ウエルバ映画祭2017結果発表*アルゼンチンの「La novia del desierto」2017年11月24日 14:05

             二人の女性監督のデビュー作が「金のコロン」作品賞を受賞

  

   

★第43回を迎えたイベロアメリカ・ウエルバ映画祭2017の結果発表がありました(1118日)。本映画祭紹介は初めてですが、今年は当ブログで紹介したアルゼンチンのセシリア・アタンバレリア・ピバトの長編デビュー作La novia del desierto(アルゼンチン=チリ合作)が最優秀作品賞「金のコロン」(ゴールデン・コロンブス賞)、主演のパウリナ・ガルシアが女優賞「銀のコロン」、同じく共演者のクラウディオ・リッシが男優賞、さらに合作映画に与えられる共同製作賞などの大賞を独り占めしたのでアップいたします。カンヌ映画祭2017「ある視点」ノミネーション作品。

La novia del desierto」の紹介記事は、コチラ2017514

 

 

(パウリナ・ガルシアとクラウディオ・リッシ)

 

 

                 (二人の監督、セシリア・アタンとバレリア・ピバト) 

 

★授賞式には両監督は欠席、主役のパウリナ・ガルシアがメッセージを代読、配給元のプロデューサーロレア・エルソが「世界のすべてのテレサたちに捧ぐ」とコメントした(テレサとはパウリナが演じた54歳になる身寄りのない家政婦の名前)。プレゼンテーターは今回の審査委員長メキシコの監督ルシア・カレーラス、日本では『うるう年の秘め事』(マイケル・ロウ、LB2011)や『金の鳥籠』(ディエゴ・ケマダ=ディエス、難民映画祭2014の脚本家として認知されているが、2011年「Nos vemos, papa」で監督デビューを果たし、2016年の第2作「Tamara y la Catarina」は評価も高く、今回の審査委員長指名になった。

 

   

   (左から、ルシア・カレーラス、パウリナ・ガルシア、ロレア・エルソ、授賞式にて)

 

★ウエルバ市はアンダルシア州ウエルバ県の県都、隣県セビーリャ、カディス、バダホス、ポルトガルに接し、南はカディス湾に面している。どちらかというと芸術文化には縁の薄い産業と農業の町です。作品賞に命名された「コロン」は、1492年にコロンブスが最初の航海に出た港がウエルバ県のパロス・デ・ラ・フロンテラだったからです。まだフランコ体制だった1974年設立、第1回開催が1975年、インターナショナルではなくスペイン語とポルトガル語映画に特化した映画祭、イベロアメリカの発展振興を世界に向けて発信するのが目的です。今年の受賞国アルゼンチンが10回、続くブラジルとチリが7回、他スペイン、ポルトガル、メキシコ、キューバ、ウルグアイなどが各35回、時代によってかなり変化があります。

 

★オフィシャル・セレクションはドキュメンタリーを含む長編と短編に分かれ、長編部門の最高賞が「金のコロン」、短編が「銀のカラベラ」です。カラベラcarabela156世紀の航海時代に使用された3本マストの快速小型帆船のことで、コロンブスの第1回航海に使用されたことに因んで命名された。従って金賞は長編作品賞のみです。他にコンペティション部門とは関係なく選ばれる、栄誉賞にあたる「ウエルバ市賞」(1998年より)、アンダルシア出身の監督作品に与えられる「フアン・ラモン・ヒメネス賞」、新人監督賞、観客賞(El eco de los aplausos)他があります。

 

★今年は12作がノミネートされ、そのうち当ブログで紹介した作品は、受賞作の他、ベルリン映画祭2017の銀熊脚本賞に輝いたセバスティアン・レリオUna mujer fantástica(チリ)、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に正式出品されたマルセラ・サイド2Los perros(チリ)、エベラルド・ゴンサレスのメキシコの闇を切り取った問題作La libertad del díablo(メキシコ、ドキュメンタリー)などがあります。賞に絡んだのは、マルセラ・サイドの「Los perros」が「イベロアメリカの現実を反映した映画」として、ラジオ・エクステリアRadio Exterior de España賞、主役を演じたダニエラ・ベガが女優賞を取るかと予想した、セバスティアン・レリオのUna mujer fantástica」は観客賞を受賞した。既にベルリンやカンヌでワールド・プレミアした作品ですが、チリの躍進が目立った印象でした。

  

