ウルグアイ映画「La noche de 12 años」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑬2018年08月27日 15:48

           「ホライズンズ・ラティノ」第1弾-「La noche de 12 años

 



        

★サンセバスチャン映画祭より一足先にベネチア映画祭2018「オリゾンティ」部門で上映される、アルバロ・ブレックナーLa noche de 12 añosは、簡単に言うと前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ(任期201015)のビオピックであるが、1970年代ウルグアイに吹き荒れた軍事独裁時代の政争史の色合いが濃い。物語は1973年から民主化される1985年までの12年間、刑務所に収監されていた都市ゲリラ組織トゥパマロスのリーダーたち、ホセ・ムヒカエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロマウリシオ・ロセンコフ3人を軸に展開される。ウルグアイ前大統領ムヒカ、元防衛大臣で作家のウイドブロ、ジャーナリストで作家のロセンコフのビオピックでもある。

 

★獄中で「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を必ず書き残そう」と誓い合ったロセンコフとウイドブロの共著Memorias del calabozo(「Memories from the Cell」)をベースに映画化された。

Memorias del calabozo」(3巻)198788年刊、1989年「バルトロメ・イダルゴ賞」を受賞。2013年に優れたジャーナリストで作家のエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊された。

 

         

                 (本作のベースになった「Memorias del calabozo」の表紙)

 

★ホセ・ムヒカは大統領退任後の201645日に来日(~12日)、収入のあらかたを寄付、月1000ドルで質素に暮らしていることから「世界で最も貧しい大統領」と日本では報道された。愛称エル・ペペ、今年のベネチア映画祭にはコンペティション外ではあるが、ムヒカを主人公にした、鬼才エミール・クストリッツアが5年がかりで撮ったドキュメンタリーEl Pepe, una vida suprema(ウルグアイ、アルゼンチン、セルビア、74分)もエントリーされ、思いがけず話題を集めている。このセクションには他に『笑う故郷』のガストン・ドゥプラット、『エル・クラン』のパブロ・トラペロの新作も上映され、ラテンアメリカが気を吐いている。

 

La noche de 12 años(ワーキングタイトル「Memorias del calabozo」)2018

製作:Tornasol Films / Alcaravan AIE / Hernández y Fernández Producciones Cinematográficas(以上西)、Haddock Films(アルゼンチン)/ Salado Media(ウルグアイ)/ Manny Films(仏)、Movistar+参画

監督・脚本:アルバロ・ブレックナー

撮影:カルロス・カタラン

編集:イレネ・ブレクア

音楽:フェデリコ・フシド

プロダクション・デザイン:ラウラ・ムッソ

製作者:フェルナンド・Sokolowicz、マリエラ・ベスイエブスキー、フィリップ・ゴンペル、Birgit Kemner、(エグゼクティブプロデューサー)セシリア・マト、バネッサ・ラゴネ、他多数

 

データ:製作国スペイン、アルゼンチン、フランス、ウルグアイ、スペイン語、2018年、実話に基づくビオピック、撮影地モンテビデオ、マドリード、パンプローナ、20176月クランクイン、公開ウルグアイ920日、アルゼンチン927日、スペイン1123

映画祭:ベネチア映画祭2018オリゾンティ部門正式出品(91日上映)、サンセバスチャン映画祭2018ホライズンズ・ラティノ部門正式出品

 

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ・ムヒカ)、チノ・ダリン(マウリシオ・ロセンコフ)、アルフォンソ・トルト(エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ)、セサル・トロンコソ(軍人)、ソレダー・ビジャミル(精神科医)、シルビア・ペレス・クルス(イヴェット)、ミレージャ・パスクアル(ルーシー)、ニディア・テレス(ロサ)ルイス・モットーラ(軍人)、他多数

 

物語19739月、ウルグアイは軍事クーデタにより独裁政権が実権を握った。都市ゲリラ「トゥパマロス」運動は勢いを失い壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。ある秋の夜、軍部の秘密作戦で捕えられたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出されてきた。全国の異なった営倉を連れまわされ、死に関わるような新式の実験的な拷問、それは精神的な抵抗の限界を超えるものであった。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らせる」ことなのは明らかだった。一日の大半を頭にフードを被せられ繋がれたまま狭い独房に閉じ込められた12年間だった。この3人の囚人とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。

 

        

          (独房から引き出された3人の囚人、映画から

 

