オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品*サンセバスチャンFF26 ⑨ ― 2026年08月17日 14:37
ソトマヨールの「La Perra」はカンヌ「監督週間」のパルム・ドッグ受賞作品
★オリソンテス・ラティノス部門には、前回の3作以外にチリ、メキシコ、ブラジル、米国の4作がノミネートされています。ドミンガ・ソトマヨール(チリ)の「La Perra」は、昨年のオープニング作品「Limpia」に続いての登場、ピラール・キンタナの同名小説の映画化です。アレッサンドラ・サンギネッティ(米国)のドキュメンタリー「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」、ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコ)の「Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building」、リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジル)の「A professora de frances / The French Teacher」の4作、合計12作になりました。
*オリソンテス・ラティノス部門ノミネート作品 ③*
9)「La Perra」(仮題「仔犬のユリ」)
データ:製作国ブラジル=チリ、2026年、ドラマ、スペイン語、113分、撮影地チリ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」でパルムドッグ賞受賞作品、カルロヴィ・ヴァリFF(7月)、メルボルンFF(8月)、ブラジルのグラマドFF(8月)、ピラール・キンタナの同名小説に着想をえている。
監督・脚本:ドミンガ・ソトマヨール(チリのサンティアゴ、1985)、監督、脚本家、キャリア&フィルモグラフィーは、前作「Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)で紹介しています。
キャスト:マヌエラ・オヤルン(シルビア)、ダビ・ガエテ(マリオ)、セルトン・メロ、パウラ・ルクシンガー・エスコバル、パウラ・ディナマルカ、ラファエラ・グリムバーグ
*マヌエラ・オヤルスンはチリでは有名な舞台女優、監督の説得で映画初主演、セルトン・メロはブラジルのベテラン俳優、マヌエラと仔犬は1ヵ月前からの繋がりだったと監督。
ストーリー:チリ南部、遠く離れた風の強い島で、シルビアは海藻穫りで生計を立て、パートナーと穏やかに人生を送っています。捨てられた仔犬のユリを引き取ると、彼女の日々は喜びと愛情と優しさ、それは長いあいだ抑えこんできた母親になるという願いを呼び起こすことになります。しかしユリの突然の失踪は、シルビアが苦しみ続けてきた幼少期のトラウマを再び搔きたて、まだ完全に立ち直れない過去と向き合うことを強いることになります。ピラール・キンタナの同名小説に着想を得て自由に脚色して映画化した。
*「Limpia」(『そこから泳いで、私の方へ』)の紹介記事は、コチラ⇒2025年10月24日


(シルビアとマリオ、仔犬のユリ)

(ドミンガ・ソトマヨール監督)

10)「La ilusión de un verano sin fin / The Illusion of an Everlasting Summer」(仮題「永遠の夏の幻想」)
データ:製作国アルゼンチン=アメリカ合衆国、デビュー作、ドキュメンタリー、93分
監督・脚本:アレッサンドラ・サンギネッティ(ニューヨーク1968)、写真家、監督。ロカルノ映画祭でワールドプレミアされる。25年にわたる撮影期間を経て、アルゼンチンのパンパスで暮らす従姉妹ギレルミナとベリンダを描いています。2007年からマグナム・フォトのメンバーであるサンギネッティの作品は、ニューヨークのMoMA、サンフランシスコ近代美術館、ヒューストン美術館、ブエノスアイレス美術館のコレクションの一部になっています。グッゲンハイム・フェローシップ他を受賞している。ニューヨーク生れだが、1970年から両親とブエノスアイレスに移り、2002年まで32年間暮らした。現在はカリフォルニア在住、国籍は米国。
解説:ドキュメンタリーは1999年から始り、監督が9歳の隣人ギレルミナとベリンダという少女に幻想を共有するよう誘い、数十年にわたるコラボレーションが続きます。二人の子供時代が終わると、彼女たちのゲームは重みを帯びていくことになります。時間の経過が最も強烈な緊張感として、この映画は二人の友情の記録となり、仕事や結婚、母親業、そして将来の進むべき道は分かれていきます。本作は女性の視点からアルゼンチンのパンパス地方の男性によって神話化された地域についてが語られます。

(左ギレルミナ、ベリンダ、「ネックレス」1999)

(ベリンダが結婚する、2007)

(アレッサンドラ・サンギネッティ監督)

11)「Seis meses en el edificio rosa con azul / Six Months In a Pink & Blue Building」(仮題「ピンクとブルーのビルでの6ヵ月」)
Foro de Coproducción Europa-América Latina 2022
データ:製作国メキシコ=ブラジル=デンマーク、2026年、スペイン語、初のフィクション、104分、カンヌ映画祭併催「批評家週間」でワールドプレミア、メルボルン映画祭(8月)上映
監督・脚本・編集:ブルーノ・サンタマリア・ラソ(メキシコシティ1986)、撮影監督、監督、脚本家、編集者、ドキュメンタリー監督として記憶、秘密、子供時代を探求している。代表作「Cosas que no hacemos」(20)や「Margarita」(16)などが国際映画祭で多数受賞している。当ブログでは、共同撮影監督として参加した、アイ・ウェイウェイの「Vivos」(『ビボス~奪われた未来~』)をアップしています。
キャスト:ジェイド・レイエス(ブルーノ)、ソフィア・エスピノサ、ラサロ・ガビノ・ロドリゲス、エドゥアルド・ゴメス、バレリア・バネガス、アヌアル・ベラ、テレサ・サンチェス、他
ストーリー:メキシコシティ、1990年代初頭。ブルーノは11歳の誕生日に、親友のウラジミルに恋をします。その夜、父親は家族の生活を一変させるHIV陽性の診断を受けます。サルサの歌のように、家族は痛みを和らげるために歌ったり踊ったりします。30年後、ブルーノは子供のころに理解できなかった記憶を撮影し再び思い起こします。
*『ビボス~奪われた未来~』の紹介記事は、コチラ⇒2020年12月21日


(ブルーノ役のジェイド・レイエス)

(ブルーノ・サンタマリア・ラソ監督)

12)「A professora de frances / The French Teacher」(仮題「フランス語教師」)
Proyecta 2018
データ:製作国ブラジル=フランス=ポルトガル、2026年、心理スリラー、ホラー、96分、長編4作め
監督・脚本:リカルド・アルヴェス・ジュニア(ブラジルのベロ・オリゾンテ1982)は監督、脚本家、製作者、舞台演出家。実験映画、フィクションとノンフィクション映画でキャリアを積み、本作が長編4作め。
キャスト:グレイセ・パソー(グラサ)、ジェニー・ベス(クララ)、エリサ・ルシンダ、バルバラ・コーレン、ロムロ・ブラガ、エドゥアルド・モレイラ、イタロ・ラウレアノ、ロジャー・ロジェリオ(グラサの父)、ペドロ・ゴイフマン(トマス)
*グラサ役のグレイセ・パソーは女優、監督、劇作家、『千の父より生れ紙息子』(25)に出演、クララを演じたジェニー・ベスは、カンヌ映画祭2023のパルムドールを受賞したジュスティーヌ・トリエの『落下の解剖学』にマルジュ役で出演、父親役のロジャー・ロジェリオやバルバラ・コーレンは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『バクラウ』(19)に出演している。
ストーリー:グラサはベロ・オリゾンテに住んでフランス語の個人教師をしている。フランス人のガールフレンドと一緒に暮らしている。しかし父親の健康にかかわる緊急事態のため、子供時代に過ごした郊外の実家に戻ることにしました。地元の宗教団体を率いる隣家の家族が支援してくれますが、彼女を「自分の居場所」に連れ戻そうとする。グラサはアイデンティティと分別を危うくする不寛容と狂信の世界に囚われ、次第に不穏な道を進んでいくことになる。ブラジルの伝統的な家族の内部に潜む暴力が描かれる。

(グラサ役のグレイセ・パソー)

(リカルド・アルヴェス・ジュニア監督)

ニューディレクターズ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャンFF26 ⑦ ― 2026年08月07日 17:26
クチャバンク賞を競うニューディレクターズ部門全14作のノミネート発表

★7月30日、ニューディレクターズ部門の全14作が出揃いました。この部門はデビュー作を含む2作めまでが対象で、クチャバンク新人監督賞には50.000ユーロが副賞として授与されます。既にスペインが主製作国の映画3作が発表になっており、ラテンアメリカ諸国(メキシコ、チリ)、アジア(日本、韓国、台湾、イラン、カザフスタン)、ヨーロッパ(ドイツ、ノルウェー、イギリス、ブルガリア、ウクライナ)が各1作ずつノミネートされています。スペイン語映画を中心に以下5作を紹介いたします。
*ニューディレクターズ部門(スペイン映画)*
1)「El mal hijo / The Bad Son」
オープニング作品
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、106分
監督・脚本:ハイメ・ロレンテ(ムルシア1991)、共同脚本サルバドール・S ・モリーナ、撮影エリアス・M・フェリックス、音楽ルイスミ・グレス・ベドマル、編集レヒノ・エルナンデス
キャスト:ウーゴ・アルブエス(ルーベン)、ミゲル・アンヘル・プーロ(父)、スシ・サンチェス(祖母パスクアラ)、オスカル・デ・ラ・プエンテ(伯父ファンジ)、アベル・デ・ラ・プエンテ(少年時代ルーベン)、ナイアラ・カルモナ(母)
ストーリー:11歳のルーベンの父親が謎の失踪をして、少年はほとんど会ったことのない祖母と暮らため引っ越さねばなりません。時が止まったかのような田舎の環境で、子供は家族の傷が代々受け継がれていることを学び、成長する過程で傷を癒そうと努力するだろう。


(ミゲル・アンヘル・プーロ、アベル・デ・ラ・プエンテ)

(ハイメ・ロレンテ監督)