「Una mujer fantástica」の紹介記事は、コチラ⇒2017年1月26日同年2月22日

「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年5月1日

「La libertad del diablo」の紹介記事は、コチラ⇒2017年2月22日

 

 

 

 (アントニア・セヘルスとアルフレッド・カストロ、ポスターから)

 

(マルセラ・サイド監督)

 

 

(女性に性転換したマリアを演じたダニエラ・ベガ、映画から)

  

  

             (La libertad del díablo」のエベラルド・ゴンサレス監督)

  

★栄誉賞「ウエルバ市賞」をアルゼンチンの俳優ダリオ・グランディネッティが受賞、登壇したハイメ・チャバリにエスコートされたアナ・フェルナンデスの手からトロフィーを受け取った。1959年サンタ・フェ生れの58歳、アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』や『ジュリエッタ』、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』で知名度を高めている。2016年の受賞者はキューバのホルヘ・ぺルゴリア、2015年はベレン・ルエダアイタナ・サンチェス=ヒホンの複数、年によって数がまちまちです。他にアルゼンチンからは、アドルフォ・アリスタライン監督、ベテラン俳優のフェデリコ・ルッピ、レオナルド・スバラグリア、エルネスト・アルテリオなどが受賞者。

 

   

            (トロフィーを手にダリオ・グランディネッティ)

 

第14回セビーリャ映画祭2017*結果発表2017年11月15日 15:46

           「金のヒラルダ賞」はポルトガルの A fábrica de nada 

 

   

★映画祭最終日の1111日夜にロペ・デ・ベガ劇場で結果発表がありました。審査員はトーマス・アルスラン、アガート・ボニゼール、フェルナンド・フランコ、パオロ・モレッティ、バレリエ・デルピエレの6人。スペインのメイン映画祭としては締めくくりとなるセビーリャ映画祭の金のヒラルダ賞Giraldillo de Oroを制したのは、ポルトガルのペドロ・ピニュPedro Pinho A fábrica de nadaThe Nothing Factory)でした。カンヌ映画祭併催の「監督週間」のFIPRESCI受賞作品。ドキュメンタリーとフィクションさらにミュージカルを大胆にミックスさせ、現代ポルトガルの複雑な経済状況をレトリックを排した詩的な視点で切り取り、そのオリジナル性が評価された。スペイン語映画ではありませんが、これは公開が待たれる映画の一つです。

 

 

 

★上映時間3時間に及ぶミュージカル・ドラマ A fábrica de nada 完成の道のりは困難を極めたと監督、本国ポルトガルでも9月下旬に公開できたのは映画祭の評価のお蔭とも語っていた。ヨーロッパといってもフランスのような映画大国とは異なり、ポルトガルの現状は厳しい。「経済危機は全ヨーロッパで起きている普遍的なテーマだから、海外の観客にも容易に受け入れられてもらえると思う」と、受賞の喜びを言葉少なに語っていた。また「ペドロ・コスタやセーザル・モンティロのような同胞が道を開いてくれたお蔭」と先輩監督への感謝も述べていた。若いが謙虚な人だ。映画祭上映以外では、目下のところアルゼンチンとフランスが公開を予定している。

 

(ペドロ・ピニュ監督)

 

審査員大賞:ドイツ映画 Western(監督ヴァレスカ・グリーゼバッハの第3作)カンヌ映画祭コンペティション外出品、多くの国際映画祭に出品されている。

    

審査員スペシャル・メンションルクレシア・マルテル『サマ』(アルゼンチン、スペイン他合作)、ベネチア映画祭コンペティション外出品、話題作ながら過去の映画祭受賞歴がなく、やっと審査員賞に漕ぎつけました。アカデミー賞外国語映画賞アルゼンチン代表作品。

『サマ』の紹介記事は、コチラ201710131020

 

   

 

監督賞:フランスのマチュー・アマルリック Barbara、カンヌ映画祭「ある視点」出品、シネマ・ポエトリー賞受賞作品。「映画はこの上なく強力になっている。(ヨーロッパ)映画の寿命が尽きたというのは間違いだ。私は楽観主義者なんだ」とアマルリック監督。彼は映画の将来性を信じているネアカ監督、独立系の制作会社で苦労したペドロ・ピニュとは対極の立場、互いの置かれた状況が鮮明です。「以前のようにはいかないが」カンヌ映画祭の後、15ヵ国で公開されたとも。新しい技術の導入でコストも下げられることを上げていた。

