ニューディレクターズ部門11作発表*サンセバスチャン映画祭2023 ⑦ ― 2023年08月09日 11:03
ニューディレクターズ部門11作品ノミネート発表
★去る7月27日、サンセバスチャン映画祭総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノス、後援者クチャバンク・ギブスコア・ネットワーク代表のマルタ・マディナベイティア出席のもと、ニューディレクターズ部門11作品が発表になりました。このセクションは2作目までが対象で、作品賞はクチャバンク・ニューディレクターズ賞、副賞として50.000ユーロとスペイン国内での公開が約束されます。他に18歳から25歳までの学生150人が審査員であるユースTCM賞があります。
★オープニング作品は中国のリャン・ミンLiang Mingの「Xiao yao you / Carefree Days」、既に報道されているように日本からは、村瀬大智の『霧の淵』がクロージングに選ばれました。彼は1997年滋賀県信楽生れ、今年の最年少候補者となりました。スペイン語映画はスペインとコロンビアから、他にイラン、インド、カザフスタン、ロシア、シンガポール、カナダ、スウェーデン、各1作ずつです。全作ご紹介する余裕はなく、スペインとコロンビアのスペイン語映画2作だけアップいたします。
1)La estrella azul / The Blue Star
監督:ハビエル・マシペ・コスタ(テルエル1987)は、監督、脚本家、フィルム編集者。長編2作目、サラゴサ出身のミュージシャンで詩人のマウリシオ・アスナルの人生にインスピレーションを受けて製作されたフィクション。詩人は2000年、わずか36歳という若さで生涯を閉じました。マシペの長編デビュー作は「Los inconvenientes de no ser Dios」(14)、サラゴサ映画祭の監督第1作賞を受賞した。ほか短編数編を発表しており、うち2014年のポルトガル語で撮った「Os meninos de rio」(14分)は、ゴヤ賞2016にノミネートされたほか、CinEuphoria 2016 短編賞、シモン賞2015、パベス賞2015、モンテレイFF審査員メンション、サラゴサFF、ウエルバFFゴールデン・コロン賞など作品賞を含む、監督賞、脚本賞を多数受賞した。2019年のコメディ「Gastos incluidos」(21分)もゴヤ賞2021ではノミネートに終わったが、シモン賞2020短編賞を受賞した。ドキュメンタリー「Vivir sin agua」(08)を撮っている。
(長編デビュー作「Los inconvenientes de no ser Dios」のポスター)
(短編「Gastos incluidos」でシモン賞のトロフィーを手にしたハビエル・マシぺ)
キャスト:ペペ・ロレンテ(マウリシオ・アスナル)、クティ・カラバハル(ドン・カルロス)、ブルーナ・クシ、マルク・ロドリゲス、マリエラ・カラバハル、ノエリア・ベレニセ・ディアス、パブロ・アルバレス(青年マウリシオ)、カテリナ・ソペラナ、マヌエル・チャコン(マネージャー)
ストーリー:90年代、スペインのロックンロール・ミュージシャン、マウリシオは自分の天職を再発見するためにアルゼンチンへ旅立ちます。そこで彼は高齢のマエストロ、最も著名なフォークロアソングの作者であるにもかかわらず生活に困窮しているドン・カルロスと予期せぬ出会いをする。カルロスは旅人を歓迎し、実に贅沢で風変わりなデュオが誕生する。
(クティ・カラバハル扮するドン・カルロスとペペ・ロレンテ扮するマウリシオ)
データ:製作国スペイン=アルゼンチン、2023年、スペイン語、ドラマ、127分、撮影2020年3月クランクインしたがパンデミックのため中断、コロナ以後に再開して2023年2月に終了した。主な撮影地はマドリード、アルゼンチンのサンティアゴ・デル・エステロ。スペイン配給はワンダビジョン、国際販売はフィルム・ファクトリー。モビスター+、アラゴンTV、ICAA、INCAAからの資金提供を受け、アラゴン州政府と州議会、サラゴサ市議会、サンティアゴ・デル・エステロ政府ほかの支援を受けている。
(バンド、ゴールデン・ジッパーズの4人)
製作:Mod Producciones / El Pez Amarillo / Cimarrón / La Charito Films / Prisma
製作者:シモン・デ・サンティアゴ、エルナン・ムサルッピ、アメリア・エルナンデス、他
音楽:ペテコ・カラバハル、アリシア・モロテ
撮影:アルバロ・メディナ、ルイ・ポサス
