第66回アリエル賞2024(メキシコ)*ノミネーション発表2024年07月12日 11:22

                  リラ・アビレスの「Tótem」が最多15ノミネーション

 

         

 

619日、第66アリエル賞2024のノミネーション発表がありました。来月には『夏の終わりに願うこと』の邦題で劇場公開されるリラ・アビレスの「Tótem」が、作品賞、監督賞、脚本賞を含む最多ノミネーション15個とぶっちぎり、97日の授賞式を待つまでもなく作品賞はほぼ決まりでしょう。数が多くても空振りに終わることも多々ありますが、今回は予想通りになると思います。つづくのがダビ・ソナナの「Heroico」とエリサ・ミジェルの「Temporada de huracanes」の11個です。俳優賞は同一カテゴリーに複数ノミネートされることからカテゴリー数と一致しません。今回の「Tótem」で言うと、女優共演者賞に3人、新人俳優賞に2人が複数ノミネートされています。

選考母体はハリスコ州政府とメキシコ映画アカデミー(AMACC)、2023年中に製作された作品が対象、授賞式は97日、ハリスコの州都グアダラハラのデゴジャド劇場で開催されます。

   

         

        (最多15ノミネーションの日本語版「Tótem」ポスター)

 

★他の作品賞5作品には、タティアナ・ウエソの「El Eco」(7個)とディエゴ・デル・リオの「Todo el silencio」(6個)がノミネートされています。前者はドキュメンタリーの要素が多いことから長編ドキュメンタリー部門にもノミネートされ、後者は監督デビュー作なのでオペラ・プリマ部門にもノミネートされています。両作ともこちらで受賞する確率が高そうですが、アビレス、ミジェル、ウエソと3人の女性監督ノミネートが話題になっています。大分先になりますが、結果発表を予定しています。

   

   

             (作品賞ノミネート5作品)

 

★当ブログで作品紹介をすることの多いイベロアメリカ映画賞には、ノータッチ作品が含まれていますが、以下の5作がノミネートされています。

Al otro lado de la niebla」(エクアドル)監督セバスティアン・コルデロ

La hembrita」(ドミニカ共和国)同ラウラ・アメリア・グスマン

La sociedad de la nieve」(スペイン『雪山の絆』)同J.A. バヨナ

Los colonos」(チリ『開拓者たち』)同フェリペ・ガルベス

Puan」(アルゼンチン)同マリア・アルチェ  ベンハミン・ナイシュタット

 

 関連記事・管理人覚え

Tótem」の紹介記事は、コチラ20230831

Heroico」の紹介記事は、コチラ20230831

El Eco」の紹介記事は、コチラ20230823

『雪山の絆』の紹介記事は、コチラ202311041114

『開拓者たち』の紹介記事は、コチラ20230515

Puan」の紹介記事は、コチラ20230715

ミシェル・フランコの最新作「Memory」*ベネチア映画祭20232024年07月08日 11:24

     ジェシカ・チャステイン主演の傷ついたラブストーリー「Memory

 

       

 

★昨年の第80回ベネチア映画祭2023の記事など今更の感無きにしも非ずですが、メキシコの監督ミシェル・フランコの長編8作目Memory」の紹介です。主演がジェシカ・チャステインピーター・サースガードということですから言語は英語です。若年性認知症を患っている主人公を演じたサースガードがベネチアの男優賞ヴォルピ杯を受賞しています。ベネチアにはサースガードと結婚した女優で2021年に『ロスト・ドーター』で監督デビューも果たしたマギー・ジレンホール(英語読みギレンホール)も出席していた。

   

  

      (左から、ミシェル・フランコ監督、ジェシカ・チャステイン、

       ピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023フォトコール

  

★第77回ベネチア映画祭2020銀獅子審査員グランプリ受賞のNuevo orden」(20、『ニューオーダー』公開)以来、フランコ映画は記事にしておりませんでした。翌2021年、同じベネチアFFにノミネートされた7作目Sundown」(メキシコ・スイス・スウェーデン)は、舞台をメキシコのアカプルコに設定していますが、キャストはティム・ロスとシャルロット・ゲンズブール、言語は英語とスペイン語でした。メキシコのイアスア・ラリオスがベレニス役で共演していました。ラリオスは最近発表になったアリエル賞2024で最多ノミネーション15部門のリラ・アビレスの「Tótem」に出演している演技派女優、TVシリーズ出演が多そうで受賞歴はありませんが、ポストプロダクションで主役に起用されている映画が目白押しで将来が楽しみです。

6作目『ニューオーダー』(20)の紹介記事は、コチラ20220613

Tótem」(23)の作品紹介は、コチラ20230831

 

ミシェル・フランコ(メキシコシティ1979の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、以下にアップしております。監督にとどまらず制作会社「Teoréma」を設立して、プロデューサーとしてラテンアメリカ諸国(ロレンソ・ビガスの『彼方から』『箱』など)や独立系の米国映画(ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』など)に出資して映画産業の発展に寄与しています。

4作目『ある終焉』(16)は、コチラ2016061518

5作目『母という名の女』(17)は、コチラ20170508

 

   

 Memory

製作:High Frequency Entertainment / Teoréma / Case Study Films / MUBI / 

   Screen Capital / The Match Factory

監督・脚本:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カペ

編集:オスカル・フィゲロア、ミシェル・フランコ

キャスティング:スーザン・ショップメーカー

プロダクションデザイン:クラウディオ・ラミレス・カステリ

製作者:エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、ミシェル・フランコ、ダンカン・モンゴメリー、アレックス・オルロフスキー

 

データ:製作国メキシコ、米国、2023年、英語、ドラマ、103分、撮影地ニューヨーク、公開米国、イギリス、アイルランド、イタリア、トルコ、ポーランド、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、デンマーク、スウェーデンなど多数

映画祭・受賞歴:第80回ベネチア映画祭2023コンペティション部門ノミネート、男優賞ヴォルピ杯受賞(ピーター・サースガード)、キャスティング・ソサエティ・オブ・アメリカ(キャスティング賞スーザン・ショップメーカー)、トロントFF、チューリッヒFF、シカゴFF、モレリアFF、ほかBFIロンドン、シンガポール、シドニー、各映画祭で上映されてる。

 

キャスト:ジェシカ・チャステイン(シルビア)、ピーター・サースガード(ソール・シャピロ)、メリット・ウェヴァー(シルビアの姉妹オリビア)、ジェシカ・ハーパー(シルビアの母親サマンサ)、ブルック・ティムバー(シルビアの娘アンナ)、ジョシュ・チャールズ(ソールの兄弟アイザック)、エルシー・フィッシャー(サラ)、他多数

 

ストーリー:シルビアとソールの物語。シルビアは10代の娘を育てているシングルマザー、ソーシャルワーカーとして忙しい毎日を送っている。克服しようとしているアルコール依存症は、幼少期の虐待の結果による。姉妹のオリビアとは関係を保っているが、母親サマンサとは疎遠になっている。ソールは最近妻を亡くして兄アイザックと暮らしている。記憶が少しずつあいまいになっていく若年性認知症に直面して落胆の日々を過ごしている。シルビアは高校の同窓会の帰途、先輩だったソールにストーカーされる。シルビアはかつて彼女をレイプしようとした少年たちの一人と間違える。二人の漂流者の意外な出会いは、シルビアの日常生活に混乱を生じさせてくる。多くの記憶を覚えている人と記憶を忘れ始めている人のあいだのラブストリー。

   

    

     (ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード、フレームから)

   

     「チャステインはハリウッドでもっとも輝いている女優」と監督

 

★記憶に優れている人とすべてを忘れてしまう人との間の愛は不可能な物語になるが、その行きすぎた世界観に誠実に向き合う。最初の出会いの一連の不幸は、直ぐに誤解であることが分かる。トラウマに囚われている男と女をテーマを撮りつづけている監督にとって、それだけでは充分ではないでしょう。監督は登場人物の立ち位置を外見が異なるだけの社会的文脈に設定し、彼らの出会いにある一定の意味を与えて、心の傷を掘り下げ癒すのではなく、反対にトラウマを追加していく。

   

      

   

            (シルビアとソール、フレームから)

   

★インタビューでジェシカ・チャステイン起用の理由を質問された監督は、「チャステインが今ハリウッドでもっとも輝いている女優だから」と応じている。彼女が相手役ソールにピーター・サースガードを推薦したそうで、本作が二人の初共演の由。ジェシカ・チャステインは1977年カリフォルニア州サクラメント生れ、女優、製作者。キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』12)主演でゴールデングローブ賞を受賞、製作も兼ねたマイケル・ショウォルター『タミー・フェイの瞳』21)でアカデミー主演女優賞を受賞している。

 

        

★女性の権利を守る活動家でもあり、映画で語られる現実とかけ離れた女性像に落胆しているフェミニスト。昨年、全米映画俳優組合のストライキ中にベネチア映画祭に出席するに際し、かなり躊躇した由。組合員がストライキ中に過去現在にかかわらず「出演した映画の宣伝をすることは禁じられている」からです。しかし本作が資金不足のインディペンデント映画であったことで了解されたという。というわけで「SAG-AFTRA ON STRIKEとプリントされたTシャツを着てフォトコールに出席した。

SAG-AFTRA(サグ・アフトラ)映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟、米国の労働組合。

   

       

    (ジェシカ・チャステイン、ベネチア映画祭202398日、フォトコール)

