タマラ・カセリャスとフリア・デ・パスの「Ama」*マラガ映画祭2021 ㉔ ― 2021年07月07日 13:26
タマラ・カセリャスが「Ama」主演で銀のビスナガ女優賞を受賞
★フリア・デ・パス監督のデビュー作「Ama」は、主役のタマラ・カセリャスに銀のビスナガ女優賞をもたらしました。本作は2019年にESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校、マラガ映画祭が注目している映画学校)の卒業制作として撮られた同名の短編がベースになっています。当時フリアは「あまり良い状態ではなかった」とマラガのEFEインタビューに応えている。監督はまだ25歳、母親に借金をして製作したようですが、マラガで母親に最大級のプレゼントを贈ることができました。ハリウッドや男性シネアストたちが、長年にわたって作り続けてきたスーパー家父長制の映画は害をもたらし続けている。監督は、あってはならない「母性神話」の打ち壊しに挑戦しました。何故なら「母性は一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。
(タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・バラ、監督、マラガFF2021フォトコール)
「Ama」2021
製作:La Dalia Films / Ama Movie AIE
監督:フリア・デ・パス・ソルバス
脚本:フリア・デ・パス・ソルバス、ヌリア・ドゥンホ・ロペス
撮影:サンドラ・ロカ
音楽:マルティン・ソロサバル
編集:オリオル・ミロン
美術:ラウラ・ロスタレ
衣装デザイン:クリスティナ・マルティン
メイクアップ:メルセデス・ルハン、タニア・ロドリゲス
プロダクション・マネージメント:リチャード・ファブレガ、マメン・トルトサ
音響:ヤゴ・コルデロ、ほか
視覚効果:ギレム・ラミサ・デ・ソト(短編)
製作者:(エグゼクティブ)シルビア・メレロ、ホセ・ルイス・ランカニョ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ドラマ、90分、撮影地バレンシアのアリカンテ、撮影期間2020年3月から6月、パンデミックで中断、2021年完成させた。配給&販売Filmax、スペイン公開2021年7月16日
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭2021セクション・オフィシアル部門、銀のビスナガ女優賞受賞(タマラ・カセリャス)、AICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)が選ぶフェロス・プエルタ・オスクラ賞を受賞。
キャスト:タマラ・カセリャス(ぺパ)、レイレ・マリン・バラ(娘レイラ)、エステファニア・デ・ロス・サントス(ロサリオ)、アナ・トゥルピン(アデ)、マヌエル・デ・ブラス(カルロス)、チェマ・デル・バルコ、パブロ・ゴメス=パンド(レイラの父ディエゴ)、マリア・グレゴリオ、バシレイオス・パパテオチャリス、カルメン・イベアス、エリン・ガジェゴ、シルビア・サンチェス、ほか
ストーリー:母性神話に縛られて孤独のなかにいる多くの女性たちの物語。さまざまな警告の末に、アデは友人のぺパを家から追い出してしまう。6歳になる娘のレイラと一緒に道路に佇んでいるぺパを目にしたのが最後だった。もう助けてくれる人は誰もいない、ぺパとレイラは生きるための場所を見つけるために闘わねばならない。困難に直面しながらも探求に取りかかる。それは遠い昔の今では存在しない関係との和解に耐えることでもあるだろう。母と娘の新たな絆を創りだすだろうが、それは間違いを許容するもので理想化とは異なるものだろう。あってはならない母性神話に挑戦する女性たちの物語。
(路頭に迷うぺパと娘レイラ、映画から)
監督紹介:フリア・デ・パス・ソルバスは、1995年バルセロナ生れの監督、脚本家。バルセロナのESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で映画演出を専攻する(2012~18)。2012年、短編「Atrapado」、助監督、キャスティング監督などをしながら、2017年に共同監督(11名)として撮った長編「La filla d’algú」(19)は、マラガ映画祭2019でモビスター+賞を全員で受賞した。2018年ESCACの卒業制作である短編「Ama」(19、19分)は、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭にノミネートされた。今回、初の単独監督として本作「Ama」で長編デビューした。テーマは不平等、特に女性が受けている社会的地位の格差、フィクションとドキュメンタリーの接続点を求めている。鼻ピアスに耳の後ろから剃り上げたライオン・ヘアー、エイミー・ワインハウス風のアイライン、このタフでぶっ飛んだ監督は、映画祭に旋風を巻き起こした。
(「まだ私は25歳の青二才です」と応えるデ・パス監督、プレス会見)
★短編「Ama」の登場人物で重なるのはぺパ、ディエゴ、レイラ(別の子役エンマ・エルナンデス・ぺレス)、アデ(ロランダ・パテルノイ)と多くない。監督とぺパ役のタマラ・カセリャスは長編デビューに4年の歳月を掛けたという。映画はこんな風に始まる。ディスコで踊り明かした若い女性が帰宅する、既に新しい一日が始まっており、テーブルでお絵描きをしていた小さな女の子が迎える、女性は動じる風もなくおはようと言う。娘の育児放棄に耐えきれない友人から家を追い出されてしまう。
(短編「Ama」のポスター)
★監督は「これまでのぺパの人生を説明しない方針にした。町中を子連れで放浪するぺパを無責任な母親と呼ぶこともできます」。しかし監督は、ぺパを理解するためのモラルやアリバイを提供しない。またぺパを裁かないし、観客に許しを求めない。このような状況に至るまでの経済的社会的なリソースを提供しないシステムを描くだけです。母性は存在してはならない神話であって「それは一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。製作者のホセ・ルイス・ランカニョは、「芸術的品質、若くて才能あふれる制作チームの努力、何よりも映画が語る物語の力強さのため」と、製作意図に挙げている。
(マラガ入りした監督、タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・ベラ)
★ぺパを演じて、銀のビスナガ女優賞受賞のタマラ・カセリャス(カセジャス)は、セビーリャ生れの35歳、舞台女優を目指し、セビーリャのViento Sur Teatroの演劇学校で学ぶ。その後18歳でバルセロナに移り、バルセロナの演劇学校Nancy Tuñonで学んでいる。2010年映画デビュー、2015年アルバル・アンドレス・エリアスの短編「4 días de octubre」(ESCAC Films)に出演、ハビエル・チャカルテギのコメディ「La estación」(18)、ホセチョ・デ・リナレスの「Desaparecer」(18、ESCAC Films)で長編デビュー。他に上記の短編&長編の「Ama」、デ・パス監督との接点はESCACのようです。
(銀のビスナガを手に喜びを全開するタマラ・カセリャス)
★ウェイトレスの仕事を終えて映画祭に馳せつけたタマラは、「私はぺパのように感じたことはないとはいえ、もし彼女が傷ついていると信じれば、すべての家族に言えることですが、まさかそんなことだったとは気づかなかったと言うのです」と語っている。事件後に親戚やご近所さんがメディアに語る定番ですね。またタマラは映画が絶えず深層に潜めているライトモチーフ、放棄または怠慢について「それぞれモードは異なりますが、それは私たち二人が感じている何かです」と。この映画には私にとって父や母が何であるかの分析があり、映画を見れば感動すると語っている。
(自分とは違うぺパを演じたタマラ、映画から)
★ぺパが遊びまわっているあいだ、娘レイラの世話を押しつけられている友人アデ(アナ・トゥルピン)は、二人が彼ら自身の人生を見つけるために敢えて路頭に送り出す。レイラを演じたレイレ・マリン・ベラは自然体で、本当に難しいシーンをカバーしてくれたと監督は少女を絶賛している。タマラと同郷の先輩ロサリオ役のエステファニア・デ・ロス・サントスは幼女の祖母役、セクション・オフィシアル部門のアウトコンペティションで上映された、ビセンテ・ビジャヌエバのコメディ「Sevillanas de Brrooklyn」で活躍しています。短編「Ama」にもディエゴ役で出演していたパブロ・ゴメス=パンドは、幼女の父親役です。
(意見の異なる友人アデとぺパ)
(撮影中のレイラ、ぺパ、ロサリオ、2020年3月)
(新たな絆を模索するレイラとぺパ)
