カルラ・シモンの新作「Romeria」*カンヌ映画祭20252025年05月08日 20:06

        Romería」はカルラ・シモン「家族三部作」の完結編

 

         

 

★第78回カンヌ映画祭2025コンペティション部門ノミネート作品は、前回アップしたオリベル・ラシェの「Sirat」とカルラ・シモン(バルセロナ1986)の「Romería」の2作。ラシェ監督はカンヌの常連ですが、シモン監督は長編は初めてです。ただデビュー作『悲しみに、こんにちは』2作目『太陽と桃の歌』が公開されているから、日本での認知度はシモンのほうが高いかもしれない。マラガ映画祭2023のマラガ才能賞を受賞したときのインタビューで、次回作Romería」で「自分の家族についての三部作を完結します」と述べていた通りになりました。デビュー作で監督自身を、2作目で母方の家族を、そして今回の新作で父方の家族を語ります。6歳のときに両親を薬物依存のエイズで失うという複雑な事情から、監督を取り巻く大人たちの善意の嘘でフラストレーションを抱えながら育ちました。新作では『悲しみに、こんにちは』の少女フリーダは18歳になり、マリナとなって登場します。

  

   

               (本作撮影中のシモン監督)


『悲しみに、こんにちは』の紹介記事は、コチラ20170222

『太陽と桃の歌』の作品紹介記事は、コチラ20220127

マラガ映画祭2023マラガ才能賞受賞記事は、コチラ20230319

映画国民賞2023受賞記事は、コチラ20230612

 

  

  (第2『太陽と桃の歌』

 

★長編3作の他に短編数編を撮っており、なかでベネチア映画祭2022短編部門に出品した短編「Carta a mi madre para mi hijo」(25分、仮題「息子のために母に宛てた手紙」)は、新作に繋がっている印象を受けていますが、どうでしょうか。マリナは母親が書き残した日記を携えて、父方の家族、祖父母、叔父叔母が暮らしている大西洋岸の港湾都市ビゴを目指して旅に出ます。時代は2004年に設定されています。マリナには本作でデビューを飾るリュシア・ガルシアを起用、ボーイフレンドになる若者ヌノにミッチ・ロブレス、若い二人をトリスタン・ウジョア、ホセ・アンヘル・エヒド、サラ・カサスノバス、ジャネット・ノバスなどベテラン演技派が固めています。製作者のメインは、昨年の映画国民賞2024を受賞したマリア・サモラ、デビュー作からタッグを組んでいます。

マリア・サモラの映画国民賞受賞&キャリア紹介記事は、コチラ20240616

  

    

 (アンヘラ・モリーナ主演の「Carta a mi madre para mi hijo」)

 

★審査委員長ジュリエット・ビノシュ以下審査員全員の発表があり、間もなくカンヌ映画祭も開幕します。審査員のなかにメキシコのカルロス・レイガダス監督の名前がありました。

 

Romería

製作:Elástica Films / Romería Vigo AIE / Dos Soles Media / Ventall Cine / 3Cat

   協賛Comunidad de Madrid / ICEC / RTVE / Movistar Plus/ Netflix / Vodafone /

    Xunta de Galicia

監督・脚本:カルラ・シモン

撮影:エレーヌ・ルヴァール

キャスティング:マリア・ロドリゴ

衣装デザイン:アンナ・アギラ

製作者:マリア・サモラ(Elástica Films 

 

データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語・カタルーニャ語、フランス語、ドラマ、104分、撮影地ガリシア州ポンテベドラ県ビゴ、他ポンテベドラ各地、2024820日クランクイン、ガリシア政府Xunta de Galiciaより300.000ユーロの助成金を得ている。公開スペイン202595日(予定)

映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025コンペティション部門ワールドプレミア、第72回シドニー映画祭2025614日)

 

キャスト:リュシア・ガルシア(マリナ)、ミッチ・ロブレス(ヌノ)、トリスタン・ウジョア、ホセ・アンヘル・エヒド、サラ・カサスノバス、ジャネット・ノバス、ミリアム・ガジェゴ、セリーヌ・ティル、ダビ・サライヴァ(ポルトガルの警察官)、セルヒオ・キンタナ(ポルトガルの警察官)、ミッチ・マルティン

 

ストーリー:少女時代に両親を亡くしたマリナは、まだ一度も会ったことのない父方の祖父母が暮らしている大西洋岸の港湾都市ビゴに行かねばなりません。大学の奨学金申請書の署名が必要だからです。父方の家族が自分を受け入れてくれるのか抵抗されるのか不安を抱え、母親が残した日記を携えて旅立ちます。叔父叔母やいとこたちとの出会いを通じて、父の物語と父が母と共有していた愛を繋ぎ合わせようとしますが、マリナの出現は長いあいだ封印していた若い夫婦の薬物問題の辛い記憶を呼び起こし、家族が秘密にしていた恥を掻き立ててしまいます。優しさを蘇らせ、過去に結びついた言葉にならない傷を癒しながら、マリナはほとんど覚えていない両親の断片的で、しばしば矛盾する記憶を繋ぎ合わせます。いとこヌノとの10代の恋が彼らとの繋がりを可能にするでしょうか。

   

      

                  (マリナとヌノ)

 

       「ロメリア」はカルラ・シモンのルーツを探す巡礼物語

 

★時代は2004年、ヒロインのマリナは18歳という設定(1986年生れの監督と同年齢)、何度か訪れて気に入ったバルセロナとは反対側の大西洋岸に面したガリシアのビゴが舞台です。前述したように本作は監督の「家族三部作」の完結編です。ビゴでクランクインしたおり、「自分の家族にインスパイアされて撮った作品です。多くの対立やトラウマを抱えた複雑な家族ですが、深いところで愛と信頼、誠実が存在する家族です」と語っている。フィクションですが、マリナには監督が色濃く投影されており、「極めて個人的な」ストーリーになっているそうです。さらに撮影セットは20年前の雰囲気を出すように設え、両親の物語を再構築できるようにした。「この場所で自分たちは愛についての映画をつくっているのだ」とも語っている。

 

★「ロメリア」の物語は、ある意味で現在のシモン監督、過去の両親についての物語である。10年前のこと監督は、両親がビゴで過ごしていた人生を知りたいと思うようになった。それ以来、明らかにしようと手動カメラを手に度々ビゴにやってきた。シモンは母が近親者に宛てて書いた数通の手紙を見つけたことも後押ししたようです。「いつも物語には、何が真実で何が真実でないかという視点があります。だから物語はとても主観的なものです」、視点を変えると、突然別の顔が現れる。撮影中に面白いことがあった。ある婦人が近づいてくると、彼女の祖母の友達だった女性の娘さんだったことが分かった。「こんなことが起こるのは本当に感動的」と語っている。

   

      

       (シモン監督、リュシア・ガルシア、ミッチ・ロブレス)

 

★郊外を散歩している隣人たちやオリーブ栽培都市にやってきた訪問客も見落とせないチャンスをくれる。撮影を始めようとすると、直ぐに通行人が通りを塞いでしまう。中を覗くためにセットの柵を越えてガードレールを押しのけテラスまで入ってしまう。「ここで何しているの?」「映画撮ってるの」の繰り返し。ある女性がタイトルの〈Romería〉に興味がわいたのか、撮影のために集められたミュージシャンたち、証明器具、飾りつけられた小旗、カウンターに並べられた食べ物や飲み物をチラッと見て、「ロメリアね、そうね、ぴったりだわ」と。この言葉は監督にとって、自身が生きてきた神秘的な旅を呼び出したのだが、今はマリナに引き継がれている。

 