 

★ピーター・サースガードは、1971年イリノイ州ベルビル生れ、俳優。ビリー・レイの『ニュースの天才』03)で全米映画批評家協会助演男優賞受賞、サム・メンデスの『ジャーヘッド』(05)、イギリス映画でロネ・シェルフィグの『17歳の肖像』(09)、ロバート・F・ケネディに扮したパブロ・ララインの『ジャッキー/ファーストレディ』(16)、他ヴィーナ・スードの『冷たい噓』(20)に主演、上述したように妻マギー・ジレンホールが監督デビューした『ロスト・ドーター』にも出演、本作でジレンホールがベネチア映画祭2021の脚本賞を受賞しており、夫妻にとってベネチアは幸運を呼ぶ映画祭となった。『ジャーヘッド』で共演したジェイク・ギレンホールは義弟になる。

   

      

   (マギー・ジレンホールとピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023

 

        

       (ヴォルピ杯のピーター・サースガード、同映画祭授賞式)

 

スタッフ紹介:メキシコ・サイドの製作者エレンディラ・ヌニェス・ラリオスは、フランコと一緒に『ニューオーダー』、ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』や、サンセバスチャンFF2023 オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた、ダビ・ソナナの「Heroico / Heroic」を手掛けている。米国のダンカン・モンゴメリーは、チャーリー・マクダウェルの『運命のイタズラ』(22)、サンセバスチャン映画祭2015で監督のピーター・ソレットがセバスティアン賞を受賞した『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)などが字幕入りで鑑賞できる。

    

  

     (右2人目がエレンディラ・ヌニェス、右端は映画祭ディレクターの

      ダニエラ・ミシェル、モレリア映画祭2023フォトコール)

 

★フランコが信頼して撮影を任せているのがイヴ・カペ1960年ベルギー生れ、フランコ映画では『ある終焉』、『母という名の女』、『ニューオーダー』、「Sundown」と連続してタッグを組んでいる。公開作品が多いフランス、ベルギー映画では、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(12)を筆頭に、時系列に列挙するとマルタン・プロボの『ヴィオレット ある作家の肖像』(13)、『ルージュの手紙』(17)、セドリック・カーンのコメディ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』(19)、エマニュエル・ベルコの『愛する人に伝える言葉』(22)などがある。


アロンソ・ルイスパラシオスにバレンシア・ルナ賞*シネマ・ジュピター2024年06月29日 17:59

      『グエロス』のアロンソ・ルイスパラシオスがバレンシア・ルナ賞

   

       

      (受賞者アロンソ・ルイスパラシオス、バレンシアFF 621日)

 

621日、2014『グエロス』で鮮烈デビューを果たした、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオス監督(メキシコシティ1978)が、バレンシアの第39回シネマ・ジュピター・フェスティバルで「バレンシア・ルナ賞」を受賞しました。本賞は過去のキャリアよりこれからの活躍が期待される独創的なシネアストに与えられる賞です。マラガ映画祭の特別賞の一つ「才能賞」に似ています。昨年トロフィーを受け取るためにバレンシアにやってきたのは、今年のカンヌ映画祭で「Anora」(1030日公開予定)で初めてパルムドールに輝いたショーン・ベイカー(ニュージャージー1971)でした。

 

★フェスティバルは、授賞理由として作品が「新鮮さ、知性、ヒューマニズム」に貢献し、「非常に異なるキャラクター、特に互いに相反する精神に対しても惜しみない理解を示した」こと、「現代メキシコの有為転変の大いなる記録者であり、皮肉やユーモアを失うことなく日々の不条理を活写した」ことなどをあげております。ルイスパラシオスは「とても感動して興奮しています。大人になりたくない登場人物という点で、私の映画には青春の要素があると思います。テーマの一つにピーターパン症候群のようなものがあります」と語っている。

 

★メキシコのボブ・ディランを探すロードムービー『グエロス』の登場人物がそうでした。デビュー作の成功で、第2作「Museo」にガエル・ガルシア・ベルナルを起用することができました。既に作品紹介で書きましたように、この物語は1985年のクリスマスイブにメキシコ人類学歴史博物館で起きた150点にものぼる美術品盗難事件にインスパイアされたもので、ベルリン映画祭で脚本賞を受賞しました。つづく第3作「Una película de policías」も、ベルリン映画祭2021の映画貢献銀熊賞を受賞、『コップ・ムービー』の邦題でNetflixで配信されています。ドキュメンタリーとジャンル分けされていますが、個人的にはドラマドキュメンタリー(ドクドラ)、フィクション性の高いユニークなドラマの印象です。2人の警察官に扮するモニカ・デル・カルメンラウル・ブリオネスの演技に注目です。

  

『グエロス』の作品紹介は、コチラ20141003

Museo」の作品紹介は、コチラ20180219

Una película de policías」『コップ・ムービー』の紹介は、コチラ20210828

    

       

(第4作「La cocina」のポスター)

 

★第4作がアメリカで撮った「La cocina」(24139分、モノクロ、メキシコ=米国合作)で、言語は英語とスペイン語、前作『コップ・ムービー』主演のラウル・ブリオネスと『ドラゴン・タトゥーの女』やトッド・ヘインズの『キャロル』でカンヌ映画祭2015女優賞を手にしたルーニー・マーラが主演しています。いずれ作品紹介を予定していますが、イギリスのアーノルド・ウェスカーの戯曲 The Kitchen 1957)がベースになっている。20世紀半ばのロンドンから現代のニューヨークのタイムズスクエアに舞台を移しかえている。ランチタイムのラッシュ時に、世界中の文化が混ざりあうレストランの厨房で働く移民の料理人たちの生活を描いた群像劇。監督はロンドンの王立演劇学校で演技を学んでいたとき、レストランでアルバイトしていたときの経験が役に立ったと語っています。本作はベルリンFFコンペティションでプレミアされ、トライベッカ映画祭のワールド・ナラティブ・コンペティションにもノミネートされました。いずれ公開されるでしょう。

    

    

 (左から、製作者ラミロ・ルイス、アンナ・ディアス、ラウル・ブリオネス、

 ムーニー・マーラ、ルイスパラシオス監督、ベルリン映画祭2024のフォトコール)

  

 

  「メキシコで文化が贅沢品でないと見なされることを願っています」と監督

   

★「ハリウッドで仕事をしても、自分はメキシコを離れることはありません。ハリウッドに移住してグリンゴの物語を撮ることに興味はありません」と強調している。先だってのメキシコ大統領選挙で勝利を手にした新大統領クラウディア・シェインバウム101日付で就任します。彼女の助言者である現大統領アンドレス・ロペス・オブラドールとの決別を願う監督は、「女性が遂にこのような権力の座についたことは喜ばしい。人によってはいろいろ感情が入り混じることですが、メキシコが必要としていたことです。現大統領との繋がりが深いため事態はより複雑ですが、関係を断ち切ることを願っています。彼から独立して自由になることを信じています」と。

    

     

     (バレンシア・ルナ賞の受賞スピーチをするルイスパラシオス監督)

 

★現大統領の6年の任期が「文化に背を向けてきた」と指摘する監督は、「文化が贅沢だと見るのを止める」よう求めた。文化が贅沢品で生活必需品ではないという文化軽視は、多かれ少なかれどこの国でもスペインでも日本でも見られる現象ですが、監督は「メキシコ映像ライブラリーが果たす役割の重要性」を受賞スピーチで強調しました。メキシコに変化があることを認める監督は、それでも「道のりはまだ遠い」と語り、映画を作るのはお金がかかることなので誰でも可能ではないが、「映画は私にとって抗議の手段なのです」ともコメントしている。

 

★私生活では女優イルセ・サラスとの間に2人の息子がいる。『グエロス』や「Museo」出演の他、『グッド・ワイフ』(18)、TVシリーズ『犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺』(19)、ロドリゴ・ガルシアの『Familia:我が家』(23)主演などで、日本では監督より認知度が高いかもしれない。

   

     

         (監督とイルセ・サラス、ベルリン映画祭2018


オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪2023年08月31日 11:11

       ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート

 

★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。

 

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

9)Heroico / Heroic」メキシコ

監督ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。

     

       

     

 (ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)

  

データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88

キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ

 

ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。

    

  

 

10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画

監督フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。

★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。

作品&監督紹介記事は、コチラ20230515

   

      

      

     (フェリペ・ガルベス監督)

   

 

11)Los impactados」アルゼンチン

監督ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán  Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。

 

★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。

監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ20131023

『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ20131011

   

 

        

                        (ルシア・プエンソ監督)

 

データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90

キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)

 

ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。

 

 

      

  (アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)

 

 

4)Tótem / Totem 」メキシコ

監督リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。

*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。

   

   

 (リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023

    

 

 

データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ

キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数

 

ストーリー7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。

 

       

      

        (ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)

 

 

     

 (左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)


オリソンテス・ラティノス部門 ②*サンセバスチャン映画祭2023 ⑩2023年08月23日 14:51

         タティアナ・ウエソが2作目「El eco / The Echo」で戻ってきた!

