カンヌ映画祭2014*コロンビア発の短編がパルムドール2014年05月30日 19:29

           カンヌ映画祭短編部門パルムドールはコロンビアの新人

      

★コロンビアのシモン・メサ・ソトのLeidi(コロンビア=英、16分)は本命視されていませんでしたが、短編部門のパルムドールを受賞しました。短編はUPしませんでしたが受賞したことだし、いずれ長編を撮るだろうと期待してアウトラインをご紹介いたします。ベルギー・アニメの父といわれるラウル・セルヴェのようにパルムドール受賞後も中短編しか撮らない監督もおります。しかし日本でも話題を呼んだ『アマロ神父の罪』のカルロス・カレラやジム・ジャームッシュのように過去の受賞者は長編を撮っています。今年の審査委員長アッバス・キアロスタミ(1940年テヘラン生れ)から手渡されていましたが、彼自身の処女作「パンと裏通り」(1970)も10分の短編でした。まだ詳しい情報が少ないのですが、分かった範囲で監督のキャリア、ストーリーなどをご紹介。

   

            

                        (授賞式でのシモン・メサ・ソト監督)

 

シモン・メサ・ソトSimón Mesa Soto:コロンビア第二の都市であるアンティオキア県都メデジン生れの28歳、誕生日前なら1985年生れか。アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション科卒、ロンドン・フィルム・スクールの映画監督科マスターコースで学ぶ奨学資金を得て留学、監督コースの他、撮影監督、撮影技師のプロジェクトに参加。中編Back Homeがロンドン・ナショナル・ギャラリーの録画(再放送用フィルム)部門の一部になった。受賞作はロンドン・フィルム・スクールの卒業制作として撮られた。5ヵ月前に完成しており既に何ヵ所かの映画祭で上映されているようです。

 

★今年の短編部門の応募作品は128ヵ国から3450本の中から9本が選ばれました。日本からも佐藤雅彦他の「八芳園」がエントリーされていました。選ばれるだけでも容易ではありませんが受賞となれば快挙でしょうね。映画発展途上国コロンビアのメディアが騒ぐのも当然です。カンヌ本体とは別団体が組織している「批評家週間」にノミネートされていた同世代のフランコ・ロジィのGente de bienが無冠に終わった鬱憤を解消したかたちになりました。

本作の紹介は、コチラ⇒2014年05月08

 

ストーリー シングルマザーのレイディLeidi は、小さい息子を抱えて母親と一緒にメデジン北部の共同集落で暮らしている。親としての責任を果たそうとしない赤ん坊の父親アレクシスを探しに出掛けるが・・・。レイディはここメデジンではありふれた自分の身の上話を語りはじめる。

 

    

        (息子の父親を探しにいくレイディ)


 
★彼女はここで暮らしている将来が全く描けない多くの若い母親の一人にすぎない。「レイディのようなメデジンで大きくなった女の子ならここでは簡単に出会うことができる。キアロスタミが『レイディが恋人に凭れかかるシーンを見たとき、これはパルムドールに値するシーンだと感じた』と言ってくれた。僕は胸がいっぱいになって・・」とインタビューで語っています。ポスターにもなったシーンでしょう。

  


★「これは生れ故郷メデジンの話ですが、レイディのような人物はラテンアメリカなら珍しい存在ではありません」。受賞後の記者会見では、「私の国とラテンアメリカの問題が凝縮されており、それを若い女性の視点から描きたかった」と語った。また「受賞は自分のキャリアに大きなインパクトを与えてくれた。しかしこれで有頂天にならず地道に努力していきたい」とも。

 

★本作は、大先輩監督アンティオキア出身のビクトル・ガビリアやイタリア・ネオレアリズモの作風に近く、シンプルで飾らない物語が展開するようです。ビクトル・ガビリアはRodrigo DNo futuro1990)とLa vendedora de rosas1998)がカンヌのオフィシャル部門に選ばれており(2作とも未公開)、前者は国際的な麻薬組織メデジン・カルテルが牛耳っていた時代のメデジンが舞台、20歳を待たずしてこの世を去っていく若者たちの青春残酷物語。麻薬戦争、私設軍隊パラミリタールやFARCに代表されるゲリラによって土地を奪われた国内難民の急増、コロンビア特有の階層社会が背景にあります。

 

★最近のコロンビアは国情が改善されたとはいえ、和平交渉は未だ道半ば、経済の二極化が深刻になっており、国内難民約500万人(50万ではありません)は「世界一」とアフリカ難民の追随を許さない。2003年の「映画法」成立後、ガビリアの次の世代アンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』)、より若いリカルド・ガブリエリ(『ラ・レクトーラ』)などを当ブログでご紹介してきましたが、またより若い監督がカンヌで認められたことは嬉しい。

 

過去の短編部門パルムドール受賞者

ラウル・セルヴェ1928年ベルギーのオースティン生れ。1979年にHarpya(「ハーピア」アニメ)が受賞。

カルロス・カレラ1962年メキシコ・シティ生れ。1994年にHéroe(アニメ)が受賞。『アマロ神父の罪』(公開2003)の他、『ベンハミンの女』(同1996)、『差出人のない手紙』(同2000)など。

ジム・ジャームッシュ1953年オハイオ州生れ。1993年に「コーヒー&シガレッツ/カリフォルニアのどこかで」が受賞。本作を含めて撮りためていた短編11編を2003年にオムニバス映画『コーヒー&シガレッツ』として完成させた(公開2005)。

 

カンヌ映画祭2014*リサンドロ・アロンソ国際批評家連盟賞受賞2014年05月27日 12:51

★「ある視点」部門のもう一つの受賞がアルゼンチンのリサンドロ・アロンソJauja、「国際批評家連盟賞Fipresci」を受賞しました。写真はカンヌに勢揃いしたスタッフとキャスト陣、ヴィゴ・モーテンセン、エステバン・ビッリアルディ、デンマーク女優ギタ・ナービュ、監督、デンマーク女優Viilbjork Malling、詩人で共同脚本執筆者のファビアン・カサス。本作のストーリー、監督フィルモグラフィー、キャスト、「ある視点」部門の審査委員長パブロ・トラペロについてのご紹介はコチラ56日)です。 


