閉幕作品は「200 vidas, Paco Rabal」*サンセバスチャンFF26 ⑯ ― 2026年09月17日 12:10

     クロージング作品はバネサ・ベニテスの「200 vidas, Paco Rabal」

 

    

 

★オープニング作品もスペイン初公開のノンフィクションでしたが、バネサ・ベニテスの「200 vidas, Paco Rabal」は、世界初公開です。メイド・イン・スペイン部門を締めくくる映画がスペイン未公開というわけです。本作は俳優パコ・ラバル(ムルシア県アギラス1926~2001)の生誕100周年、没後25周年を記念して製作されました。半世紀に及ぶ俳優人生でクレジット無しを含めると映画データバンクには218本、タッグを組んだ監督には、ルイス・ブニュエル、ミケランジェロ・アントニオーニ、カルロス・サウラ、ペドロ・アルモドバル、クロード・シャブロル、ルキノ・ヴィスコンティなどなど、スペインに止まらず国際的に活躍した俳優でした。

 

  

(ルイス・ブニュエルの『ナサリン』から)

 

    

      (「おじさん」と慕っていたブニュエルとのツーショット)

 

 

★ベニテス監督は、1980年アンダルシアのセビーリャ県南部のオスナ生れ、監督、脚本家。ドキュメンタリー「La vida chipén」がゴヤ賞2023オリジナル歌曲賞(「Un paraíso en el sur」)に作曲家のパロマ・ペニャルビアとノミネート、他にカルメン賞2023などにノミネートされている。TVシリーズを数多く手がけていますが、2017年の「Rota n’Roll」は、スペイン内戦後の農村ロタにソ連の脅威を抑えるため、ヨーロッパ最大のアメリカ軍基地が建設された歴史ドキュメンタリーです。

 

   

                          (バネサ・ベニテス監督)

 

     

         (ドキュメンタリー「La vida chipén」のポスター)

  

 

「200 vidas, Paco Rabal / 200 Lives, Paco Rabal」(仮題「」)

製作:MLK Producciones / Horizon Media / Plan B et Compagnie / Monstro Films

      協賛:RTVE / Canal Sur Radio y Televisión / La 7 Television / Movistar Plus

監督・脚本:バネサ・ベニテス

音楽:クルド・ピメント

撮影:セサル・エルナンド、フアン・アルフォンソ・モレノ

編集:レナート・サンフアン

サウンド:ホルヘ・マリン

製作者:(MLK Produccionesスペイン)ホセ・アントニオ・エルゲタ、(Horizon Media スペイン)ホセ・エヘア、カルロス・ベルモンテ

共同製作者:(Plan B et Compagnieフランス)セクリエ・マエストロ・シャブロル、パスカル・ラフマニ、(Monstro Filmsメキシコ)モニカ・ロサノ、イーモン・オファリル

 

データ:製作国スペイン=フランス=メキシコ、2026年、ドキュメンタリー、歴史、ビオピック、俳優パコ・ラバルの映画アドベンチャー、スペイン語・英語・フランス語、95分

  

出演:(アーカイブ映像)フランシスコ・ラバル、ルイス・ブニュエル、フェルナンド・レイ、カルロス・サウラ、フアン・アントニオ・バルデム、ジュリアノ・モンタルド、アスンシオン・バラゲル(女優、ラバルの妻)、ルイス・エスコバル、ヌリア・エスペルト

(出演)アルトゥーロ・リプスタイン(監督)、ゴンサロ・スアレス(監督)、ロベルト・フィエスコ(メキシコの製作者・監督)、エンリケ・セレソ(製作者)、アンドレス・ビセンテ・ゴメス(製作者)、フェルナンド・メンデス=レイテ、(以下俳優)ビクトリア・アブリル、アナ・ベレン、ホセ・サクリスタン、ヒネス・ガルシア・ミリャン、エウラリア・ラモン、ソニア・グランデ、ミゲル・エルモソ、セシル・メストル(フランスの女優・助監督)、ラファエル・アルバレス ’エル・ブルホ’(「フンカル」89で共演)、アントニオ・サウラ(製作者、サウラの子息)、ベニト・ラバル(ラバルの子息、短編「Paco, Mi padre」の監督)、他多数

  

解説:パコ・ラバルの声のカセット録音やフランコ時代の二枚目俳優として政治的関与にもかかわらず、すぐさま駆けつけたツアー、撮影、フェスティバルのイベントのスーパー8ミリフィルムを通して、彼は自身の人生、後悔、矛盾を見直します。彼が幾度か演じたゴヤのように、ボルドーでの死の瞬間を連想させる印象的なフィルムがあります。本祭では、ラファエル・ヒル、ルーカス・デマレ、レオン・クリモフスキー、ペドロ・オレア、ハイメ・デ・アルミリャンなどの監督たちと成功を収めました。第1回サンセバスチャン映画祭1953男優賞、ドノスティア栄誉賞2001の受賞者です。

 

    

                (SSIFF2026公式ポスター)

 

★サンセバスチャン映画祭1953での男優賞受賞は、フランシスコ・ロビラ・ベレタの「Hay un camino a la derecha」主演でした。船員を解雇されて生きるために強盗を計画する労働者の話で、当時のスペインの貧困、痛み、苦悩が語られ、妻を演じたフリア・マルティネスも女優賞を受賞しています。カルロス・サウラの「Goya en Burdeos」(99、『ゴヤ』)は、ボルドーでのゴヤの晩年を描いている。ラバルは翌年のゴヤ賞で主演男優賞を初めて受賞、200作以上も出演していながら受賞は死の前年の1回限りでした。キャリア&フィルモグラフィーは『無垢なる聖者』で紹介しております。またマリオ・カムスの『蜂の巣』では、ビクトリア・アブリル、アナ・ベレン、ルイス・エスコバル、ホセ・サクリスタンなどが共演している。アブリルとは『アタメ』や「Tiempo de silencio」でも共演している。

 

   

   (アルバ公爵夫人役マリベル・ベルドゥ、ゴヤに扮したラバル、『ゴヤ』から)

      

      

               (トンビのヒナとパコ・ラバル、『無垢なる聖者』から)

   

    

        (死が分かつまで連れ添ったラバルとアスンシオン・バラゲル)

 

 ◎フランシスコ・ラバルの主なフィルモグラフィー

1952「Sol intrepida」主演、監督ラファエル・ヒル

1953「Hay un camino a la derecha」主演、監督フランシスコ・ロビラ・ベレタ

   SSIFF1953男優賞受賞

1953「La guerra de Dios」主演、監督ラファエル・ヒル(SSIFFグランプリ受賞)

1958「La noche y el alba」主演、監督ホセ・マリア・フォルケ

1959「Nazarin」『ナサリン』(メキシコ)主演、監督ルイス・ブニュエル、

   原作ベニト・ぺレス・ガルドス、カンヌFF公式上映、国際賞受賞

1959「Sonatas」(メキシコ合作)主演、監督フアン・アントニオ・バルデム、

   原作ラモン・デル・バジェ=インクラン、ベネチアFF正式出品

1960「Trio de damas」コメディ、主演、監督ペドロ・オレア

1961「Virideana」『ビリディアナ』(メキシコ合作)助演、監督ルイス・ブニュエル、

   カンヌFFパルムドール共同受賞

1962「L'Eclisse」『太陽はひとりぼっち』(イタリア=フランス)助演、

   監督ミケランジェロ・アントニオーニ、カンヌFF特別審査員賞受賞

1966「La Religieuse」『修道女』(フランス)助演、監督ジャック・リベット、

   原作ドニ・ディドロ

1967「Belle de jour」『昼顔』(フランス=イタリア)助演、監督ルイス・ブニュエル、

   原作ジョセフ・ケッセル

1970「Cabezas cortadas」『切られた首』(ブラジル合作)主演、監督グラウベル・ローシャ

1971「Goya, historia de una soledad」主役ゴヤ、監督ニノ・ケベド、カンヌFF出品

1976「Las laegas vacaciones del 36」『1936年の長い休暇』助演、監督ハイメ・カミーノ

1977「Sorcerer」『恐怖の報酬』(米国)主演、監督ウイリアム・フリードキン、

   原作ジョルジュ・アルノー(1953アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの同名作品がある)

1978「Cosi come sei / Asi como eres」『今のままでいて』(イタリア合作)助演

   監督アルベルト・ラットゥアダ

1978「Corleone」『白熱マフィア戦争/皆殺しの構想』(イタリア)主演、

   監督パスクアレ・スクイティエリ

1982「La colmena」『蜂の巣』出演、監督マリオ・カムス、原作カミロ・ホセ・セラ

1984「Los santos inocentes」『無垢なる聖者』主演、監督マリオ・カムス、

   原作ミゲル・デリーベス、カンヌFF主演男優賞をアルフレッド・ランダと受賞

1985「Tiempo de silencio」主演、監督ビセンテ・アランダ

1985「Padre nuestro」『わが父 パードレ・マエストラ』主演、監督フランシスコ・レゲイロ

   カンヌFF「ある視点」出品

1989「¡ Atame !」『アタメ』助演、監督ペドロ・アルモドバル、ゴヤ賞助演男優賞ノミネート

1989「Barroco」『バロック』(メキシコ、キューバ合作)主演、監督ポール・ルデュク、

   原作アレホ・カルペンティエル

1997「Pajarico」『パハリーコ―小鳥―』助演、監督カルロス・サウラ

1999「Goya en Burdeos」『ゴヤ』主演、監督カルロス・サウラ、ゴヤ賞主演男優賞受賞

   

