ルクレシア・マルテルの新作『サマ』*ラテンビート2017 ⑤2017年10月13日 12:32

              どうしてサマの人生を撮ろうとしたのか?

 

  

★ラテンビートのサイトでも、ルクレシア・マルテル『サマ』が、第90回米アカデミー賞外国語映画賞のアルゼンチン代表作品に選ばれたニュースが掲載されました。もう、そういう季節なのでした。それはさておき、久々のマルテル映画がラテンビートにやってきます。出身地のサルタを舞台に撮った「サルタ三部作」の最終作『頭のない女』(2008)以来ですから約十年ぶりです。今年のブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIZama が正式出品されたとき、記事にしようかどうか迷った作品。BAFICIは開催日がマラガとカンヌの両映画祭に挟まれているせいで優先順位が低い。アルゼンチンの作家アントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 Zama1956年刊)の映画化。最大の関心は、どうしてマルテルが自国の優れた小説の映画化という、後戻りのできない新しい分野に斬りこもうとしたか、です。

 

Zamaの表紙)

  

★『頭のない女』はカンヌでブーイングを受けた映画ですが、これは映画祭向きではなかったと思います。そもそも監督は上映後すぐのQ&Aは好きじゃないと語っています。彼女の映画は観客が咀嚼というか消化する時間が必要だからでしょうか。というわけかどうか分かりませんが、今年のカンヌは素通りしました。秋のベネチア映画祭には、コンペティション外でしたがエントリーされ、ベネチアには監督、ディエゴ・デ・サマ役のダニエル・ヒメネス=カチョ、共演者のロラ・ドゥエニャスが現地入りしておりました。製作国はアルゼンチン、スペイン、メキシコ、ブラジルを含めて9ヵ国、プロデューサーもエグゼクティブや共同、アシスタントを含めて総勢28人、まともじゃないが全部は紹介できない。ラテンビートでは追加作品だったから、カタログ掲載が間に合わなかったようです。東京会場バルト9では最終回上映、鑑賞後改めてアップするとして、今回はデータ中心にしました。

 

   

 (左から、ロラ・ドゥエニャス、監督、ダニエル・ヒメネス=カチョ、ベネチア映画祭にて)

 

『サマ』 Zama2017

製作:Rei Cine(亜)/ Bananeira Films(ブラジル)/ LemmingFilm(蘭)/ Canana(メキシコ)/

   El Deseo(西)/ KNM(スイス)/ Louverture Films(米)他

   協賛:INCAAICAACNC(仏)、Netherland Filmfund(蘭)、Programa Ibermedia 他

監督・脚本:ルクレシア・マルテル

原作:アントニオ・ディ・ベネデットの小説 Zama 

撮影:ルイ・ポサス

編集:カレン・ハーレー、ミゲル・シュアードフィンガー

キャスティング:ナタリア・スミルノフ、ベロニカ・ソウト

美術:レナータ・ピネイロ

衣装デザイン:フリオ・スアレス

メイクアップ&ヘアー:マリサ・アメンタ(メイク)、アルベルト・モッチア(ヘアー)、他

音楽:グスタボ・モンテネグロ

プロダクション・マネージメント:フカ・ディアス、パブロ・Trachter

録音:グイド・ベレンブラム Guido Berenblum、マヌエル・デ・アンドレス、ホセ・カルダラロ、他多数

製作者:ヴァニア・カタニ、ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、(エグゼクティブ)ガエル・ガルシア・ベルナル、アンヘリサ・ステイン、(共同)アルモドバル兄弟、エステル・ガルシア、パブロ・クルス、ルイス・ウルバノ、フアン・ベラ、他総勢28

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン、フランス、オランダ、USA、メキシコ、ブラジル、ポルトガル、レバノン、スイス、言語スペイン語、2017年。映画祭上映BAFICI、ベネチア、トロント、ニューヨーク、ロンドン、ムンバイ、釜山、各映画祭2017、他。撮影地はアルゼンチンの他、ブラジル、スペイン、フランス、メキシコ、ポルトガル、オランダ、米国など。公開アルゼンチン928日、スペイン2018126

 

キャスト:ダニエル・ヒメネス=カチョ(ドン・ディエゴ・デ・サマ)、ロラ・ドゥエニャス(ルシアナ・ピニャレス・デ・ルエンガ)、マテウス・ナシュテルゲール(ビクーニャ・ポルト)、フアン・ミヌヒン(ベントゥラ・プリエト)、ナウエル・カノ(マヌエル・フェルナンデス)、マリアナ・ヌネス、ダニエル・ベロネセ(総督)、カルロス・デフェオ、ラファエル・スプレゲルブルド(キャプテン・イポリト・パリィリャ)他

 

解説:ドン・ディエゴ・デ・サマは知らせを待ちつづけている。サマはスペイン国王により植民地統治のためパラグアイに派遣されてきていた。ブエノスアイレスへの異動信書を運んでくるはずの船を待ち侘び、地平線を見つめるのが日課だった。妻や子供たちと切り離され、時が永遠に止まってしまったかのような未知の世界で孤独を募らせていく。18世紀末の植民地時代を背景に、自分が思い描いていた世界が壊れそうになっていく男の物語。先述したようにアントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 Zama1956年刊)の映画化。

 

   

        (ドン・ディエゴ・デ・サマ、ダニエル・ヒメネス=カチョ)

 

  

                       (国王の信書を待ちわびるサマ)


  
  (サマに戯れる役人の妻ルシアナ、ロラ・ドゥエニャス)

 

★物語も時代背景も全く異なるのに、前作『頭のない女』とテーマは似ているかなという印象です。これも運転中に何かを轢いたかもしれないという或るきっかけを境いに、自分の世界が壊れそうになっていく女性の話でした。『サマ』も自分が思い描いていた世界が壊れていく男の人生を描いている。孤独のなかで「待望に捉えられた」男の苦しさを描いている。

 

★原作者のアントニオ・ディ・ベネデットは、1922年メンドサ生れ、作家、ジャーナリスト、映画脚本家。日刊紙「ロス・アンデス」の記者として出発している。アルゼンチンのジャーナリズムで仕事をしていて、軍事独裁と無縁であった人は僅かでしょうか。彼は1976324日の軍事クーデタ勃発当日に、ロス・アンデスの編集室で逮捕されている。197794日に釈放されたときには精神がずたずただったという。その後すぐにフランスに脱出、マドリードに移って6年間の亡命生活を余儀なくされた。名ばかりとはいえ民主主義になった1984年に帰国したが、198610月に63歳で死去している。ディ・ベネデットはドストエフスキーやルイジ・ピランデルロ(1934年、ノーベル賞受賞)に魅了されて作家の道に進んだという。アルゼンチンではボルヘスも評価していた作家だそうで、フリオ・コルタサル、エルネスト・サバトと並ぶようですが、それにしては翻訳書が目下のところないのが不思議です。『サマ』の英訳も最近出版されたばかりのようです。

 

(アントニオ・ディ・ベネデット)

 

ルクレシア・マルテルLucrecia Martelの簡単紹介。19661214日、アルゼンチン北部のサルタ州生れ。長編デビュー作が『沼地という名の町』(2001La Ciénaga)、NHKが資金提供しているサンダンス映画祭でNHK賞を受賞した。他にハバナ映画祭サンゴ賞(作品賞)、ベルリン映画祭アルフレッド・バウアー賞、アルゼンチンのクラリン賞など受賞歴多数。日本では一度だけNHKBS)で深夜放映された。2作目が『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004La niña santa)、カンヌ映画祭正式出品、クラリン賞、サンパウロ映画祭審査員賞など受賞している。本作は第1回ヒスパニック・ビート映画祭2004(現ラテンビート)で上映された。

  

   

          (ルクレシア・マルテル監督、ブエノスアイレスにて)

 

3作目がカンヌ映画祭でブーイングを受けたという『頭のない女』(2008La mujer sin cabeza)、しかし国内での評価は高く、アルゼンチン・アカデミー賞、シルバー・コンドル賞、またリマ映画祭審査員賞、リオデジャネイロ映画祭FIPRESCI賞などを受賞、ラテンビート2008で上映されました。プロデューサーが来日、質疑応答の機会がもたれたが、通訳が上手く噛みあわなかった。以上3作は、生れ故郷サルタが舞台だったことから、「サルタ三部作」といわれている。第4作が『サマ』です。短編、TVドキュメンタリーを除いています。

 

  

            (『サマ』撮影中のルクレシア・マルテル)

 

3作『頭のない女』については、現在休眠中のCabinaブログに感想をコメントしております。カビナさんのユニークな紹介記事は、コチラ

   http://azafran.tea-nifty.com/blog/2008/09/la-mujer-sin-ca.html

  

  

『ホーリー・キャンプ!』*ラテンビート2017 ④2017年10月07日 18:20

      大ヒット・ミュージカルの映画化、4年間で30万人が劇場に足を運んだ!

