オリベル・ラセの 「O que arde」 が審査員賞*カンヌ映画祭2019 ⑬ ― 2019年05月29日 11:58
スペイン映画は「ある視点」部門でも評価されました!
(英語タイトルのポスター)
★オリベル・ラシェの「O que arde」(英題「Fire Will Come」)が「ある視点」部門の第2席に当たる審査員賞を受賞した。主役を演じたアマドール・アリアス、その老親役のベネディクタ・サンチェスなども現地入りした。5月21日の上映前のフォトコールでは、御年81歳(!)という遅咲きの新人ベネディクタ・サンチェスも最初こそたくさんのカメラマンに取り囲まれ緊張していたが、彼らの要望に応えてダンスまで披露するにいたった(!)。母親をフォローアップした息子アマドール・アリアスも、共に今回で俳優デビュー、監督はかなり上背がありバランスをとるため台の後ろでは膝を曲げていた。
(膝を曲げた監督とベネディクタ・サンチェス&アマドール・アリアス、21日のフォトコール)
(カメラマンの求めに応じてダンスを披露するお茶目なベネディクタ・サンチェス)
★上映後の各紙誌の評判はオール・ポジティブ評価、結果発表を待つまでもなく何かの賞に絡むのは想定されていた。「こんな小品が受賞できるなんて」と監督、ご謙遜でしょう。「現在のスペインでは、作家性の強い映画作りは何かしら問題を抱えている。この状況を変えていくためにも賞を勝ち取ろう」と監督。モロッコに10年ほど暮らした後、長年構想を練っていた新作をガリシアで撮るためにルゴ近郊の山村の我が家に帰ってきた。「我が家であると同時に我が家でもないのです。というのもシネアストは常に外国人だから、映画作りには距離をおくべきと思っています」と数日前に語っていた。
(カンヌ入りしたオリベル・ラセ以下スタッフ、キャスト一同)
★オリベル・ラシェ(パリ1982、37歳)はカンヌに縁の深い監督、デビュー作「Todos vosotros sois capitanes」(10)は、監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、第2作「Mimosas」(16)は批評家週間のグランプリ、第3作が本作である。本作について、「家族をめぐる物語性のある映画にした・・・自身は放火魔を正当化していないが、現実には痛みの鎖を断ち切りたい困難な世界が存在している。それで弁証法的ではないが、観客はすべてを理解しようと試みるだろう」と語っていた。アマドールの内面は複雑で、とくに新しい火事が起きてからの反応が見どころとなる。
★本作では溢れんばかりのビジュアルな力が強いが、音、音楽も入念に練ったという。例えばカナダのシンガーソング・ライター、吟遊詩人とも言われたレナード・コーエンの「スザンヌ」を一例に上げている。歌詞は分からないがとても気に入っており、好きになるのに意味など分からなくてもいい。「それは映画についても同じことが言えます。私たちはとても合理主義者で、すべてを理解したがりますが、それは意味がありません」ときっぱり。吟遊詩人は2016年ロサンゼルスの自宅で急死、享年82歳だった。癌を患っていたそうだが新作を発表しつづけていたから、訃報のニュースは世界を駆けめぐった。しかし日本での扱いは小さく、もっと評価されるべきとファンは急逝を惜しんだ。
(山火事のシーンから)
★自分は「映像重視の監督だが、新作はよりクラシックに、と同時に前衛的に撮ったと思う。さまざまな二分法、例えば明暗、単純で複雑、円熟と未熟というようにです」と。ルゴ近郊の山村ナビア・デ・スアルナを撮影地に選んだのは、ここが監督の母親の生れ故郷だったから。フランスから5~6歳のころ戻ったとき、「ここには道路がなく、今思うとまるで中世に戻ったようだった。祖父母たちはいい人たちだったが、素っ気なくて自分たちの不運を嘆いていた。現実を受け入れ、質素に暮らし、自分たちは取るに足りない存在と感じていた」と語る監督、1980年代後半のガリシアの山村はマドリードやバルセロナとはかなり差があったということです。時間が経ってもガリシア人の複雑で屈折した気質は変わらない。それが作品に織り込まれているようです。
★今は映画から少し距離をおきたいということです。ここガリシアに腰を落ち着けて考えたいことがあるという。するべきことは何か、「ここのコミュニティのためにしたいことがある。映画は神経症を理解したり、人がどうして愛を必要とするのか理解するのに役立つが・・・円熟とは愛が必要でないと気づくときです。それは既に愛に囲まれているからなのです。所詮、私は愚か者でありつづけている。今よりひどい映画を作るくらいなら愚かでいるほうが好きなんだ」。じゃ第4作は何時になるのか?
