ダビ・トゥルエバの新作*ラテンビート2014 最終回2014年11月21日 17:24

★本作がアカデミー賞スペイン代表作品に決定したこと、このスペイン的色彩の濃い映画がノミネーション5作品まで辿りつける可能性は少ないこと、10月半ばロスアンゼルスで開催された「スペイン映画祭」のオープニング作品に選ばれ、トゥルエバ監督がプロモーションを兼ねてロス入りしたことなどはお知らせしました。監督の親戚が住んでいるロスでは、今ではアメリカ人になっている大勢の従兄弟たちが応援に馳せつけ嵐のようなベソとハグを受けたようです。1915年、カリフォルニアの炭鉱で一旗揚げようと渡米したエウロヒオおじさんの三世にあたる子孫かな、何しろ1世紀前ですから。アメリカ陸軍に志願、そこで学んだ理容の技術を活かして、除隊後ロスで理髪店を開業した。

 

★ラテンビートのチラシによると、松竹メディア事情部提供とあるので、公開またはDVD発売が検討されているのだろうか。間もなく公開される『スガラムルディの魔女』他の配給会社、来年には邦題は未定だが、ガベ・イバニェスのSFAutomataを公開してくれる。アントニオ・バンデラスが主役ということで「ゴヤ栄誉賞2015サンセバスチャン映画祭の記事で既にご紹介しています。 


★東京会場では上映のなかった唯一の作品、横浜会場のチケットは完売でした。当日の朝、予約を入れなかったら危うく涙の帰宅になるところでした。涙は館内で流さないといけません。こんなに素敵なハビエル・カマラを見たことなかった。ゴヤ賞主演男優賞の名に恥じない演技に感動、「ノスタルジック」とか「メランコリー」とか、前作Madrid 19872011)をより高く評価する評者もいるようですが、カマラの演技を貶す人は見当たりませんでした。

 

Vivir es fácil con los ojos cerrados(“Living is Easy With Eyes Closed”)

製作:フェルナンド・トゥルエバ P.C. S.A.
(クリスティナ・ウエテ フェルナンデス=マキエイラ)ゴヤ賞作品賞受賞

監督・脚本:ダビ・トゥルエバ (ゴヤ賞監督賞・オリジナル脚本賞受賞

撮影:ダニエル・ビラル

音楽:パット・メセニー  チャーリー・ヘイデン(同オリジナル作曲賞受賞

ゴヤ賞受賞:主演男優賞(ハビエル・カマラ)、新人女優賞(ナタリア・デ・モリーナ)

同ノミネート:衣装デザイン賞(ララ・ウエテ)

 

キャスト:ハビエル・カマラ(アントニオ)、ナタリア・デ・モリーナ(ベレン)、フランセスク・コロメル(フアンホ)、ホルヘ・サンス(フアンホ父)、アリアドナ・ヒル(フアンホ母)、ロヘリオ・フェルナンデス(ブルーノ)、ラモン・フォンセレ(ブルーノの父ラモン)他

ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーの記録映像で登場。

 

データ:スペイン、スペイン語、2013コメディ、108分、撮影地:アルメリア県(アンダルシア州) 20131031日スペイン公開、他

サンセバスチャン映画祭2013コンペティション正式出品。

パーム・スプリングス映画祭2014「ラテン映画賞」受賞。カリフォルニア州のパーム・スプリングス市で1月に開催される国際映画祭。アマ・エスカランテの『エリ』と賞を分かち合いました。

 

プロット1966年、ジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来る。ビートルズの歌を教材に英語を教えていた高校教師のアントニオは、自分のヒーローに会おうと決心、休暇をとって短い旅に出る。道中何かから逃げてきたらしい若い娘ベレン、16歳のミニ家出少年フアンホが仲間に加わり、1966年のアルメリアは3人にとって生涯忘れることができない季節になる。

 

     無名の人が物語の主人公になった

 

A: ハビエル・カマラが扮した英語教師アントニオにはモデルがいる。監督によると、2006年のことだがアドルフォ・イグレシアスという記者が書いた「カルタヘナの英語教師」という記事を目にした。フアン・カリオンという美声の英語教師がビートルズの歌を使って英語を教えている。そしてジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来るというので会いに出掛けた、という記事です。

B: モデルといっても、この記事に着想を得たというだけで、殆どフィクションですよね。

A: 勿論、登場人物の造形段階では取材していない。トゥルエバは確かな情報を収集して、それを土台に伝記映画を作ろうとしたわけではありませんからね。しかし撮影現場にはカリオン氏も現れて当時の状況などを若い出演者にサジェスチョンしたようです。

B: ゴヤ賞授賞式には監督の隣りに座っていました。オリジナル脚本賞は「あなたのものです」と挨拶していた。 

        (監督、カリオン氏 オスカー賞スペイン代表作品に選ばれる)

 

A: ビートルズ・ファンなら題名を見て、ジョン・レノンの永遠に残る「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967)から取られたことが分かります。ビートルズ映画を撮った監督リチャード・レスターの『ジョン・レノンの僕の戦争』撮影のため、レノンは実際にアルメリアに滞在していた。

B: ライヴ・ツアーを一時中止していて、精神的にちょっと参っていた時期ですね。オノ・ヨーコと出会うのは同年11月です。しかしこれはレノンの伝記映画でもない。

A: 監督は、フアン・カリオンの伝記映画でもレノンのでもない、或る時代の、1960年代のスペインの「肖像画」を描こうとした。つまり、無名の人を物語の主人公にしたわけです。時代は1966年、フランコ体制も26年が過ぎた灰色のスペインだった。アルメリアの人々は農業と漁業に従事して生活は貧しく、自由に憧れる若者にとってビートルズはまさにヒーロー、希望の星でもあった。

 

B: そこに先輩監督フアン・アントニオ・バルデムがフランコ没後の第1作として撮ったコメディ“El puente”(1977**がひらめいた。

A: 主役のアルフレッド・ランダが夏季休暇を利用してバイクリードからトレモリノスへ旅をする話で、一種のロード・ムービーでした。そこでカリオン氏のカルタヘナ(ムルシア州)をアルバセテ(カスティリャ=ラマンチャ州)に変更してオリジナル脚本を書いたというわけです。

B: 舞台となるアルメリア(県都)もかれこれ40年も経てば様変わりしていて、60年代を再現するのは難しかったそうですね。

A: ロケ地探しには苦労したと語っています。アルメリア県内の内陸部のタベルナス、ロダルキラル、地中海沿いの「カボ・デ・ガタ」などで撮影は行われた。

 

原題“How I Won the War”(1967、パトリック・ライアンの同名小説の映画化。未公開だったがビデオが発売されたときに付けられた邦題(廃盤)。戦争の愚かさをブラック・ユーモアで笑い飛ばした映画で、本作のメタファーになっている。

**直訳は「橋」ですが、休日に挟まれた平日に「橋」をかけて連休にする意味もあり、ここでは「夏季休暇」がベターかも。

 

     アントニオとレノンは“Help”と叫んでいた!

 

A: 1966年のスペインでは、まだ英語が話せる人はほんの少数派、文部省の人たちは、スペイン語という先祖伝来の言葉があるのに英語を学ぶなんて余計なこと、と傲慢にも全く英語教育に気を配らなかったそうです。

B: だから地方の一介の英語教師がビートルズの歌詞を使って子供に英語を教えているのは画期的なことだった。更にビートルズたちがこの歌詞の中に何を込めて歌っているのか知ることはもっと重要だった。

A: 主人公アントニオは、肩に背負っていた重い荷物は取りあえずここに下ろして、自分を解放するための旅に出たかった。レノンもロック・スターの頂点を極めたが孤独に苦しんでいて「ヘルプ!」と叫んでいた。

B: アントニオも村のバルの主人ラモンも、世界から遅れた古くさいスペイン、力ずくで子どもを躾けようとしたり、長髪はなよなよしたゲイだから短くしろとか、そういう子供っぽいスペインに変化が必要と考えていた人たちです。

 

A: フアンホの父親は旧弊な父権的な人ではありませんが、規律を重んじるタイプですね。多分実のお父さんが投影されていると思います。監督は8人兄弟姉妹の末っ子、母親に甘やかされて7歳まで学校に行かなかった話は有名。父親はタイプライターの訪問販売業を営み、そのタイプライターで幼少時から物を書いていたという早熟な子供だった。

B: 『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(ラテンビート2013上映)で初来日したフェルナンド・トゥルエバ監督は実のお兄さん。

 


A: この映画で彫刻家のモデルになったのが1992年交通事故のため42歳で亡くなった長兄マキシモです。フアンホのモデルは、16歳のとき長髪を切るのを拒絶して3日間家出したお兄さんだと語っています。映画では一番上に見えましたから、そうするとマキシモ兄さんかもしれない。
(来日
Q&A記事はコチラ⇒20131031

B: いずれにしてもホルヘ・サンス扮する父親のモデルは実父かもしれない。

A: 彼は作中では子沢山でしたが、実生活でも『バレンチナ物語』で共演したパロマ・ゴメスと結婚、パパになったと報じられましたが、早くも結婚を解消して、現在はジャーナリストのオルガ・マルセと親密交際中、妊娠説も流れたが否定しています()

 

     ジョン・レノンが見たら気に入った?

