サルバドル・カルボ ”1898, Los ultimos de Filipinas” *ゴヤ賞2017 ⑤2017年01月05日 14:40

          歴史に基づく勝利無き英雄たちのアクション・アドベンチャー

 

★スペインで戦争歴史映画といえば、イコール「スペイン内戦」、今もって懸案事項の一つであり続けています。しかし本作は内戦物ではなく、その時代背景はタイトル通り19世紀末の1898年、舞台はフィリピンのルソン島にあるシティオ・デ・バレル、そこの小さな教会に337日間立てこもって戦ったスペイン駐屯軍のレジスタンスが語られる。1898年は、スペイン人にとっては植民地キューバに続いてフィリピンも失い、かつて栄華を誇ったスペイン帝国が完全に瓦解した不名誉な年である。

 

 

 (左から、カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス、アルバロ・セルバンテス、

  ルイス・トサール、ハビエル・グティエレス、カルロス・イポリト、リカルド・ゴメス)

 

サルバドル・カルボの長編デビュー作1898, Los últimos de Filipinasのご紹介。ゴヤ賞ノミネーション9個(新人監督・新人男優・撮影・プロダクション・美術・録音・衣装デザイン・メイク&ヘアー・特殊効果)、フォルケ賞作品賞ノミネーション(Enrique Cerezo P.C.)と熱い視線が注がれている。デビュー作とはいえ、カルボ監督は既にTVドラで活躍中、それがキャスト、スタッフの豪華さに繋がっている。撮影は2016年の5月から6月にかけて、赤道ギニア共和国やカナリア諸島のグラン・カナリアで9週間にわたって行なわれた。1945年、アントニオ・ロマンがLos últimos de Filipinasのタイトルで映画化している。そこでは当時の政権に不都合だったエピソードは語られることはなかったが、本作では隠された真実も姿を表わすようです。

 

    1898, Los últimos de Filipinas2016

制作:13TV / CIPI Cinematografica S.A. / Enrique Cerezo Producciones Cinematograficas S.A. /

 ICAA / TVE

監督:サルバドル・カルボ

脚本:アレハンドロ・エルナンデス

音楽:ロケ・バニョス・ロペス

撮影:アレックス・カタラン・フェルナンデス

美術:カルロス・ボデロン

録音:エドゥアルド・エスキデフアン・フェロニコラス・デ・ポウルピケ

編集:ハイメ・コリス

衣装デザイン:パオラ・トーレス

メイクアップ&ヘアー:アリシア・ロペスペドロ・ロドリゲス、ほか

特殊効果:パウ・コスタカルロス・ロサノ

プロダクション:カルロス・ベルナセス

製作者:エンリケ・セレソ、ペドロ・コスタ

 

基本データ:製作国スペイン、スペイン語、2016年、105分、戦争歴史物、製作費約600万ユーロ、撮影地・期間、赤道ギニア共和国、グラン・カナリア、9週間、フォルケ賞2017作品賞ノミネーション、ゴヤ賞9部門ノミネーション、映倫PG12IMDb評価6.7点、スペイン公開2016122

 

キャスト:ルイス・トサール(サトゥミノ・マルティン・セレソ中尉)、ハビエル・グティエレス(ヒメノ軍曹)、エドゥアルド・フェルナンデス(エンリケ・デ・ラス・モレナス艦長)、アルバロ・セルバンテス(兵士カルロス)、カラ・エレハルデ(カルメロ司祭)、カルロス・イポリト(ロヘリオ・ビヒル・デ・キニョネス医師)、リカルド・ゴメス(兵士ホセ)、ミゲル・エラン(兵士カルバハル)、パトリック・クリアド(兵士フアン)、ペドロ・カサブランク(クリストバル・アギラール中佐)、フランク・スパノ(タガログ人の密使)、アレクサンドラ・マサングカイ(先住民テレサ)、エミリオ・パラシオス(モイセス)、シロ・ミロ(騎馬兵)ほか多数

*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされたスタッフとキャスト

 

     

             (指揮官エドゥアルド・フェルナンデス)

 

物語1898年の夏、ルソン島の海岸沿いの小村バレル、スペインの兵士たちが独立のため蜂起した先住民の一団に苦戦している。立てこもった教会を包囲された指揮官エンリケ・デ・ラス・モレナスとマルティン・セレソ中尉は、50名にも満たないわずかな陣容で戦わざるをえなかった。指揮官の死後、ヒメノ軍曹とともに駐屯軍を指揮したセレソ中尉は、熱病やマラリアにも苦しめられながら勝利も栄光もない戦いを強いられた。度重なる警告にも拘わらず何の対策も打ち出せなかった政府は、米国の援助を受けた反乱軍を前にしてなす術もなく、領土の割譲を余儀なくされる。1898630日から翌年62日、337日間に及ぶ兵士たちの抵抗はパリ条約の締結により終りを告げた。

 

    

   (左から、ルイス・トサール、カルロス・イポリト、後方が籠城したバレルの教会)

