『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ*東京国際映画祭2022 ④2022年10月17日 10:54

    「ユースTIFFティーンズ」にエレナ・ロペス・リエラの『ザ・ウォーター』

 

     

 

★ユース部門には「チルドレン」と「ティーンズ」があり、エレナ・ロペス・リエラ『ザ・ウォーター』がエントリーされた後者は、主に高校生に観てもらいたい映画から選んでいるそうです。『ザ・ウォーター』が高校生を対象にしている作品とは思いませんが、取りあえず字幕入りで観られるのを歓迎したい。TIFFの「ひと夏の瑞々しい青春映画」という紹介文の是非は問いませんが、世代を問わない佳作であるのは間違いない。カンヌ映画祭と併催の「監督週間」でワールドプレミアされ、トロント、サンセバスチャン、ヘルシンキ、チューリッヒなど各映画祭をめぐってTIFFにやってきます。

   


         

★当ブログでは、サンセバスチャン映画祭2018サバルテギ-タバカレラ部門で上映され、スペシャル・メンションを受賞した短編ドキュメンタリー「Los que desean」(24分)を簡単に紹介しています。本作はヨーロッパ映画賞にノミネートされ、ロカルノ映画祭で短編部門(パルディ・ディ・ドマーニ)の作品賞パルディノ・ドールPardino dOro)を受賞した彼女の代表作です。

Los que desean」の紹介は、コチラ20180801

 

  

        (パルディノ・ドールのトロフィーを手にした監督、ロカルノFF 2018

 

 

                                       (短編「Los que desean」のフレームから)

  

 

 『ザ・ウォーター』(原題「El agua」英題「The Water」)

製作:ALINA FILMS (スイス)/ Les Films du Worso(フランス)/ Suica Films(スペイン)

監督:エレナ・ロペス・リエラ

脚本:エレナ・ロペス・リエラ、フィリップ・アズリー 

撮影:ジュゼッペ・トルッピ

編集:ラファエル・ルフェーブル

音楽:Mandine Knoepfel

録音:カルロス・イバニェス、マチュー・ファルナリエ、ドニ・セショー

プロダクション・デザイン:ミゲル・アンヘル・レボーリョ

メイクアップ:カトリーヌ・ジング

製作者:ユージニア・ムメンターラー、ダビ・エピニー

 

データ:製作国スイス=フランス=スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、105分、イクスミラ・ベリアク(Ikusmira Berriak20182019年カンヌFFシネフォンダシオンのCNC 賞受賞、撮影地バレンシア州アリカンテ県オリウエラ、配給スペインElastica Films、公開スペイン114

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭「監督週間」ゴールデンカメラ賞ノミネート、以下トロントFF、サンセバスチャンFFタバカレラ賞ノミネート、ヘルシンキFF、オウレンセFF、トゥルーズ・シネエスパーニャFFノミネート、チューリッヒFFゴールデンアイ賞ノミネート、東京国際映画祭ユース TIFF ティーンズ部門、ストックホルムFF、など。

 

キャスト:ルナ・パミエス(アナ)、バルバラ・レニー(母親イザベル)、ニエベ・デ・メディナ(祖母)、アルベルト・オルモ(ボーイフレンド、ホセ)、イレネ・ぺリセル、ナヤラ・ガルシア、他

 

ストーリー:スペイン南東部の小さな村では、夏には暴風雨により村の近くを流れる川が再び氾濫する怖れがあります。昔からの言い伝えによると、一部の女性たちは「内部に水」をもっているため、新たな洪水が起きるたびに姿を消す運命にあると、長いあいだ信じられています。死の臭いが漂う村で、アナは村人の不信の視線を感じながら母親と祖母と暮らしています。若者のグループがタバコを吸ったり、踊ったり、羽目を外して夏の倦怠感を克服しようとしています。嵐に先だつこの刺激的な雰囲気のなかで、アナはホセに恋をするのですが、同時にファンタズマを吹き飛ばすために闘うことになるだろう。若い女性の覚醒とレジスタンスが語られる。(文責:管理人)

 

    

                  (アナ役ルナ・パミエスと母親役のバルバラ・レニー)

   

          

                                            (アナと祖母役のニエベ・デ・メディナ)

  

     

                  (アナとボーイフレンドのホセ役アルベルト・オルモ)

 

エレナ・ロペス・リエラ監督紹介:1982年アリカンテ県オリウエラ生れ、ビジュアルアーティスト、監督、脚本家、女優。バレンシア大学で視聴覚コミュニケーション学の博士号を取得、その後ジュネーブ大学、マドリードのカルロスⅢ大学で学ぶ。2008年からスイスに転居、パリとジュネーブに在住、ジュネーブ大学で映画と比較文学を教えている。セビーリャ・ヨーロッパ映画祭、スイスのVisions du Réelのプログラマーを務め、 2017年から選考委員会のメンバーである。2021年サバルテギ-タバカレラ部門の審査員を務めた。新しい視聴覚機器の研究と実験をめざすアーティスト集団 lacasinegra の共同創設者の一人。「私の芸術的実践の主な目的は、動画を通して、男性と女性、現実と幻想、ドキュメンタリーとフィクションなど、学習され伝達され、繰り返される概念の境界を越えること」と語る監督は、カンヌのインタビューでは「言い伝えが現実と一体化して、誰もそれを切り離すことができない」と語っている。

 

★フィルモグラフィー:2015年、短編「Pueblo」(27分)がカンヌ映画祭「監督週間」にノミネートされ、スペインの最初の女性監督となった。2016年、第2作目となる「Las vísceras」(英題「The entrails16分)、「はらわた」というタイトルの本作は監督の故郷を舞台にしたドキュメンタリー、ロカルノ映画祭短編部門に正式出品された。第3作目が上記のドキュメンタリー「Los que desean」(英題「Those Who Lust24分、スイスとの合作)である。長編デビュー作『ザ・ウォーター』は、サンセバスチャンFFのイクスミラ・ベリアク2018に選ばれ、REC Grabaketa Estudioaを得る。さらに2019年カンヌFFのシネフォンダシオンCNCを取得して『ザ・ウォーター』の製作資金となった。因みに一緒に受賞したのが『悲しみに、こんにちは』(17)の監督カルラ・シモンで、彼女の第2作目「Alcarras」(22)の製作資金となった。

    

   

                    (エレナ・ロペス・リエラとカルラ・シモン)

 

★本作はスペイン南東部、オレンジとタバコ栽培が主産業の監督の生れ故郷、〈ヨーロッパで最も汚染された川の一つ〉と言われるセグラ川が流れるベガ・バハ・デル・セグラで撮影された。現実と幻想の境界が混在する小さな村で、視聴者は17歳のアナに出会います。ここでは川は常に死と関わり合っており、母親は最近の洪水で行方不明になっていた。プロフェッショナルな俳優は母親役のバルバラ・レニーと祖母役のニエベ・デ・メディナ以外は、アナ役のルナ・パミエス以下すべてアマチュアだそうです。監督の母親や従姉たちも出演しているということです。ニエベ・デ・メディナ(マドリード1962)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でルイス・トサールと夫婦役を演じ、シネマ・ライターズ・サークル賞やACE賞の助演女優賞、スペイン俳優組合新人・助演女優賞などを受賞しているベテラン演技派です。監督が信頼を寄せる撮影監督ジュゼッペ・トルッピはデビュー作以来、全作を手掛けている。


  

      

               (撮影中の監督、カウンターの中に見えるのがルナ・パミエス)

 

★劇中で語られる水にまつわる伝説を信じている女性たちによって同じように育てられたという監督は、「恐怖を植え付ける方法はいくらでも存在します。レイプされるから夜は外出するな、アルコールは飲むな」、つまりレイプされるのは女性が夜歩きしたり飲酒をしたせいだという論法です。娘への愛から発したことも暴力になり得る。このような負の遺産は女性たちの心の中に内面化していくが、「母親や祖母たちもその考え方の犠牲者だ」と語る監督は、物語を3世代の女性に焦点を当てた理由を述べている。また映画製作の動機を「晩御飯のメニューを話しながら、祖母が医者に行く代わりに民間療法師に頼る話をする、二つに違いはなく、言い伝えと現実が混然一体となっているのが日常」だったことをあげている。昔話や占星術、宗教を必要とする人々が存在するのは普遍的です。

 

     

   

             (サンセバスチャン映画祭でインタビューをうける監督、918日)

 

★「女性蔑視の社会で育った私は、今の10代の若者とは違って、自分のことを恥ずかしく思っていて、ほとんど前屈みで過ごした。マッチョ文化の悪影響は女性に限らず男性にとっても不幸です。幸い今の男の子は違います」と次の世代に希望を託しているようです。しかし「10代の演技経験のない若者を監督するのはもう大変で、ショックの連続でした。彼らは映画を観ることはなく、もっぱらネットフリックスでTVシリーズを見ているだけでしたから」と。30代にとって20代がエイリアンなら、10代の若者は何に譬えればいいのでしょうか。

 

★「ひと夏の瑞々しい青春映画」ではありますが、視点を変えると奥はかなり深そうです。映画の観方はそれぞれ違い、観た人が各々判断すればいい。

 

★映画祭のQ&A登壇者に、コンペティション部門の『1976』のマヌエラ・マルテッリ監督、『ザ・ビースト』にはスペイン・サイドの主演者ルイス・サエラ、『マンティコア』のカルロス・ベルムト、ワールド・フォーカス部門の『ラ・ハウリア』の製作者ジャン・エティエンヌ・ブラットルー・シコトー、審査員でもあるポルトガルのジョアン・ペドロ・ロドリゲスの名前がアナウンスされています。

アルベルト・セラの『パシフィクション』*東京国際映画祭2022 ③2022年10月13日 16:26

        ワールド・フォーカス部門――ラテンビート映画祭共催作品

 

       

 

★ワールド・フォーカス部門には、第19回ラテンビート映画祭 IN TIFFとして、コロンビア映画アンドレス・ラミレス・プリドの『ラ・ハウリア』(スペイン語)、同時上映のアルゼンチンからルクレシア・マルテルの短編『ルーム・メイド』(12分)、ポルトガル語映画ジョアン・ペドロ・ロドリゲスジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタの『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』とロドリゲスの『鬼火』、今回アップするアルベルト・セラ『パシフィクション』(仏語・英語)がエントリーされています。

 

★『パシフィクション』は、カンヌ映画祭2022コンペティション部門ノミネート作品、批評家からは絶賛されましたが、万人受けする映画でないことは確かです。カンヌ以降数々の映画祭で上映されていますが、目下のところデータベースを探す限り受賞歴はないようです。当ブログでは第75回カンヌ映画祭でアウトラインはアップ済みですが、TIFF とラテンビート共催作品ということで改めてご紹介します。スペイン・プレミアはサンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門で上映されました。

カンヌ映画祭2022の記事は、コチラ20220610

   

    

(左から、パホア・マハガファナウ、ブノワ・マジメル、セラ監督、モンセ・トリオラ、

 カンヌ映画祭2022526日フォトコール)

 

 

『パシフィクション』(原題「Tourment sur les iles」 英題「Pacifiction」)

製作:Andergraund Films / Arte France Cinéma / Institut Catala de les Empreses Culturals ICEC / ICAA / Rosa Films / Rádio e Televisao de Portugal RTP / Tamtam Film / TV3

