ペネロペ・クルスが女優賞*第78回ベネチア映画祭2021 ― 2021年09月15日 16:17
女性監督とネットフリックスに光が当たったベネチア映画祭授賞式

★去る9月11日(現地時間)、第78回ベネチア映画祭の授賞式がありました。もう古いニュースになってしまいましたが、金獅子賞にフランスのオドレイ・ディワン(ディバン)の「L’Evénement / Happening」が満場一致の即決だった由、銀獅子賞監督賞にオーストラリアのベテラン監督ジェーン・カンピオンの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(ニュージーランドとの合作)に、マギー・ギレンホール(ジレンホール)の初監督作品「ザ・ロスト・ドーター」(ギリシャ・米国・英・イスラエル)に脚本賞、ノミネーション21作のうち女性監督は5作、うち1作は男性との共同にもかかわらず、メインの大賞を女性監督が独占した形になった。銀獅子賞審査員グランプリにはイタリアのパオロ・ソレンティーノの『The Hand of Got 神の手が触れた日』が受賞、主演のフィリッポ・スコッティが新人賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した。オドレイ・ディワン以外は年内Netflixで配信が決定しており、Netflixの存在は無視できなくなったようです。

(金獅子賞のオドレイ・ディワン)

(銀獅子賞審査員グランプリのパオロ・ソレンティーノ)

(銀獅子賞監督賞のジェーン・カンピオン)

(脚本賞のマギー・ギレンホール)
★ペドロ・アルモドバルの「Madres paralelas」に主演したペネロペ・クルスが、女優賞ヴォルピ杯を受賞しました。彼女はアルゼンチンのデュオ監督ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの「Competencia oficial」にも主演していたので、豪華な衣装代もさることながらフォトコールに駆けまわっていました。

(バッグなど小物も含めてシャネルで決めたペネロペ・クルス)
★栄誉金獅子賞は、既に紹介済みのロベルト・ベニーニと、アメリカの女優ジェイミー・リー・カーティスでした。当日には、ジョン・カーペンター総指揮の新作ホラー『ハロウィンKILLS』が上映された。『ハロウィン』(78)の40年後を描いた続編、彼女は主人公ローリーを演じている。

(ロベルト・ベニーニ)

(ジェイミー・リー・カーティス)
★Netflixの宣伝をするわけではありませんが、各映画の配信予定は以下の通り:
*『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は2021年11月公開・配信は、2021年12月1日~
*『The Hand of Got 神の手が触れた日』の配信は、2021年12月15日~
*「ザ・ロスト・ドーター」の配信は、2021年12月31日~
『笑う故郷』のデュオ監督のコメディ*サンセバスチャン映画祭2021 ⑳ ― 2021年09月10日 14:18
ペルラス部門の開幕作品「Competencia oficial」はベネチアでプレミア

(ペルラス部門のポスター)
★アルゼンチンのガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの「Competencia oficial」は、ベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、サンセバスチャン映画祭では「ペルラス」部門のオープニング作品に選ばれたブラック・コメディ。キャストにスペインを代表するアントニオ・バンデラスとペネロペ・クルス、両人ともドノスティア栄誉賞受賞者、アルゼンチンからはベネチアFF2016の男優賞ヴォルピ杯の受賞者オスカル・マルティネスと豪華版、大ヒットした『笑う故郷』を超えられたでしょうか。ベネチアでは既に上映され、緊張と皮肉がミックスされた不愉快なコメディは、概ねポジティブな評価のようでした。かつて見たことのないバンデラスやクルスを目にすることができるか楽しみです。
*『笑う故郷』(「名誉市民」)関連記事は、コチラ⇒2016年10月13日/同10月23日

(カンヌ映画祭を揶揄した?「Competencia oficial」のポスター)

(赤絨毯に現れたクルスをエスコートするバンデラス、ベネチアFF2021)