★エル・パイスのインタビューアーに対して、「まず最初に、シサコにお祝いを言いたい」と。モーリタニアのアブデラマン・シサコのTimbuktu(マリ=仏合作)がコンペティション部門でエキュメニカル審査員賞を受賞したことにエールを送った。これは星取表で高い評価を得ていた作品でもっと上位の賞を受賞してもおかしくないという評が目につきました。カンヌも若返りが必要な時代になっているんです。ゴダールと審査員賞を分け合ったグザヴィエ・ドランの涙は、嬉し涙じゃなく悔し涙だと思いますね、もっと大きい賞を狙っていたんだから。

 

★ギタ・ナービュは、デンマークで愛されている国民的女優とか。78歳とは思えない若々しさです(1935年生れ)。ヴィゴ(1958年生れ)の娘になるのですが、勿論年をとってからの娘役、若い時代はViilbjork Mallingが演じました。監督によるとファビアン・カサスとは34年前からの友人で、二人で脚本を練り、ヴィゴも交えて完成させた。ヴィゴからは観客を惹きつけるコツみたいなものを教えてもらった。

                                                                                     

                         (娘の Malling と父親ヴィゴ)

★アロンソ監督は過去の作風から「エイリアン*宇宙人」のラベルが張られたグループと思われているが、彼自身は当然そういうレッテル張りを拒否している。「映画祭用の映画を作ろうとは考えていないし、多くの観客に見てもらいたい。しかしプロモーション用のお金が残っていない」、完成したときには用意した資金40万ユーロは底をつき、まだヴィゴには一銭も支払っていないんだとか(笑)。映画祭そのものが宣伝になるから映画祭にエントリーされることは、若い監督には重要です。思いがけない出会いもあるからね。前に書いたことだけど、アロンソとヴィゴの出会いは2006年のトロント映画祭でした。

 

★「自分の仕事は映画を撮ること、同時代の人の作品を見ている時間がない」が、注目している同時代の監督として、ミゲル・ゴメス、アマ・エスカランテ、カルロス・レイガーダスを挙げた。

当ブログで未紹介なのがミゲル・ゴメス1972年リスボン生れのポルトガルの監督、第3作目Tabu2012モノクロ)がベルリン映画祭2012でバウアー賞と国際批評家連盟賞を受賞したおかげで、2013年夏『熱波』の邦題で公開され、コアなファンが行列した。他に「ポルトガル映画祭2010」で第2作『私たちの好きな八月』(2008)、「ポルトガル映画の巨匠たち2013」でデビュー作『自分に見合った顔』(2004)と全作が上映されている。

 

                      (ポルトガルのミゲル・ゴメス監督)


★今回の受賞は審査員間で揉めることなく、上映後の拍手喝采が功を奏してか「満場一致」だったらしい。日本でも人気のあるヴィゴ・モーテンセンが主役だから、来年あたりの公開を期待してもよさそう。

カンヌ映画祭2014*ハイメ・ロサーレス新作2014年05月26日 15:55

★あっという間にカンヌも終わってしまいました。ヌリ・ビルゲ・ジェイランの『ウインター・スリープ』が受賞、星取表上位6作品のなかにあったからサプライズというほどじゃなかった。しかしトルコの作品がパルムドールを受賞するのは、ユマルズ・ギュネイの『路』(1982)以来というから驚きかも。ギュネイ監督については以前ご紹介したことがありますが、2年後に政治的亡命先のパリで癌に倒れた。享年46歳という若さでした。

 

★決定までに34時間要したようで、観客のオベーションなども加味して決まったようです。いずれ映画祭か公開も期待できそうですね。ジェイラン監督はカンヌの常連さん、『スリー・モンキーズ』(2008、東京国際映画祭上映)で監督賞も貰っているし、グランプリも2つ持ってるから、もう要らないね。ゴダールはいっぱい賞を持ってるから(カンヌはゼロ)もう要らないと憎まれ口きいてたけど、『言語よさらば』が審査員賞と愛犬がパルム・ドッグ賞(2)を受賞した。審査員賞はグザヴィエ・ドランだけでよかったのではないの。このカナダの青年監督の才能は末恐ろしい。

 

★ご紹介したアルゼンチンのRelatos salvajesは残念ながらかすりもしなかったが、「ある視点」にノミネートされたロサーレスの新作Hermosa JuventudBeautiful Youth)が、「エキュメニカル審査員賞」をヴィム・ヴェンダースと分け合った。18日に上映された折りには温かいオベーションを受けたようです。半分はお義理オベーションでも、面白くなければ上映中にブーイングも厭わないのがカンヌの観客、今年もブーイングにショックを受けて記者会見をドタキャンした俳優が出ていました。 


★観客にも身近で分かりやすい物語、何十万人に一人の難病に罹って余命1カ月とか、尊属殺人を犯してしまったとか、そんな特別な状況設定ではなく、ごく普通の若者が主人公の話です。本作のストーリー、監督、キャストについてはご紹介しています(コチラ54)。少し付け足すとナタリアはカルロスの子を身ごもってしまい、二人は娘フリアの親になってしまう。ナタリアの両親は離婚していて、他に二人の姉妹もおり、母親はナタリアに援助できない。失業中のカルロスには体が不自由で世話を必要としている母親がいる。かなり厳しい現実に直面しているが、愛を語れないほど悲惨ではない。 

                      

                                           (写真:二人の主人公ナタリアとカルロス)

 

★「今現在、ここに存在している物語」を語りたいから、「公園や繁華街にいるたくさんの若者にインタビューして取材を重ねていった。まるでダイナミックなパズルを嵌めこむようにして脚本を組み立てた」と監督は語っています。彼らが一様に口にしたのが<お金>と失業のこと、交通費の高さ、賃金の安さ、どうやって節約するか、と話題はすぐお金の話に舞い戻っていく。スペインの若者は出口の見えない袋小路に迷い込んでいて、映画やファッションどころではないという現実だった。「政治的な映画をつくるつもりはなく、ただスペインの若者の現実を語りたいと思っただけ」、これが理解できないと日本の観客は多分登場人物のなかに入れないのではないか。

 

  

(写真:生れてしまった娘を抱っこしたナタリア)

 

★ロサーレスの過去の映画の分かりにくさから抜け出している印象があります。ポンピドゥー・センターから上映を要請されていたが、自分の作品が美術館映画のほうに迷走していたのを軌道修正しようと考えて要請を断ったそうです。「本作は、私を圧迫していた死とか宗教に対するオブセッションをひっくり返した一種の悪魔払いの作品になった。今までのチームをすっかり入れ替えて、若い人たちと撮影をした。私を惹きつけた若者の不確かな世界を通して、私を不安にさせていた何かと繋がろうとした」。ダルデンヌ兄弟、ケン・ローチ、アブデラティフ・ケシシュの映画が頭にあったとも。ケシシュは『アデル、ブルーは熱い色』が昨年のパルムドールを受賞したチュニジア出身の監督、その性描写がネックとなっていたが「R18+」で公開されました。