 

  

終了したばかりのサンセバスチャン映画祭2017Gala TVE」部門で上映されハビエル・アンブロッシハビエル・カルボ La llamada が、英題のカタカナ起こし『ホーリー・キャンプ!』の邦題で上映されます。サンセバスチャンでも少しご紹介しましたが、ラテンビート上映が決定したので追加いたします。201352Lara劇場でスタート、4年間で30万人の観客動員数を誇るロングラン・ミュージカルの映画化。劇場版も二人のハビエルJavierJavisハビス)が監督、脚本を手掛けました。二人ともTVシリーズに出演している俳優出身ですが、今回、揃って映画監督デビューしました。ハビエル・アンブロッシ(1984年マドリード)、彼のパートナーであるハビエル・カルボ(1991年マドリード)の息の合ったミュージカルが楽しめます

 

     

   (左から、アンブロッシ監督、カルボ監督、マカレナ・ガルシア、ベレン・クエスタ、

    アンナ・カスティーリョ、グラシア・オラヨ)

 

★キャスト陣は、『ブランカニエベス』のマカレナ・ガルシア、『オリーブの樹は呼んでいる』のアンナ・カスティーリョ、『KIKI~恋のトライ&エラー』のベレン・クエスタなどのぴちぴちガールズが出演します。グラシア・オラヨ(『気狂いピエロの決闘』)やセクン・デ・ラ・ロサ(『スガラムルディの魔女』)などアレックス・デ・ラ・イグレシア映画のメンバーが脇を固めています。いずれもラテンビートで上映された作品です他に舞台から引き続いて出演しているディオス(神様)役をイギリス出身のリチャード・コリンズ・ムーアが演じ、舞台同様人気を博しています。必要な時にはいつも居留守をつかう神様が目で見られるなんてね。

 

   La llamada Holy Camp !”) 2017 

製作Apache Films / Lo hacemos y ya vemos / Sábade Películas / スペイン国営放送TVE

監督・脚本:ハビエル・アンブロッシ & ハビエル・カルボ

音楽:Leiva

撮影:ミゲル・アモエド

編集:マルタ・ベラスコ

美術:ロヘル・ベリェス

衣装デザイン:アナ・ロペス・コボス

メイクアップ&ヘアー:シルビエ・インベルト、パブロ・モリリャス

プロダクション・マネージメント:ピラール・ロブラ

特殊効果:ラウル・ロマニリョス

視覚効果:ラモン・セルベラ、ギジェルモ・ゲレーロ 

製作者:ホセ・コルバチョ、キケ・マイリョ、ホルヘ・ハビエル・バスケス

   (エグゼクティブ)トニ・カリソサ、エンリケ・ロペス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2017年、ミュージカル映画、109分、サンセバスチャン映画祭2017Gala TVE上映(927日)、スペイン公開929日、ラテンビート2017上映(108日)

 

キャスト:マカレナ・ガルシア(マリア・カサド)、アンナ・カスティーリョ(スサナ)、ベレン・クエスタ(シスター・ミラグロス)、グラシア・オラヨ(ベルナルダ尼)、リチャード・コリンズ・ムーア(ディオス)、セクン・デ・ラ・ロサ(カルロス)、マリア・イサベル・ディアス、エスティ・ケサダ、他

 

プロット解説:セゴビアにある「ラ・ブルフラ」のキリスト教のキャンプ、最近当地にやってきたばかりのベルナルダ尼は、歌でこのキャンプを乗り越えたいと思っている。若いシスター・ミラグロスは疑問を抱え、まだ迷いが残っている。十代のマリアとスサナは「スマ・ラティナ」と呼ばれるグループに属していて、罰を受けてキャンプに参加していた。ところがある夜のこと、ディオスがマリアの前に現れてからというもの、事態は一変した。だってディオスはホイットニー・ヒューストンが大好きなのだ。

 

      というわけで、ホイットニー・ヒューストンに大枚をはたいた

     

★神様に授けられた声とも天使の声とも称されたホイットニー・ヒューストンのレパートリー以外のカントリーやウエスタンも登場するようです。彼女のレパートリーを使うことは、20122月に世界を駆け巡った突然の訃報にも関係があるようです。直接の死因は薬物の多量摂取によるとしても、本当の理由はほかにあることはファンならずとも知っています。彼女は落ち着ける自分の居場所がなかったのですよ。さて、劇場版は大成功したとは言え、映画化への道は結構大変だったようです。それは「ホイットニー・ヒューストンの曲の権利が高額だったためだが、映画化のために最初に獲得した。劇場版と同じように『オールウェイズ・ラヴ・ユー』は許可されたが、『ステップ・バイ・ステップ』は難しかった。作曲家がヒューストンでなく、アニー・レノックスだったからです」とアンブロッシ監督。何度も手紙で熱烈に交渉して、数か月後にやっと許可が下りたということです。若い人だけでなく大衆に受け入れられたのは、似非信心ぶらない、お説教くさくない、クリスチャンのミュージカルだったからで、三つの鍵は、ほとばしる熱意、エネルギー、歓喜だと。物語は誠実で、魅力的、強さ、感謝に満ちている。

   

     

   (ハビエル・カルボとハビエル・アンブロッシ、サンセバスチャン映画祭2017にて)

 

★劇場版は201352日、マドリードのララ劇場で初演され、予想外の大当たりに興行主も驚いたという。マドリードからパレンシア、バジャドリード、バレンシア、ソリアなど合計30都市を巡業して回り、メキシコにまで遠征しています。ブロードウェイに舳先を向けてオフ・ブロードウェイで始まったミュージカルが、スペインでここ数年間で最も成功した舞台の一つに仲間入りしたということです。劇場版では、既に数々の賞を受賞している作品ですが、映画版でも来年のゴヤ賞に早くも候補の噂が出ています。特にベルナルダ尼に扮して軽やかなステップと声を披露したグラシア・オラヨのノミネーションは当たらずとも遠からずかも。

 

★キャスト陣は劇場版で出演したメンバーだったので、新しいシーンも加味したとはいえ、脚本の筋そのものは熟知していた。半面、慣れからくる甘やかしを忘れさせねばならなかったとアンブロッシ監督。スペイン語以外の言語やカメラの移動を調整したり、劇場版のロジックを忘れさせねばならなかった。ジャンルが異なるのだから、当然といえば当然の話ですよね。それぞれ複数の俳優が交代で舞台に立った。アンナ・カスティーリョが『オリーブの樹は呼んでいる』(イシアル・ボリャイン)の撮影で、ベレン・クエスタがKIKI~恋のトライ&エラー』(パコ・レオン)の撮影で降板したりした。その都度、涙の「さよなら公演」は大入り満員、観客が広くもない舞台に駆け上がり、舞台がはねた後も通りに繰り出し、朝まで騒ぎは静まらなかった由。つまり30万人のなかには3回、4回と見に来てくれたリピーターがいたということでしょう。経済不況と失業者の苛々ストレスが爆発したのかもしれませんが、舞台を見た観客はみんな喜びを分かち合い、幸せな気分になれたのでしょう。映画も同じだといいのですが。

 

       

         (ベレン・クエスタ、アンナ・カスティーリョ、映画から)

 

     ハビエル・アンブロッシ監督とマカレナ・ガルシアは実の兄妹

 

★作品の誕生は、「クリスチャンのキャンプで生まれるレズビアンの愛の物語を語りたかったからだ」とカルボ監督。そして「二人ともニューヨークのアンダーグラウンドのミュージカルが大好きだったからだ」とアンブロッシ監督。2012年のホイットニー・ヒューストンの訃報、ワールドユースデー(青年カトリック信者の年次集会)がスペインで開催され、ローマ教皇が訪問、マリア役のマカレナ・ガルシア(アンブロッシの実妹)の『ブランカニエベス』でのゴヤ新人女優賞受賞など、ヒットの種はあったようです。

 

   

            (マリア役のマカレナ・ガルシア、映画から)

       

★とはいえ舞台と違って映画となると観客の規模が大きくなるから、「とても不安、舞台の失敗より映画の失敗が怖い」とカルボ、「同じことだよ、ハビ。信念をもって思い切って挑戦したんだから」ともう一人のハビ。最近アンブロッシがカルボに正式にプロポーズしたようです。公開したばかりのスペインでの批評家の評価はまずまず、ラテンビートの観客の評価はどうでしょうか。

 

サンティアゴ・ミトレの『サミット』などが追加発表*ラテンビート2017 ③2017年09月17日 17:19

                やっと上映作品の全体像が見えてきました!

