デ・ラ・イグレシア、新作ホラー・コメディを語る*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年02月26日 18:06

         「信用できる唯一の武器は笑いである」とアレックス

 

★ベルリン映画祭も閉幕しました。アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』はコンペティション外でしたから賞には絡みませんでしたが、監督はベルリン入りしてプロモーション活動に努めました。スリラーなのかホラーなのか、またはその両方なのか分かりませんが、「死の恐怖」についてのかなりシリアスなコメディ群集劇であるようです。彼はデビュー作以来オーディオビジュアルの致命的な退屈に反旗を翻して終わりなき闘いを続けています。ベルリン映画祭の後、第20マラガ映画祭317日~26日)のオープニング上映が内定しています(ベルリンと同じコンペティション外)。スペイン公開は324日、これは「シネ・エスパニョーラ2017と時差を考えると同日になります。マラガ映画祭については後日大枠をアップいたします。ベルリンの第1回作品賞受賞のカルラ・シモンVerano 1993はセクション・オフィシャルでジャスミン賞を狙います。

 

  

  (エレガントな黒の背広姿のアレックス・デ・ラ・イグレシア、ベルリン映画祭211日)

 

1965年ビルバオ生れの監督は、子供時代に一度もサッカーボールを蹴ったことがなかったという変り種、社会学教授の父親、肖像画家で活動的な母親のもと自由で国家主義的でない家庭環境のなかで育った。政治的な不安は感じなかったが、街路での小競り合いや警官の銃声のなかで、つまりテロリストたちと隣り合って暮らしていた。当時のバスクの流行語は「何かあったのだろう」という一言、何が起ころうとも誰かがそう話すことで終わりだった。フランコ体制が名目上終わるのは10年後の1975年末のこと、しかし同じような思考停止は今でも続いていると監督。

 

★監督によれば、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』やスティーヴン・キングの『ミスト』、または『皆殺しの天使』からヒントを得ている。「ブニュエルの『皆殺しの天使』は、形而上学的な結末になる。知識などはどこかへ行ってしまって、閉じ込められて抜け出せないという苦痛だけを話し合っている。自分を取り巻く現実を前にして思考停止に陥ってしまっている。現実というのは時には殻のようなもので中身がよく分からない。私たちが度々経験するショーウィンドー越しの商品と同じです」と。登場人物が監禁される場所は、アガサ・クリスティーのは離れ小島、スティーヴン・キングはスーパーマーケット、ブニュエルのは或るブルジョワジーの大邸宅の居間、いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品と言われる。邦題が「クローズド・バル」となった延線上には、これがあったかもしれない。

 

★本作ではマドリードのバルが舞台になった。どうしてバルにしたのか、バルは監督にとってどんな意味をもつのか。彼と脚本家のホルヘ・ゲリカエチェバリアは、毎朝9時にマドリードの「エル・パレンティノ」というバルで朝食を摂りながら執筆している。「バルは他人と一緒に居心地のいい時間を過ごせる空間でもあるが、反対に突然人を怯えさせるようなことが起こる場所でもある。隣に座っている客が暗殺者である可能性もあるし、反対に自分が抱えている問題を解決してくれる人かもしれない。あるとき、浮浪者入ってきて、店の女主人が平手打ちを食わせるまで皆を罵りはじめた。一人の客が『何か食べるものを与えるべきだった』と言うと、彼女は『そうしたくなった人に与える』と応酬した。そして彼にコーヒーをついだ。それでみんな黙り込んで固まってしまった」のがアイディアの発端だったそうです。映画にも浮浪者が登場する。

 

  

 

 

 (バルに監禁状態になった、マリオ・カサス、ブランカ・スアレス、カルメン・マチ、ほか)

 

★「現実逃避は映画人として死を意味します。それぞれみんな頭の中に手本があって、一歩家を出たら身体的強さをもたねばならない」とも。「私たちが暮らしている社会は恐怖が支配しているが、これは現実でなく悪い夢を見ているんだ、と思いたい。しかし実際は悪夢でなく現実、あるとき人生は突然ひっくり返る」と。諺にあるように「男(女も)は敷居を跨げば七人の敵あり」というわけです。人間は憎しみで出来上がっている。グロテスクを排除せず、死の恐怖、本能的な衝動、アイデンティティについて語ったホラー・コメディ。

 

★既に次回作Perfectos desconocidosの撮影も終了して今年公開が決定しているようです。イタリア映画『おとなの事情』(2016、パオロ・ジェノベーゼ)のリメイク。イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞を受賞した話題作、間もなく3月公開されます。イネス・パリスの悲喜劇「La noche que tu madre mató a mi padre」(16、マラガ映画祭正式出品)でコメディ女優としての力量を発揮したベレン・ルエダ、『スモーク・アンド・ミラー』のエドゥアルド・フェルナンデス、他にエドゥアルド・ノリエガペポン・ニエトエルネスト・アルテリオダフネ・フェルナンデスフアナ・アコスタなど7人の芸達者が顔を揃えている。ちなみに「La noche que tu madre mató a mi padre」では、ルエダとフェルナンデスは息の合った夫婦役を演じていた。ペポン・ニエト以外はデ・ラ・イグレシア作品は初めての出演かもしれない。こちらはラテンビートに間に合うだろうか。 

   

                      (監督を挟んで7人の出演者たち)

 

 

  (演技を指導中の監督とベレン・ルエダ)

 

イネス・パリスの悲喜劇の紹介記事は、コチラ2016425

  

『キリング・ファミリー』アドリアン・カエタノ*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年02月20日 15:10

       『キリング・ファミリー 殺し合う一家』は犯罪小説の映画化

 

325日から2週間限定で開催される「シネ・エスパニョーラ20175作品の一つ、アドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』のご紹介。前回アドリアン・カエタノ映画はオール未公開と書きましたが、未公開には違いないのですが、2013年の前作「Mala」が『イーヴィル・キラー』の邦題でDVD発売(20139月)されておりました。本作の原題「El otro hermano」が『キリング・ファミリー 殺し合う一家』と、いささかセンセーショナルな邦題になった遠因かもしれません。新作はアルゼンチンの作家カルロス・ブスケドの小説Bajo este sol tremendoに着想を得て映画化されたもの。

 

 

『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(「El otro hermano」英題「The Lost Brother」)2017

製作:Rizoma Films(アルゼンチン) / Oriental Films(ウルグアイ) / MOD Producciones(西) / Gloria Films()    協賛:Programa Ibermedia/ INCAA / ICAU / ICAA

監督・脚本:イスラエル・アドリアン・カエタノ

脚本():ノラ・Mazzitelli(マッツィテッリ?) 原作:カルロス・ブスケド

撮影:フリアン・アペステギア

音楽:イバン・Wyszogrod

編集:パブロ・バルビエリ・カレラ

製作者:ナターシャ・セルビ、エルナン・ムサルッピ

 

データアルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス合作、スペイン語、2017年、犯罪スリラー、113分、撮影地:サン・アントニオ・デ・アレコ(ブエノスアイレス)、ラパチト(アルゼンチン北部のチャコ州)など、撮影は2016125日から311日の約7週間、これから開催される第34マイアミ映画祭2017がワールド・プレミア、第20マラガ映画祭2017の正式出品が決定しています。

 

キャスト:ダニエル・エンドレル(セタルティ)、レオナルド・スバラグリア(ドゥアルテ)、アンヘラ・モリーナ(セタルティの母)、パブロ・セドロン、アリアン・デベタック、アレハンドラ・フレッチェネル、マックス・ベルリネル、他

 

プロット・解説:故郷ラパチトで暮らしていた母親と弟ダニエルの死を機に闇の犯罪組織に否応なく巻き込まれていくセタルティの物語。セタルティは打ちのめされた日々を送っていた。仕事もなく、何の目的も持てず、テレビを見ながらマリファナを吸って引きこもっていた。そんなある日、見知らぬ人から母親と弟が猟銃で殺害されたという情報がもたらされる。ブエノスアイレスからアルゼンチン北部の寂れた町ラパチトに、家族の遺体の埋葬と僅かだが掛けられていた生命保険金を受け取る旅に出発する。そこではドゥアルテと名乗る町の顔役が彼を待ち受けていた。元軍人で家族の殺害者の友人でもあるというドゥアルテの裏の顔は、この複雑に入り組んだ町の闇組織を牛耳るボスで誘拐ビジネスを手掛けていた。セタルティは次第に思いもしなかった裏組織の犯罪に巻き込まれていく。

 

   

        (ドゥアルテ役のスバラグリアとセタルティ役のエンドレル)

 

★まだワールド・プレミアしていないせいか、現段階ではプロットが日本語公式サイトとスペイン語版にかなりの齟齬が生じています。人名もダニエル・エンドレルが演じるハビエルは、スペイン語版及びIMDbではカルロス・ブスケドの原作と同じセタルティとなっている。映画化の段階で変更したとも考えられるが一応上記のようにしました。監督が小説にインスピレーションを受けて映画化したと語っているので、映画でハビエルに変更したとも考えられます。プロットも映画のほうが複雑になっている。原作と映画は別作品ですから人名やプロットの変更は問題なしと思います。いずれにしろ公開までにはっきりすると思うので、それを待って追記いたします。

 

  

              (ダニエル・エンドレル、映画から)

 

