『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞*ラテンビート2019 ④ ― 2019年10月17日 13:52
アレハンドロ・ランデスの『猿』がロンドン映画祭で作品賞受賞

★例年10月に開催される英国最大規模の映画祭、第63回BFIロンドン映画祭2019(10月2日~13日)が閉幕、オフィシャル・コンペティション部門にノミネートされていたコロンビアのアレハンドロ・ランデスの『猿』(「Monos」)が最優秀作品賞を受賞しました(今年は3作品が受賞)。昨年はクリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの『夏の鳥』が特別推薦賞(スペシャル・コメンデーション)を受賞しているから、冗談ですがコロンビアは相性がいいのかもしれない。今年は審査委員長が英国のテレビ、ドキュメンタリーや独立系の映画監督ウオッシュ・ウェストモアランドだったので、ランデス監督は秘かに期待してガラまで待機していたのではないか。20年来のパートナーだった故リチャード・グラッツァー(ALSで死去)と共同監督した『アリスのままで』は忘れられない作品でした。


(インタビューを受けるアレハンドロ・ランデス監督、BFIロンドン映画祭にて)
★サンセバスチャン映画祭(ホライズンズ・ラティノ部門)では、個人的に期待していたのですが残念賞でした。ロンドンで受賞できたのはラテンビートにとって嬉しいニュースになりました。年初のサンダンス映画祭以来、ベルリンFFパノラマ部門、カルタヘナFFと、世界の映画祭巡りをしてきたわけで、終盤での受賞は待った甲斐がありました。

ペドロ・アルモドバル 「栄誉金獅子賞」 受賞*ベネチア映画祭2019 ① ― 2019年06月15日 17:50
第76回ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」にペドロ・アルモドバル
★6月14日、映画祭主催者から第76回ベネチア映画祭2019の「栄誉金獅子賞」をペドロ・アルモドバルに授賞するとの発表がありました。今年は8月28日から9月7日まで開催されます。新作「Dolor y gloria」のスペインでの入場者チケットが92万枚、イタリアでも封切り4週間め調べで45万枚と好調です。だからというわけではないでしょうが、アルモドバルは「ルイス・ブニュエル以来スペインで最も影響力の大きい監督」、国際映画祭でも非常にエモーショナルな作品を製作していることが授賞理由のようです。因みにルイス・ブニュエルは、1969年から始まった栄誉金獅子賞の第1回受賞者でした。

(主な出演者に囲まれてファンに挨拶するアルモドバル監督、カンヌ映画祭2019、5月)
★最近の受賞者は複数が続いているので、この後もう一人アナウンスされるかもしれません。2018年はイギリスの女優ヴァネッサ・レッドグレーヴとデイヴィッド・クローネンバーグ監督、2017年はリテーシュ・バトラが監督した『夜が明けるまで』に共演したロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ、2016年はジャン=ポール・ベルモンドとイエジー・スコリモフスキ監督でした。
★アルモドバルは授賞の知らせに「この栄誉賞という贈り物に感激と栄誉でいっぱいです。ベネチアには良い思い出しかありません。私が国際舞台にデビューしたのがベネチアで、1983年の『バチ当たり修道院の最期』、1988年の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』もベネチアでした。この栄誉賞は私のお守りにいたします。このような賞を与えてくれた映画祭に心から感謝いたします」と喜びを語った。

(新作「Dolor y gloria」ポスター)
★そろそろ秋の映画祭のニュースが飛び込むようになってきました。
イベロアメリカ・フェニックス賞財政難で一旦休止のニュース ― 2019年04月07日 15:29
ない袖は振れない苦しい台所事情も政治がらみか?

(黒いフェニックスの卵)
★毎年初冬の11月に開催されていた「イベロアメリカ・フェニックス賞」が、メキシコ当局による財政援助が難しくなり、やむなく休止に追い込まれてしまいました。第1回が2014年でしたから、たったの5回しか開催されなかったことになります。イベロアメリカと銘打たれておりましたが、選考母体は2012年創設されたばかりの「Cinema 23」でメキシコ主導の映画賞、授賞式開催国は持ち回りでなくメキシコと決まっていました。元宗主国のスペインとポルトガルも参加してノミネーションはされましたが、グランプリに輝くことはついぞありませんでした。

(第1回グランプリ作品ディエゴ・ケマダ=ディエスの「金の鳥籠」、授賞式から)
★2017年には、TVシリーズ部門にNetflixオリジナル作品の参加を開始、Netflixに門戸を開いた。麻薬王エスコバルの誕生から死までを描いた『ナルコス』がドラマ部門で、コメディ部門でも『クラブ・デ・クエルボス』が受賞した。第5回の2018年には『ペーパー・ハウス』が受賞、さらに「ネットフリックス・プリマ・オペラ賞」を設けて盛上げに協力し始めていたのですが、所詮焼け石に水だったようです。

