『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年03月04日 17:52

         スペイン本国より一足先に日本で公開される!

 

イニャキ・ドロンソロの長編第2『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』のスペイン公開は428日と日本より1か月先になります。劇場公開は早くて半年後か1年後が常識のスペイン映画が、期間限定とはいえ本国より先とは前代未聞ではないか。201510月にバスク自治州ビスカヤ県の県都ビルバオでクランクインした。イバニェス通りに面したビスカヤ地方評議会都市開発省本部をスイス・クレジット銀行に早変わりさせて、マドリード警察犯罪捜査部の突入シーンで撮影を開始した。交通制限をしての撮影はマドリードでは不可能、ましてや小規模ながら交通量の多い街中で火災を起こすなどもっての外、ビルバオでも撮影時間の制限を受け大勢のヤジウマに取り巻かれての撮影だったようです。 


     

   

 『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』(原題「Plan de fuga」、英題「Escape Plan」)

製作:Atresmedia Cine / Euskal Irrati Telebista(EiTB) / Lazonafilms / Scape Plan

監督・脚本:イニャキ・ドロンソロ

撮影:セルジ・ビラノバ・クラウディン

音楽:パスカル・ゲイニュ

美術:セラフィン・ゴンサレス

プロダクション・デザイン:アントン・ラグナ

衣装デザイン:クララ・ビルバオ

メイクアップ:ナチョ・ディアス、ラケル・アルバレス(特殊メイクアップ)、

       セルヒオ・ぺレス、カルメレ・ソレル(メイクアップ)

製作者:ゴンサロ・サラサル=シンプソン(エグゼクティブ)、ダビ・ナランホ

 

データ:スペイン、スペイン語、2017年、アクション・スリラー、105分、撮影地バスク州ビルバオとマドリードの数か所、撮影期間20151012日より約8週間、配給元ワーナー・ブラザース・ピクチャー・スペイン、スペイン公開2017428日、日本公開325

 

キャスト:アラン・エルナンデス(ビクトル)、ルイス・トサール(警察犯罪捜査官リーダー)、ハビエル・グティエレス(ラピド)、アルバ・ガローチャ、フロリン・オプリテスク(ダミール)、イスラエル・エレハルデ(弁護士)、イツィアル・アティエンサ(マルタ)、エバ・マルティン(経済犯罪係官)、マリオ・デ・ラ・ロサ(消防士)、トマス・デル・エステ、ペレ・ブラソ(尋問官)、ほか

 

プロット:金庫破りのプロフェショナル、ビクトルの物語。ヨーロッパ旧共産圏の元軍人たちで概ね組織された犯罪グループは、仲間の一人を失って活動休止に陥っていた。銀行に押し入り金庫室を掘削機で穴を開けるには、どうしてもプロをリクルートする必要があった。こうして一匹狼のビクトルに白羽の矢が立ち、彼も合流する決心をする。しかし何者かの通報で強盗一味は一網打尽に逮捕されてしまった。事件はあっけなく終わったかに見えたが、ビクトルが請け負ったミッション、金庫室の穴開け作業は開始されることになるだろう。ビクトルの本当の狙い、警察犯罪捜査部の本当の狙いとは果たして何だったのか。ここから本当のドラマが始まる。「罠に落ちるのは誰か?」「結末はどうなるか?」何人も100パーセント安全なものはいない。

 

     

             (ビルバオでの撮影初日、20151012日)

 

★最近日本で公開される映画でルイス・トサールほど出演本数が多い俳優はいないのではないか。公開が始まったダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』、キケ・マイジョの『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「シネ・エスパニョーラ2017」上映)、ダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』、少し古いがイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』10)などです。1999年、同監督の『花嫁のきた村』の主役で登場以来、『テイク・マイ・アイズ』など、誠実だが不器用にしか生きられない屈折した男を好演してきた。転機が訪れたのは声帯をつぶし肉体改造をしてまで取り組んだ、ダニエル・モンソンの『プリズン21109)のマラ・マドレ役だったと思う。「こういうトサールを見たかった」と興奮したのを思い起こします。役者になることを反対し続けてきた父親から「やっと認めてもらえた」と彼も当時インタヴューで語っていた。しかしこの成功が役柄のマンネリ化をきたしているのではないかと個人的には危惧しています。

 

  

            (指揮を執るルイス・トサール、映画から)

 

★主役ビクトル役のアラン・エルナンデスは、1975年バルセロナ生れ、ということでカタルーニャ語とのバイリンガル、2007年、舞台俳優として出発、同時にTVシリーズドラマ「La Riera」(1521話)、「Mar de plástico」(151614話)などで演技の実績を積んでいる。代表作はフェルナンド・ゴンサレス・モリナのPalmeras en la nieve15)、これは2015年暮れに公開され翌年ブレイクして2016年興行成績がフアン・アントニオ・バヨナの新作『ア・モンスター・コールズ』(6月公開予定)についで第2位となったヒット作。主役はマリオ・カサスとアドリアナ・ウガルテ、彼は準主役を演じた。ゴヤ賞2017新人監督賞ノミネートのマルク・クレウエトのEl rey tuerto16)では、機動隊所属の警察官に扮した。エミリオ・マルティネス=ラサロのOcho apellidos catalanes15)にも少しだけ顔を出していた。『ホテル・ルワンダ』の英監督テリー・ジョージの「The Promise」(16)にも出演しているが目下は未公開、つまり日本初登場ということになるのでしょうか。

 

   

      (金庫室の穴開けのヘルメット姿のアラン・エルナンデス、映画から)

 

★ラピド役のハビエル・グティエレスについてはアルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』やイシアル・ボリャインのThe Olive Treeご紹介済み、彼も『暴走車 ランナウェイ・カー』で出番は少なかったが存在感を示した。アルバ・ガローチャは、1990年サンチャゴ・デ・コンポステラ生れ、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラー』やマリア・リポルの新作No culpes al karma de lo que te pasa por gilipollas16)に出演、これはゴヤ賞2017で衣装デザイン賞にノミネートされていた作品。弁護士役のイスラエル・エレハルデ『マジカル・ガール』で既に登場、バルバラ・レニーの現恋人、演技には定評があります。かなり期待していいキャスト陣です。尚キャスト、スタッフの人名表記は公式サイトと若干異なります。当ブログではスペイン語に近い発音を採用しています。

 

   

        (アラン・エルナンデスとハビエル・グティエレス、映画から)

 

   監督キャリア&フィルモグラフィ紹介

イニャキ・ドロンソロIñaki Dorronsoro は、1969年バスク自治州ビトリア生れ、監督、脚本家。スリラーEl ojos del fotógrafo9350分)でデビュー、本作を長編とするか中編とするかで数え方が変わる。当ブログでは次回作La distancia06)を第1回作品としています。ジャンルはスリラー、サンセバスチャン、グアダラハラ、トゥールーズ・シネエスパーニャ、カルロヴィ・ヴァリー、コペンハーゲン、各映画祭に出品、ミゲル・アンヘル・シルベストレ(トゥールーズ・シネエスパーニャ映画祭新人男優賞受賞)、ホセ・コロナド、フェデリコ・ルッピ、リュイス・オマールなどが共演している。グアダラハラ映画祭ではダニエル・アランジョが撮影賞を受賞した。10年ぶりに『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』を撮った。TVドラも手掛けている。 

(撮影中のイニャキ・ドロンソロ監督)

  

(休憩中の監督とルイス・トサール)

 

『キリング・ファミリー』アドリアン・カエタノ*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年02月20日 15:10

       『キリング・ファミリー 殺し合う一家』は犯罪小説の映画化

 

325日から2週間限定で開催される「シネ・エスパニョーラ20175作品の一つ、アドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』のご紹介。前回アドリアン・カエタノ映画はオール未公開と書きましたが、未公開には違いないのですが、2013年の前作「Mala」が『イーヴィル・キラー』の邦題でDVD発売(20139月)されておりました。本作の原題「El otro hermano」が『キリング・ファミリー 殺し合う一家』と、いささかセンセーショナルな邦題になった遠因かもしれません。新作はアルゼンチンの作家カルロス・ブスケドの小説Bajo este sol tremendoに着想を得て映画化されたもの。

 

 

『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(「El otro hermano」英題「The Lost Brother」)2017