 

   

 (ヨーロッパ映画は死んでいないと語る、マチュー・アマルリック、セビーリャ映画祭にて)

 

男優賞:イタリアのジョナス・カルピニャーノの第2作目 A Ciambra 14歳の主人公を演じたピオ・アマトが男優賞を受賞しました。カルピニャーノの同名短編 A Ciambra201416分)、数々の受賞歴のあるデビュー作『地中海』(2015)にも出演しており、こちらはイタリア映画祭2016で上映された。家族の団結が最優先のシチリア島のチャンブラを舞台に、ロマの少年ピオと家族が遭遇する困難が語られる。キャスト陣も重なっており、いわば短編とデビュー作のスピン・オフ的作品。シチリア系移民の家庭に育ったマーティン・スコセッシがエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。個人的に金賞を予想していたのが本作でした。カンヌ映画祭併催の「監督週間」でラベル・ヨーロッパ映画賞受賞、アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表作品。

 

     

                       (男優賞受賞のピオ・アマト、映画から)

 

      

 

★その他、女優賞はイタリア映画 Pure Hearts Selene Caramazza セレネ・カラマツァ、脚本賞はフランス映画 A Violent Life ティエリー・ド・ペレッティ撮影賞はデンマーク=アイスランド合作映画 Winter Brothers Maria von Hausswolff など、主要な賞はそれなりにばらけました。

 

アンダルシア・シネマライターズ連合ASECAN作品賞には、カルロス・マルケス=マルセ Tierra firmeAnchor and Hope)が受賞した。スペイン公開1124日。

Tierra firme の簡単な紹介記事は、コチラ2017117

 

    

    (左から、ナタリエ・テナ、ウーナ・チャップリン、ダビ・ベルダゲル、映画から)

 

Las nuevas Olas」いわゆるニューウエーブ部門はセビーリャ大学の関係者6名が審査に当たる。スペイン語映画をピックアップすると、作品賞にはアドリアン・オルのドキュメンタリー Niñato が受賞した。

 Niñato の紹介記事は、コチラ2017523

 

   

        (アドリアン・オルのドキュメンタリー Niñato のポスター

 

オフィシャル・コンペティション・レジスタンス部門の作品賞には、パブロ・ジョルカ Ternura y la tercera persona が受賞した。この受賞者にはDELUXEとして次回長編プロジェクトのためのマスターDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)最高6000ユーロが提供される。

 

DELUXEには、マヌエル・ムニョス・リバス El mar nos mira de lejos が受賞した。マスターDCPが提供される。

  

★主なスペイン語映画の受賞作は以上の通りです。1年で360日はどこかで開催されているのが映画祭、現在でもスペインではウエルバ映画祭が開催中、インディペンデントの映画祭がなければ埋もれてしまう作品が多数、受賞して運よく公開されても1週間で打ち切りになるケースもあるとか、映画の平均寿命は年々短くなっているというのが、映画祭関係者の悩みのようです。スクリーンでは観ないという観客が増えていく傾向にあり、鑑賞媒体の変化に対応する工夫が必要な時代になったのは確かです。

 

セビーリャ・ヨーロッパ映画祭*”Mimosas”が審査員特別賞2016年11月25日 10:41

          「金のヒラルダ」賞はフランス映画“Ma Loute

 

★第13回セビーリャ・ヨーロッパ映画祭(114日~12日)は、「金のヒラルダGiraldillo de Oro」賞にブリュノ・デュモンBruno DumontMa Louteを、審査員特別賞にオリヴェル・ラセMimosasを選んで閉幕しました。前者はカンヌ映画祭2016のコンペティション正式出品、後者は同映画祭のパラレル・セクション「批評家週間」のグランプリ受賞作品、大賞は二つともカンヌ絡みでした。年後半の11月に開催される映画祭はどうしても金太郎飴になりがちですが、どの製作会社も春と秋に照準を合わせるから致し方ありません。Ma Loute”は社会階級についての辛辣な寓話、いずれ公開されるのではないか。昨年はホセ・ルイス・ゲリンの『ミューズ・アカデミー』がまさかの「金のヒラルダ」を受賞して驚いたのでした。セビーリャ上映がスペイン・プレミア、東京国際映画祭で上映されたばかりだったから、私たちのほうが先だったのです。

 

 

  