(勢揃いした左から、マリアノ・コーン監督、アントニオ・バンデラス、
ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス、ガストン・ドゥプラット監督)
★ペルラス部門はスペイン未公開に限定されますが、既に他の国際映画祭での受賞作品、評価の高かい作品が対象です。従って本作に見られるようにベネチア、カンヌ、ベルリン、トロント各映画祭の作品が散見されます。日本からはカンヌ映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』がアウト・オブ・コンペティションで特別上映、ベルリン映画祭で審査員大賞を受賞した『偶然と想像』がコンペティションに選ばれています。ドノスティア(サンセバスチャン)市観客賞に5万ユーロ、ヨーロッパ映画賞に2万ユーロの副賞が出る。
「Competencia oficial / Oficial Competition」
製作:The MediaPro Studio
監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
脚本:アンドレス・ドゥプラット、ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
撮影:アルナウ・バルス・コロメル
編集:アルベルト・デル・カンポ
プロダクション・デザイン:アライン・バイネ
美術:サラ・ナティビダ
セットデコレーション:クラウディア・ゴンサレス・カルボネル、ソル・サバン、パウラ・サントス・サントルム
衣装デザイン:ワンだ・モラレス
メイクアップ&ヘアー:マリロ・オスナ、エリ・アダネス、アルバ・コボス、パブロ・イグレシアス、(ヘアー)セルヒオ・ぺレス・ベルベル、他
プロダクション・マネージメント:ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、他
録音:アイトル・ベレンゲル
製作者:ジャウマ・ロウレス、(エグゼクティブ)ハビエル・メンデス、エバ・ガリド、他
データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2021年、ブラックコメディ、114分、撮影地スペイン、配給ブエナビスタ・インターナショナル・スペイン、公開スペイン2022年1月14日、アルゼンチン1月20日、ロシア3月10日
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2021コンペティション9月4日、トロント映画祭9月14日、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門オープニング作品9月17日
キャスト:ペネロペ・クルス(映画監督ロラ・クエバス)、アントニオ・バンデラス(ハリウッド俳優フェリックス・リベロ)、オスカル・マルティネス(舞台俳優イバン・トレス)、ホセ・ルイス・ゴメス(製薬業界の大物)、イレネ・エスコラル(大物の娘)、ナゴレ・アランブル、マノロ・ソロ、ピラール・カストロ、コルド・オラバリ、カルロス・イポリト、フアン・グランディネッティ、ケン・アプルドーン、他
ストーリー:超越と社会的名声を求めて、大富豪の実業家は自分の足跡を残すため映画製作に乗り出します。それを実行するため最高のものを雇います。監督には有名なロラ・クエバス、俳優にはこれまた超有名で才能あふれる2人を選びます。しかしハリウッドスターのフェリックス・リベロと過激な舞台俳優イバン・トレスはエゴの塊り、二人ともレジェンドになっていますが、正直のところ友人同士とは言い難いのです。クエバス監督によって設定され、どんどんエキセントリックになっていく一連の試練を通して、フェリックスとイバンはお互いだけでなく、自分自身の過去とも直面することになる。誇大妄想狂の億万長者から傑作を依頼されるロラの冒険物語であり、映画産業の危険性についての妄想的な解説でもある。

(数トンもあるダモクレスの剣ならぬ岩の下で危険に命をかけている3人)
映画産業についての少し悪意のこもったコメディ
★今年のベネチアのペネロペ・クルスは、アルモドバルのオープニング作品に選ばれた「Madres paralelas」と本作の主役で大忙し、よく働くと感心する。彼女が扮するロラは、非凡な才能をもっているがノイローゼ気味の独裁者、アーティストでプリマドンナだが壊れやすい。そしてこれ以上のキャスティングはないと思われる2人の俳優を選ぶが、二人は共演したことがない。アントニオ・バンデラス扮するフェリックス・リベロはハリウッド映画界きっての大スター、軽薄なファンに囲まれたセレブ、インターナショナルな商業映画では水を得た魚のように泳げるが・・・。片やオスカル・マルティネス扮するイバン・トレスは、スタニスラフスキー演技法を学んだ演劇界の大御所、インテレクチュアルなマエストロである。ただし揃いもそろってエゴの塊だ。

