ピラール・バルデムが輝いた夕べ*祝AISGE設立15周年2017年06月13日 16:06

    「母は引退を望まない、私たちも続投を望んでいる」とバルデム3兄弟

 

65日(月)、AISGE設立15周年祭がマドリードのCirco Price劇場**で行われた。どうしてピラール・バルデムがヒロインだったのかと言えば、AISGE設立時からの功労者、なおかつ現理事長でもあるからです。2013年から肺気腫を病み、当夜も左手に酸素ボンベをぶら下げての登壇、15周年のお祝いは、結局ピラールへのオマージュとして開催されたようなわけでした。3人の子供(カルロスモニカハビエル)と二人のお嫁さん(ペネロペ・クルスセシリア・Gessa)ほか、参加者はビクトル・マヌエルアナ・ベレン夫妻、ミゲル・リオスジョアン・マヌエル・セラアシエル・エチェアンディアロッシ・デ・パルマゴヤ・トレドアイタナ・サンチェス=ヒホン・・・などなど総勢1300人ほどが参集、他にペドロ・アルモドバルアントニオ・バンデラスコンチャ・ベラスコカルメン・マチなどからビデオで祝辞が届けられた。

 

      

     (左から、登壇したバルデム一家、ハビエル、モニカ、ピラール、カルロス)

 

AISGEArtistas, Intérpretes, Sociedad de Gestnの略、映画と舞台の俳優、声優、舞踊家、監督など、スペインのアーティストすべての権利を守るための交渉団体。2002年設立、執行部は25名、理事長の任期は4年、選挙によって選ばれる。しかし2003年以来ピラール・バルデムが連続して再選されており、常に二番手になりやすい女性アーティストの地位向上に尽力している。

**Circo Priceトーマス・プライス(アイルランド出身)1853年設立したプライス・サーカス曲馬団が前身、スペインには1880年に来西した。1970年閉鎖した劇場跡に、マドリード市議会の肝煎りで文化施設として、2007年リニューアル・オープンした。所在地ロンダ・デ・アトーチャ、2000人収容、音楽会などイベントが開催されている。

 

          

          (1列中央席のピラールと家族、フィエスタ会場にて)

  

ピラール・バルデムPilar Bardem1939314日、セビーリャ生れの78歳、映画81本、舞台43本、テレビ・シリーズ31本、まさに女優一筋の人生を歩んでいる。故アントニオ・バルデム(『恐怖の逢びき』)は実兄。ゴヤ賞は、1995年、アグスティン・ディアス・ヤネスのNadie hablará de nosotras cuando hayamos muertoで助演女優賞受賞、2004年、ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスのMaría queridaで主演女優賞ノミネートの2回だけと少ない。徹底したフランコ嫌い、物言う反戦女優としても有名。2013年以来健康不安を抱えているが、まだ「引退」したわけではない。「私がすぐ死ぬことを子供たちは望んでいないし、私も第三共和制を見るまでは死ねない」とスピーチ、現在の立憲君主制は勿論気に入らない。というわけで死神は当分お呼びでない。しかし、前日打ち合わせのために母親と会ったハビエルによると、「まるでマイク・タイソンと闘った後のようだった」と冗談めかして語っている。3時間に及んだというフィエスタの夕べは、バルデム家の女家長には結構激務だったのではないでしょうか。

 

   

  (「・・・第三共和制を見るまでは・・・」とスピーチするピラール、左はモニカ)

 

★下の写真は当夜のハイライトの一つ、コミック・トリオ「Tricicle***の演技、毛糸の帽子とピエロの付け鼻がトレードマーク。4人なのはピラールの息子が飛び入り出演しているからだそうです(右端の赤い帽子がハビエル)。彼はアシエル・エチェアンディア(ビルバオ出身の歌手、俳優、「La novia」「Ma ma」)がイタリアの「あまい囁きParole parole」を歌ったときにはボンゴを叩いた。ミゲル・リオス、ビクトル・マヌエルとアナ・ベレンの左翼カップルも「見て、見て・・・なんてピラールは素敵なの・・!」と歌で呼びかけた。バルデム一家にとって一生涯忘れられない感激の一夜となった。

 

       

(コミック・トリオ「Tricicle」とハビエル・バルデム)

 

     

   (ボンゴを叩くハビエル、「あまい囁き」を熱唱するアシエル・エチェアンディア)

 

 

               (ビクトル・マヌエル、アナ・ベレン、ミゲル・リオス)

 

***バルセロナ演劇研究所の3人の学生が、1979年バルセロナで結成したコミック・トリオ。モンティー・パイソン、ローワン・アトキンソン、またはMr.ビーンの流れを汲むパントマイムが得意。舞台出演が主だがテレビや映画にも出演している。

 


BAFICI19作品賞はアドリアン・オルの「Ninato」*ドキュメンタリー2017年05月23日 15:44

           受賞作のテーマは多様化する家族像と古典的?

 

  

★インターナショナル・コンペティションの最優秀作品賞は、アドリアン・オルOrrのデビュー作Niñato2017)、どうやら想定外の受賞のようでした。本映画祭はデビュー作から3作目ぐらいまでの監督作品が対象で、4月下旬開催ということもあって情報が限られています。今年は20本、日本からもイトウ・タケヒロ伊藤丈紘の長編第2作「Out There」(日本=台湾、日本語142分)がノミネートされ話題になっていたようです。昨年のマルセーユ映画祭やトリノ映画祭、今年のロッテルダムに続く上映でした。審査員も若手が占めるからお互いライバル同士になります。スペインが幾つも大賞を取ったので審査員を調べてみましたら、以下のような陣容でした。

 

エイミー・ニコルソン(米国監督)、アンドレア・テスタ(亜監督)、ドゥニ・コテ(カナダ監督)、ニコラスWackerbarth(独俳優・監督)、フリオ・エルナンデス・コルドン(メキシコ監督)の5人、最近話題になった若手シネアストたちでした。アルゼンチンのアンドレア・テスタは、カンヌ映画祭2016「ある視点」に夫フランシスコ・マルケスと共同監督したデビュー作「La larga noche de Francisco Sanctis」がノミネートされた監督、ニコラスWackerbarthは、間もなく劇場公開されるマーレン・アデのコメディ『ありがとう、トニ・エルドマン』に脇役として出演しています。フリオ・エルナンデス・コルドンは、米国生れですが両親はメキシコ人、彼自身もスペイン語で映画を撮っています。2015年の「Te prometo anarquía」がモレリア映画祭でゲレロ賞、審査員スペシャル・メンション、ハバナ映画祭脚本賞、他を受賞している監督です。ということでスペインの審査員はゼロでした。

A・テスタ& F・マルケス「La larga noche de Francisco Sanctis」紹介は、コチラ2016511

 

Niñatoドキュメンタリー、スペイン、2017 

製作:New Folder Studio / Adrián Orr PC

監督・脚本・撮影:アドリアン・オル

編集:アナ・パーフ(プファップ)Ana Pfaff

視覚効果:ゴンサロ・コルト

録音:エドゥアルド・カストロ

カラーグレーディングetalonaje:カジェタノ・マルティン

製作者:ウーゴ・エレーラ(エグゼクティブ)

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2017年、ドキュメンタリー、72分、撮影地マドリード

映画祭・受賞歴:スイスで開催されるニヨン国際ドキュメンタリー映画祭Visions du Réel2017でワールド・プレミア、「第1回監督作品」部門のイノベーション賞受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭Bafici2017「インターナショナル・コンペティション」で作品賞受賞

 

キャスト:ダビ・ランサンス(父親、綽名ニニャト)、オロ・ランサンス(末子)、ミア・ランサンス(次女)、ルナ・ランサンス(長女)

 

プロット・解説:ダビは3人の子供たちとマドリードの両親の家で暮らしている。定職はないが子育てをぬってラップ・シンガーとして収入を得ている。彼の夢は自分の音楽ができること、3人の子供たちを養育できること、自分の時間がもてて、それぞれあくびやおならも自由にできれば満足だ。重要なのは経済的な危機にあっても家族が一体化すること、粘り強さも必要だ。しかし時は待ってくれない、ダビも34歳、子供たちもどんどん大きくなり難しい年齢になってきた。特に末っ子のオロには然るべき躾と教育が必要だ。何時までも友達親子をし続けることはできない、ランサンス一家も曲がり角に来ていた。およそ伝統的な家族像とはかけ離れている、風変わりな日常が淡々と語られる。3年から4年ものあいだインターバルをとって家族に密着撮影できたのは、ダビと監督が年来の友人同士だったからだ。

 

           短編第3作「Buenos dias resistencia」の続編?