★“Mimosas”の作品紹介はカンヌ映画祭で既にアップしております。オリヴェル・ラセOliver Laxe1982年パリ生れ、ガリシアへ移民してきたガジェゴ(gallego)。カタカナ表記はフランス語読みにしましたが、ガリシア語ならオリベル・ラシェかと思います。カンヌ映画祭2010のパラレル・セクション「監督週間」に出品したデビュー作Todos vós sodes capitáns(“Todos vosotros sois capitanes/You All Are Captains2010,カラー&モノクロ、78分、スペイン語・アラビア語・フランス語)が、国際映画批評家連盟賞FIPRESCIを受賞しています。スペイン映画アカデミーが翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネートしなかったことで一部から批判されるということがありました。

Mimosas”の作品紹介記事は、コチラ⇒2016年522

 

   

 

   

      (撮影中のオリヴェル・ラセ)

 

6年ぶりに撮った第2作“Mimosas”(モロッコ=スペイン=フランス、アラビア語)がカンヌ映画祭「批評家週間」でグランプリを受賞したうえ、今回の審査員特別賞とスペシャル・メンション音響デザイン&編集賞を受賞したことで、来年のゴヤ賞ノミネーションの行方が気になってきました。デビュー作ではないが初ノミネーションとして「新人監督賞」のカテゴリーの可能性があるかもしれません。過去にそういう事例があります。

 

★他にも何作か受賞作品がありますが、なかでパブロ・リョルカ(ジョルカ)Pablo Llorca CasanuevaDías color naranjaが「新しい波」部門のデラックス賞を受賞しました。1963年マドリード生れ、監督、脚本家、製作者。大学では芸術史を専攻、その後映画を学んで80年代後半から短編を発表、代表作品は“La espalda de Dios”(2001、西語)、ドイツで撮影した冷戦時代のスパイ物“La cicatriz”(2005、英語・独語)は、マラガ映画祭ZONA-CINEセクションの作品賞・脚本賞を受賞しています。

 

★こんなお話です。自由を満喫できる夏、手軽な手荷物一つの気ままな列車の旅、新しい体験、列車で知り合った仲間との冒険、芽生えたつかの間の恋、これこそ〈オレンジ色の日々〉というにふさわしい。2010年の夏、アイスランドの火山が爆発したせいで、韓国旅行からの帰途にあったアルバロは、アテネに足留めになってしまう。こうして列車の旅が始まったのだ。スウェーデンのベルタとは、ディケンズの『ピケウィック・クラブ』が縁で親しくなった。

 

     

           (アルバロとベルタ、“Días color naranja”から)

 

ルイス・マリアスのスリラー”Fuego”*暴力の連鎖2014年12月11日 19:14

2015年公開予定が早くも今月公開に早まりました。いわゆるETAものという範疇に入りますが、テロは終息しつつあるとはいっても、当事者にとって「傷口は開いたまま」ということでしょうか。本作については製作発表のとき既に記事にしており、プロット、監督、主演のホセ・コロナドなどの紹介を簡単にしております(コチラ⇒2014320)。製作発表段階の意図と完成作品に大きな違いがない印象ですので、参照頂けると嬉しい。

 

     Fuego

製作:Deparmento de Cultura del Gobierno Vasco / Fausto Producciones Cinematograficas 他

監督・脚本:ルイス・マリアス

撮影:パウ・モンラスPau Monras

音楽:Aritz Villodas

美術:ギジェルモ・リャグノLlaguno

製作者:エドゥアルド・カルネロス

データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、ETA、撮影地ビルバオ、第52回ヒホン国際映画祭2014コンペティション、20141128日スペイン公開

キャスト:ホセ・コロナド(カルロス)、アイダ・フォルチ(カルロス娘アルバ)レイレ・ベロカル(テロリスト妻オイアナ)、ゴルカ・スフィアウレ(同息子Aritz)、ハイメ・アダリド(マリウス)他 


プロット:元警察官カルロスの復讐劇。エタの自動車爆弾テロで妻を殺され、当時10歳だった娘は両脚を失う。11年後、カルロスは服役中のテロ実行犯に復讐を誓いながらバルセロナで暮らしている。自分の家族が受けた苦しみを同じだけ犯人の妻と息子に与える、「私こそが正義である」。憎しみと復讐で始まるがやがて内面の炎は悲しみとパッションに移ろっていく。登場人物たちは、それぞれ社会的イデオロギー的に異なった立場にいるため、その苦しみも複雑に交錯しながら物語は進行する。