 

     

      (写真:細身になった最近のロサーレス監督、マドリードのカフェ・ヒホンにて)

 

★プロの撮影監督が80%、残り20%の撮影をアマチュアに任せた、ポルノ映画の部分ですね。多分ドキュメンタリーの手法がとられているのだと思います。そのコントラストに興味が湧きます。ロサーレスは1作ごとに冒険するタイプ、その一つがポルノ・ビデオ界の帝王ことトルベの協力を得られたこと。本名イグナシオ・アジェンデ・フェルナンデス(またはナチョ・アジェンデ)、1969年バスクのビスカヤ生れ、サンティアゴ・セグラの『トレンテ』(シリーズ234)で既に日本に紹介されています。もう一つがオーディションを受けに来て知り合ったイングリッド・ガルシア・ヨンソンのナタリア起用、「磨きをかける必要があったので相当口論した。互いに憎みあいもしたが、結局彼女は私を求め、私も彼女が大好きだったのだ」と。

 

★資金がなければ映画は作れないが、お金があればいい映画が作れるかと言えばそんなことはない。もしそうならドイツやスイスが量産してるはずです。作家性の強い映画をつくりたいか、映画館に行列ができるような映画をつくりたいかは人さまざま。「他の人の映画についてはよく分からないが、作りづらくなっているのは確か。しかしワインと同じでまずブドウを収穫すること、今年のブドウは出来が良さそうと直感する」そうです。経済的にサイテイの時代でも希望は捨てないことです。

スペインでは530日公開が決定しています。


カンヌ映画祭2014*アルゼンチン映画の評判2014年05月22日 17:02

★カンヌも中盤に入りました。評判記も作品より長澤まさみの××がドレスから見えたとか、女優のドレスのスカートに潜りこんだ男は入るスカートを間違えたのではとか、相変わらず男目線のレポートです。それはさておき、今年、スペイン語映画で大当たりなのがアルゼンチン、正式出品のダミアン・ジフロンSzifron の悲喜劇Relatos salvajesが上映されました。エル・パイスの批評家カルロス・ボジェロのレポートは、この辛口批評家にしてはかなり好意的でした(2007年から欠かさずカンヌの取材を任されてきたが体調を崩して帰国、現在はハビエル・オカーニャがピンチヒッターとしてカンヌ入りしています)。

 

     

      (総勢でカンヌ入りした左から4人目が監督、右端がリカルド・ダリン)


 
★監督の名前は初めてでも、リカルド・ダリンが出演していると分かれば食指が動く。ダリンは勘が鋭くて良い脚本やプロジェクトの善し悪しを嗅ぎつける。だからキャスト陣に彼の名前が見つかれば、取りあえず見ておこうとするくらい信頼されている、とボジェロは語っていました。それにアルモドバル兄弟の製作会社「エル・デセオ」が共同参画している。アルモドバルはパルムドールこそ手にしていないがカンヌとは相性がいい(『オール・アバウト・マイ・マザー』監督賞、『ボルベール』脚本賞)。今回も本作応援にカンヌ入り、上映後のプレス会見では、エステル・ガルシアなど他のプロデューサーたちと最前列に陣取って様子を見守っていました。

                       

                        (プレス会見を見守るアルモドバル)

 

★カンヌではスペイン語映画はどうしても脇に置かれてしまうから、時々罪滅ぼしか気前よく賞をくれたりする。例えば、昨年のアマ・エスカランテの『エリ』(第66回)、彼の兄貴分カルロス・レイガダスのPost Tenebras Lux(第65回)とメキシコが連続監督賞を受賞している。どちらもかなり審査員同士の丁々発止があったようです、特に後者ではイギリスのアンドレア・アーノルド監督の強い支持がなければ貰えなかった(今月末『闇のあとの光』の邦題で公開)。アーノルド監督は今年の「批評家週間」の審査委員長です。

 

★やはりアルモドバルのような強力な援護がカンヌでは必要、カンヌ正式出品も多分彼の名前が効いたと思います。リカルド・ダリンのカンヌ入りは初めてだと思いますが、フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』はオスカー作品、主役に扮して知名度もありますね。監督自身も強力なキャストを揃えられたことを挙げています。テレビ界で活躍とはいえ本作が長編デビュー作ですから当然です(フィルモグラフィーについてはコチラ51)。サンタオラジャの音楽も楽しみの一つです。


★表面的には繋がりがない6話で構成されたオムニバス映画だが、最後に実は・・・という仕掛けがあるようです。レシピはイライラで、昔受けた侮辱で、復讐で、理由のある恨みで、それぞれが爆発したとき相手に対してどう出るか、それは無謀な行為でしょ。偶然飛行機に乗り合わせた乗客がフライト中になかの人物とかつて関係があったことを各自発見するというシュールで意表を突くエピソードで始まる。官僚のペテンによって面目をつぶされたとずーっと感じている男、息子がたまたま妊婦を轢き逃げしてしまった百万長者の父親、相手の不誠実を前にして結婚式当日に腹を立ててしまう花嫁などが登場する。

 

★プレス会見での監督談によると、「1214話書いたうちから6話を選んだ。登場人物はそれぞれ粗野な人たち、私は争いや対立から面倒が起きる話が好き」だそうです。「カンヌは初めてなので、会場から受けるだろう質問をあれこれ想定して臨んでいる」、名前から出自を訊かれ、自分の祖母はナチから逃れるため列車から飛び降り逃げてきた人だそうです。これも想定内の質問だったでしょうか。リカルド・ダリンや共演者の話を総合すると、監督は細部にいたるまでこだわるタイプで「完璧主義者」の由。 

  

              

             (コンペティションの女性審査員たち、サングラスがカンピオン監督)

★アグスティン・アルモドバルによれば、彼のような若い監督のデビュー作がカンヌのコンペに持って来られたのは、神の「恩恵」かもしれないと。上映に立ち会った観客のなかにもそう感じた人もいたでしょう。二匹目の泥鰌を狙う大物監督揃いのカンヌのコンペはそれくらい「狭き門」ということです。


カンヌ映画祭2014*「監督週間」 ディエゴ・レルマン2014年05月11日 16:11

               ディエゴ・レルマンの第4作Refugiado 

  