         1970年代ラテンアメリカ諸国を覆った軍事独裁の本当の黒幕

 

ホセ・ムヒカ(モンテビデオ、1935)の最後になる逮捕は1972年、民政移管になった19854月釈放だから、大雑把に約12年間になるが(正確には116ヵ月7日間だそうです)、それ以前の収監を含めると約15年間に及ぶという。映画では3人に絞られているが、他にトゥパマロス(ツパマロス)のリーダー6人も収監されており、上述の「Memorias del calabozo」は全9人の証言で構成されているようです。

 

★冷戦時代の1970年代のラテンアメリカ諸国は、ウルグアイに限らずアルゼンチン、チリ、ブラジル、ペルーなどが米国の後押しで軍事独裁政権が維持されていた。アメリカは人権より我が家の裏庭の赤化を食い止めるのに必死だったというわけです。米国にとっては赤化より軍事独裁制のほうが国益に叶っていたからです。新式の拷問とはCIAがベトナム戦争で培ったノウハウを、領事館員やビジネスマンに偽装して潜入させ伝授したことは、その後の資料、証言、調査で明らかになっている。 

(ホセ・ムヒカ)

     

エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ(モンテビデオ、19422016、享年74歳)は、196910月逮捕されたが、19719110人の仲間と脱走に成功した。しかし1972414日再逮捕、これが最後の逮捕となって以後1985年まで収監されている。ですから彼もトータルで刑期は15年くらいになるようです。釈放後は政治家としてムヒカ大統領のもとで防衛大臣、作家としては上記以外にプンタ・カレタス刑務所から110名の仲間とトンネルを掘って脱獄した体験を書いた「La fuga de Punta Carretas」(2巻、1990)、本作は1992年モンテビデオ市賞を受賞した。その他多数の著作がある。

 

(晩年のウイドブロ)

  

マウリシオ・ロセンコフ(本名Moishe Rosenkopf、ウルグアイのフロリダ、1933)は、ジャーナリスト、作家、脚本家、詩人、戯曲家。両親は1931年、ナチの迫害を逃れてポーランドから移民してきたユダヤ教徒。2005年からモンテビデオ市の文化部長を務め、週刊誌「Caras y Caretas」のコラムニストとして活躍している。2014年ウルグアイの教育文化に貢献した人に贈られる「銀のMorosli」賞を受賞。「Memorias del calabozo」の他、著作多数。

 

(マウリシオ・ロセンコフ)

    

 

キャスト紹介

アントニオ・デ・ラ・トーレは、1968年マラガ生れ、俳優、ジャーナリスト。本作でホセ・ムヒカを演じる。当ブログでは何回も登場させていますが、いずれも切れ切れのご紹介でした。大学ではジャーナリズムを専攻、卒業後は「カナル・スール・ラディオ」に入社、テレビのスポーツ番組を担当、かたわら定期的にマドリードに出かけ、俳優養成所「クリスティナ・ロタ俳優学校**で演技の勉強を並行させていた。TVシリーズ出演の後、エミリオ・マルティネス・ラサロのコメディ『わが生涯最悪の年』(94)のチョイ役で映画デビュー、俳優としての出発は遅いほうかもしれない。

**クリスティナ・ロタ俳優学校は、アルゼンチンの軍事独裁政権を逃れてスペインに亡命してきた女優、プロデューサー、教師クリスティナ・ロタが1979年設立した俳優養成所。現在スペインやアルゼンチンで活躍中のマリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー、ヌル・アル・レビ姉弟妹の母親でもある。

 

        

               (ホセ・ムヒカに扮したデ・ラ・トーレ、独房のシーンから)

 

1990年代から2000年初めまでは、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』『テイク・マイ・アイズ』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ビースト 獣の日』、『どつかれてアンダルシア』、『13 みんなのしあわせ』、サンティアゴ・セグラの「トレンテ」シリーズなど同じ年に掛け持ちで出演しているが、どんな役だったか記憶にないほどの脇役に甘んじていた。転機が訪れたのは、ダニエル・サンチェス・アレバロの短編デビュー作Profilaxis03、仮題「予防法」)で主役を演じたことだった。バダホス短編映画祭2004で監督が作品賞、デ・ラ・トーレも男優賞を受賞した。

 

     

     (33キロ体重を増やして臨んだ『デブたち』、義兄弟のサンチェス・アレバロ監督と)

 