 

アドリアン・オルAdrián Orrは、マドリード生れ、監督。助監督時代が長い。ハビエル・フェセルの成功作『カミーノ』2008)、ハビエル・レボージョの話題作La mujer sin piano09、カルメン・マチ主演)、父親の娘への小児性愛という微妙なテーマを含むモンチョ・アルメンダリスのNo tengas miedo11)、劇場公開されたアルベルト・ロドリゲスの『ユニット7/麻薬取締第七班』12)と『マーシュランド』14)、フェデリコ・ベイロフのコメディEl apóstata15)などで経験を積んでいる。

 

    

★今回の受賞作は2013年に撮った同じ家族を被写体にしたドキュメンタリーBuenos dias resistencia20分)の続きともいえます。つまり何年かにわたってランサンス一家を追い続けているわけです。同作は2013年開催のロッテルダム映画祭、テネリフェ映画祭、Bafici短編部門などで上映、トルコのアダナ映画祭(Adana Film Festivali)の金賞、イタリア中部のポーポリ映画祭(Festival dei Popoli)、ポルトガルのヴィラ・ド・コンデ短編映画祭(Vila do Conde)ほかで受賞している。Bafici 2013の短編部門に出品されたことも今回の作品賞につながったのではないでしょうか。下の子供3人の写真は、短編のものです。他に短編「Las hormigas07)とDe caballeros11)の2作がある。 

 

      

(ランサンス家の3人の子供たち、中央がルナ)

 

     

                (ポーポリ映画祭でインタビューを受ける監督、201312月)

 

★タイトルになったniñatoは、若造、青二才の意味、普通は蔑視語として使われる。親がかりだから一人前とは評価されない。2013年ごろはスペインは経済危機の真っ最中、「EUの重病人」と陰口され、若者の失業率50パーセント以上、失業者など掃いて捨てるほどというご時世でした。しかし3人子持ちの父子家庭は珍しかったでしょう。少しは改善されたでしょうが、スペイン経済は道半ばです。別段エモーショナルというわけでなく、ダビが子供たちを起こし、着替えや食事をさせ、一緒に遊び、ベッドに入れるまでの日常を淡々と映しだしていく。オロがシャワーを浴びながら父親譲りのラッパーぶりを披露するのがYouTubeで見ることができます。現在予告編は多分まだのようです。 

      

               (niñatoダビ・ランサンス)

 

★純粋なドキュメンタリー映画というよりフィクション・ドキュメンタリーficdocまたはドキュメンタリー・フィクションficdocと呼ばれるジャンルに入るのではないかと思います。ドキュメンタリーもフィクションの一部と考える管理人は、ジャンルには拘らない。今カンヌで議論されているネットフリックスが拾ってくれないかと期待しています。


『ノー・エスケープ 自由への国境』*ホナス:キュアロン2017年04月23日 14:46

            トランプのお蔭で公開されることになりました?

 

★トロント映画祭2015の折に原題Desiertoとしてご紹介していた少し古い映画ですが、トランプの壁のお蔭か公開がアナウンスされました。ホナス・キュアロンの長編第2『ノー・エスケープ自由への国境』、キュアロン一家が総出で製作しました。トロント映画祭「スペシャル・プレゼンテーション」部門で国際批評家連盟賞を受賞したこともあって話題になっていた作品。これから公開されること、スリラーであることなどから、比較的詳しい公式サイトから外れないように注意してアップしたいと思います。なかでもキャスト紹介は主役の二人、ガエル・ガルシア・ベルナルとジェフリー・ディーン・モーガンしか紹介されておりませんので若干フォローしておきます。

 

    

                (オリジナル・ポスター)

 

 『ノー・エスケープ 自由への国境』(原題Desierto英題「Border Sniper」)2015

製作:Esperanto Kino / Itaca Films / CG Cinema

監督・脚本・編集・製作者:ホナス・キュアロン

脚本(共):マテオ・ガルシア

音楽:Woodkid、ヨアン・ルモワンヌ

撮影:ダミアン・ガルシア(『グエロス』)

プロダクション・デザイン:アレハンドロ・ガルシア

衣装デザイン:アンドレア・マヌエル

キャスティング:ベヌス・カナニ、他

メイクアップ・ヘアー:ヒメナ・キュアロン(メイク)、エマ・アンヘリカ・カンチョラ(ヘアー)他

製作者:ニコラス・セリス、サンティアゴ・ガルシア・ガルバン、ダビ・リンデ、ガエル・ガルシア・ベルナル(以上エグゼクティブ)、アルフォンソ・キュアロン、カルロス・キュアロン、アレックス・ガルシア、エイリアン・ハーパー、他多数

 

データ:製作国メキシコ=フランス、言語スペイン語・英語、2015年、スリラー・ドラマ、94分(日本88分)、撮影地バハ・カリフォルニア、映倫G12IMD5.9

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2015国際批評家連盟賞受賞(スペシャル・プレゼンテーション部門)、ロンドン映画祭201510月)正式出品、(仏)ヴィルールバンヌ・イベロアメリカ映画祭20163月)正式出品、イベロアメリカ・フェニックス賞2016録音賞ノミネーション、以下2016年、ロスアンジェルス(6月)、シッチェス(10月)、オースティン(10月)、ダブリン、リマ(8月)、ハバナ(12月)他、各映画祭正式出品、第89回アカデミー賞メキシコ代表作品(落選)

公開:メキシコ20164月、フランス同4月、米国限定同10月、スペイン限定20171月、香港同1月、ハンガリー同4月、日本同5月、他多数

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(モイセス)、ジェフリー・ディーン・モーガン(サム)、アロンドラ・イダルゴ(アデラ)、ディエゴ・カタニョ(メチャス)、マルコ・ぺレス(ロボ)、ダビ・ペラルタ・アレオラ(ウリセス)、オスカル・フロレス・ゲレーロ(ラミロ)、エリク・バスケス(コヨーテ)、リュー・テンプル(国境パトロール)、他多数

 

プロット:正規の身分証明書を持たない、武器を持たない、ただリュック一つを携えたモイセスを含む15人のグループが、メキシコとアメリカを隔てる砂漠の国境を徒歩で越えようとしていた。それぞれ愛する家族との再会と新しいチャンスを求めていた。しかし、不運なことに越境者を消すことに生きがいを感じている錯乱した人種差別主義の<監視員>サムに発見されてしまった。不毛の砂漠の中で残忍な狩人の餌食となるのか。星条旗をはためかせたトラックに凶暴な犬トラッカーを乗せたサムは、祖国への侵略者モイセスたちを執拗に追い詰めていく。砂漠は武器を持つ者と持たざる者の戦場と化す。生への執着、生き残るための知恵、意志の強さ、人間としての誇りが、ダミアン・ガルシアの映像美、ヨアン・ルモワンヌの音楽をバックに語られる。  (文責:管理人)

 

            監督は何を語りたかったのか?

