シモン・メサ・ソトの「Un poeta」審査員賞*カンヌ映画祭2025「ある視点」 ― 2025年06月06日 11:04
シモン・メサ・ソトの第2作「Un poeta」が審査員賞

(左から、編集者リカルド・サライヴァ、製作者マヌエル・ルイス、シモン・メサ監督、
ウベイマル・リオス、撮影監督フアン・サルミエント、製作者カタリナ・ベルクフェルト、
5月20日、フォトコール)
★ラテンアメリカに「ある視点」の大賞審査員賞をもたらしたのが、コロンビアの監督シモン・メサ・ソトの「Un poeta」(ドイツ、スウェーデン合作)です。作品紹介で述べたようにホセ・ルイス・ルヘレスの「Alías María」以来、10年ぶりのことになります。詩人としては大成できなかったが、若い才能を育てることに生きがいを感じている中年教師オスカル・レストレポのメタ・サティラ。キャリア紹介はカンヌ映画祭2016短編部門に「Madre」がノミネートされた折りアップしていますが、1986年メデジン生れ、アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション卒、奨学金を得てロンドン・フィルム・スクール映画監督博士課程で学んでいる。
*「Un poeta」の紹介記事は、コチラ⇒2025年05月14日
*「Madre」作品 & キャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年05月12日
* 長編デビュー作「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日

(スタッフ&キャスト、レッドカーペットにて)
★前回の作品紹介の段階ではキャストについて情報が入手できませんでしたが、主役二人は本作で俳優デビューしたようです。監督曰く、オスカル・レストレポのキャラクターを作るために、自分の家族や教授仲間たちからインスピレーションを得た。内気で高尚だがアルコールとノスタルジーに浸っている人々です。プロの俳優の必要性を確信していましたが、そうすると映画が重たくなるだろうと考えていました。そんなとき偶然にも、友人が彼の叔父さんがドンピシャリだと推薦してくれたのが、カメラの前に立ったことなど全くないアマチュア、教員生活30年、54歳の教授ウベイマル・リオスだった。第一印象は主人公とはイメージと違っていたが、結果的には彼と一緒に仕事をすることになった。

(メサ監督と監督の分身でもあるオスカルを体現したウベイマル・リオス)
★上映される日まで「カンヌ、カンヌと騒がれても」リオスは少しも実感が湧かなかった。しかし上映後その「素晴らしさ」を実感することになった。登場人物は「とても気高く、ノーブルな人物、とても気に入ってしまった。私自身も詩が大好きなんです」とリオスはカンヌで語っている。オスカル役は人選に難航したが、女学生ユレディ(ユルレディ)は簡単に決まった。キャスティングに学校回りをしていたときにレベッカ・アンドラーデに出会った。こちらも演技の経験はなかったが、「演技に対する勘の鋭さが可能性を感じさせたので即決した」と監督。カンヌには参加しなかったようです。

(レベッカ・アンドラーデ、フレームから)
★「これは私の個人的な映画です。詩人は私自身なのです。長年コロンビアで映画を作りたいという映像作家としてのフラストレーションを描いています。勿論、映画を撮りたいと夢想するだけでできないでいる他の教師のようにはなりたくなかった」と製作の意図を語っている。「コロンビア人独特のユーモアやエモーションを取り入れ、どこかパンク的な、へんてこだが同時に美しくもあるもの、この映画は私たちコロンビア人についての物語、私たちの矛盾を心を込めて、批判も込めて語りました」とも。Cineuropaは、「メサ・ソトの才能を示した力ある模範例、慎み深い視点と独特のユーモアを込めて、主人公のフラストレーションや抵抗をとらえることができた」と評している。
★製作者については前回簡単に紹介していますが、興奮も冷めやらぬガラの翌日、シモン・メサ監督と撮影監督のフアン・サルミエント・G .(1984)が、「CAMBIO」のインタビューを受けた記事から、二人が映画について同じビジョンを共有していることが見てとれる。サルミエントはメサのデビュー作「Leidi」(14)からコラボしている。「フアンはほとんど家族同然、多くの場合ごちゃごちゃ言う必要がないんだ」と、以心伝心の間柄であることを強調する監督は、それは二人が「映画に対して同じビジョンを持っているからだと思う」と述べている。今回スタイルを変えるにあたっても、「プロセスは流動的だったが、彼が要求したことを話し合いながら私たちは決めました」と応えている。

(製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、監督、フアン・サルミエント、ガラにて)
★インタビュアーの「主役が女性から男性に変わったことが関連しているか」という質問には、「それはあまり関係ない。変化は私の関心が男性のジレンマを掘り下げることに関係している。私たちは芸術の重要性と衝撃について個人的に多くの問題に直面している。特に芸術的なビジョンを実現する上での経済的な圧力を前にしている」と監督。この映画は「シモン個人の危機を反映しているか」という質問には「イエス」と即答している。「年齢の危機、芸術的ビジョン、経済の安定、映画を作り続けるために欠くことのできない頑固さをどうやって維持していくのか」と吐露している。

(主人公オスカルは監督のアルターエゴ、5月20日)
★コロンビア人特有の文化的なユーモアがふんだんに盛り込まれているようだが、ローカルだけでなくインターナショナルにも理解できるようにした。観客がアクセス可能なしっかりした価値をもった映画を作ることを目標にしたとコメントしている。過去のコロンビア映画から影響を受けたものはないが、「ズームのカメラを使用したアメリカのジェリー・シャッツバーグが撮った70年代の映画に影響を受けた」と。具体的に作品名は挙げなかったが、第26回カンヌ映画祭1973のパルムドールを受賞した『スケアクロウ』などを指しているのだろうか。1970年、フェイ・ダナウェイとタッグを組んだ『ルーという女』でデビューした監督、検索したら97歳でご健在でした。フランスのピエール・フィルモンのドキュメンタリー『ヴィルモス・ジグモンドとの緊密な出会い』(16)に出演している。
★2021年の長編デビュー作「Amparo」から撮影監督だけでなく製作も手掛けるようになったフアン・サルミエントは、監督から渡された脚本に目を通して直ぐ「変化を感じた」と語っている。「最初に何を求めているかがはっきりすると、自然に問題が浮きあがってくる。視点は既に充分だった。仕事のやり方は、調和が取れてくるとだんだん落ち着いてくる」と語った。また撮影には本物らしさのタッチとパンクを醸すよう80年代のドキュメンタリーに影響を及ぼした70年代の美学を選択した。「本物らしさとどぎつい美しさをわざと無頓着に反映させた美学に焦点を合わせたことで作品に魂を入れることができた」と語っている。16ミリを採用したのは、「過去のプロジェクトでは恒常的に資金不足で使いたくても使えなかったが、今回は経済的な問題がなかったので採用することができた」と応じていた。秋の映画祭上映を期待したい。
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点賞」受賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年06月01日 17:05
デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が「ある視点賞」の快挙

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」はラテンアメリカにとって大収穫の年でした。チリの若干30歳のディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」が最高賞の作品賞(副賞30.000ユーロ)、2席に当たる審査員賞にコロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」が受賞しました。このブログも既に十年を超えましたが、記憶を辿るかぎり初めてのことです。両作とも作品紹介記事をアップしておりますが、カンヌでのプレス会見記事から、詳細が分かるにつれ間違いも見つかる半面、疑問も解消されました。カンヌはほとんどがワールドプレミアなので情報に混乱があるからです。今回はセスペデスの作品賞受賞に絞ってアップいたします。
*作品紹介とセスペデス監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2025年05月12日

(参加したスタッフ&キャスト一同、レッドカーペットにて)
★受賞理由は、映画は「セスペデス監督の並外れた独創性や過酷さと感性に溢れています。世界レベルでのエイズの危機を語るのに、人間性の不在を描き、スクリーンに現れる登場人物を見ると、私たちの心は幸せに満たされます。生々しく力のある作品なのですが、楽しみにも溢れ、エネルギーを備えています」と、審査委員長モリー・マニング・ウォーカー(イギリスの監督、脚本家、撮影監督、『ハウ・トゥ・ハヴ・セックス』で2023年のグランプリ受賞者)が称賛しました。

(プレゼンターは審査員の一人アルゼンチンの俳優ナウエル・ぺレス・ビスカヤート)

(受賞スピーチをするセスペデス監督、リディア役のタマラ・コルテス、
ラ・フラメンコ役のマティアス・カタラン)
★監督を支えつづける製作者のジャンカルロ・ナシは「1000作を超える応募作から選ばれただけでなく受賞できたのは、ロッテリア(宝くじ)に当たったようなものです。国境を行き来すること数年がかりでした。ディエゴには転機になる作品、受賞はご褒美です」とコメント。軍事独裁政権を20年近く守ってきた不寛容なお国柄ゆえ、諸手を上げては喜べないでしょう。一部の人々にとっては不愉快で不都合な映画であり、カンヌなど「どこの国のお祭りですか」ですから。

(左から、パウラ・ディナマルカ、タマラ・コルテス、マティアス・カタラン、監督、
ペドロ・ムニョス、フランシスコ・ディアス、5月16日、フォトコール)
★他の人々と同じように愛し合ってどうしていけないのか、と立腹している人々と作った映画、監督がカンヌで語ったところによると、「私が生まれたころ、両親はサンティアゴの郊外でヘアサロンを経営していました。ところが働いていたゲイの美容師全員がエイズで亡くなってしまいました。そのことが母親に深く影響し、この病気に対して大きな恐怖心を抱くようになりました。私はエイズが恐ろしいという考えをもって育ったのです。しかし、大きくなるにつれ自分がゲイであると理解するようになると、世界が広がり始めました。私が輝く存在と見なす反体制派の人々に出会ったことが、私の視点を変えました。それがこの映画の最も重要な側面の一つだと思います。血縁はないが愛のある家族の創造を通じて、これらの人々がどのように生き延び、どのように生き残るために互いを助け合ったかを描くということです」と。