★マラガFF はESCAC出身のシネアストを重視している。2017年のカルラ・シモン(『悲しみに、こんにちは』)、2018年のエレナ・トラぺ(「Las distancias」)が金のビスナガを受賞している。2020年のピラール・パロメロ(「Las niñas」)はサラゴサ出身で卒業生ではないが、ゴヤ賞2020新人監督賞のベレン・フネス(「La hija de un ladorón」)もESCACで学んでいる。4作とも作品紹介をしていますが、今のスペインはマドリードよりバルセロナが熱い。マラガFFやESCACが女性監督の採石場と称される所以です。1994年バルセロナ自治大学の付属校としてバルセロナで設立、2003年に本部をバルセロナ州テラサ(タラサ)に移した。活躍中の卒業生は、J.A. バヨナ、マル・コル、キケ・マイジョ、オスカル・ファウラ、ハビエル・ルイス・カルデラなど数えきれない。生徒に非常に厳しい要求をする学校として有名ですが、それなりの成果をあげているということでしょう。
★マラガ映画祭はとっくの昔に終幕しましたが、ゴヤ賞2022の新人監督賞、主演女優賞のノミネートを視野に入れて紹介いたしました。デ・パス監督の次回作は、児童虐待をテーマにした短編、目下準備中ということです。
クラウディア・ピントの「Las consecuencias」*マラガ映画祭2021 ㉓ ― 2021年07月01日 20:31
クラウディア・ピント、第2作「Las consecuencias」で批評家審査員特別賞
★クラウディア・ピントはベネズエラ出身ですが、本作「Las consecuencias」はスペイン=オランダ=ベルギー合作の映画です。ご存知の通り故国ベネズエラは政情不安が続いて映画製作どころではありません。主演女優のフアナ・アコスタはコロンビアのカリ生れ、共演者アルフレッド・カストロはチリ出身、今回助演女優賞を受賞したマリア・ロマニジョス、カルメ・エリアス、ソニア・アルマルチャはスペイン、エクトル・アルテリオはアルゼンチン、とキャスト陣も国際的です。音楽監督、撮影監督、編集はデビュー作と同じ布陣、監督と共同で脚本を執筆したビンセント・バリエレ以下、音響、美術などスタッフは概ねベネズエラ・サイドが担当しています。
(本作をプレゼンするクラウディア・ピント、5月25日マドリード)
「Las consecuencias」2021年
製作:Sin Rodeos Films / Las Consecuencias AIE / N279 Entertaiment(オランダ)/
Potemkino(ベルギー)/ Erase Una Vez Films(スペイン)
協賛:TVE / TV3 / A Punto Media / バレンシア州TV
監督:クラウディア・ピント・エンペラドール
脚本:クラウディア・ピント・エンペラドール、エドゥアルド・サンチェス・ルへレス
撮影:ガボ(ガブリエル)・ゲーラ
音楽:ビンセント・バリエレ
編集:エレナ・ルイス
美術:フロリス・ウィレム・ボス
音響:ダーク・ボンベイ
キャスティング:アナ・サインス=トロパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:マノン・ブロム
メイクアップ&ヘアー:アランチャ・フェルナンデス(ヘアー)、サライ・ロドリゲス(メイク)
製作者:ジョルディ・リョルカ・リナレス(エグゼクティブ/プロデューサー)、
エルス・ヴァンデヴォルスト(オランダ)、クラウディア・ピント、
アンヘレス・エルナンデス、ヤデラ・アバロス他
データ:製作国スペイン=オランダ=ベルギー、スペイン語、2021年、サイコ・スリラー、96分、撮影地カナリア諸島のラ・ゴメラ、ラ・パルマ、バレンシア州のアリカンテ、ベニドルム、撮影期間2019年5月18日~6月27日、スペイン公開2021年9月17日。販売Film Factory
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門プレミアム(6月11日)、銀のビスナガ批評家審査員特別賞、同助演女優賞(マリア・ロマニジョス)受賞
キャスト:フアナ・アコスタ(ファビオラ)、アルフレッド・カストロ(父)、カルメ・エリアス(母)、マリア・ロマニジョス(娘ガビ)、エクトル・アルテリオ、ソニア・アルマルチャ、クリスティアン・チェカ、エンリケ・ヒメノ・ペドロス、他
ストーリー:最近夫をダイビング中の事故で亡くしたファビオラは、思春期の娘ガビと一緒に人生をやり直そうと家族の住むカナリア諸島に浮かぶ小さな火山島へ、長らく疎遠だった父親と連れ立って旅に出る。家族は再会するが、ファビオラは家族になにか秘密があるように感じる。確かな証拠があるわけではないが、彼女の直感はすべてが見た目通りでないといっている。しかし彼女は見つかるかもしれないものへの怖れと、その答えを知る必要があるのかどうかで引き裂かれている。他人の私事に何処まで踏み込めるでしょうか。愛する人を守るための嘘は何処までなら許されるのでしょうか。母性への恐れから生まれたエモーショナルなサイコ・スリラー。怖れ、愛、嫉妬、そして火山島の風景も重要なテーマの一つ。
(小さな火山島を目指すファビオラと父親、映画から)
文化の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにする
★監督紹介:クラウディア・ピント・エンペラドール、1977年カラカス生れ、監督、脚本家、製作者。1998年、カラカスのアンドレス・ベジョ・カトリック大学で視聴覚社会情報学を専攻、卒業する。現在はスペインのバレンシアに移って映画製作をしている。短編「Una voz tímida en un concierto hueco」(01)、「El silencio de los sapos」(06)、「Todo recto」(07)、長編デビュー作「La distancia más larga」(13、ベネズエラ=スペイン合作)など。
★「La distancia más larga」については、モントリオール映画祭2013で優れたラテンアメリカ映画に贈られるグラウベル・ローシャ賞受賞を皮切りに国際映画祭で17賞している。映画賞はイベロアメリカ・プラチナ賞2015オペラ・プリマ賞、ゴヤ賞2015イベロアメリカ映画賞部門ノミネート。映画祭受賞歴はモントリオールのほか、ウエルバ・ラテンアメリカ2013観客賞、パナマ2015観客賞、クリーブランド女性監督賞、ヘルシンキ・ラテンアメリカ観客賞、トリエステ・イベロアメリカ批評家特別賞などを受賞。ハバナ、トゥールーズ・ラテンアメリカ、ヒホン、各映画祭にノミネートされた。
*「La distancia más larga」紹介は、コチラ⇒2013年09月05日/2015年02月07日
(数々の受賞歴を配したデビュー作のポスター)
★2作目が本作「Las consecuensias」である。サンセバスチャン映画祭の合作フォーラムに参加、ユーリマージュ賞Eurimages(欧州評議会文化支援基金、1989年設立)を受賞した。「このフォーラムに参加して、オランダやベルギーのシネアストと交流したことは、私にとって非常に興味深いものでした。文化と見解の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにします。それは私の望んだことでもあったのです」と語っている。2006年からTVシリーズの監督と映画製作を両立させている。
8年ぶりの長編2作目――「彼らは愛する方法を知りません」と監督
★8年ぶりの新作というのも驚きですが、ピント監督によると「製作には多額の資金が必要ですから、それが私にとって本当に重要な何かをもっているかどうか自問します。新作は母性への怖れから生まれました。というのも丁度妊娠していて完成できるか分かりませんでした。間違ったことをして娘を危険に晒してしまう母親はどうなるのだろう。娘がドアを閉めて沈黙してしまうとしたら最悪です。物語は娘が危険に晒されていると想像している母親と娘の闘いを描きますが、母親に確信はなく、それは不確実な怖れから生まれてきます」とRTVEスペイン国営放送で語っています。
(撮影中のフアナ・アコスタ、マリア・ロマニジョス、監督、アルフレッド・カストロ)
★家族の秘密が語られますが、「私たちは敷物の下に隠しているものについては表立って話しません。多くの場合、他人を守るためには沈黙は金なのです。こうして秘密は正当化されます。まだ傷は癒えていません。正しいことをしたいと思っていますが、その方法が分かりません、彼らは愛する方法を知らないのです」と監督。キャスティングについて「フアナ(・アコスタ)はとても勇気のある女優と言わざるを得ません。彼女のことはよく知りませんでしたが、素晴らしい女優、とてもラッキーでした。彼女はこの島の人だと直ぐに私に気づかせたのです。外観だけでなく印象的なオーラを放っていました。私は『あなたと一緒にやりたい、二人なら何でもできる』と言いました」とアコスタの第一印象を語っています。
