マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭2022年09月13日 17:23

    ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ

 

       

 

★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が1976で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(197390)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。

 

 1976

製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine

監督:マヌエラ・マルテッリ

脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット

音楽:マリア・ポルトゥガル

撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス

美術:フランシスカ・コレア

編集:カミラ・メルカダル

衣装:ピラール・カルデロン

録音:ジェシカ・スアレス

キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ

メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ

製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他

 

データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。

映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門

 

キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数

   

ストーリーチリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。

 

        

        (支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)

 

            チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭

 

★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。 


★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。

 

         音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語

 

★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。

 

           

           (カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)

 

★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。

   

        

            (逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)

  

マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノB-Happy03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。

 

2004年、アンドレス・ウッドMachuca(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けてLa buena vida(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。

 

★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 Una novelita lumpen を映画化した、アリシア・シェルソンIl futuro13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。

 

 

 (ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013

 

★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。

    

      

          (マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)

 

★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。

 

 

カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(7684)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。


*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。

 

パブロ・ララインの新作「スペンサー」*ダイアナ・スペンサーの謎2021年11月28日 20:33

    伝統に縛られた風変わりで冷酷な裏切りの王室を描いたホラー映画

 

      

 

2022年はダイアナ・スペンサーが交通事故死して25年目というわけで、クリステン・スチュワートを起用したパブロ・ララインSpencer(仮題「スペンサー」)と、エド・パーキンズのドキュメンタリーDianaの劇場公開が決定しています。チリの監督作品がベネチア映画祭でワールドプレミアされたからと言って、邦題も公開日も正式に決まっていないのに、紹介記事が多数アップされるとは驚きです。同じ有名人のビオピック『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』とは比較になりません。その謎に包まれた悲劇的な最期もあるのか、未だにダイアナ人気は持続しているようです。ネットフリックス配信のピーター・モーガン原案のTVシリーズ『ザ・クラウン』(ダイアナ役エマ・コリン)、酷評さくさくだったダイアナ最後の2年間に焦点を絞ったオリヴァー・ヒルシュビーゲル『ダイアナ』(同ナオミ・ワッツ)と、ダイアナ女優の競演も見逃せません。

 

★旧姓 <スペンサー> だけでダイアナ妃に直結できる人がどのくらい居るのか分かりませんが、副題入りなら願わくば簡潔にして欲しい。本作についてはまだ詳細が分からなかった昨年夏にクリステン・スチュワート監督デビューを含むトレビア記事を紹介しております。スペイン語映画ではありませんが、久々にラライン映画をご紹介。

「スペンサー」のトレビア記事は、コチラ20200712

 

     

 (パブロ・ラライン監督とクリステン・スチュワート、ベネチアFF2021フォトコール)

 

 Spencer(仮題「スペンサー」)

製作:Komplizen Film / Fabla / Shoebox Films  協賛FilmNation Entertainment

監督:パブロ・ラライン

脚本:スティーブン・ナイト

撮影:クレア・マトン

美術(プロダクション・デザイン):ガイ・ヘンドリックス・ディアス

編集:セバスティアン・セプルベダ

衣装デザイン:ジャクリーン・デュラン

音楽(監修):ジョニー・グリーンウッド、ニック・エンジェル

キャスティング:Amy Hubbard

製作者:ポール・ウェブスター(英)、マーレン・アデ、ヨナス・ドルンバッハ、ヤニーネ・ヤツコフスキー(以上独)、フアン・デ・ディオス・ラライン&パブロ・ラライン(チリ)、(エグゼクティブ)スティーブン・ナイト、トム・クインほか多数

 

データ:製作国ドイツ=チリ=イギリス=アメリカ、英語、2021年、ビオピック・ドラマ、111分、撮影地ドイツ(フリードリヒスホーフ城)、イギリスのノーフォーク他、期間2021128日~427日まで。配給STAR CHANNEL MOVIES、公開イギリス・アメリカ2021115日、チリ2022120日、独127日他多数、日本は2022年、東北新社フィルム・コーポレーション

映画祭・受賞歴:第78回ベネチア映画祭コンペティション部門、トロントFF、パルマ・スプリングFFスポットライト賞(クリステン・スチュワート)、ほかチューリッヒ、BFIロンドン、ハンプトン、ヘント、サンディエゴ、シカゴ、マドリードなどの国際映画祭上映多数。

 

キャスト:クリステン・スチュワート(ダイアナ妃)、ティモシー・スポール(アリスター・グレゴリー)、ジャック・ニーレン(長男ウイリアム)、フレディ・スプリー(次男ヘンリー)、ジャック・ファージング(チャールズ皇太子)、ショーン・ハリス(ダレン)、ステラ・ゴネット(エリザベス女王)、リチャード・サメル(エディンバラ公フィリップ殿下)、エリザベス・べリントン(アン王女)、ロア・ステファネク(女王の母、王太后)、サリー・ホーキンス(マギー)、エイミー・マンソン(アン・ブーリン)、ローラ・ベンソン(着付師アンジェラ)、ジョン・ケオ(チャールズの側用人マイケル)、トーマス・ダグラス(ダイアナの父ジョン・スペンサー)、エマ・ダーウォール・スミス(カミラ・パーカー・ボウルズ)、ニクラス・コート(アンドリュー王子)、オルガ・ヘルシング(元ヨークシャー公爵夫人サラ・ファーガソン)、他多数

 

ストーリー:ダイアナは、英国王室がクリスマス休暇を過ごすノーフォークにあるサンドリンガム邸に一人で到着した。彼女は生まれ育ったところからそれほど遠くないサンドリンガムをずっと憎んでいました。ダイアナが離婚を決意したクリスマス休暇の3日間が描かれる。彼女は過去と現在は同じものであり、未来は存在しない場所を逃れて、なりたい自分になることを選びます。誰も正確に本当のレディ・ディを知りません。

 

    「謎に包まれたレディ・ディは魅惑的です」とラライン監督

 

★王室が存在しない国の監督パブロ・ラライン(サンティアゴ・デ・チリ197645歳)は、本作のプロモーションのためロンドンに滞在していました。キャンペーンはうまくいってるようです。「イギリス人は自分たちの暮らす社会とは違う話に慣れており、外部の誰かがそれに取り組んでいることを面白がります。彼らはこの映画が物議を醸すかどうか気をもんでいます。多分その要素はあるでしょう、おそらく危険です」とエル・パイスの記者にコメントした。

 

         

    (ウェールズのダイアナとして登場するクリステン・スチュワート)

 

★「スペンサー」は、デビッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)の脚本を手掛けたスティーブン・ナイトに脚本を依頼したことから始まった。20211月下旬、ドイツのサンドリンガムに見立てたフリードリヒスホーフ城で迅速に撮影が始り、3月下旬にイギリスに移動して完成させました。カンヌ映画祭には間に合わず、ベネチアでワールドプレミアされました。ベネチアにはかつて『ジャッキー~』や『エマ、愛の罠』がコンペティション部門にノミネートされたとき現地入りしています。

 

★撮影は『トニー・マネロ』以来、長年にわたってラライン映画を手掛けてきた撮影監督セルヒオ・アームストロングから、今回はフランスのクレア・マトンに変わった。マトンはセリーヌ・シアマがカンヌFF2019の脚本賞・クイア賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』の撮影監督です。アームストロングはロレンソ・ビガスの『箱』を撮っていた。ドイツ・サイドの製作者にマーレン・アデ、アデは『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)の監督、そして今作をプロデュースしたのがヨナス・ドルンバッハヤニーネ・ヤツコフスキーでした。イギリスからポール・ウェブスター、チリが監督の実弟フアン・デ・ディオス・ラライン、スタッフ陣に抜かりはありません。

 

★「ほぼ2年にわたって調査をしたのですが、情報が多くなればなるほど謎が深まっていった」と監督。「ダイアナを包み込んでいた謎は魅惑的で、理解できないことで逆に興味が増していきました。映画をご覧になった方は、それぞれ自分のバージョンをつくり、私的に愉しむことができます。伝統的なおとぎ話では、魅力的な王子様が現れてお姫様を見つけ結婚する。やがて王妃になれるのですが、ここでは反対のことが起きる」のです。つまりお姫様は王子様と出会う前のなりたい自分になると決めて王室を去るからです。そうして初めてアイデンティティをもつことができたのです。

 

     

        (イギリスで撮影中のクリステン・スチュワートと監督)

 

★離婚でもっとも有名になった女性の運命については、既に皆が知ってることなので描かれない。1997831日にパリで起きた衝撃的な交通事故についても描かれない。舞台はエリザベス女王のサンドリンガム邸、日付は指定されていません。別居が公式に発表になった1992129日より前の1991年の或るクリスマス休暇の3日間か、あるいは息子二人の年齢から1992年の可能性もあると監督はコメントしている。ヘアースタイリスト界のスターだったサム・マックナイトの勧めで、ダイアナが髪をショートカットにした時期は1990年後半、1991年は「ダイアナ・ピクシー」と言われるショートだったという。映画のようなふんわりした髪型はもっと後のものだというのだが、明らかに違います。マックナイトはTVシリーズ『ザ・クラウン』でエマ・コリンのヘアーを担当しています。