解説:1981年サラゴサで、アスナル・マウリシオを中心に結成されたバンド、ゴールデン・ジッパーGolden Zippers は、スペインにおける国民的ロカビリーのパイオニア的な存在の一つ。1984年、サラゴサで開催された大イベントの直後解散、マウリシオはベーシストのミゲル・マタと Más Birras を結成、ドラマーのマノロ・レアル(愛称ロロ)は Los Dynamos へ、エレキギターのロビーは、カントリー・ミュージックに根ざした「Rodeo」 を結成している。
(撮影中のクティ・カラバハルとペペ・ロレンテ)
★クティ・カラバハル(1947)は、アルゼンチンのフォルクローレの伝統をもつ音楽家一家カラバハル家の12人いる兄弟姉妹の末っ子。映画に登場するカルロス・カラバハル(1929~2006)は5番目にあたり、歌手、作曲家、チャカレラの父として知られ、2006年1月に開催されたチャカレラ国立フェスティバルでの公演を最後に、脳卒中で死去している。弟にあたるクティ・カラバハルが演じている。
★次回はコロンビアのフアン・セバスティアン・ケブラダの「El otro lado / The Other Side」のアップを予定しています。
ニューディレクターズ、コロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2023 ⑧ ― 2023年08月11日 16:33
フアン・セバスティアン・ケブラダ「El otro hijo / The Other Son」
2)El otro hijo / The Other Son(コロンビア=フランス=アルゼンチン)
2023年、ドラマ、90分、長編デビュー作
Foro de Coproducción Europa-América Latina 2020
監督:フアン・セバスティアン・ケブラダ(メデジン1987)は監督、脚本家、編集者、製作者。ブエノスアイレスの映画大学で映画製作を学ぶ。バルセロナのカタルーニャ映画視聴覚上級学校 ESCAC 大学院で編集を学んだ。2015年 BAFICI ブエノスアイレス国際インデペンデンス映画祭に、監督、脚本、製作を手掛けた中編「Días extraños」(68分)を正式出品して注目される。短編「La casa del árbol」(17、16分)はトロント映画祭に出品された。フィルム編集を多数手がけている。
(中編「Días extraños」のポスター)
★この度「El otro hijo / The Other Son」で長編デビューを果たした。予期せぬ弟の死に直面して、生き延びるために必要な力を模索するドラマ。兄弟二人が本当は所属していない上流階級の学校で覚える喪失感、監督自身が経験した思春期のトラウマなどが描かれる。既にコロンビアのFDC賞をセサル・アセベドと受賞している。アセベドは『土と影』がラテンビート2015で上映されたコロンビアの監督。
(フアン・セバスティアン・ケブラダ監督)
キャスト:ミゲル・ゴンサレス、イローナ・アルマンサ、ジェニー・ナバレテ
ストーリー:フェデリコとその弟シモンの物語。フィエスタでバルコニーから転落したシモンが亡くなる日まで二人はともに人生を生きていた。一方まわりの家族はフェデリコの目前でばらばらに崩壊していった。フェデリコは学校の最後の数週間を普通に送ろうとします。嘆き悲しむことができず、シモンのガールフレンドのラウラに接近していく。彼女に慰めを見出そうとする。コロンビアの階級社会で自分の居場所を探す青年の物語。
(フェデリコ役のミゲル・ゴンサレス)
★オリソンテス・ラティノス部門が発表になっていますので、ニューディレクターズ部門は2作にして、移行します。
オリソンテス・ラティノス部門12作出揃う*サンセバスチャン映画祭2023 ⑨ ― 2023年08月16日 17:49
オープニングはパウラ・エルナンデス&クロージングはカロリナ・マルコビッチ
★去る8月3日、第71回サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門12作(2022年と同じ)が発表になりました。既にスペインが共同製作国になっている2作、アルゼンチンのドロレス・フォンシとマルティン・ベンチモルはご紹介しておりますが、残る10作が発表になり、これですべてが出揃ったことになります。
★オープニング作品は、アルゼンチンのパウラ・エルナンデスの「El viento que arrasa / A Ravaging Wind」(スペイン語)、クロージング作品は、ブラジルのカロリナ・マルコヴィッチの「Pedágio / Toll」(ポルトガル語)と、共に女性監督作品が選ばれました。監督は男性4名、女性8名と、女性シネアストの元気のよさが際立っています。WIP Latam 2作、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム1作が含まれました。作品賞はオリソンテ賞、今回は全作品をご紹介する時間的余裕がなく、管理人が予想する賞に絡みそうな作品をつまみ食いすることになりそうです。一応全12作の作品名、監督、製作国、トレビア情報を列挙しておきます。3回に分けてアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ①*
