舞台の映画化、クレウエトの”El rey tuerto”*マラガ映画祭2016最終回2016年05月05日 18:58

       劇作家マルク・クレウエトのデビュー作は自作戯曲の映画化

 

★結果発表前にアップしようと思っていたのに時間切れになってしまったEl rey tuertoのご紹介。無冠だったが気になる監督作品、上映は映画祭前半の424日だった。記者会見にはマルク・クレウエト監督以下出演者アライン・エルナンデスミキ・エスパルベベッツィ・トゥルネスルース・リョピスが参加、如何にもバルセロナ映画と実感させるブラック・コメディ。

 

   

   (左から、ベッツィ・トゥルネス、ミキ・エスパルベ、監督、プレス会見にて)

 

★プレス会見の談話によると「最初のバージョンは、映画化するなら舞台よりもっと風通しをよくしたほうがいいと考えて、新しい状況や場所を設定しようとした。しかし『探偵スルース』のような映画に魅せられていたので、結果的にはセリフも登場人物もあまり変えなかった。状況によって自由自在に変化できる檻のようなスペースを設えて、そこへ登場人物たちが引き寄せられようにやってくるスタイルにした」と監督。『探偵スルース』という映画は、1972年のジョーゼフ・L ・マンキーウッィツの最後の監督作品“Sleuth”、ローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインが数々の賞を受賞した名作。2007年のリメイク版『スルース』は今でもテレビで放映されるから若い方も見ているでしょうか。   

  

 

El rey tuertoEl rei borni2016

製作:Moiré Films Producciones Audiovisuales / Lastor Media / Corporación Catalana de Mitjans Audiovisuals / El Terrat de Produccions 協賛カタルーニャTV

監督・脚本・戯曲:マルク・クレウエト

撮影:シャビ(ハビ)・ヒメネス

製作者:トノ・フォルゲラ(Lastor Media社)

データ:スペイン、スペイン語、2016,辛口コメディ、87分、マラガ映画祭2016上映424日、スペイン公開520

 

キャスト:アライン・エルナンデス(警察官のダビ)、ミキ・エスパルベ(ナチョ、隻眼のイグナシ)、ベッツィ・トゥルネス(ダビの妻リディア)、ルース・リョピス(ナチョの妻サンドラ)、シェスク・ガボト(政治家)

 

解説:リディアとサンドラは古くからの友達だが長年のこと会っていない。互いのパートナーを紹介しあおうとダビの家で夕食を共にすることに決めた。ダビは機動隊所属の警察官、ナチョは活動家の社会派ドキュメンタリー製作者、乱闘騒ぎに発展したデモ行進中に警官からゴムボールのお見舞いをうけて右目の視力を失っている。彼らはテレビから流れてくる或る政治家のスピーチに活気づく。4人の登場人物は食事しながら過ぎ去った時間を懐かしみ、最近の出来事を語り合う。ダビがナチョの片目を潰した張本人であることなど知る由もない。こうして変なめぐり合わせで警察官と活動家が対峙してしまう。

 

    

          (隻眼のナチョと機動隊員のダビ、映画スチールから)

 

私たちの秩序がもっている多くの裂け目を修復するレシピ

 

★このように辛口コメディ風に物語は始まるが、壊れやすく脆い信念、社会的役割の本来の姿とは何か、真実を模索しながらも時は驚くほどの早さで過ぎ去ってしまうというイタイお話です。カオス状態の世の中で盲人になると、却って世界の物事がよく見えるようになり、自分たちが無意識に避けている奥深い秩序に近づけるという。プロットの核心は、社会問題にそれぞれ異なった意見をもつ4人の登場人物の心理合戦、根の深いスペインの危機についてのアジテーションのようです。

 

★戯曲は3年前から書き始め、こけら落とし公演は2年前、バルセロナの収容客40人足らずの小さな劇場だった。バルセロナでの大成功がマドリードでも続き、全国主要都市を巡業して回った。マドリードの舞台では粗野な警察官ダビと平和思考の活動家ナチョを同じ俳優が演じた。イデオロギー的には正反対の二人がまき散らすタイミングのよいギャグの応酬が観客を魅了したようです。監督によると、映画化することで舞台では定まらなかった視点が見えてくるオマケがあったという。監督お気に入りの1作、コーエン兄弟製作の『バートン・フィンク』と関連があるそうだが、二人の主人公のブラック・ユーモアが本作のダビとナチョに似ているからだろうか。この映画は見る人によって深読みができる作品なのでよく分からない。カンヌ1991のパルムドール・監督賞・男優賞を受賞した異例づくめの作品(カンヌは各賞をダブらせない方針)、しかし当然というかアカデミー賞はノミネーションに終わった。

  

監督紹介マルク・クレウエトMaec Crehuet は、1978年カンタブリアのサンタンデル生れ、監督、脚本家、舞台演出家、戯曲家。演劇では戯曲執筆と舞台演出をした“Conexiones”(09)、“El rey tuerto”(カタルーニャ語“El rei borni”、13)、“MagicalHistory Club”(14)がある。映画は以下の通り:

フィルモグラフィー(TVを含む)

2009GreenPowerTV2010年エンターテインメント最優秀プログラム「マック賞」受賞

201112Pop rápidTV)カタルーニャTVMoiré Films製作の2シーズンのシリーズ物

2016El rey tuerto本作

 

★カタルーニャTVPop rápidには、アライン・エルナンデス、ミキ・エスパルベ、ベッツィ・トゥルネス、シェスク・ガボトの4人が25出演(ルース・リョピスのみ1話)、このTVドラでの共演が本作の土台にある印象です。

 

    

 

★「戯曲の最初のバージョンはすごく扇情的で憤慨に満ちた内容だった。何故かと言うと、デモ行進で片目を本当に失明してしまったイタリアの青年が我が家を訪れたことがヒントだったから。しかし執筆しているあいだに怒りをダイレクトにぶつけるのではなく、ユーモアを効かせたプロットに変化させた」と戯曲執筆の動機を語った。ナチョの人物造形にはインスピレーションを受けたモデルがいたようだ。昨今では誰もが自説を披露できる時代になったが、コミュニケーションの困難さ、スレ違いはあまり変わらない。他人に対して攻撃的とは言わないまでも、寛容ではなくなっているかもしれない。 

   

                 (インタビューを受けるマルク・クレウエト、マラガにて)

 

  キャスト紹介

★マラガ上映の初日24日には朝早い9時にもかかわらず、この新しい趣向の作品、特にユニークな二人の演技を楽しもうとするファンがセルバンテス劇場前に列を作った。この二人とはアライン・エルナンデスミキ・エスパルベこと。簡単にご紹介すると:

 

*アライン・エルナンデスAlain Hernández(ダビ役)は、バルセロナ生れ、スペイン語、カタルーニャ語、英語ができるのでUSA映画(“The promise16)にも出演している。長編映画デビューはベントゥラ・ポンスBarcelona, un mapa07)、公開されたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『ビューティフル』08)、主役を演じたデミアン・サビーニ・ギマラエンスTerrados10,監督がバジャドリード映画祭で観客賞受賞)、エミリオ・マルティネス=ラサロのOcho apellidos catalanas15)、マリオ・カサスやアドリアナ・ウガルテが主演したことで2015年後半の話題作になったフェルナンド・ゴンサレス・モリーナPalmeras en la nieveに準主役で出演。 

 

  (自宅で体を鍛える機動隊員ダビ、映画から)

 

*ミキ・エスパルベ Miki(Miqui) Esparbé(ナチョ役)は、1983年バルセロナ生れ、俳優、脚本家、作家。バルセロナにある公立名門校ポンペウ・ファブラ大学(Universidad Pompeu Fabra)の人文科学卒業。クレウエトのGreenPowerTVシリーズでキャリアを出発させる。同監督のPop rápid出演のお陰で知られるようになった。2012年、Notodofilmfest賞を受賞した短編Doble checkの主役に抜擢され、男優賞にノミネーションされた。長編デビューはBarcelona, nit d’estin13)、マラガ映画祭2015最優秀新人脚本家賞を受賞したレティシア・ドレラデビュー作 Requisitos para ser una persona normal に出演している他、ホセ・コルバッチョフアン・クルスの“Incidencias”、夏公開が決定しているホアキン・マソンのCuerpo de éliteなどが挙げられる2014年、グラフィック小説“Soy tu principe azul pero eres daltónica”(パコ・カバジェロ他との共著)というオカシなタイトルの本を出版。

 

      

         (ナチョとサンドラとリディア、ダビ家の居間、映画から)

 

ベッツィ・トゥルネス Betsy Túrnez(リディア役)は、クレウエトのカタルーニャTVシリーズPop rapid、ギリエム・モラレスの『ロスト・アイズ』、マリア・リポルのAhora o nuncaOcho apellidos catalanasなどに出演している。監督との接点は“Pop rapid”でしょうか。舞台“El rei borni”出演、2014年には同じく舞台“MagicalHistory Club”に出演した。 

   

        (舞台“El rei borni”でも共演したトゥルネスとリョピス)

 

ルース・リョピス Ruth Llopis(サンドラ役)は、バレアレス諸島のメノルカ生れ、スペイン語、カタルーニャ語、英語ができる。ジョルディ・フェレ・バターリャの短編コメディ“Freddy”で主役を演じた他多数、TVドラPop rápid1話)ほか、長編映画デビューは2013年、リュイス・セグラの“El club de los buenos infieles”、他にダニ・デ・ラ・オルデンのBarcelona, nit d’hivern”15)。舞台“El rei borni”出演ほか。

 

 
 (ダビの家を訪れたナチョとサンドラのカップル、出迎えた後ろ姿がリディア)

 

★エル・ムンド紙のコラムニストによると、2年前のマラガ映画祭2014の「金のジャスミン賞」を射止めたカルロス・マルケス=マルセのコメディ10.000 Kmと同じ製作会社(Lastor Media)のトノ・フォルゲラ以下スタッフが参加した。これが映画の成功に繋がったという。