本作クランクイン時のインタビューで「登場人物の行動を裁く意図はなく、むしろアウトサイダー的な生き方しかできない彼らに寄り添いながら旅をして支えていく、そういう彼らの紆余曲折を語りたい。そうすることが政治的な不正や反逆の方向転換になると考えるから」と語っている。存在の空虚さ、責任感のなさ、拷問についての政治的な倫理観の欠如、これらは過去の監督作品Un oso rojo『イーヴィル・キラー』の通底に流れるテーマと言えます。

 

 

             (フリオ・チャベスが好演したUn oso rojoのポスター)

 

イスラエル・アドリアン・カエタノIsrael Adorián Caetanoは、1969年モンテビデオ生れのウルグアイの監督、脚本家。ウルグアイは小国でマーケットが狭く主にアルゼンチンで映画を撮っている。デビュー作Bolivia01)がカンヌやロッテルダム映画祭で高評価を受け、その後Un oso rojo02A Red Bear)、Crónica de una fuga06Chronical of an Escapa)、Francia09Mala13、英題「Evil Woman『イーヴィル・キラー』DVDなどの問題作を撮っている。その他、短編、長編ドキュメンタリー、シリーズTVドラなどで活躍している実力者。

 

    

                      (イスラエル・アドリアン・カエタノ監督)

 

 

(本作撮影中の監督とダニエル・エンドレル)

 

原作者カルロス・ブスケドは、1970年チャコ州のロケ・サエンス・ペニャ生れ、現在はブエノスアイレス在住。小説執筆の他、ラジオ番組、雑誌「El Ojo con Dientes」に寄稿している。

 

   

               (原作者カルロス・ブスケド)

 

キャスト陣、ドゥアルテ役のレオナルド・スバラグリアは、1970年ブエノスアイレス生れ、エクトル・オリヴェラの『ナイト・オブ・ペンシルズ』(86)でデビュー、TVドラで活躍後、1998年スペインに渡り活躍の場をスペインに移す。マルセロ・ピニェイロの『炎のレクイエム』(00)、フアン・カルロス・フレスナディジョの『10億分の1の男』(01)、ビセンテ・アランダの『カルメン』(03)のホセ役、マリア・リポルの『ユートピア』(03)など、スペイン映画出演も多い。最近ヒットしたダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)の第3話「エンスト」でクレージーなセールスマンを演じてファンを喜ばせた。

『人生スイッチ』やキャリア紹介は、コチラ2015729

 

  

                      (レオナルド・スバラグリア、映画から)   

 

★母親役アンヘラ・モリーナはパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』の祖母役、アルモドバルの『抱擁のかけら』の母親役、細い体にもかかわらず5人の子だくさんは女優として珍しい。海外作品の出演も多く、昨2016年の国民賞(映画部門)を受賞した。仕事と家庭を両立させていることが、ペネロペ・クルスのような若手女優からも「将来なりたい女優」として尊敬されている。

アンヘラ・モリーナの紹介記事は、コチラ2016728

 

  

      (最近のアンヘラ・モリーナ)

 

★当ブログ初登場のダニエル・エンドレルは、1976年モンテビデオ生れのウルグアイの俳優、監督、脚本家、製作者。上記のスバラグリア同様アルゼンチンで活躍している。2000年、ダニエル・ブルマンのいわゆる「アリエル三部作」の主人公アリエル役でデビュー。第一部『救世主を待ちながら』は東京国際映画祭で特別上映され、2004年、第二部僕と未来とブエノスアイレスは、ベルリン映画祭の審査員賞グランプリ(銀熊)、クラリン賞(脚本)、カタルーニャのリェイダ・ラテンアメリカ映画祭では作品・監督・脚本の3を独占した。第三部Derecho de familia06)は未公開、今作ではかつてのアリエル青年も結婚した父親役を演じた。公開作品ではパブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャのウルグアイ映画『ウイスキー』04)にも脇役で出演、両監督の「25 Watts」でも主役を演じた。

 

 

    (邦題僕と未来とブエノスアイレス』と訳された「El abrazo partido」のポスター

 

  

(父親役を演じたアリエル、Derecho de familia」の一場面

 

『インビジブル・ゲスト』オリオル・パウロ*「シネ・エスパニョーラ2017」」2017年02月17日 14:04

       『ロスト・ボディ』オリオル・パウロ2作目、早くも劇場公開!

  

325日から始まる「シネ・エスパニョーラ2017の上映作品の一つ『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のご紹介。先日ベルリン映画祭に出品されるアレックス・デ・ラ・イグレシアの新作をご紹介ついでに、「こちらは公開されるかもしれない」と予想した通りになりました。こちらとは本作のこと、スペイン公開が16日、まだDVD発売もクローズ期間中に公開されるとは思いませんでした。現在デ・ラ・イグレシア監督のお気に入りマリオ・カサスがやり手の実業家アドリアン・ドリアを演じる。彼は愛人殺害の容疑者として突然逮捕される。その愛人ラウラにバルバラ・レニー『マジカル・ガール』)、息子の復讐に燃える父親にホセ・コロナド『悪人に平穏なし』『スモーク・アンド・ミラー』)、重要人物の辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンにベテランのアナ・ワヘネル『ビューティフル』『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』)という申し分のないキャスト陣で展開されます。

 

 

 

『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』Contratiempo 英題 The Invisible Guest2016

製作:Atresmedia Cine / Think Studio / Nostromo Pictures / TV3 Films / ICAA / Movister / ほか

監督・脚本:オリオル・パウロ

撮影:ハビ・ヒメネス(『アレクサンドリア』Palmeras en la nieves

音楽:フェルナンド・ベラスケス(『インポッシブル』Gernika

編集:ジャウマ・マルティ(『インポッシブル』Un monstruo viene a verme

美術:エバ・トーレス

衣装デザイン:ミゲル・セルベラ

メイクアップ&ヘアー:ルベン・マルモル

製作者:ソフィア・ファブレガス(エグゼクティブ)、メルセデス・ガメロ、サンドラ・エルミダ、アドリアン・ゲーラ、他多数

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2016106分、スリラー、製作費約400万ユーロ、撮影地バルセロナ自治州テラサTerrassa、ピレネー山地のVall de Núria、期間201512月ほか、配給元ワーナー・ブラザーズ・ピクチャー・イスパーニャ。米国ファンタスティック・フェスト(2016923日)、ポートランド映画祭20172月、ベルグラード映画祭20173月、スペイン公開201716日、日本公開同325日、他

 

キャスト:マリオ・カサス(実業家アドリアン・ドリア)、アナ・ワヘネル(弁護士ビルジニア・グッドマン)、バルバラ・レニー(ドリアの愛人ラウラ・ビダル、写真家)、ホセ・コロナド(ダニエルの父トマス・ガリード)、フランセスク・オレリャ(ドリアの顧問弁護士フェリックス・レイバ)、パコ・トウス(運転手)、ダビ・セルバス(ブルーノ)、イニィゴ・ガステシ(ダニエル・ガリード)、マネル・ドゥエソ(ミラン刑事)他

 

物語:突然災難に見舞われるハイテク企業の経営者アドリアン・ドリアの物語。アドリアンは山岳ホテルの部屋に踏み込まれた警察によって目覚める。傍らには愛人ラウラの死体があり、ラウラ殺害容疑者として逮捕される。彼はアジア市場の商取引で知り合った辣腕弁護士ビルジニア・グッドマンを雇い入れることを決心する。二人は無実を証明するべく事件解明に着手するが、彼は昨晩のことをよく思い出せない。どうしても刑務所への収監を逃れたいアドリアンは、愛人ラウラとの関係、自動車衝突事故によるダニエル・ガリードの死に二人が苦しんでいたことを語った。そこで弁護士は新証人を登場させて混乱させる戦略に出る。ほとんど完成が不可能と思われるジグソーパズルの真実と嘘を嵌めこむことになるだろう。

 

  

 

                                           (アドリアン・ドリア役のマリオ・カサス)

 

 

(ラウラ・ビダル役のバルバラ・レニー)

  

 

             (グッドマン弁護士役のアナ・ワヘネル)

 

 

                    (ダニエル・ガリードの父親役のホセ・コロナド)

 

 

(マリオ・カサスとバルバラ・レニー)

 

オリオル・パウロOriol Pauloは、1975年バルセロナ生れ、監督、脚本家。1998年「McGuffin」で短編デビュー、カタルーニャTVのドラマ・シリーズ「El cor de la ciutat」(カタルーニャ語20040970エピソード)を執筆して脚本家として経験を積む。2010年ギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』の脚本を監督と共同執筆、2012『ロスト・ボディ』で長編デビュー、ゴヤ賞2013の新人監督賞にノミネートされた。本作が第2作となる。

 

  

         (ホセ・コロナドに演技指導をするオリオル・パウロ監督)

 

★原タイトルの「Contratiempo」の意味は、不慮の出来事、災難のこと、邦題は英語題のカタカナ起こしです(多分字幕は英語訳と思います)。いずれにせよ、フアン・アントニオ・バヨナやアメナバル作品を手掛けているスタッフ陣、スペインでもベテラン中堅若手と実力派で固めたキャスト陣、特に脇役の弁護士フェリックス・レイバ役のフランセスク・オレリャ『ロスト・アイズ』)、ミラン刑事役のマネル・ドゥエソ(『EVAエヴァ』『ロスト・ボディ』)はバルセロナ派のベテランです。デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル~』やキケ・マイジョの『ザ・レイジ~』主演のマリオ・カサス以下は当ブログでも度々登場させています。映画祭上映、公開作品も多いので既にスペイン映画ファンにはお馴染みの面々かと思います。

公式サイトと固有名詞の表記が若干異なりますが、当ブログではスペイン語読みに近い表記でアップしております。


スペイン映画公開作品*2017年前半2017年02月15日 17:45

         かつてのホラーからスリラー&アクション映画へ?