★今年46回目を迎える「監督週間」も「批評家週間」同様カンヌ本体とは別組織が運営しているセクションです。1月に開催されるサンダンス映画祭に上映された作品もありますが、だいたいがワールドプレミアです。今年は長編19作、中短編11作がエントリーされています。

 


★今年 Refugiado  が選ばれたディエゴ・レルマンは、第3『隠れた瞳』(アルゼンチン==西)が2010年にエントリーされています。東京国際映画祭2010で上映され、『ある日、突然。』を見て度肝を抜かれたファンを喜ばせました。昨年は御年85歳というアレハンドロ・ホドロフスキーが23年振りに撮った La danza de la realidad(チリ=仏)が登場、『エル・トポ』(1970)で世界を驚かせた監督です。今夏7月に『リアリティのダンス』の邦題で公開がアナウンスされています。これはもうお薦めです。

 

他にスペイン語の映画では、パブロ・ララインのNO2012、チリ=米国=メキシコ)、主たる言語は英語でしたが、チリのセバスチャン・シルバの『マジック・マジック』2013、米国=チリ)などがあります。『NO』は東京国際2012とラテンビート2013で上映され、前者ではラライン兄弟は次回作撮影のため来日できず、ロス在住のアメリカ側の製作者ダニエル・マルク・ドレフュスがQ&Aに来日、撮影秘話を披露、関連記事はコチラ(ラテンビート2013①、921UP)。GG・ベルナルがお目当てのファンのなかには、お父さん役だったのでがっかりした人もいたでしょうか。一方『マジック・マジック』がラテンビートで上映されたときには監督と女優のカタリーナ・サンディノ・モレノが来日、スペイン語でQ&Aに臨んだときの様子はコチラ(ラテンビート2013927UP)です。 


ディエゴ・レルマン Diego Lerman 1976324日、ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台監督。産声を上げた日が軍事クーデタの勃発した運命の日、これ以後7年間という長きに及ぶ軍事独裁時代の幕が揚がった日でした。彼の幼年時代はまさに軍事独裁時代とぴったり重なります。体制側に与し恩恵を満喫してダメージを受けなかった家族も少なからずいたでしょうが、レルマンの家族はそうではなかった。そのことが彼の映画に顕著に現れているのが『隠れた瞳』です。


ブエノスアイレス大学の映像音響デザイン科に入学、市立演劇芸術学校でドラマツルギーを学ぶ。またキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョスの映画TV学校で編集技術を学んだ。

 

      長編フィルモグラフィー

2002 Tan de repente (アルゼンチン)『ある日、突然。』監督・脚本・プロデューサー 
      モノクロ

2006 Mientras tanto(アルゼンチン)英題 Meanwhile 監督・脚本

2010 La mirada invisibleアルゼンチン==西『隠れた瞳』監督・脚本・プロデューサー

2014  Refugiado (アルゼンチン=ポーランド=コロンビア=仏)監督・脚本・プロデューサー

他に短編、TVドキュメンタリーを撮っている。

 

*第1Tan de repente は、「鮮烈デビュー」が大袈裟でなかった証拠にレイトショーとはいえ日本でも公開されました(笑)。国内賞だけでなくロカルノ映画祭銀豹賞、ハバナ映画祭金の珊瑚賞、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭銀のコロン賞、2003年にはニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭でも受賞するなど多くの国際舞台で評価されました。まだ20代半ばでしたから、計算されたプロットにはちょっとアメナバルがデビューした頃のことを思い出してしまいました。ユーロに換算すると4万ユーロという低予算で製作された。カンヌにはエントリーされなかったのに、カンヌ映画祭財団が基金を与え寄宿舎で脚本を書く機会を提供するなど好調な滑り出しでした。

 


*プロット:ランジェリー・ショップで働く田舎出の太めのマルシアは、ある日突然、パンクなレズビアンの二人組マオとレーニンに拉致される。マオがマルシアに一目惚れしたからだという(公式サイトあり)。

  

2Mientras tanto は、アルゼンチン映画批評家協会賞にValeria Bertuccelli が主演女優賞(銀のコンドル賞)、クラリン・エンターテインメント賞(映画部門)にもBertuccelli が女優賞、ルイス・シエンブロスキーが助演男優賞を受賞しましたが、レルマン自身はベネチア映画祭のベネチア作家賞にノミネートされただけでした。「アルゼンチンの『アモーレス・ペロス』版」と言われた作品(管理人は未見)。『僕と未来とブエノスアイレス』(2004、公開2006)のダニエル・ブルマンがプロデューサーの一人。新作 El misterio de la felicidad2014)がなかなか好いという評判が聞こえてきてますが、彼の映画は公開が難しい。

 

3La mirada invisible は、「また瞳なの、瞳じゃないでしょ」と溜息をついた『隠れた瞳』は、上記したように東京国際映画祭で上映、監督と主演女優フリエタ・シルベルベルクが来日いたしました。マルティン・コーハンのベストセラー小説Ciencias Morales2007エライデ賞受賞)にインスパイアーされての映画化だから、タイトルも違うし小説の登場人物や内容、特に終わり方が違います。軍事独裁制末期1982年のブエノスアイレス、エリート養成の高等学校が舞台でしたが、国家主義的な熱狂、行方不明者、勿論フォークランド戦争は出てこない。しかしこの学校がアルゼンチン社会のアナロジーと考えると、その「見えない視線」に監視されていた社会の恐怖が伝わってくる。 

                                     

         (東京国際映画祭Q&Aに登場したレルマン監督とフリエタ)

 

この映画の一つの主役はカメラ、校内中庭を鳥瞰撮影した幾何学的な美しさ、教師と生徒が靴音を響かせて廊下を歩く遠景描写は軍隊行進のメタファーと感じさせる。ヒロインの突然のクローズアップの多用、構図がくっきりしていて気持ちがいい。それにしてもトイレのシーンが何回となく繰り返し現れるのは、何のメタファーなのだろう。心の中の汚物を吐きだす場所、人に隠れて秘密をもつ場所か。実際ある三つの高等学校で撮影したそうで、かつてブエノスアイレスが「南米のパリ」と言われた頃に建築された建物は、それ自体が絵になっています。撮影監督のアルバロ・グティエレスはスペイン人、数多くの短編映画、なかでHombres de paja2005)がストラスブール映画祭2007のベスト撮影監督賞を受賞、長編では、フェリックス・ビスカレットのBajo las estrellas2007)がゴヤ賞2008撮影監督賞にノミネートされ、エンマ・スアレス(主演女優賞ノミネート)やアルベルト・サン・フアンが出演したことで映画も話題になりました。

