『苺とチョコレート』の続編?*フェルナンド・ぺレスの新作2017年03月08日 17:21

        トマス・グティエレス・アレアに捧げる―ディエゴのその後

 

★ディエゴとは、トマス・グティエレス・アレア『苺とチョコレート』の中で造形した主人公、ホルヘ・ぺルゴリアが演じた。こちらのディエゴは亡命許可証を入手して間もなく愛するキューバを後にするだろうアーティスト。片やフェルナンド・ぺレスの新作Últimos días en La Habanaの中のディエゴは、ハバナの古びたアパートのベッドに横たわっている。エイズに体をむしばまれ、もはや亡命の夢は潰えている。やつれたディエゴの傍らには同世代のミゲルが付き添っている。レストランの皿洗いをしながらアメリカへのビザが届くのを待っている。もはやイデオロギー論争にはうんざりした、ただ生き残りを賭けて暮らす庶民で溢れた「ハバナ」での「最後の日々」を性格の異なった二人の男は送っている。アレア監督の下で映画を学んだペレス監督が恩師に捧げる最新作。

 

   

   Últimos días en La Habana(「Last Days in Havana」)2016

製作:ICAIC (キューバ) / WANDA VISIÓN S.A. (スペイン) / Besa Films

監督・脚本:フェルナンド・ぺレス

脚本(共):アベル・ロドリゲス

撮影:ラウル・ペレス・ウレタ

編集:セルヒオ・サヌス

録音:エベリオ・マンフレッド・ガイ・サリナス

美術:セリア・レドン

製作者:ダニロ・レオン、ホセ・マリア・モラレス

 

データ:製作国キューバ=スペイン、スペイン語、2016年、ドラマ、93分、撮影地ハバナ

映画祭・受賞歴:第38回ハバナ映画祭2016審査員特別賞受賞(12月)、ベルリン映画祭2017ベルリナーレ・スペシャル部門出品(2月)、マラガ映画祭2017コンペティション正式出品(3月)、他

 

キャスト:ホルヘ・マルティネス(ディエゴ)、パトリシオ・ウード(ミゲル)、ガブリエラ・ラモン(ディエゴの姪)、クリスティアン・ヘスス、ジャイレネ・シエラ、コラリタ・ベロス、アナ・グロリア・ブドゥエン、カルメン・ソラル、他

 

プロット:現代のハバナを舞台に繰り広げられる友情と犠牲の物語。ディエゴはゲイの45歳、エイズに冒され、もはや夢を描くことができない。同世代のミゲルは「北」に脱出することを夢見て、来る日も来る日もアメリカの地図を眺めている。決して届くことのないビザを待ち続けて、レストランの皿洗いの仕事をこなしながら英語の独学に励んでいる。二人を取り巻く魅力溢れた人々がディエゴの部屋を訪れる。ある日、届くはずのないビザが届けられてくる。このただ事でない運命を前にして二人は突然岐路に立たされる。二人はどんな決断をするのだろうか。大きな変化が予感される小さな「島」を舞台に、友情、それに伴う犠牲、憂鬱、痛み、パッション、貧困、ユーモアに富んだダイヤローグが見る人を魅了する。

 

     

  (審査員特別賞のトロフィーを手に、監督とホルヘ・マルティネス、ハバナ映画祭2016

 

フェルナンド・ぺレス1944年ハバナ生れ)はキューバの監督、脚本家。既に何本か字幕入りで見ることができるが、2003年の異色の無声ドキュメンタリー『永遠のハバナ』(「Suite Habana」)しか公開されていない。1987年の長編デビュー作「Clandestino」が『危険に生きて』の邦題でキューバ映画祭2004で上映されているほか、『ハロー ヘミングウェイ』1990、東京国際映画祭上映)、『口笛高らかに』98NHKBS放映)も、20世紀のキューバ映画を特集したミニ映画祭などで何回か上映されている。そもそもキューバ映画は今世紀に入ってからは本数も少なく、かつての輝きを失っている。従ってキューバ映画祭を開催しようとすれば、いきおい20世紀の映画を選ぶことになる。キューバを舞台にしているが、例えばアグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』15、スペイン)やパディ・ブレスナックの『ビバ』15、アイルランド)などは、製作国も監督もキューバではない。当ブログで紹介したマリリン・ソラヤのVestido de novia14)、カルロス・レチュガのSanta & Andres16)などは公開はおろか映画祭上映さえ難しい。

 

                  (ハバナの中心街を歩くミゲル役のパトリシオ・ウード)


 

(ディエゴ役のホルヘ・マルティネスと姪役のガブリエラ・ラモス)

 

  

           (扇風機がないので常にうちわを動かしているディエゴとジャイレネ・シエラ)

 

★本作は長編映画8作目となる。製作者にホセ・マリア・モラレス、撮影監督にラウル・ペレス・ウレタなど長年映画作りを共にしてきた仲間とタッグを組んでいる。キャスト選考はかなり難航したとベルリンで語っていた。上記したようにベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門での上映、因みにこのセクションではフェルナンド・トゥルエバのLa reina de España16、西)やアムネスティ国際映画賞受賞したメキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diabloもエントリーされていた)、これから始まるマラガ映画祭コンペ上映などで何らかの賞に絡めば、日本での知名度の高さ、または山形国際ドキュメンタリー映画祭2011の審査員としての来日などを勘案すれば、映画祭上映は期待できるのではないか。

 

 

             (フェルナンド・ぺレス監督)

 

★『永遠のハバナ』以降のフィルモグラフィー、2010José Martí: el ojo del canario2014La pared de las palabras2作、前者はキューバのどちら側からも尊敬されているホセ・マルティの物語、後者は進行性筋萎縮症になって書くことはおろか話すこともできなくなっていく息子とその家族、母親、兄弟、祖母との闘いの物語、原題の「言葉の壁」はそこからきている。息子に初めての起用となるホルヘ・ぺルゴリア、母親に『危険に生きて』や『口笛高らかに』出演のイサベル・サントスが扮した。監督によると実話にインスパイアーされて制作したということです。 

   

    (ホルヘ・ぺルゴリアとイサベル・サントス「La pared de las palabras」から)

  

デ・ラ・イグレシア、新作ホラー・コメディを語る*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年02月26日 18:06

         「信用できる唯一の武器は笑いである」とアレックス

 