 

アメリカン・ドリームの挫折を描いた”Callback”*マラガ映画祭2016 ⑨2016年05月03日 15:48

       監督と俳優が合作したスリラーが「金のジャスミン賞」

 

★オリジナル版の言語が英語という映画が作品賞を受賞した。スペイン語のできる英語話者が主人公の映画は珍しくなくなったが、カルレス・トラスCallbackは初めてのケースではないかと思う。10年ほど遡ってみたが該当する作品はなかった。ゴヤ賞を含め数々の賞に輝いたイサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(05)が同じケースだが、これはマラガでは上映されなかった。マラガは国際映画祭ではなく、スペイン語映画に特化している映画祭なのだが、製作国がスペインならOKという時代になったのでしょう。

 

★今回の金賞は大方の見方とは異なった結果になったようです。エル・パイスのレポートによると、話題の中心イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポLa propera pellセバスティアン・ボレンステインKóblic2作品に絞られていたそうです。開幕から観客の大きな輪ができていたのもこの2作品だった。つまり観客の受けはイマイチだったということかな。しかし審査員は結果的に“Callback”を選んだわけです。さて来年は第20回となる節目の年、大きなイベントが計画されているようです。 

       

           (マルティン・バシガルポをあしらったポスター)

 

    Callback2016

製作:Zabriskie Films / Glass Eye Pix

監督・脚本・製作者:カルレス・トラス

脚本(共同):マルティン・バシガルポ

撮影:フアン・セバスティアン・バスケス

編集:エマーヌエル・ティツィアーニ

製作者(共同):マルティン・バシガルポ、ラリー・フェッセンデン、ティモシー・ギブス、他

データ:スペイン=米国、オリジナル言語英語、2016年、スリラー、80分、マラガ映画祭2016上映427日他、バルセロナ映画祭428

 

キャスト:マルティン・バシガルポ(ラリー・デ・チェッコ)、リリー・スタイン(アレクサンドラ)、ラリー・フェッセンデン(ラリーの雇い主ジョー)、ティモシー・ギブス(福音派の牧師)

 

解説:ラリーは熱烈な福音主義のプロテスタント、引越し業者のもとで働いている。彼にはプロフェッショナルな大スターになるという夢があるがチャンスはなかなか巡ってこない。雇い主のジョーとは折り合いが悪く、孤独な一人暮らしを続けている。ある日、アレクサンドラという女性が彼の人生に入ってきたことでラリーの運命に転機が訪れる。運が向き始めたようにみえたが、ことごとく悪い方へ転がり始めてしまう。アメリカン・ドリームを抱いて一か八かやってくるが、ニューヨークのような大都会では多くの移民がフラストレーションと厳しい孤独に苦しむことになる。夢を果たせずに挫折する移民たちの物語。

      

     

        (最優秀男優賞を受賞したマルティン・バシガルポ、映画“Callback”から)

 

監督紹介:カルレス・トラスは、1974年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画スタジオ・センター(CECC)で学ぶ。ベルリン映画祭の「Berlinale Talent Campus」の参加資格を得て、リドリー・スコット、スティーヴン・フリアーズ、ウォルター・サレス、クレール・ドニ、撮影監督クリストファー・ドイルなどのセミナーに出席した。長編映画は以下の通り:

2004Jovesラモン・テルメンスとの共同監督、バルセロナ映画賞新人監督賞受賞、他

2009Trashガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2011Open 24H監督・製作者、ガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2016Callback 

   

            (マラガ映画祭でのカルレス・トラス監督)

 

キャスト紹介マルティン・バシガルポはチリ生れ、1975年からニューヨーク在住の俳優、脚本家、製作者。ロンドン、ベラルーシ共倭国の首都ミンスクの芸術アカデミー、ニューヨークの名門演劇学校ステラ・アドラー・スタジオなどで演劇を学ぶ。舞台デビューは2003年の『ハムレット』、2008年『セールスマンの死』、ほか昨年2015は『三人姉妹』など。アメリカン・ルネッサンス・シアター・カンパニーのメンバー。

 

★映画、TVは、マーリー・エルナンデスの短編“La Reclusa”(2013USA、スペイン語、12分)でデビュー、アメリカのTVドラ“The Hunt with John Walsh”(2014,第4Victim 1話)に出演、本作が本格的な長編映画デビューとなる。初長編で最優秀男優賞受賞が決して棚ボタでないことは経歴が証明している。脚本には彼の体験が色濃く反映されている。

 

       

        (最優秀男優賞のトロフィーを掲げて、マルティン・バシガルポ)

 

リリー・スタインは本作アレクサンドラ役がデビュー作、ラリー・フェッセンデン1963年ニューヨーク生れ、ホラー映画でお目にかかっている。風貌がホラー映画『シャイニング』に出てくる太めのジャック・ニコルソンに似ている(笑)。ティモシー・ギブスは、1967年カリフォルニアのカラバサス生れ、劇場公開作品はないようだが、ダーレン・リン・バウズマンのサスペンス・ホラー『111111』(米西、20111111日にアメリカで公開、DVD)で主役を演じた。ほかにハイメ・ファレロのホラー・アクション『バンカー/地底要塞』(西、2015DVD)にも出演している。 

   

               (リリー・スタイン、映画から)

 

 

    

           (ラリー・フェッセンデン右側、映画から)

 

 

    

             (マラガ映画祭でのティモシー・ギブス)

作品賞は西米合作”Callback”*マラガ映画祭2016結果発表 ⑧2016年05月02日 14:49

        カルレス・トラスの“Collback”は西米合作映画

 

       

 ★ノーチェックだったカルレス・トラスの第4Collbackが「金のジャスミン」を受賞しました。監督はカンタブリアのサンタンデール生れ(1978)の監督。公式サイトは英語(字幕スペイン語)だし、キャストは主人公こそチリのマルティン・バシガルポでしたが彼以外は英語話者の俳優ばかり、舞台はニューヨーク、吹替え上映などなどチェックしなかった理由でした。他に脚本賞にカルレス・トラスと共同執筆者マルティン・バシガルポ、彼は男優賞も受賞して盆と正月が一緒にきたような喜びだったでしょう。何はともあれ最高賞受賞作品なので、次回に作品紹介を予定しています。

 

 

  (マラガに現れた左から、ティモシー・ギブス、マルティン・バシガルポ、トラス監督)

 

★作品賞についで大きな賞が審査員特別賞、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの“La propera pell”が受賞しました。これを含めて最多の5賞を獲得してしまいました。監督賞・女優賞・編集賞・批評家審査員特別賞です。これはラテンビート、東京国際などの映画祭上映を期待しても見当外れとは言われないでしょう。アンダルシアで開催される映画祭の二つの大賞がバルセロナとカンタブリア出身の監督に贈られたことに感無量の地元ファンもいたかもしれない。またポル・ロドリゲスのQuatretondetaが評価されたのも嬉しい。

 

   

        (マラガに現れたイサキ・ラクエスタとイサ・カンポ監督)

 

オフィシャル・セクションの受賞結果

最優秀作品賞(金のジャスミン賞)

Collback監督カルレス・トラス

 

  

 (トロフィーを手に喜びのスピーチをするカルレス・トラス)

 

審査員特別賞

La propera pell”(“La próxima piel”) 監督イサキ・ラクエスタ & イサ・カンポ

作品監督紹介は、コチラ⇒2016429

 

最優秀監督賞

イサキ・ラクエスタ & イサ・カンポ “La propera pell”(“La próxima piel”)

 

最優秀女優賞

エンマ・スアレス “La propera pell”(“La próxima piel”)

 

最優秀男優賞

マルティン・バシガルポ “Collback

 

最優秀助演女優賞

シルビア・マヤ “Julie 監督アルバ・ゴンサレス・モリナ

 

最優秀助演男優賞

オスカル・マルティネス “Kóblic”監督セバスティアン・ボレンステイン

作品監督紹介は、コチラ⇒2016430

 

最優秀脚本賞

カルレス・トラス & マルティン・バシガルポ “Collback

 

最優秀音楽賞

シルビア・ペレス・クルス Cerca de tu casa 監督エドゥアルド・コルテス

 

最優秀撮影賞(2作品)

ロドリゴ・プルペイロ Kóblic 監督セバスティアン・ボレンステイン

カルレス・グシポル Quatretondeta”監督ポル・ロドリゲス

 

最優秀編集賞

ドミ・パラ La propera pell”(“La próxima piel”)

 

審査員スペシャル・メンション

Quatretondeta 監督ポル・ロドリゲス

作品監督紹介は、コチラ⇒2016年4月22日

 

批評家審査員特別賞

La propera pell”(“La próxima piel”) 監督イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポ

 

観客賞(ガス・ナトゥラル・フェノサ)

La noche que mi madre mató a mi padre 監督イネス・パリス

作品監督紹介は、コチラ⇒2016425

 

★「金賞」は最優秀作品賞「金のジャスミン賞」だけで、他はすべて「銀賞」です。また観客賞Gas Natural Fenosaというエネルギー分野(天然ガスと電力)における多国籍企業が選んだ審査員が選考する。ガス取扱量世界第4位、本社はバルセロナ。

 

★賞には絡みませんでしたが、個人的な好みで準備しておりましたバルセロナ派のマルク・クレウエトのデビュー作El rey tuertoを落ち穂拾いしておきたいと考えています。バルセロナやマドリード他、スペイン各地を巡業して廻り大成功をおさめた戯曲の映画化です。演劇が大人の娯楽として根付いているヨーロッパでも、舞台監督自らが映画監督も手掛けるというのは珍しいケースです。 

             

                          (”El rey tuerto”のポスター)

  

リカルド・ダリンが主役のスリラー"Koblic"*マラガ映画祭2016 ⑦2016年04月30日 18:06

         アルゼンチンを代表する俳優リカルド・ダリンはカメレオン

 

