イーサン・ホークがドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭 ⑬2016年09月12日 06:39

            今度こそサンセバスチャンに現れます!

 

   

 

★第64回サンセバスチャン映画祭の栄誉賞はシガニー・ウィーバーイーサン・ホークに決定しました。シガニー・ウィーバーは早々とアナウンスされましたが、イーサン・ホークは時間がかかりました。結局今年の栄誉賞は米国俳優2人になり、ハリウッド抜きで映画祭は成り立たない印象を受けました。昨年アメナバルRegression(“Regresión”)がオープニング上映された時には、“The Magnificent Seven”撮影中で残念ながら来西を果たせませんでした。今回は917日にスペイン語題“Los siete magníficos上映前に栄誉賞が手渡されます。米国封切りが923日ですから本映画祭上映がワールド・プレミアでしょうか。日本でも『マグニフィセント・セブン』の邦題で2017127日公開が決定しています。黒澤明の『七人の侍』(54)をリメイクした『荒野の七人』(60)、この2本を原案にして更にリメイクしたようです。ハリウッドの人気俳優7人が勢揃いした活劇です。

 

   

        (中央がイーサン・ホーク、右隣りがデンゼル・ワシントン)

 

1970年テキサス州オースティン生れ、監督、脚本、作家と幾つもの顔をもつ俳優。「ビフォアー」シリーズの他、『ガタカ』97)、6才のボクが、大人になるまで』14)など殆どが公開されている。アカデミー賞はノミネーションだけに終わっているが、未だ45歳、これからですね。小説は4作、2作目となる“The Hottest State”は、自ら脚本も手がけて監督した(『痛いほどきみが好きなのに』2007)。4作目の“Inden”(16)が「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラー・リストに初めて登場した。

 

シガニー・ウィーバーの紹介記事は、コチラ⇒2016722

 

ハビエル・バルデム*古典ホラー『フランケンシュタイン』のリブートに出演?2016年07月25日 15:33

        フランケンシュタイン博士、あるいはモンスター役?

 

★ショーン・ペンのアフリカ内戦もの『ザ・ラスト・フェイス』(“The Last Face”)が今年のカンヌ映画祭でワールド・プレミア、シャーリーズ・セロンと共演(公開が予定されている)、今年夏公開が予定されていた「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ第5は遅れて来年になる由、久々のスペイン語映画フェルナンド・レオン・デ・アラノアのEscobar(麻薬王パブロ・エスコバルのビオピック、妻ペネロペ・クルスと共演)、ダーレン・アロノフスキーの新作ジェニファーローレンスと出演、更にイランのアスガル・ファルハディの新作に夫婦で出演、来年夏にはスペインでのクランクインが予定されている。

 

★“Escobar”は、コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの伝記映画。エスコバルの1980年代の愛人、元ジャーナリストのビルヒニア・バジェッホの同名回想録“Amando a Pablo, odiando a Escobar”(2007年刊)の映画化。バルデムがエスコバル、クルスが愛人ビルヒニアになります。

 

    

             (ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス)

 

★そして今回アナウンスされたのが、1930年代にユニバース・ピクチャーズが製作した一連のホラー映画の一つ『フランケンシュタイン』のリブート出演のニュースです。本作はイギリスのメアリー・シェリー(17971851)が、1818年に匿名で発表したゴシック小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を、1931年にジェイムズ・ホエールが映画化したもの(当時の女性作家は匿名)。ボリス・カーロフが扮した怪物の造形イメージが今日でもモンスター像として定着している。小説と映画の人物造形にはかなりの違いがあり、新作が原作重視か、あるいは映画重視かは分からない。そもそもバルデムがフランケンシュタイン博士になるのかモンスターになるのかさえ不明である。今後も紆余曲折がありそうです。製作は2019年と大分先になるようだ。

 

  

       (ボリス・カーロフ、1931年映画版のフランケンシュタインの怪物)

 

★ジェイムズ・ホエールは1935年に『フランケンシュタインの花嫁』も監督しており、モンスターは同じくボリス・カーロフが扮した。こちらには原作者のメアリー・シェリーまで登場するというもので、ますます原作から離れてしまっている。新作「フランケンシュタイン」には、両作を合体させるのかもしれない。資金力はあっても企画力が乏しくなっているせいか、リブートだのリメイクだの新鮮味に欠けるニュースのご紹介です。

 

★新作は、昨年の夏以来、アレックス・カーツとクリス・モーガンを主軸に、ユニバース・ピクチャーズが「古典モンスター映画」のリブートを企画した第3作目に当たる。第1作は『ミイラ再生』(1932)の“The Mummy”、トム・クルーズが主役のタイラー・コルトに、ラッセル・クロウがジキル博士を演じた。このジキル博士役のオファーをバルデムが断ったと聞いている。20176月公開予定。第2作が『透明人間』(1933)、ジョニー・デップが主役を演じる。

 

アスガル・ファルハディの新作の記事は、コチラ⇒201666


アメリカン・ドリームの挫折を描いた”Callback”*マラガ映画祭2016 ⑨2016年05月03日 15:48

       監督と俳優が合作したスリラーが「金のジャスミン賞」

 

★オリジナル版の言語が英語という映画が作品賞を受賞した。スペイン語のできる英語話者が主人公の映画は珍しくなくなったが、カルレス・トラスCallbackは初めてのケースではないかと思う。10年ほど遡ってみたが該当する作品はなかった。ゴヤ賞を含め数々の賞に輝いたイサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(05)が同じケースだが、これはマラガでは上映されなかった。マラガは国際映画祭ではなく、スペイン語映画に特化している映画祭なのだが、製作国がスペインならOKという時代になったのでしょう。

 

★今回の金賞は大方の見方とは異なった結果になったようです。エル・パイスのレポートによると、話題の中心イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポLa propera pellセバスティアン・ボレンステインKóblic2作品に絞られていたそうです。開幕から観客の大きな輪ができていたのもこの2作品だった。つまり観客の受けはイマイチだったということかな。しかし審査員は結果的に“Callback”を選んだわけです。さて来年は第20回となる節目の年、大きなイベントが計画されているようです。 

       

           (マルティン・バシガルポをあしらったポスター)

 

    Callback2016

製作:Zabriskie Films / Glass Eye Pix

監督・脚本・製作者:カルレス・トラス

脚本(共同):マルティン・バシガルポ

撮影:フアン・セバスティアン・バスケス

編集:エマーヌエル・ティツィアーニ

製作者(共同):マルティン・バシガルポ、ラリー・フェッセンデン、ティモシー・ギブス、他

データ:スペイン=米国、オリジナル言語英語、2016年、スリラー、80分、マラガ映画祭2016上映427日他、バルセロナ映画祭428

 

