オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品*サンセバスチャンFF26 ⑨2026年08月17日 14:37

      ソトマヨールの「La Perra」はカンヌ「監督週間」のパルム・ドッグ受賞作品

 

★オリソンテス・ラティノス部門には、前回の3作以外にチリ、メキシコ、ブラジル、米国の4作がノミネートされています。ドミンガ・ソトマヨール(チリ)の「La Perra」は、昨年のオープニング作品「Limpia」に続いての登場、ピラール・キンタナの同名小説の映画化です。アレッサンドラ・サンギネッティ(米国)のドキュメンタリー「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」、ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコ)の「Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building、リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジル)の「A professora de frances / The French Teacher」の4作、合計12作になりました。

 

        オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品

 

9)「La Perra」(仮題「仔犬のユリ」)

データ:製作国ブラジル=チリ、2026年、ドラマ、スペイン語、113分、撮影地チリ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」でパルムドッグ賞受賞作品、カルロヴィ・ヴァリFF7月)、メルボルンFF8月)、ブラジルのグラマドFF8月)、ピラール・キンタナの同名小説に着想をえている。

監督・脚本ドミンガ・ソトマヨール(チリのサンティアゴ、1985)、監督、脚本家、キャリア&フィルモグラフィーは、前作「Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)で紹介しています。

 

キャスト:マヌエラ・オヤルン(シルビア)、ダビ・ガエテ(マリオ)、セルトン・メロ、パウラ・ルクシンガー・エスコバル、パウラ・ディナマルカ、ラファエラ・グリムバーグ

マヌエラ・オヤルスンはチリでは有名な舞台女優、監督の説得で映画初主演、セルトン・メロはブラジルのベテラン俳優、マヌエラと仔犬は1ヵ月前からの繋がりだったと監督。

ストーリー:チリ南部、遠く離れた風の強い島で、シルビアは海藻穫りで生計を立て、パートナーと穏やかに人生を送っています。捨てられた仔犬のユリを引き取ると、彼女の日々は喜びと愛情と優しさ、それは長いあいだ抑えこんできた母親になるという願いを呼び起こすことになります。しかしユリの突然の失踪は、シルビアが苦しみ続けてきた幼少期のトラウマを再び搔きたて、まだ完全に立ち直れない過去と向き合うことを強いることになります。ピラール・キンタナの同名小説に着想を得て自由に脚色して映画化した。

Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)の紹介記事は、コチラ20251024

  

      

 

  (シルビアとマリオ、仔犬のユリ)

 

  

            (ドミンガ・ソトマヨール監督)

 

    

 

10)「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」(仮題「永遠の夏の幻想」)

データ:製作国アルゼンチン=アメリカ合衆国、デビュー作、ドキュメンタリー、93

監督・脚本アレッサンドラ・サンギネッティ(ニューヨーク1968)、写真家、監督。ロカルノ映画祭でワールドプレミアされる。25年にわたる撮影期間を経て、アルゼンチンのパンパスで暮らす従姉妹ギレルミナとベリンダを描いています。2007年からマグナム・フォトのメンバーであるサンギネッティの作品は、ニューヨークのMoMA、サンフランシスコ近代美術館、ヒューストン美術館、ブエノスアイレス美術館のコレクションの一部になっています。グッゲンハイム・フェローシップ他を受賞している。ニューヨーク生れだが、1970年から両親とブエノスアイレスに移り、2002年まで32年間暮らした。現在はカリフォルニア在住、国籍は米国。

   

解説:ドキュメンタリーは1999年から始り、監督が9歳の隣人ギレルミナとベリンダという少女に幻想を共有するよう誘い、数十年にわたるコラボレーションが続きます。二人の子供時代が終わると、彼女たちのゲームは重みを帯びていくことになります。時間の経過が最も強烈な緊張感として、この映画は二人の友情の記録となり、仕事や結婚、母親業、そして将来の進むべき道は分かれていきます。本作は女性の視点からアルゼンチンのパンパス地方の男性によって神話化された地域についてが語られます。

  

  

(左ギレルミナ、ベリンダ、「ネックレス」1999

  

 

  (ベリンダが結婚する、2007

 

  

          (アレッサンドラ・サンギネッティ監督)

   

 

  

11)Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building(仮題「ピンクとブルーのビルでの6ヵ月」)

Foro de Coproducción Europa-América Latina 2022 

データ:製作国メキシコ=ブラジル=デンマーク、2026年、スペイン語、初のフィクション、104分、カンヌ映画祭併催「批評家週間」でワールドプレミア、メルボルン映画祭(8月)上映

監督・脚本・編集ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコシティ1986)、撮影監督、監督、脚本家、編集者、ドキュメンタリー監督として記憶、秘密、子供時代を探求している。代表作「Cosas que no hacemos」(20)や「Margarita」(16)などが国際映画祭で多数受賞している。当ブログでは、共同撮影監督として参加した、アイ・ウェイウェイの「Vivos」(『ビボス~奪われた未来~』)をアップしています。

    

キャスト:ジェイド・レイエス(ブルーノ)、ソフィア・エスピノサ、ラサロ・ガビノ・ロドリゲス、エドゥアルド・ゴメス、バレリア・バネガス、アヌアル・ベラ、テレサ・サンチェス、他

ストーリー:メキシコシティ、1990年代初頭。ブルーノは11歳の誕生日に、親友のウラジミルに恋をします。その夜、父親は家族の生活を一変させるHIV陽性の診断を受けます。サルサの歌のように、家族は痛みを和らげるために歌ったり踊ったりします。30年後、ブルーノは子供のころに理解できなかった記憶を撮影し再び思い起こします。

