グスタボ・ロンドン・コルドバの「La familia」*カンヌ映画祭2017 ③2017年04月28日 21:37

         ベルリナーレ・タレントからカンヌの「批評家週間」へ

 

   

★ベネズエラは南米でも映画は発展途上国、当ブログでもミゲル・フェラリのAzul y no rosa13)、アルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(ラテンビート2014)、マリオ・クレスポのデビュー作Lo que lleve el rio15)、ロレンソ・ビガスがベネチア映画祭2015で金獅子賞を受賞した『彼方から』(ラテンビート2016)など数えるほどしかありません。国家予算の大半をアブラに頼っているベネズエラでは、最近の原油安はハイパー・インフレを生み、カラカスでは先月から1か月も抗議デモが続いています。マドゥロ大統領は催涙ガスでデモ隊に応戦、町中はガスが充満して、デモでの死者は24人と海外ニュースは報じています(426日調べ)。国債急落、貧困や犯罪に苦しむ国民は、大統領選挙と総選挙を求めていますが、マドゥラ大統領にその気はないようです。そんな困難をきわめるベネズエラから今年のカンヌの作品紹介を始めたいと思います。

 

グスタボ・ロンドン・コルドバのデビュー作La familiaは、イベロアメリカ諸国の映画製作を援助しているIbermediaプロジェクトのワークショップ、オアハカ・スクリーンライターズのラボなどを経た後、2014年の「ベルリナーレ・タレント・プロジェクト・マーケット」(デモテープや未完成作品を専任の審査員が選ぶ)から本格的に始動した。続いてカンヌ映画祭2014の「ラ・ファブリケ・シネマ・デュ・モンド」(若い才能の発掘と促進を目指す組織)で完成させ、今年の「批評家週間」に正式出品されることになった作品。

 

   La familia 2017 

製作:Factor RH Producciones / La Pantalla Producciones(ベネズエラ)/ Avira Films(チリ)

   / Dag Hoels(ノルウェー)/ 協賛:CNAC Centro Nacional Autónomo de Cinematografía

監督・脚本・製作者:グスタボ・ロンドン・コルドバ

助監督:マリアンヌ・Amelinckx

撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ

録音:マウリシオ・ロペス、イボ・モラガ

製作者:ナタリア・マチャード、マリアネラ・イリャス、ルベン・シエラ・サリェス、

    ロドルフォ・コバ、ダグ・ホエル、アルバロ・デ・ラ・バラ

データ:製作国べネズエラ=チリ=ノルウェー、スペイン語、2017年、ドラマ、82分、プログラム・イベルメディア、ノルウェーのSorfondの基金をうけている。

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2017「批評家週間」正式出品

キャスト:ジョバンニ・ガルシア(父親アンドレス)、レジー・レイェス(息子ペドロ)他

 

          

 

          (ペドロとアンドレス、映画から)

 

プロット35歳のアンドレスは12歳になる息子のペドロとカラカス近郊のブルーカラーが多く暮らす地区に住んでいたが、二人は互いに干渉し合わなかった。アンドレスは日中は掛け持ちの仕事に明け暮れ、ペドロは仲間の少年たちとストリートをぶらつき、彼らから暴力の手ほどきを受けていた。彼を取りまく環境は日常的に暴力が支配していた。ある日ボール遊びの最中、ペドロは喧嘩となった少年を瓶で怪我させてしまう。それを知ったアンドレスは、復讐の予感に襲われ息子をこのバリオから避難させる決心をする。この状況は息子をコントロールできない若い父親の身を危うくすることになるだろうが、同時に意図したことではないが、二人を近づけることにもなるだろう。

 

         La familia」のアイディアはどこから生まれたか

  

★表面的には取りたてて大きな事件が起こるわけではないが、目に見えない水面下では変化が起きているという映画のようです。監督は上記の「ラ・ファブリケ・シネマ・デュ・モンド」のインタビューで、本作のアイディア誕生について「数年前にある事件に巻き込まれたメンバーの家族を助けるということがあり、それがきっかけで家族をテーマにした短編を撮りたいと考えるようになった。だから最初は短編『家族』プロジェクトとしてスタートさせた」と答えている。だから非常に個人的な動機だったようです。ベネズエラと暴力はイコールみたいですが、監督は好きな作品として、ヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』84、パルムドール)や、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイランの『冬の街』03、カンヌ・グランプリ)を挙げている。特に『冬の街』については、「ストーリーはシンプルだが深い意味をもっていて、ラストシーンの美しさは忘れがたい」と語っている。表面的には静かだが、水面下では動いている映画が好みのようです。シンプルなストーリーで観客を感動させるのは難しい。

