ビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2023 ㉕ ― 2023年10月10日 09:44
「映画の学びが終わることは決してない」
★9月29日ビクトリア・エウヘニア劇場、ビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ1940)のドノスティア栄誉賞授賞式と30年ぶりの4作目「Cerrar los ojos」の上映がありました。今回本賞の受賞者は、ハビエル・バルデム(授与式は来年の予定)、宮崎駿(ビデオ出演)とエリセの3人でしたが、登壇したのはエリセ唯一人でした。プレゼンターは、ちょうど50年前に金貝賞を受賞した『ミツバチのささやき』に主演したアナ・トレント、当時6歳だった女の子も成熟した女性として登場しました。
★エリセ登場前に長編4作を含む主なフィルモグラフィー9作の紹介がありました。初期の短編は割愛され、『ミツバチのささやき』(73)、『エル・スール』(83)、『マルメロの陽光』(92)、オムニバス『ライフライン』(02)、「緋色の死」(06)、『アッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡』(07)、オムニバス『ポルトガル、ここに誕生する~ギマランイス歴史地図』(12)、ドキュメンタリー「石と空」(21)、「Cerrar los ojos」(23)でした。
★長いスタンディングオベーションになかなかスピーチできない受賞者は、生後数ヵ月で引っ越しして以来、17歳まで育ったドノスティア市の名前を冠した栄誉賞を受賞したことに感無量、「いま目を閉じると、決して忘れることのできない映画の数々を客席に座って楽しんでいる男の子が目に浮かぶ」と、クルサールやビクトリア・エウヘニア劇場で観客の一人として映画を楽しんでいたことを語りました。映画の仲間たち、身近な両親、親友たち、そしてサンセバスチャン映画祭に感謝の言葉を述べ、アルベール・カミュ、フェデリコ・フェリーニ、フランコ時代の検閲、息子パブロにまで触れていた。「常に映画は知識を得る一つの方法と考えている。だから私にとって映画を学ぶことに終りはない」と。最後にバスク語で「ありがとう、サンセバスチャン映画祭、どんな時もサン・セバスティアン」と締めくくった。
★レッドカーペットには新作の出演者、ホセ・コロナド、アナ・トレント、マリア・レオン、ペトラ・マルティネス、マリオ・パルド、エレナ・ミケルなどがお祝いに馳せつけ、授賞式では中央2階席で拍手を送っていた。劇中エリセの分身を演じた映画監督役のマノロ・ソロは欠席のようでした。
(レッドカーペットに勢揃いしてフォトコールに応じる出演者たち)
(特別席からエリセを見守る応援団)
★ライトが当てられたもう一人の主賓がアナ・トレントでした。映画祭主催者からのインタビューで「ミツバチと同じこの場所で、今宵ビクトル・エリセのプレゼンターに選ばれたことを大いに名誉に思い、とてもエモーショナルでした」とコメント、「ビクトルは人生と映画をあまりにも交錯させるので、円環を閉じるときには殆どマジックのような何かを感じてしまいます。女の子アナは映画を発見するのですが、現実とフィクションの違いを理解しているわけではありません」と語っていた。監督自身もトレントには他のキャストとは違う思い入れがあり、エル・ムンド紙のインタビューで「脚本を執筆中に彼女なしでは映画は作れない、失踪する俳優の娘役に起用しようと思った」と語っている。トレントとホセ・コロナドが父娘を演じるようです。「ミツバチ」も父と娘の関係が重要なテーマの一つで、小さなアナが「ある人間が他の人間を死に至らしめることができることを発見する」映画でもありました。
(新作撮影中の監督とアナ・トレント)
ドゥニア・アヤソ賞にエレナ・マルティン*サンセバスチャン映画祭2023 ㉔ ― 2023年10月07日 16:54
エレナ・マルティンの「Creatura」にドゥニア・アヤソ賞
(在りし日のドゥニア・アヤソ監督)
★ビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞の授賞式が一番大きなイベントだが、その前に数ある賞の残りを纏めておきたい。日本の作品が受賞したことで初めて知った賞が、グリーンピース賞とギプスコア学芸協会賞の二つ、前者は浜口竜介の『悪は存在しない』が受賞、後者は近浦啓の『大いなる不在』との発表があった。藤竜也の主演俳優賞受賞スピーチ、夫婦長続きのコツは「ありがとう、ごめんねで充分」に、観客席から大きな拍手が送られていたが、およそ半世紀前に撮られた大島渚の『愛のコリーダ』を見ていた観客がいたでしょうか。とにかく本賞も嬉しい受賞でした。
★ドゥニア・アヤソ賞は、カナリア諸島出身のドウニア・アヤソ(1961~2014)監督へのオマージュとして、2018年に設けられた賞。同郷のフェリックス・サブロソ監督と結婚以来、二人三脚で問題作を製作中、52歳の若さで肝臓癌に倒れた。その業績を讃える賞で女性監督が受賞対象者、今となっては男性差別になりかねない。今回はエレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」が受賞した。監督自身が主役を演じている。カンヌ映画祭と併催の「監督週間」に出品され、ラベル・ヨーロッパ・シネマズを受賞している。スペシャルメンションにクラウディア・ピント・エンペラドールのドキュメンタリー「Mientras seas tú」が受賞した。アルツハイマー型認知症の診断を受けているカルメ・エリアスも現地入りして監督とフォトコールに応じていた。
★フェロス・シネマルディア賞には、イサベル・コイシェの「Un amor」が選ばれ、セバスティアン賞には、マラガ映画祭の金のビスナガを受賞したエスティバリス・ウレソラの「20,000 especies de abejas」が受賞した。アカデミー賞スペイン代表作品の最終候補3作に残っていましたが、J.A.バヨナ監督の『雪山の絆』に敗れました。