(TVシリーズ部門、2018年受賞作『ペーパー・ハウス』Netflix)
★本映画賞の二大資金援助はメキシコの連邦政府と地方政府だったようで、主催者によると両者の折合いが難航、回答が貰えなかったことが休止の主たる理由だという。メキシコ新大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドルは、一部の反汚職運動のような市民団体への助成金カットを数週間前に発表していた。政権批判をして論争のタネを振りまくNGOや文化団体には援助したくないのでしょう。そういう意味では本映画賞は、受賞作品を一瞥すれば一目瞭然、かなり政治的な色合いが濃く、援助カットの標的になってもおかしくない。第1回授賞式は、メキシコの麻薬密売組織に関係している政治家や警察関係者による学生43名の失踪殺害事件を厳しく批判、第5回はフェミニズム運動、特にアルゼンチンでの妊娠中絶合法化のシンボル緑のハンカチ運動など、毎年ラテンアメリカ諸国政府への「No」を鮮明にしている。
第1回作品賞2014『金の鳥籠』(メキシコ)ディエゴ・ケマダ=ディエス監督
第2回作品賞2015『ザ・クラブ』(チリ)パブロ・ラライン監督
第3回作品賞2016『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(チリ)パブロ・ラライン監督
第4回作品賞2017『ナチュラルウーマン』(チリ)セバスティアン・レリオ監督
第5回作品賞2018『夏の鳥』(コロンビア)クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ共同監督

(第3回作品賞『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、
トロフィーを手にしたネルーダ役のルイス・ニェッコ、刑事役のG.G.ベルナル)
(第4回作品賞『ナチュラルウーマン』で女優賞に輝いたダニエラ・ベガ)

(第5回作品賞『夏の鳥』ガラ、緑のハンカチを巻いたクリスティナ・ガジェゴ監督とスタッフ)
★残念なニュースですが、再開を願って2020年を待ちましょうか。
『オフィシャル・ストーリー』にラテン金の映画賞*マラガ映画祭2019 ⑪ ― 2019年03月31日 11:53
「ラテン金の映画賞」にルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』

(養父母に扮したエクトル・アルテリオとノルマ・アレアンドロ、養女役アナリア・カストロ)
★今回から「ラテン金の映画賞」が始まり、第1回目はルイス・プエンソのアルゼンチン映画『オフィシャル・ストーリー』(La historia oficial)が選ばれました。1986年に南米大陸に初のアカデミー外国語映画賞のオスカー像をもたらした映画、さらにゴールデン・グローブ賞も受賞しており、両賞を受賞した唯一のアルゼンチン映画でもある。その他カンヌ映画祭1985審査員エキュメニカル賞、養母を演じたノルマ・アレアンドロが女優賞を受賞している。そのほか銀のコンドル賞など数々の国際映画賞を受賞しており、今回の「ラテン金の映画賞」受賞は文句なしと言えるでしょうか。アルゼンチンが次にオスカー像を手にするには2009年のフアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』まで待たねばならなかった。
★2016年、公開30周年を記念して修復版が再上映されています。公開30年後のプレス会見で、民主化されたとはいえ軍事独裁政権(1976~83)の総括はなされていなかったから「撮影中には多くの脅迫や嫌がらせをうけた。当時4歳だった養女役のアナリア・カストロが撮影のため外出できないよう自宅を見張って妨害した」と監督は語っていた。また「脚本については、五月広場の祖母たちから貴重なデータや協力を受けた」とも語っています。有名なのは五月広場の母親たちですが、逮捕時に妊娠していた娘たちが出産後直ちに殺害されていたことが既に分かっていたから、孫捜索に切り替わっていた。『オフィシャル・ストーリー』で政府高官夫妻が養女にした子供の母親は、そういう犠牲者の一人でした。オフィシャルな歴史と現実は、往々にして一致しないものです。

(30年後の養母役ノルマ・アレアンドロ、監督、養女ガビを演じたアナリア・カストロ)
★3月21日、来マラガできなかったプエンソ監督の代理として、映画修復録音部門の責任者で、アルゼンチンの国立映画製作学校長、国立映画視聴覚芸術協会INCAA員のカルロス・アバテがビスナガのトロフィーを受け取った。彼はアルゼンチンのベテラン監督カルロス・ソリンやマルセロ・ピニェエロ、フアン・ホセ・カンパネラの録音を手掛けている。プレゼンターはマラガ・フェスティバル・プログラム委員会のメンバーの一人ミリト・トレイロ氏でした。

(カルロス・アバテとミリト・トレイロ、3月21日)
*ルイス・プエンソの代表作*
1985「La historia oficial」(『オフィシャル・ストーリー』)アルゼンチン
監督・脚本・製作、公開
1989「Old Gringo」(『私が愛したグリンゴ』)アメリカ、監督・脚本、公開
1992「La Peste」(『プレイグ』)フランス、監督、カミュの小説『ペスト』の映画化、公開
2004「La puta y la ballena」(『娼婦と鯨』)アルゼンチン=西、監督・脚本・製作、DVD
2007「XXY」(『XXY~性の意思~』)アルゼンチン、製作、監督ルシア・プエンソ、BSスカパー
(以上字幕入りで観られるもの)
第5回イベロアメリカ・フェニックス賞2018*結果発表 ― 2018年11月20日 15:18
コロンビアの『夏の鳥』が作品賞と女優賞にカルミニャ・マルティネス