 

★他にアルゼンチンのリサンドロ・アロンソの『死者たち』04Los muertos」)、ダルデンヌ兄弟の『少年と自転車』11、カンヌ・グランプリ)に影響を受けたと語っている。おおよそ本作の傾向が見えてきます。リサンドロ・アロンソについては、『約束の地』14Jauja」)が公開された折に作品紹介と監督紹介をしております。「フランスの好きな映画監督2人を挙げてください」というインタビュアーに対して、ロベール・ブレッソンとジャック・オーディアールを挙げていました。ブレッソンは若手監督に人気がありますね。

『約束の地』の記事は、コチラ201571

  

グスタボ・ロンドン・コルドバGustavo Rondón Córdovaは、1977年カラカス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。ベネズエラ中央大学コミュニケーション学科の学位取得、チェコのプラハの演出芸術アカデミーからも映画演出の学位を取得している。ベネズエラ中央大学は1721年設立された南米最古の伝統校。本作は長編映画デビュー作であるが、過去に6作の短編を撮っており、ベルリン、カンヌ、ビアリッツ、トゥールーズ、トライベッカなどの国際映画祭に出品されている。「La linea del olvido」(0514分)、コメディ「¿Qué importa cuánto duran las pilas?」(0510分)、中で最新作のNostalgia12)は、ベルリン映画祭短編部門に正式出品された。

 

   

 

★キャスト紹介:ジョバンニ・ガルシアは、ロベール・カルサディリャのEl Amparo16、ベネズエラ=コロンビア)に出演している。サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」などにエントリーされた後、ビアリッツ映画祭(ラテンアメリカ・シネマ)観客賞、サンパウロ映画祭で脚本賞・新人監督賞、ハバナ映画祭でルーサー・キング賞を受賞するなどの話題作。1988年ベネズエラのエル・アンパロ市で実際に起きた、14名の漁師が虐殺された実話に基づいて映画化された。同作の編集を担当したのがグスタボ・ロンドン・コルドバ、またガルシアはプロデューサーとしても参画している。

 

    

    

『彼方から』 ロレンソ・ビガス*ラテンビート2016 ③2016年09月30日 15:40

         金獅子賞を初めて中南米にもたらしたベネズエラ映画

 

★若干古い作品のうえ複数回にわたって紹介しているので、分類2)再構成して1本化したほうがいいものとして纏めてみました。ロレンソ・ビガス『彼方から』Desde allá”)は、ベネチア映画祭2015では、From Afar”(「フロム・アファー」)の英語題で上映されました。従って当ブログでも同じタイトルでアップしていたものです。2015年のベネチアは世界の巨匠たち――アレクサンドル・ソクーロフ、アトム・エゴヤン、それにアモス・ギタイ――などの力作が目立った年でした。ビガス監督も「同じ土俵で競うなんて、本当に凄い。まだノミネーションが信じられない。デビュー作が三大映画祭のコンペティションに選ばれるなんてホントに少ないからね」と興奮気味でした。だから金獅子賞受賞など思ってもいなかったことでしょう。しかし長編は初めてですが、短編Los elefantes nunca olvidan2004、監督・脚本・製作、製作国メキシコ)が、カンヌ映画祭、モレリア映画祭その他で上映されるなど、ベネズエラではベテラン監督です。

 

    

            (金獅子賞を掲げたビガス監督、 ベネチア映画祭2015授賞式にて)

 

   『彼方から』Desde alláFrom Afar”)

製作:Factor RH Produccionesベネズエラ / Lucia Filmsメキシコ / Malandro Films(同)

監督・脚本・製作:ロレンソ・ビガス

脚本(共同):ギジェルモ・アリアガ

撮影:セルヒオ・アームストロング

製作者:エドガー・ラミレス(エグゼクティブ)、ガブリエル・リプステイン(同)、ギジェルモ・アリアガ、マイケル・フランコ、ロドルフォ・コバ

データ:製作国ベネズエラ­=メキシコ、スペイン語、201593分、撮影地カラカス

 