★バルセロナ派監督の力作が目立つ今年のマラガ映画祭ですがアルゼンチンのセバスティアン・ボレンステインKóblicはスペインとの合作です。彼の長編第3作目Un cuento chinoはコメディドラマでしたが新作はスリラーです。ゴヤ賞2012イベロアメリカ部門の作品賞を受賞した前作は、英語字幕でしたがセルバンテス文化センターの「土曜映画上映会」で上映され(20137月)泣き笑いさせられた。これは脚本が秀逸でよく練られており、主役を演じたカメレオン俳優リカルド・ダリンの魅力をあますところなく引き出した。上映後のトークで「ダリンのために作られた映画だ」と感想を述べたほどだった。正当な理由から偏屈で気難しく人間嫌いになってしまったが、心はまっすぐなまま他人の不幸を見過ごせない。こういうバルザック風の人間悲喜劇をやらせたらダリンの右に出る者がない。『人生スイッチ』をご覧になった方なら納得でしょう。結果発表が間もなくですが、監督も役者も大好きが理由でご紹介します。

 

         

          (ダリン、マルティネス、クエスタを配したポスター)

 

    Kóblic2015

製作:Atresmedia Cine / Gloriamundi Produccones / Pampa Films / Telefe / Endemol /

    Direct TV

監督・脚本・製作者:セバスティアン・ボレンステイン

脚本(共同):アレハンドロ・オコン

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

音楽:フェデリコ・フシド

編集:パブロ・ブランコ、アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ

録音:フアン・フェーロ

美術:ダリオ・フェアル

プロダクション・マネージメント:パブロ・モルガビ、イネス・ベラ

製作者:バルバラ・ファクトロビッチ(エグゼクティブ)、パブロ・ボッシ、フアン・パブロ・ブスカリアル、他多数

データ:アルゼンチン=スペイン合作、スペイン語、2015年、スリラー、公開アルゼンチン2016414日、マラガ映画祭2016では429日上映

 

キャスト:リカルド・ダリン(海軍大佐トマス・コブリク)、オスカル・マルティネス(警察署長バラルデ)、インマ・クエスタ(ナンシー)、他

 

解説:人生の岐路に立たされた海軍大佐トマス・コブリクの物語。時はアルゼンチン軍事独裁政権の1977年、コブリクは身の毛もよだつような〈死の飛行〉のミッションを命じられる。人生の岐路に立たされたコブリクは、輝かしい軍人としてのキャリアを捨て良心的不服従の道を選択する。パンパの片田舎コロニア・エレナで危険だが新しい人生を始めようと一か八かの逃亡を決心する。一方、盗難品を売り捌く犯罪集団のリーダー、軍事独裁者のドンとも暗い繋がりをもつ警察署長バラルデは、獲物を狙って執拗な追跡劇を開始する。

 

       

               (リカルド・ダリン、映画から)

 

           テーマは「汚い戦争」と良心的不服従か?

 

★アルゼンチン軍事独裁政権は、19763月の軍事クーデタ勃発からマルビナス(フォークランド)戦争の敗北を経て瓦解する1983年まで続いた。一人の独裁者ピノチェトが牛耳った隣国チリとは違って、アルゼンチンの軍事独裁政権は4人の軍人が大統領になった。なかでもっとも凄惨を極めたのがクーデタの首謀者、陸軍総司令官だったビデラ政権の第1期(197681)、3万人ともいわれるデサパレシードdesaparecido行方不明者の多くが第1期の犠牲者だった。つまり映画の時代背景となる1977年は反体制派の弾圧が厳しく、「沈黙は金」という無関心を国民に強制した戦慄の時代だった。

 

    

 

〈死の飛行〉というのは、このデサパレシードと言われる収監者を飛行機で運んでラプラタ川に生きたまま突き落とす任務のことで、普通の人間の神経では耐えられない。このミッションを果たした操縦士が、後に良心の呵責に耐えかねマスコミに実名で告白すると、たちまち嘘つきデマカセの脅迫をうけて精神障害を発症してしまった記事を読んだことがある。チリのパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『真珠のボタン』では、遺体に列車のレールを縛りつけ太平洋に投げ捨てた事例を再現ドラマとして挿入していたが、アルゼンチンでは数が多すぎてそんなテマヒマはかけなかった。

 

       

           (打合せをしているボレンステイン監督とダリン)

 

ボレンステイン監督のように1960年代生れの世代は、軍事独裁政権時代の教育を受け、すっぽり青春時代と重なっている。それは19823月から始まった大国イギリスとのマルビナス戦争では、未経験のまま徴兵され酷寒の島で犬死にさせられた世代という意味でもあるのです。まさか英国病から抜け出せない鉄の女が原子力潜水艦まで動員して乗り込んでくるとは思わなかったのだ。前作のUn cuento chinoでダリンが演じた人間嫌いの金物屋の主人も同世代、マルビナス戦争の傷を抱えている。『火に照らされて』05、ラテンビート2006上映)を撮ったトリスタン・バウエルも同世代、彼らは国家の過ちを容易に許さない。自分たちの人生がゆっくりと死に向かっている体験をした世代だからです。

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

セバスティアン・ボレンステイン、1963年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。父は喜劇役者タト・ボレス。エル・サルバドル大学でコミュニケーション科学及びアウグスト・フェルナンデス学校で俳優演出を専攻。卒業後、広告代理店のクリエーターとして第一歩を踏み出した。卒業後、広告代理店のクリエーターとして第一歩を踏み出した。のちコメディショー“Tato Bores”の脚本家に転身、1990年からTVシリーズの監督、1997TVミニシリーズEl garante(ホラー)がマルティン・フィエロ賞(監督賞)などを含む国内外の賞を多数受賞した。つづくスリラーTiempofinal68200002)はアルゼンチン他50カ国で放映され、2001年にはマルティン・フィエロ監督賞を受賞した他、エミー賞のノミネーションも受けた。長編映画デビューは以下の通り。コメディとスリラーを交替で撮っている。

2005La suerte está echada コメディ、トリエステ映画祭ラテンアメリカ・シネマ審査員賞

2010Sin memoriaスリラー、メキシコ映画

2011Un cuento chinoコメディ、ローマ映画祭2011作品賞・観客賞、ゴヤ賞2012イベロアメリカ映画賞、スール作品賞、ハバナ映画祭2011作品賞、マンハイム=ハイデルベルク映画祭2011審査員スペシャル・メンション・エキュメニカル賞、R.W.ファスビンダー特別賞他、多数受賞

2015Kóblicスリラー

 

    

             (警察署長役のオスカル・マルティネス)

 

★キャスト紹介:リカルド・ダリンはもう割愛、警察署長のオスカル・マルティネスは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』5話「愚息」で登場、おバカ息子の父親マウリシオになった俳優、スペインから参加のインマ・クエスタは、パウラ・オルティスのLa noviaの主役を演じゴヤ賞2016主演女優賞にノミネートされた女優、他にダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』11)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス』11)、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』12)、アルモドバルの新作Julietaにも出演と大物監督に起用されています。

『人生スイッチ』とオスカル・マルティネスに関する記事は、コチラ⇒2015729

La novia”とインマ・クエスタに関する記事は、コチラ⇒201615

『スリーピング・ボイス』の記事は、コチラ⇒201559

 

    

          (インマ・クエスタとリカルド・ダリン、映画から)

 

★アルゼンチンでは公開されているので観客のコメントがアップされ始めています。まあ観客も十人十色ですが、概ね好意的なコメントが寄せられています。インマ・クエスタのアルゼンチン弁に難癖をつけていますが、アルゼンチン訛りは短期間には真似できない(笑)。相変わらずダリンは好評で人気のほどが分かります。マルティネスは嫌われ役で辛いところ、それでも流石に悪口を言う人がいないのは泣かせます。


イサキ・ラクエスタの新作はスリラー*マラガ映画祭2016 ⑥2016年04月29日 10:28

 金貝賞」受賞者ラクエスタ、金のジャスミン賞」ゲットなら両賞受賞は初となる!

 

金のジャスミン賞」というのはマラガ映画祭の作品賞、「金貝賞」はサンセバスチャン映画祭の最高賞のことです。イサキ・ラクエスタは、2011年に長編6作目Los pasos dobles金貝賞」を受賞しています。マラガ映画祭は比較的若い監督に焦点が当てられているので将来的にも両賞の受賞は限られます。8作目となる本作はイサ・カンポとの共同監督、オリジナル版タイトルはカタルーニャ語のLa propera pell、スペイン語はLa proxima pielでマラガは吹替え上映のようです。最初の候補作にはなかった作品、最終選考で浮上しました。イサキ・ラクエスタはLa leyenda del tiempo2006)が『時間の伝説』という邦題で上映されたことや、河瀨直美と短編ドキュメンタリーSinirgiasLas variaciones Naomi Kawase e Isaki Lacuesta09)を共同監督したことから若干認知度はあるでしょうか。

 

         

 

     La propera pellLa próxima piel2016

製作:Corte y Confeccion de pelicula/ La Termita Films / Sentido Films / Bord Cadre Films

      協賛ICAA / ICCE / TV3 /Eurimage

監督・脚本・製作者(共同):イサキ・ラクエスタ、イサ・カンポ

脚本(共同):フェラン・アラウホ

撮影:ディエゴ・ドゥスエル

音楽:ヘラルド・ヒル

美術:ロヘル・ベリエス

編集:ドミ・パラ

製作者(共同):オリオル・マイモー、ラファエル・ポルテラ・フェレイレ、他

データ:スペイン、カタルーニャ語・フランス語・スペイン語、2016年、103分、スリラー、撮影地サジェント・デ・ガジェゴ(アラゴン州ウエスカ県北部)、バルセロナ。マラガ映画祭2016では428日上映。

 

キャスト:アレックス・モネール(レオ/ガブリエル)、エンマ・スアレス(母アナ)、セルジ・ロペス(伯父エンリク)、イゴール・スパコワスキー(従兄弟ジョアン)、ブリュノ・トデスキーニ(少年センターの指導員ミシェル)、グレタ・フェルナンデス(ガールフレンド)、ミケル・イグレシアス、シルビア・ベル、他