 

★タイムテーブルはまだ穴あき状態で不完全ですが、これで上映作品はほぼ決定したのでしょうか。新たに追加されたなかに、サンティアゴ・ミトレの第3 La cordillera が、英題のカタカナ起こし『サミット』の邦題で上映されることになりました。カンヌ映画祭2017「ある視点」に正式出品された折りに、当ブログでは作品紹介をしております。リカルド・ダリンがアルゼンチン大統領に扮して「ラテンアメリカ・サミット」に出席、チリ大統領には『グロリアの青春』のパウリナ・ガルシア、メキシコ大統領には『ブランカニエベス』のダニエル・ヒメネス=カチョ、ダリンの娘に『パウリーナ』のドロレス・フォンシ、他にエレナ・アナヤ(『私が、生きる肌』)、エリカ・リバス(『人生スイッチ』)などなど、見た顔が勢揃いしています。

 La cordillera の作品紹介の記事は、コチラ2017518

 

        

     (サンティアゴ・ミトレ監督とアルゼンチン大統領のリカルド・ダリン)

 

★主役のリカルド・ダリンが今年のドノスティア賞(栄誉賞)を受賞するので、スペシャル・プロジェクションとして『サミット』が上映されことになっています。ほかにドノスティア賞の受賞者は、イタリア女優のモニカ・ベルッチと、ベルギー出身だが第二次世界大戦中フランスに避難、フランス国籍の若々しい89歳のアニエス・ヴァルダです。ベルッチは代表作ジュゼッペ・トルナトーレの『マレーナ』2000)、ヴァルダはカンヌ映画祭2017(コンペティション外)の観客を沸かせたドキュメンタリーFaces Places (Visages, Villages)が上映されます。ヴァルダと孫ほど年の違う若い写真家でアーティストのJRが、フランスの田舎を旅してまわるお可笑しくて哀しい上質のドキュメンタリー。カンヌ上映後のオベーションが永遠に続いたとか。日本ではいつ劇場公開されるのでしょうか。第65回ということもあってドノスティア賞には以上3人が受賞します。 

 

 

                   (ベルッチの代表作『マレーナ』のポスター)

 

 
  
(お茶目なアニエス・ヴァルダとJR、映画から)
 

 ★他に、ハビエル・アンブロッシハビエル・カルボ La llamada が、英題のカタカナ起こし『ホーリー・キャンプ』の邦題で上映されます。『ブランカニエベス』のマカレナ・ガルシア、『オリーブの樹は呼んでいる』のアンナ・カスティーリョ、『KIKI~恋のトライ&エラー』のベレン・クエスタなどのぴちぴちガールズが出演します。2013年に30万人の観客を集めたという大ヒット・ミュージカルの映画化。監督は二人ともTVシリーズに出演している俳優出身、今回、揃って監督デビューしました。ハビエル・アンブロッシ(1984年マドリード)、ハビエル・カルボ(1991年マドリード)の若い監督、グラシア・オラヨ(『気狂いピエロの決闘』)やセクン・デ・ラ・ロサ(『クローズド・バル』)などアレックス・デ・ラ・イグレシア映画のメンバーが脇を固めています。サンセバスチャン映画祭2017Gala TVE」部門で上映される。

 

 

 (ベレン・クエスタ、アンナ・カスティーリョ、マカレナ・ガルシア、グラシア・オラヨ)

 

 

(左から、マカレナ・ガルシア、ハビエル・カルボ監督、アンナ・カスティーリョ、

 ベレン・クエスタ、グラシア・オラヨ、ハビエル・アンブロッシ監督)

 

★サンセバスチャン映画祭関連では、エドゥアルド・カサノバ『スキン』カルラ・シモン1993、夏』が、「メイド・イン・スペイン」部門で上映されます。このセクションは既にスペインで公開されて人気の高かった作品が選ばれるようです。ラテンビートではエントリーされませんでしたが、当ブログで作品紹介をしたなかに、スペイン公開と同時だったアレックス・デ・ラ・イグレシア『クローズド・バル』、マラガ映画祭でリノ・エスカレラが審査員特別賞と脚本賞を受賞した No sé decir adiós や、同映画祭の「ZonaZine」部門の作品賞・監督賞をダブル受賞した新人エレナ・マルティン Júlia ist などが選ばれています。

 No sé decir adiós の記事は、コチラ2017625

 Júlia ist の記事は、コチラ2017710

 

ディエゴ・レルマンの第5作*サンセバスチャン映画祭2017 ⑤2017年09月03日 14:52

   オフィシャル・セレクション第2弾、アルゼンチンからディエゴ・レルマン

 

★今年のオフィシャル・セレクションにノミネートされた4作は、スペイン語2作、バスク語、英語が各1作ずつと、例年とは少し様相が異なります。うちスペイン語はマヌエル・マルティン・クエンカの El autor ディエゴ・レルマン Una especie de familia 2作だけです。ディエゴ・レルマンは20代の半ばにモノクロで撮った第1作『ある日、突然。』(2002Tan de reoente)で「鮮烈デビュー」したアルゼンチンの監督。レイトショーとはいえ劇場公開され、その奇抜なプロットに驚かされました。エントリーされた新作は第5作目になります。

ラテンビート2017でも『家族のように』の邦題で上映が決定された。

 

  

 

    Una especie de familiaA Sort of Family2017

製作:El Campo Cine(アルゼンチン)/ Bossa Nova(ブラジル)/ 27 Films Production(独)/

   Bellota Films(仏)/ Staron Films(ポーランド) 協賛INCAA

監督:ディエゴ・レルマン

脚本(共同):ディエゴ・レルマン、マリア・メイラ

撮影:ヴォイテク・スタロン

編集:アレハンドロ・Brodersohn

音楽:ホセ・ビリャロボス 

キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ

美術:マルコス・ぺドロン

衣装デザイン:バレンティナ・バリ

メイクアップ:ナンシー・Marignac

プロダクション・マネジメント:エセキエル・ラボルダ、イネス・ベラ

製作者:ニコラス・Avruj(エグゼクティブ)、ディエゴ・レルマン、他多数

 

データ:アルゼンチン=ブラジル=ポーランド=フランス、スペイン語、2017年、90分、社会派スリラー、ロード・ムービー。撮影地カタマルカ州、ブエノスアイレス、ミシオネス州、201611月初旬クランクイン、12月末アップ。トロント映画祭2017コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門上映98日、サンセバスチャン映画祭正式出品、アルゼンチン公開914

 

キャスト:バルバラ・レニー(マレナ)、ダニエル・アラオス(ドクター・コスタス)、クラウディオ・トルカチル(マリアノ)、ヤニナ・アビラ(マルセラ)、パウラ・コーエン(ペルニア医師)、他

 

プロット:ブエノスアイレスの中流家庭で育った38歳になる女医マレナのロード・ムービー。ある日の午後、ドクター・コスタスから直ちにアルゼンチンの北部に出立するよう電話が掛かってくる。待ち望んでいた赤ん坊の誕生が差し迫っているというのだ。マレナは逡巡しながらも、この不確かな旅に出立しようと決心する。行く手にはたくさんの罠が仕掛けられており、赤ん坊によってもたらされる予想外の高い代価や、自分が望んだものを手に入れるための限界はどこまでかを常に自問自答しながら、法にかなった道徳的な障害に直面する。私たちも新しい人生に立ち向かうマレナと一緒に旅をすることになるだろう。

 

★エグゼクティブ・プロデューサーのニコラス・Avrujによると、マレナは最近娘を亡くし夫とも別れている。母親になりたいが養子縁組のシステムが複雑で望みを叶えられない、という設定にした。養子縁組制度の欠陥という社会的問題にサスペンスの要素をミックスさせたドラマのようです。ミシオネス・ビジュアルアート研究所とアルバ・ポセ病院の協力を受けて撮影された。ミシオネスは北西をパラグアイ、北と東をブラジルと接している、アルゼンチンでも2番目に小さい州、パラナ、ウルグアイ、イグアスという大河が流れていて、河や密林の風景も映画の主人公のようです。 

   

   (赤ん坊を求めてミシオネスにやってきたマレナ役のバルバラ・レニー、映画から)

 

★デビュー作『ある日、突然。』前作 Refugiado も一種のロード・ムービーでしたが、本作でもヒロインはブエノスアイレスから北部を目指して旅をする。このラテンアメリカ映画に特徴的な「移動」は、たいていひょんなきっかけで突然やってくる。エル・パイス紙の記事によると、同じく金貝賞を狙う、ギリシャのアレクサンドロス・アブラナス Love me Not にテーマが類似しているという。あるカップルが若い移民女性を代理母として契約する。女性を彼らの瀟洒な別荘に招き、生活スタイルを教え楽しんでもらう。妻はある秘密を抱えているが表に出さない。夫が仕事に出かけた後、妻と女性は軽く飲んでドライブに出かける。翌朝、夫は妻が事故車のなかで焼死体となっていることを知らされる。大体こんな筋書です。両作に共通しているのは、これから生まれてくるはずの赤ん坊を待っていること、赤ん坊のメタファーに類似性があるようです。

 