 

A: この奇妙なトリオの設定は、実際にはあり得ないですが、センチメンタルなロード・ムービーだと酷評するほどじゃない。三人とも暗い現実からか、先が見えない未来からか分からないが、何かから逃げてきています。しかし他人を思いやることが必要だと分かっている。友情が芽生え、やがてアモールになっていく。

B: 声高なセリフはありませんが、何故か胸を打つ。小さい物語ですが、ホロ苦いユーモア、優しさ、リリシズムに溢れている。

A: それに複雑に入り組んだ感情の動きも見逃せない。これが監督がずっと求めてきたことなんだと思います。実らないと思うが、アントニオはベレンがきっと好きになってしまったんだ、と観客が思った通りになる()

B: メランコリー・コメディと言う人も、おセンチすぎると感じる人もいるでしょうが、こういうオハナシはいい。厳しい現実を前にして感性が鈍感な人物、力強さと優しさを併せ持つ人物を、よく調和させている。

 

A: アントニオの人格にはレノンと似ているところがあって、それが流れ込んでいる。

B: 村のバルの主人も印象に残る。一見すると負け組に見えるが実はそうではない。絶望しているわけでも人生を諦めているわけではない。

A: しかし、待つだけの人生は辛いとね。アクションが必要なんだと考えている。部分的にモタモタするところもあるが、最後のほうで一気にアントニオの感情が爆発する。観客は思わず小さく快哉を叫ぶ。モタモタは雲散霧消して映画館を出られる。

B: 無知で閉鎖的なスペインをぶち壊す、フアンホの世代が古くさいスペインを変えていくことが暗示される。

 

A: ジャンルはコメディということですが、そういう区分けに収まらない映画です。仮にレノンが生きていて見たら、きっと気に入るだろう、という評は最大の褒め言葉です。

B: 勿論、パット・メセニーのギター、チャーリー・ヘイデンのゆったりしたコントラバスの音色、二人のミュージシャンの功績も大きい。ヘイデンは今夏に76歳で惜しくも鬼籍入りしてしまいました。

A: 温かい音色、叙情性のある旋律、彼のライフスタイルを慕うファンは多いのではないですか。

 

     人生は本当に長い、カリオン氏に捧げたいゴヤの胸像

 

B: いままで10回もゴヤ賞がノミネートに終わったのには何が足りなかったのか、今回はその理由を掴んだと思いますか。

A: 多分ね。暴力や皮肉が描かれる映画に受賞が優先されることが時々あるが、自分はそういう映画を作りたいとは思わない。でも今まで貰えなかったことを一度も悪く解釈したことはないと語っている。人生は本当に長いと思う。ある日、誰かが近寄ってきて、「ダビ、昨夜ホテルのテレビで君の映画を見たよ、とっても感動した」と言ってくれたらいい。そういう映画を作りたい。

B: まさに本作はそういう映画でした。

A: 本作のモデルになったフアン・カリオンは既に90歳を越している。「彼に負うところが多かった、彼が映画を気に入ってくれて本当に嬉しかった」とインタビューに応えていました。 

 

 

 
                     (監督とカリオン氏 イビサにて)

(以下の監督・キャスト紹介は主に2014131の記事に加筆訂正を加えて再構成したもの)

*監督キャリア紹介*

ダビ・トゥルエバ David Rodriguez Trueba 1969年マドリード生れ、監督・脚本家・作家・俳優・ジャーナリスト。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業。1992年米国に渡り「アメリカン・フィルム・インスティチュート」脚本科に入学。大学在学中に脚本を書き始め、エミリオ・マルティネス・ラサロに認められる。後に彼の『我が生涯最悪の年』(1994の脚本を書き、ゴヤ賞1995脚本賞にノミネートされている。

ゴヤ賞は「10回ノミネートで無冠」のレコード保持者でしたが、11回目で宿願を果たしました。「永遠に二番手」と囁かれていましたけれど。現在は小説の新作を準備中、映画は目下予定はないようですが、本作の成功で資金が集まれば、次回作も期待できる。

Los peores anos de nuestravida日本スペイン協会創立40周年記念を祝して開催された「スペイン映画祭1997」で上映されたときの邦題。フアンホの父親役ホルヘ・サンスと母親役アリアドナ・ヒルが、ここでは若い恋人役を演じている。彼女はトゥルエバ夫人だったが離婚、2009年にヴィゴ・モーテンセンと再婚した。

 

1991 Felicidades, Alberti”(TV映画の脚本家として出発。

1993 “”(TVシリーズ5)で監督デビューする。

1996 La buena vida”(長編映画デビュー作)、ゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1作に与えられる賞)を受賞。

2003 Soldados de Salamina”、ハビエル・セルカスの同名小説『サラミスの兵士たち』(翻訳題名)の映画化、オスカー賞2004スペイン代表作に選ばれるも最終候補に残れなかった。またコペンハーゲン映画祭脚本賞、トゥリア賞(スペイン映画部門)を受賞、ゴヤ賞はノミネートに終わる。

2006Bienvenido a casa

2007Rafael Azcona, oficio de guionista”(TVドキュメンタリー)、脚本の恩師であり、ダビのシナリオ作家としての才能を開花させたと言われる名脚本家アスコナの業績を辿ったドキュメンタリー、翌年2月に鬼籍入りした。

2011Madrid, 1987”、主役のホセ・サクリスタンにフォルケ賞をもたらして映画。

2013Vivir es fácil con los ojos cerrados”(省略

他、短編、脚本、俳優出演多数。兄トゥルエバの『あなたに逢いたくて』(95)や『美しき虜』(98)、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ぺルディータ・ドゥランゴ』(97)の脚本に参加している。 

             (ゴヤ賞受賞式でのトゥルエバ監督)

 

*キャスト紹介*

ハビエル・カマラJavier Camara Rodriguz1967年、ラ・リオハ生れ、俳優、監督。高等学校では演劇クラブに所属、ログローニョの演劇学校で学んだ後、RESADで本格的に演技を学ぶためマドリードに移住する。かたわら映画にも興味を抱くようになる。

1991年、ロぺ・デ・ベガの『オルメドの騎士』で初舞台を踏む。1993年、フェルナンド・コロモの“Rosa Rosae”で映画デビュー、同監督の“Alegre ma non troppo”(94)、“ESO”(95)などコロモ監督の映画に出演する。並行してTVドラ・シリーズにも出演、日本で知られるようになったのは、1998年、サンチャゴ・セグラの監督デビュー作『トレンテ』シリーズの第1作目あたりから。その後、フリオ・メデムの『ルシアとSEX』、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』、イサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』などで多くのファンの心を掴んでいる。2013年ラテンビート上映の『アイム・ソー・エキサイテッド』のゲスト出演とプロモーションを兼ねて来日した。

 

            (ハビエル・カマラ ゴヤ賞ガラにて)

 

以下はゴヤ賞ノミネート作品だけ列挙します。

11998 “Torrente, el brazo tonto de la ley 監督:サンチャゴ・セグラ、新人男優賞

22002 『トーク・トゥ・ハー』監督:ペドロ・アルモドバル、主演男優賞

32003 “Torremolinos 73”監督:パブロ・ベルヘル、主演男優賞

42005 『あなたになら言える秘密のこと』監督:イサベル・コイシェ、助演男優賞

52008 『シェフズ・スペシャル』監督:ナチョ・G・ベリジャ、主演男優賞

62013 “Vivir es fácil con los ojos cerrados主演男優賞を受賞

6回ノミネート、トゥルエバ監督との合言葉は、「僕たち、1個もゴヤを持ってない」でしたが、二人仲良くゴヤの胸像を手にすることができました。

 

RESADReal Escuela Superior de Arte Dramatico の略称、1831年、フェルナンド7世の王妃マリア・クリスティナ(・デ・ボルボン)が創設した演劇の伝統校。現在活躍中の俳優では、エドゥアルド・ノリエガ、ブランカ・ポルテージョ、バルバラ・レニーなどが卒業生。

 

ナタリア・デ・モリー Natalía de molina リナレス生れ(アンダルシアの観光地ハエン近郊)、グラナダで育った(正確な生年がIMDbでもアップされていないが、201311月に受けたインタビューで23歳と答えているので1990年ごろか)。俳優・歌手・バレエダンサー(短編で共演しているセリナ・デ・モリーナとは姉妹)。マラガ高等演劇芸術学校で2年間ミュージカルの基礎を学んだ後、マドリードに出て、演劇学校ガレージ・リュミエールGaraje Lumiere やスタジオ・コラッサEstudio Corazzaで演技を学ぶ。長編第1作でゴヤ新人女優賞にノミネートされたシンデレラ・ガール。インタビュアーから「スター誕生ですね」と言われて、「そうなれば嬉しい」と答えた通り、新人女優賞に輝いた。

本作では独身で妊娠してしまった21歳のマラゲーニャ役、アンダルシア訛りが出来ることが出演の幸運を呼び込んだ。「撮影中はまるで一つの家族のようだった」と語っていたナタリア、ナタリー・ポートマンに似ていると言われるとのこと。彼女も踊れて演技できるから「とても光栄に思っている」由。 

           (シンデレラ・ガールのナタリア・デ・モリーナ

 