  

   

        (レディ・ディに扮したクリステン・スチュワート)

   

   

         (ショートカットのダイアナ妃、199157日)

    

★ベネチア映画祭のあれこれは、既に報道されていることですが、監督が「私はいつもクリステンが揺るぎない、しっかりした、長い準備をして非常に自信をもっているように感じました。そしてそれがチームの他のメンバーに安心をもたらしました」とスピーチしたら、女優は「いいえ、私は怖れていました! しかし私はどっしり構えたあなたを見て、それに縋りつきました。とにかく私と同じように全員が怖がっていたのでした」と応じました。皆が知っている毀誉褒貶半ばする人物を演じるのは怖いです。実際本作はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』のようなサイコホラーとは違うようですが、1200年の歴史と伝統にとらわれた不条理なホラー映画です。

   

    

         (レディ・ディと二人の息子たち、フレームから

    

★横道ですがベネチアにはパートナーの脚本家ディラン・マイヤーも現地入りしており、パパラッチを喜ばせていた。2018年夏からの比較的長い交際だから、今度は結婚にゴールインするかもしれない。彼女はコロナ禍の2020年に製作された17人の監督からなる短編コレクションHOMEMADEホームメード』で監督デビューしたクリステンのために脚本を執筆している。

 

 

監督紹介パブロ・ララインは、1976年チリの首都サンチャゴ生れ。父親エルナン・ラライン・フェルナンデス氏は、チリでは誰知らぬ者もいない保守派の大物政治家、1994年からUDIUnion Democrata Independiente 独立民主連合) の上院議員で弁護士でもあり、2006年には党首にもなった人物。現在はピニェラ政権下で法務人権相。母親マグダレナ・マッテも政治家でセバスチャン・ピニェラ(201014政権の閣僚経験者、つまり一族は階級的には富裕層に属している。6人兄妹の次男、2006女優のアントニア・セヘルスと結婚、一男一女の父親。ミゲル・リティンの『戒厳令下チリ潜入記』でキャリアを出発させている。弟フアン・デ・ディオス・ララインとプロダクションFabula設立、その後、独立してコカ・コーラやテレフォニカのコマーシャルを制作して資金を準備、デビュー作Fugaを発表した。<ジェネレーションHD>と呼ばれる若手の「クール世代」に属している。

 

*長編映画(短編・TVシリーズ省略)

2006Fuga監督・脚本

2008Tony Manero『トニー・マネロ』監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第1

   ラテンビートLB2008

2010Post mortem 監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第2

2012NoNo』監督「ピノチェト政権三部作」第3、カンヌFF2012「監督週間」

   正式出品、LB2013

2015El club『ザ・クラブ』監督・脚本・製作、ベルリンFF 2015 LB2015

2016Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』 監督、カンヌFF2016「監督週間」

   正式出品LB2017

2016Jackie」『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』監督、ベネチアFF 2016

   正式出品

2019Ema」『エマ、愛の罠』監督・製作、ベネチアFF 2019、正式出品

2021Spencer」仮題「スペンサー」監督・製作、ベネチアFF 2021、正式出品

 

ラライン監督は、1121日に行われたチリ大統領選挙のため帰国しているようです。ララインは左派の元チリ学生連盟会長のガブリエル・ボリッチ下院議員を支持しており、両親とは支持政党が異なっている。チリは1990年の民政移管以来、中道左派、中道右派が交代で政権についていたが、格差拡大で中道はどちらも失速し、今回の選挙には7人が立候補していた。どの候補も過半数を取れず、下馬評通り極右の弁護士で元下院議員ホセ・カストとガブリエル・ボリッチの一騎打ちになった。1219日に決選投票が行われる。「選挙を棄権したことはありません。この選挙のプロセスを撮影したい」と語っていた。

 

マイテ・アルベルディの 『老人スパイ』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑩2020年11月22日 16:47

                 愛すべき諜報員セルヒオなくして傑作は生まれなかった!

    

   

 

★いよいよ1120日からオンライン上映が始まりました。東京国際映画祭TIFFで好感を与えた『老人スパイ』から鑑賞、愛すべき老人スパイ、セルヒオの人間味あふれる活躍なくしてこの傑作は生まれなかったでしょう。人間は老いようがボケようが死ぬまで生きがいと尊厳が必要だと泣かされました。作品紹介でも書いたことですが、「フィクションとドキュメンタリーの区別はない、あるのは映画だけ」というマイテ・アルベルディの言葉通りの傑作でした。老いとはいずれ我も行く道なのでした。若干ネタバレしています。便宜上、加筆訂正して出演者とストーリーを再録しました。

作品紹介&監督キャリアは、コチラ20201022

 

出演者:セルヒオ・チャミー(スイ)、ロムロ・エイトケンA&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下主な入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、にセルヒオの娘ダラルとその家族、サンフランシスコ介護施設長、介護士など多数

 

ストーリーA&Aエイトケン私立探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だったロムロ所長は、ホームに入居してターゲットをスパイしてくれる80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは露知らず応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれ元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡のハイテクはともかく、二人を最も悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォンの扱い方だった。その理解に充分な時間を費やすことになる。というのもミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせないからだなんとかクリアーしていざ出陣、ジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、果たしてどんな報告書を書くのだろうか。                          (文責:管理人)

 

 

        老人ホームのオーナーに真相を明かさなかった!

 

A チリのドキュメンタリー作家といえば、「ピノチェト三部作」を撮った大先輩パトリシオ・グスマンが直ぐ思い起こされます。『光のノスタルジア』や『真珠のボタン』は、ドキュメンタリーにも拘わらず公開されました。

B: 当ブログではパブロ・ラライン兄弟やセバスティアン・レリオなどのドラマ作品をご紹介していますが、今世紀に入ってから特に活躍目覚ましいのがチリ映画です。

    

A 本作を見ると、裾野の広がりを実感します。どこの国にも当てはまりますがドキュメンタリーは分が悪い。そんな中でドキュメンタリーとフィクションの垣根を取っ払っている監督の一人がマイテ・アルベルディです。『老人スパイ』が長編第4作目になります。

 

         

      (老人スパイのセルヒオ・チャミーとマイテ・アルベルディ監督)

 

B: 「或る老人ホーム」というのは、チリ中央部に位置するサンティアゴ大都市圏タラガンテ県のコミューン、エル・モンテにある「サンフランシスコ介護施設」というカトリック系の中規模の老人ホームです。まずアイディア誕生、監督とA&Aの接点、介護施設との折衝などの謎解きから入りましょう。

 

A 本作はTIFFワールド・フォーカス部門共催作品ですが、来日できない海外の監督とのオンライン・インタビュー「トーク・サロン」が上映後にもたれました。それによると「最初は探偵事務所をめぐるフィルムノワールを撮りたいと、あちこちの探偵事務所に掛け合ったがどこにも断られた。最後に辿りついたのがA&Aだった」と。折よく施設の入居者の娘から「母親がきちんと介護を受けているかどうか調査して欲しい」という依頼がきていた。当てにしていた人物が腰骨を折ったとかで身動きできない。

B: それで例の新聞広告を出すことになった。

 

A 監督はもともと介護施設に関心があって、これは渡りに船ではないかと思った。つまり採用されたチャーミングなセルヒオの魅力に参ってテーマを変更したわけです。

B: セルヒオがトレーニングを受けてるシーンに監督の姿がチラリと映っていました。パブロ・バルデスが指揮を執る撮影班は、セルヒオが入居してくるシーンから撮っていたが。

 

A ホーム側とは前もって伝統的な手法でドキュメンタリーを撮るという許可を受けていたが、真相は伏せていた。つまりオーナーを騙していたわけです。撮影のガイドラインを決め、ホームのルールに従った。撮影班は今か今かとセルヒオの登場を待っていたのでした。冷や冷やしながら見ていたが、最後までバレなかったというから可笑しい。

B: 変化の少ないホームでは、新入居者は格好の被写体だったから、カメラがセルヒオを追いかけても怪しまれない。それに83歳の新入居者がスパイとして潜入してくると誰が想像しますか。 

 

       入居者に必要なのは人間としての尊厳、最大の敵は孤独

 

A このドキュメンタリーを見たら老人に対する考え方が変わるかもしれない。観客はセルヒオのお蔭で先入観をもって他人を判断してはいけないことに気づくでしょう。常にチャーミングで寛大、人生に前向き、苦しいときでも笑いは必要というのが本作のメッセージです。

B: バルデスも完成した「映画を見たら泣けたが、撮影中は笑うことのほうが多かった」と。前半と後半ではテーマも微妙に変化していきました。

 

A 報告書の合言葉は <小包>、依頼人の母親ソニア・ぺレス <標的> とか、QTHやらQSLやらのスパイ暗号で四苦八苦するセルヒオにやきもきするロムロだが、後半になると逆に老人の知恵に押され気味になっていくのが痛快だった。

B: ロムロ・エイトケンはインターポール・チリ支部の責任者ですね。人生を重ねていけば誰でもセルヒオのようになれるわけではない。他人に優しくできるには自分に余裕がないとできない。

        

     

     (セルヒオにスパイのイロハを伝授するA&A所長ロムロ・エイトケン)

