ゴヤ賞2017授賞式*あれこれ落穂ひろい ⑫ ― 2017年02月11日 17:48
男女平等をアピールした栄誉賞受賞者、アナ・ベレン
(勢揃いした受賞者たち)
★授賞式はマドリード・マリオット・オーディトリウム・ホテルで2月4日(土)22:00より少し遅れて開始されました。スペイン国営テレビが18:00から赤絨毯に現れるシネアストたちを中継して盛り上げるという大イベントでした。ベスト・ドレッサーにも選ばれた栄誉賞受賞のアナ・ベレンは 2011年に他界したスペインのデザイナー、ヘスス・デル・ポソが創設したデルポソDelpozonoブランドのオフホワイトのドレスで赤絨毯を踏みました。一緒だったのはアトリエ・ヴェルサーチがご贔屓の黒い衣装を纏ったペネロペ・クルス、昨年も同じヴェルサーチのミラノ・ファッションでした。今回は夫君ハビエル・バルデムは欠席、アルモドバルと旧交を温めていたようです。
(アルモドバルとぴったり肌を被った黒いドレスのペネロペ・クルス)
★授賞式は約3時間と時間短縮がアナウンスされていたように、総合司会者のダニ・ロビラの皆さん「おやすみなさい、そして名画を」(00:57)で無事お開きとなりました。受賞者が友人、両親、祖父母、叔父さん叔母さんなど長々と感謝の辞を連ねる場合には、壇上に控えるフィルム・シンフォニー・オーケストラが警告の足踏みを始めるとなっていました(笑)。茶目っ気のある魅力的な素質がぎっしり詰まったダニ・ロビラの進行ぶりを「よくやった」と褒める人が多かったようです。開会前に「政治の話は10秒だけ」と冗談をとばしていた通り、政治的発言を自らに封じたこともあったかもしれない。
(3度目の総合司会者ダニ・ロビラ)
★一番会場が盛り上がったのは、もちろん栄誉賞でした。プレゼンターは3人の監督、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、フェルナンド・コロモ、ホセ・ルイス・ガルシアと実に豪勢でした。アナ・ベレンは手にしたメモを見ながら「私は約50年前から映画界で仕事をしているが、女性シネアストは正当に評価されていない」というようなことをスピーチした。1972年に結婚した作曲家で歌手のビクトル・マヌエルに触れて「彼なしの人生はなかった」と感謝の言葉、ビクトルは娘さんと赤絨毯を踏みました。栄誉賞は一度きり、さすがに時間制限はなかったのか長かった。最後に「健康と映画を祝して」で締めくくりました。
(左から、アナ・ベレン、M・ゴメス・ペレイラ、F・コロモ、J・L・ガルシア)
★初めてではないがアカデミー映画会長が女性ということもあって、男女平等、機会均等が叫ばれ、クカ・エスクリバノのように「もっと女性にチャンスを」と編み込んだショールを纏って赤絨毯を踏んだ女優も現れました。活躍が目立つようになったのはここ十年くらいで、第1回ゴヤ賞1987では女性受賞者は女性でしか貰えない主演・助演女優賞だけでした(新人賞は未だなかった)。初めて監督賞を受賞したのは、ピラール・ミロ(1997『愛は奪った』)、次がイシアル・ボリャイン(2004『テイク・マイ・アイズ』)、そしてイサベル・コイシェ(2006『あなたになら言える秘密のこと』)と続きました。三人とも来日しています。ノミネーションまで広げるなら昨年のパウラ・オルティス、2回のグラシア・ケレヘタなどがあげられます。最近来日予定のチュス・グティエレス、今回新人監督賞ノミネートのネリー・レゲラ、他のカテゴリーで自作がノミネーションされている監督では、マリア・リポル、マリナ・セレセスキー、イサ・カンポと層の厚さを感じさせます。また例外的なのは衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアー賞の2部門、受賞者の半分以上が女性です。
(クカ・エスクリバノ)
ラウル・アレバロの執念が実った夕べでした!