監督・脚本:アルベルト・セラ

撮影:アルトゥール・トルト(トール)

編集:アリアドナ・リバス、アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト

音楽:マルク・ベルダゲル

音響:ジョルディ・リバス

プロダクション・マネジメント:Eugénie Deplus、クラウディア・ロベルト

製作者:マルタ・アルベス、ピエール=オリヴィエ・バルデ(仏)、ダーク・デッカー、ジョアキン・サピニョ(葡)、アンドレア・シュッテSchütte、アルベルト・セラ、(エグゼクティブ)モンセ・トリオラ(仏)、ローラン・ジャックマン、エリザベス・パロウスキー、ほか

 

データ:製作国フランス=スペイン=ドイツ=ポルトガル、フランス語・英語、2022年、スリラードラマ、165分、配給Films Boutique、公開スペイン(バルセロナ、マドリード)、アンドラ、フランス(119日)

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2022コンペティション部門、エルサレムFF 国際映画部門、北京FF、香港FF、トロントFF、ミュンヘンFF、サンセバスチャンFFメイド・イン・スペイン部門BFI ロンドンFF、ニューヨークFF、釜山FF、リガFFゲントFFTIFF、ほか

 

キャスト:ブノワ・マジメル(ド・ロレール De Roller)、セルジ・ロペス(モートン)、リュイス・セラー(ロイス)、パホア・マハガファナウ(シャナ)、モンセ・トリオラ(フランチェスカ)、マルク・スジーニ(ラミラル)、マタヒ・パンブルン(マタヒ)、セシル・ギルベール(ロマネ・アティア)、バティスト・ピントー、マイク・ランドスケープ、マレバ・ウォン、アレクサンドル・メロ、ミヒャエル・ヴォーター、ラウラ・プルヴェ、ローラン・ブリソノー、サイラス・アライ、ほか

 

ストーリー:フランス領ポリネシアのタヒチ島で、共和国高等弁務官を務めるフランス政府高官のド・ロレールは、完璧なマナーを備えた計算高い人物である。公式のレセプションでも非合法な機関でも同じように、彼は地元住民の意見に耳を傾けることを怠らず、いつ何時でも彼らの怒りをかき立てることができるようにしています。そして非現実的な存在の潜水艦の目撃が、フランスの核実験再開を告げる可能性があるという根強い噂が広まるときには尚更です。不確実性、疑惑、不作為、フェイクニュースが蔓延する政治スリラー。

 

       

      (リネンの白ジャケットで身を固めたブノワ・マジメル、フレームから)

 

★前作『リベルテ』よりもストーリーテリングに重きをおいて少しは親しみやすくなっているようですが、正統的な物語システムとは異なっているようで、逆により複雑になっている印象をうけます。「類似作品を見つけることは不可能」と批評家、困りますね。カンヌでは165分の長尺にもかかわらず、上映後のオベーションは7分間と、批評家やシネマニアには受け入れられましたが、万人受けでないことは明らかでしょう。フランスで小説家として成功して故郷に戻ってきた女性との奇妙なロマンスも語られるようですが、エロティシズムは潜在的、前作『リベルテ』とは打って変わってセックスシーンはスクリーンから除外されている。予告編から想像できるのは、何の対策も持ち合わせていない政治家たちを批判しているようです。タイトルとは異なり不穏な雰囲気が漂っている。

 

       

   


   

★監督紹介:1975年カタルーニャのジローナ県バニョラス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台演出家。2003年、故郷ジローナ県の小村クレスピアを舞台にアマチュアを起用したミュージカル「Crespia」(84分)で長編デビューをする。2006年、第2『騎士の名誉』がカンヌFF と併催の「監督週間」で上映され、批評家の注目を集める。2009年からガウディ賞に発展するバルセロナ映画賞カタルーニャ語作品賞・新人監督賞受賞、トリノFF脚本賞他、ウィーンFFFIPRESCI 賞などを受賞する。2008年の『鳥の歌』(モノクロ、カンヌ監督週間)は、名称が変わった第1回ガウディ賞のカタルーニャ語部門の作品賞と監督賞を受賞した。2010年コメディ「Els noms de Crist」(仮題「キリストの名前」ロッテルダムFF2012出品)、2011年ドキュメンタリー『主はその力をあらわせり』2013年、女性遍歴のすえ最後の日々を送るカサノヴァと不死を生きるドラキュラの出会いを退廃と暴力で描いた『私の死の物語』(ロカルノFF)で金豹賞を受賞し、大きな転機となる。

 

      

              (金豹賞のトロフィーを手にした監督、ロカルノ映画祭2013

 

2016『ルイ14世の死』(カンヌ特別招待作品)は、シネフォリア映画賞グランプリ以下、ジャン・ヴィゴ賞、エルサレムFFインターナショナル作品賞など数々の国際映画賞を受賞した。201711月、監督を招いて開催された広島国際映画祭で「アルベルト・セラ監督特集」が組まれ本作と『鳥の歌』、引き続きアテネ・フランセ文化センターでは、『騎士の名誉』、『私の死の物語』にドキュメンタリをー加えた5作が上映された。翌2018年の劇場公開(526日シアター・イメージフォーラム)に先駆けて、「〈21世紀の前衛〉アルベルト・セラ お前は誰だ!?」(19日~25日)と銘打ったセラ特集上映会が開催され、ドキュメンタリーを含む過去の4作が同館でレジタル上映された。監督は会期中に再び来日している。

  

     

   (ジャン・ヴィゴ賞受賞のセラ監督)

 

2019『リベルテ』(原題「Liberaté138)は、カンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、特別審査員賞を受賞した他は、ガウディ賞、シネフォリオ映画賞、モントリオールFF、ミュンヘンFFともノミネートに止まった。前年2月、ベルリンのフォルクスビューネ劇場で、セラ自身の演出で初演されたものがベースになっている。晩年のヴィスコンティが寵愛したヘルムート・バーガーが両方に主演している。本作に出演者のうちマルク・スジーニ、リュイス・セラー、ラウラ・プルヴェ、バティスト・ピントー、モンセ・トリオラなどが新作と重なっている。なお邦題は、20203月アンスティチュ・フランセ関西でR16の制限付きで上映されたときに付けられた。

 

『私の死の物語』の紹介記事は、コチラ20130825

『リベルテ』作品紹介&監督フィルモグラフィーは、コチラ20190425

 

★セラの全作品を手掛けるモンセ・トリオラは、カタルーニャ出身のプロデューサー、女優でもある。制作会社 Andergraund Films の代表者。女優としてはセラのデビュー作「Crespia」以下、『騎士の名誉』、『鳥の歌』、「キリストの名前」、『私の死の物語』、『リベルテ』、『パシフィクション』に出演、新作では故郷に戻ってきた作家を演じるようです。「ヨーロッパには、アングロサクソン諸国とは違って、他国との共同製作の伝統があり、弱小のプロジェクトにとっては大変働きやすい」と語っている。下の写真は『リベルテ』がノミネートされたガウディ賞2020のフォトコール、衣装デザイナーのローザ・タラットが衣装賞を受賞した。

    

     

 (左から、モンセ・トリオラ、セラ監督、ローザ・タラット、ガウディ賞2020ガラ)

 

★チケット発売は1015日と目前ですが、ラテンビート2022のサイトは Coming soon です。

カルロス・ベルムトの『マンティコア』*東京国際映画祭2022 ②2022年10月08日 16:05

       カルロス・ベルムトの第4作目『マンティコア』はスリラードラマ

 

       

 

カルロス・ベルムトの第4作目『マンティコア』は、コンペティション部門上映、既にトロント映画祭 tiff でワールドプレミアされました。スペインではシッチェス映画祭でプレミアされ、東京国際映画祭 TIFF にもやってきます。当ブログでは3作目の『マジカル・ガール』(14)と4作目の『シークレット・ヴォイス』(18)を紹介しています。

『マジカル・ガール』の主な作品紹介は、コチラ20150121

『シークレット・ヴォイス』の主な作品紹介は、コチラ20190313

 

 『マンティコア』(原題「Manticora」英題「Manticore」)

製作:Aquí y Allí Films / BTeam Pictures / Crea SGR / Punto Nemo / ICAA / Movistar/ RTVE / TV3

監督・脚本:カルロス・ベルムト

撮影:アラナ・メヒア・ゴンサレス

編集:エンマ・トゥセル

キャスティング:マリア・ロドリゴ

プロダクション・デザイン&美術:ライア・アテカ

セット:ベロニカ・ディエス

衣装デザイン:ビンイェット・エスコバル

メイクアップ&ヘアー:ヘノベバ・ガメス(メイク部主任)、アイダ・デル・ブスティオ(ヘアー)

プロダクション・マネジメント:ララ・テヘラ(主任)、ラウラ・ガルシア

製作者:ペドロ・エルナンデス・サントス(Aquí y Allí Films)、アレックス・ラフエンテ(BTeam Pictures)、ロベルト・ブトラゲーニョ、アマデオ・エルナンデス・ブエノ、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、(エグゼクティブ)ララ・ぺレス=カミナ、アニア・ジョーンズ

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2022年、スリラードラマ、115分、撮影地マドリード、カタルーニャ州、20215月~7月、ICAA 2020の選考委員会の最高評価を受け製作資金を得る。配給 BTeam Pictures、国際販売フィルム・ファクトリー、スペイン公開114

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2022コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門でワールドプレミア913日、オースティン・ファンタスティック・フェスト923日、BFIロンドン映画祭105日、シッチェス映画祭(カタルーニャ国際ファンタスティックFF107日、東京国際映画祭コンペティション部門正式出品1026

  

キャスト:ナチョ・サンチェス(フリアン)、ゾーイ・スタイン(ディアナ)、カタリナ・ソペラナ、ビセンタ・ンドンゴ、イグナシオ・イサシ(スンマ医師)、ミケル・インスア、ハビエル・ラゴ、アンヘラ・ボア、ジョアン・アマルゴス、パトリック・マルティノ、アレバロ・サンス・ロドリゲス(クリスティアン)、アルベルト・オーセル(ラウル)、アランチャ・サンブラノ(外傷学の医師)、チェマ・モロ(警官)、アイツベル・ガルメンディア(サンドラ)ほか多数

    


                 (ディアナとフリアン)

 

ストーリー:フリアンはビデオゲーム会社のデザイナーで、ゲーマーが好むモンスターやクリーチャーを作成している。内気なフリアンは或る暗い秘密に悩まされているのだが、彼の人生にディアナが現れたことで一筋の光を目にする。現代の愛と私たちのなかに住んでいる本物のモンスターについての神秘的な物語、フリアンのトラウマは恐ろしい強迫観念として現れる。

 

                愛し、愛されることの重要性

 

カルロス・ベルムト(本名Carlos López del Rey):1980年マドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督、漫画家、製作者。マドリードの美術学校でイラストレーションを学び、日刊紙エル・ムンドのイラストレーターとしてスタートした。2006年、最初のコミックEl banyan rojo が、バルセロナ国際コミックフェアで評価された。長編映画デビューはミステリーコメディ「Diamondo flash」(11)、第2作がサンセバスチャン映画祭2014の金貝賞受賞の『マジカル・ガール』、監督賞とのダブル受賞となった。第3『シークレット・ヴォイス』(原題「Quién te cantará」)もサンセバスチャンFF2018コンペティション部門にノミネートされたが、フェロス・シネマルディア賞受賞に止まった。翌年のフェロス賞ではポスター賞を受賞している。