製作:Rizoma Films(アルゼンチン) / Oriental Films(ウルグアイ) / MOD Producciones(西) / Gloria Films()    協賛:Programa Ibermedia/ INCAA / ICAU / ICAA

監督・脚本:イスラエル・アドリアン・カエタノ

脚本():ノラ・Mazzitelli(マッツィテッリ?) 原作:カルロス・ブスケド

撮影:フリアン・アペステギア

音楽:イバン・Wyszogrod

編集:パブロ・バルビエリ・カレラ

製作者:ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ

 

データアルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス合作、スペイン語、2017年、犯罪スリラー、113分、撮影地:サン・アントニオ・デ・アレコ(ブエノスアイレス)、ラパチト(アルゼンチン北部のチャコ州)など、撮影は2016125日から311日の約7週間、これから開催される第34マイアミ映画祭2017がワールド・プレミア、第20マラガ映画祭2017の正式出品が決定しています。

 

キャスト:ダニエル・エンドレル(セタルティ)、レオナルド・スバラグリア(ドゥアルテ)、アンヘラ・モリーナ(セタルティの母)、パブロ・セドロン、アリアン・デベタック、アレハンドラ・フレッチェネル、マックス・ベルリネル、他

 

プロット・解説:故郷ラパチトで暮らしていた母親と弟ダニエルの死を機に闇の犯罪組織に否応なく巻き込まれていくセタルティの物語。セタルティは打ちのめされた日々を送っていた。仕事もなく、何の目的も持てず、テレビを見ながらマリファナを吸って引きこもっていた。そんなある日、見知らぬ人から母親と弟が猟銃で殺害されたという情報がもたらされる。ブエノスアイレスからアルゼンチン北部の寂れた町ラパチトに、家族の遺体の埋葬と僅かだが掛けられていた生命保険金を受け取る旅に出発する。そこではドゥアルテと名乗る町の顔役が彼を待ち受けていた。元軍人で家族の殺害者の友人でもあるというドゥアルテの裏の顔は、この複雑に入り組んだ町の闇組織を牛耳るボスで誘拐ビジネスを手掛けていた。セタルティは次第に思いもしなかった裏組織の犯罪に巻き込まれていく。

 

   

        (ドゥアルテ役のスバラグリアとセタルティ役のエンドレル)

 

★まだワールド・プレミアしていないせいか、現段階ではプロットが日本語公式サイトとスペイン語版にかなりの齟齬が生じています。人名もダニエル・エンドレルが演じるハビエルは、スペイン語版及びIMDbではカルロス・ブスケドの原作と同じセタルティとなっている。映画化の段階で変更したとも考えられるが一応上記のようにしました。監督が小説にインスピレーションを受けて映画化したと語っているので、映画でハビエルに変更したとも考えられます。プロットも映画のほうが複雑になっている。原作と映画は別作品ですから人名やプロットの変更は問題なしと思います。いずれにしろ公開までにはっきりすると思うので、それを待って追記いたします。

 

  

              (ダニエル・エンドレル、映画から)

 

本作クランクイン時のインタビューで「登場人物の行動を裁く意図はなく、むしろアウトサイダー的な生き方しかできない彼らに寄り添いながら旅をして支えていく、そういう彼らの紆余曲折を語りたい。そうすることが政治的な不正や反逆の方向転換になると考えるから」と語っている。存在の空虚さ、責任感のなさ、拷問についての政治的な倫理観の欠如、これらは過去の監督作品Un oso rojo『イーヴィル・キラー』の通底に流れるテーマと言えます。

 

 

             (フリオ・チャベスが好演したUn oso rojoのポスター)

 

イスラエル・アドリアン・カエタノIsrael Adorián Caetanoは、1969年モンテビデオ生れのウルグアイの監督、脚本家。ウルグアイは小国でマーケットが狭く主にアルゼンチンで映画を撮っている。デビュー作Bolivia01)がカンヌやロッテルダム映画祭で高評価を受け、その後Un oso rojo02A Red Bear)、Crónica de una fuga06Chronical of an Escapa)、Francia09Mala13、英題「Evil Woman『イーヴィル・キラー』DVDなどの問題作を撮っている。その他、短編、長編ドキュメンタリー、シリーズTVドラなどで活躍している実力者。

 

    

                      (イスラエル・アドリアン・カエタノ監督)

 

 

(本作撮影中の監督とダニエル・エンドレル)

 

原作者カルロス・ブスケドは、1970年チャコ州のロケ・サエンス・ペニャ生れ、現在はブエノスアイレス在住。小説執筆の他、ラジオ番組、雑誌「El Ojo con Dientes」に寄稿している。

 

   

               (原作者カルロス・ブスケド)

 

キャスト陣、ドゥアルテ役のレオナルド・スバラグリアは、1970年ブエノスアイレス生れ、エクトル・オリヴェラの『ナイト・オブ・ペンシルズ』(86)でデビュー、TVドラで活躍後、1998年スペインに渡り活躍の場をスペインに移す。マルセロ・ピニェイロの『炎のレクイエム』(00)、フアン・カルロス・フレスナディジョの『10億分の1の男』(01)、ビセンテ・アランダの『カルメン』(03)のホセ役、マリア・リポルの『ユートピア』(03)など、スペイン映画出演も多い。最近ヒットしたダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)の第3話「エンスト」でクレージーなセールスマンを演じてファンを喜ばせた。

『人生スイッチ』やキャリア紹介は、コチラ2015729

 

  

                      (レオナルド・スバラグリア、映画から)   

 

★母親役アンヘラ・モリーナはパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』の祖母役、アルモドバルの『抱擁のかけら』の母親役、細い体にもかかわらず5人の子だくさんは女優として珍しい。海外作品の出演も多く、昨2016年の国民賞(映画部門)を受賞した。仕事と家庭を両立させていることが、ペネロペ・クルスのような若手女優からも「将来なりたい女優」として尊敬されている。

アンヘラ・モリーナの紹介記事は、コチラ2016728

 

  

      (最近のアンヘラ・モリーナ)

 

★当ブログ初登場のダニエル・エンドレルは、1976年モンテビデオ生れのウルグアイの俳優、監督、脚本家、製作者。本作のカエタノ監督同様アルゼンチンで活躍している。2000年、ダニエル・ブルマンのいわゆる「アリエル三部作」の主人公アリエル役でデビュー。第一部『救世主を待ちながら』は東京国際映画祭で特別上映され、2004年、第二部僕と未来とブエノスアイレスは、ベルリン映画祭の審査員賞グランプリ(銀熊)、クラリン賞(脚本)、カタルーニャのリェイダ・ラテンアメリカ映画祭では作品・監督・脚本の3を独占した。第三部Derecho de familia06)は未公開、今作ではかつてのアリエル青年も結婚した父親役を演じた。公開作品ではパブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャのウルグアイ映画『ウイスキー』04)にも脇役で出演、両監督の25 Wattsでも主役を演じた。

 

 

    (邦題僕と未来とブエノスアイレス』と訳された「El abrazo partido」のポスター

 

  

(父親役を演じたアリエル、Derecho de familia」の一場面

 

『インビジブル・ゲスト』オリオル・パウロ*「シネ・エスパニョーラ2017」」2017年02月17日 14:04

       『ロスト・ボディ』オリオル・パウロ2作目、早くも劇場公開!

