『あなたに触らせて』あるいは『スキン』*ラテンビート2017 ②2017年08月20日 15:39

          末恐ろしいエドゥアルド・カサノバのデビュー作

 

  

               (ピンクのシャツで全員集合)

 

エドゥアルド・カサノバのデビュー作 PielesSkinsは、ラテンビートでは英題の『スキン』ですが、ネットフリックス『あなたに触らせて』として既に放映されています。ネットフリックスの邦題は本作に限らずオリジナル・タイトルに辿りつけないものがが多く、これも御多分に漏れずです。セリフの一部から採用しているのですが・・・。ネットフリックスの資金援助とアレックス・デ・ラ・イグレシアカロリナ・バングの制作会社Pokeepsie Filmsキコ・マルティネスNadie es Perfecto後押しで、1年半という新人には考えられない短期間で完成できた作品。新プラットフォームの出現でスクリーン鑑賞が後になるというのも、時代の流れでしょうか。なおカロリナ・バングはプロデュースだけでなく精神科医役として特別出演しています。

 

ベルリン映画祭2017パノラマ部門マラガ映画祭正式出品の話題作。デフォルメされた身体のせいで理不尽に加えられる暴力が最後に痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー。好きな人は涙、受けつけない人は苦虫、どちらにしろウトウトできない。

 

   PielesSkins)『スキン』(または『あなたに触らせて』2017

製作:Nadie es Perfecto / Pokeepsie Films / Pieles Producciones A.I.E.

   協賛The Other Side Films

監督・脚本:エドゥアルド・カサノバ

撮影:ホセ・アントニオ・ムニョス・モリナ(モノ・ムニョス)

編集:フアンフェル・アンドレス

音楽:アンヘル・ラモス

録音:アレックス・マライス

録音デザイン:ダビ・ロドリゲス

美術・プロダクションデザイン:イドイア・エステバン

メイク&ヘアー:ローラ・ゴメス(メイク主任)、オスカル・デル・モンテ(特殊メイク)

        ヘスス・ジル(ヘアー)

衣装デザイン:カロリナ・ガリアナ

キャスティング:ピラール・モヤ、ホセ・セルケダ

プロダクション・マネジャー:ホセ・ルイス・ヒメネス、他

助監督:パブロ・アティエンサ

製作者:キコ・マルティネス、カロリナ・バング、アレックス・デ・ラ・イグレシア、他

視覚効果:Free your mindo

 

データ:スペイン、スペイン語、2017年、コメディ、ダーク・ファンタジー、77分、ベルリン映画祭2017パノラマ部門出品、マラガ映画祭2017セクション・オフィシアル出品(ヤング審査員特別賞受賞)、ビルバオ・ファンタジー映画祭上映。配給ネットフリックス190ヵ国放映、スペイン公開69日、ラテンビート2017予定。

 

プロット:普通とは異なった身体のため迫害を受ける、サマンサ、ラウラ、アナ、バネッサ、イツィアルを中心に、周りには理解してもらえない願望をもつ、クリスティアン、エルネスト、シモン、後天的に顔面に酷い火傷を負い再生手術を願っているギリェなどを絡ませて、「普通とは何か」を問いかけた異色のダーク・ファンタジー。人は「普通」を選択して生まれることはできない。しかし人生をどう生きるかの選択権は他人ではなく、彼ら自身がもっている。ピンクとパープルに彩られたスクリーンから放たれる暴力と痛み、愛と悲しみ、美と金銭、父と娘あるいは母と息子の断絶、苦悩をもって生れてくる人々にも未来はあるのか。

 

キャスト

アナ・ポルボロサ:消化器官が反対になったサマンサ(Eat My Shit『アイーダ』)

マカレナ・ゴメス:両眼欠損の娼婦ラウラ(『トガリネズミの巣穴』『スガラムルディの魔女』)

カンデラ・ペーニャ:顔面変形片目のアナ(『時間切れの愛』『オール・アバウト・マイ・マザー』)

