「批評家週間」にコスタリカ映画*カンヌ映画祭2019 ⑧ ― 2019年05月09日 16:10
ソフィア・キロス・ウベダのデビュー作「Ceniza negra」

★「批評家週間」のもう1作「Ceniza negra」は、アルゼンチン出身のソフィア・キロス・ウベダのデビュー作です。「批評家週間」2017の短編部門にノミネーションされた「Selva」がベースになっているようです。両作とも主役にスマチレーン・グティエレスSmachleen Gutiérrezを起用している。ソフィア・キロス・ウベダ監督は1989年ブエノスアイレス生れですが、ここ数年はコスタリカに在住している。
「Ceniza negra」(「Land of Ashes」「Cendre Noire」)
製作:製作者:Sputnik Films(マリアナ・ムリージョ・Q)、Murillo Cine(セシリア・サリム)、
La Post Producciones(ミジャライ・コルテス、マティアス・エチェバリア)、
(共同)Promenades Films(サムエル・チャウビン)
監督・脚本:ソフィア・キロス・ウベダ
撮影:フランシスカ・サエス・アグルト
編集:アリエル・エスカランテ・メサ
音楽:Wassim Hojeij
録音:クリスティアン・コスグロベ
プロダクション・デザイン:カロリナ・レットLett
データ・映画祭:製作国コスタリカ=アルゼンチン=チリ=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、撮影地コスタリカのリモン、配給EUROZOOM。「批評家週間」2019正式出品、5月19日(英語と仏語の字幕上映)他
キャスト:スマチレーン・グティエレス(セルバ)、ウンベルト・サムエルズ(祖父タタ)、オルテンシア・スミス(エレナ)、キハ(ケハ)・ブラウンKeha Brown(ウインター)
ストーリー:13歳になるセルバは、カリブ海沿岸の町に住んでいる。セルバは死ぬと脱皮できることを発見する。例えばオオカミやヤギ、影、または自分で思いつくどんなものにも変身できる。野菜畑に囲まれた家で暮らしているが、父に続いて母親も突然姿を消してしまうと、残されたセルバは死にたがっている祖父の世話を一人でしなければならない。祖父の願いを叶えてやるかどうか決心しなければならないが、それは子供時代との最後の決別を意味したからだ。

(セルバ役のスマチレーン・グティエレス)



(祖父タタとセルバ)
★キロス監督によると「子供たちが死をどのように理解するのかに興味をもって、2012年ごろから温めていた。約5年前に執筆をスタートさせ、2016年に「Selva」として短編が結実、翌年カンヌで上映できた。長編は主役セルバに同じスマチレーン・グティエレスを起用してその成長課程を追っている。多くの子供たちの中から彼女を見つけられたことは幸運だった。小さな映画だが、カンヌにノミネートされた最初のコスタリカ映画ということに誇りを感じている」とインタビューに答えている。

(短編「Selva」のポスター)
★ソフィア・キロス・ウベダ Sofía Quirós Ubeda は1989年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。2011年短編ドキュメンタリー「Al otro lado」(15分、共同監督)、2016年、コスタリカ、アルゼンチン、チリ合作短編フィクション「Selva」(17分、西語・英語)は、カンヌ上映後40数ヵ都市で上映された。なかでビアリッツ映画祭、グアナファト映画祭が含まれる。製作はSputnik Filmsのマリアナ・ムリージョ・ケサダ、撮影監督にフランシスカ・サエス・アグルトと長編に同じでした。2019年本作、次回作「Entretierra」が進行中。

(ソフィア・キロス・ウベダ監督、2017年)

(短編ドキュメンタリー「Al otro lado」ポスター)
コスタリカから女性監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2017 ⑪ ― 2017年09月22日 16:08
「ホライズンズ・ラティノ」にコスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフ
★「ホライズンズ・ラティノ」の出品作品は、例年8月前半に開催されるリマ映画祭と同じ顔触れになります。コスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフの長編第1作 “Medea” は、リマ映画祭2017の審査員特別メンション受賞作品です。今年はラテンアメリカ10ヵ国17作品が上映され、作品賞にグスタボ・ロンドン・コルドバの “La familia”(ベネズエラ他)、審査員特別賞にセバスティアン・レリオの “La mujer fantástica”(チリ他)と、ホライズンズ・ラティノの出品作が選ばれています。 “Medea” からは主演女優のリリアナ・ビアモンテが審査員特別メンション女優賞を受賞していました。ペルーはコスタリカ同様映画産業は盛んとは言えませんが、本映画祭も今年21回目を迎えています。