『ビボス~奪われた未来~』の紹介記事は、コチラ20201221

 


 

   

 (ブルーノ役のジェイド・レイエス)

 

  

           (ブルーノ・サンタマリア・ラソ監督)

  

 

   

12)A professora de frances / The French Teacher」(仮題「フランス語教師」)

Proyecta 2018

データ:製作国ブラジル=フランス=ポルトガル、2026年、心理スリラー、ホラー、96分、長編4作め

監督・脚本リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジルのベロ・オリゾンテ1982)は監督、脚本家、製作者、舞台演出家。実験映画、フィクションとノンフィクション映画でキャリアを積み、本作が長編4作め。

キャスト:グレイセ・パソー(グラサ)、ジェニー・ベス(クララ)、エリサ・ルシンダ、バルバラ・コーレン、ロムロ・ブラガ、エドゥアルド・モレイラ、イタロ・ラウレアノ、ロジャー・ロジェリオ(グラサの父)、ペドロ・ゴイフマン(トマス)

グラサ役のグレイセ・パソーは女優、監督、劇作家、『千の父より生れ紙息子』(25)に出演、クララを演じたジェニー・ベスは、カンヌ映画祭2023のパルムドールを受賞したジュスティーヌ・トリエの『落下の解剖学』にマルジュ役で出演、父親役のロジャー・ロジェリオやバルバラ・コーレンは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『バクラウ』(19)に出演している。

   

ストーリー:グラサはベロ・オリゾンテに住んでフランス語の個人教師をしている。フランス人のガールフレンドと一緒に暮らしている。しかし父親の健康にかかわる緊急事態のため、子供時代に過ごした郊外の実家に戻ることにしました。地元の宗教団体を率いる隣家の家族が支援してくれますが、彼女を「自分の居場所」に連れ戻そうとする。グラサはアイデンティティと分別を危うくする不寛容と狂信の世界に囚われ、次第に不穏な道を進んでいくことになる。ブラジルの伝統的な家族の内部に潜む暴力が描かれる。

 


  (グラサ役のグレイセ・パソー)

 

  

         (リカルド・アルヴェス・ジュニア監督)

  


ジェニファー・ローレンスにドノスティア栄誉賞*SSIFF2025 ⑬2025年09月18日 14:31

       オスカー女優ジェニファー・ローレンスにドノスティア栄誉賞

  

     

 

★第73回サンセバスチャン映画祭の二人目のドノスティア栄誉賞の受賞者にアメリカの女優、プロデューサー、活動家のジェニファー・ローレンスが選ばれました。2013『世界にひとつのプレイブック』でオスカー像を手にしているとはいえ、1990年ケンタッキーのルイビル生れ、35歳になったばかりです。スクリーン、TV放映など主要作品の多くが字幕入りで鑑賞できます。おそらく最新作リン・ラムジー(グラスゴー1969、監督・脚本家・撮影監督)の「Die May Love」での産後鬱の演技が受賞の決定打だったのではないでしょうか。カンヌ映画祭2025コンペティション部門ノミネート作品、日本での配給権はクロックワークスが取得したようです。授賞式は926日、クルサール・ホールにて行われ、「Die May Love」(製作国カナダ)が上映される。

   

       

         (ジェニファー・ローレンス、「Die May Love」から)

    

      

  (ロバート・パティンソン、ラムジー監督、ローレンス、カンヌFF2025フォトコール)

   

★ジェニファー・ローレンスといえば、ギジェルモ・アリアガのオペラ・プリマ『あの日、欲望の大地で』に触れねばならない。既に『アモーレス・ぺロス』(00)、『21グラム』(03)、『バベル』(06)などの脚本で世界的に知られていたアリアガが長年温めてきた映画。監督はオーディションを受けに来たローレンスを一目で気に入り、即採用となった。彼女も期待通りの演技で応え、17歳にしてベネチア映画祭2008で新人賞であるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した。その後の活躍をみれば、アカデミー賞に史上最年少で4度もノミネートされたことも納得がいく。新作「Die May Love」の公開が待たれる。

 

受賞歴のある出演作は多すぎて書ききれないが主なものは以下の通り(年号は受賞年):

2008『あの日、欲望の大地で』上記

2011『ウィンターズ・ボーン』ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞、アカデミー賞ノミネート

2013『世界にひとつのプレイブック』アカデミー賞・ゴールデングローブ賞(ミュージカル)・

  ロサンゼルス映画批評家協会賞などの主演女優賞を受賞、ほか多数

2014『アメリカン・ハッスル』ゴールデングローブ賞・英国アカデミー賞助演女優賞受賞、

トロント・サンフランシスコ・バンクーバー・セントラルオハイオ・セントルイス、

各映画批評家協会賞(2013)を受賞

2016『ジョイ』ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞、アカデミー賞ノミネート

    

    

      (ベストドレッサーでもあるローレンス、アカデミー賞2013授賞式にて)


カルラ・ソフィア・ガスコンとフェルナンダ・トーレス*アカデミー賞20252025年01月28日 17:11

 主演女優賞にカルラ・ソフィア・ガスコンとフェルナンダ・トーレスがノミネート

         

  

 (ゴールデングローブ賞作品賞のトロフィーを手にしたカルラ・ソフィア・ガスコン)  

 