 

A: 監督が何を語りたかったのかは、観ていただくしかないが、まず製作のきっかけは10年ほど前に異母弟と一緒にアリゾナを旅行したことだったという。アリゾナ州Tucsonツーソン(トゥーソン)にあるメキシコ領事館に招待され、移民たちに起きている悲劇を生の声で聞いたことが契機だったという。

B: アリゾナ州の人口の37パーセントがヒスパニック系、もともと米墨戦争に負けるまでメキシコ領だった。そのアリゾナ体験から脚本が生まれたわけですね。

 

A: しかし、どう物語っていけばいいのか、なかなか構想がまとまらなかった。既に同じテーマでたくさんの映画が撮られていた。例えばキャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』09Sin nombre」)、ディエゴ・ケマダ=ディエスの『金の鳥籠』13La jaula de oro」)など、それぞれ評価が高かった。しかし、それらとは違った切り口で、もっと根深い何かを描きたかった。

B: 辿りついたのが子供の頃から大好きだった1970年代のハリウッド映画のホラーやスリラーだった。セリフを抑えたカー・アクションの不条理な追跡劇、スピルバーグの『激突!』71)や、リチャード・C・サラフィアンの『バニシング・ポイント』71)を帰国するなり見直した。

 

A: それにアンドレイ・コンチャロフスキーの『暴走機関車』85)も挙げていた。人間狩りというショッピングなテーマを描いた、アーヴィング・ピチェルの『猟奇島』32)、コーネル・ワイルドの『裸のジャングル』66)も無視できなかったと語っている。ダイヤローグを抑えるということでは、ロベール・ブレッソンの『抵抗(レジスタンス)~死刑囚の手記より』56)も参考にしたという。

B: 死刑囚の強い意志は、モイセスの強さに重なります。

 

          ネットにあふれた人種差別主義者のコメントに恐怖する!

 

A: 構想から10年、間には父親の『ゼロ・グラビティ』の脚本を共同執筆、撮影でも一緒だったからいろいろ相談に乗ってもらった。同業の有名人を父に持つのは大変です。「父の存在は重く、時には鬱陶しいこともある」と笑っています。

B: しかし「すごく力になってくれるし、叔父のカルロスも同じだが、私にとって大きなマエストロです」とも。アカデミー賞メキシコ代表作品に選ばれると、500以上のコピーを作りアメリカでの上映を可能にした。最初の16作に残れたのも、このコピーの多さのお蔭です。

 

 

(父アルフォンソ・キュアロンと、『ゼロ・グラビティ』が上映されたサンセバスチャン映画祭)

 

A: それでも「この映画の扉を開けてくれたのはガエル、彼が脚本を気に入ってくれたことだ」ときっぱり語っている。彼への信頼は揺るがない。ワールド・プレミアしたトロント映画祭にも駆けつけてくれ、素晴らしいスピーチをしてくれた。

 

  

  (スピーチをする監督とガエル・ガルシア・ベルナル、第40回トロント映画祭にて)

 

B: トロントでの批評家の反応は正直言ってさまざまだったが、それぞれ主観的なものが多かった。しかし、観客の反応は違った。

A: 苦しそうに椅子にしがみついて一心にスクリーンを観ていた。他人事ではないからね。これはリマでもハバナでも同じだった。しかしYouTubeで予告編が見られるようになると、メキシコから押し寄せる移民に反対する人種差別主義者のコメントで飽和状態になった。「何が言いたいんだよ」など大人しいほうで、なかには「みんな殺っちまえ!」とかあり、「楽天家の私でも、父親になっているのでビビりました」と監督はインタビューで語っていた。

B: トランプにとっては、本作は悪夢なんでしょうか。

 

A: しかし数日経つと、そんな雰囲気は下火になり、自然と収束していったという、当然ですよね。アメリカ公開の20161014日は、大統領選挙3週間前で両陣営とも一触即発だったから、何か起こってもおかしくない状況だった。

B: 星条旗、トラック、ライフル銃、獰猛に訓練された犬、国境沿いで起こる祖国を守るための人間狩り、お膳立てはできていた。

  

 

   (星条旗をはためかせて疾走するトラック、御主人に服従するトラッカー)

 

A: 狙撃者サム役にジェフリー・ディーン・モーガンを選んだ理由は、「彼がもっている強力な外観がパーフェクトだったから。映画の中ではサムの動機の多くを語らせなかったが、彼を念頭に置いて脚本を書いた。あのような人格にしたのが適切かどうかは別にしてね。あとはジェフリーがそれを組み立ててくれたんだ」と監督。

B: 完璧に具現化してくれたわけですね。

 

       

            (サバイバル・ゲームでモイセスを見失うサム)

 

A: 公開前なので後は映画館に足を運んでください。付録としてスタッフ&キャスト紹介を付しておきます。

 

 スタッフ紹介

ホナス・キュアロンJonás Cuarónは、19811128日メキシコシティ生れ、監督、脚本家、編集者・製作者。父親アルフォンソは『ゼロ・グラビティ』(13)のオスカー監督、叔父カルロスも監督、脚本家(『ルドandクルシ』)、製作者エイリアン・ハーパーは監督夫人。家族は神が授けるものだから選べません、というわけで「親の七光り」組です。友人は自分で選ぶ、それで主役にガエル・ガルシア・ベルナルを選びました。長編監督デビュー作Año uña(「Year of the Nail」メキシコ=英=西79分、スペイン語・英語)は、グアダラハラ映画祭2007で上映され高評価だった。父親と脚本を共同執筆した『ゼロ・グラビティ』のスピンオフムービーAningaaq13、米、7分、グリーンランド語、英語)、アニンガーはイヌイットの漁師の名前、サンドラ・ブロックが同じライアン・ストーン博士役でボイス出演している。他短編ドキュメンタリーがある。次回作Z(「El Zorro」)が進行中、ガエル・ガルシア・ベルナルが怪傑ゼロに扮します。 

  

               (本作撮影中のキュアロン監督とガエル・ガルシア・ベルナル)

 

   

(次回作Z」のポスターと主役のガエル・ガルシア・ベルナル) 

 

ダミアン・ガルシアは、1979年メキシコシティ生れ、撮影監督。メキシコシティの映画研修センターとバルセロナのESCACで撮影を学ぶ。2003年広告や多数の短編を手掛け、長編デビューは2006年、アンドレス・レオン・ベッカー&ハビエル・ソラルのMás que a nada en el mundo、アリエル賞の撮影賞にノミネートされた。アルフォンソ・ピネダ・ウジョアのViolanchelo08)、フェリペ・カサレスのChicogrande10)では、再びアリエル賞ノミネート、ハバナやリマでは撮影賞を受賞した。アリエル賞を独り占めした感のあったルイス・エストラーダの『メキシコ地獄の抗争』10、「El infierno」未公開、DVD)ではノミネートに終わった。ルイス・マンドキのLa vida precoz y breve de Sabina Rivas12)もアリエル賞を逃した。モノクロで撮影したアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』14、「Güeros」ラテンビート上映)でアリエル賞の他、トライベッカ映画祭の審査員賞を受賞している。最新作にディエゴ・ルナのSr. Pig16)がある。本作上記。オスカー賞を3個も持っているエマニュエル・ルベツキ、ギジェルモ・ナバロ(『パンズ・ラビリンス』)、ロドリゴ・プリエト(『バベル』)の次の世代を代表する撮影監督である。現在はメキシコシティとバルセロナの両市に本拠地をおき、大西洋を行き来して仕事をしている。

バルセロナ大学に1994年付設されたカタルーニャ上級映画学校Escola Superior de Cinema i Audiovisuals de Catalunya の頭文字、バルセロナ派の若手シネアストを輩出している。

 

 

『グエロス』でアリエル賞撮影監督賞(銀賞)のトロフィーを手にしたダミアン・ガルシア

 

 

            (撮影中のダミアン・ガルシア)

 

 キャスト紹介

★出演者のうち、公式サイトに詳しいキャリア紹介のある、ガエル・ガルシア・ベルナル、アメリカ側のスナイパー役ジェフリー・ディーン・モーガンは割愛しますが、悪役サムがしっかり機能していたことが本作の成功の一因だったといえそうです。またスクリーンに少しだけ現れた国境パトロール隊員のリュー・テンプルは、1967年ルイジアナ州生れの俳優。犬のトラッカーは俳優犬ではなく警備の訓練を受けた犬だった由、トラッカーが出てくるとアドレナリンがドクドクの名演技でした。もう一つが2年間にわたって探し回ったという乾いた砂漠の過酷さと美しさだった。主な不法移民役のメキシコ人俳優をご紹介すると、