  

325日から始まる「シネ・エスパニョーラ2017の上映作品の一つ『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のご紹介。先日ベルリン映画祭に出品されるアレックス・デ・ラ・イグレシアの新作をご紹介ついでに、「こちらは公開されるかもしれない」と予想した通りになりました。こちらとは本作のこと、スペイン公開が16日、まだDVD発売もクローズ期間中に公開されるとは思いませんでした。現在デ・ラ・イグレシア監督のお気に入りマリオ・カサスがやり手の実業家アドリアン・ドリアを演じる。彼は愛人殺害の容疑者として突然逮捕される。その愛人ラウラにバルバラ・レニー『マジカル・ガール』)、息子の復讐に燃える父親にホセ・コロナド『悪人に平穏なし』『スモーク・アンド・ミラー』)、重要人物の辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンにベテランのアナ・ワヘネル『ビューティフル』『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』)という申し分のないキャスト陣で展開されます。

 

 

 

『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』Contratiempo 英題 The Invisible Guest2016

製作:Atresmedia Cine / Think Studio / Nostromo Pictures / TV3 Films / ICAA / Movister / ほか

監督・脚本:オリオル・パウロ

撮影:ハビ・ヒメネス(『アレクサンドリア』Palmeras en la nieves

音楽:フェルナンド・ベラスケス(『インポッシブル』Gernika

編集:ジャウマ・マルティ(『インポッシブル』Un monstruo viene a verme

美術:エバ・トーレス

衣装デザイン:ミゲル・セルベラ

メイクアップ&ヘアー:ルベン・マルモル

製作者:ソフィア・ファブレガス(エグゼクティブ)、メルセデス・ガメロ、サンドラ・エルミダ、アドリアン・ゲーラ、他多数

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2016106分、スリラー、製作費約400万ユーロ、撮影地バルセロナ自治州テラサTerrassa、ピレネー山地のVall de Núria、期間201512月ほか、配給元ワーナー・ブラザース・ピクチャー・スペイン。米国ファンタスティック・フェスト(2016923日)、ポートランド映画祭20172月、ベルグラード映画祭20173月、スペイン公開201716日、日本公開同325日、他

 

キャスト:マリオ・カサス(実業家アドリアン・ドリア)、アナ・ワヘネル(弁護士ビルジニア・グッドマン)、バルバラ・レニー(ドリアの愛人ラウラ・ビダル、写真家)、ホセ・コロナド(ダニエルの父トマス・ガリード)、フランセスク・オレリャ(ドリアの顧問弁護士フェリックス・レイバ)、パコ・トウス(運転手)、ダビ・セルバス(ブルーノ)、イニィゴ・ガステシ(ダニエル・ガリード)、マネル・ドゥエソ(ミラン刑事)他

 

物語:突然災難に見舞われるハイテク企業の経営者アドリアン・ドリアの物語。アドリアンは山岳ホテルの部屋に踏み込まれた警察によって目覚める。傍らには愛人ラウラの死体があり、ラウラ殺害容疑者として逮捕される。彼はアジア市場の商取引で知り合った辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンを雇い入れることを決心する。二人は無実を証明するべく事件解明に着手するが、彼は昨晩のことをよく思い出せない。どうしても刑務所への収監を逃れたいアドリアンは、愛人ラウラとの関係、自動車衝突事故によるダニエル・ガリードの死に二人が苦しんでいたことを語った。そこで弁護士は新証人を登場させて混乱させる戦略に出る。ほとんど完成が不可能と思われるジグソーパズルの真実と嘘を嵌めこむことになるだろう。

 

  

 

                                           (アドリアン・ドリア役のマリオ・カサス)

 

 

(ラウラ・ビダル役のバルバラ・レニー)

  

 

             (グッドマン弁護士役のアナ・ワヘネル)

 

 

                    (ダニエル・ガリードの父親役のホセ・コロナド)

 

 

(マリオ・カサスとバルバラ・レニー)

 

オリオル・パウロOriol Pauloは、1975年バルセロナ生れ、監督、脚本家。1998年「McGuffin」で短編デビュー、カタルーニャTVのドラマ・シリーズ「El cor de la ciutat」(カタルーニャ語20040970エピソード)を執筆して脚本家として経験を積む。2010年ギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』の脚本を監督と共同執筆、2012『ロスト・ボディ』で長編デビュー、ゴヤ賞2013の新人監督賞にノミネートされた。本作が第2作となる。

 

  

         (ホセ・コロナドに演技指導をするオリオル・パウロ監督)

 

★原タイトルの「Contratiempo」の意味は、不慮の出来事、災難のこと、邦題は英語題のカタカナ起こしです(多分字幕は英語訳と思います)。いずれにせよ、フアン・アントニオ・バヨナやアメナバル作品を手掛けているスタッフ陣、スペインでもベテラン中堅若手と実力派で固めたキャスト陣、特に脇役の弁護士フェリックス・レイバ役のフランセスク・オレリャ『ロスト・アイズ』)、ミラン刑事役のマネル・ドゥエソ(『EVAエヴァ』『ロスト・ボディ』)はバルセロナ派のベテランです。デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル~』やキケ・マイジョの『ザ・レイジ~』主演のマリオ・カサス以下は当ブログでも度々登場させています。映画祭上映、公開作品も多いので既にスペイン映画ファンにはお馴染みの面々かと思います。

公式サイトと固有名詞の表記が若干異なりますが、当ブログではスペイン語読みに近い表記でアップしております。


アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作”El bar”*ベルリン映画祭20172017年01月22日 17:17

          オフィシャル・セクションのコンペ外ですが・・・

 

 

 

★『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』以来、アレックス・デ・ラ・イグレシアの話題が途絶えていると思っていたら、三大映画祭の先陣を切って開催されるベルリン映画祭2017El barが招待作品として上映されるようです。オフィシャル・セクションですがコンペティション外です。このセクションには他に、ダニー・ボイルの『トレインスポッティング』の続編T2 Trainspottingやジェームズ・マンゴールドのLogan(「ローガン」)なども招待作品になっております。前者は第1作と同じユアン・マクレガーを含むメンバー4人、後者はヒュー・ジャックマンが主人公です。ベルリン映画祭の開催は29日から19日まで。

 

   

 

★第14作目となる“El bar”はどんな映画かと言えば、コメディタッチのスリラー合唱劇のようです。マドリード中心街のバルにどこか曰くありげな人々が思い思いに朝食を摂りにやってくる。なかの一人が急いで出入り口から通りに出た途端、頭に銃弾を一発お見舞いされる。誰も彼を助けることができない、皆んなバルに捕らえられてしまっていたからだ。脚本は監督とホルヘ・ゲリカエチェバリア、製作者は今回出演しなかった監督夫人でもある女優のカロリーヌ・バンクキコ・マルティネス、出演者はマリオ・カサス、ブランカ・スアレス、セクン・デ・ラ・ロサ、ハイメ・オルドーニェス、カルメン・マチ、テレレ・パベスなど、もう日本でもお馴染みになっているデ・ラ・イグレシア映画の常連さんが名を連ねております。スペイン公開324日が決定しています。今秋開催の「ラテンビート」を期待しましょう。

 

          

                      (マリオ・カサスとブランカ・スアレス)

 

★下記の写真は、オリオル・パウロの新作サスペンス“Contratiempo”封切り日に応援に駆けつけたアレックス・デ・ラ・イグレシア。オリオル・パウロ監督は、『ロスト・ボディ』(12)の監督、本作には“El bar”の主人公マリオ・カサスも出演している他、アナ・ワヘネル(『ビューティフル』)、ホセ・コロナド(『悪人に平穏なし』)、バルバラ・レニー(『マジカル・ガール』)などが共演している。こちらは公開されるかもしれない。

 

 

(“Contratiempo”のポスターを背にしたデ・ラ・イグレシア監督、16日)

 

 

   (マリオ・カサスとアナ・ワヘネル、“Contratiempo”のポスター)

 

フロリアン・ガレンベルガーの『コロニア』*9月17日公開2016年08月06日 12:54

        エマ・ワトソン、体当たりで拷問シーンに耐える政治スリラー

 

        

             (エマの鋭い眼差しが印象的なポスター)

 

6月上旬に公開がアナウンスされていたフロリアン・ガレンベルガーColoniaの公開が近づいてきました。邦題は原題のカタカナ起こし『コロニア』、英題の「コロニア・ディグニダ」が採用されると踏んでいましたが、とにかく長たらしい修飾語が付かずにヤレヤレです。昨年のトロント映画祭2015でワールド・プレミアされたドイツ・ルクセンブルグ・フランス合作映画。舞台背景はチリのピノチェト軍事独裁時代の宗教を隠れ蓑にした拷問施設「コロニア・ディグニダ」、この施設はピノチェトの秘密警察とナチスが巧妙に手を組んだ恐怖の拷問センターでした。実話が素材ですが、やはりフィクションでしょうか。

  

     

              (左から、共演者のダニエル・ブリュール、エマ、監督

 

