アカデミー賞外国語映画プレセレクションにコロンビア代表作品が選ばれた2015年12月19日 15:54

     チロ・ゲーラの新作“El abrazo de la serpiente

 

★ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画賞にもノミネーションされず、チロ・ゲーラの不運を嘆いておりましたが、アカデミー賞プレセレクション9作品の仲間入りを果たしました(英題Embrace of the Serpent”)。製作国は他にベネズエラとアルゼンチンが参加しています。後者のパブロ・トラペロの「ザ・クラン」は落選、アルゼンチンは昨年ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』が選ばれたので可能性は低かったかもしれません。1960年から70年代にかけては参加国も限られていたから、フランス、イタリア、北欧諸国が2年連続受賞ということもありましたが、21世紀に入ってからは流石にないようだ。他に中南米からはハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(グアテマラ)、初めて代表作品を送り込んだパラグアイのドキュメンタリー“El tiempo nublado”、スペインの『フラワーズ』は残れませんでした。

 

   

            (“El abrazo de la serpiente”のポスター)

 

★この9作品の中から最終的にノミネーション5作品が選ばれますが、もう受賞作はハンガリーの『サウルの息子』に決定しているとか。昨年はポーランドの『イーダ』が下馬評通り受賞しましたから、多分そうなるのでしょう、白けます。しかしノミネーションを受けるだけでも大変なこと、昨年ジフロンに付き添って現地入りしていたアグスティン・アルモドバルも「ノミネーションだけでも名誉なことだ」と語っていた。興行的にプラスになることが借金返済や次回作の資金集めに大いに寄与してくれるからです。

 

★チロ・ゲーラがコロンビア代表作品に選ばれるのは3回目、前回は2009年の“Los viajes del viento”(英題“The Wind Jouneys”)、コロンビアのノミネーションはまだゼロ、もし三度目の正直で残ったら初となる。本作はカンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」に正式出品された。その折、監督キャリア&フィルモグラフィー、並びに本作紹介記事をアップしております。

コチラ⇒2015524 

第7回「京都ヒストリカ国際映画祭」(10月31日~11月8日)で『大河の抱擁』の放題で上映されました。 

 

     アイルランド代表作品“Viva”は異色のスペイン語映画

 

★パディ・ブレスナックの新作“Viva”はアイルランド映画だが、キャストはキューバ人、舞台はハバナ、言語はスペイン語と異色づくめ。キューバは今年代表作を送らなかったが、アイルランドの代表作品がプレセレクションに選ばれた。キューバ映画の顔みたいなホルヘ・ペルゴリアが、主人公ヘススの父親アンヘル役で出演しています。18歳の主人公にエクトル・メディナ、15年の刑期を終えて出所してくる元ボクサーの父親にペルゴリア、脇をベテランが固めています。本作についても既に簡単ながら記事をアップしております。

コチラ⇒2015103  

 

  

          (ドラッグ・クイーンのエクトル・メディナ、映画から

 

オスカー賞2016のスペイン代表はバスク語映画『フラワーズ』2015年10月03日 13:39

     決定しても米国では未公開、プレセレクションへの道は遠い

 

グラシア・ケレヘタ(“Felices 140”)とカルロス・ベルムト(“Magical girl”)は残念でした。“Magical girl”はアカデミー会員の年々上がる平均年齢から判断して、まず選ばれないと考えていました。こういうオタクっぽいミステリーは好まれない傾向にあるからです。“Felices 140”はかなりスペイン的なシリアス・コメディだから無理かなと。消去法と言ってはなんですが、結局ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ『フラワーズ』が残ったのではないでしょうか。しかし、選ばれてもアメリカでは映画祭上映だけで、目下一般公開のメドが立っていません。最終候補に残るには、少なくともロスで1週間以上の一般公開が必要条件です。アメリカでの映画祭上映、映画祭で受賞してもダメです。本作はパーム・スプリングス映画祭のラテン部門で受賞していますが、これは条件を満たしたことになりません。

 


12月中頃に9作品のプレセレクション発表、ノミネーションは年明け114日です。短期間の勝負だから多くの国はプロモーションの人手は足りても資金が続かない。二人の監督はスペイン映画アカデミーに感謝の言葉を述べていますが、ちょっと神経質になっているようです。何しろゴヤ賞でさえビビっていたのですから。反対にプロデューサーのハビエル・ベルソサは意気軒高、初のバスク語映画、この稀少言語を逆手にとって、他との差別化を図りたい。以前モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(1997)がノミネートされ、舞台がバスクだったので若干バスク語が入っていたが、本作は全編バスク語だ。「この特異性は強いカードだ」と言う。「目下新作を製作中だが一時中断してプロモーションに出掛ける」そうです。

 


★バスク自治州政府も後押ししている。スペインで一人当りの平均収入が最も高い豊かな州だが、過去に起きたETAの暴力テロで国際的にはイメージがよいとは言えない。またバスク語は放置すれば消滅してしまう言語ですから、バスク語映画が代表作品に選ばれたのをチャンスととらえ、バスク語普及に力を入れているバスク政府の言語政策のキャンペーンにも利用したい、あわよくば観光客も呼び込みたいと一石二鳥どころか三鳥、四鳥も狙っているようです。ま、頑張って下さい。

 

★昨年、ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたから、ご覧になった方は、鋭い人間洞察、ちょっとしたユーモア、雨に濡れた森の緑の映像美、バックに流れる音楽、見事な伏線の張り方、何はおいてもテーマになった、老いや孤独、突然の死が織りなすドラマに魅了されたことでしょう。

 

★スペイン以外で決定しているラテンアメリカ諸国のうち、アルゼンチン、チリ、グアテマラなど、当ブログに度々登場させた映画も選ばれています。以下はその一例:

 

アルゼンチンEl clan 「ザ・クラン」パブロ・トラペロ、ベネチア映画祭監督賞受賞

チリEl Club”『ザ・クラブ』パブロ・ラライン、ベルリン映画祭グランプリ審査員賞受賞

コロンビアEl abrazo de la serpienteチロ・ゲーラ、カンヌ映画祭「監督週間」作品賞受賞

グアテマラIXCANUL”『火の山のマリア』ハイロ・ブスタマンテ

ベルリン映画祭アルフレッド・バウアー賞受賞

メキシコ600 Millasガブリエル・リプスタイン

ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門で初監督作品賞受賞

ベネズエラDauna. Lo que lleva el río(“Gone With The River”)マリオ・クレスポ

パラグアイEl tiempo nublado(“Cloudy Times”)ドキュメンタリー、アラミ・ウジョン

ドミニカ共和国Dólares de arena(“Sand Dollars2014

ラウラ・アメリア・グスマン&イスラエル・カルデナ

 

★ベネズエラはベネチア映画祭で金獅子賞を受賞したばかりのロレンソ・ビガスDesde allá(「フロム・アファー」)を当然予想していましたが外れました。多分受賞前に決定していたのではないかと思います。まったくノーマークだったマリオ・クレスポの作品が選ばれましたが、ベネズエラのTVドラを数多く手掛けている監督です。

 

★パラグアイのEl tiempo nubladoは、近年増加しているというパーキンソン病に罹ったウジョン監督自身の母親を追ったドキュメンタリー、車椅子生活となった母と娘が向き合う映画、これは是非見たい映画です。下の写真は監督と母親、映画から。

 



★ドミニカ共和国の“Dólares de arenaは、2014年の作品で、主演のジュラルディン・チャップリンが第2回プラチナ賞の候補になったときご紹介した作品です。二人の監督はメキシコで知り合い結婚しています。本作は二人で撮った長編3作目になります。いずれドミニカ共和国を代表する監督になるでしょう。アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』でも書いたことですが、若いシネアストたちのレベルは高い。

 



