オリベル・ラシュ「Sirat」の主役はセルジ・ロペス*カンヌ映画祭20252025年05月03日 18:12

            セルジ・ロペスはロマンチックコメディも得意!

    

     

              (失踪した娘を探す父親と息子)

 

★前回オリベル・ラシュ「Sirat」の作品&監督フィルモグラフィーを紹介しました。今回は続編として、モロッコのサハラ砂漠で行方不明になった娘を探す父親を演じたセルジ・ロペスの紹介。セルジ・ロペスと言えば、ギレルモ・デル・トロのダークファンタジー『パンズ・ラビリンス』の冷酷無比なサイコパスの大尉ビダル(実際監督がロペスの悪役ぶりに惚れ込んで人物造形をしたという曰くつきのキャラクター)、ドミニク・モルのスリラー『ハリー、見知らぬ友人』の不気味な男ハリー、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』では、主人公の母親に横恋慕する悪徳町長、と日本で公開された映画からは悪役のイメージが強い。しかし、実はロマンチックコメディが得意で以下に示すように多くのコメディに出演している。またカタルーニャ語映画マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」では、小さな息子と凧あげをする優しい父親を演じて観客を魅了した。スペイン語は当たり前として、流暢なフランス語、英語と語学に堪能なことから3桁に上る作品に出演している。

    

   

            (『パンズ・ラビリンス』のビダル大尉)

      

      

        (マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」から)

 

★父親ルイス役のセルジ・ロペス19651222日バルセロナ生れ、映画、舞台、TV俳優。16歳で学業を止め、アマチュア劇団に入り俳優の第一歩を踏み出す。その後フランスに渡り、パリのジャック・ルコック国際演劇学校に入学、演技を学んだ。スペイン映画デビューは1991年、ヘスス・フランコの「Ciudad BajaDowntown Heat」、フランス語のオーディションに合格して、1992年マニュエル・ポワリエの「La Petite amie d'Antonio」でフランス映画にデビューしてミシェル・シモン賞を受賞している。その後も『ニノの空』など8作に起用されるというポワリエ映画の常連となる。『ニノの空』でセザール賞有望俳優にノミネートされた。主にスペインとフランスの両国でキャリアを築いている。

 

★共演した国際的な女優連にも目を瞠る、「Lisboa」ではカルメン・マウラ、『スカートの奥で』でビクトリア・アブリル、『堕天使のパスポート』でオドレイ・トトゥ、『シェフと素顔と、おいしい時間』でジュリエット・ビノシュ、『記憶の行方』でエンマ・スアレス、DV男を演じた「Sólo mía」でパス・ベガ、『熟れた本能』ではクリスティン・スコット・トーマス、そして『パンズ・ラビリンス』ではマリベル・ベルドゥとアリアドナ・ヒル、「La boda de Rosa」でカンデラ・ペーニャとナタリエ・ポサと共演している。

   

       

        (マラガ映画祭2020La boda de Rosa」のフォトコール)

 

 

 主なフィルモグラフィー

1991Ciudad BajaDowntown Heat」ヘスス・フランコ、デビュー作

1992La Petite amie d'Antonio」(仏語)マニュエル・ポワリエ

   1993年若手有望俳優に与えられるミシェル・シモン賞

1997Western」『ニノの空』(仏語)マニュエル・ポワリエ

   シッチェスFF 1997グランアンギュラー主演男優賞、セザール賞1998有望俳優ノミネート

1998Caresses / Carícies」(カタルーニャ語)コメディ、ベントゥーラ・ポンス

1999Entre las piernas」『スカートの奥で』マヌエル・ゴメス・ペレイラ

1999Lisboa」クライム・スリラー、アントニオ・エルナンデス

   マラガFF 1999主演男優賞

1999Une liaison pornographique」『ポルノグラフィックな関係』(仏語)

フレデリック・フォンテーヌ

   ベネチアFF 1999パシネッティ主演男優賞サンジョルディ賞2001スペイン俳優賞

 

2000Harry, un ami qui vous veut du bien」『ハリー、見知らぬ友人』(仏語)スリラー、

   ドミニク・モル

   セザール賞2001主演男優賞ヨーロッパ映画賞2000ヨーロッパ俳優賞

2001El cielo abierto」ロマンチックコメディ、ミゲル・アルバラデホ

   シネマ・ライターズ・サークル2002主演男優賞ブタカ賞2001カタルーニャ俳優賞

2001Sólo mía」ハビエル・バラゲル

   フォトグラマス・デ・プラタ2002映画俳優賞、ゴヤ賞2002主演男優賞ノミネート

2002Dirty Pretty Things」『堕天使のパスポート』(イギリス映画)犯罪

   スティーヴン・フリアーズ

2002Decalage horaire」『シェフと素顔と、おいしい時間』(仏語)ダニエル・トンプソン

2003Janis et John」『歌え!ジャニスジョプリンのように』(仏語)コメディ

   サミュエル・ベンチェトリット

2006El laberinto del fauno」『パンズ・ラビリンス』ダーク・ファンタジー、

   ギレルモ・デル・トロ  ファンタスポルト2007国際ファンタジー映画賞主演男優賞

   ブタカ賞カタルーニャ俳優賞トゥリア賞主演男優賞

   ゴヤ賞2007主演男優賞ノミネート、ほかノミネート多数

2007La Maison」(仏語)マニュエル・ポワリエ

2009RickyRicky リッキー』(仏語)コメディ、フランソワ・オゾン

2009Map of the Sounds of Tokyo」『ナイト・トーキョー・デイ』イサベル・コイシェ

2009Partir」『熟れた本能』(仏語)カトリーヌ・コルシニ

 

2010Pa negra」『ブラック・ブレッド』(カタルーニャ語)ダークミステリー、

   アグスティ・ビリャロンガ、ゴヤ賞2011助演男優賞ノミネート

2011Le moine / El monje」『マンク 破戒僧』(仏語)ドミニク・モル

2012Tango lible」『タンゴ・リブレ 君を想う』フレデリック・フォンテーヌ

2014El Niño」『エル・ニーニョ』&『ザ・トランスポーター』ダニエル・モンソン

2015A Perfect Day」『ローブ/戦場の生命線』(英語・西語・ルーマニア語)

   シリアスコメディ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア

2015Vingt et une nuits avec Pattie」『パティ―との二十一夜』(仏語)コメディ

   アルノー・ラリュー & ジャン=マリー・ラリュー

2015Un dia perfecte per volar」(カタルーニャ語)マルク・レチャ

   アミアンFF 2015主演男優賞、ガウディ賞2016主演男優賞ノミネート

2016La propera pell」『記憶の行方』(カタルーニャ語)

   イサ:カンポ & イサキ・ラクエスタ

2018Lazzaro Felice」『幸福なラザロ』(伊語)アリーチェ・ロルヴァケル

2019La inocencia」(カタルーニャ語・西語)ルシア・アレマニー

 

2020Josep」『ジュゼップ 戦場の画家』(アニメーション、ボイス、仏語)オーレル

2020La boda de Rosa」コメディ、イシアル・ボリャイン

   ゴヤ賞2021助演男優賞、フェロス賞、ディアス・デ・シネ賞、各ノミネート

2020Rifkin's Festival」『サン・セバスチャンへ、ようこそ』(英語)ウディ・アレン

2021Mediterráneo」『地中海のライフガードたち』ビオピックドラマ、マルセル・バレナ

   第17回難民映画祭2022オンライン配信

2022Pacifiction」『パシフィクション』(仏語)アルベルト・セラ

2022La manzana de oro」コメディ、ハイメ・チャバリ

2023La francée du poéte」『詩人の花嫁』(仏語・英語)ヨランド・モロー

2023El viento que arrasa」(アルゼンチン・ウルグアイ)パウラ・エルナンデス

2025La terra negra / La tierra」(カタルーニャ語・西語)アルベルト・モライス

2025Sirat」オリベル・ラシュ

 

★邦題は公開、ミニ映画祭、DVDスルー、ネットフリックス、プライムビデオなどの配信による。TVシリーズ、「Mano de hierro」(248話)が『鉄の手』の邦題でネット配信されている。他にカタルーニャ語TV3シリーズ『あなたに出会っていなければ』(10話)にも出演している。年々父親役が多くなってきている。

 

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審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪2025年04月25日 13:23

         ベレン・フネスの第2Los Tortuga」が4冠の快挙

    

    

 

ベレン・フネス2作めLos Tortuga」は、審査員特別賞監督賞脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。

ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ20191224

マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ20250328

 

Los Tortuga / The Exiles

製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /

    Quijote Films  

   協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC / 

      ICAA / RTVE / TV3、他

監督:ベレン・フネス

脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン

撮影:ディエゴ・カベサス

音楽:パロマ・ペニャルビア

編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE

美術:パウラ・エスプニー

キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス

衣装デザイン:ルルデス・フエンテス

メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス

製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン

 

データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン20241115

   

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞

 

キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他

 

ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

    

         

                (フレームから)

 

監督紹介ベレン・フネス1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞監督賞脚本賞3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作Los Tortugaが長編第2作になる。

   

     

                   ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

   

        

         (新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)

 

脚本家紹介マルサル・セブリアン1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「Lestigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。20254月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。

 

           

         

       (マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)

 

キャスト紹介アントニア・セヘルス1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

   

    

        (G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

 

    

         (チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)

 

★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。

 

          

  

    (マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)

 

★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

   

      

          (共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)

 

★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(200104)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、201517)とある。

 

★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(20131490話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(201922、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。

 

主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)  

1995En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス

2003Sábado」マティアス・ビセ

2007Pecados」マルティン・ロドリゲス

2008Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1

   テレビプロデューサー役

2010Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役

   ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート

2010La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演

   ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート

2012No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役

2015El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演

   シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016

   イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数

2015La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役

2017Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ 

   レストラン店主役

2017Los perros」マルセラ・サイド 主役

   ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数

2017Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役

2018Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役

2021Mensajes privados」マティアス・ビセ

20221976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役

2022El castigo」マティアス・ビセ 主役

   タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、

     トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞

2023El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役

   イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート

2024Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役

2024Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役

  

当ブログ関連記事

『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ20151018

Los perros」の紹介記事は、コチラ20170501

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20171122

Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ20220314

1976』の紹介記事は、コチラ20220913

El castigo」の紹介記事は、コチラ202303月03

Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ20240829

 

 

★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ3作目「Sirat」とカルラ・シモン3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。

 

オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。


エバ・リベルタードの「Sorda」*マラガ映画祭2025 ⑨2025年04月14日 13:24

         金のビスナガ「Sorda」は監督エバと主演者ミリアム姉妹の二人三脚

     

           

           (エバ・リベルタードとミリアム・ガルロ姉妹)

 

★季節が往ったり来たりで心身共に疲れます。第78回カンヌ映画祭の名誉パルムドールにロバート・デ・ニーロ受賞のニュース、審査委員長がジュリエット・ビノシュとアナウンスされたきり、他のメンバーは未発表です。昨年のグレタ・ガーウィグに続いて今年も女性が選ばれましたが、最初の女性委員長を務めたのが2014年のジェーン・カンピオン、ビノシュが3人めというから呆れます。コンペティション部門ノミネートもこれからです。トランプ関税は映画界も無傷というわけにいかないし、我が国もトランプに笑顔を向けながらしぶとく抵抗してもらいたい。

 

★マラガ映画祭作品賞金のビスナガ受賞作「Sorda」は、監督にエバ・リベルタード、聴覚障害者の母親役に実妹のミリアム・ガルロが扮したドラマです。ガルロ自身7歳のとき薬害で聴力を失っており、アイディア誕生の経緯などもドラマチックのようです。ヌリア・ムニョスと共同監督した2021年発表の同タイトルの短編が下敷きになっており、第25回マラガ映画祭2022短編部門の銀のビスナガ観客賞を受賞している。来年あたりの公開を期待して作品紹介をいたします。成功にはガルロのパートナー役を演じたアルバロ・セルバンテスの好演を上げる批評家が目につきましたが、二人揃って銀のビスナガを受賞しました。

    

    

  (左から、ヌリア・ムニョス、ミリアム・ガルロ、エバ・リベルタード、マラガFF2022

   

         

             (短編Sorda」のポスター

 