 

52回ヒホン国際映画祭20141122日~29日)

★第52回ヒホン映画祭で唯一コンペに残ったスペイン映画、会場にはスタッフ、キャスト陣が揃って登場した。主役の三人のうち、コロナド、フォルチは既に登場、テロ実行犯の妻役ベロカルはまだ日本では未紹介です。スペインでもあまり知られていない女優、監督自身も脚本を手掛けたラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”(96)で知り合った由。

 

  (左から、ベロカル、中央監督、隣りフォルチ、最右翼コロナド、ヒホン映画祭にて)

 

「傷口は開いたまま」

★本作について、「このスリラーは、バスクの歴史に基づいているが、どこでも起こりうる事件であり、特別エタものとして撮ったわけではない。何故なら激しい苦痛を感じている人の憎しみや暴力、痛みがもたらす結果を描いているからです」と、ヒホンのプレス会見で語っています。ETAの暴力について撮ることには「はっきりしたタブー」があったが、やっと解禁された。未来志向の観客が、この映画を見ることで共生を深く考えるきっかけになればと願っている。「テロの犠牲者の傷口は開いたまま癒えていない」とも語っていました。難しいですね。

 

テロの犠牲者も幸せになる価値がある

★撮影は厳しかったそうだが、結果には満足している。しかし心にしこりをもったままで希望を抱くのは厳しい。それぞれ抱えている過去、傷痕、将来への考え方が異なるから当然です。ホセ・コロナドによると「寛容で乗り越えるのは容易なことではないが、でも乗り越えようという動きが出はじめている。この映画が皆の心を動かし、よい影響を与えあうようになることを期待している」と、既にこの30年間で40作の映画に出演しているベテランもコメントを寄せている。カルロスは元警察官だから正義を行う人だが、現在は復讐者である。実際まるで「ジギルとハイド」のモデルのような役だから、最後までどちら側に自分を置いたらいいのか難しかった。役柄を落ち着かせるため、<尊敬している>エンリケ・ウルビスがやるようにバスクをあちこち歩き回りながら観察してまわったそうです。結果的には、どちら側でもない第三の生き方を見つけることになるんでしょうね。監督からは凄い集中力を求められたが関係は素晴らしかったそうで、撮影は納得いくものになったということでしょう。ゴヤ賞に絡むと予想しますが、『悪人に平穏なし』に近すぎるかな

 

ルイス・マリアスLuis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。1988年、脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスの“Mensaka”(1998)の脚色が評価された。監督デビュー作は“X”(2002)とかなり前の作品、“Fuego”が第2作になります。TVミニシリーズ“Gernika bajo las bombas”(2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937426日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。


1作“X”にはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫5072002」でホセ・コロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じている。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。

 

ホセ・コロナドJosé Coronadoは、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていた。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義「移行期」というのは混乱期でもあった。映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです。その後30歳になる直前に演技の勉強を思いたち、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(87)で映画デビュー、1989『スパニッシュ・コネクション』の邦題でビデオが発売されている。初期の話題作では、イマノル・ウリベの“La luna negra”(89)、ビセンテ・アランダの“La mirada del otra”(98)、カルロス・サウラの『(ボルドーの)ゴヤ』(99)では青年時代のゴヤになった。

 

                  (撮影中のコロナド)

 

やはり今世紀に入ってからの活躍が目立ちます。主役を演じたエドゥアルド・コルテスの“La vida de nadie”(02)、エンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)、“La vida mancha”(03)とゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』(11)、ミゲル・コルトワのETAの実話を基にした“El Lobo”(04)と“GAL”(06)、アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』13)、オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』13)など、公開作品も多いほうですね。

 

アイダ・フォルチAida Folch1986年、カタルーニャのタラゴナ生れ、女優。子役でフェルナンド・トゥルエバの“El embrujo de Shanghai”(02)でデビュー、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、公開されたF・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』12)、本作でゴヤ賞2013主演女優賞ノミネート、トゥリア賞2013女優賞を受賞した。他にアントニオ・チャバリアスの“Las vidas de Celia”(06)、Patxi Amescuaの“25 kilates”(08)で翌年のマラガ映画祭の女優賞を受賞している。来年になるが、ホセ・コルバチョ&フアン・クルスのコメディ“Incidencias”(15)に出演している。他、短編、TVドラ多数。