(打ち合せ中のバンデラス、クルス、マルティネスとデュオ監督)
★脚本家のアンドレス・ドゥプラットは、ガストン・ドゥプラットの実兄、『笑う故郷』の執筆者、彼は建築家でアート・キュレーター、その経験を活かして執筆したのが『ル・コルビュジエの家』(09)、2012年に公開されたとき来日している。アンドレスは「最良の意味で、詐欺がアートにとって優れており不可欠なもの。無駄で利己的であることは、普通の人が行かないところへアーティストを行かせる」とラ・ナシオン紙のインタビューに語っている。マルティネスは「自我がなければ映画や本、政治的なものさえ存在しない。勿論、それをマスターしなければならない」と主張する。エゴはロバと同じで飼いならさなければならない。クルスは「虚栄心は飼いならさなければただの野生動物です」と。バンデラスは慎重に「エゴは金庫に入れておかねばならない」と。ロラ・クエバスのモデルはアルゼンチンの「サルタ三部作」や『サマ』の監督ルクレシア・マルテルの分身と言うのだが・・・

(フェリックスとライオン・ヘアーの鬘がトレードマークのロラ)
★大富豪だが映画産業には精通しているとは思えないプロデューサーの野望のまえで危険に晒される。80歳になる依頼主は、イレネ・エスコラル扮する娘を主役にする条件で歴史に残る傑作を要求する。ホセ・ルイス・ゴメスは、アルモドバルの『抱擁のかけら』で若い愛人P.P.を繋ぎとめるために映画出演させる実業家に扮した俳優、誇大妄想狂な実業家ということで目配せがありそうです。この映画のプロットはいただけませんでしたが、過去の映画やシネアストたちへのオマージュ満載で大いに楽しめた。デュオ監督の新作にも期待していいでしょうか。

(カンヌらしき映画祭の赤絨毯に現れたロラ、フェリックス、大富豪の娘、大富豪、
ロラの衣装はSSIFF2020開幕司会者カエタナ・ギジェン・クエルボの衣装と同じか?)
★ガストン・ドゥプラット監督によると、クランクインはスペインで2020年の2月、しかしパンデミックで7ヵ月間中断してしまった。しかしその期間に創造性を推敲する時間がもてたと述べている。アルゼンチンとイタリアを行き来するには10日間の隔離期間をクリアーしなければならないから、合間に仕事をするのは難しいとも語っている。アドリア海に浮かぶリド島には、『笑う故郷』(当ブログでは原題の『名誉市民』)で訪れている。主役のオスカル・マルティネスが男優賞ヴォルピ杯を受賞している。デュオ監督はヤング・ベネチア賞スペシャル・メンション他を受賞している。

(男優賞受賞のオスカル・マルティネス、ベネチアFF2016)
★ジャウマ・ロウレス(バルセロナ1950)は、制作会社メディアプロのCEO、バルセロナ派を代表する製作者、昨年のSSIFF開幕作品、ウディ・アレンの「Rifkin’s Festival」ほか、『それでも恋するバルセロナ』、『ミッドナイト・イン・パリ』などを手掛けている。フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でスタート、ハビエル・バルデムを主役にセクション・オフィシアルにノミートされている「El buena patrón」、最後のガローテ刑の犠牲者サルバドール・プッチ・アンティックを主人公にしたマヌエル・ウエルガの『サルバドールの明日』、ハビエル・フェセルの『カミーノ』でゴヤ賞2009作品賞を受賞している。アレックス・デ・ラ・イグレシアのドキュメンタリー『メッシ』、ドゥプラット作品では「Mi obra maestra」(18)をプロデュースしている。バルセロナに彼の名前を冠した通りがあるとかで、本作の大富豪と何やら共通点がありそうなのでアップしました。