(セスペデス監督)
★一番の不安は、主人公リディアを演じるのが、11歳の女の子(タマラ・コルテス)ということだったそうです。しかし彼女は「樫の木のように強く、熱心で、安定して」おり、何度もテイクを撮らなければならない複雑なシーンでも1度で完璧に演じた。タマラの才能、技術にはとても感動したとも語った。クィアのコミュニティを統べる女族長のようなママ・ボア役のパウラ・ディナマルカはほぼアマチュアでしたが、知人のトランスジェンダーの女性に触発されてキャラクターを作り上げた。パウラの顔、自然な存在感、怒り、そして愛が「映画の本質を秘めた小瓶を満たしている」と絶賛している。悲劇を背負うには幼すぎるが、悲しんでばかりいるには成熟しすぎてしまった少女に、生き残るだけでなく抵抗することも教えた登場人物です。

(将来を思案する12歳の少女リディア、フレームから)
★ラ・フラメンコ役のマティアス・カタランは魅力的なプロフェショナルの俳優、主役を演じるのは今作が初めて、「彼はこのキャラクターに全てを捧げた」と監督、フアン・フランシスコ・オレアの「Oro Amargo」(24)、他TVシリーズ出演。ラ・フラメンコの恋人ヨバニを演じたペドロ・ムニョスもプロの俳優、「目と体を通して表現できる能力をもっており、信じられないほど強力」と監督。チリでは才能がありながらチャンスが与えられない演技者が多いとも述べている。ムニョスはグスタボ・メサの演劇学校「Imagen」で演技を学んだ後、2013年にチリのラス・アメリカス大学で舞台芸術の学位を取得、振付家でもある。チリの劇団「Ia re-sentida」の創設メンバーで、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジアなど国際的に活躍している。

(マティアス・カタラン、セスペデス監督、製作者ジャンカルロ・ナシ)
★ストーリーをアップしながら違和感のあった一つが、子供のリディアがどうして謎の病気をナビゲートするのかという疑問でした。ネタバレになりますが、ラ・フラメンコは恋人ヨバニの暴力で命を落としてしまう。全くの孤児になってしまった自身を守るため、恐怖や偏見、華やかな衣装の重みで崩壊しつつあるクィアのコミュニティを調べ始めるようです。予告編に現れるリディアは大人びていて12歳とは思えない。本作は寓話的なミステリーであるだけでなく、エイズ危機の解説、クィアの恐怖と欲望、社会的な圧力のもとでの愛の歪曲についてが語られるようです。
オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月29日 18:50
パルムドールは予想通りジャファール・パナヒの「Un Simple Accident」

(ジャファール・パナヒ、カンヌFF 授賞式、5月24日)
★今年のカンヌは「パナヒのためのカンヌ」と言われて、受賞は発表を待つまでもなく受賞は確実視されていたらしい。なんせ審査委員長はジュリエット・ビノシュですからね。これでジャファール・パナヒは三大映画祭の最高賞(金獅子、金熊)を獲得、グランドスラムを達成した。 反イランの監督作品が受賞したことでイラン外務省がたまりかねて抗議したとか、授賞式当日に自称「無政府主義者」のテロリストによる変電所放火で大規模停電が起きたりとか、映画祭も政治絡みで物騒になってきました。何はともあれ政治的心理ドラマ「Un Simple Accident」は受賞に値する作品であることに間違いなさそう、昨年よりよほどましか。
★グランプリは、誰が計測してるのかスタンディングオベーションが19分だったというヨアキム・トリアーの「Sentimental Value」(ノルウェー、仏、デンマーク、独)、審査員賞は、オリベル・ラシェの「Sirat」(西、仏)とマーシャ・シリンスキーの「Sound of Falling」(独)の2作品、監督賞はクレベール・メンドンサ・フィリオの「O Secreto Agente / The Secret Agent」(ブラジル、仏、独、オランダ)でした。男優賞(ワグネル・モウラ)の他、FIPRESCI賞も受賞して最多受賞作となりました。かつてのカンヌ1作1賞の原則は反故になっています。彼は2019年『バクラウ 地図から消された村』で審査員賞を受賞しています。
オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞

★星取表が星2つ(イマイチ)と4つ(イイね)に分かれ、賞に絡むのは難しいかなと予想していました。「リベラシオン」紙は星4つだったが、映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」と強力なメディアである「フィガロ」紙は星2つだった。しかし家族についての、喪失についてのロードトリップは多くの人の心に刺さったようで概ね好意的な評価でした。スタンディングオベーション同様当てになりません。

(審査員賞受賞のラシェ監督、5月24日)

(監督、セルジ・ロペス、ブルノ・ヌニェス、フォトコール)

(映画祭参加者一同)
★カルラ・シモンの「Romería」は無冠に終わりました。どちらかというと物語が分かりやすい分、好意的な評が多かったが、少しインパクトに欠けていたのではないでしょうか。「ガーディアン」紙、「スクリーン・インターナショナル」、「リベラシオン」、「ザ・ニューヨーカー」誌、「フィガロ」などは3星、「カイエ・デュ・シネマ」は2星でした。「ハリウッド・リポーター」誌はシモン監督にインタビューを試みているが、評価は公表しなかった。

(監督、製作者マリア・サモラ、新人リュシア・ガルシアとミッチ・ロブレス、
レッドカーペット)

(トリスタン・ウジョアと監督)
★シモン監督は妊娠8カ月目とかで大義そう、帰国したら「家でゆっくりしたい」と語っていた。ベルリン映画祭2022で『太陽と桃の歌』が金熊賞を受賞した折は、第1子をお腹に抱えていた。今年のカンヌはレッドカーペットでのスケスケの露出度の高いドレス、ボリュームのありすぎる長いトレーンが禁止されましが、間際だったこともあり控えのドレスがなかったり、着るものぐらい自由にさせてという勇敢な女性たちで、守られたとは言いがたい。リュシア・ガルシアのドレスもかなりスケスケですね。
★幼いころにエイズで両親を亡くしたシモンは、「両親の物語を再構築しようとすると、いつも痛みが走ります。家族の記憶の重要性、自分のアイデンティティをどのように形成するかについての映画です。他人を通じて自分のアイデンティティを作ることはできなくとも、創造を通じて発明することができる。映画はそのために存在し、存在しないイメージを創りだすことができる」とカンヌのインタビューで語った。長年苦しんできた家族のフラストレーションから解放されたのでしょうか。

(フォトコール、5月21日)

(カルラ・シモン、プレス会見にて)
*「Sirat」の作品紹介は、コチラ⇒2025年05月01/同年05月03日
*「Romería」の作品紹介は、コチラ⇒2025年05月08日
★次回は「ある視点」部門の作品賞受賞者、チリのディエゴ・セスペデス、審査員賞受賞者、コロンビアのシモン・メサ・ソトを予定しています。
ギジェルモ・ガロエの「Ciudad sin sueño」が脚本賞*カンヌ「批評家週間」 ― 2025年05月27日 15:06
インディペンデント賞のSACD脚本賞を受賞

★去る5月21日、第64回「批評家週間」の受賞結果が発表になり、スペインから唯一ノミネートされていたギジェルモ・ガロエ(本名ギジェルモ・ガルシア・ロペス)のデビュー作「Ciudad sin sueño / Sleepless City」(西=仏合作)がSACD(Sociedad de Autores y Compositores Dramáticos)が選ぶ脚本賞を共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベルと一緒に受賞しました(副賞5.000ユーロ)。授賞式は22日。ガロエはカメラ・ドールにもノミネートされていました。このような若い監督の地味な作品に多くの制作会社が資金援助をしていることに感動しますが、文化に敬意をはらう風土を羨ましくも思いました。ガロエ監督の短編「Aunque es de noche」はカンヌ映画祭2023短編部門のコンペティションでプレミアされ、翌年のゴヤ賞2024で短編映画賞を受賞しています。製作者は本作も手掛けるダビ・カサス・リエスコ、ジャスティン・ペックベルティ、マリナ・ガルシア・ロペスなどでした。新人の登竜門と言われる「批評家週間」のノミネートはデビュー作、または2作までが対象です。
*ゴヤ賞2024授賞式の記事は、コチラ⇒2024年02月14日

(受賞のお祝いを受ける監督、出演者たち、授賞式)
★10年前にカニャーダ・レアル地区を訪れて以来、毎年取材に通い、具体化してから完成までに6年かかった由。受賞スピーチでは「私は脚本賞を頂くために此処に立っていますが、この映画の脚本家は他に大勢います」と、誇りと尊厳をもって、その価値とレジェンドを支持するカニャーダ・レアルの人々の協力に謝意を述べました。EFEのインタビューにも「多くの人々が電気もなく暮らしています。生き方の喪失に直面している彼らに、多くの賛同が寄せられることを期待します」と語っています。ルイス・ブニュエルのメキシコシティのスラム街を舞台にした『忘れられた人々』(50)に重ねる批評家が散見されましたが、監督によると、タイトルをガルシア・ロルカの詩 ”Ciudad sin sueño” から採り、ブニュエルとは関係ないと応じています。