★奇妙なことに外交的な雪解けにも拘わらず、キューバ映画芸術産業庁は今回代表作品を送らないことに決定したそうです。送らないのか送れないのか、どちらでしょうか。2016年のゴヤ賞やアリエル賞も参加しないようです。面白いことにアイルランド代表作品Vivaは、キューバの俳優を起用してハバナで撮影、言語はスペイン語、ハバナで暮らすドラッグ・クイーンの若者が主人公のアイルランド映画。当ブログはスペイン語映画のあれこれをご紹介していますが、こういう映画は想定外でした。18歳の若者に長編デビューのエクトル・メディナ、刑務所を出所したばかりの父親に名優ホルヘ・ペルゴリア、他ルイス・アルベルト・ガルシアなどベテランが脇を固めています。「父帰る」で対立の深まる父と子の物語。

 


                       (エクトル・メディナ、映画から)

★監督は1964年ダブリン生れのパディ・ブレスナック、すべて未公開作品ですが、DVD化されたホラー映画2作とファミリー映画1作があるようです。トロント映画祭やコロラド州のテルライド映画祭(9月開催)でも上映された。テルライド映画祭は歴史も古く審査員が毎年変わる。今年はグアテマラ代表作品IXCANULも上映された。アイルランド映画委員会が資金を出して映画振興に力を注いでいるようで、本作のような海外撮影を可能にしたようです。

 

★アイルランドの公用語は勿論アイルランド語ですが、400年にも及ぶイギリス支配で、国民の多数は英語を使用しています。国家がアイルランド人としてのアイデンティティ教育の一環として学校で学ぶこと義務づけられています。しかし学ぶには学ぶが、日常的には英語だそうです。最近EUの公用語に指定された。支配下にあった時代のスウィフトの『ガリヴァー旅行記』、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』も英語で書かれた。

 

 

オスカー賞2016*スペイン代表映画の候補3作品2015年09月09日 17:36

          バスク映画『Flowers / フラワーズ』が驚きの候補に

 


★アカデミー賞のガラは来年228日、まだラテンビートも始まらないのにオスカー賞の話は早すぎますが、昨年のラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたホセ・マリ・ゴエナガ & ジョン・ガラーニョのFlowers / フラワーズ』が一つに選ばれました。2014年作と少し古いですがスペイン公開が遅かったので選ばれたのでしょう。他はガルシア・ケレヘタのFelices 1402015Happy 140”)とカルロス・ベルムトのMagical girl2014)の2作です。3作とも既にご紹介しています。

 

Magical girlは、年初には夏公開とアナウンスされましたが、今もって未定です。配給元(ビターズ・エンド)との打ち合せかと思いますが、7月にベルムト監督は来日したようです。話題にもなりませんでしたが、「どうかお蔵入りになりませんように」と祈るばかりです()。今回選ばれなくても公開時には改めて記事にいたします。監督はもともとの出発がコミックのデッサンを描いていた。大変なマンガ好き、子供の頃は映画などに興味なかったそうです。映画のストーリーは、日本のテレビアニメ「マジカル・ガール Yukiko」が好きな病弱な美少女をめぐる奇妙なミステリーです。サンセバスチャン映画祭2014金貝賞監督賞(銀貝賞)ダブル受賞の映画です。監督、キャストは以下で紹介しています。バルバラ・レニーがゴヤ賞主演女優賞を受賞など、他にも盛りだくさんな受賞歴です。


Magical girl”の記事は、コチラ⇒20149162015121

バルバラ・レニーの記事は、コチラ⇒2015327

 


 (左から金貝賞受賞の製作者ペドロ・エルナンデス、銀貝監督賞受賞のカルロス・ベルムト

 

 

Felices 140のガルシア・ケレヘタは、現在スペイン映画アカデミーの副会長の一人。エンリケ・ゴンサレス・マチョ前会長がゴヤ賞授賞式後に任期半ばで突如辞任を表明、改選されてアントニオ・レシネスが会長、彼女とバルセロナ派のプロデューサーエドモン・ロチが副会長に就任した。本作はマリベル・ベルドゥを主役にしたシリアス・コメディ、興行成績もよく選ばれる可能性が高いか。今年は決定打がなく3作のうちどれが選ばれてもプレセレクションには残れない気がします。

Felices 140”の記事は、コチラ⇒20151743

 


          
          (本作撮影中のマリベル・ベルドゥとケレヘタ監督)

 

 

Flowers / フラワーズ』は、サンセバスチャン2014で「初のバスク語映画がコンペティションに」と話題になった作品。ゴヤ賞2015の作品賞にもノミネートされ、無冠でしたが画期的な出来事でした。作品も良かったから、スペイン映画界にとっても大きな収穫でした。以下のように何回か記事にいたしましたが、セルバンテス文化センターのニューズレターによると、共同監督のデビュー作80 egunean2010、英題“Por 80 Days”)が上映されるようです。残念ながら「バスク語スペイン語字幕」ということですが、映像の力で楽しめるのではないかと思います。『フラワーズ』で名演技を見せたイジアル・アイツプルが主演の一人アスンに扮し、もう一人マイテには本作でデビューしたマリアスン・パゴアゴが扮しました。当ブログで紹介した簡単なストーリーを再録すると、大体こんなオハナシです。


     

80 egunean:少女だった遠い昔、親友だったアスンとマイテの二人はひょんなことから50年ぶりに邂逅する。アスンは農場をやっているフアン・マリと結婚するため引っ越して以来田舎暮らしをしていた。両親と距離を置きたい娘は離婚を機にカリフォルニアに移り住んでいる。レズビアンのマイテはピアニストとして世界を飛び回ってキャリアを積んでいたが既に引退して故郷サンセバスチャンに戻ってきた。別々の人生を歩んだ二人も既に70歳、不思議な運命の糸に手繰り寄せられて再び遭遇する。この偶然の再会はアスンに微妙な変化をもたらすことになる、自分の結婚生活は果たして幸せだったのだろうか。マイテにサンタ・クララ島への旅を誘われると、アスンは自分探しの旅に出る決心をする。

 


    (アスン役のアイツプルとマイテ役のパゴアゴ、映画から

 

★受賞歴:「トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で二人揃って女優賞を受賞した。年輪を重ねた知性豊かな二人の女性のナチュラルな演技が観客賞にも繋がった。

 


       (左から、ジョン・ガラーニョ監督とホセ・マリ・ゴエナガ監督)

 

上映作品80日間』 (80 egunean) とシネフォーラム

日時:20151018日(金曜日) 1900

場所:セルバンテス文化センター地下1階「オーディトリアム」

入場無料、予約不要、先着順、バスク語スペイン語字幕入り

講師アインゲル・アロス/ホセ・マリ・ゴエナガ監督のビデオでの挨拶

 

Flowers / フラワーズ』の記事は、コチラ⇒20149221192015116

 

第2回フェロス賞2015ノミネーション*最多は”La isla minima”の10個2014年12月23日 21:05

★正式名は‘Premios FerozAICE**が米国のゴールデン・グローブ賞と同じ位置づけで201311月に設立した映画賞。合計13部門のノミネーション発表は12月、映画記者協会のメンバー約170人が選定する。前年度の各映画祭での受賞作、劇場公開された作品(全国展開でなくてもマドリードやバルセロナなど大都市で公開)、またはオンライン配信されたものも対象作品のようです。国際映画祭で受賞しても配給元が見つからないケースも対象になる。第1回授賞式は2014127日に行われ、作品賞(ドラマ部門)はロドリーゴ・ソロゴジェンのStockholmでした。

スペイン語の「feroz」は、一般には動物が「獰猛な」、人間が「残酷な」とマイナス・イメージに使用されているが、「スペイン現代語辞典」では、「とても素晴らしい、非凡な、並外れた、見事な」という意味も採用されている。Diccionario del Español Actual(Manuel Seco 他、Aguilar1999)

**Asociación de Informadores Cinematográficos de Españaスペイン映画記者協会 の頭文字。

 

               (フェロス賞のトロフィー)

 

★カテゴリー(栄誉賞と特別賞を含む)13部門(右列:第1回受賞作品&受賞者)