2)「Bloques erráticos / Erratics」(仮題「不規則なブロック」)
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ、2026年、デビュー作、スペイン語、ドラマ、ファンタジー、92分、ロッテルダム映画祭2026でプレミア
監督・脚本:トマス・ウッドロフ(サンティアゴ1995,監督、脚本家)、エリアス・ケレヘタ・シネ・エスコラの映画アーカイブコース修了、短編「Fiebre austral」がSSIFF2019ネスト部門の特別賞を受賞、ベネチアFFオリゾンティ、トロントFF短編部門で上映された。共同脚本ヴァレリア・ホフマンアントニオ・ルコ、撮影エミリア・マルティン、製作者パスクアル・メナ、ロドリゴ・ディアス
キャスト:デニス・ラヴァン(リシュアン)、ダニエル・ムニョス
参加者:フランチェスカ・ボッツァーノ(シネマテーク・ドゥ・トゥールーズのコレクション責任者)、ドミニク・ルグピル(フランス国立科学研究センター、作家)、レイナルド・カロ(俳優)、ドミンガ・ソトマヨール(チリの監督)、フェリペ・ガルベス(チリの監督)
ストーリー:100年間パタゴニアの氷河に閉じ込められた後、自らを解放した映画監督リュシアン・カステルノーの亡霊は、未来のパタゴニアを彷徨います。そこは技術の進歩が忘れられた物語と激しく衝突しています。彼の映画遺産が見られずにいるあいだ心が休まらず、記憶から消し去られた世界を横断して、歴史のなかの場所と観客を求めて、遂に失われた作品を生き返らせる。

(フランスの名優デニス・ラヴァン)

(トマス・ウッドロフ監督)

3)「Esta soledad / This Solitude」(仮題「この孤独」)
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、110分、単独監督デビュー作、公開2026年10月30日
監督・脚本:ハビエル・ギネル(ビスカヤ県バラカルド1977)、監督、脚本家、製作者。2024年、本祭アウト・オブ・コンペティションでコメディ「Yo,adicto / I, Addict」(TVシリーズ全6話の3話)をアイトル・ガビロンドと共同監督して、特別上映枠で上映された。監督自身のビオピックで主役ハビエルをオリオル・プラが演じた。短編「El amor me quedad grande」でシネフォリア賞2016監督賞、観客賞受賞、ほか短編多数。
キャスト:オリオル・プラ(レオ)、マリナ・サラス(ロレア)、ジェンマ・マルティネス(イラティ)、カイ・エチャニス、イツィアル・ラスカノ(ロレアの母親)、フアン・ビアダス(レオの父親)
ストーリー:ビルバオ、レオとロレアは愛しあっていた。もしかしたら今も愛しあっているかもしれない。しかし二人のなかで何かが壊れてしまった。5年に及ぶ二人の関係は終わってしまった。彼は病気の父親を介護しており、その責任と重くのしかかる虚ろな感情に捕らわれている。彼女は低賃金の仕事や個人的な危機に巻き込まれ、どこから手を付ければいいのか分からず、やみくもに人生を立て直そうとしている。彼らは疲れはてた孤独な二つの体であり、不安定で、解決されない、そして全てがいつも遅れてやってくるように思える或る世代の感情的な遺産が横たわっている。例えば、愛、安定、成熟、静寂、個人的な満足感など。
*「Yo,adicto」の紹介記事は、コチラ⇒2024年10月09日

(マリナ・サラス、ハビエル・ギネル監督、オリオル・プラ)

4)「Morro」(仮題「モロ」)
データ:製作国メキシコ、2026年、2作め、スペイン語、ドラマ、95分
監督・共同脚本・製作者:ロドリゴ・ガルシア・サイス(メキシコシティ生れ、監督、脚本家、製作者)、
短編「El hombre que murio de rumor」がアリエル賞1997ノミネート、2023年デビュー作「Lluvia / Rain」がマラガ映画祭2024でプレミア、マイアミ、モレリア、ハバナ、ロスアンゼルスなど各映画祭巡りをした。本作が長編2作めでサンセバスチャンにやってくる。音楽ラミロ・デル・レアル、撮影アルフォンソ・エレラ・サルセド、編集フェルナンダ・デ・ラ・ペサ
キャスト:グスタボ・サンチェス・パラ(獣医マテオ)、アンナ・ディアス(イサベル)、エルネスト・メレンデス(ポンチョ)、アルフォンソ・エスコベド(ダニ)、ホセ・サビノ(ロヘリオ)
ストーリー:獣医のマテオは息子が亡くなって以来、静かな悲しみのなか、譬えようもない罪悪感に満ちた人生を送っている。小さな町の暴力は、終わりのない木霊のように、そこに潜んで直ぐには目に見えない。この壊れやすいバランスは、マテオが地元のマフィアのボスの負傷した犬モロを治療することで崩れます。この動物の日常的な世話は思いがけない絆を生みだし、判断も言葉もない関係を築き、彼は人生の意味を再び取り戻すことになるだろう。
*マラガFF2024ノミネート「Lluvia」の紹介は、コチラ⇒2024年03月04日


(グスタボ・サンチェス・パラとモロ)

(ロドリゴ・ガルシア・サイス監督)

5)「Sieben tage februar / February, Seven Gays / Siete días de febrero」(仮題「2月の7日間」)
WIP Europa 2025
データ:製作国ドイツ=オーストリア=スペイン、2026年、デビュー作、ドラマ、ドイツ語、ロシア語、ウクライナ語
監督・脚本:タチヤナ・ムチニク(ウクライナ、キーウ1988、ドイツ系ウクライナ人、監督、脚本家)、2014年、本祭ネスト部門に短編「Der letzte kuss / The Last Kiss」で参加している。短編、TVミニシリーズ(22)を手がけている。
キャスト:セルゲイ(セルヒー)・コルシコフ(アルカディ)、ヴォロディミル・ホロスニャク、マリア・シュトファ(マリナ)、アルセニ・マルコフ、モイセイ・バジジャン(グランパ・グリシャ)、ダリア・ギトブート(ダシャ)
ストーリー:ウクライナ戦争が勃発する前日のこと、ドイツのシュトゥットガルトに暮らすアルカディは、オデッサから疎遠だった兄とその息子の訪問を受けます。母親の埋葬をするためです。家族の素性についての二つの考え方の違いで対立が生じてしまいます。ロシアによる自国侵攻を背景に、ドイツで再会する兄弟の確執が語られる。

フォト

(タチヤナ・ムチニク監督)

コンペティション他ノミネーション発表*サンセバチャンFF26 ③ ― 2026年07月23日 14:50
サンセバスチャン映画祭コンペティション部門にスペイン映画が3作ノミネート

★第74回サンセバスチャン映画祭2026(9月18日~26日)のセクション・オフィシアル以下、特別上映、ニューディレクターズ、オリソンテス・ラティノス、サバルテギ-タバカレア、ペルラス(ペルラク)、ベロドロモ各部門のスペイン製作の25作(長編23作、TVシリーズ2作)が発表になりました。スペインはワールドカップ2026で二度目のチャンピオンになり、目下のところ興奮の坩堝です。フィリップ6世国王もサルスエラ宮殿でお出迎え、サンチェス首相は「二度あることは三度ある」と次回の優勝を示唆、200万人が出迎えるなど大騒動です。メディアもラミネ・ヤマルはメッシでなくブラジルのペレを手本にしていると皮肉り、ゴールを決めたフェラン・トーレスは「スペイン国民4700万のゴール」と饒舌、しかし一番褒められていいのは、わずか1失点におさえた19歳のDFクバルシではないか? 取りあえずしばらくは失業も金欠も忘れて過ごせそうです。

★セクション・オフィシアル(金貝賞を競うコンペ部門)には、ハビエル・ルイス・カルデラ(ビラデカンス1976)の「5 minutos más / 5 more minutes」(ハビエル・カマラ主演)、ロベルト・ブエソ(バレンシア1986)の3作め「El mal padre」(エドゥアルド・フェルナンデス主演)、ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)の「Sants / Saints」(ビクトリア・ルエンゴ主演)の長編3作がノミネートされました。順次紹介記事をアップしていきます。
1)「5 minutos más / 5 more minutes」
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、87分
監督:ハビエル・ルイス・カルデラ(バルセロナ県ビラデカンス1976)
キャスト:ハビエル・カマラ、ベルト・ロメロ、ベレン・クエスタ、カルロス・ベルナルディノ、マルク・ソレル、クラウディア・メロ
ストーリー:危機にある夫婦が、人里離れた田舎で週末を過ごすことにする。到着すると仲介業者が家を案内し鍵を手渡すと、奇妙なことに時間が5分巻き戻り・・・

2)「El mal padre」
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、コメディドラマ、120分
監督:ロベルト・カルロス・サンチェス・ブエソ(バレンシア1986)
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(サンティアゴ・バルメス)、アダム・Jezierski、フランセスコ・カリル、メリチェル・カルボ、クリスティナ・プラサス
ストーリー:子供たちと長年疎遠だった著名な作家で学者のサンティアゴ・バルメスは、最後に三人の子供たちを呼び戻します。かつて子供たちと夏の休暇をとった別荘でクリスマスを過ごそうとします。

3)「Sants / Saints」
データ:製作国スペイン=イタリア、2026年、ドラマ、103分
監督:ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)
キャスト:ビクトリア・ルエンゴ(ラリ)、アリアドナ・ヒル、エウラリア・ラモン、コジモ・フスコ
ストーリー:さし迫る母親の死を逃れるように、ラリは宗教的な遺物を盗む或る窃盗団に加わります。