★ベルリン映画祭も閉幕しました。アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』はコンペティション外でしたから賞には絡みませんでしたが、監督はベルリン入りしてプロモーション活動に努めました。スリラーなのかホラーなのか、またはその両方なのか分かりませんが、「死の恐怖」についてのかなりシリアスなコメディ群集劇であるようです。彼はデビュー作以来オーディオビジュアルの致命的な退屈に反旗を翻して終わりなき闘いを続けています。ベルリン映画祭の後、第20マラガ映画祭317日~26日)のオープニング上映が内定しています(ベルリンと同じコンペティション外)。スペイン公開は324日、これは「シネ・エスパニョーラ2017と時差を考えると同日になります。マラガ映画祭については後日大枠をアップいたします。ベルリンの第1回作品賞受賞のカルラ・シモンVerano 1993はセクション・オフィシャルでジャスミン賞を狙います。

 

  

  (エレガントな黒の背広姿のアレックス・デ・ラ・イグレシア、ベルリン映画祭211日)

 

1965年ビルバオ生れの監督は、子供時代に一度もサッカーボールを蹴ったことがなかったという変り種、社会学教授の父親、肖像画家で活動的な母親のもと自由で国家主義的でない家庭環境のなかで育った。政治的な不安は感じなかったが、街路での小競り合いや警官の銃声のなかで、つまりテロリストたちと隣り合って暮らしていた。当時のバスクの流行語は「何かあったのだろう」という一言、何が起ころうとも誰かがそう話すことで終わりだった。フランコ体制が名目上終わるのは10年後の1975年末のこと、しかし同じような思考停止は今でも続いていると監督。

 

★監督によれば、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』やスティーヴン・キングの『ミスト』、または『皆殺しの天使』からヒントを得ている。「ブニュエルの『皆殺しの天使』は、形而上学的な結末になる。知識などはどこかへ行ってしまって、閉じ込められて抜け出せないという苦痛だけを話し合っている。自分を取り巻く現実を前にして思考停止に陥ってしまっている。現実というのは時には殻のようなもので中身がよく分からない。私たちが度々経験するショーウィンドー越しの商品と同じです」と。登場人物が監禁される場所は、アガサ・クリスティーのは離れ小島、スティーヴン・キングはスーパーマーケット、ブニュエルのは或るブルジョワジーの大邸宅の居間、いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品と言われる。邦題が「クローズド・バル」となった延線上には、これがあったかもしれない。

 

★本作ではマドリードのバルが舞台になった。どうしてバルにしたのか、バルは監督にとってどんな意味をもつのか。彼と脚本家のホルヘ・ゲリカエチェバリアは、毎朝9時にマドリードの「エル・パレンティノ」というバルで朝食を摂りながら執筆している。「バルは他人と一緒に居心地のいい時間を過ごせる空間でもあるが、反対に突然人を怯えさせるようなことが起こる場所でもある。隣に座っている客が暗殺者である可能性もあるし、反対に自分が抱えている問題を解決してくれる人かもしれない。あるとき、浮浪者入ってきて、店の女主人が平手打ちを食わせるまで皆を罵りはじめた。一人の客が『何か食べるものを与えるべきだった』と言うと、彼女は『そうしたくなった人に与える』と応酬した。そして彼にコーヒーをついだ。それでみんな黙り込んで固まってしまった」のがアイディアの発端だったそうです。映画にも浮浪者が登場する。

 

  

 

 

 (バルに監禁状態になった、マリオ・カサス、ブランカ・スアレス、カルメン・マチ、ほか)

 

★「現実逃避は映画人として死を意味します。それぞれみんな頭の中に手本があるが、一歩家を出たら身体的強さをもたねばならない」とも。「私たちが暮らしている社会は恐怖が支配しているが、これは現実でなく悪い夢を見ているんだ、と思いたい。しかし実際は悪夢でなく現実、あるとき人生は突然ひっくり返る」と。諺にあるように「男(女も)は敷居を跨げば七人の敵あり」というわけです。「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが、背景にそれなくして私の映画は成立しない。私を不安にさせる密室に登場人物を閉じ込める話は魅力的、現実には起こらないことを通して真実を浮き上がらせたい」と。人間は憎しみで出来上がっている。グロテスクを排除せず、死の恐怖、本能的な衝動、アイデンティティについて語ったホラー・コメディ。

 

★既に次回作Perfectos desconocidosの撮影も終了して今年公開が決定しているようです。イタリア映画『おとなの事情』(2016、パオロ・ジェノベーゼ)のリメイク。イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞を受賞した話題作、間もなく3月公開されます。イネス・パリスの悲喜劇「La noche que tu madre mató a mi padre」(16、マラガ映画祭正式出品)でコメディ女優としての力量を発揮したベレン・ルエダ、『スモーク・アンド・ミラー』のエドゥアルド・フェルナンデス、他にエドゥアルド・ノリエガペポン・ニエトエルネスト・アルテリオダフネ・フェルナンデスフアナ・アコスタなど7人の芸達者が顔を揃えている。ちなみに「La noche que tu madre mató a mi padre」では、ルエダとフェルナンデスは息の合った夫婦役を演じていた。ペポン・ニエト以外はデ・ラ・イグレシア作品は初めての出演かもしれない。こちらはラテンビートに間に合うだろうか。 

   

                      (監督を挟んで7人の出演者たち)

 

 

  (演技を指導中の監督とベレン・ルエダ)

 

イネス・パリスの悲喜劇の紹介記事は、コチラ2016425

  

ベルリン映画祭2017*結果発表2017年02月22日 21:35

         セバスティアン・レリオの新作、銀熊脚本賞を受賞

 

★この映画祭はやたらカテゴリーが多くて(コンペ、パノラマ、フォーラム、ゼネレーション、他)、イベロアメリカ映画だけに絞っているのに漏れが避けられない。コンペティション部門は、セバスティアン・レリオUna mujer fantástica(チリ独米西)だけだったから、さすがに漏れは避けられた。下馬評が高得点だったので何かの賞に絡んで欲しいと思っていた。思いが通じたか監督とゴンサロ・マサが共同執筆した「銀熊脚本賞」とエキュメニカル審査員賞スペシャルメンション、テディ賞を受賞した。

 

  

    (左から、主役のダニエラ・ベガ、監督、共同執筆者ゴンサロ・マサ)

 

 

        (テディ賞のトロフィーを手にしたダニエラ・ベガ)

 

★前作『グロリアの青春』13)ではグロリアに扮したパウリナ・ガルシアが女優賞を受賞、監督にとってベルリン映画祭は相性がいい。ラテンビート上映後公開される幸運に恵まれました。本作もラテンビートあるいは2016年から「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」と名称が変わった映画祭などを期待していいでしょう。ダニエラ・ベガが扮するマリナ・ビダル性転換して女性に生れ変わった男性、テーマとしては、もう抵抗ないですね。現在27歳になるベガ自身も偏見の根強いチリにもかかわらず、両親や祖父母の理解のもと10代の半ばから時間をかけてゆっくり性転換している。

