ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞*マラガ映画祭2024 ② ― 2024年03月01日 20:57
ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞―ロラ・エレーラの軌跡
(権力や性的虐待を避けることが「最重要」と語る受賞者、2024年2月)
★ロラ・エレーラ(バジャドリード1935)、舞台、テレビ、映画女優として68年のキャリアを誇る現役女優です。20歳でマドリードのコメディ劇場でエドガー・ウォーレス作品で舞台女優としてのキャリアをスタートさせる。個性の強い奮闘する女性を得意としている。1979年、マドリードのマルキナ劇場でミゲル・デリーベスの ”Cinco horas con Mario”(翻訳タイトル『マリオとの五時間』*)の一人舞台で好評を博し、40年間のロングランという成功をおさめる。カルメン・ソティリョ役で美術サークル金のメダルを受章、2006年には勤労功労勲章金のメダルも受章した。さらに2022年にはこのカルメン役で生れ故郷バジャドリード金のメダルを受賞している。
*ストーリーは心臓発作で急死した夫マリオの通夜に、23年間連れ添った妻カルメンが彼の無理解、利己主義を亡骸にえんえんと独白するが、最後には自らの不実にも直面するという人間の孤独を描いたベストセラー小説。
(生れ故郷のバジャドリード金のメダルを受賞、2022年2月)
★現在でもマギー・ミラの演出で、息子ダニエル・ディセンタ・エレーラとフアンマ・ゴメスの「Adictos」の舞台に立っており、国内を巡業している。また第41回演劇祭(1月21日、22日、マラガのセルバンテス劇場)にも参加している。
(3人の女性が織りなす「Adictos」のポスター、中央がエレーラ)
★60年代後半からフランコ独裁政権が終わる1976年まではもっぱらTVシリーズに専念し、コメディ「Las viudas」(77、7話)で金のTP賞(TP de Oro)1978の女優賞、「El señor Villanueva y su gente」と「La barraca」の2作で金のTP 1980女優賞を受賞している。コメディ・ミュージカル「Un paso adelante」(02~05)82話に出演してフォトグラマス・デ・プラタ2003のTV部門女優賞を受賞、金のTPにノミネートされるなどした。本賞は「テレプログラマ」誌が与える賞で1972年に始まり2011年に終了しており、直前の2010年に生涯功労賞を受賞している。2016年に銀幕からは遠ざかっているが、TVシリーズには「UPA Next」(22~23、8話)他に出演しているが、本命は舞台女優。
★さて映画デビューは1970年、ハイメ・デ・アルミニャンの「La Lola, dicen que no vive sola」、マリアノ・オソーレスの「La graduada」(71)、エロイ・デ・ラ・イグレシアの「La semana del asecino」(72)、ジル・カレテロの「Abortar en Londres」(77)、ホセ・マリア・グティエレスの「Arriba Azaña」(78)、1981年には、元夫のダニエル・ディセンタ(俳優、声優2014没)と出演したホセフィナ・モリーナのドキュメンタリー「Función de noche」でコロンビアのカルタヘナ・デ・インディアス映画祭の女優賞を受賞している。本作には二人の間にできた息子ダニエル・ディセンタ・エレーラと娘ナタリア・ディセンタ(女優)も出演している。
★以下に主なフィルモグラフィーを年代順に紹介しておきます。
1982「La próxima estacion」 監督アントニオ・メルセロ
1987「En penumbra」 同ホセ・ルイス・ロサーノ
1996「El amor perjudica seriamente la salud」コメディ 同マヌエル・ゴメス・ペレイラ
2002「Primer y último amor」コメディ 同アントニオ・ヒネネス・リコ
2006「Por qué se frotan las patitas」コメディ・ミュージカル 同アルバロ・ベヒネス
2016「Pasaje al amanecer」 同アンドレウ・カストロ、銀幕最後の作品
★ロラ・エレーラは政治的には左派で「自由が大切であると教えられて育った」と語り、「ナディア・カルビーニョ**が劇場にもっとも足を運んでくれた政治家」と語っている。エレーラの家系は母親が95歳、叔母が105歳と長命であり、88歳で旅立つには未だ早いということでしょうか。もはや怖いものなしのチャーミングな女性です。
**第2次サンチェス内閣の第1副首相(任期2021年7月~2023年月)だった。経済学者でもあり、現職は欧州投資銀行総裁を務めている。
第27回マラガ映画祭ノミネーション発表*マラガ映画祭2024 ① ― 2024年02月29日 18:46
セクション・オフィシアル19作、うち11作がスペイン映画
(第27回マラガ映画祭2024の公式ポスター)
★今年で第27回を迎えるマラガ映画祭の季節がやってきました。去る2月15日、マドリードのスペイン映画アカデミー本部でセクション・オフィシアル(全19作)を含む全カテゴリーが、総指揮のフアン・アントニオ・ビガル、マラガ市議会文化市議会員マリアナ・ピネダ、映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテなどの列席にて発表になりました。開催期間は3月1日から10日まで、前回は10日から19日、前々回は18日から27日でしたので大分早まりました。3月になったらと、のんびり構えていましたがとんだ番狂わせです。セクション・オフィシアルの紹介も間に合わず、すべてが後追いのアップになります。例年通り大賞マラガ―スール賞を含む特別賞から紹介いたします。
(後列左から4人目メンデス=レイテ、マリアナ・ピネダ、アントニオ・ビガル)
★ナリタ・スタジオ制作の公式ポスターはマラガ市の三大要素を表現したそうで、バックの青色はマラガのコスタ・デル・ソルの海と空、白色は海岸ゾーンの日陰棚パーゴラを表したヤシ林、丸いオレンジ色はマラガを代表するポピュラーなお菓子トルタ・ロカ、パイ生地を2枚重ねた中にカスタードクリームを入れ、上にオレンジのフロスティングとサワーチェリーをトッピングしたケーキの三つです。
★マラガ映画祭はスペイン語(カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語を含む)とポルトガル語の映画に特化した映画祭、従ってスペイン、ポルトガル以外ではラテンアメリカ諸国からの応募が主ですが、2言語であれば国は問わないということです。2月10日に開催されたゴヤ賞でもノミネーション、受賞作が本祭から選ばれており、秋のサンセバスチャン映画祭同様重要な春の映画祭です。メイン会場はセルバンテス劇場で、前庭にレッドカーペットが敷かれます。
*マラガ映画祭2024特別賞*
◎マラガ―スール賞(スール紙とのコラボ)
ハビエル・カマラ(俳優、監督)、1967年ラ・リオハ生れ、舞台俳優を目指してログローニョの演劇学校で演技を学んだ後、マドリードの王立演劇芸術上級学校PESADで本格的に学ぶ。キャリア&フィルモグラフィーは、ダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』で紹介していますが、別途アップの予定。
*キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2014年11月21日
◎レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ(マラガ・オイ紙とのコラボ)
マルセロ・ピニェイロ(監督、脚本家、製作者)、1953年ブエノスアイレス生れ、代表作は実話をベースにした『逃走のレクイエム』(20)がヒット、ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞を受賞した。2009年『木曜日の未亡人』、2013年『イスマエル』、2005年の「El método」でキャリア&フィルモグラフィー紹介をしています。
*『逃走のレクイエム』の作品紹介は、コチラ⇒2022年06月16日
*キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2013年12月19日
◎マラガ才能賞―マラガ・オピニオン(マラガ・オピニオン紙とのコラボ)
ピラール・パルメロ(監督、脚本家)、北スペインのサラゴサ生れ、2020年デビュー作『スクールガールズ』がベルリン映画祭でプレミアされ、同年マラガ映画祭の金のビスナガ作品賞を受賞した。続く第2作「La maternal」はサンセバスチャン映画祭2022セクション・オフィシアルにノミネートされた。キャリア&フィルモグラフィー紹介をしています。
*『スクールガールズ』の作品紹介は、コチラ⇒2020年03月16日
*「La maternal」の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月01日
◎リカルド・フランコ賞(映画アカデミーとのコラボ)
アナ・アルバルゴンサレス(美術監督、プロダクションデザイナー、衣装デザイナー)、1962年マドリード生れ、1984年、ヘラルド・ベラが美術監督を務めたイタリアと共同製作したTVシリーズ「Las pazos de Ulloa」の衣装デザイナーとしてキャリアをスタートさせた。1986年、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「La mitad del cielo」(金貝賞受賞作品)の衣装を手掛けたベラのアシスタントとして参加、後にベラが監督した「La Celestina」ではゴヤ賞1997美術賞にノミネートされた。当時若手女優として脚光を浴びるようになったペネロペ・クルスやマリベル・ベルドゥが着用する中世末期の衣装の時代考証が評価されたもの。他にカルロス・サウラの『恋は魔術師』(86)、リカルド・フランコの「Berlin Blues」(88)など、ベラのアシスタントとして実績を重ねていく。
★またイボンヌ・ブレイクのアシスタントとして彼女の薫陶を受けている。ブレイクはイギリス出身だがスペイン映画アカデミー会長を引き受け、その在任中の2018年に急逝したオスカー賞受賞者でもある衣装デザイナーでした。サウラの「La noche oscura」でゴヤ賞1990衣装デザイン賞にノミネート、カンヌ映画祭1995でプレミアされたケン・ローチの『大地と自由』(英独西伊仏米合作)でも衣装デザインを手掛けている。2011年、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』で遂にゴヤ賞とガウディ賞の美術賞をダブるで受賞でき、遂にトロフィーを手にすることができた。ビリャロンガとは「Incerta Gloria」でガウディ賞2018にノミネートされている。TVシリーズの超大作『ゲーム・オブ・スローンズ』(11~19)に2015年から17年にかけて美術監督として20話手掛けている。TVシリーズではHBOのため2022年「¡Garclia!」(6話)、古くはエンリケ・ウルビスの『貸金庫507』のプロダクションデザインと美術に参加している。
(美術賞のトロフィーを手にしたアナ・アルバルゴンサレス、ゴヤ賞2011授賞式)
◎ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞
ロラ・エレーラ(映画、舞台、TV女優)、1935年バジャドリード生れ、88歳の現役女優です。初登場、長いキャリアということで次回別途にアップいたします。
◎金の映画
「Las nuevos españoles」(1974、仮訳「新しいスペイン人」)、監督ロベルト・ボデガス(マドリード1933~2019)は監督、脚本家。ナショナル・シンジケート・オブ・スペクタル1974年の最優秀芸術功績賞、作品・脚本賞他を受賞。キャストはホセ・サクリスタン、マリア・ルイサ・サン・ホセ、アンパロ・ソレル・レアル、アントニオ・フェランデス、マヌエル・アレクサンドル他、スペインの保険会社が多国籍企業に吸収合併されたため近代化を図ることになる。従業員は新しい状況と目標に適応するための訓練を家族ぐるみで受けねばならなくなる。70年代の多国籍企業のエリート社員をからかったコメディ。
(ホセ・サクリスタン、マリア・ルイサ・サン・ホセを配したポスター)
★ボデガスはポピュラーとインテレクチュアルの中間を狙った第三の路線〈tercera vía〉を模索した監督。長年にわたって助監督を務め、1971年、「Españolas en París」(仮訳「パリのスペイン女性たち」)で長編デビュー、1970年代にパリにメイドとして出稼ぎに行く女性たちの姿を描いた。昨年鬼籍入りしたラウラ・バレンスエラ、ゴヤ賞2024のホストを務めたアナ・ベレンなどが主演している。1972年のシネマ・ライターズ・サークル新人賞、作品賞、女優賞(ラウラ・バレンスエラ)など受賞歴多数。
(晩年のロベルト・ボデガス)
アントニオ・メンデス・エスパルサの新作*ゴヤ賞2024 ④ ― 2024年01月11日 19:07
「Que nadie duerma」主演のマレナ・アルテリオ
★アメリカ在住が長かったアントニオ・メンデス・エスパルサがスペインに戻って撮った4作め「Que nadie duerma」が話題になっている。主役のマレナ・アルテリオが本作でフォルケ賞女優賞を受賞して、賞レースに名乗りを上げました。もともとマレナか、またはアルバロ・ガゴのデビュー作「Matria」主演のマリア・バスケスのどと予想していたので驚きはありませんでした。当ブログでは第1作『ヒア・アンド・ゼア』(12)から『ライフ・アンド・ナッシング・モア』(17)、ドキュメンタリー『家庭裁判所 第3H法廷』(20)ともれなく紹介しております。フアン・ホセ・ミリャスの同名小説の映画化、ベルランガ流のクラシック・コメディということもあって紹介する次第です。
*『ヒア・アンド・ゼア』と『ライフ・アンド・ナッシング・モア』の作品紹介は、
*『家庭裁判所 第3H法廷』の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月05日/同年12月07日
「Que nadie duerma」(「Let Nobody Sleep」・「Samething Is About to Happen」)
製作:Aquí y Allí Films / ICAA / Que Nadie Duerma / Wanda Visión S.A.