エロイ・コスタ:身体完全同一性障害、人魚になりたいクリスティアン(TVCentro mrdico

ジョン・コルタジャレナ:顔面火傷を負ったギリェ(米『シングル・マン』TVQuantico

セクン・デ・ラ・ロサ:異形愛好家エルネスト(『クローズド・バル』 Ansiedad

アナ・マリア・アヤラ:軟骨無形成症のバネッサ

ホアキン・クリメント:バネッサの父アレクシス(『クローズド・バル』)

カルメン・マチ:クリスティアンの母クラウディア(『クローズド・バル』『ペーパーバード』『アイーダ』)

アントニオ・デュランモリス’:クリスティアンの父シモン(『プリズン211』『月曜日にひなたぼっこ』)

イツィアル・カストロ:肥満症のイツィアル(『ブランカニエベス』『Rec3Eat My Shit

アドルフォ・フェルナンデス:(『トーク・トゥ・ハー』)

マリア・ヘスス・オジョス:エルネストの母?(『スガラムルディの魔女』『ペーパーバード』)

アルベルト・ラング:(『トガリネズミの巣穴』『グラン・ノーチェ』)

ハビエル・ボダロ:街のチンピラ(『デビルズ・バックボーン』)

ミケル・ゴドイ:2017年の娼館のアシスタント

特別出演

カロリナ・バング:精神科医(『気狂いピエロの決闘』)

ルシア・デ・ラ・フエンテ

マラ・バジェステロ:2000年の娼館経営者(『アイーダ』)

 

  監督キャリア&フィルモグラフィ

エドゥアルド・カサノバEduardo Casanova19913月マドリード生れの26歳、俳優、監督、脚本家。人気TVシリーズ Aída「アイーダ」(0514)に子役としてデビュー、たちまちブレークして232話に出演した。他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』や『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』、アントニア・サン・フアンの Del lado del verano などに脇役として出演している。

 

 

「アイーダ」に出演していた頃のカサノバ、ダビ・カスティリョ、アナ・ポルボロサ)

 

★監督・脚本家としては、2011年ゾンビ映画 AnsiedadAnxiety)で監督デューを果たす。この短編にはアナ・ポルボロサとセクン・デ・ラ・ロサを起用している。短編8編のうち、2014年の凄まじいメロドラマ La hora del baño17分)にはマカレナ・ゴメス、2015年のEat My Shit には再びアナ・ポルボロサが出演、長編 Pieles『スキン』のベースになっている。他に2016年にホセ・ルイス・デ・マダリアガをフィデル・カストロ役に起用して Fidel5分)を撮る。短期間だがハバナのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画学校でビデオクリップの制作を学んでいる。カサノバによるとキューバや独裁者たちや紛争対立に興味があるようです。「アイーダ」での役名は偶然にもフィデル・マルティネスだった。

  

      ("Eat My Shit"のイツィアル・カストロ、監督、アナ・ポルボロサ)

   

    

          (エドゥアルド・カサノバ、ベルリン映画祭2017にて)

 

         冒頭から度肝をぬくマラ・バジェステロの怪演

 

A: 物語はドール・ハウスのようにピンクに彩られた「愛の館」から始まる。マラ・バジェステロ扮する娼館の女主人は、「本能は変えられない」と客のシモンを諭す。先ず彼女の風体に度肝をぬかれる。シモンは妻クラウディアが無事男の子を出産したことを確認すると妻子の前から姿を消す。この男の子がクリスティアンです。この親子がグループ1

B: クリスティアンは身体完全同一性障害BIIDという実際にある病気にかかっている。四肢のどれかが不必要と感じる病気です。彼の場合は両足がいらない、人魚のようになりたいと思っている。彼のメインカラーはパープルである。このピンクとパープルが一種のメタファーになっている。 

   

                 (「本能は変えられない」とシモンを諭す娼館のマダム)

 

  