 

2月末から3月にかけて短期間ながら公開されるスペイン映画(11回上映、レイトショーを含む)スリラー2本のご紹介。ヒューマントラストシネマ渋谷、上映スケジュールが変則です。特に『バンクラッシュ』の上映時間は要確認です。

 

『スモーク・アンド・ミラー 1000の顔を持つスパイ』(「El hombre de las mil caras」)

 監督:アルベルト・ロドリゲス(『マーシュランド』)、サスペンス、2016、123

 ヒューマントラストシネマ渋谷、レイトショー2105

 225日(土)~27日(月)、31日(水)~33日(金)、37日(火)

 DVD発売201745

当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ2016924

 

 

 

    (左から、ロルダン役のカルロス・サントス、カモエス役のホセ・コロナド)

 

  

 (ロルダンとその妻マルタ・エトゥラ)

 

『バンクラッシュ』(「Cien años de perdón」)スペイン・アルゼンチン・フランス、2016

 監督:ダニエル・カルパルソロ(『インベーダー・ミッション』)、スリラー、96

 ヒューマントラストシネマ渋谷

 228日(火1915)、34日(土1140)、35日(日1520)、36日(月1930)、

 38日(水1930)、39日(木2130)、310日(金1140

 DVD発売201733

当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ201673

 

   

 

325日(土)よりシネマート新宿とシネマート心斎橋にて、2週間限定で公開される「シネ・エスパニョーラ2017のご紹介。アレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作を含む5本です。『キリング・ファミリー 殺し合う一家』は、アルゼンチン、ウルグアイ他の合作映画、アドリアン・カエタノ監督は1969年モンテビデオ生れのウルグアイの監督、脚本家。デビュー作「Bolivia」(01)がカンヌやロッテルダム映画祭で高評価、その後「Un oso rojo」(02)、「Cronica de una fuga」(06)、「Francia」(09)などすべて未公開ながら問題作を撮っている実力者。新作はカルロス・ブスケドの小説「Bajo este sol tremendo」の映画化、邦題が凄まじいがお薦め作品です。またデ・ラ・イグレシアの新作は今秋のラテンビート上映はなくなりそうですね。

 

上映スケジュール、紹介記事はコチラ

  http://www.albatros-film.com/movie/cineespanola2017/

 

 

『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「Toro」)2016 

 監督:キケ・マイジョ(『EVAエヴァ』)、マラガ映画祭2016コンペティション外上映作品、

 スリラー・アクション、107

当ブログの主な作品・監督紹介記事は、コチラ2016414

 

    

     (ポスター左から、ルイス・トサール、マリオ・カサス、ホセ・サクリスタン)

 

『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(「Contratiempo」)2016

 監督:オリオル・パウロ(『ロスト・ボディ』)、サスペンス、106

 

  

 (ポスター左から、ホセ・コロナド、マリオ・カサス、アナ・ワヘネル、バルバラ・レニー)

 

『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』(「Plan de Fuga」)2017

 監督:イニャキ・ドロンソロ、サスペンス・アクション、105

 

 

 (ポスター左から、アライン・エルナンデス、アルバ・ガローチャ、ルイス・トサール、

  ハビエル・グティエレス)

 

『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』(「El bar」)2017

 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア(『スガラムルディの魔女』)、107

 ベルリン映画祭2017コンペティション外上映作品、スリラー群集劇

当ブログの簡単な紹介記事は、コチラ2017122

 

   

        (バルに閉じ込められた8人と中央にデ・ラ・イグレシア監督)

 

『キリング・ファミリー 殺し合う一家』El otro hermano」、英題The Lost Brother」)、2017

 アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス合作、マイアミ映画祭2017上映

 監督:イスラエル・アドリアン・カエタノ、犯罪ドラマ、113

 

  

      (ポスター左から、ダニエル・エンドレル、レオナルド・スバラグリア)

  

ドキュメンタリー『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』の監督来日2017年02月01日 15:42

        『デリリオ~歓喜のサルサ』のチュス・グティエレス監督来日

 

 

★ドキュメンタリー『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』公開に合わせてチュス・グティエレス監督が来日します。公開前日の217日、東京セルバンテス文化センターで「映画監督との出会い:チュス・グティエレス」という催しのご案内です。

『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』

   (ドキュメンタリー Sacromonte: los sabios 2014

日時:2017217日(金曜日)1800~(入場無料、要予約)

場所:東京セルバンテス文化センター、地下1階オーディトリアム

セルバンテス文化センターの紹介文はコチラ

フラメンコ発祥の地、グラナダの洞窟サクロモンテに生きた伝説的アーティストらのドキュメンタリー『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』。この作品の公開に向け監督チュス・グティエレスが来日します。グラナダ出身の彼女は、映画監督、脚本家、女優、アーティストそして映画産業に携わる女性らの平等を求める協会に携わるなど幅広い活動をしています。同ドキュメンタリー製作にまつわる逸話をはじめ、スペインの映画事情などについてお話を伺います。 

  

★「ラテンビート2014」上映の『デリリオ~歓喜のサルサ~』と同じ年の製作です。フィクションとドキュメンタリーというジャンルの違いもありますが、スペインでの評価は本作のほうが高かったようです。公式サイトも起ちあがっておりますので詳細はそちらにワープしてください(2017218日、有楽町スバル座、アップリング渋谷ほか、全国順次公開)。監督紹介は『デリリオ~歓喜のサルサ~』をアップした折の記事を再構成したものを参考資料として載せておきます。

 

  *キャリア&フィルモグラフィー*

チュス・グティエレスChus Gutiérrez (本名María Jesús Gutiérrez):1962年グラナダ生れ、監督、脚本家、女優。本名よりチュス・グティエレスで親しまれている。8歳のとき家族でマドリードに移転、197917歳のときロンドンに英語留学、帰国後映像の世界で働いていたが、1983年本格的に映画を学ぶためにニューヨークへ留学し、グローバル・ビレッジ研究センターの授業に出席、フレッド・バーニー・タイラーの指導のもと、スーパー8ミリで短編を撮る(Porro on the Roof1984、他2篇)、1985年、シティ・カレッジに入学、1986年、最初の16ミリ短編Mery Go Roundo”を撮る。ニューヨク滞在中にはブランカ・リー、クリスティナ・エルナンデス、同じニューヨークでパーカッション、電子音楽、作曲を学んでいた弟タオ・グティエレスと一緒に音楽グループ“Xoxonees”を立ち上げるなどした。2007年には、CIMAAsociacion de Mujeres de Cine y Medios Audiovisuales)の設立に尽力した。これは映画産業に携わる女性シネアストたちの平等と多様性を求める連合、現在300名以上の会員が参加している。

 

(チュス・グティエレス監督)

    

                

1987年帰国、長編デビュー作となるSublet1991)を撮る。まだ女優業に専念していたイシアル・ボリャインを主人公に、製作は女性プロデューサーの代表的な存在であるクリスティナ・ウエテが手掛けた。夫君フェルナンド・トゥルエバ『ベルエポック』『チコとリタ』『ふたりのアトリエ』ほか、義弟ダビ・トゥルエバの Living Is Easy with Eyes Closed「僕の戦争」を探してDVD) 手掛けたベテラン・プロデューサー。

受賞歴カディスのアルカンセス映画祭1992金賞、バレンシア映画祭1993作品賞、1993シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)、ゴヤ賞1993では新人監督賞にノミネートされイシアル・ボリャインもムルシア・スペイン・シネマ1993が、ベスト女優賞にあたる「フランシスコ・ラバル賞」を受賞した。

 

2Alma gitana96)は、プロのダンサーになるのが夢の若者がヒターノの女性と恋におちるストーリー、新作『デリリオ』と同じよう二つの文化の衝突あるいは相違がテーマとして流れている。5人の若手監督のオムニバス・ドキュメンタリー En el mundo a cada rato (04) 『世界でいつも・・・』の邦題で「ラテンビート2005」で上映された。第3エピソード、アルゼンチンの3歳の少女マカがどうして幸せかを語る Las siete alcantarillas を担当、アルゼンチンで撮影され「七つの橋」の邦題で上映されている。

 

 (3歳の少女マカ、映画から

 

         

他に代表作としてEl Calentito05『ヒステリック・マドリッド』)も高い評価を受け、こちらも「ラテンビート2005」で上映されたベロニカ・サンチェスを主役に、フアン・サンス、ルス・ディアス(ゴヤ賞2017新人賞ノミネート)、マカレナ・ゴメス『トガリネズミの巣穴』のヒロイン、本作でマラガ映画祭新人女優賞のヌリア・ゴンサレスなど若手の成長株を起用したコメディ

受賞歴モンテカルロ・コメディ映画祭2005作品賞他受賞、マラガ映画祭2005ジャスミン賞ノミネート、トゥールーズ映画祭で実弟タオ・グティエレスが作曲賞を受賞した。なお彼は姉の全作品音楽を担当している。 

(グティエレス姉弟)

        

 最も高い評価を受けたのが7作目Retorno a Hansala08)当時、実際に起きた事件に着想を得て作られた。海が大荒れだった翌日、カディスのロタ海岸にはモロッコからの若者11名の遺体が流れ着いた。服装からサハラのハンサラ村の出身であることが分かる。既に移民していたリデアはその一人が弟のラシッドであることを知る。リデアは葬儀社のオーナーと遺体を埋葬するため故郷に向かう。これは異なった二つの社会、価値観、言語の違いを超えて理解は可能か、また若者の海外流失止められないイスラム共同体の誇りについての映画でもある。

受賞歴バジャドリード映画祭審査員特別賞カイロ映画祭2008作品賞「ゴールデン・ピラミッド賞」国際批評家連盟賞トゥールーズ映画祭脚本賞グアダラハラ映画祭監督・脚本賞など受賞。ゴヤ賞2009ではオリジナル脚本賞にノミネートされた。

 

    

『デリリオ~歓喜のサルサ』の監督&作品紹介記事は、コチラ2014925

  

アルモドバルの『ジュリエッタ』*ゴヤ賞2017 ⑧2017年01月14日 15:51

        ゴヤ賞は7個ノミネーションだが、いくつゲットできるか?