★去る11月7日、メキシコシティのエスペランサ・アイリス・シティシアターで授賞式が行われました。今年は結果発表とラテンビートが重なり大分遅れのアップになりました。作品賞がラテンビート上映の『夏の鳥』だったので、部分的にはラテンビートに絡めて触れております。フェニックス賞はメキシコの「シネマ23」主導の映画賞で、過去4回ともラテンアメリカ諸国の作品が受賞しています。元の宗主国スペインとポルトガルから選ばれたことはなく、今年はそもそも作品賞・監督賞にノミネーションさえありませんでした。映画部門とTVシリーズ部門に分かれています。ノミネーションは以下にアップしています。
*イベロアメリカ・フェニックス賞2018ノミネーション発表の記事は、コチラ⇒2018年09月30日
*映画部門*
◎作品賞(長編7作品)
「Alanis」監督アナイ・ベルネリ(アルゼンチン)
「As boas maneiras」同フリアナ・ロハス&マルコ・ドゥトラ(ブラジル)
「Cocote」同ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス(ドミニカ共和国)
「Las herederas」同マルセロ・マルティネシ(パラグアイ) 邦題『相続人』
「Museo」同アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコ)
〇「Pájaros de verano」チロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ(コロンビア)邦題『夏の鳥』
「Zama」同ルクレシア・マルテル(アルゼンチン) 邦題『サマ』

(クリスティナ・ガジェゴを囲んで喜びの関係者一同)
◎監督賞(7人)
アナイ・ベルネリ「Alanis」
フリオ・エルナンデス・コルドン「Cómparame un Revólver」(メキシコ)
〇マルセロ・マルティネシ「Las herederas」
ラウラ・モラ「Matar a Jesús」(コロンビア)
アロンソ・ルイスパラシオス「Museo」
チロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ「Pájaros de verano」
ルクレシア・マルテル「Zama」

(『相続人』のマルセロ・マルティネシ監督)
◎女優賞
カルミニャ・マルティネス 『夏の鳥』

◎男優賞
ロレンソ・フェロ 「El Angel」監督ルイス・オルテガ(アルゼンチン、西)

(トランプ大統領とアルゼンチン大統領マクリを批判したロレンソ・フェロ)
◎脚本賞
ラウラ・モラ&アロンソ・トレス「Matar a Jesús」(コロンビア)

◎撮影賞
ルイ・ポサス 「Zama」

(ミゲル・アンヘル・シルベストルからトロフィーを受け取るルイ・ポサス)
◎美術デザイン賞
レナータ・ピネイロ 「Zama」

◎衣装賞
メルセ・パロマ 「La librería」 監督イサベル・コイシェ(スペイン、イギリス)
◎録音賞
グイド・ベレンブラム&エマニュエル・クロセット「Zama」

◎編集賞
ミゲル・シュアードフィンガー&カレン・ハーレー 「Zama」

◎オリジナル音楽賞
レオナルド・Heiblum 『夏の鳥』
◎長編ドキュメンタリー賞
「Muchos hijos, un mono y un castillo」 監督グスタボ・サルメロン(スペイン)

(左から2人目の監督とヒロインの母親)
◎ドキュメンタリー撮影賞
フアン・サルミエント G. 「Central Airport THF」監督カリム・アイノズ(ブラジル、独、仏)

◎ネットフリックス・オペラ・プリマ賞
『相続人』マルセロ・マルティネシ(パラグアイ、独、ブラジル、ウルグアイ、ノルウェー、仏)

◎批評家賞
ルシアノ・モンテアグド(アルゼンチンの映画批評家)

◎シネアスト賞
ルイス・カルロス・バヘット(ブラジルの映画プロデューサー)

◎Exhibidores賞
「Perfectos desconocidos」監督アレックス・デ・ラ・イグレシア(スペイン)
*テレビ部門*
◎TVシリーズ
「La casa de Papel」シーズン2 (スペイン) 邦題『ペーパー・ハウス』

◎俳優アンサンブル賞
「Aquí en la tierra」シーズン1(メキシコ)




★写真は入手できたもの。
第5回イベロアメリカ・フェニックス賞2018*ノミネーション発表 ― 2018年09月30日 17:30
ネットフリックスの存在が大きくなってきたフェニックス賞2018
★去る9月24日、第5回イベロアメリカ・フェニックス賞2018のノミネーション発表がメキシコシティでありました。カテゴリーと解説に齟齬があったりカテゴリーの数が違ったりと、サイトでノミネーション個数にばらつきがありますが、当たらずとも遠からずでいくと、最多ノミネーションは、コロンビアのチロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴの「Pájaros de verano」の9個、アルゼンチンのルクレシア・マルテルの『サマ』の8個でした。作品・監督・脚本・男優女優・撮影・・・と両作とも主要カテゴリーに選ばれています。
★イベロアメリカとはいえ、旧宗主国のスペインとポルトガルは影が薄く、第4回までの作品賞はすべてラテンアメリカ映画が制しています(第1回メキシコの『金の鳥籠』、第2回から4回までの『ザ・クラブ』、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』、『ナチュラルウーマン』と連続でチリが受賞しています)。今年スペインとポルトガルは主要カテゴリーのノミネーションがゼロでした。