★キャスト紹介:主役ファビオラ役のフアナ・アコスタは、1976年コロンビアのカリ生れ、監督と同世代の女優、昨年のマラガ映画祭にベルナベ・リコの「El inconveniente」で現地入り、主役のキティ・マンベールが女優賞を受賞している。デビューはコロンビアのTVシリーズでしたが、2000年ごろからスペインに軸足をおいている。シリアス・ドラマ(「Tiempo sin aire」、「Anna」)からコメディ(「Jefe」)まで演技の幅は広い。既にキャリア&フィルモグラフィーを紹介をしています。受賞歴はアレックス・デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」でフォトグラマス・デ・プラタ2018女優賞、ジャック・トゥールモンド・ビダルの「Anna」の主演でコロンビアのマコンド賞2016、ウエルバ映画祭2019ウエルバ市賞などを受賞している。まだゴヤ賞はノミネートもない。
★2003年、彼女の一目惚れで始まったエルネスト・アルテリオとの間に一人娘がいますが、2018年にパートナーを解消、正式には結婚していなかった。新恋人はパリ在住のフランスの実業家チャールズ・アラゼット、幼児を含む4人の子供がいる。本作出演のエクトル・アルテリオは実父です。
*フアナ・アコスタのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年07月11日
(ファビオラと父親、映画から)
(オシドリ夫婦といわれていた頃のフアナとエルネスト・アルテリオ、2017年2月)
★父親役のアルフレッド・カストロは、1955年チリのサンティアゴ生れ、俳優、舞台演出家。1982年TVシリーズでスタート、既に50本以上に出演しているチリを代表する俳優。人間の暗部を掘り起こす登場人物を演じつづけ、チリ国内だけでなくラテンアメリカ各国で活躍している。今年のマラガでは、フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(アルゼンチン)もセクション・オフィシアル部門にノミネートされ、予想通り銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。
(銀のビスナガ男優賞受賞のプレス会見、6月13日)
★パブロ・ラライン映画(『トニー・マネロ』『ザ・クラブ』『No』)出演が有名だが、ラテンアメリカに初の金獅子賞をもたらしたベネズエラのロレンソ・ビガスとタッグを組んだ『彼方から』(15)に主演している。『ザ・クラブ』でイベロアメリカ・フェニックス2015主演男優賞、マルセラ・サイドの「Los perros」(17)でイベロアメリカ・プラチナ2018男優賞など受賞歴多数。俳優に贈られるマラガ―スール賞がラテンアメリカから選ばれるとしたら、カストロを一番にあげておきたい。
(2018年のギレルモ・デル・トロ、今年のアメナバルの監督受賞は異例です)
*「Karnawal」の紹介記事は、コチラ⇒2021年06月13日
*『ザ・クラブ』『No』の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月22日/同年10月18日
*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
(カナリア諸島のラ・ゴメラの浜辺に佇むアルフレッド・カストロ)
(父と娘、アコスタとカストロ、中央はロマニジョス、映画から)
★母親役のカルメ・エリアスは、1951年バルセロナ生れ、舞台俳優を目指し、ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇学校でメソッド演技法を学んでいる本格派。ハビエル・フェセルの『カミーノ』のオプス・デイの敬虔だが頑迷な信者を演じきって、ゴヤ賞2009主演女優賞、ほかサンジョルディ賞、トゥリア賞、スペイン俳優組合の各女優賞を受賞している。今年のガウディ栄誉賞を受賞している。クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」で死出の旅に出る主役マルティナを好演し、第2作にも起用された。カルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(18)では歌えなくなった歌手の冷静なマネージャー役だった。
*ガウディ栄誉賞でキャリア&フィルモグラフィーを紹介、コチラ⇒2021年03月29日
(ファビオラの母、ファビオラ、ファビオラの娘、映画から)
(ゴヤ賞2009主演女優賞のトロフィーを手に喜びのカルメ・エリアス)
★ファビオラの娘ガビを演じたマリア・ロマニジョスは、2004年マドリード生れ、Teatro Cuerta ParedとCine Primera Toma の学校で演技を学んでいる。2019年本作起用がアナウンスされ映画デビューした。先述したようにデビュー作で銀のビスナガ助演女優賞を受賞している。モビスター+のTVシリーズ、フェルナンド・ゴンサレス・モリナの「Paraíso」(7話)にも抜擢され、続いてフェリックス・ビスカレットのスリラー「Desde la sombra」では、パコ・レオンやレオノル・ワトリングと共演している。まだ17歳、小柄で、172センチという長身のアコスタと並ぶと幼さが残る。目下のところ上昇気流に乗っているようだが、願わくば今回の受賞が吉となりますように。
(銀のビスナガ助演女優賞のトロフィーを手にしたマリア)
(クロージングに出席したアコスタとロマニジョス、6月12日)
★スタッフ紹介:オランダのエルス・ヴァンデヴォルストは、『アイダよ、何処へ?』でオスカー賞2021国際長編映画賞にノミネートされた製作者。他『ジグザグキッドの不思議な旅』(12)、『素敵なサプライズ』(15)、『ドミノ 復讐の咆哮』(19)などが公開されている。カタルーニャのジョルディ・リョルカ・リナレスは『少年は残酷な弓を射る』の製作者、ヤディラ・アバロスはメキシコ出身だがスペインでTVシリーズ『エリーテ』や、エドゥアルド・カサノバの『スキン あなたに触らせて』などを手掛けている。
★撮影監督のガボ・ゲーラは、彼女の映画では「風景が重要な意味をもっています。前作のジャングルの撮影も過酷でしたが、今回は危険に晒されることが度々だった」と語っている。ラパルマ島で最も壮観な場所で撮影したが、困難が付きまとった。アコスタは「入り江のなかでも最も遠いところを選び、そこに到達するにはかなりのオデュッセイアでした」と。潮の流れに翻弄され、数時間中断することもあり、毎日が冒険だったようです。監督も「本当に美しい風景を手に入れましたが、それなりの代償を払いました。しかし払っただけのことはありました。物語の厳しさと風景の美しさのコントラストの映画でもあるからです」と。
(本作撮影中のピント監督)
(撮影地のカナリア諸島ラ・ゴメラ島、フォト:サウル・サントス)
*写真提供のサウル・サントスは、1979年ラパルマ島フエンカリエンテ生れ、世界最高を誇る『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を飾る写真家として、国際的に有名です。
ロジェール・カザマジョールに男優賞*マラガ映画祭2021 ㉒ ― 2021年06月24日 15:38
男優賞受賞者ロジェール・カザマジョールはビリャロンガ映画でデビュー
★銀のビスナガ男優賞受賞のロジェール・カザマジョールは、バルセロナ派の監督作品出演が多く、今までなかなか賞に恵まれませんでした。スペインの映画賞はゴヤ賞を含めてマドリード派に偏っており、ガウディ賞の存在意義があるわけです。両市は犬猿の仲、バルセロナ独立運動以来、溝は深まるばかりです。今回アンダルシアの映画祭でカタルーニャ語映画に金のビスナガが受賞した意味は深い。
★受賞作アグスティ・ビリャロンガの「El ventre del mar(El vientre del mar)」では、特に監督もキャスト紹介もしませんでした。主演の一人カザマジョールが男優賞を受賞したので改めて紹介することにしました。彼はスペイン内戦後のカタルーニャの村の暗部を描いた『ブラック・ブレッド』(10)で主役アンドレウ少年の父親ファリオルを好演、ガウディ賞2011助演男優賞を受賞しています。TVシリーズ、短編を含めるとIMDbには57作とあり、カタルーニャ映画では認知度のある演技派の一人です。特にビリャロンガの信頼が篤く、キャリア&フィルモグラフィーで一目瞭然できます。
(共演者オスカル・カポジャ、監督、カザマジョール、マラガFF 2021フォトコール)
*キャリア&フィルモグラフィー*