  

A 4ヵ月前に亡くなったという奥さんは、さぞかし幸せな人生を送っただったろうと思った。違法なスパイ行為をしようとする父親の身を案ずる娘のダラル、幾つになっても人間には生きがいが必要、頭は疲れるが自由になったような気がする、心配するなと説得する父親、このシーンを入れたのもよかった。

B: 反対に <標的> ソニア・ぺレスの娘、クライアントの姿は一度も出さなかった。この判断もよかった。依頼者とは守秘義務の契約を結んでいたと思いますが、結構な金額だったのではないですか。

   

A 母親に会いにくればどんな介護を受けているか、ある程度分かること、わざわざ探偵事務所に調査を依頼することはない。娘も病いを得ているのかもしれないが、信頼しあっていた母と娘とは少なくとも思えなかった。

B: 母親の移動は車椅子、単独歩行が無理で自由に出歩けない。気難しく、他人を寄せ付けないどころか、体が触れるのさえ嫌がる。怒りを溜めこんでいるのか、観客は遂に彼女の笑顔を見ることはなかった。

A: セルヒオがなかなか <標的> を見つけられなかったのも、<小包> がロムロに届かなかったのも、理由はソニア側にあった。進行と共にテーマが変化していくのは自然の成り行きでしょう。お蔭で私たちは人生勉強がたくさんできたわけです。老人スパイがどんな報告書を書くかは進行とともに想像できましたね。 

 

     辛い人生を受け入れることの難しさ、人生を愉しむテクニック

 

B: 本作は入居者の一人、セルヒオに愛を告白する85歳のセニョリータ・ベルタと、4人の子供を育て、自作の詩を諳んじるペティータ、それにメノ・ブーレマ3人に捧げられている。

A ブーレマはアムステルダム出身の映画編集者、監督が2016年に発表した長編ドキュメンタリー第3作めThe Grown-Ups、スペイン題Los niñosを手掛けている。本作撮影中の20196月に61歳の若さで亡くなった。

 

B: 一生懸命育てた4人の子供たちからは忘れられ、「人生とは残酷なもの」と呟くペティータも、セルヒオがいる間に神に召されてしまった。お別れの日に読み上げられた彼女の詩は、本作の大きな見せ場でした。

A: 韻を踏んでいるようですが、字幕は英語なので分かりません。「母親が生きているなら、神の愛に感謝しなさい」と始まる詩でした。ペティータが「恩知らず」と嘆いていた4人の子供たちは参列していたのでしょうか。これもターゲットと無関係なエピソードですが、105日の開所記念日のユーモア溢れるシーンなど、名場面の数々は皮肉にも標的とは無関係なのでした。

 

     

              (セルヒオとペティータ) 

 

B: 彼らの青春時代に流行したザ・プラターズの「オンリー・ユー」のメロディーにのってダンスをする入居者たちも忘れられない。

A: 今年のキングに選ばれたセルヒオのパートナーを、施設長がさりげないしぐさで次々と変えていく。皆でお祝いすることが重要、独り占めは御法度です。ターゲットも参加していたのだろうか。 

 

B: 最初のパートナー、セルヒオに恋を告白したセニョリータ・ベルタは、入所して25年ということですから、入居は60歳からになる。ホームでは広場を見渡せる日当たりのいい5つ星の部屋にいてお洒落さん、人生に前向きでソニアとは対照的な女性。セルヒオにお付き合いを断られても直ぐに立ち直る。

A: 心の内は分からないが孤独ともうまく折り合っている。信仰心が支えになって今の人生を受け入れている。女性の入居者は約40人ほどだが目立つ存在でした。

 

      

                (ベルタとセルヒオ)

 

B: 認知症がグレーゾーンのルビラ、今は白髪だが若い頃はさぞかし美しかったろう。3人いる子供たちは1年以上会いに来ていない。だから次第に娘の顔もあやふやになってくる。孤独が入居者たちの最大の敵なのです。

 

          

         (記憶を失う恐怖に怯えるルビラを支えるセルヒオ)

 

A: マルタは小さい女の子に戻ってしまい母親が迎えに来てくれる日を待っている。不安定になると偽の電話を掛けてやり落ち着かせる。手癖が悪く皆の持ち物を盗んでいるが、直ぐそれも忘れてしまう。

B: マルタの傍にいるソイラは、夫に辛く扱われていたらしくセルヒオの優しさに救われている。男性の友達は今まで一人もいなかったと。

 

       

             (ソイラ、セルヒオ、マルタ)

 

A: セルヒオの退所の日の3人の会話に胸が熱くなった。どんな状況に置かれても愛は絶大です。エンディング曲はホセ・ルイス・ペラレスのオリジナル曲「Te quiero」(アイ・ラブ・ユー)をチリのシンガー・ソングライター、マヌエル・ガルシアがカヴァーしている。セルヒオのラスト・リポートは言わずもがなでしょう。ゴヤ賞2021イベロアメリカ映画賞部門のチリ代表作品に選ばれました


*追加情報『83歳のやさしいスパイ』の邦題で2021年7月9日公開決定。

                 

チリから届いた心温まるスパイ映画 『老人スパイ』*ラテンビート2020 ⑤2020年10月22日 11:55

         ジェームズ・ボンドのようにタフではありませんが・・・

   

    

 

マイテ・アルベルディの長編第4作目『老人スパイ』(「El agente topo」)のご紹介。ある老人ホームに送り込まれた俄か探偵セルヒオの御年は83歳、仕事は入居者たちが適切に介護されているかどうかスパイするのが目的、ドキュメンタリーといってもドラマ性が強い。ジャンル的にはドキュメンタリーとドラマがミックスされたいわゆるドクドラのようです。まだ新型コロナが対岸の火事だった頃のサンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門でプレミアされたが、もともとは2017年サンセバスチャン映画祭SSIFFヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム作品。というわけで今年のSSIFFペルラス(パール)部門にノミネートされ観客賞を受賞しました。監督紹介はLa Onceでアップしています。

La Once」の作品紹介は、コチラ20160125

   

        

       (観客賞の証書を手にしたマイテ・アルベルディ、SSIFF2020授賞式、926日)

 

 

 『老人スパイ』(「El agente topo」、「The Mole Agent」)東京国際映画祭共催作品

製作:Micromundo Producciones(チリ)/ Motto Pictures(米)/ Sutor Kolonko / Volya Films

         / Malvalanda

監督・脚本:マイテ・アルベルディ

撮影:パブロ・バルデス(チリ)

音楽:ヴィンセント・フォン・ヴァーメルダム(オランダ)

編集:カロリナ・シラキアン?(SiraqyanSyraquian、チリ)

製作者:マルセラ・サンティバネス、(エグゼクティブ)ジュリー・ゴールドマン、クリストファー・クレメンツ、キャロリン・ヘップバーン、クリス・ホワイト、他共同製作者多数

 

データ:製作国チリ=米国=ドイツ=オランダ=スペイン、スペイン語、2020年、ドキュメンタリー、90分、公開オランダ1210日、カナダはインターネット上映。

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020125日)、ヨーロッパ・フィルム・マーケット(独)、カルロヴィ・ヴァリ、マイアミ、サンセバスティアン(ペルラス部門観客賞)、チューリッヒ、ワルシャワ、など各映画祭で上映された。SSIFF 2017ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラムのEFAD-CAACI賞受賞。

 

出演者:セルヒオ・チャミー(スパイ)、ロムロ(A&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、他

 

ストーリー:A&Aエイトケン探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だった所長ロムロは、ホームに潜入してスパイする80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは知らずに応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれて元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡の扱い方、しかし二人を悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォン。その要点の理解に時間がかかるが、ミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせない。老人はジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、どんな報告書を書くのだろうか。一方、撮影スタッフは表面上はホームの伝統的なドキュメンタリーを撮るという名目でセルヒオの後を追うことになる。

 

        

          (ロムロ所長からスパイの特訓を受けるセルヒオ・チャミー)

  

 

   フィクションとノンフィクションの垣根はありません、あるのは映画だけ

 

★ジャンルは一応ドキュメンタリーに区分けされていますが、マイテ・アルベルディによれば「あるのは映画だけ」ということです。上記のように第2La Once14)でキャリア紹介をしておりますが、以後の活躍も追加して紹介すると、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、作家。チリのカトリック大学で社会情報学を専攻、オーディオビジュアルと美学を学ぶ。現在複数の大学で教鞭をとっている。共著だが Teorias del cine documental en Chile 1957-1973 という著書がある。長編ドキュメンタリー第1作「El salvavidasは、チリのバルディビアFF観客賞賞、グアダラハラFF審査員特別賞、バルセロナ・ドキュメンタリーFF新人賞他を受賞している。主な作品は以下の通りです。

 

2007年「Las peluqueras」(短編ドラマ)監督、脚本

2011年「El salvavidas」(長編ドキュメンタリー、デビュー作)監督、脚本

2014年「La Once」(長編ドキュメンタリー、第2作)監督、脚本

2014年「Propaganda」(長編ドキュメンタリー)脚本

2016年「Yo no soy de aquí」(短編ドキュメンタリー)