A: このプロローグには作品全体のテーマが網羅されている。娼館マダムのマラ・バジェステロの風体にも混乱させられるが、その病的な理念「美とノーマルが支配する無慈悲な社会秩序を支えているマヤカシ」を静かに告発している。

B: 深い政治的な映画であることがすぐ分かるプロローグ。ただ苦しむために生まれてくるかのような人々の存在が現実にある。

 

   

                   (人魚になりたいクリスティアンのエロイ・コスタ)

 

    

(息子の葬儀に17年ぶりに邂逅する、クラウディアのカルメン・マチとシモン)

 

A: シモンは身体的に普通でない女性が好きなことを恥じている。女主人が紹介するのが目が欠損している当時11歳というラウラにたじろぐが、ラウラに魅せられてしまう。シモンはラウラに2個のダイヤの目をプレゼントする。シモンにはアントニオ・デュランモリス、ラウラには『トガリネズミの巣穴』のマカレナ・ゴメスが扮した。

B: ラウラのメインカラーはピンク、時代は17年後の2017年にワープして本当のドラマが始まる。

A: ラウラに肥満症のイツィアルが絡んでグループ2となる。イツィアル・カストロは、カサノバ監督のお気に入りで短編 Eat My Shit15)にも出演している。

 

 

                   (シモンからダイヤの目をもらったラウラ)

 

 
 (ラウラのダイヤを盗んだイツィアル)

 

B: この短編を取り込んで、サマンサを中心にしたグループ3に発展させた。サマンサのメインカラーはパープルです。

A: サマンサ役のアナ・ポルボロサが長短編どちらにも同じ役で出演している。消化器官が反対、つまり顔に肛門、お尻に口とかなりグロテスクだが、ポルボロサの美しさが勝っています。カサノバ監督とポルボロサは人気TVシリーズ「アイーダ」の子役時代からの親友、彼女のほうが2歳年上です。サマンサは外では人々の哄笑とチンピラの理不尽な暴力に屈している。なおかつ家では父親の見当はずれの過保護に疲れはて、悲しみのなかで生きている。

B: サマンサに倒産寸前の食堂経営者イツィアル、BIID患者のクリスティアンが絡んで、最終的にはエルネストに出会うことになる。

 

(サマンサのアナ・ポルボロサ)

 

           

        外見は手術によって変えられる―悪は自分の中にある

 

A: エルネストは外見が奇形でないと愛を感じられないシモンと同系列の人間。片目がふさがり頬が垂れ下がっているアナを愛している。母親はそんな息子を受け入れられない。エルネストはアナと一緒に暮らそうと家を出るが、賢いアナはエルネストが愛しているのは Solo me quieres por mi físico 外見であって内面ではないと拒絶する。

B: 外見は手術によって変えられる。アナが愛しているのは、顔面頭部全体が大火傷でケロイドになってしまっているギリェだ。これがグループ4で、アナのメインカラーはピンクです。

 

                          

                                                (アナのカンデラ・ペーニャ)

 


 

(監督とエルネスト役のセクン・デ・ラ・ロサ)

 

A: しかしギリェは偶然手に入れたお金をネコババして再生手術を受け、終局的にはアナを裏切る。アナもやっと自立を決意する。エルネストはアナのときはピンク、サマンサに遭遇してからは、パープルに変わる。相手に流される人物という意味か。

 

    

            (ギリェを演じたジョン・コルタジャレナ)

 

B: ギリェが愛していたのは美青年だった頃の自分自身だった。聡明なアナも見抜けなかった。アナ役のオファーをよく受けたと思いませんか。監督もカンデラ・ペーニャのような有名女優が引き受けてくれたことに感激していました。

A: 彼女はインタビューで、「エドゥアルドにはショックを受けた。こんな脚本今までに読んだことなかったし、比較にならない才能です。私の女優人生でも後にも先にもこんな役は来ないと思う」とベタ褒めでした。ラウラとアナの特殊メイクを担当したのがオスカル・デル・モンテ、2時間ぐらいかかるので、ヘアーも同時にしたようです。タイトルが「スキン」だから、常にスキン、スキン、スキンとみんなで唱えていたと、責任者のローラ・ゴメスは語っていた。冒頭に出てくる娼館マダムのヌードの意味もこれで解けます。

