マリナ・セレセスキー”La puerta abierta” *ゴヤ賞2017 ⑦ ― 2017年01月12日 11:37
カルメン・マチ、激戦区の主演女優賞に初めて挑戦
★女優マリナ・セレセスキーの長編映画初監督作品“La puerta abierta”のご紹介、母娘二代にわたる売春婦家族の物語と聞けば何やら悲惨なイメージをかき立てられますが、これはコメディ仕立てのドラマ。今は現役を引退した母親にテレレ・パベス、母親の稼業を引き継いだ現役娼婦にカルメン・マチ、同じピソに暮らす性転換娼婦にアシエル・エチェアンディア、この3人を軸にドラマは展開します。現在スペインには約30万人の娼婦がいるということですが、多いのか少ないのか皆目分かりません。ワールドプレミアが2016年のアムステルダム・スパニッシュ映画祭と他のノミネーション作品に比して早くスペイン公開も9月2日ですから、投票者の記憶も薄れて若干分が悪いかもしれない。新人監督賞・主演女優賞・助演女優賞と3カテゴリーにノミネートされました。
*以下ゴチック体はゴヤ賞ノミネートを受けたもの、◎印はフェロス賞にもノミネートされたもの
(左から、テレレ・パベス、監督、カルメン・マチ、アシエル・エチェアンディア)
“La puerta abierta”(“The Open Door”)2016
製作:Ad hoc studios / Babilonia Films S.L. / Meridional Producciones
監督・脚本:マリナ・セレセスキー ◎
音楽:マリアノ・マリン
撮影:ロベルト・フェルナンデス
美術:ハビエル・クレスポ、他
編集:ラウル・デ・トーレス
衣装デザイン:マラ・コリャソ、マウロ・ガストン、パトリシア・ロペス、クルス・プエンテ他
視覚効果:オスカル・ゴメス
キャスティング:ロサ・エステベス
製作者:セルヒオ・バルトロメ、R・フェルナンデス、アルバロ・ラビン、ホセ・A・サンチェス
基本データ:スペイン製作、スペイン語、2016年、82分、コメディ・ドラマ、製作費約766,000ユーロ、IMDb7.9点、filmaffinity(スペイン)6.7点、スペイン公開2016年9月2日
映画祭・受賞歴:アムステルダム・スパニッシュ映画祭2016正式出品、トランスシルバニア映画祭TIFF 2016(観客賞)、アリカンテ映画祭正式出品、トゥールーズ・スパニッシュ映画祭(観客賞)、アルカラ・デ・エナーレス短編映画祭正式出品、第32回グアダラハラ映画祭2017(3月開催)出品予定。フォルケ賞2017女優賞(カルメン・マチ)、フェロス賞(コメディ部門)作品賞・女優賞(C・マチ)、ゴヤ賞新人監督賞・主演女優賞・助演女優賞、いずれもノミネーション。
キャスト:カルメン・マチ(ロサ)◎、テレレ・パベス(ロサの母アントニア)、アシエル・エチェアンディア(ルピータ)、ルシア・バラス(リュウバ、マーシャの娘)、パコ・トゥス(パコ)、ソニア・アルマルチャ(フアナ)、ヨイマ・バルデス(テレサ)、エミリオ・パラシオス(ユーリ、リュウバの兄)、モニカ・コワルスカ(ロシア人娼婦マーシャ)、クリスティアン・サンチェス(カルロス)、スサナ・エルナイス(スサナ)、アナ・パスクアル(チャロ)、他多数
物語:ロサは母親から受け継いだ娼婦稼業を任されている。サラ・モンティエルの熱烈なファンであった母親アントニアは、最近では自分のことを彼女と錯覚して混乱のなかにいる。このマドリード界隈のピソに暮らしている人々は、性転換した娼婦ルピータのように概ね幸せからは見放された規格品外の住人である。実際のところロサは幸せとは無縁であった。そんな折、同じ階のロシア人娼婦がドラッグの過剰摂取で死んでしまい、幼い娘リュウバを世話する羽目に陥ってしまう。リュウバには既におとなになっている兄の存在もわかってくる。リュウバは3人が失ってしまった無垢と希望を運んできてくれるのだろうか。
(左から、一家団欒の母親アントニア、ロサ、リュウバ、ルピータ、映画から)
★ロサは仕事に出かけるとき、初期の認知症になった母親のために常に玄関のドアにカギを掛けない、それがタイトルになった。母親に死なれたリュウバはやすやすと部屋に侵入でき、帰宅したロサが女の子を発見する。そこからドラマが展開していく。ロサは路上で客引きをする立ちん坊の娼婦だから現実は厳しい。役作りに「実際の娼婦3人に会ったが、それぞれ状況は異なっていても普通の人、ただし社会から排除されていた」とカルメン。エル・パイス紙でも「カルメン・マチ以外にこの役を演じられる女優はいない」と絶賛されており、批評家と観客の乖離が少ない印象です。1963年マドリード生れ、エミリオ・アラゴンの『ペーパー・バード 幸せは翼にのって』(10)が「ラテンビート2010」で上映された折、監督と来日している(翌年公開)。