2016年「The Grown-Ups」(チリ「Los niños」長編ドキュメンタリー、第3作)監督、脚本

2020年「El agente topo」(長編ドキュメンタリー)本作

 

★長編第3The Grown-Upsは、アムステルダム映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをした。子供時代を一緒に過ごし仲間、今は中年になったダウン症のグループの愛と友情が語られる。興味本位でない彼らの可能性を探るドキュメンタリー。グラマド映画祭特別審査員賞、マイアミ映画祭Zeno Mountain賞、オスロ・フィルム・サウスフェスティバルDOC:サウス賞など受賞歴多数。

 

    

 

     

          (The Grown-Ups」のスペイン語版ポスター

 

★セルヒオが選ばれたのは好奇心は強いがおよそスパイには見えないその無邪気さだったか。先ずはクライアントの母親ソニア・ぺレスを探しあて親しくならねばならない。このカトリック系のホームは入居者の940名ほどが女性だから結構大変です。セルヒオのように誠実で魅力的な男性は歓迎され、彼に恋する女性も現れる。一方ロムロはセルヒオの娘の心配も和らげなくてはならない、なにしろ父親はスパイなんだから。そしてセルヒオを追いかけてカメラを回したのが、パブロ・バルデス撮影監督、「La Once」と「The Grown-Ups」を手掛けている。完成して公けになれば潜入がバレてしまうわけだから、介護施設とはどういう取り決めをしていたのだろうか。

    

                   

                (学習に専念するセルヒオ)

 

      

         (情報入手に入居者と親しくなるのもスパイの仕事です)

 

★セルヒオは目指す女性を突き止めるが、果たしてミッションは成功したのでしょうか。老人の孤独、やがて訪れるだろう死、セルヒオから送られてくる報告書はアルベルディ監督を内省的な方向に導いていく。現実に即しているとはいえドキュメンタリーというジャンルでは括れない。

 

★スタッフに女性シネアストが目立つが、エグゼクティブ・プロデューサーの一人ジュリー・ゴールドマンは、ニューヨーク出身のドキュメンタリーやTVシリーズを手掛けているプロデューサー兼エグゼクティブ・プロデューサー。2009Motto Pictures を設立、オスカー賞ノミネート2回ほかエミー賞を受賞するなど受賞歴多数のベテラン、手掛けたドキュメンタリーもサンダンスFFで複数回受賞している。もう一人のエグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ヘップバーンとの共同作品が多い。

 

         

      (エグゼクティブ・プロデューサーのジュリー・ゴールドマン)

 

★成功の秘密の一つが製作者マルセラ・サンティバネスとの息の合った進行が挙げられる。監督とは初めてタッグを組んだのだが、マルセラは「マイテとはまるでパートナーになったようだった」とインタビューに応えている。またスマートフォンの特訓が大変だったとも。チリのカトリック大学視聴覚ディレクターのコミュニケーションを専攻(200310)。20129月から2年間UCLAの修士課程で映画製作を学んだ。ということで母国語の他英語が堪能。サンダンスFFにも監督と参加した。ラテンビート関連ではアンドレ・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)のアシスタント・プロデューサーを務めている。制作会社 Micromundo Producciones 所属。

 

     

     (監督と製作者マルセラ・サンティバネス、サンダンス映画祭2020

  

パブロ・ララインの新作はダイアナ・スペンサーのビオピック2020年07月12日 12:31

        短編コレクションHOMEMADEホームメード』をプロデュース       

 

        

    

★新型コロナウイルスの拡大でサンチャゴの自宅に監禁状態だったパブロ・ラライン1976)の辞書に休暇という単語はありません。43歳になる彼はサンティアゴに監禁中も、弟のフアン・デ・ディオスと設立した制作会社「ファブラFábula」製作の17人の監督からなる短編コレクションHOMEMADEホームメード』をプロデュースしておりました。彼自身も初めてというコメディ「ラスト・コール」に挑戦、ベテランのメルセデス・モランとハイメ・バデルを起用しました。監督1人当たり45分から11分ぐらいで、自宅にある撮影機材や携帯電話を利用してソーシャルディスタンスを守っての撮影です。つまり全作が2020年前半コロナの時代に撮影されました。収益はコロナ禍への支援に充てられる。コロナが否応なく世界を変えつつあることを感じさせます。Netflix 630日から配信が始まっています。

 

      

    (メルセデス・モランとハイメ・バデル、ララインの「ラスト・コール」から)

 

★企画はザ・アパートメントCEOロレンツォ・ミエリとパブロ・ララインの呼びかけで始まった。企画に賛同して出品したシネアストの面々は、『レ・ミゼラブル』に登場した少年が飛ばしたドローンでロックダウンの街を撮影したラジ・リ(仏)、世界で最も孤独な二人の老人、ローマ教皇とイギリス女王の恋の行方を人形劇で描いたパオロ・ソレンティーノ(ローマ)、デヴィッド・マッケンジー(グラスゴー)、レイチェル・モリソン(ロサンゼルス)、『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキーハーレド・ムザンナル(ベイルート)、『カセット・テープ・ダイアリーズ』のグリンダ・チャーダ(ロンドン)、『ヴィクトリア』のゼバスチャン・シッパー(ベルリン)、ジョニー・マー(メキシコ)、アナ・リリ・アミールポアー(ロサンゼルス)、ルンガーノ・ニョニ(リスボン)、『ダークナイト』の女優マギー・ギレンホール(バーモント)、ヴァンパイアー・サガ『トワイライト』主演のクリステン・スチュワート(ロサンゼルス)、『ナチュラルウーマン』のセバスティアン・レリオ(サンティアゴ)、日本からは河瀨直美(奈良)などがが参加している。監督18人による17作品、なお()内は撮影地。

 

      

      (ローマ教皇と英国女王、笑い続けたソレンティーノの人形劇から)

 

 

       プリンセス・オブ・ダイアナが離婚を決意したクリスマス休暇の3日間

 

★さて本題、パブロ・ララインが短編コレクションと同時に準備していたのが長編Spencerである。旧姓ダイアナ・スペンサー、プリンセス・オブ・ウェールズのビオピックですが、ラライン映画ではダイアナの死は語られないダイアナ妃があるクリスマス休暇をノーフォークのサンドリンガム邸で王室の人々と過ごした3日間に限られる。「この人たちとはこれ以上一緒に暮らすことはできないと気づいた」3日間、これがチャールズ皇太子との最後のクリスマスとなる。別居が公式に発表されるのは1992129日だからその前年あたりと思われる。もっとも二人の関係悪化は1984年の次男ヘンリー誕生あたりと言われており、離婚までの道のりは長かった。離婚の正式発表は1996年2月29日。

 

★誰がダイアナ妃に扮するのか、オリバー・ヒルシュビーゲルの『ダイアナ』のナオミ・ワッツでも、ドラマシリーズ『ザ・クラウン』のエマ・コリンでもなかった。上記のHOMEMADEホームメード』で監督デビューも果たしたクリステン・スチュワート(ロス1990)を予想した人はいなかったでしょう。イギリスのダイアナ・ファンは、「なんでチリの監督でハリウッド女優なの!」と、いたくオカンムリなのですが、ゴシップの絶えないクリステン起用は大方にとって驚きだったでしょう。くっついたり離れたりしていたステラ・マックスとは完全に切れたらしく、去年の秋頃から新恋人として脚本家のディラン・マイヤーとのツーショットが目立つようになっている。上記の短編コレクションの脚本にも彼女は参加していて、ボイス出演までもしているのです。どうやら今度は本気らしい。

 

     

                  (二人のダイアナ) 

 

★美貌だけが売りの女優でないことは、『WASPネットワーク』でオリヴィエ・アサイヤス監督のキャリア紹介をしたおりに、クリステンが『アクトレス 女たちの舞台』14)で好演、翌年のセザール賞を受賞したことを記事にしたばかりです。アサイヤスとはサイコスリラー『パーソナル・ショッパー』にも出演しています。ヴァンパイアー・サガ『トワイライト』の成功で名声と莫大な資産を両手にしました。評判はイマイチだった『スノーホワイト』、ウディ・アレンの『カフェ・ソサエティ』、昨年は『チャーリーズ・エンジェル』(リメイク版)にも声が掛かった。

 

★周囲を驚かせたクリステン起用についてラライン監督は、「成功させるには映画の核に、とても重要な何かが必要なのです、それは神秘的な何かです。クリステンにはそれがある。私たちが求めていたのは、とても謎めいていて壊れやすいが強さも兼ね備えた女優でした。それらの要素を持ち合わせている女優として私たちはクリステンを思い起こしました。彼女が台本にどのように反応したか、どのように登場人物に近づいて行ったかが重要なのです。彼女なら不信と不穏な何かを同時にやり遂げるだろうと思います。自然に湧き出る強さです」と期待をにじませる。

 

★ララインにとって、クリステンは現時点での「最高の演技者の一人」なのでしょう。過去には、ナタリー・ポートマンにジャッキー・ケネディを演じさせベネチア映画祭に持って行くことができた。果たしてクリステンをダイアナ・スペンサーに化けさせられるか、その力量が試される。おとぎ話を読んで、やがて訪れてくるだろう王子さまを夢見ていた女性たち、歴史的な女性神話に興味をもつ多くの観客の心を掴むことができるでしょうか。