映画祭・映画賞:ベネチア映画祭金獅子賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門ベストパフォーマンス(ルイス・シルバ)、ビアリッツ(ラテンアメリカ・シネマ)映画祭男優賞(ルイス・シルバ)、ハバナ映画祭第1回監督作品賞、マイアミ映画祭脚本賞、テッサロニキ映画祭脚本賞&男優賞(アルフレッド・カストロ)、映画祭上映はトロント、ロンドン、モレリア他、世界の映画祭を駆け巡った。第25回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2016717日)上映作品。

 

キャスト:アルフレッド・カストロ(アルマンド)、ルイス・シルバ(エルデル)、ヘリコ・モンティーリャ、カテリナ・カルドソ、ホルヘ・ルイス・ボスケ、スカーレット・ハイメス、他初出演者多数

 

プロット:義歯技工士アルマンドの愛の物語。アルマンドはバス停留所で若い男を求めて待っている。自分の家に連れ込むためにはお金を払う。しかし一風変わっているのは、男たちが彼に触れることを受け入れない。二人のあいだにある「エモーショナルな隔たり」からのほのめかしだけを望んでいる。ところが或るとき、不良グループのリーダー、エルデルを誘ったことで運命が狂いだす。アルマンドを殴打で瀕死の状態にしたエルデルの出会いを機に彼の人生は破滅に向かっていく。タイトルの“Desde allá”は「遠い場所から」触れることのない関係を意味して付けられた。「愛の物語」ではあるが、ベネズエラの今日を照射する極めて社会的政治的な作品。 

 

  

                    (二人の主人公、アルマンドとエルデル、映画から)

 

主役のアルフレッド・カストロはチリのベテラン俳優、パブロ・ララインの「ピノチェト三部作」ほか全作の殆どに出演しており、当ブログでも再三登場させています(ララインの最新作“Jackie”はアメリカ映画で例外です)。他のキャストはテレビや脇役で映画出演しているだけのC・カルドソやS・ハイメス以外は、本作が初出演のようです。ベネチアでは「エルデル役のルイス・シルバは映画初出演ながら、ガエル・ガルシア・ベルナルのようなスーパースターになる逸材」と監督は語っておりましたが、その後の映画祭受賞歴をみれば当たっていたようです。

 

     

                            (アルフレッド・カストロ、映画から)

 

プロットからも背景に政治的なメタファーが隠されているのは明らかです。ベネズエラのような極端な階層社会では今日においても起こりうることだと監督。プロデューサーの顔ぶれからも想像できるように、ベネズエラ(エドガー・ラミレス『解放者ボリバル』、ロドルフォ・コバAzul y no tanto rosa)、メキシコ(ギジェルモ・アリアガ21グラム』『アモーレス・ペロス』、ミシェル・フランコ『父の秘密』『或る終焉』)と、ベテランから若手のプロデューサーや監督が関わっています。ミゲル・フェラーリ監督の“Azul y no tanto rosa”は、ゴヤ賞2014イベロアメリカ映画賞受賞作品です。

 

 

          *監督キャリア&フィルモグラフィー紹介

ロレンソ・ビガスLorenzo Bigas Castes1967年ベネズエラのメリダ生れ、監督、脚本家、製作者。大学では分子生物学を専攻した変わり種。それで「分子生物学と映画製作はどう結びつくの?」という質問を度々受けることになる。後にニューヨークに移住、1995年ニューヨーク大学で映画を学び、実験的な映画製作に専念した。1998年ベネズエラに帰国、ドキュメンタリー“Expedición”を撮る。1999年から2001年にかけてドキュメンタリー、CINESA社のテレビコマーシャルを製作、2003年、初の短編映画Los elefantes nunca olvidan13分、プレミア2004年)を撮り、カンヌ映画祭2004短編部門で上映され、高い評価を受ける。製作国はメキシコ、スペイン語。カンヌの他、モレリア映画祭、ウィスコンシン映画祭に出品された。共同製作者としてメキシコのギジェルモ・アリアガ、撮影監督にエクトル・オルテガが参画して撮られた。

 

★その後メキシコに渡り長編映画の脚本を執筆、それがDesde alláである。Los elefantes nunca olvidanから十年あまりで登場した長編がベネズエラに金獅子賞を運んできた。しかし「皆が気に入る映画を作る気はありません。ベネズエラを覆っているとても重たい社会的政治的経済的な問題について、人々が話し合うきっかけになること、隣国とも問題を共有していくことが映画製作の目的」というのが受賞の弁でした。政治体制の異なる隣国コロンビアやアルゼンチンの映画を見るのは難しいとビガス監督。

 