★ネスト賞(ザ・メディアプロ・スタジオ)は30分以内の短編部門です。インドのNehal Vyas 監督の「Amma ki katha」(21分、ヒンズー語・ウルドゥー語)、現在はロサンゼルスを拠点に活動しているようです。スペシャルメンションにはベルギーのマリー・ファリス の「Entre les autres」(23分、フランス語)と女性監督が受賞、共にインタビューは英語でした。(*印は作品紹介)
◎ドゥニア・アヤソ賞 副賞5,000ユーロ
「Creatura」(カタルーニャ語、メイド・イン・スペイン部門)
監督エレナ・マルティン・ヒメノ *
(中央が監督のエレナ・マルティン・ヒメノ、9月29日)
(エレナ・マルティン・ヒメノ監督)
*スペシャルメンション
「Mientras seas tú」(メイド・イン・スペイン部門)
監督クラウディア・ピント・エンペラドール *
(監督とカルメ・エリアス、9月25日)
◎ネスト賞(ザ・メディアプロ・スタジオ)
「Amma ki Katha」製作国インド
監督Nehal Vyas(インド)
(受賞スピーチをする Nehal Vyas 監督、9月29日)
*スペシャルメンション
「Entre les autres」製作国ベルギー
監督マリー・ファリス(ベルギー)
(受賞スピーチをするマリー・ファリス監督、9月29日)
◎フェロス・シネマルディア賞
「Un amor」(セクション・オフィシアル)
監督イサベル・コイシェ *
◎セバスティアン賞
「20,000 especies de abejas」(シネミラ部門)スペイン
監督エスティバリス・ウレソラ *
(エスティバリス・ウレソラ監督、9月29日)
◎グリーンピース賞
『悪は存在しない』(ペルラク部門、日本)
監督浜口竜介
◎ギプスコア学芸協会賞
『大いなる不在』(セクション・オフィシアル、日本)
監督近浦啓
(近浦監督と藤竜也、9月29日のプレス会見)
★ほかにバスク・カントリー賞というバスク自治州の特産物を宣伝する親善大使2023にマリサ・パレデスが選ばれた。
(左側はホセ・ルイス・レボルディノスSSIFF総ディレクター、マリサ・パレデス)
オリソンテス賞にドキュメンタリー「El castillo」*サンセバスチャン映画祭2023 ㉓ ― 2023年10月05日 10:08
バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」が観客賞
(J.A.バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」から)
★数ある賞のうち受賞者が壇上に呼ばれる代表的なものに、クチャバンク賞(ニューディレクターズ部門)、オリソンテス賞(オリソンテス・ラティノス部門)、イリサル賞(バスク映画部門)などがあります。既に授賞式が終わっている部門は、ガラの冒頭にまとめて紹介される。賞の数は回を追うごとに増えるから、限られた時間内におさめるのは難しい。授賞式後に上映されるクロージング作品が押している事情もある。今年のクロージングは、ジェームズ・マーシュの「Dance First」(英=ハンガリー=ベルギー合作、アウト・オブ・コンペティション)がワールド・プレミアされた。アイルランドの劇作家サミュエル・ベケットのピオピックというわけで、午前中から一行はカメラの放列に晒されていた。監督以下ガブリエル・バーン(ベケット)、サンドリーヌ・ボネール(ベケットの妻)、エイダン・ギレン(ジェームズ・ジョイス)など大勢が金貝賞発表後に登壇した。
(中央が監督、閉幕作品「Dance First」の舞台挨拶)
★ヨーロッパ映画観客賞を受賞した「Io cpitano / Yo, Capitano」のマッテオ・ガローネは、レッドカーペットには現れましたがガラには欠席のようで、二人の主演者セイドウ・サールとムタファ・フォールが登壇しました。先だってのベネチア映画祭で銀獅子監督賞を受賞したばかりです。生き残りをかけてセネガルのダカールを捨て、ヨーロッパへ向けて砂漠を越え海をわたる二人の若者の物語。スピーチはセネガルの公用語の一つウォロフ語なのか分かりませんが通訳がついていた。10点満点で第2位の9,13点でした。
★ドノスティア市観客賞を受賞したJ. A. バヨナの「La sociedad de la nieve」は、10点満点で9.23点というレコードを叩き出し、文句なしの受賞でした。クリナリー映画賞のトラン・アン・ユンは、日本ではファンが多く、『夏至』や『青いパパイヤの香り』『エタニティ永遠の花たち』などが公開されている。
★Fipresci 賞を受賞したギリシャのクリストス・ニクのサイエンス・フィクション「Fingernails」が、『フィンガーネイルズ』の邦題で11月3日からApple TV+での配信が決まっています。製作国は米国とイギリス、言語はギリシャ語でなく英語です。前作「Mila」が『アップル』として東京国際映画祭2020で上映され、2022年には『林檎とポラロイド』として公開されている、気になる監督です。
★クチャバンク賞(新人監督賞)受賞のディワ・シャーDiwa Shah のデビュー作。インド史上初の受賞ということです。ヒマラヤ山脈の麓の出身という監督は、「この栄誉を謙虚に受けとり、この映画を受け入れてくれた素晴らしい観客に感謝する」とスピーチした。インドでの新型コロナ感染のパンデミックの封鎖を背景に、ネパールの移民労働者の闘いを魅力的に描いたことが受賞に繋がった。プレゼンターの審査委員長エミリー・モーガンは、「社会政治的なビジョンをもち、感動的な友情を軸にして、普遍的でエキサイティングにテーマを掘り下げた」と絶賛した。