キャスト:マルティン・バシガルポ(ラリー・デ・チェッコ)、リリー・スタイン(アレクサンドラ)、ラリー・フェッセンデン(ラリーの雇い主ジョー)、ティモシー・ギブス(福音派の牧師)

 

解説:ラリーは熱烈な福音主義のプロテスタント、引越し業者のもとで働いている。彼にはプロフェッショナルな大スターになるという夢があるがチャンスはなかなか巡ってこない。雇い主のジョーとは折り合いが悪く、孤独な一人暮らしを続けている。ある日、アレクサンドラという女性が彼の人生に入ってきたことでラリーの運命に転機が訪れる。運が向き始めたようにみえたが、ことごとく悪い方へ転がり始めてしまう。アメリカン・ドリームを抱いて一か八かやってくるが、ニューヨークのような大都会では多くの移民がフラストレーションと厳しい孤独に苦しむことになる。夢を果たせずに挫折する移民たちの物語。

      

     

        (最優秀男優賞を受賞したマルティン・バシガルポ、映画“Callback”から)

 

監督紹介:カルレス・トラスは、1974年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画スタジオ・センター(CECC)で学ぶ。ベルリン映画祭の「Berlinale Talent Campus」の参加資格を得て、リドリー・スコット、スティーヴン・フリアーズ、ウォルター・サレス、クレール・ドニ、撮影監督クリストファー・ドイルなどのセミナーに出席した。長編映画は以下の通り:

2004Jovesラモン・テルメンスとの共同監督、バルセロナ映画賞新人監督賞受賞、他

2009Trashガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2011Open 24H監督・製作者、ガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2016Callback 

   

            (マラガ映画祭でのカルレス・トラス監督)

 

キャスト紹介マルティン・バシガルポはチリ生れ、1975年からニューヨーク在住の俳優、脚本家、製作者。ロンドン、ベラルーシ共倭国の首都ミンスクの芸術アカデミー、ニューヨークの名門演劇学校ステラ・アドラー・スタジオなどで演劇を学ぶ。舞台デビューは2003年の『ハムレット』、2008年『セールスマンの死』、ほか昨年2015は『三人姉妹』など。アメリカン・ルネッサンス・シアター・カンパニーのメンバー。

 

★映画、TVは、マーリー・エルナンデスの短編“La Reclusa”(2013USA、スペイン語、12分)でデビュー、アメリカのTVドラ“The Hunt with John Walsh”(2014,第4Victim 1話)に出演、本作が本格的な長編映画デビューとなる。初長編で最優秀男優賞受賞が決して棚ボタでないことは経歴が証明している。脚本には彼の体験が色濃く反映されている。

 

       

        (最優秀男優賞のトロフィーを掲げて、マルティン・バシガルポ)

 

リリー・スタインは本作アレクサンドラ役がデビュー作、ラリー・フェッセンデン1963年ニューヨーク生れ、ホラー映画でお目にかかっている。風貌がホラー映画『シャイニング』に出てくる太めのジャック・ニコルソンに似ている(笑)。ティモシー・ギブスは、1967年カリフォルニアのカラバサス生れ、劇場公開作品はないようだが、ダーレン・リン・バウズマンのサスペンス・ホラー『111111』(米西、20111111日にアメリカで公開、DVD)で主役を演じた。ほかにハイメ・ファレロのホラー・アクション『バンカー/地底要塞』(西、2015DVD)にも出演している。 

   

               (リリー・スタイン、映画から)

 

 

    

           (ラリー・フェッセンデン右側、映画から)

 

 

    

             (マラガ映画祭でのティモシー・ギブス)

アレハンドロ・G・イニャリトゥ、アカデミー賞連続監督賞受賞2016年03月02日 15:49

         3人目の連続受賞者となったメキシコ出身監督

 

★下馬評通りだったのかサプライズだったのか知りませんが、アレハンドロ・G・イニャリトゥ2回連続監督賞受賞『レヴェナント 蘇えりし者』)には驚きました。ジョン・フォードとジョセフ・L・マンキーウィッツに次ぐ「3人目」といっても、大昔のことだから記憶を辿れる人は現在では少数派です。後者についてはF・トゥルエバ新作の記事中、「スペインでロケされた」映画『去年の夏 突然に』(59)を紹介したばかりでした。テネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化ですね。アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』は、彼の『イヴの総て』(1950All about Eve、監督・脚本賞受賞)へのオマージュとして題名が付けられた話は有名です。昨年の『バードマン』は作品賞・監督賞・脚本賞のトリプル受賞、手は2本しかないから3個同時に持てなかったが、今年は片手で持てます。

 

       

          (お互い1個だから片手で十分です。レオ様と監督)

 

★もっとびっくりするのは、撮影監督のエマニュエル・ルベッキの3回連続受賞ではないでしょうか。こういう事例が過去にあるのかどうか調べる気にはなりませんが。彼もメキシコ出身、「メキシカン黄金時代の到来」は大げさでしょうか。本国メキシコでは「あれはハリウッド映画だから」と、逆に国民は冷めているのかもしれません。海外からの観光客には魅力的な国でも、そこでずっと生きていくのは大変な国ですから。

 

★三度目じゃなく六度目の正直、レオナルド・ディカブリオもやっとオスカー像を手にいたしました。「もう上げるべきだよ」と思ったアカデミー会員が多かったということです。シャーリー・マクレーン同様「遅ずぎました」。マーティン・スコセッシの『アビエイター』(04)で受賞できなかったのが実に不思議でした。1974年ハリウッド生れの41歳、5歳でテレビショーに出演したというから芸歴は長い。個人的には声が高いので好きになれないタイプの俳優、一番好きな映画はラッセ・ハルストレムの『ギルバート・グレイプ』93)、知的障害をもつ少年を演じた。少年役だから高い声が気にならなかったが、実際には20歳に近かった。すごい才能が現れたと思いました。これがアカデミー賞と関わりをもった最初の映画、兄ギルバートを好演したジョニー・デップも評価された。大ヒット『タイタニック』以前の映画のほうが好もしい。大ヒットがアダになって長年苦汁を強いられたが、本作では本当の大人の演技が見られるというわけです。

 

  

     (ヒュー・グラスに扮したディカブリオ、『レヴェナント 蘇えりし者』から)

 

アレハンドロ・G・イニャリトゥは、代表作5作がすべて日本語で鑑賞できる数少ない監督の一人。これを足すと6作になる。メキシコの監督とはいえ母国語のみはデビュー作『アモーレス・ペロス』だけ、このカンヌ映画祭2000での成功がアメリカ行きの切符を可能にしたわけだが、どうやら復路の切符は失くしてしまったらしい。ストーリーは実在した毛皮取りのワナ猟師ヒュー・グラス17801833)を主人公にした伝記小説の映画化。息子を殺された父親の復讐劇の一面をもつ。舞台は19世紀初頭のアメリカ、しかしカナダの雪原で自然光を使って撮影された(劇場公開422日予定)。