★また「映画は楽しみであるが、問題山積の国ではシネアストにはそれらの問題について、まずディベートを巻き起こす責任がある。だから議論を促す映画を作っている」と明言した。「階層を超えて、指導者たちも同じ土俵に上がってきて議論して欲しい。映画は中年男性の同性愛を扱っていますが、それがテーマではありません。最近顕著なのは混乱が日常的な国では、階層間の緊張が高まって、人々の感情が乏しくなっていること、それがテーマです。また父性も主軸です」とも。義歯技工士はお金を払った若者に触れようとせず彼方から見つめるだけ、父親と息子の関係を象徴しているようです。

 

     

      (左から、アルフレッド・カストロ、監督、ルイス・シルバ 2015年ベネチアにて)

 

今年のベネチア映画祭ではコンペティション部門の審査員の一人になり選ぶ立場になりました。彼自身もベネズエラではよく知られた画家だった父親オスワルド・ビガスを語ったドキュメンタリーEl vendedor de orquídeas(ベネズエラ、メキシコ)が特別上映される機会を得た。制作過程でメキシコのシネアスト、バレンティナ・レドゥク・ナバロの援助を得ることができた。オフェリア・メディーナがフリーダ・カーロに扮した『フリーダ』(83)やカルペンティエルの短編『バロック』(88)を映画化したポール・レドゥク監督の娘です。「感謝を捧げるドキュメンタリーにする気は全然なかった。父を特徴づける暗い痛ましい部分もいれて、70年代当時の美術界の動向を中心にすえた」と監督。「父は20144月に90歳で死ぬまで毎日描き続けた」とも。

 

★ミシェル・フランコの新作“Las hijas de abril”のプロデュースを手掛けているが、来年には長編第2La cajaに着手する。短編Los elefantes nunca olvidanと『彼方から』、次回作の3本を合わせて三部作にしたい由。

 

    

                       (父オスワルド・ビガス、自作をバックにして)

 

主な関連記事・管理人覚えは、コチラ⇒201588同年9月21日同年109


ベネズエラ映画*マリオ・クレスポのデビュー作”Lo que lleva el r:io”2015年12月28日 12:25

            オリノコ・デルタで暮らす少数民族女性の向上心と愛の物語

 

★本作はアカデミー賞とゴヤ賞2016のベネズエラ代表作品でしたが、前者はプレセレクションの段階で落選、後者もノミネーションには至りませんでした。主人公ダウナDaunaは、ベネズエラのオリノコ・デルタに暮らす少数民族ワラオWarao(またはグアラオGuarao)語族の若い女性、彼女は女性特有の役割を強制する「共同体」から脱出して、町の学校で勉強したいと願っている。年々グローバル化する多文化の世界で、二つの社会を行ったり来たりする女性の困難さが語られる。ヒロインのダウナにはグアラオ語族出身のヨルダナ・メドラノが扮する。

 

         

                      (ダウナ役のヨルダナ・メドラノ、映画から)

 

    Dauna, Lo que lleva el río”(“Gone with the River”)2014

製作:Asociación Civil Yakari / Alfarería Cinematográfica

監督・脚本・プロデューサー:マリオ・クレスポ

脚本(共同)・プロデューサー:イサベル・ロレンス

音楽:アロンソ・トロ

撮影:ヘラルド・ウスカテギ

編集・プロデューサー:フェルミン・ブランヘル

衣装デザイン:フアン・カルロス・ビバス

メイクアップ:グスタボ・アドルフォ、ゴンサレス・バレシリョス

プロダクション・マネジメント:アドリアナ・エレラ

助監督:ルイス・フェルナンド・バスケス

音響:ガブリエル・デルガド・ペーターセン、グスタボ・ゴンサレス、他

 

データ:製作国 ベネズエラ、言語 ワラオ語・スペイン語(ワラオ語にはスペイン語字幕入り)、2014年、104分、製作費予算:626,500ドル(IMDbデータ)、撮影地 オリノコ・デルタ、カラカス、協賛CNAC Centro Nacional Autónoma de Cinematografía / IBERMEDIA 他、ベネズエラ公開320

 

受賞歴・映画祭上映:ベルリン映画祭2015正式出品、サンパウロ映画祭、モントリオール映画祭、ハバナ映画祭サラ・ゴメス賞、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭スペシャル・メンションとイベロアメリカの現実を反映した映画に贈られる作品賞を受賞、バルセロナ・ラテンシネマ限定上映

 