 

★サンセバスチャン映画祭 SSIFF も開幕1ヵ月をきり、連日のごとくニュースが配信されています。例えばセクション・オフィシアルのオープニング作品は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』、クロージング作品はイギリスの監督ジェームズ・マーシュの「Dance First」、マーシュ監督は英国史上、最高額、最高齢の金庫破りだったオールドボーイ窃盗団の実話に基づいて描いた『キング・オブ・シーヴズ』(18)が2021年に公開されている。両作ともアウト・オブ・コンペティション部門ノミネート作品であるため金貝賞には絡みません。さらに「ペルラク」部門18作品、「ネスト」部門12作品も相次いで発表されました。更に822日にはドノスティア栄誉賞の二人目の受賞者にビクトル・エリセがアナウンスされるなど急に慌ただしくなってきました。エリセはともかくとして、今年は時間的余裕がなく、アップはスペイン語、ポルトガル語映画に限らざるを得ません。今回はオリソンテス・ラティノ部門の続き、ドラマ2作、ドキュメンタリー2作の合計4作をアップします。

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

5)Clara se pierde en el bosque / Clara Gets Lost in the Woods

  アルゼンチン

監督カミラ・ファブリ(ブエノスアイレス1989)、監督、脚本家、戯曲家、女優として多方面で活躍しているアルゼンチン同世代の期待の星。女優としてミゲル・コーハン、ベロニカ・チェン、フアン・ビジェガスの「Las Vegas」(18)、アレハンドロ・ホビックやルシア・フェレイラの短編に主演している。

 

     

                       

                           

                                            (カミラ・ファブリ監督)

 

データ:脚本はカミラ・ファブリとマルティン・クラウトが共同執筆、2023年、スペイン語、ドラマ、86分、長編デビュー作。

キャスト:カミラ・ペラルタ(クララ)、アグスティン・ガリアルディ(ミゲル)、フリアン・ラルキエル・テラリーニ(イバン)、フロレンシア・ゴメス・ガルシア(エロイサ)、ソフィア・パロミノ(フアナ)、マイティナ・デ・マルコ(パウリナ)、ペドロ・ガルシア・ナルバイツ(フアン)、マルティア・チャモロ(マルティナ)、カミラ・ファブリ(イネス)、フリアン・インファンティノ(マルティン)、ほか

 

ストーリー:クララは都会を離れて郊外に家族と小旅行中に、幼馴染の友人マルティナからの母性のアイディアを前面に押し出したメッセージを受けとった。マルティナとはレプブリカ・クロマニョン・クラブで起きた悲劇の一夜を共にしていた。一連のWhatsApp Messengerのテキスト、ホームビデオ、家族とランチする現在と現実のショット、危機と悲劇によって荒廃した都会での彼女自身や友人たちの思春期がつぶさに語られる。レプブリカ・クロマニョン・クラブの悲劇というのは、20041230日の夜にブエノスアイレスのオンセ地区で開催されていたロック・イベント中に193人の命が奪われた大火災をさす。

          

   

                   (撮影中の監督とクララ役のカミラ・ペラルタ)

 

 

6)El castillo / The Castle」アルゼンチン=フランス=スペイン

  ドキュメンタリー

監督マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)、作品紹介、監督のキャリア&フィルモグラフィーは、以下にアップ済みです。

作品紹介は、コチラ20230721

   

      

   

 

7)「El Eco / The Echo」メキシコ=ドイツ

監督タティアナ・ウエソ(サンサルバドル1972)監督、脚本家。監督のキャリア&フィルモグラフィーは、SSIFF 2021の同部門のオリソンテス賞以下3冠に輝いた「Noche de fuego」にアップしています。新作は、架空の要素が多く含まれているが、メキシコ高地にある村エルエコの子供たちを描いている。監督はメキシコ北部のある村に逗留して、ほぼ1年間掛けて撮影している。監督の子供時代の体験が投影されている。ウエソはエルサルバドル出身だが、4歳のとき両親に連れられてメキシコに移住している。2011年の「El lugar más pequeño」、2016年の「Tempestad」、新作「El Eco」をもって「痛みとトラウマ」三部作を完結したことになる。

Noche de fuego」の紹介記事は、コチラ20210819

     

         

データ:脚本タティアナ・ウエソ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、102分。本作は既にベルリン映画祭2023でプレミアされ、エンカウンターズ部門の監督賞とドキュメンタリー賞を受賞している他、香港映画祭ドキュメンタリー賞ノミネート、シアトル映画祭ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、リマ映画祭ドキュメンタリー賞、エルサレム映画祭シャンテル・アケルマン賞を受賞している。

     

    

   (タティアナ・ウエソ、ベルリン映画祭2023ドキュメンタリー作品賞のガラから)

  

キャスト:モンセラ・エルナンデス(モンセ)、マリア・デ・ロス・アンヘレス・パチェコ・タピア(祖母アンヘレス)、ルス・マリア・バスケス・ゴンサレス(ルス)、サライ・ロハス・エルナンデス(サライ)、ウィリアム・アントニオ・バスケス・ゴンサレス(トーニョ)、他多数

 

ストーリー:メキシコ北部の人里離れた村エル・エコは、子沢山の家族が多く、生活は貧しく、子供たちは羊と年長者たちの世話をしています。孫娘は祖母が死ぬまで世話をしなければなりません。霜と旱魃が村を苦しめます。子供たちは両親の話す言葉と沈黙から、死、病気、愛を理解することを学びます。エコは魂のなかにあるもの、周りの人々からうける確実な暖かさ、人生で直面する反逆と眩暈について、成長についての物語です。

   

       

 

8)Estranho caminho / A Strange PathExtraño camino)」ブラジル

  WIP Latam 2022 作品

監督グト・パレンテ(セアラ州都フォルタレザ1983)は、監督、脚本家、撮影監督、俳優。長編10作目になる。WIP Latem 2022の最優秀賞作品賞受賞作。

脚本グト・パレンテ、撮影リンガ・アカシオ、美術タイス・アウグスト、録音ルカス・コエーリョ、編集ビクトル・コスタ・ロペス、ティシアナ・アウグスト・リマ、タイス・アウグスト、グト・パレンテ。トライベッカ映画祭2023では、父親ジェラルド役のカルロス・フランシスコが説得ある演技で主演男優賞を受賞している。

    

     

 

   

 (デビッド役のルカス・リメイラ)

 

データ:製作国ブラジル、2023年、ポルトガル語、ミステリー、85分、トライベッカ映画祭2023で国際コンペティション部門の作品賞、脚本賞、監督賞、カルロス・フランシスコ主演男優賞を受賞するなど4冠を制した。撮影地フォルタレザ。セアラ州文化省からの資金提供を受けている。

   

     

            (父親役のカルロス・フランシスコ)

 

キャスト:ルカス・リメイラ(デビッド)、カルロス・フランシスコ(父ジェラルド)、リタ・カバソ(テレサ)、タルツィア・フィルミノ(ドナ・モサ)、レナン・カピバラ(レナン)、アナ・マルレネ(マリアナ先生)、他多数

 

ストーリー:若い映画背作者デビッドは、映画祭で自作を発表するため生れ故郷のブラジルに向かっています。到着すると新型コロナのパンデミックが急速に全国に広がり始めていた。映画祭は中止され、空港が封鎖されたため帰国便もキャンセルされてしまう。デビッドは滞在先を必要としており、十年以上話していない風変わりな男である父親ジェラルドを訪ねることにする。彼が父親のアパートに到着すると、奇妙なことが起こり始めます。デビッドの軌跡を辿るドラマ。和解の痛み、不条理の喜びの表現などが描かれる。

 

 

    

 (カミラ・ファブリ、マルティン・ベンチモル、タティアナ・ウエソ、グト・パレンテ)


カンヌ・プルミェール部門の追加作品*カンヌ映画祭20232023年05月17日 11:19

       アマ・エスカランテの7年ぶりの新作「Perdidos en la noche

      


            

★カンヌ・プルミエール部門に3作の追加発表があり、うち2作がラテンアメリカから選ばれました。一つはメキシコのアマ・エスカランテのサスペンス「Perdidos en la noche」、もう一つがアルゼンチンのリサンドロ・アロンソの「Eureka」です。前者は『触手』(16)以来7年ぶり、後者は『約束の地』(14)以来9年ぶり、コロナ・パンデミアを挟んでいるとはいえ空きすぎでしょうか。詳細アップは時間的に間に合いませんが、2 回に分けてアウトラインだけ紹介しておきます。

    

   

            (撮影中のアマ・エスカランテ監督)

 

★「Perdidos en la noche / Lost in the Night

製作:Pimienta Films / Bord Cadre Films / Cárcava Cine / Match Factory Productions / Snowglobe Films

監督・脚本:アマ・エスカランテ

撮影:エイドリアン・デュラソ

編集:フェルナンド・デ・ラ・ペサ

メイクアップ:ホルヘ・フエンテス・ロンキージョ

プロダクション・マネージメント:フアン・ガルバ

製作者:ニコラス・セリス、フェルナンド・デ・ラ・ペサ、アマ・エスカランテ、(エグゼクティブ)ベアトリス・エレナ・エレラ・ボールズ、ロドリゴ・マチン、アレハンドロ・マレス、グスタボ・モンタードン、フリエタ・ペラレス、ハビエル・サルガド、ほか共同製作者多数

 

データ:製作国メキシコ=オランダ=ドイツ、2023年、スペイン語、サスペンス、120分、撮影地グアナファト、メキシコシティ、期間202110月から11月末、

映画祭・受賞歴:第76回カンヌ映画祭2023「カンヌ・プルミェール」部門ノミネート、518日上映予定

 