★サンチェス・アレバロの家族が一丸となって資金集めに奔走して完成させた長編デビュー作『漆黒のような深い青』がブレーク、ゴヤ賞2007で新人監督賞、主役のキム・グティエレスが新人男優賞、彼も助演男優賞を受賞した他、俳優組合賞も受賞した。続いて体重を33キロ増量して臨んだ『デブたち』(09)、『マルティナの住む街』(11)と二人はタッグを組んでいる。監督と彼は義兄弟の契りを結んでおり、監督は彼を「兄さん」と呼ぶ仲、以上3作に共演したラウル・アレバロも親友、2016年アレバロが念願の監督デビューした『静かなる復讐』Netflix『静かな男の復讐』)では主役の一人を演じた。

 

       

                        (ラウル・アレバロの『静かなる復讐』から)

 

★その他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『気狂いピエロの決闘』の悪役ピエロ(サン・ジョルディ賞・トゥリア賞)や『刺さった男』、アルモドバルの『ボルベール<帰郷>』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、アルベルト・ロドリゲスの『ユニット7』と『マーシュランド』、今までで一番難役だったと洩らしたマヌエル・マルティン・クエンカ『カニバル』ではゴヤ賞こそ逃したが、フェロス賞2014の男優賞、シネマ・ライターズ・サイクル賞、俳優組合賞の男優賞を制したほか、「El autor」にも出演している。グラシア・ケレヘタのコメディ「Felices 140」、パブロ・ベルヘルのコメディAbracadabraロドリゴ・ソロゴジェンの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強盗殺人事件』、そして新作El Reinoが今年のSSIFFコンペティション部門に正式出品され主役に起用されています。

 

     

                     (人肉を食するデ・ラ・トーレ、『カニバル』から)

 

★何しろトータルでは既に出演本数が100本を超えており紹介しきれないが、『カニバル』以下『マーシュランド』、「Felices 140」、Abracadabra」、El autor」などは、個別に紹介記事をアップしております。ゴヤ賞には嫌われてノミネーションのオンパレードで受賞に至らないが、マラガ出身ということもあってかマラガ映画祭2015で一番の大賞といわれる「マラガ賞」(現マラガ-スール賞)を受賞して、地中海を臨む遊歩道に等身大の記念碑を建ててもらっている。「La noche de 12 años」はウルグアイ映画なのでゴヤ賞の対象外になると思いますが、「El Reino」で7度目の正直で主演男優賞を受賞するかもしれません。

 

★マウリシオ・ロセンコフを演じるチノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスのEn fuera de juego11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』Muerte en Buenos Aires14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニのPasaje de vida15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。

『ブエノスアイレスの殺人』の紹介記事は、コチラ201409月29日

 

   

 

         

                                          (フードを被せられていたロセンコフ)

 

★アルゼンチンのお茶の間で人気を博したのがパブロ・トラペロの『エル・クラン』のTVシリーズ版Historia de un clanでの長男役でした。今年はルイス・オルテガのデビュー作El Ángelで早くもカンヌ入りを果たした。父親もアスガー・ファルハディのTodos lo sabenでカンヌ入り、家族でカンヌを満喫した。今年のSSIFFにも多分ダリン一家は揃ってサンセバスチャン入りするでしょう。

 

    

                    (『ブエノスアイレスの殺人』のポスター)

 

★ウイドブロ役のアルフォンソ・Tort(トルト?)はウルグアイ出身、昨年のSSIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門にノミネートされたアドリアン・ビニエスLas olasで主役を演じた折に紹介したばかりです。アルバロ・ブレックナーのデビュー作「Mal dia para pescar」に出演している。2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作25 Wattsで初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノCrónica de una fuga06)、主役を演じたCapital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)07)、他ビニエス監督のEl 5 de Talleres にも出演している。「ウイドブロ役はとても複雑で難しい役だった」と語っている。

Las olas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年09月13日

 

       

                      (アルフォンソ・トルト、後ろはチノ・ダリン)

 