1984年、映画国民賞受賞

1999年、スペイン芸術功労賞金のメダル受賞

2001年、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞受賞  

 

★今回ラバルが出演した公開作品を検索したところかなりの数がありましたが、必ずしも代表作というわけではなく取捨選択しました。1940年代はクレジット無しも多い。以上は字幕入りで鑑賞できる作品を中心にして、管理人が恣意的に選んだフィルモグラフィーです。ゴチック体タイトルは当ブログに作品紹介があります。

*『ビリディアナ』の作品紹介は、コチラ⇒2020年05月29日

*『無垢なる聖者』の作品 & ラバルのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年03月10日~03月11日

  

特別上映(アウト・オブ・コンペティション)*サンセバスチャンFF26 ⑤ ― 2026年07月30日 18:49

    特別上映部門に『雪山の絆』その後を追ったドキュメンタリー・シリーズ

 

    

          (TVシリーズ「Más allá de la sociedad」ポスター)

 

★賞に絡まないアウト・オブ・コンペティションですが、特別上映が充実しています。まず『雪山の絆』(原題「La sociedad de la nieve」)を手がけた J.A.バヨナが創案、カルロス・トーレスが監督したドキュメンタリー「Más allá de la sociedad」(TVシリーズ3話、150分)、本作はベネチア映画祭2023アウト・オブ・コンペティションのクロージングでワールドプレミアされ、サンセバスチャン映画祭ではペルラス部門で上映され、サンセバスティアン市観客賞を受賞した。さらに翌年のゴヤ賞では作品賞以下12冠、オスカー賞にもノミネートされた作品です。そのほか『プリズン211』のダニエル・モンソンの「Ruega por nosotras / Pray for Us」、3年ぶりにサンセバスチャンに戻ってきたフェルナンド・トゥルエバの「Bajañí」など長編4作が上映されます。まだ断片的な情報しか入手できておりませんが、カルロス・トーレスの「Más allá de la sociedad」を紹介します。

 

★ノミネーション発表のあった当日には、カルロス・トーレス監督とプロデューサーのサンドラ・エルミダが出席しました。本祭の総ディレクターを長年務めてきたホセ・ルイス・レボルディノスは、今年が最後になり、来年からは現在副ディレクターを務めているマイアレン・ベロキになります。

 


(左から、ホセ・ルイス・レボルディノス、サンドラ・エルミダ、カルロス・トーレス、

   第75回から総ディレクターに就任するマイアレン・ベロキ,2026年7月17日)

  

 

1)「Más allá de la sociedad / Beyond Society」

製作:Apaches Entertainment / Misión de Audaces Films,S.L. / Netflix

クリエーター:J.A.バヨナ、カルロス・トーレス

監督:カルロス・トーレス

脚本:パブロ・ヴィエルチ、ピアズ・ポール・リード、フランク・マーシャル

製作者:ベレン・アティエンサ・アスコナ、サンドラ・エルミダ・ムニィス、J. A. バヨナ

 

データ:製作国スペイン、2026年、TVミニシリーズ、ドキュメンタリー、スペイン語、150分(3話)、Netflix 2026年12月18日配信予定

映画祭・受賞歴:第74回サンセバスチャン映画祭2026、アウト・オブ・コンペティション特別上映

 

解説:1972年、アンデス山脈に激突したウルグアイ空軍機571便遭難事故の物語は、救出された日で終わったわけではありません。生存者たちが故郷に戻ったとき、もう一つの困難な物語が始まりました。そこには戻れなかった仲間たちの家族が待っていたのでした。世界が彼らの悲劇を普遍的な物語に変えるなか、生存者たちは自分たちに起こったことの重みと共に生きることを学ばなければなりませんでした。一方、半世紀にわたるこのシリーズでは、生者と死者のあいだに横たわる亀裂を探り、物語を語りなおすことで、私たちが立ち向かえる方法を描いています。

 

★1972年に起きたアンデス航空事故を描いたバヨナ監督の『雪山の絆』(23、原題「La sociedad de la nieve」)については、作品ほか、主なスタッフ、キャスト、実際の搭乗者、乗務員5名、チリ開催のラグビー試合に参加するため搭乗していたステラマリス大学のラグビー・チームの選手団と、その家族や友人など40名を紹介しています。バヨナ監督のキャリア&フィルモグラフィー紹介は、マラガ映画祭2018の特別賞の一つ「レトロスペクティブ賞」を受賞した折にアップしております。

* J.A.バヨナのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2018年03月24日

*『雪山の絆』作品 & スタッフ紹介記事は、コチラ⇒2023年11月04日

*『雪山の絆』主な搭乗者・キャスト紹介記事などは、コチラ⇒2023年11月14日

   

     

        (J. A. バヨナ『雪山の絆』のNetflix ポスター)

 

★監督紹介:カルロス・トーレス Carlos Torres、1985年アリカンテ生れ、監督、脚本家、製作者。代表作は、バルセロナで起きた有名な殺人事件をめぐるドキュメンタリー「Crims / Crímenes」(20、カタルーニャTVシリーズ、全62話の監督2話、脚本10話、カタルーニャ語)、「Pajares & CIA」(20~22、TVシリーズ、全6話、監督)、脚本家としてTVシリーズ、ダビ・カブレラ他の「Astral」(16)、「Malas compañías」(17、全4話の2話)、インタビュー番組「Salvados」(13~17、全360話の99話)を手がけている。

 

  

      (「Más allá de la sociedad」撮影中のカルロス・トーレス)

 

★脚本家紹介:

◎パブロ・ヴィエルチ Pablo Vierci、1950年ウルグアイのモンテビデオ生れ、作家、ジャーナリスト、脚本家。J. A. バヨナが『雪山の絆』で採用した ”La sociedad de la nieve”(2009年刊)の原作者、本作で2009年、ゴールデンブック賞を受賞している。原作者は生存者16名と同じモンテビデオのステラマリス大学の同窓生、構想から三十数年かけて、生きて戻れた人の証言だけでなく、証言することが叶わなかった死者にも敬意をはらって「声を与えた」ことが、バヨナ監督に映画化を決意させた。他に生存者の一人で当時医学生だったロベルト・カネッサとの共著 “Tenia que sobrevivir” がある。

 

    

      (帰還者16名を配した ”La sociedad de la nieve” の表紙)

 

◎ピアズ・ポール・リード、1941年生れ、イギリスの歴史家、ノンフィクション作家、1974年、このウルグアイ空軍機571便遭難事故をテーマにした “Alive: The Story of the Andes Survivors” を刊行、『生存者ーアンデス山中の70日』として翻訳された。1993年、アメリカのフランク・マーシャル(1946)が映画化、日本では『生きてこそ』(英題「Alive」126分)の邦題で公開された。これには一部フィクションが含まれており、いわゆるドクドラ(ドキュメンタリー・ドラマ)である。

  

ルクレシア・マルテルの「Nuestra tierra」*SSIFF2025 ⑪ ― 2025年09月13日 11:01

      オリソンテス・ラティノス部門――マルテルの初長編ドキュメンタリー

    

        

     

★今年は時間的に余裕をもってご紹介できると思っていましたがダウン、開幕が目前になってしまいました。全部門の審査員メンバー発表、ジェニファー・ローレンス(ケンタッキー州ルイスビル1990)の若干35歳にしてのドノスティア栄誉賞受賞、サバルテギ-タバカレア部門、メイド・イン・スペイン部門、短編部門Nest、ベロドロモ部門、バスク映画部門など、ほぼ全作品が出揃いました。カンヌ映画祭2025で「ある視点」賞を受賞したチリのディエゴ・セスペデスの長編デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が、第6回目を迎えたLGBTIQA+作品に与えられるセバスティアン賞 Gehitu を受賞したことも発表になっています。13作がノミネートされ、オリソンテス・ラティノス部門からは、本作とブラジル映画、マリア・クララ・エスコバル&マルセロ・ゴメスの「Dolores」の2作が対象作品でした。

    

     

     (セバスティアン賞受賞作「La misteriosa mirada del flamenco」)

 

       

                                              (ブラジル映画「Dolores」)

 