★ロジェール・カザマジョールRoger Casamajor Esteban、1976年リェイダ/レリダ県セオ・デ・ウルヘル(カタルーニャ州)生れ、俳優(舞台・映画・TV)。カタルーニャ語とスペイン語のバイリンガルだが、母語はカタルーニャ語。表記がルジェ・カザマジョール(「El mar」)、ロジャー・カサメジャー(「Pan’s Labyrinth」)、ロジェール・カサマジョール(「Pa negre」「Todo lo saben」)、ロジェ・カサマジョール(TV『H/アチェ』)など定まっていないが、一応カタルーニャ語読みにしておきます。Somhiteatre 劇団の俳優としてアンドラ公国でキャリアをスタートさせており、カタルーニャ中を巡業している。リェイダ県はアンドラ公国と国境を接しており、カタルーニャ語が公用語の一つである。その後演技修業のためバルセロナに移り、演劇学校や1913年設立の演劇学院Instituto del Teatroで演技を学んでいる。
(銀のビスナガ男優賞のトロフィーを手に満面の笑みのカザマジョール)
★アグスティ・ビリャロンガの「El mar/The Sea」で映画デビュー、スペイン内戦下のマジョルカ島で子供時代を過ごした二人の少年が、10年後に結核のサナトリウムで再会して始まるドラマ。ベルリン映画祭2000に出品され、ビリャロンガが第1回目のマンフレッド・ザルツベルガー賞を受賞している。横道に剃れるが、この賞はベルリン映画祭のフォーラム、パノラマ部門の設立者でLGBTをテーマにした映画に授与されるテディ賞の生みの親、マンフレッド・ザルツベルガーの功績に敬意を表して2000年に創設された賞。既存の価値観にとらわれない作品に贈られる賞。彼は俳優で監督でもあり、20世紀ドイツのLGBT活動の推進者、擁護者であった。本作は東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001で『エル・マール~海と殉教』の邦題で上映されたが、その後『海へ還る日』と改題された。
*以下に主な出演作を列挙しておきます。短編、TVシリーズは割愛。
2000「El mar/The Sea」(『エル・マール~海と殉教』)
アグスティ・ビリャロンガ監督、カタルーニャ語、ベルリン映画祭2000出品、
東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001上映
2001「Salvajes」カルロス・モリネロ監督
2002「L’illa de l’holandes」Sigfrid Monlron監督、カタルーニャ語、
ムルシア・スペイン映画週間出品、フランシスコ・ラバル賞受賞
2002「Guerreros」ダニエル・カルパルソロ監督
2002「Estrella del sur」ルイス・ニエト監督
2004「Nubes de verano」フェリペ・ベガ監督
2006「Pan’s Labyrinth」(『パンズ・ラビリンス』)ギレルモ・デル・トロ監督、
カンヌ映画祭出品、公開2007
2010「Henri 4」ヨ・バイヤーJo Baier監督
2010「Pa negre/Pan negro/Black Bread」(『ブラック・ブレッド』)
アグスティ・ビリャロンガ監督、サンセバスチャン映画祭出品、
ガウディ賞2011助演男優賞受賞、公開2012
2016「El elegido」(『ジャック・モルナール、トロツキー暗殺』)
アントニオ・チャバリアス監督、 Netflix配信
2017「Incerta gloria」アグスティ・ビリャロンガ監督、
2018「Todo lo saben」(『誰もがそれを知っている』)アスガー・ファルハディ監督、
公開2019
2020「La vanpira de Barcelona」リュイス・ダネス監督、カタルーニャ語、
シッチェス映画祭出品
2021「El ventre del mar(El vientre del mar)」アグスティ・ビリャロンガ監督、
カタルーニャ語、マラガ映画祭出品、銀のビスナガ男優賞受賞
2021「Tros」(ポスト・プロダクション)
*割愛したTVシリーズ「H/アチェ」(2019、シーズン1の5話にブルーノ役で出演)がNetflixで配信されている。その他、カタルーニャTVシリーズに多数出演している。脇役が多いので見過ごしされがちだが、比較的字幕入りで鑑賞できる作品も多いほうかもしれない。
*『誰もがそれを知っている』の作品紹介は、
*「La vanpira de Barcelona」の記事は、コチラ⇒2021年03月24日
*「El ventre del mar(El vientre del mar)」の紹介は、コチラ⇒2021年05月09日
(マクシミリアン・ド・ベテュヌに扮した「Henri 4」より)
(マリベル・ベルドゥの弟ペドロに扮したカザマジョール、『パンズ・ラビリンス』)
(カザマジョールとフランセスク・コロメル『ブラック・ブレッド』より)
(ガウディ賞2021作品賞受賞の「La vanpira de Barcelona」から)
(水夫役オスカル・カポジャと医師役カザマジョール、「El ventre del mar」より)
マラガ映画祭<落穂ひろい>*マラガ映画祭2021 ㉑ ― 2021年06月20日 15:07
Zonazineセクションのオープニング作品「Lucas」が作品賞
★Zonazine部門というのはコンペティションの次に重要なセクションであるが、今年のオープニング作品のアレックス・モントーヤの「Lucas」がスペイン語映画の作品賞・観客賞、主役のルカスを演じた新人ホルヘ・モトスの男優賞と3冠を制した(全て銀賞です)。2021年、スリラードラマ、92分。
(Zonazine部門の作品賞銀のビスナガを受賞したアレックス・モントーヤ)
(男優賞銀のビスナガを受賞して言葉をつまらせる新人ホルヘ・モトス)
ストーリー:最近父親を失ったばかりの若者ルカスと小児性愛者のアルバロ(ホルヘ・カブレラ)の関係を描いたスリラー仕立てのドラマ。父親の死によって自分の居場所が崩壊した若者に、罪のない写真と引き換えにお金を払うとアルバロが近寄ってくる。アルバロは偽のプロフィールを制作してソーシャルネットで利用したい欲望をもっているが、若い女の子と一緒にお喋りするだけだともちかける。今の状況に苛立っていたルカスは、彼の要求を受け入れる。
(ルカス役のホルヘ・モトス、映画から)
(アルバロ役のホルヘ・カブレラ、映画から)
監督紹介:アレックス・モントーヤは、1973年バレンシア生れの監督、脚本家、製作者、編集者。15歳のときから短編を撮っており10編以上に及ぶ。マラガFFの監督紹介によると、内外の映画祭受賞歴が170賞とある。本作は長編第2作目、2012年に製作した短編「Lucas」(28分)がベースになっている。マラガ映画祭2013で監督賞を受賞、ゴヤ賞2014の短編ドラマ部門にノミネートされた(キャストは別の俳優が演じている)。2021年4月9日にインスティトゥト・セルバンテスのVimeoチャンネルで48時間限定でオンライン上映されている。
(短編「Lucas」のポスター)
★長編デビュー作「Asamblea」(18)は、アリカンテ映画祭2019審査員賞、主演のフランセスク・ガリードが男優賞を受賞、バレンシア・オーディオビジュアル賞の音響賞を受賞したほか、監督賞、撮影賞などにノミネートされた。2020年にスペインでリスナーの多いFilminでオンライン上映、好評につきその後の公開に繋がった。第2作目である本作はオープニング作品に選ばれ6月4日に上映された。以来メディア各社の取材攻勢に追われていたが、銀のビスナガ受賞となって慌ただしさも増したようだ。スペイン公開も間もなくの5月25日に決定した。
(長編デビュー作「Asamblea」のインタビューを受ける監督)
★テーマの今日性、ルカス役の初々しい好青年ぶりもあいまって今後が期待できそう。ホルヘ・モトスは上映後のプレス会見で「台本を読んで直ぐにルカスを演じたいと思った」と語っていた。一方アルバロ役のホルヘ・カブレラは「登場人物を裁かないように、また理性を可能なかぎり避けながら、あるレベルまで彼と繋がれるように彼の人間性に頼ることにした」とコメント、小児性愛者という難役に挑戦した。マラガ入りしてプレス会見にも出席していたイレネ・アヌラは、モントーヤの「Asamblea」や短編「Vampiro」(16)でメデジン映画祭女優賞、サンダンス映画祭出品の「Cómo conocí a tu padre」(08)でイベロアメリカ短編映画祭女優賞をそれぞれ受賞している。
(左から、二人のホルヘ、モントーヤ監督、イレネ・アヌラ、6月4日のプレス会見)
(作品賞受賞後のプレス会見、6月13日)
★今年のマラガは全体像が間際まで見えてこなかった。コンペティション作品でさえ半分もご紹介できなかった。アグスティ・ビリャロンガが大賞を独占、他作品が脇に押しやられてしまった感が否めない。審査委員長のノラ・ナバスとビリャロンガ監督は旧知の仲、大ヒット作『ブラック・ブレッド』(10)主演で、サンセバスチャン映画祭、ゴヤ賞、フォルケ賞とスペイン映画賞の主要な女優賞をゲットしていた。知らんぷりはできず、何かの賞に絡むと予想していましたが、ベテラン監督作品が6回もコールされるとは思いませんでした。というのもマラガは新人の登竜門的役目をもっているからでした。2022年は通常の3月開催がアナウンスされています。いよいよ第69回サンセバスチャン映画祭2021のニュースが聞こえてきました。こちらは通常に戻って9月開催です。