★本作については、時代背景、キャスト、ストーリーなどを既に記事にしております。アジェンデ政権の瓦解を狙ったピノチェト軍事クーデタと、かつてのヒトラーユーゲント団員、ドイツ空軍の衛生兵だったパウル・シェーファーの結びつきについても紹介しております。現地チリで撮影されましたがチリは製作に参加しておりません。チリもドイツもそれぞれ自国の「歴史的負の遺産」を闇に閉じ込めたままにしています。言語は英語とスペイン語。

 

 

       (シェーファー役のミカエル・ニクヴィストとヒロインのエマ・ワトソン)

 

『コロニア』の紹介記事は、コチラ⇒201637

劇場公開:917日封切り

東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿、ほか全国展開

 

ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー*”Cien años de perdón”2016年07月03日 08:40

              『インベーダー・ミッション』の監督最新作

 

     

 

★今年期待できるスペイン映画としてチラッとご紹介したダニエル・カルパルソロの新作Cien años de perdón34日スペイン公開以来、上質のサスペンスとして興行成績もよろしいようです。銀行を襲う強盗団の物語は幾つか過去にもありますが、導入部は似ていてもテーマは異なる。いずれ劇場公開されるでしょうね。原タイトルは、「Quien roba a un ladrón, tiene cien años de perdón」というスペインの格言から採られています。簡単にいうと「泥棒から物を盗むのは罪になりません」ということで、悪事をはたらく人間が自分の行為を正当化するときに言う捨てゼリフですが、悪事は悪事でしかありません。一部の金融システムのエリートだけが潤っている現状に庶民は不信を抱いている。この格言には幾通りかバージョンがあります。エジンバラ映画祭上映の英題は“To Steal from a Thief”でした。

 

★アクション映画の監督では、アルベルト・ロドリゲス(『UNIT 7 ユニット7/麻薬取締第七班』『マーシュランド』)、エンリケ・ウルビス(『貸し金庫507』『悪人に平穏なし』)、ダニエル・モンソン(『プリズン211』『エル・ニーニョ』)などが挙げられるが、本作のダニエル・カルパルソロもアクション映画の旗手として加えていいでしょう。低予算ながらハリウッド並みの策略、緊張、エモーションと大衆が求めるものを取り込んでいる。

 

  Cien años de perdón(“To Steal from a Thief”)2016

製作:Vaca Films / Morena Films / Telecinco Cimema / K&S Films / Telefónica Studios

監督:ダニエル・カルパルソロ

脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア

撮影:トス・インチャウステギ

音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ

編集:アントニオ・フルトス

データ:製作国スペイン=アルゼンチン=フランス、言語スペイン語、201696分、サスペンス、製作資金670万米ドル、興行成績1211万米ドル。公開アルゼンチン201633日、スペイン34日、ウルグアイ312日、チリ414日、イギリス(エジンバラ映画祭)616日。ポルトガル77日、ギリシャ728日の予定

 

キャスト:ロドリゴ・デ・ラ・セルナ(エル・ウルグアジョ)、ルイス・トサール(エル・ガジェーゴ)、ラウル・アレバロ(フェラン)、ホセ・コロナド(メジーソ)、ホアキン・フリエル(ロコ)、パトリシア・ビコ(サンドラ)、マリアン・アルバレス(クリスティナ)、ルシアノ・カセレス(バレラ)、ルイス・カジェホ(ドミンゴ)、ホアキン・クリメント(エル・プニェタス)、他  

  

    (性格の異なる両首領エル・ウルグアジョとエル・ガジェーゴはこんなマスクで登場)

 

解説:〈エル・ウルグアジョ〉と〈エル・ガジェーゴ〉を首領とする盗賊団がバレンシアのある銀行を襲う計画を実行しようとしていた。任務は可能なかぎりのセーフティ・ボックスを入手することであった。メトロの廃駅から銀行まで予め掘っておいたトンネルを通じて逃走する手筈にしていた。一方、首相の報道官は盗賊団の真の狙いが貸し金庫「314」であることに気づいた。大事故で現在は昏睡状態にある政府の元メンバー、ゴンサロ・ソリアーノ所有のそのボックスには表沙汰にできないマル秘文書が入っていた。エル・ウルグアジョとその一味は、昨夜から降り続いた大雨のせいでトンネルが浸水、想定外の苦境に立たされていた。盗品が政府内のある派閥のマル秘であるにもかかわらず、銀行職員には逃亡阻止の指示も届いていなかった。平凡な出だしながら時間とともに複雑になっていくストーリー展開、対照的な両首領の性格的戦略的対立、アクションとユーモアのバランスもよく、上質なエンターテイメントとなっている。

  

               

          (バレンシア銀行の金庫室床に開けたトンネルの穴、映画から)

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

★ダニエル・カルパルソロ、1968年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。誕生間もなくバスク自治州サンセバスチャンに転居したため、バスク出身の監督と紹介されることもある。マドリードで映画、政治科学を並行して専攻、後ニューヨークに渡って映画技法を学んでいる。監督・製作者のフェルナンド・コロモの目に止まって、1995Salto al vacío(“Jump Into the Void”)でデビュー、批評家からも観客からも受け入れられた。本作は武器の密売で一家を養っている二十歳の娘をヒロインにした殺るか殺られるかの物語、主役を当時妻だったナイワ・ニムリが演じ、彼女を立て続けに起用して4作ほど撮っている。なかではこの第1作が特に評価が高かった。ナイワ・ニムリの衝撃的な髪型(後頭部に〈VOID〉の剃りが入っている)も話題になった。それがそのままポスターに使用され、後にダニエル・モンソンが『プリズン211』(09、“Celda 211”)で模倣した。 

   

              (ナイワ・ニムリの髪型を使った“Salto al vacío”のポスター)

 

★今世紀に入ってからは、TVミニシリーズを主に手掛けていたが、第7作となるInvasor(『インベーダー・ミッション』12、公開14)で映画復帰、8作目Combustion(『ワイルド・レーザー』13、公開14)、9作目Cien años de perdónと続いて映画を撮っている。監督談によると、「社会派ドラマではないが、ヒリヒリした痛みをもった映画」ということです。

 

  

                    (プレス会見に勢揃いしたキャストとスタッフ)

 

  主な登場人物たち

★強盗団の首領にアルゼンチンのロドリゴ・デ・ラ・セルナが扮し、スペインのジェームズ・ギャグニーことルイス・トサール1971年ガリシアのルーゴ生れ)とタッグを組みました。1930年代のギャング映画の大スターとはいえ、ジェームズ・ギャグニーをどれくらいの年齢層までが知っているか疑問ですが。ダニエル・モンソンの『プリズン211』『エル・ニーニョ』、ダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』と日本でも存在感が増してきたトサール、本作ではちょっとオンナに弱い人格造形のようです。主役としてはイシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』(99)が映画チャンネルで放映されたのが初登場でしょうか。つづく『テイク・マイ・アイズ』(03、ゴヤ賞主演男優賞)、『ザ・ウォーター・ウォー』(10)などボリャイン作品に出演しています。高校時代からの仲間でもあるホルヘ・コイラの『朝食、昼食、そして夕食』(10)では製作者も兼ねた。マイケル・マンの『マイアミ・バイス』(06)でアメリカ映画にデビューするなど。今やアクションもドラマもこなせるスペイン映画を代表するカメレオン俳優となっている。

 

 

     (CELDA 211の剃りを入れたトサール&2個めとなるゴヤ賞主演男優賞授賞式の写真)

 

ロドリゴ・デ・ラ・セルナは、1976年ブエノスアイレス生れ、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』で若きチェ・ゲバラと南米縦断旅行をしたアルベルト・グラナード役で、2004クラリン賞、2005銀のコンドル賞、他受賞多数。TVドラ出演が多く、マルティン・フィエロ賞も受賞している。フランシス・フォード・コッポラがブエノスアイレスを舞台にしてモノクロで撮った『テトロ』09)に出演している。本作には当時の妻だったエリカ・リバス(『人生スイッチ』)も出ていた。二人の間には1女がある。新作では刑務所に戻るのも恐れないという粗野な人格を演じる。「スクリーン上のルイスにはいつも感嘆していた。今度実際に仕事をしてみて、その人柄にも惚れました、彼と仕事ができて素晴らしかった」と、相棒ルイス・トサールを褒めちぎる。もしかして初顔合わせでしょうか。

 

★他に『貸し金庫507』『悪人に平穏なし』のホセ・コロナド、『マーシュランド』のラウル・アレバロ、フェルナンド・フランコの“La herida”でゴヤ賞2014主演女優賞受賞のマリアン・アルバレス、現在の監督夫人パトリシア・ビコ2006年に1男誕生)など演技派が脇を固めている。

 

  

                 (ダニエル・カルパルソロ監督と夫人パトリシア・ビコ)

 

          盗作論争――盗作の範囲はどこからどこまで?