 

     

      (プレス会見に臨んだセバスティアン・レリオ、ベルリン映画祭より)

 

    カルラ・シモンのデビュー作、第1回作品賞オペラ・プリマ賞を受賞

 

★スペインからはジェネレーション部門出品のカルラ・シモンVerano 1993(原題「Estiu 1993」、「Summer 1993」)が、第1回監督作品賞、観客賞を受賞した。母親の死にあって養女に出される6歳の少女フリーダの物語。新しい家族となった養父母と一緒に最初の夏を過ごし、新しい世界に溶け込むことを学んでいく。監督の子供時代がもとになっている由。フリーダをライア・アルティガス、養母をブルナ・クシ、養父をダビ・ベルダゲルが演じる。各紙誌ともこぞってポジティブ評価で、今年のスペイン映画の目玉になりそうです。田園の美しい映像、情感豊かで細やかな描写は予告編を見るだけで伝わってきます。子役とアニマルが出る映画には勝てないと言われるが、どうやらハンカチが必需品のようだ。

 

    

 (映画の一部を取り込んだVerano 1993」のポスター)

 

   

                          (養母に抱かれたフリーダ)

 

★カルラ・シモンは、1986年バルセロナ生れの監督、脚本家。2009年バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業、その後カリフォルニア大学で脚本と監督演出を学び、試験的な短編「Women」と「Lovers」を制作する。2011年、ロンドン・フィルム学校に入り、ドキュメンタリーやドラマを撮っている。アルベルト・ロドリゲス監督の強い後押しのお蔭で製作できたと語っている。いずれ詳細をご紹介したい作品です。

 

           

   (カルラ・シモン、ベルリン映画祭にて)

 

     エベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリー、アムネスティ映画賞を受賞

 

★ベルリナーレ・スペシャル部門のアムネスティ国際映画賞受賞作品は、メキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diablo(「Devil's Freedom」)。ベルリンの観客を身動きできなくさせたと報道された暴力と悪事が主人公のドキュメンタリー。現在のメキシコで起きている地獄の暴力が描かれており、同情は皆無、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などの証言で綴られている。

 

 

★昨年のモレリア映画祭の受賞作品、ベルリンがワールド・プレミア。「残虐な行為はいとも簡単に行われる」とゴンサレス監督。

 

     

 (エベラルド・ゴンサレス監督、ベルリン映画祭にて)

 

★今年の金熊賞はハンガリーのIldiko Enyediイルディコ・エニェディOn Body and Soulが受賞した。他に国際批評家連盟賞FIPRESCIもゲット、寡作ですがカンヌやベネチアでも受賞しているベテラン、1955年ハンガリーのブダペスト生れの監督、脚本家。監督賞に甘んじたフィンランドのアキ・カウリスマキを推す審査員もいたのではないでしょうか。グランプリ審査員賞はセネガル、アルフレッド・バウアー賞はポーランド、男優賞はドイツ、女優賞は韓国など、受賞者がばらけて閉幕しました。

 

   

         (大賞を射止め満面に笑みのイルディコ・エニェディ監督)

   

セバスティアン・レリオの新作”Una mujer santastica”*ベルリン映画祭20172017年01月26日 21:43

         『グロリアの青春』から新作Una mujer fantástica”へ

 

 

★躍進目覚ましいチリ映画、スペイン語映画ではセバスチャン・レリオ長編5作目Una mujer fantásticaが唯一オフィシャル・セクションに選ばれました。2013年の『グロリアの青春』ではヒロインのパウリナ・ガルシアが生きのいい熟女を好演、銀熊女優賞を受賞して脚光を浴びたのでしたそんなことが幸いしたのか「ラテンビート2013でプレミア上映されたあと公開もされました。「女性は謎だらけ、でも僕は彼女たちを愛している」と語るレリオ監督、「グロリア」のあと、次回作が待たれておりましたが、やっとベルリンに登場しました。

『グロリアの青春』の作品・監督紹介は、コチラ2013912

 

      

       (監督とパウリナ・ガルシア、サンセバスチャン映画祭2013にて)

 

本作も女性(?)が主人公、舞台は現代のサンティアゴ、新人ダニエラ・ベガが演じるのは性転換して女性に生れ変わったマリナ・ビダル、世間の白いに目に晒されながらウエイトレスとナイトクラブのシンガーとして掛け持ちで働いている。20歳も年上のパートナーのオルランドが彼女の腕の中で突然死したことで人生の悲喜劇が転がりだす。脇を固めるのがルイス・ニエッコ(パブロ・ラライン「ネルーダ」)、アリネ・クッペンハイム(オルランドの元妻役、アンドレス・ウッド『マチュカ』)、アンパロ・ノゲラ(「ネルーダ」)、フランシスコ・レイェス(オルランド役、TVドラVuelve Temprano”)などのベテラン勢です。

チリ=独=米=西合作、製作はFabula / Komplizen Film100分、撮影地サンティアゴ。Fabulaはラライン兄弟が設立した製作会社、Komplizen Filmはドイツの製作会社。

 

       

            (ヒロインのダニエラ・ベガ、映画から

 

セバスティアン・レリオ1974年アルゼンチンのメンドサ市生れのチリ人。監督、脚本家、プロデューサー。上記のスタッフとキャスト陣からも分かるように、チリの若手シネアストのグループ「クール世代」に属します。「グロリア」に劣らず数々の受賞歴を誇るデビュー作『聖家族』(La sagrada familia05)がラテンビートで上映された。クリスマスイブに集まった3人のティーンエイジャーの物語”Navidad”(09)やロカルノ映画祭2011の審査員賞の一つである「Environment is Quality of Life」を受賞した”El ano del tigre”そして『グロリアの青春』と続く。

 

アンドレス・ウッドの出世作『マチュカ』(04)やラテンビート2009で好評だった群像劇『サンティアゴの光』(La buena vida08)で忘れられない演技を見せたアリネ・クッペンハイムが出演しているのも楽しみの一つです。何かの受賞に絡めば映画祭上映も期待できます。

  

アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作”El bar”*ベルリン映画祭20172017年01月22日 17:17

          オフィシャル・セクションのコンペ外ですが・・・

 

 

 