第24回マラガ映画祭2021受賞結果マラガ映画祭2021 ⑳* ― 2021年06月18日 13:47
金のビスナガはアグスティ・ビリャロンガとフアン・パブロ・フェリックス
(セクション・オフィシアル部門とZONAZINE部門の受賞者たち)
(総合司会者サンティアゴ・セグラ)
★第24回マラガ映画祭2021セクション・オフィシアル以下全部門の受賞結果が発表になりました。総合司会はサンティアゴ・セグラ、他にマラガ出身の大スター、本祭の代表者でもあるアントニオ・バンデラスも登場、アントニオ・レシネス、アナ・フェルナンデス、フアナ・アコスタなどがアシストしました。コンペティション審査委員長ノラ・ナバス(女優、スペイン映画アカデミー副会長)、エレナ・S・サンチェス(ジャーナリスト、TV司会者)、カルレス・トラス(監督、2016金のビスナガ受賞者)、ラファエル・コボス(脚本家、2019リカルド・フランコ賞受賞者)、バレリー・デルピエール(製作者、2017・2020金のビスナガ受賞者)の5名は、スペイン映画にアグスティ・ビリャロンガの「El ventre del mar(El vientre del mar)」、イベロアメリカ映画にフアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」を金のビスナガに選んで終幕いたしました。作品賞以外は全て銀賞です。
(マリア・カサド、フアン・アントニオ・ビガル、マラガ市長、アントニオ・バンデラス)
★マラガ映画祭はセクション・オフィシアルの他に、ZONAZINE、ドキュメンタリー、短編ドキュメンタリー、シネマ・キッチン、審査員スペシャル・メンションなど様々あり、それぞれスペインとイベロアメリカに分かれ、ビスナガの名前が付いた賞の数は数えきれない。その他に企業が与えるモビスター+賞とか、アンダルシア州のシネマ・ライターズ連盟が与えるASECAN賞などもあります。授賞式もコンペティションとZONAZINE部門は入りまじって区別しにくい。以下はセクション・オフィシアルに限定してアップいたします。
*セクション・オフィシアル部門の受賞結果*
◎金のビスナガ(作品賞・スペイン映画)
「El ventre del mar(El vientre del mar)」監督アグスティ・ビリャロンガ
(製作者二人と監督が登壇しました)
◎金のビスナガ(作品賞・イベロアメリカ映画)
「Karnawal」(アルゼンチン)監督フアン・パブロ・フェリックス
(エグゼクティブ・プロデューサーのエドソン・シドニー)
(監督、製作者シドニー、アルフレッド・カストロ、マルティン・ロペス・ラッチ)
(マランボを披露したロペス・ラッチ)
◎審査員特別賞(銀のビスナガ)
「Destello Bravío」監督アイノア・ロドリゲス
(受賞スピーチをするアイノア・ロドリゲス監督)
◎監督賞(銀のビスナガ)
アグスティ・ビリャロンガ(「El ventre del mar(El vientre del mar)」)
◎女優賞 ‘HOTEL AC MALAGA PALACIO’(銀のビスナガ)
タマラ・カセリャス(「Ama」監督フリア・デ・パス・ソルバス)
◎男優賞 ’STARVIEW STYLE’(銀のビスナガ)
ロジェール・カザマジョール(「El ventre del mar(El vientre del mar)」)
◎助演女優賞(銀のビスナガ)
マリア・ロマニジョス(「Las concecuencias」監督クラウディア・ピント)
◎助演男優賞(銀のビスナガ)
アルフレッド・カストロ(「Karnawal」)
◎脚本賞(銀のビスナガ)
アグスティ・ビリャロンガ、アレサンドロ・バリッコ(「El ventre del mar」)
◎音楽賞(銀のビスナガ)
マルクスJ. G. R.(「El ventre del mar(El vientre del mar)」)
◎撮影賞 ’XIAOMI’(銀のビスナガ)
ジョセプ・マリア・シビト、ブライ・トマス(「El ventre del mar)」)
(ブライ・トマス)
◎編集賞(銀のビスナガ)
ホセ・ルイス・ピカド(「Destello Bravío」)
◎審査員スペシャル・メンション
「La ciudad de las fieras」コロンビア=エクアドル(監督ヘンリー・リンコン)
◎批評家審査員特別賞(銀のビスナガ)
「Las concecuencias」(クラウディア・ピント)
(クラウディア・ピント監督)
◎観客賞(銀のビスナガ)「Chavalas」監督カロル・ロドリゲス・コラス
(カロル・ロドリゲス・コラス、主演した女優が揃って登壇しました)
★以上がセクション・オフィシアル部門の銀のビスナガです。アグスティ・ビリャロンガの「El ventre del mar」が作品・監督・脚本・音楽・撮影・男優賞とカタルーニャ語映画が6冠を独占、これは貰いすぎではないでしょうか。何かの賞に絡むと予想していたフアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」がまさかの作品賞、アルフレッド・カストロは予想通り助演男優賞を手にしました。受賞を念じて最後まで残っていたようです。最終日の13日には受賞作を纏めて再上映、また受賞者のプレス会見もあって、盛りだくさんの11日間が終了いたしました。来年2022年は通常に戻って、3月18日から27日の10日間になります。あくまでコロナのご機嫌しだいです。
★オープニングとクロージング両方のガラに出席した人はそれぞれ衣装代が嵩んだことでしょう。今年は肩紐がないビスチェドレスが人気、パンツルック、パンタロンも多い印象でした。以下はベストドレッサーというわけではありませんが、受賞者、授賞式に中心的役割をしたひと、プレゼンターを少しアップしておきます。
(マラガの顔アントニオ・バンデラスと批評家審査員特別賞のプレゼンタ―を務めた
マリア・カサド、ドレスは灰色がかった青のプロノビアス社のデザイン)
(審査委員長ノラ・ナバス、アベリャネダのデザイン)
(司会アシストのフアナ・アコスタ、オスカル・デ・ラ・レンタのデザイン)
(司会アシストのアナ・フェルナンデス、フェルナンド・クラロのビスチェドレス)
(女優賞受賞のタマラ・カセリャス)
(司会アシストのアントニオ・レシネス)
ハビエル・フェセルにビスナガ栄誉賞*マラガ映画祭2021 ⑲ ― 2021年06月16日 15:26
ハビエル・フェセルにスペイン人3人目となるビスナガ栄誉賞
★6月12日、マラガ映画祭最後となった特別賞の一つビスナガ栄誉賞が、『ミラクル・ぺティント』や『モルタデロとフィレモン』の監督ハビエル・フェセルに授与された。会場には3人の子供たち、脚本家で俳優の兄ギジェルモ・フェセル、短編時代からの友人で製作者のルイス・マンソが馳せつけた。ルイス・マンソはフェセルの短編時代からの製作者、殆どを手掛けています。『カミーノ』がラテンビート2009で上映されたとき、監督と来日、Q&Aに参加しています。またインスティトゥト・セルバンテス東京で「Campeones」(邦題『だれもが愛しいチャンピオン』)の試写会(2019年11月)にも、本作出演のアテネア・マタと3人揃って来日しています。本祭はスペイン語、ポルトガル語に特化した歴史の浅い映画祭のせいか、栄誉賞についてはあまり記事にしなかったのですが、フェセルの受賞はスペイン人としてはアルフレッド・ランダ、アントニオ・バンデラスにつづいて3人目の受賞者となりました。
*監督キャリア&フィルモグラフィーと「Campeones」の作品紹介は、
(拍手に迎えられて登壇したハビエル・フェセル、セルバンテス劇場、6月12日)
★ゴヤ胸像のコレクションは既に7個です。その内訳は短編「Aquel ritmillo」(94)、『カミーノ』(08)作品・監督・脚本、アニメーション「Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo」(14)長編アニメ・脚色、『だれもが愛しいチャンピオン』(18)作品賞、加えてフェロス賞も2賞しています。『ビンタと素晴らしきアイディア』(04,30分)は、米アカデミー賞2007短編部門にノミネートされた。同名の息子ハビエルが「私たちの父親は、映画に<フェセリアンfesseriano>という新しいジャンルを生み出した。このジャンルは可笑しいけれど、登場人物への愛がいっぱい詰まっています」とスピーチした。家族や友人たちの温かいスピーチを受けて登壇した監督はトロフィーを受け取り、「この受賞は執筆したり監督するために重みがあります。しかしとりわけ感謝したいのは、私にこれらの映画を作ることを許してくれた人々です。彼らの名において栄誉賞を受け取りたい。皆さまが私に寄せてくれた信頼があればこそ続けられた」と、彼の映画人生を共にしてくれた人々に感謝のスピーチをした。