123日、第97回アカデミー賞2025のノミネート発表がありました(授賞式は32日、日本は翌日午前中)。山火事がロス全体に広がったため発表が遅れていましたが、ガラは予定通り開催の予定です。作品賞だけ10作、他のカテゴリーは5作品です。作品賞に当ブログ紹介のジャック・オーディアールの「Emilia Pérez」(フランス、スペイン語、『エミリア・ぺレス』328日公開)と、ウォルター・サレスAinda estou aqui / Aún estoy aquí」(ブラジル、ポルトガル語、『アイム・スティル・ヒア』2025年公開予定)の2作が踏みとどまりました。2作とも国際映画賞部門にもノミネートされています。なかでも前者は12部門(13個)と最多ノミネートになりました。ノミネート数で決まるわけではありませんが1つか2つ取りたいところです。

『エミリア・ぺレス』の作品&キャスト紹介は、コチラ20240604

   

  

      (監督とキャスト陣、ゴールデングローブ賞2025ガラ)

  

★予想では、作品賞はショーン・ベイカーの『アノーラ』が頭一つ抜けでているようですが、本命不在の年だそうです。テレビ視聴率は期待できないかもしれない。『エミリア・ぺレス』は、先だって15日開催されたゴールデングローブ賞の映画部門(コメディ&ミュージカル)で作品賞・非英語作品賞・助演女優賞・歌曲賞を受賞しています。カルラ・ソフィア・ガスコンも主演女優賞にノミネートされていましたが、『サブスタンス』のデミ・ムーアが受賞、カルラと共演したゾーイ・サルダナ助演女優賞を受賞して涙のスピーチをしました。満場一致の高評価で彼女のアカデミー賞受賞は期待できそうです。

   

       

   (オスカー像も夢ではないゾーイ・サルダナ、ゴールデングローブ賞2025ガラ)

  

★主演女優賞は、『アノーラ』のマイキー・マディソンが有力で、カルラも『アイム・スティル・ヒア』のフェルナンダ・トーレスも涙を飲む確立が高そうです。仮にカルラが受賞すると、スペイン人ではウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』(08)で受賞したペネロペ・クルス以来となります。1972年マドリード生れ、国籍はスペインですが2009年メキシコに転居、2018年に女性への性別転換手術を受けたトランスジェンダー、仏教徒の由、ゴールデングローブ賞にも黄色の袈裟風のドレスで登壇しました。『エミリア・ぺレス』は、国際映画賞助演女優賞歌曲賞(「エル・マル」歌手ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、「ミ・カミーノ」歌手セレナ・ゴメス)などが有力視されています。異色ミュージカルとして話題になっていますが、評価は賛否両論、舞台となったメキシコでは麻薬マフィアやトランスジェンダーの描き方にブーイングと評判は良くない。しかし投票権があるのはアカデミー会員(現在9905人、うち20%以上が海外の有権者)でメキシコの視聴者ではないから分かりません。

 

             

       二人のフェルナンダ、母モンテネグロ、娘トーレス

   

        

★ウォルター・サレスの1970年代の軍事独裁政権時代を舞台にした政治ドラマ『アイム・スティル・ヒア』は、作品賞国際映画賞主演女優賞3カテゴリーにノミネートされています。カルラ・ソフィア・ガスコンと同じく受賞は厳しいと思います。フェルナンダ・トーレス(リオデジャネイロ1965)は、ゴールデングローブ賞の映画部門(ドラマ)で主演女優賞を受賞しました。ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジョリー、ティルダ・スウィントンなどをおさえての受賞でした。ゴールデングローブ賞受賞が火付け役になってノミネートされたようですが、今後のプロモーション次第で混戦模様になりそうです。ジーナ・ローランズ級の演技力と絶賛されています。

『アイム・スティル・ヒア』の紹介記事は、コチラ20240906

   

     

 (トロフィーを手にしたフェルナンダ・トーレス、ゴールデングローブ賞2025ガラ)

 

★受賞スピーチで「このトロフィーを母に捧げたいと思います。皆さまご存じないでしょうが、私の母は25年前、この同じ場所にいたのです」と。母親とはフェルナンダ・モンテネグロのこと、本作でも二人は共演しています。1999年、ウォルター・サレスの『セントラル・ステーション』98)でブラジル人初の主演女優賞ノミネートでした。アカデミー賞にもノミネートされたほか、ベルリン映画祭、バフタ賞、ハバナ映画祭など国内外の国際映画祭での受賞歴多数。サレス監督にとっても国際舞台へ躍りでるきっかけになった映画でした。

   

100年近いアカデミー賞の歴史でも、母娘揃って主演女優賞にノミネートされたのは2組だけ、ジュディ・ガーランド(『スタア誕生』)とライザ・ミネリ(『キャバレー』受賞)親子、2組めがこの「二人のフェルナンダ」です。母娘揃ってガラに姿を現すでしょうか。モンテネグロは1929年生れだから95歳になる。

   

     

  (二人のフェルナンダ、モンテネグロが女優賞を受賞したベルリン1998ガラ)


『雪山の絆』が国際長編映画賞にノミネート*第96回アカデミー賞2024年01月25日 20:39

 『雪山の絆』のほか『ロボット・ドリームズ』や「La memoria infinita」も!