 

★外国語映画賞は、ハンガリー映画34年ぶり、2回めの受賞となった『サウルの息子』でした。コロンビア映画(ベネズエラ、アルゼンチン合作)、チノ・ゲーラの『大河の抱擁』は残念でした。しかし「ノミネートに意味がある」と思いたい。エル・デセオが手掛けた『人生スイッチ』が昨年ノミネートされたときのアグスティン・アルモドバルの言葉です。

 

『バードマン』オスカー賞3冠、監督キャリアなどの紹介記事は、コチラ⇒201536


アカデミー賞外国語映画プレセレクションにコロンビア代表作品が選ばれた2015年12月19日 15:54

     チロ・ゲーラの新作“El abrazo de la serpiente

 

★ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画賞にもノミネーションされず、チロ・ゲーラの不運を嘆いておりましたが、アカデミー賞プレセレクション9作品の仲間入りを果たしました(英題Embrace of the Serpent”)。製作国は他にベネズエラとアルゼンチンが参加しています。後者のパブロ・トラペロの「ザ・クラン」は落選、アルゼンチンは昨年ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』が選ばれたので可能性は低かったかもしれません。1960年から70年代にかけては参加国も限られていたから、フランス、イタリア、北欧諸国が2年連続受賞ということもありましたが、21世紀に入ってからは流石にないようだ。他に中南米からはハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(グアテマラ)、初めて代表作品を送り込んだパラグアイのドキュメンタリー“El tiempo nublado”、スペインの『フラワーズ』は残れませんでした。

 

   

            (“El abrazo de la serpiente”のポスター)

 

★この9作品の中から最終的にノミネーション5作品が選ばれますが、もう受賞作はハンガリーの『サウルの息子』に決定しているとか。昨年はポーランドの『イーダ』が下馬評通り受賞しましたから、多分そうなるのでしょう、白けます。しかしノミネーションを受けるだけでも大変なこと、昨年ジフロンに付き添って現地入りしていたアグスティン・アルモドバルも「ノミネーションだけでも名誉なことだ」と語っていた。興行的にプラスになることが借金返済や次回作の資金集めに大いに寄与してくれるからです。

 

★チロ・ゲーラがコロンビア代表作品に選ばれるのは3回目、前回は2009年の“Los viajes del viento”(英題“The Wind Jouneys”)、コロンビアのノミネーションはまだゼロ、もし三度目の正直で残ったら初となる。本作はカンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」に正式出品された。その折、監督キャリア&フィルモグラフィー、並びに本作紹介記事をアップしております。

コチラ⇒2015524 

第7回「京都ヒストリカ国際映画祭」(10月31日~11月8日)で『大河の抱擁』の放題で上映されました。 

 

     アイルランド代表作品“Viva”は異色のスペイン語映画

 

★パディ・ブレスナックの新作“Viva”はアイルランド映画だが、キャストはキューバ人、舞台はハバナ、言語はスペイン語と異色づくめ。キューバは今年代表作を送らなかったが、アイルランドの代表作品がプレセレクションに選ばれた。キューバ映画の顔みたいなホルヘ・ペルゴリアが、主人公ヘススの父親アンヘル役で出演しています。18歳の主人公にエクトル・メディナ、15年の刑期を終えて出所してくる元ボクサーの父親にペルゴリア、脇をベテランが固めています。本作についても既に簡単ながら記事をアップしております。

コチラ⇒2015103  

 

  

          (ドラッグ・クイーンのエクトル・メディナ、映画から

 

オスカー賞2016のスペイン代表はバスク語映画『フラワーズ』2015年10月03日 13:39

     決定しても米国では未公開、プレセレクションへの道は遠い

 

グラシア・ケレヘタ(“Felices 140”)とカルロス・ベルムト(“Magical girl”)は残念でした。“Magical girl”はアカデミー会員の年々上がる平均年齢から判断して、まず選ばれないと考えていました。こういうオタクっぽいミステリーは好まれない傾向にあるからです。“Felices 140”はかなりスペイン的なシリアス・コメディだから無理かなと。消去法と言ってはなんですが、結局ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ『フラワーズ』が残ったのではないでしょうか。しかし、選ばれてもアメリカでは映画祭上映だけで、目下一般公開のメドが立っていません。最終候補に残るには、少なくともロスで1週間以上の一般公開が必要条件です。アメリカでの映画祭上映、映画祭で受賞してもダメです。本作はパーム・スプリングス映画祭のラテン部門で受賞していますが、これは条件を満たしたことになりません。

 


12月中頃に9作品のプレセレクション発表、ノミネーションは年明け114日です。短期間の勝負だから多くの国はプロモーションの人手は足りても資金が続かない。二人の監督はスペイン映画アカデミーに感謝の言葉を述べていますが、ちょっと神経質になっているようです。何しろゴヤ賞でさえビビっていたのですから。反対にプロデューサーのハビエル・ベルソサは意気軒高、初のバスク語映画、この稀少言語を逆手にとって、他との差別化を図りたい。以前モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(1997)がノミネートされ、舞台がバスクだったので若干バスク語が入っていたが、本作は全編バスク語だ。「この特異性は強いカードだ」と言う。「目下新作を製作中だが一時中断してプロモーションに出掛ける」そうです。

 


★バスク自治州政府も後押ししている。スペインで一人当りの平均収入が最も高い豊かな州だが、過去に起きたETAの暴力テロで国際的にはイメージがよいとは言えない。またバスク語は放置すれば消滅してしまう言語ですから、バスク語映画が代表作品に選ばれたのをチャンスととらえ、バスク語普及に力を入れているバスク政府の言語政策のキャンペーンにも利用したい、あわよくば観光客も呼び込みたいと一石二鳥どころか三鳥、四鳥も狙っているようです。ま、頑張って下さい。

 

★昨年、ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたから、ご覧になった方は、鋭い人間洞察、ちょっとしたユーモア、雨に濡れた森の緑の映像美、バックに流れる音楽、見事な伏線の張り方、何はおいてもテーマになった、老いや孤独、突然の死が織りなすドラマに魅了されたことでしょう。

 

★スペイン以外で決定しているラテンアメリカ諸国のうち、アルゼンチン、チリ、グアテマラなど、当ブログに度々登場させた映画も選ばれています。以下はその一例:

 