1 作品賞(ドラマ)  “Stockholm

2 作品賞(コメディ)  3 bodas de más

3 監督賞        ダビ・トゥルエバVivir es facil con los ojos cerrados

4 脚本賞       Vivir es fácil con los ojos cerrados

5 主演男優賞     アントニオ・デ・ラ・トーレ『カニバル』

6 主演女優賞     マリアン・アルバレスLa herida

7 助演男優賞     マリオ・カサス『スガラムルディの魔女』

8 助演女優賞     テレレ・パベス『スガラムルディの魔女』

9 オリジナル音楽賞  ビクトル・レイジェス『グランドピアノ~狙われた黒鍵』

10 トレーラー賞    Teaserの『アイム・ソー・エキサイテッド』

11 映画ポスター賞   Serie 10 razones の“3 bodas de más

 

栄誉賞(すべてのシネアストが対象)

特別賞(興行成績が良かった観客賞のようなものか)

 

★栄誉賞と特別賞は、ゴヤ賞など他の映画賞にはないものです。ゴチック体はゴヤ賞2014と受賞が重なったもの。当ブログで全ての受賞作品を紹介しております。

 

2回(授賞式2015125日開催)主なノミネーション

★今年は123作品中13作品に絞られています。つまり1作品が複数のカテゴリーにノミネートされているということです。受賞は割れると思いますが、フォルケ賞やゴヤ賞のノミネートとほぼ重なるラインナップという印象です。例えば、アルベルト・ロドリゲスのLa isla minimaの内訳は、コメディ賞(コメディではない)と主演女優賞(主演女優は出てこない)以外のすべてにノミネート、主演男優賞にラウル・アレバロとハビエル・グティエレスの二人ノミネートで合計10個となりました。グティエレスは既にサンセバスチャン映画祭で男優賞を受賞しています。

 

    (“La isla minima”出演のラウル・アレバロ左とハビエル・グティエレス右)

 

★今年のスペイン映画界は、消費税増税にもかかわらず「黄金の年」であった。例えば、エミリオ・マルティネス≂ラサロの大ヒット“Ocho apellidos vascos”(5600万ユーロ)、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』(1620万)、サンチャゴ・セグラのトレンテ・シリーズ第5弾“Torrente V Operacion Eurovegas”(1070万)、“La isla minima”(600万)などが挙げられる。一番貢献したOcho apellidos vascosは、コメディ賞、助演女優賞(カルメン・マチ)、助演男優賞(カラ・エレハルデ)とトレーラー賞の4個、次の『エル・ニーニョ』は、助演男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスとヘスス・カロサの二人、オリジナル音楽賞のロケ・バニョスの3個です。サンチャゴ・セグラの「トレンテ4」は、スペイン映画界の救世主と感謝されたのにゴヤ賞ノミネーションはゼロでした。今回の“Torrente V Operacion Eurovegas”はフェロス賞にも嫌われ、多分ゴヤ賞にも嫌われると思います。

 

           (左から、カルメン・マチとカラ・エレハルデ

 

★興行的には貢献しているとは言えないが、映画記者に好かれたのが、サンセバスチャンで異例の金貝賞と監督銀貝賞のダブル受賞をしたカルロス・ベルムトのMagical Girlです(本来はダブル受賞なし)。ドラマ部門作品、監督、主演女優、主演男優、助演男優、脚本、トレーラー、ポスターの8個。また興行成績も200万ユーロと貢献度が高かったパコ・レオンのカルミナ第2Carmina y amén、コメディ部門作品、監督、主演女優、助演女優以下7個と健闘しています(個人的に応援している)。

 

           (“Magical Girl”のカルロス・ベルムト監督)

 

      (“Carmina y amén”のカルミナ・バリオスとマリア・レオン母娘)

 

★ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたバスク映画『フラワーズ』が期待以上の6個、ドラマ部門作品、監督・脚本(ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ)、助演女優(イジアル・アイツプル)、音楽(パスカル・ゲーニェ)、ポスター。マラガ映画祭のグランプリ、カルロス・マルケス≂マルセの10,000 KM6個、ドラマ部門作品、監督、脚本、主演女優(ナタリア・テナ)、主演男優(ダビ・ベルダゲル)、トレーラー。

 

          (『フラワーズ』のテレ役イジアル・アイツプル)

 

★ハイメ・ロサーレスのHermoso juventudがドラマ部門作品、脚本、主演女優(イングリッド・ガルシア・ヨンソン)の3個、同じくホルヘ・トレグロッサの“La vida inesperada”がコメディ作品、主演男優(ハビエル・カマラ)、音楽(ルシオ・ゴドイ他)の3個、ハビエル・フェセルの久々のモルタデロ&フィレモン・シリーズ“Mortadelo y Filemon contra Jimmy el cachondo”が、コメディ作品と音楽(ラファエル・アルナウ)の2個などです。

 

★もう間もなく発表になるはずですが、栄誉賞と特別賞はまだです。ゴチック体は当ブログで紹介した作品です。


オスカー賞2015外国語映画賞プレセレクション*アルゼンチンとベネズエラ2014年12月21日 15:25

★アカデミー賞2015外国語映画賞のプレセレクション9作品が発表されました(1219日)。当ブログで度々登場したダミアン・シフロンのRelatos salvajesWild Tales アルゼンチン≂西)と意外にもアルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』Libertador ベネズエラ≂西)が残りました。ダビ・トゥルエバの“Vivir es facil con los ojos cerrados”(西)とアレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』(Matar a un homgre チリ≂仏)は残念でした。

              (ポスターをバックに監督)

                      


                      

自分探しの旅が本命か

★今年は受賞歴なしというか初めてノミネートの国が多い印象です。本命とされている『イーダ』(Ida のポーランドも9回ノミネートと数こそ多いのですが、受賞歴なしです。『イーダ』のように自分探しの旅が戦後の歴史と重なる映画は、高齢化の進むアカデミー会員の好むジャンルです。いずれにしても、これから5作品に絞られ、受賞に辿りつくまでには山あり谷ありでしょう。

              

 
                         (右リカルド・ダリン)

リカルド・ダリンはアルゼンチンのヒーロー

★人口4076万人のアルゼンチンで、入場者300万以上は『瞳の奥の秘密』(241万人)を超えますね。勿論オスカー賞を受賞してからはトータルで、3355万ドル(製作費200万ドル)の収益を上げたから比較になりませんが。アルゼンチンのアカデミー賞と言われる「スール賞」は作品賞、監督賞、主演男優(オスカル・マルティネス)、主演女優(エリカ・リバス)以下10部門を制覇するという、ゴヤ賞同様こちらも一極集中が恒例になりました(『瞳の奥の秘密』は13部門)。6話で構成されているので主演と言われても困るので一応受賞者名を入れました。

 

   (中央アルモドバル、エリカ・リバス、サングラスのオスカル・マルティネス)

 

★どのエピソードも出だしは平凡に始まるが、どれもこれも次第に信じがたい危険な展開になる。例えばエリカ・リバスが花嫁になるエピソード‘Hasta que la muerte nos separe’では、人生最大の幸せの結婚式が些細なやきもちからコントロールを失っていく。またオスカル・マルティネス出演の‘La propuesta’は、交通事故をお金でもみ消そうとするのは金持ちなら誰でも考えつく。強請りがエスカレートするのもお馴染みのコース、ところがさんざお金をつぎ込んだあげくに罪を償いたいと言い出されては困るでしょ()。若い監督が社会秩序を攪乱していく才能はハンパじゃない。とんでもない出来事もブラック・ユーモアのお蔭で深刻にはならない。監督と結婚したマリア・マルルは、カンヌではかなりおなかが目立っていたから生まれたかな。本作にはイサベル役で”Pasternak”に出演している。仮に最終5作品に残ることはあっても受賞はないでしょうね。

 