   

       

 

121日、第96回アカデミー賞のノミネートが発表になりました。日本関連の映画については周知のことですから割愛しますが、フアン・アントニオ・バヨナ『雪山の絆』がノミネートされた国際長編映画賞部門には、ヴィム・ヴェンダースのPERFECT DAYS(公開中)やイギリスの『関心領域』、イタリアの「Io Capitano」などかなりの激戦区です。本作はメイクアップ&ヘアー賞部門にもノミネートされておりますが、先だってのゴールデングローブ賞ミュージカル部門の作品賞を受賞した『哀れなるものたち』などライバルがひしめいています。

   

     

          (国際長編映画賞ノミネートの『雪山の絆』)

 

パブロ・ベルヘル『ロボット・ドリームズ』がノミネートされた長編アニメーション映画賞部門には、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』がかぶさり、アカデミー会員の高齢化などを考慮すると、ロボットの受賞は難しいでしょうか。しかし開けてびっくり玉手箱は映画賞に限らず世の常です。

    

     

          (アニメーション『ロボット・ドリームズ』)

 

★長編ドキュメンタリー賞部門の「La memoria infinita」(英題「The Eternal Memory」)は、チリの監督マイテ・アルベルディ5作目で、彼女は3年前の『83歳のやさしいスパイ』に続いての快挙です。ラライン兄弟の制作会社「Fabula」がプロデュースしており、そのパブロ・ラライン自身が監督したホラーコメディ『伯爵』(原題「El Conde」)の撮影を手掛けたエドワード・ラックマン(またはエド・ラッハマン)がノミネートされ、チリは沸いてます。独裁者ピノチェトが本当は吸血鬼、ドラキュラ伯爵だったという設定、独裁者は死んだのだが、吸血鬼だから実は生きているというダークなコメディ、『トニー・マネロ』が思いおこされる。ラックマンはトッド・ヘインズの『エデンより彼方へ』(02)、『キャロル』(15)に続いて3度目のノミネートですが、彼自身はアメリカ人です。

   

     

       (ドキュメンタリー「La memoria infinita」のポスター)

   

      

      (ネットフリックスで配信中の『伯爵』のオリジナル・ポスター)

 

★この撮影賞部門にはメキシコのロドリゴ・プリエトがマーティン・スコセッシの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』でノミネートされています。ディカプリオとタッグを組んだ超大作、20世紀初期の先住民迫害という実話をベースにしているから、観たくない会員が多いかもしれない。プリエトは同監督の『アイリッシュマン』に続いて4回目のノミネートになり、そろそろオスカー像が欲しいところです。当ブログ関連のノミネートをアップしました。『伯爵』以外作品紹介をしています。ガラは310日(日)、日本放映は翌日午前中になります。

 

マリリンにアナ・デ・アルマス*『ブロンド Blonde』Netflix 配信2022年07月10日 11:04

          ジョイス・キャロル・オーツの同名小説の映画化――『ブロンド』

 

       

★スペインでは自分が目指したような作品に恵まれず焦っていたアナ・デ・アルマスは、数年前にスペインを見限り、英語もままならないのにハリウッドに飛び込んだ。以来着々とキャリアを築いてきたが、遂にこの度マリリン・モンローの伝記映画『ブロンド』(原題Blonde」)でヒロインのマリリンに命を吹きこむことになりました。2019年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の看護師マルタ役でゴールデン・グローブ賞(コメディミュージカル部門)主演女優賞にノミネートされましたが、本作はダニエル・クレイグ扮する探偵ブランが目玉でした。しかし今度はすべてのシーンに出ずっぱりの正真正銘の主役になる。アーサー・ミラーに扮するエイドリアン・ブロディもディマジオ役のボビー・カナヴェイルも脇役に回るでしょう。ハリウッド映画ですが、キューバ出身の頑張り屋さんがヒロインということでご紹介する次第。

 

★本作はジョイス・キャロル・オーツ1938の同名小説の映画化、監督は『ジェシー・ジエームズの暗殺』(07)や『ジャッキー・コーガン』(12)のオーストラリア出身のアンドリュー・ドミニク、脚本は監督と作家が共同執筆、Netflixオリジナル映画として2022923日配信が予告されました。小説は2000年に刊行されるとベストセラーになり、翌年ピュリッツァー賞と全米図書賞にノミネートされた。作家によると「本作と Them が最も記憶に残る」作品ということです。原作は『ブロンド―マリリン・モンローの生涯』(上下巻、2003年刊)として単行本が出版されている。ノーベル文学賞候補の常連のようですが。後者Them 1970年の全米図書賞を受賞しています。映画はマリリンの詳細なエピソードとフィクションの要素で構成されています。刊行の翌年、CBSTVミニシリーズとして放映されたときのマリリン役は、オーストラリア出身のポピー・モンゴメリーでした。

 

       

     (自作の映画化を「気に入った」と語るジョイス・キャロル・オーツ)

 

     

          (新作の出来栄えに自信を見せるアンドリュー・ドミニク

 

アナ・デ・アルマスは、1988年ハバナ生れ、キューバとスペインの二重国籍を持っている。2002年キューバ国立演劇学校に入学、在学中に「まだ演技が未熟」という学校側の反対を押し切って、マヌエル・グティエレス・アラゴン『カリブの白い薔薇』06、製作スペイン)に出演した。その後、本校を自主退学してスペイン在住の祖父母を頼ってキューバを脱出、マドリードに移住した。スペイン時代の出演作には、ラテンビート映画祭2009上映のお茶の間アイドル総出演の『セックスとパーティーと嘘』(アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス共同監督)に主演した。原題「Mentiras y gordas」には、「これはあり得ない」という意味があるようですが、英語タイトルがそのまま翻訳された。さらにコメディと紹介されたが、居場所を見つけられない若者たちの〈痛い〉ドラマでした。

 

        