 

      

            (サムにショットガンを構えるモイセス)

    

ディエゴ・カタニョは、1990年クエルナバカ生れ、フェルナンド・エインビッケのデビュー作『ダック・シーズン』04)や『レイク・タホ』08、東京国際映画祭2008)に出演、ホナス・キュアロンの長編デビュー作Año uña07Year of the Nail」)では、アメリカから休暇でやってきた年上の女性モリーに淡い恋心を抱くティーンエイジャーを演じた。モリーを演じたのがエイリアン・ハーパー2007年、監督と結婚して1児の母。第2作ではプロデューサーとして参加している。他にロドリゴ・プラの話題作「Desierto adentro08)にも出演している。

 

   

                    (ディエゴ・カタニョ、『レイク・タホ』から

  

 

  (エイリアン・ハーパー、Año uña」から

 

マルコ・ぺレスは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』99)、マルコ・クロイツパイントナーのTrade07)、クリスチャン・ケラーのグローリア・トレビのビオピックGloria14)では、グロリアのマネジャーに扮した。最後までモイセスと運命を共にするアデラ役のアロンドラ・イダルゴは、本作が長編映画デビュー、テレビドラマに出演している。

 

                    

                  (ケラー監督とマルコ・ぺレス、「Gloria」から)

 

   

(モイセスに助けられながら追跡を逃れるアデラ)

 

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『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』*オリオル・パウロ2017年04月14日 15:15

   

            

★長編デビュー作『ロスト・ボディ』(12)に続くオリオル・パウロの第2『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』は、比較的知名度のあるベテランを起用しての密室殺人劇でした。原題Contratiempoの意味は「不慮の出来事、または災難」ですが、「シネ・エスパニョーラ2017では、英題のカタカナ起こしに今流行りの法律用語「悪魔の証明」を副題にしています。二転三転しながらも最後には証明されるのですが、本作も既に内容は紹介済みです。基本データを繰り返しておきますが、映画評論家と一般観客の評価が見事に乖離した作品だったと言えるかもしれません。 

     

         (ホセ・コロナドに演技指導をするオリオル・パウロ監督)

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2016106分、スリラー、撮影地バルセロナ自治州テラサTerrassa、ピレネー山地のVall de Núria映画祭歴:米国ファンタスティック・フェスト(2016923日)、ポートランド映画祭20172月、ベルグラード映画祭20173月、スペイン公開201716日、日本公開同325日、他IMDb評価7.8

 

キャスト:マリオ・カサス(実業家アドリアン・ドリア)、アナ・ワヘネル(弁護士グッドマン/エルビラ)、バルバラ・レニー(ドリアの愛人ラウラ・ビダル、写真家)、ホセ・コロナド(ダニエルの父トマス・ガリード)、フランセスク・オレリャ(ドリアの顧問弁護士フェリックス・レイバ)、パコ・トウス(運転手)、ダビ・セルバス(ブルーノ)、イニィゴ・ガステシ(ダニエル・ガリード)、マネル・ドゥエソ(ミラン刑事)、サン・ジェラモス(ソニア)、ブランカ・マルティネス(グッドマン弁護士)

 

          二転三転、先が読めなかったミステリー・ホラー

 

A: スリラーを集めた「シネ・エスパニョーラ2017」の他作品は、およそ予想した通りの結末を迎えますが、なかで本作は先が読めなかった。というのも筋運びの不自然さが後半にかけて増していったせいです。前作『ロスト・ボディ』より強引でしたから、前作を見ていた観客もあっけにとられたのではありませんか。

B: キャスト欄を注意深く読めば分かりますが、観客は普通、そこまで細かいところに目を通しません。特にキャスト欄に役柄を明記しません。何気ないセリフが伏線になっていましたが、それは結末近くになって分かることです。

A: パウロ監督は、製作者にメルセデス・ガメロ、ミケル・レハルサ、キャストにホセ・コロナドを起用した以外、前作とはがらりと変えてきました。本作ではお気に入りのコロナドを主役級の脇役に仕立てました。

 

  

       (突然失踪した息子を探す執念の父親ガリード、ホセ・コロナド)

 

B: 青年実業家ドリアのマリオ・カサス、いまや売れっ子俳優になって引っ張り凧です。若くして権力と金力を手にしたが頭脳明晰があだになる。いつもの動の演技ではなく静の演技を求められ難しかったのではないか。父親役はもしかして初めてか。

 

   

             (逃げ道を模索するアドリアン・ドリア、マリオ・カサス)

 

A: グッドマン弁護士のアナ・ワヘネル、脇役専門かと思っていた彼女の主役は珍しい。事件の経過より二人の対決場面がこの映画のクライマックスです。対決シーンはまるで舞台を見てるようなもので、舞台女優歴の長いワヘネルの独壇場でした。 

B: 二人はドリアの無実を証明するために対策を練るのですが、互いに嘘をつき合って駆け引きしているので、タイムリミットが目前なのに真実が見えてこない。

 

A: しかし次第に目的の食い違いが観客にも見えてくる。スリラー大好き人間を取り込むには、殺人、不運・偶然、復讐、大混乱は大きな武器になる。本作にはこれがてんこ盛り、右往左往させられたあげく、大騒ぎは不合理な結末を迎える。第一級のスリラーとは言えないのではないか。

 

B: いっぱい食わされたのを面白いとするか、それはないよ、バカにすんなとへそを曲げるか、どっちかになる。監督はヒッチコックの信奉者ということですが、二役ということで『めまい』(58)を想起した観客もいたのでは。

A: 『めまい』へのオマージュというブライアン・デ・パルマの『愛のメモリー』(76)、スペイン映画ファンならネタバレになるかもしれないが、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)、クラシック映画の代表作ですね。脚本はただ複雑にすればいいというわけではなく、騙すにもある一定の論理性がないと納得しない観客が出てくる。それはともかくとしてワヘネルには何か賞を上げたい。

 

B: ドリアの愛人役バルバラ・レニーは相変わらず美しい。クローズアップのシーンにまだまだ耐えられる。ダブル不倫という設定で二人とも薬指に嵌めた指輪を気にしている。

A: アルゼンチン訛りを克服して、今やスペインを代表する女優に成長した。ゴヤ賞2017では、ネリー・レゲラのデビュー作「María (y los demás)」で主演女優賞にノミネートされましたが、アルモドバルの『ジュリエッタ』主役エンマ・スアレスに苦杯を喫した。

 

B: 『マジカル・ガール』で受賞したばかりですからもともと無理だった。3作とも酷い目にあう役ばかりでしたが、昨今の美人はいじめられ役を振られるのが流行なのかな。

A: ワヘネル同様舞台との掛け持ち派、モデルもこなし貪欲に取り組んでいる。最後になるが監督のオリオル・パウロ、期待が大きかっただけに専門家からは厳しい注文が相次いだ。背景に社会問題を取り込んではいるが尻切れトンボになっている。また俳優の演技がどんなに優れていても、ある程度専門家を納得させられないと賞レースに残れない。

B: 評論家と観客の好みが一致するのは滅多にないことですが、前者の評価が平均5つ星満点で1.5、対して後者が10点満点の7.8とかけ離れている。日本の観客には楽しんでもらえたでしょうか。

 

   

         (不運な死を遂げるラウラ・ビダル、バルバラ・レニー)

  

アナ・ワヘネルは、1962年カナリア諸島のラス・パルマス出身、セビーリャの演劇上級学校を出て舞台女優として出発、舞台と並行してテレビドラマに出演、映画デビューは2000年、アチェロ・マニャスのデビュー作El Bolaと遅かった。ラテンビートが始まっていたら絶対上映された映画でした。主人公のフアン・ホセ・バジェスタが子役ながらゴヤ賞新人男優賞を受賞した話題作でした。ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』(11)の看守役でゴヤ賞助演女優賞を受賞脇役に徹して出演本数多く日本登場も意外と早い。アルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』ラテンビート2006で上映され、翌年同映画祭のダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』で俳優組合助演女優賞を受賞している。他に『バードマン』でオスカーを3個もゲットしたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』では、バルデム扮する主人公と同じ死者と会話ができる能力の持主になった本作『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』での弁護士役は迫力があり、舞台で培った演技力が活かされている。映画、舞台、テレビの三本立てで活躍している。