(マラガ入りした監督とパートナーのアテネア・マタ、ミラマル・ホテル、6月11日)
★授賞式の後、最新作「Historias lamenntables」が上映された。2019年夏クランクインした本作は、パンデミックのため2020年夏の劇場公開が日延べになっていた。2020年10月アマゾンビデオでの配信が先発したが、やっと今年1年遅れの6月11日に劇場にやってくる。今年のゴヤ賞ではオリジナル脚本賞にノミネートされたが受賞は逸した。
(最新作「Historias lamenntables」のポスター)
★同日午後にセルバンテス劇場ロッシーニ・サロンで行われたプレス会見では、映画と広告の二本立てでオーディオビジュアルの世界で仕事をしてきた監督と本祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルの対談で行われた。監督は最初のころは広告の仕事が多かったが映画製作を諦めることはなかったと語っている。映画と広告は繋がっていて切り離せないとコメントしている。広告は反応が早いのも魅力の一つ、テクノロジーの新しさは可能性を秘めていると説明した。
(監督と本祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガル、ロッシーニ・サロンにて)
★セクション・オフィシアル作品以下すべての受賞結果が発表になっています。スペイン映画「金のビスナガ」は、アグスティ・ビリャロンガのカタルーニャ語映画「El ventre del mar(El vientre del mar)」、イベロアメリカ映画「金のビスナガ」は、フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」、共に副賞の10,000ユーロが授与されました。以下は次回にアップします。
アルゼンチン映画「Karnawal」*マラガ映画祭2021 ⑱ ― 2021年06月13日 18:38
フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal」
★フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal」は、昨年トロント、グアダラハラ、オスロなど既に国際映画祭巡りをしてマラガにやってきました。アルゼンチン映画とはいえブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェーとの合作。キャストにチリのベテラン俳優アルフレッド・カストロ、ガウチョ起源のタップダンス「マランボ」のダンサーに、マランボ・ワールドチャンピオンを連覇しているマルティン・ロペス・ラッチを起用、二人は複雑な父子関係を演じます。ボリビアと国境を接するアルゼンチン最北西部の州フフイで撮影された。マラガFFでは3日めの6月5日に上映され、監督以下主演演者二人も来マラガしてプレス会見に臨んだ。特に過去の暗部に縛られた父親を演じたカストロは、同じセクション・オフィシアルにノミネートされているクラウディア・ピントの「Las consecuencias」にも主演していることから、メディアのインタビューに追われているようでした。
(マルティン・ロペス・ラッチ、監督、アルフレッド・カストロ、6月5日)
「Karnawal」2020年
製作:Bikini Films(アルゼンチン)/ Moinhos Produçoes Artisticas(ブラジル)/
Picardia Films(チリ)/ Phottaxia Pictures(メキシコ)/
Londra Films(ボリビア)/ Norsk Filmproduksjon(ノルウェー)
監督・脚本:フアン・パブロ・フェリックス
音楽:レオナルド・マルティネリ、Tremor
撮影:ラミロ・シビタ
編集:エドゥアルド・セラーノ、ルス・ロペス・マニェ
キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ
プロダクション・デザイン:セサル・モロン
美術:ダニエラ・ヴィレラ
衣装デザイン:レジナ・カルボ、ガブリエラ・バレラ・ラシアル
メイクアップ:ナンシー・マリグナク
プロダクション・マネージメント:マリア・カルカグノCalcagno
製作者:アレクシス・ロディル、フリーダ・トレスブランコ、(エグゼクティブ)エドソン・シドニー、ほか多数
データ:製作国アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェー、スペイン語、2020年、ドラマ、95分、撮影地アルゼンチンのフフイ州、ボリビアのビリャソン、両国の国境地帯ほか
映画祭・受賞歴:トゥールーズ映画際2020正式出品、2021年6月アルフレッド・カストロ栄誉賞受賞、トロントTIFF、グアダラハラ映画祭、監督賞・男優賞(アルフレッド・カストロ)受賞、オスロ映画祭、サンタバーバラ映画祭2021、マラガ映画祭など
キャスト:マルティン・ロペス・ラッチ(カブラ)、アルフレッド・カストロ(カブラの父エル・コルト)、モニカ・ライラナ(母ロサリオ)、ディエゴ・クレモネシ(母の恋人エウセビオ)、他
ストーリー:カブラはボリビアの国境近くのアルゼンチン北部で母親と暮らしている。若者の夢はガウチョのフォルクローレのタップダンス、マランボのプロフェッショナルになることである。目前に迫ったカーニバルは、マランボ・ダンサーにとって最も重要な祭り、その準備に余念がない。ところが思いがけず詐欺師の父エル・コルトが数日間の休暇をもらって刑務所から戻ってくる。エル・コルトはカブラとその母親をミステリアスな旅に誘い出す。エル・コルトの真意が分からぬまま、母と息子は既に暴力と犯罪の危険に晒されていることに気づくだろう。カーニバルはディアブロも目覚めさせてしまうのだ。カブラはカーニバルのマランボ・コンクールに間に合うでしょうか。自分の夢を実現するために父を捨てることができるでしょうか。父と息子の境界線、父と母とその恋人との三角関係、アルゼンチンとボリビアの国境線、自由の息吹きとしてのアートの役割を織り交ぜて、ドキュメンタリーの手法を取り入れたロードムービー。
(再会した父と息子)
自由の息吹きとしての芸術の役割――ガウチョ起源の<マランボ>の魅力
★タイトル「Karnawal」は、先住民語のケチュア語とスペイン語の造語でカーニバルを指す。マランボMalamboというのは、アルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、もともとはガウチョ起源のタップダンスで、ガウチョの衣装とブーツ姿で踊る。映画に見られるように毎年マランボ・コンテストがあり、カブラを演じたマルティン・ロペス・ラッチはマランボ・チャンピオンを連覇しているプロフェッショナルだそうです。当ブログでは、ベルリン映画祭2018に正式出品されたサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」を紹介しています。こちらのダンサーはプロのガスパル・ホフレです。
*「Malambo, el hombre bueno」の紹介は、コチラ⇒2018年02月25日
(マランボを踊るマルティン・ロペス・ラッチ、映画から)
(カブラと母ロサリオ役のモニカ・ライラナ)
(刑務所から戻ってきたエル・コルト役のアルフレッド・カストロ)
★監督紹介:フアン・パブロ・フェリックスは、1983年ブエノスアイレスのアレシフェス生まれ、監督、脚本家、製作者。ENERC卒業、学位取得後7年間、FXスタントチームの総プロデューサーとして特殊効果やアクション・デザインを手掛ける。TVシリーズ、短編、コマーシャル(アルゼンチン、スペイン)を製作後、2020年「Karnawal」で長編デビューした。2021年ドキュメンタリー「Fuerzas vivas」を撮る。
(第35回グアダラハラ映画祭2020監督賞受賞のフアン・パブロ・フェリックス)
★プレス会見で、「カーニバルの重要性は、人々を解放し、変革をもたらす自由の息吹きを秘めているからです。この地域の人々は普段はそっ気なく控えめですが、カーニバルがやってくると、伝統に則った象徴性とメタファーを通して自由奔放になります。それはカーニバルの数日間は悪魔から解放されるからです」と監督。また「レゲトンの商業的攻勢にもかかわらず、世代を超えてこのように文化遺産が守られていることに感動する」ともコメントした。
(左から、ロペス・ラッチ、監督、カストロ、プレス会見)