キャスト:ヨルダナ・メドラノ(ダウナ)、エディー・ゴメス(タルシシオ)、ディエゴ・アルマンド・サラサール(フリオ神父)、他

 

プロット:オリノコ・デルタの北西で暮らす少数民族女性ダウナの向上心と愛の物語。語学の習得に優れた才能をもつダウナは、家族やフリオ神父の助けを借りて勉学に励んだ。子供の頃に将来を誓い合った恋人タルシシオも忍耐強く彼女を支えた。しかしどうしたらワラオ共同体の社会的圧力をはねつければいいのか、その術が分からなかった。ダウナのタルシシオへの愛に偽りはなかったが、彼が共同体の伝統に縛られ、いずれ敗北してしまうのではないかと怖れていた。

 

           

                            (ダウナとタルシシオ、映画から)

 

マリオ・クレスポ Mario Crespo 監督は、1949年キューバ生れ、脚本家、製作者、監督。チャベス政権初期の2000年、話者およそ35,000人を有する国内第2位のワラオ語消滅の危機を回避するためと少数民族の歴史的記憶の復権などの目的でベネズエラに赴いた。2001年、共同体のメンバーにビデオ撮影の技術指導をするため現地入りした。以後ベネズエラに定住しで映画製作に携わっている。ドキュメンタリー作家としての経歴が長く、65歳にして今回初めて長編劇映画に挑戦した。本作の構想は10年前から始まり、現地の数家族と居を共にして日常生活を観察しながら取材を重ねた。その後、共同脚本家のイサベル・ロレンスと二人で構想を練った。

 

 

 (ポスターを背にマリオ・クレスポ監督

 

★イサベル・ロレンスは、脚本家の言葉として〈闘う女性〉の姿を描き出したかった。例えばダウナは映画の4分の3、約1時間もスクリーンに登場、少数民族の女性が負わされている複雑に絡みあった困難に直面している。「どんな環境に暮らそうとも、いかなる人も、男でも女でも、何かを学びたいと考えるのは自然だ」というクレスポの言葉に共感していると語っている。

 

★本作はワラオ語とスペイン語のバイリンガルで撮られた世界初のフィクションになる。監督によると、「まずスペイン語の脚本をワラオ語に翻訳することから始めた。ところが出演者の大多数は字が読めないからワラオ語の台本作りは徒労に終わった。それでこれから撮影するシーンを何回も口頭で説明した。どんなシチュエーションなのか、彼らが理解しやすく内面化できるように記述を工夫した」と語っている。

 

★少ない資金のため夜間のシーン以外は照明を使用せず、撮り直しを避けて2台のカメラで撮影した。それは本作がドキュメンタリー要素の強いフィクションなので、即興で起る新鮮さを失わないためでもあった。例えば、まだ子供だったタルシシオが友達のダウナにプロポーズするシーンを撮っているとき、彼は恥ずかしくて両手で顔を被ってしまった。これはホンにはなかったことで、繰り返し撮ろうとしても上手くいかなかったろう。ワラオの人はとても控えめで、撮影の中断や繰り返しを自分たちのせいと思ってしまうのだろう。製作費はベネズエラのCNACIBERMEDIAの援助を受け、最終的には750万ボリーバル(約120万ドルに相当)だった。

  

      

               (ヨルダナ・メドラノ、クレスポ監督、ベルリン映画祭にて)

 

★配給会社探しは困難を極めたらしい。ワラオ語の映画と聞けば、大抵の配給元は尻込みするだろう。移動スクリーンを使用して現地で撮影会をした。集まった出演者の驚きは相当なものだったらしい。映画後進国ベネズエラの近年の躍進には目を見張るものがあり、当ブログで記事にしたロレンソ・ビガスの“Desde allá”(ベネチア映画祭2015金獅子賞)、マリアナ・ロンドンPelo malo”(サンセバスチャン映画祭2013金貝賞)、ミゲル・フェラリAzul y no rosa”(ゴヤ賞2014イベロアメリカ映画賞)などが記憶に新しい。

 

★つい最近126日にあった議会選挙では、1999年より政権をとっていたベネズエラ統一党が大敗を喫し、反チャベスの民主統一会議が勝利した。中国の出方にもよるが政治地図は大きく変わらざるをえない。国家の予算の大半を原油に頼るベネズエラでは、昨今の原油安は危急存亡の秋かもしれない。マドゥロ大統領の任期は2019年まであるが、ハイパー・インフレに苦しむ国民の忍耐が何時まで続くか、前途は厳しいのではないか。映画文化も無縁ではいられない。