★前回の続きとして、オリソンテス・ラティノス部門ノミネートのルクレシア・マルテルの初長編ドキュメンタリー「Nuestra tierra」から再開します。2009年に起きたアルゼンチン北部チュシャガスタの先住民コミュニティのリーダー、ハビエル・チョコバル殺害と、植民地主義のルーツ、真実の不正義の物語を記録したものです。既にベネチア映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで、8月31日ワールド・プレミアされています。類似作品として、チリのフェリペ・ガルベス(サンティアゴ・デ・チレ1983)の「Los colonos / The Settlers」がある。東京国際映画祭2023で『開拓者たち』の邦題で上映された。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺をテーマにしている。

    

      

                   (ルクレシア・マルテル、ベネチア映画祭2025にて)

 

 「Nuestra tierra / Landmarks」

製作国:アルゼンチン、米国、メキシコ、フランス、オランダ、デンマーク

監督:ルクレシア・マルテル(アルゼンチンのサルタ1966)

脚本:ルクレシア・マルテル、マリア・アルチェ

撮影:エルネスト・デ・カルバーリョ

編集:ジェロニモ・ペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー

音楽:アルフォンソ・オルギン

録音:グイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレス、他 

製作:Rei Pictures(アルゼンチン)/ Louverture Films(米国)

共同製作:Piano / Lemming Film(オランダ)/ Pio & Co / Snowglobe

継続時間:122分、スペイン語

 

キャスト:ハビエル・チョコバル、他コミュニダード・チュシャガスタ

  

ストーリー:2009年、アルゼンチン北部のチュシャガスタの先住民コミュニティのメンバーを立ち退かせようと武装した3人の男がやってきた。彼らは対立のなか、土地の所有権を主張するリーダーであるハビエル・チョコバルを殺害する。このあからさまな犯罪の様子はビデオに収録されていたが、犯人は野放しのまま、裁判にかけられるまでに9年もの年月を擁しました。この象徴的な殺人事件をとりまくドキュメンタリーは、コミュニティの声と写真を法廷の映像と組み合わせて、ラテンアメリカにおける植民地主義のルーツ、殺人、不平等、土地の収奪の何世紀にもわたる歴史を探ります。

   

     

   

  

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭8月31日ワールドプレミア、トロント映画祭9月8日、サンセバスチャン映画祭9月、カムデン映画祭9月11日、バンクーバー映画祭10月4日、ニューヨーク映画祭10月7日、BFIロンドン映画祭10月16日、他

 

★監督紹介:ルクレシア・マルテル、1966年アルゼンチン北部サルタ出身、代表作は「サルタ三部作」といわれる『沼地という名の町』(2001、La Ciénaga)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004、La niña santa)、『頭のない女』(2006、La mujer sin cabeza)の他、第4作が約十年ぶりに撮った話題作『サマ』(2017、Zama)がある。寡作な映像作家だが、アルゼンチン映画を代表する作品を手掛けている。詳細については当ブログに紹介記事をアップしています。また東京国際映画祭2022に短編『ルーム・メイド』(12分、Camarera de piso)が上映されている。咀嚼に時間のかかる気難しい監督で万人向きではないが、ファンは多い。短編、ドキュメンタリー、テレビシリーズ、アンソロジーなども手掛けている。

   

  

           (撮影中のルクレシア・マルテル)

    

   

      (ダニエル・ヒメネス=カチョがサマを演じた「Zama」のポスター)

 

★マルテル監督は、深く共感的でありながら根本的に感傷的ではないアプローチで展開させ、不公平さを描いている。2009年の殺害事件を追ってプロジェクトを起ち上げ、翌年から殺害犯の裁判に出席、2018年、サンダンス・ドキュメンタリー・プログラムとインスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツの助成金を授与された。コロナウイルス感染症パンデミックの影響で未完成のまま、ロカルノ映画祭2020フィルム・アフター・トゥモロー部門でパルド賞を受賞している。

 

★撮影監督エルネスト・デ・カルバーリョ、フィルム編集のペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー、録音のグイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレスなどとは、前作『サマ』でタッグを組んでいる。

 

*『サマ』関連記事は、コチラ⇒2017年10月13日/同年10月20日

*『ルーム・メイド』関連記事は、コチラ⇒2022年10月19日


メイド・イン・スペイン部門クロージング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉒ ― 2024年09月17日 17:16

        1975年2月4日、マドリードの全劇場の幕は揚がらなかった!

 

    

 

★メイド・イン・スペイン部門のクロージング作品、アルバ・ソトラのドキュメンタリー「Mucha mierda / Break a Leg」は、フランコ政権下末期の1975年2月4日に、スペインの俳優たちが初めてストライキに立ち上がった闘いの記録です。ストライキ参加者へのインタビュー、アーカイブ、映画の抜粋を織り交ぜ9日間の闘いが語られる。来る2025年は50周年記念の年、8名の逮捕者を出した2月8日は、奇しくも第39回ゴヤ賞2025の授賞式に当たる。フランコ将軍が七転八倒のすえ他界したのは、同じ年の11月20日の明け方でした。

 

 「Mucha mierda / Break a Leg」

製作:David Lara Films / Quexito Films /  協賛ICAA 参画マドリード市議会、

   モビスター+、RTVE

監督:アルバ・ソトラ

脚本:アルバ・ソトラ、ダビ・アルナンス

撮影:イレネ・ガルシア・マルティネス

編集:エレナ・カストロビエホ

音楽:フェルナンド・バカス・ナバロ

録音:フリアン・バケラ

製作者:ダビ・ララ、ミゲル・ゴンサレス、ファミリアル・ヒメネス・アバド、(エグゼクティブ)モンセラット・サンチェス

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、84分

映画祭・受賞歴:SSIFF2024メイド・イン・スペイン部門クロージング作品

 

キャスト:アナ・ベレン、ティナ・サインス、ホセ・サクリスタン、マヌエラ・ベラスコ、マリサ・パレデス、カロリナ・ジュステ、ペトラ・マルティネス、フアン・マルガーリョ、ロシオ・ドゥカル、フアン・ディエゴ


解説:1975年2月4日、マドリードのどの劇場でも幕が揚がりませんでした。ドアに貼られたポスターには「俳優が出演しないため公演は中止」と書かれていました。この日は俳優による歴史的なストライキの初日で、以来9日間国内は活動が麻痺状態になりました。彼らの要求は「法律で定められている通り、週1日の休日」というものでした。サラ・モンティエルやロラ・フロレスがストライキを支持すると、労働者の権利の要求で始まったものが、政治的挑発に変化した。報道規制にもかかわらず、このニュースは世界中に広まり、彼らは80ヵ国以上から支援の電報を受け取った。政治社会担当部署の担当者がストライキ参加者のあいだに潜入し首謀者をあぶり出し、固い団結を粉砕した。2月8日に逮捕された8人のなかには、ティナ・サインス、ロシオ・ドゥカルが含まれている。他に最前線でキャリアや自由を危険にさらした参加者には、コンチャ・ベラスコ、アナ・ベレン、フアン・ディエゴ、ホセ・サクリスタンなどがいた。本作は今まで語られることのなかった、主人公たちによって語られた物語です。勿論検閲などありません。

    

   

                  (アナ・ベレン)

 

★高い代償を払ったキャストのなかにはフアン・ディエゴ(2022年4月没)のように鬼籍入りしてしまった俳優も多い。左派の政治活動で知られる彼は、この俳優ストライキの組織化に主導的な役割を果たしている。反対にコンチャ・ベラスコの姪マヌエラ・ベラスコ(1975生れ)のようにまだ産声を上げていなかった人もいる。コンチャは2023年12月に10年前から闘っていたリンパ腫で亡くなったが、女優として2013年にゴヤ栄誉賞を受賞した人らしく最後まで現役に拘った女優でした。ゴヤ賞2022栄誉賞の受賞者ホセ・サクリスタンは86歳になっても現役を続けている。ペトラ・マルティネス、フアン・マルガーリョは夫婦揃って出演、ペトラ・マルティネスはマリサ・パレデスと一緒に本作紹介のため現地入りがアナウンスされている。

 

    

                (マリサ・パレデス)

 

      

               (ペトラ・マルティネス)

   

★監督紹介:アルバ・ソトラ(カタルーニャ州タラゴナ県レウス1980)は、監督、脚本家、製作者。ドキュメンタリー「Game Over」がマラガ映画祭2015ドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナでニュータレント賞、ガウディ賞2016ドキュメンタリー賞などを受賞、「The Return: Life After ISIS」(21)は、10代でイスラム国に入った女性たちが、その後自国への帰還を希望するが、故国は彼女たちを拒絶する背景を語るドキュメンタリー、ワルシャワFFドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナ観客賞ほか、ガウディ賞2022受賞、ゴヤ賞2022はノミネートに終わった。製作者としては、当ブログ紹介のアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスのヒット作「Upon Entry」(22)、カルラ・スビラナの「Sica」(23)などを手掛けている。

   

   

               (アルバ・ソトラ監督)

 

