作品賞候補者の5監督がスペイン映画の可能性を語り合う*ゴヤ賞2017 ⑪2017年02月08日 13:34

    「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とフアン・アントニオ・バヨナ

 

★授賞式を目前にした128日(土)の午前中、作品賞ノミネーションの5監督が一堂に会する座談会が「エル・パイス」紙の編集室でもたれました。ガラ以前にアップするつもりで準備しておりましたが、順序が逆になってしまいました。今では恒例になっている座談会のようですが、1961年生れのアルモドバルが最年長と、平均年齢も下がって世代交代の印象を受けました。増税問題(7%から21%の増税)に対する考えも少しずつニュアンスが異なり、それがとりもなおさず映画制作の違いにもなっているようです。出席5監督とは、以下の5人です。

 

     

   (左から、J.A.バヨナ、R.アレバロ、R.ソロゴイェン、A.ロドリゲス、P.アルモドバル)

 

ペドロ・アルモドバル(カルサダ・デ・カラトラバ194967

 Julieta 『ジュリエッタ』(作品・監督賞以下7個)

アルベルト・ロドリゲス(セビーリャ197145

 El homre de las mil caras”『スモーク・アンド・ミラーズ』(作品・監督賞以下11個)

ロドリゴ・ソロゴイェン(マドリード198135

 Que Dios nos perdone”“May God Save Us”(作品・監督賞以下6個)

ラウル・アレバロ(モストレス197937

 Tarde para la ira”“The Fury of a Patient Man”(作品・新人監督賞以下11個)

フアン・アントニオ・バヨナ(バルセロナ197541

 Un monstruo viene a verme”“A Monster Calls”(作品・監督賞以下12個、西米英カナダ)

 

J.A.バヨナ「消費税増税以外のことも話し合いたい・・」とまず口火を切った。彼はスペイン映画の危機は増税だけが問題ではなく、もっと学校教育など社会構造的な問題があると常日頃から発言しています。それに対してアルモドバルは、それは勿論そうだがこれを除外することはできない、小さな問題ではないからと主張する。「大きい問題には違いないがそれが唯一ではない・・・フランスでは興行成績が落ち込んだとき、文化大臣と製作者たちが会合をもって改善策を話し合った。しかしスペインでは決してそうならない」とバヨナ。「それは一理あるが、私たちはフランスにいるわけじゃないから、両国のやり方を比較しても始まらない。フランス人は過度の自国崇拝主義者だし、フランス映画はすでに減価償却している。私たちは観客にスペイン映画を好きになってくれとは頼めない。子供のときからスペイン映画はスペイン的特質を誇張したものばかりだと蔑む意見を聞かされてきた」とアルモドバル。ごもっともな意見です。「私たちは観客に何かを要求すべきじゃないが、政府には言うべきことは言うべきです」と一番若いR.ソロゴイェン、増税と闘う必要があるという立場をとった。

 

 

(左から、ロベルト・アラモ、ソロゴイェン、デ・ラ・トーレQue Dios nos perdone

 

    「財政赤字が解消されたら消費税を見直します」とメンデス・デ・ビゴ文化相

 

★文化にかける大幅消費税IVA増税問題は下火になる気配は全くない。文化相メンデス・デ・ビゴは、「財政赤字が解消されたら見直します」と口約束しているが、いつ「解消」されるのか。財政はかなり上向きになってきているようだが厳しさは変わらない。それに財務省がおいそれと首をたてに振るとは思えない。

 

バヨナが学校教育の在り方に拘るのは、「文化などにお金をかける必要はないと考えていた軍事独裁政が40年間も続いたから、70年前には読み書きができない人々がたくさんいた。このような悲しむべき歴史的な遺産を乗り越えて、最近の数十年で飛躍的な向上を遂げた。政府の消費税減税などはうわべを取り繕っているだけ。スペイン映画の問題は、学校教育や統治者たちの姿勢にかかっている」と主張。それに対して「フランスでは、文化の保護と輸出がある程度一致しているから恵まれている」とソロゴイェン。伝統というものは革新以上に隅に置けない。