 

  

  (「無罪を勝ち取りたいなら真実を話せ」と迫るグッドマン弁護士、アナ・ワヘネル)

 

作品・監督の紹介は、コチラ2017217

ホセ・コロナド紹介記事は、コチラ2014320

バルバラ・レニー紹介記事は、コチラ2015327

  

銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞*マラガ映画祭20172017年03月25日 17:41

         ベテラン女優フィオレリャ・ファルトヤノが受賞

 

フィオレリャ・ファルトヤノFiorella Faltoyano(本名María Blanca Fiorella Renzi Gil)は、1949年マラガ生れ(父親はガジェゴ、後にビゴのパントン町長になった。母親はマドリード出身)、映画、テレビ、舞台女優。1967ペドロ・マリオ・エレーロのClub de solteros(仮題「独身クラブ」)で映画デビュー、つまり今年は映画との金婚式のお祝いというわけです。半世紀の出演本数は映画・テレドラ、舞台をひっくるめれば大変な本数になります。私生活では最初の結婚相手ホセ・ルイス・タファル・カランデ(製作者)との間に1男、2人の孫がいます(1983離婚)、現在のパートナーはフェルナンド・メンデス=レイテ(1944マドリード)、映画評論家、テレビドラマを手掛ける監督、一時期(196881)出身大学バジャドリードで映画理論と映画史の教鞭をとっていました。

 

 

 

(赤絨毯を踏むフェルナンド・メンデス=レイテとフィオレリャ・ファルトヤノ) 


★注目を集めた作品は、民主主義移行期に製作されたホセ・ルイス・ガルシのAsignatura pendiente1977、仮題「未合格科目」)のヒロイン役、ホセ・サクリスタンとタッグを組みました。ガルシのデビュー作であり、大ヒット作でもあった。ベッドでの大胆な下着姿が話題になりました。フランコ時代には好ましからざることとして検閲をうけ削除されるケースだったからです。長いキャリアをもちながら受賞歴が少ないのは、活躍時期にはゴヤ賞(1987年から)などもなく、1995年から映画を離れてテレビに軸足を変えたからと思います。スペイン映画芸術科学アカデミー(AACCE)が設立されたのは1986年、ということはAACCEが選考する「金のメダル」も同年から、さらに国民賞に映画部門が加わったのは1980年でした。サンセバスチャン映画祭は国際映画祭ですから、スペイン映画が受賞するのは1970年代は1作、80年代も1作でした。

 

  

   (ホセ・サクリスタンと下着姿のフィオレリャ、「Asignatura pendiente」から)

 

Asignatura pendiente」の5年後ガルシ監督は、『黄昏の恋』(82)で、初めてスペインにオスカー像をもたらしたのですが、それには出演しませんでした。ガルシはスペイン代表作品監督の常連となり、1994年のCanción de cunaが四度の代表作品に選ばれ、今度は主演女優にフィオレリャを抜擢しました。しかし残念ながら落選となりました。前年トゥルエバの『ベルエポック』が受賞したこともあり、元々可能性は少なかったのです。国内の受賞では、1995シネマ・ライターズ・サークル(スペイン)女優賞を受賞しました。これがノミネートは別として唯一の受賞、ですから今回の銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞は朗報だったに違いありません。1995年エウヘニオ・マルティンの「La sal de la vida」が最後の長編映画となり、現在はシリーズのテレビドラマに出演しています。

 

   

         (ホセ・ルイス・ガルシの話題作「Canción de cuna」から)

 

★その他の主な出演映画、マリアノ・オソレスのコメディ・ミュージカルCristóbal Colón, de oficio...descubridor82)では、カトリック女王イサベルに扮した。カミロ・ホセ・セラの同名小説を映画化したマリオ・カムスの『蜂の巣』(ベルリン映画祭1983グランプリ受賞、「映画講座・スペイン新作映画」で上映)とDespués del sueño92)、ホセ・ルイス・クエルダのTocande fondo93)などがあげられる。2014年には、『Aprobé en septiembre』というタイトルの本をLa Esfera de los Liblosから刊行している。21日に授賞式がありました。

 

    

          (エッセイ『Aprobé en septiembre』の発売記念日から)

 

 

        (銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」のガラ)

 

 

★序でにそのほかの特別賞ガラのうち、23日にクラウディア・リョサの「エロイ・デ・ラ・イグレシア」賞、24日にはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「レトロスペクティブ」賞も終了しました。残るはクロージングに行われるアントニオ・バンデラスの「名誉金のビスナガ」賞のみになりました。

 

 

                        (クラウディア・リョサ)

 

 

 (フェルナンド・レオン・デ・アラノア)


レトロスペクティブ賞にフェルナンド・レオン*マラガ映画祭20172017年03月18日 10:29

          レトロスペクティブ賞はフェルナンド・レオン・デ・アラノア

 

★レトロスペクティブ賞は貢献賞または栄誉賞の色合いが強い賞、直近では2014年ホセ・サクリスタン、2015年イサベル・コイシェ、昨年がグラシア・ケレヘタ、2年連続で女性監督でした。さて、今年のフェルナンド・レオン・デ・アラノアは、19685月マドリード生れの監督、脚本家、製作者。マドリード・コンプルテンセ大学情報科学部卒、テレビドラマの脚本家としてキャリアをスタートさせた。48歳と受賞者としては若いほうかもしれません。マラガ映画祭にエントリーされた映画もなく、個人的には少し意外感がありました。何かしら社会に意義を唱える作家性の強い監督だが、同時に商業映画としての目配りもおろそかにしないバランスの良さ、いわゆる社会の空気が読める柔軟性がある。

 

     

長編第1Familia1996)は、幸運にも「スペイン映画祭1998」に『ファミリア』の邦題で上映された。この映画祭のラインナップは画期的なものでアルモドバルが面白かった時期の『ライブ・フレッシュ』、失明の危機にあったリカルド・フランコの『エストレーリャ』、モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』など名作揃いだった。そして本映画祭で初めて知った監督がフェルナンド・レオン・デ・アラノアだった。中年の独身男(フアン・ルイス・ガリアルド)が1日だけ理想的な家族を演じる人々を募集して、対価を払って家族ごっこをする。社会制度としての永続的な家族に疑問を呈した。役者もよかったが辛口コメディとして成功した。妻役がアンパロ・ムニョス、十代の娘役になるのが本作がデビュー作となるエレナ・アナヤだった。ゴヤ賞新人監督賞受賞、バジャドリード映画祭では国際映画批評家連盟賞と観客賞を受賞した作品。写真下、和やかなのは疑似家族だから。

 

 

2作がBarrio98)は、現代のどこの都市でも起こり得るマージナルな地域バリオで暮らす3人の若者群像を描いた。サンセバスチャン映画祭監督賞、ゴヤ賞監督賞と脚本賞を受賞したほか、フォルケ賞、サン・ジョルディ賞、トゥリア賞など、スペインの主だった映画賞を受賞している。

 

3作がハビエル・バルデムを主役に迎えたLos lunes al sol02)、『月曜日にひなたぼっこ』の邦題で「バスクフィルム フェスティバル2003」で上映された。バスクと言ってもスペイン語映画で、主にバスク出身の若い監督特集映画祭の色合いが濃かった。アレックス・デ・ラ・イグレシアが『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』をお披露目かたがた来日した。マドリード出身のフェルナンド・レオンの映画が加わったのは異例で、それは北スペインの造船所閉鎖にともなう労働争議が舞台背景にあり、ヒホン造船所がモデルだった。撮影はヒホンと雰囲気が似通っているガリシアの港湾都市ビゴが選ばれたと言われている。ビゴはルイス・トサールの出身地でもある。ゴヤ賞監督賞を受賞したほか作品賞を含めてバルデムが主演、トサールが助演、ホセ・アンヘル・エヒドが新人と男優賞全てをさらった。さらにアカデミー賞スペイン代表作品にも選ばれるなどした(ノミネーションには至らなかった)。スペイン北部の造船所閉鎖によって失業を余儀なくされた落ちこぼれ中年男たちの群像劇。観客を憂鬱にさせないユーモアを効かせた筋運び、それでいてしっかり怒り、挫折、失望、人生の浮沈を織り込んでいる。デモシーンの実写を取り入れる画面構成もなかなか迫力があった。一番の成功作かもしれない。