(イベロアメリカ・フェニックス賞ノミネーション発表に集まったシネアストたち)
★チロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴの「Pájaros de verano」は、カンヌ映画祭2018併催の「監督週間」のオープニング作品です。チロ・ゲーラ映画の製作者クリスティナ・ガジェゴの初監督作品です。2016年には夫婦二人三脚で『彷徨える河』などの力作を撮っています。9カテゴリーの内訳は、作品・監督・脚本・撮影・編集・美術・衣装・オリジナル音楽、ゴッドマザーを演じたカルミナ・マルティネスが女優賞にノミネートされた(美術がないサイトあり)。
*「Pájaros de verano」の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月18日

(女優賞ノミネートのカルミナ・マルティネスとラウラ・モラの「Matar a Jesús」から)
★ルクレシア・マルテルの『サマ』は、ベネチア映画祭2017のコンペティション外上映、国際映画祭に数多く出品され、ラテンビートでも昨年上映されました。しかし批評家の高い評価にもかかわらず今もって作品賞は受賞しておりません。イベロアメリカ諸国の公開が殆ど2018年だったことで、今年のノミネーションになりました。8カテゴリーの内訳は、作品・監督・脚本・撮影・編集・美術・録音とダニエル・ヒメネス・カチョが男優賞にノミネートされました。
*『サマ』の主な紹介記事は、コチラ⇒2017年10月13日

(サマを演じ男優賞ノミネートのダニエル・ヒメネス・カチョ、映画から)
★2作に続いて、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの第2作「Museo」の6個です。その内訳は、作品・監督・撮影・オリジナル音楽・録音、ガエル・ガルシア・ベルナルの男優賞です。ベルリン映画祭2018脚本賞受賞作品。
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日

(男優賞ノミネートのガエル・ガルシア・ベルナル、映画から)
★同じくパラグアイのマルセロ・マルティネシの「Las herederas」の6個です。その内訳は、作品・監督・脚本・撮影・美術・録音、ベルリン映画祭で女優賞を受賞したアナ・ブルンはノミネートされませんでした。ベルリン映画祭2018のアルフレッド・バウアー賞と国際映画批評家連盟賞受賞作品、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門オープニング作品、ラテンビート2018上映作品です。
*「Las herederas」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月16日

(監督とアナ・ブルン)
★作品賞・監督賞のノミネーションだけアップしておきます。
◎作品賞(7作品)
「Alanis」監督アナイ・ベルネリ、アルゼンチン
「As boas maneiras」同フリアナ・ロハス&マルコ・ドゥトラ、ブラジル
「Cocote」同ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアス、ドミニカ共和国
「Las herederas」同マルセロ・マルティネシ、パラグアイ
「Museo」同アロンソ・ルイスパラシオス、メキシコ
「Pájaros de verano」同チロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ、コロンビア
「Zama」同ルクレシア・マルテル、アルゼンチン
◎監督賞(7人)
アナイ・ベルネリ「Alanis」
フリオ・エルナンデス・コルドン「Cómparame un Revólver」メキシコ
マルセロ・マルティネシ「Las herederas」
ラウラ・モラ「Matar a Jesús」コロンビア
アロンソ・ルイスパラシオス「Museo」
チロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ「Pájaros de verano」
ルクレシア・マルテル「Zama」
★という具合でスペイン映画は作品賞にも監督賞にも見当たりませんでした。ドキュメンタリー部門にゴヤ賞2018受賞の「Muchos hijos, un mono un castillo」、男優賞に「El autor」のハビエル・グティエレス、脚本賞に「Petra」のハイメ・ロサレス、美術賞に「Handia」と「La libreria」他がありました。
★TVシリーズ部門ではネットフリックスの存在の大きさが際立っています。昨年も『ナルコス』などが受賞しましたが、今年もノミネーション5作品のうち3作がネットフリックスがらみです。スペインの「La casa de papel」(『ペーパー・ハウス』シーズン2)、メキシコ=米の「Narcos」(『ナルコス』シーズン3)、アメリカ製作の「Luis Miguel:La serie」(シーズン1)の3作です。ルイス・ミゲルというのは一名メキシコの「太陽El Sol」と言われるほどのプエルトリコ生れのメキシコの歌手、現在活躍中の歌手のビオピック、グラミー賞5回受賞でハリウッドのウォーク・オブ・フェームに星が刻まれています。しばらく活動を休むなど謎の多い歌手ですが昨年復活しました。ルイス・ミゲルをディエゴ・ボネタ、歌手だった父親をオスカル・ハエナダが演じています。シーズン1(13話)が2018年4月からメキシコ、米国、スペイン、生れ故郷プエルトリコでNetflix同時配信されました(日本は未配信のようです)。

(『ペーパー・ハウス』から)

(『ナルコス』シーズン3)