 

        本当の家族を求めるバネッサ、娘の幸せより金銭を求める父親

 

B: 低身長のバネッサは軟骨無形成症という病気をもって生まれてきた。今はピンクーという着ぐるみキャラクターとしてテレビに出演、子供たちの人気者になっている。しかし欲に目のくらんだプロダクション・オーナーと父親に酷使され続けている。

A: 体外受精で目下妊娠しているから胎児のためにも番組を下りたい。しかし娘の幸せより金銭を愛する父親は断固反対する。こんな父親は本当の家族とは言えない。このバネッサと父親、札束で頬を叩くようなオーナーが最後のグループ5です。ここにギリェが絡んだことでアナは目が覚める。

B: このグループの社会批判がもっとも分かりやすい。バネッサのメインカラーはピンクです。

 

   

            (ピンクーの着ぐるみを着せられるバネッサ)

 

A: この映画のメタファーは差別と不公正だと思いますが、こういう形で見せられると悪は自分の中にあると考えさせられます。

B: 固定観念にとらわれていますが、普通とは一体何かです。

A: 「常に母親という存在や先天的奇形に取りつかれている」という監督は、登場人物たちは自分の目的を手に入れるために乗り越えねばならない壁として先天的奇形を利用していると言う。肌に触れたい登場人物には目を取りのぞく(ラウラ)、あるいはキスをしたい登場人物には口を取り去ってしまう(サマンサ)ように造形した。

 

B: スクリーンがパステルカラーに支配されているとのはどうしてかという質問には、「なぜ、ピンク色かだって? いけないかい? 僕の家はピンク色なんだよ」と答えている。

A: 建築物がピンク色ではおかしいという固定観念に囚われている。

 

B: 影響を受けた監督としてスウェーデンのロイ・アンダーソンとブランドン・クローネンバーグを挙げていますが。

A: アンダーソン監督の『散歩する惑星』はカンヌ映画祭2000の審査員賞、『さよなら、人類』はベネチア映画祭2014の金獅子賞、本作は東京国際映画祭ではオリジナルの直訳「実存を省みる枝の上の鳩」といタイトルで上映された。シュールなブラック・ユーモアに富み、不思議な登場人物が次々に現れる恐ろしい作品。クローネンバーグはデヴィッド・クローネンバーグの息子、近未来サスペンス『アンチヴァイラル』(12)が公開されている。これまたSFとはいえ恐ろしい作品、今作を見た人は『スキン』のあるシーンに「あれッ」と思うかもしれない。カサノバ監督の第2作が待たれます。

  

上映作品の一部がアナウンスされました*ラテンビート2017 ①2017年08月14日 08:23

       パブロ・ラライン、カルラ・シモン、エドゥアルド・カサノバ・・・

 

  

814日現在で7作品が発表されただけですが、そのうち当ブログでピックアップしたパブロ・ララインの Neruda とカルラ・シモンの Verano 1993(カタルーニャ語題Estiu 1993)の2作、ゴヤ賞2017でご紹介したかったエドゥアルド・カサノバの Pieles が含まれていました。

 

パブロ・ララインの「ネルーダ」は、公開が以前から予告されており、この度『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』という邦題で1111日に公開が決定しています(新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデン・シネマ)。従って宣伝を兼ねた先行上映になりますね。既にカンヌ映画祭2016の「監督週間」にノミネーションされた折りに、監督紹介、スタッフ、キャスト、プロットなど詳細を記事にしておりますので、ラテンビートでは割愛します。

「ネルーダ」の記事は、コチラ2016516

 

  