 

★間もなくセビーリャのマエストランサ劇場で開催される(114日)フォルケ賞には、長編映画部門の作品賞とエンマ・スアレスの女優賞がノミネートされており、結果が分かるのは日本時間では15日になります。続くフェロス賞には作品賞、監督賞を含めて9個、数だけで判断できないのが映画賞です。4月公開と早いこと、アルモドバル・アレルギーなどを勘案すると勝率は低いと予想します。最近のアルモドバル作品は必ず劇場公開されますが、プロット重視の観客には物足りないかもしれない。もともと監督もプロットで勝負するつもりはありませんから、それはそれで良いのです。楽しみ方はいくつもあって、それぞれ観客が視点を定めて愉しめばいいことです。赤を基調としながらもヒロインの心理状態で巧みに変化する色使いが素晴らしかったとか、アルモドバルが初めて起用したジャン=クロード・ラリューの荒々しいガリシアの海が良かったとか、『私の秘密の花』95)以来、アルモドバルの専属みたいなアルベルト・イグレシアスの音楽を堪能したとか、いろいろ楽しみ方は考えられます。

 

 

  (初期タイトル”Silencio”のポスター、エンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ)

 

★アルモドバルはスペインの監督としては国際的に一番知名度があると思いますが、ゴヤ賞ノミネーションの選考の仕方に異議を唱えてからというもの、スペイン映画アカデミーとの長い軋轢が続いていた。ノミネーションを受けてもガラには欠席続き、なんとか解消したのが『私が、生きる肌』でした。今でも完全に修復されたとは思えませんが、そんなこんなでゴヤ賞には恵まれていない。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』1989、作品賞・脚本賞)、『オール・アバウト・マイ・マザー』00、作品賞・監督賞)、最後の『ボルベール〈帰郷〉』07、作品賞・監督賞)以来、監督としては賞から遠ざかっている。

 

  

    (左から、マリア・バランコ、アントニオ・バンデラス、カルメン・マウラ、

        フリエタ・セラーノ、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』から)

 

★アルモドバル・ファンには二つの流れがあって、『グローリアの憂鬱』84)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』あたりまでが好きな人、『オール・アバウト・マイ・マザー』でオスカー監督になってからを好む人、大勢は後者です。前者のファンには最近の彼の映画は見ないというファンもおり、『抱擁のかけら』09)など批評に値しない駄作と切り捨てた批評家もおります。「プロなのにあまりにも感情的すぎる」と考える管理人は前者に属しているが必ず見るという両刀使いです。両刀使いにお薦めの鑑賞法は、理詰めにストーリーを追うことを止めて、他の監督には真似できない色彩感覚、過去の監督作品へのオマージュ、背景が雄弁に物語るデティール、監督が仕掛けた遊びごころを楽しむことです。手法は新しくても本質は良質なメロドラマブラック・コメディ作家、スペインで最も愛された映画監督ガルシア・ベルランガの優等生がアルモドバルなのです。

 

     

    (本作を最後にミューズを卒業したペネロペ・クルス、『抱擁のかけら』から)

 

★「最初から二人の女優を起用しようと決めていた」と監督、その一人、現在のジュリエッタを演じたエンマ・スアレス主演女優賞にノミネートされただけで、若い頃のジュリエッタを力演したアドリアナ・ウガルテはノーマークでした。助演というわけにもいかず新人でもないしで不運でした。主演男優賞のように4人枠に二人を押し込むことは無理だったようです(5人枠のフェロス賞には二人ともノミネーションされています)。ライバルはカルメン・マチペネロペ・クルスバルバラ・レニーです。エンマ・スアレスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの“La próxima piel”で助演女優賞にもノミネーションされており、確率的にはこちらのほうが高いかもしれない。ライバルはテレレ・パベスカンデラ・ペーニャシガニー・ウィーバーです。

 

      

     (監督、二人のジュリエッタ、エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテ)

 

★ノミネーション14回目になるアルベルト・イグレシアス1955、サンセバスチャン)が初めて映画音楽を手掛けたのは、フリオ・メデムの『バカス』(92)、いきなりゴヤ賞にノミネートされた。同監督の『赤いリス』(93)で1個めをゲット、『ティエラ~大地』、『アナとオットー』、『ルシアとSEX』とメデム作品で4個受賞、アルモドバル作品の1個めは、『オール・アバウト・マイ・マザー』99)、続いて『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール〈帰郷〉』『抱擁のかけら』『私が、生きる肌』11)、2監督で9個、更にイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)を加えると合計10個というゴヤ胸像のコレクター。今年で31回目を迎えるゴヤ賞だが、うち14回ノミネートされている。スペイン映画に限らずアカデミー賞にノミネートされた『ナイロビの蜂』、『君のためなら千回でも』、『裏切りのサーカス』など、海外の監督からも熱い視線が寄せられている。授賞式では恥ずかしそうに登壇、短いスピーチと謙虚さで好感度抜群ではないでしょうか。

 

  

(『私が、生きる肌』で10個めのゴヤ胸像を手にアルベルト・イグレシアス、2012年授賞式)

 

★未だタイトル“Silencio”と出演者パルマ・デ・ロッシだけがアナウンスされたときから記事をアップしていたので、実際にスクリーンを前にしたときには新鮮味が失せていた。パンフの宣伝文句にあるような「数奇な運命に翻弄された母と娘の崇高な愛の物語」という印象ではなく、それは失踪したジュリエッタの娘アンティアの人格の描き方に説得力がなかったせいかと思います。むしろスペインによくある古いタイプの「負の父親像」やアルモドバルが拘る「死」が、ここでもテーマの一つになっていた。どの作品にも監督本人が投影されているわけだから、根本的に変化したというふうには感じられないのは当然かも知れない。また偶然が重なりすぎると、メロドラマでも嘘っぽくなるのではないかと感じた。ストーリー、スタッフ、キャスト紹介は以下にアップしています。

 

エマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテのキャリア紹介記事は、コチラ⇒201545

アルモドバル、主な作品紹介の記事は、コチラ⇒2016219201658

『ジュリエッタ』のトレビア記事については、コチラ⇒201693

 

『彷徨える河』 チロ・ゲーラ*コロンビア映画2016年12月01日 14:53

          文明と野蛮はラテンアメリカ文化の古典的テーマ

 

★昨年、公開あるいは映画祭上映を期待してアップしたチロ・ゲーラEl abrazo de la serpiente『彷徨える河』の邦題で公開された。カンヌ映画祭のパラレル・セクションである「監督週間」に正式出品した折に、原タイトルで紹介しております。カンヌ以降、世界の映画祭を駆け巡り、2016年の88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるというフィーバーぶり、それで公開されることになったのならアカデミー賞ノミネーションも悪くない。本作は昨年11月、第7回京都ヒストリカ国際映画祭において『大河の抱擁』の邦題で上映されました。まだ公開中ですが、新データを補足して改めて再構成いたします。

作品・監督フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2015524

88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの記事は、コチラ⇒2016117

 

              

            (二人のカラマカテを配した英語版ポスター

 

『彷徨える河』(原題“El abrazo de la serpiente”)

製作:Buffalo Producciones / Caracol Televisión / Ciudad Lunar Producciones 他 

監督・脚本:チロ・ゲーラ(カタログ表記シーロ)

脚本(共同):ジャック・トゥールモンド・ビダル

撮影:ダビ・ガジェゴ

音楽:ナスクイ・リナレス

編集:エチエンヌ・ブサック、クリスティナ・ガジェゴ

製作者:クリスティナ・ガジェゴ

 

データ:コロンビア≂ベネズエラ≂アルゼンチン、スペイン語ほか、2015年、アドベンチャー・ミステリー、モノクロ、125分、言語はスペイン語・ドイツ語・英語・ポルトガル語のほかコロンビア、ペルー、ブラジルにおいて話されているクベオ語以下現地語マクナ語、ウイトト語など多数。撮影地はコロンビア南東部のバウペスVaupésの密林ほか多数、撮影期間約50日間。

映画賞・映画祭:カンヌ映画祭「監督週間」アートシネマ賞受賞、第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、以下オデッサ、ミュンヘン、リマ、マル・デル・プラタ、インドほか各映画祭で受賞、他にフェニックス賞、アリエル賞(イベロアメリカ部門)、イベロアメリカ・プラチナ賞など映画賞を受賞。2016年にはサンダンス(アルフレッド・P・スローン賞)、ロッテルダム(観客賞)などを受賞している。

 

             (第2回イベロアメリカ・フェニックス賞のトロフィーを手にしたゲーラ監督)

 