★アレクサンドロス・アブラナス(1977、ラリッサ)は、第2Miss Violence が、ベネチア映画祭2013で監督賞(銀獅子賞)、フェデオラ賞(ヨーロッパ地中海映画)などを受賞している。ここでは深入りしませんが、Miss Violence もある秘密を抱えた少女の自殺をめぐる物語で、審査員や観客を魅了した。ディエゴ・レルマンと同世代の若手監督、ギリシャの次世代を担うだろう楽しみな監督です。Love me Not も賞に絡みそうな気がしますが、どうでしょうか。

 

 キャスト

★マレナ役のバルバラ・レニーは、アルゼンチン出身のスペイン女優、アルゼンチン弁を克服して、『私が、生きる肌』『マジカル・ガール』『エル・ニーニョ』などに出演、日本での知名度も高いほうかもしれません。抜群のスタイルを生かしてモデル、映画にとどまらず舞台にも意欲的に出演、二足の草鞋派です。

バルバラ・レニーの主な紹介記事は、コチラ2016215

 

  

             (赤ん坊を胸に抱くマレナ、映画から)

 

ダニエル・アラオスは、1962年コルドバ生れ。ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの監督コンビの第2作『ル・コルビュジエの家』(09)に初出演、不気味な隣りの男ビクトルに扮した俳優です。第3Querida, voy acomprar cidarrillo y vuelvo11)にも起用された。新作『笑う故郷』には出演しておりませんが、間もなく公開されます。クラウディオ・トルカチルは、1975年ブエノスアイレス生れ、公開作品では、パブロ・ヘンドリックの El Ardor14)に出演しています。ガエル・ガルシア・ベルナルがシャーマンに扮してジャングルでの撮影に臨んだ映画、新大陸にはタイガーは棲息していないのですが、『ザ・タイガー 救世主伝説』とまったく意味不明の邦題で公開されました。

『ザ・タイガー 救世主伝説』の記事は、コチラ20151218

 

   

       (打ち合わせをする製作者ニコラス・Avrujとダニエル・アラオス)

 

 スタッフ

ディエゴ・レルマン Diego Lermanは、1976年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台監督。産声を上げた324日が奇しくも軍事クーデタ勃発日、これ以後7年間という長きに及ぶ軍事独裁時代の幕が揚がった日でした。彼の幼年時代はまさに軍事独裁時代とぴったり重なります。体制側に与し恩恵を満喫し家族も少なからずいたでしょうが、レルマンの家族はそうではなかった。ブエノスアイレス大学の映像音響デザイン科に入学、市立演劇芸術学校でドラマツルギーを学ぶ。またキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョスの映画TV学校で編集技術を学んでいる当ブログでは、カンヌ映画祭2014「監督週間」に第4作目 Refugiado 選ばれたときに、キャリアとフィルモグラフィーの詳細を記事にしておりますが3年前になりますので、今回再構成して下記に付録としてアップしています。

 

   

               (ディエゴ・レルマン監督)

 

★第4作から撮影を手掛けているヴォイテク・スタロンWojtek (Wojciech) Staron(ヴォイテクは男子名ボイチェフの愛称)は、1973年生れのポーランド人、主にドキュメンタリー国際的に活躍している撮影監督です。なかでメキシコで脚本家として活躍しているアルゼンチンのパウラ・マルコヴィッチ長編デビュー作 El premio がベルリン映画祭2011にエントリーされ、スタロンは銀熊賞(芸術貢献賞の撮影賞)を受賞しています自分の少女時代を送ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に軍事独裁時代を少女の目線撮ったマルコビッチの自伝的要素の強い映画アリエル賞も受賞している

 

   

    (銀熊賞のトロフィーを手にしたヴォイテクスタロン、ベルリン映画祭2011

 

  

付録:ディエゴ・レルマンの長編フィルモグラフィー

2002 Tan de repente (アルゼンチン)『ある日、突然。』監督・脚本・プロデューサー モノクロ

2006 Mientras tanto(アルゼンチン)英題 Meanwhile 監督・脚本

2010 La mirada invisibleアルゼンチン==西『隠れた瞳』監督・脚本・プロデューサー

2014 Refugiado (アルゼンチン=ポーランド=コロンビア=仏)監督・脚本・プロデューサー

2017 Una especie de familia 省略

他に短編、TVドキュメンタリーを撮っている。

 

1Tan de repente ロカルノ映画祭銀豹賞、ハバナ映画祭金の珊瑚賞、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭銀のコロン賞、2003年にはニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭でも受賞するなど多くの国際舞台で評価されました。まだ20代半ばという若さでした、計算されたプロットにはアメナバルデビュー当時を思い出させました。ユーロに換算すると4万ユーロという低予算で製作された。

 

2Mientras tanto :アルゼンチン映画批評家協会賞にValeria Bertuccelli が主演女優賞(銀のコンドル賞)、クラリン・エンターテインメント賞(映画部門)にもBertuccelli が女優賞、ルイス・シエンブロスキーが助演男優賞を受賞しましたが、レルマン自身はベネチア映画祭のベネチア作家賞にノミネートされただけでした。「アルゼンチンの『アモーレス・ペロス』版」と言われた作品。『僕と未来とブエノスアイレス』(04、公開06)のダニエル・ブルマンがプロデューサーの一人。

 

3La mirada invisible 東京国際映画祭2010で『隠れた瞳』の邦題で上映された。映画祭では監督と主演女優フリエタ・シルベルベルクが来日しました。マルティン・コーハンのベストセラー小説Ciencias Morales2007エライデ賞受賞)にインスパイアーされての映画化。従ってタイトルも登場人物小説とは異なり、特に結末が大きくっていました。軍事独裁制末期1982年のブエノスアイレス、エリート養成の高等学校が舞台でしたが、国家主義的な熱狂、行方不明者、勿論フォークランド戦争は出てきませんが、この学校がアルゼンチン社会のアナロジーと考えると、その「見えない視線」に監視されていた社会の恐怖が伝わってくるという仕掛けがしてあった彼の作品の中で軍事独裁が顕著に現れているのが本作です。かつてブエノスアイレスが「南米のパリ」と言われた頃に建築された建物が高等学校として採用され、それ自体が絵になっています。

 

★第4 Refugiadoカンヌ映画祭2014「監督週間」にノミネーション。7歳のマティアスと母ラウラに起こったことがマティアスの無垢な驚きの目を通して語られる。父ファビアンのドメスティック・バイオレンスDVを逃れて、身重の母とティトを連れた息子は安全な避難場所を求めて都会を彷徨い歩く都会をぐるぐる廻るスリラー仕立てのロード・ムービー。

 

   

     (市内を逃げまわるマティアスと母親役のフリエタ・ディアス、映画から)

 

ディエゴ・レルマンのキャリア&フィルモグラフィーの記事は、コチラ2014511


『あなたに触らせて』あるいは『スキン』*ラテンビート2017 ②2017年08月20日 15:39

          末恐ろしいエドゥアルド・カサノバのデビュー作

 

  

               (ピンクのシャツで全員集合)

 

エドゥアルド・カサノバのデビュー作 PielesSkinsは、ラテンビートでは英題の『スキン』ですが、ネットフリックス『あなたに触らせて』として既に放映されています。ネットフリックスの邦題は本作に限らずオリジナル・タイトルに辿りつけないものがが多く、これも御多分に漏れずです。セリフの一部から採用しているのですが・・・。ネットフリックスの資金援助とアレックス・デ・ラ・イグレシアカロリナ・バングの制作会社Pokeepsie Filmsキコ・マルティネスNadie es Perfecto後押しで、1年半という新人には考えられない短期間で完成できた作品。新プラットフォームの出現でスクリーン鑑賞が後になるというのも、時代の流れでしょうか。なおカロリナ・バングはプロデュースだけでなく精神科医役として特別出演しています。

 

ベルリン映画祭2017パノラマ部門マラガ映画祭正式出品の話題作。デフォルメされた身体のせいで理不尽に加えられる暴力が最後に痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー。好きな人は涙、受けつけない人は苦虫、どちらにしろウトウトできない。

 

   PielesSkins)『スキン』(または『あなたに触らせて』2017

製作:Nadie es Perfecto / Pokeepsie Films / Pieles Producciones A.I.E.

