド、男優賞はドイツ、女優賞は韓国など、受賞者がばらけて閉幕しました。
(大賞を射止め満面に笑みのイルディコ・エニェディ監督)
デ・ラ・イグレシア、新作ホラー・コメディを語る*「シネ・エスパニョーラ2017」 ― 2017年02月26日 18:06
「信用できる唯一の武器は笑いである」とアレックス
★ベルリン映画祭も閉幕しました。アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』はコンペティション外でしたから賞には絡みませんでしたが、監督はベルリン入りしてプロモーション活動に努めました。スリラーなのかホラーなのか、またはその両方なのか分かりませんが、「死の恐怖」についてのかなりシリアスなコメディ群集劇であるようです。彼はデビュー作以来オーディオビジュアルの致命的な退屈に反旗を翻して終わりなき闘いを続けています。ベルリン映画祭の後、第20回マラガ映画祭(3月17日~26日)のオープニング上映が内定しています(ベルリンと同じコンペティション外)。スペイン公開は3月24日、これは「シネ・エスパニョーラ2017」と時差を考えると同日になります。マラガ映画祭については後日大枠をアップいたします。ベルリンの第1回作品賞受賞のカルラ・シモンの「Verano 1993」はセクション・オフィシャルでジャスミン賞を狙います。
(エレガントな黒の背広姿のアレックス・デ・ラ・イグレシア、ベルリンFF 2月11日)
★1965年ビルバオ生れの監督は、子供時代に一度もサッカーボールを蹴ったことがなかったという変り種、社会学教授の父親、肖像画家で活動的な母親のもと自由で国家主義的でない家庭環境のなかで育った。政治的な不安は感じなかったが、街路での小競り合いや警官の銃声のなかで、つまりテロリストたちと隣り合って暮らしていた。当時のバスクの流行語は「何かあったのだろう」という一言、何が起ころうとも誰かがそう話すことで終わりだった。フランコ体制が名目上終わるのは10年後の1975年末のこと、しかし同じような思考停止は今でも続いていると監督。
★監督によれば、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』やスティーヴン・キングの『ミスト』、または『皆殺しの天使』からヒントを得ている。「ブニュエルの『皆殺しの天使』は、形而上学的な結末になる。知識などはどこかへ行ってしまって、閉じ込められて抜け出せないという苦痛だけを話し合っている。自分を取り巻く現実を前にして思考停止に陥ってしまっている。現実というのは時には殻のようなもので中身がよく分からない。私たちが度々経験するショーウィンドー越しの商品と同じです」と。登場人物が監禁される場所は、アガサ・クリスティーのは離れ小島、スティーヴン・キングはスーパーマーケット、ブニュエルのは或るブルジョワジーの大邸宅の居間、いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品と言われる。邦題が「クローズド・バル」となった延線上には、これがあったかもしれない。
★本作ではマドリードのバルが舞台になった。どうしてバルにしたのか、バルは監督にとってどんな意味をもつのか。彼と脚本家のホルヘ・ゲリカエチェバリアは、毎朝9時にマドリードの「エル・パレンティノ」というバルで朝食を摂りながら執筆している。「バルは他人と一緒に居心地のいい時間を過ごせる空間でもあるが、反対に突然人を怯えさせるようなことが起こる場所でもある。隣に座っている客が暗殺者である可能性もあるし、反対に自分が抱えている問題を解決してくれる人かもしれない。あるとき、浮浪者入ってきて、店の女主人が平手打ちを食わせるまで皆を罵りはじめた。一人の客が『何か食べるものを与えるべきだった』と言うと、彼女は『そうしたくなった人に与える』と応酬した。そして彼にコーヒーをついだ。それでみんな黙り込んで固まってしまった」のがアイディアの発端だったそうです。映画にも浮浪者が登場する。
(バルに監禁状態になったマリオ・カサス、ブランカ・スアレス、カルメン・マチ、他)
★「現実逃避は映画人として死を意味します。それぞれみんな頭の中に手本があるが、一歩家を出たら身体的強さをもたねばならない」とも。「私たちが暮らしている社会は恐怖が支配しているが、これは現実でなく悪い夢を見ているんだ、と思いたい。しかし実際は悪夢でなく現実、あるとき人生は突然ひっくり返る」と。諺にあるように「男(女も)は敷居を跨げば七人の敵あり」というわけです。「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが、背景にそれなくして私の映画は成立しない。私を不安にさせる密室に登場人物を閉じ込める話は魅力的、現実には起こらないことを通して真実を浮き上がらせたい」と。人間は憎しみで出来上がっている。グロテスクを排除せず、死の恐怖、本能的な衝動、アイデンティティについて語ったホラー・コメディ。
★既に次回作「Perfectos desconocidos」の撮影も終了して今年公開が決定しているようです。イタリア映画『おとなの事情』(2016、パオロ・ジェノベーゼ)のリメイク。イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞を受賞した話題作、間もなく3月公開されます。イネス・パリスの悲喜劇「La noche que tu madre mató a mi padre」(16、マラガ映画祭正式出品)でコメディ女優としての力量を発揮したベレン・ルエダ、『スモーク・アンド・ミラー』のエドゥアルド・フェルナンデス、他にエドゥアルド・ノリエガ、ペポン・ニエト、エルネスト・アルテリオ、ダフネ・フェルナンデス、フアナ・アコスタなど7人の芸達者が顔を揃えている。ちなみに「La noche que tu madre mató a mi padre」では、ルエダとフェルナンデスは息の合った夫婦役を演じていた。ペポン・ニエト以外はデ・ラ・イグレシア作品は初めての出演かもしれない。こちらはラテンビートに間に合うだろうか。
(監督を挟んで7人の出演者たち)
最近のコメント