★女優陣のうち、精神科医役のソレダー・ビジャミルは、フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』で、リカルド・ダリンが思いを寄せる上司役を演じて一躍有名になった。ほかアナ・ピーターバーグのスリラー『偽りの人生』などが公開され、一卵性双生児を演じたヴィゴ・モーテンセンと夫婦役を演じた。イヴェット役のシルビア・ペレス・クルス(ジローナ、1983)は、サウンドトラックを多く手掛けているミュージシャンで、エドゥアルド・コルテスのミュージカルCerca de tu casa16)でゴヤ賞オリジナル歌曲賞を受賞している。ルーシー役のミレージャ・パスクアル(モンテビデオ、1954)は、かの有名な『ウィスキー』でデビュー、淡々とマルタ役を演じて忘れられない印象を残した女優。男優女優ともスペイン、アルゼンチン、ウルグアイと満遍なく起用していることが分かる。

 

      

                           (精神科医役のソレダー・ビジャミル)

    

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー

アルバロ・ブレックナー(ブレチネル?)Alvaro Brechner1976年モンテビデオ生れ、現在マドリード定住のウルグアイの監督、脚本家、プロデューサー。ウルグアイのカトリック大学でメディア学の学位を取り、その後スペインに渡り、1999年バルセロナ自治大学マスターコースのドキュメンタリー制作の学位を取得した。ドキュメンタリー映画で出発、約10本ほど撮り、TVで放映された。のち2003年に短編「The Nine Mile Walk」、2005年「Sofia」、2007年「Segundo aniversario」などで評価を得る。

 

 (本作撮影中の監督)

     

★長編映画デビュー作Mal dia para pescar09、スペインとの合作)は、ウルグアイの作家フアン・カルロス・オネッティの短編「Jacob y el Otro」にインスパイアーされて製作された(オネッティも軍事独裁を嫌って1976年にスペインに亡命した)。カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に正式出品、カメラドール対象作品に選ばれた。その後、モントリオール、マル・デ・プラタ、ワルシャワ、モスクワ、上海、ロスアンジェルス・ラテン、オースティン、釜山、ヒホン、リマ、サンパウロ他、世界各地の映画祭に出品され、受賞歴多数。本国のウルグアイでは、ウルグアイ映画賞を総なめにして、オスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品に選ばれた。

 

★第2Mr. Kaplan14、西・独との合作)はスリラー・コメディ。退職して年金暮らしのハコボ・カプランと運転手のコントレラスは、近所のドイツ人が逃亡ナチではないかと疑って身辺捜査を開始する。ミスター・カプランにチリのベテラン、エクトル・ノゲラ、ドイツ人にロルフ・ベッカーを起用し、本作もオスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品、ゴヤ賞2015のイベロアメリカ映画賞ノミネート、第2回イベロアメリカ・プラチナ賞2015では、作品賞、監督賞、脚本賞以下9部門にノミネートされたが、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』に敗れた。

 

  

★第3作が前作とはがらりと趣向を変えてきたLa noche de 12 años、監督によると、2011年にプロジェクトを立ち上げたが、まだ前作の「Mr. Kaplan」の撮影中だった由。「どんな賞でも拒否はしないが、賞を取るために作っているわけではない。私にとって映画は旅であって観光旅行ではない」とインタビューに応えていた。201512月、米国のエンタメ雑誌「バラエティ」が選ぶ「ラテンアメリカ映画の新しい才能10人」の一人に選ばれた。

 

     

                            (撮影中のデ・ラ・トーレと監督)


サバルテギ-タバカレラ部門 2*サンセバスチャン映画祭2018 ⑦2018年08月03日 13:29

                  フェデリコ・ベイローの第4作「Belmonte

 

★サバルテギ部門の長編2本目は、フェデリコ・ベイローの第4作目Belmonteです。長編デビュー作Acné08)が邦題『アクネACNE』(12)として、第2La vida útil10)が『映画よ、さようなら』(16)として公開された。時間が経ちすぎて公開した頃にはすっかり忘れれていたが、とにかくスクリーンで見ることができた。さらに3作目El Apóstata15)がNetflixで『信仰を捨てた男』の邦題で放映されるなど幸運な監督と言えるかもしれない。それだけ魅力的な監督ということでしょうか。まだ新作の情報がわずかしか入手できていませんが、取りあえずご紹介いたします。

 

Belmonte(ウルグアイ、メキシコ、スペイン合作)フェデリコ・ベイロー 

キャスト:ゴンサロ・デルガド(ベルモンテ)、オリビア・モリナロ・エイホ(娘セレステ)、トマス・ワーマン(Wahrmannヴァールマン?)