   協賛The Other Side Films

監督・脚本:エドゥアルド・カサノバ

撮影:ホセ・アントニオ・ムニョス・モリナ(モノ・ムニョス)

編集:フアンフェル・アンドレス

音楽:アンヘル・ラモス

録音:アレックス・マライス

録音デザイン:ダビ・ロドリゲス

美術・プロダクションデザイン:イドイア・エステバン

メイク&ヘアー:ローラ・ゴメス(メイク主任)、オスカル・デル・モンテ(特殊メイク)

        ヘスス・ジル(ヘアー)

衣装デザイン:カロリナ・ガリアナ

キャスティング:ピラール・モヤ、ホセ・セルケダ

プロダクション・マネジャー:ホセ・ルイス・ヒメネス、他

助監督:パブロ・アティエンサ

製作者:キコ・マルティネス、カロリナ・バング、アレックス・デ・ラ・イグレシア、他

視覚効果:Free your mindo

 

データ:スペイン、スペイン語、2017年、コメディ、ダーク・ファンタジー、77分、ベルリン映画祭2017パノラマ部門出品、マラガ映画祭2017セクション・オフィシアル出品(ヤング審査員特別賞受賞)、ビルバオ・ファンタジー映画祭上映。配給ネットフリックス190ヵ国放映、スペイン公開69日、ラテンビート2017予定。

 

プロット:普通とは異なった身体のため迫害を受ける、サマンサ、ラウラ、アナ、バネッサ、イツィアルを中心に、周りには理解してもらえない願望をもつ、クリスティアン、エルネスト、シモン、後天的に顔面に酷い火傷を負い再生手術を願っているギリェなどを絡ませて、「普通とは何か」を問いかけた異色のダーク・ファンタジー。人は「普通」を選択して生まれることはできない。しかし人生をどう生きるかの選択権は他人ではなく、彼ら自身がもっている。ピンクとパープルに彩られたスクリーンから放たれる暴力と痛み、愛と悲しみ、美と金銭、父と娘あるいは母と息子の断絶、苦悩をもって生れてくる人々にも未来はあるのか。

 

キャスト

アナ・ポルボロサ:消化器官が反対になったサマンサ(Eat My Shit『アイーダ』)

マカレナ・ゴメス:両眼欠損の娼婦ラウラ(『トガリネズミの巣穴』『スガラムルディの魔女』)

カンデラ・ペーニャ:顔面変形片目のアナ(『時間切れの愛』『オール・アバウト・マイ・マザー』)

エロイ・コスタ:身体完全同一性障害、人魚になりたいクリスティアン(TVCentro mrdico

ジョン・コルタジャレナ:顔面火傷を負ったギリェ(米『シングル・マン』TVQuantico

セクン・デ・ラ・ロサ:異形愛好家エルネスト(『クローズド・バル』 Ansiedad

アナ・マリア・アヤラ:軟骨無形成症のバネッサ

ホアキン・クリメント:バネッサの父アレクシス(『クローズド・バル』)

カルメン・マチ:クリスティアンの母クラウディア(『クローズド・バル』『ペーパーバード』『アイーダ』)

アントニオ・デュランモリス’:クリスティアンの父シモン(『プリズン211』『月曜日にひなたぼっこ』)

イツィアル・カストロ:肥満症のイツィアル(『ブランカニエベス』『Rec3Eat My Shit

アドルフォ・フェルナンデス:(『トーク・トゥ・ハー』)

マリア・ヘスス・オジョス:エルネストの母?(『スガラムルディの魔女』『ペーパーバード』)

アルベルト・ラング:(『トガリネズミの巣穴』『グラン・ノーチェ』)

ハビエル・ボダロ:街のチンピラ(『デビルズ・バックボーン』)

ミケル・ゴドイ:2017年の娼館のアシスタント

特別出演

カロリナ・バング:精神科医(『気狂いピエロの決闘』)

ルシア・デ・ラ・フエンテ

マラ・バジェステロ:2000年の娼館経営者(『アイーダ』)

 

  監督キャリア&フィルモグラフィ

エドゥアルド・カサノバEduardo Casanova19913月マドリード生れの26歳、俳優、監督、脚本家。人気TVシリーズ Aída「アイーダ」(0514)に子役としてデビュー、たちまちブレークして232話に出演した。他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』や『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』、アントニア・サン・フアンの Del lado del verano などに脇役として出演している。

 

 

「アイーダ」に出演していた頃のカサノバ、ダビ・カスティリョ、アナ・ポルボロサ)

 

★監督・脚本家としては、2011年ゾンビ映画 AnsiedadAnxiety)で監督デューを果たす。この短編にはアナ・ポルボロサとセクン・デ・ラ・ロサを起用している。短編8編のうち、2014年の凄まじいメロドラマ La hora del baño17分)にはマカレナ・ゴメス、2015年のEat My Shit には再びアナ・ポルボロサが出演、長編 Pieles『スキン』のベースになっている。他に2016年にホセ・ルイス・デ・マダリアガをフィデル・カストロ役に起用して Fidel5分)を撮る。短期間だがハバナのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画学校でビデオクリップの制作を学んでいる。カサノバによるとキューバや独裁者たちや紛争対立に興味があるようです。「アイーダ」での役名は偶然にもフィデル・マルティネスだった。

  

      ("Eat My Shit"のイツィアル・カストロ、監督、アナ・ポルボロサ)

   

    

          (エドゥアルド・カサノバ、ベルリン映画祭2017にて)

 

         冒頭から度肝をぬくマラ・バジェステロの怪演

 

A: 物語はドール・ハウスのようにピンクに彩られた「愛の館」から始まる。マラ・バジェステロ扮する娼館の女主人は、「本能は変えられない」と客のシモンを諭す。先ず彼女の風体に度肝をぬかれる。シモンは妻クラウディアが無事男の子を出産したことを確認すると妻子の前から姿を消す。この男の子がクリスティアンです。この親子がグループ1

B: クリスティアンは身体完全同一性障害BIIDという実際にある病気にかかっている。四肢のどれかが不必要と感じる病気です。彼の場合は両足がいらない、人魚のようになりたいと思っている。彼のメインカラーはパープルである。このピンクとパープルが一種のメタファーになっている。 

   

                 (「本能は変えられない」とシモンを諭す娼館のマダム)

 

  

A: このプロローグには作品全体のテーマが網羅されている。娼館マダムのマラ・バジェステロの風体にも混乱させられるが、その病的な理念「美とノーマルが支配する無慈悲な社会秩序を支えているマヤカシ」を静かに告発している。

B: 深い政治的な映画であることがすぐ分かるプロローグ。ただ苦しむために生まれてくるかのような人々の存在が現実にある。

 

   

                   (人魚になりたいクリスティアンのエロイ・コスタ)

 

    

(息子の葬儀に17年ぶりに邂逅する、クラウディアのカルメン・マチとシモン)

 

A: シモンは身体的に普通でない女性が好きなことを恥じている。女主人が紹介するのが目が欠損している当時11歳というラウラにたじろぐが、ラウラに魅せられてしまう。シモンはラウラに2個のダイヤの目をプレゼントする。シモンにはアントニオ・デュランモリス、ラウラには『トガリネズミの巣穴』のマカレナ・ゴメスが扮した。

B: ラウラのメインカラーはピンク、時代は17年後の2017年にワープして本当のドラマが始まる。

A: ラウラに肥満症のイツィアルが絡んでグループ2となる。イツィアル・カストロは、カサノバ監督のお気に入りで短編 Eat My Shit15)にも出演している。

 

 

                   (シモンからダイヤの目をもらったラウラ)

 

 
 (ラウラのダイヤを盗んだイツィアル)

 

B: この短編を取り込んで、サマンサを中心にしたグループ3に発展させた。サマンサのメインカラーはパープルです。

A: サマンサ役のアナ・ポルボロサが長短編どちらにも同じ役で出演している。消化器官が反対、つまり顔に肛門、お尻に口とかなりグロテスクだが、ポルボロサの美しさが勝っています。カサノバ監督とポルボロサは人気TVシリーズ「アイーダ」の子役時代からの親友、彼女のほうが2歳年上です。サマンサは外では人々の哄笑とチンピラの理不尽な暴力に屈している。なおかつ家では父親の見当はずれの過保護に疲れはて、悲しみのなかで生きている。

B: サマンサに倒産寸前の食堂経営者イツィアル、BIID患者のクリスティアンが絡んで、最終的にはエルネストに出会うことになる。

 

(サマンサのアナ・ポルボロサ)

 

           

        外見は手術によって変えられる―悪は自分の中にある

 

A: エルネストは外見が奇形でないと愛を感じられないシモンと同系列の人間。片目がふさがり頬が垂れ下がっているアナを愛している。母親はそんな息子を受け入れられない。エルネストはアナと一緒に暮らそうと家を出るが、賢いアナはエルネストが愛しているのは Solo me quieres por mi físico 外見であって内面ではないと拒絶する。

B: 外見は手術によって変えられる。アナが愛しているのは、顔面頭部全体が大火傷でケロイドになってしまっているギリェだ。これがグループ4で、アナのメインカラーはピンクです。

 

                          

                                                (アナのカンデラ・ペーニャ)

 


 

(監督とエルネスト役のセクン・デ・ラ・ロサ)

 

A: しかしギリェは偶然手に入れたお金をネコババして再生手術を受け、終局的にはアナを裏切る。アナもやっと自立を決意する。エルネストはアナのときはピンク、サマンサに遭遇してからは、パープルに変わる。相手に流される人物という意味か。