監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ
脚本:アントニオ・メンデス・エスパルサ、クララ・ロケ
原作:フアン・ホセ・ミリャスの “Que nadie duerma”(2018年刊)
撮影:バルブ・バラソイウ
音楽:セルティア・モンテス
編集:マルタ・ベラスコ
キャスティング:マリア・ロドリゴ
美術:ロレナ・プエルト
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ&ヘアー:エレナ・カスターニョ、パトリシア・ベルダスコ・モンテロ
プロダクション・マネージメント:ダビ・エヘア、アルムデナ・イリョロ
製作者:アマデオ・エルナンデス・ブエノ、ペドロ・エルナンデス・サントス、ミゲル・モラレス、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、ほかエグゼクティブプロデューサー多数
データ:製作国スペイン、ルーマニア、2023年、スペイン語。サスペンス・ドラマ、122分、撮影地マドリードのウセラ、 配給Aquí y Allí Films(スペイン)、公開スペイン2023年11月17日
映画祭・受賞歴:バジャドリード映画祭2023ゴールデン・スパイク賞ノミネート(ワールドプレミア)、ホセ・マリア・フォルケ賞2024女優賞受賞(マレナ・アルテリオ)、ディアス・デ・シネ賞スペイン女優賞(同)、シネマ・ライターズ・サークル賞2024ノミネート、ゴヤ賞2024主演女優賞、フェロス賞2024主演女優・助演女優(アイタナ・サンチェス=ヒホン)・オリジナル作曲賞(セルティア・モンテス)
キャスト:マレナ・アルテリオ(ルシア)、アイタナ・サンチェス=ヒホン(ロベルタ)、ロドリゴ・ポワソン(ブラウリオ・ボタス)、ホセ・ルイス・トリホ(リカルド)、マリオナ・リバス(ファティマ)、マリアノ・リョレンテ(エレロス)、マヌエル・デ・ブラス(フアンホ)、イニィゴ・デ・ラ・イグレシア、フェデリコ・ペレス・レイ、イグナシオ・イサシ(ルシアの隣人)、ほか多数
ストーリー:ルシアはコンピューター・プログラマーとしての仕事を突然失ったとき、人生を変えようと決心する。タクシー運転手になりマドリードの街を旅することにしました。タクシーの運転手はかつて出会った男性と遭遇する可能性が非常に高い仕事です。ルシアの頭のなかは日常と非日常が錯綜しながら、厳しい現実とそこからの逃避が奇妙に調和して、観客を置き去りにするまでブレーキなしで走ります。
(タクシードライバーになったルシア)
フアン・ホセ・ミリャスの同名小説の映画化
★主人公はコンピューター・プログラマーの職を解雇されるとタクシー運転手に転職する。このような奇抜な発想をする女性の頭のなかを理解するのはそんなに簡単ではない。フアン・ホセ・ミリャスの同名小説 “Que nadie duerma” の映画化、作家はバレンシア生れ(1946)の77歳、机は勿論のこと壁といわず床といわず山のような本に埋もれて執筆している。3年おきぐらいに新作を発表しているので、本人も出版社も多くてあと3冊くらいと考えている。映画全体のトーンが少し奇妙で観客を不安にさせ当惑させるけれども、文学的な枠組みがあるから飽きさせないようです。
(フアン・ホセ・ミリャスと原作の表紙)
★脚本はアントニオ・メンデス・エスパルサ(マドリード1978)と、2021年、東京国際映画祭とラテンビートFFの共催作品に選ばれた『リベルタード』で監督デビューしたクララ・ロケ(バルセロナ1988)が共同執筆している。彼女は監督より「監督と一緒に仕事ができる脚本家が性にあっている」と語っているように、脚本家としての実績は豊富です。影響を受けている監督の一人にメンデス・エスパルサを挙げていたから、共同執筆は自然な流れでしょうか。監督が『家庭裁判所 第3H法廷』完成後に、「次回作はベルランガ流のクラシック・コメディ」と予告していた作品が本作である。
*クララ・ロケの『リベルタード』の紹介は、コチラ⇒2021年10月12日
★ポスターにあるルシアの後ろに見える黒い鳥はカラスのように見えるが、この鳥はルシアの10歳の誕生日に母親がプレゼントしたものらしい。母親が10歳の娘の誕生日にプレゼントする代物にしてはクレージーだし謎めいている。貰った子供の人生が平穏に進むとは思えない。またタクシー運転中のサウンドトラックが、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』のアリア〈誰も寝てはならぬ Nessum dorma〉となると、観客はどうすればいいのか当惑する。観客に届けられた映画は、愛のコメディ風でもあり、サスペンスでもあり、予告編からはホラーの要素もうかがえる。
(ルシアの背後にいる謎めいた黒い鳥)
★マレナ・アルテリオは、1974年ブエノスアイレス生れ、、映画、舞台、テレビの女優、クラシックとコンテンポラリーのダンサー、歌手、楽器はフルートと多才。当時アルゼンチンは軍事独裁制を敷いており、反体制派だった俳優の父親エクトル・アルテリオが殺害予告を受けていた。マレナは生後6ヵ月で家族とともにマドリードに政治亡命する。エルネスト・アルテリオは兄、2003年ルイス・ベルメホと結婚(~2016)、アルゼンチンとスペインの二重国籍を持ち。両国で活躍している。同じアルゼンチンから亡命したクリスティナ・ロタ演劇学校で4年間演技を学ぶ。舞台女優としてキャリアをスタートさせた。
(新作のフレームから)
★映画デビューは、エバ・レスメスの「El palo」でゴヤ賞2001新人女優賞にノミネートされた。ゴヤ賞の受賞はないが、プレゼンターや現在94歳になる父親エクトルのゴヤ賞2004栄誉賞のトロフィーを兄エルネストと手渡しており、今回の主演女優賞受賞が待たれている。当ブログ紹介作品に、2010年、ミゲル・アルバラデホのシリアスドラマ「Nacidas para sufrir」では修道女を好演した。昨2023年のヘラルド・エレーロの「Bajo terapia」などがある。他にマルク・クレウエトの「Espejo, espejo」(22)が『シングル・オール・ザ・ウェイ』の邦題でNetflix配信が予定されているようです。映画に先行して出演したた舞台では、クリスティナ・ロタ演出のほか、チェーホフやブレヒト劇にも出演しており、映画と舞台の二足の草鞋を履いている。
(父親のゴヤ栄誉賞受賞を喜ぶアルテリオ親子、ゴヤ賞2004ガラ)
★3年に及ぶ長寿TVシリーズ「Aqui no hay quien viva」(2003~06、91話)でスペインのお茶の間に新参、スペイン俳優組合2003助演女優賞を受賞、他に「Vergüenza」(2017~20、23話)でハビエル・グティエレスと夫婦役を演じ、2018年のフォトグラマス・デ・プラタ、スペイン俳優組合、フェロス主演女優賞を受賞している。他に「Señoras del (h) AMPA」(2019~21、26話)に出演している。
★アントニオ・メンデス・エスパルサのキャリア&フィルモグラフィーは、上記の作品紹介で既にアップしております。共演者のアイタナ・サンチェス=ヒホン(ローマ1968)は、2015年にスペイン映画アカデミーの金のメダルを恩師フアン・ディエゴと受賞した折に紹介しております(彼は2022年に鬼籍入りしてしまいました)。舞台に専念して銀幕から遠ざかっていた時期もありましたが、頭の回転が早くて、エレガントで、その舞台で鍛えた演技力には文句の付けようがありません。アルテリオによると「彼女との撮影は驚きの連続で、舞台のリハーサルでは経験ありますが、映画ではなかった」と絶賛している。
(アイタナ・サンチェス=ヒホン、アルテリオ、フレームから)
★ゴヤ賞はアルモドバルの『パラレル・マザーズ』の助演女優賞ノミネートだけです。『パラレル・マザーズ』でフェロス賞、イベロアメリカ・プラチナ賞を受賞している。本作でフェロス賞にノミネートされているほかノミネートは多数ありますが、受賞に至っていない。フラン・トレスのデビュー作「La jefa」(22)が『ラ・ヘファ:支配する者』でNetflixで配信されている。
*アイタナ・サンチェス=ヒホンの紹介記事は、
(監督とアルテリオ)
(アイタナ、監督、マレナ、2023年11月17日マドリード公開にて)
(アルテリオ、監督、アイタナ・サンチェス=ヒホン、バジャドリード映画祭2023)
『ひとつの愛』のキャスト紹介*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月30日 10:20
現在スペインで最も注目されている女優ライア・コスタ
(ライア・コスタとホヴィク・ケウチケリアン、映画から)
★主役ナット(ナタリア)を演じるのがライア・コスタ(バルセロナ1985)、女優、製作者、カタルーニャ語、スペイン語のほかフランス語、英語が堪能。女優志望ではなかったのでバルセロナのラモンリュル大学ではコミュニケーション国際関係学部で広告とマーケティングを専攻、学位を取得している。卒業後マーケティングの会社に就職、働きながら演劇の勉強を始め、最終的にはフランク・スティエン・スタジオでの演技コースを8年間受講している。遅い長編デビューの理由である。国際的な小売企業のCEOダビ・ロペスと結婚して子供もいるが、一般人なので私生活は公表しないということです。現在2人目を妊娠中です。ジェンダー平等や気候温暖化などのテーマについて発信している。
★短編、TVシリーズ出演が続いたのち、2012年フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Tengo ganas de ti」(『その愛を走れ』)の小さな役で映画デビュー、2015年にも同監督の『ヤシの木に降る雪』に起用された。スペインではなかなか開花しなかったが、ドイツのゼバスティアン・シッパーが全編140分をワンカットで悪夢を描いた『ヴィクトリア』出演で俄然注目を集めた。コスタはドイツ映画賞2015の女優賞を受賞、これはスペイン女優としては初めてだった。さらにサンジョルディ賞2016の外国映画部門女優賞、ガウディ賞2016主演女優賞も受賞した。東京国際映画祭でもワールド・フォーカス部門で上映され話題を呼んだ映画でした。
(ドイツ映画女優賞のトロフィーを手にしたコスタと夫君、2015年6月19日授賞式)