キャストニルビオ・トーレス(青年カラマカテ)、アントニオ・ボリバル・サルバドル(老年期のカラマカテ)、ヤン・バイヴート(テオ、テオドール・コッホ=グリュンベルク)、ブリオン・デイビス(エヴァン、リチャード・エヴァンズ・シュルテス)、ヤウエンク・ミゲ(マンドゥカ)、ミゲル・ディオニシオ、ニコラス・カンシノ(救世主・アニゼット)、ルイジ・スシアマンナ(ガスパー)、ほか

 

プロットアマゾン川流液に暮らすシャーマンのカラマカテと、聖なる薬草を求めて40年の時を隔てて訪れてきた二人の白人探検家との遭遇を通して、友好、誠実、信仰、世界観の食い違い、背信などが語られる叙事詩。白人の侵略者によって人間不信に陥ったカラマカテは、自分自身の文明からも離れて一人ジャングルの奥深くに隠棲していた。そんな折、死に瀕したドイツ人民族学者が連れて来られる。一度は治療を断るが、病を治せる幻覚を誘発する聖なる樹木「ヤクルナ」を求めて大河を遡上する決心をする。40年後アメリカ人植物学者がヤクルナを求めて再びカラマカテを訪れてくる。自然と調和して無の存在「チュジャチャキ」になろうとしていた彼の人生は一変する。過去と現在を交錯させ、悠久の大河アマゾンの恵みと畏怖、文明と野蛮、聖と俗、シンクレティズム、異文化ショック、重要なのがラテンアメリカ文化に特徴的な<移動>あるいは〈移行〉が語られることである。

          

                    (瀕死のテオに一時的な治療を施す青年カラマカテ

 

          先住民の視点で描かれた母なる大河アマゾンへの畏怖

 

A: 期待を裏切らない力作、少しばかり人生観というか多様な物差しの必要に迫られました。過去にもアマゾンを舞台にした映画は作られましたが、大体が欧米人の視点で描かれていた。例えばクラウス・キンスキーがアギーレを演じたヴェルナー・ヘルツォークの『アギーレ/神の怒り』(1972,西独)、10年後の『フィツカラルド』、カルロス・サウラの『エル・ドラド』(1988,西仏伊)、こちらはエリセの『エル・スール』で父親を演じたオメロ・アントヌッティがアギーレに扮した。

B: それぞれ力作ですが視点は当然白人側でした。主人公は本作に出てくる二人の探検家同様、アマゾンに魅せられた狂気の人物、この大河は人間を異次元に誘い込む媚薬のようです。

 

A: 主役は、時を隔ててアマゾンを訪れた二人の科学者にして探検家ではない。老年に達したカラマカテのようにも見えますが、生命を宿す母なる大河アマゾンという見方もできます。アマゾンなしでこの映画は成り立たない。

B: 二人の探検家の残した書物や資料が監督にインスピレーションを与えたとしても、それはキッカケでしかない。テオとして登場する最初に訪れたドイツ人テオドール・コッホ=グリュンベルクの視点は先住民に敬意をはらっているが、1940年代初めにアマゾンを訪れたエヴァン、アメリカ人植物学者のリチャード・エヴァンズ・シュルテスは、長生きして数々の功績を残した人物ですが、アマゾン探訪の動機は資本主義的であり、映画でもかなり辛辣に描かれている。

 

A: 本作がフィクションであることを押さえておくことが重要です。2011年から4年をかけて完成させた作品だそうですが、老年のカラマカテを演じたアントニオ・ボリバルの哲学が脚本に強い影響を与えていて、彼との出逢いが成功の決め手だった印象を受けました。ここで監督の名前の表記について触れておくと、カタログはシーロ・ゲーラで表記されていますが、今まで当ブログでは前例に従ってチロ・ゲーラで紹介してきました。

B: シロ・ゲラもあり、どれにするか迷いますね、配給元が今回監督に確認した結果ならシーロ・ゲーラに統一したほうがベターかもしれない。

A: Ciroはペルシャ帝国アケメネス朝の王キュロスから取られた名前、スペイン語ならスィロまたはシーロ、チロはイタリア語読みでしょうか。目下のところは当ブログでは前例に従っておきます。

 

B: そのほか聖なる樹「ヤクルナyakruna」は、実際には存在しない植物のようですね。

A: 映画では白っぽい花を咲かせていましたが、モノクロですし想像上の樹木ですから謎めかしていました。実際にはヤクルナに似た幻覚を誘発する樹木、例えばチャクルナからの連想かもしれない。とにかく本編を通じてヤクルナの美しさは忘れがたいシーンの一つでした。

B: モノクロ映画なのに、何故かカラーだったような印象があります。アマゾン流域の熱帯雨林の緑が目に焼きついて拭えないとか(笑)。

 

    

           (青年カラマカテと聖なる樹木ヤクルナの白い花)

 

A: チュジャチャキchullachaqui」という語は、一種の分身ドッペルゲンガーらしく、語源はケチュア語、感情や記憶をなくした空っぽの無の存在になることのようです。老年に達したカラマカテがアメリカ人植物学者にして探検家のエヴァンに会ったときの状態がチュジャチャキだった。

B: 記憶をなくしていたカラマカテが最後に到達した神々の住む山地を目前にして佇むシーン、これも圧巻でした。

A: カラマカテは最後の「大蛇の抱擁」の儀式をおこなって忽然と消えてしまう。そして一人残されたエヴァンは〈大蛇に抱かれて〉異次元に迷い込むが、目覚めると再び現世に戻ってくる。この大蛇はアマゾンに棲息するというオオアナコンダでしょうか。冒頭の大蛇の出産シーンにもドキリとさせられましたが、本作では大蛇が鍵になっている。題名は自由につけていいのですが、『彷徨える河』では若干違和感があります。

 

    

       (神々の住む山地を目前に呆然と佇む老いたるカラマカテとエヴァン

 

悠久の大河アマゾンに潜む光と闇、侵略者が破壊した先住民文化

 

B: 部分的に挿入されるカプチン派修道士が孤児たちを教育の名のもとに収容する施設での狂気、自称救世主のブラジル人が村を支配する信じがたい事例など、ヨーロッパ人が先住民文化を破壊していくさまを描いている。

A: これは実際に起こった歴史的事実ですし、特別珍しい視点とは思いませんが、まさに文明と野蛮、何が文明で何が野蛮なのかという古典的テーマを、監督としては外すことができなかったのしょうね。

B: コロンビア人でも知らない「コロンビアの現実を知ってもらいたい」という監督の気持ちも理解できますが、やや詰め込みすぎの感無きにしも非ずかな。

 

      

            (救世主の妻の病気を治療する老カラマカテ)

 

A: シンクレティズムの代表者として登場するのが瀕死の状態のドイツ人テオを連れてカラマカテを訪れるスペイン語のできるマンドゥカです。カラマカテのように白人を拒絶して隠棲して生きるか、マンドゥカのように西洋文明を受け入れ融合して生きるか、どちらかの選択を迫られる。

B: マンドゥカはさしずめガイド役、彼の部族もゴム栽培が目的の侵略者に土地を奪われながらも、生き残りをかけて融合の道を選んだ。

A: 大航海時代以降のラテンアメリカ諸国の受難は、概ね金太郎の飴です。欧米人はあたかも新大陸には文明がなかったかのように錯覚していましたから。

B: 豊かな叡智、キリスト教ではないが独自の宗教、神話、文字を持たなくても文明を持たない民族は存在しないということです。これに類した錯覚は大なり小なり現在も続いている。

 

     

                 (マンドゥカとテオ)

 

A: 過去をフラッシュバックさせながら行きつ戻りつしながら大河を遡上していきますが、いわゆるロード・ムービーという印象を受けなかった。

B: カラマカテは前進するのではなく、失った過去の記憶を取り戻そうとしている。未来ではなく過去へ過去へと遡っていく。

A: 彼の望みは大蛇に抱かれてあの世に旅立つこと、ここにあるのは前進ではなく単なる<移動>または〈移行〉であるように見える。この世とあの世は輪になっているから移動するだけである。

 

B: 本作の撮影隊は、プロデューサーのクリスティナ・ガジェゴによると、8000キロも移動したそうですが、よく7週間で撮れましたね。

A: 日本の国土の全長は約3000キロと言われますから、飛行機で飛んだ距離を含めても信じがたい距離です(笑)。クリスティナさんは監督夫人、デビュー作以来二人三脚で映画にのめり込んでいます。

B: 二人の間には二人の男の子がおり、そのタフさには驚きます。

 

   

  (クリスティナ、監督、ドン・アントニオ、ブリオン・デイビス、アカデミー賞ガラにて)

 

A: コロンビアの国土はブラジルに次いで2番めに広い。しかし半分は熱帯雨林、人々はボゴタなど都市部に集中している。なかでも6段階にきっちり決められた階層社会、富裕層に属する6番目は2パーセントにすぎない。

B: 500万を超える国内難民も国境沿いを移動しており、前より良くなったとはいえ治安も悪く、国内での階層間、人種間の対立は解消されていない。

A: 先住民は50万人とも80万人とも資料によって開きがあるが、言語は現在でも65以上にのぼるというが、年々消滅していくでしょう。青年カラマカテを演じたニルビオ・トーレスも部族のクベオ語しかできなかったそうですが、出演をきっかけにスペイン語を学んだ。老カラマカテ役のドン・アントニオは英語ができ現地語の分からないスタッフとの通訳をした由、急速に変化していくのではないか。

 