 Sorda / Deaf

製作:Distinto Films / Nexus CreaFilms / A Contracorriente Films / Diverso Films 

   協賛ICAA / RTVE / Movistar Plus/ 7TV Región de Murcia

監督・脚本:エバ・リベルタード

助監督:ミゲル・ガゴ

撮影:ジナ・フェレール・ガルシア

音楽:アランサス・カジェハ(カリェハ)

編集:マルタ・ベラスコ

美術:アンナ・アウケル

録音:ウルコ・ガライ

キャスティング:イレネ・ロケ

衣装デザイン:デシレ・ギラオ、アンヘリカ・ムニョス

メイクアップ&ヘアー:メルセデス・カルセレン・ロペス、クリスティナ・ゴメス・マルキナ、ミリアム・サンチェス

プロダクションデザイン:エレナ・カサス、ゴレッティ・パジェス

製作者:ミリアム・ポルテ(Distinto Films)、ヌリア・ムニョス・オルティン(Nexus CreaFilms)、アドルフォ・ブランコ()、(エグゼクティブ)アマリア・ブランコ(A Contracorriente Films)他

 

データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、ドラマ、100分、撮影地ムルシア、20247月クランクイン6週間、公開スペイン44日、配給A Contracorriente Films

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2025パノラマ部門観客賞、CICAEアートシネマ賞受賞、マラガ映画祭2025スペイン映画部門作品賞金のビスナガ、主演女優賞(ミリアム・ガルロ)、主演男優賞(アルバロ・セルバンテス)、観客賞、ASECAN賞(アンダルシア・シネマ・ライターズ、オペラ・プリマ部門)、Feroz Puerta Oscuraフェロス・プエルタ・オスクラ賞など受賞、D'A Film Festival(バルセロナ映画祭)正式出品

  

キャスト:ミリアム・ガルロ(アンヘラ)、アルバロ・セルバンテス(夫エクトル)、エレナ・イルレタ(アンヘラの母エルビラ)、ホアキン・ノタリオ(アンヘラの父フェデ)

 

ストーリー:聴覚障害者のアンヘラは陶芸工房で自立して働いている。一緒に暮らしている聴覚パートナーのエクトルは、手話を習得して聴覚障害者のコミュニティにも完全に溶け込んでいる。アンヘラは読唇術を学んで間もなくやってくる赤ちゃんを喜びに浸りながら待っているが、赤ん坊が到着すると彼女が努力して築き上げてきた世界のバランスが崩れはじめます。彼女をかつてのような障害者の地位に引きずり下ろし始める。自分と娘にとって何がよく、何がよくないかの決定を迫られる。自分の居場所が分からなくなった聴覚障害者の心の旅が語られる。

     

          

     

   (ガルロ、リベルタード監督、セルバンテス、マラガFF 315日フォトコール)

 

 

監督紹介エバ・リベルタード1978年、ムルシア州モリーナ・デ・セグラ生れ、監督、脚本家、戯曲家、マドリード・コンプルテンセ大学社会学科卒業。ヌリア・ムニョス・オルティンと共同監督したファンタジー「Nikolina」(20)で長編デビュー、ムニョスとのコンビで短編「Leo y Alex en plano siglo 21」(196分)やSorda」(2118分)を撮る。後者はアバンカ映画祭、イベロアメリカン短編映画祭など国内外の映画祭の受賞歴多数、ゴヤ賞2023短編映画賞にノミネートされる。短編「Mentiste Amanda」(2416分)を同じくヌリア・ムニョスと共同監督、メディナ・デル・カンポ映画祭作品賞受賞、ゴヤ賞2025短編映画部門の候補に選出されたがノミネートは逃した。他にTVミニシリーズ、SFHeroes del Patrimonio」(18)、劇作家としてはコンプルテンセ大学、メキシコのケレタロ自治大学のような独立系の劇団のために執筆や演出を手掛けている。長編「Sorda」は単独で監督した第1作である。

   

       

     (ヌリア・ムニョスと共同監督した短編「Mentiste Amanda」のポスター)

 

         

              (共同監督ヌリア・ムニョスと)

 

キャスト紹介ミリアム・ガルロ1983年、ムルシア州モリーナ・デ・セグラ生れ、映画、舞台女優、視覚芸術を専門とするアーティスト、コンテンポラリー・ダンサー、手話のスペシャリスト、フェミニスト活動家である。7歳のとき服用していた薬でほぼ聴力を失う。ミリアムによると両親が気づくのが遅れたため難聴が進行した由。マドリード・コンプルテンセ大学で美術を専攻、アート、創作の修士号を取得する。最初画家を目指したが、現在は演劇、映画の女優にシフトしている。4匹の犬と自宅の農地で鶏を飼っている。育てている鶏の卵以外は食べないベジタリアン、短編Sorda」の舞台になった。短編、長編の「Sorda」のほか、「Nikolina」に出演している。

   

        

    (飼い犬とくつろぐミリアム、ムルシアのモリーナ・デ・セグラの自宅にて)

 

★エクトル役のアルバロ・セルバンテス1989年バルセロナ生れ、俳優、製作者。DVD発売やNetflix配信で観る機会があり認知度もそこそこあるように思えますが果たしてどうでしょう。当ブログでは出演した『1898:スペイン領フィリピン最後の日』などの作品紹介はしておりますが、セルバンテスの纏まったキャリア紹介はしていない。これからも活躍が期待できる俳優の一人としてアップします。ジェマ・ブラスコ監督の「La furia」で主演女優賞を受賞したアンヘラ・セルバンテスは実妹。今回揃って銀のビスナガのトロフィーを手にした。

         

        

            (セルバンテス兄妹、マラガ映画祭2025323日フォトコール)

 

1995年、子役としてホアキン・オリストレルのTVシリーズ「Abuela de verano」でスタート、今年のマラガ映画祭ソナシネ部門の作品賞を受賞したイバン・モラレスの「Esmorza amb mi / Desayuna conmigo」まで数えると約60作に出演している。映画デビューはシルビア・ムントがマラガ映画祭2008銀のビスナガ監督賞を受賞した長編デビュー作「Pretextos」ですが、最初に字幕入りで見ることができたのは、『ザ・レイプ 秘密』の邦題でDVDが発売された「El juego del ahorcada」でした。かなりショッキングな邦題でしたが、オリジナルも「処刑ごっこ」と穏やかではなかった。

1898:スペイン領フィリピン最後の日』の作品紹介記事は、コチラ20170105

*「Adúの作品紹介記事は、コチラ20210124

Ramón y Ramón」の紹介記事は、コチラ20240825

  

★代表作を年代順に列挙すると、

2008Pretextos」(カタルーニャ語)シルビア・ムント、共演ライア・マルル

2008El juego del ahorcada / The Hanged Man」『ザ・レイプ 秘密』スリラー、監督マヌエル・ゴメス・ペレイラ、インマ・トゥルバウの同名小説の映画化、ゴヤ賞2009新人男優賞にノミネート、共演クララ・ラゴ

2010Tres metros sobre el cielo」『空の上3メートル』フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ、フェデリコ・モッキアの同名小説の映画化、脚本ラモン・サラサール、共演マリオ・カサス、マリア・バルベルデ

2012El sexo de los ángeles」『バルセロナ、天使のセックス』ハビエル・ビリャベルデ、マラガ映画祭2012銀のビスナガ助演男優賞受賞DVD2013発売

2012Tengo ganas de ti」『その愛を走れ』フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ、『空の上3メートル』の続編、フェデリコ・モッキアの同名小説の映画化、脚本ラモン・サラサール

20161898, Los últimos de Filipinas」『1898:スペイン領フィリピン最後の日』歴史ドラマ、サルバドール・カルボ、スペイン俳優組合ノミネート、共演ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、カラ・エレハルデ、Netflix配信

2018El árbol de la sangre」『ファミリー・ツリー 血族の秘密』フリオ・メデム、Netflix配信

2020Adú」サルバドール・カルボ、共演ルイス・トサール、アンナ・カステーリョ、メリリャ駐在の治安警備隊員を演じた。ゴヤ賞2021助演男優賞ノミネート、Netflix配信(字幕なし)

2021Loco por ella」『クレイジーなくらい君に夢中』ダニ・デ・ラ・オルデン、共演ルイス・サエラ、クララ・セグラ

202242 segundos」ダニ・デ・ラ・オルデン、共演ハイメ・ロレンテ

2022Malnazidos」『マルナシドス-ゾンビの谷-』ハビエル・ルイス・カルデラ、

Netflix配信

2023Eres tú」『だから、君なんだ』アラウダ・ルイス・デ・アスア、Netflix配信

2024Ramón y Ramón」サルバドール・デル・ソラル、サンセバスチャン映画祭2024オリソンテス・ラティノス部門正式出品、ペルーとの合作

2025Sorda / Deaf」エバ・リベルタード、マラガ映画祭2025銀のビスナガ主演男優賞受賞

2025Esmorza amb mi / Desayuna conmigo」イバン・モラレス、主演、マラガ映画祭ソナシネ部門銀のビスナガ作品賞、観客賞など受賞

メディナ映画祭202121世紀の俳優」を受賞

    

       

       (銀のビスナガ主演男優賞の受賞スピーチをするセルバンテス)  

 

★短編、TVシリーズは割愛しましたが、オリオル・フェレルの「Carlos, Rey Emperador」(『カルロス~聖なる帝国の覇者~』20151617話)は彼にとって素晴らしい転換点になった(フォトグラマス・デ・プラタ、スペイン俳優組合賞などにノミネート)。神聖ローマ皇帝カール5世(スペイン王カルロス1世)を演じた。イサベル・デ・ポルトゥガル役のブランカ・スアレス、エルナン・コルテス役のホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス他、ナタリエ・ポサ、スシ・サンチェス、エリオ・ペドレガルなどベテラン演技派との共演が刺激になったようです。7ヵ月以上に及んだ撮影では、季節の区別なく酷暑の中でも常に重たい衣装を着用しなければならず大変だったと語っている。また約20作くらい出演している短編ではダビ・ペレス・サニュドの「Un coche cualquiera」(19)で、CinEuphoria 2021の男優賞にノミネートされている。

   

        

          (カルロス1世に扮したアルバロ・セルバンテス)  

 

 

     音が溢れる社会の中で身振りと思考のあいだの繋がりを確立する困難さ

  

★本作のテーマは聴覚障害者が聴者の世界で直面する問題を探求しているが、聴覚障害そのものがテーマではなく、自分の居場所を探す女性の心の旅のようです。アンヘラはたまたま耳が聞こえなかった。娘が生まれる前の日常はエクトルの努力の甲斐もあって穏やかであった。生まれる子供の聴覚がどちらになるかは半々だったが、娘はたまたま耳が聞こえるほうだった。赤ん坊は読唇術も手話も分からない、どのようにして言葉を教えたらよいのか分からない。声を出せないアンヘラは当然パニックに陥る。アンヘラが求めていた調和のとれた家庭生活、母親としての絆が得られない。先に娘との絆を築いたエクトルに嫉妬して苛立つアンヘラ、エクトルの「どうして欲しいんだ、夫も娘も耳が聞こえないほうがよかったのか?」というセリフに象徴されるように危機が訪れる。アンヘラの矛盾した複雑な感情の揺らぎ、忍耐強さ、エゴイズム、硬直性などが語られる。

    

  

  (「あなただけが完璧な親で、一人で育児を楽しんでいる」と夫を非難するアンヘラ

    

      

          (聴覚障害者のコミュニティでは幸せなアンヘラ)

 

★アンヘラは娘と会う前の出産時に既に異変を体験していた。分娩室は聴覚障害者のコミュニティでも親しい友人たちの集まりのように安全ではない。陣痛が激しくなると看護スタッフたちはアンヘラが耳が聞こえないことを忘れてしまう。自分たちの指示に従わないアンヘラに慌てる、出産の凄さに度肝を抜かれたエクトルも極度の緊張から手話で上手く指示を伝えられない。アンヘラの存在を許容していた社会が突然機能しなくなる。普段は完璧に思えた関係も大波が来ると役に立たない。公共の場で目に見えない聴覚障害は、目に見える視覚障害のように視覚化されない。アンヘラも白い杖を使用していたわけでも盲導犬と一緒でもなかった。 

  

         

             

              (娘に言葉を教えるアンヘラ)

  