カルラ・シモン Verano 1993(西題)オリジナル・タイトルは Estiu 1993、ベルリン映画祭、マラガ映画祭などの折に、ラテンビートを意識してその都度ご紹介してきましたが、今回新しいニュースを補足して再構成いたします。監督自身の少女時代が語られます。こちらは『夏、1993と邦題もすっきり、余計な副題からも救われています。変更しないことを切に願っております。

 Verano 1993 の主な記事は、コチラ⇒2017222

 

  

エドゥアルド・カサノバのデビュー作 Pieles は、ラテンビートでは『スキン』で上映される。しかし本作は既にネットフリックスで『あなたに触らせて』の邦題で放映されているから、新たに字幕を入れ替えて上映するということでしょうか。スクリーン鑑賞が後になるということに時代の変化を感じています。ベルリン映画祭2017パノラマ部門、マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門での話題作。理不尽な暴力が痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー、とにかくスペインにアンファン・テリブルが誕生した。アレックス・デ・ラ・イグレシアカロリナ・バング夫婦が、カサノバの才能に惚れ込んで製作した。本作については改めてアップいたします。

 

   

        (エドゥアルド・カサノバとアレックス・デ・ラ・イグレシア)

 

★カルロス・サウラの Jota de Saura は、いずれ公開されるでしょうし、解説の必要はないでしょう。


「監督週間」にパブロ・ララインの『ネルーダ』*カンヌ映画祭2016 ⑤2016年05月16日 14:19

              順風満帆のパブロ・ラライン

 

    

 

パブロ・ララインNerudaのほかアレハンドロ・ホドロフスキーPoesía sin fin2がノミネーションされましたが、ひとまずララインのNeruda”から。本作については昨年6月クランクインした折に「ララインの新作」としてアウトラインを記事にしております。カンヌ本体とは別組織が運営する「監督週間」とはいえカンヌですから、公開はさておき字幕入りで見られるチャンスがこれで一つ増えました。ララインによると、「ノーベル賞作家とはいえ、ネルーダは自らを神話化する傾向があり、チリ人はそういうタイプを好まない」そうで、コミュニストだったこともあり、チリではネルーダ嫌いが結構いる。「自らを神話化する」という意味ではホドロフスキーも同じで、チリの人には好かれていない。そもそもチリの監督と紹介するには管理人自身も抵抗があります。ホドロフスキー映画は次回に回します。

新作Neruda”についての記事は、コチラ⇒2015730

 

  

            (ネルーダ役のルイス・ニェッコ、映画から

 

★「パブロ・ララインの新作は『ネルーダ』」と、あたかも邦題が決定したかのごとく紹介しておりますが、勿論まだNerudaです(邦題に不要な修飾語がつかないことを切に願っている)。ベルリン映画祭2015『ザ・クラブ』El Club”が審査員賞グランプリを受賞したばかり、チリでもっとも注目されている若手監督の一人です。1971年ノーベル文学賞を受賞した詩人、作家、外交官、政治家といくつもの顔をもつ、それだけに謎の多い人物の伝記映画です。伝記と言って1949年という地下潜伏と逃避行に明け暮れた激動の時期を切り取った映画です。「ネルーダはネルーダを演じていた」、つまり自分がコミュニズムのイコンとして称揚されるよう、この逃亡劇をことさら曖昧にして詩人自らが神話化した。この映画は「ネルーダの『ニ十の愛の詩と一つの絶望の歌』の詩人の忠実な伝記映画というより、ネルーダ信奉者が作った映画」(監督談)なので、伝記映画としては不正確ということです。

 

Neruda2016

製作:Fabula(チリ) / AZ Films(アルゼンチン) / Funny Balloons() / Setembro Cine(西)他

監督:パブロ・ラライン

脚本:ギジェルモ・カルデロン

編集・音楽エディター:Hervé Schneid

プロダクション・デザイン:エステファニア・ラライン

プロダクション・マネージメント:サムエル・ルンブロソ

製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、ほか多数

データ:チリ=アルゼンチン=スペイン=フランス合作、スペイン語、2016年、107分、伝記映画、カンヌ映画祭2016「監督週間」正式出品、チリ公開2016811日決定