 

            

                    (ルイス・トサールとハビエル・バルデム)

 

4作がカンデラ・ペーニャを起用してのPrincesas05)、本作で初めてプロデューサーとして参画、主役に初めて女性を据え、二人の女優に友人同士の娼婦を演じさせた。一人はスペインの娼婦、もう一人はドミニカから移民してきた娼婦、女性の一番古い伝統的職業である娼婦、スペインへ押し寄せる移民という問題を取り入れた。二人ともゴヤ賞主演にカンデラ・ペーニャ、新人女優賞にミカエラ・ネバレスが受賞した他、マヌ・チャオがオリジナル歌曲賞を受賞した。

 

  

         (カンデラ・ペーニャとミカエラ・ネバレス

 

ゴヤ賞に絡まなかったのは第5Amador10)だけ。第6作は英語で撮ったA Perfect Day。スペイン語題はUn dia perfectoでカンヌ映画祭2015「監督週間」で上映され、ゴヤ賞2016では脚色賞を受賞、プレゼンターだった再婚ホヤホヤのバルガス=リョサからゴヤ胸像を受け取った。本作については紹介記事をアップしています。

Un dia perfecto」の紹介記事は、コチラ2015517

 

   

      (バルガス=リョサからゴヤ胸像を手渡されて、ゴヤ賞ガラ2016年)

 

★長編ドキュメンタリーも4作あり、第3Invisibles07)はイサベル・コイシェやマリアノ・バロッソ以下5監督合作だが、ゴヤ賞2008長編ドキュメンタリー賞を受賞している。寡作ではあるがゴヤ賞との相性がよい監督である。最新ドキュメンタリーは、新党ポデモスを追ったPolitica, manual de instrucciones16)である。政治的には旗幟鮮明ということもあって評価は分かれるようですが、何はともあれスペイン映画の一つの顔であることには間違いない。運も幸いしているのかもしれませんが彼のような映画も必要だということです。

 

★コロンビアのメデジン・カルテル伝説的な麻薬王エスコバルビオピックを撮るとアナウンスして大分経ちますが、やっと201610月クランクインした。198090年代のエスコバルをハビエル・バルデム、その愛人のビルヒニア・バジェッホにペネロペ・クルス、両人とも久々のスペイン語映画になります。元ジャーナリストだったビルヒニア・バジェッホの同名回想録Amando a Pablo, odiando a Escobar2007年刊)の映画化。タイトルはズバリEscobarです。今年後半公開の予定ですが、あくまで予定は未定です。これは公開を期待していいでしょう。

 

   

            (まだ未完成だがポスターは完成している)

 

エロイ・デ・ラ・イグレシア賞にクラウディア・リョサ*マラガ映画祭20172017年03月16日 16:37

       クラウディア・リョサがエロイ・デ・ラ・イグレシア賞を受賞

 

★前回に続いてマラガ映画祭の特別賞受賞者のご紹介、エロイ・デ・ラ・イグレシア賞受賞のクラウディア・リョサについてはマラガ映画祭2014に長編第3No lleres, vuelaがエントリーされた折に少しだけ紹介しました。本作の原題はAloftで英語で撮られた初めての作品、ニコラス・ボルデュクが撮影監督賞を受賞した。リカルド・フランコ賞のシルヴィ・インベールは初めて当ブログ登場のメイクアップ・アーティストです。片仮名表記はこれでOKでしょうか。

 

 

エロイ・デ・ラ・イグレシア賞 

クラウディア・リョサ Claudia Llosaは、1976年リマ生れ、ペルー出身の監督、脚本家、製作者。伯父にノーベル賞作家で政治家のマリオ・バルガス=リョサ、映画監督のルイス・リョサ、母親パトリシア・ブエノ・リッソは造形アーティスト、エンジニアの父親アレハンドロ・リョサ・ガルシアと、ペルーでは裕福な一族の家庭に生まれる。ニュートン・カレッジを卒業後、リマ大学で映画演出を専攻、続いて1998年アメリカに渡り、ニューヨーク大学やサンダンス・インスティテュートでも学ぶ。同時期にはマドリードの私立学校TAITransforming Arts Instituto)のマスター・コースでも映画を学んでいる。しかし生まれ故郷ペルーに軸足をおいて映画を撮っているようです。デビュー作、第2作とも舞台はアンデス、ここが彼女の原点なのかもしれない。

 

      

                (クラウディア・リョサ)

 

2006年デビュー作Madeinusaがロッテルダム映画祭で国際映画批評家連盟賞受賞を皮切りに、サンダンス、マル・デル・プラタ、マラガ(ラテンアメリカ部門)、トゥールーズ(同部門)ほか、各映画祭で上映された。リマ映画祭の第1回監督作品賞とCONACINE賞を受賞する。本作は2003年ハバナ映画祭で脚本がプレミアされ脚本賞を受賞、翌2004年カロリーナ財団他の資金援助を受けてアンデスを舞台に撮る。ラテンビート2006で『マデイヌサ』の邦題で上映された。2007年にもカルタヘナ映画祭作品賞を受賞するなど受賞ラッシュは続き、14歳の少女マデイヌサを演じたマガリ・ソリエルは全くの素人だったが、この成功で女優の道に進む決心をした。

 

   

                         (『マデイヌサ』のポスター)

 

2La tita asustadaは、再びマガリ・ソリエルを主演に起用、アンデスに吹き荒れたペルー内戦を舞台に恐怖から解放されるまでの若い女性の自立の旅を描いた。デビュー作の成功もあって、ベルリン映画祭2009に正式出品、金熊賞と国際映画批評家連盟賞FIPRESCIを受賞した。続くグアダラハラ、リマ、ボゴタ、ハバナなど各映画祭でも受賞、ゴヤ賞2010イスパノアメリカ部門、オスカー賞外国語映画賞にもノミネートされ、アリエル賞イベロアメリカ部門の作品賞を受賞した。スペイン映画祭2009で『悲しみのミルク』の邦題で上映された。

 

         

 

        

        (金熊賞のトロフィーを手に喜びの監督とマガリ・ソリエル、ベルリン映画祭)

 

3作が上述したAloftです。ジェニファー・コネリー、メラニー・ロラン、キリアン・マーフィーを起用して、今回は母娘ではなく母と息子の関係を描いている。撮影は主にカナダのマニトバで行われた。本作もベルリン映画祭に正式出品、後マラガ、リオ、プサン、サンダンス、トライベッカなど各映画祭で上映された。他に短編「Loxoro」(2011)がベルリン映画祭2012の短編部門のテディ賞を受賞している。マラガ映画祭に縁が深いとはいえ、長編3作品で本賞受賞は珍しいケースかもしれない。

 

   

         シルヴィ・インベールがリカルド・フランコ賞を受賞

 

リカルド・フランコ賞 

シルヴィ・インベールSylvie Imbertは、メイクアップアーティスト。1995年フランス映画、パトリック・アレサンドランのコメディAinsi soient elles(仏=西合作、西題「Mujeres a flor de piel」)のメイクアップでキャリアを出発させるが、アーティストは複数だった(アレサンドランは2003年の『赤ちゃんの逆襲』が公開されている)。1996年、一人で担当したのがヘラルド・エレロのMalena es un nombre de tangoとペドロ・ぺレス・ヒメネスMambrú2作、続いてアメナバルの『オープン・ユア・アイズ』にメイクとヘアーを担当してゴヤ賞1998にノミネートされた。 