★音が溢れる社会の中で身振りと思考のあいだの繋がりの確立には困難がともなう、音が聞こえることとそれが言葉として聞こえることは同じではない。耳の聞こえない母親が耳の聞こえる赤ん坊に「どうやって言葉を教えるのだろうか」が本作のアイディアの出発点だったという。聴者の世界に適応するよう育てられているため聴覚障害者あるいは難聴者は社会から見えにくくなっている。それぞれ異なった世界に帰属しているのに可視化されていない。監督は「アンヘラは聴者の世界に対して準備できているが、世界はアンヘラに対して準備できていない」と、ベルリン映画祭のインタビューで語っています。またエクトルという人物造形には、分身として監督が少し投影されており、セルバンテスには撮影開始1年前にオファーをした。手話を学ぶ時間が必要だったからと語っている。予告編だけでは舌足らず、鑑賞後に改めてアップが必要です。 

  

マラガ―スール賞のカルメン・マチ*マラガ映画祭2025 ⑧2025年04月06日 15:27

                カメレオン女優カルメン・マチの強かな生き方

  

      

             (マラガ―スール賞を受賞したカルメン・マチ、2025315日)

 

★後回しになっていた今年の特別賞マラガ―スール賞の受賞者カルメン・マチのキャリア&フィルモグラフィー紹介です。196317日マドリード生れ、マリア・デル・カルメン・マチ・アロヨ、両親ともスペイン人だが、父方の家系はイタリアのジェノバのアーティスト一家である。1980年、17歳でヘタフェのタオルミナ劇団に入り、初舞台はロルカの「血の婚礼」だった。1994年ホセ・ルイス・ゴメスが主宰する演劇学校ラ・アバディアに入団、バリェ=インクランの「貪欲、欲望と死の祭壇画」、「ベニスの商人」などの舞台に立つ。演劇関係では最高賞Max賞に、2011年「Falstaff」(シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』の登場人物)で助演女優賞、2009年「Platonov」(チェーホフの『プラトーノフ』)助演女優賞、2008年「La tortuga de Darwin」(フアン・マヨルガ作、ダーウィンによってガラパゴス諸島からイギリスに連れてこられた海亀ハリエット役)で主演女優賞を受賞している。ほかソフォクレスの悲劇『アンティゴネ』(201517)やチェーホフの『桜の園』(2019)に出演している。

 

★映画デビューは遅く、主役に起用されたのはハビエル・レボーリョの「La mujer sin piano」で、カセレス・スペイン映画祭2009女優賞を受賞した。続くエミリオ・アラゴンのデビュー作「Pájaros de papel」はラテンビート映画祭2010で上映された後、『ペーパーバード 幸せは翼にのって』の邦題で公開され、監督と来日した。役柄からイメージするのとは違った華奢な体型とその物静かな雰囲気に驚かされた。同年ナチョ・G・ベリリャの「Que se mueran los feos」では、ハビエル・カマラと共演、彼の小姑役を演じた。

   

     

                       (「Pájaros de papel」のフレームから)

 

★そして観客動員数1000万人、スペイン映画興行成績ナンバーワンとなったエミリオ・マルティネス=ラサロの「Ocho apellidos vascos」出演である。翌年のゴヤ賞ではコメディ作品の受賞はないという大方の予想を覆して、カラ・エレハルデの助演男優賞、ダニ・ロビラの新人賞、マチの助演女優賞の3冠をゲットした。以来引っ張りだことなり、続編「Ocho apellidos catalanes」はネットフリックスで配信された。

 

     

                  (ゴヤ賞2015助演女優賞のトロフィーを手にしたマチ)

   

   

                            (共演者のカラ・エレハルデと)

 

★主演作が多くなり、なかでアルゼンチンのマリナ・セレセスキーのシリアスドラマ「La puerta abierta」の娼婦役に起用され、ゴヤ賞2017で初めて主演女優賞にノミネートされた。その他フォルケ賞、フェロス賞もノミネートに終わったもののスペイン俳優組合賞を受賞した。テレレ・パベス、アシエル・エチェアンディアなどが共演した。アレックス・デ・ラ・イグレシアの「El bar」、「アイーダ」の共演者エドゥアルド・カサノバのデビュー作「Pieles」など、Netflix配信、ミニ映画祭、公開などで日本でも認知度が高くなりファンが増えてきた。作品紹介記事は、当ブログでアップした一覧を添付しているので参考にしてください。ネットフリックスやプライムビデオで配信されたなかで既に配信が終了している作品もあります。

     

      

       (『クローズド・バル』のフレームから、左端にカルメン・マチ)

   

    

           (高評価の「La puerta abierta」のポスター)

 

★私生活は公にしないのでミステリアスな部分も多いが、20年来のパートナー、ミュージシャンのビセンテとは「結婚にも子供をもつことにも怖れがある」そうです。

 

   

     

         (20年来のパートナー、ビセンテと仲睦まじく買い物)

 

受賞歴2013年メモリアル・マルガリーダ・シルグ賞、2017年マドリード金のメダル受賞、2024年芸術功労賞金のメダルを各受賞している。

 

           主なフィルモグラフィー

1999Lisa」短編、カルロス・プジェ

2002Hable con ella」『トーク・トゥ・ハー』ペドロ・アルモドバル、看護婦役

2003Descongélate」『チル・アウト』ドゥニア・アヤソ&フェリックス・サブロソ

  「Torremolinos 73」『トレモリーノス73パブロ・ベルヘル、美容院の客

2004Escuela de seducción」ハビエル・バラゲル、ウエートレス役

2005Vida y color」『色彩の中の人生』サンティアゴ・タベルネロ

2006Lo que sé de Lola」ハビエル・レボーリョ

2009Las abrazos roto」『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル

La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ、主役、カセレス・スペインFF女優賞受賞

2010Pájaros de papel」『ペーパーバード 幸せは翼にのって』エミリオ・アラゴン、

   ラテンビート2010女優賞受賞

  「Que se mueran los feos」ナチョ・G・ベリリャ、主役ナティ

2011La piel que habito」『私が、生きる肌』ペドロ・アルモドバル、結婚式招待客

2013Los amantes pasajeros」『アイム・ソー・エキサイテッド!』ペドロ・アルモドバル

2014Ocho apellidos vascos」エミリオ・マルティネス=ラサロ、メルチェ役、

   ゴヤ賞2015助演女優賞受賞

2015Perdiendo el norte」『夢と希望のベルリン生活』ナチョ・G・ベリリャ、

   ベニ・マリン役

Mi gran noche」『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』アレックス・デ・ラ・イグレシア

2015Ocho apellidos catalanes」『オチョ・アペリードス・カタラネス』

   エミリオ・マルティネス=ラサロ、メルチェ/ カルメ役

2016Las furias」ミゲル・デル・アルコ、カサンドラ役

La puerta abierta」マリナ・セレセスキー、娼婦ロサ、スペイン俳優組合賞受賞

2017El bar」『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』

   アレックス・デ・ラ・イグレシア

Pieles」『スキン~あなたに触らせて』エドゥアルド・カサノバ

2018Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ 希望のベトナム』パトリシア・フェレイラ、

   主役カルメン・ガラテ

La tribu」『ダンシング・トライブ』フェルナンド・コロモ、ビルヒニア母親役

 モンテカルロ・コメディ映画祭2018主演女優賞受賞

2019Perdiendo el este」パコ・カバジェロ、ベニ・マリン役

Lo nunca visto」マリナ・セレセスキー、主役テレサ

2020Nieva en Benidorm」ネオノワール、イサベル・コイシェ、警官マルタ役

  「Un efecto óptico」フアン・カベスタニー

2021El cover」ミュージカル、セクン・デ・ラ・ロサ、マリエ・フランセ役

2022Amor de madre」『僕とママの”じゃない”ハネムーン』パコ・カバジェロ、母親役

Rainbow」ミュージカル、パコ・レオン

La voluntaria」政治ドラマ、ネリー・レゲラ

Cerdita」『PIGGYピギー』コメディ・ホラー、カルロタ・ペレダ、母親役

2024Tratamos demasiado bien a las mujeres」シリアスコメディ、クララ・ビルバオ、主演

  「Verano en diciembre」カロリナ・アフリカ、主演母親役

2025Aída y vuelta」パコ・レオン、アイーダ・ガルシア・ガルシア役

 

TVシリーズ、進行中の出演を含めると80作を超える。従って初期の端役、短編、TVシリーズは割愛しています。今回リストアップしての印象は、映画でのノミネート数に比して受賞が少ないということでした。TVシリーズ7 vidas9906204話)では2000年から参加して98話出演、本作のアイーダ・ガルシア・ガルシア役の人気に乗じてスピンオフした「Aída」(0514238話)では101話に出演している。両シリーズともシチュエーションコメディ、後者の受賞歴はフォトグラマス・デ・プラタ(200420052007)、オンダス賞2008、スペイン俳優組合賞2005と多いが、疲れはてて自ら降板を願い出ている。そしてリターン・コールで再登場したのがTVでなくスクリーン、今年公開予定の「Aída y vuelta」である。授与式に駆けつけてくれたパコ・レオンが監督している。彼はルイスマ・ガルシア・ガルシア役で全238話に出演しており、新作でも勿論出演しないわけにいかない。みんな少しずつ老けましたが元気です。

   

            

        (TV出演メンバーで撮る映画「Aída y vuelta」の出演者たち)

 

★ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボが製作、監督したミュージカル「La mesías」(23、全7話)とディエゴ・サン・ホセ創案、エレナ・トラぺ監督の「Celeste」(24、全6話)、前者はメシアの到来を妄想するファナティックな老母モンセラット・バロ役(67話に出演)、後者はラテン音楽のスーパースターのセレステの脱税を証明するというミッションを受けた税務捜査官役、TV部門のフォルケ賞2024女優賞とフェロス賞にノミネートされ、フォトグラマス・デ・プラタを受賞している。

     

            

          (マルサの女を演じたTVシリーズ「Celeste」から)

 

        

         (有能な税務捜査官を好演した「Celeste」のポスター)

 

          カルメン・マチ関連記事一覧

Ocho apellidos vascos」キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20150128

『ペーパーバード 幸せは翼にのって』の紹介記事は、コチラ20140517

Las furias」の紹介記事は、コチラ20160226

La puerta abierta」の紹介記事は、コチラ20170112

『クローズド・バル~』の紹介記事は、コチラ2017012202260404

『スキン~あなたに触らせて~』の紹介記事は、20170820

Nieva en Benidorm」の紹介記事は、コチラ20210211

El cover」の紹介記事は、コチラ20210518

PIGGY ピギー』の紹介記事は、コチラ20221219

* TVシリーズLa mesias」の紹介記事は、コチラ⇒2023年07月19日

アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥2025年01月15日 14:41

        実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

 

   

      (主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)

 

アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。

『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ20180513

   

      

    (ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)

 

★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。

 

La infiltrada」(英題「Undercover」)

製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures / 

   Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory    Entertainment / Movistar Plus + / ICAA

監督:アランチャ・エチェバリア

脚本:アメリア・モラアランチャ・エチェバリア

   (オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス

撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス

音楽:フェルナンド・ベラスケス

編集:ビクトリア・ラメルス

録音:マイテ・カブレラファビオ・ウエテホルヘ・カステーリョ・バリェステロス

   ミリアム・リソン

キャスティング:テレサ・モラ

メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ

       (ヘアー)トノ・ガルソン

プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス

特殊効果:マリアノ・ガルシアジョン・セラーノフリアナ・ラスンシオン

製作者:メルセデス・ガメロBFSマリア・ルイサ・グティエレスBowfingerパブロ・ノゲロレスアルバロ・アリサ

(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024930日、サラゴサ101日、スペイン一般公開1011

  

映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)

 

キャストカロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数

 

ストーリー1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

   

       

               (ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

   

       

        (潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)

 

          実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像

 

アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998916日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。

 

      2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス

 

★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。

 

★プロデューサーとはBowfinger International Picturesマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

    

   

      (ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)

 

BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。

 

★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。

 

        潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?