第72回ベネチア映画祭2015*ノミネーション発表 ②2015年08月08日 18:35

      ベネズエラ初のコンペティションに選ばれたロレンソ・ビガスの快挙

 

★初監督作品とはいえビガス監督はベテランです。前回パブロ・トラペロの“El clan”をご紹介いたしましたが、彼と同じ傾向の気難しい社会派監督の印象です。今年のベネチアは世界の巨匠たち、粒揃いの力作が目立ちますが、「アレクサンドル・ソクーロフ、アトム・エゴヤン、それにアモス・ギタイと同じ土俵で競うなんて、本当に凄い。まだノミネーションが信じられない。デビュー作が三大映画祭のコンペティションに選ばれるなんてホントに少ないからね」とビガス監督もかなり興奮しています。まずは作品紹介から。

 

   Desde alláロレンソ・ビガス、ベネズエラ、2015

製作Factor RH Producciones / Lucia Films / Malandro Films

監督・脚本・プロデューサー:ロレンソ・ビガス

脚本(共同):ギジェルモ・アリアガ

撮影:セルヒオ・アームストロング

プロデューサー:ギジェルモ・アリアガ、ミシェル・フランコ、ロドルフォ・コバ、エドガー・ラミレス(エグゼクティブ・プロデューサー)、ガブリエル・リプステイン(同)

データ:ベネズエラ=メキシコ、スペイン語、2015、ドラマ、93分

キャスト:アルフレッド・カストロ(アルマンド)、ルイス・シルバ(エルデル)、カテリナ・カルドソ、ホルヘ・ルイス・ボスケ、スカーレット・ハイメス、他初出演者多数

 

プロット:歯科技工士アルマンドの愛の物語。アルマンドはバス停留所で若い男を求めて待っている。自分の家に連れ込むためにはお金を払う。しかし一風変わっていて、男たちが彼に触れることを受け入れない。二人のあいだにある「エモーショナルな隔たり」からのほのめかしだけを望んでいる。ところが或るとき、彼を殴打で瀕死の状態にした男に出会ったことで、彼の人生は突然破滅に向かっていく。タイトルの“Desde allá”は「遠い場所から」触れることのない関係を意味して付けられた。 


トレビア:短編Los elefantes nunca olvidanから十年余の沈黙を破って登場した長編は、プロットからも背景に政治的なメタファーが隠されているのは明らかです。ベネズエラのような極端な階層社会では今日においても起こりうることだと監督。プロデューサーの顔ぶれからも想像できるように、ベネズエラ(エドガー・ラミレス『解放者ボリバル』、ロドルフォ・コバAzul y no tanto rosa)、メキシコ(ギジェルモ・アリアガ『21グラム』『アモーレス・ペロス』、ミシェル・フランコ『父の秘密』“Chronic)と、ベテランから若手のプロデューサーや監督が関わっている(E・ラミレスはボリバルに扮した)。本作と短編、既にタイトルも決まっている次回作La caja3本を合わせて三部作にしたい由。

 

主役のアルフレッド・カストロはチリのベテラン俳優、パブロ・ララインのピノチェト三部作ほか殆ど全作に出演しており、当ブログでも再三登場してもらっています。他のキャストはテレビや脇役で映画出演しているだけのC・カルドソやS・ハイメス以外は、本作が初出演のようです。監督によると、エルデル役のルイス・シルバは映画初出演ながら、ガエル・ガルシア・ベルナルのようなスーパースターになる逸材とか。しかし、かなり厳しい内容なのでベネチアの審査員や観客を説得できるかどうか。(アルフレッド・カストロ、映画から)

 


監督キャリア & フィルモグラフィー紹介

ロレンソ・ビガスLorenzo Bigas Castes1967年ベネズエラのメリダ生れ、監督、脚本家、製作者。クリスチャン・ネームは一応スペイン語表記にしましたが、イタリア語のロレンツォかもしれません。大学では分子生物学を専攻した変わり種。それで「分子生物学と映画製作はどう結びつくの?」という質問を度々受けることになる。後にニューヨークに移住、1995年ニューヨーク大学で映画を学び、実験的な映画製作に専念した。1998年ベネズエラに帰国、ドキュメンタリー“Expedición”を撮る。1999年から2001年にかけてドキュメンタリー、CINESA社のテレビコマーシャルを製作、2003年、初の短編映画Los elefantes nunca olvidan13分、プレミア2004年)を撮り、カンヌ映画祭2004短編部門で上映され、高い評価を受ける。共同製作者としてメキシコのギジェルモ・アリアガ、撮影監督にエクトル・オルテガが参画して撮られた。その後メキシコに渡り長編映画の脚本を執筆、それが今回ベネチア映画祭ノミネーションのDesde alláである。 