 

    

            (ギリェを演じたジョン・コルタジャレナ)

 

B: ギリェが愛していたのは美青年だった頃の自分自身だった。聡明なアナも見抜けなかった。アナ役のオファーをよく受けたと思いませんか。監督もカンデラ・ペーニャのような有名女優が引き受けてくれたことに感激していました。

A: 彼女はインタビューで、「エドゥアルドにはショックを受けた。こんな脚本今までに読んだことなかったし、比較にならない才能です。私の女優人生でも後にも先にもこんな役は来ないと思う」とベタ褒めでした。ラウラとアナの特殊メイクを担当したのがオスカル・デル・モンテ、2時間ぐらいかかるので、ヘアーも同時にしたようです。タイトルが「スキン」だから、常にスキン、スキン、スキンとみんなで唱えていたと、責任者のローラ・ゴメスは語っていた。冒頭に出てくる娼館マダムのヌードの意味もこれで解けます。

 

        本当の家族を求めるバネッサ、娘の幸せより金銭を求める父親

 

B: 低身長のバネッサは軟骨無形成症という病気をもって生まれてきた。今はピンクーという着ぐるみキャラクターとしてテレビに出演、子供たちの人気者になっている。しかし欲に目のくらんだプロダクション・オーナーと父親に酷使され続けている。

A: 体外受精で目下妊娠しているから胎児のためにも番組を下りたい。しかし娘の幸せより金銭を愛する父親は断固反対する。こんな父親は本当の家族とは言えない。このバネッサと父親、札束で頬を叩くようなオーナーが最後のグループ5です。ここにギリェが絡んだことでアナは目が覚める。

B: このグループの社会批判がもっとも分かりやすい。バネッサのメインカラーはピンクです。

 

   

            (ピンクーの着ぐるみを着せられるバネッサ)

 

A: この映画のメタファーは差別と不公正だと思いますが、こういう形で見せられると悪は自分の中にあると考えさせられます。

B: 固定観念にとらわれていますが、普通とは一体何かです。

A: 「常に母親という存在や先天的奇形に取りつかれている」という監督は、登場人物たちは自分の目的を手に入れるために乗り越えねばならない壁として先天的奇形を利用していると言う。肌に触れたい登場人物には目を取りのぞく(ラウラ)、あるいはキスをしたい登場人物には口を取り去ってしまう(サマンサ)ように造形した。

 

B: スクリーンがパステルカラーに支配されているとのはどうしてかという質問には、「なぜ、ピンク色かだって? いけないかい? 僕の家はピンク色なんだよ」と答えている。

A: 建築物がピンク色ではおかしいという固定観念に囚われている。

 

B: 影響を受けた監督としてスウェーデンのロイ・アンダーソンとブランドン・クローネンバーグを挙げていますが。

A: アンダーソン監督の『散歩する惑星』はカンヌ映画祭2000の審査員賞、『さよなら、人類』はベネチア映画祭2014の金獅子賞、本作は東京国際映画祭ではオリジナルの直訳「実存を省みる枝の上の鳩」といタイトルで上映された。シュールなブラック・ユーモアに富み、不思議な登場人物が次々に現れる恐ろしい作品。クローネンバーグはデヴィッド・クローネンバーグの息子、近未来サスペンス『アンチヴァイラル』(12)が公開されている。これまたSFとはいえ恐ろしい作品、今作を見た人は『スキン』のあるシーンに「あれッ」と思うかもしれない。カサノバ監督の第2作が待たれます。

  

上映作品の一部がアナウンスされました*ラテンビート2017 ①2017年08月14日 08:23

       パブロ・ラライン、カルラ・シモン、エドゥアルド・カサノバ・・・

 

  

814日現在で7作品が発表されただけですが、そのうち当ブログでピックアップしたパブロ・ララインの Neruda とカルラ・シモンの Verano 1993(カタルーニャ語題Estiu 1993)の2作、ゴヤ賞2017でご紹介したかったエドゥアルド・カサノバの Pieles が含まれていました。

 

パブロ・ララインの「ネルーダ」は、公開が以前から予告されており、この度『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』という邦題で1111日に公開が決定しています(新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデン・シネマ)。従って宣伝を兼ねた先行上映になりますね。既にカンヌ映画祭2016の「監督週間」にノミネーションされた折りに、監督紹介、スタッフ、キャスト、プロットなど詳細を記事にしておりますので、ラテンビートでは割愛します。

「ネルーダ」の記事は、コチラ2016516

 

  

カルラ・シモン Verano 1993(西題)オリジナル・タイトルは Estiu 1993、ベルリン映画祭、マラガ映画祭などの折に、ラテンビートを意識してその都度ご紹介してきましたが、今回新しいニュースを補足して再構成いたします。監督自身の少女時代が語られます。こちらは『夏、1993と邦題もすっきり、余計な副題からも救われています。変更しないことを切に願っております。

 Verano 1993 の主な記事は、コチラ⇒2017222

 

  

エドゥアルド・カサノバのデビュー作 Pieles は、ラテンビートでは『スキン』で上映される。しかし本作は既にネットフリックスで『あなたに触らせて』の邦題で放映されているから、新たに字幕を入れ替えて上映するということでしょうか。スクリーン鑑賞が後になるということに時代の変化を感じています。ベルリン映画祭2017パノラマ部門、マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門での話題作。理不尽な暴力が痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー、とにかくスペインにアンファン・テリブルが誕生した。アレックス・デ・ラ・イグレシアカロリナ・バング夫婦が、カサノバの才能に惚れ込んで製作した。本作については改めてアップいたします。

 

   

        (エドゥアルド・カサノバとアレックス・デ・ラ・イグレシア)

 

★カルロス・サウラの Jota de Saura は、いずれ公開されるでしょうし、解説の必要はないでしょう。


「ある視点」にサンティアゴ・ミトレの新作*カンヌ映画祭2017 ⑧2017年05月18日 16:34

        サンティアゴ・ミトレ、滑り込みセーフの「La Cordillera

 

       

         (アルゼンチン大統領のリカルド・ダリンとミトレ監督)

 

★最後のご紹介となったのが、追加作品としてノミネートされたサンティアゴ・ミトレの長編第3作目La Cordilleraです。第2作目の『パウリーナ』15)がカンヌ映画祭と並行して開催される「批評家週間」でグランプリを受賞、今度はカンヌ本体の「ある視点」に飛び級しました。デビュー作『エストゥディアンテ』11)も第2作もラテンビートで上映されたから、本作も今年のラテンビートを期待してもいいでしょう。新作は製作発表当初からリカルド・ダリンがアルゼンチン大統領、パウリナ・ガルシアがチリ大統領、ダニエル・ヒメネス=カチョがメキシコ大統領と、各国の大物俳優が出演するというので話題になっておりました。チリで開催されるラテンアメリカ「サミット」で炙り出されてくる問題は何でしょうか。政治的内容にコミットした映画ではなさそうですが。

 

  「La Cordillera(「The Summit」)2017

製作:Kramer & Sigman Films() / Union de los Rios, La() / Mod Producciones(西) / Movister(西) / ARTE France Cnema() / Maneki Films() / Telefe() /  協賛INCAA

監督・脚本:サンティアゴ・ミトレ(亜)

助監督:マルティン・ブストス(亜)

脚本():マリアノ・リィナス(ジィナス)

音楽:アルベルト・イグレシアス(西)

撮影:ハビエル・フリア(亜、『人生スイッチ』『エルヴィス、我が心の歌』)

美術:セバスティアン・オルガンビデ(亜、『エル・クラン』)

編集:ニコラス・ゴールドバートGoldbart

キャスティング:ハビエル・ブライエルBraier、マリアナ・ミトレ

衣装デザイン:ソニア・グランデ(西)

メイクアップ&ヘアー:マリサ・アメンタ、ネストル・ブルゴス、アンヘラ・ガラシハ

録音:フェデリコ・エスケロ、サンティアゴ・Fumagalli(仏)

プロデューサー:ウーゴ・シグマン(亜)、マティアス・モステイリン(亜)、フェルナンド・ボバイラ(西)、アグスティナ・ジャンビ=Campbell、フェルナンド・ブロム、シモン・デ・サンティアゴ、Didar Domehri、エドゥアルド・カストロ(チリ)、他エグゼクティブ・プロデューサー多数

 

データ:製作国アルゼンチン()=フランス=スペイン、スペイン語、2017年、政治的スリラー、114分、撮影地ブエノスアイレス、アルゼンチン南部バリローチェ、チリのサンティアゴ、首都から46キロ東方のスキーリゾート地バジェ・ネバドなど、期間は8週間。カンヌ映画祭2017「ある視点」ノミネーション524日上映、配給元ワーナーブラザーズ、アルゼンチン公開2017817

 