1)「El viento que arrasa / A Ravaging Wind」アルゼンチン=ウルグアイ
オープニング作品、2023年、スペイン語、ドラマ、94分
監督:パウラ・エルナンデス(ブエノスアイレス1969)は、アルゼンチンの監督、脚本家、女優。本作はセルバ・アルマダの処女作(2012年刊)である同名小説の映画化。チリのアルフレッド・カストロ、スペインのセルジ・ロペスなど、本邦でも知名度のある演技派がクレジットされている。アルゼンチンのチャコ州が舞台。トロント映画祭2023でワールドプレミアされる。
(パウラ・エルナンデス監督)
キャスト:アルムデナ・ゴンサレス(レニ)、アルフレッド・カストロ(父親ピアソン神父)、セルジ・ロペス、ホアキン・アセベド
ストーリー:父ピアソン神父の盲目的信仰にとらわれているレニは、父と福音主義の使命を共有しています。或るありふれた自動車事故が彼らをグリンゴの経営する修理工場に導いていきます。神父が整備士の息子タピオカの魂を救うことに取りつかれたとき、レニは自分の運命を受け入れることを理解する。
2)「Pedágio / Toll」ブラジル=ポルトガル
クロージング作品、2023年、ポルトガル語、ドラマ、101分
監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)は、監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。2007年短編デビュー、短編6編の後、「Carvao / Charcoal / Calvón」)で長編デビューを果たした。これはサンセバスチャン映画祭2022の同セクションに選ばれており、2年連続のノミネートです。監督キャリア&フィルモグラフィーなどは、昨年既に紹介しています。本作も前作に続いて、テーマは宗教、生と死、義務とは何かです。高速道路の料金所で働いている女性がヒロイン、ゲイである息子を救済するため違法な行為に手を染めるようになっていく。製作はデビュー作を手掛けたカレン・カスターニョと再タッグを組み、監督自身も製作に参画、撮影はルイス・アルマンド・アルテアガ。
*カロリナ・マルコヴィッチのキャリア紹介は、コチラ⇒2022年08月25日
キャスト:メイヴ・ジンキングス(スエレン)、トマス・アキノ(アラウト)、アイザック・グラサ、カウアン・アルバレンガ(ティキーニョ)、カイオ・マセド(リック)、アリネ・マルタ・マイア(テルマ)
ストーリー:高速道路の料金所係員であるスエレンは、ゲイである息子のことで苦しんでいる。著名な外国人司祭が率いる高額なゲイの改宗ワークショップに息子を送るため、車で海岸に行く人々から金品を盗み取るマフィアの片棒を担ぐことにする。ただし、これは息子を入所させるという高貴な目的のためだけに必要な額だけです。反LGBTQ+の現大統領派からは「不快な社会ドラマ」と揶揄されている。
(カロリナ・マルコヴィッチ監督と主役を演じるメイヴ・ジンキングス)
3)「Alemania」アルゼンチン=ドイツ
ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム2021、スペイン語、ドラマ、87分
監督:マリア・サネッティ(ブエノスアイレス1980)は、監督、脚本家、製作者。2021年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラムの国際アルテキノ賞を受賞、本作が長編デビュー作。2011年、短編「Ping Pong Master」(12分)を監督、脚本、製作している。監督は姉が患っている精神障害に直面している家族を中心軸に、ドラマを展開させている。
(マリア・サネッティ監督)
キャスト:マイテ・アギラル(ロラ)、ミランダ・デ・ラ・セルナ、マリア・ウセド、ウォルター・ジャコブ
ストーリー:16歳のロラは、ドイツでのセメスターの可能性が出てきたことで、再受験の勉強に取りくむことにした。ロラはドイツに留学したいと思っているが、姉の精神医学的問題に行き詰っている家族は、ロラが断念してくれることを願っている。家族との軋轢に疲労して安定を失っているロラは、自分の考えを推し進めながら、自分自身と彼女を取り巻く状況の両方について、別の視点で見ることができる新しい経験を見つけようとしています。
(左から、パウラ・エルナンデス、カロリナ・マルコヴィッチ、マリア・サネッティ、
ドロレス・フォンシの4 監督)
オリソンテス・ラティノス部門 ②*サンセバスチャン映画祭2023 ⑩ ― 2023年08月23日 14:51
タティアナ・ウエソが2作目「El eco / The Echo」で戻ってきた!