 

キャスト:ルイス・ニェッコ(ネルーダ)、メルセデス・モラン(妻デリア・デル・カリル)、ガエル・ガルシア・ベルナル(刑事オスカル・ペルチョノー)、アルフレッド・カストロ(ガブリエル・ゴンサレス・ビデラ大統領)、パブロ・デルキ(友人ビクトル・レイ)、マイケル・シルバ(歴史家アルバロ・ハラ)、マルセロ・アロンソ(ぺぺ・ロドリゲス)、ハイメ・バデル(財務大臣ホルヘ・アレッサンドリ)、アントニア・セヘルス、他

 

解説1947年、ガブリエル・ゴンサレス・ビデラは大統領に就任すると、共産党根絶を開始する。チリ共産党の支援をうけて19453月に上院議員となった赤い詩人ネルーダは苦境に立たされる。1948年共産党が非合法化されると、党は危険の迫った詩人を亡命させることに着手する。1949年の秋、妻デリア・デル・カリルを伴ってのネルーダの地下潜伏とパリへの逃避行が始まった。首都サンティアゴで数カ月潜伏した後、追っ手の目を晦ますため女装してリベルタドール、バルパライソ、ロス・リオス州バルディビア、フトロノ・コミューンなどを転々とした。馬乗してアルゼンチンに脱出すると、やがてピカソなどヨーロッパの多くの友人に助けられて、春4月半ばパリに辿り着く。逃避行の最中に『大いなる歌』が書かれ、謎に満ちたネルーダの脱出劇は伝説となる。

 

トレビア

★ネルーダは1904年生れ、チリ共産党の支援を受けて19453月に上院議員に当選、同年7月に入党している。1948年ガブリエル・ゴンサレス・ビデラ大統領が共産党を非合法化したため、当時の妻デリア・デル・カリルと地下に潜ることになる。ネルーダは離婚を2回しており、本作に登場する妻はネルーダがヨーロッパから帰国した1943年に再婚した2番目の妻(1955年離婚)で、『イル・ポスティーノ』に出てくる妻マティルデは3番目のマティルデ・ウルティアを想定しているようです。現在ネルーダ記念館として観光名所になっているイスラ・ネグラの美しい別荘は、彼女のために建てたものだそうです。移動には女装したとか、フトロノ・コミューンを出てアルゼンチンに行く途中のクリングエ川の急流を渡るときには溺れそうになったとか逸話が多い。

 

      

          (詩の朗読会用のメイクをしたネルーダ、映画から)

 

★「この映画はギジェルモ・カルデロンの脚本なくして作れなかった。自分で脚本を書くのは無謀だとは思わなかったが、結局彼の助けを求めなければならなかった。だからいくら感謝してもしきれない」とラライン。脚本を評価するコラムニストが多い。ネルーダは女好きで誇大妄想きみのブルジョア趣味という反面、深遠な理想主義にもえ寛容、チリの社会にインパクトを与えた人です。だから「ネルーダまたはその造形に挑戦した」映画だとラライン。

 

   

               (パブロ・ラライン監督)

 

★既にネルーダをテーマにした映画やTVドラは多数あります。なかでもマイケル・ラドフォードのイタリア映画『イル・ポスティーノ』(1994)は劇場公開された後、吹替え版、完全版を含めてテレビで放映されています。ネルーダにフィリップ・ノワレ、主人公郵便配達人マリオに病をおして出演したマッシモ・トロイージがクランクアップ直後に他界したことも話題になった。ララインの「ネルーダ」は1949年が時代背景ですが、『イル・ポスティーノ』のほうは1950年代初めのナポリ湾に浮かぶ架空の島が舞台だった。ナポリ湾のプローチダ島で撮影されたが、それはネルーダがカプリ島に潜伏していたときの史実に基づいている。

 

            