B: 横道にそれますが、半世紀にわたる左翼ゲリラとの平和合意に達した功績で、現大統領サントス氏の「ノーベル平和賞受賞」のニュースが世界を駆け巡りました。しかし前途多難に変わりはない。

A: ゲリラ側に譲歩しすぎと考える国民は半分を超えています。これが国民投票の結果に現れている。反対の中心は元大統領のウリベ氏、彼は父親をゲリラに殺害されている。個人的恨みで異議を唱えているわけではないが国民の傷口は相当深い。

 

B: 催眠術にかかってしまった2時間でしたが、鑑賞をお薦めできる作品でした。音楽、撮影については、もう観ていただくのが一番です。

A: 前回アップした監督キャリア紹介、実在した二人の学者のアウトラインを若干補足して再録しておきます。ご参考にして下さい。

 

 

チロ・ゲーラCiro Guerraは、1981年セサル州リオ・デ・オロ生れ、監督・脚本家。コロンビア国立大学の映画テレビを専攻する。1998年、同窓生のクリスティナ・ガジェゴ1978年ボゴタ生れ)と制作会社「Ciudad Lunar Producciones」を設立する。長編デビュー作La sombra del caminante2004)は、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2005で観客賞を受賞。第2Los viajes del viento2009)はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品、ローマ市賞を受賞後、多くの国際映画祭で上映された。ボゴタ映画祭2009監督賞、カルタヘナ映画祭2010作品賞・監督賞及びサンセバスチャン映画祭2010スペイン語映画賞、サンタバルバラ映画祭「新しいビジョン」賞などを受賞した。

 

★本作が第3作目になり、いずれもアカデミー賞コロンビア代表作品に選出されている。上記の映画賞のうち第3イベロアメリカ・プラチナ賞では、作品賞・監督賞以下7部門を制している。現在ピーター・ライニーの著書をベースにしたThe Detainee(政治的抑留者の意)と、北コロンビアのグアヒラ砂漠を舞台にしたBirds of Passage2本が2018年の完成を目指して進行中である。

3イベロアメリカ・プラチナ賞の記事は、コチラ⇒2016731

なお2作目Los viajes del viento『風の旅』の邦題でセルバンテス文化センターにて上映が予定されている(123日)


テオドール・コッホグリュンベルクTheodor Koch-Grünberg18721924)は、ドイツのグリュンベルク生れ、20世紀の初め南米熱帯低地を踏査した民族学者。テオのモデルとなった。第1回目(190305)がアマゾン河流域北西部のベネズエラと国境を接するジャプラYapuraとネグロ川上流域の探検をおこない、地理、先住民の言語などを収集、報告書としてまとめた。第2回目は(191113)ブラジルとベネズエラの国境近くブランコ川、オリノコ川上流域、ベネズエラのロライマ山まで踏査し、先住民の言語、宗教、神話や伝説を詳細に調査し写真も持ち帰った。ドイツに帰国して「ロライマからオリノコへ」を1917年に上梓した。1924年、アメリカのハミルトン・ライス他と研究調査団を組みブラジルのブランコ川中流域を踏査中マラリアに罹り死去。 

      

リチャード・エヴァンズ・シュルテスRichard Evans Schultes19152001)は、マサチューセッツ州ボストン生れ、ハーバード大学卒の米国の生物学、民族植物学の創始者。エヴァンのモデルとなった。大学卒業後、戦時中の1941年にゴムノキ標本採集をアメリカ政府から要請され、初めてアマゾン河高地を踏査している。長い滞在で映画にも出てきたマクナ語、ウイトト語などの現地語を理解した。幻覚性植物の研究者としても知られ、著書『図説快楽植物大全』が2007年に東洋書林から刊行されている。

  

『エル・クラン』 パブロ・トラペロを観る2016年11月13日 18:18

        アルゼンチンの脆弱な民主主義――モンスター家族のその後

 

  

 

★確かに衝撃的な内容ですが、1970年代後半の軍政時代の弾圧を知るアルゼンチン国民にしてみれば、それほど驚くような内容ではなかったのではなかろうか。もし驚愕したのであれば、それは社会でもや学校でも国民が自国の「現代史」を疎かにしていたことになる。軍政時代に反共を錦の御旗に国家がしたことを、民主化のせいで行き場をなくした個人が代行しただけともいえます。1980年初頭、軍事独裁政権の最後を支えていた人々の無責任と自由放任を利用できたからだといえる。この映画では3年間に4回実行された誘拐ビジネスとプッチオ父子とその実行犯の逮捕までが語られるのですが、重要なのは民主政権がウヤムヤにした軍事独裁政の総括、無関心に徹した国民、つまり名目だけの民主化でしょう。ここではモンスター家族のその後にスポットライトを当てたいと思います。

 

『エル・クラン』El clan”“The Clanの基本データ

製作:Kramer& Sigman Films / Matanza Cine / El Deseo / Telefe / INCAA / ICAA

監督・脚本:パブロ・トラペロ

脚本:フリアン・ロヨラ

撮影:フリアン・アペステギア

編集:アレハンドロ・カリーリョ

音楽:セバスチャン・エスコフェト

美術:セバスチャン・オルガンビデ

衣装:フリオ・スアレス

データベネチア映画祭2015監督賞(銀獅子)受賞作品アルゼンチン=スペイン、スペイン語、2015年、110分、伝記、スリラー犯罪物、撮影地ブエノスアイレス、配給元20世紀フォックス、公開:アルゼンチン2015813日、ウルグアイ93日、チリ924日、ペルー123日、日本2016917日(新宿シネマカリテ他)

 

   

 (左から、ピーター・ランサニ、監督、ギジェルモ・フランセージャ、ベネチア映画祭にて

 

キャスト:年齢は1985823日逮捕時のもの(公式サイトより)

ギジェルモ・フランセージャ(アルキメデス・プッチオ、元公務員・外交官、56歳、

  201384歳で没

ピーター・ランサニ(長男アレハンドロ、マリン・スポーツ用品店経営、地元ラクビーチーム

  Club Atletico San IsidroCASIカシ」の元選手、26歳、200849歳で没)

リリー・ポポビッチ(妻エピファニア、高校教師・会計学、53歳)

ジセル・モッタ(長女シルビア・イネス、美術教師、25歳、52歳で没)

ガストン・コッチャラーレ(次男ダニエル、通称マギラ、「カシ」の選手23歳)

フランコ・マシニ(三男ギジェルモ、?歳)

アントニア・ベンゴエチェア(次女アドリアナ、14歳)

ステファニア・コエッセル(アレハンドロの婚約者モニカ、幼稚園教諭、21歳)

その他、誘拐グループ(クラン)の実行犯、協力者たち

 

解説1980年代に4人を営利誘拐、多額の現金を手にした後に殺害していた「誘拐団プッチオ」の実話にインスパイアーされて製作された。首領アルキメデス・プッチオ並びにその家族は実在の人物であるが、映画の細部はフィクションである。プッチオ家はブエノスアイレス近郊サン・イシドロの高級住宅街にあり、道路に面した階下をマリン・スポーツの店舗にして、長男アレハンドロに経営を任せていた。人質を監禁していた地下室は外部に物音が漏れないよう密閉されていたが、昼日中の拉致、自宅監禁、拷問、殺害というプッチオ一族の凶悪な犯罪が、何故3年間も繰り返し可能だったのかが明らかにされる。しかしそれは軍事クーデタが勃発した1976年まで時間を遡っていくことになる。

作品&パブロ・トラペロ監督キャリア紹介は、コチラ⇒201587

ベネチア映画祭監督賞(銀獅子)の紹介記事は、コチラ⇒2015921

 

       コメディアン、ギジェルモ・フランセージャの蛇のような目

 

A: ラテンビートと重ならないよう封切り直後に鑑賞していたので、大分記憶が薄くなってしまっていますが、主人公アルキメデスを演じたギジェルモ・フランセージャの蛇のような目だけは忘れられない。

B: メキシコのA・キュアロンの『ルドandクルシ』08)、アルゼンチンに2個めのオスカー像をもたらしたJJ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』09)で既に登場しています。コメディタッチの役柄が多かったから、本作のアルキメデス役に起用されたと知って驚きました。

A: 映画にしろTVドラにしろ殆どがコメディ、フランセージャ起用はトラペロ監督の慧眼です。コメディアンとしてアルゼンチンで知らない人はいないと言われているベテラン、1955年ブエノスアイレス生れだから、軍事クーデタが勃発した19763月には成人しており、大人の目で道路を走り回っていた戦車を見ているはずです。TVミニシリーズLos hermanos Torterolo1980、コメディ)デビューも間もなくでした。

 

B このクーデタは「起こるべくして起こった」と後に歴史家によって書かれるわけですが、誰も驚かなったというのも信じられないことです。

A: 民政といっても前も後ろもお粗末でしたから、突然知り合いが行方不明になっても関わりを怖れて「沈黙は金」を決め込むのは自然です。アルゼンチン社会にはびこっていたこの「無関心」が元凶です。前述の『瞳の奥の秘密』の時代背景は1976年クーデタの直前にあたります。本作は軍政から民政への移行期の198285年、3万人とも言われる行方不明者名を出した直後だけに、国民も拉致、監禁、殺害には慣らされていた時代でした。

B: 警察は通報を受けても捜索する気もないし、仮にプッチオ一家の犯罪を疑っていても逮捕しようとは思わなかったように思えます。

 

      民政化後のシークレット・サービス員の失業対策のひとつ?