★『ヴィクトリア』の成功後も、アルベルト・ロドリゲスの短編「Las pequeñas cosas」出演、バルセロナ派のラウラ・ジョウの短編「No me quites」(14分)がマラガ映画祭2016やメディナ映画祭に出品され、主役のコスタは短編部門の女優賞を受賞したがスペインでの認知度を高めるには至らなかった。マルティン・オダラの『黒い雪』(17、アルゼンチンとの合作)、アメリカ映画ドレイク・ドレマスの『私とあなたのオープンな関係』(Newness 17)、ニコラス・ペッシェの『ピアッシング』(18)、ミゲル・アルテタの『24時間ずっとラブ』(Duck Butter 18)、ダン・フォーゲルマンの『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(Life Itself 18)、ハリー・ウートリフのデビュー作「Only You」(18)など海外での出演が主であった。
★転機は2019年、コイシェ監督との出会いだった。TVミニシリーズ「Foodie Love」(8話)の出演がアナウンスされスペイン映画に戻ってきた。本作出演で第7回フェロス賞2020 TVシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされた。2022年、コスタはアラウダ・ルイス・デ・アスアのデビュー作「Cinco lobitos」(Lullaby)でベルリンFFパノラマ部門に戻ってきた。初めての子育てで産後鬱になった若い母親役でしたが、脚本を手渡されたときには、自身も第1子を妊娠しており、クランクイン前の2020年には既に母親になっていたということです。本作はマラガ映画祭2022にも正式出品され、母親を演じたスシ・サンチェスと揃って銀のビスナガ女優賞を受賞した。続いて2022年から前倒しの12月開催に変更された第28回ホセ・マリア・フォルケ賞も受賞、翌年のゴヤ賞2023、フェロス賞、イベロアメリカプラチナ賞の主演女優賞などスペインの重要な映画賞のすべてを制覇、盆と正月が同時にやってきた感がありました。
(左から、母親役のスシ・サンチェス、アラウダ・ルイス・デ・アスア監督、
ライア・コスタ、マラガ映画祭2022、フォトコールから)
(産後鬱の若い母親アマイア役のコスタ、「Cinco lobitos」から)
(主演女優賞のトロフィーを手にしたコスタ、ゴヤ賞2023、2月11日授賞式)
★2023年、エレナ・トラぺの「Els encantats / The Enchsnted」(カタルーニャ語)がマラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネート、コスタは受賞を逃したが、トラペ監督とミゲル・イバニェス・モンロイが脚本賞を受賞した。本作については作品紹介をしています。コイシェと再びタッグを組んだ『ひとつの愛』を挟んで、TVシリーズ出演が多いが、パトリシア・フォントの「El mestre que va prometre el mar」に主演、バジャドリード映画祭で上映されたばかりです。真価が問われるのはこれからです。
*「Els encantats / The Enchsnted」の紹介記事は、コチラ⇒2023年06月21日
(「Els encantats」撮影中のエレナ・トラぺとライア・コスタ)
異色の俳優、レバノン生れのホヴィク・ケウチケリアン
★アンドレアスを演じたホヴィク・ケウチケリアン(Hovik Keuchkerian カナ表記はTIFFによる)は、1972年、レバノンのベイルート生れ、父親はアルメニア人、母親はナバラ出身のスペイン人、3歳のときいわゆる〈第5次中東戦争〉とも呼ばれるレバノン内戦(1975~90)が勃発、家族とともにスペインに移住した。スペインではマドリード共同体に属するアルペドレテ市(エル・エスコリアル修道院がある)で育ち、20歳でマドリードに上京するまで父親が経営するレバノン料理店でボーイとして働いていた。1995年自身のジムを開き、1998年ヘビー級のプロボクサーとしてデビュー、2004年に引退するまで16戦中15戦KO勝ちという驚異的な記録保持者、ヘビー級のチャンピオンタイトルを持っている。元プロボクサー、俳優、ボードビリアン、著作4冊を上梓している作家と幾つもの顔をもつ。
(今ではおなかポッコリのケウチケリアン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★エリートのアスリートであるにもかかわらず、スタンドアップコメディアンを目指し演技を学び、友人のマジシャン、ホルヘ・ブラスの薦めで一人芝居に挑戦、舞台俳優デビューを果たす。映画デビューは2010年、アルベルト・ドラドの短編「Perdido」のONUの兵士役、ホルヘ・ドラドの「El otro」でアルカラ・デ・エナレス短編FF 2012で男優賞、パレンシアFF 2014で俳優賞を受賞している。長編映画にはアレックス・ゴンサレス扮するボクサーのトレーナー役で「Alacrán enamorado」(13)に出演、本作はカルロス・バルデムの同名小説をサンティアゴ・A・サンノウが映画化したもので『スコーピオン・反逆のボクサー』の邦題でDVD化された。ゴヤ賞2014の新人男優賞ノミネート、スペイン俳優組合新人賞受賞などで認知度を上げた。
★字幕入りで見られるキケ・マイジョの「Toro」(15、『ザ・レイジ 果てしない怒り』)では、端役でマリオ・カサスやルイス・トサールと共演している。日本のサイトで紹介されるのが『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)やダビ・スーザ・モローの『リベリオン・ライズ』(17)のような劇場未公開作品が多いが、かなりの本数に出演している。
*「Alacrán enamorado」の作品紹介とケウチケリアンの紹介記事は、
*「Toro」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月14日
(『スコーピオン・反逆のボクサー』撮影中のケウチケリアン)
★ロドリゴ・ソロゴジェンが手掛けたTVミニシリーズ「Antidisturbios」(8話)出演では、ホセ・マリア・フォルケ賞2021男優賞、フェロス賞主演男優賞、アルメリア映画祭男優賞を受賞して、映画館には出掛けないお茶の間ファンを増やした。長寿TVシリーズ『ペイパー・ハウス』(17~21)に2019年からボゴタ役で参加した。映画に戻るとパコ・レオンの「Rainbow」(22)に出演、『レインボー』の邦題でネットフリックスが配信している。ドラ・ポスティゴが主演のうえ共演者がカルメン・マウラやカルメン・マチ、ルイス・ベルメホなど強烈ですが楽しめる作品です。撮影が終了したTVシリーズ「Reina Roja」に出演している。フアン・ゴメス=フラードの同名小説(2018年刊)の映画化、プライムビデオが配信予定。
*『レインボー』の紹介記事は、コチラ⇒2022年10月04日
(中央がホヴィク・ケウチケリアン、TVミニシリーズ「Antidisturbios」から)
(ホセ・マリア・フォルケ賞2021授賞式)
★同2022年にマイケル・グールジャンが監督主演したアルメニア映画「Amerikatsi」(アルメニア語、ロシア語・英語)に出演するなど活躍の場を広げている。本作は国際映画祭で受賞歴を重ね、オスカー賞2024年のアルメニア映画代表作品に選ばれている。父親のルーツがアルメニアなのでアルメニア語ができるのでしょうか。予告編からの感想ですが、ネットでいいから是非見たいと興味を覚えました。
★イングリッド・ガルシア=ヨンソンのキャリア紹介は、纏まってのアップはありません。スウェーデン出身ですが、幼少時にはセビーリャで育ったのでスペイン語が堪能。後にスペインに戻って、2006年に舞台女優としてデビュー、2011年映画デビューした。以下に紹介しています。
*イングリッド・ガルシア=ヨンソン紹介は、
(イングリッド・ガルシア=ヨンソン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★ベテラン演技派ルイス・ベルメホ(マドリード1969)は、俳優、舞台演出家、ピエロ。クリスティナ・ロタの俳優学校で演技を学び、1992年から舞台にたち、自身の劇団も設立している。カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』で少女の父親を演じてゴヤ賞2015主演男優賞にノミネートされたが受賞には至らなかった。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』の主役、エステバン・ロエル&フアンフェル・アンドレスが共同監督した『トガリネズミの巣穴』などに出演しているウーゴ・シルバ、ホナス・トゥルエバの青春映画『再会』などの常連さんフランセスコ・カリルの男性陣は、作品紹介の折に簡単に紹介しているだけですが、今回は割愛後日に回します。
(ファンサービスをゆめ怠らないルイス・ベルメホ、同上)
(女性に人気のウーゴ・シルバ、レッドカーペット)
(イケメンを意識しているフランセスコ・カリル、フォトコール)
ストリーミング配信を期待する「Upon Entry」 ― 2023年07月01日 15:06
カラカス出身の若い二人の監督、ロハスとバスケス
★サンセバスチャン映画祭2023のセクション・オフィシアル発表は、多分7月上旬あたりになると予想しています。というわけで前回のエレナ・トラぺの「Els encantats」に続いて、公開は無理としてミニ映画祭、ストリーミング配信などで観たい映画を幾つかアップする予定です。
★3月に開催されたマラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネートされたアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスの「Upon Entry / La llegada」が、予告通りスペインで公開されました(8月16日)。マラガFF では、主演のアルベルト・アンマンが男優賞(銀のビスナガ)を受賞した作品です。両監督ともベネズエラのカラカス出身ですがバルセロナに在住、本国では映画製作ができない、いわゆる才能流出組です。二人ともHBO(Home Box Office有料ケーブルテレビ放送局、本部ニューヨーク)の仕事をしており、ロハスはNetflix にも携わっています。バスケスが撮影監督をしたカルレス・トラスの「El practicante」(20)は、Netflixで『パラメディック~闇の救急救命士』として配信されている。本作はIMDbによると、松竹が配給元にアップされているので、公開もありかと期待して改めて紹介したい。
*マラガ映画祭2023での監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2023年03月14日
(左から、フアン・セバスティアン・バスケス、アレハンドロ・ロハス両監督、