★『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』以来、アレックス・デ・ラ・イグレシアの話題が途絶えていると思っていたら、三大映画祭の先陣を切って開催されるベルリン映画祭2017El barが招待作品として上映されるようです。オフィシャル・セクションですがコンペティション外です。このセクションには他に、ダニー・ボイルの『トレインスポッティング』の続編T2 Trainspottingやジェームズ・マンゴールドのLogan(「ローガン」)なども招待作品になっております。前者は第1作と同じユアン・マクレガーを含むメンバー4人、後者はヒュー・ジャックマンが主人公です。ベルリン映画祭の開催は29日から19日まで。

 

   

 

★第14作目となる“El bar”はどんな映画かと言えば、コメディタッチのスリラー合唱劇のようです。マドリード中心街のバルにどこか曰くありげな人々が思い思いに朝食を摂りにやってくる。なかの一人が急いで出入り口から通りに出た途端、頭に銃弾を一発お見舞いされる。誰も彼を助けることができない、皆んなバルに捕らえられてしまっていたからだ。脚本は監督とホルヘ・ゲリカエチェバリア、製作者は今回出演しなかった監督夫人でもある女優のカロリーヌ・バンクキコ・マルティネス、出演者はマリオ・カサス、ブランカ・スアレス、セクン・デ・ラ・ロサ、ハイメ・オルドーニェス、カルメン・マチ、テレレ・パベスなど、もう日本でもお馴染みになっているデ・ラ・イグレシア映画の常連さんが名を連ねております。スペイン公開324日が決定しています。今秋開催の「ラテンビート」を期待しましょう。

 

          

                      (マリオ・カサスとブランカ・スアレス)

 

★下記の写真は、オリオル・パウロの新作サスペンス“Contratiempo”封切り日に応援に駆けつけたアレックス・デ・ラ・イグレシア。オリオル・パウロ監督は、『ロスト・ボディ』(12)の監督、本作には“El bar”の主人公マリオ・カサスも出演している他、アナ・ワヘネル(『ビューティフル』)、ホセ・コロナド(『悪人に平穏なし』)、バルバラ・レニー(『マジカル・ガール』)などが共演している。こちらは公開されるかもしれない。

 

 

(“Contratiempo”のポスターを背にしたデ・ラ・イグレシア監督、16日)

 

 

   (マリオ・カサスとアナ・ワヘネル、“Contratiempo”のポスター)

 

ベネズエラ映画*マリオ・クレスポのデビュー作”Lo que lleva el r:io”2015年12月28日 12:25

        オリノコ・デルタで暮らす少数民族女性の向上心と愛の物語

 

★本作はアカデミー賞とゴヤ賞2016のベネズエラ代表作品でしたが、前者はプレセレクションの段階で落選、後者もノミネーションには至りませんでした。主人公ダウナDaunaは、ベネズエラのオリノコ・デルタに暮らす少数民族ワラオWarao(またはグアラオGuarao)語族の若い女性、彼女は女性特有の役割を強制する「共同体」から脱出して、町の学校で勉強したいと願っている。年々グローバル化する多文化の世界で、二つの社会を行ったり来たりする女性の困難さが語られる。ヒロインのダウナにはグアラオ語族出身のヨルダナ・メドラノが扮する。

 

         

                      (ダウナ役のヨルダナ・メドラノ、映画から)

 

    Dauna, Lo que lleva el río”(“Gone with the River”)2014

製作:Asociación Civil Yakari / Alfarería Cinematográfica

監督・脚本・プロデューサー:マリオ・クレスポ

脚本(共同)・プロデューサー:イサベル・ロレンス

音楽:アロンソ・トロ

撮影:ヘラルド・ウスカテギ

編集・プロデューサー:フェルミン・ブランヘル

衣装デザイン:フアン・カルロス・ビバス

メイクアップ:グスタボ・アドルフォ、ゴンサレス・バレシリョス

プロダクション・マネジメント:アドリアナ・エレラ

助監督:ルイス・フェルナンド・バスケス

音響:ガブリエル・デルガド・ペーターセン、グスタボ・ゴンサレス、他

 

データ:製作国 ベネズエラ、言語 ワラオ語・スペイン語(ワラオ語にはスペイン語字幕入り)、2014年、104分、製作費予算:626,500ドル(IMDbデータ)、撮影地 オリノコ・デルタ、カラカス、協賛CNAC Centro Nacional Autónoma de Cinematografía / IBERMEDIA 他、ベネズエラ公開320

 

受賞歴・映画祭上映:ベルリン映画祭2015正式出品、サンパウロ映画祭、モントリオール映画祭、ハバナ映画祭サラ・ゴメス賞、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭スペシャル・メンションとイベロアメリカの現実を反映した映画に贈られる作品賞を受賞、バルセロナ・ラテンシネマ限定上映

 

キャスト:ヨルダナ・メドラノ(ダウナ)、エディー・ゴメス(タルシシオ)、ディエゴ・アルマンド・サラサール(フリオ神父)、他

 

プロット:オリノコ・デルタの北西で暮らす少数民族女性ダウナの向上心と愛の物語。語学の習得に優れた才能をもつダウナは、家族やフリオ神父の助けを借りて勉学に励んだ。子供の頃に将来を誓い合った恋人タルシシオも忍耐強く彼女を支えた。しかしどうしたらワラオ共同体の社会的圧力をはねつければいいのか、その術が分からなかった。ダウナのタルシシオへの愛に偽りはなかったが、彼が共同体の伝統に縛られ、いずれ敗北してしまうのではないかと怖れていた。

 

           

                            (ダウナとタルシシオ、映画から)

 

マリオ・クレスポMario Crespo 監督は、1949年キューバ生れ、脚本家、製作者、監督。チャベス政権初期の2000年、話者およそ35,000人を有する国内第2位のワラオ語消滅の危機を回避するためと少数民族の歴史的記憶の復権などの目的でベネズエラに赴いた。2001年、共同体のメンバーにビデオ撮影の技術指導をするため現地入りした。以後ベネズエラに定住しで映画製作に携わっている。ドキュメンタリー作家としての経歴が長く、65歳にして今回初めて長編劇映画に挑戦した。本作の構想は10年前から始まり、現地の数家族と居を共にして日常生活を観察しながら取材を重ねた。その後、共同脚本家のイサベル・ロレンスと二人で構想を練った。

 

 

 (ポスターを背にマリオ・クレスポ監督

 

★イサベル・ロレンスは、脚本家の言葉として〈闘う女性〉の姿を描き出したかった。例えばダウナは映画の4分の3、約1時間もスクリーンに登場、少数民族の女性が負わされている複雑に絡みあった困難に直面している。「どんな環境に暮らそうとも、いかなる人も、男でも女でも、何かを学びたいと考えるのは自然だ」というクレスポの言葉に共感していると語っている。