    

        

       (金貝賞のトロフィーを手にしたカルロス・ベルムト、SSIFF 2014ガラ)

 

4作目となる『マンティコア』はSSIFFにはノミネートされなかった。「現実に私たちのなかに棲んでいる本物のモンスターについての物語です。地下鉄やパン屋の行列のなかに紛れ込んでいます。また愛し愛されることの重要性が語られます」とベルムト。ホラー映画が初めてサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされたことで話題を集めたパコ・プラサの「La abuela」(21)の脚本を執筆している。数々の受賞歴のある短編映画3作、短編ビデオ1作、コミック3作、うち2012年刊行されたCosmic Dragon は、鳥山明の『ドラゴンボール』のオマージュとして描かれた。

 

      

 

スタッフ紹介:メインプロデューサーのペドロ・エルナンデス・サントスは、アントニオ・メンデス・エスパルサの「Aquí y Allí」(邦題『ヒア・アンド・ゼア』)を製作するために立ち上げた「Aquí y Allí Films」の代表者。『マジカル・ガール』以下の3作をプロデュースしている。「非の打ち所がなく容赦ないカルロス・ベルムトのような監督の映画をプロデュースすることは常に喜びですが、本当に贅沢なことです」とエルナンデス・サントス。

 

BTeam Pictures のプロデューサーアレックス・ラフエンテは、イサキ・ラクエスタの『二筋の川』、ピラール・パロメロのデビュー作『スクール・ガールズ』や新作「La maternal」を手掛けている。「カルロス・ベルムトの視点で語られる本作は、最初の瞬間から私たちの心を動かす」とラフエンテ。撮影監督のアラナ・メヒア・ゴンサレスは、カルラ・シモンやルシア・A・イグレシアスなど受賞歴のある短編を十数本手掛けてきたが、今回本作で長編デビューを果たした。続いてSSIFF 2022のドゥニャ・アヤソ賞を受賞したロシオ・メサの「Secaderos / Tobacco Barns」も担当、この後も多くの監督からオファーを受け引っ張り凧です。他、スタッフは概ねバルセロナ派で固めている。

 

キャスト紹介:フリアン役のナチョ・サンチェスは、1992年アビラ生れ、舞台出身の演技派、2018年、演劇界の最高賞と言われるマックス賞を弱冠25歳で受賞している。ホルヘ・カントスの短編「Take Away」(16)や「Solo sobrevivirán los utopistas」(18)他、フアン・フランシスコ・ビルエガの「Domesticado」(18)、TVシリーズに出演したのち、2019ダニエル・サンチェス・アレバロSEVENTEENセブンティーンで長編映画にデビューした。つづいてアチェロ・マニャスの「Un mundo normal」(20)に出演、直近のTVシリーズとしては「Doctor Portuondo」(21630分)にキューバの名優ホルヘ・ぺルゴリアと共演している。

ナチョ・サンチェスの紹介記事は、コチラ20190921

  

       

   

                        (マックス賞授賞式、2018年)

 

★ディアナ役のゾーイ・スタインは、本作が長編映画デビューとなる。2011年、パウ・テシドルの短編ファンタジー・ホラー「Leyenda」で10歳の少女役でデビューする。カタルーニャ語のTVムービー、ラモン・パラドのコメディ「Amics per sempre」(17)に出演、TVシリーズでは201921年の「Merli. Sapere Aude」(1650分)に5話出演、「La caza.Monteperdido」(2470分)に8話出演、2023年から第1シーズンが始まるスリラー「La chica invisible」(8話)には主役フリアに抜擢され、ダニエル・グラオと父娘を演じる。最初ディアナ役にはクララ・ヘイルズがアナウンスされていたが変更されたようです。

 

   

      

                           (フレームから)

 

★タイトルに使われた「マンティコア」は、スフィンクスと同じように伝説上の生き物、人間のような顔、ライオンのような胴体、有毒な針をもつサソリのような尾があり、ペルシャ語で〈人喰い〉を意味する人面獣マルティコラスからきている。アリストテレスの『動物誌』にはマルティコラスと正しくあったのを写本でマティコラスと誤記され、それをプリニウスが『博物誌』に採用したため誤記のまま後世に広まった。ラテン語マンティコラmanticora、邦題『マンティコア』は英名manticoreのカナ表記。

   

     

             (ベルムト監督が描いたマンティコラ)



フアン・ディエゴ・ボット監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫2022年09月03日 17:18

         監督デビュー作「En los Márgenes」はスリラードラマ

 

        

 

★俳優フアン・ディエゴ・ボットのキャリアは、子役を含めると70作にもなるから、紹介は代表作、サンセバスチャン映画祭関連、ゴヤ賞など目ぼしい受賞作品に絞らざるをえないが、先ずはペネロペ・クルスとタッグを組んだデビュー作の紹介から。今年の映画国民賞受賞者ペネロペ・クルスの授与式は、本祭期間中に行われるのが恒例ですから、多分ツーショットが見られるでしょう。今回は製作者を兼ねているから、その意気込みも半端ではないようです。脚本を共同執筆したオルガ・ロドリゲスは、10年間の交際期間を経て2017年に結婚、2009年に娘が誕生していた。制作会社 Morena Films のベテラン製作者アルバロ・ロンゴリアは、ペネロペ・クルスとルイス・トサールが主演したフリオ・メデムの『あなたのママになるために』で製作者としてデビューした。ほかにアスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』も手掛けています。音楽のエドゥアルド・クルス・サンチェスはペネロペ・クルスの実弟、ヌル・アル・レビは監督の実妹という具合に繋がっています。

    

       

 

En los Márgenes / On the Fringe

製作:Morena Films / Amazon Prime Video / Crea SGR / RTVE / TeleMadrid / Head Gear Films 他

監督:フアン・ディエゴ・ボット

脚本:フアン・ディエゴ・ボット、オルガ・ロドリゲス

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

音楽:エドゥアルド・クルス

編集:マパ・パストール

キャスティング:アナ・サインス=トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

美術:マリア・クララ・ノタリ

セットデコレーション:ビセンテ・ディアス

衣装デザイン:ワンダ・モラレス

メイクアップ:パブロ・イグレシア、マヌエラ・メリノ

プロダクション・マネージメント:エレナ・アルコレア、ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、アントネーリョ・ノベリャーノ

製作者:アルバロ・ロンゴリア、ペネロペ・クルス、(エグゼクティブ)ステファン・ケリハーStephen Kelliher、ヤナ・ゲオルギエワYana Georgieva、ソフィー・グリーン、コンプトン・ロス、他共同製作者多数

 

データ:製作国スペイン=ベルギー、2022年、スペイン語、スリラードラマ、105分、配給プライムビデオ、スペイン公開2022107

映画祭・受賞歴:第75回ベネチア映画祭2022「オリゾンティ」部門正式出品、第70回サンセバスチャン映画祭2022「ペルラス」部門正式出品

   

キャスト:ペネロペ・クルス(アスセナ)、ルイス・トサール(ラファエル)、フアン・ディエゴ・ボット、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ、アデルファ・カルボ、ヌル・アル・レビ、アシャ・ビリャグラン、クリスティアン・チェカ、ハビエル・ペルディゲロ(ヘスス)、セルヒオ・ビリャヌエバ、フェブリス・ブティック(バルのオーナー)、フォント・ガルシア、イレネ・ブエノ・ロヨ、ほか

  

ストーリー:家族、愛、孤独についての映画。複雑に絡みあった三つのストーリーを交錯させながら、人生の流れを永遠に変えてしまう可能性のある重要な24時間を脱して生き残ろうとする3人の登場人物のカウントダウンが描かれる。経済的なストレスが人間関係に与える影響と、愛情と連帯を原動力として前に進むタイムトライアル・スリラー。大都会の片隅に暮らす人々のエモーショナルな旅。

 

       

    

 

フアン・ディエゴ・ボット監督紹介1975年ブエノスアイレス生れ、俳優、舞台演出家、今回長編映画監督としてデビューした。ディエゴ・フェルナンド・ボットとクリスティナ・ロタの長男、アルゼンチン系スペイン人、両親姉妹とも俳優という俳優一家。マリア・ボット(ブエノスアイレス1974)、ヌル・アル・レビ(マドリード1979)、従兄アレハンドロ・ボット(ブエノスアイレス1974)も俳優。19773月、父親はビデラ軍事独裁政権によってデサパレシード、いわゆる犠牲者3万とも言われる行方不明者の一人となった。1978年、2歳になったとき、母親は新しいパートナーとの間に妊娠が分かり、二人の子供を連れてスペイン移住を決意する。翌年、妹ヌル・アル・レビが生まれた。家族はアルゼンチンとスペインの二重国籍をもっている。2021年、演劇国民賞を受賞している。現在はマドリード在住。

 

      

 

★母クリスティナ・ロタがマドリードで設立した俳優養成学校で演技を学ぶ。この学校の同窓生には、ペネロペ・クルス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、マルタ・エトゥラ、ラウル・アレバロなど演技派を輩出している。俳優デビューは8歳、1992年アメリカ大陸到達500年を記念して製作された、リドリー・スコットの『1492:コロンブス』でコロンブスの息子ディエゴに扮した。しかし国際舞台への第一歩はモンチョ・アルメンダリスの「Historias del Kronen」(95)主演であった。カンヌFFのコンペティション部門に正式出品されたあと、本祭のメイド・イン・スペイン部門で上映され、翌年のゴヤ新人男優賞にノミネートされた。アルメンダリスの「Obaba」(05)にも起用された。

 

          

              (フアン・ディエゴ・ボット、「Historias del Kronen」から)

 

★他にサンセバスチャンFF関連では、セクション・オフィシアルにアドルフォ・アリスタラインの「MartinHache」(97)、「Roma」(『ローマ』04)、イマノル・ウリベの「Plenilunio」(99、ゴヤ賞2001主演男優賞ノミネート)、ビクトル・ガルシア・レオンの「Vete de mí」(06、ゴヤ賞2007助演男優賞ノミネート)、ペルラス部門には、ジョン・マルコヴィッチの監督デビュー作「Pasos de baile / The Dancer Upstairs」(02、『ダンス・オブ・テロリスト』)ではハビエル・バルデム扮する警部補の部下役で共演、ホアキン・オリストレルの「Los abajo firmantes」(03)はサバルテギ部門で特別上映されている。2011年にはホライズンズ・ラティノ部門の審査員を努めている。ゴヤ賞は上記を含めて5回ノミネートされているが、まだ受賞はない。以前アップしたビクトル・ガルシア・レオンの「Los Europeos」(20)では、フェロス賞2021助演男優賞を受賞したが、フォルケ賞もゴヤ賞もノミネートで終わっている。

 