★以下にセクション・オフィシアル以外の受賞者をアップします。(*印は紹介作品)
◎クチャバンク賞(ニューディレクターズ部門、新人監督賞)
「Bahadur The Brave」製作国インド、ヒンズー語・ネパール語、50,000ユーロの副賞
監督ディワ・シャーDiwa Shah のデビュー作
(中央が監督)
(仮訳「勇気あるバハドゥール」のポスター)
◎オリソンテス賞(オリソンテス・ラティノス部門)
「El castillo」ドキュメンタリー、副賞35,000ユーロ アルゼンチン=仏=西 *
監督マルティン・ベンチモル
(マルティン・ベンチモル、ジェマ・フアレス)
(今回のガラで一番長いスピーチをしたベンチモルとフアレス)
◎サバルテギ-タバカレア賞
「El auge del humano 3 / The Human Surge 3」
アルゼンチン=ポルトガル=オランダ=ブラジル=ペルー=香港=スリランカ
監督エドゥアルド・ウィリアムズ
制作会社「Un Puma」のビクトリア・マロッタ、ジェロニモ・ケベド
(製作者のビクトリア・マロッタとジェロニモ・ケベド)
(監督のエドゥアルド・ウィリアムズ)
◎ドノスティア(サンセバスティアン)市観客賞
「La sociedad de la nieve」(ペルラク部門)スペイン
監督フアン・アントニオ・バヨナ
(フアン・アントニオ・バヨナ監督、製作者テレサ・モネオ)
◎ヨーロッパ映画観客賞
「Io cpitano / Yo, Capitano」(ペルラク部門)イタリア
監督マッテオ・ガローネ(ガラは欠席)
(登壇したセイドウ・サールとムタファ・フォール)
(マッテオ・ガローネ監督とセイドウ・サールとムタファ・フォール、26日)
(授賞式前のフォトコール)
◎イリサル賞(バスク映画部門)
「El sueño de la sultana」アニメーション、スペイン=ドイツ *
監督イサベル・エルゲラ
(イサベル・エルゲラ監督)
(左からプレゼンターのクリスティナ・ソリタ、テルモ・イルレタ、ミケレ・ランダ)
◎クリナリー映画賞(映画とガストロノミー部門)
「La pasion de Dodin Bouffant / The Pot au Feu(A fuego lento)」 フランス
監督トラン・アン・ユン(ベトナム出身のフランスの監督)
(プレゼンターのホセ・マリ・ゴエナガ、トラン・アン・ユン)
◎ Eusko Label 賞( Eusko Label 部門)
「Latxa」 監督ミケル・ウレタビスカイアUrretabizkaia
◎ RTVE「ある視点」賞
「The Royal Hotel」(セクション・オフィシアル)オーストラリア=イギリス
監督キティ・グリーン
◎スペイン・ラテンアメリカ協同賞
「La estrella azul / The Blue Star」(ニューディレクターズ部門)
副賞10,000ユーロ スペイン=アルゼンチン *
監督ハビエル・マシぺ
(協同賞を受賞したハビエル・マシぺ)
(ユースTCM 審査員賞を受賞した監督)
◎ Fipresci 賞
「Fingernails(Esto va a doler)」(セクション・オフィシアル)米国=イギリス
監督クリストス・ニク
(クリストス・ニク、フォトコール9月23日)
(フレームから)
金貝賞の発表*サンセバスチャン映画祭2023 ㉒ ― 2023年10月02日 18:11
ハイオネ・カンボルダのガリシア語映画「O Corno」が金貝賞
(ハイオネ・カンボルダ監督)
★9月30日、第71回サンセバスチャン映画祭の結果発表がありました。取り合えずフォト集を中断して受賞結果をまとめました。総合司会者は予告通り、開幕式も担当したエバ・アチェとロレト・マウレオンの2人が進行させました。作品賞にあたる金貝賞にはハイオネ・カンボルダの「O Corno / The Rye Horn」が受賞しました。作品賞は製作者に与えられる賞、製作者の一人でもある監督と、プロデューサーのマリア・サモラ、アンドレア・バスケスが登壇しました。主役のマリアを演じたジャネット・ノバスは、最後の受賞者全員集合の際、待ちきれなくて壇上に駆け上がって仲間入りしました。
(総合司会者、エバ・アチェとロレト・マウレオン)
★近浦啓監督の「大いなる不在(Great Absence)」出演の藤竜也が日本人初となる主演俳優賞を受賞、もしかしたら82歳の主演俳優賞というのも初めてではないでしょうか。今回の受賞者は2人、もう一人はアルゼンチンのマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」に主演したマルセロ・スビオット、残念ながら欠席でアルチェ監督が代理で受けとり、受賞スピーチのメモを代読しました。二人の監督は脚本審査員賞を受賞しました。助演俳優賞はイサベル・コイシェの「Un amor」出演のホビック・ケウチケリアンの手に渡りました。主演助演とも男性、女性は受賞できませんでした。
★監督賞は、台湾の二人の女性監督ペン・ツーフィ&ピンウェン・ワンの「Chun Xing / A Journey in Spring」が受賞しました。撮影審査員賞はデンマーク映画「Kalak」のナディム・カールセンが受賞しましたが、欠席のためイサベラ・エクロフ監督が受けとりました。大賞は以上です。
★以下に受賞結果を列挙しておきます。(*印は作品紹介をしている)
(セクション・オフィシアルの審査員たち)
セクション・オフィシアル
◎作品賞(金貝賞)
「O Corno / The Rey Horn」 監督:ハイオネ・カンボルダ
(製作国スペイン、ガリシア語・ポルトガル語) *
*プレゼンターは審査委員長クレール・ドニ
(左から、製作者マリア・サモラ、カンボルダ監督、製作者アンドレア・バスケス)
(プレゼンターのクレール・ドニ監督と受賞者3人)