★本作について監督は、「ストライキがどのように捏造されたか、警察の監視、政権の暴力的な反応、ストライキの国際的側面、抵抗勢力に供給された資金の出所を伝えます」。また「女性のリーダーシップ、刑務所と過酷な報復についても語ります」とインタビューに応えている。労働者と雇用主が同じ組合に所属しており、俳優たちは劇場オーナーの言いなりにならざるを得なかった。「この闘いの遺産は生き残っていますが、もっとも重要なことは、何年も仕事が貰えなかった人もいたということで、今日でもそれは尾を引いている」と監督。

   

  

       (問題作「The Return: Life After ISIS」のポスター)

 

*「Upon Entry」の作品紹介は、コチラ⇒2023年07月01日

*「Sica」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月12日


メイド・イン・スペイン部門オープニング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉑ ― 2024年09月15日 13:37

          夭折の作家ルイス・マルティン=サントスを巡る旅

 

      

 

★メイド・イン・スペイン部門のオープニング作品に選ばれたジョアン・ロペス=リョレトの「Tiempo de silencio y destrucción」は、夭折の作家で高名な精神科医、政治活動家でもあったルイス・マルティン=サントス(1924~64)の人生と作品を巡るドキュメンタリー。今年が生誕100周年、死後60年に当たる。映画のタイトルは、1961年、多かれ少なかれ検閲を受けながらもセイクス・バラル社から出版された小説 ”Tiempo de silencio” と交通事故による急死で未完に終わった遺作 “Tiempo de destrucción” (1975刊)から採られている。

    

        

              (ルイス・マルティン=サントス)

  

     

 「Tiempo de silencio y destrucción」

製作:Imposible Films

監督:ジョアン・ロペス=リョレト

脚本:ジョアン・ロペス=リョレト、ヌリア・ビダル

撮影:ジョアン・ロペス=リョレト

編集:ルぺ・ぺレス・ガルシア、メリ・コリャソス・ソラ

音楽:ロジャー・パスト

録音:ロジャー・ソレ、ビクトル・トルト

製作者:マルタ・エステバン・ロカ

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、60分、撮影2023年、配給フィルマックスFilmax

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門オープニング作品

キャスト:ルイス・マルティン=サントス・リベラの長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォン、同長女ロシオ

解説:1964年1月21日、小説 ”Tiempo de silencio” の著者ルイス・マルティン=サントスは、マドリードからの帰途、バスク自治州のビトリアで悲劇的な交通事故で亡くなりました。事故から60年、生誕100周年を迎えるにあたり、私たちは作家の子供たちルイスとロシオを追って、作家で高名な精神科医、彼を変えた作品の背後にいる人物を再構築するための航海に出ます。マルティン=サントスの人物像、戦後スペインに対する彼独特の視点、部分的に未発表のテキストに基づいて長いあいだ隠されてきた作品を巡る旅になります。

    

         

        (コロナ・パンデミック中に資料収集をしたルイスとロシオ)

    

 

     ルイス・マルティン=サントスの ”Tiempo de silencio” はどんな小説?

 

★ルイス・マルティン=サントス生誕100周年を記念して今年行われる活動の一つは、一部未発表の原稿を含む作品の再発行(全集6巻)、中国語への翻訳、今回オープニング作品に選ばれることになったドキュメンタリー製作、スペイン国立図書館での展覧会などである。作家の長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォンによると、全集には「文学の分野だけでなく、精神医学の研究、後に民主主義に繋がる反フランコ主義への政治観」が含まれる。フランコ没後の1980年に出版された16版が決定版。

 

★ルイス・マルティン=サントス・リベラは、1924年11月11日、当時モロッコのスペイン保護領だったララシュで生まれた。1929年軍人だった父親の次の赴任地サンセバスティアンに移った。医学はサラマンカで学び、1946年卒業、1949年マドリードで博士号取得、1950年ドイツ留学、翌年サンセバスティアン精神療養所の院長に就任、1953年ロシオ・ラフォンと結婚、3児に恵まれた。反フランコ主義への政治観により、1956年3月パンプローナ、1958年11月にマドリードで逮捕され、カラバンチェル刑務所に収監されている。

 

★1964年1月20日午後、マドリードからサンセバスティアンに向かう途中、ビトリア近郊でトラックに衝突、翌日運び込まれた病院での手術中に亡くなった。前年嗅覚障害のあった妻ロシオ・ラフォンがガス漏れに気づかず33歳の若さで亡くなっており、後にはロシオ、ルイス、フアン・ペドロの3人の子供が残された。当時5歳だったというルイスには父親についての記憶は少ないが、コロナ感染のパンデミック中にさまざまな場所を旅してきた箱を開け、保存されていた多くの未発表の原稿を通じて、父親が「非常に活動的で創造的な多才な人であったことを再確認した」と語っている。家庭内ではとても楽しい人で、ユーモアのセンスのある人だったことを強調している。

    

          

             (在りし日のマルティン=サントス一家)

 

★1961年に初めて出版された ”Tiempo de silencio” は、20世紀のスペイン文学の流れを変えたと称される小説。作家のエンリケ・ビラ=マタス(バルセロナ1948)によるプロローグが付された記念版が刊行された。「戦後の道徳的悲惨さを偉大な才能で描いた」作家の作品と称される。

 

★スペイン内戦語の1949年のマドリードが舞台、若い医学研究者ペドロは、鼠径部腫瘍を発症する系統のマウスが枯渇したことで癌研究が中断されるのを目の当たりにする。研究室の助手アマドールがマウスの標本を親戚のムエカスと呼ばれる犯罪者に渡しており、彼が郊外の掘っ立て小屋で繁殖させていることを知る。ペドロは首都の裏社会に接触したことで地獄への門をくぐることになる。これは小説の導入部を述べただけで、その後の展開は複雑で、ジェイムズ・ジョイスが開拓した「意識の流れ」の影響を受けている。内なるモノローグ、時間と物語の声、自由な間接的なスタイルと、当時の写実主義的な言語を刷新したと評価されている。1986年、ビセンテ・アランダが導入部を切りとって映画化したが、評価は毀誉褒貶入り混じっている。ペドロにイマノル・アリアス、ムエカスにパコ・ラバル、ビクトリア・アブリル、チャロ・ロペスなど人気俳優が共演している。 

 

★監督紹介:ジョアン・ロペス=リョレトは、1969年バルセロナ生れ、ドキュメンタリー作家、脚本家、撮影監督。現在のESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で撮影監督、1988年から2年間CEEC(カタルーニャ映画研究センター)で映画監督を学び、テレビ、映画、広告業界で働いている。2004年、リサイクル素材で操り人形や器械器具の世界を作り出した2人のアーティストの秘密の世界を描いた長編ドキュメンタリー「Hermanos Oligor」でマラガ映画祭2005観客賞、バルセロナ・ドクポリスFFの作品賞、観客賞他を受賞、その名を世界に馳せました。

   

     

            (デビュー作「Hermanos Oligor」から)

 

★翌年、ニカラグア革命の夢を従属的な声で解体した「Utopia 79」(06)、北アイルランドの和平プロセスにおける2人の前科者の物語「Sunday at Five」(07)、マジョルカ出身の歌手マリア・デル・マル・ボネットの生涯を描いた「Maria del Mar」(18)、「Familia, no nuclear」(19)など、忘れられがちな人物に声を与えている。

   

       

               (ジョアン・ロペス=リョレト)

    

アルベルト・セラの「Tardes de soledad」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑥ ― 2024年08月04日 16:27

     アルベルト・セラの「Tardes de soledad」―セクション・オフィシアル④

    

   

 

★セクション・オフィシアルの4作目は、アルベルト・セラ(カタルーニャ州バニョラス1975)のドキュメンタリー「Tardes de soledad」、連想ゲーム風にいうとセラといえばカンヌですが、今回初めてサンセバスチャンのコンペティション部門にノミネートされました。スペイン、フランス、ポルトガル合作、言語はスペイン語です。監督キャリア&フィルモグラフィーと、デビュー作以来セラ監督とタッグを組んでいる女優でプロデューサーを務めるモンセ・トリオラの紹介は、東京国際映画祭2022ワールド・フォーカス部門で『パシフィクション』(原題「Tourment sur les iles」)がエントリーされた折にアップしております。ミニ映画祭、特別上映会で一部のファンは字幕入りで鑑賞できましたが、劇場公開は『ルイ14世の死』(16)1作である。

*『パシフィクション』の作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2022年10月13日

    

      

               (アルベルト・セラ監督)

 

★セクション・オフィシアルは初登場ですが、メイド・イン・スペイン部門には『騎士の名誉』(06)、『鳥の歌』(08)、前作『パシフィクション』が上映されている。言語がカタルーニャ語だったり、フランス語あるいはドイツ語、イタリア語、英語、ヘブライ語だったりするので、スペイン語オンリーの話者には取っつきにくい。本作はスペイン語のうえ、闘牛がテーマということが幸いしたのかもしれない。スペインを含むヨーロッパやラテンアメリカ諸国で活躍する、ペルー出身の闘牛士アンドレス・ロカ・レイが、闘牛場の砂場の中で体験する、心理的精神的な葛藤を描いている。闘牛の精神的な痛み、神聖な儀式である闘牛の複雑な美学を追求するドキュメンタリー。