 

★「質問があるんですが、『無垢なる聖者』(84、マリオ・カムス)が公開されたときは興行的にも成功した。うちは中流家庭に属していて父や叔父たちから素晴らしい映画だったとずっと聞かされていました。僕は小さかったから当時は見ていませんが、現在公開してもほんのわずかしか観客は集まらないのではないか。父の世代も今見たらテンポが遅く長く感じると。庶民は退行したのでしょうか」とR.アレバロ。「映画の好みが変化してしまった。私が思うに悪いほうにね。この変化をもたらしたのが私たちなのかどうか分からないし、元に戻す方法も分からない」とアルモドバル。「観客は退行しているようです。『無垢なる聖者』を再公開しても切符売り場には足を運ばないかもしれない」とアレバロ

 

        

             (Tarde para la ira”撮影中のアレバロ

 

★「変化はスペインだけのことではなく世界的現象、情報は増え続けるが知識は減る一方、デジタル情報ばかりで何を見たらよいのか教えてくれない。作家性の強い映画を作るには覚悟がいる。第一にすべきことは学校が映画館に連れていくこと、私たちは『タシオ』(84、モンチョ・アルメンダリス)や『無垢なる聖者』を見て大きくなったんだ」と学校教育の重要性に拘るバヨナ監督でした。日本でもテレビがなかった時代には、教師に引率されて映画館に出かける「映画教室の日」があって、ディズニーのアニメ『ピノキオ』や『ダンボ』、チャップリン映画を見に連れて行った。中学生にはイングリッド・バーグマンがジャンヌに扮した『ジャンヌ・ダーク』(48、ヴィクター・フレミング)などが選ばれていた。

 

     「映画は映画館の椅子に座って見てほしい」と言うけれど・・・

    

★スペインではラテンアメリカや欧州の一部で事業展開しているモビスターMovistar(テレフォニカ傘下の携帯電話事業会社)の加入者が2200万人と多く、米国のオンラインDVDレンタル配信会社ネットフリックスNetflixDVD4200万枚保有している)やアマゾンは少ない。司会者より両者を競争させたらスペインの映画産業は変化するだろうかと質問が投げかけられた。「莫大な資金投入が産業界の変革を促すかどうか分からない」と懐疑的なA.ロドリゲス。お金が産業界変革の全てではない立場のようです。「現実は、若い人々が以前のようには映画館に出かけなくなった。演劇も見なくなったし本も読まなくなった。ほかの分野、例えばテレビゲームだ。米国の大学生にスピーチしたとき感じたことだが、彼らもビリー・ワイルダーのような作品をよく知っていると思えなかった」とアルモドバル。映像媒体の多様化は世界規模です。

 

      

          (ロドリゲス『スモーク・アンド・ミラーズ』から

 

★「デジタル・プラットフォームの導入は有力なテレビチャンネルの寡頭政治を少しはセーブする」とソロゴイェン。映画の成功が有力なテレビチャンネルに握られている現状は、作家性の強い映画作りをしている監督には不利にはたらく。この現状を少しでも和らげるにはネットフリックスなどの到着は役に立つかもしれない。映画は映画館のスクリーンで見るという世代は、もはや絶滅危惧種なのかもしれませんが、同じ作品でもスクリーンで見るのとテレビとでは雲泥の差があることを強調したい。

 

★「プラットフォームの到着に気をもんでいる。中流階級の人は既に映画館で見なくなっているばかりかこのプラットフォームで見ている。映画館で見るのはスペクタクル映画だけと考えるのは間違っている。観客はスーパーヒーローや特殊効果だけを見に行くわけではない。私たちの作品を映画館で見てほしい。映画愛を育てる教育が必要なのです」とバヨナ。映画を「映画館の椅子に座って見ることは独特な素晴らしさがある」と観客の醸しだす雰囲気を楽しむのがロドリゲス。「反対に携帯を持ち出してみている観客に注意が散漫になる」と一部の観客の無作法を口にするソロゴイェン。「少し前、映画好きの学生たちと一緒に見ていて気付いたことだが、彼らは2000年以前の映画を見ていない」と驚きを隠さないアレバロ。「それは観客の罪ではなく現代社会のせいだ」とロドリゲス。「つまるところ、観客は見たい映画を自由に選んでいいのだと思う。それに応じて私たちは映画作りをしている。できれば私の作品を見てほしいものだが」とアルモドバルがケリをつけました。