 

★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。

 

★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。

  

★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。

 

キャスト紹介カロリナ・オルテガ・ジュステ1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。

  

       

     

      (アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、La infiltradaから)

 

★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞サンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

   

     

   (フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)

 

★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。

Saben aquell」の紹介記事は、コチラ20231230

Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ20220801

El Cover」の紹介記事は、コチラ20210518

Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ20200822


ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」*ゴヤ賞2025 ⑤2025年01月08日 22:15

          カタルーニャ語映画「Casa en flames」はシリアスコメディ

   

       

                (スペイン語版ポスター)

 

★ゴヤ賞作品賞ノミネートのダニ・デ・ラ・オルデンのシリアスコメディ「Casa en flames」の言語はカタルーニャ語、前回アップしたマルセル・バレナの「El 47」も主要言語はカタルーニャ語でした。カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』(17)の成功以来、じりじり増えている印象です。カタルーニャ語映画の興行成績ナンバーワンは、シモンの2作め「Alcars」(22)の240万ユーロでしたが、628日に本作が公開されると尻上がりに数字を更新しつづけ、9月末には270万ユーロとなり、わずか3ヵ月で抜いてしまいました。製作に途中から参加したNetflix の配信が、1023日から始まっているので投票には有利になるでしょう。残念ながら日本語字幕入りの配信は目下ありません。

     

    

      (インタビューを受けるダニ・デ・ラ・オルデンとホセ・ペレス・オカーニャ

 

★セレブな離婚女性モンセが、地中海に面したコスタ・ブラバのカダケスの家に2人の子供を呼び寄せて週末を過ごそうと計画する。建物の売却やら、まだ引きずっている恨みやら、いろいろあるにはあるが、それはさておき、何者にも週末を台無しにさせないと決心しています。どこの家庭にも少しの利己主義や秘密はありますが、なんとも嫌味な登場人物がモンセの家に集合することになる。

 

★ゴヤ賞ノミネートは8カテゴリー、うち5部門をキャスト陣が占めている。モンセにエンマ・ビララサウ(主演女優)、息子ダビにエンリク・アウケル(助演男優)、娘フリアにマリア・ロドリゲス・ソト(助演女優)、元夫カルレスにアルベルト・サン・フアン(主演男優)、さらに助演女優賞に息子のガールフレンドらしきマルタ役のマカレナ・ガルシアという布陣です。ほかのノミネートは、作品賞、オリジナル脚本賞(エドゥアルド・ソラ、プロダクション賞(ライア・ゴメス3部門です。

 

Casa en flames(西題「Casa en llamas」、英題「A House on Fire」)

製作:3Cat / Atresmedia Cine / Eliofilm(伊)/ Sábado Pliculas(西)

            Playtime Movies(西)ICEC / ICAA / Netflix

監督:ダニ・デ・ラ・オルデン

脚本:エドゥアルド・ソラ

音楽:マリア・キアラ・カサ 

撮影:ペペ・ゲイ・デ・リエバナ

編集:アルベルト・グティエレス

プロダクション・マネージメント:ライア・ゴメス

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

美術:ヌリア・グアルディア

衣装デザイン:イシス・ベラスコ

メイクアップ&ヘアー:アンナ・アルバレス・デ・サルディ、エンマ・ラモス、(ヘアー)マリベル・ベルナレス

製作者:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、ダニ・デ・ラ・オルデン、キケ・マイジョ、アリエンス・ダムシ、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、トニ・カリソサ、ベルナト・サウメル

 

データ:製作国スペイン=イタリア、2024年、カタルーニャ語80%、スペイン語20%、シリアスコメディ、105分、撮影地カタルーニャ州ジローナ(ヘローナ)、公開スペイン628日、Netflix配信1023日(日本語なし)

映画祭・受賞歴:バルセロナ・サンジョルディ映画祭 BCNFF 2024でワールド・プレミア、モンテカルロ・コメディFF2024作品賞受賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2024観客賞受賞、ディアス・デ・シネ賞(エンマ・ビララサウ)、他にゴヤ賞20258部門、フェロス賞20258部門、ガウディ賞202514部門にノミネートされている。

 

キャスト:エンマ・ビララサウ(モンセ)、エンリク・アウケル(息子ダビ)、マリア・ロドリゲス・ソト(娘フリア)、アルベルト・サン・フアン(元夫カルレス)、クララ・セグラ(ブランカ)、マカレナ・ガルシア(マルタ)、ホセ・ペレス・オカーニャ(トニ)、フィリッポ・コントリ(リカルド)、ゾエ・ミリャン(ジョアナ)、他多数

  

ストーリー:離婚した裕福な女性モンセは、長いあいだ母親を無視してきた2人の子供をカダケスの自宅に呼び寄せ、最後の週末を過ごす計画を立てる。自宅売却の可能性やら、恨みつらみの数々やら、どこの家族にも口に出してはいけない秘密はあるけれど、それはさておき、この週末は誰にも台無しにさせないと決心している。しかし、元夫も登場して・・・家族再会劇の行方は?

 

         カタルーニャのブルジョア階級の欺瞞をやんわり批判

 

★批評家と観客の評価が分かれるのは珍しくありませんが、前者の80パーセント以上が好意的、フォルケ賞では観客賞を受賞するなど、双方に齟齬がない。キャストの演技をカンペキと褒める批評家が多数を占める。1作品で俳優賞5個ノミネートは珍しい。カタルーニャのブルジョア階級の痛烈なパロディではありますが、笑ってばかりはいられない。何しろ火の手が上がって燃えさかっている家なので本当は怖い話なのです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画としてはレベルが高そうですが監督賞に選ばれていませんので、今回はノミネートされているキャスト陣を中心に紹介しておきます。

      

    

          (モンセ役のエンマ・ビララサウ、フレームから)

 

★カダケスで直ぐ思い出されるのがサルバドール・ダリ、彼はユニークな建物で有名なダリ美術館のあるフィゲラス出身ですがカダケスに別荘を所有しており、夏期にはここで過ごすことが多かった。詩人のガルシア・ロルカもひと夏を過ごしている。後にダリと結婚することになるポール・エリュアールの妻ガラとの出会いもカダケスのこの別荘でした。カタルーニャのお金持ちの別荘地というわけです。撮影場所にはバルセロナのカネ・デ・マルにあるホセ・アントニオ・コデルチが設計した建物カサ・ロビラも含まれている。邸内から地中海が見渡せる豪邸が舞台なのが観客を惹きつけているのかもしれません。

 

      

                 (カサ・ロビラ邸)

 

   

          (息子ダビと娘フリア、カサ・ロビラの室内)

 

★モンセ役のエンマ・ビララサウ・トマスは、1959年バルセロナ生れ、映画、テレビ、舞台女優。1913年バルセロナ州議会によって設立された演劇研究所で演技を学ぶ。1980年カタルーニャTVのミニシリーズでキャリアをスタートさせ、テレビ界での活躍が続いた。長編映画デビューはジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス無名恐怖』(99)、本作はシッチェス映画祭でプレミアされ、初出演で女優賞を受賞した他、ブタカ賞2000のカタルーニャ映画部門の女優賞も受賞した。次いでカンヌでワールド・プレミアされたお蔭で公開されたマリア・リポルの『ユートピア』(03)では、ナイワ・ニムリやアルゼンチンのレオナルド・スバラリアやエクトル・アルテリオと共演した。

 

★評価が定まったのは、パトリシア・フェレイラの「Para que no me olvides」(05)出演でした。三世代の家族関係を描いた力強いストーリー、建築科の学生、その母親と祖父、そして恋人、家族は交通事故で息子を失い、試練に立たされる。母親役で初めてゴヤ賞2006の主演女優賞にノミネートされた。受賞には至らなかったがトゥリア賞2006の女優賞、サンジョルディ賞2006のスペイン女優賞を受賞した。カタルーニャ語とスペイン語の他、フランス語もできるのが強みです。

         

     

★新作では結果が発表になったフォルケ賞はノミネートに終わり、これから始まるゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞に期待がかかっている。ゴヤ賞に関しては、候補者ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが受賞する可能性は低く、ライバルはフォルケ賞を受賞したカロリナ・ジュステでしょうか。パトリシア・ロペス・アルナイスは、最近受賞が続いているのでないと予想します。ガウディ賞は堅いでしょうがゴヤは微妙です。しかしTVシリーズ出演でお茶の間での知名度も高く、バルセロナ派の会員も増えているから蓋を開けてみないことには分からない。舞台女優としても活躍、モンジュイックのリウレ劇場で初演された、アーサー・ミラーの戯曲 "All My Sons" 主演で、2023年のブタカ賞女優賞を受賞した。  

       

  

    (ブタカ賞2023女優賞の受賞スピーチをするエンマ・ビララサウ)

 

★娘フリア役のマリア・ロドリゲス・ソトは、1986年バルセロナ生れ、映画、舞台女優。マラガ映画祭2019の作品賞である金のビスナガ賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で長編映画デビュー、銀のビスナガ女優賞を受賞、ガウディ賞2020でも主演女優賞を受賞した。共演したダビ・ベルダゲルと結婚している。作品とキャリア紹介を受賞作にアップしております。

Els dies que vindran」作品紹介は、コチラ20190411

    

     

         (銀のビスナガ女優賞を受賞、マラガFF2019ガラにて)


★デビュー作以降のフィルモグラフィーは、カルレス・トラスの『パラメディック―闇の救急救命士』(20)の理学療法士役、クララ・ロケの『リベルタード』(21)、TVシリーズだがNetflixで視聴可能なダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(226話)、リリアナ・トーレスのコメディ「Mamífera」(24)ではエンリク・アウケルと夫婦役で共演している。彼女は母親になることに抵抗している妻、エンリクは父親になりたい夫を演じている。SXSW映画祭2024特別審査員賞他を受賞している。ガウディ賞2025には二人揃って、こちらは主演俳優賞にノミネートされている。フェロス賞2025では本作で助演女優賞にノミネートです。

   

    

              (母親モンセと、フレームから)

 

★元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアンは、1968年マドリード生れ、俳優、脚本家。マドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズムを学ぶ。日刊紙「ディアリオ16」で2年間働く。一纏めの紹介はしていないが、作品ごとにアップしている。長編映画デビューは1997年、フアンマ・バホ・ウジョアのハチャメチャ・コメディ「Airbag」、公開時は批評家から酷評されたが観客は大喜び、1997年の興行成績ナンバーワンになった。次いでビデオが発売されたマヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)、同年ミゲル・バルデムの『世界で一番醜い女』、今世紀に入るとエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』(02)、続編『ベッドサイド物語』(05)、ラモン・デ・エスパーニャの『優しく殺して』(03)、ジャウマ・バラゲロの長たらしい邦題が笑えるサスペンス『スリーピング タイト~白肌の美女の異常な夜』(11)、主役のルイス・トサールの妄想ぶりでブレイクした。

Airbag」紹介記事は、コチラ20210218

   

     

       (元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアン、フレームから)

  

★ゴヤ賞関連では、マラガ映画祭2007でフェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrellas」(金のビスナガ受賞作)に主演、男優賞を受賞した。そのまま人気が持続して翌年のゴヤ賞主演男優賞も受賞した。ほかフォトグラマス・デ・プラタ2008もゲットし、未公開なのが残念だったコメディドラマです。もう1作がセスク・ゲイの「Sentimental」で、2021年のゴヤ賞とガウディ賞の助演男優賞を受賞している。最新ニュースによると、『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトが英語版でリメイクするということです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画では、本作の他、Netflix配信『クレイジーなくらい君に夢中』(21)、「El test」(22)などがある。

ビスカレットの「Bajo las estrellas」の紹介記事は、コチラ20171111

セスク・ゲイのSentimental」の紹介記事は、コチラ20210201

     

  

              (ゴヤ賞2008主演男優賞を受賞)

     

★息子ダビ役のエンリク・アウケル1988年ジローナ生れ、俳優、脚本家。2009年ホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』で長編デビュー、その後TVシリーズ出演で知名度を上げ、パコ・プラサのガリシアの麻薬密売がらみの「Quien a hierro mata」(19)でルイス・トサールと共演、中央のマドリードで注目されるようになった。数々の受賞歴を誇り、例えばゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞2020では新人男優賞、ガウディ賞とフェロス賞では助演男優賞など。タイトルの意味は「剣を使う者は剣に倒れる」という格言の一部、因果応報、目には目をに近い復讐劇。以後、毎年のようにノミネート、受賞が続いている。

 

   

          (マルタ役のマカレナ・ガルシアと、フレームから)

 