 

                 (シルヴィ・インベール)

 

以後1年に23作のペースで仕事をこなし、2008年ホセ・ルイス・クエルダのLos girasoles ciegos、アルモドバルの『私が、生きる肌』11)、コメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』13)、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』12)でゴヤ賞を受賞した。他にゴヤ賞受賞はイサベル・コイシェのNadie quiere la noche15)があり、同作はガウディ賞も受賞した。他にフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ ある彫刻家とモデル』12)、ベルヘルの第3Abracadabra17)など。目下はテリー・ギリアムのThe Man Who Killed Don Quixote(西題「El hombre que mató a Don Quijote」公開2018予定)を担当している。

 

    

    (初のゴヤ胸像を手にしたインベール、『ブランカニエベス』ゴヤ賞2013授賞式)

 

★シルヴィ・インベールは、『エレファント・マン』や『エイリアン』、またはデル・トロの『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』のメイクアップを担当したダビ・マルティ、ジャウマ・バラゲロの『REC』のような特殊メイクを得意とするダビ・アンビトのようなタイプではない。しかしメイク・アーティストとしてのテクニックの高評価が受賞につながったようです。

  

マラガ賞にレオナルド・スバラグリア*マラガ映画祭20172017年03月13日 09:30

        一番の大賞であるマラガ賞に『キリング・ファミリー』のスバラグリア

 

★コンペティション作品紹介前にマラガ映画祭の主な特別賞を簡単に列挙しておきます。スペイン製作とイベロアメリカ諸国製作の垣根が取り払われたこともあるのか、受賞者にアルゼンチンとペルー出身者が選ばれました。二人とも日本での認知度はあるほうだと思います。まずはマラガ賞からご紹介。

各賞の性格については、コチラ201447

 

マラガ賞 レオナルド・スバラグリア1970年ブエノスアイレス生れ、俳優)

★特別賞のうち一番の大賞が「マラガ賞」、最近の受賞者は2014マリベル・ベルドゥ2015アントニオ・デ・ラ・トーレ2016パス・ベガとスペイン勢が受賞しています。最近はスペインを本拠地にアルゼンチンとスペインを行ったり来たりして活躍しているが、アルゼンチン出身のレオナルド・スバラグリアに贈られるのは珍しい。国内外の受賞歴を誇るリカルド・ダリンでさえもらっていないが、スペイン映画出演ではスバラグリアのほうが多い。最近アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』でキャリア紹介をしておりますが、マラガ賞受賞ですから少しばかり補足して再構成します。16歳でデビュー以来トータルで50作を超えます。節目になった作品、受賞した話題作に絞ってのご紹介になります。

 

   

              (喜びのレオナルド・スバラグリア)

 

                    キャリア&フィルモグラフィー

 

16歳の1986年に『ナイト・オブ・ペンシルズ(監督エクトル・オリヴェラ)で長編映画デビューを果たす。本作では軍事独裁政権に抵抗する学生の一人に扮した。その後7年間はテレドラ出演が続き、1993年マルセロ・ピニェイロのTango feroz: la leyenda de Tanguito(スペイン合作)に脇役で出演、その演技が監督の目に止まり、2年後のCaballos salvajes(ウエルバ映画祭主演男優賞)やCenizas del paraiso97)出演につながった。当時はピニェイロの若手お気に入り俳優だった。1998スペインに渡り活躍の場をスペインにも広げるテレドラ出演と並行して2000年、ふたたびピニェイロの炎のレクイエムにエドゥアルド・ノリエガやパブロ・エチャリと出演、「銀のコンドル賞」にノミネートされるなど大成功を収めた。実話に基づいて書かれた小説の映画化、アルゼンチンでは映画より小説のほうが面白いと評されたが、映画も充分堪能できたのではないか。

 

   

     (札束を燃やすシーンのノリエガとスバラグリア、『炎のレクイエム』から)

 

★スペイン映画では、2001フアン・カルロス・フレスナディジョの10億分の1の男』がヒット、一気に国際舞台に躍り上がった。翌年のゴヤ賞新人男優賞を受賞、監督も新人監督賞を受賞した。日本でも公開され話題を呼んだサスペンス。しばらくスペイン映画出演が多くなる。例えば2002年ヘラルド・ベラのDeseoではセシリア・ロスやレオノル・ワトリングと共演、2003年にはマリア・リポルの『ユートピア』やビセンテ・アランダの『カルメン』など。その後アルゼンチンに戻り、2004年ルイス・プエンソの『娼婦と鯨』(スペイン合作)にアイタナ・サンチェス=ヒホンと、次いで最後のガローテ刑に処せられた実在のサルバドール・プッチ・アンティックにダニエル・ブリュールを迎えて撮った実話、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』06)では看守役になり、ゴヤ賞助演男優賞にノミネートされた。2007年ゴンサロ・ロペス=ガジェゴのEl rey de la monntana2009年ヘラルド・エレロのEl corredor nocturno、同年マルセロ・ピニェイロのサスペンス群集劇『木曜日の未亡人』では、銀のコンドル賞とスール賞にノミネートされた。 

   

      (危険なゲームを強要された男トマスを演じた10億分の1の男』から

  

2010年以降もアルゼンチンとスペインで活躍、2012年ロドリゴ・コルテスのハリウッド・デビュー作スリラー『レッド・ライト』(米国=西)にロバート・デ・ニーロやシガニー・ウィバーなどの大物俳優と共演、ハリウッド映画に出演したアルゼンチン俳優の一人となった。最近オスカー賞外国語映画賞2015ノミネーションのダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』3話「エンスト」)他、アナイ・ベルネリのロマンティック・ドラマAire libreや、マラガ映画祭2017正式出品の『キリング・ファミリー 殺し合う一家』、同正式出品のマルティン・オダラのNieve negraにも出演、ここではリカルド・ダリンと渡り合う。既にアルゼンチンでは公開されており、面白い、いや駄作と観客の評価は真っ二つに分かれている。コメディからサスペンス、シリアスドラマ、イケメンながら汚れ役も厭わない成長株。

 

 

     (Nieve negra」のポスターをバックにしたスバラグリア、右側がダリン)

 

『キリング・ファミリー』の紹介記事は、コチラ2017220

『人生スイッチ』の紹介記事は、コチラ2015729

  

ゴヤ賞を初めて統率する映画アカデミー会長イボンヌ・ブレイク2016年12月20日 14:11

       困難な会長職を引き受けたわけ――私たちはカオスの中にいる

 

★去る1214日、ゴヤ賞2017のノミネーション発表がありました。次回の授賞式を統率するのが新会長イボンヌ・ブレイク、マンチェスター生れのイギリス系スペイン人、母語は英語なので話が込み入ってくると了解を得ながらも英語混じりになる。なり手のなかった会長職をどうして引き受けたかというと、理事会役員の仲間から説得されたからだという。特に女優のアンパロ・クリメント、女性プロデューサーの草分け的存在のソル・カルニセロ、アルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の中心的な製作者エステル・ガルシア・ロドリゲスなど、女性シネアストからの懇望に負けたからだという。

 

  

     (イボンヌ・ブレイク、映画アカデミー本部にある事務所にて、1129日)

 

★問題山積の中でも、新会長の肩に重くのしかかるのが活動資金調達の困難さ、「とにかく資金不足、掻き集めてくれる外郭団体があるにはあるが、問題は司令塔が存在しないこと」だと。「2017年はもう間に合わないが、2018年には授賞式を催すための他のグループを立ち上げたい。より多くの後援者を見つけないと今後は開催できなくなる事態になる」、パトロン探しが重要と新会長。2017年は質素なガラになるようです。より現代的な舞台装置、ミュージカル風でなく、多分本来の授賞に重きをおき、興行的にはしない方針のようです。1015日の就任以来、殆ど休みなく朝に夕に本部に詰めているという。

 