★今回の「En los Márgenes」が長編デビュー作、短編ではメイド・イン・スペイン部門で上映された、ベテラン&新人総出演の感があるスペイン監督のアンソロジー「¡ Hay motivo !」(0432話)に Doble moral で参加している。これは当時の国民党党首ホセ・マリア・アスナル首相批判がテーマ、2003年のイラク侵攻、移民問題、住宅価格の高騰、メディア操作などテーマはいろいろです。他にアルバロ・ロンゴリアがプロデュースした、5人の監督が1話ずつ手掛けるアンソロジー、TVミニシリーズ「Relatos con-fin-a-dos」(2020分)があり、彼は第5Gourmet で参加、脚本も執筆した。ルイス・トサール、警官役で妹のヌル・アル・レビが出演している。コロナウイルスのパンデミックで混乱に陥った人々を扱ったコメディ、ロマンス、スリラーなど。プライムビデオで配信された。

 

キャスト紹介:主役のペネロペ・クルスルイス・トサール(ルゴ1971)は、当ブログでは常連なので割愛しますが、両人が揃って主演した『あなたのママになるために』、トサールが主演したダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』ほか、主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は以下の通りです。

ペネロペ・クルスの紹介は、コチラ20220625

ルイス・トサールの紹介は、コチラ20160703

『エル・ニーニョ』の紹介記事は、コチラ20140920

『あなたのママになるために』の作品紹介は、コチラ20150904

 

   

                       (映画国民賞2022を受賞するペネロペ・クルス

   

         

       (『プリズン211』でゴヤ賞2010主演男優賞を受賞したトサール)


セクション・オフィシアル*サンセバスチャン映画祭2022 ②2022年08月01日 13:45

   金貝賞を競うセクション・オフィシアルにスペイン映画4作がノミネート

  

 


★現在のところノミネート発表はどの部門もスペイン映画に限られ、全体像が見えてくるのはこれからです。ベテランのハイメ・ロサーレスの「Girasoles silvestres」、中堅のフェルナンド・フランコの「La consagración de la primavera」、若手のピラール・パロメロの「La maternal」とバスクの新人ミケル・グレアの「Suro」の4作、特別上映となったイサベル・コイシェの「El sostre groc」、アウト・オブ・コンペティションは、前回アップしたアルベルト・ロドリゲスのオープニング作品「Modelo 77」とロドリゴ・ソロゴジェン以下5人の監督による「Apagón」の7作がアナウンスされました。作品に情報のばらつきがあり、入手できたデータで紹介しておきます。

 

                      70SSIFFセクション・オフィシアル

    

1Girasoles silvestres / Wild Flowles (スペイン=フランス)

監督ハイメ・ロサーレス(バルセロナ1970)は監督・脚本家・製作者。コンペティション部門のノミネーションは、2008年の「Tiro en la cabeza」以来14年ぶり、本作で国際映画批評家連盟FIPRESCI 賞を受賞している。もともとカンヌFFに焦点を合わせている監督なのでプレミアは少ない。コンペ以外ではカンヌFFと併催の「監督週間」に正式出品された後、ペルラス部門に出品された「Petra」(18)は、後に『ペトラは静かに対峙する』の邦題で公開された。メイド・イン・スペイン部門には多数エントリーされている。

 

スタッフ:脚本はロサーレス監督とバルバラ・ディエス、製作者は『マイ・ブックショップ』のマヌエル・モンソン、撮影はアメリカ映画『ロスト・ドーター』(21)やブラジル映画『見えざる人生』(19)など国際的な活躍をしているフランスのエレーヌ・ルヴァールLouvart、編集は『ペトラは静かに対峙する』のルシア・カサル、などベテラン揃いの布陣です。

 

     

   

データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、ドラマ、107分、2022年、製作:Fresdeva Films / A Contracorriente Films / Oberon Media  撮影地バルセロナ

キャスト:アンナ・カスティーリョ(フリア)、オリオル・プラ(オスカル)、キム・アビラ(マルコス)、リュイス・マルケス(アレックス)、マノロ・ソロ(ロベルト)、カロリナ・ジュステ(マイテ)

ストーリー:フリアはまだ22歳だが既に二人の子供がいる。オスカルを好きになり、親しい関係をもち始めている。一緒に過ごすなかで、もしオスカルが本当に自分に必要な人なら、家族の幸せのために一緒に人生を歩んでいくだろう。

 

    

    

            (フリアとオスカルと子供たち、フレームから)

 

 

2La consagración de la primavera / The Rite of spring (スペイン)

監督フェルナンド・フランコ(セビーリャ1976)の3作目、監督・脚本家。「La herida」(13)で鮮烈デビュー、審査員特別賞、主演のマリアン・アルバレスが女優(銀貝)賞を受賞している。第2作目「Morir」(17)が特別上映作品に選ばれるなど、本映画祭一筋の監督。

 

スタッフ:脚本はフランコ監督とベゴーニャ・アロステギ、製作総指揮は「Morir」やイシアル・ボリャインの「Maixabel」をプロデュースしたグアダルーペ・バラゲル・トレリェス、他ハイメ・オルティス・デ・アルテニャーノ、コルド・スアスア、撮影は『悲しみに、こんにちは』や『マリアの旅』のサンティアゴ・ラカ、編集は「Morir」、『さよならが言えなくて』、『マリアの旅』のミゲル・ドブラド、美術&プロダクションデザインを手掛けるのがカルメン・アルバセテ・ゴメス、などの布陣。

    

    

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2022年、109分、製作Lazona / Kowalski Films / Ferdydurke Films、協賛/ Canal Sur Radio y Television / Comunidad de Madrid / Movistar+、ICAAより資金提供を受けている。撮影地グラナダとマドリード、221日~3月末。

キャスト:バレリア・ソローリャ(ラウラ)、テルモ・イルレタ(ダビ)、エンマ・スアレス(ダビの母親イサベル)

ストーリー18歳になるラウラは大学で化学を学ぶためマドリードに着いたばかりである。コンプレックスと不安を抱えているが新しい生活に適応しようとしている。ある夜、偶然に脳性麻痺のダビと母親のイサベルと知り合いになる。二人との信頼関係が増すにつれ、その込み入った不安を乗り越える必要にラウラは直面する。物語は、すべてが可能になるある瞬間についての、または思いがけない出会いが私たちの人生をどのように決定づけてしまうかについての物語。

 

    

                    (ラウラとダビ、フレームから)

 

   

             (撮影中の監督と主演者3人)

 

 

3La maternal (スペイン)

監督ピラール・パロメロ(サラゴサ1980)は監督、脚本家。本作は第2作目になります。2020年のデビュー作「Las niñas」(『スクールガールズ』として2021年公開)がメイド・イン・スペイン部門で上映されている。ベルリン映画祭2020ゼネレーションKplus部門でワールド・プレミアされ、続いてマラガ映画祭セクション・オフィシアル作品に正式出品、見事金のビスナガ作品賞を受賞した。翌年のゴヤ賞2021の作品賞・新人監督賞・オリジナル脚本賞の3冠、ゴヤ賞の話題をさらった。デビュー作は11歳の少女が主人公でしたが、本作も14歳の未成年者が母親になるプロセスが語られるようです。

 

スタッフ:脚本はパロメロ監督、製作者はデビュー作を手掛けたバレリー・デルピエール、アレックス・ラフエンテ、撮影はミケル・グレアの「Suro」も手掛けたフリアン・エリサルデ、以下編集のソフィア・エスクデ、美術のモニカ・ベルヌイはデビュー作と同じ、キャスティングのイレネ・ロケはロサーレスの「Girasoles silvestres」、『エリサとマルセラ』やTVミニシリーズ『イノセント』など数多くのTVシリーズを手掛けているベテランです。

   

    

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2022年、ドラマ、100分、製作:Aragon TV / BTeam Pictures / Inicia Films 他協賛Movistar/ ICAA / RTVE / TV3など。配給BTeam Pictures、公開スペイン1118

キャスト:カルラ・キレス(カルラ)、アンヘラ・セルバンテス(母親ペネロペ)、ホルダン・アンヘル・デュメス(エフライン)、ルベン・マルティネス、ペペ・ロレンテ、ネウス・パミエス、オルガ・ウエソ、ガル・ラ・サバテ、他

ストーリー14歳になるカルラは反抗的で扱いにくい年頃の少女である。若いシングルマザーと一緒に町外れの街道沿いにある古いレストランに住んでいる。学校をサボって男友達のエフラインと時間を潰している。ソーシャルワーカーが妊娠5カ月に気づいて、未成年の母親を収容するセンター〈ラ・マテルナル〉に入所することになる。カルラと同じような境遇の娘たちと日々を過ごすことになる。母親との変わりやすい複雑な関係も含めて、準備する時間を与えられずに赤ん坊と一緒に大人になる困難、成熟、コミュニケーションの欠如、恐怖が語られる。

 

   

    

        (未成年のまま母親になる娘たち、フレームから)

 

 

4)Suro (スペイン)

監督ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)監督、脚本家、戯曲家。本作が長編デビュー作。バルセロナのUPFを卒業後、ロンドン・フィルム・スクールで修士号を取得、彼の戯曲はロンドンやマドリードのフェルナンド・フェルナン・ゴメス劇場で初演されている。2021年、スーパー16ミリで撮った「Heltzear」(2117分)がベネチア映画祭「オリゾンティ」部門に出品され、ベネチアが歴史上初めて上映するバスク語映画でした。サバルテギ-タバカレラ部門でも上映された。タイトルのHeltzearは掴む、成長するという意味。2000年サンセバスティアンが舞台のドラマ、15歳のクライマーであるサラは不在の兄に手紙を書きながら、人生でもっとも厳しい登山に向けてトレーニングをしている。

   

    

             (短編「Heltzear」のポスター)

 

最初の短編「Primo」(0813分)、「The cats on the roof」(0918分)、イソナ・リガウと共同監督した「Rojo en el agua」(1012分)は、サンゴがなぜ赤いのかという伝説を絡ませたドラマ、どれも不思議な魅力をたたえている短編、他にロンドン・ロイヤル・バレエでバスク出身の最初のソリストとなったイツィアル・メンディサバルを追ったドキュメンタリー「Txoria / The bird」(1322分)も発表している。

 

スタッフ:脚本はグレア監督とフランシスコ・コステルリツ、製作総指揮アリアドナ・ドット、クラウディア・マルエンダ、ラウラ・ルビロラ、製作者ハビエル・ベルソサ、撮影は「La maternal」も担当したフリアン・エリサルデ、編集はアルベルト・セラとタッグを組むことの多いアリアドナ・リバス、プロダクション・デザインはイソナ・リガウ、などバルセロナ派の布陣で臨んでいる。

 

データ:製作国スペイン、カタルーニャ語、2022年、スリラー、ドラマ、90分、イクスミラ・ベリアクIkusmira Berriak 2016作品が金貝賞を競うセクション・オフィシアルにノミネートされるのは初めて。公開スペイン2022122日、

キャスト:ヴィッキー・ルエンゴ(エレナ)、ポル・ロペス(イバン)、イリヤス・エル・ウアダニIlyass El Ouahdani

ストーリー:子供を欲しいと思っているエレナとイバンは、コルク農園で新しい人生を始めようと都会を離れてコルクガシの森に移住してきた。しかし新しい土地でどのように生きていくか、夫婦として将来にどのように立ち向かうかについて、二人の思いはそれぞれ異なっていた。

 

      

             (イバンとエレナ、フレームから)

  

     

          (左から、フランコ、グレア、パロメロ、ロサーレス)

 