                      (逃避行をするネルーダ夫妻)

  

主なキャスト紹介

アルフレッド・カストロ1955年チリのサンティアゴ)とガエル・ガルシア・ベルナル1978年メキシコのグアダラハラ)については度々登場してもらっているので割愛します。前者はラライン監督のデビュー作 “Fuga” を含めて全作に出演しており、本作ではネルーダ逮捕を命じる大統領として登場します(ララインのフィルモグラフィー参照)。後者はあと一歩のところで獲物を取り逃がしてしまう平凡な刑事役、彼のモノローグが映画の推進役となっている。今回の二人は役柄としては嫌われ役でしょうか。G.G.ガエルによると、「この映画は豊かなネルーダの詩の読者の多くを失望させないと思う、それは間違いない。ぼくたちを映画に導いたのは、ネルーダの素晴らしい詩のお陰なのです」と。他のキャスト陣もラライン映画の常連さんです。

 

    

     (大統領の命令を受けるオスカル、GG・ベルナル、左側の背中が大統領

 

ルイス・ニェッコ Luis Gnecco(ネルーダ):1962年チリのサンティアゴ生れ、グスタボ・G・マリノ『ひとりぼっちのジョニー』1993)、フェルナンド・トゥルエバ『泥棒と踊り子』09)、ララインNoなど。

メルセデス・モラン Mercedes Morán(ネルーダ夫人):1955年アルゼンチンのサンルイス生れ、ルクレシア・マルテルのサルタ三部作の1『沼地という名の町』01)と同2『ラ・ニーニャ・サンタ』04)、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』04)などで登場している。一時『人生スイッチ』愚息出演のオスカル・マルティネスと結婚していた。

 

パブロ・デルキPablo Derqui(ネルーダ友人ビクトル・レイ):1976年バルセロナ生れ、マヌエル・ウエルガ『サルバドールの朝』、ギリェム・モラレス『ロスト・アイズ』

ハイメ・バデルJaime Vadell(財務大臣ホルヘ・アレッサンドリ):1935年バルパライソ生れ、ロドリゴ・セプルベダの代表作Padre Nuestro05)の主役を演じた。「ピノチェト政権三部作」、ホドロフスキー『リアリティのダンス』『ザ・クラブ』ではシルバ神父になった。

 

アントニア・セヘルスAntonia Zegers1972年サンティアゴ生れ、「ピノチェト政権三部作」以降のラライン映画にオール出演、ラライン夫人である。

マルセロ・アロンソMarcelo Alonso(ぺぺ・ロドリゲス):1969年サンティアゴ生れ、No以外の「ピノチェト政権三部作」、『ザ・クラブ』ではガルシア神父になった。テレビ出演が多い。

マイケル・シルバMichael Silva(歴史家アルバロ・ハラ):1987年チリ南部アントファガスタ生れ、戯曲家、ミュージシャンとしても活躍。若い頃のアルバロ・ハラ(192398)はコミュニストの活動家だった。ラライン映画は初出演。

 

  *監督フィルモグラフィー(短編・TVシリーズを除く)

2006 “Fuga” 監督・脚本

2008 “Tony Manero”『トニー・マネロ』監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第1

ラテンビート2008上映

2010 “Post mortem” 監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第2

2012  “No”No』監督「ピノチェト政権三部作」第3部、カンヌ映画祭2012「監督週間」正式出品、

ラテンビート2013上映

2015  “El club”『ザ・クラブ』監督・脚本・製作、ラテンビート2015上映

2016  “Neruda” 監督、カンヌ映画祭2016「監督週間」正式出品

 

★ララインの次回作は英語映画Jackieと、3月にアナウンスされています。「ブルータスお前もか」という心境、彼も英語映画を撮る監督の仲間入りです。政治に絡んだジャッキー・ケネデイの伝記映画。ジャッキーを演じるのはナタリー・ポートマン、劇場公開間違いなしです。

 

       

             (ジャッキーになるナタリー・ポートマン)