 

 トレビア

サルバドル・カルボSalvador Calvo1970年マドリード生れのテレビ&映画監督。2000TVドラ・シリーズ“Policias, en el corazón de la calle”の助監督として出発、2002年には同ドラマ4挿話を監督する。代表作は“Las aventuras del capitán Alatriste”(20134挿話)や“Hermanos”(20144挿話)、ほか多数手掛けておりテレビ監督としてはベテラン。46歳で長編映画デビューを果たした。

 

★監督談によると、最初のプランは村の教会に閉じ込められたスペイン駐屯軍のウエスタン風の「潜水艦ドラマ」を構想していた。しかし最後の植民地喪失がスペイン帝国の決定的な崩壊であることを明確にして、そのメタファーを強める意味で敢えて「1898年」という崩壊の年号をタイトルに入れ、新しい時代の出発を強調したかった。実際は米国に敗北して領土割譲という屈辱的なパリ条約を締結するわけですから、本質的にはペシミスティックではあるが、この独創的なスペインの未来に期待しているのかもしれない。

 

★製作会社「Enrique Cerezo Producciones Cinematograficas S.A.」の設立者エンリケ・セレソは、フォルケ賞を主催するEGEDA会長、それで作品賞にノミネーションされたのでしょうか。と言うのも122日公開だから、本当は来年回しのはずです(対象は2015121日~20161130日)。多分受賞はないと予想しますが、原則論者からは不満が出るかもしれない。

 

  

       (サルバドル・カルボ監督とプロデューサーのエンリケ・セレソ)

 

★アントニオ・ロマンの「1945年版」では監督以下、アルマンド・カルボ(中尉役)、ホセ・ニエト(指揮官役)、ギジェルモ・マリン(医師役)ほか、日本でもクラシック映画で知名度の高いフェルナンド・レイ、フアン・カルボ(アルマンドの実父)、トニー・ルブランなどが出演、当然ながら殆どが鬼籍入りしています。兵士の逃亡などは、フランコ政権の不都合によりカットされていたようです。

 

★俳優陣のうち、ルイス・トサール(『プリズン211』『暴走車 ランナウエイ・カー』)、エドゥアルド・フェルナンデス(『スモーク・アンド・ミラーズ』『エル・ニーニョ』)、ハビエル・グティエレス(『マーシュランド』『The Olive Tree』)、カラ・エレハルデ(『ネイムレス』『ザ・ウォーター・ウォー』)のベテラン勢は日本語ウィキペディアで紹介記事が読める。当ブログにも度々登場願っているので割愛。

 

   

    (左から、カラ・エレハルデ、エドゥアルド・フェルナンデス、ルイス・トサール)

 

★若手で今回「新人男優賞」ノミネートのリカルド・ゴメスは、1994年マドリード生れの俳優、テレビ、舞台でも活躍の22歳。現在マドリードのコンプルテンセ大学比較文学科に在籍中、勉学と俳優業の二足の草鞋を履いている。2001年から始まったTVドラ・シリーズCuéntame cómo pasó7歳でデビュー、スペインで放映時間が近づくと通りから人影が消えてしまうと言われた人気ドラマ。「フランコ小父さんって何をした人なのか僕たちに話してよ」と、軍事独裁時代を知らない若者にドラマでスペイン現代史を教えるという内容。もちろん秘密のベールに覆われていた時代だから、大人でさえも知らないことだらけ、それで一家揃ってお茶の間に陣取った。マドリードに暮らすアルカンタラ一家の8歳になる末っ子カルロスの人生が語られ、時間とともに成長するカルリート・ゴメスをスペイン人はずっと見てきており、現在も続行中です。

 

             

               (リカルド・ゴメスの今と昔)

 

★映画デビューは、アントニオ・ナバロのアニメLos Reyes Mago03)のボイス、ホセ・ルイス・ガルシのコメディTiovivo c. 195004)、同作はオスカー賞スペイン代表作品の候補にもなったが、アメナバルの『海を飛ぶ夢』に敗れた。というわけで本作出演が成人してからの本格的な映画デビューと言っていいでしょう。

 

    

  (プレス会見でインタビューに応えるリカルド・ゴメスと共演者アルバロ・セルバンテス)

 

★脚本を執筆したアレハンドロ・エルナンデスは、キューバ出身の脚本家、2000年にスペインに移住しているシネアスト流出組の一人。今回ノミネートはありませんでしたが、以前紹介したマヌエル・マルティン・クエンカのMalas temporadas(『不遇』)を監督と共同執筆しています。ノミネーションを受けた撮影監督のアレックス・カタランは『マーシュランド』でゴヤ賞を受賞したばかり、『スモーク・アンド・ミラーズ』も手掛けているが、今回はどうでしょうか。スペイン各紙の映画評は概ね好意的で、何かの賞には絡むのではないかと思います。

*追記:邦題『1898:スペイン領フィリピン最後の日』で Netflix 配信されました。

 

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