(監督と主役のジャネット・ノバス)
◎審査員特別賞
「Kalak」 製作者マリア・モラー・ケルドガード、監督イザベラ・エクロフ
(製作国デンマーク=ノルウェー=スウェーデン=フィンランド=グリーンランド=
オランダ)マリア・モラーはスウェーデンのプロデューサー。
*プレゼンターは、審査員クリスティナ・ガジェゴ
(製作者マリア・モラー)
◎監督賞(銀貝賞)
ピンウェン・ワン、ツーフィ・ペン 「Chun Xing / A Journey in Spring」
(製作国台湾)
*プレゼンターは、審査員クリスティアン・ペツォールト
(ツーフィ・ペンとピンウェン・ワン)
◎主演俳優賞(銀貝賞)2人
藤竜也 出演映画「大いなる不在(Great Absence)」(監督近浦啓、製作国日本)
*プレゼンターは、審査員のファン・ビンビン
(20回以上「ありがとう」を繰り返して会場から暖かい拍手をえた受賞者)
(受賞者と近浦啓監督)
マルセロ・スビオット 出演映画「Puan」
(監督マリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタット)
(受賞者欠席でアルチェ監督が代理で受けとった)
(マルセロ・スビオット)
◎助演俳優賞(銀貝賞)
ホヴィク・ケウチケリアン 出演映画「Un amor」(監督イサベル・コイシェ、
製作国スペイン)
*プレゼンターは、審査員のヴィッキー・ルエンゴ
(コイシェ監督を絶賛した、ジーンズ姿の受賞者)
◎撮影審査員賞(銀貝賞)
ナディム・カールセン 「Kalak」(監督イザベラ・エクロフ、製作国デンマーク他)
*プレゼンターは、審査員のブリジット・ラコンブ
(受賞者欠席で、スピーチを代読するイザベラ・エクロフ監督)
(ナディム・カールセン)
(2冠に輝いた「Kalak」の製作者マリア・モラーとイザベラ・エクロフ監督)
◎脚本審査員賞
マリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタット 「Puan」(製作国アルゼンチン他)
*プレゼンターは、ロバート・ラントス
(受賞者、マリア・アルチェとベンハミン・ナイシュタット)
★次回はオリソンテス賞、バスク映画イリサル賞、ドノスティア市観客賞、などアップします。
現地入りしたシネアストのフォト集②*サンセバスチャン映画祭2023 ㉑ ― 2023年10月01日 16:02
映画祭に馳せつけたラテンアメリカや欧米の監督たち
★9月25日、セクション・オフィシアルにノミネートされたアルゼンチンのマリア・アルチェとベンハミン・ナイシュタット(「Puan」)、オリソンテス・ラティノス部門では、「Noche de fuego」で2021年のオリソンテス賞を受賞したメキシコのタチアナ・ウエソ(ドキュメンタリー「El Eco」)、アルゼンチンのマルティン・ベンチモル(ドキュメンタリー「El castillo」)、ブラジルのグト・パレンテ(「Estranho caminho / Extrño camino」)、ペルラク部門では、メキシコのミシェル・フランコ(「Memory」)、主演者のジェシカ・チャステイン、前作『83歳のやさしいスパイ』がアカデミー賞2021ドキュメンタリー賞にノミネートされた、チリのマイテ・アルベルディ(「La memoria infinita」)などがフォトコールされました。
(マリア・アルチェ、ベンハミン・ナイシュタット、プレス会見)
(主役のレオナルド・スバラリア)
(タチアナ・ウエソ監督、プレス会見)
(マルティン・ベンチモル監督、出演者のアレクア・カミノス・オリボ、
フスティナ・オリボ)
(中央がマルティン・ベンチモル監督)
(グト・パレンテ監督、マリア・クリスティナ・ホテルにて)
(左から、ティシアナ・アウグスト・リマ、グト・パレンテ、タイス・アウグスト)
(ファン・サービスを怠らない主役を演じたジェシカ・チャステイン)
(マイテ・アルベルディ監督とロシオ・ハドゥエ・サリJadue Zarhi)
★知名度のある監督が多いペルラク部門は、カンヌ映画祭で絶賛された米国のトッド・ヘインズ(「May December / Secretos de un escándalo」)、ベテラン製作者のクリスティン・ヴァションとパメラ・コフラー、デンマークから大挙して現地入りしたニコライ・アルセル(「Bastarden / The Promised Land」)、主役のマッツ・ミケルセンが夫人のハンネ・ヤコブセンと登場、メイド・イン・スペイン部門では、エレナ・トラぺ(「Els encantats / Los encantados」)の一行、ミゲル・アンヘル・ビベス(「Asedio」)、主演のナタリア・デ・モリーナ、マラガ映画祭審査員特別賞を受賞したヘラルド・エレーロ(「Bajo terapia」)、出演のエバ・ウガルテ、フェレ・マルティネス、アントニオ・パグドなどが出席しました。
(舞台挨拶のトッド・ヘインズ監督)
(左から、クリスティン・ヴァション、監督、パメラ・コフラー)
(マッツ・ミケルセンとハンネ・ヤコブセン)
(エレナ・トラぺ監督)
(エレナ・トラぺの「Els encantats」のスタッフ)
(ミゲル・アンヘル・ビベス監督)
(主役のナタリア・デ・モリーナ)
(ヘラルド・エレーロの「Bajo terapia」の一行)
(エバ・ウガルテ)
(フェレ・マルティネス)
★もたもたアップで全くニュースになっておりませんが、せっかく入手できたのでフォト集をお届けしました。ハイオネ・カンボルダの「O Corno」を金貝賞に選んで映画祭は終了しました。本作はガリシア語で撮られた最初の受賞作となりました。アルゼンチンのマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」が脚本賞を受賞、オリソンテス賞はマルティン・ベンチモルが受賞しました。後日授賞式をまとめてアップします。