スペイン語の〈Romería〉は、聖地巡礼、巡礼祭の意味で、祝祭日には大勢の信者や観光客でごった返す。それとセットがそっくりだったからでしょう。スペインではサンティアゴの巡礼が有名ですが、ウエルバ州アルモンテのロシオ村で行われる「Romería de El Rocío」も有名です。聖週間が終わった50日目の精霊降臨ペンテコステスの日にエル・ロシオ礼拝堂でミサが行われる。従って年によって移動しますが大体5月下旬から6月初めになります。「Virgen del Rocío」(ブランカ・パロマ)に捧げる巡礼祭。この日を目指してスペイン各地から、または海外から、馬車や牛車、あるいは徒歩で、人口23.000人の村に100万人以上が訪れる。

 

キャスト紹介:マリナ役のリュシア・ガルシアは、街路を散歩しているところを偶然目にして引き止め、キャスティングに来るよう誘った。とても素晴らしかった。決まった候補は未だいなかった。彼女にとっては冒険でした。実際こんなプロセスで決まることもあるんですね。ヌノ役のミッチ・ロブレスは、短編出演、ホアキン・オリストレル制作の高校を舞台にしたTVシリーズ「Hit」(2022)に出ていると紹介されているが確認できなかった。

  


                 (リュシア・ガルシア)

 


                 (ミッチ・ロブレス)

 

トリスタン・ウジョア(フランス1970)は、俳優、監督、フリオ・メデムの『ルシアとSEX』主演、アレハンドロ・アメナバルの『オープン・ユア・アイズ』、TVシリーズ『情熱のシーラ』でスペイン俳優組合2014助演男優賞、同『アスンタ・バステラ事件』でフォトグラマス・デ・プラタ2025俳優賞を受賞している。最近はTVにシフトしている。ジャネット・ノバスはハイオネ・カンボルダの『ライ麦のツノ』でゴヤ賞2024新人女優賞を受賞したばかりです。この映画の製作者も本作と同じ Elástica Films マリア・サモラです。撮影はフランスのトップクラスの撮影監督エレーヌ・ルヴァールと文句なし。スペインではハイメ・ロサーレスとタッグを組んでいる。また今回「ある視点」ノミネートのスカーレット・ヨハンソンの「Eleanor the Great」も手掛けている。

   

    

             (撮影中のトリスタン・ウジョア)

  

     

               (エレーヌ・ルヴァールと監督


オリベル・ラシュ「Sirat」の主役はセルジ・ロペス*カンヌ映画祭20252025年05月03日 18:12

            セルジ・ロペスはロマンチックコメディも得意!

    

     

              (失踪した娘を探す父親と息子)

 

★前回オリベル・ラシュ「Sirat」の作品&監督フィルモグラフィーを紹介しました。今回は続編として、モロッコのサハラ砂漠で行方不明になった娘を探す父親を演じたセルジ・ロペスの紹介。セルジ・ロペスと言えば、ギレルモ・デル・トロのダークファンタジー『パンズ・ラビリンス』の冷酷無比なサイコパスの大尉ビダル(実際監督がロペスの悪役ぶりに惚れ込んで人物造形をしたという曰くつきのキャラクター)、ドミニク・モルのスリラー『ハリー、見知らぬ友人』の不気味な男ハリー、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』では、主人公の母親に横恋慕する悪徳町長、と日本で公開された映画からは悪役のイメージが強い。しかし、実はロマンチックコメディが得意で以下に示すように多くのコメディに出演している。またカタルーニャ語映画マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」では、小さな息子と凧あげをする優しい父親を演じて観客を魅了した。スペイン語は当たり前として、流暢なフランス語、英語と語学に堪能なことから3桁に上る作品に出演している。

    

   

            (『パンズ・ラビリンス』のビダル大尉)

      

      

        (マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」から)

 

★父親ルイス役のセルジ・ロペス19651222日バルセロナ生れ、映画、舞台、TV俳優。16歳で学業を止め、アマチュア劇団に入り俳優の第一歩を踏み出す。その後フランスに渡り、パリのジャック・ルコック国際演劇学校に入学、演技を学んだ。スペイン映画デビューは1991年、ヘスス・フランコの「Ciudad BajaDowntown Heat」、フランス語のオーディションに合格して、1992年マニュエル・ポワリエの「La Petite amie d'Antonio」でフランス映画にデビューしてミシェル・シモン賞を受賞している。その後も『ニノの空』など8作に起用されるというポワリエ映画の常連となる。『ニノの空』でセザール賞有望俳優にノミネートされた。主にスペインとフランスの両国でキャリアを築いている。

 

★共演した国際的な女優連にも目を瞠る、「Lisboa」ではカルメン・マウラ、『スカートの奥で』でビクトリア・アブリル、『堕天使のパスポート』でオドレイ・トトゥ、『シェフと素顔と、おいしい時間』でジュリエット・ビノシュ、『記憶の行方』でエンマ・スアレス、DV男を演じた「Sólo mía」でパス・ベガ、『熟れた本能』ではクリスティン・スコット・トーマス、そして『パンズ・ラビリンス』ではマリベル・ベルドゥとアリアドナ・ヒル、「La boda de Rosa」でカンデラ・ペーニャとナタリエ・ポサと共演している。

   

       

        (マラガ映画祭2020La boda de Rosa」のフォトコール)

 

 

 主なフィルモグラフィー

1991Ciudad BajaDowntown Heat」ヘスス・フランコ、デビュー作

1992La Petite amie d'Antonio」(仏語)マニュエル・ポワリエ

   1993年若手有望俳優に与えられるミシェル・シモン賞

1997Western」『ニノの空』(仏語)マニュエル・ポワリエ

   シッチェスFF 1997グランアンギュラー主演男優賞、セザール賞1998有望俳優ノミネート

1998Caresses / Carícies」(カタルーニャ語)コメディ、ベントゥーラ・ポンス

1999Entre las piernas」『スカートの奥で』マヌエル・ゴメス・ペレイラ

1999Lisboa」クライム・スリラー、アントニオ・エルナンデス

   マラガFF 1999主演男優賞

1999Une liaison pornographique」『ポルノグラフィックな関係』(仏語)

フレデリック・フォンテーヌ

   ベネチアFF 1999パシネッティ主演男優賞サンジョルディ賞2001スペイン俳優賞

 

2000Harry, un ami qui vous veut du bien」『ハリー、見知らぬ友人』(仏語)スリラー、

   ドミニク・モル

   セザール賞2001主演男優賞ヨーロッパ映画賞2000ヨーロッパ俳優賞

2001El cielo abierto」ロマンチックコメディ、ミゲル・アルバラデホ

   シネマ・ライターズ・サークル2002主演男優賞ブタカ賞2001カタルーニャ俳優賞

2001Sólo mía」ハビエル・バラゲル

   フォトグラマス・デ・プラタ2002映画俳優賞、ゴヤ賞2002主演男優賞ノミネート

2002Dirty Pretty Things」『堕天使のパスポート』(イギリス映画)犯罪

   スティーヴン・フリアーズ

2002Decalage horaire」『シェフと素顔と、おいしい時間』(仏語)ダニエル・トンプソン

2003Janis et John」『歌え!ジャニスジョプリンのように』(仏語)コメディ

   サミュエル・ベンチェトリット

2006El laberinto del fauno」『パンズ・ラビリンス』ダーク・ファンタジー、

   ギレルモ・デル・トロ  ファンタスポルト2007国際ファンタジー映画賞主演男優賞

   ブタカ賞カタルーニャ俳優賞トゥリア賞主演男優賞

   ゴヤ賞2007主演男優賞ノミネート、ほかノミネート多数

2007La Maison」(仏語)マニュエル・ポワリエ

2009RickyRicky リッキー』(仏語)コメディ、フランソワ・オゾン

2009Map of the Sounds of Tokyo」『ナイト・トーキョー・デイ』イサベル・コイシェ

2009Partir」『熟れた本能』(仏語)カトリーヌ・コルシニ

 