 

     

   (ナタリー・ポートマンと監督、第73回ベネチア映画祭2016のフォトコールから)

 

★スティーヴン・キング自らが自作 Liseys Story を脚色したTVシリーズ『リーシーの物語』(8話、米国・チリ合作、翻訳あり)をニューヨークで撮影中、終了次第ヨーロッパに渡って、来年早々にクランクインの予定だそうです。IMDb情報では、脚本を『イースタン・プロミス』を手掛けたスティーヴン・ナイトが執筆、製作者はラライン・ブラザーズの他、『つぐない』でアカデミー賞作品賞ノミネートのポール・ウェブスターなどがクレジットされているだけです。キャストはクリステン・スチュワート以外未発表、コロナの影響をうける可能性もゼロではないからカンヌに間に合うかどうか。監督自身も「撮影前に作品の説明はできません。なぜなら映画製作は思わぬリスクと背中合わせだからです。私の最大の喜びは映画を撮ること、アイデアが明確になり作品として完成されていく過程です。もし言ってよければ、こうして仕事を続けられるのは特権であり喜びです」と。

 

       

        (弟フアン・デ・ディオスと監督、ラライン・ブラザーズ)


トライベッカ映画祭でニュー・ナラティブ監督賞にチリの新人2020年05月11日 15:13

       ガスパル・アンティーリョのデビュー作「Nadie sabe que estoy aquí

 

         

★新型コロナウイリスCovid-19が全世界を席捲していることで、主要な映画祭は軒並み延期か中止に追い込まれています。トライベッカ映画祭は、911後のニューヨークを元気づけようと翌2002年に始まりました。第19回トライベッカ映画祭2020のオンライン上映の経緯は、前回触れましたように初めての試みとして観客なしだが賞ありで開催されました。全作が上映されたわけではないがネットやYouTubeで見ることができたようです。当然のことながらガラは開催されず、429日受賞結果が発表になった。審査員と受賞者はオンラインを通じてやりとりした。

   

★本映画祭は、US ナラティブ・コンペティションとインターナショナル・ナラティブ・コンペティションの2部門に大きく分かれています。チリのガスパル・アンティーリョのデビュー作Nadie sabe que estoy aquíが、後者のニュー・ナラティブ監督賞を受賞しました。チリのクール世代を代表するパブロ・ララインフアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が設立した制作会社「ファブラ Fabula」がプロデュースしました。主人公メモ・ガリードにチリ出身だがアメリカで活躍するホルヘ・ガルシアが起用されました。ちょっとウルウルする物語です。

 

Nadie sabe que estoy aquí(映画祭タイトル「Nobody Knows I'm Here」)2020

製作:Fabula 協賛NetflixUSA

監督:ガスパル・アンティーリョ

脚本:エンリケ・ビデラ、ホセフィナ・フェルナンデス、ガスパル・アンティーリョ

撮影:セルヒオ・アームストロング

編集:ソレダード・サルファテ

音楽:カルロス・カベサス

美術:エステファニア・ラライン

キャスティング:エドゥアルド・パシェコ

衣装デザイン:フェリペ・クリアド

助監督:イグナシオ・イラバカ、フアン・フランシスコ・ロサス

プロダクション・マネージメント:エンリケ・レルマン

製作者:アンドレア・ウンドゥラガ(エグゼクティブ)、フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、エドゥアルド・カストロ、クリスティアン・エチェベリア

 

データ:製作国チリ、スペイン語、2020年、ドラマ、100分、撮影地チリのバル・パライソ、フエルト・オクタイ、サンティアゴ、2018年クランクイン。

映画祭・受賞歴:第19回トライベッカ映画祭2020「インターナショナル・ナラティブ・コンペティション」部門、ワールドプレミア、ニュー・ナラティブ監督賞受賞

 

キャスト:ホルヘ・ガルシア(メモ・ガリード)、ルイス・ニエッコ(叔父)、ミリャライ・ロボス(マルタ)、ソランヘ・ラキントン、アレハンドロ・ゴイク、ネルソン・ブロト、フリオ・フエンテす、マリア・パス・グランドジェーン、ガストン・パウルズ、エドゥアルド・パシェコ、ロベルト・バンデル

   

ストーリー:メモは15年間のあいだ、チリ南部の人里離れた牧羊舎に閉じ込められている。ポップスターになるというかつての夢を諦め、大衆の目から遠ざかっていた。マルタはメモの歌声を聴いて、彼の才能が世間に知られる時が来たと思っている。彼女が彼の歌声を記録しビデオを投稿すると、口コミで広がっていき、それはメモを世界から切り離していた遠い過去の暗部を炙り出すことになる。なぜならメモの声が伝説上の花形歌手であったウイル・ウイリーズの声とそっくりだったからである。                             (文責:管理人)

    

         

           (メモ・ガリードに扮したホルヘ・ガルシア) 

      

     

       「姿は人生を決定づけ、人々の認識をゆがめて混乱させる」と監督

 

ガスパル・アンティーリョGaspar Antilloのキャリアについては、2015年に監督、脚本、プロデュースした短編Mala CaraBad Face8分)がマイアミ・ショート映画祭に出品されたこと以外、詳細が入手できていません。トライベッカ映画祭の監督インタビューでは「この映画はチリ南部に隠され忘れ去られた人物の肖像画です。若い女性の到着が彼の壊れやすい人生をどのように変えるかを描いています。今日の世界では、姿は人生を決定づけ、人々の認識をゆがめて混乱させます」と語っています。またNetflixにリリースされるにあたって、「映画のコンセプトは、疎外されたキャラクターの内面世界を探検するというアイデアから生まれた。偏見をもたずに彼の明るい部分だけでなく暗い部分も描いている」と語っている。

 

          

   

                (マイアミ・ショート映画祭でのガスパル・アンティーリョ)

 

★少年メモは、美しい声の持ち主だったが太っちょでかっこいいとは言えななかった。ハンサムな少年の影武者として舞台裏で歌っていた。そのことは少年の心に深い傷跡を残すことになったというのがメモの暗い過去であった。成人したメモはチリ南部の人里離れた牧羊舎で叔父と一緒に暮らしている。人目を避けながらも豊かな内面世界を育んでいた。この太っちょのメモ・ガリードに扮したのがホルヘ・ガルシアだった。 

                (叔父役のルイス・ニエッコとメモ役のホルヘ・ガルシア)

 

   (マルタ役のミリャライ・ロボスとメモ

 

ホルヘ・ガルシア Jorge Garcia1973年ネブラスカ州オマハ生れの俳優、コメディアン。父親がチリ出身の医師、母親がキューバ出身の大学教師ということで、アメリカ人だがスペイン語が堪能。1995UCLAでコミュニケーション学を専攻、演技はビバリー・ヒルズ・プレイハウスで学んだ。彼のキャリア情報は監督とは反対に豊富である。というのもアメリカABC製作のTVシリーズ、ミステリー・アドベンチャーLost200410「ロスト」)のヒューゴハーリーレイェス役でブレークしたからです。

 

     

        (ヒューゴ・レイェス役のホルヘ・ガルシア、Lostから)

 

★スペイン語映画出演は、2011年のパコ・アランゴのコメディMaktubに特別出演した。アランゴ監督はメキシコ生れ(1962年)だがスペインに移住、スペインで映画を撮っている。本作でゴヤ賞2012の新人監督賞にノミネートされている。出演者のゴヤ・トレドも助演女優賞にノミネートされている。続く2作目が同監督のThe Healer17)では神父に扮した。「Nadie sabe que estoy aquí」が3作目になる。クランクイン前に「このプロジェクトに参加できることを喜んでいます。私は何十年もチリに行っていないので、あちらの親戚との再会を楽しみにしています」と語っていましたが、果たして再会できたのでしょうか。

 

      

 (J・ガルシア、アンドニ・エルナンデス、ゴヤ・トレド、ディエゴ・ペレッティ「Maktub」)

 

ルイス・ニエッコ Luis Gnecco(サンティアゴ1662)は、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』16)でネルーダに扮している。他にグスタボ・G・マリノ『ひとりぼっちのジョニー』1993)、フェルナンド・トゥルエバ『泥棒と踊り子』09)、ララインNoなどでチリの俳優としては知名度があるほうかもしれない。

 

          

     (ネルーダになったルイス・ニエッコ、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』から)

 

いずれNetflixで世界配信されるということなので(アジアが除外されないことを切に願っています)視聴できたら再アップするつもりです。

 

アンドレス・ウッドの新作 『蜘蛛』 鑑賞記*ラテンビート2019 ⑭2019年12月01日 17:49

     1972年はそんなに遠い昔ではありません」とアンドレス・ウッド監督

   

       

 

★サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「ホライズンズ・ラティノ部門」で作品・監督・キャスト紹介はアップ済みですが、今回ラテンビートで実際に『蜘蛛』(原題Arañaチリ・アルゼンチン・ブラジル、105分)を観て、「1972年はそんなに遠い昔ではありません」とアンドレス・ウッド監督が語っていたことが納得できました。また主役のイネス役にチリ人ではなく、スペインのマリア・バルベルデと、アルゼンチンのメルセデス・モランを起用したには何か訳があるのかと考えさせられました。監督はスペイン公開(1122日)に合わせて来西、エル・パイス紙以下多くのメディアからインタビューを受けていました。スペイン人は40年という長きにわたって独裁政権を体験しているので、興味深いテーマだったようです。この年月はピノチェト独裁の倍になりますから、観客の受け止め方も世代によって違いがあるようでした。    (管理人1016日鑑賞)

Araña」の紹介記事は、コチラ20190816

 

主なキャスト:イネス(マリア・バルベルデ&メルセデス・モラン)、フスト(ガブリエル・ウルスア&フェリペ・アルマス)、ヘラルド(ペドロ・フォンテーヌ&マルセロ・アロンソ)

 

ストーリー1970年代初頭のチリ、イネス、夫フスト、友人ヘラルドの3人は、197111月成立したサルバドル・アジェンデ政権の打倒を旗印にした国粋主義的な極右グループ「祖国と自由」のメンバーだった。イネスをめぐる危険な三角関係のもつれや裏切りにより3人は袂を分かつことになる。40年後、ねじけた社会正義のため復讐に燃えるヘラルドが起こしたセンセーショナルな事件により、安穏を満喫していたイネスとフストは、社会的名声と豊かさを脅かされることになる。ブルジョア階級のエリート子息たちが、自分たちの特権を守るために陰で画策した闇が語られる。(105分)

 

         「私の国チリは、今でも過去の亡霊が彷徨っている国です」

 

A: 東京会場第2週目の最初に観た作品、長尺ではありませんでしたが体力が要求される映画でした。南米の「優等生」と言われるチリでは、106日に発表された30ペソ(約4.5円)の地下鉄運賃値上げをきっかけにした反政府デモで混乱していました。しかし値上げはきっかけでしかなく、国内の所得格差、高い失業率、年金・教育などに関する政策に関する国民の異議申し立てでした。

B: デモ隊を抑え込もうとして、軍部隊を出動させ、夕方から早朝までの外出禁止令を出したことが、国民にピノチェト時代を思い起こさせたようですね。混乱の鎮静化を図ったことが反対に国民の怒りを買ってしまった。

 

A: 結果、サンティアゴで開催されるはずだった「APEC」の首脳会談と地球温暖化対策会議「COP25」を、ピニェラ大統領は断念せざるを得ませんでした。監督が本作製作の意図を「私たちは民主主義を失うことへの恐怖をもち続けています」と述べているのと相通じるものがあります。

B: 70年代当時、監督も含めて若者だった世代は納得できないことでも声をあげることをしなかった。しかし今の若者は、「連帯して抗議の意思表示として払わない」と決めてデモを始めた。

 

A: 公開に先立って来西した折り、「私たちの頭の中は、目の前にニンジンをぶら下げられて走る馬のようでしたが、突然のごとく蜂起して政府を当惑させた」と、チリ国民が起した反政府デモについて語っていた。

B: ウッドの新作『蜘蛛』は、チリの政治システムの不名誉となった過去の泥まみれの恥を説明するのに役に立ちそうです。

 

        

      (自作を語るアンドレス・ウッド監督、20191120日マドリードにて)

 

A: イネスたちが所属していた極右グループ<祖国と自由>は、ピノチェト将軍の軍事クーデタが成功した2日後の913日にあっさり解散した。何故かというと軍事クーデタのお蔭でブルジョア階級がアジェンデ政権成立前に持っていた有利な権益を回復することができたからです。

B: 彼らはどんな犠牲を払ってでもエリート階級の特権を回復させたかった。安物パイのエンパナーダと赤ワインではなく、高級ウィスキーとキャビアのある生活が必要だった。

A: 彼らのテロリズムや破壊活動が、<ウィスキーとキャビア革命>と言われる所以です。

 

B: この<祖国と自由>の起源は、リーダーのパブロ・ロドリゲス・グレス1970910日に結成、翌年41日に、社会主義政策を掲げるサルバドル・アジェンデ現政権打倒のためテロリズムと破壊活動を選択したファシストのグループです。

A: 資金は南米の赤化を食い止めたい米CIAからもらっていた。映画の登場人物のモデルは同定できるメンバーもいるようですがフィクションです。クーデタ成功後はピノチェト政権内で活動、民主化後も勿論親玉が裁かれなかったのだから罪は帳消し、今日でも現役で活躍している人もいる。

 

          

             (形が蜘蛛に似ている祖国と自由のマーク)

 

B: グループのリーダー的な女性として登場させたイネスのモデルになった人もいますが、お化粧がほどこされているのは当然です。

A: イネスを演じたマリア・バルベルデ(マドリード1987)のキャリアは、作品紹介記事に戻っていただくとして、映画デビューは200315歳でしたから結構長い芸歴です。イネスは1970年当時22歳ぐらいに設定されており大分若返りしたことになります。夫フストはかなり年上の28歳、ヘラルドが23歳ということでした。

 

         

      (イネスとフスト役のガブリエル・ウルスア、背後に祖国と自由のポスター)

 

B: サンセバスチャン映画祭にはウッド監督の姿は見かけませんでしたが、映画祭開催前にチリでは公開されており、普通このようなケースは賞に絡まない。

A: 赤絨毯を踏んだのはベルベルデと20172月に結婚したばかりのベネズエラの指揮者グスタボ・ドゥダメルでした。彼は再婚、2015年に<和解できない意見の相違>で離婚したばかりでした。彼については、その天才ぶりがつとに有名、紹介不要でしょうか。

 

B: 彼女にとってイネスのような役柄は難しかったのではないですか。

A: 同じスペイン語でもチリ弁独特の訛りがあり、「よく聞き取れないから字幕を入れて」と冗談が言われる。先ず「役作りよりチリのアクセントを学んだ。役作りでもっとも難しかったのは複雑なイネスの人格で、イネスを理解するために自分自身を捨て、イネスを裁かないようにした」と語っていました。

  

       

    (アツアツぶりを披露したバルベルデとドゥダメルのカップル、SSIFF 2019にて)

 

B: 名声とお金をほしいままにしている40年後のイネスを演じたメルセデス・モラン(サン・ルイス1955)は、昨年のLBFF、アナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』でお馴染みになっている。

A: 冒頭から権勢をほしいままに振る舞う女性実業家を演じて貫禄をしめしていた。40年前に消えたはずのヘラルドが突然現れ、現在の地位を脅かすようになる。孫はともかく息子とは上手くいっていない。過去の秘密を共有する夫は、今や役立たずになっている。

B: むしろ重荷になっている。しかし築いた裏の人脈がものを言う。

 

         

         (ヘラルド出現に動揺するイネス役のメルセデス・モラン)

 

A: チリはピノチェトの後、21世紀に入ってからは中道左派のラゴス大統領の後を受けて当選したバチェレが2006年から10年まで、中道右派のピニェラが2010年から14年まで、第2期バチェレが2014年から18年まで、再び第2期ピニェラという具合に左派と右派が交代で政権を執っている。

B: 40年後というのは中道右派である第1期のピニェラ政権時代に相当します。

 

A: そういう時代背景を知って本作を観ると、イネスの画策が成功するのも分かりやすくなる。200612月に死去したピノチェトの葬式を、その年の3月に就任したばかりのバチェレ大統領は国葬にすることを断固拒否したが、陸軍による葬式は認めざるを得なかった。

B: 葬式には極右グループ<祖国と自由>の元メンバーも参列したということでした。チリとはそういう国です。

 

A: 上述したラゴス大統領は、198712月にピノチェトの軍政継続を問う国民投票を実施した立役者の一人です。いわゆる「イエス」か「ノー」選挙です。

B: それをテーマにしてパブロ・ララインが製作したのがNO12)でした。ガエル・ガルシア・ベルナルが出演したこともあって、ラテンビート上映後公開もされた。

A: 『NO』はララインの「ピノチェト政権三部作」の最終編でした。彼の父親はチリでは有名な保守派の大物政治家、母親は第1期ピニェラ政権の閣僚を務めている。つまりラライン一族はチリ富裕層に属している。

 

B: 40年後のヘラルドを演じたマルセロ・アロンソはチリの俳優、彼は3人の中で唯一エリート階級に属していない登場人物でした。自分たちの手はなるたけ汚さずにすませたいブルジョアの子息たちに利用される役目。

A: 『トニー・マネロ』や『ザ・クラブ』、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などラライン映画の常連です。狂気の目が印象的でしたが、実際にこういう立ち位置のメンバーがいたのかどうか。

 

      

    (40年間持続しつづけていた復讐と狂気の人、ヘラルド役のマルセロ・アロンソ)

 

B: チリ映画の躍進は目覚ましいものがありますが、才能流失は今も昔も続いている。経済格差にも拘わらず不寛容な社会が続いている。

A: アンドレス・ウッドの久々の長編映画ですが、本作を手掛ける前の数年間はプロデューサーとしてTVドラマシリーズMary y Mike18、メアリとマイク)を製作していた。ピノチェト時代に組織されたDINA(チリの国家情報局)のエリート諜報員マリアナ・カジェハスと元CIAスパイの米国人マイケル・タウンリーという実在した夫婦の物語でした。