アルゼンチンEl clan 「ザ・クラン」パブロ・トラペロ、ベネチア映画祭監督賞受賞

チリEl Club”『ザ・クラブ』パブロ・ラライン、ベルリン映画祭グランプリ審査員賞受賞

コロンビアEl abrazo de la serpienteチロ・ゲーラ、カンヌ映画祭「監督週間」作品賞受賞

グアテマラIXCANUL”『火の山のマリア』ハイロ・ブスタマンテ

ベルリン映画祭アルフレッド・バウアー賞受賞

メキシコ600 Millasガブリエル・リプスタイン

ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門で初監督作品賞受賞

ベネズエラDauna. Lo que lleva el río(“Gone With The River”)マリオ・クレスポ

パラグアイEl tiempo nublado(“Cloudy Times”)ドキュメンタリー、アラミ・ウジョン

ドミニカ共和国Dólares de arena(“Sand Dollars2014

ラウラ・アメリア・グスマン&イスラエル・カルデナ

 

★ベネズエラはベネチア映画祭で金獅子賞を受賞したばかりのロレンソ・ビガスDesde allá(「フロム・アファー」)を当然予想していましたが外れました。多分受賞前に決定していたのではないかと思います。まったくノーマークだったマリオ・クレスポの作品が選ばれましたが、ベネズエラのTVドラを数多く手掛けている監督です。

 

★パラグアイのEl tiempo nubladoは、近年増加しているというパーキンソン病に罹ったウジョン監督自身の母親を追ったドキュメンタリー、車椅子生活となった母と娘が向き合う映画、これは是非見たい映画です。下の写真は監督と母親、映画から。

 



★ドミニカ共和国の“Dólares de arenaは、2014年の作品で、主演のジュラルディン・チャップリンが第2回プラチナ賞の候補になったときご紹介した作品です。二人の監督はメキシコで知り合い結婚しています。本作は二人で撮った長編3作目になります。いずれドミニカ共和国を代表する監督になるでしょう。アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』でも書いたことですが、若いシネアストたちのレベルは高い。

 



★奇妙なことに外交的な雪解けにも拘わらず、キューバ映画芸術産業庁は今回代表作品を送らないことに決定したそうです。送らないのか送れないのか、どちらでしょうか。2016年のゴヤ賞やアリエル賞も参加しないようです。面白いことにアイルランド代表作品Vivaは、キューバの俳優を起用してハバナで撮影、言語はスペイン語、ハバナで暮らすドラッグ・クイーンの若者が主人公のアイルランド映画。当ブログはスペイン語映画のあれこれをご紹介していますが、こういう映画は想定外でした。18歳の若者に長編デビューのエクトル・メディナ、刑務所を出所したばかりの父親に名優ホルヘ・ペルゴリア、他ルイス・アルベルト・ガルシアなどベテランが脇を固めています。「父帰る」で対立の深まる父と子の物語。

 


                       (エクトル・メディナ、映画から)

★監督は1964年ダブリン生れのパディ・ブレスナック、すべて未公開作品ですが、DVD化されたホラー映画2作とファミリー映画1作があるようです。トロント映画祭やコロラド州のテルライド映画祭(9月開催)でも上映された。テルライド映画祭は歴史も古く審査員が毎年変わる。今年はグアテマラ代表作品IXCANULも上映された。アイルランド映画委員会が資金を出して映画振興に力を注いでいるようで、本作のような海外撮影を可能にしたようです。

 

★アイルランドの公用語は勿論アイルランド語ですが、400年にも及ぶイギリス支配で、国民の多数は英語を使用しています。国家がアイルランド人としてのアイデンティティ教育の一環として学校で学ぶこと義務づけられています。しかし学ぶには学ぶが、日常的には英語だそうです。最近EUの公用語に指定された。支配下にあった時代のスウィフトの『ガリヴァー旅行記』、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』も英語で書かれた。

 

 

『しあわせへのまわり道』本日公開*イサベル・コイシェ2015年08月29日 17:29

   コイシェとパトリシア・クラークソンがタッグを組んで「しあわせ探し」

 

★英語映画ですが、以前当ブログでご紹介したコイシェの新作と言いたいところですが、元新作です()。コイシェは出身こそスペインですが、映画をアメリカで学んだせいか、アメリカやイギリスで仕事をしていることが多い。デビュー作“Demasiado viejo peara morir joven”(89)はスペイン語で撮りましたが、2作“Cosas que nunca te dije”(1995、米≂西『あなたに言えなかったこと』ラテンビート2004上映)以来、ドキュメンタリー以外英語映画が殆どです。今春、本拠地をニューヨークはブルックリンに移して精力的に作品を発表しており、イザベル・コヘットと表記されていた頃がウソのようです。

 


★トロント映画祭2014スペシャル・プレゼンテーション」部門上映がワールド・プレミア、コイシェ映画というより、クラークソン映画かもしれない。グレン・クローズが長年映画化に執念を燃やし、ロドリゴ・ガルシアが監督した『アルバート・ノッブス』(11)の関係に似ているかもしれない。ダルワーン役のベン・キングズレーは、ペネロペ・クスルと共演した『エレジー』08)に出演して、コイシェ映画は経験済み。東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』09)で堪らず中途退席した方も、こちらは楽しめるのではないかな。個人的にはベルリン映画祭2015でオープニング上映された(初体験)ジュリエット・ビノシュ主演のNobody Wants the Nightの公開を待っていますが。

 

Learning to drive 米国 英語 2014 

監督:イサベル・コイシェ

脚本・原作:サラ・ケルノチャン

撮影:マネル・ルイス

製作者:ダナ・フリードマン

キャストパトリシア・クラークソン(ウェンディ)、ベン・キングズレー(教官ダルワーン)、グレース・ガマー(娘ターシャ)、ジェイク・ウェバー(夫テッド)、サリター・チョウドリー(ジャスリーン)他

 

プロット:ウェンディはマンハッタンで活躍するベテラン書評家で、最近結婚生活が破綻してしまった。夫の浮気にも気づかなかった本の虫、いや仕事の虫。常に夫の車に頼っていたが、これからは自分で運転しなければならない。教習所の教官ダルワーンはシーク教徒で彼自身の結婚も暗雲が漂っていた。やがて二人の人生が交差し、予期しないかたちで転機が訪れる。人生も車も上手に運転するのは難しいという大人のラブロマンス。             (文責:管理人)

 



トレビア
「ニューヨーカー」誌に掲載されたサラ・ケルノチャンのエッセイの映画化。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。911以後、ニューヨークを舞台に映画を撮るのが夢だったという監督の夢が叶った。「大人のラブロマンス」には違いないが、911後アメリカに吹き荒れた人種的差別問題、21世紀の結婚のかたちなどが背景にある。映画では教習所教官ダーワンをシーク教徒のインド系アメリカ人に設定していますが、エッセイはフィリピン人のようです。ウェンディの娘を演じたグレース・ガマーはテレビでの仕事が多い。「女の40歳は90歳」と言われるハリウッドで、今なおバリバリの現役女優メリル・ストリープがお母さんです。 