 

★本作はワラオ語とスペイン語のバイリンガルで撮られた世界初のフィクションになる。監督によると、「まずスペイン語の脚本をワラオ語に翻訳することから始めた。ところが出演者の大多数は字が読めないからワラオ語の台本作りは徒労に終わった。それでこれから撮影するシーンを何回も口頭で説明した。どんなシチュエーションなのか、彼らが理解しやすく内面化できるように記述を工夫した」と語っている。

 

★少ない資金のため夜間のシーン以外は照明を使用せず、撮り直しを避けて2台のカメラで撮影した。それは本作がドキュメンタリー要素の強いフィクションなので、即興で起る新鮮さを失わないためでもあった。例えば、まだ子供だったタルシシオが友達のダウナにプロポーズするシーンを撮っているとき、彼は恥ずかしくて両手で顔を被ってしまった。これはホンにはなかったことで、繰り返し撮ろうとしても上手くいかなかったろう。ワラオの人はとても控えめで、撮影の中断や繰り返しを自分たちのせいと思ってしまうのだろう。製作費はベネズエラのCNACIBERMEDIAの援助を受け、最終的には750万ボリーバル(約120万ドルに相当)だった。

  

      

               (ヨルダナ・メドラノ、クレスポ監督、ベルリン映画祭にて)

 

★配給会社探しは困難を極めたらしい。ワラオ語の映画と聞けば、大抵の配給元は尻込みするだろう。移動スクリーンを使用して現地で撮影会をした。集まった出演者の驚きは相当なものだったらしい。それもこれも分かりますね。映画後進国ベネズエラの近年の躍進には目を見張るものがあります。当ブログで記事にしたロレンソ・ビガスの“Desde allá”(ベネチア映画祭2015金獅子賞)、マリアナ・ロンドンPelo malo”(サンセバスチャン映画祭2013金貝賞)、ミゲル・フェラリAzul y no rosa”(ゴヤ賞2014イベロアメリカ映画賞)などが記憶に新しい。

 

★つい最近126日にあった議会選挙では、1999年より政権をとっていたベネズエラ統一党が大敗を喫し、反チャベスの民主統一会議が勝利した。中国の出方にもよるが政治地図は大きく変わらざるをえない。国家の予算の大半を原油に頼るベネズエラでは、昨今の原油安は危急存亡の秋かもしれない。マドゥロ大統領の任期は2019年まであるが、ハイパー・インフレに苦しむ国民の忍耐が何時まで続くか、前途は厳しいのではないか。映画文化も無縁ではいられない。


ベルリン映画祭2015*番外編2015年03月04日 11:33

        パノラマ部門にセバスチャン・シルバの新作

★コンペティション外ですがチリのセバスチャン・シルバの新作Nasty Babyが「パノラマ」部門で上映されていました。ベルリンはコンペ外にパノラマ→フォーラム→ゼネレーション(子供が審査員)と4つのセクションがあります。「ラテンビート2010」で『家政婦ラケルの反乱』、同2013には『クリスタル・フェアリー』と『マジック・マジック』が上映された。2013年には監督自身も来日、Q&Aに参加しております。シルバは既にカミングアウトしていて故国では息苦しいのか、「私はチリではアウトサイダー」と語っており、2010年からニューヨーク市のブルックリンに居を定めて製作、従って本作も残念ながら言語は英語です。

 

     (Tunde Adebimpe とクリステン・ウィグ“Nasty Baby”から)

 

★“Nasty Baby”は、ブルックリンに住んでいるゲイ・カップルが人工授精で子供を持とうとする話。予告通り監督自身も出演しておりますが、「nastyな」赤ん坊とは穏やかでないタイトルです。20136月にクランクイン、エキストラはブルックリン周辺の隣人たちということです。2015年、米国=チリ、英語、100分。1月下旬に行われたサンダンス映画祭2015がプレミア。

 

      (サンダンス映画祭での監督以下出演者、左から2人目がシルバ監督)

 

経歴・フィルモグラフィー紹介記事は主にコチラ⇒2013925

『クリスタル・フェアリー』はコチラ⇒20139251029Q&A

『マジック・マジック』はコチラ⇒9271026Q&A

『家政婦ラケルの反乱』はコチラ⇒2013927

 

 

     フォーラム部門にドミンガ・ソトマヨル・カスティリョの新作

Mar ドミンガ・ソトマヨル・カスティリョの長編第2作目、 チリ=アルゼンチン合作、2014年、70分。チリのバルディビア映画祭201410月)で上映、ベルリン映画祭の後、チリのサンチャゴで開催される「第5回女性映画祭2015 FEMCINE 5」(324日~29日)のイベロアメリカ映画部門の上映が決まっています。ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、パラグアイ、ベネズエラ、スペイン、ポルトガルなどの女性監督作品が一堂に会します。


33歳のマルティンMartinはガールフレンドと夏季休暇に海Marに出掛ける。彼の母親が到着するまでは何事もなく平穏に過ごしていたが・・・。MartinMarに意味があるようで、だから英語‘Sea’にはできないか。家族の崩壊、移動(旅行)がテーマらしく、デビュー作『木曜から日曜まで』と似ているようです。監督が脚本、製作を兼ねているだけでなく、他の俳優たちも脚本、製作を掛け持ちしている。うち脚本家の一人マヌエラ・マルテリも“Apnea”で監督デビュー、「第5回女性映画祭2015」の短編部門に選ばれている。とにかくチリだけでなく、ラテンアメリカの女性シネアストたちは元気です。


★『木曜から日曜まで』“De jueves a domingo”(2012Thursday till Sunday”)は、ロッテルダム映画祭2012がプレミア、その後世界各地の映画祭にエントリー、「東京国際映画祭2012」でも上映され邦題はそのときのもの。ドミンガ・ソトマヨル・カスティリョは、1985年チリのサンティアゴ生れ、若くて美人だ。チリのカトリック大学視聴覚学部を卒業したばかりの2009年に撮った短編“Videojuego”(ビデオゲーム)が、2010年ロッテルダム映画祭に出品され話題に。『木曜から日曜まで』はオランダから資金が出て合作となったが、カンヌ映画祭の映画基金も貰って製作された。 


★離婚を決意した若い両親と何も知らない二人の姉弟4人で、木曜から土曜にかけて車(日本製M929)で「お別れ旅行」をする話。姉ルシアの賢そうな目とカメラの目は、走っている車中では常に後ろ向きの両親の姿を見ることになる。このルシア役の子役サンティ・アウマダは監督の妹の友人ということだが、自然な演技が気持ちよく、おしなべてその他の子役の扱いに感心した。「子役には台本を与えず、姉弟二人のリアクションを観察しながら、日々起こるハプニングを加えて撮影したことで、より自然な演技を引き出すことに成功した」とQ&Aで語っていた。