★オリソンテス・ラティノス(ラテンアメリカ諸国の作品)には、カンヌ映画祭から2作、ベルリン映画祭から3作と、既にワールドプレミアされた5作品が選ばれています。メキシコのフェルナンド・エインビッケの「Moscas / Flies」、ディエゴ・ルナの6作め「Ceniza en la boca / Ashes」、チリのマヌエラ・マルテッリの「El deshielo / The Meltdown」(カンヌ「ある視点」)など当ブログで一番関係ある部門です。
1)「Ceniza en la boca / Ashes」
データ:製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、
監督:ディエゴ・ルナ(メキシコシティ1979)
キャスト:アンナ・ディアス、アドリアナ・パス、ルイサ・ウエルタス、ギジェルモ・リオス、セルヒオ・バウティスタ、ベニー・エマニュエル、テレサ・ロサノ、アドリアナ・ハコメ(ジャコメ)
ストーリー:より良い生活を求めて、ルシラは兄ディエゴとともにメキシコを離れ、8年間不法滞在している母親の住むマドリードを目指します。遂に到着するが、母親にに支えられながらも、想像以上に厳しい現実が待ち受けていた。

2)「Chicas tristes / Sad Girlz」
データ:WIP Latam 2025、Proyecta 2022
製作国メキシコ=スペイン=フランス、2026年、ドラマ、90分
監督:フェルナンダ・トバル(メキシコシティ1991、メキシコ系スペイン人)、デビュー作
キャスト:ロシオ・グスマン(ラ・マエストラ)、ダラナ・アルバレス(パウラ)
ストーリー:16歳のラ・マエストラとパウラは、メキシコ・チームのなかで最高の泳ぎ手であり親友でもあった。しかしあるパーティでの出来事がすべてを変えてしまった。激しい気性のラ・マエストラは、親友の変化に気づき悲しんでいる。真実が明らかになると、二人は不可能な決断を迫られる。パウラは沈黙を守りたい、ラ・マエストラは正義を求めたい。かつての友情は試練にさらされる。

3)「El deshielo / The Meltdown」
データ:Proyecta 2022、製作国チリ=USA=スペイン=メキシコ、2026年、スリラー、110分
監督:マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ・デ・チリ1983)
キャスト:マヤ・オロウルケ、サスキア・ローゼンダール、マイア・ラエ・ドマガラ、ヤクブ・ギエルザル、パウリナ・ウルティア
ストーリー:チリ、1992年。祖父母の山のホテルに滞在しているあいだ、イネスはドイツ人スキーヤーのハンナと友達になります。ハンナが跡形もなく姿を消したことで、彼女の隠された真実が明らかになっていく。

4)「Moscas / Flies」
データ:WIP Latam 2025、製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、99分
監督:フェルナンド・エインビッケ(メキシコシティ1970)
キャスト:テレシタ・サンチェス(オルガ)、バスティアン・エスコバル
ストーリー:オルガは大きな喪失以来、自分の世界に閉じこもっている。しかし足の親指の手術代を払うお金がなく、オルガが住んでいる大型アパートの部屋を妻が近くの医療センターに入院したという男トゥリオに部屋を貸すことにする。彼が数日間留守にすることになったとき、秘かに9歳になる息子クリスチャンを住まわせていたことが分かる。オルガと少年が交わることになり、オルガの人生が変化していく。

5)「Narciso」
データ:ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム2020
パラグアイ=西=ウルグアイ=ブラジル=ポルトガル=独=仏、2026、ドラマ、101分
監督:マルセロ・マルティネッシ(パラグアイのアスンシオン1973)
キャスト:ディロ・ロメロ(ナルシソ)、モナ・マルティネス(ネヌチャ)、ナウエル・ペレス・ビスカヤルト(ミスター・ウエッソン)
ストーリー:パラグアイ、1959年。息苦しい軍事政権のもと、ナルシソはブエノスアイレスからロックンロールの熱を帯びて帰国する。神秘的でカリスマ性のある彼は、男女双方の欲望の対象になる。やがてラジオのスターとなり、自由のシンボルとなる。しかし最後のショーの後、遺体となって発見される。沈黙が支配し恐怖が真実を覆い隠す国で、誰がナルシソを殺害したのか。


(左から、フェルナンド・エインビッケ、ディエゴ・ルナ、マヌエラ・マルテッリ、
マルセロ・マルティネッシ、フェルナンダ・トバル、各監督)
★監督を含めてスタッフ、キャストなど、賞に絡みそうな作品を紹介していく予定です。次回はサバルテギ-タバカレア部門を予定しています。
チリ映画「Hangar Rojo」フアン・ペドロ・サジャト*マラガ映画祭2026 ⑨ ― 2026年04月28日 16:09
フアン・パブロ・サジャトのデビュー作「Hangar Rojo」――観客賞など4冠

★今年のマラガ映画祭はイベロアメリカの映画が気を吐いた。チリのフアン・パブロ・サジャトのデビュー作「Hangar Rojo / The Red Hangar」は、1973年9月11日チリの首都サンティアゴで勃発した軍事クーデタの実話に着想を得てモノクロで撮影された政治映画です。ベルリン映画祭2026「視点」部門でワールドプレミアされ、マラガ映画祭で男優賞・編集賞・エル・パイス観客賞・特別批評家審査員賞の「銀のビスナガ」4冠を制しました。スペイン語圏で「もう一つの9.11」と称されるチリの軍事クーデタは、陸軍総司令官ピノチェトがアジェンデ社会主義政権を転覆した事件、その後ピノチェトはチリ大統領として1990年3月に失脚するまで独裁者として君臨した。パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『光のノスタルジア』を含む「チリ三部作」、パブロ・ララインの『Noノー』を含む「ピノチェト政権三部作」や『伯爵』、ニコラス・アクーニャのTVシリーズ「Los mil dias de Allande」など数々の名作が世に送り出された。では、サジャトの「赤い格納庫」がどんな切り口で語られるのか探ってみたい。

(来マラガしたクルー、中央がサジャト監督、マラガFF、3月7日フォトコール)
「Hangar Rojo / The Red Hangar」
製作:Villano Producciones / Brava Cine / Rain Dogs / Caravan / Berta Film /
協賛:INCAA / Corfo / Mendoza Film Commission / Programa Ibermedia /
Florenz(イタリア) 他
監督:フアン・パブロ・サジャト(サラト)
脚本:ルイス・エミリオ・グスマン
フェルナンド・ビジャグランの著作 ”Disparen a la bandada”
音楽:アルベルト・ミケッリ、マッテオ・マレッラ
撮影:ディエゴ・ペケーニョ
編集:バレリア・エルナンデス、セバスティアン・ブラム
美術:ニコラス・グラム
衣装デザイン:フリオ・レボッタロ
製作者:フアン・イグナシオ・サバティーニ(Villano)、フアン・パブロ・サジャト(同)、(共同プロデューサー)ライカ・ホスラヴィ、ステファノ・ムトロ、カロリナ・ペッツィーニ、バレンティナ・クアランティーニ、他
データ:製作国チリ=アルゼンチン=イタリア、2026年、スペイン語、政治スリラー・ドラマ、モノクロ、81分、撮影は2024年10月、チリと国境を接するアルゼンチンのメンドーサ市、約3週間。公開チリ2026年10月予定
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2026視点部門、マラガ映画祭セクション・オフィシアル、銀のビスナガ主演男優賞(ニコラス・サラテ)、編集賞(バレリア・エルナンデス、セバスティアン・ブラム)、エル・パイス紙観客賞(フアン・パブロ・サジャト)、批評家審査員特別賞(同)を受賞、フリブール映画祭(スイス、3月)、第44回ウルグアイ映画祭俳優賞(ニコラス・サラテ)特別メンション受賞、以下4月から開催されるグアダラハラ、マイアミ、シアトル、ロンドンなどの映画祭上映が予定されている。
キャスト:ニコラス・サラテ(ホルヘ・シルバ空軍大尉)、マルシアル・タグレ(ヤーン大佐)、ボリス・ケルシア、カタリナ・ストゥアルド(ロサ)、アロン・エルナンデス(エルナンデス軍曹)、フランシスコ・カラスコ(カラスコ中尉)、フアン・カノ(ムヒカ軍曹)、レンゾ・フィオレッティ(フェルナンド・ビジャグラン)、タイウ・ブラベル・イオソビッチ(フェリペ・アグエロ)、他
ストーリー:チリの首都サンティアゴ、1973年9月11日に勃発した軍事クーデタが全国で展開するなか、元空軍諜報機関の長官だったホルヘ・シルバ空軍大尉は、彼の人生を永遠に変える命令を受け取る。それは、現在若い士官候補生を訓練している空軍士官学校を、逮捕者の尋問、並びに拘留と拷問の拠点に変えることでした。シルバは傍観者でいようとするが、かつてのライバルであったヤーン大佐が絶大な権力をもって到着すると、過去だけでなく信念とも深く向きあわざるを得なくなる。格納庫がトラックで運ばれてくる逮捕者でいっぱいになり、軍の権力が日増しに容赦なくなるにつれ、シルバは服従と良心の板挟みになる。不服従は命の危険をともなうかもしれないが、従順もまた命を落とす可能性があるからでした。ピノチェト独裁政権初期の軍の内情を描いた実話に着想を得ている。抑制された語り口とモノクロで撮影された政治的スリラー。

(格納庫に集められた逮捕者を見つめるシルバ、フレームから)
「シルバという人物の心の葛藤」に寄り添うモノクロ撮影
★監督紹介:フアン・パブロ・サジャト Juan Pablo Sallato、1978年サンティアゴ生れ、監督、製作者、脚本家、制作会社「Villano Producciones」をフアン・イグナシオ・サバティーニと共同で設立した。2004年、ニコラス・グラムと短編「El duelo」(13分)で監督デビューする。2010年、チリで最も視聴されたというチリ代表サッカー・チームの8年間の敗北と勝利を掘り下げたドキュメンタリー「Ojos Rojos / Red Eye」をフアン・イグナシオ・サバティーニと共同監督、TVミニシリーズには、「Adictos al Claxon」(13、8話)、「La Cultura del sexo」(15、6話)、「Libre」(21、8話)などがある。また製作で自作以外に手掛けた映画にはフアン・イグナシオ・サバティーニの「Matar a Pinochet」(20)、TVシリーズでは、ダニエル・サムディオ事件に触発された「Zamudio」(15、4話)、謎の失踪事件に基づいた犯罪スリラー「La Caceria: En el fin del mundo」(24~25)などが挙げられる。