 

 「Tardes de soledad」

製作:Andergraun Films / Arte France Cinéma / Idéale Audience / 

   LaCiima Producciones  協賛ICEC / ICAA

監督・脚本:アルベルト・セラ

撮影:アルトゥール・トルト

編集:アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト、

録音:ジョルディ・リバス

衣装デザイン:パウ・アウリAuli

製作者:アルベルト・セラ、モンセ・トリオラ、ルイス・フェロン、ペドロ・パラシオス、リカルド・サレス、ピエール≂オリヴィエ・バルデ、ヨアキム・サピーニョ

 

データ:製作国スペイン=フランス=ポルトガル、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、120分、撮影地セビーリャ、2023年夏クランクイン

映画祭・受賞歴:第72回サンセバスチャン2024セクション・オフィシアル

 

キャスト:アンドレス・ロカ・レイ、パブロ・アグアド

解説:闘牛士アンドレス・ロカ・レイの、闘牛用の光の衣装着用から闘牛が終わり衣装を脱ぐまでの或る1日が描かれている。複雑な闘牛の美的な部分に取りくむドキュメンタリーであり、監督はその表現力と可塑的な洗練さを目指そうとしている。同様に、個人的な義務として雄牛に対峙するリスクを負う闘牛士の視点からも描こうとしている。それは伝統への敬意からだが、何よりも人間がもつ平静さと合理性、野生の野蛮な動物の残忍さ、この二つの出会いから生じる、儚い美のかたちを作り出す美的挑戦である。どのような理想に導かれて、この危険で不必要と思われる闘いを追求する人がいるのか。ほかのあらゆる物より優先し、何度も危険を冒してまで挑戦する精神性とはどのようなものか、が語られるだろう。

 

★制作会社の製作意図によると以上のような概要になりますが、なかなか難しそうです。キャスト欄にはアンドレス・ロカ・レイとパブロ・アグアドしかクレジットされていませんが、闘牛は3人の闘牛士で構成されるので、もう一人登場するのかもしれません。

   

    

              (撮影中のセラ監督)

 

★アンドレス・ロカ・レイは1996年ペルーのリマ生れ、父方の曽祖父の時代から闘牛に関わっている家柄で、兄フェルナンド、叔父ホセ・アントニオも闘牛士だった。2011年スペインのバダホスの闘牛学校に入学するため海をわたった。2013年見習い闘牛士ノビジェーロnovilleroとしてスペインでデビュー、2014年からはフランス、コロンビア、ペルーでも闘い、2015年フランスのニームで正闘牛士への昇進式であるオルタナティブがあり、先輩闘牛士エンリケ・ポンセによってムレータと剣が授けられ、金の刺繍で被われた光る衣装を着ることが許された。立会人はフアン・バウティスタでした。ロカ・レイの闘牛スタイルは堅実さ、節度をわきまえたセンス、勇気と献身的な闘牛で知られ、短期間に闘牛界の中心人物になっている。

 

     

★パブロ・アグアドは、1991年セビーリャ生れ、セビーリャ大学で経営学の学士号を取得している異色の闘牛士です。ロカ・レイより5歳年長ですが、正闘牛士になったのは2017年9月でした。セビーリャのマエストランサ闘牛場、ロカ・ルイと同じエンリケ・ポンセがムレータと剣を授け、立会人はアレハンドロ・タラバンテでした。アグアドの闘牛スタイルは、その自然さ、誠実さ、セビーリャ派の伝統に沿ったクラシカルな闘牛で際立っているということです。

 

★スタッフ紹介:撮影監督、フィルム編集者アルトゥール・トルトは、セラ監督とは10年来タッグを組んでいる。例えば『パシフィクション』、『リベルテ』、『ルイ14世の死』(編集のみ)、監督の初期の短編「Els tres porquets」(12)、「Cuba libre」(13)、中編「Roi Soleil」(18)の撮影を手掛けている。『パシフィクション』でガウディ賞、フランスのセザール賞、ルミエール賞、国際オンラインシネマ賞などで撮影賞を受賞している。衣装デザイナーのパウ・アウリは、1992年マジョルカ島生れ、アグスティ・ビリャロンガの遺作「Loli tormenta」、「El ventre del mar」(22)を担当している。今回エグゼクティブ・プロデューサーも務めたモンセ・トリオラは、制作会社「Andergraun Films」の代表者である。

   

    

             (アルトゥール・トルト撮影監督)

 

★監督フィルモグラフィーは、上記したように『パシフィクション』での紹介に譲りますが、一応長編映画だけ時系列にアップしておきます。日本では『騎士の名誉』をデビュー作と紹介する記事が多いのですが、当ブログではスペイン語版ウイキペディアを参考にして作成しました。

2003年「Crespia」ミュージカル、長編デビュー作

2006年「Honor de cavalleria」『騎士の名誉』カンヌFF併催の「監督週間」プレミア

2008年「El cant dels ocells」『鳥の歌』同上

2011年「El senyor ha fet en mi meravelles」『主はその力をあらわせり』

   ドキュメンタリー

2013年「Historia de la meva mort」『私の死の物語』ロカルノFF金の豹賞

2016年「La mort de Louis XIV」『ルイ14世の死』カンヌFF特別招待作品

2019年「Liberte」『リベルテ』カンヌFF「ある視点」審査員特別賞

2022年「Tourment sur les iles / Pacifiction」『パシフィクション』

    カンヌFFコンペティション部門

2024年「Tardes de soledad」(仮題「孤独の午後」)SSIFFセクション・オフィシアル

 

    

      (中央が監督、右モンセ・トリオラ、SSIFF2024ノミネート発表)

 

マイテ・アルベルディの新作ドキュメンタリー*ゴヤ賞2024 ⑤ ― 2024年01月18日 21:48

    マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」―イベロアメリカ映画

     

       

 

★サンダンス映画祭2024でワールドプレミアされ、ワールドシネマ審査員グランプリ受賞を皮切りに始まった、ドキュメンタリー作家マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」の快進撃は、ベルリン、マイアミ、グアダラハラ、リマ、サンセバスチャン、アテネと世界を駆け巡りました。第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた前作『83歳のやさしいスパイ』(20「El agente topo」)の知名度だけではなかったでしょう。当ブログはラテンビート2020でオンライン上映された折りの邦題『老人スパイ』でアップしています。

*『老人スパイ』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、

コチラ⇒2020年10月22日/同年11月22日

    

 

 

★サンダンスに続くベルリン映画祭では観客のほとんどが感涙にむせんだという。というわけでパノラマ部門の観客賞(ドキュメンタリー部門)を受賞したのでした。昨年は国際映画祭での受賞ラッシュの1年でしたが、12月17日に開催されたホセ・マリア・フォルケ賞のガラにはアルベルディ自身が登壇してラテンアメリカ映画賞のトロフィーを手にいたしました。サンセバスチャン映画祭ペルラス部門にノミネートされながら未紹介でしたので、ゴヤ賞ガラに間に合うようアップいたします。

    

     

   (トロフィーを手にして受賞スピーチをする監督、フォルケ賞ガラ1月17日)

 

★本作の主人公は、アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティア、二人がパートナーとして一緒に暮らした25年間の物語です。ゴンゴラはジャーナリスト、プロデューサー、ニュースキャスター、ウルティアは女優として有名ですが、第一次ミシェル・バチェレ政権下(2006~10)では文化芸術大臣を務めた政治家でもあり、つまり二人はチリではよく知られた著名人のカップルでした。8年前の2014年、ゴンゴラはアルツハイマー病と診断されました。その後二人は、2016年1月に正式に結婚しました。アルベルディ監督との出会いは5年前、撮影期間はコロナ禍を挟んで5年間に及びました。監督が二人に接触できずにいたときにはパウリナにカメラを渡して撮影してもらった部分、家族のアーカイブ映像も含まれている。

    

          

  (左から、パウリナ・ウルティア、アウグスト・ゴンゴラ、アルベルディ監督)

 

 

 「La memoria infinita」(英題「The Eternal Memory」)

製作:Fabula / Micromundo Producciones / Chicken And Egg Pictures

監督・脚本:マイテ・アルベルディ

音楽:ミゲル・ミランダ、ホセ・ミゲル・トバル

撮影:ダビ・ブラボ、パブロ・バルデス

編集:カロリナ・シラキアン

プロダクション・マネージメント:マルコ・ラドサヴリェヴィッチRadosavljevic

製作者:マイテ・アルベルディ、ロシオ・Jadue(Fabula)、フアン・デ・ディオス・ラライン(同)、パブロ・ラライン(同)、アンドレア・ウンドゥラガ(同)、(エグゼクティブ)マルセラ・サンティバネス、クリスティアン・ドノソ、他多数