アンドレス・サンタナにエリアス・ケレヘタ賞*サンセバスチャン映画祭2023 ⑳ ― 2023年09月30日 09:58
第1回受賞者はアンドレス・サンタナ・キンタナに
(受賞者アンドレス・サンタナ・キンタナ、9月25日)
★9月25日、今年のゴヤ賞2023で新設がアナウンスされていたエリアス・ケレヘタ賞の授与式が本日のハイライトの一つでした。第1回の受賞者は予告通り製作者アンドレス・サンタナ・キンタナに贈られました。選考母体はスペイン映画アカデミー、従ってプレゼンターはフェルナンド・メンデス=レイテ会長でした。ケレヘタ没後10周年を記念して設けられた賞です。エリアス・ケレヘタ(1934~2013、享年78歳)は、20世紀の名プロデューサーとして、多くの才能を育てた製作者、脚本家、ドキュメンタリー監督でした。
(エリアス・ケレヘタ)
★例えば、29日にドノスティア栄誉賞を受賞するビクトル・エリセ、まだ国立映画研究所の学生だったエリセの才能を見いだし、サンセバスチャン映画祭1969にオムニバス映画『挑戦』で新人監督3人に監督賞をもたらしたプロデューサーです。次いで1973年『ミツバチのささやき』、10年後の『エル・スール』と、寡作な映画作家の名作を世に送り出した。他に1987年スペイン映画国民賞、1998年ゴヤ栄誉賞、2004年ホセ・マリア・フォルケ賞などを受賞している。
(フェルナンド・メンデス≂レイテ、アンドレス・サンタナ・キンタナ)
★また無名に近かったカルロス・サウラとの出会いは象徴的でした。それは『狩り』(65)がベルリン映画祭監督賞受賞作品である以上に、サウラのシンボリックなリアリズムというスタイルを確立した作品でもあったからです。以来サウラの代表作と言われる『ペパ―ミント・フラッペ』、『従妹アンヘリカ』、『カラスの飼育』、『愛しのエリサ』、『ママは百歳』と快進撃を続けたが、ベルリン映画祭1980の『急げ、急げ』を最後に、金熊賞を受賞しながら袂を分かつことになった。路線の違いもあったようですが、主役の青年二人が隠れてヘロインを摂取していたことを監督が黙認していたこともコンビ解消の一つとされています。勿論監督は否定していましたが真相は闇の中ですが、若者たちのその後をみれば一目瞭然でしょう。
(左から、サウラ、ケレヘタ、エリセ)
★その後、モンチョ・アルメンダリス(『タシオ』『27時間』『アロウの手紙』「Historias del Kronen」)、フェルナンド・レオン・デ・アラノア(『カット!(ファミリア)』『バリオBarrio』、ゴヤ作品賞『月曜日にひなたぼっこ』)、一人娘のグラシア・ケレヘタの諸作品(「Una estación de paso」「Siete mesas de biller francés」、リカルド・フランコの『パスクアル・ドゥアルテ』、マヌエル・グティエレス・アラゴンの『激しい』などの話題作を手掛け、監督たちをカンヌやベルリン、ベネチアなどの国際舞台に連れ出すことに貢献した。
(ケレヘタ、ハビエル・バルデム、レオン・デ・アラノア、ゴヤ賞2003ガラ)
★アンドレス・サンタナ・キンタナは、1940年カナリア諸島のグランカナリア生れの製作者、ケレヘタ同様、製作者というのは縁の下の力持ちということもあって、監督や俳優と比較すると知名度は高くない。しかし公開、映画祭、DVDなどで紹介された作品をみればその凄さが納得できます。例えばケレヘタと重なるモンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(97)、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(84)、ペドロ・アルモドバルの『セクシリア』(82)、特筆すべきはバスクの監督イマノル・ウリベの「El rey pasmado」(92)、『キャロルの初恋』(02)、ゴヤ作品賞の『時間切れの愛』(94)、「Plenilunio / Full Moon」(99)などです。サンタナは南スペイン出身ですが北の映像作家とのタッグが特徴的です。
(ゴヤ賞1995作品賞『時間切れの愛』のポスター)
★カミロ・ホセ・セラの同名小説『パスクアル・ドゥアルテの家族』を映画化したことで有名なリカルド・フランコのドキュメンタリー「Después de tantos años」(94)、東京国際映画祭1998のコンペティション入りを果たしたカナリア諸島の火山島ランサロテを舞台にしたアントニオ・ベタンコルの『マラリア』、21世紀に入ってからは、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「Visionarios」(01)、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』(10)、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」(15)など、字幕入りで鑑賞できた作品を多数手掛けています。
★授賞式には、モンチョ・アルメンダリス、エンリケ・ゴンサレス・マチョ、プイ・オリア、マリアノ・バロッソ、クリスティナ・スマラガ、マルタ・ミロなどが登壇、イマノル・ウリベ、マヌエル・グティエレス・アラゴン、グラシア・ケレヘタ、イサベル・コイシェ、マテオ・ヒル、『マラリア』の主役ゴヤ・トレドなどは、ビデオで祝辞を述べました。
現地入りしたシネアストたち*サンセバスチャン映画祭2023 ⑲ ― 2023年09月27日 14:37
ラテンアメリカの懐かしいシネアストたちがやって来ました
★9月22日のオープニングから24日までのフォト集です。日本からも若いシネアストが現地入りしていますが、セクション・オフィシアルの審査員、当ブログにアップしているラテンアメリカ諸国やスペインの監督や俳優に絞ってアップしました。オープニングはあいにくの雨でしたが、23日から天候も回復、野外でのフォトコールが増えてきています。