(ディエゴ・ボネタ、「Luis Miguel:La serie」から)
★この映画賞の作品選考はメキシコの「シネマ23」が中心になって行なわれ、イベロアメリカ映画アカデミー連盟、メキシコ映画アカデミーが参画、第16回モレリア映画祭(10月20~28日)で受賞結果発表があり、ガラは11月7日、メキシコシティのエスペランサ・アイリス・シティシアターで開催される予定。
オスカー賞スペイン代表作品候補に 「Campeones」 など3作が決定 ― 2018年08月17日 11:04
米アカデミー外国語映画賞スペイン代表作の結果発表は9月6日
★第91回アカデミー賞外国語映画賞選考のニュース、既に代表作品が決定している国もあるなか、スペインでも候補作が発表になりました。対象作品は2017年10月1日~2018年9月30日の1年間に公開された映画です。ハビエル・フェセルの最新作「Campeones」(18)、アスガー・ファルハディの「Todos lo saben」(18)、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Handia」(17)の3作です。3作とも当ブログで内容を紹介しております。候補作選考はスペイン映画アカデミーの執行部ですが、決定はアカデミー会員の選挙方式、間もなく投票が始まり締め切りは9月6日、同日に結果発表となります。
トップを走っているのはハビエル・フェセルの「Campeones」か?
★4月6日の公開以来、2018年のスペイン映画興行成績No.1をキープしている「Campeones」が先頭を走っている印象です。観客動員数が既に300万人、興行成績は1840万ユーロのレコード記録です。民間テレビ局の応援もなく、知られた俳優はといえば冴えないコーチ役のハビエル・グティエレス唯一人、他の出演者は知的障害者のフットボール・チームの面々という映画が、興行成績トップの大成功を収めるのは珍しい。フェセル監督も「私は根っからのオプティミストだが、最初は登場人物たちの可能性には無知だった」と公開初日に語っていたそうです。

(今年の興行成績No.1の「Campeones」のポスター)

★最終的に代表作に選ばれたら「ロスアンジェルスに行き、一丸となってプロモーションする」とフェセル監督、「映画はローカルであればあるほど道のりは遠いと思う。そうではあるがテーマが普遍的であれば外国での上映も販売もできる」とも語っている。「何よりも出演してくれた多くの登場人物たちが喜んでくれることだ」と心の内を明かしている。メキシコ、フランスで公開され、シアトル映画祭、イタリアのBiografilm映画祭に正式出品されたほか、ドイツでも公開が予定されている。更にサンセバスチャン映画祭でも大型スクリーンで上映されるベロドロモ部門が決定しています。

(笑が絶えなかった撮影現場、左端ハビエル・グティエレス、右から2人目フェセル監督)
*内容紹介&監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年06月12日
投票締め切り後に一般公開はフェアーじゃない?
★カンヌ映画祭オープニング作品に選ばれた「Todos lo saben」は、スペイン公開が9月14日と投票締め切りの後というのは公平ではないように思います。ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン、バルバラ・レニー、エドゥアルド・フェルナンデスとキャスト陣は豪華版ですが、監督がスペイン人ではないことがネックになっているのではないでしょうか。アスガー・ファルハディ監督は、既に『別離』(11)と『セールスマン』(16)でオスカー像を2個手にしている。本邦の大手メディアは「エブリバディ・ノウズ」と英語題で紹介しています。選ばれなくても公開はありでしょうが、来年あたりでしょうか(詳細はまだ入手できていません)。

(監督はイラン人の「Todos lo saben」ポスター)
*内容紹介&監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年05月08日
★言語がバスク語のノミネーションは、『フラワーズ』に続いて2作目です。昨年のサンセバスチャン映画祭でワールドプレミアされた「Handia」は、審査員特別賞とバスク映画賞を受賞、ゴヤ賞2018でも大賞は逃しましたがオリジナル脚本賞以下10個のゴヤ胸像をゲットしました。一般公開が2017年10月20日だったことで今年になりましたが、アカデミー・メンバーの記憶は大分薄れているのではないでしょうか。どちらかというと地味な作品ですが『フラワーズ』同様「Handia」も『HANDIAアルツォの巨人』の邦題でNetflixが配信しています。公開はされないことを考えるとありがたいことですが「映画は映画館で見る」をモットーにしているので心境は複雑です。

*内容&キャスト紹介は、コチラ⇒2017年09月06日
★アカデミー賞授賞式は2019年2月24日と半年先ですが、最終ノミネーション5作に残るのさえ至難の業です。因みに昨年はカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』が代表作品に選ばれたが最終選考まで残れず、受賞したのはチリ代表作のセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』でした。
カルメン・マウラ、ヨーロッパ映画賞「生涯貢献賞」受賞のニュース ― 2018年08月11日 07:26
カルロス・サウラに続いて二人目の受賞者
★ヨーロッパ映画賞の特別賞にはいくつかあって、なかで一番大きいのが「生涯貢献賞」、次がワールドシネマに貢献したシネアストに贈られる「世界的貢献賞」でしょうか。どちらもいわゆる名誉賞で、前者は1988年から始まり、第1回受賞者はイングマール・ベルイマン、スペイン人では2004年にカルロス・サウラが受賞しています。後者は1997年から始まり、第1回受賞者はミロシュ・フォアマン監督、スペイン人ではアントニオ・バンデラス、ビクトリア・アブリル、つい最近2013年にアルモドバルが受賞しています。カルメン・マウラ(マドリード、1945)は女優賞を1988年アルモドバルの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』、1990年サウラの『歌姫カルメーラ!』で受賞しています。他の受賞者はペネロペ・クルスが『赤いアモーレ』と『ボルベール』の2回、ベレン・ルエダが『永遠のこどもたち』などです。