フランセスク・コロメルFrancesc Colomer (フアンホ役) 1997年、バルセロナ生れ。本作では実年齢を演じている。アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』(2011)の少年アンドレウで既にゴヤ賞新人男優賞受賞を果たしている。他にダニ・デ・ラ・オルデンのカタルーニャ語のコメディ“Barcelona, nit d’estiu”(2013Barcelona, noche de verano”スペイン語題)で主役を演じている。3年ですっかり若者になりましたが、あの独特の目ですぐ分かります。

フアンホは、長髪を禁じる父親に反抗して3日間のミニ家出をした、当時16歳だった監督の兄弟の一人がモデルになっている。

 

ラモン・フォンセレRamon Fontsere(ラモン役):1956年バルセロナ生れ、俳優。ダビ・トゥルエバの“Soldados de Salamina”でファランヘ党員の詩人サンチェス・マサスを演じた。同“Madrid, 1987”、マル・コルのカタルーニャ映画“Tres dies amb la familia”(2009Tres dias con la familia”スペイン語題)などが代表作。

本作では村のバルの主人になり、キャスト陣の中でもその演技は際立っていた。人生がラモンに与え、そして奪っていったものが何であるか知っている、着実な人生観をもった人物。彼に魅了されずにいるのは不可能です。

 

        (左から、演技が光ったラモン・フォンセレとハビエル・カマラ)

 

ロヘリオ・フェルナンデスRogelio Fernandez(ブルーノ役):本作でデビュー。ラモンの小児麻痺の息子を演じた。

 

ホルヘ・サンスJorge Sanz(フアンホの父親役: 1969年、マドリードうまれ、映画・舞台・テレビ俳優。ペドロ・マソの“La miel”(79)に9歳でデビュー、1982年アントニオ・ベタンコールがラモン・センデルの小説を映画化した『バレンチナ物語』の名子役ぶりが話題になる。つづくフェルナンド・フェルナン・ゴメスの“Mambrú se fue a la guerra”(85)、フェルナンド・トゥルエバの“El año de las luces”(86)でマリベル・ベルドゥと共演、子役から大人へと無事に変身できた。ビセンテ・アランダの『アマンテス 愛人』(91)と『リベリタリアス自由への道』(96)、兄トゥルエバの『ベルエポック』(92)など、ヒット作に次々と出演した。『バレンチナ物語』で共演したパロマ・ゴメスと45年前に再会して結婚、息子も生れたが、互いに合意して離婚した。映画では「プラトニックな恋に終わった二人だが、実人生では恋を成就できた」と報道されたのに、束の間に終わった。

最近の舞台出演は、映画“Orquesta Club Virginia”(92)の劇場版にアントニオ・レシネス、ビクトル・エリアス、マカレナ・ゴメス等と出演している。
         


               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

      (左から撮影中のホルヘ・サンス、ロヘリオ・フェルナンデス、監督

 

アリアドナ・ヒルAriadna Gil(フアンホの母親役):1969年、バルセロナ生れ、映画・舞台女優、テレビ出演多数。ビガス・ルナの“Lola”(86)で映画デビュー、代表作にオスカー賞を受賞したフェルナンド・トゥルエバの『ベルエポック』(92)でゴヤ賞主演女優賞を受賞した。エミリオ・マルティネス・ラサロの『我が生涯最悪の年』、“Soldados de Salamina”、ギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(07)、フェルナンド・トゥルエバの『泥棒と踊り子』(09)など。アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)で共演したヴィゴ・モーテンセンと2009年結婚した。他にアルゼンチンの「コンドル・デ・プラタ」女優賞を受賞した“Nueces para el amor”(01)がある。

 

     (結婚5周年のお祝いができたヴィゴ・モーテンセンとアリアドナ・ヒル)

 

★トゥルエバ兄弟の作品のほとんどを手掛けている製作者のクリスティナ・ウエテ(兄トルエバ夫人)については、コチラ⇒2014112 / 213

 

『フラワーズ』*東京国際映画祭2014 ①2014年11月09日 15:42

★台風接近でラテンビートでの鑑賞を断念した『Flowers』を、共催上映した東京国際映画祭TIFFで見てきました。こちらのタイトルは『フラワーズ』、原題のLoreakの意味は「花」です。既にラテンビート2014③で作品データ・監督・キャスト他を紹介した記事922)を、下記にコンパクトに纏めて再録しております。


     サンセバスチャン映画祭オフィシャル・セレクションに初のバスク語映画

 

: バスク自治州の都市サンセバスチャンで開催される映画祭も今年で62回を迎えました。まあ老舗の映画祭と言えますね。そこで話題になったのが本映画祭コンペ部門でバスク語映画が初めて選ばれたということでした。

: オフィシャル・セレクション以外なら当然過去にもあった、お膝元の映画祭ですから。

: フランコ時代は使用禁止言語だったからバスク語映画そのものが作れなかったし、学校で生徒が喋ろうものならムチで叩かれた。

: でも考えると不思議ですよね。もうすぐフランコ没後40年になるんだから。

 

: いいえ、当事者にとったらたったの40年です。ETAのテロが頻発したのはフランコ没後、最も血が流れた年は1980年、200回のテロで95人が犠牲になった。その「1980年」をタイトルにしたイニャーキ・アルテタのドキュメンタリー“1980”が、バジャドリード映画祭で上映され話題になりました。アルテタはETAにテーマを絞って映画作りをしている監督です。

: 今年前半のメガヒット、エミリオ・マルティネス・ラサロの“Ocho apellidos vascos”は、テロだの爆弾だのは一切出てこないコメディ、そしてスリラーを加味させたヒューマンドラマの本作と、バスク映画も多様化の時代になりました。

 

: サンセバスチャンには、プロモーションも兼ねて主演女優3人が花束を抱えて登場しました。大スクリーンで本作を見たエル・パイス紙の批評家カルロス・ボジェロは、「登場人物が自分たちが日常使っている言語で自然に演じていた。もしこれがカスティーリャ(スペイン)語だったら、こんなにしっくりした自然体で演じられなかったろう」と述べています。

: セリフは多くなかったと思いますが、母語で演じることは論理的なことですよ。

 

  (左から、ガラーニョ監督、ベンゴエチェア、アランブル、アイツプル、イトゥーニョ、
   ゴエナガ監督 サンセバスチャン映画祭にて

 

: サンセバスチャンでの評価が高く、10月末に全国展開されることになりましたが、コピーはスペイン語吹替版になったようです。「この映画は登場人物の声で届けるべきですが、バイリンガルでの製作は資金的にできなかった」と、二人の監督は吹替版を残念がっていました。それでも国内の多くの観客に見てもらえるチャンスを喜んでいました。

: 現在生粋のバスク人は、バスク語とスペイン語のバイリンガルなんでしょうね。日本ではバスク語版で見られたが、いずれにしろどちらでも分かりません。でも日本語吹替えだったらと思うとゲンメツです()。スペインの吹替版上映は曲がり角にきています。そういう意味では、日本は本当に字幕上映<先進国>です。

 

     孤独とコミュニケーションの難しさがテーマか

 

: 花束は口を利きませんが、ここでは雄弁に語る、「花束は口ほどに物を言う」です。此岸の人のために、向こう岸に渡ってしまった彼岸の人のためにも語りかける花束だ。言葉で言えないことを表現するための有効な道具になっている。

: 花に隠された言葉ですね。直線コースに突然現れるカーブ、暗い歩道を照らす街灯、ガードレール、ざわめく黒々とした木々、標識に固定された二つの花束が浮かび上がる、テレとアネが手向けた花束だ。

: 道行く人、運転する人、旅する人が、この美しい花束に心が和らぐ。花束に添えられた思い出のカードや写真も静かに物語を奏でている。孤独と伝達の難しさを描いた点では、第180 eguneanの続編かもしれない。

 

            (花束に添えられていたカードを読むアネ)

 

: この物語は不安のなかに或る種のロマンを忍びこませて進んでいく。

: アネと夫の関係はそれぞれ自分の殻に閉じこもって互いに無関心、だから喧嘩も起きない。そこへ匿名の花束が突然やってくる。空気がピーンと張りつめる。

: 不信と不安を隠しきれない夫は、「匿名の人に住所も訊かず花を売っていいのか」と花屋にねじ込んで、花屋を呆れさせる。

: そんな義務も法律もありません()。医者から更年期を宣告され塞ぎこんでいたアネだが、夫以外の男性からの思いがけない花束に何故か心が華やぐ。

 

: 一方テレは、息子ベニャトがバツイチのルルデスと結婚したのは仕方ないが、夫婦がもう子供はいらないと決めているのが納得できない。テレにとってルルデスの連れ子は孫ではない。この母子も夫婦も普通の会話が成り立たない。賢いベニャトは母の味方も妻の味方もせず、三人は孤立している。

: ベニャトはアネと同じ職場で働いている。彼は大型クレーンの操縦をしており、高い操縦室から下界を双眼鏡で眺めている。この危険な個室にいるときが一番心が安らぐのだ。

: ルルデスの職場はハイウエーの料金所のブース、やはり狭いボックスに閉じ込められている。これは象徴的なメタファーです。

 