 

       「最終候補5作品のどれも見ていない」とマリアノ・ラホイ首相

 

★政治家は映画館に足を向けない、忙しくてそんな時間はないからと。その筆頭がマリアノ・ラホイ首相です。「最終候補5作品のどれも見ていない」ときっぱり。「時間が取れない、時間があれば小説を読んでいる。映画は自宅か事務所のテレビで見ている」が、まだ候補作はどれも見ていない。時間があっても見ない派ですね。あれば小説を読むと言ってるから。とにかく伝統的に国民党PPは社労党PSOEほど文化にお金を使いたがらない。今年のガラにはメンデス・デ・ビゴ文化相の姿もあったが、壇上から批判されたり暗に皮肉を言われたりするために忙しい時間はさけないというのがホンネでしょう。以前は当日にマドリードを離れて海外出張に出かける文化担当相もいたほどです。

 

★スペイン映画は民間のテレビ局の協力なしには立ちいかなくなっている。「手の負えなくなっているのは、テレビ局がスペイン映画のプロデューサーたちで占められているだけでなく、スペイン映画の屋台骨になっている・・・スペイン映画が民放用の映画に変化してしまったことです」が、それは必ずしも「民放だけの罪ではない」とバヨナ、「勿論彼らの罪ではない。少なくとも控えめなら、観客育成に役に立つからね」とアルモドバル。もはやテレビやスマホなどで映画を見るデジタル世代の時代になったということです。

  

      

          (バヨナUn monstruo viene a verme”をバックに

 

          皆さん、スピルバーグの映画はいかがですか?

 

なかなか映画の話にならない。そこで「まだ映画の中身について話し合っていません。そろそろ私たちが作った映画の話、どうしてフィルモテカ(フィルム・ライブラリー)や映画アカデミーが重要なのか?」というバヨナの提案で、やっと核心にたどり着きました。アレバロの「そうですね、始めましょう、スピルバーグ映画はどうですか」に一同大笑い。「とてもいいよ」とバヨナ。「僕がとっても好きなのはLas amigas de Agataと、素晴らしかったのは『KIKI~愛のトライ&エラー』です」ソロゴイェン。前者はライア・アラバート、アルバ・クロス、ほか女性4人が監督したカタルーニャ語の映画、ガウディ賞2017にノミネートされた作品です。パコ・レオンの『KIKI~』は残念ながら無冠でした。アレバロMaría(y los demásLa próxima pielを挙げました。

 

★「ノミネートの有無に関係なく挙げるとEsa sensaciónLa próxima piel”それに君たちの作品だ。年に3作か4作はとても興味を引く映画に出会う」とアルモドバル。前者はノーマークですが、フアン・カサベスタニー以下、男性3人が監督したコメディです。ロッテルダム映画祭でワールド・プレミア、マラガ、バルセロナ、リオなどの映画祭に出品されています。ロドリゲスバヨナは具体的な作品名を挙げませんでしたが、ロドリゲスは「1作品に10個とか12個とかノミネーションが集中するのは問題」と不透明なノミネーションの在り方に警鐘を鳴らしました。これは誰が見ても異論なく問題です。それぞれ撮影や編集の苦労話、サプライズに触れていましたが割愛です。

 

    

            (アルモドバルの『ジュリエッタ』から)

 

★既に結果は発表になっておりますが、どのくらい字幕入りで見られるか、あるいは見られないか、楽しみにしています。バヨナのUn monstruo viene a verme20176月公開が決定しているようです。『インポッシブル』の監督だし、オリジナル言語が英語ですから6月は遅すぎるくらいです。ゴヤ、フォルケ、フェロスとスペインの三大映画賞を制したアルバロのTarde para la iraはどうでしょうか。