キャスト:フアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ(エミリアノ)、エステル・エスポシート(モニカ・アルダマ)、バルバラ・モリ(カルメン・アルダマ)、フェルナンド・ボニージャ(リゴベルト・デュプラス)、ジェロ・メディナ(ルベン)、マイラ・エルモシージョ(ビオレタ)、ヴィッキー・アライコ(エミリアノの母パロマ)他

 

ストーリー:教師で活動家でもあったパロマは、地元の鉱山産業に対して抗議活動を行っていた。その直後、彼女は跡形もなく姿を消してしまう。それから5年後、二十歳になった正義感の強い息子エミリアノは、犯人を探し始める。司法制度の無能さのせいで、正義は彼らの手に握られている。エミリアノは、あるメモを切っ掛けに裕福でエキセントリックなアルダマ家の夏の別荘にたどり着く。一族は著名な女家長カルメン・アルダマによって統率されています。彼は一族に表面化しない秘密が隠されていることに次第に気づいていく。真実を求めてエミリアノは、秘密、嘘、そして復讐だらけの暗い世界に沈潜していくことになる。

   

   

      (エミリアノ役のフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ

 

アマ・エスカランテ(バルセロナ1979)の長編5作目となる本作は、正義の無能さに直面した青年が正義の行動を起こす決意をする物語だが、相変わらず厳しいテーマに挑んでいる。当ブログでは第2作「Los bastardos」(08、『よそ者』)、3作目「Heli」(13、『エリ』)を紹介しています。デビュー作「Sangre」(05、『サングレ』)が東京国際映画祭にノミネートされた折には、若干観客に戸惑いがありましたが、現在ではラテンアメリカ諸国の映画も多数公開されるようになり、少しずつ戸惑いも解消されているのではないかと思います。しかし、4作目「La región salvaje」(16、『触手』)はどうだったでしょうか。ファンタジーと恐怖をミックスさせて社会的暴力を描いたものでした。寡作な監督ですが、幸いなことに日本語字幕入りで観ることのできる幸運な映画作家の一人です。Netflix で配信されている『ナルコス:メキシコ』(18217話)も手掛けています。

    

      

           (カンヌFF監督賞受賞の「Heli」ポスター)

 

フィルモグラフィーは以下の通り(短編、オムニバスは除く):

2005年「Sangre」カンヌFF「ある視点」国際批評家連盟賞FIPRESCI 受賞

2008年「Los bastardos」カンヌFF「ある視点」ノミネート

2013年「Heli」カンヌFFコンペティション部門、監督賞受賞

2016年「La región salvaje」ベネチアFFコンペティション部門、監督賞受賞

2023年「Perdidos en la noche」カンヌFFカンヌ・プルミェール

 

『よそ者』の作品紹介は、コチラ20131010

『エリ』の作品 & 監督キャリア紹介は、コチラ20131008

 

★エミリアノを演じるフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョは、2000年モンテレイ生れ。フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラの「Ya no estoy aqui」(19、『そして俺は、ここにいない』)に起用されたのが切っ掛けで俳優の道を歩くことになったミュージシャン。ルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイの東京国際映画祭審査員特別賞を受賞した「La civil」(21、『市民』、公開タイトル『母の聖戦』)、アレハンドラ・マルケス・アベジャのモレリア映画祭作品賞を受賞した「El norte sobre el vacío」(22、『虚栄の果て』)、ケリー・モンドラゴンの「Wetiko」(22)、ソフィア・アウサの「Adolfo」(23)など立て続けにオファーを受けている。

     

            

          (主役を演じたYa no estoy aqui」のポスター

 

★当ブログ紹介記事は以下の通り:

『そして俺は、ここにいない』の作品 & キャスト紹介は、コチラ20210207

『母の聖戦』の主な作品紹介は、コチラ20211025

『虚栄の果て』のモレリア映画祭の紹介記事は、コチラ20221110

    

★次回はリサンドロ・アロンソのEureka」紹介の予定。


セクション・オフィシアル(コンペ部門)⑤*マラガ映画祭2023 ⑧2023年03月14日 15:43

17Una vida no tan simple(仮題「それほど容易でない人生」)

データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、107分、撮影地・期間2021年末にビルバオ

監督紹介フェリックス・ビスカレト1975年パンプローナ生れ、監督、脚本家、製作者。2007年「Bajo las estrellas」で長編デビュー、マラガ映画祭金のビスナガ作品賞受賞作品、ビスカレトも銀のビスナガ監督賞、第1作脚本賞を受賞、ゴヤ賞2008では脚色賞を受賞した。2022年「No mires a los ojos」は、バジャドリード映画祭PIC賞とシネマ・ライターズ・サークル賞にノミネートされている。2020年バスク語のTVシリーズ「Patria」(8話)のうち4話を手がけている。ドキュメンタリー『サウラ家の人々』(17)などでキャリアを紹介しています。

監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ2017111120200812

    

         

       

      (ビスカレト監督以下主演者たち、マラガ映画祭2023フォトコール)

    

       

 (デビュー作「Bajo las estrellas」ポスター)

 

キャスト:ミキ・エスパルベ(イサイアス)、アレックス・ガルシア(同僚ニコ)、アナ・ポルボロサ(知人ソニア)、オラヤ・カルデラ(妻アイノア)、フリアン・ビジャグラン、ラモン・バレア 

ストーリー40歳のイサイアスは受賞歴のある有望な建築家でした。現在、彼は建築スタジオと子供たちが放課後遊ぶ公園の間を行ったり来たりの日々を過ごしています。どこにいても自分がいるべき場所にいないと感じています。彼の妻アイノアとの関係では月日の経過を感じ、幼い頃の子供たちが如何に大人を疲れさせるかを痛感しています。イサイアスはいつもへとへとの生活のなかで、別の子供の母親であるソニアと友情を深めますが、彼女は子供を育てて大人の生活に送り込むのは、それほど簡単でないことを彼に教えます。40代父親の危機が語られる。

     

   

  (イサイアスとソニア)

 

  

             (イサイアスとニコ)

  

 

    

18UnicornsUnicornios  仮題「ユニコーン」)

データ:製作国スペイン、2023年、ドラマ、93分、カタルーニャ語・スペイン語、字幕上映、長編映画デビュー作。脚本を監督と『スクールガールズ』のピラール・パロメロほかが共同執筆、同じく製作をバレリー・デルピエールが手がけている。配給フィルマックス、スペイン公開2023年6月30日予定

監督紹介アレックス・ロラ・セルコス1979年バルセロナ生れ、監督、脚本家、フィルム編集者、ニューヨークを拠点にしている。バルセロナのラモン・リュユ大学で映画製作、脚本、演出の学位を取得、2011年フルブライト奨学生として渡米、シティ・カレッジ・オブ・ニューヨークでメディアアート・プロダクションを修了、オスカー学生アカデミー賞の最終候補になった。数多くの映画祭に参加、特にニューヨーク・エミー賞を受賞、サンダンスFF公式出品2回、ガウディ賞の受賞歴がある。2014年バラエティのカンヌ・エディションで注目すべき有望な監督トップテンに選ばれ、ベルリナーレ・タレントキャンパス、カンヌ・ショート・フィルム・コーナーには3回参加している。受賞歴はトータルで76賞と驚異的な数字である。

 

主なフィルモグラフィーは、2011年ドキュメンタリー短編「OdysseusGambit」は、サンダンス映画祭ノミネート、2013年の同「Godka Cirka」もサンダンスFF、その他マラガFFに出品され、ガウディ賞2014短編賞を受賞している。2015年長編ドキュメンタリー「The Fathers Chair」、2019年同「El cuarto reino」(The Fourth Kingdomは、グアダラハラ映画祭2019イベロアメリカ部門受賞、ガウディ賞2020ドキュメンタリー賞受賞、フェロス賞にノミネートされた。

 

       

     

        (ドキュメンタリー「El cuarto reino」のポスター)

 

キャスト:グレタ・フェルナンデス(イサ)、ノラ・ナバス(メルセ)、アレハンドロ・パウ(ギレム)、エレナ・マルティン(アブリル)、パブロ・モリネロ(ミケル)、ソニア・ニニャロサ(マルタ)、リディア・カサノバ(ガビ)、ホルヘ・カブレラ、アグスティン・スリバン、ほか

ストーリー:イサはすべてをもっている。それは知性であり、美しさであり、自信です。フェミニストでコミットすることを拒否するポリアモリーのイサは、情熱をもって自分の人生を守っている。ギレムが一夫一妻のカップルになることを提案したとき、自分の人生を変えたいかどうか確信がもてず決定できない。ギレムは二人の関係を壊すことにした。外見と快適さの世界に住んでいると、矛盾がはっきりし、宇宙はネットワークがなったウェブでの好き嫌いやモラルの判断が打撃を受け崩壊してしまう。

 

     

                      (イサ役のグレタ・フェルナンデス)

   

     

                 (ノラ・ナバス)

   

       

 

19Upon EntryLa llegada 仮題「通関」)

データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、74分、英語、字幕上映、共に長編デビュー作。タリン・ブラックナイツ映画祭FIPRESCI賞受賞(202211月)、コルカタ映画祭ゴールデンロイヤル・ベンガルタイガー賞受賞(2022年)、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭(20233月)、公開スペイン616日予定

 