(インタビューを受けるサジャト監督、マラガ映画祭)

(メンドーサで本作撮影中のフアン・パブロ・サジャト)

(ドキュメンタリー「Ojos Rojos」のポスター)
★モノクロで撮影した理由を訊かれたサジャト監督は、理由の一つにクーデタに反対したチリ空軍の登場人物たちが持っていた〈灰色〉を私たちは際立たせたかったからで、とくに「明暗とグレーで描く世界は、苦境にあるシルバという人物の心の葛藤をビジュアル化するには完璧でした」と説明している。

(製作者サバティーニ、監督、シルバ役のニコラス・サラテ、マラガFFフォトコール)
★ニコラス・サラテが演じた主人公のホルヘ・シルバは実在した人物で当時37歳、独裁政権下で自身も投獄されている。釈放後家族、特に大学教師の妻ロサの身の安全のためイギリスに亡命、ピノチェト亡き後もチリに戻らず、2024年8月ロンドンで没した。監督によると録画を始める2ヵ月前だったと「エル・パイス」のインタビューに語っている。シルバの役目は、転覆したアジェンデ政権を支持したことで逮捕された人たちの尋問から始まって、処刑場になったチリ・スタジアムに移送するまで監禁することだった。因みにフォルクローレのシンガーソングライターのビクトル・ハラがギターを奏でる両手を打ち砕かれ、顔を切り裂かれて銃殺された場所がこのスタジアムでした。

(当時37歳だったホルヘ・シルバ空軍大尉に扮したニコラス・サラテ、フレームから)
フェルナンド・ビジャグランの ”Disparen a la bandada”
★監督が触発されたという”Disparen a la bandada: Cronica secreta de los crímenes en la FACH contra Bachelet y otros”(プラネタ社、2002年刊) の著者フェルナンド・ビジャグラン(サンティアゴ1949)は、チリの作家、ジャーナリスト、経済学者、ドキュメンタリー製作者、コラムニスト。チリ大学で経済学、サンティアゴ大学でジャーナリズムを専攻、1983年から1995年まで政治誌「Apsi」の副編集長としてチリの民主化移行期の独立系ジャーナリズムに貢献した。1996年からはテレビの文化番組の司会者として活躍している。チリの政治史をジャーナリズムの厳密な手法で検証し、特に軍事独裁政権の弾圧メカニズム、関連する歴史的人物にフォーカスした書籍を多数出版している。本作の土台となった ”Disparen a la bandada” は、翌年文学部門のアルタソル賞を受賞した。1973年のクーデタに反対したチリ空軍(FACH)の将軍や士官に加えられた弾圧や拷問は数十年にわたって隠蔽されてきた。本書はその記録にビジャグラン自身の個人的な体験も活用して事実を明らかにしている。

(フェルナンド・ビジャグラン)

(アルタソル文学賞受賞の ”Disparen a la bandada” 表紙)
★個人的な体験とは、当時20代前半であったビジャグランは、彼の友人フェリペ・アグエロと共に「赤い格納庫」と命名された場所に運ばれてきた逮捕者の一人だった。二人は即決死刑の運命にあったが、FACH 職員が阻止してくれたことを回想している(本作のキャスト欄に二人もクレジットされている)。副題にある Bachelet とは、アルベルト・バチェレ空軍准将(1923~74、獄死)で、ピノチェトのクーデタに反対したためクーデタ当日に逮捕された。その後釈放と自宅監禁、逮捕が繰り返され、12月18日に「反逆罪」で裁かれ、翌1974年3月12日、サンティアゴの刑務所での拷問中に心臓発作で亡くなった。シルバ大尉はバチェレの最期を看取った人物としても知られています。第33代(2006~10)と第35代(2014~18)の2期、チリ初の女性大統領を務めたミシェル・バチェレの実父である。
★サジャト監督は、本作の準備中にビジャグランとアグエロと昼食を摂りながら、ホルヘ・シルバの行為は「小さなことに思えるけれど、本当に勇気ある行為だ。彼のお蔭で命を繋げることができ、希望を与えてくれた」と、二人を見やりながら語っている。
★その他、ビジャグランの代表作として、”La muerte de Pinochet: Cronica de un delirio”(2003、マルセロ・メンドーサとの共著)、”Represión en dictadura: El papel de los civiles”(2005)、他にイグナシオ・アグエロがアルタソル監督賞を受賞した「El diario de Agustín」(08)の脚本と製作を手掛けている。ニクソン、キッシンジャー時代に米CIAから資金提供を受け、ピノチェト政権下で行われた人権侵害を隠蔽しようとしたチリ最大の日刊紙「エル・メルクリオ」の内情を暴露している。 Agustínとは「エル・メルクリオ」の所有者アグスティン・エドワーズである。アーカイブ映像でアグスティン自身の他、アジェンダやピノチェト、リカルド・ラゴス、各大統領も登場するドキュメンタリー。

(ドキュメンタリー「El diario de Agustín」のポスター)
★キャスト紹介:ニコラス・サラテ Nicolás Zárate 映画テレビ俳優、ミュージシャン、1997年TVシリーズ出演でスタートを切る。2015年のアレハンドロ・トーレスのスリラー「El Tila:Fragmentos de un Psicópata」で実在したレイプ犯エル・ティラを演じている(カルーチェ賞*ノミネート)。シモン・バルガスの「Sobre los muertos」(18)主演、セバスティアン・ムニョスがベネチア映画祭「国際批評家週間」でクィア獅子賞を受賞した話題作「Principe」(19)、ホルヘ・リケルメ・セラーノのサスペンス「Algunas Bestias」(19)では、アルフレッド・カストロやパウリナ・ガルシアと共演している。老いと健康問題と格闘する夫婦を演じたイグナシオ・パベスの「Vieja Viejo」(22)、パオロ・ペスセがモノクロで撮ったデビュー作「La Soledad De Las Plagas」(23)に主演している。
*Caleuche カルーチェはマプチェ語(先住民マプチェ族の言語)に由来している。諸説あるが、チリ南部のチロエ神話に出てくる幽霊船・魔法船から採られた演技賞。チリ映画ではよく目にする賞の一つ。

(実在したサイコパス「エル・ティラ」を演じたニコラス・サラテ)

(ホルヘ・シルバ空軍大尉を演じて銀のビスナガ主演男優賞を受賞したサラテ)
★本作に関連する作品として、フェリペ・カルモナのサスペンス「Penal Cordillera / Prison in the Andes」(23)出演がある。ピノチェト政権下での拷問者5人が、アンデス山脈の麓にある〈高級〉刑務所で服役している。彼らはテレビのインタビュー後に通常の刑務所に移送されることを怖れ、留まるためにあらゆる手段を尽くす。カルモナ監督がケララ映画祭でFIPRESCI賞を受賞した作品。当ブログで紹介したマイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』にも出演しているが未紹介、ヤーン大佐役のマルシアル・タグレは判事を演じていた。

(第44回ウルグアイ映画祭俳優賞特別メンションを受賞したサラテ)
★マルシアル・タグレは、パブロ・ララインの「ピノチェト三部作」から出演しているラライン常連の一人、やはりピノチェトをテーマにした『伯爵』(23)にも出演している他、セバスティアン・レリオの『グロリアの青春』、『ナチュラルウーマン』、東京国際映画祭で上映されたマヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976年』、最近ではベレン・フネスの「Los Tortuga」などスペイン映画にも活躍の場を広げている。当ブログで作品紹介をしています。

(ニコラス・サラテ、上司ヤーン大佐役のマルシアル・タグレ、フレームから)
チリ映画『そこから泳いで、私の方へ』鑑賞記*SSIFF2025 ㉑ ― 2025年10月24日 15:33
ドミンガ・ソトマヨールの新作「Limpia」のストリーミング配信始まる

★第73回サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門オープニング作品「Limpia」が、予告通り『そこから泳いで、私の方へ』の邦題で配信が始まりました。ドミンガ・ソトマヨールの第4作め、良し悪し、白黒がはっきりする映画を好む人には不向きです。伏線やメタファー、謎解きがお好きな方にはお奨めします。以前、簡単ですが監督のキャリア&フィルモグラフィーとして、デビュー作『木曜から日曜まで』と、第2作め「Mar」の紹介記事をアップしています。新作はサンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門のオープニング作品です。映画祭には監督以下、主役のマリア・パス・グランジャン、製作者のフアン・デ・ディオス・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、脚本家ガブリエラ・ララルデ、子役の演技指導者マリア・ラウレ・バーチなど大勢が参加した。

(ドミンガ・ソトマヨール、SSIFF2025、フォトコール)
*『そこから泳いで、私の方へ』の作品紹介は、コチラ⇒2025年09月16日
*『木曜から日曜まで』と「Mar」の紹介記事は、コチラ⇒2015年03月04日

(左から、ロシオ・ハドゥエ、ガブリエラ・ララルデ、ソトマヨール監督、
マリア・パス、マリア・ラウレ・バーチ、フアン・デ・ディオス・ラライン、SSIFF25)
★作品紹介でも書きましたように、アリア・トラブッコ・セランの2022年に刊行されたベストセラー小説 ”Limpia” にインスパイアされて映像化されました。小説と映画の構造の大きな違いは、小説が6歳の少女フリアの悲劇から始まっていることです。チリの階級社会を背景に「見えない存在である」家政婦エステラと両親から「見捨てられている」と思っているフリアの孤立と依存、親密で不穏な世界が語られます。基本データとして、キャストとストーリーを再録しておきます。