 

              

       (写真では美しさがよく分からないが、舞台となった高等学校の校舎)

 

フリエタ・シルベルベルクは『ニーニャ・サンタ』(2004、ラテンビート2004上映)以来の登場、真面目で繊細、故にアンバランスになっている女教師役にぴったりです。今年のカンヌのコンペに残ったダミアンSzifron オムニバス映画Relatos salvajes にも出演しています。校長役のオスマル・ヌニェス、忘れられないのが祖母役のマルタ・ルボスの老練さでした。

 

   

  (フリエタの後方が校長のヌニェス)

 

★第4 Refugiado は、3月半ばに撮影が終了したという出来たてほやほやの作品、勿論ワールドプレミアです。まずプロットは、7歳のマティアスと母ラウラに起こったことがマティアスの無垢な驚きの目を通して語られる。父ファビアンのドメスティック・バイオレンスDVを逃れて、身ごもった母とティトを連れた子は安全な避難場所を求めて都会を彷徨い歩く、都会をぐるぐる廻るスリラー仕立てのロード・ムービー。

 

ティトとはマティアスのプラスチック製の恐竜玩具ディノザウルスのこと。夫婦関係についての、暴力の本質についての映画だが、傷つくことのない関係の不可能性や無力さが語られている。だから道徳的に裁いたりしないのだ。第1『ある日、突然。』同様、社会的文化的なありようとしてのジェンダーの話であり、単なる遁走でなく、前に進むための彷徨なのでしょう。エモーショナルななかにもユーモアのセンスが光る、スリラーの要素が込められた都会を巡る一種のロード・ムービー。

 

アルゼンチンは他のラテンアメリカ諸国より、夫やパートナーによる家庭内暴力死亡事例が高く、年々増加の傾向にある。子供たちはそういう両親の葛藤と対立の中に置かれている。マティアスの場合は幼くて自分たちの彷徨の意味をよく理解しているわけではない。身体的なDV だけでなく精神的なものも含むから、その複雑さは理解できなくて当然です。

 

キャスト陣:ラウラにフリエタ・ディアスJulieta Diaz)、マティアスにセバスチャン・モリナロSebastian Molinaro)、他いわゆる駆け込み寺に暮らす女性たちが出演する。マルタ・ルボス、シルビア・パロミノ、サンドラ・ビジャニ、パウラ・イトゥリサ、カルロスWeberほか。撮影はマティアス役の年齢(当時8歳)を考えて最長6時間に限り、ブエノスアイレスと近郊都市で7週間、ティグレTigre2週間半かけてクランク・アップした。

 

              

          (本当の母と子のように似ているディアスとセバスチャン)

 

話題になっているのが撮影監督のヴォイテク・スタロン Wojtek (Wojciech) Staron です。1973年生れのポーランド人ですが、国際的に活躍している主にドキュメンタリーを撮っている監督です(ヴォイテクは男子名ボイチェフの愛称)。なかでパウラ・マルコヴィッチ El premio が第61回ベルリン映画祭2011にエントリーされ、彼は銀熊賞(芸術貢献賞の撮影賞)を受賞しました。これはアルゼンチンの脚本家パウラ・マルコビッチの長編デビュー作で自伝的要素の強い映画です。フェルナンド・エインビッケの『レイク・タホ』や『ダック・シーズン』の脚本を監督と共同執筆して、もっぱらメキシコで仕事をしているのでメキシコ人と思われていますが、アルゼンチン人です。監督の生れ育ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に軍事独裁時代を女の子の目線から撮った映画、製作国は主にメキシコですが、フランス=ポーランド=ドイツの合作です。アリエル賞も受賞した。

 

     

     (銀熊賞のトロフィーを手にしたマルコヴィッチ監督と撮影監督スタロン)

 

イギリスとポーランド合作のドキュメンタリー Wojtek : The Bear That Went to War2011)がNHK教育テレビの「地球ドラマチック」において『戦争に行ったクマ~ヴォイテクとポーランド兵たちの物語』として放映されました(2012811日)。これを撮影した監督です。

 

プロダクションは、アルゼンチン(CAMPO CINERioRoja他)、ポーランド(Staron Films)、コロンビア(Burning Blue)、フランス(Bellota Films)。アルゼンチン9月公開が決定している。今後の賞の行方によって変わるかもしれない。

 

カンヌ映画祭2014*「批評家週間」コロンビア映画2014年05月08日 16:01

★「批評家週間」というセクションは公式プログラムではなく、映画祭と同時期に開催されますが、カンヌ本体とは別組織が運営しています。1962年から始まり今年で53回目です。監督デビュー作か2作目ぐらいが対象です。ここで見出されたあとパルムドールを受賞した監督もおり、外郭団体とはいえ目が離せません。ベルナルド・ベルトリッチ、ケン・ローチ、ウォン・カーウァイ、フランソワ・オゾン、ギジェルモ・デル・トロ・・・ああ、数えきれないや。今年は11作品がエントリーされていますが、カメラドールを競うのは7作品、オープニング、クロージング、特別上映作品はコンペ外です。

 

スペイン語映画では、アントニオ・メンデス・エスパルサの『ヒア・アンド・ゼア』(2012Aquí y allá 西=米国=メキシコ、東京国際映画祭上映)があります。スペインの監督ですが映画はアメリカで学び、そのとき知り合ったメキシコの友人夫婦を主人公にメキシコを舞台にした映画で、カンヌの後サンセバスチャンでも会場に勝手連が押し寄せて満席だった映画。他にアルゼンチンのアレハンドロ・ファデルの『獣たち』(2012Loa salvajes アルゼンチン、ラテンビート2012上映)など。概ねワールドプレミアが多く、これからご紹介するフランコ・ロジィのデビュー作 Gente de bien(コロンビア=仏)もワールドプレミアです。

 

★ラテンアメリカで最近存在感を増してきているのがコロンビア、56年前のチリの躍進を思い出させます。「ラテンビート2013」でご紹介したアンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』他)の次の世代です。コロンビア革命軍(FARC)を中心としたゲリラ組織と政府との和平交渉は道半ばですが、以前のような戦争状態からは脱しています。欧米で映画の勉強をしていた若手が帰国して新しい波が寄せてきているのかもしれません。これからご紹介するフランコ・ロジィもその一人です。

 

   
 (写真:フランコ・ロジィ)