★マラガ映画祭2021短編部門のアレックス・サルダの「Fuga」で銀のビスナガ主演男優賞受賞、2022TVシリーズ「Vida perfecta」でフェロス賞助演男優賞、オンダス賞男優賞、2024年パトリシア・フォントの「El maestro que prometió el mar」は、スペイン内戦時代の実話をもとに映画化された。理想主義的な若い教師を演じて、ゴヤ賞以下ガウディ賞、フェロス賞、サンジョルディ賞などにノミネートされた。賞には絡みませんが、ホアキン・マソンのコメディ「La vida padre」(22)では、記憶喪失の父親役カラ・エレハルデとタッグを組んでシェフ役に挑戦している。イサキ・ラクエスタの「Un año, una noche」(22)など話題作に引っ張り凧です。以上の作品はどれも字幕入りでは観られませんが、Netflixシリーズの『鉄の手』(248話)では脇役ですが目下配信中です。

     

     

     (予期せぬ新人男優賞受賞に舞い上がるアウケル、ゴヤ賞2020ガラにて)

 

★マリア・ロドリゲス・ソトで紹介したように、リリアナ・トーレスの「Mamífera」では、ガウディ賞2025の主演男優賞にノミネートされている。今年も映画賞ガラで忙しいことになりそうです。コメディもドラマも演じ分けられる才能は貴重です。

 

★助演女優賞にマリア・ロドリゲスとダブルでノミネートされたマルタ役のマカレナ・ガルシア(マドリード1988年)は、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で鮮烈デビュー、ゴヤ賞2013新人女優賞を受賞した。他、ロス・ハビスの『ホーリー・キャンプ!』(17)などでキャリア紹介をしています。

マカレナ・ガルシアの紹介記事は、コチラ20130818

『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ20171007

   

    

        (マリア・ロドリゲスとマカレナ・ガルシア、フレームから)

    

     

   (『ブランカニエベス』で新人女優賞に涙の止まらないマカレナ、ゴヤ賞2013ガラ)


アイタナ・サンチェス=ヒホンにゴヤ栄誉賞2025*ゴヤ賞2025 ②2024年12月17日 10:34

      ゴヤ栄誉賞の女性最年少受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンの軌跡

   

          

       (ゴヤ栄誉賞2025受賞が発表された、1017日フォトコール)

 

★前回に引き続き、ゴヤ栄誉賞受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア&フィルモグラフィー紹介です。授賞理由、記者会見での受賞者コメントは前回に譲りますが、折に触れて紹介してきた記事と重なる部分があります。生涯功労賞の意味合いもある賞ですから56歳になったばかりは如何にも若い。それに現役バリバリですからフィルモグラフィーもこれで終わりにはならない。授賞発表が誕生日直前だったので55歳受賞になります。10年前の2015年、54歳という若さで受賞を打診されたアントニオ・バンデラスは最初固辞した経緯がありましたが、今回はすんなりいった。フアン・カルロス・フィッシャー演出の「La madre」の舞台に上がる寸前に、映画アカデミー会長から電話で知らせを受けたと語っている。

 

アイタナ・サンチェス=ヒホン・デ・アンジェリス:映画、舞台、TVの女優。1968115日、フランコ独裁を逃れてイタリアに亡命していたスペイン人の歴史学者でスペイン語翻訳家の父アンヘル・サンチェス=ヒホン・マルティネスと、イタリア人の数学教授フィオレラ・デ・アンジェリスの娘としてローマで生まれた。クリスチャンネームは、27年世代を代表する詩人で戯曲家のラファエル・アルベルティが名付け親、彼の娘アイタナ・アルベルティから採られた。イタリアとスペインの二重国籍、2002年造形アーティストのパピン・ルッカダンと結婚したが、2020年に離婚していたことを昨年の誕生会で明らかにした。2人の子供は既に成人している。1998年ホセ・ルイス・ボラウの後を継いで、女性初となるスペイン映画アカデミー会長を短期間だが務めている(~2000)。ローマ在住。

  

  

   (毎回ベストドレッサーに選ばれるアイタナ、デザインはカロリナ・エレーラ、

     宝石はカルティエ、ゴヤ賞2023ガラ、助演男優賞プレゼンターでした)

 

フィルモグラフィー:劇場公開、ネット配信、DVD発売など邦題のある作品を中心に、未公開だが受賞歴のある作品、TVシリーズの話題作も含めて年代順にアップします。1986年、TVシリーズ、ペドロ・マソの「Segundo enseñanza」(13話)のうち7話に出演、キャリアをスタートする。続いて同年ホセ・マリア・フォルケの現実とフィクションを取り交ぜた「Romanza finalGayarre」で映画デビューした。19世紀のテノール歌手フリアン・ガヤレのビオピック、フリアンにホセ・カレーラスが扮した。アントニオ・ヒメネス=リコフェルナンド・フェルナン・ゴメス、そして1989フェルナンド・コロモのコメディ「Bajarse al moro」でアントニオ・バンデラス、フアン・エチャノベ、ベロニカ・フォルケと共演、その演技が注目された。ペドロ・デ・ラ・ソタの「Viento de cólera」で主演、ムルシア・スペイン映画週間でパコ・ラバル女優賞を受賞した。

   

      

    (4人とも若い、ベロニカは既に旅立っている、「Bajarse al moro」から)

 

90年代にはいると、主役、準主役に抜擢され、受賞には至らずとも国際映画祭でのノミネートも増えていきました。1993年は特に収穫の年で、アントニ・ベルダゲルの「Havanera 1820」でシネマ・ライターズ・サークル女優賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」でメルセデス・サンピエトロの義理の娘を好演、メキシコのアルフォンソ・アラウの『雲の中で散歩』でキアヌ・リーヴスと共演、フォトグラマス・デ・プラタ女優賞ノミネート、アドルフォ・アリスタラインの「La ley de la frontera」のジャーナリスト役、マヌエル・ゴメス・ペレイラ『電話でアモーレ』で共演のハビエル・バルデム(ゴヤ賞受賞他多数)と揃ってACEプレミアを受賞した。筆名クラリン(レオポルド・アラス)の同名小説「La Regenta」(『ラ・レヘンタ/裁判官夫人』)をドラマ化したTVミニシリーズ(3話)でカルメロ・ゴメスと共演、共にフォトグラマス・デ・プラタ(TV部門)の女優、男優賞をそれぞれ受賞、さらに彼女はスペイン俳優組合の主演女優賞も受賞した。現在のスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテが監督と脚色を手掛けた話題作で、当時のお茶の間を釘付けにした。

   

     

                    (キアヌ・リーヴスと『雲の中で散歩』から)

    

        

        (ドラマ「La Regenta」の裁判官夫人に扮したアイタナ)

      

ハイメ・チャバリの「Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」、アルゼンチンのフアン・ホセ・カンパネラのサスペンス『ラブ・ウォーク・イン』(「Ni el tiro del final」)の歌手役、ビセンテ・アランダの「Celos」、ビガス・ルナの「La camarera del Titanic」でトゥリア女優賞ロルカの戯曲を映画化したメキシコのマリア・ノバロの「Yerma」では主人公イェルマ、夫フアンにフアン・ディエゴが扮した他、ギリシャのイレネ・パパスが老婆役で共演した。特筆すべきはビガス・ルナの『裸のマハ』のアルバ公爵夫人役でサンセバスチャン映画祭1999女優賞を受賞したが、ゴヤ賞にはノミネートさえされなかった。

    

          

       (ゴヤ役のホルヘ・ぺルゴリアとアルバ公爵夫人のアイタナ)

  

★今世紀に入ると海外の監督からのオファーも多くなり、イタリアのガブリエレ・サルヴァトレスのミステリー『ぼくは怖くない』(「Io non ho paura」)、妊娠7カ月で撮影に臨んだエドゥアルド・コルテスの「Carta mortal」、アメリカのブラッド・アンダーソンのサイコスリラー『マシニスト』(バルセロナ映画祭主演女優賞)、アルゼンチンのルイス・プエンソの『娼婦と鯨』など、公開あるいは未公開だがDVDが発売され、日本でも字幕入りで見られる映画が増えていった。

 

2000年後半、コルド・セラのホラー「Bosque de sombras」、ベントゥラ・ポンスの『密会1723号室』ではホセ・コロナドと共演、ゴンサロ・スアレスの「Oviedo Express」は、かつてTVでドラマ化されたクラリンの「La Regenta」をベースにして、舞台上演のため巡業している役者たちがオビエド急行でアストゥリアスに向かっているというロマンティック・コメディ。アイタナもカルメロ・ゴメスも同じ役で共演した。イタリアのシルヴィオ・ムッチーノ監督が主役も演じた「Parlami d'amore」(イタリア語)ではフランス人の人妻役だった。役柄によってスペイン人、イタリア人、フランス人を演じ分けた。

 

2011年、パコ・アランゴのコメディ「Maktub」では、アルゼンチンのディエゴ・ペレッティとタッグを組み、アランゴはゴヤ賞新人監督賞にノミネートされた。イタリア映画だがマッテオ・ロヴェーレのラブコメ「Gli sfiorati」は未公開ながら『妹の誘惑』の邦題でDVD化されている。その後演劇にシフトして銀幕から遠ざかり、2018年のパトリシア・フェレイラの『ティ・マイ~希望のベトナム~』で戻ってきた。主役はカルメン・マチだが、ネットフリックスで配信された。アルモドバルの『パラレル・マザーズ』(ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞イベロアメリカ・プラチナ賞受賞)、フラン・トーレスの『ラ・ヘファ:支配する者』、アントニオ・メンデス・エスパルサの「Que nadie duerme」(スペイン俳優組合&フェロス賞助演女優賞ノミネート)と受賞やノミネートが続いている。

   

        

    (「Que nadie duerme」出演で、フェロス賞2024助演女優賞ノミネート)

   

★他に、サラゴサ映画祭2004サラゴサ市賞、アルメリア映画祭2022アルメリア・ティエラ・デ・シネ賞を受賞している。現在ネットフリックスTVシリーズ『レスピーラ/緊急救命室』(全16話)が8月から配信されている。主人公に『エリート』出演で人気上昇中のマヌ・リオス、アイタナの他ナイワ・ニムリ、ブランカ・スアレス、ボルハ・ルナなどベテラン勢が脇を固めているが、評価は厳しいか。

 

主なフィルモグラフィーTVシリーズ、短編は除く)

1986Romanza finalGayarre」ホセ・マリア・フォルケ

1987Redondela」ペドロ・コスタ

1988No hagas planes con Marga」ラファエル・アルカサル

  「Remando al viento」ホラー、『幻の城 バイロンとシェリー』ゴンサロ・スアレス、

    英語、公開

  「Jarrapellejos」アントニオ・ヒメネス=リコ

1989Bajarse al moro」コメディ、フェルナンド・コロモ

  「El mar y el tiempo」フェルナンド・フェルナン・ゴメス

  「Viento de cólera」ペドロ・デ・ラ・ソタ、

    ムルシア・スペイン映画週間パコ・ラバル女優賞

  

1991El laberinto griego」ラファエル・アルカサル

1992El marido perfecto」ベダ・ドカンポ・フェイホー

1993Havanera 1820」キューバ合作、アントニ・ベルダゲル、

    シネマ・ライターズ・サークル女優賞

  「El pájaro de la felicidad」ピラール・ミロ

1995Un paseo por las nubes」『雲の中で散歩』メキシコ=米、アルフォンソ・アラウ、

    公開1995

  「La ley de la frontera」アルゼンチン合作、アドルフォ・アリスタライン

Boca a boca『電話でアモーレ』マヌエル・ゴメス・ペレイラ、公開1997

1997Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」アルゼンチン合作、

    ハイメ・チャバリ

Ni el tiro del final『ラブ・ウォーク・イン』米=アルゼンチン、

  フアン・ホセ・カンパネラ、英語、未公開、ビデオ発売1999

La camarera del Titanic」仏=伊=独=西、ビガス・ルナ、トゥリア女優賞1998

1998Yerma」ピラール・タボラ

1999Celos」ビセンテ・アランダ

Volavérunt」『裸のマハ』ビガス・ルナ、サンセバスチャン映画祭1999女優賞

   