製作者カルレス・トラス、タリン・ブラック・ナイツFF 2022)
(フアン・セバスティアン・バスケス、アレハンドロ・ロハス、マラガFF フォトコール)
「Upon Entry / La llegada」(仮題「通関 / 到着」)
製作:Zabriskie Films / Basque Films / Sygnatia 協賛ICEC / TV3
監督:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス
脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス
撮影:フアン・セバスティアン・バスケス
編集:エマヌエーレ・ティツィアーニ
キャスティング:ジェラルド・オムス
美術:セルソ・デ・グラシア
メイクアップ&ヘアー:ロラ・カニャス(ヘアー)、スシ・ロドリゲス(メイク&ヘアー)
プロダクション・マネージメント:セルヒオ・アドリア、カルラ・ビセンテ
視覚効果:Hover Pinilla
製作者:カルレス・トラス(Zabriskie Films)、カルロス・フアレス、ショセ・サパタ、セルヒオ・アドリア、アルバ・ソトラ
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・カタルーニャ語・英語、心理的スリラー、74分、公開スペイン2023年6月16日
映画祭・受賞歴:第26回タリン・ブラック・ナイツ映画祭2022(エストニア)FIPRESCI賞受賞、コルカタFF 2022ゴールデンベンガル・ロイヤルタイガー賞(インド)、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2023、マラガFF 2023 銀のビスナガ男優賞(アルベルト・アンマン)、BAFICI 映画祭2023(ブエノスアイレス)コンペティション部門正式出品、D’A バルセロナFF、他多数
キャスト:アルベルト・アンマン(ディエゴ)、ブルーナ・クシ(エレナ)、ベン・テンプル(バレット税関職員)、ラウラ・ゴメス(バスケス税関職員)、ヌリス・ブルー(入国審査官)、デビッド・コムリー(警察官)、ルイス・フェルナンデス・デ・エリベ(ルイス)、コリン・モーガン(警察官)、ジェラルド・オムス(旅客)、他
ストーリー:ベネズエラ出身の都市計画家ディエゴ、バルセロナ出身のコンテンポラリーダンサーのエレナ、二人は新しい生活を始めるため公式に承認された移民許可証を持って米国に到着する。彼らの目的は、プロとしてのキャリアを高め、「チャンスの国」であるマイアミで家族を築くことでした。しかし、ニューヨーク空港の入国審査エリアに入ると、彼らは二次検査室に連れていかれ、カップルが何か隠蔽しているものがあるのではないか、と税関職員による心理的に不快な尋問を受けることになる。移民プロセスの複雑さ、外国人嫌い、少数の登場人物だけで緊張感あふれるドラマが展開する。アメリカン・ドリームと国家が自国の領土の安全を取り締まる権利が描かれる。
(厳しい尋問を受けるディエゴとエレナ、フレームから)
最高の演技と絶賛されたアルベルト・アンマンとブルーナ・クシ
★監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、既にアップしているマラガ映画祭の紹介記事に譲るとして、二人の主役を演じ、今までで恐らく最高のパフォーマンスと絶賛されている、アルベルト・アンマンとブルーナ・クシのキャリアを紹介したい。上述のようにアンマンはマラガ映画祭で最優秀男優賞を受賞している。ブルーナ・クシは、カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』で少女の義理の叔母役の好演でゴヤ賞2018新人女優賞を受賞している。
(銀のビスナガ男優賞受賞のアルベルト・アンマン、マラガ映画祭2023ガラ)
★アルベルト・アンマンは、1978年アルゼンチンのコルドバ生れ、俳優、ミュージシャン。父親はジャーナリスト出身の政治家で作家のルイス・アルベルト・アンマンで後に大統領候補にも選ばれている。アルゼンチン軍事独裁政権(1976~83)を逃れて、一家は彼が生後1ヵ月のときスペインに亡命した。アルゼンチンがフォークランド戦争でイギリスに敗北した1982年に帰国するが、彼は数年後再びスペインに戻って、同じ理由でスペインに亡命してマドリードでアトリエを開き演技指導に当たっていたフアン・カルロス・コラッツァの演技学校で学んでいる。アルゼンチンではコルドバのジョリー・リボワ・シアター学校でも学んでいる。
*2009年、ダニエル・モンソンの「Celda 211」の囚人に間違われた看守役で電撃デビュー、翌年のゴヤ賞新人賞を受賞した。本作は「スペイン映画祭2009」では『第211号監房』として上映されたが、公開時には何故かオリジナル題とかけ離れた『プリズン211』となり、ファンを呆れさせた。翌2010年、16世紀の劇作家ロペ・デ・ベガのビオピック「Lope」に主演、2011年、キケ・マイジョのSF映画「EVA」(『EVA〈エヴァ〉』)、2012年、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』や『ワイルド・ルーザー』(13)、ホルヘ・ドラドのSFミステリー『記憶探偵と鍵のかかった少女』(13)に脇役で出演する。
(ルイス・トサールと共演した『プリズン211』から)
*2013年アルゼンチンに戻り、エルナン・ゴルドフリードのスリラー『ある殺人に関するテーゼ』でリカルド・ダリンと共演するなどした。メキシコのルイス・マンドキの「Presencias」(22)、オリヴィエ・マルシャルのアクション・スリラー『オーバードーズ 破滅の入り口』(22、プライム・ビデオ)など。アルゼンチンのマルティン・デ・サルボの「El silencio del cazador」でマラガ映画祭2020、銀のビスナガ男優賞をパブロ・エチャリと受賞しているほか、サンティアゴ映画祭SANFICで男優賞を受賞した。
★NetflixのTVシリーズ『ナルコス』(15~17、20話)では、カリ・カルテルのボス、パチョ・エレーラを演じる。2019年『ナルコス』でスペイン俳優組合賞を受賞する。ほか『アパッチ』(15~17、12話)、『マーズ 火星移住計画』(16~18、12話)、『ナルコス:メキシコ編1~3』(18~21、9話)とテレビ出演も多い。2022年ショセ・モライス企画の『ザ・ロンゲスト・ナイト』(6話)もNetflixで配信された。
(パチョ・エレーラに扮したアンマン、TVシリーズ『ナルコス』から)
★ブルーナ・クシ、1987年バルセロナ生れ、映画・TV・舞台女優。父親は俳優のエンリク・クシ、バルセロナの演劇学校で学ぶ、その後バルセロナの演劇研究所でアルフレッド・カセス、ロベルト・ロメイの指導を受ける。2010年アルテ・ドラマティコの資格を受ける。アントニオ・ファバと一緒にコメディア・デル・アルテを設立するためイタリアを訪れる。カタルーニャTVシリーズ「Pulseras rojas」(11~13、8話)に出演、主なテレビ出演は、主演「Instinto」(19、8話)、助演「The Alienist」(20、5話)、主演「Los herederos de la tierra」(22、5話)はNetflixで『大地を受け継ぎし者』の邦題で配信されている。アンナ・R・コスタのコメディ「Facil」(22、5話)にナタリア・デ・モリーナやアンナ・カスティーリョと共演している。
(バックは尋問する2人の税関職員、「Upon Entry」から)
*2013年、アグスティ・ビリャロンガと出会い、スペイン内戦をテーマにした「Incerta glôra」(Incerta gloria)で映画のキャリアをスタートさせ、ガウディ賞、サンジョルディ賞にノミネートされた。その後、上述したようにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』でゴヤ賞2018新人女優賞のほか、ガウディ賞助演女優賞を受賞、フォルケ賞やサンジョルディ賞にもノミネートされた。2019年、フアン・ゴンサレス&ナンド・マルティネスのファンタジー「La reina de los lagartos」に出演、ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)でAguilar de Campoo 短編映画祭2019女優賞、カンス・フェスティバル2020女優賞を受賞した。2004年からガリシア州ポンテペドラの小さな村カンスで開催されるユニークな短編映画祭です。
(ゴヤ賞2018新人女優賞の晴れ舞台から)
*2020年はバイリンガルということも幸いしてテレビや短編も含めて活躍の年になった。リュイス・ダネスのホラー「La vampira de Barcelona」(カタルーニャ語)に出演、ガウディ賞助演女優賞にノミネートされた。他にダビ&アレックス・パストール兄弟の「Hogar」でハビエル・グティエレスと夫婦役を演じている。本作は『その住人たちは』の邦題でNetflix配信された。2021年、ボルハ・デ・ラ・ベガの「Mía y Moi」(スペイン語)に主演、弟モイ役を演じたリカルド・ゴメスは一時期パートナーだった。
(ディオールの刺繍入りドレスが好評だったガウディ賞2021ガラにて)
*「Upon Entry / La llegada」と同じマラガ映画祭2023のコンペティション部門にノミネートされた、フアン・ゴンサレス&ナンド・マルティネスのコメディSF「El fantástico caso del Golem」、マリオ・エルナンデスのロマンティックコメディ「Tregua (s)」に主演するなど、2023年のマラガには出演作が3作もノミネートされるという女優にとって異例の年でした。各映画とも簡単ですが既に作品紹介をしています。今後の活躍が確約されている女優として見守りたい。
◎ブルーナ・クシ関連記事
*『悲しみに、こんにちは』の作品紹介は、コチラ⇒2017年02月22日
*「La vampira de Barcelona」の作品紹介は、コチラ⇒2021年03月24日
*「Tregua (s)」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月12日
*「El fantástico caso del Golem」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月06日