★レバノンの監督ナディーヌ・ラバキ審査委員長以下、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソ(『約束の地』15)他の審査員に感謝です。字幕入り上映を期待します。
* 第2作「Mimosas」とキャリア紹介は、コチラ⇒2016年05月22日
*「O que arde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日
追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映が決定しました。東京国際映画祭との共催です。
アントニオ・バンデラス、男優賞を受賞*カンヌ映画祭2019 ⑫ ― 2019年05月26日 17:14
「ペドロのお蔭」とアルモドバルに感謝のバンデラス
★あっという間に終幕、パルムドールは韓国の格差社会批判をエンタメで料理した「Parasite」のポン・ジュノの手に渡りました。2年連続でアジアの家族映画が評価されたわけです。カンヌは1作品1賞が原則、パルムドール発表は最後だから、受賞者が発表になる度にパルムドールは絞られていく。男優賞にアントニオ・バンデラスが決まった段階でペドロ・アルモドバルのパルムドール受賞は消えたわけです。バッドの✖と星★★★★満点で今回は3つ以上が4作もあった。「Parasite」の3.5点が最高、「Dolor y gloria」とセリーヌ・シアマの「Portrait of a Lady on Fire」が3.3点、クエンティン・タランティノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は✖が1つあったが3点、4作とも何らかの賞に絡んだ。
(パルムドールのポン・ジュノ)
★スペイン映画の受賞歴は12回、うちスペイン人俳優の受賞が5回だそうです。最初が1977年、カルロス・サウラの『愛しのエリサ』のフェルナンド・レイ、1984年マリオ・カムスの『無垢なる聖者』のパコ・ラバル&アルフレッド・ランダ、2006年アルモドバルの『ボルベール<帰郷>』のペネロペ・クルス、カルメン・マウラ含めて6人の女優、20100年は今回の審査委員長を務めたメキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』のハビエル・バルデム、そしてバンデラスの順でした。アルモドバルが男女両方の受賞に寄与したことになりました。今回は音楽を手掛けた作曲家のアルベルト・イグレシアスも本賞ではないがサウンドトラック賞を受賞した。1995年の『私の秘密の花』以来、アルモドバル映画のすべてを手掛けている。
★主人公サルバドール・マジョ(アルモドバルの分身)を演じたアントニオ・バンデラス(マラガ、58歳)は、まず監督に感謝のお礼、「みんなが私の演じた人物が彼であることを知っている。素晴らしいのはここに自分が立っていることです」と喜びのスピーチ。19日午前の共同プレス会見で「拍手喝采も賞も重要なことではない。本作の撮影に費やした数ヵ月が私の役者人生で最も幸せな月日であった。この体験は誰も私から奪えない」と語ったように、賞は後からついてきたもののようです。2017年1月、突然の心臓の痛みに即検査入院、離婚後のパートナーである投資銀行家ニコール・ケンプルさんに付き添われ、ジュネーブの心臓外科病院でステント手術を受けていたことを後に明かした。カンヌ映画祭にも彼女を伴って カンヌ入りしていた。
(登壇して聴衆に感謝のスピーチ、右端が審査委員長ゴンサレス・イニャリトゥ)
(一緒にカンヌ入りしたニコール・ケンプルさんとバンデラス)
(アルモドバルの分身サルバドール・マジョを演じた受賞者、映画から)
*バンデラスのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2014年06月21日/同年11月05日
*心臓手術の記事は、コチラ⇒2017年04月01日
★スペイン語映画ではありませんが、ブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオ&ジュリアノ・ドルネレスの「Bacurau」が審査員賞を受賞しました。Bacurauバクラウは町の名前のようです。クレベール・メンドンサ・フィリオは『アクエリアス』(16)の監督、ジュリアノ・ドルネレスは美術を担当した。今回の審査員賞は、フランスのラジ・リの「Les misérables」とのタイ受賞でした。
アルモドバル新作「Dolor y gloria」が好評*カンヌ映画祭2019 ⑪ ― 2019年05月25日 11:47
フランス各紙誌の評価はトップを走っている!
(監督とバンデラスからキスを受けるペネロペ・クルス、19日の共同記者会見前)
★アルモドバルの「Dolor y gloria」が好評です。2017年の『ジュリエッタ』とは大分カンヌの雰囲気が違うようです。というのもフランスほか各紙誌の評価がトップを走っているから。当然のことだがパルム・ドール受賞と星取表は必ずしも一致しませんが確率は高い。22日に上映されたポン・ジュノの「Parasite」も好感度バツグンだし、今年はケン・ローチ以下、大物監督の新作も完成度が高いようなので独走というわけではありません。「パルムドールには拘っていない」と言ってるそうだが、本心ではないに決まっています。上映後の12分間のオベーションに一同うるうるだったそうです。
(オベーションをうける監督ほか出演者たち、ノラ・ナバス、バンデラス、クルス)
★19日午前に行われた共同プレス会見には監督の他、アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、レオナルド・スバラグリア、アシエル・エチェアンディア、ノラ・ナバスが出席した。18日の上映日は明け方からイマイチで雨に見舞われたようですが、そんなことは些細なことで気にならなかったと語っていた。「今まで経験したこともない幸せな雨でした。昨夜のことは忘れることができないでしょう」ということでした。夜が壮観だったなら朝のインターナショナルな批評は成功を裏付けるものになる。フランスの各紙誌の評価は平均3.4点、3点以上は例年では少ない。実力者の一人ステファニー・ザカレックも最高点をつけている。パルムドールを予想する批評家は15人ちゅう11人、ホントかな。
(左から、ナバス、バンデラス、監督、クルス、エチェアンディア、スバラグリア)
(監督を挟んでバンデラスとクルス、共同記者会見)