     (居場所が見つけられない若者たちの群像劇「Mentiras y gordas」から)

 

2014年にはダビ・メンケスの『秘密のキッス』14)やTVシリーズで人気を得ていたが、それでは満足できない女優は、オスカー女優を夢見てロスアンゼルスに飛び立った。そこからの快進撃は日本語ウイキペディアに詳しい。先述の作品以外でイーライ・ロスの『ノック・ノック』15)、『ブレードランナー 204919)では主役レプリカントに抜擢され、当ブログでもアップしたオリヴィエ・アサイヤスのWASP ネットワーク』では、WASPのメンバーの一人をスパイと知らずに結婚する役柄だった。また今年公開されたダニエル・クレイグが最後のボンドを演じる007シリーズ『ノー・タイム・トゥ・ダイ』21)では、華麗なアクションを披露した。女優はキューバ訛りの英語の特訓を受けて矯正したということですが、ノーマ・ジーンとマリリン・モンローという二つの人格に引き裂かれたダークな人生を演じるのは冒険だったことでしょう。とにかくオスカー像を狙えるスタートラインに立ったわけですが、マリリンの壊れた内面を演じられたかどうかが評価の鍵になる。

WASP ネットワーク』の作品紹介は、コチラ20200629

 

     

Blonde」のプロジェクトの企画はおよそ12年前、紆余曲折の連続だった。2019年にアナ・デ・アルマスに最終的に決定するまで、ナオミ・ワッツやジェシカ・チャスティンなどベテランの名前が候補に挙がっていた。最終的にブラッド・ピットの独立系制作会社であるPlan B Entertainment の資金提供をうけ、『ノック・ノック』のアナ・デ・アルマスの演技を記憶していたドミニクが決心したということです。この映画は、カンヌ、トロント、ベネチアなどの各映画祭で上映される予定でした。カンヌの主任ディレクターであるティエリー・フレモーがアウト・オブ・コンペティション上映を提案したが、Netflix は断ったということです。真偽のほどは分かりませんが、両者の過去の確執を考えると、まんざら嘘でもないでしょうか。ノーカットの代わりにNC-17指定、子供は見られません。

 

     

   

「El buen patron」ノミネートならず*第94回アカデミー賞20222022年02月11日 12:01

     オスカー夫妻バルデム&クルスが揃って主演俳優賞にノミネート

 

     

        (ハビエル・バルデムとペネロペ・クルスがカップルでノミネート)

 

フェルナンド・レオン・デ・アラノアEl buen patrónは残念でした。その代わりと言ってはなんですが、本作で主役を演じたハビエル・バルデムが、アーロン・ソーキンの『愛すべき夫妻の秘密』Being the Ricardos主演男優賞にノミネートされた。ノミネーション発表をペネロペ・クルスとソファに座って待っていたというご両人、同時ノミネートに感無量だった由。


★バルデムのノミネーションは4回目、うち2回目のコーエン兄弟の『ノーカントリー』07)で可笑しなオカッパ頭で登場して助演男優賞を受賞している。因みに主演男優賞はキューバの小説家レイナルド・アレナスの伝記映画『夜になるまえに』(00)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『BIUTIFUL ビューティフル』(10)、今回の『愛すべき夫妻の秘密』は『アイ・ラブ・ルーシー』で主人公のリカード夫妻を演じたルシル・ボールとデジ・アーナズの関係を描いた伝記映画、実生活でも二人は結婚していた。ルシル役のニコール・キッドマンも主演女優賞にノミネートされ、彼女のそっくりさんぶりが話題になっている。本作はプライムビデオで昨年1221日より配信されている。

 

    

            (デジ・アーナズに扮したハビエル・バルデム、フレームから)

 

   

 

ペネロペ・クルスは、アルモドバルの「Madres paralelas」(「パラレル・マザーズ」)のシングル・マザー役で主演女優賞にノミネートされた。スペイン語映画でのノミネートは2回目。バルデムと同じ4回目のノミネートになるが、2006年同監督の『ボルベール〈帰郷〉』で主演女優賞ノミネート、2回目はウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』08)で助演女優賞受賞、ロブ・マーシャルの『NINE』(09)で助演女優賞ノミネート、今回が4回目である。Netflix 配信の『ロスト・ドーター』のオリビア・コールマン、『スペンサー ダイアナの決意』のクリステン・スチュワート、ニコール・キッドマンなどと競うことになりました。

 

      


       (ペネロペ・クルス、「Madres paralelas」から


★アルモドバルの『パラレル・マザーズ』の音楽を手掛けた、アルベルト・イグレシアスが作曲部門にノミネートされた。彼も今回が4回目のノミネート、まだ受賞はありません。ジョン・ル・カレの同名小説をブラジルのフェルナンド・メイレレスが監督した『ナイロビの蜂』(05)、マーク・フォースターの『君のためなら千回でも』(07)、トーマス・アルフレッドソンのスパイ映画『裏切りのサーカス』(11)の3回です。国内ではゴヤ胸像のコレクターといわれるが、それに止まらず国際的に活躍していることが分かる。今年のフェロス賞で音楽賞を受賞したばかりです。

 

    

       (アルベルト・イグレシアス、フェロス賞2022のガラから)

 

★もう一人の短編アニメーション部門に「The Windshield Wiper」(14分、スペイン=米国合作)がノミネートされたアルベルト・ミエルゴは、アートアニメの世界では知る人ぞ知る存在。もしかしたら賞に一番近いかもしれない。愛を探す男の話です。本作はカンヌ映画祭と併催される「監督週間」で7月に上映されている。スペインの監督だが言語は英語とルーマニア語ということです。