★『解放者ボリバル』はプレセレクション止まり、ゼロ回ノミネートでも映画発達途上国ベネズエラではそれなりの意味があります。かなり史実と異なっていても、祖国の英雄が世界に知られるのは、国民として誇りになります。(写真下、ボリバルになったエドガー・ラミレス)

 


*当ブログ関連記事

Relatos salvajes201451日/22カンヌ映画祭2014

           2014815トロント映画祭2014

『解放者ボリバル』⇒2013916トロント映画祭2013

20141027ラテンビート2014 あれやこれや

第1回フェニックス賞に『金の鳥籠』が受賞2014年11月26日 10:16


★イベロアメリカの「オスカー賞」という触れ込みで、新しい映画賞「
Los Premios Fénix」が誕生しました。去る1031日、メキシコシティの「テアトロ・デ・ラ・シウダ」で、第1回授賞式が開催され、監督、製作者、俳優など大勢のラテンアメリカやスペインのシネアストが集いました。第1回の受賞者は『金の鳥籠』、ディエゴ・ケマダ≂ディエス監督のデビュー作でした。本作は劇場未公開作品ですが、「難民映画祭2014」で東京・札幌・西宮で上映されました。

 

        (大賞を手中にしたディエゴ・ケマダ≂ディエスと出演者たち)


 
★スペインのマリベル・ベルドゥの「私たちは、多種多様で、非常に長い歴史を共有しています」という開会の辞で始まりました。さらに926日にメキシコ南部のゲレロ州イグアラ市で起きた43名のアヨトチナパの師範学校生失踪者の名前が、ベルドゥとメキシコの俳優ダニエル・ヒメネス・カチョによって読み上げられるという異例の幕開けとなりました。開会式の時点では、まだこの学生失踪殺害事件は闇の中であったので、多くの出席者から、法の正義が行われること、現在メキシコにはびこっている暴力を忘れるなと訴える言葉が続いた。ガエル・ガルシア・ベルナルも「私たちは暗黒時代に生きている」と、アヨトチナパの師範学校生43名の支援を呼びかけた。

 

   (『ブランカニエベス』の憎しみを水に流して抱擁するベルドゥとヒメネス・カチョ)


 

主な受賞作品・受賞者

フェニックス賞:『金の鳥籠』La jaula de oroディエゴ・ケマダ≂ディエス(メキシコ)

最優秀監督・脚本賞:アマ・エスカランテ『エリ』“Heli”(メキシコ)ダブル受賞

 

          (両手に花ならぬトロフィーのアマ・エスカランテ)

 

最優秀男優賞:ヴィゴ・モーテンセンJauja”(米国・アルゼンチン)

 


最優秀女優賞:レアンドラ・レアルO lobo atras da porta”(ブラジル)

 


最優秀撮影賞:フリアン・アペステギアEl Ardor”(アルゼンチン)

 

フェニックス栄誉賞は、メキシコのアルトゥーロ・リプステイン監督(1943生れ)。今年鬼籍入りした友人ガルシア・マルケスの思い出を語った。まだ無名だったリプステインのデビュー作『死の時』(“Tiempo de morir1966)にガルシア・マルケスが脚本家として参加したこと、半世紀に及ぶ映画人生で「このフェニックス賞のトロフィーは、私の50年間の集大成」と壇上で述べた。 

      

 

◎『金の鳥籠』は2014のアリエル賞受賞作品、コチラ⇒201465

◎『エリ』はカンヌ映画祭2013の監督賞受賞作品、コチラ⇒2013108日/1123

◎“Jauja”は、カンヌ映画祭2014 コチラ⇒201456日/527

◎アルトゥーロ・リプステインとガルシア・マルケス コチラ⇒2014427

 

俄かには信じがたい失踪殺害事件の全貌が明らかになったのは114日、親たちは信じられずにいたが、8日になってメキシコ検事総長の会見で追認された。犯人は麻薬組織に通じていたイグアラ市長夫妻とイグアラ市警察本部長というに及んでは開いた口がふさがらない。麻薬密売組織がらみということは最初から想定されていたようですが、全員殺害、遺体は古タイヤやゴミと一緒に焼却され、袋に入れられて川に流されたという。市長夫妻には12万ドルの報奨金が掛けられていた。何故麻薬組織の一味が選挙で市長に選出されたのか、何故師範学校の学生が標的になったのか、まったく謎だらけの事件だが、願わくば、どこか他の惑星で起こったことと思いたい。

 

        (赤絨毯に一緒に現れたG.G.ベルナルと新恋人アリシー・ブラガ)

 

ダビ・トゥルエバ新作がアカデミー賞2015のスペイン代表に決定2014年10月24日 12:44

★ラテンビート上映の『Living Is Easy with Eyes Closed』(“Vivir es fácil con los cerrados”)がアカデミー賞スペイン代表作品に決定、ダビ・トゥルエバ監督がプロモーションを兼ねてロスアンジェルス入りしました。ロスで開催された「スペイン映画祭」のオープニング作品になりました(1016日)。梅田ブルク7は間もなく(1025日)、横浜ブルク13はちょっと先になります(118日)。このスペイン的色彩の濃い映画がノミネーション5作品まで生き残れるかどうかは難しそう。今年は最多の83カ国が参加、当ブログ紹介の作品もアルゼンチン、チリ、ベネズエラなどが顔を見せています。

この映画祭は、スペイン映画アカデミーICAAと教育文化スポーツ省、及び視聴覚製作者の権利運営機関EGEDAが主催しています。

 


★この映画祭のためトゥルエバの他、Caemina y aménの監督パコ・レオン、エミリオ・マルティネス・ラサロのバスク・コメディOcho apellidos vascos主演女優クララ・ラゴ、ハビエル・ルイス・カルデラのTres bodas de más主演男優マルティン・リバスも現地入りしてスピーチしました。いずれも今年のスペイン映画の話題作です。トゥルエバ曰く、「クララとリバスは英語でスピーチしたんだよ、観客の多くはヒスパニック系でスペイン語が分かるんだけど」。「コッチで映画に出ることを熱望してるんだ」と皮肉やのトゥルエバは冗談を飛ばしていました。他にも『スガラムルディの魔女』、ダニエル・サンチェス・アレバロのLa gran familia espanolaも上映されました(ゴヤ賞2014やマラガ映画祭などで既に紹介しています)。

 

            (スペイン映画祭でのダビ・トゥルエバ)

 

★最終候補に残るには、少なくともロスで1週間以上の一般公開が必要条件です(アメリカ主催の映画祭上映、映画祭で受賞してもダメ)。勢い配給会社の力関係が決め手になるようです。トゥルエバ作品は、Outsider Picturesと小さいところなので、とても難しいと悲観的。それでも「この映画はアメリカ人好みではないかもしれないが、アカデミーのメンバーはシネアストで無知ではない。彼らはスペインの歴史にも詳しく、サウラからアルモドバルの映画を見てきているからね。会員は一般の米国人とは違って、エリート集団だ」と望みを託している。一般の米国人はエリートではない?