★アルモドバル嫌いで常に辛口批評で有名なエル・パイス紙のコラムニスト、カルロス・ボジェロも「すれすれでパルムドール圏内にいる」が、審査委員長「アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ好みはテレンス・マリックの「A Hidden Life」、個人的にはケン・ローチの「Sorry We Missed You」に感動した」ということです。彼は『抱擁のかけら』を無視したコラムニストだが、「Dolor y gloria」スペイン公開時にはペネロペ・クルスの演技を褒めていた。いよいよ明日がコンペティション部門の発表です。
★発表が一日早い「ある視点」の結果は、当ブログ紹介のオリヴェル・ラセの「O que arde」が審査員賞(写真下)、評価が分かれたアルベルト・セラの「Liberté」が審査員特別賞、未紹介でしたがブラジルのカリム・アイノーズの「Vida invisível」がグランプリを受賞するなど収穫の多い年になりました。
特別上映作品にパトリシオ・グスマンの新作*カンヌ映画祭2019 ⑩ ― 2019年05月15日 15:43
もう1作はパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los sueños」
★特別上映作品のもう1作は、チリのパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los sueños」というドキュメンタリーです。チリ最北部を撮った『光のノスタルジア』(10)と最南端を撮った『真珠のボタン』(15)は2部作となっています。後者がベルリン映画祭2015の銀熊脚本賞を受賞したことで本邦でも公開されたのでした。ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン(1930)との対談(2015年1月)で、「もし第三部を撮るとしたらアンデス山脈になるが、目下具体的な案はないし、その可能性もない」とかつて語っていた監督、幸いなことに可能性があったようです。
「La Cordillera de los sueños」(「The Cordillera of Dreams」)2019
製作:ARTE / Atacama Productions
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
撮影:サムエル・ラフ Lahu
データ・映画祭:製作国フランス=チリ、スペイン語、2019年、ドキュメンタリー、85分、撮影地アンデス山脈。配給Pyramid Distribution(仏)。カンヌ映画祭2019コンペティション部門特別上映作品、ドキュメンタリー賞(ルイユ・ドール賞)を受賞。
解説:カンヌ映画祭総ディレクターであるティエリー・フレモーのコメントによると「パトリシオ・グスマンは、軍事独裁政権が民主的に選ばれた政府を転覆させた40年前にチリを離れた。しかし片時も忘れたことがない地図上の母国、その文化について考え続けている。『光のノスタルジア』で北部を『真珠のボタン』で南部を描いたのち、彼が<チリの過去と現在の歴史をつらぬく広大で明白な脊柱>と称するところに近づいて行く。「La Cordillera de los sueños」は、映像詩であり、歴史的質疑であり、映像エッセイであるとともに個人的な心の探求である」
★チリのピノチェト軍事独裁政権を倦むことなく糾弾し続けるグスマン監督は、第1部、第2部に続いて本作で三部作を完成させたことになる。広大なチリの脊柱アンデス山脈を舞台に、精神的探求者が語るビジュアルなエッセイのようです。数カ月前に完成させたばかりの新作がカンヌ映画祭のセレクションで特別上映されることについて「カンヌは私の仕事のために常に連携してくれている。チリの隠された歴史シリーズの第3部が、このような重要な映画祭で上映されるのは光栄なことです」と語っている。
★「わたしの国ではあらゆる場所に山脈がありますが、チリの国民にとっては殆ど見知らぬ領域同然なのです。『光のノスタルジア』で北を、『真珠のボタン』で南端を描き、今度は山脈の美しさを探求し、その神秘を明らかにするために、この広大な脊柱をフィルムにおさめる用意ができたと思いました」とグスマン。
★チリの製作者で配給を手掛けるアレクサンドラ・ガルビスは「この映画は大きな挑戦でした。しかし監督は、撮影がアクセスの難しかった高山にもかかわらず、肉体的な限界というものを感じさせなかった」と語っている。今年のクラシック部門にルイス・ブニュエルが特集され、フランス映画『黄金時代』(30)とメキシコ時代の『忘れられた人々』(50)が4K修整、『ナサリン』(58)が3K修整で上映されるようです。今年もセレブが顔を揃えて華々しく開幕したニュースが入ってきました。高がカンヌ、されどカンヌですか。
(撮影中のグスマン監督と撮影監督のサムエル・ラフ)
*『光のノスタルジア』の作品紹介、監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年11月11日
*『真珠のボタン』の作品紹介記事は、コチラ⇒2015年11月16日
特別上映作品にG. G.ベルナルの第2作*カンヌ映画祭2019 ⑨ ― 2019年05月13日 15:42
11年ぶりG. G. ガエルの監督第2作めは「Chicuarotes」
★コンペティション部門他、追加作品や特別上映のアナウンスが五月雨式にアナウンスされています。中でスペイン語映画としては、特別上映部門にメキシコのガエル・ガルシア・ベルナルの「Chicuarotes」と、チリのパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los Sueños」の上映が発表されました。ガルシア・ベルナルは自他ともに許す国際的俳優ですが、監督としては2007年の監督デビュー以来ブランクが長く11年ぶりの2作目となります。それにはそれなりの理由があると思います。一つには第1作『太陽のかけら』の失敗が尾を引いていると考えられます。本国では「一体全体、ガエルは何を考えてんの?」と、肝心の若者からそっぽを向かれ、評価はイマイチでした。原タイトルは「DEFICIT」(欠乏・欠如)という邦題のつけにくいものでしたが、選りに選って<太陽のかけら>と意味不明となりました。本邦でもガエル人気をもってしてもファンから歓迎されませんでした。