★既に150作に出演しているマウラだが、芸術家、政治家、学者などを輩出している一家で、いわゆる良家の子女、芸能界入りなどもってのほか、親戚一同から反対されたという。1960年代末期に舞台女優として出発、並行して短編映画やTVにも出演していた。タッグを組んだ監督は、フェルナンド・トゥルエバ(「Se intil y no mires con quien」85)、マリオ・カムス(「Sombras en una Batalla」93)、アグスティ・ビリャロンガ(「Carta a Eva」12)、サンセバスチャン映画祭女優賞とゴヤ主演女優賞をもたらしたアレックス・デ・ラ・イグレシア(『13 みんなのしあわせ』00)、以後『マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾』、『スガラムルディの魔女』など、デ・ラ・イグレシア映画の常連となった。しかし国際舞台に彼女を押し上げたのは、1980年代最も輝いていた監督の一人、アルモドバルの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』でした。

(初のゴヤ主演女優賞を受賞した『神経衰弱ぎりぎりの女たち』から、共演のバンデラスと)
★アルモドバルのデビュー作『ペピ、ルシ、ボン、その他大勢の娘たち』(80)以後、『バチ当たり修道院の最期』(83)、『グロリアの憂鬱/セックスとドラッグと殺人』(84)、『マタドール』(86)、『欲望の法則』(87)、そして『神経衰弱ぎりぎりの女たち』と立て続けに出演した。しかしこれを最後に喧嘩別れしてしまい、再びタッグを組んだのが『ボルベール<帰郷>』(06)、カンヌ映画祭で女性出演者6名全員が異例の女優賞を受賞し、ゴヤ賞では助演女優賞を受賞した。その後これといった諍いがあったわけではないが、「もう決してアルモドバル映画には出ない」と発言し、仲直りしたように見えたのは表面だけで、結局溝が埋まらなかったことが分かった。まあ、映画を見れば理由は想像できます。一時は「アルモドバルのミューズ」とまで言われた仲でしたが、現在では「喧嘩別れした元仲良しカップル」が特集されると、ナンバーワンに登場します。

(アラスカとカルメン・マウラ、『ペピ、ルシ、ボン、その他大勢の娘たち』から)

(辛口批評家からも合格点を貰った『グロリアの憂鬱~』から、共演のベロニカ・フォルケと)
★邦題が原題とあまりにかけ離れていて辿りつけない映画の一つが、パートに追いまくられている主婦が、気障なぐうたら亭主を殺害してしまうが誰からも疑われないというブラック・コメディ『グロリアの憂鬱~』(「¿ Qué he hecho yo para merecer esto?」)、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『13 みんなのしあわせ』(「La comunidad」)が挙げられる。後者でゴヤ賞主演女優賞を受賞した。サウラの『歌姫カルメーラ!』を含めてゴヤ賞は合計4個になります。そのほか、貢献賞というか名誉賞は、スペイン映画国民賞(98)、サンセバスチャン映画祭ドノスティア賞(13)、マラガ映画祭とロカルノ映画祭(07)バジャドリード映画祭(08)、スペイン映画アカデミーの「金のメダル」(09)と、貰えるものはすべて貰っている。

(サンセバスチャン映画祭ドノスティア賞のトロフィーを手に、2013年)

(3個目のゴヤ賞主演女優賞を受賞した『13 みんなのしあわせ』から)
★現在フランス在住のマウラ、フランス語、ポルトガル語にも堪能で、自国以外の監督からもオファーを受けている。エティエンヌ・シャティリエの『しあわせはどこに』(95)、リスボンを舞台にした5人の女性たちの生き方を描いた、ルイス・ガルヴァン・テレシュの『エル』(97)、アンドレ・テシネの『溺れゆく女』(98)、セザール賞助演女優賞を受賞したフィリップ・ル・ゲイのコメディ『屋根裏部屋のマリアたち』(10)、フランシス・フォード・コッポラの『テトロ 過去を殺した男』(09)ほか、公開作品を中心に列挙したが、何しろ出演本数は150作、これから来年にかけて公開される映画も数本あるから、今後の活躍も楽しみである。

(フランス映画『屋根裏部屋のマリアたち』に出演したスペインの女優たち)
★ヨーロッパ映画賞のガラ開催は参加国持ち回りで毎年変わり、今年はセビーリャで開催されることになっています。ベルリン開催が最多でスペインではバルセロナで開催されたことがあります。第31回ヨーロッパ映画賞2018授賞式は12月15日です。
*『スガラムルディの魔女』の紹介記事は、コチラ⇒2014年10月12日/同年10月18日
*『屋根裏部屋のマリアたち』の紹介記事は、コチラ⇒2013年12月08日/同年12月13日
第60回アリエル賞2018*結果発表 ― 2018年06月15日 18:34
「私たち(の国)は病んでいます。どうか早く健康になりますように」とアマ・エスカランテ

★第60回を迎えたアリエル賞2018(メキシコ映画アカデミーAMACC)の標語は「No somxs tres, somos todxs」(我々は3人ではない、みんな一緒です)、これは去る3月19日に行方不明になったメディオス・オーディオビジュアルス大学の3人の学生の追悼というか連帯を込めたスローガンです。マフィアと警察と政治家が三位一体のようなメキシコでは、一般人が日常的に暴力や生命の危険に晒されている現状がうかがい知れます。3人だけでなく過去に起きた全ての誘拐拉致被害者を追悼しているようです。2018年の監督賞を受賞したアマ・エスカランテは「私たち(の国)は病んでいます。どうか早く健康になりますように」とスピーチしました。
(結果発表、メキシコ6月5日)