(ギジェルモ・ガロエ)
「Ciudad sin sueño / Sleepless City」
製作:Sintagma Films / Buena Pinta Media / Encanta Films / BTeam Prods / Les Valseurs /
Tournellovision / Ciudad sin sueño la película AIE
協賛 Filmin / MovisterPlus+ / RTVE / ICAA / マドリード共同体文化評議会ほか
監督:ギジェルモ・ガロエ
脚本:ギジェルモ・ガロエ、ビクトル・アロンソ=ベルベル
撮影:ルイ・ポサス
編集:ビクトリア・ラマーズ
美術:アナ・マリョ・サンギネッティ
セットデコレーター:ジョアナ・ジナート
衣装デザイン:イラチェ・サンス
メイクアップ:マルタ・ガルシア・マンサノ、マルタ・ガルシア・サンチェス
プロダクション・マネジメント:ダビ・デ・ラ・フエンテ、パコ・ウベダ、エドゥアルド・ボデガス
製作者:アレックス・ラフエンテ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、マリナ・ガルシア・ロペス、マヌエル・カルボ、ダビ・カサス・リエスコ(以上エグゼクティブ)、ジャスティン・ペックベルティ、アンヌ・ドミニク・トゥーサン、他
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、スペイン語、ドラマ、97分、配給権:国際はベルギーのベストフレンド・フォーエバー
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の第64回「批評家週間」にノミネート、SACDの脚本賞受賞
キャスト:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ)、ビラル・セドラオウィ(トニの友人)、ヘスス・フェルナンデス・シルバ(祖父)、ルイス・ベルトロ
ストーリー:マドリード郊外にあるヨーロッパ最大の不法定住地区カニャーダ・レアルに暮らす15歳のロマの少年トニの物語。スラムの住民は施政者からの立ち退きに直面しています。親友はフランスのマルセイユに引っ越すというが、屑鉄商のトニの家族は、祖父がどんな犠牲をはらってでも離れることを拒否しています。一方、両親は市から提供される住宅に移ることを希望しており、家族は二つに引き裂かれてしまっている。祖父を誇りに思っているトニは、祖父についていきたいが、取り壊しが直ぐ近くまで迫ってきている。夜が更けるにつれ電気の通っていない暗がりで、トニは不確かな未来に立ち向かうか、幼いころの伝説に満ちた世界にしがみつくかの選択を迫られる。活気に満ちた社会派ドラマ。

(スクラップ商の祖父と少年トニ)
★本作は、スペイン映画アカデミー・レジデンシアに選ばれ、ベルリナーレの脚本ラボ、トリノ・フィルム・ラボ、カンヌのシネフォンダシオン・レジデンシアの資金援助を受けて製作された。2023年、ICCAの発展プロジェクト10作の一つに選ばれ、600.000ユーロの援助を受けている。脚本共同執筆者のビクトル・アロンソ=ベルベル(バルセロナ生れ)は最初の段階から参加、監督作品としてドキュメンタリー「Clase valiente」(17、ガウディ賞ノミネート)を撮っている。撮影監督のルイ・ポサス(ポルト生れ)は、昨年のカンヌFF 2024で監督賞を受賞したミゲル・ゴメスの「Grand Tour」(ポルトガル、邦題『グランド・ツアー』)を手掛けている。

(撮影中のガロエ監督と撮影監督のルイ・ポサス)
★監督紹介:ギジェルモ・ガロエ(本名 Guillermo García López ギジェルモ・ガルシア・ロペス)、1985年マドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリードのコンプルテンセ大学視聴覚コミュニケーション卒、最初建築家を目指していたが、直ぐにオーディオビジュアルの世界に転向した。TVEでドキュメンタリー製作に従事した。最初の長編ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」(後述)を発表する。2020年、ジローナ芸術プリンセス賞を受賞している。
★ガロエ監督と言えば、先述した「Aunque es de noche」(15分)に尽きます。カンヌ映画祭を皮切りに多くの国際映画祭の受賞歴を誇っている。ゴヤ賞の他、サンセバスチャン映画祭サバルテギ-タバカレア部門ノミネート、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2024の短編賞と男優賞(主演のアントニオ・フェルナンデス・ガバレ)受賞、アルメリア映画祭2023の監督賞、イベロアメリカ短編FF主演男優賞(アントニオ・フェルナンデス・ガバレ)、フォルケ賞2023短編映画賞、メディナ映画祭撮影賞などをそれぞれ受賞している。この短編の延長線上にあるのが長編デビュー作である「Ciudad sin sueño」です。

(短編「Aunque es de noche」のポスター)
★2022年「Lo-Tech Reality」(米西仏合作、SF、8分)ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭2022、バレンシア・シネマ・ジュピター映画祭2023などでノミネート。ポルトガルのマリアナ・バルトロと共同監督したポルトガル映画「As Gaivotas Certam o Céu / Las gaviotas gortan el cielo」(仮題「空を切り裂くカモメたち」)は、カンヌ映画祭「監督週間」2023で正式上映された後、ビスタ・クルタVista Curt 2023ユース審査員賞などを受賞した。
★ドキュメンタリー「Frágil equilibrio」は、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭IDFA2016でプレミアされ、バジャドリード映画祭でスペイン・ドキュメンタリー賞を受賞したほか、エジンバラ、テッサロニキ、ヒホン、各映画祭で上映され、翌年のゴヤ賞ドキュメンタリー賞を受賞している。これは最近89歳で鬼籍入りしたばかりのウルグアイの元大統領「世界で最も質素な大統領」と慕われたホセ・ムヒカの機能不全の世界についての深い洞察が語られるドキュメンタリー。他共同監督作品、クララ・ラゴ、レティシア・ドレラ、イレネ・エスコラの3女優が、それぞれ大西洋の3つの場所を訪れる内省的な旅が語られるTVドキュメンタリー「Atlánticas」(18、3話)も撮っている。従って長編デビュー作とはいえ新人監督のイメージとはほど遠い円熟した作品になっているようです。
★キャスト紹介:アントニオ・フェルナンデス・ガバレ(トニ役)は、今回のカンヌには参加しなかったようですが、ガロエの「Aunque es de noche」では13歳のトニノ少年を演じている。そのほかはアマチュアのカニャーダ・レアルの人々。監督とアントニオの相互理解なくして本作は生まれなかった。ロベルト・ロッセリーニの『ドイツ零年』(48)の主人公エドムンド少年の絶望を彷彿させる、またはトニとグレーハウンドの愛犬との堅い絆を、ケン・ローチの『ケス』(69、公開1996年)の孤独な少年とケスと名付けられたハヤブサとの絆に、トニとその友人の関係をジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』(33、公開1946年)に出てくる寄宿学校の二人の少年の友情を思い出させるなど、多くの批評家の心を掴んだようです。祖父役のヘスス・フェルナンデス・シルバと、親友役のビラル・セドラオウィは、カンヌのフォトコールに参加していました。

(ほっそりしたグレーハウンドの愛犬とトニ)

(トニと「マルセイユに移住する」という親友)

(撮影中の監督とヘスス・フェルナンデス・シルバ)
★「批評家週間」の審査委員長がロドリゴ・ソロゴジェンということで何かの賞に絡むとは予想していました。「Screendaiiy」のジョナサン・ホランドはスラム街に暮らす人々への監督の「愛情に貫かれたまなざし、喪失、回復力、希望についての普遍的なメッセージを伝えている」とコメントし、そのほか「IndieWire」などの評価は概ねポジティブでした。
★パルムドールの結果発表もあり、オリベル・ラシェの「Sirat」が審査員賞を受賞しました。星取票が真っ二つに割れていたので、ダメかなと思っていました。他「ある視点」部門も、チリのディエゴ・セスペデスが最高賞の作品賞、コロンビアのシモン・メサ・ソトが審査員賞と上出来でした。当ブログも十年を超えましたが、こんなことは初めて、次回にアップを予定しています。
セバスティアン・レリオの新作「La Ola」カンヌプレミアに*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月21日 17:11
チリの政治的ミュージカル「La Ola」がカンヌ・プレミア部門で上映決定

★アカデミー賞2018国際長編映画賞を受賞した『ナチュラルウーマン』の監督セバスティアン・レリオの新作ミュージカル「La Ola / The Wave」が、カンヌ・プレミア部門にノミネートされました。ラライン兄弟の制作会社「ファブラ」が手掛けています。2018年にチリを席巻した女性に対する暴力に抗議する大衆デモにインスパイアされて製作されたミュージカル。音楽映画とは縁遠い印象のチリで生まれたことが興味深いですが、レリオはミュージックビデオを多数手がけています。この大衆デモはチリのフェミニスト運動を刺激し、女性の権利に関する憲法改正に繋がった。監督は「スペクタルと政治をミックスさせ、私たちが生きている政治的な不協和音を反映させようと、歌、ダンス、パフォーマンスを使って私たち全員に影響を与える緊急の問題を語るなど、ミュージカルというジャンル内で独自の働き方を見つけた。100人を超えるチリの若手アーティストを紹介できたことを誇りに思う」と「バラエティ」誌に語っている。主人公フリアに新星ダニエラ・ロペスを起用した。