★デビュー作はカンヌ映画祭併催の「批評家週間」に出品されたのが幸いして、ラテンビート2008で「デフィシット」とカタカナ起こしの題名で上映されました。金も権力も有りあまる政治家の息子クリストバル(G.G.ガエル主演)が、別荘で金持ちぼんぼんを集めてどんちゃん騒ぎをした結果、思いもよらない事件が起こり、息子は一人取り残される。メキシコ社会に根づいてしまった経済文化の二極化、硬直化したメキシコ独特の政治システムに切り込んで、何が<欠如>していたのか、または<欠如>とは何かという重いテーマでした。しかし演出法にも問題があって観客の心を捉えるには至りませんでした。
(デビュー作『太陽のかけら』)
★第2作「Chicuarotes」は、生れ故郷を後にした10代の若者二人が、惨めな現状を打開してリッチになるための方策に着手するが、それは危険な世界に足を踏みだすことだった。今回は監督業に専念し、キャストは2人の青年役にベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル、ベニーのガールフレンドにレイディ・グティエレス、若い3人を支えるのがダニエル・ヒメネス=カチョ、ドロレス・エレディアなどベテラン勢で脇を固めている。
(本作撮影中のG.G.ガエル監督)
「Chicuarotes」メキシコ、2019
製作:Canana Films / La Corriente del Golfo / Pulse Films
監督:ガエル・ガルシア・ベルナル
脚本:アウグスト・メンドサ
撮影:フアン・パブロ・ラミレス
音楽:レオナルド・Heiblum、ハコボ・Lieberman
編集:セバスティアン・セプルベダ
美術:ロベルト・ピサロ
プロダクション・デザイン:ルイサ・グアラ
キャスティング:ルイス・ロサレス
衣装デザイン:アマンダ・カルカモ
メイクアップ:アントニオ・ガルフィアス
プロダクション・マネージメント:オスカル・エストラダ
製作者:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マルタ・ヌニェス・プエルト、(ライン・プロデューサー)マリアナ・ロドリゲス・カバルガ
データ・映画祭:製作国メキシコ、スペイン語、2019年、シリアス・コメディ、撮影地ソチミルコのサン・グレゴリオ・アトラプルコ、メキシコシティ、撮影期間2017年12月~2018年1月、公開メキシコ2019年6月28日。カンヌ映画祭2019コンペティション部門の特別上映作品
キャスト:ベニー・エマニュエル(エル・カガレラ)、ガブリエル・カルバハル(エル・モロテコ)、ドロレス・エレディア(トンチ)、ダニエル・ヒメネス=カチョ(チジャミル)、ペドロ・ホアキン(ビクトル)、レイディ・グティエレス(スヘイリ)、サウル・メルカド(カリナ)、他
ストーリー:二人の若者エル・カガレラとエル・モロテコの物語。惨めな現状から抜け出すべく生れ故郷を後にする。友達から電気工シンジケートの中に潜り込める可能性を聞き出した二人は手始めに抜け道に着手する。カガレラのガールフレンドのスヘイリも一緒に、お金と権力をまとめて手に入れようとさまざまな方法を考える。それは犯罪の世界に足を踏みだす危険なアバンチュールでもあった。自由を手に入れようとする貧しい若者たちの姿がコメディタッチで語られる。
(ベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル)
(エル・カガレラのガールフレンド、レイディ・グティエレス扮するスヘイリ)
(中央ダニエル・ヒメネス=カチョと若者たち)
★タイトルの《Chicuarotes》の意味は二つあり、一つはメキシコ固有のチリトウガラシ、もう一つが「見栄っ張り、または頑固者で扱いにくい」という、映画の舞台となる町サン・グレゴリオ・アトラプルコ出身の住民の特徴を指す単語だそうです。サン・グレゴリオ・アトラプルコ(ナワトル語で泉の湧き出るの意)はメキシコシティ南東部、観光地としても有名なソチミルコに所属、「大きな問題を抱えた美しい町」と称されている。G.G.ガエル監督は、この町の歴史、人類学、観光、社会の成り立ちを調査するために、スタッフと共に6~7年前からしばしば現地の取材に訪れている。脚本家のアウグスト・メンドサはこの町の出身者ということです。
★サン・グレゴリオ・アトラプルコは、2017年9月19日正午すぎ、メキシコを襲ったマグニチュード7.1のメキシコ中部地震で甚大な被害を被った都市の一つだそうです。メキシコ全体で約360名の人命が奪われ、日本からも救助隊が駆けつけるなど大きく報道された、記憶に新しい地震でした。
★表面的にはコメディタッチだが、深層的には「かなりダーク、不本意のコメディ」とエル・カガレラ役のベニー・エマニュエルは語っている。メキシコを代表するG.G.ガエルの監督第2作ということで情報は結構ありますが、コンペではないの簡単なご紹介とします。
「批評家週間」にコスタリカ映画*カンヌ映画祭2019 ⑧ ― 2019年05月09日 16:10
ソフィア・キロス・ウベダのデビュー作「Ceniza negra」
★「批評家週間」のもう1作「Ceniza negra」は、アルゼンチン出身のソフィア・キロス・ウベダのデビュー作です。「批評家週間」2017の短編部門にノミネーションされた「Selva」がベースになっているようです。両作とも主役にスマチレーン・グティエレスSmachleen Gutiérrezを起用している。ソフィア・キロス・ウベダ監督は1989年ブエノスアイレス生れですが、ここ数年はコスタリカに在住している。
「Ceniza negra」(「Land of Ashes」「Cendre Noire」)
製作:製作者:Sputnik Films(マリアナ・ムリージョ・Q)、Murillo Cine(セシリア・サリム)、
La Post Producciones(ミジャライ・コルテス、マティアス・エチェバリア)、
(共同)Promenades Films(サムエル・チャウビン)
監督・脚本:ソフィア・キロス・ウベダ
撮影:フランシスカ・サエス・アグルト
編集:アリエル・エスカランテ・メサ
音楽:Wassim Hojeij
録音:クリスティアン・コスグロベ
プロダクション・デザイン:カロリナ・レットLett
データ・映画祭:製作国コスタリカ=アルゼンチン=チリ=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、撮影地コスタリカのリモン、配給EUROZOOM。「批評家週間」2019正式出品、5月19日(英語と仏語の字幕上映)他