 主なキャスト

リカルド・ダリン(エルナン・ブランコ、アルゼンチン大統領)亜

ドロレス・フォンシ(マリナ・ブランコ、娘)亜

パウリナ・ガルシア(パウラ・シェルソン、チリ大統領)チリ

ダニエル・ヒメネス=カチョ(セバスティアン・サストレ、メキシコ大統領)メキシコ

エリカ・リバス(ルイサ・コルデロ、エルナン・ブランコの個人秘書)亜

エレナ・アナヤ(クラウディア・Klein、新聞記者)西

アルフレッド・カストロ(デシデリオ・ガルシア)チリ

ヘラルド・ロマノ(カステックス、アルゼンチン首相)

クリスチャン・スレイター(Dereck McKinleyデレック・マッキンリー)米

ラファエル・アルファロ(Preysler、パラグアイ大統領)

レオナルド・フランコ(ブラジル大統領)

マヌエルトロッタ(Yhon

 

プロット:アルゼンチン大統領エルナン・ブランコは、チリのバジェ・ネバドで開催されているラテンアメリカ諸国「サミット」に出席していた。会議のテーマは石油問題であるが、彼は娘婿が関わった汚職事件に巻き込まれており、公私共に非常に重大な決断を迫られていた。父親の依頼によって娘マリナも当地に滞在していた。身の安全と時間稼ぎ、要するに解決策を交渉するためであった。今までの物静かで家庭的な環境とは異なり危険をはらむものに変わろうとしていた。ざらざらした耳障りなストーリー、観客の理解を得られるでしょうか。

 

      

    (公私ともに岐路に立たされるエルナン・ブランコ大統領、大統領執務室にて)

 

         アルゼンチンとチリの大物揃いの采配に苦労したミトレ監督

 

★スタッフとキャストのリストを一見すれば、監督の苦労が分かります。リカルド・ダリンのために作られた映画ではないかと予想しますが、前回ご紹介した「La novia del desierto」や『グロリアの青春』の主役パウリナ・ガルシア、『バッド・エデュケーション』のダニエル・ヒメメス=カチョ、『ザ・クラブ』のアルフレッド・カストロ、アルゼンチンではアルモドバルの『私が、生きる肌』でブレークした個性派エレナ・アナヤも短期間ながら昨年10月にブエノスアイレス入りして撮影に臨んだ。同作でゴヤ主演女優賞を受賞しており今後のスペイン映画界を背負う女優に成長した。監督にとっては全て先輩シネアスト、3作目でよくこれだけオーケーしてもらえたとびっくりしています。

 

★娘マリナ役は監督夫人ドロレス・フォンシ1978年、アドログエ)、『パウリーナ』の主役を演じた理論派というか物言う女優の一人です。本作では離婚して双子を育てている母親という、世間がイメージする大統領の娘とは全然似ていない役柄。「マリナ・ブランコの横顔は、庶民で地位は高くない」という。彼女は役柄のデータは自由裁量ができるほうが好ましいと言う。『パウリーナ』では、自分がどう生きるかは自分で決める、人生の選択権は父親ではないというダイナミックな女性を演じた。まだ恋人関係だったミトレ監督の考えに魅了されたという。「男性に尽くすだけの女性、性的対象の娼婦だったり母親だったりの脚本には興味が持てない」と語っている。

 

     

             (本作撮影現場でのドロレス・フォンシ)

 

                          

                              (「トルーマン」のポスターを背に)

 

エレナ・アナヤ1975年、バレンシア)は、リカルド・ダリン扮する大統領をインタビューする新聞記者という役柄。製作者によれば「この映画の記者を演じるための強さを兼ね備えた」女優だと、日刊紙「クラリン」にオファーの理由を語っている。アナヤは日本でも8月公開がアナウンスされている『ワンダーウーマン』(17)に出演している。「DCコミックス」のアメリカン・コミックの実写映画、彼女はマッドサイエンティストのドクター・ポイズンになりますが、悪役でしょうか。語学が堪能だからスペインだけにとどまっていない。『私が、生きる肌』出演後、「この作品に出る前の自分には戻れない」と語っていたアナヤ、本作では大統領に接近していく小賢しいデーモンたちとも渡り合うようです。

 

     

             (リカルド・ダリンとエレナ・アナヤ)

 

★メキシコの男優のなかでも、ダニエル・ヒメネス=カチョ1961年、マドリード)は公開作品が多いほうでしょうか。マドリード生れということかスペイン監督とのコラボも多い。例えばアルモドバルの『バッド・エデュケーション』、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』が公開されている。他ロベルト・スネイデルの『命を燃やして』、ルイス・マンドーキの『イノセント・ボイス』、アルフォンソ・キュアロンのデビュー作『最も危険な愛し方』など、字幕入りで見られる映画が多数ある。今回はメキシコ大統領に扮します。「サミット」が開催されたサンチャゴ東方の海抜3030mのバジェ・ネバドの撮影シーンでは、全員がソローチェと言われる高山病でダウンしたそうです。スキー・リゾート地にある5つ星ホテル「バジェ・ネバド」が会議場になった。

 

  

 (日傘で強い日差し避けて撮影中の、監督、ダリン、ヒメネス=カチョ、バジェ・ネバドにて)

 

★ソローチェに苦しんだのがブエノスアイレスから60か所のカーブを曲がって昇ってきたアルゼンチン組、撮影に同行したクラリンの新聞記者も嘔吐しないように床に横になっていたとか。出席した12か国の大統領の集合写真撮影シーンでも失神する大統領が出たりで、なかなか全員揃ったシーンが撮れず遅延続きだったようだ(笑)。結局会議の模様はブエノスアイレスに戻って、シェラトンホテルに変更して撮ることになったようです。

 

  

            (バジェ・ネバド・ホテルの全景)

 

★『瞳の奥の秘密』でブレークしたリカルド・ダリンは、何回も登場させているので割愛しますが、「私は政治に巻き込むつもりはないよ」と誓っています。チリ大統領のパウリナ・ガルシアも前回ご紹介したばかりです。彼女はNetflixのシリーズ「Narcos」で麻薬王パブロ・エスコバルの母親役を演じているそうです。二人のツーショットは初めてでしょうか。

 

     

       (チリ大統領のパウリナ・ガルシアとリカルド・ダリン)

 

★予告編でもよく分かるのが大統領たちが着ているスーツの高級感、ダリンが着用している背広は、イタリアのメーカー「エルメネジルド・ゼニヤ」のもの、クラシックでありながら若々しいが売りの世界でも有数の高級服メーカー、銀座にも出店している。もう一つが「伝統を誇るイタリアン・テーラードのブリオーニを選んだ」と衣装デザイナーのソニア・グランデ、ウディ・アレン(『ミッドナイト・イン・バリ』『それでも恋するバルセロナ』)やアルモドバル(『ジュリエッタ』『抱擁のかけら』)が好んで採用するスペインのデザイナー。アルゼンチン大統領府の執務室で撮影したり、大分お金が掛かっているようですが、果たして回収できるでしょうか。

 

★「ある視点」の3作は以上です。ノミーションは全部で18本、どんな結果になるか、いよいよ開幕いたしました。

『パウリーナ』の作品内容、監督経歴、ドロレス・フォンシ紹介は、コチラ2015521

『瞳の奥の秘密』の紹介記事は、コチラ201489


「監督週間」にパブロ・ララインの『ネルーダ』*カンヌ映画祭2016 ⑤2016年05月16日 14:19

              順風満帆のパブロ・ラライン

 

    

 

パブロ・ララインNerudaのほかアレハンドロ・ホドロフスキーPoesía sin fin2がノミネーションされましたが、ひとまずララインのNeruda”から。本作については昨年6月クランクインした折に「ララインの新作」としてアウトラインを記事にしております。カンヌ本体とは別組織が運営する「監督週間」とはいえカンヌですから、公開はさておき字幕入りで見られるチャンスがこれで一つ増えました。ララインによると、「ノーベル賞作家とはいえ、ネルーダは自らを神話化する傾向があり、チリ人はそういうタイプを好まない」そうで、コミュニストだったこともあり、チリではネルーダ嫌いが結構いる。「自らを神話化する」という意味ではホドロフスキーも同じで、チリの人には好かれていない。そもそもチリの監督と紹介するには管理人自身も抵抗があります。ホドロフスキー映画は次回に回します。

新作Neruda”についての記事は、コチラ⇒2015730

 

  

            (ネルーダ役のルイス・ニェッコ、映画から

 