(撮影中のセバスティアン・レリオ監督)
「La Ola / The Wave」
製作:Fabula / Fremantle / Participante
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:ホセフィナ・フェルナンデス、マヌエラ・インファンテ、セバスティアン・レリオ、パロマ・サラス
音楽:アニタ(アナ)・ティジュー、カミラ・モレノ、ハビエラ・パラ、マシュー・ハーバート
撮影:ベンハミン・エチャサレタ
美術:タチアナ・モーレン
キャスティング:エドゥアルド・パシェコ
特殊効果:フアン・フランシスコ・ロサス、オスカル・リオス・キロス
製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、セバスティアン・レリオ、(エグゼクティブ)ロベルト・ケッセル
データ:製作国チリ=米国、2025年、スペイン語、ミュージカル・ドラマ、129分、撮影地サンティアゴ、期間9週間、配給 FilmNation Entertainment
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025カンヌ・プレミア部門正式出品(2025年5月16日)
キャスト:ダニエラ・ロペス(フリア)、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナ、タマラ・アコスタ(秘書)、スサナ・イダルゴ(ピエダッド)、アマリア・カッサイ、フロレンシア・ベルナル(レオ)、レナータ・ゴンサレス・スプラリャ、エンツォ・フェラーダ・ロサティ、アブリル・アウロラ、ルカス・サエス・コリンズ、ロラ・ブラボ、パウリナ・コルテス、ティアレ・ルス、他チリのミュージシャン多数
ストーリー:ひたむきな音楽学生であるフリアは、大学のキャンパスで盛り上がっているフェミニスト運動に参加します。多くの仲間が受けている女性への嫌がらせや虐待に抗議しようと立ち上がったグループの取りくみに賛同しているからです。抗議デモの興奮の渦のなか、フリアは友人たちと踊ったり歌ったりすることで自分自身が受けた虐待の経験を振り返ります。彼女は思いきって自分の物語を共にしようとしているなかで、思いがけず抵抗する社会で変化を求める運動の中心人物になっていることに気づきます。


(フリア役の新人ダニエラ・ロペス)
★監督紹介:セバスティアン・レリオ、1974年アルゼンチンのメンドサ生れ、2歳のとき母親の故国チリに移住、父親はアルゼンチン人だが彼の国籍はチリ。監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。既に『ナチュラルウーマン』(17,原題「Una mujer fantástica」)や、19世紀の飢饉で荒廃したアイルランドを舞台にしたミステリー『聖なる証 あかし』(22、原題「The Wonder」)でキャリア&フィルモグラフィーは紹介しています。
*『ナチュラルウーマン』の主な作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年03月16日
*『聖なる証』の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2022年12月05日
*『聖なる証』の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月06日

(ダニエラ・ベガを配したスペイン語版ポスター)
★長編デビュー作「La Sagrada Familia」は養父の苗字カンポスでクレジットされている。サンセバスチャン映画祭2005でプレミアされ、その後、国際映画祭巡りをして国内外の受賞歴多数。ラテンビート映画祭2006で『聖家族』の邦題で上映された。本作の主人公は新作「La Ola」に出演しているネストル・カンティジャーナである。2作目が「Navidad」(カンヌ映画祭2009)、3作目「El año del tígre」(11)、4作目が国際的に多くの観客の共感を呼んだ「Gloria」(13)で、主演のパウリナ・ガルシアがベルリン映画祭で主演女優賞を受賞し、『グロリアの青春』の邦題で公開された。本作はジュリアン・ムーアをヒロインに2018年、米国で「Gloria Bell」としてリメイクされ、『グロリア 永遠の青春』として公開された。他に2017年、正統派ユダヤ教のコミュニティを舞台にした二人のレスビアンの信仰と性を描いた「Disobedience」(邦題『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』)、チリにオスカー像を運んできた『ナチュラルウーマン』、前作『聖なる証』、9作目となる「La Ola」となる。チリ映画としては字幕入りで観ることのできた幸運な監督の一人です。

(オスカー像を手にしたセバスティアン・レリオ)
★共同脚本家のマヌエラ・インファンテは、「私が大学の教師をしていたとき、約100人くらいの女子学生が本館を包囲しました。私は彼女たちから多くのことを学んだのです。そのときの経験を実際に取り入れました。フェミニストの蜂起の後に何が起こるかは、この映画の基礎の一部です」と回想している。レリオは「ポスト#MeToo 時代の相互合意、個人または集団の声の政治的可能性について話すというアイデアに魅了されている」。世界を変えることを決意した仮面の女性のバンドが酔わせる力を通じて、変化の緊急性と現状との衝突を探求している。
★ミュージシャン紹介:アニタ(アナ)・ティジューは、フランスのリール生れ(1977)、作曲家、ミュージシャン、俳優、ラテン・グラミー賞、TVシリーズ「La Jauría」(全16話、19~22)に女優としてエピソード5話に出演している。ハビエラ・パラは、ララインの『NO ノー』(12)、ゴンサロ・フスティニアノの「B-Happy」(03)を手掛けている。カミラ・モレノは「ファブラ」が最初にプロデュースしたTVシリーズ「Prófugos」(「逃亡者」26話、11~13)、ビデオクリップ「Camila Moreno: Millones」(09)作曲家、女優でもある。そして『ナチュラルウーマン』や『聖なる証』のマシュー・ハーバートが統率している。
★スタッフ紹介:パブロ & フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が2004年に設立した「ファブラ」は、世界的な制作、配給事業を展開しているフリーマントルとファーストルックと契約を結び、チリだけでなく資金不足に苦しんでいるラテンアメリカ諸国のシネアストたちに資金提供をして、ラテンアメリカで最も映画を量産している制作会社です。パブロ・ララインの監督キャリア&フィルモグラフィーについては度々アップしているので割愛します。今回は製作者としてどんな作品を手掛けているか紹介したい。チリは右も左も上流階級は保守的と揶揄されるお国柄ですが、ラライン家は上流階級に属し、チリでは知らない人はいないと言われる政治家一家です。若いシネアスト育成にも資金援助を惜しまないのは褒めてもいい。

(『グロリアの青春』主演のパウリナ・ガルシア)
★自作以外に手掛けた映画は、セバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』以下、「El año del tígre」、『グロリアの青春』、『グロリア 永遠の青春』、オスカル・ゴドイの「Ulises」(11)、マリアリー・リバスの「Joven y alocada」(12、『ダニエラ 17歳の本能』DVD)、チリの不寛容に見切りをつけてアメリカに移住してしまったセバスティアン・シルバの「Crystal Fairy y el cactus mágico」(13、『クリスタル・フェアリー』ラテンビート)、「Nasty Baby」(15)、セバスティアン・セプルべダの「Las Niñas Quispe」(13)は、ベネチア映画祭2013の「批評家週間」でプレミアされ、撮影監督のインティ・プリオネスが撮影賞を受賞するなど受賞歴多数。1974年にチリの高地で羊飼いをして暮らす三姉妹に起きた悲劇的な実話に基づいている。

(セバスティアン・シルバの『クリスタル・フェアリー』)
★『83歳のやさしいスパイ』でブレイクしたマイテ・アルベルディのドキュメンタリー「La memoria infinita」(23、『エターナルメモリー』)、続く彼女のフィクション第1作「El lugar de la otra」(24、『イン・ハー・プレイス』)、アクションものでは、アレクサンダー・ウィットの「Sayen: La ruta seca」(23、『サイエン 死の砂漠』)、「Sayen: La cazadora」(24、『サイエン 最後の戦い』)、2020年の新型コロナウイルス感染で身動きできなくなっていたときに手掛けた短編コレクション『HOMEMADE ホームメード』、ガスパル・アンティーリョの「Nadie sabe que estoy aqui」(『誰も知らない僕の歌』)をトライベッカ映画祭2020(オンライン上映)でデビューさせたことなどは、あまり知られていないと思います。アンティーリョはニュー・ナラティブ部門の監督賞を受賞しています。共同脚本家のホセフィナ・フェルナンデスが脚本を監督と共同執筆している他、「ファブラ」のTVシリーズを手掛けている。「ホームメード」にはレリオも参加しています。『エターナルメモリー』、『イン・ハー・プレイス』は、紹介記事をアップしています。
*『HOMEMADE ホームメード』の紹介記事は、コチラ⇒2020年07月12日
*「Nadie sabe que estoy aqui」の作品紹介は、コチラ⇒2020年05月11日

(マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』)
★2020年代から量産しているのがTVシリーズ、アントニア・セヘルスやダニエラ・ベガを主軸「La Jauría」(16話、19~22)、メキシコの「Señorita 89」(全8話、22~24)は、ミス・メキシコ・コンテストを巡るドラマ、「42 Días en la Oscuridad」(6話、22,『暗闇の42日間』)には、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナが味のある演技をしている。2015年のFIFA 汚職スキャンダルの根底にある実際の陰謀を探るコメディ「El Presidente」(16話、20~22、『腐敗のゲーム~エル・プレシデンテ』)、カリスマ的なスケーターである若い強盗の犯罪ドラマ「Baby Bandito」(8話、24、『ベビー・バンディートの信じられない話』)などがある。
★最新作はメキシコの「Familia de medianoche」(10話、24、『ミッドナイト・ファミリー 真夜中の救急隊』)は毀誉褒貶で、くだらないアメリカ製の医療ドラマよりよほど優れていると高評価の半面、インスパイアされたルーク・ローレンツェンのドキュメンタリー「Midnight Family」(19、『ミッドナイト・ファミリー』)を1作見るだけで充分という評もある。このドキュメンタリーは国際映画祭のドキュメンタリー部門を制覇している。ドキュメンタリーとTVシリーズを比較しても始まらないが、TVシリーズのだらだら引き伸ばしが癇に障る人にはお奨めできない。
★「ファブラ」の紹介が長くなりましたが、チリと言わずラテンアメリカで最も重要な制作会社です。ラライン兄弟とセバスティアン・レリオの共通項は〈威厳をもった不服従〉とでも言っておきましょうか。ラライン監督は、「El Conde」(23、『伯爵』)に続いて、世紀の歌姫マリア・カラスの晩年を描いた「Maria」がベネチア映画祭2024にノミネートされた。Netflix 作品だが日本語版はないようです。「9.11」以後のアメリカが舞台の新作「The True American」(英語)がアナウンスされている。

(パブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟)
シモン・メサ・ソトの「Un poeta」が「ある視点」に*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月14日 17:11
コロンビア映画「Un poeta」はシモン・メサ・ソトの長編2作目

★「ある視点」にノミネートされたシモン・メサ・ソトの「Un poeta」は、最初のアナウンスにはなく追加発表の中にありました。コロンビア映画がノミネートされるのは、2015年のホセ・ルイス・ルヘレスの戦争の不条理を描いた「Alias Maria」以来となります。コロンビア内戦中に女性兵士となったマリアの物語でした。話題になっていたハリウッド女優クリステン・スチュワートのデビュー作も同時にノミネートされました。20作を越えましたのでもう追加はないと思います。同じハリウッド女優のスカーレット・ヨハンソンもノミネートされていますので、今年はコンペティション部門よりこちらのほうが面白そうです。もともと「ある視点」のほうが大物監督がいないだけ意外性のある力作が多く、楽しみにしているシネマニアが多い。

(新作「Un poeta」の主人公オスカル・レストレポ役のウベイマル・リオス)
★シモン・メサ・ソトは、短編「Leidi」(16分、イギリス合作)がカンヌ映画祭2014のパルムドールを受賞しており、その節、作品&監督キャリアを紹介しています。また短編「Madre」(14分、スウェーデン合作)もカンヌにノミネート、長編デビュー作「Amparo」は、カンヌ併催の「批評家週間」にノミネートされ(女優賞受賞)、その後カルロヴィ・ヴァリ、リマ、イスラエル、トロント、サンセバスチャンなど各映画祭に出品され、着実に地歩を固めています。タイトルの「レイディ」も「アンパロ」もヒロインの名前です。タイトルが1語なのも歓迎です。
*「Leidi」の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2014年05月30日
*「Madre」の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年05月12日
*「Amparo」の作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日

(短編パルムドール受賞の「Leidi」)

(長編デビュー作「Amparo」)
「Un poeta / A Poet」
製作:Ocúltimo / Medio de Contención Producciones(コロンビア)/
Das kleine Fernsehspiel ZDF/ARTE /Ma ja de Fiction(ドイツ)/
Film i Väst / Momento Film(スウェーデン)
監督・脚本:シモン・メサ・ソト
音楽:マッティ・バイ
撮影:フアン・サルミエント G.
編集:リカルド・サライヴァ
キャスティング:ジョン・ベドヤ
製作者:フアン・サルミエント G.、マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、シモン・メサ・ソト(以上コロンビア)、(共同プロデューサー)カタリナ・ベルクフェルト、ヘイノ・デッカート(以上ドイツ)、デビッド・ハーディーズ、マイケル・クロトキェフスキ(スウェーデン)
データ:製作国コロンビア=ドイツ=スウェーデン、2025年、スペイン語、風刺ドラマ、撮影地メデジン、期間5週間、16ミリフィルム。配給権フランス Epicentre films、ワールド Luxbox
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025「ある視点」ノミネート(5月19日プレミア)、審査員賞を受賞。
キャスト:ウベイマル・リオス(オスカル・レストレポ)、レベッカ・アンドラーデ(ユレディ)、ギジェルモ・カルドナ、ウンベルト・レストレポ、マルガリタ・ソト、アリソン・コレア
ストーリー:詩に執着しているが詩人としての栄光を彼にもたらさなかった苦悩するオスカル・レストレポの物語。老いが近づきつつあるオスカルは、詩への執着も冷えて詩の追求に行き詰っています。しかし才能に恵まれながらも謙虚な10代の少女ユレディに出会い、彼女の才能を育てることに生きがいを見いだします。彼の日々に光が差し込んできますが、彼女を詩の世界に引きずり込むことは賢明なことではないかもしれません。

(オスカル・レストレポ役ウベイマル・リオス、ユレディ役レベッカ・アンドラーデ)
★スタッフ紹介:シモン・メサ・ソト(メデジン1986)、監督、脚本家、製作者。キャリア&フィルモグラフィーは、既に紹介ずみです。本作には監督の先輩でもあるコロンビア国立大学UNALの歴史学教授、映画テレビジョン学校でも教鞭をとっているマヌエル・ルイス・モンテアレグレ(ボゴタ1975、製作者、監督、歴史家)が参画している。さらに同大学の卒業生であるクリスティアン・ヌニェスとガブリエラ・クビリョスが参加している。ルイス教授によると、「脚本は深いエモーションと同じくらい笑いを誘うものにしたいと考えていました。シモンは確かなストーリーを組み立て、ビジュアル的には非常に慎重です」と指摘しています。もう一人の製作者フアン・サルミエント G.(1984生れ)は、撮影監督を兼ねていますが、デビュー作でも撮影を手掛けている盟友です。

(製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ)
★監督は、本作が非常に個人的なプロジェクトだったことをプレス会見で述べています。「コロンビアで映画を作るのは信じてもらえないほど難しい。デビュー作(「Amparo」2021年)の後、もう諦めようと思いました。私は50歳になった自分を想像すると、教師として生計を立て、実際には現在もそうして生活費を稼いでいますが、芸術における過去の理想化された記憶で生きのびている、そういう自分を想像しました」と。オスカル・レストレポは監督自身が投影されているようです。「しかし、芸術を内側から探求したかった。芸術とは何か、それが課す制限、それが要求する妥協は何か。芸術は高貴なものと思われがちですが、独立していても産業でもあります。特に映画では、観客が何を期待しているかを決定する市場があり、特にラテンアメリカ映画では、特定のパターンが繰り返されます。アーティストとして外部の要求に応えるか、あるいは自分を突き動かすものは何かという問いに答えねばなりません。本作は、業界という組織に対するある種の疲労感から、そしてまるでパンク調に感じられる気迫をもって、自由で形を成していないものを作りたいという切望から生まれた」と述べていました。(IndieWire 5月12日付)

(シモン・メサ・ソト)
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞しました。
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月12日 11:23
ディエゴ・セスペデスのデビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」には、チリの若手監督ディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、コロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」がノミネートされました。セスペデスはカンヌ映画祭2018短編部門で上映された「El verano del león eléctrico」(22分)でシネフォンダシオン賞を受賞しています。後者のメサ・ソト監督は、2021年カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に「Amparo」がノミネートされ、サンセバスチャン映画祭「オリソンテス・ラティノス」部門でも上映された。その節、作品並びに監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しているので、まずディエゴ・セスペデスからアップしたい。
*セスペデスのシネフォンダシオン賞の記事は、コチラ⇒2018年05月20日
*「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日
「La misteriosa mirada del flamenco / The Mysterious Gaze of the Flamingo」
製作:Quijote Films(チリ)/ Les Valseurs(仏)/ Weydemann Bros. GMBH(独)/
Irusoin(西)/ Wrong Men(ベルギー)
監督・脚本:ディエゴ・セスペデス
音楽:フロレンシア・ディ・コンシリオ
撮影:アンジェロ・ファッチーニ
衣装デザイン:パウ・アウリ
メイクアップ:アンドレア・ディアス、フランシスカ・マルケス
プロダクションマネージャー:カミロ・イニゲス
製作者:ジャンカルロ・ナシ、ジャスティン・ペックパーティ、(共同)ブノワ・ローラン、アンデル・サガルドイ、ヨナス&ヤコブ・ヴェイデマン、シャビエル・ベルソサ、他共同製作者
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ=スペイン=ベルギー、2025年、スペイン語、コメディ・ドラマ、104分、撮影地チリのサンティアゴ、アタカマ砂漠、クランクイン2024年5月20日
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025「ある視点」正式出品、カメラドールにノミネート、最高賞の作品賞を受賞。
キャスト:タマラ・コルテス(リディア12歳)、マティアス・カタラン(ラ・フラメンコ)、パウラ・ディナマルカ(ママ・ボア)、ペドロ・ムニョス(ヨバニ)クラウディア・カベサス、ルイス・デュボ、他
ストーリー:1980年代初頭のチリの砂漠、12歳になるリディアは荒れ果てた小さな鉱山の町で、愛情あふれたクィアの家族に見守られて暮らしています。しかし謎めいた未知の病気が町に蔓延し始めます。ある男性が別の男性に恋をすると一瞥しただけで感染するという噂です。リディアの優しくて母親のような兄アレショや彼のゲイの友人たちは、保菌者として町の恐怖の標的になります。リディアは憎しみと不寛容に悩まされた世界で、かけがえのない家族を守るためにホモフォビア俗説の探求に乗り出します。家族は彼女の唯一の避難所だからです。