★最近の「エル・パイス」のインタビューで「どんな映画があなたを笑わせてくれる?」と訊かれて、「『ホームパーティ』のピーター・セラーズ、それにへとへとになるまで笑わせてくれたのが『ズーランダー』よ」と即答、後者は大勢の有名人がカメオ出演して話題になったコメディでした。ジュリエット・ビノシュ、ベン・キングズレー、ティム・ロビンスなど国際級の俳優を誘惑して映画を撮ってしまう監督は、スペインではコイシェぐらいでしょうか。

 

最近のコイシェのフィルモグラフィー(ドキュメンタリー、短編を除く)

2015Nobody Wants the Night”(西題“Nadie quiere la noche”)

コチラ⇒201531(ベルリン映画祭2015

2014『しあわせへのまわり道』コチラ⇒2014813(トロント映画祭2014

2013Another Me”(西題Mi otro yo”)コチラ⇒2014727

2013Yesterday Never Ends

2009『ナイト・トーキョー・デイ』

2008『エレジー』

 

IMDbにタイトルだけアップされているのが、新作The Bookshopです。“Nobody Wants the Night”の記事で触れたことですが、これは英国のペネロペ・フィッツジェラルドのブッカー賞受賞作“The Bookshop”(1978、“La libreria”)の映画化。現在これ以外にも2本執筆中で、その一つがダーウィンの玄孫を主人公にした脚本を英国出身の監督・脚本家マシュー・チャップマンと共同で執筆している。

アメナバルの”Regression”が開幕上映*サンセバスチャン映画祭2015 ④2015年08月16日 11:48

    「アメナバルが嫌いな映画祭があるかい?」とディレクター

 

★まあ、ないでしょうね()。オープニング(918日)は大抵コンペティション外から選ばれますが、“Regresión”(西題)も同じコンペ外です。アメリカでは映画祭前の828日に公開予定、スペインは102日封切りがアナウンスされています。ドイツ101日、イギリスの109日と欧州各国で順次公開されます。

★今年初めに2015年公開される映画として既に記事をアップしており、キャスト、プロットなど基本データをご紹介しております。製作国は米国とスペイン、言語は英語、サンセバスチャンではスペイン語吹替え上映のようです(スペイン語の予告編あり)。製作国は米国とスペインですが、IMDbによるとスペイン、カナダとなっております。撮影がカナダのオンタリオ州ミシサガが中心だったせいかと思われます。また時代背景を1880年代とご紹介しておりますが、最近のエル・パイス紙やウィキィでは1990年代とあり、スリラーなのに肝心の内容まで錯綜しております()

Regression”の紹介記事は、コチラ⇒201513

 


            (エマ・ワトソンに演技指導をするアメナバル)

 

 

劇場公開情報、岩波ホールで2作品一挙上映が決定

「ホライズンズ・ラティノ」部門でご紹介したパトリシオ・グスマンのドキュメンタリーEl botón de nácar 2014、チリ≂西≂仏)が、『真珠のボタン』の邦題で公開されることになりました。前作『光のノスタルジア』2010仏≂独≂チリ)と2本立て、前作は既に公開が決定しておりました。 


              (『光のノスタルジア』のポスター)

 

★新作『真珠のボタン』が、ベルリン映画祭2015で銀熊脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。前作は公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったチリのドキュメンタリーが1010日から2作揃って公開の運びとなりました(1120日まで)。地味なドキュメンタリーが一挙公開は珍しいケースかもしれません。公式サイトが立ちあがっております。一般1回券1500円、2回券は2800円と割引になります。

ベルリン映画祭2015パトリシオ・グスマンの記事は、コチラ⇒2015226

 


(トロフィーを手に喜びの監督と製作者レナート・サッチス監督夫人、ベルリン映画祭にて)

 

 

ラテンビート2015*メインビジュアルが模様替え ①2015年08月14日 16:06

           上映3作品が発表になりました

 

★東京バルト9は、秋10月開催が恒例になりました。今年は108日(木)~12日(月祝日)の5日間、上映作品はまだ3作品だけの発表です。うちカンヌ映画祭「ある視点」部門にノミネーションされたLas Elegidas(メキシコ)が『選ばれし少女たち』の邦題で上映がアナウンスされました。これについては「もしかして、ラテンビート・・・」と考えて、既に作品・監督・製作者・キャストを紹介しております。以下は作品・監督などを簡単にアップいたします。

 


     
     (メインビジュアルは、ハビエル・マリスカルのデザインになりました)

 
1『エイゼンシュテイン・イン・グアナファト』Eisenstein in Guanajuato”(2015

監督ピーター・グリーナウェイ、ロマンチック・コメディ、伝記、オランダ≂メキシコ≂フィンランド≂ベルギー≂仏、英語・西語、105

ベルリン映画祭2013正式出品作品、シアトル映画祭2015監督賞第3

 


 (中央の白背広がエイゼンシュタイン役のE・バック、帽子がパロミノ役のL・アルベルティ)

 

2『選ばれし少女たち』Las Elegidas”(2015)監督ダビ・パブロス
メキシコ、西語、
105

カンヌ映画祭2015「ある視点」の記事は、コチラ⇒2015531

 


        (中央が主役ソフィア役のナンシー・タラマンテス、映画から)

 

3WolfpackThe Wolfpack”(2015)監督クリスタル・モーゼル
ドキュメンタリー、伝記、
米国、英語、90

 


               (アングロ6人兄弟と監督)

 

★これから追い追いアップされていくのでしょうが、全体像が発表されたら個別にぼちぼちご紹介していきます。

 

『約束の地』 リサンドロ・アロンソ2015年07月01日 22:45

       大分待たされましたがいよいよロードショー  

 

★カンヌ映画祭2014「ある視点」部門の「国際映画批評家連盟賞FIPRESCI」受賞作品。リサンドロ・アロンソ長編5作目Jauja 約束の地の邦題で公開されました。デビュー作“La libertadがいきなり「ある視点」にノミネーション、2作目 『死者たち』、3作目“Fantasmaが、カンヌと同時期に開催される「監督週間」(カンヌとは別組織が運営)に選ばれたという、まるでカンヌの申し子みたいなアルゼンチンの若手監督です。

 

 (カンヌに勢揃いしたスタッフとキャスト陣、ヴィゴ・モーテンセン、ファビアン・カサス、

 ギタ・ナービュ、監督、ヴィールビョーク・マリン、エステバン・ビッリアルディ)

 

『約束の地』Jauja (“Land of Plenty”)