*「La reina de los lagartos」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月06日
*『その住人たちは』の作品紹介は、コチラ⇒2020年03月31日
ハビエル・バルデム、ドノスティア栄誉賞受賞*サンセバスチャン映画祭2023 ① ― 2023年06月09日 10:51
ドノスティア栄誉賞2023にハビエル・バルデム
(ドノスティア栄誉賞受賞者ハビエル・バルデムを配した公式ポスター)
★5月12日、第71回サンセバスチャン映画祭 SSIFF の大賞の一つドノスティア栄誉賞の発表がありました。上記のポスターで分かるように、オスカー、ゴールデングローブ、BAFTA、7個のゴヤ賞、カンヌ、ベネチア、サンセバスチャンの男優賞受賞者であるハビエル・バルデムが、ドノスティア栄誉賞の受賞者になりました。授賞式はオープニングの9月22日(クロージングは30日)、本祭メイン会場オーディトリアム・クルサールです。今回のポスターはニコ・ブストスの写真に基づいた広告代理店 Dimensión の作品です。バルデムが今年の映画祭の顔になります。写真家ブストスは、90年代から頭角を現したスペインの写真家、ポートレートを得意としており、スペイン版「ヴォーグ」や「ハーパーズ・バザール」、「GQ」、「エル・パイス・セマナル」など各誌で活躍している。
★ハビエル・バルデムがサンセバスチャン映画祭に初めて登場したのは30年前の1993年、ビガス・ルナの「Huevos de oro」(『ゴールデン・ボールズ』)がコンペティション部門にノミネートされ、共演者のマリア・デ・メデイロス、マリベル・ベルドゥなどと一緒に参加している。既に同監督の『ルルの時代』(90)や『ハモンハモン』(92)、アルモドバルの『ハイヒール』(91)などに出演、有望な新人として嘱目されていた。
(初共演となったバルデムとクルス、『ハモンハモン』から)
★受賞歴はオスカー以下3桁に及びますが、SSIFFでは、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』と、ゴンサロ・スアレスの「El detective y la muerte」の2作で1994年の銀貝男優賞を受賞しているだけです。前者の主役カルメロ・ゴメスをおさえてのサプライズ受賞、マリサ・パレデスから手渡されたトロフィを手にしたまま感激の涙でスピーチできませんでした。今回のドノスティア栄誉賞が2回目となります。スペイン人の受賞者は6人目、因みに列挙しますと、1999年故フェルナンド・フェルナン≂ゴメス、2001年故パコ・ラバル、2008年アントニオ・バンデラス、2013年カルメン・マウラ、2019年ペネロペ・クルスの順でした。既にキャリア紹介をしていると思っていましたが記憶違い、日本語版ウイキペディアもありますが、字幕入りで鑑賞できる作品を中心に管理人視点で纏めてみました。
(銀貝男優賞を受賞した『時間切れの愛』、右端がバルデム)
★ハビエル・バルデム(カナリア諸島ラス・パルマス1969、54歳)、母方の祖父母はスペイン映画黎明期に活躍した俳優ラファエル・バルデム、女優ピラール・バルデム(肺疾患で2021年没)を母に、牧場主だった父ホセ・カルロス・エンシナス(2002没)との間に生まれた(のち両親は離婚)。監督フアン・アントニオ・バルデムは伯父、俳優で作家のカルロスは兄、女優モニカは姉、プロデューサーのミゲルは従兄、とバルデム家はシネアスト一家である。2010年ペネロペ・クルスと結婚、子供は1男1女。子役として6歳で映画デビューしているが、本格的なデビューは21歳、母親と出演したビガス・ルナの『ルルの時代』である。90年代で特筆すべきは初めてゴヤ賞を受賞した『時間切れの愛』の演技、英語に挑戦した『ペルディータ』出演、英語がイマイチで出演を渋っていたが、新人発掘の名監督ビガス・ルナから「これからは英語ができないと世界に通用しない」と助言され猛勉強して出演した由。これが後にオスカー像獲得に繋がった。
(今は亡き母ピラール・バルデムと、2016年)
◎1990年代の出演作&受賞歴
1990年『ルルの時代』監督ビガス・ルナ
1991年『ハイヒール』監督ペドロ・アルモドバル
1992年『ハモンハモン』監督ビガス・ルナ
1993年『ゴールデン・ボールズ』同上
1994年『時間切れの愛』監督イマノル・ウリベ、SSIFF男優賞、ゴヤ賞助演男優賞受賞
1994年「El detective y la muerte」監督ゴンサロ・スアレス
1995年『電話でアモーレ』監督マヌエル・G・ペレイラ、ゴヤ賞主演男優賞、
CECメダル*受賞
1997年『ペルディータ』監督アレックス・デ・ラ・イグレシア、最初の英語映画
1997年『ライブ・フレッシュ』監督ペドロ・アルモドバル
1999年『スカートの奥で』監督マヌエル・ゴメス・ペレイラ
1999年『第二の皮膚』監督ヘラルド・ベラ
*CECメダル、シネマ・ライターズ・サークル賞
★2000年からの活躍は目を瞠る、ジュリアン・シュナーベルによって映画化されたキューバの作家レイナルド・アレナスのビオピック『夜になるまえに』(00)主演で、ベネチア映画祭主演男優賞であるヴォルピ杯を受賞、他全米映画批評家協会賞など受賞歴多数。初めてアカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞などにノミネートされ、同じスペイン語でもキューバ訛りを特訓して撮影に臨んだ。英語はジョン・マルコビッチの監督デビュー作、犯罪スリラー『ダンス オブ テロリスト』(02、DVD)でも役だった。ニコラス・シェイクスピアの同名小説 “The Dancer Upstairs” の翻案だが劇場公開されなかった。
(『夜になるまえに』でヴォルピ杯を受賞、第57回ベネチアFF2000ガラ)
★2002年、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で2回目のゴヤ賞主演男優賞を受賞した。続くアレハンドロ・アメナバルの尊厳死をテーマにした『海を飛ぶ夢』(04)で2回目のヴォルピ杯、3回目のゴヤ賞主演男優賞、ヨーロッパ映画賞男優賞などを受賞した。連日 6 時間に及ぶ特殊メイクが話題になった。アメナバル監督はオスカー像を手にすることができた。
(特殊メイクでそっくりさんになった『海を飛ぶ夢』のバルデム)
★そしてオスカー俳優になったのが、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟のスリラー『ノーカントリー』(07)の殺し屋シガー役、へんてこりんなオカッパ頭で平然と人を殺す役だった。2007年から翌年にかけてアメリカのみならず国際映画祭の受賞ラッシュに沸いた作品でしたが、バルデム自身も第80回アカデミー賞助演男優賞を受賞、以下20数ヵ所の国際映画祭で男優賞を受賞している。2008年、初めてのウディ・アレン映画、コメディ『それでも恋するバルセロナ』で、後に結婚することになるペネロペ・クルスと離婚夫婦を演じた。彼女は第81回アカデミー賞助演女優賞を受賞、オスカー女優となり、2年連続でスペイン俳優がオスカーを手にしたことになる。
(殺し屋シガーに扮したバルデム)
(オスカー像を手にしたバルデム、アカデミー賞2008ガラ)
◎2000年代の主な出演作&受賞歴
2000年『夜になるまえに』監督ジュリアン・シュナーベル、ベネチアFF、
男優賞ヴォルピ杯受賞
2001年『ウェルカム!ヘヴン』監督アグスティン・ディアス・ヤネス
2002年『ダンス オブ テロリスト』監督ジョン・マルコビッチ
2002年『月曜日にひなたぼっこ』監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞主演男優賞受賞
2004年『コラテラル』監督マイケル・マン
2004年『海を飛ぶ夢』監督アレハンドロ・アメナバル、ベネチアFF男優賞ヴォルピ杯、
ゴヤ賞主演男優賞、ヨーロッパ映画賞男優賞
2006年『宮廷画家ゴヤは見た』監督ミロス・フォアマン
2007年『コレラの時代の愛』監督マイク・ニューウェル
2007年『ノーカントリー』監督ジョエル&イーサン・コーエン、
アカデミー賞助演男優賞、他多数
2008年『それでも恋するバルセロナ』監督ウディ・アレン
★2010年以降では、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『BIUTIFULビューティフル』(10)、バルセロナを舞台に霊能力のある裏社会で生きる男に扮した。カンヌ映画祭でプレミアされ、男優賞を受賞した。他4回目のゴヤ賞主演男優賞を受賞、アカデミー賞と英国アカデミー賞BAFTAには主演男優賞にノミネートされた。サム・メンデスの『007 スカイフォール』(12)でサイバーテロリストの複雑な悪役に挑戦、BAFTA助演男優にノミネートされた。
(アレハンドロ・G・イニャリトゥの『BIUTIFULビューティフル』)
★フェルナンド・レオンの『ラビング・パブロ Loving Pablo』(17)でコロンビアの麻薬王エスコバルに、愛人の作家ビルヒニア・バジュッホにペネロペ・クルスが扮し、夫婦共演となった。作家の回顧録がベースになって映画化された。製作はスペインだが言語が最初のスペイン語から英語に変更されたという経緯があった。ドラマのパブロ役のなかでも一番実像に近いと評判になった。カンヌ常連のイラン人監督アスガル・ファルハディの『誰もがそれを知っている』でも共演が続き、公私の切り替えに苦労した。本作はカンヌFF 2018のオープニングを飾っている。彼は2年連続でゴヤ賞主演男優賞にノミネートされた。両作とも当ブログで作品紹介をしている。
(エスコバル役のバルデム、愛人役のクルス)
★アーロン・ソーキンの伝記映画『愛すべき夫妻の秘密』(21)にニコール・キッドマンと共演、二人ともアカデミー賞とゴールデングローブ賞2022の主演男優・女優賞の候補となった。バルデムのオスカー賞ノミネートは4回目であり、うち受賞は『ノーカントリー』である。本作はプライムビデオで配信されている。同年サンセバスチャン映画祭で話題を呼んだのが、フェルナンド・レオン・デ・アラノアのコメディ「El buen patrón」(英題「The Good Boss」)、翌年ゴヤ賞主演男優賞を受賞した。
(ゴヤ賞2022主演男優賞)
(7個目のゴヤ賞となった「El buen patrón」のポスター)