2000Sin dejar huella」メキシコ合作、マリア・ノバロ

2001Mi dulce」イタリア合作、ヘスス・モラ・ガマ

Hombres felices」ロベルト・サンティアゴ

2003Io non ho paura」」『ぼくは怖くない』伊=西=米、スリラー、

    ガブリエレ・サルヴァトレス、イタリア語、公開2004

2003Carta mortal」クライム、エドゥアルド・コルテス

2004El maquinista」『マシニスト』米合作、サイコスリラー、ブラッド・アンダーソン、

    英語・スペイン語、バルセロナ映画女優賞、公開2005

2004La puta y la ballena」『娼婦と鯨』アルゼンチン合作、ルイス・プエンソ、

        未公開、DVD発売2007

  

2006Bosque de sombras」スリラー、コルド・セラ

Animales heridos『密会1723号室』ベントゥラ・ポンス、未公開、DVD発売

2007Oviedo Express」コメディ、ゴンサロ・スアレス

La carta esférica」イマノル・ウリベ、ペレス=レベルテの小説の映画化

2008Parlami d'amore」(スペイン題「Háblame de amor」)イタリア合作、

       シルヴィオ・ムッチーノ、イタリア語

2011Maktub」アルゼンチン合作、パコ・アランゴ

Gli sfiorati」『妹の誘惑』ラブコメ、イタリア、マッテオ・ロヴェーレ、

  イタリア語、DVD発売

2018Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ~希望のベトナム』

     パトリシア・フェレイラ、Netflix 配信

   

2021Madres paralelas」『パラレル・マザーズ』ペドロ・アルモドバル、

   ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞&イベロアメリカ・プラチナ賞受賞

2022La jefa」『ラ・ヘファ:支配する者』フラン・トーレス、Netflix 配信

2023Mi otro Jon」パコ・アランゴ

Que nadie duerme」ルーマニア合作、アントニオ・メンデス・エスパルサ、

    フェロス賞助演女優賞ノミネート


Que nadie duerme」とアイタナ・サンチェス=ヒホン紹介は、コチラ20240111 

スペイン映画アカデミー金のメダル受賞記事は、コチラ201508011120

     

      

         (金のメダル2015をフアン・ディエゴと受賞する)

 

 

★ゴヤ賞2025ノミネート発表は、昨年より大分遅れましたが、現地グラナダから12181100とアナウンスされました。現地発表は今回が初、例年はマドリードの本部ですから珍しい。司会者はナタリア・デ・モリーナとアルバロ・セルバンテスの二人。


ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』④*キャスト紹介2024年12月04日 13:09

                PG13では撮れなかった『ペドロ・パラモ』

   


            

★メキシコで『ペドロ・パラモ』を読むのは大体高校生から、早い子供で中学生くらいから手にする。ネットフリックスからプリエト監督にオファーがきたときは「PG13」だった(担当者は原作を読んでいない?)。それでは殺人、近親相姦、ヌードは撮れない。R指定を条件に引き受けたと監督。こうしてスサナ・サン・フアンを演じたイルセ・サラスのヌードが可能になったようです。

 

★ハリスコ州の架空の田舎町コマラを舞台に、20世紀初頭に起きたメキシコ革命とクリステロ反乱を時代背景にした『ペドロ・パラモ』のキャスト・プロフィール、並びに各登場人物の立ち位置を含めてアップします。映画では採用されなかった語り手の重要なモノローグ、コマラは「去る人には上り坂、来る人には下り坂」(断片1)の町、閉じ込められてもがく人、不幸を予感しながら再び戻る人も描かれる。

 

マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ役)

1981年グアダラハラ生れ。初期にはアメリカ映画出演が多いので、ネットフリックス配信を含めると字幕入りで鑑賞できる作品多数。黒澤明の『七人の侍』他のリメイク版『マグニフィセント・セブン』(米、16)、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』(17)、トム・ハンクスと共演した『オットーという男』(21)、『スイートガール』(21)、最近公開されたカルロス・サウラの『情熱の王国』(西=メキシコ合作、21)で演出家マヌエルを主演、メキシコのマノロ・カーロの『巣窟の祭典』(24)と本作でも主演している。

★ペドロ・パラモ:コマラの繁栄と没落を象徴する権力者にして渇望と絶望の語り手、男性性の賛美、言葉による妻への暴力、家父長制主義の加害者にして犠牲者。荒んだペドロの唯一の救いだったスサナ・サン・フアンへの不毛の愛、彼はスサナを迎え入れるために絶大な権力を求めるが、彼女がどういう世界に住んでいたかを永遠に理解できない不幸な孤独者。ペドロはギリシャ語の pétros「石」より派生、パラモは「荒地」を意味する。

 

      

          (ペドロ・パラモ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)

 

テノッチ・ウエルタ・メヒア(フアン・プレシアド役、ペドロの息子)

1981年メヒコ州エカテペック生れ、ガエル・ガルシア・ベルナルの『太陽のかけら』(07)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)、エベラルド・ゴウト『クライム・シティ』(11)に主演、エドゥビヘス役のドロレス・エレディアと共演、スペインのマヌエル・マルティン・クエンカの『小説家として』(17)、ベルナルド・アレジャノのホラー『闇に住むもの』(20)、ライアン・サラゴサのホラ―『マードレス、闇に潜む声』(21,米)、再びゴウトに起用されサスペンス・ホラー『フォーエバー・パージ』(21)、ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)ではタロカン帝国の王に扮した。公開こそされなかったが、東京国際映画祭2014で上映されたアロンソ・ルイスパラシオスのデビュー作『グエロス』に主演、監督夫人であるイルセ・サラスと共演している。本作では出会うことはなかったが父親役のマヌエル・ガルシア=ルルフォと同じ年に生まれている。かつて交際していたマリア・エレナ・リオスへの性的暴行疑惑という残念なニュースも浮上している。

『グエロス』の作品紹介は、コチラ20141003

★フアン・プレシアド:前半の主な語り手、ペドロとドロリータスの息子、赤ん坊のときメディア・ルナを母親と去り、母との約束により父親から略奪された財産の代償を求めるという希望をもって、下るべきでない坂を下りて来る。やがてフアンは、権力と富への渇望が痛みと絶望の遺産を残した父親の正体に近づいていく。幻視と幻聴に悩まされ死者と交流するうち、自分が生きてるのか死んでるのか分からず、やがて絶望に至る。彼の罪は幻を求めて故郷を離れて坂を下ったことである。

   

  

           (フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)

 

ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)

1966年、バハ・カリフォルニア・スル州の州都ラパス生れ、UNAMで演劇を学んだ本格派、1990年デビューしている。アレハンドロ・スプリンガル「Santitos」で、アミアンFF1999、カルタヘナFF2000女優賞を受賞、カルロス・キュアロン『ルド and クルシ』(08)でルド&クルシ兄弟の母親役を演じた。ロドリゴ・プラがキルケゴールの日記にインスパイアされた「Decierto adentro」(仮訳「内なる砂漠」)でグアダラハラFF2008主演女優賞を受賞した。クリス・ワイツ『明日を継ぐために』(11)、テノッチ・ウエルタと共演した『クライム・シティ』、エイドリアン・グランバーグの『キック・オーバー』(11)、カール・フランクリン『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』(13)、ラシッド・ブシャールの『贖罪の街』(14)はフランス映画『暗黒街の二人』のリメイク版、アレハンドラ・マルケス・アベジャ『虚栄の果て』(22)、GGベルナルの監督2作めシリアスコメディ「Chicuarotes」(19)などTVシリーズ出演も含めて国際的に活躍している。ネット配信中の作品もあるが、受賞歴のある作品は見られない。

Chicuarotes」の作品紹介は、コチラ20190513

エドゥビヘス・ディアダ:コマラで売春宿を兼ねたバルを営んでいた女性、フアンの母ドロリータスの親友。パラモ家の管理人フルゴルに部屋の鍵を渡したことで、図らずも殺人に手を貸してしまう。神の許しを得るために善行を積んだが、耐えきれなくて自ら命をたつ。姉マリアが死後の救済をレンテリア神父に頼むが拒まれ、まだ此の世をさまよって死者と交流する。

  

      

            (エドゥビヘス役のドロレス・エレディア)

 

イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン)

1981年メキシコシティ生れ、映画、TV 、舞台女優。国立演劇学校で演技を学ぶ。夫のアロンソ・ルイスパラシオスの『グエロス』でテノッチ・ウエルタと共演、アレハンドラ・マルケス・アベジャの『グッド・ワイフ』に主演、既にキャリア紹介をしています。

『グッド・ワイフ』での紹介記事は、コチラ20190414

スサナ・サン・フアン:ペドロのこども時代からの憧れの人であり、彼が愛した唯一人の女性。肺結核を患っていた母親の死後、父バルトロメ・サン・フアンとコマラを去る。革命前夜、母親の葬儀に誰一人として弔問に訪れなかった大嫌いなコマラに戻ってくる。父親との理不尽な性的関係で死後の救済を諦めている。神父も父も共に「パードレ」、パードレはスサナにとって権力者の象徴である。父とのトラウマ克服のため狂気の世界に逃げ込んでフロレンシオという謎の夫をつくりだしている。トラウマによる想像が記憶となっている。フアンの墓の近くに埋葬されており、二人は死後の世界で繋がっている。

  

    

          (狂気の世界に安住を求めるスサナ・サン・フアン)   

 

エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)

1971年コアウイラ州トレオン生れ、映画、TV ,舞台俳優。UNAMの演劇学校であるCUT(大学演劇センター、1962年設立)で学ぶ(19962000)。TVシリーズ出演が多いが、主な代表作はルイス・エストラダの『メキシコ 地獄の抗争』(10)、ダビ・ミチャンのアクションドラマ「Reacciones adversas」(11)で主演、ディエゴ・コーエンのホラー「Luna de miel」(15)で主演、ベト・ゴメスのコメディ「Me gusta, pero me asusta」(17)と「Bendita Suegra」(23)、ナッシュ・エドガートンのダークコメディ『グリンゴ最強の悪運男』(18)、アレハンドロ・イダルゴのホラー「El exorcismo de Dios」とアクション、ホラー、コメディとこなす。TVシリーズ『ナルコス メキシコ編』に出演している。

フルゴル・セダノ:先代ルカス・パラモ以来の未婚の管理人、ペドロに代替わりしたとき54歳と年齢が分かる悪徳管理人。借金地獄のペドロを大地主にした立役者。彼の視点は重みがある。ペドロの指示によって不動産鑑定士トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスの店で縛り首にして殺害する。しかしペドロの土地を貰いに来たという革命軍のリーダーにあっさり射殺される。ペドロからは「役に立つ男だったが、もう老いぼれの用なし」と一顧だにされなかった。

   

  

        (フルゴル・セダノ役のエクトル・コツィファキス)

   

ロベルト・ソサ(レンテリア神父役)

1970年メキシコシティ生れ、俳優、TVシリーズのを監督を手掛けている。1976年に子役としてスタートを切り、TVシリーズ、短編含めると166作に出演。代表作は、セバスティアン・デル・アモのヒット作、ガリシア生れながらキューバに渡り、後にメキシコにやって来てB級映画の巨匠になるフアン・オロルの伝記映画「El fantástico mundo de Juan Orol」に主役を演じ、アリエル賞2013主演男優賞、ACE2014主演男優賞、ドン・ルイス映画祭2013男優賞などを受賞、アレックス・コックスの「El patrullero」(日本との合作、『PNDCエル・パトレイロ』1993公開)でサンセバスチャン映画祭1992男優賞、フランシスコ・アティエの「Lolo」でシカゴ映画祭1993男優賞、他受賞歴多数。

レンテリア神父:コマラの町の唯一人の神父。神父としての誓いを果たせるという希望をもっていたが、ペドロの金貨に負けて彼の愚息ミゲルに祝福を与えてしまう。反対に自死したエドゥビヘスには与えない。父親をミゲルに殺されたうえ、レイプされた姪と暮らしている。クリステロ内戦では反乱軍に身を投じる。本作はメキシコにおける来世に関する一連の信仰を探求しており、彼のモノローグは重要である。

  

     

             (レンテリア神父役のロベルト・ソサ)

 

マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス役)