 

 (構図の取り方が優れていた『木曜から日曜まで』 両親の背中を見ながら移動する姉弟)

 

★車窓を飛び去る荒涼としたチリの風景、スピード感もあって将来が楽しみな監督と感じた。第2作目となる本作がフォーラム部門とはいえベルリンにエントリーされたのは嬉しい。テーマの一つに「移動」を上げたのは、チリも含めてラテンアメリカ映画の特徴と考えるから。上記のセバスチャン・シルバにも顕著です。「チリは細長い国なので、移動といえば北か南に行くしかない」が、これに心理的な移動が加わって、デビュー作とは思えない完成度を示した。

 

イサベル・コイシェの新作*ベルリン映画祭2015 ③2015年03月01日 18:50

         オープニング作品だったコイシェの新作

★昨年のような目玉作品がなかったせいか、金熊賞のジャファル・パナピの“Taxi”が頭ひとつ出ていただけでチャンスは誰にもあった。テレンス・マリックの“Knight of Cups”の前評判はイマイチだったらしく、それでも主催者からオープニングを打診されたとき「とても名誉なことだけれど、しかし・・・」と、コイシェ監督は躊躇したそうです。結局主催者はマリックを選ばなかった。ベルリナーレのディレクター、ディータ・コスリックDieter/Kossilick は、「極限状況におかれた二人の女性の迫力ある直観的な物語」が気に入ったようです。

 


Nobody Wants the Night(西語題“Nadie quiere la noche2015、西≂仏≂ブルガリア、118分、撮影地ブルガリア、ノルウェー、カナリア諸島のテネリフェ)は、結果的には無冠に終わりましたが、コイシェ監督はここ毎年新作を発表している。言語は英語だがAnother Me2013、“Mi otro yo”)、昨年のトロント映画祭出品のLearning to drive2014、資金難に喘ぐスペインの監督としては珍しいことです。やはりバルセロナを離れてニューヨークに居を定めたことが、人的交流にも恵まれ創作意欲も刺激しているようです。残念ながら新作もイヌイット語を含む英語映画です。1909年、初めて北極点に到達したと言われるアメリカの探検家ロバート・ピアリーの妻ジョゼフィーンにジュリエット・ビノシュ、イヌイット女性アラカに菊池凛子、ロバートにガブリエル・バーンが扮する。監督によると「実在した人物が主人公ですが、物語はフィクション、文明とは何か、野蛮とは何かが語られる」、ということは極めて今日的なテーマとも言えます。 

    (イサベル・コイシェとジュリエット・ビノシュ、ベルリン映画祭にて)

 

★初の極点到達を目指している夫ロバート・ピアリーを追って、アメリカからグリーンランドへ旅立ったジョゼフィーンの物語。ロバートは妻と娘をワシントンに残して極点到達の探検に出掛けた。留守がちの夫の帰りを待つだけの暮らしにウンザリしていたジョゼフィーンは、初到達を夫と共有しようとグリーンランドを目指すことにする。イヌイットの女性アラカの助けを借りて夫の後を追う。

 

★ロバート・ピアリーはイヌイット女性との間に二人の子供があり、この女性の導きで極点に向かったと言われている。裕福なブルジョア階級に属し、教養の高い女性だったジョゼフィーンは、食べるのがやっとの一般庶民が夫の探検を軽蔑していると感じていた。しかし極点初到達は、現在では真偽のほどが疑問視されている、いや否定されているようだが、本作においてはあまり関係ないようだ。何故なら彼らにとって重要なことは栄光、初到達はどうでもよいことだったからだ。

 

        (ジョゼフィーン・ディウベッツチ・ピアリー 18631955

 

コイシェ監督談4年前にミゲル・バロスから脚本を受け取り、とても興奮した。アメリカの多くの女優に声を掛けたが「素晴らしい役柄で気に入ったわ、だけど撮影条件に対応するのは難しい」と次々に断られた。結局「ジュリエットのようなぶっ飛んだ女優でないとやれないと分かったの」と監督。「テント小屋の暖房は灯油ストーブでも文句を言わない、プラスチックの袋に用を足せる強靭さがないと務まらない。更にある種の高揚感や本質を見抜ける力がある女優でなければ」というわけです。

 

★広大な北極で迷ってしまったジョゼフィーンをロバートは救出に行かなかった。彼にとって気がかりなのは極点に早く到達すること、そしてその偉業を喧伝することだった。後に妻は見せかけの人生を送ることになるのだが、ワシントンに戻ってから夫がどんな人間だったかを思い知る。「そのとき本当の北極の夜が始まった。悲しいけれどこれが現実」と監督。つまりタイトルに繋がる。名声と栄光を求めるだけの偽りの芸術家夫婦は、周りにたくさんいるとも。

 

               (ジョゼフィーンとロバート)

 

★ジョゼフィーンと冬を過ごすアラカについて、「その無垢さ、しなやかなインテリジェンス、高貴さに打たれる。若いけれど無知ではない」。グリーンランドで撮影中、イヌイットの素晴らしい女性と大いに語り合った。その識者の高祖母(ひいお祖母さんの母)がアラカの姉妹の一人だったという。スクリーンの最後に出てくるようです。キャストについてはジュリエットは言うまでもなく大いに満足している由、新婚ほやほやの凛子さん、良かったですね。

 

          (ジョゼフィーン役のビノシュとアラカ役の菊池凛子)

 

ジュリエット・ビノシュ談:凍てつくようなノルウェーでの撮影を思い出して、「実際のところ、撮影の3日間は凍えそうだった。残りは6月のテネリフェのスタジオで、毛皮にくるまって撮影した」。6月のテネリフェは暑いから相当過酷な仕事だったことが想像できます。「演技とは感覚的なもので知的な仕事ではない」、頭脳労働じゃない。「この映画は七面鳥であることを止めて犬に変身しようとした女性の物語」だそうです()

 

★コイシェ監督近況、現在3本の脚本を抱えている。その一つが英国のペネロペ・フィッツジェラルドのブッカー賞受賞作“The Bookshop”(1978、“La libreria”)の映画化。ニューヨーク市ブルックリン区のマンションに戻って執筆中。他にダーウィンの玄孫を主人公にした脚本をマシュー・チャップマンと執筆している。ニューヨークも寒いが「鼻がもげそうなほど寒かった」ノルウェーに比べればなんてことはないですね。「どこに住んでいようが、気分がいいときも悪いときもある・・・不安定な綱渡りのロープに立っていると感じることもあるが、必要があればウズベキスタンでもモンゴルでも行きます」、「ハイ、スタート、カット」と言いながら死にたい。