 

★盗作の狼煙を上げたのが、アルゼンチン出身のアレハンドロ・サデルマンのベネズエラ映画100 años de perdón98)です。「タイトルから筋まで類似している」と指摘。確かにタイトルは指摘通りです。チリやウルグアイでは「100」も使用するなど、言いがかりとは一概に言えない。しかし、脚本を書いたホルヘ・ゲリカエチェバリアはベネズエラ作品を見ていないと語る(スペインでは未公開のようです)。「タイトルは同じでもストーリー展開はまるで違う」と反論している。チラリ見ですが確かに異なっている。マル秘文書が採用された映画としては、当ブログに登場させたエンリケ・ウルビスの『貸し金庫50702)がある。銀行を襲った強盗一味に貸し金庫室に閉じ込められた支店長が、貸し金庫507に入っていた書類から、我が娘の焼死が事故ではなく、ウラで糸を引く大物マフィアの仕業だったことを知るというもの。土地買収に関する政治汚職を浮かび上がらせている。

『貸し金庫507』の記事は、コチラ⇒2014325

 

 

                 (アレハンドロ・サデルマンの“100 años de perdón”)

 

★アメリカ映画だが、スパイク・リーのコメディ仕立ての『インサイド・マン』(06)、マンハッタン信託銀行の貸し金庫392の中身が銀行はもとより警察、交渉人、謎の女性交渉人までが出張ってきて右往左往するエンタメ。貸し金庫にはナチがユダヤ人からせしめた宝石以外に表沙汰にしたくないマル秘文書が入っており、強盗団の狙いは宝石じゃない。どうしてそんな古い危険文書を今まで処分しなかったのか(笑)、ストーリーにいくつも綻びがあるのだがエンタメの要素をぎょうさん盛り込んでいる。何しろキャストが豪華版、意表をつく結末に唖然とする。面白いのは『狼たちの午後』75)のパロディを含んでいることです。今でも映画チャンネルで放映されているシドニー・ルメットの映画、実際に起きた銀行強盗事件に材をとっている。若くてほっそりしていた頃のアル・パチーノが主役を演じていた。実際の犯人の後日談もなかなかこれが興味深い。

 

「ある視点」にはアルゼンチンの新人二人*カンヌ映画祭2016 ②2016年05月11日 12:56

       開けてビックリ玉手箱、ブエノスアイレスからカンヌへ一直線

 

★アンドレア・テスタ&フランシスコ・マルケスの新人二人の“La larga noche de Francisco Sanctis”がノミネーション、この朗報が飛び込んできたのはブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(BAFICI)開催中でした。チケットは完売、カンヌの威力を見せつけました。カンヌがワールド・プレミアなんて信じられない二人です。兄妹のようによく似ていますが夫婦です。1984年に出版された故ウンベルト・カチョ・コスタンティーニ(192487)の同名小説の映画化、そういうわけでBAFICIには作家の夫人が馳せつけました。「ある視点」にノミネーションされたことでニュースが入り始めていますが、ここではアウトラインだけにしておきます。

 

    

 

  La larga noche de Francisco SanctisThe Long Night of Francisco Sanctis

製作:Pensar con las Manos

監督・脚本・製作者:アンドレア・テスタ&フランシスコ・マルケス

原作:ウンベルト・カチョ・コスタンティーニ

撮影:フェデリコ・ラストラ

編集:ロレナ・モリコーニ

製作者:ルシアナ・ピアンタディナ

データ:アルゼンチン、スペイン語、2016年、78分、軍事独裁時代の政治スリラー

映画祭受賞歴:ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(BAFICI2016正式出品、最優秀作品賞・最優秀男優賞・SIGNIS賞・FEISAL賞を受賞する。カンヌ映画祭2016「ある視点」部門正式出品、カメラドール対象作品でもあります。カンヌ上映は520

 

キャスト:ディエゴ・ベラスケス(フランシスコ・サンクティス)、ラウラ・パレデスバレリア・ロイス、マルセロ・スビオット、ラファエル・フェデルマン、ロミナ・ピント

 

解説:時代はビデラ軍事独裁政権2年目の1977年、中流階級のフランシスコ・サンクティスは現政権の行政官として政治には無関心な生活を送っていた。ある日、高校時代の昔のクラスメートから1本の電話がかかってくる。今夜二人の若い活動家が逮捕され、たちどころにデサパレシードスになる。彼らを救えるかどうかはあなたの手の内にある。サンクティスは不安と恐怖に襲われる。命令を無視することもできたが、彼のなかに若かりし頃の鼓動が響いてくる。妻と子供と一緒に政治には一切関わらずに過ごしていたフランシスコの内面の葛藤が語られる。

 

     

          (妻と子供たちと食事をするサンクティス、映画から)

 

トレビア

今までの軍事独裁時代(197683)の映画と切り口が違うのは、活動家やデサパレシードスdesaparecidos行方不明者)、またはその家族が主人公ではなく、受け身の小市民的日常を送っていた政治的無関心派の男が、否応なく政治に巻き込まれてしまう点です。テーマは主人公の倫理的ジレンマでしょうか。原作者ウンベルト(・カチョ)・コスタンティーニは詩人、戯曲家でもあり、社会的闘士だったから、独裁者のcivico-militarと言われる市民の軍隊が組織されてからは亡命を余儀なくされた。帰国できたのは、名ばかりとはいえ民主化後のこと、1984年に本作を発表した。当然小説には作家が投影されているのでしょう。こういう「恐怖の文化」が支配する時代には、亡命が叶わなければ、沈黙して伏し目がちに目立たずに暮らすことが賢い人の生き方、そうでないと生き残れない。

 

100%アルゼンチン資本で製作された作品。昨今はスペイン、フランス、ドイツなどヨーロッパ諸国とのコラボが多いなか珍しいことです。新人にかぎらずカンヌにノミネーションされた作品の殆どが合作、3カ国、4カ国も珍しくない。ほぼ同時代を描いたダニエル・ブスタマンテのデビュー作『瞳は静かに』も製作国はアルゼンチンだけでしたが珍しいケースです。彼は1966年生れ、クーデタのときは10歳ぐらいだったから少しは記憶を辿ることはできた。そのかすかな記憶が彼に映画製作を促した。しかし本作の二人の監督は、フランシスコ・マルケスが1981年、アンドレア・テスタにいたっては1987年、当時を殆ど知らない世代といっていい。彼らのような「汚い戦争」を知らない世代が映画を作り始めたということです。

『瞳は静かに』とその関連記事は、コチラ⇒2015711

 

      
      (フランシスコ・コルテスとアンドレア・テスタ、第18BAFICIにて)

 

監督紹介フランシスコ・マルケス1981年ブエノスアイレス生れ、アンドレア・テスタ1987年ブエノスアイレス生れ、共に監督、脚本家、製作者。アルゼンチン国立映画学校(ENERCEscuela Nacional de Experimentación y Realización Cinematográficaの同窓生。以下のフィルモグラフィーから二人で協力しあって製作していることが分かる。

フランシスコ・マルケスのフィルモグラフィー

2011Imagenes para antes de la Guerra”(短編15分)テスタがアシスタント監督

2014Sucursal 39”(短編13分コメディ)テスタがアシスタント監督

2015Despues de Sarmiento”(ドキュメンタリー76分)

2016La larga noche de Francisco Sanctis本作

アンドレア・テスタのフィルモグラフィー

2007El Rio”(短編7分)

2009Sea una familia feliz”(短編8分)マルケスがアシスタント監督

2010Uno Dos Tres”(短編10分)マルケスがアシスタント監督

2015Pibe Chorro”(ドキュメンタリー90分)マルケスがアシスタント監督

2016La larga noche de Francisco Sanctis本作

 