ビクトル・エリセの第4作目「Cerrar los ojos」②2022年07月25日 17:09

       国立映画学校の実習制作「テラスにて」からCerrar los ojosまで

 

ビクトル・エリセの長編4作目となるCerrar los ojos」が映画データベースIMDbにアップされました。前回紹介した内容に止まり新味はありませんが、かつて何回かあった脚本段階での打ち切りはないと判断して、キャリア&フィルモグラフィーを列挙します。前回は『マルメロの陽光』(92)以降をご紹介しましたが、今回は国立映画研究所 IIEC1947年設立)の実習制作「テラスにて」からCerrar los ojos」までとします。日本語版ウイキペディアとスペイン語版には、製作年ほか若干の相違がありますが、概ね後者によりました。1998年、詩人のイサベル・エスクデロ、ラモン・カニェリェス監督と自身の制作会社ノーチラス・フィルムズ Nautilus Films  を設立、それ以後の作品を製作している。

 

 主なフィルモグラフィー(「」は仮訳、『』は公開・DVDの邦題)

1961 En la terraza(「テラスにて」4分、無声、モノクロ)監督・脚本

1962 Entre las vías(「レールの軌間」9分、無声、モノクロ)監督・脚本

1962 Páginas de un diarios perdido(「失われた日記のページ」12分、無声、白黒)監督・脚本

1963 Los días perdidos(中編「失われた日々」41分、モノクロ)監督・脚本

1969 Los desafíos(『挑戦』第3話、邦題DVD)監督・脚本

1973 El espíritu de la colmena(『ミツバチのささやき』97分)監督・脚本

1983 El sur(『エル・スール』94分)監督・脚本

1992 El sol del membrillo(『マルメロの陽光』135分)監督・脚本

2002  Ten Minutes del OlderThe TrumpetLifeline)監督・脚本

   (オムニバス『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』ライフライン、10分)

   スペインでは配給の問題で未公開。

2002 Alumbramiento(「誕生」10分、上記を短編として独立させたもの)

   パンプローナ開催の第3回プント・デ・ビスタ映画祭2007のクロージング作品

2006 La morte rouge(「緋色の死」34分、カラー&モノクロ)

2007 Sea-Mail(「船乗り-メール」4分、カラー)

2007 Victoe Erice: Abbas Kiarostami: Correspondencias

   (「アッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡」98分)

   *2005年~2007年に交わした10通のビデオレター

2011 3.11 Sense of HomeEpisodio Ana Three Minutes ドキュメンタリー、3)

2012 Centro HistóricoEpisodio Vidrios partidos)監督・脚本

   (オムニバス『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』割れたガラス」30分)

2019 Piedra y cielo(「石と空」ドキュメンタリー、17分) 

2023 Cerrar los ojos (製作年は未定)

 

1967 El próximo otoño(監督アントニオ・エセイサ「今度の秋」)脚本、監督との共同執筆

1968 Oscuros sueños de agosto(監督ミゲル・ピカソ「8月の暗い夢」)脚本、監督との共同執筆

1998 La promesa de Shanghai(「上海の約束」)

 1994年、フアン・マルセの小説 El embrujo de Sanghai の映画化を、プロデューサーのアンドレス・ビセンテ・ゴメスはエリセに依頼した。作家の熱意もあって3年かけて10バージョンほど脚色したが、3時間という長尺は経済的な理由で調整できず、主演の一人にフェルナンド・フェルナン・ゴメスを決定していたにもかかわらず、19993月突然中止になった。その後フェルナンド・トゥルエバの手に渡り、2002年、別バージョンで「El embrujo de Sanghai」として完成させたので、エリセの脚本は使用されなかった。

 

 

   エリアス・ケレヘタに見出された才能、オムニバス映画「Los desafíos

   

1940630日、バスク自治州ビスカヤ県カランサ生れ、監督、脚本家。一家は数ヵ月後にサンセバスティアンに引っ越し、彼の地で育った。高校卒業後、17歳でマドリードに移り、マドリード中央大学(現マドリード・コンプルテンセ大学)では、政治学と法学を専攻した。その後、1960年に国立映画研究所に入学して映画を学んだ。このイタリア映画のネオレアリズモの新しい流れを汲む映画学校の第1期生が、フアン・アントニオ・バルデムルイス・ガルシア・ベルランガである。エリセは実習制作として1961年の短編「En la terraza」と、1962年の「Páginas de un diarios perdido」を16ミリで撮り、1963年の「Los días perdidos」で監督資格をとって卒業した。

 

★映画評論家として「芸術と思想」や「ヌエストロ・シネ」などの雑誌に映画批評を執筆するかたわら、バシリオ・マルティン・パティノの「Tarde de domingo」の進行記録係、ミゲル・ピカソの「Oscuros sueños de agosto」やアントニオ・エセイサの「El próximo otoño」の脚本を監督と共同執筆、俳優としてマヌエル・レブエルタの映画に出演している。

 

1969年、エリセはクラウディオ・ゲリン(第1話)ホセ・ルイス・エヘア(第2話)3監督によるオムニバス映画「Los desafíos」(『挑戦』)を撮る。3人ともIIECの有望な卒業生として、当時の大物プロデューサーであったエリアス・ケレヘタが推薦した。脚本には名脚本家であったラファエル・アスコナが共同執筆者として参加している。音楽にルイス・デ・パブロ、撮影にルイス・クアドラド、編集にパブロ・G・デル・アモ、美術にはまだ監督デビューしていなかったハイメ・チャバリと、4年後の長編デビュー作『ミツバチのささやき』と同じ布陣で臨んでいる。第3話を務めたエリセは、チンパンジー連れのアメリカ人、スペイン人、キューバ人の若者グループが突然おこすハプニングを描いている。

 

      

              (唯一生き残るチンパンジーのピンキーを配したポスター)

       

3話に共通して主演したディーン・セルミエがアメリカ的生活様式と価値観を体現し、スペイン側の相克と攻撃性が語られており、3話ともに出口なしの結末である。サンセバスチャン映画祭1969監督部門の銀貝賞、シネマ・ライターズ・サークル賞では脚本賞と第2話に主演したアルフレッド・マヨが男優賞を受賞してケレヘタの期待に応えている。キャストはブニュエル映画でお馴染みのフランシスコ・ラバル、アスンシオン・バラゲル、テレサ・ラバル、フリア・グティエレス・カバ、フリア・ペーニャ、ルイス・スアレスなど、当時のスターが出演している。

   

   

               (ディーン・セルミエとピンキー)

  

2019年、エリセは「Piedra y cielo」をナバラで撮影した。これはビルバオ美術館がプロデュースしたホルヘ・デ・オテイサの彫刻作品とアギーニャ山の頂上にあるミュージシャンのアイタ・ドノスティアのモニュメントについてのビデオ・インスタレーション。「Espacio Día」(11分)と「Espacio Noche」(6分)の二部構成。映像にはピアニストのホス・オキニェナの演奏によるアイタ・ドノスティアの音楽テーマと、オテイサの詩の断片が挿入されている。20191113日ビルバオ美術館でプレミアされた。オテイサはギプスコア県(オリオ1908~サンセバスティアン2003)出身のバスクを代表する彫刻家で詩人。ナバラにホルヘ・オテイサ美術館がある。

 

★長編3作(『ミツバチのささやき』『エル・スール』『マルメロの陽光』)については、いずれアップするとしても既に語りつくされている感があり、今回は受賞歴にとどめます。監督は常々フィクションとドキュメンタリーは同じと語っておりますので、『マルメロの陽光』は区別しませんでした。

   

『ミツバチのささやき』El espíritu de la colmena1973

 サンセバスチャン映画祭1973金貝賞

 シカゴ映画祭1973シルバー・ヒューゴ

 シネマ・ライターズ・サークル賞1974 作品賞・監督賞・男優賞(フェルナンド・F・ゴメス)

 フォトグラマス・デ・プラタ賞1974俳優賞(アナ・トレント)

 ACE1977女優賞(アナ・トレント)、監督賞

 

  

     

        (フランケンシュタインに出会った瞬間のアナ・トレント)

  

『エル・スール』El sur1983

 シカゴ映画祭1983ゴールド・ヒューゴ

 サンジョルディ賞1984作品賞

 サンパウロ映画祭1984批評家賞

 ASECAN(アンダルシア・シネマ・ライターズ)1984 スペインフィルム賞

 フォトグラマス・デ・プラタ賞1984作品賞

 シネマ・ライターズ・サークル賞1985監督賞

 他、カンヌ映画祭1983コンペティション部門にノミネートされ好評をえる。フォトグラマス・デ・プラタ賞にイシアル・ボリャインがノミネートされた。

 

      

     

          (15歳の少女を演じたイシアル・ボリャイン)

 

『マルメロの陽光』El sol del membrillo1992

 カンヌ映画祭1992審査員賞・国際映画批評家連盟賞FIPRESCI

 シカゴ映画祭1992ゴールド・ヒューゴ

 サンジョルディ賞1993 特別賞

 ADIRCAE1993 監督賞

 ASECAN1994 スペインフィルム賞

 トゥリア賞1994 スペインフィルム賞

 ACE1996 作品賞

 

      

   

                (画家アントニオ・ロペス)

 

★他に栄誉賞として、1993年映画国民賞、1995年芸術功労賞金のメダル、2012年スペイン映画史家協会栄誉賞、2014年ロカルノ映画祭生涯功労賞としてヒョウ賞を受賞している。

        

         

      (トロフィーを手にしたビクトル・エリセ、ロカルノ映画祭2014


ビクトル・エリセ、30年ぶりに商業映画に復帰*「Cerrar los ojos」2022年07月15日 12:10

          カンヌ映画祭2023プレミアを視野に新作「Cerrar los ojos」に着手

   

  

       (ビクトル・エリセ、201911月、ビルバオ美術館にて)

   

★先日、75日にビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ、1940)が4作目となる長編映画Cerrar los ojosを準備中というニュースが駆けめぐった。プロダクションの正式なプレス会見での発表ではなく、アンダルシア州の公共テレビのカナル・スールが資金提供する11本のフィクションと18本のドキュメンタリーのなかにエリセの新作も含まれており、「ホセ・コロナドとマリア・レオンが主演します」というアナウンスをした。続いて制作会社はタンデム・フィルムズTandem Filmsのほか、マラガの制作会社ペカド・フィルムズPecado Films、エリセ自身の制作会社ノーチラスNautilusであることが明らかになった。ただし本作の準備を秘密裏に進めてきたタンデムの製作者クリスティナ・スマラガは、この報道の取材に応じなかったようです。というわけでウラがとれておらず全体像が見えておりませんが、脚本の執筆は昨年の秋から着手、共同執筆者はミシェル・ガスタンビデということも分った。今年の10月にクランクインの予定なら、2023年のカンヌ映画祭上映の可能性もゼロではないか。

     

   

               (新作を準備中のビクトル・エリセ)

    