 

      

                (「Mary y Mike」のポスター)

 

B: 反ピノチェト派の殺害を子供も暮らしていた自宅の隠し部屋で遂行したという大胆不敵なカップルだった。ウッド監督は『マチュカ―僕らの革命―』04)だけでなく軍事政権時代に拘っている監督。

A: このTVドラマも『蜘蛛』同様、独裁政権側の視点から描いている。ベルリン映画祭2018「ドラマ・シリーズ・デイ」で上映された。チリのTVドラマがベルリンで紹介される第1号でした。

Mary y Mike」の紹介記事は、コチラ20180304

 

     

                   (『マチュカ―僕らと革命―』 のポスター)

 

B: チリで起こっていることは多くの要因が重なっている。過去の影が今日でも浮遊していることがチリを分かりにくくさせている。チリの独裁政権を糾弾し続けているパトリシア・グスマン『光のノスタルジア』10『真珠のボタン』15)も忘れるわけにいきません。

 

A: 才能流失組の大物、老いを感じさせないドキュメンタリー作家グスマンの最新作La Cordillera de los sueñosは、カンヌ映画祭2019で特別上映された。ウッド監督が「気をつけて、政治的ライバルを見誤ることは重大な誤りです。私たちはピノチェトの知性を軽視しました。それは間違いでした」と警告したことを忘れないでおこう。

   

パブロ・ララインの「Ema」がペルラスに*サンセバスチャン映画祭2019 ⑯2019年08月28日 14:16

             現代の家族をめぐる挑発的なドラマ「Ema

 

      

★ペルラス部門の追加作品のうち、チリのパブロ・ララインEmaと、コロンビアのチロ(シーロ)・ゲーラWaiting for the Barbariansが昨年の『夏の鳥』に続いてペルラスにエントリーされていた。後者は監督が英語でコロンビア以外で撮った初めての映画となる。何回も言及しているように南アフリカ連邦出身(国籍は南ア連邦とオーストラリア)のジョン・マックスウェル・クッツェーの小説『夷狄を待ちながら』(1980、翻訳1991)の映画化です。2003年ノーベル文学賞、異例と言われた2度のブッカー賞受賞と、翻訳書も多く、2度にわたって来日している。劇場公開が視野に入っている英語映画ということで後回しにします。

 

  

                  

★パブロ・ラライン(サンティアゴ1976)の新作Emaは、ベネチア映画祭2019コンペティション部門(831日上映)、トロント映画祭(98日上映)の後、SSIFFに登場します。ラライン映画の本映画祭の関りは、『トニー・マネロ』「Post Mortem」『ザ・クラブ』 がホライズンズ・ラティノ部門、No』『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』がペルラス部門にノミネートされている。Post Mortem」以外はラテンビートで見ることができ、チリの監督としては認知度ナンバーワンではないでしょうか。

 

  Ema

製作:Fabula

監督:パブロ・ラライン

脚本:ギジェルモ・カルデロン、アレハンドロ・モレノ

音楽:ニコラス・Jaar

撮影:セルヒオ・アームストロング

編集:セバスティアン・セプルベダ

プロダクション・デザイン:エステファニア・ラライン

衣装デザイン:フェリペ・クリアド

プロダクション・マネージメント:ジョナサン・ホタ・オソリオ

特殊効果:ホアキン・サインス

製作者:ロシオ・Jadue(エグゼクティブ)、フアン・デ・ディオス・ラライン、クリスティアン・エチェベリア、他

 

データ:製作国チリ、スペイン語、2019年、ドラマ、102分、撮影はバルパライソで6週間、2019年米国公開の予定

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2019コンペティション部門正式出品(831日上映)、トロント映画祭2019 Galas部門(98日上映)、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門出品

 

キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(エマ)、ガエル・ガルシア・ベルナル(エマの夫)、サンティアゴ・カブレラ、ジャンニナ・フルッテロ、エドゥアルド・パシェコ、カタリナ・サーべドラ、パオラ・ジャンニーニ、他

 

ストーリー:偶発的な出来事で心の傷を負ったあと、家庭生活は不安定になっている。激烈な振付師とレゲトンの踊り手エマの夫婦は、個人的な解放を求めて波乱に富んだ船出をする。現代の家族、アート、欲望についての挑発的なドラマ。

 

        

       (エマに扮するマリアナ・ディ・ジロラモと夫役のG. G. ガエル)

       

2016年の英語映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』完成後、20188月に新作のタイトルは「Ema」、スペイン語で撮るという発表があった。既にガエル・ガルシア・ベルナルと相手役にラライン映画は初めてというマリアナ・ディ・ジロラモ(サンティアゴ1990起用が決まっていた。『No』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』に続いて、G. G. ガエルとタッグを組んだ。マリアナはチリのカトリック大学で演劇を専攻、舞台、TVシリーズ「Río oscuro」(7話)に出演している他、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの「Aquí no ha pasado nada」に脇役出演している。

 

         

                      (新作発表のラライン監督とG. G. ガエル)

 

         

  (マリアナ・ディ・ジロラ)

 

★脇を固めるのは、米TVシリーズでも活躍するベネズエラのサンティアゴ・カブレラ(カラカス1978)、『家政婦ラケル』の怪演で観客を魅了したチリのベテラン女優カタリナ・サーべドラ、『泥棒と踊り子』や「メアリとマイク」の主役マリアナ・ロヨラ(サンティアゴ1975)などがクレジットされている。

 

★「偶発的な出来事」が紹介したストーリーからは分からないが、上手くいかなかった養子縁組を指しているようです。脚本は『ネルーダ~』のギジェルモ・カルデロンと「Medea」を監督したアレハンドロ・モレノとの共同執筆です。製作はラライン監督の実弟フアン・デ・ディオス・ララインが手掛けている。レゲトンというのは、1980年代から90年代にかけてのアメリカのヒップホップの影響を受けたプエルトリコ人が生み出した音楽、レゲエ+サルサ+ボンバなどが加わっているそうです。

  

アンドレス・ウッドの新作「Araña」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑪2019年08月16日 12:43

       ホライズンズ・ラティノ第1弾――チリの監督アンドレス・ウッドの新作

 

      

 

アンドレス・ウッド久々の新作であること、ラテンビートLBFFとの深い関わりやキャストにメルセデス・モランやマリア・ベルベルデが出演ということで、チリ=アルゼンチン=ブラジル合作Araña / Spiderの紹介から。チリの監督と言えば、『No』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』のパブロ・ララインが有名ですが、彼はデビュー作『トニー・マネロ』がカンヌ映画祭併催の「監督週間」にノミネートされたこともあって、カンヌFF出品が多い。他にベネチア映画祭やベルリン映画祭にも出品しており、今年も新作Emaはベネチアとトロントに出品された。

 

  Araña / Spider

製作:Bossa Nova Films / Magma Cine / Wood Producciones

監督:アンドレス・ウッド

脚本:ギジェルモ・カルデロン

撮影:M.I. Littin-Menz

キャスティング:ロベルト・マトゥス

美術:ロドリゴ・バサエス

製作者:パトリシオ・ペレイラ(エグゼクティブ)、パウラ・コセンサ、アレハンドロ・ガルシア、他

 

データ:製作国チリ=アルゼンチン=ブラジル、スペイン語、2019年、スリラー、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門出品、チリ公開2019815

 

キャスト:メルセデス・モラン(イネス)、マリア・バルベルデ(ヤング・イネス)、フェリペ・アルマス(イネスの夫フスト)、ガブリエル・ウルスア(ヤング・フスト)、マルセロ・アロンソ(イネスとフストの親友ヘラルド)、ペドロ・フォンテーヌ(ヤング・ヘラルド)、カイオ・ブラット(アントニオ)、マリア・ガルシア・オメグナ(ナディア)、マリオ・ホールトン(ホセ)、ハイメ・バデル(ドン・リカルド)、他

 

ストーリー1970年代の初頭、イネス、夫のフスト、夫婦の親友ヘラルドの三人は、アジェンデ政権打倒を目論む過激な国粋主義を標榜する極右グループのメンバーだった。犯罪や陰謀が渦巻くなか、彼らは歴史の流れを変えようと或る政治的犯罪に手を染めていく。同時に危険で情熱的な三角関係にもつれ込み、裏切りにより彼らは永遠に袂を分かつことになる。40年という長いあいだ、復讐と強迫観念に捉われていたヘラルドは、青春時代の国家主義的な主義主張にかき立てられていた。一方イネスは、実業家として成功を収めていた。警察は、ヘラルドと自宅に保管してある書類をを監視しており、イネスはかつての政治的性的な過去や夫フストのことが明るみに出ることを避けようと最善を尽くすだろう。サルバドル・アジェンダ政権(1970114日~1973911日)打倒を目標に生まれたパラミリタール「祖国と自由」運動を掘り下げる。二人のイネスによって物語は語られる。                            (文責:管理人)

 

       

        (左から、青春時代の仲間、イネス、ヘラルド、フストの3人)

 

         『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点で撮った「Araña

 