 

★会員の加齢が進んで最近の受賞作を見ると、老いとか死がテーマになっていると強い。例えば『みなさん、さようなら』(03)、『海を飛ぶ夢』(04)、『おくりびと』(08)、『愛、アムール』(12)、または信念を持って権力と闘う人がテーマ『善き人のためのソナタ』(06)、『瞳の奥の秘密』(09)など。発表は来年1月中頃、監督にとって今年は長い冬になりそうです。

 

ラテンアメリカ諸国の代表映画リスト

 

◎ アルゼンチンRelatos salvajesWild Tales)ダミアン・Szifron (西合作)

カンヌFF 522日/トロントFF 815

 


   ウルグアイ Mr. Kaplan  アルバロ・Brechner

   エクアドル  En la tierra de los SueñosSilence in Dreamland)ティト・モリナ

   キューバ ConductaBehavior)エルネスト・ダラナス

マラガ映画祭2014「ラテンアメリカ部門」で作品賞・監督賞他を受賞(44

  ダラナスは2回目、『壊れた神々』(2008、ラテンビート2009)がキューバ代表作品だった。

 

               (女優賞受賞のアリーナ・ロドリゲスとアルマンド・バルデス)

   コスタリカ Princesas rojas Red Princesses)ラウラ・アストルガ(ベネズエラ合作)

  マラガ映画祭(44)、ベルリン映画祭、グアダラハラ映画祭、各出品

 

   コロンビア Mateo マリア・ガンボア(仏合作)

   チリ Matar a un hombreTo Kill a Man)アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス

ラテンビート2014『殺せ』の邦題で上映 108

 


   ベネズエラ LibertadorThe Liberator)アルベルト・アルベロ(西合作)

ラテンビート2014『解放者ボリバル』の邦題で上映

トロントFF 2013 「ガラ・プレゼン」2013916

 

      (宣伝ポスターをバックにアルベロ監督)

   ペルー El evangelio de la carne エドゥアルド・メンドーサ・エチャベ

   ボリビア Olvidados カルロス・ボラド

   メキシコ Cantinflas セバスティアン・デル・アモ

 

★今年のメキシコは良作揃いで予想できませんでしたが、“Cantinflas”は意外でした。ペルーはモントリオール映画祭2014「ワールド・コンペ」出品の“Perro Guardián”(監督:バチャ・カラベド他)を予想しておりました(94)。ショートリスト9作品は12月中、ノミネーションは年が明けた1月中頃になるはずです。

 

映画国民賞2014は脚本家ローラ・サルバドール2014年07月24日 16:20

★まず、映画国民賞 Premio Nacional de Cinematografiaというのは1980年に始まった賞です。国民賞は他に文学賞や美術賞、科学賞いろいろあるようです。選出するのは日本の文部科学省にあたる文化教育スポーツ省と映画部門ではICAAInstituto de la Cinematografia y de las Artes Audiovisuales)です。副賞は3万ユーロと少額ですが、1年に1人ですからゴヤ賞とは比較にならない「狭き門」、かなりの栄誉賞です。一時期(1988794)は2人でしたが、今は1人に戻っています。特に映画部門は監督・俳優・製作者・音楽家・脚本家と多方面にわたるから、文学のように1人というわけにいかない。大体前年に活躍したシネアストから選ばれます。例年7月に発表になり、授賞式は9月のサンセバスティアン映画祭です。

 


★今年の受賞者、ローラ・サルバドール Dolores(Lola) Salvador Maldonadoは、1938年バルセロナ生れの脚本家、劇作家、プロデューサー。ラジオの脚本家として出発(1962)、テレビ・シリーズ(1973~)、演劇、映画(1980~)と幅広い活躍が認められた。脚本家が選ばれるのは珍しく、1982年の故ラファエル・アスコナ以来というから地味な分野です。監督が脚本家を兼ねていることがその一因かもしれない。テレビ・シリーズは『セサミ・ストリート』(1979)のスペイン語版を手掛けた。演劇の代表作はテネシー・ウィリアムズの『熱いトタン屋根の猫』(1984)、ヘンリック・イプセンの『幽霊』(1993)などクラシック作品を翻案した。執筆以外に教師として若いシネアストの指導に当たっている。

 

   代表的フィルモグラフィー(ライター)

1980 El crimen de Cuenca クエンカ事件 監督ピラール・ミロー

1983 Bearn o la sala de las muñecas 「ベアルン」** 監督ハイメ・チャバリ

1984 Las bicicletas son para el vsrano 「自転車は夏」** 監督ハイメ・チャバリ

1984 El jardín secreto 「秘密の庭」 監督:カルロス・スアレス

2001 Manolito Gafotas en ! Mola ser jefe ! 「メガネのマノリート」 監督:Joan Potau

2001 Salvajes 「教養のない人々」 監督:カルロス・モリネロ

2008 Titón, de la Habana a Guantanamera 「ティトン」 監督:ミルタ・イバラ

 

★比較的高評価の作品を選びました。脚本は単独より監督や原作者との共同執筆が多い、上記もすべて共同です。は「第1回スペイン映画祭1984」の邦題、**は乾英一郎の『スペイン映画史』により、その他は一応仮題を付けました。

 

(「自転車は夏」より、右ガビノ・ディエゴ)

 

★フランコ時代からという経歴から、厳しい事前検閲と戦ってきた世代といえます。特にクエンカ事件は、フランコ没後の民主主義移行期の作品にも拘わらず、ミロー監督が事情聴取のために拘留されるという一大スキャンダルとなりました。1913年クエンカで起きた冤罪事件がテーマ、治安警備隊が自白を強要するために行った凄惨な拷問シーンが理由でした。「ベルリン映画祭1980」の正式出品ということもあって、検閲廃止が名ばかりであったことが内外に知れ渡ってしまうという汚点を残してしまった。サルバドールは「フランコ残党のこれが最後のあがきだったのよ」と語っています。粒揃いだった「第1回スペイン映画祭1984」の上映作品は、その後『エル・スール』のように公開された作品が多かったのですが、本作は映画祭上映だけで終わりました。

 

   (クエンカ事件』より、爪を剥がすシーンは序の口、もっと凄惨なシーンがある)

 

★受賞歴は、「ゴヤ賞2002」にSalvajesで監督以下4名が「最優秀脚色賞」を受賞、2011年、内閣府より芸術功労者に与えられる「Medalla de Oro金のメダル」を受賞しています。脚本家という仕事が世間的にどんな職業か知られていない不満はあるようですが、「今は文句を言う時ではなく、とにかく受賞は素晴らしい」という辛口談話を出しました。自分にも他人にも厳しい人のようです。

 

1回受賞者はカルロス・サウラ

★因みに過去に、どんなシネアストが選ばれているかというと、第1回がカルロス・サウラ→故ルイス・ガルシア・ベルランガ→故アスコナ→故パブロ・ゴンサレス・デル・アモ→故パコ・ラバル→マリオ・カムス・・・の順。やはり監督が多い。最初の俳優受賞者パコ・ラバルは依然アップした『無垢なる聖者』の演技が認められて受賞したのでした。大分鬼籍入りしてますね。

 

★運不運があるのは何の賞でも同じ、大物監督アントニオ・バルデムは受賞できないまま旅立ったが、代わりに甥のオスカー俳優ハビエルが『ノーカントリー』の国際的な活躍で2008年受賞しました。若くても貰えます。例えば、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』でカルメロ・ゴメス2009、昨年は『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナが泥船だったスペイン映画界の救世主として受賞、おなじ救世主でも政府やICAAに批判的なサンチャゴ・セグラはまだ声が掛からない(笑)。でもアルモドバルは1990年受賞しています、何しろヒット作を飛ばしていたから無視できなかった。それにまだテキも少なかったしね。

 

上記以外の当ブログに登場してもらった受賞者には、故エリアス・ケレヘタ1987、カルメン・マウラ1988、故ホセ・マリア・フォルケ1994、マリサ・パレデス1996、モンチョ・アルメンダリス1998、メルセデス・サンピエトロ2003、マリベル・ベルドゥ2009、アレックス・デ・ラ・イグレシア2010、アグスティ・ビリャロンガ2011、音楽家ではホセ・ニエト2000、アルベルト・イグレシアス2007、撮影監督ではハビエル・アギレサロベ2008など。

 

★現在の ICAA の役員は、スサナ・デ・ラ・シエラ会長以下、アナ・アミゴ、エンリケ・ウルビス、ジョアン・アントニ・ゴンサレス、バヨナ、マリア・デル・マル・コル、ホセ・マリア・モラレス、マリエラ・ベスイエブスキーの8名(会長は発表直後の718日に辞職した)。