2004Los elefantes nunca olvidan短編、監督・脚本・製作、製作国メキシコ、スペイン語。カンヌ映画祭の他、モレリア映画祭、ウィスコンシン映画祭で上映される(写真下)。

2015Desde allá長編第1作、監督・脚本・製作

 


*関連記事・管理人覚え

『解放者ボリバル』の記事は、コチラ⇒201391620141027

Azul y no tanto rosa ゴヤ賞2014イベロアメリカ部門紹介記事はコチラ2014115

『父の秘密』の記事は、コチラ20131120

Chronic カンヌ映画祭2015の記事は、コチラ⇒2015528

 

アルベルト・アルベロ”Libertador”*トロント国際映画祭④2013年09月16日 11:06

 

★トロント第4弾は、「ガラ・プレゼン」に唯一エントリーされたベネズエラ=スペイン合作のベネズエラ映画、英題The Liberator2013)、何かの賞に絡むことを祈ってご紹介。ベネズエラ解放独立の父シモン・ボリーバル(17831830)の栄光と挫折の日々を描く力作。今年はボリーバル生誕230年ということから、3人の監督がそれぞれの視点から≪ボリーバル映画≫を製作しています。つまり3人のボリーバル誕生です。その一人が本作登場のエドガー・ラミレスです。あのオリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』(2010LBFF2011上映)で伝説のテロリスト、カルロス・ザ・ジャッカルを演じた俳優。

 

監督紹介

アルベルト・アルベロ(・メンドーサ)Alberto Arvelo Mendoza1966年カラカス生れ。監督、脚本家、撮影監督。詩人アルベルト・アルベロ・ラモスを父に、音楽家アルベルト・アルベロ・トレアルバの孫。ロスアンデス大学で歴史を専攻、1986年に監督・脚本家としてデビューする。

1986Candelas en la niebla”“La canción de la montaña共に監督・脚本。

1997Una vida y dos mandados(One Life and Two Trails)同上。Freddy Sosa の同名小説の映画化、ニューヨークのラテンアメリカ映画祭で脚本賞を受賞。

2001Una casa con vista al mar(“Hause with a View of the Sea)同上。ビアリッツ、ウエルバ国際映画祭等で観客賞受賞。ハバナ映画祭でグラウベル・ローシャ賞も受賞(イマノル・アリアスやレアンドロ・アルベロが出演)。

2004Habana, Havana同上

2006Tocar y lucharTo Play and To Fightドキュメンタリー

2007Cyrano Fernández監督・脚本。

2013Libertador同上。

 

「シモン・ボリーバル・ユース・オーケストラ・システム」の沿革をインタビューと演奏を交えて製作したドキュメンタリー。プラシド・ドミンゴ、クラウディオ・アバド、サー・サイモン・ラトル、ジュゼッペ・シノーポリ、などなどを感動させ出演させた感動の記録。グスタボ・ドゥダメルの若い指導者の熱意と謙虚さに拍手。楽器を触るどころか見ることもなかった貧しい子供たちにクラシック音楽を楽しむことで人生を豊かにしていく軌跡は涙なしには見られない。マイアミ映画祭の観客賞を皮きりに、ヒューストンのラスアメリカス映画祭ドキュメンタリー賞、シカゴのラテン映画祭審査員特別賞、ベネズエラ国内のドキュメンタリー部門の賞を攫った。本作は20112月公開されたシネ響「マエストロ6」の一環として製作された映画『グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ』とは別の作品です。オーケストラは来日公演をしておりますからライブを聴かれた方もいらっしゃるでしょう。

(写真上:Libertadorをバックにアルベルト・アルベロ)

 

 キャスト

シモン・ボリーバル:エドガー・ラミレス

マリア・テレサ・ボリーバル妻:マリア・バルべルデ

アントニオ・ホセ・デ・スクレ将軍:エーリヒ・Wildpret

マヌエラ・サエンス:フアナ・アコスタ

ほか、Una casa con vista al marに出演したイマノル・アリアスとレアンドロ・アルベロ、ダニー・ヒューストンなど。

  