710日付のエル・パイス紙の記事によると、物語は20124月、「Quién sabe dónde」というスタイルのテレビ番組から始まり、今は引退して漁業をしているベテラン監督、作家でもあった人物を探しあてます。家族の不幸と2作目となるはずだった大作の頓挫で沈黙していた監督役にヒネス・ガルシア・ミリャンが扮します。この監督の兵役時代からの友人であり、2作目の主人公であった俳優が姿を消してしまったことで映画は未完成になっていた。この46歳でゴヤ賞を受賞したガラン俳優役にホセ・コロナドが扮します。このカップルはガールフレンドたちも共有しており、この切っても切れない二人の友情とアバンチュールを中心に展開するようです。マリア・レオンはそのガールフレンドの一人ということでしょうか。以上の3人以外は未発表、まだIMDbがアップされておらず、本格的なキャスティングはスクリプト完成後になるのでしょうか。

 

★肝心のスクリプトは目下推敲中だそうですが、読んだ関係者は「大幅な変更はない」と保証していますので、4作目となるエリセの商業映画への復帰作は、ベテラン監督と彼の映画の主演俳優間の友情についてのノスタルジックなドラマとなりそうです。ビクトル・エリセの紹介など今更の感がありますが、1992年のドキュメンタリー『マルメロの陽光』以来、30年間長編を撮っておりません。1999年、フアン・マルセの小説 El embrujo de Shanghai の映画化の脚本に3年間費やしましたが、最終的に撮影に至りませんでした。2002年、別バージョンの脚本でフェルナンド・トゥルエバが完成させました。

     

   

               (画家アントニオ・ロペス、『マルメロの陽光』から)

  

★しかし今回は上述しましたようにミシェル・ガスタンビデが共同執筆者、予断は許しませんが大いに期待できます。彼はフリオ・メデムの『バカス』(92)でシネマ・ライターズ・サークル賞、エンリケ・ウルビス『悪人に平穏なし』ではゴヤ賞2012オリジナル脚本賞を監督と受賞しています。ウルビスとはホセ・コロナドが主演した『貸し金庫507』(02)でも共同執筆しています。1958年プロヴァンス生れ、主に監督との共同執筆がもっぱらですが、相手によって仕事のやり方を選んでいる。気難しいエリセとの共同執筆はうまくいってるのでしょうか。詩人、監督、脚本の指導教官と多才な人です。

 

           冬眠していたわけではないビクトル・エリセ

 

★ビクトル・エリセのキャリア&フィルモグラフィーは後日にアップしますが、エリセは結構短編を撮っているほか、イランのアッバス・キアロスタミとのオーディオビジュアルによる書簡をやりとりしています。また2002年には、7人の監督による10分間ずつのオムニバス映画10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』に、「ライフライン」で参加した。本作の舞台はエリセが生まれた年と同じ1940年、スペインの片田舎で一つの生命が誕生する自伝的なモノクロ作品。アキ・カウリスマキ、ヴェルナー・ヘルツォークなどをおさえて7作中では最も印象深い秀作、批評家からも観客からも絶賛されました。

 

2006年、「La morte rouge」(32分)は、5歳のとき初めて見た映画を語る短編、映画とはロイ・ウィリアム・ニールのミステリー『シャーロック・ホームズ 緋色の爪』(1944)を指し、後年の自作に大きなインパクトを与えたという。2007年「Sea-Mail」(4分)と「Víctor EriceAbbas KiarostamiCorrespondencias」(96分)は、バルセロナの現代文化センターの依頼によるアッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡、2011年、21人の監督からなる共同作業「311 Sense of Home」は、河瀨直美の呼びかけで2011311日に起きた東日本大震災の犠牲者に捧げられた各311秒の短編でした。エリセはアナ・トレントと再びタッグを組んで参加した。

 

   

           (短編「La morte rouge」のポスター)

   

   

 (ビデオレター「Víctor EriceAbbas KiarostamiCorrespondencias」のポスター)

 

2012年、「Centro Histórico」は、ポルトガルの世界遺産ギマランイス歴史地区を題材にしたオムニバス映画。エリセの「Vidrios partidos」(「割れたガラス」)のほか、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタマノエル・ド・オリヴェイラ4監督が参加している。本作は第13回東京フィルメックス映画祭2012の特別招待作品として上映され、翌年『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』の邦題で公開された。

  

    

      (ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、バジャドリード映画祭、201310月)

 

★そのほか、昨年11月にエリセは、バスクの彫刻家ホルヘ・オテイサに関するエッセイ「Piedra y cielo」を発表しました。その折りのマスメディアとの会談で、90年代から業界は根本的に変化して、リュミエール兄弟以来の映画は映画館のスクリーンで見る体験がなくなり、映画館が残骸として残った。テレビやタブレットで見ることを否定しないが、映画を見る理想の場所は映画館であると語っている。

  

★「問題は映画を製作することではなく、それが映しだされる場所なのですが、これが難問です。1992年以来、私は長編ではありませんがかなりの仕事をしてきましたが、ほとんど知られていません。私の最後の商業映画のリリースは、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、マノエル・ド・オリヴェイラと一緒に作った「Centro Histórico」ですが、映画を上映する場所を確保するためにお金を払わねばならず、監督たちの知名度にもかかわらず、スペインではほとんど誰も見ていません。これがこの国で起こっている現実です」とも語っている。しかし新作「Cerrar los ojos」のニュースは駆けめぐり、映画界はエリセの新作を熱心に待っています。

    

★キャスト紹介は気が早いと思いますが、主役の監督役に決定しているヒネス・ガルシア・ミリャンを簡単に紹介しておきます。1964年ムルシア州プエルト・ルンブレラス生れ、映画、TV、舞台俳優、1992年デビュー。当ブログでの紹介記事は初めて、主にTVシリーズに出演、2008年「Herederos」でスペイン俳優組合TVシリーズ部門の助演男優賞を受賞している。イサベル女王の生涯を描いた「Isabel」(141113)のフアン・パチェコ役、「Matadero」(1019)のパスクアル役、直近では Netflix  初出演のメキシコを舞台にした『そしてサラは殺された』(3シーズン25話、2122)で主役のセサル・ラスカノを演じている。他に字幕入りで見られる『海のカテドラル』(8話、2018)も Netflix で配信された。

   

   

             (ヒネス・ガルシア・ミリャン)


★映画では、主に脇役ですが、チェマ・デ・ラ・ペーニャの1981223日に起きた軍部のクーデタを描いた「23-F: la pelicula」(11)でアドルフォ・スアレス首相を演じた。グラシア・ケレヘタのコメディ「Felices 140」(15)、エンリケ・ウルビスの歴史物「Libertad」(21)ほか、脇役が多いので出演数は多い。主役を演じるのは今回が初めてでしょうか。

Felices 140」の作品紹介は、コチラ20150107

Libertad」の作品紹介は、コチラ20210406

 

ホセ・コロナド(マドリード1957)については、Netflix で配信されたミゲル・アンヘル・ビバスの『息子のしたこと』(18)、TVシリーズ『麻薬王の後継者』(1820)など、最近の出演作はアップしておりませんが、既にキャリア紹介をしています。マリア・レオン(セビーリャ1984)については、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』(11)他でキャリア紹介をしています。いずれキャスティングが確定してからアップします。

 

ホセ・コロナド関連記事は、コチラ2014032020170417

                 /20180729

『貸し金庫507』の紹介記事は、コチラ20140325

 

マリア・レオンの紹介記事は、コチラ2014041320150202

『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』の作品紹介は、コチラ20150509

 

イサキ・ラクエスタの新作は西仏合作映画*ベルリン映画祭20222022年01月31日 14:48

 2015年パリ同時多発テロ〈バタクラン劇場〉襲撃事件の生存者の実話

     

 

   

イサキ・ラクエスタの新作Un año, una nocheは、スペインとフランスの合作、両国の若手演技派が集合しました。20151113日の夜、パリ11区にある伝説的なコンサートホール「バタクラン劇場」で起きたISILメンバーによるパリ同時多発テロ事件の一つの実話がベースになっています。事件当夜の生存者ラモン・ゴンサレス Paz, amor y Death Metal の映画化。襲撃された6ヵ所の死亡者130名のうちバタクラン劇場だけで89名、負傷者300名という最も多い犠牲者を出している。既に6年以上の歳月が流れましたが今でも記憶に残るテロ事件でした。原作者のラモン・ゴンサレスには『BPM ビート・パー・ミニット』(17)のアルゼンチン出身だがフランスで活躍するナウエル・ぺレス・ビスカヤート、そのガールフレンドのセリーヌにフランスの『燃ゆる女の肖像』(19)で主役の画家を演じたノエミ・メルランが扮します。両作ともカンヌFFを沸かせた作品でした。

   

       

         

    (撮影中のノエミ・メルランとナウエル・ぺレス・ビスカヤート)

 

★イサキ・ラクエスタ(ジローナ1975)については、前作『二筋の川』19Entre dos aguas)他でご紹介しております。邦題はスペイン映画祭2019(インスティトゥト・セルバンテス東京、625日~72日)で上映されたときのものです。本作の脚本家で製作者のイサ・カンポと二人のあいだの愛娘揃ってオープニングに来日、Q&Aに参加いたしました。

『二筋の川』の監督&作品紹介は、コチラ2018072520190706

『記憶の行方』作品紹介は、コチラ20160429

   

      

    (イサキ・ラクエスタとイサ・カンポ、マラが映画祭2016、フォトコール)

 

 

 「Un año, una nocheOne Year, One Night

製作:Bambú Producciones / Mr. Fields and Friends / Noodles Production /

    La Termita Films

監督:イサキ・ラクエスタ

脚本:フラン・アラウホ、イサ・カンポ、イサキ・ラクエスタ

原作:ラモン・ゴンサレスの Paz, amor y Death Metal

音楽:ラウル・フェルナンデス・ミロ

撮影:イリーナ・リュプチャンスキ

編集:セルジ・ディエス、フェルナンド・フランコ

キャスティング:ピエール・フランソワ・クレアンシエル、ロサ・エステベス

美術:ミケル・フランシスコ、セバスティアン・ゴンデク

衣装デザイン:Alexia Crisp-Jones

メイクアップ:アルマ・カザル、ミロウ・サナー

特殊効果:The Action Unit

製作者:ディエゴ・ポロ、ライア・コル、モニカ・タベルナ

 

データ:製作国スペイン=フランス、フランス語、2022年、ドラマ、言語フランス語、撮影地バルセロナ、配給Studio CanalEurimages 他から資金援助を受けて製作された。

映画祭・受賞歴:第72回ベルリン映画祭2022コンペティション部門

 

キャスト:ナウエル・ぺレス・ビスカヤート(ラモン)、ノエミ・メルラン(セリーヌ)、キム・グティエレス、アルバ・ギレラ(ルーシー)、ナタリア・デ・モリーナ、C.タンガナ、Miko Jarry、マイク・F. パンフィール(カリム)、ホセ・ハビエル・ドミンゲス(友人)、ジャン=ルイ・ティルバーグ(教育家)、アレックス・モリュー・ガリガ、エドワード・リン(バルのオーナー)、イゴール・マムレンコフ、他

 

ストーリー20151113日の夜、パリ11区にある伝説的なコンサートホール「バタクラン劇場」に、武器を携えたISLLジハーディストのテロリスト4人が突然襲撃した。6ヵ所のパリ同時多発テロのうち最大の犠牲者89名を出した。スペイン人のラモン、フランス人のガールフレンドのセリーヌは、生存者としてテロ襲撃のトラウマと闘う人生を生きることになる。ラモン・ゴンサレスの Paz, amor y Death Metal の映画化。Death Metal当夜出演していたアメリカのロックバンド〈イーグルス・オブ・デス・メタル〉から採られている。