ゴヤ賞2015新人女優賞はイングリッド・ガルシア≂ヨンソンで決まり?2014年06月26日 18:41

★まだ年後半が始まっていない段階で来年のゴヤ賞予想は早すぎますが、ハイメ・ロサーレスHermosa Juventudの主人公イングリッド・ガルシア=ヨンソンが注目を集めています。530日に封切られてから、「ゴヤ賞新人女優賞はイングリッド・ガルシア=ヨンソンで決まり」みたいな記事まで登場しました。カンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、「エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション」を受賞した作品。既に二度にわたってUPしておりますが(54日・26日)、新しい記事も加えて再構成しておきます。まずは作品、監督紹介から。

 

(写真:笑みを絶やさないイングリッド、カンヌ映画祭にて)

 

    Hermosa JuventudBeautiful Youth

製作:Fresdeval Films /

監督:ハイメ・ロサーレス

脚本(共同):ハイメ・ロサーレス/エンリク・ルファス

撮影:パウ・エステベ・ビルバ

編集:ルシア・カサル

 

★キャスト:イングリッド・ガルシア・ヨンソン(ナタリア)/カルロス・ロドリゲス(カルロス)/インマ・ニエト(ナタリアの母ドロレス)/フェルナンド・バロナ(ラウル)/フアンマ・カルデロン(ペドロ)/特別出演トルベ

データ:スペイン、スペイン語・ドイツ語、2014年、撮影地マドリード(約5週間)、102

受賞歴:カンヌ「ある視点」正式出品、エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション受賞

 

★ストーリー:経済的危機から一向に抜け出せないでいる現代スペインが舞台、恋人カルロスとアマチュアのポルノ・ビデオ撮影を決心するナタリアの物語。二人は共に二十歳、美しいが運に見放されたナタリアに特別な野心はないが、生き延びるにはお金を稼がねばならない。ナタリアはカルロスの子を心ならずも身ごもっており、やがて二人は娘フリアの親になってしまう。ナタリアの両親は離婚、他に二人の姉妹もおり、母親はナタリアに援助できない。失業中のカルロスには体が不自由で世話を必要としている母親がいる。かなり厳しい現実に直面しているが、愛を語れないほど悲惨ではない。 

                    (写真:カルロスになるカルロス・ロドリゲス)

 

キャリア&フィルモグラフィー

★ハイメ・ロサーレスJaime Rosales 1970年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。同市のフランス系高校で学ぶ。経営学の学士号を取得している。映画はハバナの映画学校サンアントニオ・デ・ロス・バニョスで3年間学ぶ。その後オーストラリアに渡り、シドニーのAFTRSBEAustralian Film Television and Radio School Broadcasting Enterteinment)で学ぶ。影響を受けた監督としてフランスのロベール・ブレッソンと小津安二郎を上げています。

 

2003 Las horas del día カンヌ映画祭「監督週間」正式出品、国際映画批評家連盟賞を受賞。バルセロナ・フィルム賞(ガウディ賞の前身)、ブエノスアイレス映画祭特別審査員賞、トゥリア映画祭第1回作品賞などを受賞、ノミネート多数

2007  La soledad 『ソリチュード:孤独のかけら』 カンヌ「ある視点」正式出品、ゴヤ賞2008監督賞、トゥリア映画祭観客賞、サン・ジョルディ賞(スペイン語部門)など受賞。
(詳細コチラ

2008  Tiro en la cabeza  サンセバスチャン映画祭正式出品

2012  Sueño y silencio  カンヌ「監督週間」に正式出品

2014 Hermosa Juventud 省略

*他、1997年に 短編Virginia no dice mentira を発表、ビデオ・ドキュメンタリー、短編多数

 

★小さな町で衣料品店を営む物静かな青年の本当の姿を誰も知らない。異常な殺人者のアイデンティティを描いたLas horas del díaで鮮烈デビューして以来、ロサーレスは1作ごとにスタイルを変えている。第2作は、理不尽なバス爆弾テロで赤ん坊を失った母親の凄味のある静穏さを描いたLa soledad、第3作はETAのテロリストを主人公にした無声映画、これはドキュメンタリーの手法を使用したフィクションだが、テーマがテーマだけにサンセバスチャン映画祭は紛糾した。

 

(写真:主役のアレックス・ブレンデミュールLas horas del díaより)

 

★カンヌに持っていった第4Sueño y silencioはモノクロ、キャスト陣はアマチュアを起用した。二人の娘に恵まれ、パリで暮らす夫婦が夏のバカンスを過ごそうとエブロ川のデルタにやってくる。そして事故が起き突然長女を失ってしまう。夫婦のあいだに亀裂がはしり修復できそうにない。彼の映画には「死」が描かれることが多いが、それは「生」を際立たせるためのようです。構図の取り方は『ソリチュード:孤独のかけら』を受け継いでおり、ここでもドキュメンタリーの手法を多用、ラストシーンはモノクロを活かして素晴らしい。ブレッソンの影響を感じさせる作品。

 

 未来が描けないスペインの若者

5作目となる最新作はロサーレスによると、現代のスペインの若者には良くも悪くも未来が描けないという。「勿論、皆なが皆そうだとは言ってない、たくさんの青春があり、現実がある。そのなかで私たちは将来に行き詰まった状況を変えられずにいる、未来は黒一色に染め上げられている若者たちに焦点を当てた」。今年2月に撮影、3月にミキシングを終えたばかりでカンヌに間に合わせたという。「ほんとに小さな映画、若い人と一緒に仕事をして、自分は教師でもあり生徒でもあった」と語っています。「教えることは学ぶこと」は真理です。日本から見ると20代の失業率60%は想像できない。経験を積むチャンスがなければ、自らアクションを起こすしかない。スペインに伝統的にある移民、または豊かなドイツに出稼ぎに行くのも悪くないか。

 

   (写真:帰国後RNEスペイン国営ラジオのインタビューを受ける監督とイングリッド)

 

★「今現在、ここに存在している物語」を語りたいから、「公園や繁華街にいるたくさんの若者にインタビューして取材を重ねていった。まるでダイナミックなパズルを嵌めこむようにして脚本を組み立てた」と監督は語っています。彼らが一様に口にしたのが<お金>と失業のこと、交通費の高さ、賃金の安さ、どうやって節約するか、と話題はすぐお金の話に舞い戻っていく。スペインの若者は出口の見えない袋小路に迷い込んでいて、映画やファッションどころではないという現実だった。「政治的な映画をつくるつもりはなく、ただスペインの若者の現実を語りたいと思っただけ」、これが理解できないと日本の観客は多分登場人物のなかに入れないのではないか。

 

 今までのチームを入れ替えて

★ダルデンヌ兄弟、ケン・ローチ、アブデラティフ・ケシシュの映画が頭にあったというロサーレスは、「今までのチームをすっかり入れ替えて、若い人たちと撮影をした。私を惹きつけた若者の不確かな世界を通して、私を不安にさせていた何かと繋がろうとした」。映画のなかの若者も世界を自分たちに引き寄せるため、現実の活力を捕まえるため、より激しく、より美しくデリケートに、しかし真正面から挑んでいる。それがこの映画の強みである。若い観客は鏡に映った自分の姿と向き合うことになり、彼らが負った深い傷を発見することになる。

 

★プロの撮影監督が80%、残り20%の撮影をアマチュアに任せた、ポルノ映画の部分ですね。そのコントラストに興味が湧きます。前述したようにロサーレスは1作ごとに冒険するタイプ、ここではポルノ・ビデオ界の帝王ことトルベに協力を要請した。本名イグナシオ・アジェンデ・フェルナンデス(またはナチョ・アジェンデ)、1969年バスクのビスカヤ生れ、サンティアゴ・セグラの『トレンテ』(シリーズ234)で既に日本に紹介されています。

 

「スペインのアデル」

★「スペインのアデル・エグザルコプロス」と言われているのが、本作の主人公イングリッド・ガルシア・ヨンソン。アデル・エグザルコプロスとは、アブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』のヒロインを演じた女優。2013年のカンヌ映画祭で監督と主演女優2人が壇上に、「パルムドールが3人の手に!」と話題になった。ケシシュはチュニジア出身のフランスの監督。ロサーレスも彼のことは頭にあったようですね。