 

A: アルキメデスは有能なシークレット・サービスの一員、軍事独裁政権では拷問のプロとして重宝がられていた。1982年のフォークランド戦争(319日~614日)の敗北を機に翌年総選挙が実施され、12月に民政化された。軍政時に幅を利かせていた軍幹部の多くが有罪となり、プッチオのような関係者は失業者となって生活の基盤を失ってしまった。同じ境遇の退職軍人や友人たちと一緒に始めたのがこの「誘拐ビジネス」でした。

 

B: このグループのリーダーだったのが企画立案者にして実行犯のアルキメデス、元の上司や官憲が半ば見逃していたのは、これが部下たちの一種の「失業対策」の一つだったと考えられます。

A: 第1回目の誘拐が軍政の終焉が予想されたフォークランド戦争後の1982722日、9日後身代金25万ドルを受け取ったあと殺害(要求額は50万ドルだったとも)、第2回目が198355日、10万ドル受領後殺害、所在不明だった遺体は4年後に発掘されている。

 

B: 驚くほどの大金ではないですね。被害者家族が払えるだろう金額を要求している。結局成功するのはこの2回だけ。長男が協力を拒否した1984622日の3回目は、誘拐途中に車から逃げようとした人質を慌てた仲間が胸に発砲、結果的に大事な金づるを死なせてしまい失敗する。最後の4回目でグループ全員が逮捕される。

A: この逮捕劇は、短編ドキュメンタリー“El Clan Puccio”を見ると、実際と映画では若干異なりますが、本作はドキュメンタリーではありませんから問題なしです。事件を握りつぶしていたらしい元上司も自分に累が及ぶのを懸念して庇いきれなくなったのではないか。軍政時に窒息させられていた人権活動家や労働組合の反撃が強まったこともありますが、将来性のあるビジネスとはいえませんから先は見えていたはずです。

 

B: 前3人は長男アレハンドロの友人だったり父親の知り合いだったりしたが、4人目のネリダ・ボリーニ・デ・プラドは葬儀社を経営していた実業家、家族が通報して警察も動かざるを得なかった。交渉を意図的に長引かせ、自宅軟禁も32日間という番狂わせになってしまった。

 

       

           (逮捕時の長男アレハンドロ、1985823日)

 

A: やっと身代金50万ドルで交渉成立、受け渡し現場に張り込んでいた警官に一網打尽となった。長男アレハンドロ3回目から実行には参加しておりませんが、自宅に一緒にいた恋人モニカの目の前で逮捕された。ボリーニ家の電話番号が書かれていた紙切れを所持していたことが逮捕の決め手となった。彼は拉致には協力しておりますが殺害には一切関与していない。それで最後まで罪を認めなかったようですが、父親から報奨金を貰っており無罪は通らない。現ナマの魅力は抗しがたいです。

        

  押しつけられた「家父長制」と歪められた「家族愛」の揺らぎ

 

B: 長男離脱のあと「家父長制」や「家族愛」にも揺らぎがみえ、瓦解は時間の問題だった。際立つのが母親エピファニアのモンスターぶり、長男が役立たずになったとみるや直ぐさま次男を呼び寄せる。不気味ですね。

A: 母親というのは本当に危険な存在です。彼女も逮捕されるが、証拠不十分で2年後に釈放される。80歳を過ぎた現在は、一時親戚に預けられていた次女アドリアナ(当時14歳)と暮らしている。父親と息子の相克、家族は助け合わねばならないという大義名分、これほど極端ではないが観客にも身近に起こりうることです。

 

B: 映画にも出てきましたが、長男はブエノスアイレス裁判所から移送中に係官の手を振り切って5階の回廊から飛び降り自殺をはかる。しかし運悪くというか2階部分の柔らかい屋根に落下、死ねなかった。これを含めて34回自殺を試みているという。

A: 刑務所内の精神病棟に収容され、2007年条件付きで釈放されたが、翌年49歳で没している。90年代初めの獄中結婚、1997年に仮釈放されるも犠牲者家族の圧力に耐えられず刑務所に舞い戻るなど、常に精神状態が不安定だった。

 

            自分は被害者、悪いのは民主化

 

B: 一方「自分こそ被害者」と死ぬまで罪を認めなかった父親アルキメデスも、ある意味、精神を病んでいたのではないですか。軍政が続いて失業しなければ誘拐ビジネスには手を染めなかった、悪いのは民政化という論理です。

A: アイヒマン同様、最後まで自分自身と家族、友人仲間の罪を認めなかったのは驚くに当たりません。箒で自宅前だけでなく反対側の道路も掃いているシーンがありましたが、当時から「箒の変人」という渾名を付けられていた。清掃が目的ではなく警戒と事情蒐集のためだった。近所の人もうすうす気づいていたが、知っていたと言えば、どうして通報しなかったと非難されるのを怖れて白を切っていたとも考えられる。今も昔も無関心は流行ですが、特に当時は蔓延していた。収監中に弁護士の資格を取り、数カ所の刑務所を経て、2008年、浴室設備のない住居指定の条件付きながら釈放、2013年脳血管障害のため、簡易ベッドの上で84歳の生涯を閉じた。

 

        

        (「120歳まで生きる」と豪語していたアルキメデス・プッチオ)

 

B: トラペロ監督は、アルキメデスからインタビューを持ちかけられていたが、海外にいて先延ばしにしていたところ死んでしまい叶えられなかったと語っておりましたが。

A: 脳腫瘍を患っていて精神状態は不確か、ただの下品な老人になっていたらしいから、事件の根幹に関わるような話が聞き出せたかどうか疑問です。2011年、El Clan Puccioの著者ロドルフォ・パラシオスがインタビューしたときでさえ、多くの女性たちとの性的関係を自慢され、呆気にとられたと証言しているほどです。

 

B: 死ぬ4カ月前に離婚していた元妻エピファニア、次男マギラにも接触しようとしたが拒絶されたと語っておりますが、自分たちはアルキメデスの犠牲者、被害者だったと正当化されるのがオチです。

A: エピファニアはアルキメデスの遺骨の受取を拒み、彼は共同墓地に埋葬された。マギラは最後のボリーニ誘拐事件の廉で、199813年の禁固刑を受けていたが、ブラジルやオーストラリアを逃げ回っていた。しかし2011年に刑の正式失効が下され、201311月に舞い戻っていた。司法取引で自由の身になったのでしょうが、実際のところボリーニは生還できたわけですからね。

 

   

              (プッチオ一家、前列が本物)

 

B: 残る家族のうちスポーツ選手だった3男ギジェルモ長女シルビアのその後は?

A: 3男は2回めの自宅軟禁で事件の概要を察知、遠征で訪れたニュージーランドにそのまま亡命して帰国していない。地下の軟禁部屋の階段を上り降りしたと証言した長女も当然嫌疑をかけられたが、母親同様加担した証拠が不十分で釈放されている。52歳でこの世を去っている。

 

       意図的だったBGMのミスマッチ、悲劇を裏切るような選曲

 

B: 当時のブエノスアイレスでは、軍政時代に禁止されていた「ブリティッシュ・ポップス」が流行していた。映像と音楽が齟齬をきたすような選曲は意図的だった。

A: このズレを批判しているブログもありましたが、事情が分かると納得します。スクリーンに現れた人間の二面性同様、ひねり具合というのも難しいですね。

 

B: 監督はフィクションの部分をできるだけ避けたと語っていますが、やはりフィクションです。

A: 新聞記事や残された写真や手紙から家族内の会話を構成するには限界があります。スクリーンで語られたセリフは想像であり創造でもあります。プッチオ関連ではドキュメンタリーの他、アレハンドロの獄中インタビューTV番組、TVミニシリーズHistoria de un clan20159月~11月、11話)がTelefeで放映されている。父親にアレハンドロ・アワダ、母親にセシリア・ロス、長男アレハンドロにリカルド・ダリンの息子“チノ”・ダリンが扮している。

B: アレハンドロ・アワダはこのアルキメデス役でマルティン・フィエロ賞を受賞しており、2015年は「プッチオ・フィーバー」の年でした。 

 

『スモーク・アンド・ミラーズ』*ラテンビート2016 ①2016年09月24日 17:27

アルベルト・ロドリゲスの新作スリラー“El hombre de las mil caras

 

★サンセバスチャン映画祭(SSFF) 2016オフィシャル・セレクション出品作品。まさか今年のラテンビートで見ることができるとは思いませんでした。タイトルは英語題のカタカナ表記『スモーク・アンド・ミラーズ』、少し残念な邦題ですが、英語字幕を翻訳した配給会社の意向でしょう。アルベルト・ロドリゲス1971、セビーリャ)の第7作め、SSFFノミネーションは『マーシュランド』14)に続いて3め、「三度目の正直」か「二度あることは三度ある」となるか、下馬評では今年の目玉ですが、間もなく結果が発表になります。(現地924日)

 

      

    (ポスターを背に自作を紹介するロドリゲス監督、サンセバスチャン映画祭にて)

 

★実在のスパイ、フランシスコ・パエサを主人公にしたスリラー、現代史に基づいていますがマヌエル・セルドンの小説Paesa: El espía de las mil carasの映画化、というわけでワーキング・タイトルは“El espía de las mil caras”として開始されました。実話に着想を得ていますが、この謎に包まれたスパイの真相は完全に解明されておりません。本人のみならず関係者や親族が高齢になったとはいえ存命しているなかでは、何が真実だったかは10年、20年先でも闇の中かもしれません。F・パエサについてのビオピックはこれまでも映画化されていますが、今作はいわゆるパエサガが関わった「ロルダン事件」にテーマを絞っています。1994年に起きた元治安警備隊長ルイス・ロルダンの国外逃亡劇、彼はフランコ体制を支えた人物の一人、「パエサという人物を語るのに一番ベターな事件だから」とロドリゲス監督。