(リディア役のタマラ・コルテス)
30年前のチリで起きた不寛容なバイオレンスを描く現代の神話
★未知の病気がかつて世界中を震撼させたHIVエイズであることが分かります。ハグなどもってのほか、握手しただけで感染すると怖れられました。無知がはびこり死亡率が100%と噂され、感染者への心的暴力が許された時代でした。チリのケースで言うと、保菌者への暴力が未だ顕著でなかったころに子供たちが学校で質問した。その答えの多くが無知からくるもので伝達の方法に問題があった。それで子供の視点を取り入れてストーリーにレアリティをもたせ、共感が得られるのではと考えた、とコメントしている。映画ではリディアの友達が出演している。チリでは長い軍事独裁政権の負の遺産が沈殿しており、現在でも多くの頭脳流失をもたらしている。

(「視線で感染するとでもいうの」と詰め寄るクィアの友人)

(感染しないよう目隠ししている?)
★監督紹介:ディエゴ・セスペデス、1995年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、脚本家、撮影監督。チリ大学で映画を学ぶ。アンドレア・カスティーリョの「Non Castus」(22分、ロカルノ映画祭2016スペシャル・メンション受賞)と「Bilateral」(16分、SANFIC 2017出品)の撮影を手掛ける。2018年まだ大学在学中に撮った短編「El verano del león eléctrico / The Summer of the Electric Lion」(22分)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン賞、サンセバスチャン映画祭パナビジョン賞、モロディスト・キエフ映画祭2019学生映画部門審査員特別賞を受賞する。サンダンス映画祭2019、ビアリッツ映画祭にもノミネートされた。2022年、フランスとの合作短編「Las criaturas que se derriten bajo el sol / The Melting Creatures」(17分)は、カンヌ映画祭、トロント映画祭に出品された。製作をジャンカルロ・ナシとジャスティン・ペックパーティが手掛けている。

(ディエゴ・セスペデス監督)

(短編デビュー作「El verano del león eléctrico」の英語版ポスター)
★本作制作の経緯は、2019年にセスペデスがシネフォンダシオン・レジデンスに参加して製作の土台を練る。翌年のサンセバスチャン映画祭の期間中、イクスミラ・ベリアクにも参加、トリノ・フィルムラボでTFL プロダクション賞を受賞、副賞として50.000ユーロの製作助成金を受け取ることができた。翌年のサンダンス・インスティテュートの製作者サミットに参加、フランスの制作会社「Les Valseurs」 の協力が報じられ、2024年にはドイツの制作会社「Weydemann Bros. ヴェイデマン・ブラザーズ・フィルム」の共同製作が決まった。初めにシネフォンダシオン・レジデンスありきでした。どこの映画祭も一度受賞すると、後々も面倒をみてくれるようです。多分イクスミラ・ベリアクにも参加しているのでサンセバスチャン映画祭にもノミネートされる可能性が高くなっている。
★キャストのうち、パウラ・ディナマルカは「Las criaturas que se derriten bajo el sol」に、ルイス・デュボは「El verano del león eléctrico」に出演している。最初のシナリオと完成版には結構違いがあり、例えばリディアの年齢も7歳から12歳までと幅がある。まだ正確な情報が入手できていないので、追い追い追加訂正していく予定です。
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭「ある視点」部門の最高賞である作品賞を受賞しました。
カルラ・シモンの新作「Romeria」*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月08日 20:06
「Romería」はカルラ・シモン「家族三部作」の完結編

★第78回カンヌ映画祭2025コンペティション部門ノミネート作品は、前回アップしたオリベル・ラシェの「Sirat」とカルラ・シモン(バルセロナ1986)の「Romería」の2作。ラシェ監督はカンヌの常連ですが、シモン監督は長編は初めてです。ただデビュー作『悲しみに、こんにちは』と2作目『太陽と桃の歌』が公開されているから、日本での認知度はシモンのほうが高いかもしれない。マラガ映画祭2023のマラガ才能賞を受賞したときのインタビューで、次回作「Romería」で「自分の家族についての三部作を完結します」と述べていた通りになりました。デビュー作で監督自身を、2作目で母方の家族を、そして今回の新作で父方の家族を語ります。6歳のときに両親を薬物依存のエイズで失うという複雑な事情から、監督を取り巻く大人たちの善意の嘘でフラストレーションを抱えながら育ちました。新作では『悲しみに、こんにちは』の少女フリーダは18歳になり、マリナとなって登場します。

(本作撮影中のシモン監督)
*『悲しみに、こんにちは』の紹介記事は、コチラ⇒2017年02月22日
*『太陽と桃の歌』の作品紹介記事は、コチラ⇒2022年01月27日
*マラガ映画祭2023マラガ才能賞受賞記事は、コチラ⇒2023年03月19日
*映画国民賞2023受賞記事は、コチラ⇒2023年06月12日

(第2作『太陽と桃の歌』)
★長編3作の他に短編数編を撮っており、なかでベネチア映画祭2022短編部門に出品した短編「Carta a mi madre para mi hijo」(25分、仮題「息子のために母に宛てた手紙」)は、新作に繋がっている印象を受けていますが、どうでしょうか。マリナは母親が書き残した日記を携えて、父方の家族、祖父母、叔父叔母が暮らしている大西洋岸の港湾都市ビゴを目指して旅に出ます。時代は2004年に設定されています。マリナには本作でデビューを飾るリュシア・ガルシアを起用、ボーイフレンドになる若者ヌノにミッチ・ロブレス、若い二人をトリスタン・ウジョア、ホセ・アンヘル・エヒド、サラ・カサスノバス、ジャネット・ノバスなどベテラン演技派が固めています。製作者のメインは、昨年の映画国民賞2024を受賞したマリア・サモラ、デビュー作からタッグを組んでいます。
*マリア・サモラの映画国民賞受賞&キャリア紹介記事は、コチラ⇒2024年06月16日

(アンヘラ・モリーナ主演の「Carta a mi madre para mi hijo」)
★審査委員長ジュリエット・ビノシュ以下審査員全員の発表があり、間もなくカンヌ映画祭も開幕します。審査員のなかにメキシコのカルロス・レイガダス監督の名前がありました。
「Romería」
製作:Elástica Films / Romería Vigo AIE / Dos Soles Media / Ventall Cine / 3Cat
協賛Comunidad de Madrid / ICEC / RTVE / Movistar Plus+/ Netflix / Vodafone /
Xunta de Galicia 他
監督・脚本:カルラ・シモン
撮影:エレーヌ・ルヴァール
キャスティング:マリア・ロドリゴ
衣装デザイン:アンナ・アギラ
製作者:マリア・サモラ(Elástica Films)
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語・カタルーニャ語、フランス語、ドラマ、104分、撮影地ガリシア州ポンテベドラ県ビゴ、他ポンテベドラ各地、2024年8月20日クランクイン、ガリシア政府Xunta de Galiciaより300.000ユーロの助成金を得ている。公開スペイン2025年9月5日(予定)
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025コンペティション部門ワールドプレミア、第72回シドニー映画祭2025(6月14日)
キャスト:リュシア・ガルシア(マリナ)、ミッチ・ロブレス(ヌノ)、トリスタン・ウジョア、ホセ・アンヘル・エヒド、サラ・カサスノバス、ジャネット・ノバス、ミリアム・ガジェゴ、セリーヌ・ティル、ダビ・サライヴァ(ポルトガルの警察官)、セルヒオ・キンタナ(ポルトガルの警察官)、ミッチ・マルティン
ストーリー:少女時代に両親を亡くしたマリナは、まだ一度も会ったことのない父方の祖父母が暮らしている大西洋岸の港湾都市ビゴに行かねばなりません。大学の奨学金申請書の署名が必要だからです。父方の家族が自分を受け入れてくれるのか抵抗されるのか不安を抱え、母親が残した日記を携えて旅立ちます。叔父叔母やいとこたちとの出会いを通じて、父の物語と父が母と共有していた愛を繋ぎ合わせようとしますが、マリナの出現は長いあいだ封印していた若い夫婦の薬物問題の辛い記憶を呼び起こし、家族が秘密にしていた恥を掻き立ててしまいます。優しさを蘇らせ、過去に結びついた言葉にならない傷を癒しながら、マリナはほとんど覚えていない両親の断片的で、しばしば矛盾する記憶を繋ぎ合わせます。いとこヌノとの10代の恋が彼らとの繋がりを可能にするでしょうか。

(マリナとヌノ)
「ロメリア」はカルラ・シモンのルーツを探す巡礼物語
★時代は2004年、ヒロインのマリナは18歳という設定(1986年生れの監督と同年齢)、何度か訪れて気に入ったバルセロナとは反対側の大西洋岸に面したガリシアのビゴが舞台です。前述したように本作は監督の「家族三部作」の完結編です。ビゴでクランクインしたおり、「自分の家族にインスパイアされて撮った作品です。多くの対立やトラウマを抱えた複雑な家族ですが、深いところで愛と信頼、誠実が存在する家族です」と語っている。フィクションですが、マリナには監督が色濃く投影されており、「極めて個人的な」ストーリーになっているそうです。さらに撮影セットは20年前の雰囲気を出すように設え、両親の物語を再構築できるようにした。「この場所で自分たちは愛についての映画をつくっているのだ」とも語っている。
★「ロメリア」の物語は、ある意味で現在のシモン監督、過去の両親についての物語である。10年前のこと監督は、両親がビゴで過ごしていた人生を知りたいと思うようになった。それ以来、明らかにしようと手動カメラを手に度々ビゴにやってきた。シモンは母が近親者に宛てて書いた数通の手紙を見つけたことも後押ししたようです。「いつも物語には、何が真実で何が真実でないかという視点があります。だから物語はとても主観的なものです」、視点を変えると、突然別の顔が現れる。撮影中に面白いことがあった。ある婦人が近づいてくると、彼女の祖母の友達だった女性の娘さんだったことが分かった。「こんなことが起こるのは本当に感動的」と語っている。