★サンセバスチャン映画祭 SSIFF も開幕1ヵ月をきり、連日のごとくニュースが配信されています。例えばセクション・オフィシアルのオープニング作品は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』、クロージング作品はイギリスの監督ジェームズ・マーシュの「Dance First」、マーシュ監督は英国史上、最高額、最高齢の金庫破りだったオールドボーイ窃盗団の実話に基づいて描いた『キング・オブ・シーヴズ』(18)が2021年に公開されている。両作ともアウト・オブ・コンペティション部門ノミネート作品であるため金貝賞には絡みません。さらに「ペルラク」部門18作品、「ネスト」部門12作品も相次いで発表されました。更に8月22日にはドノスティア栄誉賞の二人目の受賞者にビクトル・エリセがアナウンスされるなど急に慌ただしくなってきました。エリセはともかくとして、今年は時間的余裕がなく、アップはスペイン語、ポルトガル語映画に限らざるを得ません。今回はオリソンテス・ラティノ部門の続き、ドラマ2作、ドキュメンタリー2作の合計4作をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Clara se pierde en el bosque / Clara Gets Lost in the Woods」
アルゼンチン
監督:カミラ・ファブリ(ブエノスアイレス1989)、監督、脚本家、戯曲家、女優として多方面で活躍しているアルゼンチン同世代の期待の星。女優としてミゲル・コーハン、ベロニカ・チェン、フアン・ビジェガスの「Las Vegas」(18)、アレハンドロ・ホビックやルシア・フェレイラの短編に主演している。
(カミラ・ファブリ監督)
データ:脚本はカミラ・ファブリとマルティン・クラウトが共同執筆、2023年、スペイン語、ドラマ、86分、長編デビュー作。
キャスト:カミラ・ペラルタ(クララ)、アグスティン・ガリアルディ(ミゲル)、フリアン・ラルキエル・テラリーニ(イバン)、フロレンシア・ゴメス・ガルシア(エロイサ)、ソフィア・パロミノ(フアナ)、マイティナ・デ・マルコ(パウリナ)、ペドロ・ガルシア・ナルバイツ(フアン)、マルティア・チャモロ(マルティナ)、カミラ・ファブリ(イネス)、フリアン・インファンティノ(マルティン)、ほか
ストーリー:クララは都会を離れて郊外に家族と小旅行中に、幼馴染の友人マルティナからの母性のアイディアを前面に押し出したメッセージを受けとった。マルティナとはレプブリカ・クロマニョン・クラブで起きた悲劇の一夜を共にしていた。一連のWhatsApp Messengerのテキスト、ホームビデオ、家族とランチする現在と現実のショット、危機と悲劇によって荒廃した都会での彼女自身や友人たちの思春期がつぶさに語られる。レプブリカ・クロマニョン・クラブの悲劇というのは、2004年12月30日の夜にブエノスアイレスのオンセ地区で開催されていたロック・イベント中に193人の命が奪われた大火災をさす。
(撮影中の監督とクララ役のカミラ・ペラルタ)
6)「El castillo / The Castle」アルゼンチン=フランス=スペイン
ドキュメンタリー
監督:マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)、作品紹介、監督のキャリア&フィルモグラフィーは、以下にアップ済みです。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年07月21日
7)「El Eco / The Echo」メキシコ=ドイツ
監督:タティアナ・ウエソ(サンサルバドル1972)監督、脚本家。監督のキャリア&フィルモグラフィーは、SSIFF 2021の同部門のオリソンテス賞以下3冠に輝いた「Noche de fuego」にアップしています。新作は、架空の要素が多く含まれているが、メキシコ高地にある村エルエコの子供たちを描いている。監督はメキシコ北部のある村に逗留して、ほぼ1年間掛けて撮影している。監督の子供時代の体験が投影されている。ウエソはエルサルバドル出身だが、4歳のとき両親に連れられてメキシコに移住している。2011年の「El lugar más pequeño」、2016年の「Tempestad」、新作「El Eco」をもって「痛みとトラウマ」三部作を完結したことになる。
*「Noche de fuego」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月19日
データ:脚本タティアナ・ウエソ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、102分。本作は既にベルリン映画祭2023でプレミアされ、エンカウンターズ部門の監督賞とドキュメンタリー賞を受賞している他、香港映画祭ドキュメンタリー賞ノミネート、シアトル映画祭ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、リマ映画祭ドキュメンタリー賞、エルサレム映画祭シャンテル・アケルマン賞を受賞している。
(タティアナ・ウエソ、ベルリン映画祭2023ドキュメンタリー作品賞のガラから)
キャスト:モンセラ・エルナンデス(モンセ)、マリア・デ・ロス・アンヘレス・パチェコ・タピア(祖母アンヘレス)、ルス・マリア・バスケス・ゴンサレス(ルス)、サライ・ロハス・エルナンデス(サライ)、ウィリアム・アントニオ・バスケス・ゴンサレス(トーニョ)、他多数
ストーリー:メキシコ北部の人里離れた村エル・エコは、子沢山の家族が多く、生活は貧しく、子供たちは羊と年長者たちの世話をしています。孫娘は祖母が死ぬまで世話をしなければなりません。霜と旱魃が村を苦しめます。子供たちは両親の話す言葉と沈黙から、死、病気、愛を理解することを学びます。エコは魂のなかにあるもの、周りの人々からうける確実な暖かさ、人生で直面する反逆と眩暈について、成長についての物語です。