キャスト:スマチレーン・グティエレス(セルバ)、ウンベルト・サムエルズ(祖父タタ)、オルテンシア・スミス(エレナ)、キハ(ケハ)・ブラウンKeha Brown(ウインター)
ストーリー:13歳になるセルバは、カリブ海沿岸の町に住んでいる。セルバは死ぬと脱皮できることを発見する。例えばオオカミやヤギ、影、または自分で思いつくどんなものにも変身できる。野菜畑に囲まれた家で暮らしているが、父に続いて母親も突然姿を消してしまうと、残されたセルバは死にたがっている祖父の世話を一人でしなければならない。祖父の願いを叶えてやるかどうか決心しなければならないが、それは子供時代との最後の決別を意味したからだ。
(セルバ役のスマチレーン・グティエレス)
(祖父タタとセルバ)
★キロス監督によると「子供たちが死をどのように理解するのかに興味をもって、2012年ごろから温めていた。約5年前に執筆をスタートさせ、2016年に「Selva」として短編が結実、翌年カンヌで上映できた。長編は主役セルバに同じスマチレーン・グティエレスを起用してその成長課程を追っている。多くの子供たちの中から彼女を見つけられたことは幸運だった。小さな映画だが、カンヌにノミネートされた最初のコスタリカ映画ということに誇りを感じている」とインタビューに答えている。
(短編「Selva」のポスター)
★ソフィア・キロス・ウベダ Sofía Quirós Ubeda は1989年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。2011年短編ドキュメンタリー「Al otro lado」(15分、共同監督)、2016年、コスタリカ、アルゼンチン、チリ合作短編フィクション「Selva」(17分、西語・英語)は、カンヌ上映後40数ヵ都市で上映された。なかでビアリッツ映画祭、グアナファト映画祭が含まれる。製作はSputnik Filmsのマリアナ・ムリージョ・ケサダ、撮影監督にフランシスカ・サエス・アグルトと長編に同じでした。2019年本作、次回作「Entretierra」が進行中。
(ソフィア・キロス・ウベダ監督、2017年)
(短編ドキュメンタリー「Al otro lado」ポスター)
「批評家週間」にグアテマラ映画*カンヌ映画祭2019 ⑦ ― 2019年05月07日 16:47
セサル・ディアスのデビュー作「Nuestras madres」
(フランスの売出し中の俳優フェリックス・マリトーを配したポスター)
★第58回「批評家週間」2019のコンペティション部門のノミネーションは7作、うちスペイン語映画はセサル・ディアスのデビュー作「Nuestras madres」(グアテマラ=ベルギー=仏)とソフィア・キロス・ウベダの「Ceniza negra」(コスタリカ=アルゼンチン=チリ=仏)の2作が選ばれました。他に特別上映としてコロンビアのフランコ・ロジィの「Litigante」がオープニング作品に選ばれています。「批評家週間」はカンヌ本体より先に結果が発表になります(15日~23日)。審査委員長はコロンビアの監督チロ(シーロ)・ゲーラ、『夏の鳥』や『彷徨える河』が記憶に新しい。「批評家週間」ポスターのフェリックス・マリトーは1992年ヌヴェール生れの26歳、『BPMビート・パー・ミニット』、新作「Sauvage/Wild」で初めて主役を演じた目下売り出し中。先ずセサル・ディアスのデビュー作からご紹介します。
「Nuestras madres」(「Our Mothers」)
製作&製作者:Need Productions(Geraline Spimont)/ Perspective Films(Delphine Schmit)
監督・脚本:セサル・ディアス
撮影:Virginie Surdej
編集:Damien Maestraggi
音楽:Rémi Boubal
録音:Vicent Nouaille、Gilles Bernardeau、Emmanuel de Boissieu
衣装デザイン:ソフィア・ランタン
プロダクション・デザイン:ピラール・ペレド
データ・映画祭:製作国グアテマラ=ベルギー=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、配給:Pyramide International。第58回「批評家週間」2019正式出品、ワールドプレミア。
キャスト:アルマンド・エスピティア(エルネスト)、エンマ・ディブ(クリスティナ)、Aurelia Caal、ビクトル・モレイラ、フリオ・セラノ・エチェベリア、他
ストーリー:2013年、グアテマラは内戦を引き起こした陸軍将校たちの裁判に釘付けになっている。犠牲者たちの証言が次々に行方不明者を特定していく。ある日、法医学財団の若い人類学者エルネストは、老婦人の話を通して、内戦中に行方不明になったゲリラ兵の父親を見つけられたと考えている。彼は母親の願いに逆らって、真実を求めて心身ともにのめりこんでいく。
(犠牲者の証言をもとに行方不明者を特定していくエルネスト)
★当ブログのグアテマラ映画紹介は、ハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(15)1作しかないという寂しさです。ベルリン映画祭で銀熊賞「アルフレッド・バウアー賞」を受賞した作品、この映画も20世紀後半のグアテマラを殺戮と恐怖に陥れた内戦(1960~96)を時代背景にした力作でした。36年に及んだ内戦の死者・行方不明者20万人のほぼ全員が先住民マヤの人々、先住民族ジェノサイドと言われる所以です。1996年「恒久的和平協定」が調印された後も殺害やリンチは後を絶たず、ジェノサイドをめぐる真相の多くは「殺害」されたまま残されているということでしょうか。中米グアテマラは総人口1760万人の約40%を先住民族が占め、彼らは公用語のスペイン語を話さない人々も多数存在する。ということで本作の使用言語はスペイン語だけではないと想定しております。
★主人公エルネストの父親は軍事独裁政権と闘ったゲリラ兵、内戦中に行方不明になったという設定のようです。エルネストに証言した老婦人役を誰が演じているのか目下詳細が不明ですが、『火の山のマリア』でマリアの母親になった、プロの女優マリア・テロンに似ているようですが。
*『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ⇒2015年08月28日/10月25日
(老婦人役は、もしかしてマリア・テロンか?)