*フランコ・ロジィ Franco Lolli 1983年ボゴタ生れ。映画はフランスの映画学校で学ぶ。最初はポール・ヴァレリー大学や新ソルボンヌ大学(Sorbonne Nouvelle)で学んだ後、映画学校 La Fémis Paris の監督学科を専攻、そこでの卒業制作として撮った短編 Como todo el mundo2007)が、サンセバスチャン、ロスアンゼルス、グアダラハラなど50以上の映画祭に出品され26個の賞を受賞しました。なかでフランスのアンジェ・ヨーロッパ・ファースト・フィルム映画祭、ブリュッセル短編映画祭、フランスの古都クレルモン=フェラン短編映画祭、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭などで受賞。 


短編第2 Rodri 2012)が、カンヌの「監督週間」にエントリーされた。カルタヘナ映画祭スペシャル・メンション、クレルモン=フェラン短編映画祭ACSE賞他を受賞しています。RodriRodorigoのことでロドリーゴ・ゴメスが演じた。またカンボジアに渡って、Rithy Panh とのコラボでドキュメンタリー Memoria e imágenes, una experiencia camboyano を撮っている。長編第1作はカンヌ映画祭財団の基金を貰って、パリにある Résidence学生寮で脚本を書いたようです。現在はボゴタとパリで生活しており、ボゴタでは2個所の映画学校で教えている。

 

                                         

                                                                 (写真:父アリエルと息子エリック)

ストーリー:少年エリックと父親アリエルの物語。母親に見棄てられた10歳のエリックは、離れて暮らしていた貧しい父親と暮らすことになる。ブルジョア階級のマリア・イサベルの家で大工として働いていたアリエルは、突然現れた息子とどう接していいか分からない。心を痛めていたマリア・イザベルはクリスマスを自分の別荘で過ごすよう父子を招待する。それがどのような波紋を起こすか彼女には思い及ばなかった。貧富の二極化が進む社会を同時に体験するエリックの心は微妙に揺れ動く。

 

(写真:Gente de bien から)

★「批評家週間」を総括するシャルル・テソンによると、エリックはブルジョア家族の子供たちと遊ぶが、同時に自分がその階層に属していないことを感じることになる。「この映画には胸を打たれた。小津安二郎の Los chicos de Tokio を思い出す」とコメントしている。これは自信はないが内容からして多分サイレントの『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932)じゃなかろうか。いずれにしても好い感触なのが嬉しい。

 

★短・中編セクションにスペインの大物プロデューサーとして有名なヘラルド・エレーロの Safari2013)がエントリーされています。16分の短編、言語は英語です。

 

★審査委員長はイギリスのアンドレア・アーノルド監督(『嵐が丘』『フィッシュタンク』など)、スペインのフェルナンド・ガンソ(雑誌「リュミエールLumiere」の共同編集者)、メキシコのダニエラ・ミチュレ(映画批評家)その他審査員にはジャーナリスト、批評家が多い。

カンヌ映画祭2014*「ある視点」リサンドロ・アロンソ2014年05月06日 16:50

           リサンドロ・アロンソの「Jauja

  

★もう1作がアルゼンチンのリサンドロ・アロンソの長編5作目 Jauja です。ロサーレス同様、もうカンヌでは知られた顔ですね。デビュー作 La livertad2001)がいきなり「ある視点」にエントリー、2作目 Los muertos2004)と3作目 Fantasma2006)が「監督週間」に選ばれています。ロサーレスと同じ54勝ですが、まだカンヌでの受賞はありません。しかし第2作目が、カルロヴィー・ヴァリー映画祭05、リマ・ラテンアメリカ映画祭04、トリノ・ヤング・シネマ映画祭04などで受賞しています。1975年ブエノスアイレス生れの38歳、監督、脚本家、製作者。

 


ストーリー:デンマーク人の父と娘は、文明の及ばないパタゴニアの砂漠で暮らす人々がいると聞いて、辺境への船旅を決心する。しかし、娘は随行者の一人と恋に落ち遁走してしまう。父親は娘を探しに出掛けるが、ここでは愛と死についての憧れが語られる。

 

      

     (左から、マリン、監督、ヴィゴ)

父親をヴィゴ・モーテンセン、彼については説明不要でしょうが、本作に関係ある部分について。1958年ニューヨークはマンハッタン生れの55歳、父親がデンマーク人、母親は米国人、少年時代はベネズエラ、アルゼンチン、デンマークで育ったのでスペイン語、デンマーク語ができる。デンマークのパスポートを持っている。スペイン語映画に限るとアグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(2006)が代表作。

 

その娘をデンマークの国民的女優ギタ・ナービュが、若い時代を同じデンマークの女優 Viilbjork Malling が演じるようです。ギタ・ナービュは1935年コペンハーゲン生れだから78歳になります。管理人はベント・ハーメルのコメディ『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)しか見ていない。出演映画145作ですから、結構公開されています。

 


★まだIMDbも情報が少なくデータが揃っていないが、以下断片記事をまとめてみる。

製作国:アルゼンチン=デンマーク=米国=メキシコ=オランダ==

製作共同):4LFortuna FilmsKamoli FilmsMantarraya

脚本(共同):リサンドロ・アロンソ、ファビアン・カサス

言語:スペイン語とデンマーク語

ロケ地:アルゼンチンのパタゴニアが80%、ほかデンマークのコペンハーゲンなど

    

LFortuna Filmsはアロンソの過去の映画を製作している。Kamoli FilmsMantarrayaは今回が初めてのようです。Mantarrayaはメキシコの製作会社で、カルロス・レイガーダスのデビュー作『ハポン』(2000)以下最新作『闇の後の光』(2012)全4作を手がけている。『闇の後の光』はカンヌで最優秀監督賞を受賞して拍手喝采とブーイングを同時に浴びた。この年のカンヌの審査員を悩ましたのがレイガーダスに監督賞を与えるかどうかでした。好きな人はスキ、嫌いな人はキライとファンもはっきり分かれるカンヌの常連監督。全作が東京国際映画祭で上映され来日もしております。さらに昨年のカンヌで最優秀監督賞を受賞したアマ・エスカランテの『エリ』以下、『サングレ』(2005)、『よそ者』2008)も製作している実力派、こちらも全3作がカンヌで上映されています。Mantarraya参加はアロンソにとって朗報でした。

 