(「No somxs tres, somos todxs」のスローガンが掲げられた授賞式会場)
★授賞式のハイライト最高賞の作品賞は、エルネスト・コントレラス(1969、ベラクルス)の「Sueños en otro idioma」が受賞、他オリジナル脚本賞、オリジナル音楽賞、撮影賞などトータル6冠に輝きました。彼はアリエル賞を主催するAMACC会長に2017年11月就任したばかりです(任期は2年、2019年10月まで)。

(AMACC会長エルネスト・コントレラス、授賞式にて)
★監督賞以下、編集賞、助演女優賞、特殊効果賞など5冠がアマ・エスカランテの「La región salvaje」、『触手』の邦題で、短期間(2018年3月)ながら公開された作品。本邦では『サングレ』『よそ者』『エリ』と、カンヌやベネチアで評価されたこともあって比較的認知度のある監督でしょうか。当ブログ紹介作品は、イベロアメリカ映画賞を受賞したセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』、アナ・バレリアが新人女優賞を受賞したミシェル・フランコの『母という名の女』、ドキュメンタリー賞を受賞したエベラルド・ゴンサレスの「La libertad del diablo」の4作品です。
*『よそ者』の紹介記事は、コチラ⇒2013年10月10日
*『エリ』の紹介記事は、コチラ⇒2013年10月08日
*「La región salvaje」(『触手』)の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月04日
*『ナチュラルウーマン』の紹介記事は、コチラ⇒2018年03月16日
*『母という名の女』の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月08日
*主な受賞結果*
◎作品賞
「Sueños en otro idioma」 エルネスト・コントレラス

◎監督賞
アマ・エスカランテ (「La región salvaje」『触手』)

◎男優賞
エリヒオ・メレンデス(「Sueños en otro idioma」)

◎女優賞
カリナ・ヒディGidi (「Los adioses」)

◎長編ドキュメンタリー賞
「La libertad del diablo」 (監督エベラルド・ゴンサレス)

◎新人男優賞
フアン・ラモン・ロペス (「Vuelven」)

◎新人女優賞
アナ・バレリア・べセリル (「Las hijas de Abril」 邦題『母という名の女』)

◎イベロアメリカ映画賞
『ナチュラルウーマン』 (監督セバスティアン・レリオ)
(製作者フアン・デ・ディオス・ララインと主演のダニエラ・ベガ)
◎撮影賞
トナティウ・マルティネス (「Sueños en otro idioma」)

◎オペラ・プリマ(初監督作品)賞
「El vigilante」 (監督ディエゴ・ロス)

◎編集賞
フェルナンダ・デ・ラ・ペサ、Jacob Secher Schulsingaer (「La región salvaje」)

フェルナンダ・デ・ラ・ペサ
◎特殊効果賞
ホセ・マヌエル・マルティネス (「La región salvaje」)

◎視覚効果賞
Peter Hjorth (「La región salvaje」)
◎オリジナル脚本賞
カルロス・コントレラス (「Sueños en otro idioma」)

◎美術デザイン賞
アントニオ・モニョイエロ (「El elegido」)
カルロス・ハケス (「La habitación」)
◎メイクアップ賞
アダム・ソリェル (「Vuelven」)

◎衣装賞
マリエステラ・フェルナンデス、ガブリエラ・ディアケ (「La habitación」)

マリエステラ・フェルナンデス
◎助演男優賞
アンドレス・アルメイダ (「Tiempo compartido」)

◎助演女優賞
ベルナルダ・トゥルエバ (「La región salvaje」)

◎短編アニメーション賞
「Cerulia」 (監督ソフィア・カリージョ)

◎短編映画賞
「Oasis」 (監督アレハンドロ・スノ)

◎短編ドキュメンタリー賞
「La muñeca tetona」 (監督ディエゴ・エンリケ・オソルノ、アレハンドロ・アルドレテ)

◎録音賞
エンリケ・グレイネル、パブロ・タメス、ライムンド・バジェステロス
(「Sueños en otro idioma」)

◎オリジナル音楽賞
アンドレス・サンチェス・マエル (「Sueños en otro idioma」)

◎脇役男優賞(coactuación)
ミゲル・ロダルテ (「Sueños en otro idioma」)

◎脇役女優賞(coactuación)
ベロニカ・トゥサンToussaint (「Oso Polar」)

◎「金のアリエル」(栄誉賞)
Queta Lavat (メキシコの女優)

Toni Khun (スウェーデン出身メキシコの撮影監督)