80 egunean2010バスク語)のストーリー:少女だった遠い昔、親友だったアスンとマイテの二人はひょんなことから50年ぶりに邂逅する。アスンは農場をやっているフアン・マリと結婚するため引っ越して以来田舎暮らしをしていた。両親と距離を置きたい娘は離婚を機にカリフォルニアに移り住んでいる。レズビアンのマイテはピアニストとして世界を飛び回ってキャリアを積んでいたが既に引退して故郷サンセバスチャンに戻ってきた。別々の人生を歩んだ二人も既に70歳、不思議な運命の糸に手繰り寄せられて再び遭遇する。この偶然の再会はアスンに微妙な変化をもたらすことになる、自分の結婚生活は果たして幸せだったのだろうか。マイテにサンタ・クララ島への旅を誘われると、アスンは自分探しの旅に出ることを決心する。アスンにテレ役のイジアル・アイツプル、マイテにマリアスン・パゴアゴが扮した。トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で揃って女優賞を受賞した。パゴアゴは本作がデビュー作。年輪を重ねた知性豊かな二人の女性のナチュラルな演技が観客賞に繋がった。 

                    (アスン役のアイツプルとマイテ役のパゴアゴ

  

     巧みに張られた伏線を楽しむ

 

: ベニャトの突然の事故死に三人の女性は直面する。もうアネに花束は届かない。ルルデスは夫がベランダで丹精をこめて育てていた花の鉢植えを残さず粉々に割る。自分に不意に訪れた不幸に耐えられない。

: 観客には贈り主が分かるのだが、当事者たちが知るのはもっと後、特にルルデスは職場の同僚と暮らし始めている5年後だ。この同僚とは生き方の違いが伏線として張られており、幸せからはほど遠い。

: アネが決定的に贈り主を知るのは職場で失くしたネックレスがクレーンの操縦室にあったから。冒頭で医者から更年期の始まりを聞いていたとき、ずっと弄っていたネックレスだ。かつて夫からプレゼントされたものだから唯のネックレスではない。それを知っててベニャトは操縦室にぶら下げていたのだ。 アネと一緒にいたかったのだ。

: 嫁姑のいがみ合いの遠因の一つとして、夫婦がテレ名義のピソに住んでいたことが挙げられる。綺麗好きのテレには、嫁が掃除嫌いなのが耐えられない。自分が穢されていると感じる。

 

: 夫婦の留守中にテレが部屋をピカピカにする理由を、観客はベニャトが死んで初めて知る。

: ベニャトが双眼鏡で放牧されているヒツジを眺めるシーンが繰り返し出てくる。

: 事故死の直接の原因は、夜道に迷い込んだヒツジを避け損ねたからだ。

: 同じようなシーンが最後にもう一度出てきますね。

 

: 死者というのは残された人々が想っているあいだは生きている。死者は生きてる人々を支配するのだ。残された人々が記憶を消したい、記憶が重荷になったとき、初めて本当の死者になる。

: テレは息子を失った苦しみから逃れるように痴呆が始まる。時折り息子の名前さえ思い出せない。

: アネにもベニャトは死者になりつつある。花束はもう手向けない。過去から逃れたいからだ。

: ルルデスは夫が別の女性を想っていたことが許せない。もうこの世の人ではないというのに。5年後、医学用に献体していたベニャトが<灰になって>帰還する。

: ベニャトの遺灰はルルデスの手元に置かれることになるだろう。結局、花束は花束でしかなかったのかもしれない。

 

     音楽監督パスカル・ゲーニュ

 

: まだゴヤ賞予想は早すぎますが、音楽監督パスカル・ゲーニュが、もしかしたら候補になるかもしれない。彼はノルマンディー地方のカーン生れのフランス人ですが、1990年から本拠地をサンセバスチャンに移して、主にスペイン映画の音楽活動をしています。ビクトル・エリセやイマノル・ウリベ、モンチョ・アルメンダリスとコラボしています。

 前作80 egunean”も、両監督のそれぞれ第1作も彼が担当。ラモン・サラサールの『靴に恋して』(02)は公開された。

: ラテンビート2007で上映されたダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』や「スペイン映画祭2009」上映の『デブたち』、イシアル・ボリャインの『花嫁の来た村』や新作ドキュメンタリー“En tierra extraña”も担当している。

 

: サンセバスチャンFFのパブロ・マロの“Lasa y Zabala”(コンペ外)も担当、つまり1914年製作の話題作3作を手掛けていることになる。

: どれかがゴヤ賞候補になるのは間違いない、複数もありえるか。大分前になるがエドゥアルト・チャペロ≂ジャクソンの話題作Verbo”が、2012年ゴヤ賞オリジナル歌曲賞にノミネートされた。

 

 本作で流れるシングソングライター、セシリアのベストセラー『スミレの小さな花束』Un ramito de violetas)は、35年前にLPで発売された曲だそうです。

: 今回調べたのですが、1974/75年、まだフランコ体制のときです。少し体制批判の匂いがあって検閲を受けたようです。映画ではスミレの花束ではありませんが、この歌を口ずさんで育った観客には懐かしいのではありませんか。

: 二人の監督が生れた頃流行った曲、彼らの母親世代、テレの世代のの曲ですかね。

: 両映画祭ともバスク語映画は初めてと思いますが、しみじみとわが身を振り返った味わい深い映画でした。

 

パスカル・ゲーニュPascal Gaigne1958年フランス生れ、1990年よりサンセバスチャン移住。作曲家、映画音楽監督、演奏家。ポー大学で音楽を学ぶ。トゥールーズ国立音楽院でベルトラン・デュプドゥに師事、1987年、作曲とエレクトロ・アコースティックの部門でそれぞれ第1等賞を得る。映画音楽の分野では短編・ドキュメンタリーを含めると80本を数える(初期のアマヤ・スビリアとの共作含む)。演奏家としてもピアノ、シンセサイザー、ギター、バンドネオン他多彩。『マルメロの陽光』ではバンドネオンの響きが効果的だった。以下は話題作、代表作です(年代順)。


1984『ミケルの死』 監督:イマノル・ウリベ(アマヤ・スビリア共作、スペイン映画祭1984

1992『マルメロの陽光』 監督:ビクトル・エリセ(公開)

1998Mensaka” 監督:サルバドール・ガルシア・ルイス

1999『花嫁の来た村』 監督イシアル・ボリャイン(シネフィルイマジカ放映)

2001 Silencio roto” 監督:モンチョ・アルメンダリス

2002『靴に恋して』 監督:ラモン・サラサール(公開)

2003Las voces de la noche 監督サルバドール・ガルシア・ルイス

2004Supertramps” 監督:ホセ・マリ・ゴエナガ(デビュー作)

2006『漆黒のような深い青』 監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ(LB2007上映)

2007siete mesas de billar francés 監督:グラシア・ケレヘタ

2009『デブたち』 監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ(スペイン映画祭2009上映)

2010Perurena” 監督:ジョン・ガラーニョ(バスク語、デビュー作)

201080 egunean 省略

2011Vervo  監督:エドゥアルト・チャペロ≂ジャクソン(2012年ゴヤ賞歌曲賞ノミネート)

2014En tierra extraña 監督イシアル・ボリャイン

2014『フラワーズ』 省略

2014Lasa y Zabala 監督:パブロ・マロ

 

 

Loreak”『フラワーズ』データ

製作:Irusoin / Moriarti Produkzioak

監督:ジョン・ガラーニョ& ホセ・マリ・ゴエナガ

脚本:アイトル・アレギAitor Arregi ジョン・ガラーニョ/ホセ・マリ・ゴエナガ

製作者:アイトル・アレギ/ハビエル・ベルソサ Berzosa/フェルナンド・ラレンドLarrondo

撮影:ハビエル・アギーレ

音楽:パスカル・ゲーニュ

データスペイン、2014バスク語、99分 スペイン公開1017

サンセバスチャン映画祭オフィシャル・セレクション(922日)、チューリッヒ映画祭(928日)、ロンドン映画祭(1018日)など多数。

 

キャスト:ナゴレ・アランブル(アネ)、イジアル・アイツプル(テレ)、イジアル・イトゥーニョ(ルルデス)、ジョセアン・ベンゴエチェア(ベニャト)、エゴイツ・ラサ(アンデル)、ジョックス・ベラサテギ(ヘスス)、アネ・ガバライン(ハイオネ)、他


プロット
:三人の女性に人生の転機をもたらした花束の物語。平凡だったアネの人生に、ある日、匿名の花束が家に贈り届けられる。それは毎週同じ曜日、同じ時刻に届けられ、やがて、その謎につつまれた花束は、ルルデスとテレの人生にも動揺を走らせることになる。彼女たちが大切にしていたある人の記憶に結びついていたからだ。忘れていたと思っていた優しい感情に満たされるが、夫婦の間には嫉妬や不信も生れてくる。結局、花束は花束でしかない。これはただの花束にしか過ぎないものが三人の女性の人生を変えてしまう物語です。      (文責:管理人)  
                    

 


★監督紹介

*ジョン・ガラーニョJon Garano 1974年サンセバスチャン生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。2001年短編“Despedida”でデビュー、短編、ドキュメンタリー(TVを含む)多数、短編“Miramar Street”(2006)がサンディエゴ・ラティノ映画祭でCorazón賞を受賞。長編第1作“Perurena”(バスク語2010)のプロデューサーがホセ・マリ・ゴエナガ、彼とコラボしてバスク語で撮った第2作“80 egunean”(“80 Days2010)が、サンセバスチャン映画祭2010の「サンセバスチャン賞」を受賞したほか、トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011観客賞女優賞イジアル・アイツプル、マリアスン・パゴアゴ)、脚本賞を受賞したほか、受賞多数。イジアル・アイツプルは3作“Loreakでテレを演じている。