監督紹介アレハンドロ・ロハス1976年ベネズエラのカラカス生れ、監督、脚本家、フィルム編集。映像ジャーナリストとして、カンヌ、ベネチア、ベルリン、トロント、サンダンスなど各映画祭で取材している。HBONetflix、などの仕事をしている。本作で監督デビューした。

フアン・セバスティアン・バスケス1981年カラカス生れ、HBOのコピー製作者としてキャリアをスタートさせる。撮影監督としてカルレス・トラスの「Callback」を手がけ、本作はマラガFF2016の作品・脚本・男優賞(マルティン・バシガルポ)を受賞している。2020年には同監督の「El practicante」で再びタッグを組んだ。『パラメディック~闇の救急救命士』の邦題でネットフリックスが配信した。またシッチェスFF2020のニュービジョン部門の審査員を務めている。

*「Callback」の作品紹介は、コチラ20160503

   

       

     (アレハンドロ・ロハス)

 

       

                      (フアン・セバスティアン・バスケス)

 

キャスト:アルベルト・アンマン(ディエゴ)、ブルーナ・クシ(エレナ)、ベン・テンプル、ラウラ・ゴメス、ジェラルド・オムス(旅客)

ストーリー:ベネズエラの都市計画家であるディエゴとバルセロナ出身のコンテンポラリーダンサーのエレナは、プロとしてのキャリア向上、チャンスの地で家族を作ることにする。新生活を始めるにあたって米国の正式なビザを取り移住することにした。ところがニューヨーク空港の入国審査場に入ると、二人は二次検査室に連れていかれた。待ち受けていた2人の国境警備員が検査プロセスと心理的に激しい尋問をかけ、カップルが何か隠蔽しているものがあるのではないかと発見に務めます。

 


                     (ディエゴとエレナ)

  

     

   (二人を尋問する国境警備員)

    

    

 

20Zapatos rojosRed Shoes 仮題「赤い靴」)

データ:製作国メキシコ=イタリア、2022年、スペイン語、ドラマ、83分、長編デビュー作、第79回ベネチア映画祭2022公式出品、モロッコ・マラケシュFF2022)、インド・ゴアFF2022)、米国サンタバーバラFF2023)、ブルガリア・ソフィアFF2023)、その他モレリアFF、サンディエゴFF出品

監督紹介カルロス・アイチェルマン・カイザー1980年サンルイス・ポトシ生れ、監督、製作者、脚本家。マドリードで映画監督と製作を学んだ。2006年から2010年までTVシリーズのプロデュースをする。2011年製作会社「Wabi Productions」設立、2016年トリシャ・ジフ監督の長編ドキュメンタリー「The Man Who Saw Too Much」を製作、アリエル賞を受賞した。2018年マイケル・ロウの文学ワークショップで「赤い靴」の脚本を執筆した。同年「Feral」の製作に参画し、ロスカボス映画祭2018で受賞、2021EFICINEの援助をを受け、デビュー作を監督した。

    

      

キャスト:エウスタシオ・アスカシオ(アルテミオ)、ナタリア・ソリアン(ダミアナ)、ファニー・モリーナ(アレハンドラ)、ロサ・イリヌ・エレーラ(ルベン)

ストーリー:年配の農民アルテミオは、メキシコ山地の忘れられた村で暮らしている。首都から娘の訃報という衝撃的なニュースが届くまでは、彼の人生はゆっくりと順調に進んでいた。彼は贖罪を求めて町に出発する決心をしますが、残忍で未知の世界に踏み出したことに気づきます。

   

     

          

  

メキシコ映画『ざわめき』鑑賞記*ネットフリックス配信2023年01月28日 16:25

           「暴力の恐怖や痛みに直面しても、私たちは独りではない」

    

       

 

★第70回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2022ホライズンズ・ラティノ部門でワールドプレミアされた、ナタリア・ベリスタインの「Ruido」が、邦題『ざわめき』としてネットフリックスで配信が開始されました。万人受けする映画ではなく重たい内容ですが、毎日平均11人の女性が女性であるという理由だけで殺害される国メキシコの事実に基づいた今日が語られています。当ブログでは同じテーマの作品を少なからず紹介しておりますが、それは女性に限らず「誰にでも起りえること」だからです。


★ドラマと劇的描写で賭けをする映画、エレガントで詩的な作品ではありません。しかしこの映画を観ることで、海の向こうで社会的暴力と闘うメキシコの女性グループとの連帯を表明したい。また難しくてタフな映画でありますが、演技は常にこの作品の核心であり、現実的で残酷なキャラクターを定義するフリエタ・エグロラの素晴らしい演技のお蔭で成功しています。アリエル賞2022作品賞を受賞したタティアナ・ウエソの「Noche de Fuego」も類似作品です。

ナタリア・ベリスタイン監督のキャリア&作品紹介は、コチラ20220818

タティアナ・ウエソの「Noche de Fuego」作品紹介は、コチラ20210819

    

    

(フリエタ・エグロラ、ベリスタイン監督、共演のテレサ・ルイス、SSIFF 2022 フォトコール)

 

ナタリア・ベリスタイン・エグロラ監督紹介:1981年メキシコシティ生れ、監督、脚本家、キャスティングディレクター、製作者。父親は俳優のアルトゥーロ・ベリスタイン、母親は女優のフリエタ・エグロラ・ベリスタイン、俳優で作曲家のペドロ・デ・タビラ・エグロラは義兄、3人とも本作に出演している。メキシコの映画養成センターCCC1975設立)卒業、2009年制作会社「Chamaca Films」を設立した。2006年、CCC製作の「Peces plátano」(18分)で短編デビュー、モレリア映画祭でメキシコ短編賞を受賞している。

 

★長編デビュー作「No quiero dormir sola」(83分)は、ベネチア映画祭2012「批評家週間」に正式出品、同年モレリア映画祭でメキシコ作品賞、主演のアドリアナ・ロエルがアリエル女優賞を受賞、2013年のロッテルダム映画祭でイエロー・ロビンを受賞している。父アルトゥーロ・ベリスタインが出演、ペドロ・デ・タビラが音楽監督を務めている。

 

2017年、長編第2作「Los adioses / The Eternal Feminine」は、メキシコ20世紀で最も重要な作家の一人、詩人でジャーナリストのロサリオ・カステリャノス192574)のオートフィクション。外交官でもあったカステリャノスは、1971年イスラエル大使として赴任していたテルアビブで49歳の若さで客死している。現代はカステリャノスの詩編から採られた。モレリア映画祭2017でプレミアされ、観客・女優(カリナ・ギディ)・フューチャー・フィルム賞を受賞、第12回ローマ映画祭2017に正式出品、マラガ映画祭2018イベロアメリカ部門ノミネート、アリエル賞2018では、ヒロインを演じたカリナ・ギディが女優賞を受賞、ほか監督・美術・撮影・男優賞などがノミネートされた。ドゥランゴ・ニュー・メキシコ映画祭でも観客賞を受賞。第3作目が『ざわめき』(「Ruido」)になる。

    

         

     (主演者4人を配した「Los adioses / The Eternal Feminine」のポスター)

   

★他に短編、ドキュメンタリー、TVシリーズを手掛けている。うち1994年ティフアナ市、メキシコ大統領候補ルイス・ドナルド・コロシオが演説後に銃撃された前代未聞の暗殺事件を描いた『犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺』(19Netflix 配信)4話を手掛けている。

    

          

           (ナタリア・ベリスタイン、モレリアFF2022にて) 

  

 

 『ざわめき』(原題「Ruido」英題IMDb「Noise」)メキシコ=アルゼンチン

製作:Woo Films / Agencia Bengala / Chamaca Films / Pasto / Pucara Cine 協賛INCAA

監督:ナタリア・ベリスタイン

脚本:ナタリア・ベリスタイン、ディエゴ・エンリケ・オソルノ、アロ・バレンスエラ

音楽:パブロ・チェモル

撮影:ダリエラ・ラドロー

編集:ミゲル・シュアードフィンガー

キャスティング:ベルナルド・ベラスコ

美術:アリエル・マルゴリス

セット・デコレーション:アレハンドラ・ドゥリソッティ

衣装デザイン:アナイ・ラモス

プロダクション・デザイン:ルイサ・グアラ

音響:チェマ・ラモス・ロア、ギド・ベレンブェム ASA

製作者:カルラ・モレノ・バディリョ、マリア・ホセ・コルドバ、ガブリエラ・マルドナド、ナタリア・ベリスタイン、ラファエル・レイ、(共同)バルバラ・フランシスコ、フェデリコ・Eibuszyo

  

データ:製作国アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、2022年、ドラマ、105分、配給Netflix、公開アルゼンチン20221018日、メキシコ限定202315日、Netflix配信2023111

映画祭・受賞歴:第70回サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、スペイン協同賞受賞(ナタリア・ベリスタイン)、シカゴ映画祭2022ゴールド・ヒューゴ賞ノミネート、第20回モレリア映画祭2022コンペティション部門出品

 