(ドゥプラットの「Mi obra maestra」のポスター)
★劇中ではいがみ合った3人も、撮影中は笑いが絶えなかったという主演者、「こんなに笑ったことはないし、笑いは体制をも転覆させる。演技中も楽しかった」とバンデラス、「ロラは解放者で滑稽、魅力的な精神病質者、素晴らしいアイディアのインテリ、ただしおバカで自己中心的」とクルス。サンセバスチャン映画祭出席のリストにクルスと、「El buena patrón」主演のハビエル・バルデムの出席はアナウンスされています。ペルラス部門はメインでないからアルゼンチン組の現地入りの可能性は少ない。いずれにしても本作は字幕入りで鑑賞できますね。
ロレンソ・ビガスの新作「La caja」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑲ ― 2021年09月07日 17:33
第5弾――『彼方から』6年ぶりの新作「La caja」

★ホライズンズ・ラティノ部門ノミネートのロレンソ・ビガス(ベネズエラのメリダ1967)の「La caja」は、ベネチア映画祭2021のコンペティションでワールドプレミアされます(結果発表は9月11日)。監督は2015年の「Desde allá」で金獅子賞を受賞、ラテンアメリカにトロフィーを運んできた最初の監督になりました。ラテンビート2016では『彼方から』の邦題で上映されています。ラテン諸国のなかでもベネズエラは、当時も現在も変わりませんが政情不安と貧困が常態化しており、映画産業は全くといっていいほど恵まれていません。受賞作はメキシコとの合作、新作はメキシコと米国の合作、監督は20年前にメキシコにやって来て映画製作をしており、ベネズエラは監督が生まれた国というだけです。メキシコのミシェル・フランコとは製作者として互いに協力関係にあります。新作の舞台はメキシコ北部のチワワ州の大都市シウダー・フアレス、アメリカと国境を接しているマキラドーラ地帯を背景にしています。キャリア&フィルモグラフィーは、『彼方から』でアップしています。
*『彼方から』関連記事は、2015年08月08日/同年10月09日/2016年09月30日

(左から、エルナン・メンドサ、監督、ハッツィン・ナバレテ、ベネチアFF2021)
「La caja / The Box」
製作:Teorema(メキシコ)/ SK Global Entertainment / Labodigital(メキシコ)
監督:ロレンソ・ビガス
脚本:パウラ・マルコビッチ、ロレンソ・ビガス
撮影:セルヒオ・アームストロング
編集:パブロ・バルビエリ・カレーラ、イザベラ・モンテイロ・デ・カストロ
プロダクション・デザイン:ダニエラ・シュナイダー
プロダクション・マネージメント:サンティアゴ・デ・ラ・パス、マリアナ・ラロンド
衣装デザイン:ウルスラ・シュナイダー
視覚効果:エドガルド・メヒア、ディエゴ・バスケス・ロサ
キャスティング:ビリディアナ・オルベラ
音楽:マウリシオ・アローヨ
製作者:ミシェル・フランコ、ホルヘ・エルナンデス・アルダナ、ロレンソ・ビガス(以上はTeorema)、(エグゼクティブ)マイケル・ホーガン(SK Global Entertainment)、チャールズ・バルテBarthe(Labodigital)、ジョン・ペノッティ、ブライアン・コルンライヒ、キリアン・カーウィン、他多数
データ:製作国メキシコ=米国、スペイン語、2021年、スリラー・ドラマ、92分、撮影地チワワ州(シウダーフアレス、クレエル、サンフアニート、他)、パナビジョンカメラ(35ミリ)使用
映画祭・受賞歴:第78回ベネチア映画祭コンペティション部門ノミネーション(9月6日)、トロント映画祭2021上映、第69回サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門ノミネーション
キャスト:ハッツィン・ナバレテ(ハッツィン・レイバ)、エルナン・メンドサ(父親に似た男性マリオ)、クリスティナ・スルエタ(ノリタ)、エリアン・ゴンサレス、ダルス・アレクサ・アル・ファロ、グラシエラ・ベルトラン
ストーリー:死んだと信じている父親を探す13歳の少年ハッツィンの物語。メキシコシティ生れのハッツィンは、父親の遺骨を引き取るための旅に出ます。メキシコ最北部の広大な空だけに囲まれた共同墓地で発見されたからです。遺骨の入った箱を渡されるが、街中で父親と体形が似ている男を偶然目撃したことで、彼の父親の本当の居場所についての疑問と希望が少年を満たしていきます。ラテンアメリカ諸国に共通している父の不在、父性の問題、行方不明者の問題に踏み込んだスリラー。箱の中身は何でしょうか。<父性についての三部作> 最終章。