ホセ・マリ・ゴエナガ Jose Mari Goenaga1976年バスクのギプスコア生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。短編“Compartiendo Glenda”(2000)でデビュー、長編第1作“Supertramps”(2004)、第2作がジョン・ガラーニョとコラボした“80 egunean”、受賞歴は同じ。本作が3作目となる。

 

   (チューリッヒ映画祭で歓迎を受ける両監督、左ゴエナガと右ガラーニョ、9月28日)

 

キャスト紹介

ナゴレ・アランブル(アネ役)Nagore Aranmburu:バスクのギプスコア(アスペイティア)生れ。1998TVドラマでデビュー、フェルナンド・フランコの“La herida”(2013、ゴヤ賞2014作品賞受賞他)に出演している。

イジアル・アイツプル(テレ役)Itziar Aizpuru1939年生れ。2003TVドラマでデビュー、前述の80 egunean以外の代表作はオスカル・アイバルの“El Gran Vazquez”(2010)、TVドラマ、短編など出演多数。

イジアル・イトゥーニョ(ルルデス役)Itziar Ituño1975年バスクのビスカヤ生れ。Patxi Barkoの“El final de la noche”(2003)の地方紙のデザイナー役でデビュー、サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・セレクション外にエントリーされたパブロ・マロの“Lasa y Zabala”に出演(時間切れで未紹介ですが、1983年のETAのテロリズムがテーマ)。ほかバスク語のTVドラマに出演している。

 

ラテンビート2014*あれやこれや ④2014年11月03日 15:07

★劇場公開に一番近いポジションを占めているのが、映画祭の目玉だったダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』です。しかし2009年の「スペイン映画祭」上映の前作『第211号監房』(“Celda 211”)は、スペイン・サイドでは日本公開がアナウンスされていたにもかかわらずポシャってしまった経緯がある。DVD化こそされましたが、なんと邦題が『プリズン211』、タイトルは自由に付けていい決まりですけどアンマリです。

 

 

     サスペンスが120分を超えると・・・

 

: 残念ながら、やはりホルヘ・ゲリカエチェバリアは来日しませんでした。

: アレックス・デ・ラ・イグレシアが来日なら一緒に来るんじゃないかと思っていましたが。

: 公開が決まっていて、モンソンが一緒ならプロモーションを兼ねて来たでしょう。それにしても本映画祭のゲストの少なさは課題の一つですね。

: スポンサーが充実している東京国際映画祭のようにはいきません。作品で勝負するしかなさそうです。

 

: さて既に、キャスト並びに監督以下スタッフを紹介しているので書くことないかなと思っていましたが(LB2014 920)、中だるみ気になって思い直しました。軽快な滑り出しにヨシヨシと身を乗り出し、これは<監房>より面白くなりそうだとワクワクしましたが、136分が長かった。

: 前作は110分、最近は2時間超える作品が少なく、特にサスペンスが120分を超えるとキツイ。主人公エル・ニーニョとムスリムの仲間ハリルの姉、麻薬の運び屋を引き受けたアミナとの愛の物語が長すぎたんじゃないですか。

: 前にも書いたことですが、「モデルは存在するが実話ではない」から愛の物語も結構です。しかし、「20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている」事件という触れ込みが途端に嘘っぽくなってしまった。前作でも感じたことですが、モンソンもゲリカエチェバリアもラブストーリーは得意じゃなさそうです。

: しかし、前作より幅広い層に受け入れられたのは、「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」と監督は分析していますよ()

 

: へえ、そうですか、女性も千差万別だから。ヘスス・カストロは突然スカウトされて出演したわけで、勿論演技を学んでいたわけではない。撮影当時二十歳そこそこだったことを考慮すれば仕方ないかもしれないが、アクション・シーンの格好良さとの落差がありすぎました。

: 出演が決まってからは大車輪でランチや水上バイクの運転練習、アクション・シーンの演技指導とシゴかれ、愛の指導は時間切れだったのではないの。

: これはアクション好きの若者をターゲットに製作されたのだから、そういう意味では興行的にも大成功、観客層が女性にも広がったのはオマケかもしれない。

 

                  (若者三人組、エル・コンピ、ハリル、エル・ニーニョ)

: ルイス・トサール扮するヘススとバルバラ・レニー扮するエバの関係もヤキモキさせた。ただの相棒じゃなさそうです。

: こちらは抑制型、犯人に勘づかれないよう恋人を装って腕を組んで追跡するシーンが切ない()。相手にはバレバレなんですが。それでニセの情報をつかませられ、国家に大損害を与えてしまう。

: 凄いシーンでした。本当の冷凍魚を切り刻んだのでしょうね。もう一つの愛がエル・ニーニョの仲間エル・コンピとアンダルシア娘のマリフェ、父親の職業が警官なのには笑えました。モンソン映画はコメディ部分が結構楽しい。

 

     度肝を抜く首なし死体が風に吹かれてゆらゆら

 

: 伏線として、首なし死体が橋の欄干に吊るされるシーンが出てくる。次に吊るされるのは誰だろうか。かなりシュールな映像です。

: こういう制裁の仕方は事実としてあるのでしょうか。裏切り者というより麻薬取引に失敗して組織に損害を与えた人ですね。命がけなのは、密売者、取締官の双方にある。

: 組織を危うくした者には「見せしめの制裁」を加える、これがオキテなんでしょう。

 

: いいところまで犯人を追いつめるが、あと一歩で逃げられる理由は、警察内部に裏切り者がいるというのがイロハです。仲間を疑うわけだから疑心暗鬼になる。

: まず警察腐敗は上司を疑えが定番、『L.A. コンフィデンシャル』でも『ダーティ・ハリー』でも、汚い裏切り者は上司だったからね。

: 上司役セルジ・ロペスは、『パンズ・ラビリンス』の憎きビダル大尉になった人、強面だから冷酷無比なファシスト役にはぴったりだった。悪役が多そうだね。

: パリの演劇学校で演技を学んだからフランス語ができる。フランス映画にも悪役で出演しているバルセロナ派のベテラン。イサベル・コイシェの『ナイト・トーキョー・デイ』(09、公開10)にも顔を出していた。 


: ヘススの同僚セルヒオに扮したのがエドゥアルド・フェルナンデス、娘を費用の掛かる海外の学校に行かせている。

: 父親という役柄かもしれませんが、白髪混じりのフェルナンデスには冷酷な時の流れを感じました。トサールと同じように、どんな役をやっても地でやってると思わせるカメレオン役者。安心して見ていられる。

: エル・ニーニョ役のヘスス・カストロのゴヤ賞2015新人男優賞は太鼓判ですが、エバ役のバルバラ・レニーも助演女優賞に絡んできそうです。

: 本作というより、カルロス・ベルムトの“Magical Girl”のほうかもしれない。こちらはサンセバスチャン映画祭で作品賞と監督賞の異例のダブル受賞をした作品です。

 

     経済的困難にもめげず映画好きのスペイン人

 

: 封切り3日間で300万人が見たという本作ですが、人気は衰えていないのですか。

: 10月に入ってサンチャゴ・セグラの“Torrente 5”が公開され、観客53万人(360万ユーロ)とトップを走っています。アルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”(916)が80万、続く『エル・ニーニョ』が5070003作で約500万ユーロ、全興行成績の70%を占めるそうです(レントラックRentrak 105日調べ)。

: 消費税が21%と値上がりしたのにね。

: 『エル・ニーニョ』は公開1ヵ月で1400万ユーロですから、国家に充分貢献しています。

Rentrak:アメリカのメディア調査会社、視聴率データを取っている。

 

: 経済的な困難が映画産業を苦しめているというわりには、好い数字になっている。

 失業して時間があるから映画館に行ってるわけではないでしょう。

 観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、「これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、観客のクチコミのお蔭」と観客に感謝している。

 

 過去に密売に携わった関係者に取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターも、3トンのランチも、出動してくれた治安警備隊もホンモノだった。(前回の資料部分を下記に再録しました)

 

  <資料再録>

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・ビチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。

 

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋ニーニョとコンピの若者が網に掛かってきた。  (文責:管理人)

 

ダニエル・モンソンDaniel Monzón Jerez1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。

監督としてのフィルモグラフィー

11999El corazón del guerrero 邦題『クイーンウォリアー』アドベンチャー・ファンタジー20025月公開。

22002El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。

32006The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。

42009Celda 211”『プリズン211DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。

52014El Niño”『エル・ニーニョ』LB2014上映。

 


ホルヘ・ゲリカエチェバリアJorge Guerricaechevarría1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

 

ヘスス・カストロJesús Castro1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダLa Jandaの高等学校Ciclo Formativo de Grado Medioで電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育1216歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している。

 

★第29回を迎えるゴヤ賞2015の「栄誉賞」にアントニオ・バンデラスが決定、記者会見がありました。一気に30歳ぐらい若返り、サプライズを超えて我が目を疑いました。次回は古くなってしまった<ニュース>も含めて落ち穂拾いを致します。


ラテンビート2014*あれやこれや ③2014年11月01日 14:00

★残る2作品『ブエノスアイレスの殺人』と『エル・ニーニョ』は共にサスペンス、横浜会場がこれからなので深入りできない。そうは言っても気分が切れないうちに印象を纏めておきたい。まずナタリア・メタ『ブエノスアイレスの殺人』から。