キャスト:フリエタ・エグロラ(フリア・ベラスケス・ノリエガ)、テレサ・ルイス(ジャーナリストのアブリル・エスコベド)、ケニア・クエバス(アメリカ)、ヒメナ・ゴンサレス(リズ)、アドリアン・バスケス(検察官サムディオ・ロドリゲス)、マリアナ・ヒメネス(署長)、ニコラサ・オルティス・モナステリオ(愛称ヘル、ヘルトルディス・ブラボー・ベラスケス)、アルトゥーロ・ベリスタイン(ヘルの父親アルトゥーロ・ブラボー)、ペドロ・デ・タビラ(フリアの息子ペドロ)、エリック・イスラエル・コンスエロ(検事アシスタント)、モニカ・デル・カルメン(キャス、拉致専門弁護士カサンドラ)、ガブリエラ・ヌニェス(失踪したミッツィーの母アドリアナ)、アルフォンソ・エスコベド(ホテルの男性)、プリセラ・イスキエルド(抗議者ボイス)、マウリシオ・カルデロン・モラ(秘書カサンドラ)、ソフィア・コレア(エミリア)、ブレンダ・ジャニェス(母親を探しているパオラ)、マリアナ・ビジェガス(オクパの代表者)、セイラ・トーレス・シエラ、ほか支援グループ、警察官、予備隊員など多数

 

ストーリー:フリアは9ヵ月前、突然行方不明になった娘ヘルを探し続けている母親である。より正確には、この国では珍しくもない、暴力によって人生をずたずたに引き裂かれた多くの母親たち、姉妹たち、娘たち、女友達の一人と言ったほうがいい。ジャーナリストのアブリル・エスコベドの助けを借りて、娘を見つけるための独自の道を歩み始める。フリアの恐怖の旅は私たちを秘密墓地の地下に案内するが、女性たちの団結に勇気づけられ、暴力の恐怖と痛みに直面しても、自分独りの闘いでないことを実感するだろう。

    

  

  (娘ヘルを探し続けるフリアと協力者のアブリル・エスコベド、フレームから)

 

 

     事実から構想された『ざわめき』は政治的問題についての物語

 

A: 本作はフリアの顔のクローズアップで始まる。そこへ製作国、制作会社とスタッフ、主なキャストの名前が被さってくる。舞台背景はメキシコの現代だが、1970年代後半の軍事独裁時代には約30,000人の行方不明者を出したアルゼンチンとの合作であることを視聴者に印象づけている。

B: 出演者はメキシコ人、スタッフもメキシコ側ですから、アルゼンチンは資金的な連帯でしょうか。アルゼンチンの行方不明者もまだ未解決、人権問題に終りはないと実感します。

 

A: 娘の突然の失踪によって心が砕けた女性の物語ですが、社会的暴力についての、政治的問題についての、基本的人権についての物語です。監督によると「フィクションですが、すべて事実です」と語っています。メキシコの行方不明者の問題は、1990年代後半から麻薬カルテルの勢力拡大が激しくなった2006年ごろ顕著になってきますが、約10万人と言われています。

B: エンディングでも9万人とありましたから尋常ではない数字です。しかし届けない人もいるので氷山の一角という指摘もあります。実際の行方不明者20数人の実名を写真入りでエンディングでクレジットしている。  

 

A: 女性だけでなく男性も多いというのが分かります。本作の成功は主人公フリアを演じた監督の実母でもあるフリエタ・エグロラの圧倒的な演技によるものです。ドラマと劇的描写で賭けをする映画、フリエタ・エグロラがこの賭けに乗りだした。彼女は人権問題に敏感で長年支援グループとも関係をもち、そのことが娘である監督に影響を与えていた。監督によると本作の構想は当時のカルデロン大統領が麻薬カルテル戦争に軍隊を動員した2006年ということです。

    

          

        (検察で捜索状況を聞くアルトゥーロとフリア、フレームから)

 

B: ヘルの父親アルトゥーロになったアルトゥーロ・ベリスタインは監督の実父、劇中でも夫婦役を演じているが、フリアのフルネームから察して別居ではなく離婚している設定になっている。しかしニコラサ・オルティス・モナステリオ扮するヘルの父親であることに変わりない。目覚めると体に激痛が走るとフリアに訴え、ヘルの遺体が見つかって捜索が終了することを願っている。

    

      

      (失踪9ヵ月めに支援グループの会合で娘の失踪した経緯を話すフリア)

  

A: フリアの息子ペドロに扮したミュージシャンでもあるペドロ・デ・タビラは、ペドロ・デ・タビラ・エグロラの別称も使用しているように、母親はフリエタ・エグロラだが父親は舞台演出家のルイス・デ・タビラ、監督とは異父兄妹になる。監督の長編デビュー作「No quiero dormir sola」には音楽監督として参加、第2作目の「Los adiosos」では主人公ロサリオ・カステリャノスが結婚した哲学教授リカルド・ゲーラ・テハダの若い頃を演じた。

B: ローマ映画祭では監督をエスコートしてレッドカーペットを歩いた。特に3作目となる『ざわめき』では、監督一家が一丸となって勝負に出ている印象です。

    

      

   (ペドロ・デ・タビラ、監督、カステリャノス役のカリナ・ギディ、ローマFF2017

   

A: フリエタ・エグロラは演劇大学センター出身の女優で、TVシリーズを含めると出演本数は70本と多いが、どちらかというと舞台に軸足を置いている。アルトゥーロ・リプスタインの犯罪スリラー『深紅の愛』(96)に出演、アリエル助演女優賞を受賞、マリア・デル・カルメン・ララのコメディ「En el páis de no pasa nada」(00)でグアダラハラ映画祭の女優賞を受賞している。他に1995年から始まった芸術貢献賞であるMedalla Bellas Aetes(芸術勲章)を2018年に授与されている。

     

      

     

    (息子ペドロと娘ナタリアに囲まれてMedalla Bellas Aetesを手にしたエグロラ)

 

   

     女性シネアストが協力して製作、負の連鎖が断ち切れないメキシコの現実

 

B: 『ざわめき』でキャスと呼ばれていた拉致専門弁護士を演じたモニカ・デル・カルメンは、アリエル賞2022女優賞は受賞している実力派。一ヵ所に止まっていると危険なので常に移動していると語らせていた。弁護するのも命がけがメキシコの現実です。

A: 人権弁護士殺害も大袈裟でなく事実、本作はフィクションですが事実がベースになっている。もう少し出番があるかと思いましたが存在感のある女優です。受賞作はアロンソ・ルイスパラシオスの「Una película de policías」で監督自身も監督賞を受賞した。以下でデル・カルメンのキャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。

A・ルイスパラシオスの「Una película de policías」の作品紹介は、コチラ20210828

    

             

         (アリエル賞2022女優賞受賞のモニカ・デル・カルメン)

 

B: テレサ・ルイスが演じたジャーナリスト、アブリル・エスコベドが、突然バスに乗り込んできた〈彼ら〉に拉致される。同乗していたフリアは恐怖で声も出ない。関わりたくない運転手も乗客も沈黙する。〈連中〉は自分たちの周りをブンブン飛び回るうるさい蠅を早々に取り除きたい。

A: 批判記事を書く記者は早い段階で芽を摘みとる必要があり、アブリルのような無防備な若いジャーナリストが狙われる。結局彼女も「ミイラ取りがミイラにな」り、行方不明者としてファイル化されてしまう。独自の捜索を始めたフリアも夜道で不信な車に付け狙われ脅されるシーンがあった。アブリルの正義感は報われないが、そもそも連中と一般市民の思考回路には接点がない。

  

B: テレサ・ルイスはネットフリックスのオリジナル・シリーズ『ナルコス:メキシコ編』(182013話)でカルテルの女王と言われたイザベラ・バウティスタを演じており、本作では一番知名度があるのではないでしょうか。

A: 1988年オアハカ生れ、ロスアンゼルス育ちの女優で製作者、メキシコと米国の国籍をもっていて、両国で活躍している。アクターズ・スタジオのメソッド演技を学んでいる本格派です。まだ34歳と若いが受賞歴や公開作品も多いので別途紹介したい。

 

        

       (支援グループの会合で家族の証言に聞き入るアブリル・エスコベド)

 

B: アブリルと対極にあるのが、ガセネタをちらつかせ賄賂を臆せず要求するマリアナ・ヒメネス扮する地方の警察署長、女性というキャスティングが意外でした。すべて事実ということですから時代の流れを感じさせます。

A: 女に指示されるのが嫌いな土地柄なのに逞しいの一言です。被害者だけでなく国民全体が政府と警察を信用しないのは、腐敗が国全体に蔓延しているからです。無能で無関心なのは、資金不足が人材不足に拍車をかけている。暴力はお金が大好きなのです。賄賂を払えない被害者は泣き寝入りするか、支援グループに入って先鋭化するしかない。仮にフリアのように払える人もどぶにお金を捨てることになる。 

   

B: エンディングで捜索支援グループの名前がクレジットされていましたが、劇中で「9年間で4人の子供」が揃って行方不明になった母親のグループは〈ブスカドーラスGrupo Buscadoras〉というグループ、捜索者という意味です。

A: 180団体以上結成されているという記事も目にしましたから、大変な数です。フリアに「連中は調理してドラム缶で焼却する」と語っていた。調理するとは遺体をばらばらに切り刻むことです。殺害され、切り刻まれ、焼却され、投棄される。投棄されたとおぼしい野原から衣服の切れ端や黒焦げの残骸が発見される。

 

B: 最後のデモ行進のシーンで、暗紫色の洋服を着ていた若い女性たちのグループは〈モラドーレスMoradores〉という団体、デモは違法ではないから警官はメディアがいるあいだは手出しをしないが、引き揚げるのを待って警棒を振り上げる。