2010Pa negra」『ブラック・ブレッド』(カタルーニャ語)ダークミステリー、

   アグスティ・ビリャロンガ、ゴヤ賞2011助演男優賞ノミネート

2011Le moine / El monje」『マンク 破戒僧』(仏語)ドミニク・モル

2012Tango lible」『タンゴ・リブレ 君を想う』フレデリック・フォンテーヌ

2014El Niño」『エル・ニーニョ』&『ザ・トランスポーター』ダニエル・モンソン

2015A Perfect Day」『ローブ/戦場の生命線』(英語・西語・ルーマニア語)

   シリアスコメディ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア

2015Vingt et une nuits avec Pattie」『パティ―との二十一夜』(仏語)コメディ

   アルノー・ラリュー & ジャン=マリー・ラリュー

2015Un dia perfecte per volar」(カタルーニャ語)マルク・レチャ

   アミアンFF 2015主演男優賞、ガウディ賞2016主演男優賞ノミネート

2016La propera pell」『記憶の行方』(カタルーニャ語)

   イサ:カンポ & イサキ・ラクエスタ

2018Lazzaro Felice」『幸福なラザロ』(伊語)アリーチェ・ロルヴァケル

2019La inocencia」(カタルーニャ語・西語)ルシア・アレマニー

 

2020Josep」『ジュゼップ 戦場の画家』(アニメーション、ボイス、仏語)オーレル

2020La boda de Rosa」コメディ、イシアル・ボリャイン

   ゴヤ賞2021助演男優賞、フェロス賞、ディアス・デ・シネ賞、各ノミネート

2020Rifkin's Festival」『サン・セバスチャンへ、ようこそ』(英語)ウディ・アレン

2021Mediterráneo」『地中海のライフガードたち』ビオピックドラマ、マルセル・バレナ

   第17回難民映画祭2022オンライン配信

2022Pacifiction」『パシフィクション』(仏語)アルベルト・セラ

2022La manzana de oro」コメディ、ハイメ・チャバリ

2023La francée du poéte」『詩人の花嫁』(仏語・英語)ヨランド・モロー

2023El viento que arrasa」(アルゼンチン・ウルグアイ)パウラ・エルナンデス

2025La terra negra / La tierra」(カタルーニャ語・西語)アルベルト・モライス

2025Sirat」オリベル・ラシュ

 

★邦題は公開、ミニ映画祭、DVDスルー、ネットフリックス、プライムビデオなどの配信による。TVシリーズ、「Mano de hierro」(248話)が『鉄の手』の邦題でネット配信されている。他にカタルーニャ語TV3シリーズ『あなたに出会っていなければ』(10話)にも出演している。年々父親役が多くなってきている。

 

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パルムドールを競うオリベル・ラシェの4作目「Sirat」*カンヌ映画祭20252025年05月01日 10:38

     オリベル・ラシェの新作はモロッコの砂漠を旅するロードムービー

   

       

 

★カンヌは5月の風に吹かれて到来する。第78回カンヌ映画祭2025513日から24日の日程で開催されます。今年はオリベル・ラシェの長編4作目「Sirat」と、カルラ・シモンの3作目「Romeria」がパルムドールを競うコンペティション部門にノミネートされました。シモンの新作のテーマは、監督が6歳のときエイズで亡くなった父親の家族に会う旅を描いた極めて個人的なものということです。まず気になるラシェ監督の新作からアップしたい。前作『ファイアー・ウィル・カム』19)の主言語はガリシア語でしたが、今作はスペイン語です。主役にカタルーニャ出身のセルジ・ロペスを起用、撮影はアラゴン州の氷点下のテルエルでクランクイン、クランクアップは酷暑のサハラ砂漠だった由、かなり挑戦的な撮影だったようです。撮影監督のマウロ・エルセは前作でゴヤ賞2020撮影賞を受賞しています。今回はスーパー16ミリで撮影された。

   

       

            (撮影中のラシェ監督とセルジ・ロペス)

   

    Sirat

製作:4 A 4 Productions / El Deseo / Filmes da Ermida / Uri Films / Movistar Plus

   / Los Desertores     協賛ICEC / ICAA / RTVE / TV3、他

監督:オリベル・ラシュ

脚本:オリベル・ラシュ、サンティアゴ・フィロルFillol

撮影:マウロ・エルセ

音楽:カンディング・レイ

キャスティング:マリア・ロドリゴ

プロダクションデザイン&美術:ライア・アテカ

衣装デザイン:ナディア・アシミ

メイクアップ&ヘアー:サイラ・エバ・アデン、ミカエラ・ピメンテル、ルシア・ソラナ

製作者:アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、ハビ・フォント、オリベル・ラシュ、オリオル・マイモー、マニ・モルタサビ、アンドレア・ケラルト、(エグゼクティブ)エステル・ガルシア

 

データ:製作国フランス=スペイン、2025年、スペイン語、ドラマ、115分、撮影地アラゴン州のテルエル、サラゴサ、モロッコのサハラ砂漠、期間20245月~6月、ワールド販売配給:The Match Factory、スペイン配給はBTeam Ficturesにより202566日公開予定

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025コンペティション部門ノミネート

 

キャスト:セルジ・ロペス(ルイス)、ブルノ・ヌニェス(息子エステバン)、ジェイド・オウキッド、リチャード・ベラミー、ステファニア・ガッダ、ジョシュア・リアム、トニン・ジャンヴィエ、他アマチュア多数

 

ストーリー:ルイスとその息子エステバンは数ヵ月前に失踪した娘マリナを探しに、モロッコの乾燥した幻想的な山塊で迷っている或るレイブに到着する。マリナはこのような過激なパーティの一つに参加したのち行方不明になっていたからです。娘に会えることを信じて、サハラ砂漠で開催される最後のフィエスタを求めてレイバーたちのグループの後を追うことに決める。社会の埒外で生きようとする人々の風変わりなロードムービーでもある。

 

       

 

     Sirat〉はアラビア語の「まっすぐな道」というイスラム教の概念

 

★最初のタイトルは「After」だったので、記事によってはこちらで紹介されている。Sirat〉はアラビア語で「道」を意味する。ラシェ監督が繰り返し探求する超越的な緊張を反映して「まっすぐな道」というイスラム教の概念から影響を受けているらしい。監督によると、登場人物は「人生に挑戦し、過激で厳しい方法で試練に耐える。重要な質問が投げかけられ、内面を見つめ直し、人生の意味を考え、・・・生と死の境界が曖昧になるほどの極端な冒険を体験する」。「セルジ・ロペスは、ブルノ・ヌニェスとプロでない出演者のグループを伴って、この過酷な旅に出発します」とコメントしていますが、ラシェ映画はあれこれ予測しても始まりません、観るしかないでしょう。

   

       

        (プロではないが国際的な俳優のグループ、フレームから)

 

監督紹介オリベル・ラシュ1982年パリ生れ、56歳のころ家族でガリシア州のア・コルーニャに戻る。長編デビュー作は自身も出演している「Todos vós sodes capitáns / Todos vosotros sois capitanes」(10)、スペイン=モロッコ合作、モノクロ、78分、「監督週間」にノミネートされ、国際映画批評家連盟FIPRESCI受賞した。2作目「Mimosas」(16)が「批評家週間」でグランプリ受賞3作目「O que arde / Lo que arde」(『ファイアー・ウィル・カム』)が、「ある視点」審査員賞受賞4作目がコンペティション部門と全てがカンヌでプレミアされている。2作目と3作目は以下で作品紹介をしています。

Mimosas」の作品&キャリア紹介は、コチラ20160522

O que arde / Lo que arde」の紹介記事は、コチラ20190428同年1121

 

    

   

        

       

 

キャスト紹介:主役ルイスを演じるセルジ・ロペス(バルセロナ1965)のキャリア&フィルモグラフィーは、次回アップいたします。ルイスの息子エステバンを演じるブルノ・ヌニェスは、ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボが監督したTVミニシリーズ「La Mesías」(23、全7話のうち4話出演)でデビュー、ロジェール・カザマジョールが扮するエンリックの子供時代の好演が今回の抜擢に繋がりました。このシリーズは2023年のフォルケ賞、2024年のフェロス賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、スペイン俳優連盟賞、オンダス賞などを軒並み制覇した話題作でした。