 

    ブエノスアイレスのゲイ・コミュニティが語られる

 

: 『ブエノスアイレスの殺人』に登場した若い警部の妖しい魅力に堪能できたら、それで充分でしょうか。そうはいきませんよね。しかし結末は書けないから、遠回り記事でお茶を濁すしかありません(LB2014 929)。

: 途中から犯人探しから微妙に焦点がずれてきて、本当のテーマは何なのと戸惑いました。

: 詰め込みすぎてテーマが少し拡散してしまった印象かな。最初、TVドラマ・シリーズとして企画されたことが尾を引いているのかもしれない。

: 少しジグザグしているけれど、11個ジグソーパズルのように嵌めこんでいくしかない。

 


: 軍事政権から民政移管されたラウル・アルフォンシン政権時代(198389)の80年代半ばが時代背景ということですが、今まで禁じられていた諸々のこと、性の解放、アングラで秘かに行われていたゲイ・クラブ内での麻薬取引、海外への巧妙な麻薬密輸、遅れてやってきた70年代のシンセサイザーのグラムロックと、若い観客を飽きさせない仕掛けが盛り沢山。

: 当時のゲイ・コミュニティに大胆に踏み込んでいますが、現在のように米国のトップ企業アップルのCEOがカミングアウトできる時代ではなかった。

: それに<ストップ・エイズ>の嵐が吹きまわっており、エイズと分かれば、かつてハグし合った友人でも握手を拒んだ時代でした。80年代から90年代初めはホモ排斥が最高潮だった。彼らが現在獲得しているような自由は存在していなかった。

 

: 「アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』が本作の出発点だった。ワイオミングのカウボーイをブエノスアイレスの警察官に変えたらどうなるか」という監督談話を思い出しながら観ていた。

: アルゼンチンのゲイ・コミュニティの著者、ジャーナリストで作家のアレハンドロ・モダレジィは、「自分は映画のプロではないので映画の良し悪しについては何とも言えないが、もっとも興味深かったのは政治的文化的な要素が提起されていたこと」と前置きして、時期を80年代半ばでなく1989年と限っています。

: フィクションですから時代を忠実に反映していなくてもと思いますが、どんな理由ですか?

 

                      (左から、チノ・ダリンとデミアン・ビチル)

: 時期を限るのは難しいが、アルフォンシン政府の内務大臣を1987年まで務めたアントニオ・トロッコリは大のホモ嫌い。在任中はゲイ・クラブの一斉検挙や手入れをして迫害した政治家で、ゲイは治療すれば治る病気と考えていた人です。ゲイの世界の情報は薄ぼんやりしていて、映画のようにゲイが受け入れられる状況ではなかったということです。

: 女性が職務とはいえ<女人禁制>のゲイ・クラブに入れるのもあり得ないか。

: モニカ・アントノプロス扮するドロレスは、ナタリア・メタ監督の視線を兼ねている。今までの女性の描き方は大方受け身のポジションにおかれたが、ドロレスはそうではなかった。もう一人、ルイサ・クリオクが演じた犠牲者の妹の人格も、良い悪いは別として計算高く利口な人物だった。女性監督の目線を感じました。 

                                       (モニカ・アントノプロス

Alejandro Modarelli : Fiestas, baños y exilios/Flores sobre el orínなど。軍靴の鳴り響く軍事独裁時代に、地下に潜ったゲイ社会の実情をテーマにした本を上梓している。後者は駅舎の公衆トイレを舞台にした軍事独裁時代のゲイたちの日常を描いた戯曲。orín’の意味は「錆」、稀に尿ですが、ここでは便器についた汚れのような意味。

 

     チノ・ダリン無しでこの映画は作れなかった

 

: 「男性の中にある欲情を騒がせるような魅力ある俳優が必要だった。チノ・ダリンには男の心を捉えるような」魅力があったと監督。もっともらしい顔で二枚舌を使っても、どこか憎めない魅力がありました()

: ウラオモテノがあると気づきつつも、つい気を許してしまう魔力を備えている。

: たった一度のチャベス警部との途方もないシーンも、10年前のアルゼンチンだったら一大スキャンダルだった、奥歯に物が挟まったような言い方ですが。

: 危うい魅力を発散するヌード・ディスコ<マニラ>の歌手ケビンのカルロス・カセリャウンベルト・トルトネセ扮するクラブ・オーナーのモヤノ、具体的なモデルがいそうですね。

 

: 80年代だけでなく、90年代から新世紀にかけてニュースとなったゲイ殺害事件も織り込まれているようです。前出のアレハンドロ・モダレジィによれば、部屋の中で殺害されるケースは、たいていハイソサエティの人だそうで、犯人は子供のいる異性愛者だったり、極右のカトリック系のグループだったり、差別は水面下で続いている。

: 映画に先住民やアフリカ系の人が出てこなかったように、85%が欧州系白人、先住民を含めたメスティーソが15%、ユダヤ系も一番多く、他のラテンアメリカ諸国とは一線を画している。

: 自国をヨーロッパの一部と考える優越感、しかしヨーロッパ化が不完全だったという劣等感の間で微妙に揺れ動いている。経済のアップダウンも一番激しい国で、他のラテン諸国から批判されても仕方がない面がありますね。

 

: 80年代のノスタルジーを楽しむか、70年代のグラムロックにしびれるか、または犯人が行きずりの物取りか、痴情犯罪か、雇われ暗殺者の仕業か推理しながら見るのも一興です。

: 評価は賛否両論、はっきり二分されているようです。来年のオスカー賞アルゼンチン代表作品に“Relatos salvajesWild Talesが選ばれたことはご紹介済みですが(1024)、こちらには本作の主役の一人チノ・ダリンの父親リカルド・ダリンが出演者の一人です(写真下)。


ラテンビート2014*あれやこれや ②2014年10月30日 12:18

★予想通りの出来栄えだったメキシコのアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』(LB 103)とチリのアレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスのサスペンス『殺せ』(LB 108)、前者はベルリン映画祭「パノラマ」部門上映、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門のベスト・フィルム賞受賞、後者はサンダンス映画祭「ワールド・シネマ」部門の審査員大賞受賞他、オスカー賞2015、ゴヤ賞2015イベロアメリカ賞のチリ代表作品にも選ばれた、それぞれ話題作です。

 

     モノクロのコメディ『グエロス』の次回作が楽しみ

 

: 今年のラテンビートで最初に観た映画、予想通りのブラック・コメディでなかなか笑えた。

: 笑い声はあまり聞こえてこなかったが、観客には伝わらなかったのかな。

: 忍び笑いをしていたんでは。昨年、セバスティアン・シルバのコメディ『クリスタル・フェアリー』が上映されたときも会場は概ね静かだった。来日して最前列で自作を観ていた監督、「笑い声が聞こえてこなかったが面白くなかったのでしょうか」と心配そうに観客に逆質問。いえいえ、日本人は礼儀正しく控えめなんですよ()

 

         (自分探しの4人組、ソンブラ、アナ、トマス、サントス)

 

: これは新人監督にしては珍しいモノクロ映画、どうしてモノクロで撮ったのかは、すでに紹介記事で書きましたので繰り返しません。

: 昨年もパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』とフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』がモノクロでした。製作資金の捻出に悩む新人監督が、カラーよりお金の掛かるモノクロで撮るのは珍しい。

: 撮影監督ダミアン・ガルシアの映像は洗練されていて、スクリーンで見ると一段と映える。トライベッカ映画祭2014 最優秀撮影賞を受賞したことが頷けます。

 

: 未公開ですが『メキシコ 地獄の抗争』の邦題でDVD化されている、ルイス・エストラーダの“El infierno”も撮っていますね。

: これはゴヤ賞2011の「イベロアメリカ映画賞」部門のノミネート作品、こういうメキシコならではのコメディも好きですね。

: コメディ好きなんだ。主人公ソンブラの「ストにストしてる」というセリフには、笑えるし泣ける。 


: 在籍している大学の強権には反対だが、だからと言ってスト突入した学生にも与することができないノンポリ。「ストにストしてる」からといって、テキは味方じゃない。ソンブラ、サントス、アナの3人の生き方の違いも、誰が正しく誰が間違っていると決めつけないのがいい。

: やっと探し当てた「死の床にいるはずの幻のミュージシャンが」・・・これでトマスもオトナになれるのだ。

: 電気料未払いで部屋は真っ暗、音楽も聴けない、かなり切羽詰まっているはずなのにどこかぬけている。「北への移民だけがテーマじゃない」と言う監督だが、決して批判しているわけではなく、多面的なメキシコを描きたかったと語っている。伏線の張り方も巧みで、青春時代にやるべきことが見つからない恐怖がテーマだね。

: ロード・ムービーにしたのも、巨大都市メキシコを描くには最適だったと語っていました。

 

     レベルの高いチリ映画『殺せ』は単なる復讐劇ではない

 

: 2番目に見た映画が『殺せ』、これはもう一度見なおしたい。ロッテルダム映画祭では批評家の間で評価が割れたという話が頷ける内容でした。ウエスタン調の復讐劇を期待した向きには残念でした。