製作(共同):4LFortuna FilmsKamoli FilmsMantarraya、他

監督・脚本・製作:リサンドロ・アロンソ

脚本(共同):ファビアン・カサス

撮影:ティモ・サルミネン

音楽・製作:ヴィゴ・モーテンセン

音響:カトリエル・ビルドソラ

アートディレクター:セバスチャン・ロセス

編集:ナタリア・ロペス、ゴンサロ・デル・バル

衣装:ガブリエラ・アウロラ・フェルナンデス

製作者:イルゼ・ヒューアンシルヴィ・ピアラ、ハイメ・ロマンディア、
    アンディ・クラインマン、
ヘル・ウルスティン、マイケル・ウェバー、
    エゼキエル・ボロヴィンスキー、
レアンドロ・プグリエセ

 

データアルゼンチン=デンマーク=米国=メキシコ=オランダ==仏、言語スペイン語とデンマーク語、2014年、109分、ロケ地はパタゴニア、ラグナ・アスール、リオ・ガジェゴスなどアルゼンチンが80%、残りはコペンハーゲンのLystrue などデンマークで撮影。タイトル“Jaujaはペルーの町の名前、コロニアル時代の最初の都、豊穣と幸福の理想郷、パラダイス。

受賞歴:カンヌ映画祭2014「国際映画批評家連盟賞」、ゲント映画祭2014(ベルギー)スペシャル・メンション、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2014撮影賞(ティモ・サルミネン)など受賞。ロッテルダム映画祭2015ほかノミネーション多数。カンヌ映画祭以後、カルロヴィ・ヴァリ、パリ・シネマ、トロント、サンパウロ、ニューヨーク、ロンドンなど各映画祭で上映された。

 

キャスト:ヴィゴ・モーテンセン(グンナー・ディネセン大尉)、ギタ・ナービュ(洞穴の女性)、ヴィールビョーク・マリン・アガー(インゲボルグ)、アドリアン・フォンダリ(ピッタルーガ中尉)、ディエゴ・ロマン(兵士コルト)、エステバン・ビリアルディ(アンヘル・ミルキバル)、マリアノ・アルセ(ビリット)、ミサエル・サーベドラ(先住民)、ガブリエル・マルケス(スルアガ)、ブリアン・パターソン(犬の調教師)他

 


プロット1882年パタゴニア、アルゼンチン政府軍による先住民掃討作戦に参加したデンマーク人エンジニア、ディネセン大尉と父に同行してきた独り娘インゲボルグの物語。文明の及ばないパタゴニア砂漠の野営地から、ある日娘は忽然と姿を消す。若い兵士コルトと恋に落ちた娘を追って、父親の狂気の捜索が始まる。過去と現実、現実と幻想、生と死の境が定かでない砂漠では、すべてのものが飲み込まれ家族も地表から消え去る運命にある。文明と野蛮、幻想でしかない愛、壊れた家族、死への憧れ、絶望に瀕したオデュッセウスの帰還は果たしてあるのか。 (文責:管理人)

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

リサンドロ・アロンソLisandro Alonso1975年ブエノスアイレス生れの40歳、監督、脚本家、編集者、製作者。FUCFundación Universidad del Cine映画基金大学)で学ぶ。映画のプロデューサー、助監督などのキャリアをつみ、2001年“La libertadで長編デビュー、カンヌ映画祭「ある視点」にノミネーションされたことは上記の通りです。全5作は以下の通り:

2001La libertad”ロッテルダム映画祭2002スペシャルメンション受賞他

2004 Los muertos”『死者たち』リマ・ラテンアメリカ映画祭2004批評家賞、トリノ・ヤング・シネマ映画祭2004トリノ市賞他、カルロヴィ・ヴァリ映画祭2005インディペンデント・カメラ賞、ウィーン映画祭2004 FIPRESCI、エレバン映画祭2005(アルメニア)審査員特別賞受賞など

2006 Fantasma”トロント映画祭上映

2008 Liverpool”『リヴァプール』ヒホン映画祭2008 グランプリ・ アストゥリア賞受賞

2014 Jauja”上記参照

 


 脚本家ファビアン・カサスのプロフィール

ファビアン・カサスFabian Casas1965年ブエノスアイレス生れの50歳、作家、詩人、ジャーナリスト、脚本家。アルゼンチンでいわゆる<90年世代>と呼ばれるグループの一人。哲学を専攻、日刊紙「クラリン」の記者として人生を出発させ、スポーツ紙「Olé」やスポーツ誌「El Gráfico」の編集に携わった後、週刊誌「エル・フェデラル」のデスクを経て編集長になった。作家としては90年代には詩作(例えば詩集“Tuca1990)、今世紀に入ってから小説を上梓している。最初の小説“Ocio”(2000)が、アレハンドロ・リンヘンティ&フアン・ビジェガスの監督で映画化されている。しかし脚本はビジェガスが執筆してカサスは携わっていない。本作はアルゼンチン映画批評家協会賞にノミネートされた。脚本家デビューは『約束の地』。アロンソ=カサス=ヴィゴの関係は、だんご三兄弟みたいなところがあり、本作の脚本にはカサスの影響が強いにも拘わらず、配給元発行のカタログには言及がなかった。

 

 キャスト陣のプロフィール

ヴィゴ・モーテンセン、彼については公式サイト及びウィキペディアに詳しい紹介記事があるので説明不要と思うが、1958年ニューヨークはマンハッタン生れの56歳、俳優、詩人、写真家。父親がデンマーク人、母親は米国人(ヴィゴ11歳のとき離婚)。少年時代は農業経営をしていた父親の関係でベネズエラ、アルゼンチンで育った(2~11歳)からスペイン語、父親の母語であるデンマーク語、母親がノルウェー語ができたのでノルウェー語、他に仏語、伊語ができる(デンマーク語が流暢かどうか判断できないが、デンマーク人は訛りが気になったとか)。両親離婚後も共同親権なのでデンマークのパスポートを所持、監督によればこれが本作の主人公ディネセン大尉をデンマーク人にした理由とか。アロンソにとってプロの俳優起用は今回が初めて。

公開されたスペイン語映画に限ると、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)とアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)など。出版社Perseval Pressを経営、ファビアン・カサスはここで詩のアンソロジーを出版している。二人はブログ「Sobrevuelos Cuervos」をもっている。現在のパートナーは『アラトリステ』の共演者だったアリアドナ・ヒル。

 

ギタ・ナービュは、デンマークの国民的女優。1935年コペンハーゲン生れの79歳。出演映画は145作もあり結構公開されているようですが、管理人はベント・ハーメルのコメディ『ホルテンさんのはじめての冒険』(07)しか見ていません。間もなく80歳代になるとは思えない若々しさです。インゲボルグ役のヴィールビョーク・マリン・アガー同じデンマークの女優、本作でデビューしました。他にデンマーク側のキャストは、最後に出てくる犬を世話している男のブリアン・パターソン。それ以外はアルゼンチン人のようです。IMDbを見ると、過去のアロンソ映画に出演した俳優の名前が散見されます。