 

解説8年前突然行方知れずとなった少年が、心の声に導かれて国境沿いのピレネーの小さい村に戻ってくる。もはやこの世の人ではないと誰もが信じており、家族さえ謎に満ちた少年の失踪を受け入れていた時だった。青年は果たして本当にあの行方不明になった子供なのか、またはただなりすましているのか、という疑いが少しずつ浮かぶようになってくる。

 

★前作“Murieron por encima de sus posibilidades”がサンセバスチャン映画祭2014コンペティション外で上映されて間もなく、次回作の発表がジローナであった。「8年前にほぼ脚本は完成していたが、製作会社が見つからずお蔵入りしていた。一人の女性と行方不明になっていた息子が10年ぶりに出会う物語です。フランスとの国境沿いのピレネーの村が舞台、このような地域は人によっては目新しく映る所です。ツーリストとその土地で暮らす人との違いを際立たせたい。季節は真冬、とても風土に密着した映画」とインタビューで語った。イサ・カンポと8年前から構想していたこと、製作会社、キャスト陣、113日にサジェント・デ・ガジェゴでクランクイン、撮影期間は6週間の予定などがアナウンスされた。

 

     

          (本作撮影中のイサ・カンポとイサキ・ラクエスタ)

 

★最初の構想では母子の出会いは10年ぶりだったこと、まるで神かくしにあったかのように突然消えてしまった息子がピレネーの反対側、フランスの少年センターで発見されることなど若干の相違が見られます。製作会社のうちLa Termita Filmsは二人が設立しており、責任者は主にイサ・カンポのようです。製作会社が見つからなければ自分たちで作ってしまおう、というのが若いシネアストたちの方針なのでしょう。

 

   

        (主役のガブリエルを演じたアレックス・モネール、映画から)

 

監督紹介

イサキ・ラクエスタ Isaki Lacuesta 1975年、へロナ(カタルーニャ語ジローナ)生れ、監督、脚本家、製作者、両親はバスク出身。バルセロナ自治大学でオーディオビジュアル・コミュニケーションを学び、Pompeu Fabra 大学のドキュメンタリー創作科の修士号取得、ジローナ大学の文化コミュニケーションの学位取得。マラガ映画祭2011エロイ・デ・ラ・イグレシア賞を受賞している。現在は映画、音楽、文学についての執筆活動もしている。共同監督のイサ・カンポと結婚、二人三脚で映画を製作している。

 

長編フィルモグラフィー(長編ドキュメンタリーを含む)

2002Cravan vs Cravan

2006La leyenda del tiempo”『時間の伝説』ラス・パルマス映画祭特別審査員賞受賞、アルメニアのエレバン映画祭の作品賞「銀のアプリコット賞」受賞、他

2009Los condenados サンセバスチャン映画祭FIPRESCI国際映画批評家連盟賞受賞

2010La noche que no acaba”(ドキュメンタリー)

2011El cuaderno de barro”(61分の中編ドキュメンタリー)ビアリッツ・オーディオビジュアル・プログラマー国際映画祭FIPA「音楽ライブ」部門ゴールデンFIPA受賞、ゴヤ賞2012ドキュメンタリー部門ノミネーション

2011Los pasos dobles”サンセバスチャン映画祭2011金貝賞受賞作品、他

2014Murieron por encima de sus posibilidades”コメディ、サンセバスチャン映画祭2014コンペティション外出品作品

2016La propera pell”本作

  

  

 (「金貝賞」のトロフィーを手にしたラクエスタ監督と脚本家イサ・カンポ、授賞式にて)

 

★第2La leyenda del tiempo(『時間の伝説』)は二つのドラマ、カンタオールの家系に生まれた少年イスラの物語とカンタオーラを目指してスペインにやってきた日本女性マキコの物語を交錯させ、二人の出会いと喪失感を描いたもの。日本はフラメンコ愛好者がスペインを除くと世界で一番多い国ということか、あるいは日本女性(マキコ・マツムラ)が出演していたせいか、セルバンテス文化センター「土曜映画上映会」で2010年上映された(日本語字幕入り)。個人的にはMurieron por encima de sus posibilidadesのような100%フィクションのコメディが好みですが、あまり評価されなかった。ボクもワタシも仲間に入れてとばかり人気俳優が全員集合しての演技合戦、その中から今回の主役アレックス・モネール、エンマ・スアレス、セルジ・ロペスなどが起用されました。

 

イサ・カンポ Isa Campo 1975年生れ、脚本家、監督、製作者。バルセロナのPompeu Fabra 大学の映画演出科で教鞭をとっている。ラクエスタとの脚本共同執筆歴が長く、Los condenadosLa noche que no acabaEl cuaderno de barroLos pasos doblesMurieron por encima de sus posibilidades5作でコラボしている。アルバ・ソトラのドキュメンタリーGame Over15)は、ガウディ賞2016(ドキュメンタリー部門)で作品賞を受賞している。監督としては短編、ビデオ多数、本作が長編映画デビュー作である。最近1児の母になった。現在はウルグアイ出身のフェデリコ・ベイロフの脚本を執筆中、彼の最新作はサンセバスチャン映画祭2015で“El apóstata”(ウルグアイ、フランス、チリ合作)で審査員スペシャル・メンションを受賞した。ほかにコメディ“Acné”(08、アルゼンチン、メキシコ他との合作)が『アクネACNE』の邦題で短期間公開されている。

 

 

  (“Murieron por encima de sus posibilidades”撮影頃のカンポとラクエスタ)

 

キャスト陣:最近のエンマ・スアレスは話題作に出演している。若いころには上手い女優とは思わなかったが監督には恵まれている。年齢的にはおかしくないのですが、アルモドバルのJulietaでも母親役でした。セルジ・ロペスはポル・ロドリゲスのQuatretondetaで紹介したばかりです。

 

 
         (エンマ・スアレスとアレックス・モネール、映画から)

 

★若いアレックス・モネール1995年バルセロナ生れ、上記したようにMurieron por encima de sus posibilidadesにチョイ役で出演しています。デビュー作はパウ・プレイシャスPreixasHéroes10)、パトリシア・フェレイラの話題作Els nens salvatges(“Los niños salvajes”)で3人の若者の一人に抜擢された。マリア・レオンとゴヤ・トレドが共演したベレン・マシアスのMarsella14)、日本ではパコ・プラサの[REC]312)で登場しています。

ベレン・マシアスの“Marsella”の記事は、コチラ⇒2015

 

 

     (セルジ・ロペスとアレックス・モネール、映画から)

 

ブリュノ・トデスキーニは、1962年スイス生れ、フランス映画で活躍している。スペイン映画ではアグスティ・ビリャロンガのEl pasajero clandestino95)やヘラルド・エレロのTerritorio Comanche97)に出演している。しかし本拠地はフランス、パトリス・シェローのお気に入り、『王妃マルゴ』94)、『愛する者よ、列車に乗れ』98)に出演している。代表作は2003年のベルリン映画祭でシェロー監督が銀熊賞を受賞した『ソン・フレール―兄との約束』の難病に冒された兄役でしょうか。見続けるのがなかなか辛い映画でしたが、ルミエール賞受賞ほかセザール賞ノミネーションなどを受けた作品。  

 

 

   (左から2人目がブリュノ・トデスキーニ、アレックス・モネール、エンマ・スアレス)


イネス・パリスの新作は悲喜劇*マラガ映画祭2016 ⑤2016年04月25日 15:41

        ベレン・ルエダがコメディに初挑戦、40代は女優の曲がり角

 

イネス・パリスの第4作めLa noche que mi madre mató a mi padreは、「お母さんがお父さんを殺しちゃった夜」などと物騒なタイトルですが辛口コメディです。監督は『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』2002)で長編デビュー、運良く「東京国際レズ&ゲイ映画祭2003」で上映され、2004年から始まったラテンビートでも見ることが出来ました。ベレン・ルエダといえば、日本ではアメナバルの『海を飛ぶ夢』、フアン・アントニオ・バヨナの『永遠の子どもたち』、ギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』などが話題作です。初のコメディ挑戦がウリですが、本人によると大方のイメージとは異なってコミカルな性格だそうで、TVドラでも実証済みです。共演者はエドゥアルド・フェルナンデス、マリア・プジャルテ、フェレ・マルティネス、ディエゴ・ペレッティ、パトリシア・モンテロと演技派が集合して危なげない。

 

 

 (オール出演者、ルエダ、フェルナンデス、ペレッティ、他)

 

   La noche que mi madre mató a mi padre2016

製作:La Noche Movie A.I.E. / Sangam Films / Post Eng Producciones /

     共同製作TVE / Movistar / Crea S.G.R. / 協賛ICAA / Cultura Arts

監督・脚本:イネス・パリス

脚本(共同):フェルナンド・コロモ

撮影:ネストル・カルボ

音楽:アルナウ・バタリェル

編集:アンヘル・エルナンデス・ソイド

美術:ラウラ・マルティネス

衣装デザイン:ビセンテ・ルイス

メイクアップ・ヘア:ラケル・コロナド(ヘア)、サライ・ロドリゲス(メイク)

製作者:ベアトリス・デ・ラ・ガンダラ、ミゲル・アンヘル・ポベダ

データ:スペイン、スペイン語、2016年、コメディ、撮影地バレンシア、マラガ映画祭2016424日上映

 

キャストベレン・ルエダ(イサベル・パリス)、エドゥアルド・フェルナンデス(夫アンヘル)、マリア・プジャルテ(アンヘルの元妻スサナ)、ディエゴ・ペレッティ(俳優ディエゴ・ペレッティ)、フェレ・マルティネス(イサベルの元夫カルロス)、パトリシア・モンテロ(カルロスの恋人)、他

 

解説:美の衰えを抱きはじめた40代の女優イサベルの物語。プロフェッショナルな女優の価値について、つまり年を重ねることの恐れ、その能力、不安定、矛盾、コケットリー、苦しみなどを議論したいと思っている。イサベルと脚本家の夫アンヘルは、アンヘルの元妻で映画監督のスサナとアルゼンチンの俳優ディエゴ・ペレッティを夕食に招待する。ディエゴが今度の映画の主役を引き受けるよう説得するためだ。夕べの集いのなかば過ぎ、イサベルの元夫カルロスが若いガールフレンドを連れて闖入してくる。彼女はディエゴに秋波を送り男の欲望を掻きたてる戦術にでる。予期せぬ事態に宴は混乱、ひとつめの死体が転がることに。果たして死体は一つですむのでしょうか。

 

         21世紀のもつれあった夫婦関係を模索する?