★フアン・アントニオ・バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」(邦題『雪山の絆』)は、第96回アカデミー賞国際長編映画賞2024のスペイン代表作品に決まったこともあり、多くのメディアの取材を受けています。後日作品紹介を予定していますが、まず12月21日に発表されるプレセレクション15作に残れるかどうかです。他の2作はエスティバリス・ウレソラ監督の「20,000 especies de abejas」(マラガFF金のビスナガ賞)、ビクトル・エリセの「Cerrar los ojos」でした。
(舞台挨拶するバヨナ監督とキャスト、スタッフ)
(バヨナ監督と主演のEnzo Vogrincic、9月22日)
(エスティバリス・ウレソラ監督と主演のソフィア・オテロ、22日)
★2023年の映画国民賞を受賞したカルラ・シモンの授与式は、23日でした。この賞はスペイン文化スポーツ省が選考母体、従ってプレゼンターは時の文化スポーツ相、今年はミケル・イセタ大臣でした。
(映画国民賞2023を受賞したカルラ・シモン、9月23日)
(ジョナサン・グレイザー、ペルラク部門「La zona de interés」舞台挨拶9月22日)
(左から、アルフレッド・カストロ、監督、アルムデナ・ゴンサレス、セルジ・ロペス
パウラ・エルナンデスの「El viento que arrasa」はオリソンテス・ラティノス部門
オープニング作品、22日)
(メキシコのダビ・ソナナ、「Heroico」オリソンテス・ラティノス部門、23日)
(ダビ・ソナナ監督とミシェル・フランコ監督、23日)
(クリスティナ・ウエテ、製作者)
(フェルナンド・トゥルエバ、ハビエル・マリスカル、アニメーション
「They Shot the Piano Player」セクション・オフィシアル、23日)
(マイテ・アルベルディ「La memoria infinita」ペルラク部門、24日)
(ピント監督、カルメ・エリアス、ジョアン・エリアス)
(クラウディア・ピント「Mientras seas tú」メイド・イン・スペイン部門、24日)
(クリスティナ・ガジェゴ、セクション・オフィシアルの審査員、24日)
(ヴィッキー・ルエンゴ、セクション・オフィシアル審査員、22日)
(ファン・ビンビン、セクション・オフィシアル審査員、22日)
(サンティアゴ・ミトレ&ドロレス・フォンシ、主演のトト・ロビト、22日)
(チリのフェリペ・ガルベス監督、アルフレッド・カストロ
「Los colonos」オリソンテス・ラティノス部門、23日)
(ハビエル・ルイス・カルデラ監督、アルベルト・デ・トロと共同監督、
TVミニシリーズ「El otro lado」 ベロドロモ部門)
(左から出演者、ナチョ・ビガロンド、エバ・ウガルテ、ベルト・ロメロ、
マリア・ボット、アンドレウ・ブエナフエンテ、24日)
雨のオープニング*サンセバスチャン映画祭2023 ⑱ ― 2023年09月25日 10:29
雨の中でもファンサービスを怠らない招待客
★9月22日(金)、満席とはなりませんでしたが第71回サンセバスチャン映画祭2023が開幕しました。あいにくの小雨が降りそそぐなか、ペルラク部門オープニング作品「The Zone of Interest」のジョナサン・グレイザー監督、アルフォンソ・ロハ、ペルラク部門「May December / Secretos de un Escándalo」のトッド・ヘインズ監督、セクション・オフィシアルの審査委員長クレール・ドニ監督、スペイン勢では2023年の映画国民賞を受賞するカルラ・シモン、セクション・オフィシアル「They Shot the Piano Player」のフェルナンド・トゥルエバ、開幕式でプレゼンターを予定されているカジェタナ・ギジェン≂クエルボ、などが次々に宿泊ホテルであるマリア・クリスティナに吸い込まれていきました。北スペインは既に秋の気配が濃厚です。
★今宵のガラの総合司会は、既にご紹介したように女優のエバ・アチェと俳優のゴルカ・オチョア、前者がスペイン語、後者がバスク語で進行しました。イベントのシナリオはボブ・ポップ、演出はミレイア・ガビロンドでした。
(総合司会のエバ・アチェとゴルカ・オチョア)
★オープニング・ガラのハイライトは、宮崎駿監督のドノスティア栄誉賞の授与式でありましたが、監督は東京からオープニング作品に選ばれた『君たちはどう生きるか』を楽しんでいただきたい、また栄誉賞受賞に感謝の辞を述べるだけに終わった。本祭の総ディレクターであるホセ・ルイス・レボルディノスは、「ミヤザキのビデオを録画しなかったのは監督の強い要望であった」と観客に伝えた。
(舞台のスクリーンに映し出された感謝の辞を淡々と述べる監督)
★イギリスの俳優ドミニク・ウェストによって今年のFIPRESCI賞が「Fallen Leaves」のアキ・カウリスマキ監督に授与された。こちらも本人は登場せず制作会社アバロンの総ディレクター、製作者のステファン・シュミッツが代理で受けとった。プレゼンターはリタ・ディ・サント。
(FIPRESCI賞を代理で受けとったステファン・シュミッツ)
★他にニューディレクターズ部門の作品賞には50,000ユーロ、ネスト部門には10,000ユーロ、サバルテギ-タバカレア部門には20,000ユーロの副賞が授与されることがアナウンスされた。それぞれノミネートされている作品の紹介があった。ニューディレクターズはアネ・ガバライン、ケパ・エラスティ、ソフィア・オテロなどが担当した。
(ケパ・エラスティ、ソフィア・オテロ、アネ・ガバライン)