 

データ:製作国チリ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、85分、撮影期間2018年から2022年、配給権MTV Entertainment Films(パラマウント・メディア・ネットワークス部門)、公開チリ8月24日 

  

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2023ワールドシネマ(ドキュメンタリー部門)審査員大賞、ベルリン映画祭パノラマ(ドキュメンタリー部門)観客賞、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門上映、全米審査委員会ナショナル・ボード・オブ・レビューのベスト5の1つに選ばれ、ニューヨーク映画批評家オンライン賞、フォルケ賞ラテンアメリカ映画賞など受賞、他2023年のフロリダ、マイアミ、グアダラハラ、リマ、トロント、アテネ、ヒューストン、ミネアポリス・セントポール、ダラス、ストックホルム、各映画祭にノミネートされた。1月12日発表のシネマアイ栄誉賞2024では、監督賞と記憶に残る映画賞Unforgettablesを受賞、ゴヤ賞の結果待ち。

 

キャスト: アウグスト・ゴンゴラ(1952~2023)、パウリナ・ウルティア(1969~)、(以下アーカイブ)グスタボ・セラティ(アルゼンチンの俳優・作曲家1959~2014)、ペドロ・レメベル(チリの脚本家1952~2015)、ハビエル・バルデム(スペインの俳優・製作者1969~)、ラウル・ルイス(チリの監督・脚本家1941~2011)他

 

解説:アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアは25年間一緒に暮らしています。8年前、アウグストがアルツハイマー病と診断されました。二人とも、彼がパウリナを認識できなる日を怖れています。アウグストはかつてピノチェト軍事独裁政権下のレジスタンス運動の記録者であり、その残虐行為を忘れないようにすることに専念しています。しかしアルツハイマー病が彼の記憶を侵食していきます。パウリナとの日常生活も蝕まれていきますが自分のアイデンティティを維持しようとしています。パウリナは二人に降りかかる困難に直面しながらも、介護と優しさとユーモアを忘れません。二人の人生の記憶と、チリという国家の記憶を監督は再構成しようとしています。

    

         

★アウグストはベルリン映画祭後の2023年5月19日に鬼籍入りしましたが、パウリナのことは最後まで認識できたということです。監督は自身がパンデミックで二人に接触できなかったときに、パウリナが撮影した少し焦点のあっていない映像も取り入れています。そのなかに重要な瞬間があるということです。個人と集団の記憶についての物語のなかで、記憶を失うということが何を意味するのか、記憶を維持するということがどうして重要なのか、そしてその喪失の悲しみなどが敬意をもって語られている。

     

       
   

        

★ドラマではジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞を手にした『アリスのままで』(14)、アンソニー・ホプキンスが同じく主演男優賞を受賞した『ファザー』(20)など記憶に残る作品があります。しかしドクドラ、ドキュメンタリードラマは多数あっても本作のような作品は多くないように思います。信友直子監督が自身の両親を撮り続けた『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18)、当ブログで紹介した女優カルメ・エリアスを追ったクラウディア・ピントの「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」などが例に挙げられると思います。4年前にアルツハイマー病の診断を受けた女優の「今」を記録しつづけているドキュメンタリーです。本作はゴヤ賞2024ドキュメンタリー部門にノミネートされており、前者は4年後に家族が母親を看取るまでの続編が撮られています。

*「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」の紹介記事は、

  コチラ⇒2023年09月11日

 

★話をアウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアに戻すと、アルツハイマー病はゆっくり進行していく治療の困難な病です。二人も同じプロセスを辿るわけですが、どのように葛藤を解決しようとしたのか、自分たちの人生や愛について語りあい、それは「禍福は糾える縄のごとし」という諺に行きつくことになります。チリで8月24日に公開されるやドキュメンタリーにもかかわらず、第1週目の観客動員数が5万人を超え、興行成績は『バービー』や『オッペンハイマー』、『グランツーリスモ』などを抜いたということです。

    

  

*追加情報:『エターナル・メモリー』の邦題で劇場公開になりました。2024年8月23日

マラガ映画祭2023の落穂ひろい*マラガ映画祭2023 ⑫ ― 2023年03月24日 18:01

  クロージングはパス・ヒメネスのコメディ、長編第1作「Como Dios manda」

    

          

★セクション・オフィシアルのクロージング作品は、例年通りアウト・オブ・コンペティションから選ばれる。今回はパス・ヒメネスの長編デビュー作である多様性を反映したコメディ「Como Dios manda」(22)で締めくくられました。ヒメネス監督は1977年マラガ生れ、「故郷のコスタデルソルで撮影できたことはエキサイティングな体験でした」とプレス会見で語っている(3月17日)。自分を「神が意図した人」であると考えている、財務省の厳格な役人アンドレス(レオ・ハーレムが扮する)のお話。同僚との対立から制裁を受けるが、ユーモアと楽観的で希望に満ちた視点を通して、排除の危険にさらされているグループの纏めに取り組んでいる。監督は「批判的な背景をもつジョークや誇張があっても政治は脇においています」とも。製作者のマルタ・ベラスコによると、友人からもたらされた実話に基づいているということです。ベラスコは観客賞を受賞したマリナ・セレセスキーの「Empieza el baile」のエグゼクティブの一人です。

      

          
     (左から、レオ・ハーレム、監督、マルタ・ベラスコ、ペレス・プラダ、

      「Como Dios manda」のフォトコール、3月17日)

     

       

        (レオ・ハーレム扮するアンドレスを配したポスター)

 

 

   ドキュメンタリー映画はフェルナンド・フラゲラの「El matadero」が受賞

 

★ドキュメンタリー部門の受賞作は、フェルナンド・フラゲラ(キューバ1991)の「El matadero」(キューバ2022、仮題「食肉処理場」)、キューバ革命のプロジェクトとして建設されたアパートが建ち並ぶバリオでは、隣人たちが生き残るために豚を飼育している。フェルナンドは子供時代からそこで暮らしており、国を脱出するために豚を飼って販売している友人ドゥスニエルについて語ります。フェルナンドも逃げ出したいと思っている。

    

        

      

  

★監督賞はソフィア・パオリの(「Guapo 'y」(パラグアイ=アルゼンチン=カタール2022、「ハンサム」) が受賞、パラグアイの軍事独裁政権が残した女性セルサ・ラミレスの傷が語られる。パオリは1982年ペルー生れだが、武力紛争を逃れてパラグアイに亡命して映画製作をしている。

    

       

   

 

★観客賞は、エレナ・モリーナ(マドリード生れ)の「Remember my Name」(西=仏=カタール2023)は、モロッコからメリリャのフェンスを跳び越えたあと、未成年者は保護センターに入ります。それぞれ一人で越境してきますが、ここで新しい疑似家族を作ります。NANAというダンス・グループを作った若者を追うドキュメンタリー。メリリャはアフリカ北西部沿岸に位置するスペインの自治都市、不法移民を防ぐためモロッコとの国境に高さ6メートルの金属フェンスを張り巡らせている。

 

      

   

 

★3作とも厳しい内容のドキュメンタリーですが、3監督とも若く将来が期待されます。カルラ・シモンが語ったように監督といえば中年男性をイメージする時代は既に終りを告げました。若い女性シネアストの躍進、これが今年のマラガで最も印象深かったことでした。映画館に足を運んでくれた観客は9万人という発表がありました。


アマイア・レミレス監督デビュー「Maldita」*ゴヤ賞2023 ⑫ ― 2023年02月12日 16:25

           異色の短編ドキュメンタリー「Maldita. A Love Song to Sarajevo」

 

         

           (ボジョ・ブレチョを配したゴヤ賞のポスター)

 

★既に国際映画祭での受賞歴があるラウル・デ・ラ・フエンテ & アマイア・レミレスの「Maldita. A Love Song to Sarajevo」(仮訳「のけ者、サラエボへの愛の歌」)は、人生と自由と寛容への美しい讃歌である。主人公はボスニアのミュージシャンのボジョ・ブレチョと、カタルーニャのピアニストで作曲家のクララ・ペーヤである。二人の感受性豊かな音楽は、廃墟と滅亡のなかから何か純粋な気高さを生み出している。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは、日本人にとっては距離的にも精神的にも遠い国ですが、モノクロの映像とボジョの情熱を込めた歌声にある懐かしさを覚えます。受賞を予想してアップします。

     

       

 

      

   (サンタ・マリア・デル・マル教会で演奏するボジョ・ブレチョとクララ・ペーヤ)

  

 

「Maldita. A Love Song to Sarajevo」ドキュメンタリー

製作:Medicusmundi Mediterránia / Kanaki Films 協賛カタルーニャ政府、バルセロナ市

監督:ラウル・デ・ラ・フエンテ、アマイア・レミレス

脚本:アマイア・レミレス

撮影:ラウル・デ・ラ・フエンテ・カジェ

音楽:クララ・ペーヤ

編集:ラウル・デ・ラ・フエンテ・カジェ

録音:インマ・カラスコ

製作者:イバン・サイノス、(エグゼクティブ)アマイア・レミレス

 