レイレ・ベロカル
Leyre Berrocal1973年ビルバオ生れ、女優、脚本家。フアン・ビセンテ・コルドバの“Entre con sol”(95)、前出のラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”、ペドロ・ペレス・ロサドの“Agua con sal”(05)など。

 

              (レイレ・ベロカル、“Fuego”から)

ロドリーゴ・ソロゴイェンの”Stockholm”2014年06月17日 11:41

★ロドリーゴ・ソロゴイェンの5年振りとなる新作Stockholmは、マラガ映画祭2013の正式出品映画です。デビュー作8 citasがマラガ映画祭2008で紹介されて以来テレビに戻っていた。新作は監督賞、共同脚本執筆のイサベル・ペーニャと新人脚本賞、アウラ・ガリードが女優賞と3賞を制覇しました。これが快進撃の始まりでしたが、高い評価にも拘わらず配給元が見つからず「映画祭だけの映画」の陰口も聞こえてきて、今もってスペインでさえ未公開です。もっとも彼と同じ世代は映画館に足を向けないのですが。

 


★本ブログではアウラ・ガリードについては新年の挨拶とゴヤ賞2014予想記事の主演女優賞の項113日)、監督と新人男優賞を受賞したハビエル・ペレイラについては新人監督賞・新人男優賞の項114日)でご紹介しています。最近ルーマニアのトランシルバニア映画祭でグランプリを受賞したこと、低予算(6万ユーロ!)でも映画製作が可能であること、ネットでの資金集めなど、大資本に頼らないで危機を乗り越えようとしている若手監督にエールを送りたいと改めてアップいたします。

 

ルーマニアのトランシルバニアで2002年にスタートした比較的新しい国際映画祭。東京国際映画祭と同じように若手育成を目的にデビュー作から2作目までの監督がコンペティション対象者。ルーマニアは初代大統領のチャウシェスクの独裁政権が24年間も続き、ルーマニア革命で1989年末に銃殺刑に処されたことは世界が知ってることです。映画後進国といってもよいかと思いますが、カンヌ映画祭2007のパルムドールを受賞したクリスチャン・ムンジウの『4ヶ月、3週と2日』など近年の躍進は目覚ましく、ラテンアメリカ諸国からもサンダンスやロッテルダム映画祭と同じように本映画祭の応募が増えてきています。2012年のスペイン語映画では、ドミンガ・ソトマジョール・カステージョのデビュー作『木曜から日曜まで』(チリ≂オランダ、東京国際FF上映邦題)の撮影監督バルバラ・アルバレスが撮影賞を受賞、『ウイスキー』や『幸せパズル』を撮っているベテラン。監督はロッテルダムのタイガー賞を受賞しています。2013年ではアドリアン・サバのEl limpiador(ペルー)が国際批評家連盟賞、アナ・ゲバラ&レティシア・ホルヘのTanta agua(ウルグアイ≂メキシコ他)が審査員特別賞を受賞、前者は1回イベロアメリカ・プラチナ賞男優賞部門にビクトル・プラダがノミネートされた優れた作品です(417UP)。

 

   Stockholm

製作: Caballo Films / Tourmalet Films

監督・脚本:ロドリーゴ・ソロゴイェン

脚本(共同):イサベル・ペーニャ

撮影:アレハンドロ・デ・パブロ

編集:アルベルト・デル・カンポ

 

キャスト:アウラ・ガリード(彼女)/ハビエル・ペレイラ(彼)/ロレナ・マテオ/
          ヘスス・カバ

データ:スペイン、スペイン語、2013年、撮影地マドリード・撮影期間13日間、90分       

受賞歴&ノミネート:マラガ映画祭2013(上記参照)/ゴヤ賞2014新人男優賞ハビエル・ペレイラ受賞、新人監督賞&主演女優賞アウラ・ガリードがノミネート/シネマ・ライターズ・サークル賞2014新人監督賞・女優賞・新人男優賞受賞及び作品賞・撮影賞・編集賞・脚本賞ノミネート/マイアミ映画祭20141作品コンペ部門出品/Feroz 2014作品賞受賞/サン・ジョルディ賞スペイン女優賞受賞、トランシルバニア映画祭グランプリ、主演の二人がパフォーマンス賞を受賞、その他モントリオール、トゥールーズ、ワルシャワ、モンペリエ、セルビア、ベルグラード各映画祭に正式出品された。