 

    

          (テロ生存者のラモンとセリーヌ、フレームから)

 

 

  バタクラン劇場への悲劇的な襲撃からトラウマに直面したカップル

 

★ラクエスタ監督は、バタクラン劇場への悲劇的な襲撃から1年後の2016年、倫理的な問題、人間関係、トラウマに直面しなければならなかった若いカップルをフォローする本作に取り組んだ。上記のように出演者はスペイン、フランスからキャスティングされている。

 

★主演のナウエル・ぺレス・ビスカヤートはフランスで活躍しているが、1986年ブエノスアイレス生れ、舞台と映画俳優、国籍はアルゼンチン。映画デビューは2004年から、エドゥアルド・ラスポの「Tatuado」で2005銀のコンドル新人賞を受賞、ブノワ・ジャコの『肉体の森』(10)出演を機に、その後フランス語を学ぶため3ヵ月パリに留学した。アルゼンチンに戻り、ルイス・オルテガの「Lulú」(14)で、銀のコンドル主演男優賞にノミネートされている。しかし国際的な成功は、カンヌ映画祭2017出品のロバン・カンピヨBPM ビート・パー・ミニット』出演でした。本作はグランプリ、国際批評家連盟賞、クィア・パルム他を受賞、従ってカンヌの1作品1賞のルールにより、最優秀男優賞を逃しました。しかし2018年にはセザール新人賞リュミエール男優賞などを受賞、ヨーロッパ映画賞にもノミネートされ、国際的な名声を手に入れた。

 

    

           (日本語版のチラシから)

 

ノエミ・メルランは、1988年パリ生れ、女優、監督、脚本家。モデルとしてスタートしたが、パリの演劇学校で学んでいる。2011年より女優として活躍しているが、監督として2本の短編を撮った後、既に長編映画にデビューして評価を得ている。ルー・ジュネ『不実な女と官能詩人』19)、セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』19)の画家役で女性映画批評家協会WFCCリュミエール女優賞ほかを受賞、ノミネート多数の話題作。長編監督デビュー作Mi iubita, mon amourは自作自演、カンヌ映画祭2021でゴールデンカメラにノミネート、サンセバスチャン映画祭のサバルテギ-タバカレラ部門でも上映されている。

 

   

        (ノエミ・メルラン、『燃ゆる女の肖像』から)

 

★スペインサイドのキム・グティエレスナタリア・デ・モリーナについては度々登場させているので割愛しますが、ミュージシャンのC. タンガナ(本名アントン・アルバレス・アルファロ1990が俳優デビューを飾ったことが話題になっています。

 

         

               (C. タンガナ

 

★共同脚本家のフラン・アラウホは製作者、脚本家、監督。イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの『記憶の行方』でガウディ賞(作品・脚本)、続く『二筋の川』でも作品賞を受賞している。TVシリーズのヒット作を数多く手掛けており、なかでイサベル・ペーニャロドリゴ・ソロゴジェンAntidisturbios20)でイリス賞(プロダクション)とペペ・コイラHierro19)で脚本賞、他にメストレ・マテオ賞(脚本)を共同で受賞している。

 

★音楽は『二筋の川』を手掛けたラウル・フェルナンデス・ミロ、撮影監督はフランスの名匠アルノー・デプレシャンの青春映画『あの頃エッフェル塔の下で』15)のイリーナ・リュプチャンスキ、フィルム編集のセルジ・ディエスは『二筋の川』でガウディ賞を受賞、もう一人のフェルナンド・フランコはデビュー作La herida13)がサンセバスチャン映画祭で審査員特別賞を受賞、翌年のゴヤ賞2014新人監督賞フォルケ賞作品賞受賞するなどしている。スタッフは西仏合作らしく両国の実力者が支えている。

 

カルラ・シモンの第2作目「Alcarras」*ベルリン映画祭20222022年01月27日 11:56

      「死にかけている」 家族経営の農業――舞台はリェイダの桃農園

 

     

 

★第72回ベルリン映画祭2022210日~20日)コンペティション部門にノミネートされたカルラ・シモンの新作Alcarrasは、アマチュアを起用しての今や瀕死の状態にある小さな家族経営の桃農園が舞台です。本作はベルリン映画祭2019開催中に行われた第16ベルリン共同製作マーケットにおいて、アバロンPC Eurimages Co-production Development 賞(2万ユーロ)を受賞しておりましたので、完成すればコンペティションに選ばれる筋道はたっておりました。受賞のニュースについては既に記事をアップしております。共同製作はイタリアのKino Produczioni で、2018年のトリノ・フィルムラボで賞金8000ユーロを獲得しています。更にカンヌのシネフォンダシオン・レジデンス2019で特別メンションを受賞するなど国際的にも期待が高かったようです。新型コロナウイリス感染拡大によるパンデミックで遅れに遅れましたが、やっと姿を現しました。

ベルリン共同製作マーケット2019の記事は、コチラ20190224

 

    

     (シモン監督と製作者マリア・サモラ、ベルリンFF 2019

 

  Alcarras

製作:Avalon Productora Cinematografica / Vilaut Films / Kino Produczioni / ICEC /

   ICAA / TV3 / RTVE / Movistar/ リェイダ県から15万ユーロの資金提供

監督:カルラ・シモン

脚本:カルラ・シモン、アルナウ・ピラロ

撮影:ダニエラ・カジアスCajías

キャスティング:ミレイア・フアレス

美術:モニカ・ベルヌイ

セット:マルタ・バサコ

衣装デザイン:アンナ・アギラ

プロダクション・マネージメント:ベルナト・リョンチ

音響:エバ・バリニョ

特殊効果:エリック・ニエト

製作者:マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ、ジョヴァンニ・ポンピリ、(ライン)エリサ・シルベント、(アシスタント)アルフォンソ・ビリャヌエバ・ガルシア、他

 

データ:製作国スペイン=イタリア、カタルーニャ語、2022年、ドラマ、120分、撮影地カタルーニャ州リェイダ(レリダ)県のアルカラス、Sucs ほか数ヵ所、期間202161日~7月末まで、配給フランスMK2

映画祭・受賞歴:第72回ベルリン映画祭コンペティション部門ノミネート

 

キャスト:ベルタ・ピポ、ジョセプ・アバド、アルベルト・ボッシュ、カルレス・カボス、Ainet Jounou(アイネト・ジョウノウ)、アンナ・オティン、ジョルディ・プジョル・ドルセト、他アルカラスの農業者やエキストラ多数

 

ストーリー:長年にわたって桃農園で働いていた一族ソレ家の物語。土地のオーナーが亡くなったことで一族は大きな転機をむかえる。後継者の息子が広大な土地にソーラーパネルを設置するため、桃の木を根こそぎにしたいと思っているからだ。監督の養母の家族が暮らしている〈アルカラス〉をタイトルにした本作は、属している土地と場所についての物語だが、永続的な世代間の衝突、古い伝統の克服、危機に際しての家族の団結の重要性についてのドラマでもある。

 

      

        (収穫した桃を食べる出演者やスタッフ、2021年夏撮影)

 

 

          深刻な家族の危機を生み出すジレンマ

 

★『悲しみに、こんにちは』は監督の自伝的要素が色濃いドラマでしたが、新作も養母の家族が住んでいるアルカラスをタイトルにした、多分に自伝的な要素を含んでいるようです。2020年クランクインが予定されていましたが、新型コロナウイリスのパンデミックで、そもそものキャスティングができず、延期と再開の繰り返しでした。結局1年遅れの2021年の61日に撮影が開始されました。というのも完熟した桃が樹にぶら下がっている必要があり、桃の完熟期である夏しか撮影は考えられなかったからです。ビクトル・エリセのドキュメンタリー『パルメロの陽光』92)の撮影風景が思い起こされます。

 

★監督は「小さい家族農業は死にかけている」とヨーロッパプレスに語っていますが、土地所有者の後継者である息子が農業部門への投資より、もっと効率の良い太陽光発電事業に変えたいというのも決して非難できません。昨今の地球温暖化対策として再生可能エネルギー事業への投資は悪いことではないはずです。「非常に難しい仕事」と監督も述懐しています。ソレ家の長老である祖父が突然声を失くしてしまうようで、イシアル・ボリャイン『オリーブの樹は呼んでいる』16、ラテンビート上映)の祖父を思い出してしまいましたが、こちらの舞台はバレンシア州のカステリョンでした。

 

   


         (桃農園で撮影中のシモン監督)

 

★デビュー作と大きく異なるのは、プロの俳優を起用しなかったことです。監督は「プロではない俳優と一緒に仕事をするのが好き」と語っていますが、監督の母方の祖父や叔父、2人の従兄たちの協力もあったようです。「彼らは自然や経済をよく知っている人々なのです」と、彼らから多くのことを学んだと語っています。「私の祖父と二人の従兄は、アルカラスで桃農園を経営しています。ここは私の第二の故郷のようなもので、クリスマス、夏のバカンスには必ず訪れています。家族は約10年ほど前に80パーセントの土地を失いました」とトリノ・フィルムラボで製作の意図を語っていた。先進国の農業は、どこでも転換期に差しかかっている。

 

          

            (言葉を失ってしまう祖父と孫娘)

 

監督紹介1986年バルセロナ生れ、監督、脚本家、フィルム編集、製作者。バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科卒、その後カリフォルニア大学で脚本と映画演出を学び、ロンドン・フィルム学校に入学、在学中に製作したドキュメンタリーやドラマの短編が評価された。以下にフィルモグラフィーを列挙しておきます。

  

      

           (デビュー作がゴヤ賞2018監督賞を受賞したカルラ・シモン)  

 

2009年「Women」ドキュメンタリー短編

2010年「Lovers」短編

2012年「Born Positive」ドキュメンタリー短編

2013年「Lipstick」短編

2015年「Las pequeñas cosas」短編

2016年「Llacunes」短編

2017Estiu 1993 / Verano 1993長編デビュー作『悲しみに、こんにちは』

2019年「Después también」短編

2020年「Correspondencia」ドキュメンタリー短編

2022年「Alcarras」長編第2作目

 

★ドキュメンタリー短編Correspondenciaは、チリの若手監督ドミンガ・ソトマヨル・カスティリョ(サンティアゴ1985)とのビデオ・レターです。アバロン、TV3製作、言語はスペイン語とカタルーニャ語、モノクロ、19分、2020年ニューヨークFFほか、サンセバスチャンFFサバルテギ-タバカレラ部門、ウィーンFF、国際女性監督FFなどで上映されている。アルゼンチンのマル・デル・プラタ映画祭2020ではラテンアメリカ短編賞を受賞している。シモン監督と同世代のドミンガ・ソトマヨルは、2012年のデビュー作『木曜から日曜まで』が東京国際FFで紹介され、そのレベルの高さに驚かされた。第2作目の「Mar」がベルリンFF2015フォーラム部門にノミネートされた折りに紹介記事をアップしております。

ドミンガ・ソトマヨル・カスティリョ紹介記事は、コチラ20150304

  

    

(「Correspondencia」のポスター)


心理的スペイン・ホラー『荒れ野』*ネットフリックス2022年01月20日 16:01

    評価が分かれるダビ・カサデムントのデビュー作『荒れ野』

    