(シモン監督、リュシア・ガルシア、ミッチ・ロブレス)
★郊外を散歩している隣人たちやオリーブ栽培都市にやってきた訪問客も見落とせないチャンスをくれる。撮影を始めようとすると、直ぐに通行人が通りを塞いでしまう。中を覗くためにセットの柵を越えてガードレールを押しのけテラスまで入ってしまう。「ここで何しているの?」「映画撮ってるの」の繰り返し。ある女性がタイトルの〈Romería〉に興味がわいたのか、撮影のために集められたミュージシャンたち、証明器具、飾りつけられた小旗、カウンターに並べられた食べ物や飲み物をチラッと見て、「ロメリアね、そうね、ぴったりだわ」と。この言葉は監督にとって、自身が生きてきた神秘的な旅を呼び出したのだが、今はマリナに引き継がれている。
*スペイン語の〈Romería〉は、聖地巡礼、巡礼祭の意味で、祝祭日には大勢の信者や観光客でごった返す。それとセットがそっくりだったからでしょう。スペインではサンティアゴの巡礼が有名ですが、ウエルバ州アルモンテのロシオ村で行われる「Romería de El Rocío」も有名です。聖週間が終わった50日目の精霊降臨ペンテコステスの日にエル・ロシオ礼拝堂でミサが行われる。従って年によって移動しますが大体5月下旬から6月初めになります。「Virgen del Rocío」(ブランカ・パロマ)に捧げる巡礼祭。この日を目指してスペイン各地から、または海外から、馬車や牛車、あるいは徒歩で、人口23.000人の村に100万人以上が訪れる。
★キャスト紹介:マリナ役のリュシア・ガルシアは、街路を散歩しているところを偶然目にして引き止め、キャスティングに来るよう誘った。とても素晴らしかった。決まった候補は未だいなかった。彼女にとっては冒険でした。実際こんなプロセスで決まることもあるんですね。ヌノ役のミッチ・ロブレスは、短編出演、ホアキン・オリストレル制作の高校を舞台にしたTVシリーズ「Hit」(20~22)に出ていると紹介されているが確認できなかった。

(リュシア・ガルシア)

(ミッチ・ロブレス)
★トリスタン・ウジョア(フランス1970)は、俳優、監督、フリオ・メデムの『ルシアとSEX』主演、アレハンドロ・アメナバルの『オープン・ユア・アイズ』、TVシリーズ『情熱のシーラ』でスペイン俳優組合2014助演男優賞、同『アスンタ・バステラ事件』でフォトグラマス・デ・プラタ2025俳優賞を受賞している。最近はTVにシフトしている。ジャネット・ノバスはハイオネ・カンボルダの『ライ麦のツノ』でゴヤ賞2024新人女優賞を受賞したばかりです。この映画の製作者も本作と同じ Elástica Films のマリア・サモラです。撮影はフランスのトップクラスの撮影監督エレーヌ・ルヴァールと文句なし。スペインではハイメ・ロサーレスとタッグを組んでいる。また今回「ある視点」ノミネートのスカーレット・ヨハンソンの「Eleanor the Great」も手掛けている。

(撮影中のトリスタン・ウジョア)

(エレーヌ・ルヴァールと監督)
オリベル・ラシュ「Sirat」の主役はセルジ・ロペス*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月03日 18:12
セルジ・ロペスはロマンチックコメディも得意!

(失踪した娘を探す父親と息子)
★前回オリベル・ラシュ「Sirat」の作品&監督フィルモグラフィーを紹介しました。今回は続編として、モロッコのサハラ砂漠で行方不明になった娘を探す父親を演じたセルジ・ロペスの紹介。セルジ・ロペスと言えば、ギレルモ・デル・トロのダークファンタジー『パンズ・ラビリンス』の冷酷無比なサイコパスの大尉ビダル(実際監督がロペスの悪役ぶりに惚れ込んで人物造形をしたという曰くつきのキャラクター)、ドミニク・モルのスリラー『ハリー、見知らぬ友人』の不気味な男ハリー、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』では、主人公の母親に横恋慕する悪徳町長、と日本で公開された映画からは悪役のイメージが強い。しかし、実はロマンチックコメディが得意で以下に示すように多くのコメディに出演している。またカタルーニャ語映画マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」では、小さな息子と凧あげをする優しい父親を演じて観客を魅了した。スペイン語は当たり前として、流暢なフランス語、英語と語学に堪能なことから3桁に上る作品に出演している。

(『パンズ・ラビリンス』のビダル大尉)

(マルク・レチャの「Un dia perfecte per volar」から)
★父親ルイス役のセルジ・ロペス、1965年12月22日バルセロナ生れ、映画、舞台、TV俳優。16歳で学業を止め、アマチュア劇団に入り俳優の第一歩を踏み出す。その後フランスに渡り、パリのジャック・ルコック国際演劇学校に入学、演技を学んだ。スペイン映画デビューは1991年、ヘスス・フランコの「Ciudad Baja(Downtown Heat)」、フランス語のオーディションに合格して、1992年マニュエル・ポワリエの「La Petite amie d'Antonio」でフランス映画にデビューしてミシェル・シモン賞を受賞している。その後も『ニノの空』など8作に起用されるというポワリエ映画の常連となる。『ニノの空』でセザール賞有望俳優にノミネートされた。主にスペインとフランスの両国でキャリアを築いている。
★共演した国際的な女優連にも目を瞠る、「Lisboa」ではカルメン・マウラ、『スカートの奥で』でビクトリア・アブリル、『堕天使のパスポート』でオドレイ・トトゥ、『シェフと素顔と、おいしい時間』でジュリエット・ビノシュ、『記憶の行方』でエンマ・スアレス、DV男を演じた「Sólo mía」でパス・ベガ、『熟れた本能』ではクリスティン・スコット・トーマス、そして『パンズ・ラビリンス』ではマリベル・ベルドゥとアリアドナ・ヒル、「La boda de Rosa」でカンデラ・ペーニャとナタリエ・ポサと共演している。