(路上で客引きをするロサ、映画から)
★TVシリーズ「Aidaアイーダ」 他で、数々の受賞歴のあるカルメンだが、ゴヤ賞主演女優賞ノミネーションは初めてである。アルモドバル作品でお馴染みの女優だが、殆ど脇役だからゴヤ賞には縁が薄かった(数年前ゴヤ賞授賞式の総合司会をしたことがある)。スペイン中がフィイバーした“Ocho apellidos vascos”(14)でやっと助演女優賞受賞をゲットした。今年の主演女優賞は、『ジュリエッタ』のエンマ・スアレス、“La reina de España”のペネロペ・クルス、“María(y los demás)”のバルバラ・レニーと激戦区ではあるが、可能性は高いと予想しています。受賞したらもう少し詳しいキャリア紹介の予定。
★母親役のテレレ・パベスもアレックス・デ・ラ・イグレシア作品でお馴染み、『スガラムルディの魔女』(13)で、ゴヤ賞2014助演女優賞を受賞しています。ラテンビートで上映されたときキャリア紹介をアップています(2014年10月18日)。最初のキャスティングではアントニア役は、TVドラでカルメンと共演しているアンパロ・バロが予定されていた。しかし間もなく体調を崩し、結局癌に倒れて帰らぬ人となった(2015年1月29日、享年77歳)。映画では仲の悪い親子、娘を不幸にしてしまう母親になるわけですが、「誰がなりたくて無慈悲な母親になりたいなどと思いますか」とカルメン、母と娘の関係は難しい。プロットにあるサラ・モンティエル(1928年生れ)は、往時ではグラマーで歌える美人女優として有名、作中ではラファエル・ヒルのミュージカル“Samba”(65)のなかでサラが歌った「ファンタジー」を、テレレ・パベスが歌うということです。
(母アントニア役のテレレ・パベス、映画から)
★ゴヤ賞には絡んでおりませんが、もう一人の重要人物ルピータ役のアシエル・エチェアンディアは、1975年ビルバオ生れの41歳、俳優、歌手、TV、演劇でも活躍しています。ビスカヤの学校でエグスキ・スビアとフアン・カルロス・ガライサバルから演技の指導を受けている。他の教師とは水と油の関係だったようで、「する必要のないことを沢山学んだ」と語っている。20歳のときバスクを離れマドリードに移り、セックス・ショップで働きながら演技の勉強を続けた。TV“Un paso adelante”(02)のホモセクシュアルな青年役が評価される。歌える俳優としてミュージカル“Cabaret”(スペイン版、03)にも出演、俳優組合の新人男優賞を受賞している。
★映画デビューは、ナチョ・ペレス・デ・ラ・パス&ヘスス・ルイス監督の“La mirada violeta”(04)、フェルナンド・コロモ、エミリオ・マルティネス・ラサロなどに起用されている。最近、フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエルの『トガリネズミの巣穴』(14、ラテンビート2014)で登場している。他フリオ・メデムの“Ma ma”(14)、パウラ・オルティスの「La novia」(15)では花嫁役インマ・クエスタの花婿を演じて、ゴヤ賞2016主演男優賞にノミネートされた。演劇、TVドラでの受賞歴多数。
(ルピータ役のアシエル・エチェアンディア、映画から)
★マリナ・セレセスキー Marina Seresesky は、1969年ブエノスアイレス生れの女優、監督、脚本家、製作者。短編“El cortejo”(10)で監督デビュー、オルデンブルク映画祭ジャーマン・インデペンデンス賞ノミネーション、バージニア州のラッパハノック・インデペンデント映画祭審査員賞受賞、短編第2作“La boda”(12)がティラナ映画祭(スペシャル・メンション)、ニューヨーク・シティ短編映画祭(作品賞・観客賞)、ポルトガルのアロウカ映画祭(作品賞)など国際映画祭で多数受賞した。ゴヤ賞2013でも短編映画賞部門にノミネートされている。長編デビュー作は上記の通り。
(観客賞を手にした監督、トランスシルバニア映画祭授賞式、2016年6月5日)
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