(メキシコ最北部の砂漠で少年と父に似た男性、フレームから)
「La caja / The Box」は<父性についての三部作>の最終章
★デビュー作の早い成功は、多くの監督に次回作に大きなプレッシャーをもたらします。ロレンソ・ビガスも例外ではなかったでしょう。何しろ三大映画祭の一つ金獅子賞でしたから、「受賞にとらわれないようにすることに苦労した」と明かしている。『彼方から』のフィルモグラフィーでも述べたように、本作は2004年にカンヌ映画祭併催の「批評家週間」でプレミアされた短編映画「Los elefantes nunca olvidan」(13分、製作ギジェルモ・アリアガ)を第1部、『彼方から』を第2部、新作が最終章とする三部作、監督にとっては必要不可欠な構想だったから、完結できたことを喜びたい。前2作と角度が違うのは、本作では父親の欠如がもたらす結果に踏み込んでいること、家族を維持するための父親をもつために、少年に何ができるかを掘り下げている。また90歳で死ぬまで描き続けたという父親で画家だったオスワルド・ビガスを描いたドキュメンタリー「El vendedor de orquídeas」(16、75分)も、同じテーマなのでリストに入れてもいいということです。

(父親を配した「El vendedor de orquídeas」のポスター)
★キャストは、舞台演出家でベテラン俳優のエルナン・メンドサを起用、ミシェル・フランコの『父の秘密』(12)の凄みのある演技でアリエル賞にノミネート、アミル・ガルバン・セルベラほかの「La 4a Compañia」(16)でマイナー男優賞を受賞している。「ハッツィン・ナバレテと出会えたことが幸運だった」と語る監督は、主人公の少年探しは簡単ではなかったという。時間をかけて全国の学校を回り、犯罪率の高さで汚名を着せられているメヒコ州シウダー・ネツァワルコヨトルで彼を見つけるまで時間が掛った。ベネチアまで来られたのは彼の隠れた才能のお蔭だと言い切っている。またメキシコで出会った友人たちに感謝を忘れず「今回はメキシコを代表してやってきました」と述べた。以前から「自分はメキシコで生まれていなくてもメキシコ人です」と語っており、故国ベネズエラは遠くなりにけりです。

(少年とエルナン・メンドサ扮する偶然出会った男性、フレームから)
★撮影地にはメキシコ北部としか決めていなかったが、チワワ州に到着して「ここでなければならない」と思った。それは風景の圧倒的な美しさと、そこにある現実の美しさと恐ろしさのコントラストが決め手だったようです。ビデオではなく35ミリ撮影に拘ったのは「35ミリは光がフィルムと目を通過するため、依然として人間の目に近い。ビデオは電子的に生成されるから、映画館で見るとき、技術的な進歩にもかかわらず画像を知覚する感情的な方法は依然として35ミリです」とエル・パイス(メキシコ版)のインタビューに応えている。テキサス州エル・パソと国境を接するシウダー・フアレスからクレエルまでチワワ州の10ヵ所で撮影した。クレエルではメキシコでは滅多に見られない降雪があり「とても印象的でした」と。私たちは映画の中で美しい降雪に出会うでしょう。

(撮影中のロレンソ・ビガス監督)
★1990年代からシウダー・フアレスで出現し、現在も続いている女性連続失踪事件に踏み込んだのは、メキシコに来て最初に直面した衝撃の一つだったからで、脚本に自然に登場したと述べている。<フアレスの女性の死者たち>と呼ばれる殺人事件で、犠牲者は2万人にのぼる。ロベルト・ボラーニョの遺作となった小説『2666』にも登場する。小説ではサンタテレサという架空の名前になっているがシウダー・フアレスがモデルである。犠牲者の多くがマキラドーラ*の多国籍企業の下請けで低賃金で働く女性労働者であり、映画では少年をマキラドーラ産業の或る製品組立工場に導いていく。国家公安機構事務局の統計によると、2020年で最も多かった自治体はシウダー・フアレス市だったという。