アンドレス・ウッド(サンティアゴ・デ・チレ1965)は、監督、脚本家、製作者、SSIFF1997ニューディレクターズ部門に出品されたHistrias de fútbolがデビュー作。カンヌFF「監督週間」出品のMachuca04、『マチュカ 僕らと革命』)、La buena vida08、『サンティアゴの光』LBFF2009、ゴヤ賞2009イスパノアメリカ映画賞)、Violeta se fue a los cielos11、『ヴィオレータ、天国へ』LBFF)などが代表作。『サンティアゴの光』がLBFFで上映された折り来日してい。監督としては『ヴィオレータ、天国へ』を最後に、現在は製作者としてTVシリーズに力を注いでおり、今回8年ぶりに『マチュカ』とは別の視点でAraña」を撮った。

アンドレス・ウッドのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20180304

 

         

             (アンドレス・ウッド監督、20198月)

 

★「もう一つの9-11」と言われるのが1973113日に勃発したチリの軍事クーデタである。如何にしてピノチェトがクーデタを成功させ、20年近くにも及ぶ独裁政権を維持できたのか考え続けているアンドレス・ウッドが、『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点でチリの現代史を描いている。40年の時を隔てて、キャストは各々別の俳優が演じている。ヤング・イネスはスペイン女優マリア・バルベルデ(マドリード1987)、現代のイネスはアルゼンチンのベテラン女優メルセデス・モラン(サン・ルイス1955)が扮した。バルベルデは2003年、マヌエル・マルティン・クエンカの「La flaqueza del bolchevique」で銀幕デビュー、相手役のルイス・トサールと堂々わたり合って、いきなり翌年のゴヤ賞新人女優賞を受賞したシンデレラ・ガール。LBFF2014上映の『解放者ボリバル』、Netflixマリア・リポル『やるなら今しかない』など、スペイン映画に止まらず、イタリア、イギリス、米国映画にも出演している。

マリア・バルベルデのキャリア紹介は、コチラ20150714

 

       

   (チリ公開前夜祭に登場した二人のイネス、モランとバルベルデ、2019814日)

 

★メルセデス・モランは、昨年のLBFFで上映されたアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』に主演、ルクレシア・マルテルの「サルタ三部作」の第1部『沼地という名の町』、第2部『ラ・ニーニャ・サンタ』の他、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』など、当ブログでは数回にわたってキャリア紹介をしています。リカルド・ダリンと共演することが多く、アルゼンチンではチョー有名な女優。

メルセデス・モランの主なフィルモグラフィーは、コチラ20180921

 

      

      (過去の秘密が暴露されることを怖れるイネス、メルセデス・モラン)

 

★ヘラルド役のペドロ・フォンテーヌマルセロ・アロンソはチリの俳優、ペドロ・フォンテーヌは2015年、マリア・エルビア・レイモンドの「Days of Cleo」でデビューした。プロデューサーとしてLBFF上映のクリストファー・マーレイの『盲目のキリスト』や、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの「Aqui no ha pasado nada」を手掛けている。マルセロ・アロンソはパブロ・ララインのデビュー作『トニー・マネロ』や「Post Mortem」の他、『ザ・クラブ』のガルシア神父や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などに出演している演技派で、本作主演の一人。他に「Princesita」などが代表作。TVシリーズ出演が多く、チリの有名どころが総出演している観のある人気犯罪ドラマ「Prófugos」(1113)にも出演している。

  

            

  (マリア・バルベルデとペドロ・フォンテーヌ)

 

40年後のマルセロ・アロンソ)

        

      

    

        (ポスターにも採用されたヘラルド役のマルセロ・アロンソ)

 

★フスト役のガブリエル・ウルスアフェリペ・アルマスの二人もチリと、大方はチリの俳優が起用されている。ガブリエル・ウルスアは2010年、パスカル・クルムの「MP3: una pelicula de rock descargable」でデビュー、他にフアン・ギジェルモ・プラドのアクション・アドベンチャー「Puzzle negro」など。フェリペ・アルマス(サンティアゴ1957)は、主にTVシリーズに出演しているテレビ界の大物俳優。しかし目下自閉症の息子をほったらかしにしていたことで告発されており窮地に立たされている。他にドン・リカルド役のハイメ・バデル(バルパライソ1935)は、パブロ・ララインのほとんどの作品「Post Mortem」から『ザ・クラブ』『No』『ネルーダ~』などに顔を出している。

   

    

 (ヤング・イネスのマリア・バルベルデ、ヤング・フストのガブリエル・ウルスア、

      背後にグループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のポスター)

 

                  

           (公開前夜祭でのフェリペ・アルマス)

 

★国家主義的な極右グループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のリーダーらしきアントニオは、ブラジルのカイオ・ブラット(サンパウロ1980)が演じている。ナディアを演じたマリア・ガルシア・オメグナは美人女優として売り出し中だが、目下第一子を抱えており、夫君ゴンサロ・バレンスエラにエスコートされて前夜祭に参加、話題を集めていた。

 

 (アントニオ役のカイオ・ブラット)

 

                   

      

   

         (マリア・ガルシア・オメグナ、公開前夜祭にて)

 

関連記事(管理人覚え)

『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ20151018

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20171122

Aqui no ha pasado nada」の紹介記事は、チラ20160823

『盲目のキリスト』の紹介記事は、コチラ201610061021

 

*追加情報:ラテンビート2019『蜘蛛』の邦題で上映が決定しました。

ニューディレクターズ全14作が発表*サンセバスチャン映画祭2019 ⑩2019年08月13日 14:49

         全容が明らかになったニューディレクターズ部門―チリとアルゼンチンから

 

730日、ホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターとニューディレクターズ部門の代表者イドイア・エルルベによって全14作品が発表になりました。スペイン語映画は、既に発表になっていたスペイン映画2作(La inocenciaLas letras de Jordi)は紹介済み、加えてアルゼンチン映画、チリ映画各1作ずつ、合計4作がノミネートされたことになりました。アジアからは関係がぎくしゃくしている日本と韓国から仲良く1作ずつ選ばれました。他、アルファベット順にブルガリア、米国、イスラエル、リトアニア、ノルウェー、イギリス、スイス、チュニスが選ばれましたが大方が合作、各国から満遍なく選ばれている印象です。

 

ルシア・アレマニーのLa inocencia」の紹介は、コチラ20190724

マイデル・フェルナンデス・エリアルテLas letras de Jordi」は、コチラ20190724

    

    

  (全14作を発表する、ホセ・ルイス・レボルディノスとイドイア・エルルベ、730日)

 

『よあけの焚き火』(「Bonfire at Dawn」)日本、土井康一

キャスト:大蔵基誠、大倉康誠、鎌田らい樹、坂田明 

650年の伝統を守る大蔵流狂言方の父と子の物語。大蔵流狂言方の実の親子が初出演している。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜている。89日よりフォーラム山形で上映開始、全国各地で展開中。監督(横浜1978)、スタッフ、キャスト紹介の詳細は公式サイトで。

    

   

 

 

 

Algunas bestias / Some Beastsチリ、ホルヘ・リケルメ・セラーノ

 Cine en Construccion 35 Toulouse 受賞作品、2019年、監督第2作目、スリラー、97

キャスト:パウリナ・ガルシア(ドロレス)、アルフレッド・カストロ(アントニオ)、コンスエロ・カレーニョ(コンスエロ)、ガストン・サルガド(アレハンドロ)、アンドリュウ・バルグステッド(マキシモ)、ミジャレイ・ロボス(アナ)、他

ストーリー:ある家族がチリ南部の海岸沿いにある無人島に、観光ホテル建設の夢を抱いて喜び勇んでやってくる。本土から彼らを船に乗せてきた男が姿を消すと、家族は島の囚われ人となってしまう。水もなく寒さと不安で気力も失せ、家族の各々が隠しもっている悪霊が露わになるなかで、共同生活は次第に困難になっていく。

4日間で撮ったデビュー作Camaleón16)がロンドン映画祭などで高評価だったことが、比較的早い第2作に繋がった。「チリ社会に根源的に存在する悪霊がテーマ」と監督。

 

    

 (アルフレッド・カストロ、パウリナ・ガルシア)

     

   

 

Las buenas intenciones / The Good Intentionsアルゼンチン、アナ・ガルシア・ブラヤ

キャスト:ハビエル・ドロラス(グスタボ)、アマンダ・ミヌヒン(アマンダ)、エセキエル・フォンタネラ、カルメラ・ミヌヒン、セバスティアン・アルセノ、ハスミン・スタート、フアン・ミヌヒン

ストーリー1990年代のブエノスアイレス、アマンダは10歳、弟と妹がいる。子供たちは離婚した両親の家を行ったり来たりして暮らしている。父親と一緒のときは、アマンダはできる限り家事をこなして大人のように振るまわざるを得ない。それは父親が子供たちを自身よりほんの少しだけ愛しているようなとても風変わりなタイプの人間だったからだ。ある日のこと、母親が父親のきちんとできない生活からは程遠い外国を申し出る。その提案はアマンダを不安に陥れることになる。

監督デビュー作、1974年ブエノスアイレス生れ。実際の3人姉弟が演じる。

    

  

 (父親と子供たちをバックにしたポスター)

 

         

                          (きちんとした性格の母親)