A: アポジャ・オクパ Apoyo Okupa というフェミニスト・グループも参画している。女性の権利を否定して何万人もの行方不明者を出しているにもかかわらず国家が対策を取らないことに抗議している。ラストのデモ・シーンでバルコニーから演説していた女性が代表者、マリアナ・ビジェガスが扮していた。

 

B: デモはメキシコでは驚くほど一般的だということです。体系的な汚職、道徳的腐敗、無力者の苦悩が語られますが、本作では孤立して悲しむだけではなく、コミュニティ内で団結して何かをする必要性も語られているわけです。それがラストシーンに繋がります。

A: 本作には出番こそ少ないがトランスジェンダーの人権活動家ケニア・クエバス1973)も友情出演している。マッチョが支配する世界では、クエバスのような LGBTQ は抹殺対象になる。

B: 実際にクエバスのパートナーは2016年に殺害されており、メキシコはトランスの死亡率が世界で2番目に高い国ということです。

   

      

        (トロフィーを手にしたケニア・クエバス、202111月)

 

A: クエバスは、トランスジェンダーの犠牲者を保護するテイレシアスの家、La Civil Casa de las muñecas Tiresias2019設立)の代表者、麻薬密売という虚偽の密告で10年以上も収監されていた活動家です。2021年に人権擁護者としてのキャリアが評価され文化鍛造財団からForjadores de México賞を貰っています。また詩人のヒメナ・ゴンサレス2000)が、支援グループの一人リズ役で出演していました。フリアは彼女たちが走り回って正義を叫び、広場に抗議アートを描いているのを見て或る決心をするわけです。

     

                 

                  (ヒメナ・ゴンサレス)

  

 

               魅惑的なラストシーン、フリアの幻想

 

B: アドリアン・バスケス1980)扮するフリアの3人目となる担当検事サムディオ・ロドリゲスは、まだ良心的なほうですね。個人では埒のあかない法の壁に苦悩している。

A: ベラクルサナ大学卒、演出、演技、ドラマトゥルギーを学ぶ。1998年デビュー、TVシリーズ出演が多いが、代表作はホセ・マリア・ヤズピックの話題作「Polvo」(19)でアリエル賞2020助演男優賞にノミネートされた。アベ・ローゼンバーグのアクション・コメディ「Placa de Acero」(19)では、警察官に扮した。

 

B: 担当検事が9ヵ月で3人めというのも珍しくないのでしょうか。とにかくヘル誘拐の実行犯までたどり着いた。犯人が分かっても逮捕はできないのが現実、ヘルの行方は依然として不明のままです。

A: 誘拐した理由の陳腐さにフリアも唖然としていた。大統領が右にしろ左にしろ、口約束だけで実行した例がない。希望はないのか。

 

B: 本作は一貫してリアリズムで進行するが、フリアは痛みに麻痺するのか幻想の世界に入る。娘が消えた場所のようだが、一人ぽつんと平原に立っている。

A: 一貫したリズミカルな雰囲気を作り出すために、長い沈黙とスローショットのゆっくりしたリズムを守り、視覚的にはハッとする瞬間です。45回繰り返されますが、最後のシーンの受け取り方は視聴者それぞれに委ねられますが、評価も分かれると思います。

   


      (連帯して闘うフリア)

 

        

             (幻想の世界に入り込むフリア)

 

 

テレサ・ルイス紹介:1988年オアハカ生れ、メキシコ系アメリカ人の女優、製作者。ロバート・ローレンツの『マークスマン』(21、米)でリーアム・ニーソンと共演している。他にロザリンド・ロスの『ファーザー・スチュー/闘い続けた男』(22、米)に主演、TVシリーズ『Mo/モー』(22、米Netflix配信8話)にも出演している。本邦でも公開されたグレゴリー・ナヴァの『ボーダータウン 報道されない殺人者』(07)にマキラドーラの工場で働く労働者役で出演している。メキシコ映画ではヘラルド・トルトの「Viaja redondo」でアメリカとの国境地帯に暮らす貧困家庭の女性を好演し、カルタヘナ映画祭2009とグアダラハラ映画祭の女優賞を受賞、翌年アリエル女優賞にノミネートされた。ガエル・ガルシア・ベルナルが創作者の一人であるTVシリーズ犯罪スリラー「Aqui en la Tierra」(18209話)に脇役出演、マノロ・カロの『ハウス・オブ・フラワーズ』(1820Netflix配信5話)にも出演している。

    


   

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第20回モレリア映画祭2022*映画祭沿革と受賞結果2022年11月10日 16:05

      アレハンドラ・マルケスの「El norte sobre el vacío」が作品賞

  

       

 

★今年二十歳の誕生日を迎えることができたモレリア国際映画祭2022は、無事1029日に終幕しました。アレハンドラ・マルケス・アベジャEl norte sobre el vacío作品賞、脚本賞、男優賞(ヘラルド・トレホルナ)の大賞3冠を受賞しました。監督賞は「Manto de gemas」のナタリア・ロペス・ガジャルド、女優賞は「Dos estaciones」のテレサ・サンチェス、観客賞はミシェル・ガルサ・セルベラのホラー「Huesera」、ドキュメンタリー賞はマーラエウヘニオ・ポルゴフスキーの「Malintzin 17」などでした。作品賞を受賞した「El norte sobre el vacío」は、『虚栄の果て』の邦題でプライムビデオで配信が始まっています(1028日)。主な受賞結果は以下の通りです。審査委員長はポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ、『イーダ』(13)でアカデミー外国語映画賞を受賞したオスカー監督です。

 

      

     (受賞を手にした女性シネアストたち、左からテレサ・サンチェス、

     アレハンドラ・マルケス・アベジャ、ナタリア・ロペス・ガジャルド)

 

 

    20回モレリア映画祭2022受賞結果

作品賞:El norte sobre el vacío」 アレハンドラ・マルケス・アベジャ

監督賞:ナタリア・ロペス・ガジャルドManto de gemas

脚本賞:ガブリエル・ヌンシオアレハンドラ・マルケス・アベジャ

    「El norte sobre el vacío

男優賞:ヘラルド・トレホルナEl norte sobre el vacío

女優賞:テレサ・サンチェスDos estaciones」 監督フアン・パブロ・ゴンサレス

ドキュメンタリー賞:「Malintzin 17」 マーラエウヘニオ・ポルゴフスキ

観客賞-メキシコ長編部門:「Huesera」 監督ミシェル・ガルサ・セルベラ

観客賞-インターナショナル部門:「Close」(ベルギー) 監督ルーカス・ドン

観客賞-長編ドキュメンタリー部門:「Ahora que estamos juntas」 

    監督パトリシア・バルデラス・カストロ

女性監督ドキュメンタリー賞:「Ahora que estamos juntas」 同上

他に短編映画・ドキュメンタリー・アニメーションなど

 

★世界三大映画祭の流れに沿ってか女性監督の活躍が目立ったモレリアでした。作品賞のEl norte sobre el vacío」は、上述したように既にNetflixで『虚栄の果て』の邦題で配信中、アレハンドラ・マルケス・アベジャ監督は「私がこれまで作った映画のなかで、あらゆる面でもっとも自由な映画でした。自らに自由を与えたのです」と語った。監督については長編第2作「Las niñas bien」がマラガ映画祭2019で金のビスナガ賞(イベロアメリカ部門)を受賞した折りにキャリア&フィルモグラフィーをご紹介しています。本作もモレリアFF正式出品され、本邦では20207月に『グッド・ワイフ』の邦題で公開された。後日新作紹介を予定していますが、男優賞を受賞したヘラルド・トレホルナより、女性の名ハンター役を演じたパロマ・ペトラの生き方が光った印象でした。二人とも欠席でしたが、トレホルナはビデオメッセージで「多様性がスクリーンに持ち込まれた映画が勝利した」と監督を讃えていた。

Las niñas bien」(『グッド・ワイフ』)紹介記事は、コチラ20190414

 

      

       (受賞スピーチをするアレハンドラ・マルケス・アベリャ監督)

       

   

          (新作「El norte sobre el vacío」のポスター)

 

★デビュー作が監督賞を受賞したナタリア・ロペス・ガジャルドは、1980年ボリビアのラパス生れだが、2000年前後にメキシコに渡っている。フィルム編集者として夫カルロス・レイガダス(『静かな光』『闇のあとの光』)、アマ・エスカランテ(『エリ』)、アロンソ・リサンドロ(『約束の地』)、ダニエル・カストロ・ジンブロン(「The Darkness」)他を手掛けている。レイガダスの『われらの時代』では夫婦揃って劇中でも岐路に立つ夫婦役に挑戦した。不穏な犯罪ミステリーManto de gemas」は、ベルリン映画祭2022で金熊賞を競い、異論もあったようだが審査員賞(銀熊賞)を受賞していた。

監督キャリアと『われらの時代』紹介記事は、コチラ20180902

 

     

                       (ナタリア・ロペス・ガジャルド監督)

  

       

 

★女優賞受賞のテレサ・サンチェスはフアン・パブロ・ゴンサレスのDos estaciones」で、男性たちが君臨するテキーラ工場経営を女性経営者として立ち向かう役を演じた。キャリア&作品紹介は、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門で上映された折りにアップしております。

テレサ・サンチェス紹介記事は、コチラ2022年08月22日

  

      

          (テレサ・サンチェス)

 

    

 