★アロンソによると、ヴィゴとの出会いは2006年のトロント映画祭だった。「僕たちは、サッカーのこと、かつてヴィゴが暮らしたことのあるアルゼンチンのことで意気投合した。それ以来、本作の脚本を共同執筆したファビアン・カサスとヴィゴを主人公にした映画を作ろうと考えていた。最初はデンマーク人ではなくイギリス人だった。しかしヴィゴがデンマークのパスポートを持っていることを思い出し書き直したんだ。ロケはパタゴニア、リフエ・カレル国立公園、ラ・パンパ、ラグナ・アスール、リオ・ガジェゴスなど80%がアルゼンチン、残りは父と娘の原点であるコペンハーゲンのLystrue 城で撮った」。「ヴィゴがシナリオを気に入ってくれ出演をオーケーしてくれた。国際的な俳優とMantarrayaが参加してくれたことは、本当に幸運でした。今までの映画作りで素晴らしいサゼスチョンをしてくれた製作者の一人で感謝にたえない」とも語っています。

 

 

        (リサンドロ・アロンソとヴィゴ・モーテンセン、トロント映画祭2006にて)

 

★コンペティションの審査委員長ジェーン・カンピオンにも驚きましたが、「ある視点」審査委員長パブロ・トラペロにはもっと驚きました。コンペ以上に面白いのが「ある視点」部門です。コンペは見なれた顔が揃います。いずれ公開されるから最近ではノミネーションさえチェックしないで済みます。面白いのが「ある視点」部門、コンペに残れなかったのでこちらに廻ってきたという時代もありましたが、ベテラン実力者から新人まで、コンペ以上に審査が難しいセクションです。

 

★パブロ・トラペロ映画もカンヌ向き、長編映画の代表作:

1999  Mundo grúa 国内映画賞以外の受賞、ヴェネチア映画祭Anicaflash 賞、ロッテルダム映画祭2000タイガー賞、ハバナ映画祭1999特別審査員賞を各受賞、ゴヤ賞2000ノミネートなど多数

2002  El bonaerense (ブエノスアイレス出身者の意味) カンヌ映画祭「ある視点」出品、シカゴ映画祭2002国際映画批評家連盟賞受賞、グアダラハラ映画祭、カルタヘナ映画祭、多数。

2004  Familia rodante コメディ、ロード・ムービー

2006  Nacido y criado ドラマ

2008  Leonera『檻の中』カンヌ映画祭コンペ正式出品、アリエル賞2009受賞、ハバナ映画祭特別審査員賞受賞、他多数。「ラテンビート2009」上映

2010  Carancho『カランチョ』カンヌ映画祭「ある視点」出品、サンセバスチャン映画祭、「ラテンビー2010」などで上映。(写真:リカルド・ダリンとマルティナ・グスマン)


2012  Elefante blanco『ホワイト・エレファント』カンヌ映画祭2012「ある視点」出品、「ラテンビート2012」上映

2012  7 días en La Habana 『セブン・デイズ・イン・ハバナ』(7人の監督のオムニバス)カンヌ映画祭2012「ある視点」出品、20128月公開 

 

1971年ブエノスアイレス州サン・フスト生まれ。製作者、監督、脚本家、エディター、俳優と多彩。委員長に選ばれた理由は「ある視点」の常連の他、この多彩な経歴が理由の一つかもしれない。2000年に『檻の中』の主演女優マルティナ・グスマンと結婚、出演した赤ん坊は二人の実子。2002年に第2El bonaerense を公開するために製作会社「マタンサ・シネMatanza Cine」をグスマンと設立、自身の『檻の中』、『カランチョ』他を手掛けている。同国人アロンソにとって追い風になるか逆風になるか微妙です。

 

   

(トラペロ=グスマン夫婦と成長してしまった息子、
『カランチョ』上映のリマ映画祭にて)


カンヌ映画祭2014*「ある視点」ハイメ・ロサーレス2014年05月04日 14:55

★昨年はルシア・プエンソの『ワコルダ』(アルゼンチン)、ディエゴ・ケマダ・ディエスの La jaula de oro(メキシコ)の2作がエントリーされました。前者は「ラテンビート2013」上映に合わせて作品紹介を致しました(1023日)コチラ。後者は「ある才能賞」(Prix un talent certain)に初出演のキャストたちが受賞しました。第28回ゴヤ賞2014*イベロアメリカ映画賞部門にメキシコ代表作品としてエントリーされた折り、少しご紹介いたしました(115日)コチラ。監督と一緒にカメラに収まっている3人が受賞者。


今年もなんとか
2作が踏みとどまりました。ハイメ・ロサーレスの Hermosa juventudBeautiful Youth 西)とリサンドロ・アロンソの Jauja(デンマーク==アルゼンチン)の2作。
 

   


★まずスペインのHermosa juventud はハイメ・ロサーレスの5作目、カンヌ入りは4回目となる。ということは5戦4勝ですから勝率8割という高い確率、スペインではちょっと珍しい監督です。ハイメ・ロサーレスは一部で注目を集める監督、特にカンヌでは確かにそういう印象を受けます。前回は2012年ですから2年振り、寡作な監督としてはガンバっているといえます。

 

*ストーリー:経済的危機から一向に抜け出せないでいる現代スペインが舞台、恋人カルロス(カルロス・ロドリーゲス)とアマチュアのポルノ映画を撮ろうとするナタリア(イングリッド・ガルシア・ヨンソン)の物語。二人は共に二十歳、美しいが運に見放されたナタリアに特別な野心はないが、生き残るにはお金を稼がねばならない。

 

   

   (イングリッド・ガルシア・ヨンソン

ロサーレスによると、現代のスペインの若者には良くも悪くも未来が描けないという。「勿論、皆ながみんなそうだとは言ってない、たくさんの青春があり、現実がある。そのなかで私たちは将来に行き詰まり状況を変えられずにいる、未来は黒一色に染め上げられている若者たちに焦点を当てた」。今年2月に撮影を終え、3月にミキシングを終えたばかりでカンヌに間に合わせたという。「ほんとに小さな映画、若い人と一緒に仕事をして、自分は教師でもあり生徒でもあった」と語っています。「教えることは学ぶこと」は真理です。日本から見ると20代の失業率60%は想像できない。経験もなくチャンスもなければ、自らアクションを起こす必要があるのかもしれない。

 

長編映画の主役は初めてというイングリッド・ガルシア・ヨンソン Ingrid Garcia-Jonsson は、スウェーデンの女優だが幼少時はセビリャで育ち、のちマドリードに居を定めている。2006年から舞台俳優としてデビュー、映画はヘスス・プラサの短編 Manual for Bored Girls2011)でブロンドの少女役が初出演、代表作はマヌエル・バルトゥアルの長編Todos tus secretos2014)、アルバロ・ゴンサレスの短編 El jardinero2013)など。スペイン語の他、英語、仏語、勿論スウェーデン語ができる。(写真右がイングリッド・ガルシア)