★7個目のゴヤ胸像となるが、うち一つはアルバロ・ロンゴリアのドキュメンタリー「Hijos de las nubes, última colonia」(12)の製作者として受賞した。西サハラの植民地化により20万人近い人々が難民となって暮らすキャンプの実態を記録している。バルデム家は伯父フアン・アントニオ、母ピラール、兄カルロスとも政治的発言を躊躇しないことで知られている。その他プロデューサーとしてビガス・ルナのビオピック「Bigas × Bigas」(16)、アルバロ・ロンゴリアのドキュメンタリー「Santuario」(19)には兄カルロスと出演と製作を手掛けている。最新作はまもなく日本でも公開されるロブ・マーシャルの『リトル・マーメイド』のトリトン王役、1989年ディズニー製作のアニメーションの実写リメイクである。
(兄カルロスとハビエル、ドキュメンタリー「Santuario」から)
◎2010年以降の主な出演作&受賞歴
2010年『BIUTIFULビューティフル』監督アレハンドロ・G・イニャリトゥ、
カンヌ映画祭男優賞、ゴヤ賞主演男優賞
2010年『食べて、祈って、恋をして』監督ライアン・マーフィー
2012年『007 スカイフォール』監督サム・メンデス
2012年「Hijos de las nubes, última colonia」製作者。監督アルバロ・ロンゴリア、
ゴヤ賞ドキュメンタリー賞を共同で受賞
2013年『悪の法則』監督リドリー・スコット
2013年「Alacrán enamorado」監督サンティアゴ・サンノウ、兄カルロスが脚本を執筆
2015年『ザ・ガンマン』監督ピエール・モレル
2016年『ラスト・フェイス』(DVD)監督ショーン・ペン
2016年「Bigas× Bigas」製作者。監督ビガス・ルナ&サンティアゴ・ガリード・ルア
2017年『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(シリーズ5作目)
監督ヨアヒム・ローニング
2017年『マザー!』(DVD)監督ダーレン・アロノフスキーのサイコスリラー
2017年『ラビング・パブロ Loving Pablo』監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞ノミネート
2018年『誰もがそれを知っている』監督アスガル・ファルハディ、ゴヤ賞ノミネート
2019年「Santuario」ドキュメンタリー、製作・出演。監督アルバロ・ロンゴリア
2020年『選ばなかったみち』監督サリー・ポッター
2021年『愛すべき夫妻の秘密』監督アーロン・ソーキン、
アカデミー賞他主演男優賞ノミネート
2021年「El buen patrón」監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞主演男優賞、
フォルケ賞受賞
2023年『リトル・マーメイド』監督ロブ・マーシャル
★以上が主なフィルモグラフィーですが、その数の多さには改めて驚かされます。以下はサンセバスチャン映画祭関連の代表的な上映作品です。その他、ジョン・マルコビッチ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリア・ロバーツなどドノスティア栄誉賞受賞者のプレゼンターとして、また2008年の映画国民賞受賞の折にも現地入りしている。授与式はSSIFF開催中が恒例となっている。
1997年『ペルディータ』ベロドロモ部門
1998年『ライブ・フレッシュ』メイド・イン・スペイン部門
2000年『夜になるまえに』サバルテギ-ペルラス部門
2002年『ダンス オブ テロリスト』サバルテギ-ペルラス部門
2002年『月曜日にひなたぼっこ』コンペティション部門
2008年『それでも恋するバルセロナ』サバルテギ-ペルラス部門
2010年『食べて、祈って、恋をして』コンペティション部門
2012年「Hijos de las nubes, última colonia」メイド・イン・スペイン部門
2016年「Bigas× Bigas」セクション・オフィシアルの特別上映
2017年『ラビング・パブロ Loving Pablo』ベロドロモ部門
2019年「Santuario」ペルラス部門
2021年「El buen patrón」コンペティション部門
◎ハビエル・バルデム関連記事◎
* 母ピラール・バルデムの紹介記事は、コチラ⇒2017年06月13日
*『ラビング・パブロ Loving Pablo』の作品紹介は、コチラ⇒2017年08月09日
*『誰もがそれを知っている』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月08日
*『愛すべき夫妻の秘密』記事は、コチラ⇒2022年02月11日
*「El buen patrón」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月10日
* ハビエル・バルデムのキャリア紹介は、コチラ⇒2018年10月17日
国民的歌手ラファエルにマラガの特別賞*マラガ映画祭2023 ③ ― 2023年03月01日 15:28
国民的歌手ラファエルに特別賞の一つビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞
★1月26日、60年の輝かしいキャリアを誇るラファエル・マルトスに、マラガ映画祭の特別賞の一つビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞授与の発表がありました。1943年ハエン県リナレス生れのスペインの大歌手は愛称〈ラファエル〉としてより広く知られていますが、俳優としての才能も発揮、祖父母から孫世代まで、クラシックからロックまで幅広く活躍、スペインで最も愛されているミュージシャンにしてスター、彼の遺産は国の遺産とまで称されています。サン・アントニオ教会の聖歌隊に入ったのはわずか4歳、ザルツブルグ音楽祭で子供の声賞を受賞したのは9歳でした。1962年ベニドルム歌唱フェスティバルの優勝を機にプロとしての活躍が始まりました。
★俳優としてミュージカル映画出演のかたわら、テレビの「ラファエル・ショー」や「ラファエルの世界」のシリーズ番組に出演、その驚異的なボイスと彼独特の個性的なスタイルで視聴者を魅了していった。それは国内だけでなくニューヨークのカーネギーホール、ラジオシティ・ミュージックホール、マディソン・スクエア・ガーデン、世界のアーティストが出演するパリのオランピア劇場、メキシコで最も格式の高い劇場である芸術院宮殿、ロンドンのロイヤル・アルバートホールの舞台にも立った。大きな成功と才能に溺れることなく、常に新しい聴衆を開拓してきた受賞者は、後進の若いアーティストたちの鑑となっている。
★映画出演について触れると、1965年、マリオ・カムスの長編3作目となるミュージカル・コメディ「Cuando tú no estás」でデビューした。サンタンデール出身のカムスは2021年秋86歳で鬼籍入りしてしまいましたが、60年代に登場した重要な監督の一人です。ほかにラファエルを主役にしたミュージカル「Al ponerse el sol」(67)と「Digan lo que digan」(68)の計3本を立て続けに撮っている。同時期に撮った「Con el viento solano」はカンヌ映画祭1966コンペティション部門にノミネートされ、本邦でも1984年開催のスペイン映画祭で『厄介者』の邦題で上映されている。ほかにベルリン映画祭1982金熊賞受賞の『蜂の巣』、カンヌ映画祭1984審査員スペシャル・メンション受賞の『無垢なる聖者』などが代表作でした。
(デビュー作「Cuando tú no estás」のポスター)
★カムスの後を継いだのがビセンテ・エスクリバ、1969年の長編3作め「El golfo」と、4作目ミュージカル「El ángel」、5作めドラマ「Sin un adiós」(70)の3本を撮っている。1913年バレンシア生れと年齢的には年長ですが、エスクリバはバレンシア大学で哲学と文学の博士号を持っており、監督だけでなく作家、脚本家、製作者、教育者といくつもの顔を持っていました。映画界入りは遅く脚本家として1948年にスタートさせている。監督デビューは60年代に入ってからで、90年代にはTVシリーズでヒット作を飛ばしていた監督。
(ミュージカル「El golfo」のポスター)
★1973年、ハビエル・アギレ監督のドラマ「Volveré a nacer」を最後に銀幕から遠ざかるが、今世紀に入ってから、バスク出身の鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシアの「Balada triste de trompeta」(10)にヴォイス出演している。本作は『気狂いピエロの決闘』の邦題で公開された。2015年には同監督のヒット作「Mi gran noche」に久々に主演してその健在ぶりを示した。ラテンビート映画祭で『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』のタイトルで上映されました。マリオ・カサス、ペポン・ニエト、ブランカ・スアレス、カロリナ・バング、カルロス・アレセス、カルメン・マチ、サンティアゴ・セグラと次々に登場するスターたちのドタバタ演技にファンは大喜びでした。
(上段左がラファエル、右がマリオ・カサス)
(『グラン・ノーチェ』のプレゼンテーション中のラファエル)
★3月12日に開催される「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞サークル」で、カムスの「Cuando tú no estás」と、エスクリバの「El golfo」の上映が決定しており、当日特別賞の授与式が予定されているようです。
★本賞以外の映画関係の受賞歴として、ACE賞1970、1982、1984、1992受賞、スペイン音楽賞2006,イベロアメリカ・プラチナ賞2019栄誉賞、長年の功績に対してラジオ・オレ賞、2018年マドリード市の文化芸術に貢献した人に贈られるHijo Adoptivo de la ciudad de Madrid いわゆる金のメダルに任命された。彼は上述したようにリナレス生れですが、生後9ヵ月でマドリードに移住、人生の重要な節目、例えば歌手デビュー、初コンサート、初レコード契約、映画デビュー、結婚、すべてがマドリードで始まっているマドリっ子です。ほかに2022年ビルボード生涯功労賞(ラテンミュージック)を受賞、国際ツアーを再開している。パブロ・ロペスによって作曲、プロデュースされた ”Victoria” を発表します。
(マドリード市長マヌエラ・カルメナと金のメダルを首にかけた受賞者)
(ラ・マンチャ出身のアルモドバルも同時に受賞)
リカルド・フランコ賞はユイ・ベリンゴラ*マラガ映画祭2023 ② ― 2023年02月27日 16:47