★最初から決定していたのではないかと思われたのが作品賞の”Tarde para la ira”の受賞でした。制作会社はLa Canica Filmsのベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ監督でした。『E.T.』やブルース・リーに夢中だった少年が撮った映画は、構想9年、俳優の仕事を掛け持ちしながらの脚本執筆、資金集めと執念のデビュー作でした。国営テレビの資金援助は受けたが民放TV局からは受けずに、200万ユーロで撮ったことがアカデミー会員の心象を好くした一因かもしれない。今までに培った人間関係なくしてこの映画は完成させられなかっただろうことは、キャスト、スタッフの顔ぶれをみればわかることす。新人監督賞、オリジナル脚本賞、マノロ・ソロが助演男優賞と4賞を制した。『ゴモラ』(08、マッテオ・ガローネ)、『わらの犬』(71、サム・ペキンパー)やダルデンヌ兄弟、ジャック・オーディアール、カルロス・サウラの映画がミックスされているそうです。
(ベアトリス・ボデガスとラウル・アレバロ)
★監督賞ノミネーションはオール男性でしたが、作品賞にはベアトリス・ボデガスの他、『ジュリエッタ』のエステル・ガルシア、メルセデス・ガメロは『スモーク・アンド・ミラー』と “Que Dios nos perdone” の2作、同じく “Que Dios nos perdone” のマリエラ・ベスイエブスキー、”Un monstruo viene a vermme” のベレン・アティエンサという具合に、男性陣に交じって女性プロデューサーの進出が顕著でした。
★以前から本作を本命としていた「エル・パイス」の批評家カルロス・ボジェロ、辛口でめったに褒めない批評家として嫌われ者だが、今回は「この胡散臭い、過激で、見る人を不安にさせる、地方都市の風土をぎっしり詰め込んだ映画が受賞することに、何ら異論の余地はない」とアレバロの並外れた活力、透明な才知を称賛しています。それが即 ”Un monstruo viene a vermme” や ”Ocho apellidos vascos”、<トレンテ・シリーズ>のような興行成績につながらない現状が悩みの種かもしれません。
ずっとうるうるだったフアン・アントニオ・バヨナ監督
★どうしてフアン・アントニオ・バヨナがうるうるだったかというと、自身の監督賞以外に撮影・編集・美術・録音以下8賞も受賞してしまったから。その度に壇上の受賞者から感謝の言葉が贈られるので涙の乾く暇がなかったというわけでした(笑)。なかにはうんざり組も大勢いたことでしょうが、何しろ2016年の興行成績が国内だけでダントツの2600万ユーロ(観客動員数450万人)ですから大目にみなければなりません。4位の『バンクラッシュ』、6位の『KIKI~』以下は桁が違います。2位、3位、5位はノミネートされていませんでした。
(涙腺が開いたままのフアン・アントニオ・バヨナ)
★フランコ体制時代に一家でバルセロナ市郊外のベッドタウンに移り、『スーパーマン』に魅せられながら育ったバヨナ少年も41歳、スペイン人俳優を起用せず英語で撮った作品で効率よく9賞をゲットした。彼の涙に感染した来場者も多かったようだが、先のボジェロ氏曰く「映画を見て泣いた人は僅かだったのでは」とワサビの効きすぎた批評、だから嫌われる。本作は『永遠のこどもたち』『インポッシブル』に続く「母子三部作」の最終作、第2作目は世界規模の成功を収めて、危機に瀕したスペイン経済の外貨獲得に寄与した。政府もその貢献度に報いるため2013年度の「国民賞」(映画部門)を贈った。これは今後とも破られることがない最年少受賞でしょう。これからのスペイン映画界を背負う存在なのは間違いありません。本作の日本公開は初夏6月の予定です。
エンマ・スアレス、主演・助演のダブル受賞は30年ぶりの快挙
★エンマ・スアレスのダブル受賞に違和感を覚えたファンも少なからずいたことでしょう。とりあえずアルモドバルが無冠にならずほっとした関係者がいたに違いありません。アルモドバルも登壇しましたが、女優賞に監督まで登壇するのはあまり例を見たことがありません。ダブル受賞は第2回ゴヤ賞1988のベロニカ・フォルケ以来のこと、フェルナンド・コロモのコメディ”La vida alegre” で主演、ガルシア・ベルランガの同じくコメディ"Moros y Cristianes"で助演を受賞しました。女優男優を問わずノミネーションは結構おりますが受賞までいかない。アルモドバル嫌いはスアレスの魅力的な演技を褒めたついでに「映画は空虚なまやかしの悲劇」とくさし、ペネロペ・クルスの演技は申し分なかったと、無冠に終わったフェルナンド・トゥルエバに気配りした。何事によらず十人十色です。
(ゴヤの胸像をを両手にエンマ・スアレス)
★主演男優賞のロベルト・アラモは、三大映画賞(フォルケ、フェロス、ゴヤ)を制したことになりますが、これまた『スモーク・アンド・ミラー』の「エドゥアルド・フェルナンデスの演技は完璧だった」と、暗にアラモの三冠に異を唱える意見も聞かれました。アラモ登壇の折には若いロドリゴ・ソロゴイェン監督もバヨナと同じく目を潤ませていました。
シルビア・ペレス・クルスの歌曲賞「Ai, ai, ai」に会場盛り上がる
★エドゥアルド・コルテスのミュージカル・ドラマ ”Cerca de tu casa” の中で、シルビア・ペレス・クルスが歌う「Ai, ai, ai」が歌曲賞に輝いた。経済危機のあおりを受けて二人とも失業してしまった若い夫婦の物語。彼女はこの妻ソニア役で新人女優賞にもノミネートされていた。家賃が払えずアパートを追い出され、仕方なく10歳の息子を連れて親の家に転がり込むが、両親も・・・という切ない話ですが、ゴヤの胸像を胸にシルビアが「耐えられないのは住む家のない人、住む人のいない家」と「アイ・アイ、アイ」の一節を歌った。これは出席者の心を揺さぶる瞬間だったとか。
(「アイ・アイ、アイ」を口ずさむシルビア・ペレス・クルス)
★残念ながら無冠に終わった『KIKI~』組の皆さん、ビシッときめた白装束でカメラに収まったパコ・レオン監督を中央にベレン・クエスタ(新人女優賞)とカンデラ・ペーニャ(助演女優賞)の曲者3人組。
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