 

物語:小さい娘と暮らしている造形アーティストのベルモンテの物語。肖像画を描くことに関心があり、モンテビデオのビジュアルアート美術館に収蔵されている絵画を手本に接近していく。しかし最近家族に起きた変化が気がかりで専念できない。別居している妻は妊娠しているが、お腹の子供の父親は別の男である。娘のセレステは気づいている。弟が生まれれば父と過ごす時間は少なくなるだろう。ベルモンテはできだけ多く娘と過ごそうと昼食の用意をして、学校に送りとどける。娘はそれなりに相応しい大人になるだろうが、とにかく内面の心配事を隠さないで、娘と気持ちを分かち合おうとする。

 

 

    

  監督紹介

フェデリコ・ベイローFederico Veiroj(綽名Cote Veiroj)は、1976年モンテビデオ生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。現在はスペインの国籍を取得して両国で撮っている。ウルグアイ・カトリック大学でコミュニケーション学を専攻した。デビュー作Acné08)は、第23回ゴヤ賞2009イスパノアメリカ(現イベロアメリカ)映画賞にノミネートされたが、チリ代表アンドレ・ウッドの「La buena vida」(『サンティアゴの光』)に敗れた。2作目、3作目は上記の通りですが、最も成功したEl Apóstataは第63SSIFF2015「コンペティション部門」にノミネートされ、国際映画批評家連盟賞FIPRESCI、審査員特別メンションを受けた。カトリックの信仰を捨てたい男ゴンサロ・タマヨの有為転変が語られる。批評家受けのするブニュエル風の人を食った作品だが、観客も現代の寓話として楽しめる映画になっている。2000年から6年間ほどマドリードで暮らしていたこともあってマドリードで撮影した。

 

 

     

ゴンサロ役アルバロ・オガーリャ、棄教したいゴンサロを諭すホルヘ司教フアン・カロ)

 

★俳優歴は短編を含めると56本あるが、有名なのは『ウィスキー』(04、ウルグアイ、アルゼンチン、独、西)の監督コンビ、パブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャのデビュー作25 Watts25ワッツ)01)のヘラルディートと呼ばれる少しぼうっとした若者役でした。小国ウルグアイの映画市場は狭く、1国だけの製作は難しく、監督以下、掛け持ちで役割を複数担当することになる。国土の広い隣国ブラジルとアルゼンチンに挟まれているので、ボカディージョ(フランスパンのサンドイッチ)に挟まれたパセリなどと悪口を言われる。自国だけでは食べていけないので同じ言語のアルゼンチンに出稼ぎに行く。それで本邦紹介がアルゼンチン映画だったりすると、アルゼンチン人と間違われることになる。

 

    

             (フェデリコ・ベイロー監督)

 

  キャスト紹介

★「Belmonte」の主役ゴンサロ・デルガドGonzaro Delgado Galianaは、1975年モンテビデオ生れ、脚本家、アートディレクター、監督、俳優。パブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャと同じウルグアイ・カトリック大学の映画仲間で、同じコミュニケーション学を専攻した。『ウィスキー』では、脚本を監督と共同執筆、美術も担当している。他にAcné」やミニ映画祭として短期間公開されたアルゼンチンのアドリアン・カエタノのEl otro hermano(邦題『キリング・ファミリー 殺し合う一家』、17、アルゼンチン、ウルグアイ、西、仏)でも美術を担当、『映画よ、さようなら』、『信仰を捨てた男』では脚本を共同執筆している。初監督はベロニカ・ぺロタと共同で監督したファミリー・コメディLas toninas van al Este16)、ブラジル南部の都市グラマドで開催されるグラマド映画祭(第11973年)で主演のベロニカ・ぺロタが女優賞を受賞した。デルガドも出演している。当時デルガドは、「役者になりたかった。それも主人公を演りたかった」とインタビューで語っていた。

 

           

                      (ゴンサロ・デルガドとベロニカ・ぺロタ)

 

    

         (ゴンサロ・デルガド、Las toninas van al Este」から

 

★ベイロー監督は「ゴンサロは私の映画には欠かせない才能の一人、本作(Belmonte)も彼のために書かれた映画です。ベルモンテを中心に据え、中年にさしかかった男の危機が語られます」とインタビューに応えている。というわけでデルガドも今回は主人公を演じられて念願が叶いました。

 

★製作は、ウルグアイ(Nadador Cine / Cinekdoque)、メキシコ(Corazon Films / Charles Barthe-Labo Digital)、スペイン(Ferdydurke Films)、SSIFFなどの映画祭のほか、年内のウルグアイ公開が予定されている。