データ:製作国スペイン、2022年、ドキュメンタリー、27分、モノクロ、撮影バルセロナのサンタ・マリア・デル・マル(14世紀建立のカタルーニャ・ゴシック様式教会)やサラエボ。2021年12月バルセロナ―ジロナのイベントで先行上映された。ほかにマドリードやバルセロナでの上映イベントがある。配給Selected Films Distribution

 

映画祭・受賞歴:クラクフ映画祭2022銀のドラゴン受賞、メディナ・デル・カンポ映画週間2022ゴールデン・ロエル受賞、メルリンカ映画祭審査員賞受賞、ほかコソボのドキュメンタリーフェス、スペインのシウダレアル、ヒホン、ランサローテ各短編映画祭出品、ゴヤ賞短編ドキュメンタリー部門ノミネート

 

出演者:ボジョ・ブレチョ、クララ・ペーヤ、そのほか演奏者多数

ストーリー:ボジョ・ブレチョの神は愛である。彼の祖国は地球である。性別は男性でもあるが女性でもある人間である。バルカン出身の最も革新的なアーティストであるボジョは、困難な時期に自分自身を見つける方法を知っていた二つの都市、サラエボとバルセロナのあいだの人生と、障害の克服と、愛の物語を歌いあげる。決してさようならを言わないために。想像の世界と現実の世界、寛容と残忍、破壊と怖れ、愛と許し、男性と女性、サラエボとバルセロナ、ボジョとクララ、など二面性で構成されている。

          

         

         (ゴールデン・ロエルを手にしたアマイア・レミレス、メディナFF2022授賞式)

 

★本作のオリジナルなアイディアは、プロデューサーのイバン・サイノスである。現在はNGO制作会社Medicusmundi Mediterránia のディレクターであるが、もともとは光学機器製造会社の検眼士であった。サラエボではバルカン戦争で眼鏡を失くした人々が多く、サイノスは終戦後の1995年からサラエボに眼鏡を届けていた。そこでボジョ・ブレチョの音楽に出会った。二人は長年、一緒にドキュメンタリーを作りたいと思っていたがなかなか実現しなかった。そこで『アナザー・デイ・オブ・ライフ』の製作者アマイア・レミレスとコンタクトをとった。レミレスはサイノスを通じてブレチョに会い、こうして二つの制作会社の共同製作が実現した。レミレスの「クララ・ペーヤがバルセロナを象徴する」というアイディアが生まれた。

 

        

                        (ラウル、イバン、ボジョ、アマイア)

 

 

★ボジョ・ブレチョ Božo Vrećoは、1983年ボスニアのフォチャ生れ、セブダリンカ(sevdalinka *)の歌手、考古学教授、LGBTQの権利を求めている。5歳の時父親が亡くなり、2人の姉妹と育つ。芸術家の母親から絵を描いたり音楽を学ぶよう勧められ、インターネットで独学する。風変わりな少年としていじめに苦しんだ。生計を立てるためセルビアのベオグラードに行き考古学の修士号を取る。しかし本当にやりたかったのはセブダリンカの音楽だった。録音で伝統的な歌唱法を学んだ。

  

★サラエボのカフェで歌っているところをバンドHalkaに見いだされCDを発売、2013年よりプロとして世界で活躍している。アカペラで歌うことが多い。ロングドレスや長めのチュニックに身を包んだブレチョは女性の側にいる。エレガントでデリケートな動き、よく響く声、黒くて濃い髭のコントラストに戸惑う。ブレチョは戦争のさなかに生まれ育ったが、彼は自らの独特な個性のせいで内面の葛藤から自由になる必要があった。議論の的となるアーティストは、より自由になるために豊かな表現力、寛容さでその違いを力強く示そうとする歌手である。

*セブダリンカというのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ発祥の民族音楽、ゆっくりしたテンポ、強烈で感情豊かなメロディーが特徴的である。オリエント、ヨーロッパ、セファルディム(ディアスポラのユダヤ人のうち南欧諸国やトルコなどに定住した人)の要素を組み合わせている。

  

 

    

         

    (トルコの旋踊教団の祈りのようにスピンしながら熱唱するボジョ・ブレチョ)

 

★クララ・ペーヤ Clara Peya、1986年カタルーニャのパラフルジェル生れ、ピアニスト、作曲家。両親は医師、母親の懇望で姉アリアドナと一緒にピアノを学ぶ。姉は16歳で断念するが、クララはカタルーニャ高等音楽学校のクラシックピアノ科に入学、2007年卒業、その後バルセロナ音楽養成所でモダンジャズを学んだ。23歳でアルバムのレコーディングを開始、独自のスタイルを確立しており、既に十数枚のアルバムを発表している。

  

★また姉アリアドナと制作会社 Les Impuxiblesを主宰、ミュージカル、演劇、ダンスシアター、マイクロオペラの制作を手掛けている。2019年にその社会への影響が認められてカタルーニャ文化国民賞の最年少受賞者となりました。他に2018年、アルバム「Estómac」は、音楽誌「エンダーロック・マガジン」の年間最優秀アルバム賞エンダーロックを受賞。フェミニスト活動家として男女平等を求めている。レズビアンとしてレズ嫌いを批判するドキュメンタリーに参加している。2021年の新譜「Periferia」では、男性歌手エンリオをフィーチャしている。

 

       

     

          (クララ・ペーヤ、カタルーニャ文化国民賞授賞式)

 

★監督紹介:ラウル・デ・ラ・フエンテ(パンプローナ1974)とアマイア・レミレス(パンプローナ1982)は、20年来から二人三脚で問題作に挑戦している監督、脚本家、製作者、共にナバラ大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科卒。アンゴラ内戦をアニメーションと実写で描いた「Un día más con vida」(18)が『アナザー・デイ・オブ・ライフ』としてラテンビートFF 2018で上映され、観客から賞賛を受けた。翌年のゴヤ賞アニメーション部門で受賞している。ゴヤ賞ノミネートは今回で5回目、2回目の「Minerita」がゴヤ賞2014の短編ドキュメンタリー賞受賞、ドキュメンタリー作家としての地位を確立している。レミレスは制作会社Kanaki のメインプロデューサーだが、今回監督デビューした。2021年に子供が誕生した。

*両監督のキャリア&フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2018年10月08日

    

      

          (『アナザー・デイ・オブ・ライフ』のポスター)   

   

                                      

                    (ゴヤ賞2019アニメーション賞のガラにて)

 

       

               (最近のラウルとアマイア)


追加情報:ゴヤ賞2023短編ドキュメンタリー部門で予想どおり受賞しました。


ニューディレクターズ部門13作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑩ ― 2022年08月29日 15:59

         日本の若手監督も含めて一挙に発表になった13作

   

     

 

★去る7月28日、ニューディレクターズ部門13作が出揃いました。昨年ノミネートされなかった日本からは2作が選ばれました。古川原壮志の『なぎさ』(21)、第34回東京国際映画祭ワールド・プレミア作品です。もう1作の『宮松と山下』は、佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太郎の監督集団〈5月ごがつ〉のデビュー作、現在窮地に陥っている香川照之が主演しており、11月18日の公開に先駆けて、本祭でワールドプレミアとなった。

 

★昨年のWIP Latam 2021と WIP Europa 2021 の受賞作が揃ってノミネートされています。このセクションはデビュー作か2作までが対象、後援者のクチャバンクによるクチャバンク・ニューディレクター賞(作品賞)には副賞として50,000ユーロとスペイン国内での公開が約束されています。他にユースTCM賞があり、18歳から25歳までの学生150人が審査員です。スペイン語映画は、オール女性監督のスペイン2作と当ブログ初登場のニカラグア1作、他はフランス、モルドバ共、デンマーク、スイス、クロアチア、ロシア、韓国、インド、日本の2作です。スペイン語映画3作だけアップしておきます。

 

             *ニューディレクターズ部門13作*

 

1)「La hija de todas las rabias / Daughter of Rage」ニカラグア

VIII Foro de Coproduccion Europa-America Latina 2019 

WIP Latam 2021  WIP Latam Industria 2021

データ:製作国ニカラグア=メキシコ=オランダ=独=仏=ノルウェー=西、2022年、スペイン語、ドラマ、87分、脚本ラウラ・バうマイスター、撮影テレサ・クンKuhn、編集ラウル・バレラス、フリアン・サルミエント、プロダクション・マネージメント、ハビエル・ベラスケス・ドランテス、録音ガリレオ・ガラス、美術ノエミ・ゴンサレス、製作Felipa Films、製作者ロッサナ・バウマイスター、ブルナ・Haddad、マルタ・オロスコ。サンセバスチャン映画祭の援助を受けて製作され、上記のWIP Latam 2021以下を受賞している。

   

     

 