(マキラドーラ産業の或る製品組立工場、フレームから)

(林立する犠牲者の十字架、シウダー・フアレス)
★脚本を監督と共同執筆したパウラ・マルコビッチ(ブエノスアイレス1968)は、ビガス同様メキシコで映画製作をしていますが、アルゼンチン出身の監督、脚本家、作家、自身の小説が映画化されている。メキシコの監督フェルナンド・エインビッケの『ダック・シーズン』や『レイク・タホ』の脚本を監督と共同執筆して、もっぱらメキシコで仕事をしているのでメキシコ人と思われていますがアルゼンチン人です。監督デビュー作「El premio」は故郷に戻って、自身が生れ育ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に、軍事独裁時代を女の子の目線で撮った自伝的要素の強い作品です。ベルリン映画祭2011でプレミアされ、アリエル賞2013初監督作品賞オペラ・プリマ賞以下、国際映画祭での受賞歴が多数あります。

(「El premio」のポスター)
*マキラドーラは、製品を輸出する場合、原材料、部品、機械などを無関税で輸入できる保税加工制度、1965年に制定された。この制度を利用しているのがマキラドーラ産業で、低賃金で若い労働力を得られることで、メキシコに進出して日本企業も利用している。
*追加情報:第34回東京国際映画祭2021「ワールド・フォーカス」部門で『箱』の邦題で上映決定になりました。第18回ラテンビート2021共催上映
アルモドバル新作がオープニング作品*第78回ベネチア映画祭2021 ― 2021年09月04日 15:32
オープニング作品はアルモドバルの「Madres paralelas」

(ベネチア映画祭2021の公式ポスター)
★9月1日、第78回ベネチア映画祭2021(9月1日~11日)が開幕しました。新型コロナウイルス以前の開催日より若干遅いですが、ペドロ・アルモドバルの「Madres paralelas」をオープニング作品に選んで開幕しました。アルモドバルは第76回の栄誉金獅子賞の受賞者です。2019年は『ペイン・アンド・グローリー』で盛り上がった年でした。今年のコンペティション部門は21作、そのうちイベロアメリカ関係では英語映画を含めてミシェル・フランコの「Sundown」ほか5作品、昨年は彼の「Nuevo orden」1作だけでしたから大変な違いです。サンセバスチャン映画祭と被っている作品はそちらで作品紹介をいたしますが、取りあえずタイトルと監督などのデータをアップしておきます。

(ミレナ・スミット、監督、ペネロペ・クルス)

(赤絨毯に勢揃いした監督以下、主演のペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、
イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ヒホン、アグスティン・アルモドバル)
*ベネチア映画祭コンペティション部門*
①「Madres paralelas / Paralled Mothers」スペイン、スペイン語、2021、120分
監督:ペドロ・アルモドバル(スペイン)76回栄誉金獅子賞受賞
キャスト:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、ロッシ・デ・パルマ、アイタナ・サンチェス=ヒホン、フリエタ・セラノ、アデルファ・カルボ、ダニエラ・サンティアゴ、他
*ゴヤ賞2021新人女優賞ノミネートのM・スミットの記事は、コチラ⇒2021年02月23日


(ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、フレームから)
②「Sundown」メキシコ=フランス=スウェーデン、英語・スペイン語、83分
監督:ミシェル・フランコ(メキシコ)「Nuevo orden」で77回審査員大賞受賞
キャスト:ティム・ロス、シャルロット・ゲンズブール、ヘンリー・グッドマン、モニカ・デル・カルメン、イアスア・ラリオス、ほか