 

★第5作目となるEl cambistaの撮影の準備も始まっている。偶然目にしたフアン・エンリケ・グルベルの小説「Así habló el cambista」が下敷きになっているようです。ベネズエラ出身だがモンテビデオで死去している(192481)。主役の両替商にダニエル・エンドレルほか、ドロレス・フォンシ、ベンハミン・ビクーニャ、ルイス・マチン、ホルヘ・ボラニなど、2019年完成を目指している。両替商ということですからアンチヒーローでしょうか。主人公を演じるダニエル・エンドレルは、1976年モンテビデオ生れ、アルゼンチンのダニエル・ブルマン監督の「アリエル三部作」(『救世主を待ちながら』『僕と未来とブエノスアイレス』など)の主役アリエルを演じたことから、アルゼンチン出身と思われているシネアストの一人です。25 Watts」や『ウィスキー』に出演している。


グスタボ・エルナンデスの「No dormirás」*マラガ映画祭2018 ⑬2018年04月19日 21:08

          ウルグアイの監督グスタボ・エルナンデスのサイコ・スリラー

 

  

★映画祭も後半に入りラテンアメリカからもベテラン、新人シネアストの来マラガで賑わっている。グスタボ・エルナンデスの長編第3No dormirás(「You Shall Not Sleep」)は415日に上映され、主役の一人ベレン・ルエダがプレス会見でテーマについて語りました。監督本人は来マラガしていないようでした。本作は製作国のアルゼンチン、ウルグアイほかブラジルで既に公開されているという珍しいケースです。観客のツイートでは「ホラーでもないし、スリラーでもない」というのが散見していますが、ベレン・ルエダのコメントからそれが最重要テーマでないことが分かりました。

 

 No dormirás(「You Shall Not Sleep」)2018

製作:Pampa Films / FilmSharks International(アルゼンチン)/ Tandem Films(西)/

    Mother Superior(ウルグアイ)、INCAA / ICAA他多数、

監督:グスタボ・エルナンデス

脚本:Juma Fodde

撮影:ギジェルモ・ニエト

音楽:アルフォンソ・ゴンサレス・アギラル

編集:パブロ・スマラーガ

美術:マルセラ・バッサノ

製作者:マルタ・エステバン、クリスティナ・スマラーガ、Guido Rud(以上エグゼクティブ)、アグスティン・ボッシ、パブロ・ボッシ、イグナシオ・ククコヴィッチ、他

 

データ:製作国アルゼンチン=ウルグアイ=スペイン、スペイン語、2018年、ホラー、サイコ・スリラー、106分、撮影地ブエノスアイレス、カナリア諸島ラス・パルマス。マラガ映画祭2018正式出品415日上映、アルゼンチン及びウルグアイ111日同時公開、ブラジル218日、16歳以上。

 

キャスト:エバ・デ・ドミニシ(ビアンカ)、ベレン・ルエダ(アルマ・ベームAlma Bühm)、ナタリア・デ・モリーナ(セシリア)、ヘルマン・パラシオス(作家)、フアン・マヌエル・ギレラ(フォンソ)、エウヘニア・トバル(サラ)、スサナ・オルノス(ドラ)、マリアノ・Smolarczuk(新聞記者)、他

 

プロット1984年、今では廃屋になっている精神科病院、そこで前衛的な演劇グループが20年前に患者のグループによって創作された作品の舞台化の準備のために不眠症を体験している。数日間眠らないことで知覚の限界に達すると、活力や隠されていた過去に向き合うことになった。有望な女優と目されるビアンカは、主役抜擢を願って参加していた。それは仕事や他の仲間たちへの強い思い入れだけでなく、ビアンカや仲間たちを駆り立てていた未知の力が、彼らを悲劇的な結末へと引き寄せていく。

 

★ストーリーは、前衛的な演劇グループの極端な製作過程と立派だが打ち捨てられた屋敷という要素を組み合わせて進行していくが、恐怖や精神的インパクトはそれほど多くないようだ。力点は登場人物の心理状態に置かれているから、恐怖目的のホラー・ファンには物足らないのかもしれない。ベレン・ルエダがプレス会見で「ホラーが基本的なテーマではない。しかし人物のシチュエーションが観客をそこへ誘い込む。恐怖するための恐怖を求める映画ではなく、現実と私たちの頭の中で起こることの相関関係が描かれている」と語ったように、求めているものに隔たりがあるようです。 