  

  

           

        (「The Windshield Wiper」のフレームとポスター)

    

★ティム・ミラーとデヴィッド・フィンチャーが2019年に製作したアニメ・アンソロジー「Love, Death & Robots」(『ラブ、デス & ロボット』全18話)の第3話「The Witness」(『目撃者12分)を監督して2019年のプライムタイム・エミー賞をグループで受賞している。本シリーズはNetflix オリジナル作品として配信されている。殺人を目撃してしまったせいで、犯人から追われる身になった女性の話。他に2012年から開始されたTVシリーズ「Tron: Uprising」(「トロン:ライジング」)のアート監督を務め、「The Stranger」(第13話、23)で2013年に同賞を受賞している。両作とも「アニメーションのアカデミー賞」といわれるアニー賞のプロダクション・デザイン部門で受賞している。

 

       


        (「トロン:ライジング」のフレームとポスター)

 

       

         (アルベルト・ミエルゴ、エミー賞2013

 

        

     

           (『目撃者』のフレームとポスター


第94回アカデミー賞2022ショートリスト発表*国際長編映画賞部門2021年12月25日 10:01

            ショートリスト15作中スペイン語映画3作が残る!

   

   

★ベロニカ・フォルケを悼む記事が続いていますが、気を取り直して来年のアカデミー賞の話題に切り替えます。第94回のガラは、2022327日、以前のドルビー・シアターに統一して開催されるということです。それに先立つ1221日に、国際長編映画賞部門のセミ・ファイナリスト(ショートリスト)15作が発表されました。92ヵ国から応募があり、スペイン代表フェルナンド・レオン・デ・アラノアEl buen patorón、メキシコ代表タティアナ・ウエソPrayer for the Stolen(原題Noche de fuego)、パナマ代表アブナー・ベナイムPlaza Catedral3作が残りました。ノミネーションが正式に発表になるのは、来年28日がアナウンスされていますが予定です。パナマ作品は未紹介ですが、データを後述します。濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』のような強敵も残りましたから、ファイナルリスト4作に残るのは容易じゃありません。ましてや受賞となると結構長い道程です。

        

      

 (スペイン代表作品「El buen patorón」のポスター)

     

         

                 (メキシコ代表作品Noche de fuego」のポスター

 

     

          (パナマ代表作品「Plaza Catedral」のポスター)

 

El buen patorón」の主な作品紹介記事は、コチラ20210810

Noche de fuego」の主な作品紹介記事は、コチラ20210819

 

★監督紹介:パナマ代表作品Plaza Catedral」は、アブナー・ベナイムの長編第2作め。1971年パナマ生れ、監督、製作者、脚本家、造形アーティスト。米国ペンシルバニア大学で国際関係学を専攻、映画はテルアビブのカメラ映画学校で学んだ。映画はドキュメンタリーでスタートを切り、ドキュメンタリー作家としての評価は高い。2004年パナマで制作会社Apertura Films を設立、2005年ドクメンタリー・シリーズEl otora lado11エピソード)で、ニューヨークTVフェスティバルの作品賞を受賞している。2009年長編映画デビュー作Chanceは興行的にも成功し、埼玉県で開催される「スキップ・シティD シネマフェスティバル2011」に『チャンス!男メイドの逆襲』)の邦題で上映され、脚本賞を受賞している。

 

   

           (新作撮影中のアブナー・ベナイム監督)

 

2014年のInvasionは、1989年のアメリカによるパナマ侵攻をめぐる捏造された集団記憶のドキュメンタリー。本作はパナマのIFF映画祭で観客賞ほか受賞歴多数、第87回アカデミー賞(ドキュメンタリー部門)に選ばれたがノミネートはされなかった。コロンビアのバランキージャFFドキュメンタリー賞、マラガ映画祭観客賞ほかを受賞している。2018年のRuben Blades is Not My Nameも第91回アカデミー賞代表作品に選ばれたが、ノミネートには至らなかった。

 

      

      (ドキュメンタリー「Ruben Blades is Not My Name」ポスター)

 

★オスカー賞3回目のパナマ代表作品となる新作「Plaza Catedral」は、パナマ=メキシコ=コロンビア合作、スリラー・ドラマ、94分、スペイン語・英語、撮影地パナマシティ、製作Apertura Films。既にパナマ映画祭2021の観客賞を受賞しているほか、グアダラハラ映画祭MEZCAL賞にノミネートされ、フェルナンド・ハビエル・デ・カスタが男優賞を受賞したが、その前にパナマで射殺されるという悲劇に見舞われていた。ダンサーでサッカー選手でもあった少年の死は、パナマでは珍しいことではない。他にキャストはメキシコのベテラン女優イルセ・サラス、コロンビアのマノロ・カルドナなど。イルセ・サラス(メキシコ・シティ1981)は、『グエロス』の監督アロンソ・ルイスパラシオスと結婚、2児の母親でもある。マラガ映画祭2019金のビスナガ賞を受賞したアレハンドラ・マルケス・アベジャLas niñas bien(邦題『グッド・ワイフ』公開)で主役を演じている。カルドナはハビエル・フエンテス=レオンの話題作『波に流されて』09)で日本に紹介されている(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、レインボー・リール東京FFに改名)。本作でマコンド賞2010助演男優賞を受賞している。

      

       

        (彼の才能を惜しんだイルセ・サラスとフェルナンド)

 