カメラの後ろで支える縁の下の力持ちに光が当たりました
★2月15日、第26回マラガ映画祭2023のリカルド・フランコ賞がスクリプト一筋のユイ・ベリンゴラに授与されることが発表になりました。本賞はスペイン映画アカデミーとのコラボレーションで第15回目になります。彼女は100作を超える映画&TVシリーズを手がけており、中でもペドロ・アルモドバルとは3作目になる『バチ当たり修道院の最期』(83)を皮切りに、特に1999年の『オール・アバウト・マイ・マザー』から最新作の『パラレル・マザーズ』までは全作を担当、アルモドバル専属のスクリプターの感があります。
(2009年『抱擁のかけら』撮影中の左からユイ・ベリンゴラ、製作者エステル・ガルシア、
アルモドバル監督、主役を演じたリュイス・オマール)
★ユイ・ベリンゴラは映画関係者の家族のもとで育ちました。初めて撮影所を訪れたのは7歳のとき、少女の目に飛び込んできたのは正真正銘の魔法だった。視線を逸らすとカメラの背後で静かに観察している男性を見つけた。彼はたくさんの紙と鉛筆を持っていた、それが台本というもだと後に分かった。その時以来、少女は自分がその世界の一部を占めたいと考えるようになった。
★ベリンゴラはスクリプト以外の仕事を一切していない。これには基本的に2つの理由があるからです。一つに彼女が優秀なスクリプトの一人であること、二つ目は彼女がこの仕事に魅せられていることです。ということで1978年のホセ・アントニオ・バレロ監督のサイコパスによる犯罪物「La sombra de un recuerdo」でデビュー以来、彼女の履歴書には100作以上の映画やTVシリーズのタイトルが連ねることになりました。
★アルモドバル以下、手がけた作品のうち比較的認知度のある監督別リストをアップしますが、『エリート シーズン1』や「Patria」など約20作あるTVシリーズは割愛。今は亡きピラール・ミロ、マヌエル・グティエレス・アラゴン(彼は今回審査委員長を務める)、ハイメ・チャバリ、故リカルド・フランコ、故カルロス・サウラ、ペドロ・オレア、海外勢ではテリー・ギリアムの『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)、ギレルモ・デル・トロの『デビルス・バックボーン』(01)、スティーブン・フリアーズの『殺し屋たちの挽歌』(84)、アスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』(18)など国際的なプロダクションの常連です。現在アルメリアで、アダム・アンダースのミュージカル「Road to Bethlehem」(仮題「ベツレヘムへの道」)の撮影中です。
*ペドロ・アルモドバル:1983『バチ当たり修道院の最期』、1984『グロリアの憂鬱』、1989『アタメ』、1999『オール・アバウト・マイ・マザー』、2002『トーク・トゥ・ハー』、2004『バッド・エデュケーション』、2006『ボルベール〈帰郷〉』、2009『抱擁のかけら』、2011『私が、生きる肌』、2013『アイム・ソー・エキサイテッド!』、2016『ジュリエッタ』、2019『ペイン・アンド・グローリー』、2020短編「La voz humana」、2021『パラレル・マザーズ』の14作
*ピラール・ミロ:1980「Gary Cooper, que estas en los cielos」、1991「Beltenebros」、1993「El pájaro de la felicidad」、1996遺作『愛の虜』など代表作4作、ペドロ・オレア:1986スリラー「Bandera negra」、1992歴史ドラマ「El maestro de esgrima」、1996同名小説の映画化「Más allá del jardín」の3作
★以下は話題作、公開または映画祭上映で見ることのできた作品。
1981『マラビーリャス』マヌエル・グティエレス・アラゴン
1984『自転車は夏』ハイメ・チャバリ
1985「La vaquilla」ルイス・ガルシア・ベルランガ
1989「Esquilache」ホセフィナ・モリーナ
1995『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』アグスティン・ディアス・ヤネス
1996『タクシー』カルロス・サウラ
1996『セレスティーナ』ヘラルド・ベラ
1997『心の秘密』モンチョ・アルメンダリス
1998『マラリア』故アントニオ・ホセ・ベタンコル
1998『ミラクル・ぺティント』ハビエル・フェセル
2001『10億分の1の男』フアン・カルロス・フレスナディリョ
2004『海を飛ぶ夢』アレハンドロ・アメナバル
2005『あなたになら言える秘密のこと』イサベル・コイシェ
2010『ペーパーバード 幸せは翼に乗って』エミリオ・アラゴン
2011『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』ベニト・サンブラノ
2015『ロープ 戦場の生命線』フェルナンド・レオン・デ・アラノア
2021「Pan de limón con semillas de amapola」ベニト・サンブラノ
★今回のリカルド・フランコ賞のほか、2019年に第6回クレサラKresala 賞を受賞している。
マヌエラ・マルテッリ『1976』Q&A*東京国際映画祭2022 ⑨ ― 2022年11月06日 16:21
「母方の祖母が49歳で亡くなった年が1976年でした」
(マヌエラ・マルテッリ監督、10月28日 Q&Aにて)
★東京国際映画祭は終幕しましたが、10月28日にマヌエラ・マルテッリ監督が参加して行われた『1976』Q&Aをアップいたします。司会は市山尚三プログラミング・ディレクター、言語は英語、約30分で、翌日YouTubeで配信されました。主役カルメンを演じたアリネ・クッペンハイムが女優賞を受賞するオマケも付いたので、最後にキャリアご紹介も付します。
★タイトルとなった〈1976年〉は、監督の「母方の祖母が亡くなった年に因んでいる」と語りました。この発言には重要な意味があったのですが、Q&Aではこれ以上踏み込まなかった。「もう一つの9.11」と称されるチリの軍事クーデタが勃発したのは1973年9月11日でした。1976年は選挙で選ばれた初めての社会主義政権と言われるアジェンデ政権がピノチェト将軍指揮する軍隊によってあえなく崩壊した年ではなかった。3年目となる1976年も多くの民間人の血が流された年ではありましたが、なぜ監督が1976年に拘ったのか、それは母方の祖母が49歳の若さで自死したことでした。
★作品紹介でも触れましたが、1983年生れの監督は祖母には会ったことがない。絵画や彫刻を制作して、主婦だけで終わりたくなかった祖母は、主人公カルメンの造形に投影されている。本作の原動力になったのが、正にこの祖母の自死にあったからでした。長いあいだ家族間で祖母の死について語ることは禁じられていましたが、10年前に重い鬱だけが原因でなかったことを知り、突き動かされるように自国の現代史を調べ始めたという、つまり本作の構想は10年前に遡るということです。クランクイン直前にパンデミックで中断、1年待たねばならず、再開しても制限の多いなかでの撮影を強いられた。これは彼女に限ったことではありませんが、コロナは世界を変えてしまいました。幸運にも完成前にカンヌから選考の報をうけ、その後のプロセスは大車輪だった。
*『1976』の作品&監督キャリア紹介の記事は、コチラ⇒2022年09月13日
★印象に残ったのは会場から色と音楽に対する拘りを指摘する質問があったことでした。「とても良い質問です」と嬉しそうに前置きして、「赤色は血をイメージし、独裁政権の影が次第にカルメンの日常を塗り替えていくイメージ、外から聞こえてくる音や音楽は、外部からの浸食であり、色と音楽の両方が外の世界の恐怖、カルメンの気持ちの変化を表現している」と語った。これが成功しているかどうかは評価の分かれるところですが、20年近くに及んだピノチェト軍事独裁政権の恐怖を知らない観客には分かりにくかったかもしれません。
★監督は大学では、演技のほかに美術も専攻しており、以前「将来的に女優を続けるかどうか分からない、絵の道に進むかもしれない」と語っていたが、一つに祖母の影響があったのかもしれない。その頃から監督になることを視野に入れて演技していたという。「女優としてさまざまな監督を観察しながら演技してきたので、今回の監督デビューは自然な成り行きだった」とチリのインタビューに応えている。チリ・プレミアは首都サンティアゴから南方850キロ離れたバルディビア映画祭(開催10月10日~16日)で、その後劇場公開となっている。
★Q&Aで本国チリでの評価を尋ねられた監督は、「観客の評価はよく、観客はちりばめられたエピソードにそれぞれ反応している。それは2019年の反政府デモをきっかけにした憲法改正の動きがあり、結果的に新憲法は否決されたが、それを残念に思っている人に受け入れられている」と応じていた。10月19日、150万人の民衆がサンティアゴの街頭に繰り出し、経済格差是正、自由の制限、憲法改正を迫ってデモ行進が行われた。この反政府デモについてのドキュメンタリーを撮ったのが、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品に選ばれたパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「Mi país imaginario」(22)でした。現在はパリ在住ですが、故国チリの現代史を問い続けているドキュメンタリー作家です。当ブログでは「チリ三部作」と称される『光のノスタルジア』『真珠のボタン』『夢のアンデス』を紹介しています。
*「Mi país imaginario」の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月22日
★Q&Aは内容的に充実していたとは言い難いのですが、メディア向け撮影を入れた30分では質問者の数も限られ、監督も自分の母語でなかったこともあるのか隔靴掻痒だったに違いない。最後にコロナ感染で危機に苦しんでいる映画界に触れ、「映画館に足を運んでください」と、映画を映画館で観る楽しさを取り戻してほしいと強調しました。勿論、映画を見る媒体は複数あってかまわないのですが、映画とTVドラマは違うはずです。