 

★「登場人物はすべてアーティスト、自由放縦なボヘミアン、意志が弱く、エゴイスト、さらに思い込みが激しく夢見がち」とイネス・パリス監督。かつてフランコ時代に描かれた家族像とは様変わりしている。例えばフェルナンド・パラシオスの『ばくだん家族』(62)、貧しいけれど父親と母親、子供たち、祖父母世代は遠くに住んでいる。結婚は1回で子沢山、これが当たり前の家族だった。ビジネス絡みとはいえ、夫婦が自宅に元夫と元妻を招待して一緒に夕べの宴をするなどありえなかった。また先日訃報に接したばかりのミゲル・ピカソの『ひとりぼっちの愛情』(64)、これはミゲル・デ・ウナムーノの同名小説“La tía Tula”の映画化ですが、妻が死んで残された夫とまだ母親が必要な子供が残される。婚期を過ぎた妻の美しい妹が見かねて母親代わりになる。夫も義妹も心のなかでは想い合うが・・・と、まあ焦れったい物語です。義妹になった女優の演技、心理描写の巧みさで現在見ても面白いかと思いますが、歴史を感じさせます。これはサンセバスチャン映画祭で監督賞、シネマ・ライターズ・サークル作品賞などを受賞した作品でした。

 

 

       (本作について語るイネス・パリス)

 

監督紹介

イネス・パリスは、1962年マドリード生れ、監督、脚本家。大学では哲学を専攻(哲学者カルロス・パリスが父)、特に美学と芸術理論、のち舞台芸術の演技と演出を学んだ。映画、テレビ、ドキュメンタリーの脚本家として出発、2002年ダニエラ・フェヘルマンとの共同監督作品『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』で監督デビュー(フィルモグラフィーは下記参照)。現在は、スペイン及び海外の映画学校で教鞭をとるほか、男女平等についての記事を執筆している。CIMAAsociacion de Mujeres Cineastas y de los Medios Audiovisuales)の会長を5年間務め、またアフリカ女性の自立を援助する財団の顧問でもある。

 

   

           (フェルナンデス、ルエダ、監督、ペレッティ)

 

フィルモグラフィー(長編映画の監督作品)

2002A mi madre le gusutan las mujeres”コメディ『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』

2005Semen, una histiria de amor”コメディ(問題を抱えた現代女性についての白熱した考察)

2007Miguel y William”(セルバンテスとシェイクスピア)

2016La noche que mi madre mató a mi padre”コメディ

うち第3作目“Miguel y William”は、16世紀末、一人の女性(エレナ・アナヤ)に魅せられてしまった二大作家セルバンテス(フアン・ルイス・ガリアルド)とシェイクスピア(ウィル・ケンプ)を交錯させたドラマ。その体験がミゲルに『ドン・キホーテ』を、ウィリアムに三大悲劇(ハムレット、オセロ、リア王)を書かせたというお話。

   

キャスト紹介

ベレン・ルエダは、1965年マドリード生れ、キャリアについては公開作品『海を飛ぶ夢』『永遠のこどもたち』の公式サイトに詳しいが、TVドラ出演がもっぱらで、『海を飛ぶ夢』が映画デビューだったという遅咲きの女優。本作では40代後半の女優に扮したが、実際は既に51歳になっている。冒頭に触れたようにコミカルな性格、「我が家にいるときは、家族を笑わせるピエロ役、でもコメディを演ずることとピエロであることは同じではない」とインタビューに応えている。「女性の脚本家が不足しているから、ある年齢に達した女優が優れたホンに出会えるチャンスは多くない」とも。

 

マリア・プジャルテは、1966年、ガリシアのア・コルーニャ生れ。“Miguel Willam”を除いてイネス・パリスのデビュー作『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』から出演している。脇役が多いから結果的に出演本数は多くなり、主にバルセロナ派の監督に起用されている。なかでセスク・ゲイの群像劇『イン・ザ・シティ』では、エドゥアルド・フェルナンデスや『マイ・マザー~』のレオノール・ワトリングなどと共演している。

 


 (死体に唖然とするプジャルテ、ペレッティ、フェルナンデス)

 

エドゥアルド・フェルナンデスは、1964年バルセロナ生れ、ルエダ同様公開作品が多いから説明不要でしょうか。1985年シリーズTVドラで出発した。公開作品を時系列で並べると、ビガス・ルナ『マルティナは海』01)、アグスティン・ディアス・ヤヌス『アラトリステ』06)、アグスティ・ビリャロンガ『ブラック・ブレッド』10)、アレハンドロ・G・イニャリトゥ『ビューティフル』10)、アルモドバル『私が、生きる肌』11)、ダニエル・モンソン『エル・ニーニョ』14)など。その他、F・ハビエル・グティエレス『アルマゲドン・パニック』08)やビセンテ・ランダ『ザ・レイプ』09)などがDVD化されています。当ブログでは、アルゼンチン監督のマルセロ・ピニェイロのEl método05)とグラシア・ケレヘタのFelices 14014)でご紹介しています。

El método”の記事は、コチラ⇒20131219

Felices 140”の記事は、コチラ⇒201517

 

フェレ・マルティネスは、アメナバルの『テシス、次に私が殺される』95)のホラー・オタク青年、フリオ・メデムが次回作を撮れなくなったほど大成功をおさめた『アナとオットー』98)の主人公オットー、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』の監督役など、公開された話題作に出演している。

 

パトリシア・モンテロは、1988年バレンシア生れ。1999年、マリアノ・バロッソのLos lobos de Washingtonで映画デビュー、本作にはエドゥアルド・フェルナンデスやマリア・プジャルテが出演していた。その後シリーズTVドラ出演に専念、代表作の殆どがTVドラである。2011年ダビ・マルケスのEn fuera de juegoの小さい役で映画復帰、本作が本格的な映画出演のようです。

 

    (カルロス役のフェレ・マルティネスとガールフレンドのパトリシア・モンテロ)

 

ディエゴ・ペレッティは、アリエル・ウィノグラードの第4作になるロマンチック・コメディSin hijosにマリベル・ベルドゥと共演したアルゼンチンの俳優。ここではオシャマな娘に振り回されるバツイチを演じた。1963年ブエノスアイレス生れ、ルシア・プエンソの『ワコルダ』で少女リリスの父親を演じて既に日本登場の俳優です。本作では本人と同じ名前ディエゴ・ペレッティで登場します。キャリアについてはご紹介済みです。

Sin hijos”とディエゴ・ペレッティのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2015824

 

    

   (マラガに勢揃いした監督以下の女優陣、右端は製作者ベアトリス・デ・ラ・ガンダラ)

 

★開幕2日前には赤絨毯が敷かれてからはフェスティバル・ムードも盛り上り、23日夜には最高賞のマラガ賞がバス・ベガに手渡されました。こんな鈍行では51日のクロージングまでどれだけご紹介できるか分かりませんが、馴染みのある監督や俳優が出演している映画を拾っていきたい。

 

カンヌ映画祭もオフィシャル・セクションのノミネーションが発表になりました。予想通りアルモドバルの“Julieta”が選ばれ、下馬評ではパルムドール、審査員賞などが取りざたされておりますが、個人的には厳しいかなと思います。ラテンアメリカからはブラジルのKleber Mendonça Filho(クレベル・メンドンサ・フィーリュ?)の“Aquarius”(フランスとの合作)がノミネートされました。「ある視点」部門では、アルゼンチンから若い二人の監督アンドレア・テスタとフランシスコ・コルテスのデビュー作“La larga noche de Francisco Sanctis”がいきなりノミネートされ、若い二人は夢心地です。マラガのあとカンヌ特集を予定していますので、いずれご紹介することになるでしょう。

ブラック・コメディ”Quatretondeta”*マラガ映画祭2016 ④2016年04月22日 18:16

      コンペティション第2弾“Quatretondeta”って何のこと?