 

製作者のプロフィール

★製作国7ヵ国ですから何しろ数が多すぎる。目ぼしいところでは、4LFortuna Filmsはアロンソの過去の映画を製作している。Kamoli FilmsMantarrayaは今回が初めてのようです。Mantarrayaはメキシコの製作会社で、カルロス・レイガーダスのデビュー作『ハポン』(2000)以下最新作『闇の後の光』(2012)全4作を手がけている。『闇の後の光』はカンヌで監督賞を受賞して拍手喝采とブーイングを同時に浴びた作品。レイガーダスもカンヌの常連監督。全作が東京国際映画祭で上映された折り来日、Q&Aに出演した。他にカンヌ映画祭2014で監督賞を受賞したアマ・エスカランテの『エリ』以下、『サングレ』『よそ者』も製作、Mantarraya出資はアロンソにとって強力な武器となった。

 

★解釈は見た人の数だけありそうだが、以下は個人的な印象を述べたものです。部分的にネタバレしておりますので、これから鑑賞なさる場合はご注意ください。

 

     ストーリーはよく分からないが、映像美はよく分かる!

 

A : 「そこには、あなただけの≪結末≫が待っている―」というのが、チラシの謳い文句。長回しではあるが写実的、SFでもファンタジーでもない。分かりにくいのは小道具というかメタファーが多すぎて振り回されるせいか。少し困って帰りにカタログを買い求めました()

B :  カンヌで紹介されたストーリーと違いました。娘と姿を消す恋人はデンマークから船で一緒に来た随行人ということでしたね。

A :  「タルコフスキー、ホドロフスキー、ヘルツォーク、そしてカウリスマキを想起させる」、確かにタルコフスキーの『惑星ソラリス』とか『ストーカー』など、特に後者は内容的にも案内人「ストーカー」が、主人公ディネセン大尉を洞穴に案内する疥癬病みの犬に重なりました。

B :  この犬が重要なメタファーの一つ。人間を拒絶するような沈黙の砂漠は、すべてを飲みこんで無にしてしまう脅威を感じさせ、喉が渇いてひりひりする。

 

A :  眠気と闘った観客もいたのではないかと思うが、最初に「1882年 パタゴニア」が現れ、時代背景がはっきりする。そこで安心してはいけない。アルゼンチン政府軍による先住民掃討作戦にどうしてデンマークくんだりから軍人がやって来たのかがまず分からない。もっと不可解なのは性的欲望がむき出しになっているだろう「男の戦場」に年頃の娘を何故伴ってきたのかです。

B :  これは追い追い分かる仕掛けが設えてあるのですが、出だしでは分からない。スクリーンは自慰行為に耽るピッタルーガ中尉を延々と映し出す。犬、望遠鏡、おもちゃの鉛の兵隊、磁石盤など小道具を散らばして観客を翻弄する。

   

 

女性における抑圧された男性的特性「animus

 

A :  インゲは一見従順で礼儀正しい娘のように見えるが、それは見せかけのようだ。間もなく自分を溺愛する父を裏切り狂気に陥れる。自分の願いは「どんな時でも離れない犬を飼うこと」という娘は、「荒々しい荒野が好き」なのだが、父親は娘を好色な目にさらすだけの、こんな過酷な場所に娘を同行してきたことを後悔して早く故郷デンマークに帰りたい。

B :  この映画では男性性と女性性の特徴を逆転させている。これは若い恋人たちにも言える。兵士コルトがインゲを誘惑したのではなく、誘惑したのはインゲである。

 

A :  インゲが上位にあってコルトを支配している。娘は自分が自由にできる犬が欲しい。娘が兵士に近づくのは、少女の幼い恋ではなく父からの脱出劇に加担させようという打算からですが、娘の自立を阻む父親からの遁走という一般的な側面を描いただけともとれる。

B :  コルトは砂漠の過酷さを知りながらインゲに引きずられて遁走に手を貸す。愚かな若者ではあるが、砂漠の危険を熟知しているから行く手に死が待っていることを覚悟している。

   

A :  大尉も娘の謀反に気が付かないという点では愚かな父親なのです。男の好かれは独りよがりが多い。娘への溺愛ぶりは近親相姦的な雰囲気を帯びていて、これには観客には見えない妻の存在があるようだ。娘を生んだ直後に失踪してしまったという妻がトラウマになっている。妻に捨てられ娘に裏切られた男が、親を失くした孤児のように砂漠を彷徨っている。

B :  洞穴の女性が大尉の身の上話を聞いて、生れたばかりの赤ん坊をおいて姿を消す母親など珍しいと語るシーンがあるが、この女性はデンマーク語を喋り、娘が失踪するとき持ちだした大尉の磁石盤を所有している。女性は突然姿を消した妻、あるいは娘、その両方の分身でしょうか。

 

A :  ユング心理学でいう、「animusアニムス」と「animaアニマ」の問題が織りこまれているのではないか。読みかじりですが、アニムスとは女性における抑圧された男性的特性、アニマは男性における抑圧された女性的特性のことです。アニマ(男性における女らしさ)とアニムス(女性における男らしさ)は、何かを創造する力を生みだす反面、何かを破壊してしまう危険性をはらんでいる。

B :  患者が語る夢の分析からこの理論を導き出したようですが、ユング自身にもそのような傾向があったのではありませんか。

A :  医者が患者との一線を越えて性的関係をもつなどは、フロイトが最も嫌うところでしょう。インゲが会ったこともない母親の気質を受け継いだことは否定できない。あの洞穴のシーンは大尉が既に冥界に入ってしまったという暗示ともとれます。

 

A :  出番は少ないのに強烈な印象を残したのが洞穴の女性、さすがにデンマークの国民的女優の名に恥じない貫禄です。理由が分からずに切り捨てられた夢想的な男と、より現実的で自己中心的な女の対比が描かれているようにも思える。

B :  洞穴に大尉を導く犬を冥府の番犬ケルベロスととると、洞穴は冥界なのかもしれない。前の晩砂漠で眠りにつくから、大尉が見ている夢かもしれない。大尉は人生の半ばで暗い森を彷徨い歩き地獄に迷い込んでしまう『神曲』ダンテじゃないか()

A :  しかし『神曲』の地獄は、漏斗状の大穴で地球の中心まで到達しているが、この洞穴は地下にあるのではなく険しい岩場の上にあった。大尉は水を求めてこの岩場を登ってきて女性に遭遇する。邂逅すると言ってもよい。

 

B :  日本神話の黄泉の国は地下にあると思われてそのように現代語訳されているものもありますが、原文にある「坂本」は正確には坂の入り口で、そこを上ると黄泉の国がある。