“Medea” 2016
製作;La Linterna Films / Temporal Film / Grita Medios / CyanProds
監督・脚本:アレクサンドラ・ラティシェフ
撮影:オスカル・メディナ、アルバロ・トーレス
音楽:スーザン・カンポス
編集:ソレダ・サルファテ
プロダクションデザイン・美術:カロリナ・レテ
製作者:パス・ファブレガ、ルイス・スモク、アレクサンドラ・ラティシェフ、(エグゼクティブ)シンシア・ガルシア・カルボ、(アシスタント)バレンティナ・マウレル
データ:コスタリカ=アルゼンチン=チリ、スペイン語、2016年、70分。2016「Cine en Construcción 30」、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭2017正式出品、第21回リマ映画祭2017正式出品(リリアナ・ビアモンテ審査員特別メンション女優賞)、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」正式出品。
キャスト:リリアナ・ビアモンテ(マリア・ホセ)、エリック・カルデロン(カルロス)、ハビエル・モンテネグロ(ハビエル)、マリアネイジャ・プロッティ、アーノルド・ラモス、他
プロット:マリア・ホセの人生は、単調な大学生活、日頃疎遠な両親、ラグビーのトレーニング、そしてゲイの友人カルロスとの間を動きまわっている。しかしハビエルと知り合い彼と交際しはじめたことで、周囲との連絡を絶つ。<普通の>人生を送るための努力をなにもせずに受け入れるが、誰も考えもしなかった秘密を抱えこンでしまう、彼女は数か月の身重になっていた。
★これだけの情報では、タイトルから想像するギリシャ神話のメデイア、またはエウリピデスのギリシャ悲劇「女王メディア」に辿りつけない。夫イアソンの裏切りに怒り、復讐を果たす強い女性像とヒロインのマリア・ホセ像とが結びつかない。マリア・ホセは25歳になるのに未だ大学生、内面的には何かが起こるのを待っているモラトリアム人間にも見える。表面的にはラクビー選手という設定だが、メディアのように本当に強い女性なのか。エウリピデスのメディアは二人の息子も殺害するが、ヒロインが妊娠数か月というのが暗示的だ。女性の<女らしさ>を嫌悪するミソジニーと関係があるのかないのか。ギリシャ悲劇の規範でいえば、英雄は最後には降格する宿命にある。マリア・ホセの最後がどうなるのか全く予想がつかない。

(マリア・ホセ役のリリアナ・ビアモンテ、映画から)
★アレクサンドラ・ラティシェフAlexandra Latishev は、コスタリカのベリタス大学で映画とTV学校で学ぶ。監督、脚本家、編集者、製作者、女優。2011年、短編 “L’Enfante Fatale” を撮る。短編 “Irene”(14)は、トゥールーズ映画祭、アルカラ・デ・エナレス映画祭(作品賞)、フランドル・ラテンアメリカ映画祭(審査員メンション)、ハバナ映画祭(審査員メンション)など多数受賞する。 “Medea” は長編第1作である。


(リリアナ・ビアモンテ出演の “Irene” のポスター)
★監督によれば、「自分自身とは感じられない体で生きているせいで、自分の所属場所がないという人物を登場させたかった。不可能なリミットまで描きたかった。世間は矛盾で溢れているが、他人と調和して生きたいと考えています。しかし私たちにはそれとは対立した<その他>も居座っています。この映画の中心課題は、社会的に積み上げられてきた<女らしさ>の概念についてのマリア・ホセの闘いです」ということです。これで少しテーマが見えてきました。

(製作者シンシア・ガルシア・カルボと監督右、2016「Cine en Construcción 30」にて)
★リリアナ・ビアモンテLiliana Biamonteは、アレクサンドラ・ラティシェフの短編 “Irene” に主人公のイレネ役で出演、他にユルゲン・ウレニャの “Muñecas rusas”(14)、アレホ・クリソストモの “Nina y Laura”(15)、アリエル・エスカランテの “El Sonido de las Cosas”(16)などコスタリカ映画に主役級で出演している。本作 “Medea” でリマ映画祭2017審査員特別メンション女優賞を受賞している。

(看護師役のリリアナ・ビアモンテ、“El Sonido de las Cosas” から)
グスタボ・ファジャス*モントリオール国際映画祭① ― 2013年09月05日 14:23

★グスタボ・ファジャスGustavo Fallasはコスタリカ出身。カナダのケベック大学で映画と脚本を学んだ。受賞にはこれが幸いしたかもしれない。本作は監督が長年あたためていた脚本をPrograma Ibermediaからの資金援助($150,000)をもとに、最終的には概算で$550,000の援助を受けて実現させた。コスタリカではプンタレナス州の州都プンタレナスでの撮影開始から話題になっていた。古びたLas Hamacasホテルを舞台に4人の登場人物が繰り広げるドラマ。監督によるとこのホテルに出会うことで構想が生まれたそうです。どうやらホテルも重要な役割を担っているらしい。
★漁師のダニエル(ジェイソン・ペレス)に両親はなく祖母とチラ島で暮らしていた。16歳になったダニエルはこの小島に希望はないと、プンタレナスにいるという自分の名付け親ミゲルを頼って故郷を後にする。しかし母の行きつけだったホテルの支配人チコ(ガブリエル・レテス)から既にミゲルは死んだと素っ気なく告げられる。しかしチコはダニエルに仕事を世話してくれ、ダニエルは調理場で働く若いシングルマザーのソレダ(アドリアナ・アルバレス)に想いを寄せていく。チコの父親でもあるホテルのオーナーのパト(アルバロ・マレンコ)は、今や衰弱して見捨てられたようにベッドに臥せっていた・・・
★このホテルには何やら秘密がありそうです。ハリケーンの目の中に巻き込まれてしまったダニエル役のジェイソン・ペレスはこれがデビュー作、西アフリカのリベリア出身、マリンバが得意とか。チラ島での撮影が短期間ではあったが役の掘り下げに役立ったと。ソレダ役のアドリアナ・アルバレスはコスタリカ出身、既にエステバン・ラミレスの第2作“Gestacion”(2009、英題“Gestation”)の演技で高い評価をうけている。
★チコ役のガブリエル・レテスはメキシコからの参加、メキシコ映画ファンならお馴染みの監督にして俳優のベテラン、“Flores de papel”(1977、英題“Paper Flowers”)がベルリン映画祭1978のコンペに選ばれている。また“El bulto”(1992)、2008年の“Arresto domiciliario”が代表作。彼はファジャスの才能に惚れこんで出演したというから楽しみです。パト役のアルバロ・マレンコはコスタリカでは有名なベテラン俳優ということですが、1作も見ておりません。出演した作品のIMDb(インターネット・ムービー・データベース)評価は高いですね。そういえば、本作のIMDbは今のところアップされておりません。
(写真:ダニエル役のペレスとソレダ役のアルバレス)
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