★二人とも原作者コスタンティーニの愛読者だった由。パルケ・センテナリオ(ブエノスアイレス)で開催された書籍見本市の人から「これは読んで後悔しない小説です」と薦められた本でした。「言うとおりでした。二人ともすごいスピードで読破、映画にしようと即座に思った。つまり小説との出会いは偶然だったのです」と口を揃えた。二人ともいわゆる「物言わね大衆」と称された中流家庭の出身、屋根のある家に住み食べるものもある家庭の「見ざる聞かざる言わざる」で育った世代が物を言い始めたということでしょうか。具体化できたのは「撮影監督のフェデリコ・ラストラとプロデューサーのルシアナ・ピアンタディナが支援してくれたお陰です」と感謝の言葉を述べていました。フェデリコ・ラストラは彼らの短編を手掛けています。

 

    

     (今年2月に誕生した娘ソフィアを抱いて、二重の喜びにひたる両監督)

 

キャスト紹介:主人公フランシスコ・サンクティス役のディエゴ・ベラスケスは、マルティン・カランサ共のAmorosa Soledad08)で映画デビュー、マリアノ・ガルペリン共の100 tragedias08)出演後はシリーズTVドラで活躍、日本登場はルシア・プエンソの『フィッシュチャイルド』(“El niño pez”、ラテンビート2009)の〈エル・バスコ〉役が最初だと思います。他にダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(第5話「愚息」)に検察官役で顔を覗かせた。夜のシーンがおおいので自然照明だけのグレーがかった色調から浮き上がる複雑な表情、その内面の動きを表現した演技が認められ、BAFICI最優秀男優賞を受賞した。

 

 

(サンクティス役のディエゴ・ベラスケス、映画から)

  

アメリカン・ドリームの挫折を描いた”Callback”*マラガ映画祭2016 ⑨2016年05月03日 15:48

       監督と俳優が合作したスリラーが「金のジャスミン賞」

 

★オリジナル版の言語が英語という映画が作品賞を受賞した。スペイン語のできる英語話者が主人公の映画は珍しくなくなったが、カルレス・トラスCallbackは初めてのケースではないかと思う。10年ほど遡ってみたが該当する作品はなかった。ゴヤ賞を含め数々の賞に輝いたイサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(05)が同じケースだが、これはマラガでは上映されなかった。マラガは国際映画祭ではなく、スペイン語映画に特化している映画祭なのだが、製作国がスペインならOKという時代になったのでしょう。

 

★今回の金賞は大方の見方とは異なった結果になったようです。エル・パイスのレポートによると、話題の中心イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポLa propera pellセバスティアン・ボレンステインKóblic2作品に絞られていたそうです。開幕から観客の大きな輪ができていたのもこの2作品だった。つまり観客の受けはイマイチだったということかな。しかし審査員は結果的に“Callback”を選んだわけです。さて来年は第20回となる節目の年、大きなイベントが計画されているようです。 

       

           (マルティン・バシガルポをあしらったポスター)

 

    Callback2016

製作:Zabriskie Films / Glass Eye Pix

監督・脚本・製作者:カルレス・トラス

脚本(共同):マルティン・バシガルポ

撮影:フアン・セバスティアン・バスケス

編集:エマーヌエル・ティツィアーニ

製作者(共同):マルティン・バシガルポ、ラリー・フェッセンデン、ティモシー・ギブス、他

データ:スペイン=米国、オリジナル言語英語、2016年、スリラー、80分、マラガ映画祭2016上映427日他、バルセロナ映画祭428

 

キャスト:マルティン・バシガルポ(ラリー・デ・チェッコ)、リリー・スタイン(アレクサンドラ)、ラリー・フェッセンデン(ラリーの雇い主ジョー)、ティモシー・ギブス(福音派の牧師)

 

解説:ラリーは熱烈な福音主義のプロテスタント、引越し業者のもとで働いている。彼にはプロフェッショナルな大スターになるという夢があるがチャンスはなかなか巡ってこない。雇い主のジョーとは折り合いが悪く、孤独な一人暮らしを続けている。ある日、アレクサンドラという女性が彼の人生に入ってきたことでラリーの運命に転機が訪れる。運が向き始めたようにみえたが、ことごとく悪い方へ転がり始めてしまう。アメリカン・ドリームを抱いて一か八かやってくるが、ニューヨークのような大都会では多くの移民がフラストレーションと厳しい孤独に苦しむことになる。夢を果たせずに挫折する移民たちの物語。

      

     

        (最優秀男優賞を受賞したマルティン・バシガルポ、映画“Callback”から)

 

監督紹介:カルレス・トラスは、1974年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画スタジオ・センター(CECC)で学ぶ。ベルリン映画祭の「Berlinale Talent Campus」の参加資格を得て、リドリー・スコット、スティーヴン・フリアーズ、ウォルター・サレス、クレール・ドニ、撮影監督クリストファー・ドイルなどのセミナーに出席した。長編映画は以下の通り:

2004Jovesラモン・テルメンスとの共同監督、バルセロナ映画賞新人監督賞受賞、他

2009Trashガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2011Open 24H監督・製作者、ガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2016Callback 

   

            (マラガ映画祭でのカルレス・トラス監督)

 

キャスト紹介マルティン・バシガルポはチリ生れ、1975年からニューヨーク在住の俳優、脚本家、製作者。ロンドン、ベラルーシ共倭国の首都ミンスクの芸術アカデミー、ニューヨークの名門演劇学校ステラ・アドラー・スタジオなどで演劇を学ぶ。舞台デビューは2003年の『ハムレット』、2008年『セールスマンの死』、ほか昨年2015は『三人姉妹』など。アメリカン・ルネッサンス・シアター・カンパニーのメンバー。

 

★映画、TVは、マーリー・エルナンデスの短編“La Reclusa”(2013USA、スペイン語、12分)でデビュー、アメリカのTVドラ“The Hunt with John Walsh”(2014,第4Victim 1話)に出演、本作が本格的な長編映画デビューとなる。初長編で最優秀男優賞受賞が決して棚ボタでないことは経歴が証明している。脚本には彼の体験が色濃く反映されている。

 

       

        (最優秀男優賞のトロフィーを掲げて、マルティン・バシガルポ)

 

リリー・スタインは本作アレクサンドラ役がデビュー作、ラリー・フェッセンデン1963年ニューヨーク生れ、ホラー映画でお目にかかっている。風貌がホラー映画『シャイニング』に出てくる太めのジャック・ニコルソンに似ている(笑)。ティモシー・ギブスは、1967年カリフォルニアのカラバサス生れ、劇場公開作品はないようだが、ダーレン・リン・バウズマンのサスペンス・ホラー『111111』(米西、20111111日にアメリカで公開、DVD)で主役を演じた。ほかにハイメ・ファレロのホラー・アクション『バンカー/地底要塞』(西、2015DVD)にも出演している。 

   

               (リリー・スタイン、映画から)

 

 

    

           (ラリー・フェッセンデン右側、映画から)

 

 

    

             (マラガ映画祭でのティモシー・ギブス)

リカルド・ダリンが主役のスリラー"Koblic"*マラガ映画祭2016 ⑦2016年04月30日 18:06

         アルゼンチンを代表する俳優リカルド・ダリンはカメレオン

 

★バルセロナ派監督の力作が目立つ今年のマラガ映画祭ですがアルゼンチンのセバスティアン・ボレンステインKóblicはスペインとの合作です。彼の長編第3作目Un cuento chinoはコメディドラマでしたが新作はスリラーです。ゴヤ賞2012イベロアメリカ部門の作品賞を受賞した前作は、英語字幕でしたがセルバンテス文化センターの「土曜映画上映会」で上映され(20137月)泣き笑いさせられた。これは脚本が秀逸でよく練られており、主役を演じたカメレオン俳優リカルド・ダリンの魅力をあますところなく引き出した。上映後のトークで「ダリンのために作られた映画だ」と感想を述べたほどだった。正当な理由から偏屈で気難しく人間嫌いになってしまったが、心はまっすぐなまま他人の不幸を見過ごせない。こういうバルザック風の人間悲喜劇をやらせたらダリンの右に出る者がない。『人生スイッチ』をご覧になった方なら納得でしょう。結果発表が間もなくですが、監督も役者も大好きが理由でご紹介します。