★父親エル・コルト役のアルフレッド・カストロは、「この映画は女性の視点から見ると、とても優れた深遠な興味を起させる外観をもっている。この文脈からはほとんど気づかれませんが、男性のマチスモが反映されています。というのも男性は驚くほど何もしません。毎日働くのは女性たち、商いをするのも、国境を越えるのも、すべて女性です」とコメントした。
(息子を危険に晒す父親エル・コルト、アルフレッド・カストロ)
★授賞発表が迫ってきていますが、カストロの男優賞受賞はかなりの確率でアリでしょうか。最優秀作品賞の金のビスナガは、スペイン映画とイベロアメリカ映画から1作ずつ選ばれます。後者は8作と作品数も少ないから、もしかしたら受賞するかもしれない。
ダニ・デ・ラ・トーレの冒険映画「Live is Life」*マラガ映画祭2021 ⑰ ― 2021年06月11日 11:56
監督の原点、1980年代映画のオマージュ、5人の少年の冒険映画
★特別賞の授賞式に追われて、肝心の作品紹介が後手になっていました。映画祭4日めに第1回上映があったダニ・デ・ラ・トーレの長編第3作「Live is Life」の紹介です。デビュー作『暴走車ランナウェイ・カー』、第2作『ガン・シティ~動乱のバルセロナ』で本邦でも比較的知名度のある監督です。第3作は夏休みに再会した5人の少年の冒険と、その家族に目を注ぎます。監督は「私の原点である80年代の映画へのオマージュです」と語っています。少し大人っぽくなった5人の少年たちと現地入り、上映日のプレス会見にも揃って登壇しました。
*『暴走車ランナウェイ・カー』作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2016年01月22日
(プレス会見に登壇した監督と出演者たち、マラガ映画祭2021)
(監督以下主演者の少年たち、マラガFFフォトコール、6月6日)
「Live is Life」2020年
製作:4 Cats Pictures / Atresmedia Cine / Live is Life AIE
監督:ダニ・デ・ラ・トーレ
脚本:アルベルト・エスピノサ
撮影:ホス・インチャウステギ
音楽:マヌエル・リベイロ
編集:フアン・ガリニャネス
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラーノ
メイクアップ:クリスティナ・アセンホ、ペドロ・ラウル・デ・ディエゴ、アントニオ・ナランホ
セット装置:ヌリア・グアルディア
プロダクション・マネージメント:フェデリコ・ロサディリャス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2020年、アドベンチャードラマ、109分、撮影地ガリシアのリベイラ・サクラを中心に、ルゴ県のパントン、ソベル、キロガ、モンフォルテ・デ・レモス、他オウレンセ、エスゴス、バルセロナなど。クランクイン2019年、期間7週間、配給ワーナー・ブラザース・エンターテインメント(スペイン)、販売Film Factory、マラガ映画祭2021プレミア、スペイン公開2021年8月13日
キャスト:ラウル・デル・ポソ(マサ)、ダビ・ロドリゲス(スソ)、アドリアン・バエナ(ロドリ)、ハビエル・カセリャス(ガリガ)、フアン・デル・ポソ(アルバロ)、マルク・マルティネス、シルビア・ベル(以上初出演)、カルロス・アルベルト・アロンソ(プール付きハウスのオーナー)、ルア・カルテロン(ロドリの姉妹)、他
ストーリー:1985年の夏、ロドリはカタルーニャを離れて、いつものように両親が住んでいるガリシアの町に、仲間と再会するために戻ってくる。しかし今年は5人の仲間にとって別の夏休みになりそうだ。現実世界の問題が彼らを襲い、揺るぎないと思われていた彼らの関係が脅威にさらされようとしている。5人はそれぞれ友情にしがみつき、仲間の連帯を守るため、ある冒険を計画する。土地の伝説によると、山の頂上に生え、願いを叶えてくれる魔法の花があるという。聖ヨハネの夜、5人は夜陰に紛れて魔法の花探索に出発する。何故なら彼らの唯一の願いは、苦しんでいる友人の問題を解決し、一緒にいられることだけなのだ。「Live is Life」が歌われた夏の思い出は永遠だ。自分探しの少年たちの旅、子供が大人を、子供であることを止めようとしない大人を発見する感動と希望に満ちたロードムービー。
(主演の 5 人の少年たち、映画から)
初めて映画に連れて行ってくれた、敬愛する母親へのオマージュ
★「監督として私がここにいられるのは、1980年代の家族と冒険の映画です」と語るガリシアの監督ダニエル・デ・ラ・トーレ(モンフォルテ・デ・レモス1975)は、前2作とは打って変わって、家族と少年の冒険物語をテーマに選びました。最初、監督に提案された脚本は、「とても気に入ったのですが、長いあいだ決めかねていました。というのも今までの私のコードとは違っていたからです。複雑なのに非常に感傷的な部分があり、それをどういうふうに処理するか迷っていました」。監督の肩を押したのは脚本を読んだ母親が映画化を勧めたからで、それから間もなく母は旅立ちました。「私のなかで何かが起きたのです。それでイエスを出しました。だからこれは母親へのオマージュでもあります。私を最初に映画に連れて行ってくれたのが彼女でした」と映画化の経緯を語っている。
(撮影中のダニ・デ・ラ・トーレ監督)
★「夏の少年たちの生活、他の都市、例えばバルセロナやマドリードからやってくる子供と、ガリシアの子供という異なった世界の子供が集まる物語を作りたかった。子供から大人への移行、例えば1980年代のスピルバーグやゼメキスの映画に影響を受けています」と監督。『E.T.』(82)とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)を指しているのでしょうか。
★プレス会見では「80年代のハリウッド映画『グーニーズ』とインスピレーションを共有しています」と語っている。1985年製作のリチャード・ドナーの作品、伝説の海賊が隠した財宝を探して窮地に陥っている家族を助けようとする4人の少年たちの冒険映画のことです。新作は観客を楽しませ、ノスタルジーを呼び起こそうとする冒険は、成熟への道、友情の大切さ、少年それぞれの個人的な成長を、アクション、伝説を取り込んで、決して忘れることのない夏を描いている。そのために当時のシンボリックな要素を盛り込んだとコメントした。それを担ったのがエスピノサ、「彼がキーパーソンで、彼の創造のプロセスは、エモーショナルで魔法にかけられたようだった」と脚本家を讃えた。
★さまざまなバックグランドをもつ5人の少年は、アクセントや話し方などを考えて、1000人以上の子供たちの中から選んだという。マサ、アルバロ役のラウル&フアン・デル・ポソは双子の兄弟ということです。ロケ地に私の生まれ育ったルゴ県のリベイラ・サクラを選んだのは、自身の少年時代を追体験する必要があったからだと明かしている。1980年代にワープするため、少年たちには今日のテクノロジー機器から切り離したようです。ゲームやスマホなしの生活体験はどうだったのでしょうか。
(クランクイン当時の監督と5人の少年)
(マラガ入りした現在の5人、デル・ポソの髪も伸びたようです)
★また会見では「この映画には明らかに楽観的なメッセージがあるのは分かっています。さまざまな障害にもかかわらず目標は達成される。夢のためには希望を捨てずに根気よくポジティブに活動すれば達成できるというメッセージです」。最初簡単で単純な仕事のようにみえたのに「これまでで最も困難な仕事でしたが貴重な体験ができ、人生最高の仕事の一つです」と述べた。最後に監督は「複雑な思春期を過ごしたが、映画の中に自由を見つけ、いわば映画は避難場所、物語に没頭することが好きだった」と告白、「成長して自分に自身がもてるようになった、それを映画で達成したいと思っている」と締めくくった。今日では珍しくなった飾らない人柄が魅力的です。
★脚本を執筆したアルベルト・エスピノサは、1973年バルセロナ生れ、劇作家、脚本家、監督、俳優、日刊紙「カタルーニャ新聞」の記者など多才な顔をもつ。1994年の戯曲「Los Pelones」が、2003年アントニオ・メルセロによって「Planta 4 a」のタイトルで映画化され、自身も脚本を手掛けた。マラガ映画祭審査員特別メンション、モントリオール映画祭で観客賞、メルセロが監督賞受賞、ゴヤ賞2004にもノミネートされた。2010年にリリースされ内外の映画祭の受賞歴をもつ「Héroes」以来、10年ぶりに長編映画に戻ってきた。この間はTVシリーズを主に執筆している。両作とも子供のグループが主人公の映画でした。
(アルベルト・エスピノサ)
フリア・フアニスのリカルド・フランコ賞ガラ*マラガ映画祭2021 ⑯ ― 2021年06月09日 16:15
フィルム編集者フリア・フアニス、映画愛を語ったリカルド・フランコ賞の夕べ