A : 冥界の食事をしてしまったため黄泉から出られないイザナミを必死で振り切ろうとするイザナギは、坂本まで駆け下りてくる。岩場の上にあった洞穴より更に上にあった湧き水を大尉が飲んでしまったことは、彼が冥界の人になったことを暗示しているのかも。

 

               (ギリシャ神話のケルベロス)

 

B :  ギリシャ神話に出てくる冥界の番犬ケルベロスは、死者の魂が冥界から出ようとすると貪り食うが、洞穴の犬は大尉が穴から出ることを許した。内も外も地獄と変わりないのですが。この犬は大尉の姿を目にするとうずくまっていた水溜りから起き上がる。

A :  デンマークの邸宅で飼われていた犬は皮膚病もやや癒えて、長い眠りから覚めた少女と森に散歩に出る。少女は途中玩具の鉛の兵隊を拾うが無造作に池に投げ捨てる。すると池に波紋ができパタゴニアの砂漠が現れる。水を介してあちらとこちらが繋がっている。

B :  この人形を最後に持っていたのはディネセン大尉、だとするとさすらいのオデュッセウスは帰還できたということになる。

A : いや人形だけが時空を超えたのかも。またケルベロスには頭が三つあり、過去・現在・未来を象徴してるともいわれる。するとさらに想像の翼は広がる。なかなか「註文の多い」映画です。

 

女装して反旗を翻すスルアガ大佐の意味

 

B :  本作においては、アルゼンチン政府軍による先住民掃討作戦など添えものでしかないのですが、ディネセン大尉自身に軍人の自覚が乏しい()。さて、謎の人物スルアガですが、かつて勇名を馳せた政府軍の将校、今は先住民側に寝返って政府軍を悩ましている。

A : スルアガの存在が政府の軍事作戦の実行を阻んでいる。そこから映画は始まるのですが、スルアガのような存在は現代でも珍しくない。映画で直ぐ思いつくのはコッポラ『地獄の黙示録』の狂気のカーツ大佐、マーロン・ブランドの異様な演技が今でも目に浮かぶ。

B :  ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』の映画化、物語の舞台をベトナム戦争後期に移して翻案した叙事詩的映画ですね。本作の脚本にはコンラッドの影響を感じます。

A :  アルゼンチン人ならホセ・エルナンデスの叙事詩『エル・ガウチョ・マルティン・フィエロ』1872)の主人公に直結する。こちらは1968年にレオポルド・トーレ・ニルソンが映画化している。またウエスタンの古典とも言われるジョン・フォード『捜索者』1956)の影響も絶対受けていますね。公開当時はあまり評価されなかった作品ですが、今では『駅馬車』を凌ぐ傑作といわれ、時々テレビ放映もされているほど。

 

          (『マルティン・フィエロ』のDVDのジャケット

 

B :  優れたカメラワークはデヴィッド・リーンの『アラビアのロレンス』や『地獄の黙示録』にも活かされている。さて本作に戻って、女装でイメージできるヒーローは、俊足のアキレウス、不死の人アキレウスかな。

A : 踵に弱点があって結局パリスに矢を射られて死ぬ。オデュッセウスは冥界を訪れて死者となったアキレウスと語り合う。

B :  映画ではスルアガは、兵士コルトを殺し、ディネセンも肝心の娘の姿を見失う。ここで完全に捜索の手掛かりを失ったうえ馬まで奪われてしまう。

A : キリスト教の社会規範では女装(男装)を禁じていたから、それが背景にあるかもしれない。しかしここからが映画の本番が始まるとも言えますね。ピースがいくつも欠けていて永久に完成しないジグソーパズルのような映画だね。私たちが暮らしているところはフィクションの世界、この世は誰にとっても仮住まい、エンディングに答えはない。

 

     ダンゴ三兄弟は揃って「サン・ロレンソ」のサポーター

 

B :  カンヌで上映されたときのインタビューで、アロンソ監督は「ヴィゴとの出会いは、2006年のトロント映画祭だった。僕たちは、サッカーのこと、かつてヴィゴが暮らしたことのあるアルゼンチンのことで意気投合した」と語っていた。

A :  トロントで第3作“Fantasma”が上映されたとき以来の親友、本作の脚本を共同執筆したファビアン・カサスとヴィゴを主人公にした映画を作ろうと考えていた。だから先にヴィゴ・モーテンセンありきなんです。カサスと知り合うのはヴィゴよりもっと後のようです。カンヌで34前からの友人と話していましたから。

 

(ブエノスアイレスに本拠地をおくサッカー・クラブチーム「サン・ロレンソ」の旗を手にした

カサスとヴィゴ。映画よりサッカーが大事なオジサンたち。カンヌ映画祭にて)

 

B :  ヴィゴとカサスの出会いは上記の経歴にも書いたように、ヴィゴが経営する出版社Perseval Pressからカサスが詩のアンソロジーを出版したことからですね。

A : ですからヴィゴが結びの神、監督とカサスで脚本を練り、素案をヴィゴに見せたら気に入ってくれ出演をオーケーしてくれた。それから三人で詰めて完成させた。最初パタゴニアにやってくるのはイギリス人の設定だったが、ヴィゴがデンマークのパスポートを持っていることを思い出し書き直した。カサスによると「ヴィゴがああいう軍服を着たがったんだよ」()。詩人なのになんと一男一女の父親、子供の林間学校の費用に四苦八苦している。実に魅力的な人だが、自分はプロの脚本家ではなく、「アロンソ用の脚本家」だそうです。

 

B :  映画祭そのものが宣伝になるから映画祭にエントリーされることは、若い監督には重要、思いがけない出会いもあるから。

A : カンヌの時のブログにも書いたことだが、監督は過去の作風から「エイリアン*宇宙人」のラベルが張られたグループと思われているが、彼自身は当然そういうレッテル張りを拒否している。映画祭用の映画を作ろうとは考えていないし、多くの観客に見てもらいたい。しかし完成したときには資金は尽きプロモーションに回せない。

B :  まだヴィゴには一銭も払っていないと語っていたが、さすがにもう貰えたかな。

 


A :  ヴィゴからは観客を惹きつけるコツみたいなものを教えてもらった。製作会社マンタラヤが参加してくれたことは本当に幸運なこと、適切なサゼスチョンには感謝していますとも語っていた。

B :  ヴィゴありきの映画、日本公開も彼の知名度におんぶしている。彼が出演しているなら何でも見たいヴィゴ・ファン、満足して映画館を出られたでしょうか。

A : 海外の評価は☆セロ個から10個と真っ二つ、日本の評価は果たして何個。 

 

カンヌ映画祭の記事はコチラ201456527