1990年メキシコシティ生れ、女優、短編だが脚本を執筆している。2021年タティアナ・ウエソのデビュー作、もらえる賞をすべて制覇したという問題作「Noche de fuego」で、アリエル賞2022助演女優賞、ソニア・セバスティアンの短編「Above the Desert with No Name」(2317分)で、ロスアンゼルス映画賞2024女優賞を受賞している。TVシリーズのダークコメディ「El Mantequilla」(238話)では女刑事に扮する。これからが楽しみな女優の一人。

Noche de fuego」の作品紹介は、コチラ20210819

ダミアナ・シスネロス:メディア・ルナのパラモ家の女中頭、赤ん坊のフアン・プレシアドを一時育てていた。コマラに戻って来たフアンをメディア・ルナから迎えに来る。ペドロをあの世に招き入れる女性でもある。原作と映画の違いの一つは、原作に登場するサン・フアン家の女中、フスティナ・ディアスを省いていることです。彼女は父娘とずっと行を共にしていて、スサナの育ての親でもあった。メディア・ルナで狂気のスサナを介護していたのは、映画のようにダミアナでなくフスティナである。ジャンルが違うのですから、この程度の変更は問題ありませんが、二人は同じ女中でも本質が異なる。フスティナも幻聴に怯えているが、ダミアナのように生死の境を超えられるわけではない。

   

      

           (ダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)

 

ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉)

1976年メキシコシティ生れ、女優、監督。19歳のときクラシックバレエを止め演劇を学び始め、舞台女優としてスタートする。2001年ハイメ・ウンベルト・エルモシージョの「Escrito en el cuerpo de la noche」で映画デビュー。代表作は、2018年アレハンドロ・スプリンガルのウエスタン「Sonora」で主演、ドロレス・エレディアと共演、揃ってアリエル賞にノミネートされた。マーティン・キャンベルの『レジェンド・オブ・ゾロ』(25)でバンデラスと共演、ウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、ブレッド・ドノフー他「Salvation」でロスアンゼルス映画祭2013の女優賞を受賞している。監督作品としては、2015年コメディ「Ramona」(10分)でアリエル賞2013短編賞、2020年長編デビュー作「Escuela para Seductores」がある。

ドロテア〈ラ・クアラカ〉:コマラにたどり着いたフアンにエドゥビヘスの店を教える語り手。産んでもいない赤ん坊を探してコマラをうろついている。神父は天国の門は閉じられているが、主は許されると諭す。教会の広場で倒れていたフアン・プレシアドを葬り、自分も一緒の墓に眠っており、フアンの語りを聞く。施し物欲しさにミゲル・パラモに売春斡旋をしていた罪人、ミゲル亡き後、神父に懺悔する。

   

       

            (ドロテア役のジョバンナ・サカリアス)

 

イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド)

1994年メキシコシティ生れ、ベラクルサナ大学演劇学部卒、国立美術館演技賞受賞、2018年バニ・コシュヌーディの「Luciernagas」で映画デビュー、2023年ルイス・アレハンドロ・レムスの「El sapo de cristal」でノエ・エルナンデスと共演、TVシリーズでは征服者エルナン・コルテスを主人公にした歴史時代劇「Hernan」(8話、19)にマリンチェ役で出演している。

ドロレス・プレシアド、ドロリータス:メディア・ルナの女あるじ、ペドロの最初の妻、フアンの母親。借金を帳消しにするためのペドロの求婚を愛と錯覚して全財産を失う。夫の言葉によるDVに耐えかね、コリマにいる姉を頼ってコマラを去り、再び戻ることができなかった。露の滴る緑豊かなコマラを息子に言い残して失意のうちに旅立つ。

   

      

           (ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ)

 

ノエ・エルナンデス(アブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)

1969年イダルゴ生れ、アリエル賞主演男優賞を4回受賞するなど受賞歴多数。ホルヘ・ペレス・ソラノの「La tirisia」(14)、ガブリエル・リプスタインの『600マイルズ』(15)、セルヒオ・ウマンスキー・ブレナーの「Eight Out of Ten」(18)、2020年に製作されたヘラルド・ナランホの「Kokoloko」が大分遅れて今年受賞した他、トライベッカ映画祭2020主演男優賞も受賞している。2018年グアダラハラ映画祭のメスカル賞を受賞している。脇役だが東京国際映画祭2015で上映されたロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』、ラテンビートFF2011で上映されたヘラルド・ナランホの『MISS BALA/銃弾』に出演している。父親ペドロを演じたマヌエル・ガルシア=ルルフォより一回りも年上ということもあって、個人的にはキャスティングに違和感があった。

アブンディオ・マルティネス:ペドロが認知しない大勢の私生児の一人、ロバ追いを生業とする。フアンをコマラに案内する。主な出番は最初と最後に現れるだけと少ないが、父親を殺害する重要人物、事故で耳が不自由になる設定は何を意味するか。アブンディオの造形は、短編集『燃える平原』収録の「コマドレス坂」のレミヒオ・トリコ殺しの語り手を彷彿とさせ、彼の原型は短編にある。

   

  

              (アブンディオ・マルティネス役のノエ・エルナンデス右)

 

サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ)

TVシリーズ、チャバ・カルタスの「El gallo de oro」(232420話)レミヒオ役で18話に出演。本作で映画デビューを果たした。

ミゲル・パラモ:ペドロが気まぐれで認知した息子、母親はお産で亡くなる。愛馬コロラドに振り落とされて17歳で死去。レンテリア神父の兄弟を殺害、レイプ魔と父親の悪の部分を受け継いだ愚息。

   

        

         (マルガリータ、ダミアナ・シスネロス、ミゲル・パラモ)

 

★その他、スサナの父親バルトロメ・サン・フアン役のアリ・ブリックマン(チアパス州1975)は俳優、作曲家、代表作はマリアナ・チェニーリョのコメディ「Todo lo invisible」(20)で、主演、音楽、脚本も監督と共同執筆している。同監督のヒット作「Cinco dias sin Nora」にも出演、本作はアリエル賞2010作品賞以下を独占した。フアンの死の恐怖がつくりだした幻覚と思われるドニスの妹役のヨシラ・エスカルレガ1995)は、アマゾンプライムで配信が開始されたばかりの『戦慄ダイアリー 屋根裏の秘密』に出演している。ペドロの祖母を演じたフリエタ・エグロラは、娘ナタリア・ベリスタインが監督した『ざわめき』(22)に主演している。ネットフリックスで配信されている。古くはアルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。

   

          

          (穴だけの母親の写真を見つめるフアン・プレシアド)

    

      

 (コマラを去るサン・フアン父娘を見送るペドロ・パラモ)

  

      

          (エドゥビヘスに初夜の務めを頼むドロリータス)

    

  

                (レンテリア神父にミゲルの許しを金貨で支払うペドロ)

   

    

    (レンテリア神父の姪アナ)

 

        

         (スサナのメディア・ルナ到着を待つペドロとダミアナ)

   


                             (スサナとレンテリア神父)

   

ミシェル・フランコの最新作「Memory」*ベネチア映画祭20232024年07月08日 11:24

     ジェシカ・チャステイン主演の傷ついたラブストーリー「Memory

 

       

 

★昨年の第80回ベネチア映画祭2023の記事など今更の感無きにしも非ずですが、メキシコの監督ミシェル・フランコの長編8作目Memory」の紹介です。主演がジェシカ・チャステインピーター・サースガードということですから言語は英語です。若年性認知症を患っている主人公を演じたサースガードがベネチアの男優賞ヴォルピ杯を受賞しています。ベネチアにはサースガードと結婚した女優で2021年に『ロスト・ドーター』で監督デビューも果たしたマギー・ジレンホール(英語読みギレンホール)も出席していた。

   

  

      (左から、ミシェル・フランコ監督、ジェシカ・チャステイン、

       ピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023フォトコール

  

★第77回ベネチア映画祭2020銀獅子審査員グランプリ受賞のNuevo orden」(20、『ニューオーダー』公開)以来、フランコ映画は記事にしておりませんでした。翌2021年、同じベネチアFFにノミネートされた7作目Sundown」(メキシコ・スイス・スウェーデン)は、舞台をメキシコのアカプルコに設定していますが、キャストはティム・ロスとシャルロット・ゲンズブール、言語は英語とスペイン語でした。メキシコのイアスア・ラリオスがベレニス役で共演していました。ラリオスは最近発表になったアリエル賞2024で最多ノミネーション15部門のリラ・アビレスの「Tótem」に出演している演技派女優、TVシリーズ出演が多そうで受賞歴はありませんが、ポストプロダクションで主役に起用されている映画が目白押しで将来が楽しみです。

6作目『ニューオーダー』(20)の紹介記事は、コチラ20220613

Tótem」(23)の作品紹介は、コチラ20230831

 

ミシェル・フランコ(メキシコシティ1979の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、以下にアップしております。監督にとどまらず制作会社「Teoréma」を設立して、プロデューサーとしてラテンアメリカ諸国(ロレンソ・ビガスの『彼方から』『箱』など)や独立系の米国映画(ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』など)に出資して映画産業の発展に寄与しています。

4作目『ある終焉』(16)は、コチラ2016061518

5作目『母という名の女』(17)は、コチラ20170508

 

   

 Memory

製作:High Frequency Entertainment / Teoréma / Case Study Films / MUBI / 

   Screen Capital / The Match Factory

監督・脚本:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カペ

編集:オスカル・フィゲロア、ミシェル・フランコ

キャスティング:スーザン・ショップメーカー

プロダクションデザイン:クラウディオ・ラミレス・カステリ

製作者:エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、ミシェル・フランコ、ダンカン・モンゴメリー、アレックス・オルロフスキー

 

データ:製作国メキシコ、米国、2023年、英語、ドラマ、103分、撮影地ニューヨーク、公開米国、イギリス、アイルランド、イタリア、トルコ、ポーランド、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、デンマーク、スウェーデンなど多数

映画祭・受賞歴:第80回ベネチア映画祭2023コンペティション部門ノミネート、男優賞ヴォルピ杯受賞(ピーター・サースガード)、キャスティング・ソサエティ・オブ・アメリカ(キャスティング賞スーザン・ショップメーカー)、トロントFF、チューリッヒFF、シカゴFF、モレリアFF、ほかBFIロンドン、シンガポール、シドニー、各映画祭で上映されてる。

 

キャスト:ジェシカ・チャステイン(シルビア)、ピーター・サースガード(ソール・シャピロ)、メリット・ウェヴァー(シルビアの姉妹オリビア)、ジェシカ・ハーパー(シルビアの母親サマンサ)、ブルック・ティムバー(シルビアの娘アンナ)、ジョシュ・チャールズ(ソールの兄弟アイザック)、エルシー・フィッシャー(サラ)、他多数

 

ストーリー:シルビアとソールの物語。シルビアは10代の娘を育てているシングルマザー、ソーシャルワーカーとして忙しい毎日を送っている。克服しようとしているアルコール依存症は、幼少期の虐待の結果による。姉妹のオリビアとは関係を保っているが、母親サマンサとは疎遠になっている。ソールは最近妻を亡くして兄アイザックと暮らしている。記憶が少しずつあいまいになっていく若年性認知症に直面して落胆の日々を過ごしている。シルビアは高校の同窓会の帰途、先輩だったソールにストーカーされる。シルビアはかつて彼女をレイプしようとした少年たちの一人と間違える。二人の漂流者の意外な出会いは、シルビアの日常生活に混乱を生じさせてくる。多くの記憶を覚えている人と記憶を忘れ始めている人のあいだのラブストリー。

   

    

     (ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード、フレームから)

   

     「チャステインはハリウッドでもっとも輝いている女優」と監督

 

★記憶に優れている人とすべてを忘れてしまう人との間の愛は不可能な物語になるが、その行きすぎた世界観に誠実に向き合う。最初の出会いの一連の不幸は、直ぐに誤解であることが分かる。トラウマに囚われている男と女をテーマを撮りつづけている監督にとって、それだけでは充分ではないでしょう。監督は登場人物の立ち位置を外見が異なるだけの社会的文脈に設定し、彼らの出会いにある一定の意味を与えて、心の傷を掘り下げ癒すのではなく、反対にトラウマを追加していく。

   

      

   

            (シルビアとソール、フレームから)

   

