映画国民賞2024に製作者マリア・サモラ*スペイン映画賞 ― 2024年06月16日 14:45
2024年の映画国民賞はヒット作を連発しているマリア・サモラが受賞
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2024/06/16/6c823f.jpg)
(インディペンデント映画製作者マリア・サモラの近影)
★今年の映画国民賞は、インディペンデント映画製作者マリア・サモラ(バレンシア1976)が受賞することになりました。映画国民賞の選考母体は文化スポーツ教育省で、副賞は30,000ユーロと控えめですが、毎年一人という名誉ある賞です。ほかにスポーツ、文学、科学など各分野ごとに選ばれます。映画部門の審査員は文化省とスペイン映画アカデミーなどで構成されます。基本的に年齢に拘らず、前年に活躍した人から選ばれることが多い。
★今年の受賞者は、昨年の受賞者カルラ・シモンの「Alcarràs」(22)やハイオネ・カンボルダがガリシア語で撮った「O corno」(23)などを手掛けています。前者でベルリン映画祭金熊賞を受賞した初のスペイン女性プロデューサーとなりました。後者はサンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞、製作者でもあったカンボルダ監督、もう一人の製作者アンドレア・バスケスの3人で喜びを分かち合いました。本作は東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門バスク映画特集で『ライ麦のツノ』として上映されました。
*映画国民賞の授与式は、第72回サンセバスチャン映画祭2024の開催中に行われ、プレゼンターは選考母体である文化省の大臣です。
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2024/06/16/6c8240.jpg)
(金熊賞受賞のマリア・サモラとカルラ・シモン、ベルリン映画祭2022ガラ)
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2024/06/16/6c8241.jpg)
(金貝賞受賞のマリア・サモラ、サンセバスチャンFF2023、プレス会見)
★授賞理由は、マリア・サモラは「国際市場におけるスペインの独立系映画の存在感を高め、感受性豊かで多様性のある視点に影響を与えている」こと、「サンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞し、2024年のゴヤ賞で8部門ノミネートされた複数の作品」を手掛けたことを挙げている。複数の作品の一つが『ライ麦のツノ』(新人女優賞受賞ジャネット・ノバス)、ほかにアルバロ・ガゴの「Matria」(新人監督・主演女優賞)やエレナ・マルティン・ヒメノがガウディ賞を制覇するもゴヤ賞はノミネートに終わった「Creatura」(監督・助演男優・助演女優・新人女優賞)などが含まれます。
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2024/06/16/6c8243.jpg)
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2024/06/16/6c8242.jpg)
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2023/05/22/67cad6.jpg)
★審査員は以前から危険を顧みずに無名のプロジェクトに支援を続ける独立系の制作会社に光を与えたいと考えていたようでした。それも監督や俳優のように常に脚光を浴びる存在ではなく、縁の下の力持ちである製作者を選びたかったそうです。というのも製作者が選ばれたのは2018年、アルモドバル兄弟が設立した「エル・デセオ」のエステス・ガルシアまで遡る必要があったからです。彼女が女性プロデューサーの初の受賞者でした。
*エステル・ガルシアの紹介&授与式の記事は、コチラ⇒2018年09月17日/09月26日
★マリア・サモラは、1976年バレンシア生れの47歳、プロデューサー。バレンシア大学で企業経営と運営管理を専攻、視聴覚制作管理の修士号を取得した。2000年、バレンシアのテレビ局チャンネル9(現チャンネルNou)でキャリアをスタートさせる。2001年、マドリードに移り、アバロン・プロダクションのプログラム・アシスタント、プロデューサーとして働く。2007年5月、アバロンPCの創設メンバーとなり、エグゼクティブディレクターとなる(~2021)。
★初期には、ダニエル・サンチェス・アレバロ(04「Física II」)、ダビ・プラネル(05「Ponys」)、ベアトリス・サンチス(08「La clase」、10「La otra mitad」)、カルラ・シモン(19「Después también」)などの短編を手掛けている。その後ダビ・プラネルの「La vergünza」、ベアトリス・サンチスの「Todos están muertos」、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』などの長編で成功をおさめている。
★2021年にアバロンPCを退社、エンリケ・コスタ(アバロンの配給会社兼パートナー)とエラスティカ・フィルム Elastica Films を設立、独立系の主に女性監督の映画を手掛ける。その1作目がカルラ・シモンの「Alcarràs」で、幸先よくベルリンの金熊賞を受賞する。続いてカンボルタの『ライ麦のツノ』、アルバロ・ガゴのデビュー作「Matria」、エレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」と先述した通りの快進撃、今年から来年にかけて、話題作が目白押しである。シモンの3作目「Romería」は撮影も終わり、ロドリゴ・ソロゴジェンのパートナーで『おもかげ』に主演したマルタ・ニエトを監督として長編デビューさせるようです。