(小説の表紙と原作者アリア・トラブッコ・セラン)
キャスト:マリア・パス・グランジャン(グランジーン、家政婦エステラ)、ロサ・プガ・ヴィッティニ(フリア)、イグナシア・バエサ・イダルゴ(フリアの母マラ)、ベンハミン・ウェストフォール(父クリストバル)、ロドリゴ・パラシオス(カルロス)、オティリオ・カストロ(警備員イバン)、マリア・トーレス(エステルの母親)、他多数
ストーリー:チリ南部チロエ出身のエステラは、首都サンティアゴの裕福な家族のメイドとして働くため家族を残してやってきた。エステラは家事労働のほか乳母として6歳のフリアを昼夜を問わず世話しなければならない。二人の絆が強まるにつれ、関係は複雑になり、依存しあう秘密の世界を築くことになる。エステラの孤独はやがて避けられない結果を招くことになるだろう。現代のチリ社会の階級社会、文化と社会システムの暗い大きな傷のメタファーが語られる。
「他人のために生きる人」と「自分のために生きる人」の相克
A: アリア・トラブッコ・セランの原作 ”Limpia” にインスパイアされた映画ですが、サンセバスチャン映画祭でのプレス会見によると、そもそもの始りはラライン兄弟の制作会社「Fabula ファブラ」からの働きかけであった。ソトマヨール監督は未読だったらしく「小説を読んで、小説に隠されているものが私の映画に合うかどうか判断したい」と返事した。
B: 気に入って映像化を決心したが、小説を脚色して映画化するつもりはなかった。
A: 小説と映画はそもそも別の形式のものだから、最初にストーリーの大幅な変更を原作者にも伝えたという。監督は「ファブラ」に先ず共同脚本家が必要だと話し、その結果、ガブリエラ・ララルデと共同で執筆することになった。アナイ・ベルネリの「Elena sabe」(TVドラマ、23、Netflix『エレナは知っている』)や、SSIFF2024オリソンテス・ラティノス部門ノミネートの「El aroma del pasto recién cortado」をセリナ・ムルガ監督と執筆している。
B: 監督は今まで自身のオリジナル脚本で撮っていたので、共同執筆は初めてのようです。
A: 小説のエステラは、既にこのブルジョア階級の家庭で7年間の人生を送っていて、小説は映画とは反対に「フリアの悲劇」から始まっている。
B: 雇用主は自分たちに子供が生まれるので〈nana ナナ〉としてエステラを雇ったように推測します。
A: チリと言わず南米全般に言えることですが、〈nana〉という職業は、家事労働者としてのメイドと四六時中子供の世話をしなければならない乳母を兼ねている。時代によって仕事の内容は少しずつ変化しているようですが、ナナは映画でも垣間見られるように自由度が少なく、自分が属していない世界に閉じ込められている。
B: 主に地方出身の貧しい家庭の女性たちが担っている。エステラも故郷に一人暮らしの母親を残して出稼ぎに来ている。その母親の怪我の手術にも帰郷できないで苛々している。帰られては困る雇用主夫婦の上から目線の尤もらしい言い分にナナの置かれている厳しさが分かります。
A: 従って「他人のために生きる人」であるエステラと、「自分のために生きる人」たちである夫婦の対立の物語でもある。他人の家庭に入り込むわけだから、当然秘密を知ることになるが、「守秘義務」を契約させられている。
B: フリアの母親であるイグナシア・バエサ扮するキャリアウーマンのマラは、学歴のないエステラを見下している。実家の母親の大したことのない病気でも帰ることができた。

(マラ、フリア、エステラ)
似た者同士のエステラとフリア、ボスはフリア
A: 夫婦の邸宅は「保護された居住区」にあり、入り口では警備員が目を光らせている。城壁や電気柵で囲まれているわけではないから侵入しようと思えば可能です。
B: 実際、劇中でも強盗事件が挿入されていた。アルゼンチンやメキシコの映画に出てくるブルジョア階級の居住区は、もっと厳重にテロや強盗を遮断していた。
A: マルセロ・ピニェイロのサスペンス『木曜日の未亡人』(09)では居住区は高い城壁で囲まれていたし、ロカルノ映画祭2008で金豹賞を受賞したエンリケ・リベロの『パルケ・ヴィア』では、上流階級の邸宅は高い石塀の上に電気を流した鉄条網が張り巡らされていた。主人公はこの邸宅を一人で守る警備員でナナと同じように「自分が属していない世界」に閉じ込められていた。
B: 唐突な結末に衝撃を受けた『パルケ・ヴィア』と同じく、本作の結末に戸惑った人が多いと思う。
A: ドラマは不穏な雰囲気ながらゆっくりしたペースで進み、最後の数分で急展開、唐突に終わる。巧みに張られた伏線を見落とさなければ、ある程度予測できますが唐突です。エステラとフリアが属している階級格差がテーマの一つですが、監督はチリの上流階級を批判する映画を作ることに興味がない。つまり二人の権力構造、依存、絆と孤立という複雑な人間関係に焦点を合わせている。
B: エステラを演じたマリア・パス・グランジャンは、プレス会見にも監督と同席してチリの女性たちが置かれている現状を語っていた。彼女の母親は子供の学費のために働いていたというから監督とは別の階級のようです。チリには仕事を持つ母親をフォローする制度はないとも語っている。
A: 達者な演技でエステラと対峙したフリア役のロサ・プガ・ヴィッティニを、どうやって探したのか。
難しい役柄だからキャスティングには苦労したそうです。「ファブラ」が行った公開オーディションで沢山の少女に会ったが見つからず、結局監督の母親の友人のお孫さんロシータに決まった。監督のお母さんは女優だそうで、彼女の映画のキャスティングは「ほぼ母親です」と語っている。父親も俳優、フィルム編集者、助監督とシネアスト一家です。

(マリア・パスとソトマヨール監督、SSIFF2025、フォトコール)
B: 劇中のマリア・パスとロシータは息があって、特にロシータが時折り見せる大人のような複雑な表情に驚いた。
A: 監督も「背の高い少女と背の低い少女二人」の演技を賞賛している。背の高い少女マリア・パスも「とても若くて才能のある女優との共演は勉強になった」と、若いライバルを褒めている。
B: 親密だが常に不穏な空気が漂っている。二人は秘密を共有し、エステラは雇用主に、フリアは両親に尤もらしい嘘でガードしている。
A: エステラは「見えない存在」で、当然「不満を抱えている」が、一方フリアも両親から「見捨てられている」と思って「不安を抱えている」少女、二人は似た者同士ということになるが、あくまでも上位者はフリアである。プレス会見でマリア・パスは、エステラは「毎日上司のもとで上司の世話をしている。友好関係にあるが、フリアがボスであることに変わりない。彼女を世話することで給料を貰っている。少女が助けを必要としているのは、両親に置き去りにされているから」とナナと少女の関係を分析している。


(秘密を共有しているエステラとフリア)
B: エステラも複雑な人物だが、フリアはもっと複雑な子供、他の子供と遊べない、大人であるエステラといるほうがいい。お隣りからピザパーティの誘いを受けても断る、他の子供は煩いだけ。
A: だからエステラに予期せぬボーイフレンドが現れると不安になり嫉妬する。このカルロスの登場はドラマに不穏な空気を呼び込んできます。
カルロスとダドゥの登場――「恋に落ちない」お守りの神通力
B: ロドリゴ・パラシオス演じるカルロスというボーイフレンドができると、二人の関係に微妙な亀裂が走るようになる。さらにカルロスにまとわりつくダドゥという野良犬のおまけつき。
A: エステラは恋に落ちては仕事が続けられないから、「恋に落ちないお守り」を持っている。彼女の仕送りで辛うじて生きている母親のために仕事を失うわけにいかない。しかし神通力が衰えたのか偶然カルロスに出会ってしまう。ダドゥも重要な登場人物の一人というか一匹です。二人の登場で、ゆったりしたストーリーが動き出す。

(カルロスとエステラ)
B: ナナは了解なしに勝手に他人を自室に入れることはできない。ましてや野良犬などもってのほか、エステラはナナの基本を少しずつ逸脱していく。
A: ダドゥの事故死がきっかけでドラマは破局に向かうわけですが、〈死〉は常に見え隠れしていた。例えば、小児外科医らしい父親クリストバルの患者の少女がオペの甲斐なく死亡する、エステラの母親、ダドゥなど。
B: 母親の死でエステラの我慢が爆発する。エステラの帰郷が分かるとフリアは動揺する。
A: 少女はエステラと共有していた秘密を母親マラに漏らす。母親が亡くなってエステラもこの家でナナを続ける理由がなくなり妥協しない。マラもクリストバルもナナは必要だが、エステラでなくてもいい。