★オリソンテス・ラティノス部門に自らも監督デビューした、アルゼンチンのドロレス・フォンシが登場、ガストロノミア部門、オリソンテス・ラティノス部門の作品紹介をした。レッドカーペットにはパートナーのサンティアゴ・ミトレがエスコートしていた。
(ドロレス・フォンシ)
★ボブ・ポップとゴヤ賞2023の新人賞を受賞したテルモ・イルレタが揃って車椅子で登場、ジネミラ部門、メイド・イン・スペイン部門、などの作品紹介をした。
(テルモ・イルレタ、ボブ・ポップ)
★ウィットに富んだプレゼンターとして本祭には欠かせないカエタナ・ギジェルモ≂クエルボが登場、ペルラク部門の作品紹介で会場を沸かせていた。セクション・オフィシアル、審査委員長クレール・ドニ監督以下の審査員(ヴィッキー・ルエンゴ、ファン・ビンビン、ブリジット・ラコンブ、クリスティアン・ペツォールト、クリスティナ・ガジェゴ、ロバート・ラントス)の紹介があった。
(クレール・ドニ監督)
(セクション・オフィシアルの審査員7名、フォトコールから)
★歌手のマリア・ベラサルテがルイス・エドゥアルド・アウテ(新型コロナ感染で2020年没)の ‘Al alba’ を熱唱した。サンセバスチャン映画祭の元総ディレクターであったマヌエル・ぺレス・エストレメラ(1944~2023)のようなシネアストの点鬼簿が次々にスクリーンショットされた。彼はサンセバスチャン映画祭のみならず、TVE、ICAAなどのディレクターでもあり、9月6日に鬼籍入りしたばかりでした。大した盛り上がりもなく粛々と推移したオープニングでした。
(カエタナ・ギジェルモ≂クエルボ)
(マリア・ベラサルテ)
(ホセ・ルイス・レボルディノス)
(左から、ゴルカ・オチョア、ギジェルモ≂クエルボ、ボブ・ポップ、エバ・アチェ)
国際映画祭の受賞作が並ぶペルラク部門17作*サンセバスチャン映画祭2023 ⑰ ― 2023年09月22日 10:32
ペルラク部門オープニングはカンヌのグランプリ「The Zone of Interest」
★今年のペルラク部門のオープニング作品は、ジョナサン・グレイザーの「The Zone of Interest」(La zona de interés アメリカ=イギリス=ポーランド)、カンヌ映画祭2023の目玉でパルムドールが期待されていましたが、第2席にあたる審査員グランプリを受賞しています。強制収容所アウシュビッツ・ビルケナウの有刺鉄線の向こう側で贅沢三昧を満喫しているルドルフ・ヘス司令官一家の幸せな日常と収容所の阿鼻叫喚が交互に描かれる。ホロコーストの恐怖を描いた作品は数えきれないほど鑑賞してきているが、こちら側とあちら側が同時進行する映画は衝撃的ではなかろうか。12月8日アメリカ公開、来年早々日本の映画館にも登場するようです。グレイザー監督の現地入りも予定されている。
(オープニング作品「The Zone of Interest」から)
★クロージング作品は最初、トロント映画祭でワールド・プレミアされた、ラジ・リの「Les Indésirables」(Los indeseables フランス)がノミネートされていましたが、どうも上映されないようです。どういう事情なのか目下情報は未入手です。彼のデビュー作『レ・ミゼラブル』(19)はオスカー賞ノミネート以下、ゴヤ賞2020のヨーロッパ映画賞受賞作、国際映画祭の賞荒らしでした。
(ラジ・リの「Los indeseables」から)
★ペルラク部門は金貝賞には絡みませんが、サン・セバスティアン市がオーナーであるドノスティア市観客賞の対象になります。観客の投票数で2作品が選ばれます。作品賞には50.000ユーロ、ヨーロッパ作品賞には20.000ユーロが副賞として授与される。またビクトリア・エウヘニア劇場で上映される作品のうちアルマーニ・ビューティがパトロンの賞の対象作品になっています。クロージングに発表され、トロフィーが授与される。
★昨年の作品賞は、アルゼンチンのサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、ヨーロッパ作品賞にはスペインのロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』が受賞、前者はプライムビデオ配信、後者は東京国際映画祭2022の東京グランプリ受賞作と、共に字幕入りで鑑賞できました。
★また今回、サン・セバスティアン市の選挙人名簿登録者(18歳以上)のうち失業者を対象に、メイン会場クルサール、あるいは3000人収容のベロドロモで上映される映画のチケット1000枚が既に配布されたと報じています。日本ではちょっと考えられないですね。本祭のホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターは、サン・セバスティアン市に感謝の辞を述べている。
(手前がホセ・ルイス・レボルディノス、後方がドノスティア市長エネコ・ゴイア氏)
★本祭に限らずアジア勢は日本以外は閑散としている。日本関連作品は、サンセバスチャンとは相性のいい浜口竜介の『悪は存在しない』(ベネチアFF 銀獅子審査員賞)、是枝裕和の『怪物』(カンヌFF クィア・パルム賞・坂元裕二脚本賞)、ドイツとの合作映画だがヴィム・ヴェンダースの『Perfect Days』(カンヌFF 役所広司男優賞、12月22日公開)の3作がノミネートされています。韓国出身でカナダで活躍するセリーヌ・ソンのラブストーリー『Past Livesパスト・ライブス』(サンダンスFF、ベルリンFF)の製作国は米国です。今年は合作を含めると最多の4作が選ばれている。
(浜口竜介の『悪は存在しない』から)
(是枝裕和の『怪物』から)
(ヴィム・ヴェンダースの『Perfect Days』から)
(セリーヌ・ソンの『Past Livesパスト・ライブス』から)