   

       

            (セルジ・ロペスとブルノ・ヌニェス)

  

審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪2025年04月25日 13:23

         ベレン・フネスの第2Los Tortuga」が4冠の快挙

    

    

 

ベレン・フネス2作めLos Tortuga」は、審査員特別賞監督賞脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。

ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ20191224

マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ20250328

 

Los Tortuga / The Exiles

製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /

    Quijote Films  

   協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC / 

      ICAA / RTVE / TV3、他

監督:ベレン・フネス

脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン

撮影:ディエゴ・カベサス

音楽:パロマ・ペニャルビア

編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE

美術:パウラ・エスプニー

キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス

衣装デザイン:ルルデス・フエンテス

メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス

製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン

 

データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン20241115

   

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞

 

キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他

 

ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

    

         

                (フレームから)

 

監督紹介ベレン・フネス1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞監督賞脚本賞3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作Los Tortugaが長編第2作になる。

   

     

                   ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

   

        

         (新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)

 

脚本家紹介マルサル・セブリアン1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「Lestigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。20254月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。

 

           

         

       (マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)

 

キャスト紹介アントニア・セヘルス1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

   

    

        (G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

 

    

         (チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)

 

★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。

 

          

  

    (マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)

 

★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

   

      

          (共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)

 

★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(200104)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、201517)とある。

 

★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(20131490話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(201922、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。

 

主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)  

1995En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス

2003Sábado」マティアス・ビセ

2007Pecados」マルティン・ロドリゲス

2008Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1

   テレビプロデューサー役

2010Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役

   ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート

2010La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演

   ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート

2012No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役

2015El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演

   シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016

   イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数

2015La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役

2017Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ 

   レストラン店主役

2017Los perros」マルセラ・サイド 主役

   ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数

2017Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役

2018Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役

2021Mensajes privados」マティアス・ビセ

20221976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役

2022El castigo」マティアス・ビセ 主役

   タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、

     トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞

2023El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役

   イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート

2024Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役

2024Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役

  

当ブログ関連記事

『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ20151018

Los perros」の紹介記事は、コチラ20170501

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20171122

Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ20220314

1976』の紹介記事は、コチラ20220913

El castigo」の紹介記事は、コチラ202303月03

Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ20240829

 

 

★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ3作目「Sirat」とカルラ・シモン3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。

 

オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。


セクション・オフィシアル(スペイン映画)*マラガ映画祭2025 ④2025年03月20日 21:50

★前回に引き続いて、主にスペインが製作国の映画をアップしました。

       

7)La terra negra / La tierra negra」スペイン=パナマ、2024年、98分、スペイン語、カタルーニャ語

 監督アルベルト・モライス(バレンシア、長編4作目)

 脚本:アルベルト・モライス、サムエル・デル・アモル

 製作Olivo Films / Elamedia / Dexiderius Produccciones / Garra Produccciones

 キャスト:ライア・マルル(マリア)、セルジ・ロペス、アンドレス・Gertrudix、アブデラティフ・Hwiidar、ロサナ・パストル、アルバロ・バゲナ、マリア・アルビニャナ、トニ・ミソ、ブルノ・タマリト

 

       

     

 

 

8)「Lo que queda de ti」スペイン=ポルトガル=イタリア、2024年、91

 監督・脚本ガラ・グラシア(シウダーレアル県バルデペニャス1988、デビュー作)、マドリード・コンプルテンセ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、ロンドンのキングストン大学大学院で監督及び脚本を受講している。短編3作目「Evanescente」(12分)はマラガ映画祭2024短編部門で上映、フォルケ賞にもノミネートされた。

 製作Potenza Produccciones / Bastian Films / Fado Filmes / Sajama Films /

        Garbo Prodezioni  協賛 ICAA / マドリード共同体、アラゴン州政府、他

 キャスト:ライア・マンサナレス(サラ)、アンヘラ・セルバンテス(エレナ)、ルイ・デ・カルバーニョ、アンナ・テンタ、イグナシオ・オリバル、ナタリア・リスエニョ 

 

       

   

 

 

9)「Los tortuga」スペイン=チリ、2024年、109

 監督ベレン・フネス(バルセロナ1984、長編2作目)、デビュー作「La hija de un ladrón」がサンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルにノミネート、グレタ・フェルナンデスが銀貝女優賞を受賞している。

 脚本:ベレン・フネス、マルカル・セブリアン

 製作Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Pelicula AIE / Quijote Films

 キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(アナベル)、マメン・カマチョ、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・イェルペス 

La hija de un ladrón」&監督紹介は、コチラ20190723

 

      

   

 

 

10)Molt lluny / Muy lejos」スペイン=オランダ、2025年、100分、カタルーニャ語、

   オランダ語、字幕上映、2025411日スペイン公開予定

 監督・脚本ヘラルド・オムス(バルセロナ1983、デビュー作)、短編「Inefable」(21)はマラガ、グアダラハラ、バルセロナなどの映画祭に出品され、ウエスカ映画祭やアルカラ・デ・エナレスなどで受賞している。

 製作Zabriskie Films / Revolver Amsterdam

 キャスト:マリオ・カサス(セルヒオ)、ダビ・ベルダゲル、イリヤス・エル・ウアダニIlyass El Ouahdani、ジェティ・マチュリンJetty Mathurin、ハネケ・ファン・デル・パールトHanneke van der PaardtReinout de Vey Mestdegh、ラウル・プリエト、ナウシカ・ボニン、ダニエル・マドラン

 

  

 

 

 

11)「Ravens / Cuervos」(邦題『レイブンズ』)スペイン=フランス=日本=ベルギー、2024年、116分、字幕上映、日本公開2025328

 監督・脚本マーク・ギル(マンチェスター、長編2作目)、脚本家、監督、写真家、ミュージシャン。デビュー作「England is Mine」(17、『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』公開)、短編「Full Time」(13)など。

 製作Minded Factory / Vestapol Films / Ark Entertainment / The Y-House / Katsize Films

 キャスト:浅野忠信(深瀬昌久)、瀧内公美(深瀬洋子)、ホセ・ルイス・フェラー、古舘寛治(深瀬助蔵)、高岡早紀(南海)、池松壮亮(正田モリオ)

 

  

 

 

 

12)「Ruido」スペイン=メキシコ、2024年、85

 監督イングリデ・サントス・ピニョール(バルセロナ、デビュー作)、ESCACで学ぶ。イサベル・コイシェがプロデュースした短編「Beef」がバジャドリード映画祭2019で上映、マイアミ映画祭2020でイベロアメリカ部門の短編映画賞を受賞、ゴヤ賞2021短編映画部門にノミネートされている。 

 脚本:イングリデ・サントス、リュイス・セグラ

 製作Sábado Pelíclas / Playtime Movies / Filmin / La Corte 協賛 ICEC / ICAA

 キャスト:ラティファ・ドラメ(ラティ)、ジュディシュ・アルバレス・バルガス(ジュディ)、アサーリ・ビバン

  

   


 

 

13)「Sorda / Voslse」スペイン、2025年、100分、ベルリン映画祭2025パノラマ部門観客賞受賞作品

 監督脚本エバ・リベルタード(ムルシア州モリーナ・デ・セグラ1978、デビュー作)、マドリード・コンプルテンセ大学卒、監督、脚本家、社会学者。ヌリア・ムニョスと共同監督した短編「Sorda」(2118分)がゴヤ賞2023にノミネート、続く「Mentiste, Amanda」(16分)はメディナ・デル・カンポ映画祭2024で作品賞を受賞している。

 製作Distinto Films / Nexus CreaFilms / A Contracorriente Films 

キャスト:ミリアム・ガルロ(アンヘラ)、アルバロ・セルバンテス(エクトル)、エレナ・イルレタ、ホアキン・ノタリオ 

 