★「パブロ・ララインの新作は『ネルーダ』」と、あたかも邦題が決定したかのごとく紹介しておりますが、勿論まだNerudaです(邦題に不要な修飾語がつかないことを切に願っている)。ベルリン映画祭2015『ザ・クラブ』El Club”が審査員賞グランプリを受賞したばかり、チリでもっとも注目されている若手監督の一人です。1971年ノーベル文学賞を受賞した詩人、作家、外交官、政治家といくつもの顔をもつ、それだけに謎の多い人物の伝記映画です。伝記と言って1949年という地下潜伏と逃避行に明け暮れた激動の時期を切り取った映画です。「ネルーダはネルーダを演じていた」、つまり自分がコミュニズムのイコンとして称揚されるよう、この逃亡劇をことさら曖昧にして詩人自らが神話化した。この映画は「ネルーダの『ニ十の愛の詩と一つの絶望の歌』の詩人の忠実な伝記映画というより、ネルーダ信奉者が作った映画」(監督談)なので、伝記映画としては不正確ということです。

 

Neruda2016

製作:Fabula(チリ) / AZ Films(アルゼンチン) / Funny Balloons() / Setembro Cine(西)他

監督:パブロ・ラライン

脚本:ギジェルモ・カルデロン

編集・音楽エディター:Hervé Schneid

プロダクション・デザイン:エステファニア・ラライン

プロダクション・マネージメント:サムエル・ルンブロソ

製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、ほか多数

データ:チリ=アルゼンチン=スペイン=フランス合作、スペイン語、2016年、107分、伝記映画、カンヌ映画祭2016「監督週間」正式出品、チリ公開2016811日決定

 

キャスト:ルイス・ニェッコ(ネルーダ)、メルセデス・モラン(妻デリア・デル・カリル)、ガエル・ガルシア・ベルナル(刑事オスカル・ペルチョノー)、アルフレッド・カストロ(ガブリエル・ゴンサレス・ビデラ大統領)、パブロ・デルキ(友人ビクトル・レイ)、マイケル・シルバ(歴史家アルバロ・ハラ)、マルセロ・アロンソ(ぺぺ・ロドリゲス)、ハイメ・バデル(財務大臣ホルヘ・アレッサンドリ)、アントニア・セヘルス、他

 

解説1947年、ガブリエル・ゴンサレス・ビデラは大統領に就任すると、共産党根絶を開始する。チリ共産党の支援をうけて19453月に上院議員となった赤い詩人ネルーダは苦境に立たされる。1948年共産党が非合法化されると、党は危険の迫った詩人を亡命させることに着手する。1949年の秋、妻デリア・デル・カリルを伴ってのネルーダの地下潜伏とパリへの逃避行が始まった。首都サンティアゴで数カ月潜伏した後、追っ手の目を晦ますため女装してリベルタドール、バルパライソ、ロス・リオス州バルディビア、フトロノ・コミューンなどを転々とした。馬乗してアルゼンチンに脱出すると、やがてピカソなどヨーロッパの多くの友人に助けられて、春4月半ばパリに辿り着く。逃避行の最中に『大いなる歌』が書かれ、謎に満ちたネルーダの脱出劇は伝説となる。

 

トレビア

★ネルーダは1904年生れ、チリ共産党の支援を受けて19453月に上院議員に当選、同年7月に入党している。1948年ガブリエル・ゴンサレス・ビデラ大統領が共産党を非合法化したため、当時の妻デリア・デル・カリルと地下に潜ることになる。ネルーダは離婚を2回しており、本作に登場する妻はネルーダがヨーロッパから帰国した1943年に再婚した2番目の妻(1955年離婚)で、『イル・ポスティーノ』に出てくる妻マティルデは3番目のマティルデ・ウルティアを想定しているようです。現在ネルーダ記念館として観光名所になっているイスラ・ネグラの美しい別荘は、彼女のために建てたものだそうです。移動には女装したとか、フトロノ・コミューンを出てアルゼンチンに行く途中のクリングエ川の急流を渡るときには溺れそうになったとか逸話が多い。

 

      

          (詩の朗読会用のメイクをしたネルーダ、映画から)

 

★「この映画はギジェルモ・カルデロンの脚本なくして作れなかった。自分で脚本を書くのは無謀だとは思わなかったが、結局彼の助けを求めなければならなかった。だからいくら感謝してもしきれない」とラライン。脚本を評価するコラムニストが多い。ネルーダは女好きで誇大妄想きみのブルジョア趣味という反面、深遠な理想主義にもえ寛容、チリの社会にインパクトを与えた人です。だから「ネルーダまたはその造形に挑戦した」映画だとラライン。

 

   

               (パブロ・ラライン監督)

 

★既にネルーダをテーマにした映画やTVドラは多数あります。なかでもマイケル・ラドフォードのイタリア映画『イル・ポスティーノ』(1994)は劇場公開された後、吹替え版、完全版を含めてテレビで放映されています。ネルーダにフィリップ・ノワレ、主人公郵便配達人マリオに病をおして出演したマッシモ・トロイージがクランクアップ直後に他界したことも話題になった。ララインの「ネルーダ」は1949年が時代背景ですが、『イル・ポスティーノ』のほうは1950年代初めのナポリ湾に浮かぶ架空の島が舞台だった。ナポリ湾のプローチダ島で撮影されたが、それはネルーダがカプリ島に潜伏していたときの史実に基づいている。

 

            

                      (逃避行をするネルーダ夫妻)

  

主なキャスト紹介

アルフレッド・カストロ1955年チリのサンティアゴ)とガエル・ガルシア・ベルナル1978年メキシコのグアダラハラ)については度々登場してもらっているので割愛します。前者はラライン監督のデビュー作 “Fuga” を含めて全作に出演しており、本作ではネルーダ逮捕を命じる大統領として登場します(ララインのフィルモグラフィー参照)。後者はあと一歩のところで獲物を取り逃がしてしまう平凡な刑事役、彼のモノローグが映画の推進役となっている。今回の二人は役柄としては嫌われ役でしょうか。G.G.ガエルによると、「この映画は豊かなネルーダの詩の読者の多くを失望させないと思う、それは間違いない。ぼくたちを映画に導いたのは、ネルーダの素晴らしい詩のお陰なのです」と。他のキャスト陣もラライン映画の常連さんです。

 

    

     (大統領の命令を受けるオスカル、GG・ベルナル、左側の背中が大統領

 

ルイス・ニェッコ Luis Gnecco(ネルーダ):1962年チリのサンティアゴ生れ、グスタボ・G・マリノ『ひとりぼっちのジョニー』1993)、フェルナンド・トゥルエバ『泥棒と踊り子』09)、ララインNoなど。

メルセデス・モラン Mercedes Morán(ネルーダ夫人):1955年アルゼンチンのサンルイス生れ、ルクレシア・マルテルのサルタ三部作の1『沼地という名の町』01)と同2『ラ・ニーニャ・サンタ』04)、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』04)などで登場している。一時『人生スイッチ』愚息出演のオスカル・マルティネスと結婚していた。

 

パブロ・デルキPablo Derqui(ネルーダ友人ビクトル・レイ):1976年バルセロナ生れ、マヌエル・ウエルガ『サルバドールの朝』、ギリェム・モラレス『ロスト・アイズ』

ハイメ・バデルJaime Vadell(財務大臣ホルヘ・アレッサンドリ):1935年バルパライソ生れ、ロドリゴ・セプルベダの代表作Padre Nuestro05)の主役を演じた。「ピノチェト政権三部作」、ホドロフスキー『リアリティのダンス』『ザ・クラブ』ではシルバ神父になった。

 

アントニア・セヘルスAntonia Zegers1972年サンティアゴ生れ、「ピノチェト政権三部作」以降のラライン映画にオール出演、ラライン夫人である。

マルセロ・アロンソMarcelo Alonso(ぺぺ・ロドリゲス):1969年サンティアゴ生れ、No以外の「ピノチェト政権三部作」、『ザ・クラブ』ではガルシア神父になった。テレビ出演が多い。

マイケル・シルバMichael Silva(歴史家アルバロ・ハラ):1987年チリ南部アントファガスタ生れ、戯曲家、ミュージシャンとしても活躍。若い頃のアルバロ・ハラ(192398)はコミュニストの活動家だった。ラライン映画は初出演。

 

  *監督フィルモグラフィー(短編・TVシリーズを除く)

2006 “Fuga” 監督・脚本

2008 “Tony Manero”『トニー・マネロ』監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第1

ラテンビート2008上映

2010 “Post mortem” 監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第2

2012  “No”No』監督「ピノチェト政権三部作」第3部、カンヌ映画祭2012「監督週間」正式出品、

ラテンビート2013上映

2015  “El club”『ザ・クラブ』監督・脚本・製作、ラテンビート2015上映

2016  “Neruda” 監督、カンヌ映画祭2016「監督週間」正式出品

 

★ララインの次回作は英語映画Jackieと、3月にアナウンスされています。「ブルータスお前もか」という心境、彼も英語映画を撮る監督の仲間入りです。政治に絡んだジャッキー・ケネデイの伝記映画。ジャッキーを演じるのはナタリー・ポートマン、劇場公開間違いなしです。

 

       

             (ジャッキーになるナタリー・ポートマン)