8)「Estranho caminho / A Strange Path(Extraño camino)」ブラジル
WIP Latam 2022 作品
監督:グト・パレンテ(セアラ州都フォルタレザ1983)は、監督、脚本家、撮影監督、俳優。長編10作目になる。WIP Latem 2022の最優秀賞作品賞受賞作。
*脚本グト・パレンテ、撮影リンガ・アカシオ、美術タイス・アウグスト、録音ルカス・コエーリョ、編集ビクトル・コスタ・ロペス、ティシアナ・アウグスト・リマ、タイス・アウグスト、グト・パレンテ。トライベッカ映画祭2023では、父親ジェラルド役のカルロス・フランシスコが説得ある演技で主演男優賞を受賞している。
(デビッド役のルカス・リメイラ)
データ:製作国ブラジル、2023年、ポルトガル語、ミステリー、85分、トライベッカ映画祭2023で国際コンペティション部門の作品賞、脚本賞、監督賞、カルロス・フランシスコが主演男優賞を受賞するなど4冠を制した。撮影地フォルタレザ。セアラ州文化省からの資金提供を受けている。
(父親役のカルロス・フランシスコ)
キャスト:ルカス・リメイラ(デビッド)、カルロス・フランシスコ(父ジェラルド)、リタ・カバソ(テレサ)、タルツィア・フィルミノ(ドナ・モサ)、レナン・カピバラ(レナン)、アナ・マルレネ(マリアナ先生)、他多数
ストーリー:若い映画背作者デビッドは、映画祭で自作を発表するため生れ故郷のブラジルに向かっています。到着すると新型コロナのパンデミックが急速に全国に広がり始めていた。映画祭は中止され、空港が封鎖されたため帰国便もキャンセルされてしまう。デビッドは滞在先を必要としており、十年以上話していない風変わりな男である父親ジェラルドを訪ねることにする。彼が父親のアパートに到着すると、奇妙なことが起こり始めます。デビッドの軌跡を辿るドラマ。和解の痛み、不条理の喜びの表現などが描かれる。
(カミラ・ファブリ、マルティン・ベンチモル、タティアナ・ウエソ、グト・パレンテ)
オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪ ― 2023年08月31日 11:11
ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート
★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。
*オリソンテス・ラティノス部門 ③*
9)「Heroico / Heroic」メキシコ
監督:ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。
(ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)
データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88分
キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ
ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。
10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画
監督:フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。
★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。
*作品&監督紹介記事は、コチラ⇒2023年05年15日
(フェリペ・ガルベス監督)
11)「Los impactados」アルゼンチン
監督:ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。
★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。
*監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ⇒2013年10月23日
*『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ⇒2013年10月11日
(ルシア・プエンソ監督)
データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90分
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)
ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。
(アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)
4)「Tótem / Totem 」メキシコ
監督:リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。
*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。
(リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023)
データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ
キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数
ストーリー:7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。
(ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)
(左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)
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