★インタビューでジェシカ・チャステイン起用の理由を質問された監督は、「チャステインが今ハリウッドでもっとも輝いている女優だから」と応じている。彼女が相手役ソールにピーター・サースガードを推薦したそうで、本作が二人の初共演の由。ジェシカ・チャステインは1977年カリフォルニア州サクラメント生れ、女優、製作者。キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』12)主演でゴールデングローブ賞を受賞、製作も兼ねたマイケル・ショウォルター『タミー・フェイの瞳』21)でアカデミー主演女優賞を受賞している。

 

        

★女性の権利を守る活動家でもあり、映画で語られる現実とかけ離れた女性像に落胆しているフェミニスト。昨年、全米映画俳優組合のストライキ中にベネチア映画祭に出席するに際し、かなり躊躇した由。組合員がストライキ中に過去現在にかかわらず「出演した映画の宣伝をすることは禁じられている」からです。しかし本作が資金不足のインディペンデント映画であったことで了解されたという。というわけで「SAG-AFTRA ON STRIKEとプリントされたTシャツを着てフォトコールに出席した。

SAG-AFTRA(サグ・アフトラ)映画俳優組合・米テレビ・ラジオ芸術家連盟、米国の労働組合。

   

       

    (ジェシカ・チャステイン、ベネチア映画祭202398日、フォトコール)

 

★ピーター・サースガードは、1971年イリノイ州ベルビル生れ、俳優。ビリー・レイの『ニュースの天才』03)で全米映画批評家協会助演男優賞受賞、サム・メンデスの『ジャーヘッド』(05)、イギリス映画でロネ・シェルフィグの『17歳の肖像』(09)、ロバート・F・ケネディに扮したパブロ・ララインの『ジャッキー/ファーストレディ』(16)、他ヴィーナ・スードの『冷たい噓』(20)に主演、上述したように妻マギー・ジレンホールが監督デビューした『ロスト・ドーター』にも出演、本作でジレンホールがベネチア映画祭2021の脚本賞を受賞しており、夫妻にとってベネチアは幸運を呼ぶ映画祭となった。『ジャーヘッド』で共演したジェイク・ギレンホールは義弟になる。

   

      

   (マギー・ジレンホールとピーター・サースガード、ベネチア映画祭2023

 

        

       (ヴォルピ杯のピーター・サースガード、同映画祭授賞式)

 

スタッフ紹介:メキシコ・サイドの製作者エレンディラ・ヌニェス・ラリオスは、フランコと一緒に『ニューオーダー』、ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』や、サンセバスチャンFF2023 オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた、ダビ・ソナナの「Heroico / Heroic」を手掛けている。米国のダンカン・モンゴメリーは、チャーリー・マクダウェルの『運命のイタズラ』(22)、サンセバスチャン映画祭2015で監督のピーター・ソレットがセバスティアン賞を受賞した『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)などが字幕入りで鑑賞できる。

    

  

     (右2人目がエレンディラ・ヌニェス、右端は映画祭ディレクターの

      ダニエラ・ミシェル、モレリア映画祭2023フォトコール)

 

★フランコが信頼して撮影を任せているのがイヴ・カペ1960年ベルギー生れ、フランコ映画では『ある終焉』、『母という名の女』、『ニューオーダー』、「Sundown」と連続してタッグを組んでいる。公開作品が多いフランス、ベルギー映画では、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(12)を筆頭に、時系列に列挙するとマルタン・プロボの『ヴィオレット ある作家の肖像』(13)、『ルージュの手紙』(17)、セドリック・カーンのコメディ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』(19)、エマニュエル・ベルコの『愛する人に伝える言葉』(22)などがある。


映画国民賞2024に製作者マリア・サモラ*スペイン映画賞2024年06月16日 14:45

2024年の映画国民賞はヒット作を連発しているマリア・サモラが受賞

   

       

      (インディペンデント映画製作者マリア・サモラの近影)

 

★今年の映画国民賞は、インディペンデント映画製作者マリア・サモラ(バレンシア1976)が受賞することになりました。映画国民賞の選考母体は文化スポーツ教育省で、副賞は30,000ユーロと控えめですが、毎年一人という名誉ある賞です。ほかにスポーツ、文学、科学など各分野ごとに選ばれます。映画部門の審査員は文化省とスペイン映画アカデミーなどで構成されます。基本的に年齢に拘らず、前年に活躍した人から選ばれることが多い。

 

★今年の受賞者は、昨年の受賞者カルラ・シモンの「Alcars」(22)やハイオネ・カンボルダがガリシア語で撮った「O corno」(23)などを手掛けています。前者でベルリン映画祭金熊賞を受賞した初のスペイン女性プロデューサーとなりました。後者はサンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞、製作者でもあったカンボルダ監督、もう一人の製作者アンドレア・バスケス3人で喜びを分かち合いました。本作は東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門バスク映画特集で『ライ麦のツノ』として上映されました。

映画国民賞の授与式は、第72回サンセバスチャン映画祭2024の開催中に行われ、プレゼンターは選考母体である文化省の大臣です。

    

      

   (金熊賞受賞のマリア・サモラとカルラ・シモン、ベルリン映画祭2022ガラ)

     

        

       (金貝賞受賞のマリア・サモラ、サンセバスチャンFF2023、プレス会見)

 

★授賞理由は、マリア・サモラは「国際市場におけるスペインの独立系映画の存在感を高め、感受性豊かで多様性のある視点に影響を与えている」こと、「サンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞し、2024年のゴヤ賞で8部門ノミネートされた複数の作品」を手掛けたことを挙げている。複数の作品の一つが『ライ麦のツノ』(新人女優賞受賞ジャネット・ノバス)、ほかにアルバロ・ガゴの「Matria」(新人監督・主演女優賞)やエレナ・マルティン・ヒメノがガウディ賞を制覇するもゴヤ賞はノミネートに終わった「Creatura」(監督・助演男優・助演女優・新人女優賞)などが含まれます。

 

                  

         

     

 

★審査員は以前から危険を顧みずに無名のプロジェクトに支援を続ける独立系の制作会社に光を与えたいと考えていたようでした。それも監督や俳優のように常に脚光を浴びる存在ではなく、縁の下の力持ちである製作者を選びたかったそうです。というのも製作者が選ばれたのは2018年、アルモドバル兄弟が設立した「エル・デセオ」のエステス・ガルシアまで遡る必要があったからです。彼女が女性プロデューサーの初の受賞者でした。

エステル・ガルシアの紹介&授与式の記事は、コチラ201809170926

  

★マリア・サモラは、1976年バレンシア生れの47歳、プロデューサー。バレンシア大学で企業経営と運営管理を専攻、視聴覚制作管理の修士号を取得した。2000年、バレンシアのテレビ局チャンネル9(現チャンネルNou)でキャリアをスタートさせる。2001年、マドリードに移り、アバロン・プロダクションのプログラム・アシスタント、プロデューサーとして働く。20075月、アバロンPCの創設メンバーとなり、エグゼクティブディレクターとなる(~2021)。

 

★初期には、ダニエル・サンチェス・アレバロ(04Física II」)、ダビ・プラネル(05Ponys」)、ベアトリス・サンチス(08La clase」、10La otra mitad」)、カルラ・シモン(19Después también」)などの短編を手掛けている。その後ダビ・プラネルの「La vergünza」、ベアトリス・サンチスの「Todos están muertos」、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』などの長編で成功をおさめている。

 

2021年にアバロンPCを退社、エンリケ・コスタ(アバロンの配給会社兼パートナー)とエラスティカ・フィルム Elastica Films を設立、独立系の主に女性監督の映画を手掛ける。その1作目がカルラ・シモンの「Alcarràs」で、幸先よくベルリンの金熊賞を受賞する。続いてカンボルタの『ライ麦のツノ』、アルバロ・ガゴのデビュー作「Matria」、エレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」と先述した通りの快進撃、今年から来年にかけて、話題作が目白押しである。シモンの3作目「Romería」は撮影も終わり、ロドリゴ・ソロゴジェンのパートナーで『おもかげ』に主演したマルタ・ニエトを監督として長編デビューさせるようです。

 

★マリア・サモラはインタビューで「製作する映画を選ぶ理由は常に同じとは限りません。脚本だけに拘るわけではないのです。しかし決して安易な決定ではなく、それらがありきたりでなく語られるに値するストーリーのあることが決め手です。自分にインパクトをあたえたり共鳴したりするプロジェクトであれば、興味を持ってくれる人が増えるのではないかと思っているからです」と語っている。一例としてカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』を挙げている。本作のメインのプロデューサーは、バレリー・デルピエールでしたが、サモラも共同プロデューサーとして参画しています。脚本の要約を読んだとき「嘘が微塵もなかったことに感銘を受けました。瞬時に共感できる真実があり、まさにそれは純金でした」と、エルパイスのインタービューに応えている。

 

★サモラは長いあいだ女性監督とタッグを組んできた理由として、「男女間の平等の欠如を懸念していた時期があり、そのことが女性監督をサポートしてきた理由」であることを認めている。これからは「多様性に焦点を当てて、新しいジャンル、新しい視点、あまり馴染みがない、自分にとって居心地がよくない場所から語られる物語も探求したい。しかし、それは挑戦です」と。まだ公表できる段階ではないが、3つのプロジェクトが進行中ということでした。

   

審査員の紹介:審査委員長はイグナシ・カモス・ビクトリアICAA映画視聴覚芸術研究所長官)、カミロ・バスケス・ベリョICAA副長官)、理事としてフアン・ビセンテ・コルドバ・ナバルポトロ(スペイン映画アカデミー代表)、ジョセップ・ガテル・カストロ(視聴覚メディア著者文学代表)、ダニエル・グラオ・バリョ(俳優組合代表)、パウラ・パラシオス・カスターニョCIMAスペイン女性映画製作者協会代表)、ICAA理事デシレ・デ・フェス・マルティンスサナ・エレラス・カサドアリアドナ・コルテス・プリオ、前年の受賞者カルラ・シモン10名です。

 

 

フィルモグラフィー(邦題、監督名、短編・TVシリーズは除く)

2008Acné」『アクネACNE』フェデリコ・ベイロ(ハバナ映画祭新人監督賞)

2009La vergünza」ダビ・プラネル(マラガ映画祭2009金のビスナガ賞)

2009La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ(サンセバスチャン映画祭銀貝監督賞)

2010Un lugar lejano」ジョセップ・ノボア

2011La cara oculta」『ヒドゥン・フェイス』アンドレス・バイス

2012Mapa」(ドキュメンタリー)エリアス・レオン・シミニアニ

  (セビーリャ・ヨーロッパ映画祭ドキュメンタリー賞)

2014Todos están muertos」ベアトリス・サンチス

  (マラガ映画祭銀のビスナガ審査員特別賞)

2016María ( y los demás)」『マリアとその家族』共同プロデューサー、ネリー・レゲラ

  (メストレ・マテオ賞)

2017Verano 1993」『悲しみに、こんにちは』エグゼクティブディレクター、

   カルラ・シモン (ベルリン映画祭新人監督賞)

2017Amar」『禁じられた二人』

   エステバン・クレスポ&マリオ・フェルナンデス・アロンソ

2018Apuntes para una pelícla de atracos」(ドキュメンタリー)

   エリアス・レオン・シミニアニ

2019Los días que vendrán」カルロス・マルケス≂マルセ(マラガ映画祭金のビスナガ賞)

2019My Mexican Bretzel」『メキシカン・プレッツェル』(ドキュメンタリー)

   ヌリア・ヒメネス・ロラング

2021Libertad」『リベルタード』クララ・ロケ&エドゥアルド・ソラ(ゴヤ新人監督賞)

以下はElastica Films エラスティカ・フィルム製作

2022Alcarràs」カルラ・シモン

2022Qué hicimos mal」リリアナ・トーレス

2023Matria」アルバロ・ガゴ

2023Creatura」エレナ・マルティン・ヒメノ

2023O corno」『ライ麦のツノ』ハイオネ・カンボルダ

2024Polvo serás」カルロス・マルケス≂マルセ

プレ&ポストプロダクション

2025Romería」プレプロダクション、カルラ・シモン3作目

Hildegart」ポストプロダクション、パウラ・オルティス、「La novia」(15)の監督

Las madres no」同上、マル・コル、2009年『家族との3日間』で長編デビュー

La mitad de Ana」同上、マルタ・ニエト、短編「Son」(22)に続く長編デビュー作

 

 

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『マリアとその家族』の紹介記事は、コチラ20160814

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