★セサル・ディアスCésar Díaz、1978年グアテマラ・シティ生れ、監督、脚本家、映画編集者。ベルギーとグアテマラの国籍を持つ。メキシコとベルギーで学んだあと、パリのLa FEMISの脚本コースに参加する。10年以上編集とドキュメンタリーに取り組む。2010年、短編ドキュメンタリー「Semillas de Cenizas」が好評で20数ヵ所の映画祭で上映される。2015年、長編ドキュメンタリー「Territory Liberado」がメキシコのIMCINE(Instituto Mexicano de Cinematografía)賞を受賞、今回初長編映画が「批評家週間」にノミネートされた。
(短編ドキュメンタリー「Semillas de Cenizas」から)
(長編ドキュメンタリー「Territory Liberado」から)
★エルネスト役のアルマンド・エスピティアはメキシコの俳優。カンヌ映画祭2013コンペティション部門に出品されたアマ・エスカランテの『エリ』(13)で17歳のエリ役でデビューした。エスカランテ監督は本作で監督賞を受賞して周囲を驚かせた。翌年マックス・スニノのコメディ「Los Bañistas」(14)に出演、メキシコのTVシリーズにも出演している。
*『エリ』の作品紹介は、コチラ⇒2013年10月08日
*「Los Bañistas」の作品紹介は、コチラ⇒2014年08月21日
★クリスティナ役のエンマ・ディブはメキシコの女優、メキシコ映画マリアナ・H・メンチャカの「Preludio a una siesta」(18)、アイザック・チェレムの「Leona」(18)などに脇役で出演している。
(アルマンド・エスピティアとエンマ・ディブ、映画から)
(エルネストと先住民族マヤの女性たち)
「監督週間」のもう1作はアルゼンチン映画*カンヌ映画祭2019 ⑥ ― 2019年05月05日 21:00
アレホ・モギジャンスキイの第6作目「Por el dinero」
★今年の「監督週間」は24作中16作がデビュー作というなかで、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイ「Por el dinero」は第6作目と異例、少し変わった作風の監督という印象です。2009年の長編第2作「Castro」がブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIで作品賞を受賞、続いてロカルノ、バンコク、ワルシャワ、ロンドン、ウィーン、テッサロニキほか各国際映画祭巡りをしました。BAFICI は4月下旬開催の映画祭で、マラガ映画祭と重なることから定期的に作品紹介はしておりませんが、カンヌのような大きな映画祭へ繋がるのでアルゼンチンの若手監督には重要な映画祭です。
(キューバのカストロとは無関係な「Castro」のポスター)
★モギジャンスキイが編集を担当したマリアノ・ジナス監督の「La flor」(18)を製作したEl Pampero Cine が手掛けました。今作はBAFICI 2018の作品賞受賞作品、若い監督をサポートしている制作会社、ロカルノ、ニューヨーク、ウィーン各映画祭で上映された話題作です。モギジャンスキイは編集者として若手監督とのコラボを多く手掛けています。編集者というのは大体が監督との共同作業がもっぱらで目立たない存在ですが、これなくしては完成しない。マリアノ・ジナスは反対にモギジャンスキイの第4作「El escarabajo de oro」(14)の脚本を共同執筆するなどしている。エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』やロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』をベースにして作られたたコメディ・アドベンチャー映画です。
(監督・脚本・編集の「El escarabajo de oro」のポスター)
★前作5作まではすべてBAFICIに出品されましたが、「Por el dinero」はいきなり「監督週間」でワールドプレミアされます。詳細を入手できていませんが、どうやら2016年10月に舞台で上演された同タイトルの映画化のようです。その際は女優でダンサーのルチアナ・アクーニャと共同で演出、主演しましたが、映画のほうはモギジャンスキイが一人で監督しました。
(演劇「Por el dinero」のポスター)
(演劇「Por el dinero」の舞台から4人の出演者)
「Por el dinero」(「For the Money」)
製作:El Pampero Cine
監督・脚本:アレホ・モギジャンスキイ
脚本:ルチアナ・アクーニャ(共同執筆)
音楽:ガブリエルChwojnik
撮影:セバスチャン・アルペセジャArpesella
衣装デザイン:マリアナ・ティランテTirantte
データ・映画祭:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、社会風刺コメディ。カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品。
キャスト:ルチアナ・アクーニャ(ダンサー)、ガブリエルChwojnik(ミュージシャン)、マチュー・ペルポイント(フランス人ダンサー)、アレホ・モギジャンスキイ(シネアスト)
ストーリー:現代社会に生きるアーティストたち4人の現状にフォーカスした政治的風刺コメディ。一人はミュージシャン、二人は舞踊家、もう一人はシネアスト。私たち「どうやって生きていく?」「映画製作の資金は?」「生活費はどうやって稼ぐ?」「愛かお金かどっちがいい?」「すべきことは何?」エトセトラ。もしかしたら困難なテーマについて何かヒントが見つかるかもしれません。(文責:管理人)
★舞台と同じメンバーが出演していることからプロットに変更はなさそうですが、映像が入手できないので、これ以上は深入りできません。下の写真はたまたま見つかったもので、グーグルで目にするのは大体舞台で上映されたときの写真です。
(どういうシチュエーションか分からないが見つかったフォト)
(ルチアナ・アクーニャ、後ろ向きはモギジャンスキイか)
★アレホ・モギジャンスキイAlejo Moguillansky 1978年ブエノスアイレスうまれ、監督、脚本家、編集者、俳優、製作者。2004年映画編集者として出発、監督デビュー作はBAFICI出品の「La prisionera」(05)、以下の長編6作のほか、長編ドキュメンタリーや短編ドキュメンタリーを撮っている。第5作となる「La vendedora de fosforos」(2017「The Little Match Girl」)が話題になった。
(アレホ・モギジャンスキイ、2018年)
2005「La prisionera」監督・脚本・編集
2009「Castro」同上 BAFICI 2009 作品賞受賞作、
インディリスボン映画祭2010国際映画批評家連盟FIPRESCI賞受賞作
2013「El loro y el cisne」同上、BAFICI 2013 スペシャル・メンション
2014「El escarabajo de oro」監督・脚本・編集
2017「La vendedora de fosforos」監督・脚本・編集
2019「Por el dinero」同上、省略
「監督週間」にペルー映画*カンヌ映画祭2019 ⑤ ― 2019年05月01日 20:21
メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は80年代の実話に基づく
★4月23日、第51回「監督週間」のノミネーション発表がありました。今年からディレクターがイタリアのパウロ・モレッティに変わりました。ノミネーションも24作と増え、うち16作が長編デビュー作です。スペイン語映画ではペルーのメリナ・レオンのデビュー作「Canción sin nombre」(「Song Without Name」スイス合作)と、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイの「Por el dinero」(「For the Maney」)がノミネートされました。共にワールドプレミアです。先ずはレディファーストとして前者からご紹介。「監督週間」のオープニングは5月15日。
★メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は、1988年リマで実際にあった乳児誘拐事件にインスパイアされて製作されました。ペルーの1980年代は、政治経済のみならず社会全体が長い内戦状態でした。この時代を背景にしたペルー映画は数多く、例えばクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(09金熊賞受賞作品)や、当ブログ紹介のバチャ・カラベド&チノン・ヒガシオンナ監督の「Perro guardián」(14)他、内戦の瑕をテーマにした映画が多い。
*「Perro guardián」の紹介記事は、コチラ⇒2014年09月04日
「Canción sin nombre」(「Song Without Name」)
製作:Bord Cadre Films / La Vida Misma Films / Mgc Marketing / Torch Films
監督:メリナ・レオン
脚本:メリナ・レオン、マイケル・ホワイト
編集:マヌエル・バウアー
撮影:インティ・ブリオネス
音楽:パウチ・ササキ
美術:ギセラGisela・ラミレス
録音:オマル・パレハ
キャスティング:ルス・タマヨ
製作者:ティム・ホッブズ、Ori Dav Gratch、メリナ・レオン、ヘスス・ピメンテル
データ:製作国ペルー=スイス、言語スペイン語・ケチュア語、スリラードラマ、モノクロ、撮影地ビリャ・エル・サルバドール、リマ中心街、イキトス。2014年長編映画プロジェクト・ナショナル・コンクール優勝、ニューヨークのジェローム基金、グアダラハラ共同マーケット、クラウドファンディングで製作資金を得て製作された。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「監督週間」正式出品、
キャスト:パメラ・メンドサ(ヘオルヒナ・コンドリ)、トミー・パラガ(記者ペドロ・カンポス)、ルシオ・ロハス(レオ)、マイコル・エルナンデス(イサ)、ルス・アルマス(マルタ)、他
ストーリー:1988年アンデス出身のヘオルヒナは、リマのサン・ベニト・クリニックで女の子を出産するが、娘の姿は突如消えてしまい誘拐されたことを知る。必死で探すうちある新聞社のジャーナリストのペドロ・カンポスに出会うことができ、彼は娘の捜索を引き受けてくれる。1980年代のペルーは内戦のさなかで社会はカオス状態であった。実際にリマで起きた乳児誘拐事件にインスパイアされて製作された。
★公式サイトに製作国が「ペルー、スイス」だが、ペルーでの紹介記事では「ペルー、米国、スペイン、メキシコ」、IMDbでは「ベル―、米国」と若干食い違う。メインの制作会社Bord Cadre Films の本社はジュネーブにあり、最近のラテンアメリカ諸国映画に力を注いでいる。クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ『夏の鳥』、アマ・エスカランテ『触手』、カルロス・レイガーダス『われらの時代』、スペイン映画ではイサ・カンポ&イサキ・ラクエスタ『記憶の行方』など話題作に出資している。
★ニューヨークの制作会社 Torch Filmsはドキュメンタリーを得意とし、ドラマではアントニオ・メンデス・エスパルサの『ヒア・アンド・ゼア』などメキシコとの合作映画に出資しており、メインプロデューサーのティム・ホッブズは本作も手掛けている。もう一人のOri Dav Gratchは監督の短編「El Paraíso de Lili」がニューヨーク映画祭2009で上映されたときに知り合ったプロデューサーで、ホッブズ同様『ヒア・アンド・ゼア』を手掛けている。本作には米国の資金が入っていることは明らかです。ヘスス・ピメンテルはメキシコの製作者、Mgc Marketingはスペイン、La Vida Misma Filmsはメリナ・レオン監督が出資先が見つからない「Canción sin nombre」のために2012年に設立した。
★監督によると「ヘオルヒナ・コンドリは、貧しい移民で身寄りのない女性だったが、アーティストでファイターだった」と語っている。ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサとレオ役のルシオ・ロハスは初出演、ジャーナリスト役のトミー・パラガは「El Paraíso de Lili」、マリアネラ・ベガの短編「Payasos」(09、20分)、スペインからはマイコル・エルナンデスが出演、サルバドル・カルボの『1898:スペイン領フィリピン最後の日』、アルバロ・フェルナンデス・アルメロの『迷えるオトナたち』などに出演、マルタ役のルス・アルマスもスペイン女優、オスカル・サントスの『命の相続人』(10)、ホルヘ・ナランホの「Casting」(13)ではマラガ映画祭「銀のビスナガ助演女優賞」をグループで受賞している。
(ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサと新聞記者役のトミー・パラガ)
(本作撮影中のメリナ・レオン監督)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★リマ大学で映画&ビデオを学び、その後2009年ニューヨークのコロンビア大学映画監督科の修士号を取得する。監督、脚本家、製作者、編集者。コロンビア大学卒業後もニューヨークに留まって、アンダーグラウンドのアーティストたちとのコラボ、『エル ELLE』のようなモード雑誌のイベントを手掛けた。リマに戻ってからは、グーグルが支援するユニセフのためのビデオを製作、2012年制作会社「La Vida Misma Films」を設立、長編デビュー作「Canción sin nombre」を製作する。本作で音楽を担当した日系ペルー人パウチ・ササキとの共同監督で「Sho」というドキュメンタリーを企画中。パウチ・ササキは作曲家フィリップ・グラスに師事しているヴァイオリニスト、カーネギー・ホールでの演奏経験をもち来日もしている。現在は主にアメリカで活躍中。前述のバチャ・カラベド&チノン・ヒガシオンナの「Perro guardián」の音楽も手掛けている。
(パウチ・ササキとフィリップ・グラス)
★「Una 45 para los gastos del mes」と「El Paraíso de Lili」がConacine(ペルーの文化省主催)によって最優秀短編賞を受賞した。特に後者はニューヨーク映画祭2009に正式出品され受賞歴多数。うちサンパウロ短編映画祭ラテンアメリカ部門で短編賞を受賞している。