 

共同脚本家マシュー・チャップマン1950年ケンブリッジ生れ、監督・脚本家・製作者。1980年代にアメリカに渡り、ロスに10年余り暮らした後ニューヨークへ。『殺しに熱いテキーラを』(1986脚本)、『ニューオーリンズ・トライアル』(2003共同脚本)、話題となった心理サスペンス『ザ・レッジ 12時の死刑台』(2011監督・脚本・製作)など。

 

*関連記事:管理人覚え

◎“Another Me”(英西、英語)については2014727

◎トロント映画祭2014「スペシャル・プレゼンテーション」部門“Learning to drive
 (
米国、英語2014813 


パトリシオ・グスマン脚本賞受賞*ベルリン映画祭2015 ②2015年02月26日 18:18

         El botón de nácar”を受賞

★アカデミー賞の結果発表でベルリン映画祭のことなどかき消されてしまいました。今年のTV視聴率は昨年より一気に約14%ほど下がった。作品賞受賞作のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン』でさえ全米規模では未公開らしく、独立系の地味な作品が多かったことが数字に現れてしまった。英語映画ですが『アモーレス・ペロス』で世界の注目を集めたメキシコ出身の監督ということ、下馬評通り『イーダ』が受賞した外国語映画賞ノミネーションの“Relatos salvajes”のダミアン・シフロン(アルゼンチン)の動静なども含めていずれアップしたい。

 


★さて、パトリシオ・グスマンのドキュメンタリーEl botón de nácar(“The Pearl Button”)が脚本賞を受賞しています。チリ、フランス、スペイン合作、スペイン語、2015年、82分、公開はフランスの10月が決まっている。チリ人による植民地時代のジェノサイドとピノチェト政権時代のマタンサを告発するドキュメンタリー。1973911日、もう一つの「911」と言われるピノチェトの軍事クーデタもテーマの一つ。前半は北のアタカマ砂漠、後半は永久凍土のパタゴニア地方、ピノチェトに虐殺された犠牲者の遺体の痕跡がある場所です。彼らのプロフィールが次々に語られていく。タイトルの「真珠貝のボタン」はメタファーのようで、先住民が買われてイギリスで教育されるために受け取った真珠貝のボタン、もう一つは海底から見つかった貝殻付きのレール、これはピノチェトが犠牲者を海に放り込む前に浮き上がってこないよう体を縛りつけたレール。前作Nostalgia de la luz”で始まったチリ人の地理学的彷徨はEl botón de nácar”において閉じられる。 

      (銀熊脚本賞のトロフィーを手にした監督とプロデューサーの監督夫人)

 

★アタカマ砂漠は標高が高く空気が乾燥しているので天文観測には適している。従って世界の天文台が設置されていることでも有名、日本のなんてん天文台、ヨーロッパのパラナル天文台などが建っている。樹木も小鳥も生息できないが、砂漠の下には多くの犠牲者が眠っている。天文台では星の歴史が観測できるが、地下にはチリの悲惨な歴史が掘り起こされるのを待っている。チリの人々の健忘症と無関心が問われているドキュメンタリー。グスマンはずっとチリの社会政治問題に拘って撮りつづけている監督。「チリは先の大戦には参戦しなかったが、大量虐殺はした」と監督。前回ご紹介したパブロ・ララインの大先輩ですが、ドラマでなく多くがドキュメンタリー。

「ドキュメンタリー映画を持たない国は家族写真のない家族のようなもの」が持論。

 

パトリシオ・グスマン1941年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集、撮影、俳優。1965年短編“Viva la libertad”(18分)でデビュー、短編を毎年1作ずつ撮りつづけ、長編三部作La batalla de Chile19757679)を撮る。軍事クーデタでアジェンデ政権が崩壊するまでを描く。アジェンデとピノチェト両政権を体験した映画監督。他の代表作“En nombre de Dios”(1987)、“El caso Pinochet”(2001)、“Salvador Allende”(2004)、2010年のNostalgia de la luzなど、すべてドキュメンタリーです。現在はプロヂューサーのRenate Sachse夫人とパリ在住。 

                   (受賞作El botón de nácarを撮影中の監督)

 

★評価の高かった前作“Nostalgia de la luz”は受賞作と主題がダブっています。「私のテーマは過去にある」と語る監督。これは2010年にカンヌ、トロント、サンセバスチャン、サンパウロ、リオデジャネイロ、ビアリッツ、ポートランドなど、2011年からは香港、サンフランシスコ、テッサロニキなど数多くのの映画祭で上映されている。フランス、ドイツ、米国、イギリス、スペイン、イタリアでは公開されたが、肝心のチリでは今もって未公開。「国営テレビも共同出資しているが未だに放映なし、その気もないようだ」とグスマン監督。ピノチェトはかつて「ずっと昔の話じゃないか」とうそぶいていたが、軍事独裁時代はそんなに昔のことではない。チリ国民の記憶、時間、宇宙についての詩的で哲学的な熟考をうながすドキュメンタリー。静かなナレーション、犠牲者の家族、特に妻や姉妹の言葉に感動する。

 

   (“Nostalgia de la luz”のポスター、中央の男性は遺骨を探し続ける家族)

 

ラテンアメリカ映画が評価された年だった

アルフレッド・バウアー賞にグアテマラのハイロ・ブスタマンテIxcanal(“Ixcanal Volcano”)が受賞と、今回はラテンアメリカの受賞が目立ちました。日本から現地に飛んだ関係者からも「今年は優れた作品が多かった」と中南米映画を評価する声が聞かれた。この賞は若手監督が受賞することが多いのだが、昨年は91歳のアラン・レネの『愛して飲んで歌って』が「常に刷新的で新しい境地を開拓している」として受賞した。受賞後まもない31日パリで死去、結局これが遺作となった。


パブロ・ララインの”El Club”グランプリ審査員賞*ベルリン映画祭2015 ①2015年02月22日 21:59

      NO』から3年、新作がベルリン映画祭グランプリ審査員賞に


★今年のベルリン映画祭は、イサベル・コイシェ(バルセロナ、1960)のNadie quiere la nocheで開幕しました。オープニング作品にスペイン映画が選ばれたのは初めて、ということで期待しましたが無冠、代わりにと言ってはなんですが、パブロ・ララインのEl Clubが審査員賞グランプリを受賞しました。前作『NO』(2012)はカンヌ映画祭「監督週間」でアート・シネマ賞受賞、また米国アカデミー外国語映画賞にノミネーションされたがハネケの『愛、アモール』に破れた。ベルリンは今回が初めてです。