(撮影監督バルバラ・アルバレスが手掛けた映像美)
B: 映画だけにあるのがポピュラーソング、フリアが恋の歌を歌っている。
A: エステラが聴いている歌を意味も分からず覚えて歌っている。上流階級はクラシック一辺倒でポピュラーソングなど論外、両親は勿論知らない。監督はカミラ・モレノのミュージックビデオを制作しているプロ、ポピュラーソングが大好きで挿入したようです。
B: エステラの孤独や優しさが分かる仕掛けでもあるようです。
チリ映画の展望――映画製作センターの設立
A: 監督が映画を学んでいた頃は、チリの人はチリ映画など誰も見なかったという。映画製作センター CCC が創設され、そこで作られた映画が注目されるようになり観客も増えてきている。1年に100作くらい製作され、なかで上映の可能性がなくても若い女性監督やプロデューサーが輩出してきているという。そうなると観客の目も肥えてくる。
B:「ファブラ」の存在が大きいですね。本祭でもメキシコより話題作が多く、チリ映画はディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、未紹介でしたがナイラ・イリッチ・ガルシアの「Cuerpo Celeste」の3作がノミネートされていた。
A: しかし政治的しめつけは変わりなく戦々恐々としてるのが現状のようです。国家が文化にお金を払いたくないのは万国共通、監督も「チリで映画を作るのは、実のところ波瀾の連続」と語っている。
B: 差別と不寛容の国と揶揄されるチリ、今後も才能流失は避けられません。
★参考作品
*セリナ・ムルガの「El aroma del pasto recién cortado」は、コチラ⇒2024年08月20日
*セバスティアン・シルバの『家政婦ラケルの反乱』は、コチラ⇒2013年09月27日
開幕作品はドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」*SSIFF2025 ⑫ ― 2025年09月16日 19:02
オリソンテス・ラティノス開幕作品――ドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」

★第73回SSIFF 2025オリソンテス・ラティノス部門オープニング作品は、チリのドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」、久しぶりの登場です。デビュー作『木曜から日曜まで』が東京国際映画祭2012ワールド・シネマで上映されています。既に英語題「Swim to Me」から採った『そこから泳いで、私の方へ』という邦題で10月10日からNetflix 配信が決定しています。ラライン兄弟の制作会社「Fabulaファブラ」が製作しています。アリア・トラブッコ・セランの同名ベストセラー小説の映画化、作家自身も脚本に参加しているようです。アリア・トラブッコは、マイテ・アルベルディ監督の『イン・ハー・プレイス』(原題「El lugar de la otra」)の原作者、チリの人気作家です。新作は現代のチリの文化と社会システムに対する批判がテーマの一つかと想像します。詳細は Netflix 配信後を予定しており、今回はデータ、キャスト、ストーリーを簡単にアップいたします。
*『木曜から日曜まで』の紹介記事は、コチラ⇒2015年03月04日
*『イン・ハー・プレイス』の紹介記事は、コチラ⇒2024年10月19日


(表紙とアリア・トラブッコ)
「Limpia」
製作:Fabula
監督:ドミンガ・ソトマヨール
脚本:ガブリエラ・ララルデ、ドミンガ・ソトマヨール、(原作)アリア・トラブッコ・セラン
撮影:バルバラ・アルバレス
編集:フェデリコ・Rotstein
美術:アゴスティナ・デ・フランセスコ
録音:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・パレンケ、他
音楽:カルロス・カベサス
衣装デザイン:クリスティアン・ゴメス、フリオ・ムニサガ
製作者:ロシオ・ハドゥエ、フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、(エグゼクティブ)ソフィア・カステルス
データ:製作国チリ、2025年、スペイン語、心理スリラー、97分、Netflix 配信(2025年10月10日、邦題『そこから泳いで、私の方へ』)
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2025「オリソンテス・ラティノス」部門オープニング作品(9月19日上映)
キャスト:マリア・パス・グランジャン(エステラ)、ロサ・プガ・ヴィッティニ(フリア)、イグナシア・バエサ・イダルゴ(マラ)、ベンハミン・ウェストフォール(クリストバル)、ロドリゴ・パラシオス(カルロス)、他多数
ストーリー:チリ南部のチロエ出身のエステラは、裕福な家庭のメイドとして働くため家族を残して首都サンティアゴへ旅立つ。家事労働のほかに昼夜を問わず世話をしなければならない6歳の娘フリアとの複雑な関係は、二人の絆が強くなるにつれて、避けられない結果に導かれる依存しあう秘密の世界を築くことになる。現代のチリの文化と社会システムの暗い大きな傷のメタファーが語られる。
★監督、スタッフ、キャスト紹介は、Netflix 鑑賞後に纏めてアップしますが、撮影監督がデビュー作『木曜から日曜まで』と同じバルバラ・アルバレス、少女の目線にこだわる巧みなカメラワークも楽しみです。



ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点賞」受賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年06月01日 17:05
デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が「ある視点賞」の快挙

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」はラテンアメリカにとって大収穫の年でした。チリの若干30歳のディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」が最高賞の作品賞(副賞30.000ユーロ)、2席に当たる審査員賞にコロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」が受賞しました。このブログも既に十年を超えましたが、記憶を辿るかぎり初めてのことです。両作とも作品紹介記事をアップしておりますが、カンヌでのプレス会見記事から、詳細が分かるにつれ間違いも見つかる半面、疑問も解消されました。カンヌはほとんどがワールドプレミアなので情報に混乱があるからです。今回はセスペデスの作品賞受賞に絞ってアップいたします。
*作品紹介とセスペデス監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2025年05月12日

(参加したスタッフ&キャスト一同、レッドカーペットにて)
★受賞理由は、映画は「セスペデス監督の並外れた独創性や過酷さと感性に溢れています。世界レベルでのエイズの危機を語るのに、人間性の不在を描き、スクリーンに現れる登場人物を見ると、私たちの心は幸せに満たされます。生々しく力のある作品なのですが、楽しみにも溢れ、エネルギーを備えています」と、審査委員長モリー・マニング・ウォーカー(イギリスの監督、脚本家、撮影監督、『ハウ・トゥ・ハヴ・セックス』で2023年のグランプリ受賞者)が称賛しました。

(プレゼンターは審査員の一人アルゼンチンの俳優ナウエル・ぺレス・ビスカヤート)

(受賞スピーチをするセスペデス監督、リディア役のタマラ・コルテス、
ラ・フラメンコ役のマティアス・カタラン)
★監督を支えつづける製作者のジャンカルロ・ナシは「1000作を超える応募作から選ばれただけでなく受賞できたのは、ロッテリア(宝くじ)に当たったようなものです。国境を行き来すること数年がかりでした。ディエゴには転機になる作品、受賞はご褒美です」とコメント。軍事独裁政権を20年近く守ってきた不寛容なお国柄ゆえ、諸手を上げては喜べないでしょう。一部の人々にとっては不愉快で不都合な映画であり、カンヌなど「どこの国のお祭りですか」ですから。

(左から、パウラ・ディナマルカ、タマラ・コルテス、マティアス・カタラン、監督、
ペドロ・ムニョス、フランシスコ・ディアス、5月16日、フォトコール)
★他の人々と同じように愛し合ってどうしていけないのか、と立腹している人々と作った映画、監督がカンヌで語ったところによると、「私が生まれたころ、両親はサンティアゴの郊外でヘアサロンを経営していました。ところが働いていたゲイの美容師全員がエイズで亡くなってしまいました。そのことが母親に深く影響し、この病気に対して大きな恐怖心を抱くようになりました。私はエイズが恐ろしいという考えをもって育ったのです。しかし、大きくなるにつれ自分がゲイであると理解するようになると、世界が広がり始めました。私が輝く存在と見なす反体制派の人々に出会ったことが、私の視点を変えました。それがこの映画の最も重要な側面の一つだと思います。血縁はないが愛のある家族の創造を通じて、これらの人々がどのように生き延び、どのように生き残るために互いを助け合ったかを描くということです」と。

(セスペデス監督)
★一番の不安は、主人公リディアを演じるのが、11歳の女の子(タマラ・コルテス)ということだったそうです。しかし彼女は「樫の木のように強く、熱心で、安定して」おり、何度もテイクを撮らなければならない複雑なシーンでも1度で完璧に演じた。タマラの才能、技術にはとても感動したとも語った。クィアのコミュニティを統べる女族長のようなママ・ボア役のパウラ・ディナマルカはほぼアマチュアでしたが、知人のトランスジェンダーの女性に触発されてキャラクターを作り上げた。パウラの顔、自然な存在感、怒り、そして愛が「映画の本質を秘めた小瓶を満たしている」と絶賛している。悲劇を背負うには幼すぎるが、悲しんでばかりいるには成熟しすぎてしまった少女に、生き残るだけでなく抵抗することも教えた登場人物です。

(将来を思案する12歳の少女リディア、フレームから)
★ラ・フラメンコ役のマティアス・カタランは魅力的なプロフェショナルの俳優、主役を演じるのは今作が初めて、「彼はこのキャラクターに全てを捧げた」と監督、フアン・フランシスコ・オレアの「Oro Amargo」(24)、他TVシリーズ出演。ラ・フラメンコの恋人ヨバニを演じたペドロ・ムニョスもプロの俳優、「目と体を通して表現できる能力をもっており、信じられないほど強力」と監督。チリでは才能がありながらチャンスが与えられない演技者が多いとも述べている。ムニョスはグスタボ・メサの演劇学校「Imagen」で演技を学んだ後、2013年にチリのラス・アメリカス大学で舞台芸術の学位を取得、振付家でもある。チリの劇団「Ia re-sentida」の創設メンバーで、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジアなど国際的に活躍している。

(マティアス・カタラン、セスペデス監督、製作者ジャンカルロ・ナシ)
★ストーリーをアップしながら違和感のあった一つが、子供のリディアがどうして謎の病気をナビゲートするのかという疑問でした。ネタバレになりますが、ラ・フラメンコは恋人ヨバニの暴力で命を落としてしまう。全くの孤児になってしまった自身を守るため、恐怖や偏見、華やかな衣装の重みで崩壊しつつあるクィアのコミュニティを調べ始めるようです。予告編に現れるリディアは大人びていて12歳とは思えない。本作は寓話的なミステリーであるだけでなく、エイズ危機の解説、クィアの恐怖と欲望、社会的な圧力のもとでの愛の歪曲についてが語られるようです。
セバスティアン・レリオの新作「La Ola」カンヌプレミアに*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月21日 17:11
チリの政治的ミュージカル「La Ola」がカンヌ・プレミア部門で上映決定