★フォトは入手できたものです。
セザール名誉賞のトロフィーを手に感涙のペネロペ・クルス ― 2018年03月08日 14:11
ギレルモ・デル・トロ、盆と正月が一緒にやってきた!
★テレビもネットも米国アカデミー賞一色、フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞の授賞式が3月2日夜、一足先に開催されていましたが片隅に追いやれてしまいました。ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞を受賞。監督は日本大好き人間、何度も来日してファン・サービスを忘れない。今回も宣伝を兼ねて来日していました。作品・監督・美術・作曲の4冠受賞が興行成績を押し上げるといいですね。これでメキシコ出身の「おじさん三羽ガラス」と言われる、アルフォンソ・キュアロン(『ゼロ・グラビティ』)、アレハンドロ・ゴンサロ・イニャリトゥ(『バードマン』『レヴェナント』)に続いて、一人取り残されていたデル・トロ監督も仲間入りできました。

(両手に花のギレルモ・デル・トロ、作品賞と監督賞のオスカー像)
★授賞式に出席していたガエル・ガルシア・ベルナルと抱き合って喜びを分かち合っていました。G.G.ベルナルは、長編アニメーション・歌曲賞の2冠を達成した『リメンバー・ミー』の死者の国に住むヘクターのボイスを担当、死者の日に迷い込んできたミゲル少年と一緒に旅をする。音楽は言うまでもないが、メキシコ人の死生観が分かるようです。此の世の人が死者を忘れてしまうと消えてしまうのです。彼の世でも永遠には生き続けられないようです。

(第43回セザール賞ポスターと作品賞他6冠の『BPMビート・パー・ミニット』から)
トロフィーはアルモドバルとフランス女優マリオン・コティヤールの手から
★前置きが長くなりましたが本題、第43回セザール賞のガラが3月2日の夜開催されました。ロバン・カンピオの『BPMビート・パー・ミニット』が作品賞以下6冠を受賞、劇場公開は3月24日から3館上映です。セザール賞は当ブログでは対象外ですが、今回はペネロペ・クルスが名誉賞を受賞しましたのでアップいたします。スペインのシネアストとしては、ペドロ・アルモドバル(1999年)に続いて二人目です。授賞式には夫君ハビエル・バルデム、母親、弟、そして育ての親の一人アルモドバル監督も駆けつけてくれました。下の写真は監督がマリオン・コティヤールと一緒にプレゼンターとしてステージに登壇したときのもの。ペネロペ・クルスは登壇したときから既に涙があふれていました。ヴェルサーチのプリンセス・カットのドレスをエレガントに着こなし、インディゴブルーのドレス右胸には「性的暴力反対」の白いリボンをつけている。監督も背広の左襟に付けている。

(感涙のペネロペ・クルス、アルモドバル、マリオン・コティヤール)
★受賞スピーチは、「今宵は心から感謝を申し上げたい。ここパリで、フランス映画アカデミーのセザール名誉賞を頂けるなど、大それた夢は持っておりませんでした。自分にその価値があるかどうかについては問わないことにして、今はただ心から嬉しく、何人かの重要な人々を思い起こしています」と、学校で8年間学んだというフランス語で謝辞を述べました(クルスは母語・英語・伊語・仏語が堪能)。続いてフランスが常に自分に寛大で、幸せにしてくれること、文化に対して情熱を注ぐ特別な国であること、フランスの影響をうけた作品やアーチストたちは、歴史的にも私たちの人生においても、類いまれな位置を占めていること、文化や自由への想いはフランスの人々の刺激を受けたものだ、と語ったようです。
★「セザール名誉賞」の知らせを受けて以来、「もう驚いているだけ」と語っていたクルス、赤絨毯でも「こんな名誉ある賞をどうして戴けるのか理解できないの。ただただびっくり仰天です。どうしてこんな大きな賞を私が貰えるの?」とインタビューに応えていたクルスの気持ちが伝わってくるようなスピーチでした。アルモドバルに対しても「あなたの映画は女性に敬意をはらってくれ、そういう映画に出演できたことを感謝しています」と。会場にいた母親には「私が女優になりたいと言ったとき、なんて馬鹿げたことをと反対しなかった」と語りかけた。さらに今は亡き父親の思い出、弟妹と二人の子供たち、最後に「私の夫であり素晴らしい仕事仲間、いつも傍にいて広い心で私を支えてくれる」ハビエルにグラシアスでした。未成年でデビューした娘を守るためにステージ・パパ役だった父親がこの場にいなかったことは残念だったでしょう。

(隠れて見えないがリボンを付けたフランス映画アカデミー会長アラン・テルジアン、
ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、アルモドバル監督)
★アルモドバルも初めて起用した『ライブ・フレッシュ』(97)での娼婦役について語った。「脚本ではもう少し年長の娼婦に設定していた。1970年代の古着を纏った田舎出の妊婦役にしては、彼女の中にはどこか魅力的な何かがあって無理があった」と。夜間バスの中で出産した男の子が主役の映画、クルスは冒頭部分で消えてしまう小さな役でした。スペインの国境を越えて活躍したが、幸いにヨーロッパを忘れずにいた。このヨーロッパ文化が彼女の原点だ、とも語った。アルモドバルの「ミューズ」になるには長い年月があったというわけです。マリオン・コティヤールも「あなたの素晴らしさと優しさで、今やみんなのイコンとなり、男性も女性も虜にしている」と、その魅力を讃えた。クルスにとっては忘れられない一夜となったでしょう。
*最近のペネロペ・クルスの紹介記事は、コチラ⇒2018年2月3日
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