 

         

          (ダリン、マルティネス、クエスタを配したポスター)

 

    Kóblic2015

製作:Atresmedia Cine / Gloriamundi Produccones / Pampa Films / Telefe / Endemol /

    Direct TV

監督・脚本・製作者:セバスティアン・ボレンステイン

脚本(共同):アレハンドロ・オコン

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

音楽:フェデリコ・フシド

編集:パブロ・ブランコ、アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ

録音:フアン・フェーロ

美術:ダリオ・フェアル

プロダクション・マネージメント:パブロ・モルガビ、イネス・ベラ

製作者:バルバラ・ファクトロビッチ(エグゼクティブ)、パブロ・ボッシ、フアン・パブロ・ブスカリアル、他多数

データ:アルゼンチン=スペイン合作、スペイン語、2015年、スリラー、公開アルゼンチン2016414日、マラガ映画祭2016では429日上映

 

キャスト:リカルド・ダリン(海軍大佐トマス・コブリク)、オスカル・マルティネス(警察署長バラルデ)、インマ・クエスタ(ナンシー)、他

 

解説:人生の岐路に立たされた海軍大佐トマス・コブリクの物語。時はアルゼンチン軍事独裁政権の1977年、コブリクは身の毛もよだつような〈死の飛行〉のミッションを命じられる。人生の岐路に立たされたコブリクは、輝かしい軍人としてのキャリアを捨て良心的不服従の道を選択する。パンパの片田舎コロニア・エレナで危険だが新しい人生を始めようと一か八かの逃亡を決心する。一方、盗難品を売り捌く犯罪集団のリーダー、軍事独裁者のドンとも暗い繋がりをもつ警察署長バラルデは、獲物を狙って執拗な追跡劇を開始する。

 

       

               (リカルド・ダリン、映画から)

 

           テーマは「汚い戦争」と良心的不服従か?

 

★アルゼンチン軍事独裁政権は、19763月の軍事クーデタ勃発からマルビナス(フォークランド)戦争の敗北を経て瓦解する1983年まで続いた。一人の独裁者ピノチェトが牛耳った隣国チリとは違って、アルゼンチンの軍事独裁政権は4人の軍人が大統領になった。なかでもっとも凄惨を極めたのがクーデタの首謀者、陸軍総司令官だったビデラ政権の第1期(197681)、3万人ともいわれるデサパレシードdesaparecido行方不明者の多くが第1期の犠牲者だった。つまり映画の時代背景となる1977年は反体制派の弾圧が厳しく、「沈黙は金」という無関心を国民に強制した戦慄の時代だった。

 

    

 

〈死の飛行〉というのは、このデサパレシードと言われる収監者を飛行機で運んでラプラタ川に生きたまま突き落とす任務のことで、普通の人間の神経では耐えられない。このミッションを果たした操縦士が、後に良心の呵責に耐えかねマスコミに実名で告白すると、たちまち嘘つきデマカセの脅迫をうけて精神障害を発症してしまった記事を読んだことがある。チリのパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『真珠のボタン』では、遺体に列車のレールを縛りつけ太平洋に投げ捨てた事例を再現ドラマとして挿入していたが、アルゼンチンでは数が多すぎてそんなテマヒマはかけなかった。

 

       

           (打合せをしているボレンステイン監督とダリン)

 

ボレンステイン監督のように1960年代生れの世代は、軍事独裁政権時代の教育を受け、すっぽり青春時代と重なっている。それは19823月から始まった大国イギリスとのマルビナス戦争では、未経験のまま徴兵され酷寒の島で犬死にさせられた世代という意味でもあるのです。まさか英国病から抜け出せない鉄の女が原子力潜水艦まで動員して乗り込んでくるとは思わなかったのだ。前作のUn cuento chinoでダリンが演じた人間嫌いの金物屋の主人も同世代、マルビナス戦争の傷を抱えている。『火に照らされて』05、ラテンビート2006上映)を撮ったトリスタン・バウエルも同世代、彼らは国家の過ちを容易に許さない。自分たちの人生がゆっくりと死に向かっている体験をした世代だからです。

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

セバスティアン・ボレンステイン、1963年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。父は喜劇役者タト・ボレス。エル・サルバドル大学でコミュニケーション科学及びアウグスト・フェルナンデス学校で俳優演出を専攻。卒業後、広告代理店のクリエーターとして第一歩を踏み出した。卒業後、広告代理店のクリエーターとして第一歩を踏み出した。のちコメディショー“Tato Bores”の脚本家に転身、1990年からTVシリーズの監督、1997TVミニシリーズEl garante(ホラー)がマルティン・フィエロ賞(監督賞)などを含む国内外の賞を多数受賞した。つづくスリラーTiempofinal68200002)はアルゼンチン他50カ国で放映され、2001年にはマルティン・フィエロ監督賞を受賞した他、エミー賞のノミネーションも受けた。長編映画デビューは以下の通り。コメディとスリラーを交替で撮っている。

2005La suerte está echada コメディ、トリエステ映画祭ラテンアメリカ・シネマ審査員賞

2010Sin memoriaスリラー、メキシコ映画

2011Un cuento chinoコメディ、ローマ映画祭2011作品賞・観客賞、ゴヤ賞2012イベロアメリカ映画賞、スール作品賞、ハバナ映画祭2011作品賞、マンハイム=ハイデルベルク映画祭2011審査員スペシャル・メンション・エキュメニカル賞、R.W.ファスビンダー特別賞他、多数受賞

2015Kóblicスリラー

 

    

             (警察署長役のオスカル・マルティネス)

 

★キャスト紹介:リカルド・ダリンはもう割愛、警察署長のオスカル・マルティネスは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』5話「愚息」で登場、おバカ息子の父親マウリシオになった俳優、スペインから参加のインマ・クエスタは、パウラ・オルティスのLa noviaの主役を演じゴヤ賞2016主演女優賞にノミネートされた女優、他にダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』11)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス』11)、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』12)、アルモドバルの新作Julietaにも出演と大物監督に起用されています。

『人生スイッチ』とオスカル・マルティネスに関する記事は、コチラ⇒2015729

La novia”とインマ・クエスタに関する記事は、コチラ⇒201615

『スリーピング・ボイス』の記事は、コチラ⇒201559

 

    

          (インマ・クエスタとリカルド・ダリン、映画から)

 

★アルゼンチンでは公開されているので観客のコメントがアップされ始めています。まあ観客も十人十色ですが、概ね好意的なコメントが寄せられています。インマ・クエスタのアルゼンチン弁に難癖をつけていますが、アルゼンチン訛りは短期間には真似できない(笑)。相変わらずダリンは好評で人気のほどが分かります。マルティネスは嫌われ役で辛いところ、それでも流石に悪口を言う人がいないのは泣かせます。


イサキ・ラクエスタの新作はスリラー*マラガ映画祭2016 ⑥2016年04月29日 10:28

 金貝賞」受賞者ラクエスタ、金のジャスミン賞」ゲットなら両賞受賞は初となる!

 

金のジャスミン賞」というのはマラガ映画祭の作品賞、「金貝賞」はサンセバスチャン映画祭の最高賞のことです。イサキ・ラクエスタは、2011年に長編6作目Los pasos dobles金貝賞」を受賞しています。マラガ映画祭は比較的若い監督に焦点が当てられているので将来的にも両賞の受賞は限られます。8作目となる本作はイサ・カンポとの共同監督、オリジナル版タイトルはカタルーニャ語のLa propera pell、スペイン語はLa proxima pielでマラガは吹替え上映のようです。最初の候補作にはなかった作品、最終選考で浮上しました。イサキ・ラクエスタはLa leyenda del tiempo2006)が『時間の伝説』という邦題で上映されたことや、河瀨直美と短編ドキュメンタリーSinirgiasLas variaciones Naomi Kawase e Isaki Lacuesta09)を共同監督したことから若干認知度はあるでしょうか。

 

         

 

     La propera pellLa próxima piel2016

製作:Corte y Confeccion de pelicula/ La Termita Films / Sentido Films / Bord Cadre Films