  



 

14)Todo lo que no sé」スペイン、2025年、113分 

 監督・脚本アナ・ランバリ・テリャエチェ(デビュー作)、バスク大学で美術を専攻した後、マドリード映画研究所で映画を学んでいる。

 製作Naif Films / 39 Escalones Films / The Other Film / Robot Productions

 キャスト:スサナ・アバイトゥア(ラウラ)、フランシスコ・カリル、ナタリア・ウアルテ、アネ・ガバライン、アンドレス・リマ、イニャキ・アルダナス 

  

  

 


 

15)Una quinta portuguesa」スペイン=ポルトガル、2024年、114分、

    ポルトガル語・スペイン語、字幕上映、スペイン公開202559日予定

 監督・脚本アベリナ・プラト(バレンシア1972、長編2作目)、監督、脚本家、大学では建築を専攻、デビュー作「Vasil」(22)は、ワルシャワ映画祭で上映され、バジャドリード映画祭ではカラ・エレハルデとイワン・バルネフが主演男優を受賞している。シネマ・ライターズ・サークル賞2023を受賞など受賞歴多数。フェルナンド・トゥルエバ、セスク・ゲイ、ハビエル・レボーリョなどの助手をしている。

 製作Distinto Films / O Som e a Fúria / Jaibo Films

 キャスト:マノロ・ソロ(マヌエル)、マリア・デ・メデイロス(アマリア)、ブランカ・カティック(オルガ)、リタ・カバソ(リタ)、イワン・バルネフ、ルイサ・クルス

 

    

  

★次回はアルゼンチン、ウルグアイ、メキシコなどイベロアメリカ映画をアップします。 


セクション・オフィシアル作品22作*マラガ映画祭2025 ③2025年03月18日 16:04

             ダニエル・グスマンの2作目「La deuda」がオープニング作品

 

             

 

★肝心の作品紹介が後手に回っていますが、スペイン製作とイベロアメリカ製作に分けて、今回はスペイン映画の紹介。タイトル、製作国、製作年、監督、製作、脚本家、上映時間、主なキャストなどを列挙します。本祭は新人の登竜門と位置づけされていますが、グラシア・ケレヘタやサンティ・アモデオのようなベテラン勢が増えている印象があります。

 

       28回マラガ映画祭2025セクション・オフィシアル作品

 

1)La deuda」スペイン=ルーマニア、2024年、115

 オープニング作品

 監督&脚本ダニエル・グスマン(マドリード1973,長編2作目)、デビュー作「A cambio de nada」がゴヤ賞2016新人監督賞ほかを受賞している。

 製作La Deuda AIE / Aquí y Allí Films / El Niño Producciones /

 キャスト:ダニエル・グスマン(ルカス)、イツィアル・オトゥニョ、スサナ・アバイトゥア、ロサリオ・ガルシア、ルイス・トサール、モナ・マルティネス、フランセスク・ガリード、フェルナンド・バルディビエソ 

 *主な紹介記事は、コチラ20150412

 

        

   

 

2)「El cielo de los animales」スペイン=ルーマニア、2024年、84

 監督&脚本サンティ・アモデオ(セビーリャ1969、長編7作目)

 製作Grupo Tranquilo PC / Cinelab

 キャスト:ラウル・アレバロ、マノロ・ソロ、ヘスス・カロサ、パウラ・ディアス、アフリカ・デ・ラ・クルス、クラウディオ・ポルタロ 

 

       

 

      

 

3)「Jone, Batzuetan / Jone, a veces」スペイン、2025年、80分、バスク語、スペイン語

 監督サラ・ファントバ(ビルバオ、デビュー作)

 製作Escac Studio / Escandalo Films / Amania Films / ECPV

 脚本:サラ・ファントバ、ヌリア・マルティン、ヌリア・ドゥンホ

 キャスト:オライア・アグアヨ、ジョセアン・ベンゴエチェア

  

              

 

   

 

4)「La buena letra」スペイン、2024年、110

 監督&脚本セリア・リコ・クラベリーノ(セビーリャ1982、長編3作目)、第1作「Viaje al cuarto de una madre」がゴヤ賞2019新人監督賞にノミネートされた。 

 製作Mod Producciones / Misent Producciones / Arcadia Motion pictures 

 キャスト:ロレト・マウレオン、エンリク・アウケル・サルダ、ロジェール・カザマジョール、アナ・ルハス、ソフィア・プエルタ、テレサ・ロサノ

 紹介記事は、コチラ20190106

   

      

     

 

 

5)La buena suerte」スペイン、2024年、90

 監督グラシア・ケレヘタ(マドリード1962、長編10作目)、「Siete mesas de billar francés」でサンセバスチャン映画祭2007脚本賞、「15 años y un día」でマラガ映画祭2013金のビスナガ作品賞と銀のビスナガ脚本賞を受賞。

 脚本:グラシア・ケレヘタ、マリア・ルイス

 製作Tornasol Media / Arlas Producciones Cinematograficas AIE / Trianera Producciones Cinematograficas AIE

 キャスト:ウーゴ・シルバ、メガン・モンタネル、ミゲル・レリャン、エバ・ウガルテ、イスマエル・マルティネス(パブロ)、パキ・オルカホ、アルバル・リコ、チャニ・マルティン、ジョセアン・ベンゴエチェア、ダニエル・ビタリェ

主な紹介記事は、コチラ20160705

   

      

    

 

 

6)La furia」スペイン、2025年、107分、カタルーニャ語、スペイン語(字幕上映)

 監督ジェマ・ブラスコ(バルセロナ、デビュー作)

 脚本:ジェンマ・ブラスコ、エバ・パウネ

 製作Ringo Media / RM Pelicula AIE

 キャスト:アンヘラ・セルバンテス(アレックス)、アレックス・モネール(アドリアン)、エリ・イランソ、カルラ・リナレス、ビクトリア・リベロ、サリム・ダプリンセ、パウ・エスコバル、アナ・トレント

 

      

   

 

★既に第1回めの上映が終わっています。以下次回に続く。


アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥2025年01月15日 14:41

        実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

 

   

      (主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)

 

アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。

『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ20180513

   

      

    (ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)

 

★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。

 

La infiltrada」(英題「Undercover」)

製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures / 

   Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory    Entertainment / Movistar Plus + / ICAA

監督:アランチャ・エチェバリア

脚本:アメリア・モラアランチャ・エチェバリア

   (オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス

撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス

音楽:フェルナンド・ベラスケス

編集:ビクトリア・ラメルス

録音:マイテ・カブレラファビオ・ウエテホルヘ・カステーリョ・バリェステロス

   ミリアム・リソン

キャスティング:テレサ・モラ

メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ

       (ヘアー)トノ・ガルソン

プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス

特殊効果:マリアノ・ガルシアジョン・セラーノフリアナ・ラスンシオン

製作者:メルセデス・ガメロBFSマリア・ルイサ・グティエレスBowfingerパブロ・ノゲロレスアルバロ・アリサ

(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024930日、サラゴサ101日、スペイン一般公開1011

  

映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)

 

キャストカロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数

 

ストーリー1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

   

       

               (ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

   

       

        (潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)

 

          実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像

 

アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998916日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。

 

      2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス

 

★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。

 

★プロデューサーとはBowfinger International Picturesマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

    

   

      (ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)

 

BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。

 

★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。

 

        潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?

 

★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。

 

★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。

  

★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。

 

キャスト紹介カロリナ・オルテガ・ジュステ1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。

  

       

     

      (アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、La infiltradaから)

 

★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞サンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

   

     

   (フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)

 

★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。

Saben aquell」の紹介記事は、コチラ20231230

Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ20220801

El Cover」の紹介記事は、コチラ20210518

Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ20200822


最多ノミネーションの「El 47」*ゴヤ賞2025 ④2024年12月28日 16:59

          マルセル・バレナとエドゥアルド・フェルナンデスの再タッグ!