ブレイク新会長の女性ブレーン紹介

アンパロ・クリメントは、バレンシア生れの女優、最近はTVドラ出演が多いのでご紹介するチャンスがありませんが、かつてはグティエレス・アラゴンの『庭の悪魔』(82)やホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスの「Tranvia a la Malvarrosa」(96)に出演しているベテラン女優。

ソル・カルニセロは、1963年スペインテレビTVEのプログラム制作で第一歩を踏み出した。スペイン人から最も愛されたと言われる監督ガルシア・ベルランガの「ナシオナル三部作」といわれる辛口コメディ、ピラール・ミローの1910年代の実話に基づいた『クエンカ事件』(79)、治安警備隊の拷問シーンが残酷すぎると上映阻止の動きがあり、ミロー監督も一時的に収監されるという前代未聞の事態に発展した。民主化移行期とはいえフランコ時代が続いていたことを内外に知らせる結果になった。1年半後に公開されると空前のヒット作となった。

エステル・ガルシア・ロドリゲスは「エル・デセオ」のプロデューサー、2015年、数々の映画賞をさらったダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』で、20回フォルケ賞をアグスティン・アルモドバルと一緒に受賞しています。

イボンヌ・ブレイクのキャリア紹介記事は、コチラ⇒20161029

 

ヨーロッパ映画賞は全滅でした!

 

★スペイン語映画は全滅でした。ドイツ=オーストリア合作のマーレン・アデの「Toni Erdmann」が独占、ちょっと口をあんぐりの結果でした。「最多ノミネーション5個(作品、監督、脚本、女優サンドラ・フラー、男優ペーター・シモニシェック)、どれか一つくらい受賞するのではないでしょうか」と予想はしていましたが、なんと全部受賞してしまいました。過去にこのような例があるのかどうか調べる気にもなりませんが、他の映画もちゃんと観てくれた結果なのでしょうか。『ジュリエッタ』グループもアルモドバル監督以下揃って現地入りしていましたが、無冠に終り残念でした。

ヨーロッパ映画賞ノミネーションの紹介記事は、コチラ⇒2016118

 

   

                    (監督賞トロフィーを手に喜びのマーレン・アデ)

 

    

(監督を挟んでサンドラ・フラーとペーター・シモニシェック)

 

       アカデミー賞外国語映画賞プレ・セレクション9作品も全滅でした!

 

2015ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(アルゼンチン他)、2016年チロ・ゲーラの『彷徨える河』(コロンビア他)と2年続きでノミネートされたオスカー賞、2017年はプレ・セレクション9作品にも残れませんでした。有力視されていた(?)アルモドバルの『ジュリエッタ』、パブロ・ララインの「Nerudaネルーダ」も手が届きませんでした。ヨーロッパ映画賞を独占したドイツのマーレン・アデ「Toni Erdmann」は、予想通り残っていますね。来年まで勢いが続くかどうか、ハリウッドはドイツ嫌いが多い印象を受けています。


ゴヤ賞「栄誉賞」はアナ・ベレン*ゴヤ賞2017 ①2016年11月04日 14:29

           女優、歌手アナ・ベレンの全功績を讃えて栄誉賞

 

    

 

★ゴヤ賞「栄誉賞」のニュースが入ると、もう一年経ってしまったのかと時の速さにがっくりする。今年はスペイン映画アカデミー会長空席にもかかわらず、9月初めに発表がありました。アナ・ベレン受賞は満場一致だったそうです。イボンヌ・ブレイク新会長の最初の大仕事がゴヤ賞2017の授賞式です。

 

   

     (舞台でメデアを演じたアナ・ベレン、セネカの『メデア』から、201516

 

アナ・ベレン1951、マドリード、65歳)の全業績を紹介するとなると、これはなかなか簡単にはすまない。映画出演40作、舞台は古典から現代劇まで30作、ディスコは35作に及ぶ。196514歳で子役としてデビューしたからキャリアは半世紀を超えました。歌手、舞台俳優、TVドラマ、1作ながら監督もしている。TVドラの当り役は、ベニート・ペレス・ガルドスの長編小説『フォルトゥナータとハシンタ』をドラマ化したFortunata y Jacinta1980)、ベレンはフォルトゥナータに扮した。

 

 

(ニューヨークで誕生した初の女性ファッション誌「ハーパーズ・バザー」のために、

モデルのようにポーズをとる少女時代のアナ・ベレン)

 

★映画は後述するとして、今世紀に入ってからは出演が少ないが、最新作はフェルナンド・トゥルエバのLa reina de Españaが、20161125日にスペインで公開される。ペネロペ・クルス主演の『美しき虜』(1998La niña de tus ojos”)の続編、出番は少なそうです。当ブログでも紹介記事をアップしておりますが、いずれ記事にしたい映画です。というわけで女優というより歌手としての活躍が目立っているかもしれない。ステージはYOUTUBEで簡単に愉しむことができます。2015年にラテン部門のグラミー賞を受賞している。他に20165月下旬Desde mi libertadを公刊して話題になりました。

La reina de España”の紹介記事は、コチラ⇒2016228

 

★才色兼備が彼女ほどぴったりくる人は少ないのではないか。彼女の魅力はなんといっても加齢を感じさせない妖しいまでの美声、意志の強い眼光、細身ながらエネルギーあふれるルックスにありますね。スペイン映画にはどうしても欠かせない「顔と声」であり続けています。1972年に作曲家で歌手のビクトル・マヌエルと結婚(11女)、その二人三脚ぶりはつとに有名、パパラッチとの攻防にも怯まず、多分金婚式までいくでしょう。祖母として二人の孫との新しい人生を楽しんでいる。「祖父母の役目は孫を甘やかすことに存在意義がある。躾や教育するのは両親の役目、私たち夫婦もそうしてきた」ときっぱり。

 

1989年東京で開催された「第2回スペイン映画祭」に夫婦で来日しています。ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスの『神の言葉』1987)がエントリーされたからです。バリェ=インクランの同名戯曲Divinas palabrasの映画化でした。政治的発言にも躊躇しない。2003年にはイラク戦争反対を表明、雪解けムードで話題になっているキューバ政府の人権問題「私はキューバ政府を告発する」にも署名をしています。これは2010年にあったキューバの反体制政治犯の無条件即時解放を求めてオルランド・サパタが行った断食事件、85日後に死亡したことに対する抗議でした。スペインからもアルモドバル、マヌエル=ベレン夫妻、作家ではフェルナンド・サバテル、エルビラ・リンド、フアン・マルセ、ソエ・バルデス、国籍を取得したバルガス=リョサなどが署名、最終的にはトータルで約6千人が署名した。

   

 

 (イラク戦争反対の抗議デモに参加したビクトル・マヌエル=アナ・ベレン夫妻、2003年)

 

★ゴヤ賞授賞式までにシネアスト・キャリアは後述しますが、ゴヤ賞関連では主演女優賞4新人監督賞、合計5回ノミネーションされましたが、無冠に終わっていました。というわけで初のゴヤ賞受賞が「栄誉賞」になります。ノミネーションは以下の通り、年代順:

1988Miss Caribe”監督フェルナンド・コロモ、主演女優賞

1989El vuelo de la paloma”同ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェス、 主演女優賞

1991Cómo ser mujer y no morir en el intento 新人監督賞

1994La pasión turca”同ビセンテ・アランダ(VHSタイトル『悦楽の果て』 主演女優賞

2004Cosas que hacen que la vida valga la pena”同マヌエル・ゴメス・ペレイラ、 主演女優賞

2017「栄誉賞」受賞

 

  

        (ベリー・ダンスを披露したアナ・ベレン、『悦楽の果て』から)

 

★公開作品は、マリオ・カムスの『ベルナルダ・アルバの家』87,原作ロルカ)1作だけでしょうか。未公開だがNHK衛星が放映したビセンテ・アランダの『リベルタリアス/自由への道』96)、マヌエル・ゴメス・ペレイラの『ペネロペ・クルスの抱きしめたい!』96VHSDVD)くらいしかない。以上が代表作というわけではないので、ガラが近づいたらアップする予定です。