★マリア・サモラはインタビューで「製作する映画を選ぶ理由は常に同じとは限りません。脚本だけに拘るわけではないのです。しかし決して安易な決定ではなく、それらがありきたりでなく語られるに値するストーリーのあることが決め手です。自分にインパクトをあたえたり共鳴したりするプロジェクトであれば、興味を持ってくれる人が増えるのではないかと思っているからです」と語っている。一例としてカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』を挙げている。本作のメインのプロデューサーは、バレリー・デルピエールでしたが、サモラも共同プロデューサーとして参画しています。脚本の要約を読んだとき「嘘が微塵もなかったことに感銘を受けました。瞬時に共感できる真実があり、まさにそれは純金でした」と、エルパイスのインタービューに応えている。
★サモラは長いあいだ女性監督とタッグを組んできた理由として、「男女間の平等の欠如を懸念していた時期があり、そのことが女性監督をサポートしてきた理由」であることを認めている。これからは「多様性に焦点を当てて、新しいジャンル、新しい視点、あまり馴染みがない、自分にとって居心地がよくない場所から語られる物語も探求したい。しかし、それは挑戦です」と。まだ公表できる段階ではないが、3つのプロジェクトが進行中ということでした。
★審査員の紹介:審査委員長はイグナシ・カモス・ビクトリア(ICAA映画視聴覚芸術研究所長官)、カミロ・バスケス・ベリョ(ICAA副長官)、理事としてフアン・ビセンテ・コルドバ・ナバルポトロ(スペイン映画アカデミー代表)、ジョセップ・ガテル・カストロ(視聴覚メディア著者文学代表)、ダニエル・グラオ・バリョ(俳優組合代表)、パウラ・パラシオス・カスターニョ(CIMAスペイン女性映画製作者協会代表)、ICAA理事デシレ・デ・フェス・マルティン、スサナ・エレラス・カサド、アリアドナ・コルテス・プリオ、前年の受賞者カルラ・シモンの10名です。
◎フィルモグラフィー(邦題、監督名、短編・TVシリーズは除く)
2008「Acné」『アクネACNE』フェデリコ・ベイロ(ハバナ映画祭新人監督賞)
2009「La vergünza」ダビ・プラネル(マラガ映画祭2009金のビスナガ賞)
2009「La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ(サンセバスチャン映画祭銀貝監督賞)
2010「Un lugar lejano」ジョセップ・ノボア
2011「La cara oculta」『ヒドゥン・フェイス』アンドレス・バイス
2012「Mapa」(ドキュメンタリー)エリアス・レオン・シミニアニ
(セビーリャ・ヨーロッパ映画祭ドキュメンタリー賞)
2014「Todos están muertos」ベアトリス・サンチス
(マラガ映画祭銀のビスナガ審査員特別賞)
2016「María ( y los demás)」『マリアとその家族』共同プロデューサー、ネリー・レゲラ
(メストレ・マテオ賞)
2017「Verano 1993」『悲しみに、こんにちは』エグゼクティブディレクター、
カルラ・シモン (ベルリン映画祭新人監督賞)
2017「Amar」『禁じられた二人』
エステバン・クレスポ&マリオ・フェルナンデス・アロンソ
2018「Apuntes para una pelícla de atracos」(ドキュメンタリー)
エリアス・レオン・シミニアニ
2019「Los días que vendrán」カルロス・マルケス≂マルセ(マラガ映画祭金のビスナガ賞)
2019「My Mexican Bretzel」『メキシカン・プレッツェル』(ドキュメンタリー)
ヌリア・ヒメネス・ロラング
2021「Libertad」『リベルタード』クララ・ロケ&エドゥアルド・ソラ(ゴヤ新人監督賞)
*以下はElastica Films エラスティカ・フィルム製作
2022「Alcarràs」カルラ・シモン
2022「Qué hicimos mal」リリアナ・トーレス
2023「Matria」アルバロ・ガゴ
2023「Creatura」エレナ・マルティン・ヒメノ
2023「O corno」『ライ麦のツノ』ハイオネ・カンボルダ
2024「Polvo serás」カルロス・マルケス≂マルセ
*プレ&ポストプロダクション
2025「Romería」プレプロダクション、カルラ・シモン3作目
「Hildegart」ポストプロダクション、パウラ・オルティス、「La novia」(15)の監督
「Las madres no」同上、マル・コル、2009年『家族との3日間』で長編デビュー
「La mitad de Ana」同上、マルタ・ニエト、短編「Son」(22)に続く長編デビュー作
◎関連記事・管理人覚え◎
*『ライ麦のツノ』の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年07月17日
*「Creatura」の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年05月22日
*「Matria」の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年03月08日
*「Alcarràs」の作品紹介記事は、コチラ⇒2022年01月27日
*『リベルタード』の作品紹介記事は、コチラ⇒2021年10月12日
*『メキシカン・プレッツェル』の作品紹介記事は、コチラ⇒2020年09月14日
*「Los días que vendrán」の作品紹介記事は、コチラ⇒2019年04月11日
*『悲しみに、こんにちは』の作品紹介記事は、コチラ⇒2017年02月22日
*『マリアとその家族』の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月14日
*「Todos están muertos」の作品紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2024/06/16/9693510/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。