★女性へのハラスメントをテーマにしたデビュー作Ahora que estamos juntas」(「Now that we are together」)で観客賞-長編ドキュメンタリー部門、女性監督ドキュメンタリー賞の2冠達成のパトリシア・バルデラス・カストロ監督、若い女性シネアストの台頭を印象づけた。一人で監督、脚本、撮影、編集、製作を手掛けたというクレジットに驚きを隠せません。

  

         

                          (パトリシア・バルデラス・カストロ)

 

          

 

★フィクション部門の観客賞も超自然的な体験をし始める妊婦のタブーを描いたホラー「Huesera」のミシェル・ガルサ・セルベラとこちらも女性監督が受賞した。監督はモレリアFFのほか、シッチェス、トライベッカ、各映画祭で新人監督賞や作品賞を受賞している。インターナショナル部門の観客賞には、3年ぶりに5月開催となったカンヌFF2022でグランプリを受賞したルーカス・ドンの「Close」が受賞した。

 

  

           (主役のナタリア・ソリアンとミシェル・ガルサ・セルベラ監督)

    

      

 

★映画祭に姿を見せたのはオープニング作品に選ばれた『バルド』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ストップモーション・アニメーションで描くピノッキオ「Pinochoギレルモ・デル・トロ、海外勢の招待客には、メキシコ映画出演もあるスペインのマリベル・ベルドゥ2回目のパルム・ドールを受賞したリューベン・オストルンド、「Fuego」でタッグを組んだクレール・ドゥニ監督とジュリエット・ビノシュが参加するなどした。ビノシュはサンセバスチャン映画祭のドノスティア栄誉賞を受賞したばかりでした。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の宣伝文句は「誰も見たことがないピノッキオ」の由、今年のクリスマスはもう決りです。1125日公開、129日からNetflixで配信予定。

 

  

     カンヌやベネチアをめざしていません――モレリア映画祭の沿革

 

★確かなテーマをもたずに唯メキシコ映画を広める目的で始まったモレリア映画祭 FICM が「当初このように長く続くとは思えなかった」と、創設者の一人建築家のクアウテモック・カルデナス・バテルは語っている。現在では大方の予測を裏切って、20年も続くメキシコを代表する国際映画祭となっている(国際映画製作者連盟に授与されるカテゴリーAクラスの映画祭)。どうしてメキシコシティではなくミチョアカン州のモレリア市だったのか、それは偶然かどうか分かりませんが、米国外でもっとも重要な映画館チェーンであるシネポリスの本社があったからでした。そして誕生に立ち合ったのは、女優サルマ・ハエックとフリア・オーモンド、製作者ヴェルナー・ヘルツォークとバーベット・シュローダー、作家のフェルナンド・バレホなどでした。

   

★当時の政党PANのフォックス大統領は映画学校や撮影スタジオの廃校廃止を画策しており、メキシコ映画界は危機的状況にあった。しかしアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ぺロス』(00)、アルフォンソ・キュアロン(クアロン)の『天国の入口、終りの楽園』(01)、カルロス・カレラの『アマロ神父の犯罪』(02)などがカンヌやオスカー賞など国際舞台で脚光を浴びるようになっていた。そんななかで、2003年第1回モレリア映画祭が開催され、ウーゴ・ロドリゲスの「Nicotina」が作品賞を受賞した。本作は第1回ラテンビート映画祭(ヒスパニックビート2004)のメキシカン・ニューウェーブ枠で『ニコチン』の邦題で上映された。人気上昇中のディエゴ・ルナが主演していた。

 

★設立者は、メキシコ短編映画会議をコーディネートした映画評論家のダニエラ・ミシェル、シネポリスの現ディレクターのアレハンドロ・ラミレス、上述の建築家クアウテモック・カルデナス・バテルなど。最初のコンペティション部門は短編映画だけだったそうで、その後ドキュメンタリーや長編を参加させていった。今では灰のなから蘇えった不死鳥のように、メキシコでもっとも前衛的な作品が観られる映画祭に育った。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ新作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑬2022年09月08日 15:02

    イニャリトゥの新作Bardo」はノスタルジック・コメディ?

     

 

   

★ペルラス部門最後のご紹介は、メキシコのアレハンドロ・G・イニャリトゥの「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades」、監督の分身とおぼしきジャーナリストでドキュメンタリー映画作家のシルベリオ・ガボにダニエル・ヒメネス=カチョが扮します。しかしコメディで観客の忍耐力をテストするような174分の長尺なんてあり得ますか? 脚本は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』14)の共同執筆者ニコラス・ジャコボーネ、監督と一緒に翌年のアカデミー賞ほか国際映画祭の授賞式行脚をいたしました。サンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」同様、第79回ベネチア映画祭コンペティション部門で既にワールド・プレミアされています(91日)。さて、評判はどうだったのでしょうか。

   

   

(グリセルダ・シチリアーニ、イケル・サンチェス・ソラノ、イニャリトゥ監督、

ダニエル・ヒメネス=カチョ、ヒメナ・ラマドリッド、ベネチア映画祭202291日)

 

 「Bardo, Falsa crónica de una cuantas verdades / 

   Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths」メキシコ

製作:Estudios Churubusco Azteca SA / Redrum

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーネ

音楽:ブライス・デスナー

撮影:ダリウス・コンジ

編集:モニカ・サラサール

キャスティング:ルイス・ロサーレス

プロダクション・デザイン:エウヘニオ・カバジェロ

衣装:アンナ・テラサス

メイク&ヘアー:タリア・エチェベステ(メイク)、クラウディア・ファンファン(ヘアー)他

製作者:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ステイシー・ペルキー(ペルスキー)、(エグゼクティブ)カルラ・ルナ・カントゥ、(ラインプロデューサー)ヒルダルド・マルティネス、ミシェル・ランヘル、他

 

データ:製作国メキシコ、2022年、スペイン語、コメディ・ドラマ、174分、撮影地メキシコシティ、配給 Netflix2022114日アメリカ限定公開、1216Netflixにて配信開始

映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門正式出品(91日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭2022ペルラス部門正式出品

 

キャスト:ダニエル・ヒメネス=カチョ(シルベリオ・ガボ)、グリセルダ・シチリアーニ(ルシア)、ヒメナ・ラマドリッド(カミラ)、イケル・サンチェス・ソラノ、アンドレス・アルメイダ(マルティン)、マル・カルラ(ルセロ)、他多数

 

ストーリー:シルベリオは国際的に権威のある賞の受賞者であるが、ロスアンゼルス在住のメキシコ人ジャーナリストでドキュメンタリー作家として知られている。彼は生れ故郷に戻るべきと思っているが、このような旅は、おそらく実存の限界をもたらすだろう。彼が実際に直面している不条理な記憶や怖れ、漠然とした感じの混乱と驚嘆が彼の日常生活を満たしている。激しいエモーション、度々襲ってくる大笑い、シルベリオは普遍的な謎と闘うだろうが、他にもアイデンティティ、成功、死すべき運命、メキシコ史、家族の絆、分けても妻や子どもたちとの親密な結びつきについても乗りこえるだろう。結局、現代という特殊な時代においては、人間という存在は本当に忍耐で立ち向かうしかないのだろう。彼は危機を乗りこえられるだろうか。ヨーロッパとアメリカの入植者によって侵略され、搾取され、虐待されてきたメキシコ、その計り知れない損失は返してもらっていない。

   


            (ダニエル・ヒメネス=カチョ)

    

   

           (ヒメネス=カチョとヒメナ・ラマドリッド、フレームから)

 

★どうやらシルベリオ・ガボは監督の分身で間違いなさそうですが、いささか胡散臭いでしょうか。プレス会見では「ピオピックを撮るのが目的ではありませんが、自身について多くのことを明かしています」と語っていました。各紙誌の評判が芳しくないのは長尺もさることながら、主人公のナルシシストぶりがハナにつき、テーマの詰め込み過ぎも視聴者を迷子にしているのではないかと推測します。監督は「前作以来7年間も撮っていなかった、プランが思い浮かばなかった」とも応えている。前作とは『レヴェナント 蘇えりし者』16)のことで、アカデミー監督賞を受賞、主役のディカプリオも念願の主演男優賞をやっと手にした。前年の『バードマン』で作品・監督・脚本の3冠に輝いたばかりで、連続監督賞は長いハリウッド史でも珍しい快挙だった。カンヌ映画祭アウト・オブ・コンペティションでプレミアされた「Carne y Arena」(17)は、7分間の短編、他はドキュメンタリーをプロデュースしていただけでした。

 

      

   (レッド・カーペットに現れた、夫人マリア・エラディア・ハガーマンと監督)

 

★ダニエル・ヒメネス=カチョによると監督からは、「何も準備するな!」というお達しがあって撮影に臨んだそうです。こういう映画の場合、先入観をもたずに役作りをするのは結構きついかもしれない。11月の公開後、1216日から Netflix で配信が決定しています。アメリカ、スカンジナビア諸国を含めたヨーロッパ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル他、アジアでは日本と韓国が入っています。後は観てからにいたします。

    

        

        (ダニエル・ヒメネス=カチョとA. G. イニャリトゥ監督)

 

『バードマン』の記事は、コチラ20150306

『レヴェナント』の記事は、コチラ20160302

Carne y Arena」の記事は、コチラ20170416


*追加情報:第35回東京国際映画祭2022に『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の邦題でガラ・コレクション部門で上映されることになりました。