: 監督によると、的外れの独断的な意見や形式的な分析で困惑したとか。しかし、ビッグ・スクリーン賞は逃しましたが、ベスト・ヒューチャー・フィルム(KNF)賞を受賞したんでした。

: 昨年は同じチリの監督アリシア・シェルソンの“Il futuro”が受賞した言わば新人賞ですね。ロベルト・ボラーニョの中編小説を映画化したものでした(コチラ⇒2013823)。

: 日本では2000年に三池崇史のサイコ・ホラー『オーディション』(1999)が受賞している。本映画祭の途中退場者数の記録を打ちたてた()

 


: 話を戻すと、前回でも書いたことですが、映像の美しさ、構図の取り方、夜の照明を自然に入ってくる光に押さえたこと、クローズアップ、ロングショットの切り替えもよく、個人的には予想を裏切りませんでした。

: デビュー作以来、撮影監督のインティ・ブリオネスとはずっとコラボしている。

: これは3作目だが、1作目“Huacho”はクローズアップの多用(カンヌ映画祭2009「批評家週間」ゴールデン・カメラ賞ノミネート)、第2作目“Sentados frente al fuego”はロングショットが多い。今年東京国際映画祭TIFFで上映されたクリスチャン・ヒメネスの第3作『ヴォイス・オーヴァー』の撮影監督でもある。

: 彼ともデビュー作からコラボしている。チリでは若手から中堅まで幅広く信頼されている実力者のようです。 


: あちらはコメディで暗いシーンは少ないのですが、やはり似ていると感じました。

: 「人が人を殺すことの重み、誰かの人生をおしまいにすることの正当性はあるのか否か」がテーマだと書いていますが、これは単なる復讐劇ではない。

: 一人の人間が一人の人間を殺すことの大変さ、戦争で何万人も殺害するほうが簡単だと思えてきました。殺してからが映画の核心が始まったという印象です。

 

: 家族全員が脅迫され、息子が撃たれ、娘がレイプされたら殺していいのか。

: インタビュアーに服役中の<>は、「人を殺すことがどういうことか、あなたは御存じない」と答えた。それがキイポイントです。そういうわけで邦題の『殺せ』には少し違和感があります。映画祭での邦題のつけ方は難しいのですが、あまり踏み込まないで直訳のほうがよいケースが多いと思う。

 

: チリで実際に起きた事件、正当であると認められるような根拠のある事件でしたが、<>に安息は訪れなかった。

: 私たち人間が本来もっている、道徳とか倫理の問題だけでなく、もっと生物学的な歯止めというか抑制力について語りたかったようです。チンピラを抹殺するというより、一家を孤独感と疎外感に陥れた社会に苦しみを与えたかった。

 

: チリ映画のレベルは、近年高まっていますね。映画を海外で学んでいるシネアストが多いせいか、カルチャーショックが視野を広げている。内弁慶は歓迎されない()

: 21世紀に入ってからのチリ映画の躍進は、ラテンアメリカ映画界のサプライズです。本映画祭だけに限っても、『聖家族』、『マチュカ』、『トニー・マネロ』、『サンティアゴの光』、『家政婦ラケル』、『ヴィオレータ、天国へ』、『NO』、『クリスタル・フェアリー』、『マジック・マジック』、『グロリアの青春』と粒揃いです。そういえば、春から夏にかけて旋風を巻き起こした『リアリティのダンス』のアレハンドロ・ホドロフスキー監督もチリ出身でした()

 

: TIFFでは、前出のアリシア・シェルソンの『プレイ』、同じくクリスチャン・ヒメネスの『見まちがう人たち』と『盆栽』の全3作など。

: いずれの作品も若いシネアスト・グループ「Generation HD」の監督たち。カルロス・フローレスを指導者に、『トニー・マネロ』のパブロ・ラライン監督が中心のグループです。

: そして今回、フェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』が加わった。

: このグループについては、『ヴォイス・オーヴァー』上映で、ヒメネス監督が三度目の来日をされたので、Q&Aの様子も含めて報告したい。『グロリアの青春』の主演女優パウリナ・ガルシアが主演者の二人の姉妹(写真下)の母親役で笑わせてくれました。


: 話が脱線気味です。デビュー作“Huacho”はサンダンス映画祭2008 NHK賞受賞(NHKは資金提供している)、ハバナ映画祭2009 初監督サンゴ賞を受賞している。(LB2014⑦参照)

: 2作目Sentados frente al fuego”(2011)もサンセバスチャン「ニューディレクター」部門、グアダラハラ「マーケット」部門、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ他に出品されている。

: オスカー賞2015に残る可能性は低いが、ゴヤ賞イベロアメリカ賞ノミネートは期待できる。

 

: 後回しになっていたチリのバルディビア国際映画祭で上映されましたが(1010日)、劇場公開は地域限定で何とか16日に公開された。国際映画祭上映はサンダンス映画祭がワールド・プレミアだったからアメリカを含めて多く、20152月にDVD発売もアナウンスされています。

 

ラテンビート2014*あれやこれや ①2014年10月27日 22:56

★新宿会場バルト9上映前に記事にした10作品のうち、『Flowers』を台風直撃で断念、25日やっと東京国際映画祭TIFFで観てきました(UPTIFFコーナーで)。アレックス・デ・ラ・イグレシア特集の作品は「Q&A」のかたちで既にアップ済み、残る6作品の感想を「とても良かった(期待以上だった)」あるいは「期待したほどじゃなかった(普通)」など、あれやこれやと落ち穂拾いします。

 

     もう少しヒネリがあると思っていた「デリリオ」

 

: 1011日(土)上映5本のうち『デリリオ―歓喜のサルサ』LB925)が一番席が埋まっていた。これを意外と感じたのは管理人だけかしら。チュス・グティエレス監督の持ち味である「二つの文化や価値観の違い」の描かれ方が曖昧だったせいか。

 期待しすぎ、Retorna a Hansala”(2008)のイメージが強かったのではないか。

: 社会的不平等や政治腐敗をやんわり批判するのにロマンティック・コメディは最適なんですが。

: 全く描かれなかったわけではないし、ダメ男に見切りをつけ、サルサのダンサー兼振付師として、頑張って娘を育てている主人公アンジーに共感する女性観客は多かったのではないか。サルサのレベルについては知識がありませんが、とても愉しめました。

 


: 当たり前の話ですが、街中のクラブで踊られるサルサとサルサ・ショー用のサルサはまったく別のものですね。

: クラブであんなに飛んだり跳ねたりしたら周りに怪我人続出です()。タンゴやフラメンコも同じことがいえます。

: TIFFで同じカリを舞台にした映画『ロス・ホンゴス』を観たのですが、あれもカリ、これもカリ、同じ都会でもさまざまな顔を持っているから、一つだけで分かったと思わないことですね。

: 政治や歴史の本を読まなくても、映画は楽しみながら他国の理解を深められる素晴らしいガイドブックです。心の窓を開けて、知るのではなく自然体で感じることが大切。

 

     観客が望んだ英雄像を描いた「解放者ボリバル」

 

: アルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』トロント④2013916)は、オスカー賞2015ベネズエラ代表作品に選ばれましたが、どうせ選ぶなら昨年にすればよかった。

: トロント映画祭2013のガラ・プレゼン、2013年は「ボリバル生誕230年」ということで盛り上がった年でした。

: ボリバルになったエドガー・ラミレスは、オリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』で、伝説のテロリスト「ザ・ジャッカル」を演じた俳優。なかなかの力演でしたが、ボリバルはもっと複雑な人物だったのではないか。勿論これは役者の責任ではないが。

: 監督は、ベネズエラ国民なら誰でも知ってる英雄、何を入れて何を省くか、テーマが大きすぎて何から手をつけていいか悩んだそうです。

 

 (資産家のお坊ちゃんでしかなかった頃のボリバルと未来の妻マリア・テレサ・デ・トロ)

 

: それにしてはフィクション部分が多すぎました。史実とは開きがあって、まだプリンスだったときのスペイン国王フェルナンド7世と今のテニスみたいな競技をするなんて全く根拠がない()。当時、貴族の間で大流行していたのは本当ですが。

: 伯父さんと違って、そもそも彼はスペイン宮廷に出入りできなかった。しかし将来ボリバルが戦うことになる人物ですから伏線を張りたかったのでしょう。

: 細かいことですが、フランス語は堪能でも英語は映画のように流暢には話せなかったそうです。扮したラミレスは、武官だった父親が欧州各国を転任したことで英伊独仏とできるから吹替えなしでした。

 

: 新婚早々黄熱病であえなく亡くなってしまうマリア・テレサの美しさは飛びぬけている。

: マヌエル・マルティン・クエンカの長編第1作“La flaqueza del bolchevique”(03)でデビューしたときは、「スペインの名花」と言われた少女マリア・バルベルデ1987マドリード)も大人の女性になりました。この愛妻の早すぎた死をずっとボリバルは引きずっていたと言われている。

: ボリバルが新妻の紹介を兼ねてイマノル・アリアス扮する植民地行政官ドミンゴ・デ・モンテベルデを昼食に招くシーン、アリアスは実に憎たらしかった()

 

: 贔屓の俳優ですけど。あのシーンもフィクション、軍人政治家でしたから立派な軍服姿のドミンゴ・デ・モンテベルデはボリバルの家族とは会っていない。資産家とはいえ統治国のトップが昼食に出向くはずがない、そういう時代です。ボリバルの少年時代からの恩師シモン・ロドリゲスもマリア・テレサと面識がなかった。彼は1802年当時にはカラカスではなくヨーロッパ、多分パリ在住だった。