*ハイメ・ロサーレス:1回目の2003年は、デビュー作 Las horas del día が幸運にも「監督週間」にエントリー、国際映画批評家連盟賞を受賞してしまった。次が「ある視点」部門に出品された La soledad2007)です。イマジカBSの前身シネフィル・イマジカが放映してくれた『ソリチュード:孤独のかけら』(作品紹介、詳しくはコチラ⇒2013年11月08日)、ETAをテーマに無声で撮った Tiro en la cabeza 2008)は、5月のカンヌで蹴られ、9月のサンセバスチャンに持っていくも不発というか物議をかもしただけに終わってしまった。見ればそれも納得なのでしたが。理論先行でしばしば観客を置いてけ堀にしてしまうタイプ。3回目が「監督週間」に出品された Sueño y silencio2012)、Tiro en la cabezaでトラウマを抱えてしまったのかカンヌに持っていくのを間際まで躊躇していた。 


ロサーレスは1作ごとにスタイルを変えるのが特徴、第4作はモノクロで撮り、キャスト陣はアマチュアを起用した。娘を亡くしたばかりのパリに住む夫婦が、エブロ川のデルタでバカンスを過ごそうとやってくる。彼の映画には「死」が描かれることが多いが、それは「生」を際立たせるためのようです。ラストシーンはモノクロを活かして素晴らしい。2012年はモノクロが流行った年で、フェルナンド・トゥルエバが『ふたりのアトリエ』を、パブロ・ベルヘルが『ブランカニエベス』をモノクロで撮りました。

 

*ロサーレスのキャリア紹介1970年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。同市のフランス系高校で学ぶ。経営学の学士号取得している。映画はハバナの映画学校サンアントニオ・デ・ロス・バニョスで3年間学ぶ。その後オーストラリアに渡り、シドニーのAFTRSBEAustralian Film Television and Radio School Broadcasting Enterteinment)で学ぶ。影響を受けた監督としてフランスのロベール・ブレッソンと小津安二郎を上げています。

1997年短編 Virginia no dice mentira を発表、短編多数、長編は以上の通り。

 

  

(写真はHermosa juventud を撮影中の監督)

アルモドバルとかアメナバルのような有名監督は別にして、スペインでは9月に開催されるサンセバスチャンやベネチアに焦点を当てて製作される傾向にあります。そうはいっても相当のヘソ曲がりでもない限りカンヌは無視できません。2012年からはサンセバスチャン関係者もカンヌ映画祭とのコラボを推進すべく路線変更をしています。

  

カンヌ映画祭2014*正式出品アルゼンチン映画2014年05月01日 21:32

★今年のカンヌはスペイン語映画はかなり寂しい。寂しくなかったことなんて最近ありましたっけ。ここ34年は新人監督がエントリーされることが少なく、二匹目のドゼウを狙う大物監督がズラリが傾向としてありますから、1作でも目に入ればいいんじゃないの、ということになります。

 


★そして目に入ったのがアルゼンチンのDamian Szifron(ダミアン・ジフロン? Relatos salvajes (2014、アルゼンチン=西、Wild Tales) です。この映画は、スピールバーグ製作総指揮のTVシリーズ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(198587)が下敷きになっているということです。一話完結のオムニバス・ドラマ、SFあり、サスペンス、ホラー、ファンタジーと多彩でした。こちらアルゼンチン版もコメディ、スリラー、バイオレンスなど6話で構成され、リカルド・ダリン、レオナルド・スバラグリア、ダリオ・グランディネッティ、エリカ・リバス、オスカル・マルティネス、リタ・コルテセ、フリエタ・シルベルベルク(ディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』のヒロインを演じた)ほか。監督の読みが分からないが、アルゼンチンは『ワコルダ』に出てきたドイツ人医者のようなナチ逃亡者も反ナチも受け入れたから、他の諸国よりドイツ人といわゆる「ユダヤ」人が多く苗字は頭痛のタネです。

 

   
           (中央が監督、右隣りのダリン以下出演者一同)

★新人監督エントリーが珍しくなったコンペのなかでピカイチなのが本作の監督。1975年ブエノスアイレス生れ、脚本家、監督、エディター、プロデューサー。最近はテレビの仕事が多かった。長編第3作アクション・コメディTiempo de valientes2005On Probation)が、 ビアリッツ映画祭(ラテンアメリカ部門)で観客賞、マラガ映画祭(同左)では主役2人のうちルイス・ルケがベスト男優賞(銀賞)を受賞し、ペニスコラ・コメディ映画祭では、作品賞、監督賞、もう一人の主役ディエゴ・ペレッティが男優賞を受賞しました。


他に第2 El fondo del mar2003Bottom Sea)、テレビのシリーズドラマが多く、映画界復帰が待たれていた。今回はアメリカで活躍中のグスタボ・サンタオラジャが故郷ブエノスアイレスに戻って音楽を担当したことでも話題になっています。彼については説明不要でしょうが、『ブロークバック・マウンテン』と『バベル』で2005年、2006年と連続でアカデミー作曲賞を受賞しています。その他『アモーレス・ペロス』、『21グラム』、『モーターサイクル・ダイアリーズ』、『ビューティフル』エトセトラ。サンタオラジャによれば、ロック、ソウル、アフリカのリズム、ラテンアメリカのポピュラー音楽をミックスさせたとのこと。もう一つの話題は、アルモドバル兄弟の製作会社「エル・デセオ」が共同製作に参画していること。エントリーにはこういう実力者が関係しているかも、なにしろカンヌだからね。(写真は監督とサンタオラジャ)

 


★今年の審査委員長は、ニュージランドのジェーン・カンピオン監督。1993年『ピアノ・レッスン』がパルムドールを受賞している。この年はチェン・カイコーの『さらば、わが愛 覇王別姫』と賞を分け合いました。時々ありますね。昨年はシネファウンデーション&短編映画部門の審査委員長でした。今年は重みが違うから大変です。審査員にはガエル・ガルシア・ベルナルの名前があり、「光陰矢のごとし」を実感しました。カンヌ2000批評家週間でグランプリを受賞した『アモーレス・ペロス』で電撃デビュー、一夜にして「天と地が引っくり返った」と興奮した青年が、審査員なんですね。委員長を含めて女性5人、男性4人です。

 

★次回は「ある視点」の紹介から。まだ受賞発表(525日)には時間がたっぷりありますからゆるゆると。