 

  

ポル・ロドリゲスのデビュー作Quatretondetaは、スペイン人が大好きなブラック・コメディ。ホセ・サクリスタン、ライア・マルル、セルジ・ロペス、フリアン・ビジャグラン、大物ベテランと中堅演技派3人が一つのお棺を取り合ってクアトレトンデタ村を目指してアリカンテへ、果たして辿り着けるのでしょうか。「Quatretondeta」(マップはCuatretondeta)は、アリカンテ州の北部、セタ谷の切り立った岩山に取り囲まれた小さな村の名前です。ウィキペディアによると、1602年にはモリスコ(レコンキスタ以後キリスト教に改宗してスペインに留まったモーロ人)の40家族が暮らしていたとある。現在の人口わずか138人という死ぬほど静かな村です。しかし気候のよい季節には山歩きのハイカーの拠点になっているとか。

 

    

           (こんな感じの村です。観光案内のサイトから)

 

    Quatretondeta” 2016

製作:Arcadia Motion Pictures / Noodles Production / Afrodita Audiovisual /

共同製作TVE & TV3、協賛 ICAA & ICEC

監督・脚本:ポル・ロドリゲス

音楽:Joan Valent

撮影:カルレス・グシ

データ:スペイン、カタルーニャ語、2016年、92分、コメディ、撮影地クアトレトンデタを含むアリカンテほか、マラガ映画祭2016正式出品、429日上映、アメリカ公開が予定されている。

 

キャスト:ホセ・サクリスタン(トマス)、ライア・マルル(ドラ)、セルジ・ロペス(ヘノベス)、フリアン・ビジャグラン(イニャキ)、ロベルト・フェランディス(サクリスタンのスタントマン)、マリアノ・フェレ(同)、ハビエル・ホルダ(同)、アルムデナ・クリメント(村長の妻)、他

 

解説:妻に死なれて埋葬地に奔走する老トマスの物語。亡骸はアリカンテの内陸部にあるクアトレトンデタ村に埋葬して欲しいという妻の願いを叶えてやりたいトマス。一方、妻の親族は故郷のパリに埋葬したいと遺体を渡さない。そこで遺体を密かに盗み出そうと決心、クアトレトンデタに向かうが、なにせ老人のことゆえ記憶が定かでなく道に迷ってしまう。パリで暮らしていた妻の娘ドラはできる限り早く母親をパリに連れて帰りたいとやってきたが遺体が見当たらない。この義理の娘は冷酷なうえ計算高く、母親所有の財産を手に入れようとしていた。ドラは仕方なく一風変わった葬儀屋イニャキとヘノベスを巻き込んで、追いつ追われつの追跡劇が始まった。到着してみればクアトレトンデタ村はフィエスタの最中、果たして遺体はどちらの手に渡るのでしょうか。

 

★長い人世では時には忘れることが幸せな場合もありますが、日を追うごとに記憶力が減退していくのは辛いことです。如何に記憶を保ち、曖昧になった記憶をよみがえらせることに時間を費やすことになる。最初のタイトルは“Camino a casa”(カタルーニャ語“Cami a casa”)だったようです。これも悪くないが平凡、Quatretondetaのほうが興味を唆られる。IMDbではカタルーニャ語となっているが、予告編ではスペイン語だった。マラガではどういうかたちで上映されるのだろうか。最初、架空の村かと思っていましたが、オリーブの木に囲まれた観光地のようです。山歩き愛好家には人気の場所、ホテルなど宿泊施設もある。映画に出てくるモーロ人のフィエスタにはプータも出張してくる(笑)。

 

 
 (モーロ人の衣装を着て祭りに参加したトマスとイニャキたち、“Quatretondeta”から)

 

★監督紹介:ポル・ロドリゲスPol Rodriguezは、監督、脚本家。正確な出身地・生年は検索できなかったが、1997年に映画の世界で仕事を始めたとあるので、1970年代と推測します。本作が長編デビュー作品ですが、キャリアを調べると、実に長い助監督時代を経てきています。テレドラ、ドキュメンタリーを含めて35作品に上るから最近の若い監督としては珍しいタイプかもしれない。なかで公開、映画祭上映作品として、ホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』07)、クラウディア・リョサの『悲しみのミルク』09)、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』10)などが挙げられる。

 

         

                (ポル・ロドリゲス監督)

 

★最近ではリュイス・ミニャロのStella cadente14)、美術・衣装デザインのカテゴリーでガウディ賞を受賞した作品や、昨年のマラガ映画祭に正式出品されたバーニー・エリオットのスリラーLa deudaOliver’s Deal2014、西=米=ペルー)でも助監督を務めた。何かの賞に絡むかと期待して紹介記事を書きましたが、監督がアメリカ人、オリジナル版が英語というハンディキャップのせいか無冠でした。他にもスペイン人以外の監督とのコラボがあるように、若い監督は国籍にはこだわらない。

La deuda”(“Oliver’s Deal”)の記事は、コチラ⇒2015419

 

  主なキャストのプロフィール

ホセ・サクリスタン1937年チンチョン生れ。当ブログには度々登場してもらっていますが、最近の活躍をコンパクトにまとめると、名画の誉れ高いマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)出演をはじめとして、オールドファンには忘れがたい作品に名脇役としてその長い芸歴を誇っています。最近ではカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14)にバルバラ・レニー扮する本当のマジカル・ガールに翻弄される数学教師を演じました。一時舞台に専念してスクリーンから遠ざかっておりましたが、復帰して撮ったタビ・トゥルエバのMadrid 198711)が評価され「フォルケ賞2013最優秀男優賞、ハビエル・レボージョのブラック・コメディEl muerto y ser feliz12)でサンセバスチャン映画祭2012銀貝男優賞とゴヤ賞2013主演男優賞を受賞、さらにはマラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞を受賞するなど受賞ラッシュが続いており、現在では銀幕でひっぱりダコです。

ゴヤ賞・フォルケ賞の関連記事は、コチラ⇒2013818

レトロスペクティブ賞の関連記事は、コチラ⇒201447

 

       

     (ホセ・サクリスタン、右側がセルジ・ロペス、“Quatretondeta”から)

 

ライア・マルルは、1973年バルセロナ生れ、代表作はサルバドル・ガルシア・ルイスのMensaka98)、アントニオ・エルナンデスのLisboa99)、セルジ・ロペスと共演している。翌年ミゲル・エルモソのFugitivasでゴヤ賞新人女優賞を受賞して女優としての地位を確立した。つづいてイシアル・ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』03)でゴヤ賞主演女優賞、シネマ・ライターズ・サークル女優賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞以下、数えきれない賞を受賞した。再びサルバドル・ガルシア・ルイスのLas voces de la noche03)でヒロインに抜擢された。ヤニス・スマラグディスのEl Greco07)、エル・グレコがギリシャ人だったこともあり、テッサロニキ映画祭では観客賞、作品賞以下賞を総なめにし、ガウディ賞ノミネーション、ゴヤ賞では衣装デザイン賞を受賞するなどした話題作。前述したビリャロンガの『ブラック・ブレッド』など。ここしばらくTVドラ出演が多く、本作でカムバックしたようです。監督との接点は『ブラック・ブレッド』でしょうか。

 

     

            (ライア・マルル、“Quatretondeta”から)

 

セルジ・ロペスは、なんといってもギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』06)の憎っくきビダル大尉でしょうか。1965年バルセロナ近郊生れ、本格的な演技はフランスのジャック・ルコック演劇学校で学んだ。フランス語ができ、デビューはマニュエル・ポワリエのLa petite amie d’Antonio92)でいきなり主役のアントニオに起用された。したがって最初の頃はフランス映画出演が多く、ドミニク・モル監督の『ハリー、見知らぬ友人』でセザール賞2000主演男優賞を受賞しているほど。フランソワ・オゾンのファンタジー『リッキー』09)など。スペイン語映画では、『パンズ・ラビリンス』のあと、イサベル・コイシェの『ナイト・トーキョー・デイ』09)、『ブラック・ブレッド』、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』14)などでしょうか。いかつい顔から悪役、シリアスドラマ、コメディとこなして演技の幅は広い。

 

      

            (セルジ・ロペス、“Quatretondeta”から)

 

フリアン・ビジャグランは、1973年カディス生れ、ダニエル・サンチェス・アレバロのデビュー作『漆黒のような深い青』06)が日本発登場でしょうか。フェリックス・ビスカレットのBajo las estrellas07)、ナチョ・ビガロンドのExtraterrestre11)、アルベルト・ロドリゲスのGrupo 7の演技が認められ、ゴヤ賞2013助演男優賞、スペイン俳優組合賞助演男優賞を受賞した。ビガロンドの『ブラック・ハッカー』14)は、イライジャ・ウッドが主演だったからか、テーマが今日的だったかで直ぐ公開された。横道に逸れるがビガロンド監督は、デビュー作となったサスペンス『タイム・クライムス』以来、コアなファンがいるようです。前回紹介したコルド・セラの「ゲルニカ」にも出演している。

 

   

    (フリアン・ビジャグラン、後ろ向きがサクリスタン、“Quatretondeta”から)

 

★撮影監督のカルレス・グシは、『テイク・マイ・アイズ』、『エル・ニーニョ』、『プリズン211』など手がけているベテラン。本作はロードムービーの要素もあるから、上映を待ち焦がれているファンも多いのではないか。予告編の面白さから判断するに、必ず賞に絡むのではないか。

 

★次回はイネス・パリスのコメディ“La noche que mi madre mató mi padre”の予定。


コルド・セラの第2作「ゲルニカ」*マラガ映画祭2016 ③2016年04月20日 19:56

         「ゲルニカ」といってもピカソは出てきません

 

★「ゲルニカ」と聞けば「ピカソ」に繋がる。ピカソが「ゲルニカGuernicaを描かなかったら、ゲルニカは観光地にはならなかったでしょう。現地に行ったことがない人でも、マドリードを訪れた観光客は「ゲルニカ」が展示されている美術館に案内される。日本で言えば国宝級なのか特別室に展示され監視人がいて近づけない。以前東京でも横長の実物大(7.82m×3.5m)のレプリカが展示されたことがあったほどの大作。フランコ没後民主主義移行期の1981年、亡命先の「ニューヨーク近代美術館」より返還されることになった。それで「最後の亡命者の帰国」と言われた。しかし既にピカソ亡き後のことで遺産問題も絡まって、どこの美術館で展示するかで喧々諤々、白熱の議論のすえにピカソが名誉館長を務めたこともあるプラド美術館へ、しかし本館ではなく別館だったことで当時の館長が辞任するなどのテンヤワンヤ、なんとかピカソ生誕100周年記念日の1025日に一般公開された。更に1992年に開館した王立ソフィア王妃芸術センターの目玉としてお引っ越し、現在はここの特別室で展示されています。

  

 

 (ピカソが50日間で一気に描いた「ゲルニカ」、王立ソフィア王妃芸術センターに展示)

 

 マリア・バルベルデが共和派報道機関の編集者を力演

 

★さて本題、ビスカヤ県の町ゲルニカは、スペイン内戦中の1937426日、ナチス・ドイツ空軍機によって史上初めてという無差別爆撃を受けた。当時共和派の軍隊は駐屯しておらず全く無防備の町であったという。どうしてナチスが第二次世界大戦勃発前に無防備のバスクの町を爆撃のターゲットにしたのか。いったいスペイン内戦とは誰と誰が戦ったのか。これがコルド・セラの長編第2Gernikaのメインテーマでしょうか。しかし本当のテーマは、やはり「愛と自由」かもしれません。マラガ映画祭2016正式作品、無差別爆撃を受けた426日に上映。スペイン公開は今年の秋が予定されている。 