                    (写真:マラガ映画祭2013でのペレイラ、監督、ガリード)

 

プロット:ディスコで初めて会った<><彼女>の恋の行方。突然声をかけられた女は警戒して男になかなか心を開かない。恋に落ちてしまった男は諦めきれず<夜の廃墟>マドリード散策に誘い、やっとベッドに辿りつく。翌日<>は自分の想っていたような<彼女>でなかったことに気づく、何が起きたのか? ディスコで、しつこくなく感じも良い男に突然愛を告白されて一夜を過ごす。翌日<彼女>は自分が考えていたような<>でなかったことに気づく、何が起きたのか?

 

   キャリア&フィルモグラフィー

ロドリーゴ・ソロゴイェン(ソロゴジェン)Rodrigo Sorogoyen 1981年マドリード生れ、監督・脚本家・プロデューサー。マドリードの大学で歴史学の学士号を取得、大学の学業とオーディオビジュアルの勉強の両立を目指して映画アカデミーで学ぶ。その間3本の短編を制作して卒業。2004ECAMの映画脚本科に入り、並行してテレドラ の脚本執筆を始める。最終学年にペリス・ロマノとの共同脚本と監督のチャンスが訪れる。それが上記のデビュー作8 citasであり高い評価を受ける。本作にはフェルナンド・テヘロ、ベレン・ルエダ、ベロニカ・エチェギ、ラウル・アレバロ、ハビエル・ペレイラも出演しており、かなりの収益を上げることができた。

ECAMEscuela de Cinematografía y del Audiovisual de la Comunidad de Madridの頭文字。マドリード市が若手育成のためにスポンサーになっている。

 


その後テレビに復帰、代表作は<ローコスト>で制作したImpares2008)、Pecera de Eva2010)、Frágiles2012)など。テレドラの仕事はとても勉強になったと語っている。2012年よりStockholmの準備に入り、今回の数々の受賞を手にした。現在3作のプロジェクトが動き出しており、2015年の完成を目指して進行中である。その一つが脚本をダニエル・レモンと共同執筆しているEl presenteであり、資金が集まることを願っている。いずれバイオレンスをテーマに推理物を撮りたい。

 

「ボーイ・ミーツ・ガール」

★タイトルの<ストックホルム>って何のことですか。いわゆる「ストックホルム・シンドローム」のことでしょう。セルフ・マインドコントロール、恐怖と生存本能に基づく自己欺瞞的心理操作です。同じタイトルの映画が他にもあるのは、ちょっと興味の惹かれるタイトルだからでしょう。本作では危険な大都会の夜が醸しだすミステリアスな顔と、朝のまぶしい光線に守られた日常が対照的に映し出される。夜のあいだは無理して隠していた<彼女>の内面の問題がはっきりしてくる。数時間前には恋する男であった<>の唯一つの願いは、女が自分の視界から消えること。男は誘惑ゲームを終わりにしたいが、女は暫くつづけてもいい。「ボーイ・ミーツ・ガール」の行方はどうなるのか。 


★「二人の人間がどうやって関係を結ぶのかというテーマで映画を作りたかった」と監督。現代の若者はどうやって男と女の関係を築くのか、どこで、どのように始めるのか、ということですね。本能的な暴力が常に存在するなかで、「関係が上手くいかなくなったとき、素晴らしいのは嘘で言い逃れができたとき」とも語っている。大人の世界に入る条件は嘘をつけることだ。ここでは真実は語られず、話せば話すほど不自然さが明らかになる。

 

新しい試みwebでの資金調達の呼びかけ

★「本作はホントにミニチュアな映画です。13日間で撮影、製作費はトータルで6万ユーロでした。でも僕たちの映画の成功を信じてくれた多くの人々の支えで完成させることができました」。どういうことかと言うと、脚本を携えて次々とプロダクションの門を叩いてまわったが、脚本は突き返された。どうしても諦めきれず、「それなら自分たちで立ち上げよう」、そうしてweb verkami で資金協力を呼びかけた。40日間で8000ユーロ、最終的には13000ユーロという満足いく額になった。約300人の出資者が最少で5ユーロから最多2000ユーロと、塵も積もればナントヤラですね。お金がないから映画が作れないと嘆くだけが能ではありません。

 