(マラガ映画祭2020「La boda de Rosa」のフォトコール)
◎主なフィルモグラフィー◎
1991「Ciudad Baja(Downtown Heat)」ヘスス・フランコ、デビュー作
1992「La Petite amie d'Antonio」(仏語)マニュエル・ポワリエ
1993年若手有望俳優に与えられるミシェル・シモン賞
1997「Western」『ニノの空』(仏語)マニュエル・ポワリエ
シッチェスFF 1997グランアンギュラー主演男優賞、セザール賞1998有望俳優ノミネート
1998「Caresses / Carícies」(カタルーニャ語)コメディ、ベントゥーラ・ポンス
1999「Entre las piernas」『スカートの奥で』マヌエル・ゴメス・ペレイラ
1999「Lisboa」クライム・スリラー、アントニオ・エルナンデス
マラガFF 1999主演男優賞
1999「Une liaison pornographique」『ポルノグラフィックな関係』(仏語)
フレデリック・フォンテーヌ
ベネチアFF 1999パシネッティ主演男優賞、サンジョルディ賞2001スペイン俳優賞
2000「Harry, un ami qui vous veut du bien」『ハリー、見知らぬ友人』(仏語)スリラー、
ドミニク・モル
セザール賞2001主演男優賞、ヨーロッパ映画賞2000ヨーロッパ俳優賞
2001「El cielo abierto」ロマンチックコメディ、ミゲル・アルバラデホ
シネマ・ライターズ・サークル2002主演男優賞、ブタカ賞2001カタルーニャ俳優賞
2001「Sólo mía」ハビエル・バラゲル
フォトグラマス・デ・プラタ2002映画俳優賞、ゴヤ賞2002主演男優賞ノミネート
2002「Dirty Pretty Things」『堕天使のパスポート』(イギリス映画)犯罪
スティーヴン・フリアーズ
2002「Decalage horaire」『シェフと素顔と、おいしい時間』(仏語)ダニエル・トンプソン
2003「Janis et John」『歌え!ジャニス★ジョプリンのように』(仏語)コメディ
サミュエル・ベンチェトリット
2006「El laberinto del fauno」『パンズ・ラビリンス』ダーク・ファンタジー、
ギレルモ・デル・トロ ファンタスポルト2007国際ファンタジー映画賞主演男優賞、
ブタカ賞カタルーニャ俳優賞、トゥリア賞主演男優賞
ゴヤ賞2007主演男優賞ノミネート、ほかノミネート多数
2007「La Maison」(仏語)マニュエル・ポワリエ
2009「Ricky」『Ricky リッキー』(仏語)コメディ、フランソワ・オゾン
2009「Map of the Sounds of Tokyo」『ナイト・トーキョー・デイ』イサベル・コイシェ
2009「Partir」『熟れた本能』(仏語)カトリーヌ・コルシニ
2010「Pa negra」『ブラック・ブレッド』(カタルーニャ語)ダークミステリー、
アグスティ・ビリャロンガ、ゴヤ賞2011助演男優賞ノミネート
2011「Le moine / El monje」『マンク 破戒僧』(仏語)ドミニク・モル
2012「Tango lible」『タンゴ・リブレ 君を想う』フレデリック・フォンテーヌ
2014「El Niño」『エル・ニーニョ』&『ザ・トランスポーター』ダニエル・モンソン
2015「A Perfect Day」『ローブ/戦場の生命線』(英語・西語・ルーマニア語)
シリアスコメディ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア
2015「Vingt et une nuits avec Pattie」『パティ―との二十一夜』(仏語)コメディ
アルノー・ラリュー & ジャン=マリー・ラリュー
2015「Un dia perfecte per volar」(カタルーニャ語)マルク・レチャ
アミアンFF 2015主演男優賞、ガウディ賞2016主演男優賞ノミネート
2016「La propera pell」『記憶の行方』(カタルーニャ語)
イサ:カンポ & イサキ・ラクエスタ
2018「Lazzaro Felice」『幸福なラザロ』(伊語)アリーチェ・ロルヴァケル
2019「La inocencia」(カタルーニャ語・西語)ルシア・アレマニー
2020「Josep」『ジュゼップ 戦場の画家』(アニメーション、ボイス、仏語)オーレル
2020「La boda de Rosa」コメディ、イシアル・ボリャイン
ゴヤ賞2021助演男優賞、フェロス賞、ディアス・デ・シネ賞、各ノミネート
2020「Rifkin's Festival」『サン・セバスチャンへ、ようこそ』(英語)ウディ・アレン
2021「Mediterráneo」『地中海のライフガードたち』ビオピックドラマ、マルセル・バレナ
第17回難民映画祭2022オンライン配信
2022「Pacifiction」『パシフィクション』(仏語)アルベルト・セラ
2022「La manzana de oro」コメディ、ハイメ・チャバリ
2023「La francée du poéte」『詩人の花嫁』(仏語・英語)ヨランド・モロー
2023「El viento que arrasa」(アルゼンチン・ウルグアイ)パウラ・エルナンデス
2025「La terra negra / La tierra」(カタルーニャ語・西語)アルベルト・モライス
2025「Sirat」オリベル・ラシュ
★邦題は公開、ミニ映画祭、DVDスルー、ネットフリックス、プライムビデオなどの配信による。TVシリーズ、「Mano de hierro」(24、8話)が『鉄の手』の邦題でネット配信されている。他にカタルーニャ語TV3シリーズ『あなたに出会っていなければ』(10話)にも出演している。年々父親役が多くなってきている。
◎主な関連記事◎
*『ブラック・ブレッド』の紹介記事は、コチラ⇒2023年04月14日
*『エル・ニーニョ』の紹介記事は、コチラ⇒2014年09月20日/11月03日
*「Un dia perfecte per volar」の作品&監督紹介記事は、コチラ⇒2015年10月01日
*『記憶の行方』の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月29日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日
*『サン・セバスチャンへ、ようこそ』の紹介記事は、コチラ⇒2020年07月06日
*「Mediterráneo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年12月13日
*『パシフィクション』の紹介記事は、コチラ⇒2022年10月13日
*「El viento que arrasa」の紹介記事は、コチラ⇒2023年08月16日
*「La terra negra / La tierra」の紹介記事は、コチラ⇒2025年03月20日
パルムドールを競うオリベル・ラシェの4作目「Sirat」*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月01日 10:38
オリベル・ラシェの新作はモロッコの砂漠を旅するロードムービー

★カンヌは5月の風に吹かれて到来する。第78回カンヌ映画祭2025が5月13日から24日の日程で開催されます。今年はオリベル・ラシェの長編4作目「Sirat」と、カルラ・シモンの3作目「Romeria」がパルムドールを競うコンペティション部門にノミネートされました。シモンの新作のテーマは、監督が6歳のときエイズで亡くなった父親の家族に会う旅を描いた極めて個人的なものということです。まず気になるラシェ監督の新作からアップしたい。前作『ファイアー・ウィル・カム』(19)の主言語はガリシア語でしたが、今作はスペイン語です。主役にカタルーニャ出身のセルジ・ロペスを起用、撮影はアラゴン州の氷点下のテルエルでクランクイン、クランクアップは酷暑のサハラ砂漠だった由、かなり挑戦的な撮影だったようです。撮影監督のマウロ・エルセは前作でゴヤ賞2020撮影賞を受賞しています。今回はスーパー16ミリで撮影された。

(撮影中のラシェ監督とセルジ・ロペス)
「Sirat / Trance en el desierto」
製作:4 A 4 Productions / El Deseo / Filmes da Ermida / Uri Films / Movistar Plus+
/ Los Desertores 協賛ICEC / ICAA / RTVE / TV3、他
監督:オリベル・ラシュ
脚本:オリベル・ラシュ、サンティアゴ・フィロルFillol
撮影:マウロ・エルセ
音楽:カンディン・レイ
キャスティング:マリア・ロドリゴ
プロダクションデザイン&美術:ライア・アテカ
衣装デザイン:ナディア・アシミ
メイクアップ&ヘアー:サイラ・エバ・アデン、ミカエラ・ピメンテル、ルシア・ソラナ
製作者:アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、ハビ・フォント、オリベル・ラシュ、オリオル・マイモー、マニ・モルタサビ、アンドレア・ケラルト、(エグゼクティブ)エステル・ガルシア
データ:製作国フランス=スペイン、2025年、スペイン語、ドラマ、115分、撮影地アラゴン州のテルエル、サラゴサ、モロッコのサハラ砂漠、期間2024年5月~6月、ワールド販売配給:The Match Factory、スペイン配給はBTeam Ficturesにより、5月31日マドリード、セビーリャでプレミアム、6月6日スペイン公開予定、8月14日ドイツ公開
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025コンペティション部門ノミネート、審査員賞・サウンドトラック賞・パルムドッグ賞・AFCAE賞スペシャルメンション受賞。ミュンヘン映画祭(7月3日)、カルロヴィ・ヴァリ映画祭(7月7日)
キャスト:セルジ・ロペス(ルイス)、ブルノ・ヌニェス(息子エステバン)、ジェイド・オウキッド(ジェイド)、リチャード・"ビギ"・ベラミー(ビギ)、ステファニア・ガッダ(ステフ)、ジョシュア・リアム(ジョシュ)、トニン・ジャンヴィエ(トニン)、アフメド・アブー(ベルベル人の羊飼)、アブデリラ・マドラリ(ガソリン販売人)、モハメド・マドラリ(同)他アマチュア多数
ストーリー:ルイスは息子のエステバンと数ヵ月前に失踪した娘マリナを探しに、モロッコの乾燥した幻想的な山塊で迷っている或るレイブに到着する。マリナはこのような過激なパーティの一つに参加したのち行方不明になっていたからです。娘に会えることを信じて、サハラ砂漠で開催される最後のフィエスタを求めてレイバーたちのグループの後を追うことに決める。社会の埒外で生きようとする人々の風変わりなロードムービーでもある。

〈Sirat〉はアラビア語の「まっすぐな道」というイスラム教の概念
★最初のタイトルは「After」だったので、記事によってはこちらで紹介されている。〈Sirat〉はアラビア語で「道」を意味する。ラシェ監督が繰り返し探求する超越的な緊張を反映して「まっすぐな道」というイスラム教の概念から影響を受けているらしい。監督によると、登場人物は「人生に挑戦し、過激で厳しい方法で試練に耐える。重要な質問が投げかけられ、内面を見つめ直し、人生の意味を考え、・・・生と死の境界が曖昧になるほどの極端な冒険を体験する」。「セルジ・ロペスは、ブルノ・ヌニェスとプロでない出演者のグループを伴って、この過酷な旅に出発します」とコメントしていますが、ラシェ映画はあれこれ予測しても始まりません、観るしかないでしょう。

(左ステファニア・ガッダ、国際的な俳優のグループ、フレームから)
★監督紹介:オリベル・ラシュ、1982年パリ生れ、5~6歳のころ家族でガリシア州のア・コルーニャに戻る。長編デビュー作は自身も出演している「Todos vós sodes capitáns / Todos vosotros sois capitanes」(10)、スペイン=モロッコ合作、モノクロ、78分、「監督週間」にノミネートされ、国際映画批評家連盟FIPRESCI賞受賞した。2作目「Mimosas」(16)が「批評家週間」でグランプリ受賞、3作目「O que arde / Lo que arde」(『ファイアー・ウィル・カム』)が、「ある視点」審査員賞受賞、4作目がコンペティション部門と全てがカンヌでプレミアされている。2作目と3作目は以下で作品紹介をしています。
*「Mimosas」の作品&キャリア紹介は、コチラ⇒2016年05月22日
*「O que arde / Lo que arde」の紹介記事は、コチラ⇒2019年04月28日/同年11月21日




★キャスト紹介:主役ルイスを演じるセルジ・ロペス(バルセロナ1965)のキャリア&フィルモグラフィーは、次回アップいたします。ルイスの息子エステバンを演じるブルノ・ヌニェスは、ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボが監督したTVミニシリーズ「La Mesías」(23、全7話のうち4話出演)でデビュー、ロジェール・カザマジョールが扮するエンリックの子供時代の好演が今回の抜擢に繋がりました。このシリーズは2023年のフォルケ賞、2024年のフェロス賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、スペイン俳優連盟賞、オンダス賞などを軒並み制覇した話題作でした。

(セルジ・ロペスとブルノ・ヌニェス)
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭コンペティション部門の審査員賞を含む4賞を受賞。
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