    

  (イルセ・サラスとフェルナンド・ハビエル・デ・カスタ)

     

   

                      (サラスとマノロ・カルドナ、フレームから)

 

イルセ・サラスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20190414


フェルナンド・レオンの新作がオスカー賞のスペイン代表作品に決定2021年10月27日 15:12

     フェルナンド・レオンの新作「El buen patrón」がスペイン代表作品に決定

 

   

 

★第94回アカデミー賞の授賞式は2022327日(日)と大分先の話ですが、国際長編映画部門にフェルナンド・レオン・デ・アラノアEl buen patrónがスペイン代表作品に選ばれました。サンセバスチャン映画祭では鳴かず飛ばずと言っては語弊がありますが、無冠に終わった映画が代表作品に選ばれたわけです。もっとも他のスペイン映画も軒並み賞に絡みませんでしたが。代表作品に選ばれるのは『月曜日にひなたぼっこ』(02、落選)以来になります。

El buen patrón」の作品紹介は、コチラ20210810

 

      

  (フェルナンド・レオン監督とオスカー賞俳優のハビエル・バルデム、SSIFF2021

 

★最終候補に残った2作は、ペドロ・アルモドバルMadres paralelasと、マルセル・バレナMediterráneoでした。既にオスカー賞監督だったアルモドバルとは『トーク・トゥ・ハー』で競り勝って選ばれたので、いわば因縁の対決でした。製作者のジャウマ・ロウレス20年前を思い出して、「現地ではとてもいい感触だったのですが・・・新作は1950年代から60年代のイタリア映画に近く、サティラ調のコメディです。アメリカでのプロモーションには有利に働くかもしれない」と感慨深そうでした。監督も主役のバルデムも経験者です。一方アルモドバル映画は選ばれなくても公開されます。

 

★マルセル・バレナのMediterráneo」は、オーレンセ・インディペンデント映画祭とローマ映画祭で観客賞を受賞しています。寡作な監督で実話に基づいた『100メートル』(16)がNetflixで配信されているだけかもしれない。主役を演じたダニ・ロビラが新作にも登場している。難しい癌を克服したダニの姿を日本でも観られるでしょうか。他にエドゥアルド・フェルナンデスやセルジ・ロペス、パトリシア・ロペス・アルナイスの演技派ベテラン勢、アンナ・カスティーリョやアレックス・モネールなどの若手が出演しています。新作も実話に基づき、言語がスペイン語、ギリシャ語、英語、カタルーニャ語、アラビア語と複数クレジットされている。

 

      

             (最終候補に残った3作)

 

★まずショートリスト15本に選ばれるのが至難の業、28日のノミネート5本に残るまで遠い道のりです。日本はカンヌ映画祭の脚本賞受賞作品、濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』を選びましたが、米アカデミーはカンヌとは方向性が異なるから予測は難しい。

 

★作品賞予想の有力ランキングの1つに、ベネチア映画祭の監督賞を受賞した、ジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が入っている。日本劇場公開は1119日、121日からネットフリックスで配信されます。アカデミー賞は Netflix を排除しない。コロナ感染の再燃、アカデミー会員の老齢化が危惧されている現状では、お茶の間で鑑賞できるのは有利だから可能性はありそうです。他にチリのパブロ・ラライン『スペンサー』でダイアナ妃を演じたクリステン・スチュワートが女優賞の下馬評に上がっています。有力視されていても土壇場でどうひっくり返るか分からないのがオスカーの常識です。


残念ながら『老人スパイ』は受賞ならず*第93回アカデミー賞結果2021年04月28日 15:53

     長編ドキュメンタリー賞は『オクトパスの神秘 海の賢者は語る

   

     

(三つ編みのお下げにエルメスのドレスと白のスニーカー、監督賞受賞のクロエ・ジャオ)


★視聴率過去最低の記録になった第93回アカデミー賞授賞式、従来の対面方式でしたがアーティストなどのライブもなく、死ぬほど退屈だったと酷評する向きもありましたが、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が作品賞・監督賞・主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)の主要大賞を制して終了しました。下馬評通りの結果でしたが、主演男優賞が本命視されていた『マ・レイニーのブラックボトム』の故チャドウィク・ボーズマンではなかったことで衝撃が走ったとか。それはそうでしょう、どの映画賞も大トリは作品賞と決まっているのに、順番を主演男優賞と入れ替えてガラを盛り上げようとしていたのですから。アカデミーもさぞかしガックリしたことでしょうが、Netflixもガックリだったようです。受賞はないと思っていたか、あるいは高齢のせいか欠席していた『ファーザー』フロリアン・ゼレールアンソニー・ホプキンスがレクター博士以来29年ぶり、2回目のオスカー像を手にしました。しかし彼は少しも悪くありません。

    

       

(フランシス・マクドーマンドとジャオ監督、ピーター・スピアーズほかの製作者たち)

 

★期待の長編ドキュメンタリー賞、マイテ・アルベルディの『老人スパイ』は残念でした。受賞するに越したことはありませんが、今年7月には邦題83歳のやさしいスパイ』シネマカリテ他で公開されることになりました。これもひとえにノミネートのお蔭です。監督、主演のドン・セルヒオ以下チリの皆さん、お疲れさまでした。下馬評ではギャレット・ブラッドリーの『タイム』でしたが、ピッパ・エアリック他の『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』(原題「My Octopus Teacher)が受賞しました。受賞作はスランプに陥っていた映像作家クレイグ・フォスターが偶然出会った1匹のタコとの1年間にわたる交流を軸にしたドキュメンタリー。海中の映像美に止まらずタコの未知の生態への興味、疎遠だった息子との共同作業を通してフォスター自身が再生していくドラマが、会員の心を打ったのかもしれません。