           

                   

                                    (ポスター)

 

    Gernika(英題“Guernica”)2016

製作:Pecado Films / Travis Producciones / Pterodactyl Productions / Sayaka Producciones /

      ゲルニカ The Movie 協賛カナル・スール、ICAA 他

監督:コルド・セラ

脚本:ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ・コボス、バーニー・コーエン

撮影:ウナックス・メンディア

編集:ホセ・マヌエル・ヒメネス

衣装デザイン:アリアドナ・パピオ

製作者:バーニー・コーエン & ジェイソン・ギャレット(エグゼクティブ)、ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ、ダニエル・Dreifuss 他

データ:製作国スペイン、スペイン語、撮影地ゲルニカ、マラガ映画祭2016426日上映、スペイン公開は今秋、製作費約580万ユーロ(ゲルニカ市、ビルバオ市、バスク政府、アラゴン政府などから資金援助を受けた)

 

キャストマリア・バルベルデ(テレサ)、ジェームズ・ダーシー(ヘンリー)、ジャック・ダヴェンポート(ワシル)、バーン・ゴーマン、イレネ・エスコラルイングリッド・ガルシア=ヨンソン、アレックス・ガルシア、フリアン・ビジャグラン、バルバラ・ゴエナガ、ビクトル・クラビホ、ナタリア・アルバレス=ビルバオ、ラモン・バレア、イレナ・イルレタ、他

 

解説:時は内戦勃発翌年の1937年、スペイン女性テレサとアメリカ人ヘンリーの戦時下での屈折した愛の物語。テレサは共和派の報道機関に勤めている編集者、ヘンリーは北部戦線を取材しているジャーナリスト、二人は意見の相違で対立している。テレサの上司ワシルは共和派政府の助言者として派遣されたロシア人、若く美しいテレサに気がある。いずれテレサはヘンリーの非現実的な理想主義に魅せられていくだろう。そして彼女のたった一つの目的、真実を語るための使命に目覚めることだろう。

 

    

       (テレサ役マリア・バルベルデとヘンリー役ジェームズ・ダーシー)

 

★複雑で謎だらけのスペイン内戦の総括はまだ完全には終わっていないと思いますが、ファッシズムと民主主義の闘いではなかったことだけは明らかでしょう。どの戦争でも同じことと思いますが、共和派善VSフランコ派悪のように、真実はそれほど単純ではない。はっきりしているのは、共和派側についたのがソビエト、フランコ派を応援したのがドイツ、イタリア、ポルトガルということです。イギリスやフランスは心情的には共和派側だが、教科書的には中立だった。長いフランコ独裁制や米ソ冷戦構造が貴重な研究成果を覆い隠してしまっている。これがスペインで繰り返し映画化される原因の一つです。

 

コルド・セラKoldo Serra de la Torre1975年ビルバオ生れ、監督、脚本家。バスク大学美術科オーディオビジュアル専攻、ビルバオ・ファンタスティック映画祭のポスターを描きながら(200004)、コミックやデザインを学ぶ。“La Bestia del día”というタイトルで、短編のコミック選集を出版する。1999年、ゴルカ・バスケスとの共同監督で短編Amor de madreを撮り、ムルシア・スペイン・シネマ週間で観客賞を受賞した。これにはライダー役で自身出演している。2003年、短編El tren de la brujaがアムステルダム・ファンタジック映画祭でヨーロッパ・ファンタジック短編に贈られる「金のメリエス」を受賞、国際的にも評価される(ナチョ・ビガロンドとの共同脚本)。他シッチェス映画祭短編銀賞、サンセバスチャン・ホラー・ファンタジー映画祭最優秀スペイン短編賞、Tabloid Witch賞他、受賞歴多数。

 

   

       (タブロイド・ウィッチ賞のトロフィーを手にしたコルド・セラ)

 

2006年長編映画デビューBosque de sombras(“The Backwoods”仏=西=英、英語・スペイン語)は、サンセバスチャン映画祭の「サバルテギ新人監督」部門で上映、プチョン富川国際ファンタスティック映画祭2007に出品された。1970年代後半のバスクが舞台のバイオレンス・ドラマ、スペイン側からはアイタナ・サンチェス=ヒホン、リュイス・オマール、アレックス・アングロなどが出演している。10年のブランクをおいて本作が第2作目、主に脚本執筆、TVドラを手がけていた。ビルバオ出身の監督としては、1960年代生れのアレックス・デ・ラ・イグレシア、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)の次の世代にあたる。

 

          

               (“Bosque de sombras”から)

 

★製作国はスペインですが、男優陣は英国出身の俳優が起用されている。なかでジェームズ・ダーシー、ジャック・ダヴェンポート、バーン・ゴーマンの3人は公開作品が結構ありますので簡単に情報が入手できます。ヘンリー役のジェームズ・ダーシー1975年ロンドン生れ、1997年ブライアン・ギルバートの『オスカー・ワイルド』の小さな役で長編デビュー、セバスチャン・グティエレスのホラー『ブラッド』にカルト集団のメンバーとしれ出演、マドンナの第2作『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(11)でエドワード8世に扮した。続いて1960年の『サイコ』の舞台裏を描いたサーシャ・ガヴァンの『ヒッチコック』12)では、主人公ノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスに扮した。ヒッチコックをアンソニー・ホプキンスが演じるなど、テレビ放映もされた。最新作はジェームズ・マクティーグの『サバイバー』15)でアンダーソン警部役になった。

 

ジャック・ダヴェンポートは、1973年イギリスのサフォーク生れ、両親とも俳優、幼児期はスペインのイビサ島で育った。1997年、『危険な動物たち』で映画デビュー、ゴア・ヴァービンスキーのシリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』030607)のノリントン提督役で知られている。マシュー・ヴォーンのスパイ物『キングスマン』14)に出演している。最新作のGernikaではスターリン信奉者のロシア人になる。

 

バーン・ゴーマンは、1974年ハリウッド生れ、しかし家族と一緒にロンドンに移住している。父親がUCLAの言語学教授という家庭で育った。1998年テレドラで俳優デビュー、日本での公開作品は、マシュー・ヴォーンの『レイヤー・ケーキ』04)、クリストファー・ノーランの『ダークナイト・ライジング』12)、ロドリゴ・コルテスの『レッド・ライト』12)、ギレルモ・デル・トロの『パシフィック・リム』13)、同監督の最新作『クリムゾーン・ピーク』15)は今年1月に公開されたばかり。英語映画、それもスリラーやホラーは公開されやすい。

 

マリア・バルベルデは、1987年マドリード生れ、マヌエル・マルティン・クエンカのLa flaqueza del bolchevique2003)でデビュー、翌年のゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞の新人女優賞を受賞した。日本登場はアルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(ラテンビート2014)で薄命のボリバル夫人を演じた女優。当ブログでは、マリア・リポルのロマンチック・コメディAhora o nunca2015)でダニ・ロビラと共演して成長ぶりを示した。汚れ役が難しいほど品よく美しいから、逆に女優としての幅が狭まれているが、そろそろお姫さま役は卒業したいでしょう。監督との出会いはTVドラ出演がきっかけのようです。

 

     

            (一時より痩せた監督とマリア・バルベルデ)

 

イレネ・エスコラルは、Un otoño sin Berlínで今年のゴヤ賞新人女優賞を受賞している。イングリッド・ガルシア=ヨンソンは、オープニング上映となったキケ・マイジョのToroにも出演しており、目下躍進ちゅうの「三美人」を起用するなど話題提供も手抜かりない印象です。

 

 

      (イレネ・エスコラル、映画から)

 

コメディ“Ahora o nunca”とマリア・バルベルデの記事は、コチラ⇒2015714

スリラー“Toro”とイングリッド・ガルシア=ヨンソンの記事は、コチラ⇒2016414

 

       

         (撮影終了を祝って記念撮影、中央の小柄な男性が監督)

オフィシャル・セクション14作*マラガ映画祭2016 ②2016年04月16日 16:05

 

     目玉は“Gernika”か“Quatretondeta”か、今年も混戦模様

 

★コンペティションは14作品、今年の目玉の下馬評は、GernikaQuatretondetaが先頭を走っているようです。マラガ映画祭ディレクター、フアン・アントニオ・ビガル、選択委員会メンバー、フェルナンド・メンデス=レイテ、正式作品に参加する製作者、監督などが参加してノミネーションが発表されました。若干コンペとコンペ外に移動があったようですが下記のように決定しました。まず2016年の審査員は、次の6名です。

マヌエル・マルティン・クエンカ(監督)『カニバル』『不遇』

アルベルト・アンマン(俳優)『プリズン211』“Lope”(ロペ・デ・ベガの伝記)『エヴァ』

ダニエル・グスマン(監督)昨年の最優秀作品賞(金賞)の受賞者

ベレン・ロペス(女優)1970年セビリャ生れ、主にテレビで活躍、“Aguila Roja”、映画はグラシア・ケレヘタの“15 anos y un dia”他

マヌエル・イダルゴ(作家・脚本家・ジャーナリスト)1953パンプローナ生れ、「エル・ムンド」紙で長年映画評論を執筆した。

ピラール・マルティネス=Vasseur(ナント・スペイン映画祭ディレクター)ウエスカ出身、サラゴサ大学で現代史とフランス哲学を専攻、1980年よりフランスでスペイン映画の普及に努めている。

 

オフィシャル・セクション14
1GUERNIKA 同:コルド・セラ

 

 

 

2QUATRETONDETA 同:ポル・ロドリゲス

 

 

 

3LA NOCHE QUE MI MADRE MATÓ A MI PADRE 同:イネス・パリス

 

 

4EL REY TUERTO 同:マルク・クレウエト


  