  

      

 

★作品賞最有力候補「El 47」のマルセル・バレナは、前作「Mediterráneo」(21)の監督です。オスカル・カンプスというライフガードをモデルにした実話、地中海を横断するアフリカ難民を救助する人道支援組織NGOオープン・アームズの設立者、カンプスにエドゥアルド・フェルナンデスが扮した。バレナは新作にもフェルナンデスを起用している。舞台は1970年代のバルセロナ郊外トーレ・バロ、1950年代~60年代から移住が始まった地区、スペインでも最も貧しい州といわれるエストレマドゥーラやアンダルシアからの移住者が多いバリオである。彼らの家には水道も電気もありません。バルセロナ当局は市の一部と認めていないのでした。市の対応にうんざりした勇気ある住民たちの怒りが発端でした。前世紀の草の根運動の物語ながら今日的なテーマでもある。

 

★前作「Mediterráneo」はゴヤ賞とフォルケ賞の作品賞、男優賞にノミネートされましたが、ゴヤ賞はプロダクション・撮影・オリジナル歌曲賞の3賞、フォルケ賞は受賞できなかった。新作「El 47」は、去る1214に既に結果発表のあったフォルケ賞で作品賞に輝いた。他に映画と価値観教育賞もゲット、男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスが受賞したが、こちらはアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」出演でした。

Mediterráneo」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20211213

   

      

   (作品賞受賞スピーチをするマルセル・バレナ、フォルケ賞2024ガラ、1214日)

 

 

El 47

製作: MediaPro Studio / 3Cat / ICEC / ICO / Movistar Plus/ RTVE / Triodos Bank

監督:マルセル・バレナ

脚本:マルセル・バレナ、アルベルト(ベト)・マリニ

音楽:アルナウ・バタリェル(作曲)、バレリア・カストロ(歌曲)

撮影:アイザック・ビラ 

編集:ナチョ・ルイス・カピリャス

美術:マルタ・バザコ、クララ・ロセル・アベリョ

衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツェ・オルテス 

メイクアップ&ヘアー:カルロ・トルナリア

視覚効果:ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス

キャスティング:アンドレス・クエンカ、ルイス・サン・ナルシソ

プロダクション:カルロス・アポリナリオ

製作者:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ、(エグゼクティブ)コンシャ・オレア、オリオル・サラ=パタウ(3Cat)、エバ・ガリード、他多数

 

データ;製作国スペイン、2024年、カタルーニャ語、スペイン語、ドラマ、実話、110分、撮影地バルセロナのカタルーニャ広場、バルセロナ市庁舎、トーレ・バロ近郊、期間20236月末~7月、配給A Coontracorriente Films、公開202496日、封切り1週間で€240.000を超えるヒット作、海外を含めた興行成績は、IMDb情報で3,278,603ドル

 

映画祭・受賞歴:第30回ホセ・マリア・フォルケ賞2024作品賞(フィクション長編映画)、主演男優賞映画と価値観教育賞を受賞、第17回ガウディ賞2025、作品賞(カタルーニャ語映画)、監督・脚本・俳優賞など18部門ノミネート、第12回フェロス賞2025、脚本・助演女優(クララ・セグラ)・オリジナル・サウンドトラック賞の3部門ノミネート、第4回カルメン賞2025、作品賞(ノン・アンダルシア・プロダクション部門)ノミネート、第39回ゴヤ賞2025、作品賞以下14部門ノミネート

 

キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(マノロ・ビタル)、クララ・セグラ(妻カルメン)、ゾエ・ボナフォンテ(娘ジョアナ)、サルバ・レイナ(フェリピン)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(アントニオ)、カルロス・クエバス(パスクアル)、ベッツィ・トゥルネス(アウロラ)、ビセンテ・ロメロ(オルテガ)、ダビ・ベルダゲル(セラ)、ボルハ・エスピノサ(エル・ルビオ)、カルメ・サンサ(ビラ夫人)、アイマル・ベガ(ジョセップ)、フランセスク・フェレル(弁護士)、ロロ・エレーロ(マティアス)、エバ・アリアス(フェリ)、マリア・モレラ(マル)、エレナ・フォルチュニー(合唱団指導者)、カルロス・オビエド(ペドリート)、フアン・オリバーレス(エレナ神父)、他トーレ・バロ地区のエキストラなど多数

 

ストーリー:バルセロナ1978年、トーレ・バロ地区のコミュニティ住民は、水道も電気もない生活にうんざりしている。バルセロナ市議会は公共交通機関の運行はできない、何故なら道路があまりに狭すぎる坂道て安全運行ができないと主張する。彼らの隣人の一人でバルセロナ交通局のバス運転手マノロ・ビタルは、当局の主張はウソで間違っていると、路線バス47番の車両をハイジャックしてデモを行おうとする。トーレ・バロはスペイン内戦を経て故郷を離れざるを得なかったエストレマドゥーラやアンダルシアの移民たちが作ったコミュニティ、彼らが受けた侮蔑と差別に激怒した男マノロ、ハイジャックした47番バス、そしてバリオの住民たちの運命や如何に? 実話にインスパイアされた市民参加型の草の根運動が語られる。

 

20235月、制作会社メディアプロがバルセロナ近郊のトーレ・バロで、マルセル・バレナの「El 47」のエキストラ募集をすると発表した。6月末にクランクイン、7月中に撮影は終了した。約半世紀前の話とはいえ、現在世界中で起きている移民問題を考えると、きわめて今日的なテーマとも言えます。暗いニュースの多かったスペインでは庶民は元気のでるポジティブな映画を求めている。そういう意味ではプラスにはたらくだろう。ただエモーショナルな作品には違いないが結末は想定内だから、それがどう評価されるかです。下馬評では演技力のあるキャスト陣を揃えたこともあって評価は高い。

 

★事の発端は197857日に起きた。マノロ・ビタル19232010)は路線バス47番をトーレ・バロ地区まで走らせた。1978年という年は、フランコ将軍の死去(197511月)にともない、約40年間に及ぶ独裁体制が終わりを告げた民主主義移行期にあたる。スアレス率いる民主中道連合UCA政権時代で、1982年ゴンサレス率いる社会労働党PSOEが政権をとる4年前にあたる。本作に出演するカルロス・クエバス扮するパスクアルは、1982年から1997年までバルセロナ市長を務めたパスクアル・マラガル(バルセロナ1941)、カタルーニャ労働者戦線の活動家にして反フランコ運動の人民解放戦線に参加している人物。本作を観たマラガルの家族は感動したと語っている。クエバスの演技は称賛されているが、残念ながらノミネートされなかった。

        

                        

                       (カルロス・クエバス扮するパスクアル)

   

      

     (左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カルロス・クエバス、バレナ監督)

 

★マルセル・バレナ監督のキャリア&フィルモグラフィーは、前作「Mediterráneo」に譲ります。ゴヤ賞2025のノミネートは14カテゴリーと多数のためスタッフ陣については受賞発表後に予定し、キャストのうちマノロ・ビタルの妻カルメン役のクララ・セグラ(助演女優賞)と娘ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ(新人女優賞)を紹介しておきます。

     

      

              (モデルになったマノロ・ビタル)

 

★マノロ・ビタル役のエドゥアルド・フェルナンデスは本作でのノミネートはなく、別作品「Marco」でのノミネートです。先述した通りフォルケ賞を受賞したばかりです。ゴヤ賞ノミネートは14回という常連さん、うちアレックス・オレの「Faust 5.0」で2002主演男優賞、セスク・ゲイの『イン・ザ・シティ』で2004助演男優賞、アメナバルの『戦争のさなかで』で2020助演男優賞と3賞している。ほかにアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』ではサンセバスチャン映画祭2016の銀貝男優賞を受賞している。ノミネート作品を列挙すると21世紀のスペイン映画史になるほどです。タッグを組んだ監督には上記の他、マリアノ・バロッソ、ビガス・ルナ、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、アルモドバル、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、マルセロ・ピニェイロ、ダニエル・モンソンなどなどです。