   

       (上映後のプレス会見、中央がベレン・ルエダ、415日)

 

ベレン・ルエダは脚本家アルマ・ベームを演じる。傷つきやすさや感受性を高めるために、出演者に数日間睡眠をとらない不眠症体験をさせる、神秘的で残酷な性格の役柄。スペインから参加したナタリア・デ・モリーナは、ビアンカの仲間の一人セシリア役になる。今回コンペティション部門で金のビスナガ作品賞を競うダビ・トゥルエバ『「ぼくの戦争」を探して』でゴヤ賞2014助演女優賞を受賞したほか、マラガ映画祭2015ではフアン・ミゲル・カスティージョTecho y comidaのシングル・マザー役で女優賞、翌年のゴヤ賞では主演女優賞まで受賞してしまった強運の持ち主、スペイン若手ホープの一人。

 

  

                       (ベレン・ルエダ、マラガ映画祭にて)

 

   

       (エバ・デ・ドミニシとナタリア・デ・モリーナ、映画から)

 

★主役のビアンカ役は、アルゼンチンのエバ・デ・ドミニシ(ドミニチか)、1995年ブエノスアイレス生れ。本作では娘は親の支配下にあるべきという、父親からのトラウマと暴力から逃れ、生き残るために舞台女優として自立したい女性を演じた。モデル出身だが2006年からTVシリーズで活躍、エルナン・ベロンSangre en la boca16)でレオナルド・スバラグリアとタッグを組み女性ボクサーを演じた。本作出演後もオファーが目白押し、来年公開の「Bad Water」でアメリカ映画にも進出することになった。

 

             

 (エバ・デ・ドミニシ、映画から)

 

  グスタボ・エルナンデスのキャリア&フィルモグラフィー

グスタボ・エルナンデス、ウルグアイの監督、脚本家、製作者。長編デビュー作La casa muda10)は、カンヌ映画祭と併催される「監督週間」に正式出品された後、国際映画祭でも上映された。翌年ハリウッドでクリス・ケンティス&ローラ・ラウ監督によって「Silent House」としてリメイクされ、日本でも『サイレント・ハウス』の邦題で公開されたホラー・スリラー、エルナンデス監督は脚本を共同執筆した。第2作目はDios local14)は、シッチェス映画祭、ファンタスティックフェスト、リオデジャネイロ映画祭、プチョン市の韓国ファンタジー映画祭などで上映された。第3作目が「No dormirás」です。

 

   

    (「No dormirás」公開時、インタビューを受けるグスタボ・エルナンデス)

 

        

             (デビュー作「La casa muda」のポスター)


アドリアン・ビニエスの第3作 "Las olas" *サンセバスチャン映画祭2017 ⑧2017年09月13日 17:24

         「ホライズンズ・ラティノ」にアドリアン・ビニエスの第3

 

アドリアン・ビニエスは、ベルリン映画祭2009でデビュー作 Gigante がいきなり銀熊賞、新人監督賞、さらにはアルフレッド・バウアー賞のトリプル受賞、一躍ベルリンの寵児となった監督。ラテンビート2010『大男の秘め事』の邦題で上映されました。今回ノミネーションされた Las olas は、昨年の「Cine en Construcción 30」出品作品、エントリーされた6作のうち4作が今年の「ホライズンズ・ラティノ」にノミネートされています。仕事に疲れ果てた中年男アルフォンソが海の中で出会う過去がメランコリックに語られる。「Cine en Construcción」は、ラテンアメリカ諸国の映画振興のために年2回開催され、第30回が20169月のサンセバスチャン映画祭、第31回が20173月のトゥールーズ映画祭に出品された作品。

  

 Las olas The Waves2017

製作:Mutante Cine(ウルグアイ)/ El Campo Cine(アルゼンチン)

監督・脚本・音楽:アドリアン・ビニエス

撮影:ニコラス・ソト、ヘルマン・レオン

編集:パブロ・リエラ、フェルナンド・エプステイン(『ウィスキー』)

録音:フランシスコ・リッジ、マルティン・スカグリア

助監督:サンティアゴ・トゥレルTurell

製作者:アグスティナ・チアリノ、ニコラス・Avruj

 