2000「Una 45 para los gastos del mes」短編
2007「Girl with a Walkman」短編、監督・脚本・製作
2009「El Paraíso de Lili」短編、モノクロ、監督・脚本・製作
2019「Canción sin nombre」本作
追加情報:『名もなき歌』の邦題で劇場公開になりました。
東京はユーロスペース、2021年7月31日(土)~
オリベル・ラセの新作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2019 ④ ― 2019年04月28日 16:16
予告通り新作はガリシア地方の山村が舞台
★2010年のデビュー作「Todos vós sodes capitáns」(「You All Are Captains」)から第2作「Mimosas」まで資金不足で6年かかりましたが、新作「O que arde」までは半分の3年に短縮できました。2016年、さいわいなことに「Mimosas」がカンヌ映画祭併催の「批評家週間」でグランプリをとったことで資金調達が順調だったことが理由です。オリベル・ラセ(ガリシア語読みならオリベル・ラシェか)の新作は、予告通り北スペインのガリシア地方の山村が舞台です。アルベルト・セラの「Liberté」よりは若干多めの情報が入手できました。
(2016年「批評家週間」グランプリ作品「Mimosas」のポスター)
★ラセ監督は37年前の1982年にパリで生れた、監督、脚本家、製作者、俳優。5~6歳ごろガリシア州ア・コルーニャ(ラ・コルーニャ)に戻り、大西洋に面した貿易都市ポンテべドラ、内陸部のルゴなどに住み、映画はバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学で学んだ後、ロンドンでもキャリアを積んだ。10年ほど毎年モロッコで暮らしていたことが評価の高かった「Mimosas」を生み出した。今回はガリシアに戻って長年構想を練っていた「O que arde」を完成させた。キャリア&フィルモグラフィーについては、既に以下にアップしております。
*「Mimosas」と主な監督紹介記事は、コチラ⇒2016年05月22日
「O que arde」(「Viendo le feu」「A Sun That Never Sets」)
製作:Miramemira(西)、4A4 Productions(仏)、Tarantula Luxenbourg、Kowalski Films、
Pyramide international 協賛ガリシアTV(TVG)他
監督:オリベル・ラセ
脚本:オリベル・ラセ、サンティアゴ・フィジョル Fillor
撮影:マウロ・エルセ Mauro Herce
編集:クリストバル・フェルナンデス
衣装デザイン:ナディア・アシミ
プロダクション・デザイン:サムエル・レナ
製作者:Mani Mortazavi(仏)、Donato Rotunno(ルクセンブルク)、他
データ:スペイン=フランス=ルクセンブルク、ガリシア語、2019年、90分、ドラマ、撮影地ナビア・デ・スアルナ、モンテロソ、セルバンテス、ルゴ、ビベイロなどガリシア州で約6週間。カンヌ映画祭及びルクセンブルク映画基金、ルゴ市などからの資金提供を受けた。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「ある視点」部門ノミネーション
キャスト:アマドール・アリアス(アマドール・コロ)、ベネディクタ・サンチェス(母ベネディクタ)、イナシオ・アブラオ(イナシオ)、エレナ・フェルナンデス(獣医エレナ)、イバン・ヤニェス、ルイス・マヌエル・ゲレロ・サンチェス(消防士ルイス)、ヌリア・ソテロ、アルバロ・デ・バサル、ダビ・デ・ペソ、ナンド・バスケス、ルベン・ゴメス・コエリョ、他
ストーリー:放火の罪で収監されていたアマドール・コロが2年間の刑期を終えて出所してきたとき、出迎えには誰も現れなかった。故郷である鄙びた山村に戻ると、老いてはいるが思慮深い母親ベネディクタと三頭の牛が待っていた。母と息子は自然のゆったりとしたリズムに合わせて時を刻んでいた。しかしそれも新たな山火事が起きる夜までのことだった。
(アマドールと母親ベネディクタ)
★紹介記事からはサスペンスの要素も感じられますが、予告編もまだアップされていない段階での予測は控えます。アイデアは2006年に体験した大火事がベースになっている。2007年には既に映画化の構想を固めていたようですから、「Mimosas」と同時進行だった。悪者に仕立て上げられ蔑まれている人間を救済するために、寛容、許し、慈悲、愛、家族が語られる。「涙を含んだ辛口メロドラマ」と監督自身が語っている。撮影地をガリシアのルゴ県に選んだのは、ルゴ市からの援助があったことも一因と推測しますが、メインとなったナビア・デ・スアルナの山村は、監督にとって忘れがたい場所でもあったからのようです。カンタブリア海に面したビベイロでも撮影したようで、正式の予告編が待たれます。
(ナビア・デ・スアルナのトレードマークの石橋をバックにした監督)
(ナビア・デ・スアルナで撮影準備をする監督)
★キャストは土地の人を起用、2017年に60代の女性(母役)と40代の男性(息子役)探しから始まった。その他なぜ映画を作るのか、制作の動機は何か、いつも自問しているようです。作家性の強い監督だと思いますが、自身は必ずしも商業映画を否定しているわけではなく、いずれにも優れたものとそうでないものがあると語っている。オーソドックスなタイプの監督、資金集めに苦労していることから、Netflix についての質問には「ネットフリックスで自由に作れるのか確信が持てない」と消極的、映画がお茶の間だけで消費されることへの抵抗もあるようだ。世の中の変化のスピードが早いのも問題、現在では映画館をいっぱいにするのはミステリーだと語っている。
(監督とアマドール役のアマドール・アリアス)
(オーレンセの山火事のシーンを撮る撮影班)
★IMDbのストーリー紹介では、アマドールではなくラモンとなっておりますが、フランスやルクセンブルクの制作会社の紹介記事によって一応アマドールとしておきます。ラモンの愛称はモンチョでガリシアには多い名前です。間違っている場合には訂正いたします。
★『ザ・ニューヨーカー』によると、第2作「Mimosas」は2017年アメリカで上映された映画35作に選ばれ、米国でも受け入れられたことが分かります。カンヌ以外ではアルメリア、ブエノスアイレス・インディペンデント、カイロ、ミンスク、台北、各映画祭で受賞している。スペインではどうかというと、管理人が期待したほどではなく、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2016審査委員特別賞を受賞しましたが、言語がアラビア語ということもあってゴヤ賞ノミネートはありませんでした。新作は4つあるスペイン公用語のガリシア語映画です。
*セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2016の記事は、コチラ⇒2016年11月25日
追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映決定。
東京国際映画祭2019ワールド・フォーカス部門共催作品です。
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