★映画産業に携わっている関係者の間でディベートが盛んだそうですが、採用してくれるプロダクションがあるならそれに越したことはない。「この方法を何度も繰り返したいとは思わない」し、「スペインでは自分の世代は映画館に行かない人が多い。映画が広がるには配給会社が見つかることだが、できればテレビで放映してもらえるといい」と語っています。どの国でも配給システムは上手く機能しているとは思えないし、規模の大きいTVチャンネルが放映する映画は、かなり広範な人間を惹きつける必要がある。こういう地味な映画はその条件を満たせない。これからは「在来とは違う様式、例えばネット配信など、配給方法の新路線に順応していかねばならない」と考えているようです。

 

フェイスブックもツイッターもやらない

★日刊紙「ラ・ラソン」のインタビュアーから、自宅マンションを撮影場所にした理由を訊かれて、「僕たちは自己顕示欲の強い世代ですが、部屋を借りるお金がなかっただけで、本当は自宅での撮影は避けたかった」と語っています。フェイスブックもツイッターもやらないそうで、今時の若者にしては珍しい。

 

★キャストもスタッフも若く大体30代の半ばまで、「だからそれ以外の世代の人がどのように感じるかに関心があります」と監督。第1作がマラガで評価されたこともあって、第2作もマラガを意識していたようで、それはマラガの審査員は他と比べて若い監督に興味を示してくれるからだそうです。2014年の「金のジャスミン賞」もカルロス・マルケス≂マルセのデビュー作10.000KMでした(44UP)。

 

アウラ・ガリード Aura Garrido1989年マドリード生れ。父親は作曲家で指揮者、母親は画家、母方の祖母と叔母はオペラ歌手だったという芸術一家の出身。4歳からピアノ、5歳でバレエ、女優の道をまっしぐらに歩んできた。TVドラ・シリーズDe repente, los Gómez2009)でデビュー、映画初出演のフアナ・マシアスのPlanes para mañana2010)でゴヤ賞2011の新人女優賞にノミネート、他マラガ映画祭助演女優賞とスパニッシュ・シネマ・ムルシア・ウイークでパコ・ラバル賞を受賞している。ハビエル・ルイス・カルデラのPromoción fantasma2012)は『ゴースト・スクール』の邦題で、「スクリーム・フェスト・スペイン2013」ミニ映画祭で上映された。オリオル・パウロのEl cuerpo2012、邦題『ロスト・ボディ』)にも出演、本作での演技が認められ「ビルバオ・ファンタスティック映画祭2013」で新人に与えられるFantrobia賞を受賞。Stockholmは上記の通り。

 


ハビエル・ペレイラ Javier Pereira Collado1981年マドリード生れ。まだ32歳だが20作近い長編に出演、TVドラ、短編を含めると40本を超える。短編に出たのが16歳、テレビ界が17歳だから納得の本数か。子供のときから俳優を天職と考え、14歳でクリスティナ・ロタの演劇学校に入学して演技を学んだ。彼女は夫ディエゴ・フェルナンド・ボトーとアルゼンチンの軍事独裁を逃れて、1978年にスペインに亡命してきた女優にして舞台演出家、マリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー姉弟の母親。 


長編に限ると、代表作は今世紀に入ってからでパブロ・マロのFrío sol de invierno2004)、マロ監督がゴヤ賞2005新人監督賞を受賞した話題作、ヘラルド・エレーロのHeroína2005、マリア・リポルのTu vida en 65 minutos2006)で主役のダニを演じた。ソロゴイェンの8 citasにも参加、これが本作出演に繋がった。モンチョ・アルメンダリスのNo tengas miedo2011)、短編だがダニエル・サンチェス・アレバロのTraumalogía2007)の出演で成長したと言われ、Stockholm以降出演依頼が殺到している。サムエル・グティエレスのLa sangre de Wendy2014)、最新作はチェマ・ロドリーゲスのAnochece en la Indiaなど。2011年にはルベン・オチャンディアノが演出したチェーホフの『かもめ』で舞台に立った(舞台監督までしてるとは知りませんでした)。オチャンディアノとは、TVドラやアルメンダリスのNo tengas miedoで共演しています。彼はイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』(1999)で映画デビュー以来、『タパス』、『抱擁のかけら』、『ビューティフル』などでお馴染みになっていますが、ハビエル・ペレイラは多分まだ登場していないと思います。

              (写真:ゴヤ賞2014新人男優賞のトロフィーを手にしたペレイラ)