監督:ラウラ・バウマイスター(Baumeisterニカラグアの首都マナグア1983)、監督、脚本家。デビュー作、本作はゴミ捨て場で一人で生き延びようとする11歳の少女の物語。

 

      

      (受賞スピーチをする監督、サンセバスチャン映画祭2021の授賞式)

 

キャスト:アラ・アレハンドラ・メダル(マリア)、ビルヒニア・セビーリャ・ガルシア(母親リリベス)、カルロス・グティエレス(タデオ)、ノエ・エルナンデス(ラウル)、ディアナ・セダノ(ロサ)

ストーリー:現在のニカラグア、11歳のマリアは母親リリベスと一緒にマナグアの大きなゴミ捨て場で暮らしている。マリアにとってここは、見つけたものは自分のものになるアミューズメントパークのようなものでした。彼女の将来は、母親が販売するために育てている血統書付きの子犬にかかっていた。子犬に毒を盛るというアクシデントが起こり、リサイクル工場で見習いで働いていたマリアをおいて、母親は町を出ることになる。数日すぎても母親は戻ってこなかった。マリアは捨てられたと思いたくないが、混乱して腹を立てていた。ある夜のこと彼女はタデオと知り合った。上品で夢見がちな少年は、母親と共にマリアを助けようと決心する。「多くのラテンアメリカの人々が自身の国の厳しい現実のなかでも前進しようとする回復力についての映画」と監督。

   

         

       

                       (マリア役アラ・アレハンドラ・メダル)

 

 

2)「Secaderos / Tobacco Barns」スペイン

データ:製作国スペイン=米国、2022年、スペイン語、ドラマ、98分、脚本アナ・アリステギ、美術ロレナ・フェルナンデス、ヌリア・ディアス・イバニェス、メラニア・バン、造形マリア・ルイサ、キャスティングはマリチュ・サンス、録音ホアキン・パチョン、メイク&ヘアーはネレア・エレーロ、製作 & 製作者Fourminds Films / La Claqueta PC(オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド)/ La Cruda Realidad/ Un Capricho de Producciones /(米)Amplitud INC / DDT Efectos Especiales、、パオラ・サインス・デ・バランダ、撮影2021年8~9月の6週間、撮影地グラナダ県のベガ、ラス・ガビアス、フエンテ・バケロス、ラ・パスほか十数ヵ所。

 

      

 

監督:ロシオ・メサ(グラナダ県ラス・ガビアス1983)、監督、製作者、長編第2作目。セビーリャ大学コミュニケーション学部ジャーナリズム科卒、その後2010年アンダルシア政府から奨学金を授与され、ニューヨーク・フィルム・アカデミーのドキュメンタリー監督の修士号を取得、デビュー作「Orensanz」(13)は、現代アーティストのアンヘル・オレンサンスのビオピック、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭プレミアされた。製作者としてはドキュメンタリーを専門とする制作会社 My Deer Films を設立、アルバロ・ゲレアの「Alma anciana」(21)はベルリン映画祭フォーラム部門で上映された。2014年ロサンゼルスに拠点を置く LA OLA を仲間と設立し代表を務めている。ロス以外のニューヨーク、メキシコシティなどの都市でスペインの前衛映画の普及に推進している。カリフォルニア在住、第2作を撮るため帰郷した。

 

   

                  (「Secaderos」撮影中のロシオ・メサ、2021年9月)

  

★第2作は、製作チームの90パーセントがアンダルシア人、スタッフは勿論のこと、約2000人がオーディションに集まり、150人に絞り込むまで1ヵ月を要したという。根気よくキャスティングに臨んでくれたマリチェ・サンスに感謝している。地元のアマチュアを起用したことで、物語がよりリアルになっている。スタッフ以外にもフリーランスのマリエタ・バウティスタ、アルバ・サビオなどの協力を得た。また映画を作る別の方法があることを教えてくれた映像作家として、『顔たち、ところどころ』を89歳で撮り、カンヌ以降、映画祭の受賞行脚をしたアニエス・ヴァルダ、ルクレシア・マルテル(『サマ』)、イタリアのアリーチェ・ロルヴァケル(『夏をゆく人々』『幸福なラザロ』)、メルセデス・アルバレスなどのドキュメンタリー作家、フィクションとノンフィクションの垣根を越えて製作している女性監督をあげている。

 

     

                (主役の2人と中央が監督) 

        

キャスト:ベラ・センテネラ(少女)、アダ・マル・ルピアニェス(思春期の娘)、タマラ・アリアス、クリスティナ・エウヘニア・セグラ・モリーナ、ホセ・サエス・コネヘロ、ジェニファー・イバニェス、ほか地元住民のエキストラ多数

ストーリー:田園の小さな村は、都会に住んでいる少女には天国であり、農村で暮らす思春期にある娘には鳥籠である。二人の視点を通して、農村の内部に入り込む。魔術的リアリズムのニュアンスを帯びた夏のタバコの乾燥工場を舞台に、二つのストーリーがパラレルに描かれる。ベガ・デ・グラナダの人々への個人的な敬意と風景に捧げられた人間関係についての群像劇。最初はドキュメンタリーとして構想されたが最終的にはドラマになった。ただし監督は、フィクションとノンフィクションを区別していない。すべては創造であるからです。

   

       

              

   

                             (フレームから)

 

 

「A los libros y a las mujeres canto / To Books And Women I Sing」スペイン

データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・イタリア語、ドキュメンタリー、72分、脚本・撮影・編集・録音マリア・エロルサ & サンティ・サルバドール、製作 & 製作者 Txintxua Films コルド・アルマンドス、マリアン・フェルナンデス、撮影地ギプスコア県、ユースTCM 賞対象作品、マラガ映画祭、ビルバオ・ドキュメンタリー & 短編FFに出品、Zinebi 63 の産業セクションのネットワーキング賞を受賞。

 

     

 

監督:マリア・エロルサ(ビトリア-ガステイス1988)監督、脚本家。長編デビュー作。短編デビュー作はイマノル・ウリベ以下、バスクの監督オール参加15人からなる短編集「Kalebegiak」(16)、エロルサはマイデル・フェルナンデス・イリアルテと共同で「Las chicas de Pasaik」を撮った。他に短編ドキュメンタリー「Our Walls」(16)をマイデル・フェルナンデス・イリアルテと「Ancora Lucciole」(19)、コルド・アルマンドスと共同でドラマ「Breaches」(20)などを監督している。


★長編デビュー作は失われた珍しい、または忘れられた本を守っている年配の女性たちの物語。監督によると、この風変わりなタイトル〈私が謳う本と女性たち〉は紀元前1世紀のローマの詩人ウェルギリウス最後の未完の叙事詩『アエネーイス』の冒頭の1節「私が謳う武器と人間」から採られたそうです。ドキュメンタリーとしては珍しく愛らしいユーモラスな視点で描き、アーカイブ資料と女性たちの証言を組み合わせたユニークな構成。文学、映画、またイメージが私たちの生活にどのように役立つか、私たちをより自由にするかを語り、日常生活における想像力の重要性をエリート主義でない方法で伝えるには、どうしたらよいかを自問している。

*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2016年08月19日

 

        

   

        (タバコを吸っているタバコ労働者の壁画の前のエロルサ)        

 

キャスト:アントニア・デイアス(トニーナ)、ロレト・カサド(ロレト)、ヴィキ・クララムント(ヴィキ)、ヴァルトラウト・キルステ(ヴァル)、アン(ネ)・エロルサ(アンネ/アン)

ストーリー:ある女性はほとんど小型飛行機という名で知られています。別の女性は車の後部座席を書庫にしています。更に別の女性は書店の手に負えない書棚で指を骨折してしまいます。ハマキ工場で働く女性たちは物語を聞きながら作業しています。アイロン職人はアイロンをかけながら詩を思い出しています。彼女たち全員に、私は謳います。火、水、蛾、埃り、無知、熱狂に立ち向かい、匿名の女性軍団が本の保存を守っています。それは叙事詩も革命も武器もない、内に秘めたレジスタンスです。書籍保存に尽力する平凡で非暴力の女性たちへのオマージュ。アーカイブ資料と女性たちの証言で構成されている。

 

      

  

                 (指を骨折したと小指を見せる女性、フレームから)

 

★セクション・オフィシアルとは反対に奇しくもオール女性監督になったが、昨今のイベロアメリカ諸国の女性の台頭は目ざましい。発想の斬新さ、女性同士の団結力は見倣うべきものがある。ドノスティア栄誉賞受賞者、ジュリエット・ビノシュ、ダヴィッド・クローネンバーグの紹介、ペルラス部門ノミネートのサンティアゴ・ミトレの「Argentina、1985」、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Bardo, Falsa, crónica de unas cuantas verdades」、その他ロドリゴ・ソロゴジェン、イサキ・ラクエスタ、今回が監督デビューのフアン・ディエゴ・ボット(ペネロペ・クルス主演)、オリオル・パウロなどの新作紹介が残っています。