★チリ映画界の現状は厳しく、監督が映画界入りした2001年に製作された本数は10本だった。その95%は特権的な男性監督によるものです。現在では映画法も制定され4倍に増えていますが、申請倍率も高くアクセス事態が難しいということです。申請は1年1回に限定され、落選すればもう1年待たねばならない。チリは文化活動に資金を使いたくないのが伝統というお国柄、『1976』で「私は忍耐力を養いました」と監督。どんなに素晴らしい映画でも「観られなければ意味がない」とも語っています。既に次回作の準備に取りかかっており、90年代のチリが舞台、デビュー作に繋がっているということです。
★去る9月28日、第37回ゴヤ賞2023(2月11日)イベロアメリカ映画賞のチリ代表作品に選ばれました。監督は「代表作品に選ばれ光栄です。選んでくださった270人のチリ映画アカデミー会員に感謝いたします」とコメントしています。4作に絞られる正式ノミネーションを待たねばなりませんが、候補としてアルゼンチン代表「Argentina, 1985」(サンティアゴ・ミトレ)、コロンビア代表『ラ・ハウリア』(アンドレス・ラミレス・プリド)、ポルトガル代表「Nothing Ever Happened」(ゴンサロ・ガルバン・テレス)、ボリビア=ウルグアイ合作の『Utama~私たちの家~』(アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、邦題はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIP CITY IDCF による)などが候補に上がっています。いずれも強敵ですが残れるでしょうか。ポルトガル映画以外は既にご紹介しています。
★アリネ・クッペンハイム紹介:1969年バルセロナ生れ、父親はフランス人、母親はチリ人、共に手工芸家、両親の仕事の関係で幼少期はヨーロッパ諸国を転々とした。チリに戻ったのは1980年代初頭、サンティアゴ市北部の地方自治体ラス・コンデスの高校で学んだ。その後フェルナンド・ゴンサレスのアカデミー-・クラブで演劇を学んだ。1991年テレノベラ「Ellas por ellas」(4話)出演でスタート、数局のTVシリーズで成功、女優としての地位を築いた。一方映画デビューは、クラウディオ・サピアインの「El hombre que imaginaba」(98)、アントニア・オリバーレスの「Historias de sex」(00)など、しかしTVシリーズ出演が多い。1999年、クラウディア・ディ・ジロラモ主演のTVシリーズ「La fiera」を最後に、当時の夫で俳優のバスティアン・ボーデンへーファーとフランスに渡る(2006年離婚)。
★フアン・ヘラルドのキューバ革命をテーマにしたドイツ、メキシコ、米国合作「Dreaming of Julia / Sangre de Cuba」(03、英語)で、ガエル・ガルシア・ベルナルやハーヴェイ・カイテル、セシリア・スアレスとクレジットを共有している。2004年、チリに帰国、アンドレス・ウッドの「Machuca」(04)、アジェンデ政権に反対する1970年代初頭の富裕階級の典型的な女性像を演じて賞賛された。本作にはマヌエラ・マルテッリ監督も共演している。レビスタWIKEN助演女優賞受賞、邦題『マチュカ~僕らと革命』でDVD化された。ウッド監督とは「La buena vida」(ラテンビート2009の邦題『サンティアゴの光』)に再びオファーを受け、今度はマルテッリと母娘を演じた。ペドロ・シエンナ賞、ビアリッツFF演技賞などを受賞している。
(反アジェンデ派のシンボリックな女性像を演じた『マチュカ』から)
★アリシア・シェルソンのデビュー作「Play」(05『プレイ』)、本作はシェルソンがSKIP CITY IDCF 2006で新人監督賞を受賞した作品、また同監督の「Turistas」(08)では主役を演じた。アジェンデ大統領の最後の7時間を描いたミゲル・リッティンの「Allende en su laberinnto」(14)で、大統領の私設秘書、愛人でもあったミリア・コントレラスに扮した。通称〈La Payita〉はスウェーデン大使の助けを得てキューバに亡命、1990年に帰国するまでパリやマイアミに住んでいた。軍事クーデタの証言者の一人。
(マルセロ・アロンソと倦怠期の夫婦を演じたシェルソンの「Turistas」から)
★公開作品にはセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』(17)がある。TVシリーズ「42 Días en la Oscuridad」(22、6話)で再びクラウディア・ディ・ジロラモと共演、実話に着想を得たミステリー、ある日突然失踪する主婦を演じている。本作は『暗闇の42日間』の邦題でNetflix ストリーミング配信中です。ラテンアメリカ諸国だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで配信され、チリでもっとも成功したTVシリーズの代表作となっている。
★『1976』出演で、8月開催の第26回リマ映画祭2022で演技賞、東京国際映画祭の女優賞を受賞、次回作はバレリア・サルミエントの犯罪ミステリー「Detrás de la Lluvia」(22)、本作にはマヌエラ・マルテッリ、クラウディア・ディ・ジロラモが共演している。
(自分の行動がどれほど深刻か気づき始めるカルメン、『1976』から)
ホセ・サクリスタンがゴヤ賞2022栄誉賞を受賞*ゴヤ賞2022 ① ― 2021年12月02日 15:13
映画国民賞2021に続くゴヤ栄誉賞にホセ・サクリスタン
★11月29日、いよいよ今年も残り少なくなったと実感するゴヤ賞のノミネーション発表がありました。作品賞5作品は、クララ・ロケの『リベルタード』以外は予想通りでした。アップは次回にまわすとして、まずは既に発表になっていました、ホセ・サクリスタン(チンチョン1937)の第36回ゴヤ栄誉賞受賞の話題から。時代に流されない彼のブレない人生哲学に共感して、当ブログにも度々登場して貰っています。例年サンセバスチャン映画祭期間中に授賞式が行われる2021年の映画国民賞受賞記事を書いたばかりでした。舞台に専念して映画から離れていた時期もありましたが、60年に及ぶ役者人生を考えると、未だ受賞していなかったとは意外でした。これからも来る者は拒まず、これからも現役を続ける由。
*サクリスタン映画国民賞2021受賞の記事は、コチラ⇒2021年07月13日
(ホセ・サクリスタン、映画国民賞2021の授賞式、サンセバスチャン映画祭9月)
★11月22日月曜日午前、スペイン映画アカデミー理事会より「ゴヤ賞2022の栄誉賞はホセ・サクリスタン」の発表がありました。アカデミーは「すべての若いシネアストに対する献身、情熱、倫理、プロ意識のモデルであること、60年にも及ぶスペイン映画の顔であり声であること、私たちの親密な記憶の一部である非常に多くの映画で、その独自のやり方で自分自身を表現することを知っていること、更に私たちの映画や社会が大きな展開期をむかえたなかでもスクリーンに止まって前進する方法を熟知している俳優に与えることにしました」と授賞理由を述べました。
★ニュースを知った84歳の俳優は「私の仕事は、彼の目標が達成されたのを見た子供の喜びであり、彼が学生、触れ役、新兵、移民、弁護士、医者、殺し屋であると人々に信じ込ませることでした、そして人々は信じたのです。幸運なことに友人たち、私の愛すべき人々、家族を取りまく人が仕事をしています。これ以上求めるものはありません」と語りました。また「とても興奮しています。それというのも収穫が順調で、年月が経ち、自分の道が間違っていなかった、と知らせてくれたからです」と。俳優という職業は常に不安定であることを知っているサクリスタンは、「仕事は常にありましたから文句をいうのは卑劣でしょう。時には仕事に見合っていないこともありましたが、それは私自身の問題でした。私は幸運に恵まれ、特権があることを認め感謝しています」
「継続は力なり」の実践者サクリスタンの若さの秘密
★主なキャリア&フィルモグラフィーについては既に記事にしていますが、1960年舞台デビュー、1965年に映画界に入り、125以上の作品に出演しています。政治的な発言と義務を果たすプロフェッショナルとして若さを感じさせます。好奇心が強く、撮影中でも遊びと仕事の部分のバランスを上手くとっている。継続性が重要であることを教えてくれたのは、「フェルナンド・フェルナン=ゴメスでした。そうすれば事柄の良し悪しの識別ができるようになるからです。しかし基本的なことは、人々が私の仕事を認めてくれるかどうかなんですが」と語っている。フェルナンド・フェルナン=ゴメスというのは、第1回ゴヤ賞1987の作品賞、監督賞、脚本賞をコメディ「El viaja a ninguna parte」で受賞したシネアスト、俳優としても出演していた。そして主役を演じたのがホセ・サクリスタンでした。
(左から、サクリスタン、フェルナン=ゴメス、ラウラ・デル・ソル、フレームから)
★36年前の映画アカデミー創設者の一人だったサクリスタンの頭に浮かんだのは「プロデューサーのアルフレッド・マタス氏だった」という。「彼が1985年に私たちに提案し話合いが始まった。そうして生まれたのが映画アカデミーでした」。11月12日の初会合に出席した13名のなかには、故ガルシア・ベルランガ以下カルロス・サウラ、ホセ・ニエト、女性では女優のチャロ・ロペスなど。翌年1月8日に公式に設立され、初代会長にホセ・マリア・ゴンサレス=シンデが就任した。草創期から参加したアカデミー、自身も副会長として尽力したことを誇りに思っているとも語っている。今回の受賞はひとしお感慨深いものがあるようです。
★ゴヤ賞はハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」(12)の雇れ殺し屋を飄々と演じて主演男優賞を受賞している他、サンセバスチャン映画祭で2回目となる銀貝男優賞を受賞している。第36回のゴヤ賞ガラは2022年2月12日、バレンシア出身のガルシア・ベルランガ生誕100周年の記念行事として、バレンシアのLes Arts de Valencia で開催されます。現在ミゲル・デリーベスの小説を舞台化した “Señora de rojo sobre fondo gris”(1991刊、脚色ホセ・サマノ)のツアー中、来年6月までの予定ということです。「母なる自然が許す限り、楽しみながら続けます。責任をもってね」
*『灰地に赤の夫人像』(彩流社、1995刊)の邦題で翻訳書が刊行されていますが、目下品切れです。
(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするサクリスタン)
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