 

  (熊のトロフィーを高々と差し上げたパブロ・ラライン、ベルリン映画祭授賞式)

 

★パブロ・ララインは、1976年チリの首都サンチャゴ生れ。父親エルナン・ラライン・フェルナンデス氏は、チリでは誰知らぬ者もいない保守派の大物政治家、1994年からUDIUnion Democrata Independiente 独立民主連合) の上院議員で弁護士でもあり、2006年には党首にもなった人物。母親マグダレナ・マッテも政治家で前政権セバスチャン・ピニェラ(201014)の閣僚経験者、つまり一族は富裕層に属している。ラライン監督の『NO』に関連するので触れると、ピニェラ前大統領はピノチェト大統領の8年間延長についての国民投票では「No」に投票している。ピニェラは世界的な大富豪、アメリカの経済紙「フォーブス」で資産総額で437位に数えられている。同じ地震国であるということか、東日本大震災後に2回来日して被災地を視察している。

 

ミゲル・リティンの『戒厳令下チリ潜入記』でキャリアを出発させている。弟(6人兄妹)フアン・デ・ディオス・ララインと Fabula」というプロダクションを設立、その後、独立してコカ・コーラやテレフォニカのコマーシャルを制作して資金を準備してデビュー作Fuga2006)を発表した。<ジェネレーションHD>と言われる若手の「クール世代」に属している。監督では、『マチュカ』や『サンティアゴの光』のアンドレス・ウッド、『ヴォイス・オーヴァー』のクリスチャン・ヒメネス、『家政婦ラケルの反乱』『マジック・マジック』のセバスティアン・シルバ、『グロリアの青春』のセバスティアン・レリオ、『プレイ/Play』のアリシア・シェルソンなどがおり、シェルソンの『プレイ』はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006」で新人監督賞を受賞した作品。(邦題は映画祭上映時のもの)

 

NOについて:サンセバスチャン映画祭2012の「ZABALTEGIのパールズ」部門にエントリーされ、観客総立ちのオベーションを受けた作品。続いて東京国際映画祭 2012のコンペティション部門、ラテンビート2013でも上映された。「ピノチェト政権三部作」の最終作。第一部がアルフレッド・カストロ主演の『トニー・マネロ』(2008、ラテンビート上映)で1970年代後半のチリ、第二部が同じくカストロ主演のPost mortem2010)、時代背景が1973年のアジェンデ政権末期、つまり時代は二部→一部→三部の順になります。第二部はメタファーが多くチリ社会の知識を要求する複雑な作品、本作が一番分かりやすい作品と言える。しかし断然光っているのは好き好きもあるが、第一部『トニー・マネロ』か。

 

  (『トニー・マネロ』の主役アルフレッド・カストロ、クール世代の一人)

 

NO』が東京国際映画祭2012で上映されたときラライン監督の来日はなかったのですが、ラライン兄弟の映画製作に初参加したダニエル・マルク・ドレフュス(ロス在住のアメリカ人)が来日してQ&Aに参加してくれた。「ラライン兄弟は共に次回作の撮影に入っており、極寒の場所にいて来日できなかったが、日本の皆さまによろしくと言付かってきた」と挨拶した。その次回作が銀熊賞受賞の“El Club”です。

 

          (ガエル・ガルシア・ベルナル主演NO』のポスター

 

受賞作El Clubは、ピノチェト政権三部作同様チリの暗い過去を掘り起こす映画のようで、モラルの崩壊、イデオロギーの歪曲、カトリック教会の位階制、神父の小児性愛など見るものを困惑させ不快にもさせる。しかし、映像の検証は説得力があり最後は心揺さぶられることになるようだ。チリの同胞はできれば目を背けたいテーマに違いない。

 

キャスト:アルフレッド・カストロ(ビダル神父)、アレハンドロ・ゴイク(オルテガ神父)、ハイメ・バデル(シルバ神父)、アレハンドロ・シエベキング(ラミレス神父)、アントニア・セヘルス(シスター・モニカ)、マルセロ・アロンソ(ガルシア神父)、ロベルト・ファリアス(サンドカン)、ホセ・ソーサ(マティアス・ラスカノ神父)他 

   (左から、アルフレッド・カストロ、監督、ロベルト・ファリアス、ベルリンにて)

 

プロット:かつて好ましからぬ事件を起こして早期退職させられた神父たちのグループを、教会が海岸沿いの人里離れた村の一軒家に匿っている。神父たちはカトリック教会のヒエラルキーのもと共同生活を送っており、シスター・モニカが神父たちの世話をして生活を支えている。彼女が外と接触できる唯一の人間であり、神父たちが飼っている狩猟犬グレーハウンドも世話していた。ある日、この「クラブ」に5人目の神父が送られてきたことで静穏な秩序が一変してしまう。

 

               El Club”のシーンから

 

★アルフレッド・カストロは、「ピノチェト政権三部作」全てに出演、『トニー・マネロ』がラテンビートで上映された折り来日している。ラライン監督夫人でもあるアントニア・セヘルスも同じく3作に出ており、NO』ではガエル・ガルシア・ベルナルが演じた主人公のモト妻役を演じていた女優、テレビ製作者、ラライン同様セレブ階級に属しており、結婚は2006年、2人子供がいる。

 

★ラライン監督談:少年時代の教育はカトリック系の学校に通った。そこで分かったのは、神父に三つのタイプがあったこと、その一つが軍人に抵抗して神父になったケース、犯罪者や行方不明者として何の痕跡も残さず突然移動させられた。その一人がチリでは有名なフランシスコ・ホセ・コックス神父(同性愛や小児性愛で告発されたラ・セレナ市の大司教も務めた神父)、彼が住んでいた牧歌的なスイスの館の写真を見て、この映画のアイディアが生れたということです。

 

★出演者には前もってシナリオを渡さず、大枠の知識だけで撮影に入った。つまり誰も自分が演ずる役柄の準備ができないようにした。3週間で脚本を書き、2週間半の撮影は秘密裏に、編集は自宅でやった。それを弟フアン・デ・ディオス(製作者)と関係者2人に見せ、ベルリンの主催者に送った。オーケーが出たので大急ぎで正式のプロダクションを立ち上げた。観客と一緒に見たのはここベルリンが初めて、と映画祭のインタビューで語っています。教会はこの映画については、目下ノーコメントらしい。しかし観客の反応に手ごたえを感じたようです。