★6月8日22時、リカルド・フランコ賞の授賞式がセルバンテス劇場でありました。壇上には、友人や映画仲間が馳せつけました。この賞は映画産業を裏から支えるシネアストに贈られる賞です。今年はナバラ州の小さな村、人口100人ほどのアレリャーノ生れのフィルム編集者フリア・フアニスに、30年にわたるキャリアを讃えてビスナガのトロフィーが手渡されました。
★フリア・フアニスは、マラガ映画祭とコラボレーションを組んでいる映画アカデミー、30年にわたって自分を支えてくれた製作者、監督、すべての映画人に感謝の言葉を述べた。リカルド・フランコについては、マドリードで働きはじめた最初の映画でその存在を知ったが、フィルム編集者として一緒に仕事をすることはなかったと、その早世を思いやった。
(ビスナガのトロフィーを手に受賞スピーチをするフリア・フアニス)
★フリアは映画愛を、特に思考やエモーションを強調し、フィルム編集に重要なのはテクニックではなく、創造するプロセスだと主張した。「編集では、直感や生活体験、物事を感じる力がとても大切です。だからあなたが好きならば、おそらく観客も気に入るのです」。オーディオビジュアルの世界がすべてではないのは分かっていますが、新しい言語を取り上げるのは、映画が将来的にも持続して欲しいからです。映像を通して現実に惑わせられないためにも、学校での教育も必要だと述べた。とにかくみんな映画館に出かけてください、「映画は私たちに新しい命を吹き込みます」と締めくくった。
★女優エウラニア・ラモンは「フリアは映画のためだけに生きているのではなく、彼女がとてつもなく大きい映画なのです」、監督のアルベルト・モライスは「フリアはスペイン映画の編集者のなかでも最高の存在です。映画のすべてのタイプに精通し、それは他の学問分野にも及んでいる。だから彼女はアーティストでシネアストなのです」とスピーチした。モライス監督とは「La madre」(16)でタッグを組んでいる。
(フリアとその映画仲間たち、セルバンテス劇場、6月8日)
映画は「私を興奮させ、物事に敏感にさせ、学ぶことは大きい」
★授賞式の前に行われた映画祭恒例のミーティングで、本祭のディレクターを務めるフアン・アントニオ・ビガルは、フィルム編集者だけでなく、短編作家、ドキュメンタリー監督、コラージュ展、ビデオアートなどの芸術作品を手掛ける「多面的な」活躍に触れた。フリアは「これらの仕事は映画と映画のあいだに行い、今日のような危機を迎えて更に新しいことに挑戦しており、それは新しい言語の発見に繋がっている」と語った。
(J. A.ビガルからインタビューを受けるフリア・フアニス、ロッシーニ・サロン)
★撮影現場はアクティブだが、編集室の作業は「落ちついて、緊張することはありません。私は他人に怒りをぶつけることはいたしません。監督と自分の意見が一致したときはハッピーです。二人の意見が割れたときは自分の考えを言いますが、最終的な決定は監督が下します」と。映画製作者は「すべてを知っている必要がある」とも。
★大学では医学を学んだが医師の道は選ばなかった。もし選んでいたら良い医者になったろうと思いますが、映画ほど好きではなかったのです。「映画産業とは無縁の家族で学校もありませんでしたが、それでも週末には映画館に行きました。最初に映画を見たのは2歳のときで、幼いころから映画を見てよかったことは夢をもつことができたことでした。夜中には夢で映画の中に入り込んでいました。しかし映画を作れるなんて思いもしませんでした。偶然にも自分の夢に専念することができた」とその幸運を語った。
★彼女が興味をもっている映画は、実験的な映画である。これはアクション映画を手掛ける妨げになっているわけではなく、ただ興味を感じないからだと締めくくった。
*フリア・フアニスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年05月07日
★映画祭も折り返し点を過ぎ、セクション・オフィシアル作品の第1回上映はほぼ終わったようです。海外からの招待客も映画祭を盛り上げているようです。作品紹介が後回しになっていますが、観客の反応を見て受賞に絡みそうな作品に絞ってアップします。
オリベル・ラシェのマラガ才能賞ガラ*マラガ映画祭2021 ⑮ ― 2021年06月08日 14:23
オリベル・ラシェ、感謝を込めてガリシアのポピュラーソングを仲間と歌う
★映画祭4日め6月6日、特別賞の一つマラガ才能賞―マラガ・オピニオンの授賞式がセルバンテス劇場でありました。今年のマラガはレベル1ということで移動が緩和されているせいか、授賞式にはオリベル・ラシェのほか『ファイアー・ウィル・カム』でゴヤ新人女優賞を受賞したベネディクタ・サンチェスも出席、監督に促されてガリシアのポピュラー・ソングに合わせて、カンヌ映画祭でも披露したダンスを踊ったようです。楽器はパンデロという大型のタンバリンのみ、監督と友人ダビデ・サルバド、ダニエル・パルドのトリオ、アラブの影響を受けている曲ということでガリシア語とアラビア語で歌った。「気分が良くてハッピーだったら、みんなで歌おうよ」、ガリシアの故郷オス・アンカレスからマラガに来る車中でリハーサルしながら来たそうです(一部分ですがYuoTubeで愉しめます。あの物静かなラシェが別人のようです)。ガリシアからアンダルシアという道程は、ほぼスペインを縦断したことになります。
(トロフィーを手に受賞スピーチをするオリベル・ラシェ、後方右が友人たち)
★『ファイアー・ウィル・カム』の監督は、自分の映画は谷間に暮らす人々とその家族から生まれたと吐露しました。「至高を求めて作品を作っています。何故なら私の心底は少しも変わっていないからです。私の第一歩は小さなものでしたが、生命をもっていると思います」、またマラガ映画祭が自分の仕事を評価してくれたことを感謝した。この10年間でたくさんの賞を頂きましたが、いつも同じということではなかった。成功や失敗の概念は時代によって異なっていたからです。自分は常に周辺で暮らす人間だが、マラガに来られて素晴らしかった、とスピーチしたようです。
(監督とベネディクタ・サンチェス、マラガFFのフォトコール)
多面体のラシェ――映像作家、社会文化活動家、そして農村開発促進者
★授賞式に先だって、セルバンテス劇場のロッシーニ・サロンで恒例のミーティングが行われた。インタビュアーのフアン・アントニオ・ビガルは「マラガ才能賞は映画製作に関わる若い才能がこれからも創作活動を続けられるよう後押しする賞」と定義した。流行の言葉で言うなら持続可能な創作への招待状です。オリベル・ラシェがもつ「独特の世界観と、芸術的表現におけるコミットメント」を讃えた。ラシェ監督は現在田舎暮らし、次回作の脚本の完成も終盤に来ている。並行して撮影地探しのためモロッコとモーリタニアを行き来しており、撮影資金を得るためのリストを作り始めたと語った。同時進行でTVシリーズの準備をしており、現在の住居でもある、かつて祖父母が暮らしていた家のあるオス・アンカレスでの撮影が予定されている。
★アンカレスの社会文化的なプロジェクトについては、自然、ルーツ、家族の価値観、田舎暮らしのシンプルさが自分の映画にとって重要な要素であり、それとリンクしていること、「私の映画はシンプルさの集合体から生れ、複雑な世界のなかで小さな存在に感じますが、気分は良くなる」、親密な眼差しをもったラシェの仕事は、「自然と結びつきながら円環を閉じることで社会的な証言者の価値」をもっているとインタビュアー、「あなたの映画には、小さなときからアンカレスの野原で遊んでいた少年の雰囲気が残っている」ともビガルは言い添えた。ガジェゴの監督は、自分の映画は小さいときからの美と脆さを捉えようとしている、「自然を観察していると、自分が小さく思える」と応えた。
(ビガルのインタビューを受ける監督、セルバンテス劇場のロッシーニ・サロンにて)
「見るひとをその本質と結びつける」物語を語りたい
★ラシェは映画は、見るひとを本質的なものと結びつけ、彼らが求める視点を手助けできる物語を語るべきであると考えている。「映像作家の自由は視聴者が最も高く評価する」と強調した。自身を映像作家、風景作家と定義し、映像を心行くまで愉しむこと、反対に疵を引っかくようなことに興味があるとも語った。
★ミーティングとは別に多くのメディアからコメントを求められている。どの映画祭もマラガも含めて覇権主義的だが、雨の多い荒々しい北の国から来ると、温暖なマラガは美しく人々がゆったり接してくれるのが気に入ったようです。現在のスペイン映画についての質問には、コメントできない。と言うのも実際にそれほどたくさん観てるわけではないからだと。『ファイアー・ウィル・カム』の成功以来、行く先々で人々から「次回作はどんな映画?」と訊かれるが、「私は監督だったことを忘れていました」と。そろそろキッチンのコンロに火入れをしなければならない時期に来ている。上述したように次回作の脚本は脱稿しているようです。ゆっくりペースの監督、完成するのは何年先かなぁ。下記写真提供のCADENA SERは、マドリードに本部を置くラジオ局。
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