5)RUMBOS 同:マヌエラ・ブロ(ブルロ)・モレノ

 

 

  

6LA PUNTA DEL ICEBERG 同:ダビ・カノバス

 

 

 

7NUESTROS AMANTES  同:ミゲル・アンヘル・ラマタ

 

 

 

 

8JULIE  同:アルバ・ゴンサレス・モリーナ

 

 

 

9LA PROPERA PELLLa proxima piel監督:イサキ・ラクエスタ & イサ・カンポ

 

 

 

10ZOE 同:アンデル・ドゥケ

  

 

11CALLBACK 同:カルレス・トラス

 

 

 

12CERCA DE TU CASA LORIS OMEDES  同:エドゥアルド・コルテス

 

 

  

13EL FUTURO NO ES LO QUE ERA 同:ペドロ・バルベロ



 

14KÓBLIC 同:セバスティアン・ボレンステインBorensztein

 

 

 

コンペティション外

TORO  同:キケ・マイジョ

ACANTILADO 同:エレナ・タベルナ


マラガ映画祭2016*オープニングはキケ・マイジョのスリラー ①2016年04月14日 18:33

    オープニングはコンペティション外からキケ・マイジョの“Toro”に決定

 

     

         (第19回マラガ映画祭2016ポスター)

 

★第19回マラガ映画祭は例年より若干後ろにずれて422日から、クロージングは51日と月を挟んでしまいました。オープニングは公平を期してかコンペティション外からキケ・マイジョの“Toro”に決定、正式出品は14作品、コルド・セラの“Gernika”と新人ポル・ロドリゲスの“Quatretondeta”が、下馬評では先頭を走っています。

 

          

              (マリオ・カサス“toro”のポスター)

 

★第1弾は、長編デビュー作『エヴァ』(“Eva”)でゴヤ賞2012新人監督賞やガウディ賞など複数受賞したキケ・マイジョToroからご紹介。ラテンビート2012上映『エヴァ』で日本でも認知度のあるキケ・マイジョ、前作は近未来2041年が舞台のSFでしたが、近作は現代のアンダルシアを舞台に2人の兄弟が織りなすスリラー・アクション、『エヴァ』とは大分様相が異なります。暗い過去を断ち切って5年ぶりに出所してきたトロにマリオ・カサス、ワルの兄ロペスにルイス・トサール、彼には小さな娘ディアナがいる。この3人によろ48時間のアンダルシアへの逃亡劇、ハリウッド並みのカーアクションで盛大に車が吹っ飛びます。スペイン映画ファンには両人ともお馴染みでしょう。

 

   

     (なんとも冴えない髪型の兄役トサールと泥沼に落ちるカサス、映画から)

 

       Toro2015

製作:Apaches Entertainment / Atresmedia Cine / Zircozine / Escandalo Films /

     Maestranza Films

監督:キケ・マイジョ

脚本:ラファエル・コボス、フェルナンド・ナバロ

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:エレナ・ルイス

美術:ぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモ

データ:スペイン、スペイン語、2015年、スリラー、マラガ映画祭2016オープニング上映422日、撮影地アルメリア、マラガ、トレモリノス他、米国公開予定

 

キャスト:マリオ・カサス(トロ)、ルイス・トサール(兄ロペス)、ホセ・サクリスタン(ロマノ)、クラウディア・カナル(ロペス娘ディアナ)、ホセ・マヌエル・ポガ、イングリッド・ガルシア・ヨンソン(エストレーリャ)、他

 

解説:トロは彼の人生を閉じ込めた長い5年間の刑期を終えて出所してきた。反逆したい気持ちを抑えて暗い過去を断ち切り、社会復帰を目指して新たな一歩を踏み出した。しかし彼を待っていたのは、小さな娘ディアナを連れて追われている古買人の兄ロペスだった。複雑な家族関係にある兄弟は、それぞれの命を救うために古疵を癒やすことなく和解せざるをえなかった。こうして三人の目まぐるしい48時間のアンダルシアへの逃避行が始まった。暗い過去から逃げようとしても逃げられないとき、人間はどうすればいいのだろうか?

 

★故買人は盗品の事実を知っていて売買する人、ロペスは危険な古買人だった。かつてトロが引き起こした悲惨な事件にはロペスが関係しているようです。ルイス・トサールは『プリズン211』で声を潰して以来、元に戻らないのか、すっかりワルが似合う役者の仲間入りをしたようです。マリオ・カサスは、『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』、『スガラムルディの魔女』など、今はアレックス・デ・ラ・イグレシアのお気に入りとなっています。ホセ・サクリスタンは、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』のホントウの主人公になったスペイン映画の重鎮、この春やっと公開されてお目見えした。イングリッド・ガルシア・ヨンソンは、ハイメ・ロサーレスがカンヌ映画祭2014でプレミアした“Hermosa Juventud”でデビューしたスゥエーデン出身の才媛という言葉がぴったりする演技派女優(マドリード在住)、キャスト陣は不足なしでしょうか。ホセ・マヌエル・ポガはアルベルト・ロドリゲスの“Grupo 7”やハイメ・ロサーレスの“Miel de naranja”に出演している。

 

  

              (本作撮影中のキケ・マイジョ監督)

 

★スタッフ陣のうち脚本のラファエル・コボスは、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』や“Grupo 7”を手がけて、ロドリゲス監督の信頼が厚い。美術担当のぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモも『マーシュランド』組。脚本の共同執筆者フェルナンド・ナバロと撮影監督のアルナウ・バルス・コロメルはハビエル・ルイス・カルデラの『SPY TIME スパイ・タイム』を共に担当している。こうして纏めてみると、大体の輪郭が見えてきます。早ければ秋ごろ短期間かも知れませんが公開が期待できそうです。

 

特別賞の行方

本映画祭にはコンペティション以外に特別賞として本映画祭に貢献したシネアストに贈られるマラガ賞リカルド・フランコ賞エロイ・デ・ラ・イグレシア賞レトロスペクティブ賞「金の映画」ビスナガ・プラタ‘シウダ・デル・パライソ’があります。コンペの前段として受賞者の名前を簡単にお知らせいたします。判断材料として()内に昨年の受賞者を入れました。

 

マラガ賞(俳優アントニオ・デ・ラ・トーレ)

パス・ベガ(女優)

フリオ・メデムの『ルシアとSEX』(2001)でゴヤ賞新人賞他を受賞、2003年ビセンテ・アランダの『カルメン』、1999年米国のTVドラマ出演を期に軸足を海外に広げていった。2002年ベネズエラ人のオルソン・サラサールと結婚、ニ男一女の母。スペイン映画のスクリーンからは遠ざかっていますが、米国、フランス、イタリア、メキシコの映画に出ずっぱり、目下のところ海外活躍組です。 

 

カルド・フランコ賞(キコ・デ・ラ・リカ)

テレサ・フォント(映画編集者)

編集者は裏方なのでテレサ・フォントが受賞するのは嬉しい。今年「金の映画」を受賞する『アマンテス / 愛人』のビセンテ・アランダ監督の作品を数多く手がけた編集者。リカルド・フランコの“Berlin Blues”(88)、ビガス・ルナの『ハモンハモン』、3人とも既に鬼籍入り、20年前のアレックス・デ・ラ・イグレシアのホラー『ビースト 獣の日』も編集した。

 

 

エロイ・デ・ラ・イグレシア賞(監督・脚本家・俳優パコ・レオン)

サンティアゴ‘サンティ’アモデオ・オヘダ(監督・脚本家・ミュージシャン)

1969年セビーリャ生れ、ギタリスト、作曲家など多彩な顔をもつ。脚本家として出発、同郷のアルベルト・ロドリゲスとのコラボの後、長編映画“Astronautas”(03)でデビュー、ゴヤ賞新人監督賞にノミネートされた。続く2006Cabeza de Perros”は上海映画祭2007に出品、国際的にも評価される。2013年“Quién mató a Bambi”ほか。昨年のコンペティション部門審査員を務めた。

 

 

 

レトロスペクティブ賞(監督イサベル・コイシェ)

グラシア・ケレヘタ(監督)

今年も女性監督が受賞、当ブログではゴヤ賞2015作品賞ノミネーション、スペイン映画アカデミー副会長就任の記事など含めて度々ご紹介しています。

 

 

「金の映画」(オーソン・ウェルズの『フォルスタッフ』)

『アマンテス / 愛人』1991)監督ビセンテ・アランダ

主演者ビクトリア・アブリル、ホルヘ・サンス、マリベル・ベルドゥ。ゴヤ賞1992の作品賞・監督賞受賞作品。ベルリン映画祭でビクトリア・アブリルが主演女優賞を受賞、アランダの名を国際的に高めた作品。     監督と本作についての記事は、コチラ⇒201566

 

     

        (ビクトリア・アブリルとホルヘ・サンス、映画から)

 

  

ビスナガ・プラタ‘シウダ・デル・パライソ’(女優フリエタ・セラノ)

エミリオ・グティエレス・カバ(映画と舞台俳優)

1942年バジャドリード生れ、パスクアル・アルバの曾孫、イレーネ・アルバの孫、エミリオ・グティエレスとイレーネ・カバ・アルバの息子、レオカディア・アルバの甥の息子・・・と延々と続く有名なシネアスト一家。子役時代を含めると長い芸歴です。カルロス・サウラがエリアス・ケレヘタとタッグを組み、ベルリン映画祭1966銀熊監督賞を受賞した『狩り』(1965)に出演、4人の兎狩り仲間の一番若い青年役だった。アレックス・デ・ラ・イグレシアのブラック・コメディ『13みんなのしあわせ』(La Comunidad)と2002年のミゲル・アルバラデホの“El cielo abierto”でゴヤ賞助演男優賞を連続受賞、マラガ映画祭1998にも同監督の“La primera noche de mi vida”で最優秀男優賞を受賞している。

 

 

各賞の特徴と性格についてはマラガ映画祭2014にアップ、コチラ⇒201447