Marco」紹介記事は、コチラ20240903

『スモーク・アンド・ミラーズ』紹介記事は、コチラ20160924

『戦争のさなかで』の主な紹介記事は、コチラ20191126

 

      

         (路線バス47番の運転手マノロ・ビタル、フレームから)

  

       

     (トロフィーを手にしたフェルナンデス、フォルケ賞2024男優賞ガラ)

 

クララ・セグラ・クレスポ1974年バルセロナ生れ、映画、TV ,舞台女優、脚本家。アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で初登場、尊厳死を法的に支援する尊厳死協会の職員ジュネ役だった。脇役だが字幕入りで見ることのできる作品が結構多い。例えば東京国際映画祭2008ナチュラルTIFF部門で上映された『フェデリコ親父とサクラの木』(原題「Cenizas del cielo」)、ギレム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、ガウディ賞2017助演女優賞ノミネートのマルセル・バレナの『100メートル』、同じくガウディ賞ノミネートのオリオル・パウロの『嵐の中で』(18)、ダニ・デ・ラ・オルデンの『クレイジーなくらい君に夢中』(21)など。

 

★ほかにフォルケ賞2021の映画と価値観教育賞を受賞したダビ・イルンダインの「Uno para todos」(20)に出演、本作でもクレジットされているダビ・ベルダゲルベッツィ・トゥルネスと共演している。最近ではエレナ・マルティンの「Creatura」でガウディ賞2024助演女優賞を受賞している。ガウディ賞ではマル・コルの「Tots volem el millor per a ella」(13)にノラ・ナバスと共演、ナバスが主演女優賞、セグラが助演女優賞を受賞している。

       

     

         

         (夫婦役を演じたフェルナンデスとセグラ、フレームから)

 

★ゴヤ賞は、昨年の「Creatura」でノミネートされているので今回が2回目になります。そのほかガウディ賞とフェロス賞にノミネートされている。さらにゴヤ賞2025作品賞にノミネートされている、ダニ・デ・ラ・オルデンのカタルーニャ語映画「Casa en Flames / Casa en llamas」に再び起用されている。こちらの作品もガラまでには紹介記事を予定しています。

Creatura」の作品紹介は、コチラ20230522

Uno para todosの作品紹介は、コチラ20200416

ダビ・ベルダゲルとベッツィ・トゥルネスのキャリア紹介は、コチラ20200416

      

       

         (ノラ・ナバスとクララ・セグラ、ガウディ賞2014ガラ)

 

ゾエ・ボナフォンテ2004年バルセロナ生れ、女優。長寿TVシリーズ「Amar es para siempre」(201324)でスタートを切る。2022年に42話出演している。ほかに「Escándalo, relato de una obsesión」(238話)に出演、本作で映画デビュー、ゴヤ賞のほかガウディ賞にもノミネートされているシンデレラガール。来年にはオルガ・オソリオの「El secreto del orfebre」でマリオ・カサスやミシェル・ジェンナーと共演する。評価はこれからです。

   

        

      

          (ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ、フレームから)

 

      

    (フェルナンデスやセグラと一緒にインタビューを受けるボナフォンテ、95日)

 

★数ある秋の映画祭のどこにも出品せず、いきなり劇場公開という珍しいケースがゴヤ賞でどこまで票を集められるか興味がわきます。上記のように第17回ガウディ賞はカタルーニャ語部門18カテゴリー、フェロス賞は3部門がノミネートされています。ガウディ賞は受賞間違いなしですが、ゴヤ賞はバルセロナ派のアカデミー会員は少ないのでフォルケ賞のようにはいかないか。


メイド・イン・スペイン部門クロージング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉒2024年09月17日 17:16

        197524日、マドリードの全劇場の幕は揚がらなかった!

 

    

 

★メイド・イン・スペイン部門のクロージング作品、アルバ・ソトラのドキュメンタリー「Mucha mierda / Break a Leg」は、フランコ政権下末期の197524日に、スペインの俳優たちが初めてストライキに立ち上がった闘いの記録です。ストライキ参加者へのインタビュー、アーカイブ、映画の抜粋を織り交ぜ9日間の闘いが語られる。来る2025年は50周年記念の年、8名の逮捕者を出した28日は、奇しくも39回ゴヤ賞2025の授賞式に当たる。フランコ将軍が七転八倒のすえ他界したのは、同じ年の1120日の明け方でした。

 

 「Mucha mierda / Break a Leg

製作:David Lara Films / Quexito Films /  協賛ICAA 参画マドリード市議会、

   モビスター+、RTVE

監督:アルバ・ソトラ

脚本:アルバ・ソトラ、ダビ・アルナンス

撮影:イレネ・ガルシア・マルティネス

編集:エレナ・カストロビエホ

音楽:フェルナンド・バカス・ナバロ

録音:フリアン・バケラ

製作者:ダビ・ララ、ミゲル・ゴンサレス、ファミリアル・ヒメネス・アバド、(エグゼクティブ)モンセラット・サンチェス

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、84

映画祭・受賞歴SSIFF2024メイド・イン・スペイン部門クロージング作品

 

キャスト:アナ・ベレン、ティナ・サインス、ホセ・サクリスタン、マヌエラ・ベラスコ、マリサ・パレデス、カロリナ・ジュステ、ペトラ・マルティネス、フアン・マルガーリョ、ロシオ・ドゥカル、フアン・ディエゴ


解説197524日、マドリードのどの劇場でも幕が揚がりませんでした。ドアに貼られたポスターには「俳優が出演しないため公演は中止」と書かれていました。この日は俳優による歴史的なストライキの初日で、以来9日間国内は活動が麻痺状態になりました。彼らの要求は「法律で定められている通り、週1日の休日」というものでした。サラ・モンティエルやロラ・フロレスがストライキを支持すると、労働者の権利の要求で始まったものが、政治的挑発に変化した。報道規制にもかかわらず、このニュースは世界中に広まり、彼らは80ヵ国以上から支援の電報を受け取った。政治社会担当部署の担当者がストライキ参加者のあいだに潜入し首謀者をあぶり出し、固い団結を粉砕した。28日に逮捕された8人のなかには、ティナ・サインス、ロシオ・ドゥカルが含まれている。他に最前線でキャリアや自由を危険にさらした参加者には、コンチャ・ベラスコ、アナ・ベレン、フアン・ディエゴ、ホセ・サクリスタンなどがいた。本作は今まで語られることのなかった、主人公たちによって語られた物語です。勿論検閲などありません。

    

   

                  (アナ・ベレン)

 

★高い代償を払ったキャストのなかにはフアン・ディエゴ20224月没)のように鬼籍入りしてしまった俳優も多い。左派の政治活動で知られる彼は、この俳優ストライキの組織化に主導的な役割を果たしている。反対にコンチャ・ベラスコの姪マヌエラ・ベラスコ1975生れ)のようにまだ産声を上げていなかった人もいる。コンチャは202312月に10年前から闘っていたリンパ腫で亡くなったが、女優として2013年にゴヤ栄誉賞を受賞した人らしく最後まで現役に拘った女優でした。ゴヤ賞2022栄誉賞の受賞者ホセ・サクリスタン86歳になっても現役を続けている。ペトラ・マルティネスフアン・マルガーリョは夫婦揃って出演、ペトラ・マルティネスはマリサ・パレデスと一緒に本作紹介のため現地入りがアナウンスされている。

 

    

                (マリサ・パレデス)

 

      

               (ペトラ・マルティネス)

   