 

長編映画の主役は初めてというイングリッド・ガルシア・ヨンソン Ingrid Garcia-Jonsson は、スウェーデンのシェレフテオ市生れのスウェーデン女優。しかし幼少時はセビーリャで育ち、のちマドリードに居を定めている。2006年から舞台俳優としてデビュー、映画はヘスス・プラサの短編 Manual for Bored Girls2011)でブロンドの少女役が初出演、代表作はマヌエル・バルトゥアルの長編Todos tus secretos2014)、アルバロ・ゴンサレスの短編 El jardinero2013)など。スペイン語の他、英語、仏語、勿論スウェーデン語ができる。(詳細はコチラ

 

★自分が「スペインのアデル」と言われているのは知らなかったようで、家族が記事を読んで教えてくれたそうです。映画のなかのナタリアとはうって変わってにこやかで冗談好きの女性。トルベと監督が一緒だったホーム用ポルノ・ビデオ撮影は、「寒くて尻込みした。トルベはずっと話し続けていて、本当に感じが良く、当たり前だが普通の人です」と。「映画のなかでヌードになることは、今日では珍しいことではなく、よく目にすることですよ」、確かにその通り、不必要なヌードもありますね。 

                   (写真:娘フリアをあやすナタリアのイングリッド)

 

 1ヵ月400ユーロで

★イングリッドとナタリアには共通していることがある、性格でなく状況のことだが。「1ヵ月400ユーロで暮らしているが、16歳のときからこの道に入り学んでいる」と語るイングリッドは、女優だけでなく製作助手をしながら映画の裏側をも学んでいる。マヌエル・バルトゥアルの長Todos tus secretosのようなローコストのプロダクションが手掛けた作品にも出演しているからだ。「時間が足りない。私の集中力を途切れさせないよう、ハイメ(監督)はスタッフが私に話しかけるのを禁じていた」とも。ロサーレスが好きな女優のタイプを知っているとも語っている。ロサーレスによると、「オーディションを受けに来て知り合ってナタリアに起用したのだが、磨きをかける必要がありそれで相当口論した。互いに憎みあいもしたが、結局彼女は私を求め、私も彼女が大好きだったのだ」と。「女優になるためには苦労しなきゃとは思わないが、この映画からは沢山のことを学んだ」ようです。

 

★来年のゴヤ賞新人女優賞を疑う人はいないと思うがと、記者が水を向けられると、「本気でそんなことが起こると思う?」と冗談めかしていたが、そうだといいね。とにかく雇用が不安定な若い世代に見て欲しいということです。

 

 『月曜日にひなたぼっこ』は・・・

★フェルナンド・レオンの『月曜日にひなたぼっこ』(2002)と本作が大きく異なるのが登場人物の世代。同じ流浪の民でも、あちらの失業者は概ね中年から退職間近のひと、一番若そうなハビエル・バルデムでも30代後半だった。こちらは若く見せようと白髪を染める必要がないかわり、働いてないので当然失業保険も貰えない。従って不要の烙印を押されてしまった熟練者としての誇りや失業の恐怖と疎外感を払いのけるために飲みつぶれるお金もない。共通するのは、普通の人々が、つまりちゃらんぽらんに生きているわけではないのに、お金がない、することがない、夢がない、息が詰まるような悲しみに向き合っていることだけ。

 

(写真:ルイス・トサールとハビエル・バルデム)

 

★日給10ユーロがポルノ・ビデオ出演に同意すれば1時間で300とか500ユーロとか貰える。これが信じられる状況だというから考えさせられます。ロサーレスの映画は好き嫌いがはっきり分かれるが、彼の独創性は常に俳優の自然な演技を引き出すことに長けていることです。第3Tiro en la cabezaにはついていけなかったが、本作は置いてきぼりをくわないのではないか。

 

アリエル賞2014*ケマダ=ディエス9部門制覇2014年06月05日 19:12

★アリエル賞はメキシコのアカデミー賞ですが、第56回というからゴヤ賞の倍の歴史をもっている。国際的な評価とは一味違った独自の選択をすることが多いです。今年はノミネートが『エリ』14部門)とLa jaula de oro(同)の2作品に集中していて発表前から白けていたのですが、なんと『エリ』はアマ・エスカランテの監督賞だけ、後者が作品賞を筆頭に9部門制覇という結果になりました。 


La jaula de oroもカンヌ映画祭「ある視点」部門ある才能賞受賞、チリのビーニャ・デル・マル賞、アルゼンチンのマル・デル・プラタ賞、カルロヴィ・ヴァリ映画祭を皮きりに、チューリッヒ(作品賞他)、ワルシャワ、シカゴ(新人監督賞)、サンパウロ(スペシャル・メンション他)、リマ(審査員賞他)、サンセバスチャン、モレリア(新人監督・批評家・観客賞)、ムンバイ(作品賞)、ハバナなど数えきれない国際映画祭に出品され受賞しましたからイチャモンつける気はないのですが、個人的にはゴヤ賞を含めて一極集中は歓迎できない。9部門制覇にはグアダラハラ映画祭を抜いてメキシコで最も権威ある映画祭と言われるようになったモレリアで観客賞を受賞したことが今回の受賞に繋がったと推測致します。これで合計50賞になるとか(!)。

 

★『エリ』は当ブログでも何回も紹介していて飽きていましたが(笑)、メキシコのアカデミー会員も「『エリ』は沢山貰ったから、もういいかな」と考えたのか、または蓋を開けたらこうなっちゃったと思っているのか。サンセバスチャン映画祭の監督銀貝賞を貰ったフェルナンド・エインビッケのClub Sándwichはノミネートからして3部門と少なかったのですが無冠に終わりました。La jaula de oroはゴヤ賞「イベロアメリカ」部門にノミネートされた折り、若干ご紹介いたしましたが(コチラ115日)、アリエル賞9部門受賞となれば改めて紹介しておいたほうがいいでしょうか。監督の辿ってきた辛い人生と表裏一体になっていると思うから。マリア・ホセ・セッコの詩的な映像に撮影監督賞受賞は納得ですが、アマチュアの二人の若者が男優賞と助演男優賞を受賞したのには驚きました。

 

   La jaula de oroThe Golden Cage”“The Golden Dream

★データ:メキシコ=西=グアテマラ、言語:スペイン語・英語、撮影地:グアテマラ、メキシコ

2013年、102

製作共同):Animal de Luz Films / Kinemascope Films / Machete Producciones
            (作品賞受賞

監督:ディエゴ・ケマダ≂ディエス(オペラ・プリマ賞受賞/デビュー作に与えられる監督賞)

脚本:ディエゴ・ケマダ≂ディエス、ヒブラン・ポルテラ、ルシア・カレーラス (受賞)

撮影監督:マリア・ホセ・セッコ (受賞)

編集:パロマ・ロペス、フェリペ・ゴメス (受賞)

録音:マティアス・バルベイス 他 (受賞)

オリジナル音楽:レオナルド・ヘイブルム 他 (受賞)

 

キャスト:ブランドン・ロペス(フアン、男優賞受賞)/ロドルフォ・ドミンゲス(チャウク、助演男優賞受賞)/カレン・マルティネス(サラ)/カルロス・チャホン(サムエル)/エクトル・タウイテ(グレゴリオ)/リカルド・エスケラ(ビタミナ)/ルイス・アルベルティ(山刀を持った男)他

 

プロット:グアテマラのスラム街に暮らすティーンエイジャーのフアン、サラ、サムエルの三人は、よりよい生活を求めて豊かな「北」アメリカを目指す旅に出る。途中メキシコでチアパス出身の先住民チャウクに出会うが、彼はスペイン語が分からない。彼らは貨物列車「ビースト号」で、線路を徒歩で、困難に出会いながらも友情を深めていく。愛と連帯を通して痛みや恐怖や社会的不正義と闘いながら、夢見がちなフアンは本当の辛さが何であるかを知ることになる。ここでは友情や愛だけでなく、決断、出会い、言語の違いも語られる。