 

     

       (フランシスコ・パエサに扮したエドゥアルド・フェルナンデス)

 

★最近アメリカの「ヴァニティ・フェア」誌のインタビューに応じたフランシスコ・パエサの証言をもとに特集が組まれました。仮に彼が真実を語ったとすれば、どうやら別の顔が現れたようで、検証は今後の課題です。実話に基づいていますが、お化粧しています、悪しからず、ということです。諜報員フランシスコ・パエサにエドゥアルド・フェルナンデス、元治安警備隊長ルイス・ロルダンにカルロス・サントス、その妻ニエベスにマルタ・エトゥラ、ヘスス・カモエスにホセ・コロナド、どんな役を演ずるのか目下不明ですが、エミリオ・グティエレス・カバが特別出演しています。

 

 

       (「ヴァニティ・フェア」の表紙を飾った本物のフランシスコ・パエサ)

 

El hombre de las mil caras(英題“Smoke and Mirrors”)

製作:Zeta Audiovisual / Atresmedia Cine / Atípica Films / Sacromonte Films /

El espía de las mil caras AIE  協賛Movistar / Canal  Sur Televici:on

監督:アルベルト・ロドリゲス

脚本(共):ラファエル・コボス、アルベルト・ロドリゲス、原作マヌエル・セルダン

撮影:アレックス・カタラン

音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ

編集:ホセ・MG・モヤノ

美術:ぺぺ・ドミンゲス・デル・オルモ

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ

衣装デザイン:フェルナンド・ガルシア

メイクアップ:ヨランダ・ピニャ

製作者:ホセ・アントニオ・フェレス、アントニオ・アセンシオ、メルセデス・ガメロ、他多数

 

データ:製作国スペイン、言語スペイン語、2016年、スリラー、伝記、123分、1970後半~80年代、スパイ、製作費500万ユーロ、撮影地パリ、マドリード、ジュネーブ、シンガポール、配給ワーナー・ブラザーズ・日本ニューセレクト、スペイン公開923

映画祭:サンセバスチャン映画祭2016コンペティション部門正式出品、ラテンビート108日、ロンドン映画祭1012

 

キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(フランシスコ・パエサ)、カルロス・サントス(ルイス・ロルダン)、マルタ・エトゥラ(ロルダン妻ブランカ)、ホセ・コロナド(ヘスス・カモエス)、ルイス・カジェホ、エミリオ・グティエレス・カバイジアル・アティエンサ(フライトアテンダント)、イスラエル・エレハルデ(ゴンサレス)、ジェームス・ショー(アメリカ人投資家)、ペドロ・カサブランク、他多数

 

解説:フランシスコ・パエサは、マドリード生れのビジネスマン。スイスの銀行家、武器商人、言い逃れのプロ、ペテン師、プレイボーイのジゴロ、さらに泥棒でもありシークレット・エージェントでもある。まさに1000の顔をもつモンスター。1986年、彼はスペイン政府に雇われる。その頃はまだ信頼できる親友ヘスス・カモエスのサポートを得ていたが、潮目が変わって裏切られる。1994年、妻との関係が破綻した時期に、準軍事組織である治安警備隊の元トップだったルイス・ロルダンから美味しい依頼を受ける。それは「自分の国外逃亡を助け、パリとアンティーブにある二つのリッチな不動産と公的基金からくすねた600万ドルを守ってほしい」というものだった。彼は、ロルダンの金を横取りし、自分を見捨てたスペイン政府への復讐もできる好機と協力を引き受ける。

マドリード生れの実在のスパイ、フランシスコ・パエサFrancisco Paesa1936~)の人生に基づく物語。後に赤道ギニアの独裁者となるフランシスコ・マシアス・ンゲマと取引して、1976年インターポールによってベルギーで逮捕され、スイスの刑務所に収監された。バスク人テロ組織ETAによるテロ行為が横行した時代には、ETAに対抗するために組織された極右テロリスト集団GAL1983年創設、反テロリスト解放グループ)とも関わったといわれる。出所後スペインのシークレット・サービスと協力してETAに位置センサー付きの対空ミサイル2基を売るなどの武器密輸にも関与、それがETAの所有していた大量の武器や文書発見につながった。いわゆるソコア作戦」Operacion Sokoa)といわれる事件。武装集団の協力と偽造ID使用の廉で、198812月逮捕される。

 

1994年に起きたロルダン事件」Caso Roldán)に関与していたとされている。ルイス・ロルダンはスペインの社会労働党の政治家、準軍事組織である治安警備隊(グアルディア・シビル)の元隊長だった。ロルダンが横領した金額は英貨100万ポンド、当時スペインで使用されていたペセタに換算すると244億ペセタに相当する。映画は前述したように、このロルダン事件に的を絞っています。

 

  

         (前列中央がロルダン役のカルロス・サントス、映画から)

 

19987月、パエサの姉妹が「タイで死亡した」という死亡広告をエル・パイス等に掲載した。死亡が偽装だったことは6年後にはっきりするのだが、当時から一部の関係者は単なる韜晦と死亡説を否定していた。スペインのジャーナリスト、マヌエル・セルダンが、パリでフランシスコ・パエサのインタビューに成功、生存が確認されて世間を驚かせた。このインタビューに基づいて執筆されたセルダンのPaesa: El espía de las mil carasThe Spy with a Thousand Faces)に着想を得て映画化されたのが本作である。
 

       

        (死亡通知が掲載された新聞記事、19987月2日)

 

ルイス・ロルダン1943年サラゴサ生れ)、元社会労働党(PSOE)党員、治安警備隊長(198693)、1994偽の身分証明書でスペインを脱出したが、国際指名手配されていたので、1995年タイのバンコク空港で逮捕された。「刑務所に行くときは、一人じゃ行かない」と、関係者の道連れを臆せず語っていたが、1998年、最高裁で禁固刑31年の刑が確定した。19952月からアビラ刑務所、その後マドリードで15年刑期を務めた後、2010年に釈放、現在は自由の身である。2015年、フェルナンド・サンチェス・ドラゴによって彼の伝記が公刊されている。

 

        

              (本物のルイス・ロルダン、1997年)

 

★以上は映画を楽しむ基礎データですが、パエサは潜伏の6年間をどこでどうしていたのか、先述した「ヴァニティ・フェア」誌のインタビュー記事の証言も含めて、鑑賞後にもう一度アップするつもりです。パエサとロルダンの関係は実に複雑です。パエサは公開を前に「ロルダンは紳士ですよ。でもびた一文貰っていない。私はもう死んでいるのです。そうね、死人だよ、だから何だって言うの」とインタビューに答えている。

ラテンビート(新宿バルト9)では、108日(土)と1014日(金)の2回上映です。

監督紹介と『マーシュランド』の関連記事は、コチラ⇒2015124


『エル・クラン』が公開・パブロ・トラペロ2016年09月20日 12:03

        実話に着想を得て製作された誘拐犯プッチオ家のビオピック

 

 

★ベネチア映画祭2015紹介の折り、「ザ・クラン」の仮題でご紹介していたパブロ・トラペロの“El clan”(2015)が、『エル・クラン』の邦題で今秋劇場公開になりました。カンヌ映画祭の常連でもあり、国際的には高い評価を得ています。ラテンビートでも『檻の中』『カランチョ』『ホワイト・エレファント』と3作上映されていますが、日本公開は7人の監督が参加したオムニバス『セブン・デイズ・イン・ハバナ』だけ、単独での公開は初めて、ベネチアでの監督賞(銀獅子賞)が幸いしたのかもしれません。公式サイトも立ち上がり、かなり詳しい内容が紹介されています。人名の表記は当ブログと若干異なります。

 

   

      (銀獅子賞のトロフィーを掲げるトラペロ監督、ベネチア映画祭2015

 

★鑑賞後に改めてアップしたいと思いますが、ベネチアでのインタビューでは、「フィクションの部分をできるだけ避けた」と監督が語っていましたが、父と家族の会話、特に長男アレハンドロとの確執などはビデオが残っているわけではありませんし、製作段階で誘拐犯の誰とも接触できなかったわけですから、やはり実話を素材にしたフィクション、政治的寓話と考えています。1980年代前半のアルゼンチンの状態をみれば、プッチオ家の誘拐ビジネスが可能だったことは不思議ではありません。民政移管など絵に書いた餅だったことは、その後のアルゼンチンの歴史が証明しています。

 

      

        (手錠姿で現れたアルキメデス・プッチオ、1985823日)

 

★アルゼンチンと言わず、ラテンアメリカ諸国は死刑廃止国ですから、逮捕後の裁判の推移、判決内容が重要なのです。裁いた人はどちら側にいた人か、子供たちがどうして父親の呪縛から逃れられなかったのか、妻の立ち位置、誘拐ビジネスに協力した親戚たち、彼らの「その後」が、民主主義の成熟度をはかる物差しとなる。予告編を見る限りでは、誘拐の仕方、身代金受領後の殺害シーンなどは、むしろ平凡の印象を受けています。

 

      

       (実在の7人と父親役ギジェルモ・フランセージャ以下の出演者)

 

「ザ・クラン」の作品紹介と監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒201587

公式サイトは、http://el-clan.jp/

公開情報:新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA(恵比寿)、2016917日(土)、順次全国展開