★アカデミー賞2018国際長編映画賞を受賞した『ナチュラルウーマン』の監督セバスティアン・レリオの新作ミュージカル「La Ola / The Wave」が、カンヌ・プレミア部門にノミネートされました。ラライン兄弟の制作会社「ファブラ」が手掛けています。2018年にチリを席巻した女性に対する暴力に抗議する大衆デモにインスパイアされて製作されたミュージカル。音楽映画とは縁遠い印象のチリで生まれたことが興味深いですが、レリオはミュージックビデオを多数手がけています。この大衆デモはチリのフェミニスト運動を刺激し、女性の権利に関する憲法改正に繋がった。監督は「スペクタルと政治をミックスさせ、私たちが生きている政治的な不協和音を反映させようと、歌、ダンス、パフォーマンスを使って私たち全員に影響を与える緊急の問題を語るなど、ミュージカルというジャンル内で独自の働き方を見つけた。100人を超えるチリの若手アーティストを紹介できたことを誇りに思う」と「バラエティ」誌に語っている。主人公フリアに新星ダニエラ・ロペスを起用した。

(撮影中のセバスティアン・レリオ監督)
「La Ola / The Wave」
製作:Fabula / Fremantle / Participante
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:ホセフィナ・フェルナンデス、マヌエラ・インファンテ、セバスティアン・レリオ、パロマ・サラス
音楽:アニタ(アナ)・ティジュー、カミラ・モレノ、ハビエラ・パラ、マシュー・ハーバート
撮影:ベンハミン・エチャサレタ
美術:タチアナ・モーレン
キャスティング:エドゥアルド・パシェコ
特殊効果:フアン・フランシスコ・ロサス、オスカル・リオス・キロス
製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、セバスティアン・レリオ、(エグゼクティブ)ロベルト・ケッセル
データ:製作国チリ=米国、2025年、スペイン語、ミュージカル・ドラマ、129分、撮影地サンティアゴ、期間9週間、配給 FilmNation Entertainment
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025カンヌ・プレミア部門正式出品(2025年5月16日)
キャスト:ダニエラ・ロペス(フリア)、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナ、タマラ・アコスタ(秘書)、スサナ・イダルゴ(ピエダッド)、アマリア・カッサイ、フロレンシア・ベルナル(レオ)、レナータ・ゴンサレス・スプラリャ、エンツォ・フェラーダ・ロサティ、アブリル・アウロラ、ルカス・サエス・コリンズ、ロラ・ブラボ、パウリナ・コルテス、ティアレ・ルス、他チリのミュージシャン多数
ストーリー:ひたむきな音楽学生であるフリアは、大学のキャンパスで盛り上がっているフェミニスト運動に参加します。多くの仲間が受けている女性への嫌がらせや虐待に抗議しようと立ち上がったグループの取りくみに賛同しているからです。抗議デモの興奮の渦のなか、フリアは友人たちと踊ったり歌ったりすることで自分自身が受けた虐待の経験を振り返ります。彼女は思いきって自分の物語を共にしようとしているなかで、思いがけず抵抗する社会で変化を求める運動の中心人物になっていることに気づきます。


(フリア役の新人ダニエラ・ロペス)
★監督紹介:セバスティアン・レリオ、1974年アルゼンチンのメンドサ生れ、2歳のとき母親の故国チリに移住、父親はアルゼンチン人だが彼の国籍はチリ。監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。既に『ナチュラルウーマン』(17,原題「Una mujer fantástica」)や、19世紀の飢饉で荒廃したアイルランドを舞台にしたミステリー『聖なる証 あかし』(22、原題「The Wonder」)でキャリア&フィルモグラフィーは紹介しています。
*『ナチュラルウーマン』の主な作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年03月16日
*『聖なる証』の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2022年12月05日
*『聖なる証』の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月06日

(ダニエラ・ベガを配したスペイン語版ポスター)
★長編デビュー作「La Sagrada Familia」は養父の苗字カンポスでクレジットされている。サンセバスチャン映画祭2005でプレミアされ、その後、国際映画祭巡りをして国内外の受賞歴多数。ラテンビート映画祭2006で『聖家族』の邦題で上映された。本作の主人公は新作「La Ola」に出演しているネストル・カンティジャーナである。2作目が「Navidad」(カンヌ映画祭2009)、3作目「El año del tígre」(11)、4作目が国際的に多くの観客の共感を呼んだ「Gloria」(13)で、主演のパウリナ・ガルシアがベルリン映画祭で主演女優賞を受賞し、『グロリアの青春』の邦題で公開された。本作はジュリアン・ムーアをヒロインに2018年、米国で「Gloria Bell」としてリメイクされ、『グロリア 永遠の青春』として公開された。他に2017年、正統派ユダヤ教のコミュニティを舞台にした二人のレスビアンの信仰と性を描いた「Disobedience」(邦題『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』)、チリにオスカー像を運んできた『ナチュラルウーマン』、前作『聖なる証』、9作目となる「La Ola」となる。チリ映画としては字幕入りで観ることのできた幸運な監督の一人です。

(オスカー像を手にしたセバスティアン・レリオ)
★共同脚本家のマヌエラ・インファンテは、「私が大学の教師をしていたとき、約100人くらいの女子学生が本館を包囲しました。私は彼女たちから多くのことを学んだのです。そのときの経験を実際に取り入れました。フェミニストの蜂起の後に何が起こるかは、この映画の基礎の一部です」と回想している。レリオは「ポスト#MeToo 時代の相互合意、個人または集団の声の政治的可能性について話すというアイデアに魅了されている」。世界を変えることを決意した仮面の女性のバンドが酔わせる力を通じて、変化の緊急性と現状との衝突を探求している。
★ミュージシャン紹介:アニタ(アナ)・ティジューは、フランスのリール生れ(1977)、作曲家、ミュージシャン、俳優、ラテン・グラミー賞、TVシリーズ「La Jauría」(全16話、19~22)に女優としてエピソード5話に出演している。ハビエラ・パラは、ララインの『NO ノー』(12)、ゴンサロ・フスティニアノの「B-Happy」(03)を手掛けている。カミラ・モレノは「ファブラ」が最初にプロデュースしたTVシリーズ「Prófugos」(「逃亡者」26話、11~13)、ビデオクリップ「Camila Moreno: Millones」(09)作曲家、女優でもある。そして『ナチュラルウーマン』や『聖なる証』のマシュー・ハーバートが統率している。
★スタッフ紹介:パブロ & フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が2004年に設立した「ファブラ」は、世界的な制作、配給事業を展開しているフリーマントルとファーストルックと契約を結び、チリだけでなく資金不足に苦しんでいるラテンアメリカ諸国のシネアストたちに資金提供をして、ラテンアメリカで最も映画を量産している制作会社です。パブロ・ララインの監督キャリア&フィルモグラフィーについては度々アップしているので割愛します。今回は製作者としてどんな作品を手掛けているか紹介したい。チリは右も左も上流階級は保守的と揶揄されるお国柄ですが、ラライン家は上流階級に属し、チリでは知らない人はいないと言われる政治家一家です。若いシネアスト育成にも資金援助を惜しまないのは褒めてもいい。

(『グロリアの青春』主演のパウリナ・ガルシア)
★自作以外に手掛けた映画は、セバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』以下、「El año del tígre」、『グロリアの青春』、『グロリア 永遠の青春』、オスカル・ゴドイの「Ulises」(11)、マリアリー・リバスの「Joven y alocada」(12、『ダニエラ 17歳の本能』DVD)、チリの不寛容に見切りをつけてアメリカに移住してしまったセバスティアン・シルバの「Crystal Fairy y el cactus mágico」(13、『クリスタル・フェアリー』ラテンビート)、「Nasty Baby」(15)、セバスティアン・セプルべダの「Las Niñas Quispe」(13)は、ベネチア映画祭2013の「批評家週間」でプレミアされ、撮影監督のインティ・プリオネスが撮影賞を受賞するなど受賞歴多数。1974年にチリの高地で羊飼いをして暮らす三姉妹に起きた悲劇的な実話に基づいている。

(セバスティアン・シルバの『クリスタル・フェアリー』)
★『83歳のやさしいスパイ』でブレイクしたマイテ・アルベルディのドキュメンタリー「La memoria infinita」(23、『エターナルメモリー』)、続く彼女のフィクション第1作「El lugar de la otra」(24、『イン・ハー・プレイス』)、アクションものでは、アレクサンダー・ウィットの「Sayen: La ruta seca」(23、『サイエン 死の砂漠』)、「Sayen: La cazadora」(24、『サイエン 最後の戦い』)、2020年の新型コロナウイルス感染で身動きできなくなっていたときに手掛けた短編コレクション『HOMEMADE ホームメード』、ガスパル・アンティーリョの「Nadie sabe que estoy aqui」(『誰も知らない僕の歌』)をトライベッカ映画祭2020(オンライン上映)でデビューさせたことなどは、あまり知られていないと思います。アンティーリョはニュー・ナラティブ部門の監督賞を受賞しています。共同脚本家のホセフィナ・フェルナンデスが脚本を監督と共同執筆している他、「ファブラ」のTVシリーズを手掛けている。「ホームメード」にはレリオも参加しています。『エターナルメモリー』、『イン・ハー・プレイス』は、紹介記事をアップしています。
*『HOMEMADE ホームメード』の紹介記事は、コチラ⇒2020年07月12日
*「Nadie sabe que estoy aqui」の作品紹介は、コチラ⇒2020年05月11日

(マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』)
★2020年代から量産しているのがTVシリーズ、アントニア・セヘルスやダニエラ・ベガを主軸「La Jauría」(16話、19~22)、メキシコの「Señorita 89」(全8話、22~24)は、ミス・メキシコ・コンテストを巡るドラマ、「42 Días en la Oscuridad」(6話、22,『暗闇の42日間』)には、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナが味のある演技をしている。2015年のFIFA 汚職スキャンダルの根底にある実際の陰謀を探るコメディ「El Presidente」(16話、20~22、『腐敗のゲーム~エル・プレシデンテ』)、カリスマ的なスケーターである若い強盗の犯罪ドラマ「Baby Bandito」(8話、24、『ベビー・バンディートの信じられない話』)などがある。
★最新作はメキシコの「Familia de medianoche」(10話、24、『ミッドナイト・ファミリー 真夜中の救急隊』)は毀誉褒貶で、くだらないアメリカ製の医療ドラマよりよほど優れていると高評価の半面、インスパイアされたルーク・ローレンツェンのドキュメンタリー「Midnight Family」(19、『ミッドナイト・ファミリー』)を1作見るだけで充分という評もある。このドキュメンタリーは国際映画祭のドキュメンタリー部門を制覇している。ドキュメンタリーとTVシリーズを比較しても始まらないが、TVシリーズのだらだら引き伸ばしが癇に障る人にはお奨めできない。
★「ファブラ」の紹介が長くなりましたが、チリと言わずラテンアメリカで最も重要な制作会社です。ラライン兄弟とセバスティアン・レリオの共通項は〈威厳をもった不服従〉とでも言っておきましょうか。ラライン監督は、「El Conde」(23、『伯爵』)に続いて、世紀の歌姫マリア・カラスの晩年を描いた「Maria」がベネチア映画祭2024にノミネートされた。Netflix 作品だが日本語版はないようです。「9.11」以後のアメリカが舞台の新作「The True American」(英語)がアナウンスされている。

(パブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟)
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月12日 11:23
ディエゴ・セスペデスのデビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」には、チリの若手監督ディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、コロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」がノミネートされました。セスペデスはカンヌ映画祭2018短編部門で上映された「El verano del león eléctrico」(22分)でシネフォンダシオン賞を受賞しています。後者のメサ・ソト監督は、2021年カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に「Amparo」がノミネートされ、サンセバスチャン映画祭「オリソンテス・ラティノス」部門でも上映された。その節、作品並びに監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しているので、まずディエゴ・セスペデスからアップしたい。
*セスペデスのシネフォンダシオン賞の記事は、コチラ⇒2018年05月20日
*「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日
「La misteriosa mirada del flamenco / The Mysterious Gaze of the Flamingo」
製作:Quijote Films(チリ)/ Les Valseurs(仏)/ Weydemann Bros. GMBH(独)/
Irusoin(西)/ Wrong Men(ベルギー)
監督・脚本:ディエゴ・セスペデス
音楽:フロレンシア・ディ・コンシリオ
撮影:アンジェロ・ファッチーニ
衣装デザイン:パウ・アウリ
メイクアップ:アンドレア・ディアス、フランシスカ・マルケス
プロダクションマネージャー:カミロ・イニゲス
製作者:ジャンカルロ・ナシ、ジャスティン・ペックパーティ、(共同)ブノワ・ローラン、アンデル・サガルドイ、ヨナス&ヤコブ・ヴェイデマン、シャビエル・ベルソサ、他共同製作者
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ=スペイン=ベルギー、2025年、スペイン語、コメディ・ドラマ、104分、撮影地チリのサンティアゴ、アタカマ砂漠、クランクイン2024年5月20日
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025「ある視点」正式出品、カメラドールにノミネート、最高賞の作品賞を受賞。
キャスト:タマラ・コルテス(リディア12歳)、マティアス・カタラン(ラ・フラメンコ)、パウラ・ディナマルカ(ママ・ボア)、ペドロ・ムニョス(ヨバニ)クラウディア・カベサス、ルイス・デュボ、他
ストーリー:1980年代初頭のチリの砂漠、12歳になるリディアは荒れ果てた小さな鉱山の町で、愛情あふれたクィアの家族に見守られて暮らしています。しかし謎めいた未知の病気が町に蔓延し始めます。ある男性が別の男性に恋をすると一瞥しただけで感染するという噂です。リディアの優しくて母親のような兄アレショや彼のゲイの友人たちは、保菌者として町の恐怖の標的になります。リディアは憎しみと不寛容に悩まされた世界で、かけがえのない家族を守るためにホモフォビア俗説の探求に乗り出します。家族は彼女の唯一の避難所だからです。

(リディア役のタマラ・コルテス)
30年前のチリで起きた不寛容なバイオレンスを描く現代の神話
★未知の病気がかつて世界中を震撼させたHIVエイズであることが分かります。ハグなどもってのほか、握手しただけで感染すると怖れられました。無知がはびこり死亡率が100%と噂され、感染者への心的暴力が許された時代でした。チリのケースで言うと、保菌者への暴力が未だ顕著でなかったころに子供たちが学校で質問した。その答えの多くが無知からくるもので伝達の方法に問題があった。それで子供の視点を取り入れてストーリーにレアリティをもたせ、共感が得られるのではと考えた、とコメントしている。映画ではリディアの友達が出演している。チリでは長い軍事独裁政権の負の遺産が沈殿しており、現在でも多くの頭脳流失をもたらしている。

(「視線で感染するとでもいうの」と詰め寄るクィアの友人)

(感染しないよう目隠ししている?)
★監督紹介:ディエゴ・セスペデス、1995年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、脚本家、撮影監督。チリ大学で映画を学ぶ。アンドレア・カスティーリョの「Non Castus」(22分、ロカルノ映画祭2016スペシャル・メンション受賞)と「Bilateral」(16分、SANFIC 2017出品)の撮影を手掛ける。2018年まだ大学在学中に撮った短編「El verano del león eléctrico / The Summer of the Electric Lion」(22分)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン賞、サンセバスチャン映画祭パナビジョン賞、モロディスト・キエフ映画祭2019学生映画部門審査員特別賞を受賞する。サンダンス映画祭2019、ビアリッツ映画祭にもノミネートされた。2022年、フランスとの合作短編「Las criaturas que se derriten bajo el sol / The Melting Creatures」(17分)は、カンヌ映画祭、トロント映画祭に出品された。製作をジャンカルロ・ナシとジャスティン・ペックパーティが手掛けている。

(ディエゴ・セスペデス監督)

(短編デビュー作「El verano del león eléctrico」の英語版ポスター)
★本作制作の経緯は、2019年にセスペデスがシネフォンダシオン・レジデンスに参加して製作の土台を練る。翌年のサンセバスチャン映画祭の期間中、イクスミラ・ベリアクにも参加、トリノ・フィルムラボでTFL プロダクション賞を受賞、副賞として50.000ユーロの製作助成金を受け取ることができた。翌年のサンダンス・インスティテュートの製作者サミットに参加、フランスの制作会社「Les Valseurs」 の協力が報じられ、2024年にはドイツの制作会社「Weydemann Bros. ヴェイデマン・ブラザーズ・フィルム」の共同製作が決まった。初めにシネフォンダシオン・レジデンスありきでした。どこの映画祭も一度受賞すると、後々も面倒をみてくれるようです。多分イクスミラ・ベリアクにも参加しているのでサンセバスチャン映画祭にもノミネートされる可能性が高くなっている。
★キャストのうち、パウラ・ディナマルカは「Las criaturas que se derriten bajo el sol」に、ルイス・デュボは「El verano del león eléctrico」に出演している。最初のシナリオと完成版には結構違いがあり、例えばリディアの年齢も7歳から12歳までと幅がある。まだ正確な情報が入手できていないので、追い追い追加訂正していく予定です。
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭「ある視点」部門の最高賞である作品賞を受賞しました。
審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪ ― 2025年04月25日 13:23
ベレン・フネスの第2作「Los Tortuga」が4冠の快挙

★ベレン・フネスの2作め「Los Tortuga」は、審査員特別賞、監督賞、脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。
*ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年12月24日
*マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ⇒2025年03月28日
「Los Tortuga / The Exiles」
製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /
Quijote Films
協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC /
ICAA / RTVE / TV3、他
監督:ベレン・フネス
脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン
撮影:ディエゴ・カベサス
音楽:パロマ・ペニャルビア
編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE
美術:パウラ・エスプニー
キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス
衣装デザイン:ルルデス・フエンテス
メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス
製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン
データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン2024年11月15日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞
キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他
ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

(フレームから)
★監督紹介:ベレン・フネス、1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞と監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞・監督賞・脚本賞の3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作「Los Tortuga」が長編第2作になる。

ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

(新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)
★脚本家紹介:マルサル・セブリアン、1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「L’estigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。2025年4月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。


(マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)
★キャスト紹介:アントニア・セヘルス、1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

(G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

(チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)
★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。


(マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)
★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

(共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)
★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(2001~04)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、2015~17)とある。
★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(2013~14、90話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(2019~22、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。
◎主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)
1995「En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス
2003「Sábado」マティアス・ビセ
2007「Pecados」マルティン・ロドリゲス
2008「Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1、
テレビプロデューサー役
2010「Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役
ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート
2010「La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演
ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート
2012「No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3、G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役
2015「El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演
シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016
イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数
2015「La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役
2017「Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ
レストラン店主役
2017「Los perros」マルセラ・サイド 主役
ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数
2017「Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役
2018「Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役
2021「Mensajes privados」マティアス・ビセ
2022「1976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役
2022「El castigo」マティアス・ビセ 主役
タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、
トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞
2023「El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役
イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート
2024「Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役
2024「Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役
◎当ブログ関連記事
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月22日
*「Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ⇒2022年03月14日
*『1976』の紹介記事は、コチラ⇒2022年09月13日
*「El castigo」の紹介記事は、コチラ⇒2023年03月03日
*「Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ⇒2024年08月29日
★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ*の3作目「Sirat」とカルラ・シモンの3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。
*オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。
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