      協賛ICAA / ICCE / TV3 /Eurimage

監督・脚本・製作者(共同):イサキ・ラクエスタ、イサ・カンポ

脚本(共同):フェラン・アラウホ

撮影:ディエゴ・ドゥスエル

音楽:ヘラルド・ヒル

美術:ロヘル・ベリエス

編集:ドミ・パラ

製作者(共同):オリオル・マイモー、ラファエル・ポルテラ・フェレイレ、他

データ:スペイン、カタルーニャ語・フランス語・スペイン語、2016年、103分、スリラー、撮影地サジェント・デ・ガジェゴ(アラゴン州ウエスカ県北部)、バルセロナ。マラガ映画祭2016では428日上映。

 

キャスト:アレックス・モネール(レオ/ガブリエル)、エンマ・スアレス(母アナ)、セルジ・ロペス(伯父エンリク)、イゴール・スパコワスキー(従兄弟ジョアン)、ブリュノ・トデスキーニ(少年センターの指導員ミシェル)、グレタ・フェルナンデス(ガールフレンド)、ミケル・イグレシアス、シルビア・ベル、他

 

解説8年前突然行方知れずとなった少年が、心の声に導かれて国境沿いのピレネーの小さい村に戻ってくる。もはやこの世の人ではないと誰もが信じており、家族さえ謎に満ちた少年の失踪を受け入れていた時だった。青年は果たして本当にあの行方不明になった子供なのか、またはただなりすましているのか、という疑いが少しずつ浮かぶようになってくる。

 

★前作“Murieron por encima de sus posibilidades”がサンセバスチャン映画祭2014コンペティション外で上映されて間もなく、次回作の発表がジローナであった。「8年前にほぼ脚本は完成していたが、製作会社が見つからずお蔵入りしていた。一人の女性と行方不明になっていた息子が10年ぶりに出会う物語です。フランスとの国境沿いのピレネーの村が舞台、このような地域は人によっては目新しく映る所です。ツーリストとその土地で暮らす人との違いを際立たせたい。季節は真冬、とても風土に密着した映画」とインタビューで語った。イサ・カンポと8年前から構想していたこと、製作会社、キャスト陣、113日にサジェント・デ・ガジェゴでクランクイン、撮影期間は6週間の予定などがアナウンスされた。

 

     

          (本作撮影中のイサ・カンポとイサキ・ラクエスタ)

 

★最初の構想では母子の出会いは10年ぶりだったこと、まるで神かくしにあったかのように突然消えてしまった息子がピレネーの反対側、フランスの少年センターで発見されることなど若干の相違が見られます。製作会社のうちLa Termita Filmsは二人が設立しており、責任者は主にイサ・カンポのようです。製作会社が見つからなければ自分たちで作ってしまおう、というのが若いシネアストたちの方針なのでしょう。

 

   

        (主役のガブリエルを演じたアレックス・モネール、映画から)

 

監督紹介

イサキ・ラクエスタ Isaki Lacuesta 1975年、へロナ(カタルーニャ語ジローナ)生れ、監督、脚本家、製作者、両親はバスク出身。バルセロナ自治大学でオーディオビジュアル・コミュニケーションを学び、Pompeu Fabra 大学のドキュメンタリー創作科の修士号取得、ジローナ大学の文化コミュニケーションの学位取得。マラガ映画祭2011エロイ・デ・ラ・イグレシア賞を受賞している。現在は映画、音楽、文学についての執筆活動もしている。共同監督のイサ・カンポと結婚、二人三脚で映画を製作している。

 

長編フィルモグラフィー(長編ドキュメンタリーを含む)

2002Cravan vs Cravan

2006La leyenda del tiempo”『時間の伝説』ラス・パルマス映画祭特別審査員賞受賞、アルメニアのエレバン映画祭の作品賞「銀のアプリコット賞」受賞、他

2009Los condenados サンセバスチャン映画祭FIPRESCI国際映画批評家連盟賞受賞

2010La noche que no acaba”(ドキュメンタリー)

2011El cuaderno de barro”(61分の中編ドキュメンタリー)ビアリッツ・オーディオビジュアル・プログラマー国際映画祭FIPA「音楽ライブ」部門ゴールデンFIPA受賞、ゴヤ賞2012ドキュメンタリー部門ノミネーション

2011Los pasos dobles”サンセバスチャン映画祭2011金貝賞受賞作品、他

2014Murieron por encima de sus posibilidades”コメディ、サンセバスチャン映画祭2014コンペティション外出品作品

2016La propera pell”本作

  

  

 (「金貝賞」のトロフィーを手にしたラクエスタ監督と脚本家イサ・カンポ、授賞式にて)

 

★第2La leyenda del tiempo(『時間の伝説』)は二つのドラマ、カンタオールの家系に生まれた少年イスラの物語とカンタオーラを目指してスペインにやってきた日本女性マキコの物語を交錯させ、二人の出会いと喪失感を描いたもの。日本はフラメンコ愛好者がスペインを除くと世界で一番多い国ということか、あるいは日本女性(マキコ・マツムラ)が出演していたせいか、セルバンテス文化センター「土曜映画上映会」で2010年上映された(日本語字幕入り)。個人的にはMurieron por encima de sus posibilidadesのような100%フィクションのコメディが好みですが、あまり評価されなかった。ボクもワタシも仲間に入れてとばかり人気俳優が全員集合しての演技合戦、その中から今回の主役アレックス・モネール、エンマ・スアレス、セルジ・ロペスなどが起用されました。

 

イサ・カンポ Isa Campo 1975年生れ、脚本家、監督、製作者。バルセロナのPompeu Fabra 大学の映画演出科で教鞭をとっている。ラクエスタとの脚本共同執筆歴が長く、Los condenadosLa noche que no acabaEl cuaderno de barroLos pasos doblesMurieron por encima de sus posibilidades5作でコラボしている。アルバ・ソトラのドキュメンタリーGame Over15)は、ガウディ賞2016(ドキュメンタリー部門)で作品賞を受賞している。監督としては短編、ビデオ多数、本作が長編映画デビュー作である。最近1児の母になった。現在はウルグアイ出身のフェデリコ・ベイロフの脚本を執筆中、彼の最新作はサンセバスチャン映画祭2015で“El apóstata”(ウルグアイ、フランス、チリ合作)で審査員スペシャル・メンションを受賞した。ほかにコメディ“Acné”(08、アルゼンチン、メキシコ他との合作)が『アクネACNE』の邦題で短期間公開されている。

 

 

  (“Murieron por encima de sus posibilidades”撮影頃のカンポとラクエスタ)

 

キャスト陣:最近のエンマ・スアレスは話題作に出演している。若いころには上手い女優とは思わなかったが監督には恵まれている。年齢的にはおかしくないのですが、アルモドバルのJulietaでも母親役でした。セルジ・ロペスはポル・ロドリゲスのQuatretondetaで紹介したばかりです。

 

 
         (エンマ・スアレスとアレックス・モネール、映画から)

 

★若いアレックス・モネール1995年バルセロナ生れ、上記したようにMurieron por encima de sus posibilidadesにチョイ役で出演しています。デビュー作はパウ・プレイシャスPreixasHéroes10)、パトリシア・フェレイラの話題作Els nens salvatges(“Los niños salvajes”)で3人の若者の一人に抜擢された。マリア・レオンとゴヤ・トレドが共演したベレン・マシアスのMarsella14)、日本ではパコ・プラサの[REC]312)で登場しています。

ベレン・マシアスの“Marsella”の記事は、コチラ⇒2015

 

 

     (セルジ・ロペスとアレックス・モネール、映画から)

 

ブリュノ・トデスキーニは、1962年スイス生れ、フランス映画で活躍している。スペイン映画ではアグスティ・ビリャロンガのEl pasajero clandestino95)やヘラルド・エレロのTerritorio Comanche97)に出演している。しかし本拠地はフランス、パトリス・シェローのお気に入り、『王妃マルゴ』94)、『愛する者よ、列車に乗れ』98)に出演している。代表作は2003年のベルリン映画祭でシェロー監督が銀熊賞を受賞した『ソン・フレール―兄との約束』の難病に冒された兄役でしょうか。見続けるのがなかなか辛い映画でしたが、ルミエール賞受賞ほかセザール賞ノミネーションなどを受けた作品。  

 

 

   (左から2人目がブリュノ・トデスキーニ、アレックス・モネール、エンマ・スアレス)