 

   

16日、ダビ・カサデムントのデビュー作『荒れ野』(原題El páramo)のNetflix 配信が始まった。本作は昨年10月開催されたシッチェス映画祭2021でデビューを飾ったのだが、評価は大きく分かれていた。映画祭にはカサデムント監督、3人の主演者、インマ・クエスタ、ロベルト・アラモ、子役アシエル・フローレスも現地入りした。最初のタイトルは内容に近い「La bestia」(獣)であったが、8月にシッチェスFFにノミネートが決まったさいに現在のタイトルに変更したそうです。製作者によると〈荒れ野〉は「歴史を掘り下げるための重要な要素であり、撮影地としてアラゴン州のテルエルを選んだ」ということです。

 

     

(アシエル・フローレスとダビ・カサデムント、シッチェス映画祭、フォトコール)

 

  

(左から、ロベルト・アラモ、アシエル少年、インマ・クエスタ、監督、同上)

 

 『荒れ野』El páramo / The Wasteland

製作:Rodar y Rodar Cune y Televisión / Fitzcarraldo Films

監督:ダビ・カサデムント

脚本:ダビ・カサデムント、マルティ・ルカス、フラン・メンチョン

音楽:ディエゴ・ナバロ

撮影:アイザック・ビラ

編集:アルベルト・デ・トロ

キャスティング:ペップ・アルメンゴル

プロダクション・デザイン:バルテル・ガリャル

美術:マルク・ポウ

セット:タイス・カウフマン

衣装デザイン:メルセ・パロマ

メイクアップ:(特殊メイク)ナチョ・ディアス、ヘスス・ガルシア、(アシスタント)ミリアム・ティオ・モリナ

特殊効果:The Action Unit

プロダクション・マネージメント:エドゥアルド・バリェス

製作者:ジョアキン・パドロ、マル・タルガロナ、マリナ・パドロ・タルガロナ

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ホラー・ミステリー、92分、撮影地アラゴン州テルエル、期間6週間、配給Netflix、配信202216

映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2021正式出品

 

キャスト:アシエル・フローレス(ディエゴ)、インマ・クエスタ(母ルシア)、ロベルト・アラモ(父サルバドール)、アレハンドロ・ハワード(父の妹フアナ)、マリア・リョプ(獣ビースト)、ビクトル・ベンフメア(ボートで流れ着いた男)

 

ストーリー19世紀のスペイン、ディエゴの家族3人は打ち続く戦禍を逃れて、社会から遠く離れた荒れ野に住んでいる。この小さな家族は訪問者を受け入れず、ただ平和に暮らすことが願いだった。ある日のこと、瀕死の重症を負った一人の男がボートで流れ着く。突如として家族の平穏は破られる。一命を取りとめたにもかかわらず男が自ら命を絶つと、父サルバドールは母ルシアの反対を押しきり遺体を家族のもとに届けると荒れ野を出て行く。残された二人はひたすら帰りを待つのだが、この小さな家に暴力的な謎の生き物が出没しはじめる。成長していくディエゴの視点を通して、社会からの逃避と孤立、深い孤独と恐怖、監禁、喪失、父親の不在、心の脆さ、母の狂気と別れが描かれる。私たちは果たして現実と決別して生きられるのか。

   

          

           (母ルシア、ディエゴ、父サルバドール)

 

監督紹介ダビ・カサデムントは、19844月バルセロナ生れ、監督、脚本家、編集者、作曲家、製作者。2006年カタルーニャ映画視聴覚上級学校 ESCAC を卒業、2007年から助監督や短編、ビデオショート、ドキュメンタリーを撮り、5年の準備期間を費やしEl páramo」で長編デビューする。2014年の「La muerte dormida」(15分)がファンタスティック・シネマ・フェスティバル2015で監督部門の審査員賞、短編映画賞2015ドラマ部門SOFIEを受賞した他、ノミネーション多数。本作は現在でもYouTubeで英語字幕入りで鑑賞できる。主な短編映画は以下の通り:

2007年「Jingle Bells

2009年「Paliza a Pingu

2012年「Te he echado de menos」(ビデオショート、共同監督)

2014年「La muerte dormida

2014年「Una vida M.

2016年「Rumba Tres: De ida y vuerta」(ドキュメンタリー、共同監督)

2016年「Compta amb mi

2021年「El páramo」(長編デビュー作)

 

 

      コロナウィルスのパンデミックが脚本に変化をもたらした

 

A: ジャンル的にはホラー映画ですが、これは心理的なスリラー、ディエゴ少年のイニシエーション、多分に監督の自伝的な痕跡を感じさせます。19世紀のスペインの家族という設定が、そもそも信頼性にかけているようにも思えます。

B: 19世紀の戦争といえば、ナポレオンの侵略に反対するスペイン独立戦争(180814)、いわゆるナポレオン戦争をイメージしますが、遡りすぎます。19世紀半ばの3回にわたって繰り返されたカルリスタ戦争(183376)でしょうね。

 

A: どちらもスペイン全土に広がりましたが、特に後者は撮影地となったスペイン北部やカタルーニャ地方が戦場になった。厳密には内戦です。それより永遠に続くと思われるコロナウイリスのパンデミックをイメージした視聴者が多かったのではないか。監督も2年間のパンデミック体験を新たに脚本に取り入れたとコメントしています。

 

B: ホラーとしてはあまり怖くないのでがっかりしたホラーファンも多そうです。視聴者の「時間の無駄だった」というコメントには笑いを禁じえません。恐怖より孤立、孤独、喪失感、監禁状態の不安が強かった。

A: ディエゴ少年の視点で描かれているから、素直に少年の成長物語とも読めます。そのためには先ず庇護者であるが若干抑圧的な父親を追い出す必要があります。自立のためには父親の不在と母親との別れが求められるから、これらの要素は前半で充分予測可能なことでした。

 

     

            (ルシアに別れを告げるサルバドール)

 

B: 愛する家族を残し、見ず知らずの男の家族のためという強引な追い出し方でした。父サルバドールは息子に越えてはいけないと諭した自らつくった境界線を越えて、かつての危険な場所に戻っていく。荒れ野には二度と戻ってこないだろう。

A: 監督は15歳のとき父親を病で失っており、立ち直りに時間がかかり今でもトラウマになっていると、シッチェス映画祭のインタビューで語っています。本作は「私の一種のセラピーであって、映画が狂気から私を救ってくれた。父親はシネマニアでハリウッドのクラシック映画ファンでした。90年代には『ジュラシックパーク』『フォレストガンプ』『ブレイブハート』『タイタニック』などを父親と一緒に観のです」と語っている。

 

     

    (案山子のようなオブジェで仕切られた境界線を越えていくサルバドール)

 

B: 「映画が私を育て、人生を理解させ、幸せになることを教えてくれた」とも語っている。

A: 監督は映画を映画館で愉しむ最後の世代かもしれない。劇中のルシアと実際の母親が重なるかどうか分かりませんが、彼女の場合、夫を失うことへの不安が鬱を招き、謎のビーストの出現はルシアの絶望による幻覚かもしれない。

B: 獣は彼女自身の精神が投影されているようで、ビーストの力は本質的に心理的なものであり、本物でないことを示唆してもいる。

 

     

               (影に怯えるディエゴ)

 

A: 監督は「父親が亡くなるまでのゆっくりした衰えは永遠にあるように感じた。一緒に『エクソシスト』や『ポルターガイスト』のような古典的ホラー映画も観ました。ゴーストたちがスクリーンを駆け抜けるのが魅力だった」と。

B: 『シックス・センス』のM・ナイト・シャマランや『永遠のこどもたち』のフアン・アントニオ・バヨナのファンだそうです。しかし本作は母と息子の物語で、父親は姿を消していきます。

 

        現実との決別、狂気との闘い、純粋な暗闇

 

A: 本作はスクリーンで見るほうが奥行きが実感できそうです。いくら大型テレビに転送しても、明るい茶の間では純粋な暗闇や茫漠とした荒れ野を実感するには限界があります。監督は「スクリーンで愉しむために設計された映画がテレビで成功すること」が理想と語っていますが、本作はどうでしょうか。

B: 暗闇の中で物語は進行し、蝋燭の灯り、暖炉で燃えさかる炎、野外の撮影でも自然光で照明は極力抑えられている。光の遊びという点でロバート・エガースのホラー『ウィッチ』15)を連想した人が多かったようですが。

 

   

    (蝋燭の灯りのもと、自殺した妹フアナの話をするサルバドール)

 

A: サンダンス映画祭で監督賞を受賞している。17世紀を舞台にした魔女裁判に絡めたホラー映画、予告編しか見てないのですが、テーマは異なっています。影に隠されているものが何か、闇は恐怖であり、孤独感や喪失感かもしれない。ロベルト・アラモインマ・クエスタが、永遠の恐怖に悩まされている夫婦に命を吹き込んでいる。

B: 真っ暗闇の恐怖と、開けられた窓から射しこむ光、風と樹々の音のあいだで、私たちの緊張は和らげられる。本作は時代や出身地と関係なく、私たち全員に等しく関係する普遍的な物語です。


A: 主役ディエゴを演じたアシエル・フローレス20113月)は、ペドロ・アルモドバル『ペイン・アンド・グローリー』19)で映画デビュー、何本かTVシリーズに出演している。アルモドバル映画では、アントニオ・バンデラスが扮したサルバドールの少年時代を演じた。そこではペネロペ・クルスラウル・アレバロが両親になるという幸運に恵まれた。

 

     

 (アシエル、ペネロペ・クルス、ラウル・アレバロ、『ペイン・アンド・グローリー』)

 

B: 本作撮影当時は10歳くらいだったが、6週間に及ぶテルエルの監禁生活によく耐えた、と監督以下スタッフから褒められている。

A: 子役が大人の俳優として成功するのは難しい。現在小学校の高学年、本格的な教育はこれからです。髪も目の色もブラウン、彼の大きく開いた目に映る人影は何のメタファーか。

 

    

              (ディエゴの目に映る人影)

 

B: もう一人の子役、父サルバドールの妹フアナ役のアレハンドラ・ハワード20102月)は、バルセロナ生れ。

A: 父親はカリフォルニア生れの俳優スティーブ・ハワードでアサイヤスの『WASPネットワーク』や、TVシリーズに出演している。母親はカタルーニャ出身ということで、アレハンドラは英語、スペイン語、カタルーニャ語ができる。従って英語映画やアニメのボイスなどで活躍できる基礎ができている。

         

              

                      (フアナ役のアレハンドラ・ハワード)

 

B: 今回は小さい役でしたが、第一次世界大戦のポルトガルのファティマを舞台にしたマルコ・ポンテコルボFatima20『ファティマ』)では生き生きしている。プライム・ビデオ他で配信されている。

A: 1917年のファティマの聖母の史実を元にしたアメリカ映画です。他にマリベル・ベルドゥが主演のTVシリーズAna Tramel. El juego21)に出演、将来的には大人の女優を予感させます。

 

B: ベテラン演技派のインマ・クエスタとロベルト・アラモは、何回も登場させているので今回は割愛します。クエスタはダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』11)がラテンビートで上映されたとき、一番光っていた俳優でした。期待を裏切らない女優です。

 

    

       (夫から贈られた赤いドレスを着て闘うルシアとディエゴ)