 

         (写真:左からフアン、男の子に変装したサラ、チャウク)

 

ディエゴ・ケマダ≂ディエス Diego Quemada-Diez 1969年、カスティーリャ・レオン州のブルゴス生れ、監督、脚本家、撮影監督、プロデューサー。アメリカン・フィルム・インスティテュートの演出&撮影科で学ぶ。卒業制作A Table Is a Table2001、短編、スペイン語題Una mesa es una mesa)は、アメリカン・ソサエティ・オブ・シネマトグラファーの撮影技術賞を受賞した。2006年に 2作として短編ドキュメンタリーI Wont to Be a Pilot(“Yo quiero ser piloto”)をケニアで撮る。貧しい12歳の少年オモンディはパイロットになることが夢である。純然たるドキュメンタリーというよりドキュメンタリー・ドラマ。本作はクリーブランド国際映画祭(オハイオ州)の短編ドキュメンタリー賞を受賞、ロサンゼルス、サンパウロ、カナリア諸島映画祭などでドキュメンタリー賞を受賞する。同年第3作として短編ドキュメンタリーLa morenaを撮る。メキシコでは最大の商港都市マサトランの市街地で貧しさから売春をして生きる女性を描く。長編デビュー作La jaula de oroに繋がる将来を描けない若者がテーマであることが分かる。

1967年に映画芸術の遺産保護と前進を目的に設立された。現在ロサンゼルスにある映画テレビ研究センターは、映画の演出や製作技能の教育機関となっている。テレンス・マリック(1967入学)、デヴィッド・リンチ(1971同)などが学んでおり、ケマダ≂ディエスも入学の動機として二人の名を挙げている。 


ケマダ≂ディエスはスペイン系メキシコの監督

★スペインの、メキシコの、スペイン系メキシコの監督、と紹介はまちまちですが、メキシコに来て約20年近くなり10年前に既に帰化しているというから正確にはスペイン系メキシコの監督です。1990年代後半にメキシコやグアテマラをたびたび訪れていたという母親が死去したのを機にスペインを離れたようですが年数にズレがある。ゴヤ賞2014「イベロアメリカ」部門にノミネートされたときのインタビューでは「17年前にスペインを離れ、最初はポーランドに行った」と語っている(1996年になる)。ある人から「イサベル・コイシェがThings I Never Told You1996、スペイン語題Cosas que nunca te dije**)をアメリカのオレゴン州で撮っていてカメラマン助手を探している。やる気があるなら便宜を図る」と言われてアメリカ行きを決めた。ケン・ローチの『カルラの歌』のカメラマン助手、その後は撮影監督のもと撮影技師としてフェルナンド・メイレーレス、アレハンドロ・ゴンサーレス・イニャリトゥ、オリバー・ストーン、スパイク・リーなどの映画に参画している。40歳を過ぎてからの長編デビューであるが、スタッフに実力ある顔ぶれを揃えられたことからも、その映画歴の長さが推しはかれます。

**ヒスパニック・ビート映画祭2004(後ラテンビートに統一)で『あなたに言えなかったこと』の邦題で上映された。 


不法移民だった監督が撮った不法移民の映画 

★先ほどのインタビュー記事の続きで、出国の理由としてスペインに映画を学ぶ学校がなかったことを挙げております。なかったわけではないが***、アメリカン・フィルム・インスティテュートのように映画をプラクティカルに学ぶ学校がなかったいう意味でしょう。他に夢だけをトランクにいっぱい詰めて、英語も喋れず星条旗の国の身分証明書もなくアメリカに入国したこと、これが「不法移民だった監督が撮った不法移民の映画」といわれる所以です。アメリカン・フィルム・インスティテュートに入るため倹約の日々であったこと、メキシコにくることになったきっかけが『MISS BALA / 銃弾』(2011、ラテンビート上映)のヘラルド・ナランホとの出会いであったことなど、たくさんエピソードを語っていますが、今回はアリエル賞受賞がテーマですから後に回すことにします。

***スペインの国立の映画学校としては、1947年に設立された国立映画研究所Instituto de Investigaciones y Experiencias CinematograficasIIEC)があり、後に国立映画学校Escuela Oficial de CinematografiaEOC)に改組された(1962年)。本校も1990年に29年間の活動を終え、トータルで約1500人の学生が卒業、スペイン映画界で活躍中のシネアスト(物故者を含めて)の多くはここで学んでいる。現在はマドリードのコンプルテンセ大学に発展吸収されています。バルセロナにもカタルーニャ映画センターがあり、メキシコからも学びにきております。

 

 類似映画は『闇の列車、光の旅』

★グアテマラを出発した三人は離れ離れになってしまい、フアンとチャウクの二人の旅になる。彼らはアメリカの大地に果たして立つことができるのか。ハリウッド映画じゃないからアルフォンソ・キュアロンの『ゼロ・グラビティ』のように無事地球に帰還できるかどうか。物語は第3La morenaの舞台となった港湾都市マサトランや麻薬カルテルの本拠地シナロアで2003年から収集し始めた600以上の証言から構成されている。事実に基づくドキュメンタリー・ドラマ(ドキュドラマdocudrama)であり、過去の類似作品としてはキャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』が挙げられます(コチラ20131110日)。

 

(写真:撮影中の監督、後方が二人の主人公)

★ドキュメンタリー手法を取り入れた撮影は特に評価が高く、列車内の映像もどうやって撮影したのか興味がもたれています。毎年、中米やメキシコからのアメリカへ押し寄せる不法移民40万人は尋常な数字ではないし、摘発して母国に送還する方法では本当の解決策にならない。監督も「私たちの喜びが現実にある悲惨や苦しみの中から生れたことは、人生のパラドックスです。夢を叶えるために強奪や暴力や殺人まで犯して、このルートを通らねばならないことを為政者に問いたい」と受賞インタビューで語っています。エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領が出演俳優たちに「おめでとう」をツイッターしたそうです。ちゃんと見てくれたのかしらん。

 

★ティーンエイジャーたち四人は初出演、脇をプロの俳優が固めている。男優賞受賞のブランドン・ロペス(フアン)は、グアテマラのバリオで行ったオーデションでスカウトされた。「僕の夢は有名になることだった、この映画に出演したことで僕の夢は叶い、ここに立っている」と受賞の挨拶。チャウクに扮したロドルフォ・ドミンゲスは自分の母語ツォツィルtzotzil語しか解さなかったようで、監督も「撮影は困難を極めた」とカンヌで語っていました。カンヌでは場違いのところに連れて来られて気後れしているようだったが、アリエルでは別人のように見えます。ドミンゲスのスカウトの経緯は分からなかった。(ウィキペディアによれば、ツォツィル語はマヤ語の仲間で、話者人口はメキシコのチアパス、タバスコ、ユカタン他、グアテマラ、ホンジュラス、ベリースに35万人いるそうです。) 

                    (写真:トロフィーを手にしたブランドン・ロペス)

 

(写真:トロフィーを手にしたロドルフォ・ドミンゲス)

 

★今年のアリエル賞は、『ゼロ・グラビティ』でメキシコ初のオスカー監督となったアルフォンソ・キュアロンを風刺する言葉が発せられたようです。プレゼンターも「メキシコの映画には殆ど寄与していない、なぜなら成層圏にいるんだから」と皮肉ったようですが、これはハリウッド映画なのですから大人げないという印象をもちました。背景にはキュアロンの映画そのものより上流出身とかハリウッドでの成功に対するヤッカミがあるのでしょうね。アルモドバルが『オール・アバウト・マイ・マザー』でアカデミー賞を受賞したときのスペイン人の反応に似ているかな。ケマダ≂ディエス監督も「キュアロンやデル・トロは南から北へ移動したけど、私は北から南へ逆のルートを辿っている」と冗談言ってましたが、人のことはどうでもよいです。