: 監督がラテンアメリカから選んだのが、人生後半にエクアドルのキトで出会うマヌエラ・サエンス役のフアナ・アコスタ。実在の女性で、ボリバルの永遠の<愛人>と言われた女性。

 

            (雪のアンデス越えをした解放者ボリバル)

 

: エクアドルのマヌエリータを演じたフアナ・アコスタは、美人量産国コロンビアはカリ生れ(1976)、アルゼンチンの俳優エルネスト・アルテリオと結婚、子供もおります。

: 同じくラテンアメリカからは、ボリバルが唯一信頼していたというスクレ将軍には、ベネズエラのエーリッヒ・Wildpred、似せるため髪の毛を巻き毛にしたそうです。

: 彼がボリバルと初めて会ったときは16歳で、まだ映画のような成人ではなかった。最後の別れも直接の別れではなく、スクレが訪ねたときには、ボリバルは既に出発してしまっていた。

 

: アイルランド出身のボリバルの副官ダニエル・オレリー将軍にはイギリスのイワン・レオン、ジェームズ・ルーク大佐にはスコットランド出身のゲイリー・ルイスなど国際色豊か。

: ストーリーも虚実豊か。実はアンデス越えを指揮したのはボリバルではなく配下のパラモ・デ・ピスバだった。そういうわけで彼は映画には登場しなかった。ダニー・ヒューストン扮する英国人など実在していた証拠がない、あの戦場にボリバルはいなかった、あの頃はまだ誰々とは出会っていなかった、エトセトラ、エトセトラ。伝記映画にはよくある話です。 

        (ダニー・ヒューストン、実在しなかったといわれる英国人)

 

: 一万人のエキストラ、何百頭もの馬、セットも大掛かり、スペインのマドリード、カディス、セビリャのカルモナでも撮っている。

: 製作費はトータルで約5000万ドル、その中にはベネズエラ政府から提供された資金も含まれている。スペインやドイツが約3000万ユーロを負担したという。

: だからあのような大掛かりな撮影も可能になったというわけですね。

 

: 何はともあれ、製作費は回収できなくても、ベネズエラの若い観客には受け入れられたようです。2013年製作された他のボリバル映画はイマイチで、アルベロ<ボリバル>が一番評価が高かったようです。映画は少年時代から始まっており、もっと時代とかテーマを絞ったほうがよかったかもしれない。なお、監督の他作品紹介、音楽監督、エドガー・ラミレスについてはトロント映画祭2013にアップしております。

  

アレックス・デ・ラ・イグレシア特集 『トガリネズミの巣穴』 *LB2014 ⑫2014年10月22日 22:08

★トロント映画祭2014「バンガードVanguard 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。「スペイン公開前に東京で上映して頂けて製作者として本当に誇りに思う」と、エグゼクティブ・プロデューサーのアレックス・デ・ラ・イグレシアEFEのインタビューに語っていましたが、日本はスペイン産ホラーのファンが多い。スペイン公開はクリスマスの1225日が決定しています。なおMusarañasShrew’s Nest)のデータは、簡単にトロント映画祭ノミネーションでアップしていますが(コチラ⇒813)、文末にキャストとプロット、監督紹介を付録として採録しました。

 


     登壇しなかったカロリーナ・バング

 

: 21時からの上映にも拘わらず結構入っていたのは、ホラー映画だったからですかね。

: デ・ラ・イグレシア来日が大きかったのじゃないですか。一口にホラーといってもタイプによりけり、『REC』シリーズはあまり怖くないですが、これはちょっと不気味。

: 『スガラムルディの魔女』でもクレームつけましたが、共同プロデューサー、出演者でもあったカロリーナ・バングをどうして登壇させなかったんですかね。シッチェス・ファンタジック映画祭のプレス会見では並んで座っていた。写真の角度がずれてバングのプレートがウーゴ・シルバの前にきてしまっていますが。

 

   (左から、マカレナ、シルバ、バング、デ・ラ・イグレシア、シッチェス104

 

: 今年のゲストはたったの二人と稀少価値もあったのに。デ・ラ・イグレシアが前列に座っていたバングを見やって、「この作品は彼女が持ってきた企画です」と気遣ってましたが、二人の監督の紹介すらなかった()

: プレス会見席上、デ・ラ・イグレシアは「二人はまだ駆け出しの監督ですが、この映画は<完全に>二人の監督の映画です」と、自分に質問が集中しないよう二人の才能と経験を賞讃していました。「トビー・フーバーの『悪魔のいけにえ』4回も観たという友人と一緒に楽しみを共有できた」とも。

1974年製作のホラー映画の原点、原題は直訳すると「テキサス・チェーンソー虐殺」。4000万ドルの製作費で60億(2006データ)の収益をあげたというヒット作。

 

: 二人の新人監督とは、フアン・フェルナンド(フアンフェル)・アンドレスとエステバン・ロエルです。共に長編デビュー作、脚本も同じです。バングは以前、二人の短編0362011)に出演しており、その関わりです。

: Youtube 200万回のアクセスがあったという短編ですね。

: デ・ラ・イグレシアが若い二人に資金援助をして製作した。デ・ラ・イグレシアはカロリーナと新しく製作会社 PokeepsieFilmsを立ち上げ、その第1作が本作。ファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな二人を船出させた。

 

            (シッチェスに勢揃いしたスタッフとキャスト)

 

: かつてのデ・ラ・イグレシア自身がアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」の資金援助を受け、『ハイルミュタンテ!~』をデビューさせたのでした。

: 兄弟に足を向けては寝られない。初めてシナリオを目にしたシネアストは、「これは時代をスペイン内戦後の1940年代に設定したら面白くなる」と直感したそうです。

: 結局は1950年代のマドリードになったわけですが、50年代の一般庶民は内戦を引きずって飢え死にこそしなかったが貧しかった。それにしては姉妹の部屋は広く生活に困っているふうではなかった。

 薄暗いマンションでしたが、それに比較して調度品やコーヒーセットなどは、映画の宣伝ポスターからも分かるように高級感がありましたね。驚くことに父親がカメラを持っていた!

 

     『何がジェーンに起こったか?』がアタマにあった

 

: フアンフェル・アンドレス監督によると、シナリオを書いているあいだ常に『何がジェーンに起こったか?』が念頭にあった。

: ロバート・アルドリッチの1962年製作の映画、ベティ・デイヴィスが妹、ジョーン・クロフォードが姉を演じた。その後多くの監督のみならず俳優たちにも影響を与えたクラシック名画。

: ロブ・ライナーの『ミザリー』も挙げていた。キャシー・ベイツにアカデミー主演女優賞をもたらした、怖い映画でした。

: こちらは1990年製作だし吹替え版もあるほどだから観てる人多いでしょう。この2作は「トガリネズミ」のヒントになります。それにカメラ、ホラー・スリラーですから、衝撃のラストは言えませんけど()。ジグソーパズルのように嵌めこんでみてください。

 

: ラテンビートの上映は、まだ大阪・横浜とありますからネタバレできない。シネアストのトークの全てを書いてしまうと分かってしまう。

: 本ブログは新作とか上映中のもの、特にスリラーのネタバレは避けている。何人か血は流れますが、誰とか凶器とかは書けません。ただ普通はモンスターは男性だがここでは逆転している。怖がるのは女でなく男です。

 

: 親が子供に与える虐待は、当時も実際に起こっていたことだと語っていました。

: これはフランコ体制に対するメタファーです。本作はホラーとしてはかなり政治的メッセージが濃厚で、強制された宗教教育の弊害も盛り込まれています。

 

     モンセの妹役は最初からナディアに決めていた

 

: この映画の成功はひとえにモンセ役のマカレナ・ゴメスの怪演につきます。『スガラムルディの魔女』でもマドリードの魔女を見事に演じました()

: 監督たちも「マカレナはホラー・ファンには絶大な人気があり、彼女は日常では見せない顔を出してくれると確信していた。その通りになった」と、彼女が引き受けてくれた幸運を喜んでいた。

: 真に迫った狂気の目が印象的です。

: 素顔のマカレナ・ゴメス(1978コルドバ)はとてもかわいい。ミュージシャンのアルド・コマスと結婚、マカレナは妊娠を公開したばかり。未公開ながらミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化されている(2010発売)。

 

: ブリュッセル・ファンタジー映画祭でペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。

: アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。サン・フアンはアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』で女性に性転換したアグラード役で、観客に鮮烈な印象を残した女優。現在は女優と監督の二足の草鞋を履いている。

: 主役のセシリア・ロスやマリサ・パレデスを食ってしまった。

 

           (アツアツの夫アルド・コマスとのツーショット)

 

: モンセの妹役は最初からナディアに決めていた。ナディア・デ・サンティアゴは、1990年マドリード生れだから、10代の妹役はギリギリです。12歳のテレビ・デビューから数えると結構芸歴は長く本数も比例して多い。サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』(ラテンビート2006)や『アラトリステ』(06)にも出演している。ゴヤ賞ノミネートの話題作だったエミリオ・マルティネス・ラサロの“Las 13 rosas”(07)やハビエル・レボジョの“La mujer sin piano”(09)にも。