監督紹介アルバ・ソトラ(カタルーニャ州タラゴナ県レウス1980)は、監督、脚本家、製作者。ドキュメンタリー「Game Over」がマラガ映画祭2015ドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナでニュータレント賞、ガウディ賞2016ドキュメンタリー賞などを受賞、「The Return: Life After ISIS」(21)は、10代でイスラム国に入った女性たちが、その後自国への帰還を希望するが、故国は彼女たちを拒絶する背景を語るドキュメンタリー、ワルシャワFFドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナ観客賞ほか、ガウディ賞2022受賞、ゴヤ賞2022はノミネートに終わった。製作者としては、当ブログ紹介のアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスのヒット作「Upon Entry」(22)、カルラ・スビラナの「Sica」(23)などを手掛けている。

   

   

               (アルバ・ソトラ監督)

 

★本作について監督は、「ストライキがどのように捏造されたか、警察の監視、政権の暴力的な反応、ストライキの国際的側面、抵抗勢力に供給された資金の出所を伝えます」。また「女性のリーダーシップ、刑務所と過酷な報復についても語ります」とインタビューに応えている。労働者と雇用主が同じ組合に所属しており、俳優たちは劇場オーナーの言いなりにならざるを得なかった。「この闘いの遺産は生き残っていますが、もっとも重要なことは、何年も仕事が貰えなかった人もいたということで、今日でもそれは尾を引いている」と監督。

   

  

       (問題作「The Return: Life After ISIS」のポスター)

 

Upon Entry」の作品紹介は、コチラ20230701

Sica」の作品紹介は、コチラ20230312


メイド・イン・スペイン部門オープニング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉑2024年09月15日 13:37

          夭折の作家ルイス・マルティン=サントスを巡る旅

 

      

 

メイド・イン・スペイン部門のオープニング作品に選ばれたジョアン・ロペス=リョレトの「Tiempo de silencio y destrucción」は、夭折の作家で高名な精神科医、政治活動家でもあったルイス・マルティン=サントス192464の人生と作品を巡るドキュメンタリー。今年が生誕100周年、死後60年に当たる。映画のタイトルは、1961年、多かれ少なかれ検閲を受けながらもセイクス・バラル社から出版された小説 Tiempo de silencio と交通事故による急死で未完に終わった遺作 Tiempo de destrucción 1975刊)から採られている。

    

        

              (ルイス・マルティン=サントス)

  

     

 Tiempo de silencio y destrucción

製作:Imposible Films

監督:ジョアン・ロペス=リョレト

脚本:ジョアン・ロペス=リョレト、ヌリア・ビダル

撮影:ジョアン・ロペス=リョレト

編集:ルぺ・ぺレス・ガルシア、メリ・コリャソス・ソラ

音楽:ロジャー・パスト

録音:ロジャー・ソレ、ビクトル・トルト

製作者:マルタ・エステバン・ロカ

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、60分、撮影2023年、配給フィルマックスFilmax

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門オープニング作品

キャスト:ルイス・マルティン=サントス・リベラの長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォン、同長女ロシオ

解説1964121日、小説 Tiempo de silencio の著者ルイス・マルティン=サントスは、マドリードからの帰途、バスク自治州のビトリアで悲劇的な交通事故で亡くなりました。事故から60年、生誕100周年を迎えるにあたり、私たちは作家の子供たちルイスとロシオを追って、作家で高名な精神科医、彼を変えた作品の背後にいる人物を再構築するための航海に出ます。マルティン=サントスの人物像、戦後スペインに対する彼独特の視点、部分的に未発表のテキストに基づいて長いあいだ隠されてきた作品を巡る旅になります。

    

         

        (コロナ・パンデミック中に資料収集をしたルイスとロシオ)

    

 

     ルイス・マルティン=サントスの Tiempo de silencio はどんな小説?

 

★ルイス・マルティン=サントス生誕100周年を記念して今年行われる活動の一つは、一部未発表の原稿を含む作品の再発行(全集6巻)、中国語への翻訳、今回オープニング作品に選ばれることになったドキュメンタリー製作、スペイン国立図書館での展覧会などである。作家の長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォンによると、全集には「文学の分野だけでなく、精神医学の研究、後に民主主義に繋がる反フランコ主義への政治観」が含まれる。フランコ没後の1980年に出版された16版が決定版。

 

★ルイス・マルティン=サントス・リベラは、19241111日、当時モロッコのスペイン保護領だったララシュで生まれた。1929年軍人だった父親の次の赴任地サンセバスティアンに移った。医学はサラマンカで学び、1946年卒業、1949年マドリードで博士号取得、1950年ドイツ留学、翌年サンセバスティアン精神療養所の院長に就任、1953ロシオ・ラフォンと結婚、3児に恵まれた。反フランコ主義への政治観により、19563月パンプローナ、195811月にマドリードで逮捕され、カラバンチェル刑務所に収監されている。

 

1964120日午後、マドリードからサンセバスティアンに向かう途中、ビトリア近郊でトラックに衝突、翌日運び込まれた病院での手術中に亡くなった。前年嗅覚障害のあった妻ロシオ・ラフォンがガス漏れに気づかず33歳の若さで亡くなっており、後にはロシオ、ルイス、フアン・ペドロの3人の子供が残された。当時5歳だったというルイスには父親についての記憶は少ないが、コロナ感染のパンデミック中にさまざまな場所を旅してきた箱を開け、保存されていた多くの未発表の原稿を通じて、父親が「非常に活動的で創造的な多才な人であったことを再確認した」と語っている。家庭内ではとても楽しい人で、ユーモアのセンスのある人だったことを強調している。

    

          

             (在りし日のマルティン=サントス一家)

 

1961年に初めて出版された Tiempo de silencio は、20世紀のスペイン文学の流れを変えたと称される小説。作家のエンリケ・ビラ=マタス(バルセロナ1948)によるプロローグが付された記念版が刊行された。「戦後の道徳的悲惨さを偉大な才能で描いた」作家の作品と称される。

 

★スペイン内戦語の1949年のマドリードが舞台、若い医学研究者ペドロは、鼠径部腫瘍を発症する系統のマウスが枯渇したことで癌研究が中断されるのを目の当たりにする。研究室の助手アマドールがマウスの標本を親戚のムエカスと呼ばれる犯罪者に渡しており、彼が郊外の掘っ立て小屋で繁殖させていることを知る。ペドロは首都の裏社会に接触したことで地獄への門をくぐることになる。これは小説の導入部を述べただけで、その後の展開は複雑で、ジェイムズ・ジョイスが開拓した「意識の流れ」の影響を受けている。内なるモノローグ、時間と物語の声、自由な間接的なスタイルと、当時の写実主義的な言語を刷新したと評価されている。1986年、ビセンテ・アランダが導入部を切りとって映画化したが、評価は毀誉褒貶入り混じっている。ペドロにイマノル・アリアス、ムエカスにパコ・ラバル、ビクトリア・アブリル、チャロ・ロペスなど人気俳優が共演している。 

 

監督紹介ジョアン・ロペス=リョレトは、1969年バルセロナ生れ、ドキュメンタリー作家、脚本家、撮影監督。現在のESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で撮影監督、1988年から2年間CEEC(カタルーニャ映画研究センター)で映画監督を学び、テレビ、映画、広告業界で働いている。2004年、リサイクル素材で操り人形や器械器具の世界を作り出した2人のアーティストの秘密の世界を描いた長編ドキュメンタリー「Hermanos Oligor」でマラガ映画祭2005観客賞、バルセロナ・ドクポリスFFの作品賞、観客賞他を受賞、その名を世界に馳せました。

   

     

            (デビュー作「Hermanos Oligor」から)

 

★翌年、ニカラグア革命の夢を従属的な声で解体した「Utopia 79」(06)、北アイルランドの和平プロセスにおける2人の前科者の物語「Sunday at Five」(07)、マジョルカ出身の歌手マリア・デル・マル・ボネットの生涯を描いた「Maria del Mar」(18)、「Familia, no nuclear」(19)など、忘れられがちな人物に声を与えている。

   

       

               (ジョアン・ロペス=リョレト)