 

Netflix7冠を獲得、うち短編アニメーション賞『愛してるって言っておくね』もシンプルだが余韻が残る作品だった。他『Mank(マンク)』の美術・撮影、『マ・レイニーのブラックボトム』は、上記のように主演男優賞は逃しましたが、メイクアップ&ヘアー賞と衣装デザイン賞の2冠、前者の受賞者セルヒオ・ロペス=リベラはスペイン出身、二番目のオスカー受賞者となりました。最初のオスカー賞は、ギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』06)のダビ・マルティモンセ・リベの二人でした。

        

       

         (受賞者の3人、右端セルヒオ・ロペス=リベラ)

 

★国際長編映画賞は、トマス・ヴィンターベアの「Druk」(デンマーク)、英題のカタカナ起こし『アナザーラウンド』として新宿武蔵野館ほかの公開が決定しています。短編ドキュメンタリー賞では、『ラターシャに捧ぐ 記憶で綴る15年の生涯』をご紹介しましたが、受賞作はアンソニー・ジアッチーノColette米国、24分)でした。ナチ占領下のフランス、75年間記憶を封印してきたコレット・マリン・キャサリンが、歴史を学ぶ学生ルーシーに説得されて過去の忌まわしい亡霊と向き合うことを決心する。当時レジスタンスとして共に戦った兄ジャン=ピエールの最期の地、ナチ強制収容所を訪れる。言語は仏語と独語ですが英語字幕入りYouTubeで鑑賞できます。

   

        

           (オスカー像を手にしたトマス・ヴィンターベア)


第93回アカデミー賞ノミネーションの記事は、コチラ⇒2021年03月21日

 

チリのジェームズ・ボンド、ハリウッドへ*米アカデミー賞20212021年04月23日 20:17

            ドン・セルヒオ、重装備で初めての海外旅行

   

    

 (第93回オスカー賞ドキュメンタリー部門ノミネートの『老人スパイ』のポスター)

 

チリのジェームズ・ボンドことセルヒオ・チャミーが、93回アカデミー賞授賞式(425日)出席のため監督マイテ・アルベルディ監督、代表プロデューサーのマルセラ・サンティバネスなど「老人スパイ」の御一行と一緒に現地入りできたようです。コロナ・ワクチンの2回接種(チリは南米の優等生で30%の接種率、ただし最近感染者が急増している)、何回も受けたPCR検査を合格して、写真のようなマスク&フェイスシールドの重装備で搭乗、これが初の海外旅行とか。2017年撮影時には御年83歳でしたが既に87歳、人生死ぬまで何があるか分かりません。

アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネートの記事は、コチラ20210321

『老人スパイ』の紹介記事は、コチラ202010221122

 

      

   (少し緊張気味のドン・セルヒオ)

   

  

            (アルベルディ監督とドン・セルヒオ)

 

★本作の製作国は、チリのほか米国=ドイツ=オランダ=スペインと大所帯、スペインはマリア・デル・プイ・アルバラド(エグゼクティブ、サンセバスティアン生れ42歳)とマリサ・フェルナンデス・アルメンテロス(共同製作者、サンタンデール生れ45歳)の二人、前者はロドリゴ・ソロゴジェンの短編Madreを手掛けている。これは第91回アカデミー賞短編部門のノミネート作品です。

 

    

(左マリア・デル・プイ・アルバラドとマリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、マドリード)

 

★「1年前は公開できるかどうかさえ分からず、袋小路に入っていました。しかしサンセバスチャン映画祭で息を吹き返しました」とフェルナンデス・アルメンテロス。1月にサンダンスでプレミアされ、9月にサンセバスチャン、観客の反応はとても違っていた。オランダだけリリースされたが、それも「10日後にはロックダウン」で市民は自宅監禁されたわけです。だからオスカー賞ノミネートのニュースには「涙が止まらなかったし、部屋の中を走り回りました」とも語っている。「チリのアルベルディに会いに行くことはできませんから、地球の反対側から朝の9時だというのにシャンペンで祝いました」と。「20パーセントの確率はあるわけだから、ガラは我が家かマリアの家かどちらかで見守ることになる」とフェルナンデス。

 

★アルバラドは「ダイヤローグはそのままで手を加えずに自然さを捉えるようにした。もっとも重要な質問は個人的なものでした。つまり、私たちの老後はどうなるの?老人ホームで暮らすようになるの?私たちは老人に何をしたらいいの?」と語っている。老人問題ではなく自分自身の問題だったのでしょう。「セルヒオは自分にあるルールを課した。重要なのはスパイすることや盗聴することではなく、相手の話を聞くことだと気づいたのです」とフェルナンデスは当時を思い出して語っている。アルベルディ監督も「老人たちは私たちがなりたい老人について決して尋ねません」と。

 

コロナ禍の最中に開催されるオスカー賞、87歳という高齢を考えて授賞式が行われるドルビー・シアター近くのホテルが準備された由、ガラではトム・クルーズやマット・デイモンのクルーの近くの席とか、チリ政府もアメリカ側も気づかっているようです。人生終盤近くにこんな夢にも見なかっただろう晴れ舞台が準備されていたとは、ドン・セルヒオも想像していなかったでしょう。日本では26日月曜日午前中、WOWOWの独占生中継です。