 
エドガー・ラミレス Edgar Ramírez 1977年ベネズエラのサン・クリストバル生れ。カラカスのカトリカ・アンドレス・ベジョ大学で社会情報学を専攻。武官だった父親の移動に伴って各国に滞在、母国語以外の英伊独仏語に通じている。2011年、『カルロス』でフランスのアカデミー賞と言われるセザール新人男優賞を受賞した。同年ゴールデン・グローブ賞ノミネート。フェリペ・オロスコのコロンビア=メキシコ=USA合作Saluda al diablo de mi parte11)に主役で出演と活躍の場を広げている。英語ができることから『ドミノ』(05)以来、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)など、ハリウッド映画出演も増えている。
アレバロ監督作品としては
Cyrano Fernándezにフェルナンデス役で起用されていた。

(写真:エドガー・ラミレス、20115月カンヌにて)

 

Erich  Wildpret ベネズエラの国立演劇学校で教育を受けた。メキシコ、イギリスでも学び、特に重要なのは新分野に挑戦しようとロスアンジェルスでも学んだこと。2010年あたりからベネズエラで活躍、今ではベネズエラの中心的存在となっています。ホセ・(ラモン・)ノボアのUn lugar lejano2010A Distant Place)の主役、マルガリータ・カデナスのデビュー作Cenizas eternas2011Eternal Ashes)に出演、本作はモントリオール国際映画祭金賞にノミネートされた。ホセ・ノボアは東京国際映画祭1995Sicarioが『少年ハイロ、迷走の果て』の邦題で上映され、最優秀監督賞を受賞したウルグアイの監督。

 

Libertador製作中から期待も大きく、数多くのインタビューに応じています。難しいのはボリーバルという誰でも名前なら知っている革命家にして思想家でもあった人間の複雑な性格というか生き方だったそうです。テーマがあまりに大きすぎて、どこから手をつけたらいいのか、何を入れ何を外すか、それで映画を撮る前に、まずスペイン内戦をテーマにした映画を見ることから始めたと。6年の沈黙は長すぎたと思いますが、言われてみれば分かることですね。ガルシア・マルケスの『迷宮の将軍』(新潮社刊)を読まれた方は納得してもらえると思います。

  

クラウディア・ピント*モントリオール国祭映画祭②2013年09月05日 17:48

★クラウディア・ピントのデビュー作“La distancia más larga”(2013、ベネズエラ/スペイン、英題“The Longest Distance”)が、ラテンアメリカ映画にシフトした「グラウベル・ローシャ賞」を受賞しました。そう、ブラジルのニューシネマ「シネマ・ノーヴォ」の旗手ローシャの名前を冠した賞です。受賞が分かった時点でカラカスは大騒ぎのようです。ノミネートの段階でもしかしたらと期待していた作品でしたので嬉しい。もう予告編だけでも舞台となるグラン・サバナの景色、滝の美しさにドキドキします。

★60代のマルティナ(カルメ・エリアス)がスペインからベネズエラ南西部にあるグラン・サバナ(生れ故郷)に人生最後の旅にやってくる。ここロライマ山(2800m)の麓には彼女のかつての幸福が詰まっていたからである。ところが予期せぬ孫ルーカス(オマール・モヤ)の訪問で次第に最初の計画が狂っていく。家族の出会いとすれ違い、過去の自分に向き合うことになる。

★マルティナを演じるカルメ・エリアスは「ラテンビート2009」の目玉だった『カミーノ』の母役をした人。それ以前にもアルモドバルの『私の秘密の花』に出てましたが。スペインの大女優エリアスがグラン・サバナに撮影に来るという新聞報道もされた。神秘的な雰囲気がこのマルティナ役にはぴったりです。

★オマール・モヤは初出演、脇役のアウレック・ワイート(1990、カラカス生れ)も映画は初出演だがキャリアのある俳優らしい。暗い過去を持つミステリアスなカジェモ役にうってつけ、公開されたら若い女性ファンはほっとかないと思います。

★スペイン語映画が大好きなテーマの一つがこの<移動>です。それは“Puerto padre”のダニエルのような未来に向かう旅であったり、マルティナのような死出の旅であったりするが移動に変わりない。メキシコのレイガーダスの第1作『ハポン』も最新作『闇の後の光』も主人公は移動する。自分を未知の世界に連れていくことはそれだけでドラマですから。
(写真:グラン・サバナ、遠くにロライマ山が見える)