データ:ウルグアイ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、ドラマ、87分、撮影地モンテビデオ、20163月クランクイン、「Cine en Construcción 30」参加作品、サンセバスチャン映画祭2017「ホライズンズ・ラティノ」正式出品、ウルグアイ公開2018年前期予定。

 

キャスト:アルフォンソ・Tort(アルフォンソ)、フリエタ・ジルベルベルグ、カルロス・リサルディ、ファビアナ・チャルロ、ビクトリア・ホルヘ、他

 

プロット:アルフォンソは疲れはてる仕事が終わるとビーチに出かける。海に潜って泳ぐ。海から浮き上がると、5年前に家族と一緒に夏を過ごした別のビーチにいることと気づく。これが素晴らしい旅の始まりだった。彼の人生に沿ってさまざまな夏休み、湯治場がメモランダムに出現する。両親と過ごした子供時代、別れた妻と過ごした神秘的な島、友達と一緒のティーンエージャー時代、マレーシアの海賊ごっこ、2年続けて同じ場所でそれぞれ別の恋人とキャンプしたことが、ノスタルジックにメランコリックに彼の孤独が語られる。

 

         

              (ビーチに向かうアルフォンソ?)

 

         ノスタルジーとアナクロニズムが横溢する中年男の孤独

 

★テイスト的には『大男の秘め事』に近いが、デビュー作にあったスリリングな緊張感は薄れている印象です。アドリアン・ビニエスは、ブエノスアイレス生れのアルゼンチン人ですが、ウルグアイのモンテビデオを本拠地にしている。小国ウルグアイの映画市場はアルゼンチンとは比較にならないほど小さく、彼のようなシネアストは珍しい。本作は上記したように「Cine en Construcción 30」の参加作品、その時のストーリーとは若干違っているようです。「素晴らしい旅の始まり」は、アルフォンソが11歳の子供のときで、両親が岸辺から彼に戻ってくるよう呼んでいるシーンだった。アルフォンソは監督と同世代の38歳から40歳、時代は1985年から2012年に設定されている。大人の体形と変わらないアルフォンソが子供を演じるわけで、そのアンバランスが可笑しみを醸しだしているのでしょうか。

 

アドリアン・ビニエスAdrian Biniezは、1974年ブエノスアイレス州のレメディオス・デ・エスカラダ生れ、監督、脚本家、俳優、現在はウルグアイのモンテビデオ在住。2006年、短編デビュー作 8 horas でブエノスアイレス国際インディペンデントSAFICI1等賞を取る。『大男の秘め事』がベルリン映画祭2009銀熊賞・新人監督賞・アルフレッド・バウアー賞を受賞、他サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」の作品賞を受賞した。サッカー選手をテーマにした長編第2El 5 de Talleres が、ベネチア映画祭2014「第11回ベネチア・デイズ」部門で上映、他ロッテルダム、ヒホン、マル・デル・プラタ、トライベッカ、各映画祭に出品された。第3作目が本作である。俳優としては初めて公開されたウルグアイ映画としても話題を呼んだ『ウィスキー』(04、フアン・パブロ・レベージャ&パプロ・ストール)などに脇役で出演している。

 

     

               (アドリアン・ビニエス監督)

 

    

  (アグスティナ・チアリノ、監督、ニコラス・Avruj、「Cine en Construcción 30」にて)

 

★キャストのうちアルフォンソ役のアルフォンソ・Tortは、2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作 25 Watts で初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノの Crónica de una fuga06アルゼンチン)、主役を演じたCapital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)07アルゼンチン)、他ビニエス監督の El 5 de Talleres にも出ている。今作には今度共演するアルゼンチンのフリエタ・ジルベルベルグも出演している。ジルベルベルグは、『ニーニャ・サンタ』でデビュー、ディエゴ・レルマンの『隠された瞳』、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』、ダニエル・ブルマンの El rey del Once などで当ブログに登場しています。カルロス・リサルディファビアナ・チャルロは、『大男の秘め事』に出演している。監督は同じメンバーを起用するタイプなのかもしれない。

 

 

(監督は親友だと語る、アルフォンソ・Tort20155月)

 

 
      (左端アルフォンソ、右端主役のエステバン・ラモチェ、El 5 de Talleres から

 

                 

               (フリエタ・ジルベルベルグ、El 5 de Talleres から

 

『人生スイッチ』の記事は、コチラ2015729

 El rey del Once の記事は、コチラ2016829