★いよいよ開幕が近づいて(9月22日20:30現地時間)、招待客の現地入り報道も活発になってきました。他の映画祭同様、映画祭関係者も含めて、もうマスク着用姿はみられません。「La sociedad de la nieve / Society of the Snow」(邦題『雪山の絆』でNetflix配信が予告されている)のJ.A. バヨナも既に現地入りして、出迎えのホセ・ルイス・レボルディノスとハグ、ファンとの撮影にも応じていました。他セクション・オフィシアルの審査員のクリスティアン・ペツォールト、彼の最新作「Roter Himmel / Afire / El cielo rojo」はペルラクにノミネートされている。ヴィッキー・ルエンゴ、ファン・ビンビンも到着しましたが、しかしこれからが本番です。ペルラク部門のうちスペイン語映画をピックアップして時間の許す限り紹介する予定です。
セクション・オフィシアルの審査員発表*サンセバスチャン映画祭2023 ⑯ ― 2023年09月18日 08:44
審査委員長はフランスのクレール・ドニ監督
★9月8日、セクション・オフィシアルの審査員7名が発表になりました。審査委員長はヨーロッパを代表する監督の一人、フランスのクレール・ドニ監督以下、中国の女優ファン・ビンビン、コロンビアの製作者で監督のクリスティナ・ガジェゴ、フランス出身だがニューヨークで活躍している写真家ブリジット・ラコンブ、スペインの女優ヴィッキー・ルエンゴ、ハンガリーはブダペスト生れだがカナダで主に活躍しているロバート・ラントス、ドイツの監督&脚本家のクリスティアン・ペツォールト、以上女性5名、男性2名となりました。
★審査委員長のクレール・ドニ(ドゥニとも表記、パリ1946)は、1988年『ショコラ』でデビュー、『パリ、18区、夜。』がカンヌ映画祭1994「ある視点」にノミネート、1996年の『ネネットとボニ』はロカルノ映画祭金豹賞を受賞した。ベルリン映画祭2022で銀熊監督賞を受賞した『愛と激しさをもって』は、昨年のSSIFFで特別上映されている。その他、『ホワイト・マテリアル』(09)、SFスリラー『ハイ・ライフ』(18)など。本邦ではミニ映画祭が企画されるなどファンも多く、代表作が字幕入りで鑑賞できる監督。
★審査員ファン・ビンビン(中国1981)は女優、本祭との関りでは第64回SSIFF 2016に、フォン・シャオガンの「I Am Not Madame Bovary」(「わたしは潘金蓮じゃない」)で銀貝女優賞を受賞している。脱税疑惑、消息不明など、映画以外で話題を振りまいた過去がある。
★審査員クリスティナ・ガジェゴ(コロンビアのボゴタ1978)は、製作者、監督。チロ・ゲーラの『彷徨える河』(15)を製作、大成功をおさめた後、ゲーラと共同監督した『夏の鳥』(18)で監督デビュー、カンヌ映画祭併催の「監督週間」のオープニング作品に選ばれた。ガジェゴについてはキャリア&フィルモグラフィーを紹介している。ゲーラとは彼の数人に及ぶ女性セクハラ問題で結婚を解消している。
*『彷徨える河』の作品紹介ほかキャリアについては、コチラ⇒2016年12月01日
*『夏の鳥』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月18日
★審査員ブリジット・ラコンブ(フランス1950)は、ニューヨークで活躍する写真家。スパイク・ジョーンズのデビュー作『マルコヴィッチの穴』(99)、スコセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『マリリン 7日間の恋』などのカメラ部門、スチール写真を手掛けている。写真集多数出版。
★審査員ヴィッキー・ルエンゴ(スペイン1999)は女優、ミケル・グレアがSSIFFでFIPRESCI賞を受賞したスリラー「Suro」(カタルーニャ語)でゴヤ賞2023主演女優賞にノミネートされている。
★審査員ロバート・ラントス(ブダペスト1949)は、ハンガリー出身だがカナダで活躍している製作者。クローネンバーグとタッグを組んだ『イースタン・プロミス』(08)、同最新作の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は目下公開中。
★審査員クリスティアン・ペツォールト(ドイツ1960)は、監督、脚本家。ベルリン映画祭2012にノミネートされた『東ベルリンから来た女』で、銀熊監督賞を受賞した。
★ヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』を金獅子に選んで閉会したばかりのベネチア映画祭、ハリウッドの全米俳優組合のストライキに賛同した豪華スターの欠席で、レッドカーペットは例年のような盛り上がりがなく、淋しかったとメディアは伝えていた。ベネチアでさえそうなら、サンセバスチャンはもっと淋しいことでしょう。銀獅子の脚本賞を受賞したパブロ・ララインの吸血鬼ホラー・コメディ『伯爵』もネットフリックスで既に配信が始まっています。出だしは結構笑えますが、いずれアップしする予定です。
★現地入りが予定されている海外勢では、昨年のドノスティア栄誉賞受賞者ジュリエット・ビノシュ、アイルランドのガブリエル・バーン、『パリ、18区、夜。』の主役フランソワ・クリュゼ、フランスのエマニュエル・ドゥヴォス、米国のグリフィン・ダン、デンマークのマッツ・ミケルセン、イギリスのジェームズ・ノートンやドミニク・ウェストの俳優、監督や製作者としては新作「イオ・カピターノ」で銀獅子監督賞を受賞したマッティオ・ガローネ、カンヌFF2023で『アナトミー・オブ・フォール』がパルムドールに輝いたジュスティーヌ・トリエ、ベトナム出身だがパリ育ちのトラン・アン・ユン、ロバン・カンピヨ、オーストラリアのクレイグ・ガレスピー、カンヌのグランプリやパルムドールを受賞しているジョナサン・グレイザーなど、日本でも知名度のあるシネアストたちの来西がアナウンスされています。
最近のコメント