(主演のティム・ロス)
③「Spencer」ドイツ=イギリス、英語、2021、111分
監督:パブロ・ラライン(チリ)
キャスト:クリステン・スチュワート、ティモシー・スポール、ショーン・ハリス、エイミー・マンソン、他
*「Spencer」のトレビア紹介記事は、コチラ⇒2020年07月12日


(ダイアナ妃に扮したクリステン・スチュワート)
④「Competencia oficial / Official Comlpetition」スペイン=アルゼンチン、
スペイン語
監督:ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン(アルゼンチン)、『笑う故郷』の監督
キャスト:アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス(73回男優賞受賞)、ホセ・ルイス・ゴメス
*サンセバスチャンFF「ペルラス」部門の開幕作品、SSIFFで別途作品紹介予定
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年09月10日

(左から、アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス)
⑤「La cajas / The Box」メキシコ=米国、スペイン語、2021,92分
監督:ロレンソ・ビガス(ベネズエラ、2015年の『彼方から』で金獅子賞)
キャスト:エルナン・メンドサ、Hatzin Navarrete(デビュー作)、クリスティナ・スルエタ
*サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」部門ノミネーション作品、父親の遺品を求めてメキシコ北部の悪名高いフアレス市を訪れる若者の物語。SSIFFで別途作品紹介予定
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年09月07日


(本作デビューの Hatzin Navarrete、フレームから)
★オープニングに合わせて、ロベルト・ベニーニの栄誉金獅子賞の授賞式が行われました。イタリアの俳優、監督、コメディアン、『ライフ・イズ・ビューティフル』(98、監督・脚本・出演)でアカデミー主演男優賞、カンヌFF審査員特別賞、英国アカデミー賞バフタ主演男優賞などを受賞した。

(ロベルト・ベニーニ、ベネチア映画祭2021、9月1日)
★審査員メンバーは、委員長ポン・ジュノ(監督、韓国)、クロエ・ジャオ(監督、アメリカ)、サラ・ガドン(女優、カナダ)、ビルジニー・エフィラ(女優、ベルギー)、サヴェリオ・コスタンツォ(監督、イタリア)、アレクサンダー・ナナウ(監督、ドイツ)、シンシア・エリボ(女優、英国)の7名です。結果発表は閉会式の9月11日(日本時間12日)。

(左から、ナナウ、ジャオ、エリボ、ポン・ジュノ、エフィラ、コスタンツォ、ガドン)
アルモドバルの初短編がベネチア映画祭で上映*ベネチア映画祭2020 ― 2020年08月16日 15:42
アルモドバル初となる英語映画「The Human Voice」上映が決定

★去る7月28日(現地)、第77回ベネチア映画祭2020(9月2日~12日)のコンペティション上映作品の発表がありましたが、スペイン語映画は、メキシコのミシェル・フランコ「Nuevo orden」(20、「New Order」フランスとの合作)の1作だけでした。カンヌ映画祭受賞者常連のフランコ監督、ベネチアは今回が初登場となります。そのほかでは、アンドレイ・コンチャロフスキー(ロシア)、アモス・ギタイ(イスラエル)、クロエ・ジャオ(米)、ジャンフランコ・ロッシ(伊)などの名前がありました。
★当ブログで製作発表当時から紹介してきた、ペドロ・アルモドバルの初短編「The Human Voice」(「La Voz Humana」30分)がコンペティション外で上映されることになりました。アルモドバル初短編、初英語映画として話題になっていましたが、新型コロナウイルス感染者拡大で完成が遅れていました。ジャン・コクトーの一人芝居” La Voix humaine”(1930) の映画化。去ったばかりの恋人からの電話をひたすら待っている絶望を抱えた女性の物語だそうです。英国女優ティルダ・スウィントンを起用しており、彼女はすでに今回のベネチア映画祭で栄誉金獅子賞を受賞することが決定しています。もう一人の受賞者が香港のアン・ホイ監督、女性が受賞するのは今回が初めてというからびっくりする。
*「La Voz Humana」の紹介記事は、コチラ⇒2020年02月17日

(撮影中の監督と主役ティルダ・スウィントン)
★前回栄誉金獅子賞を受賞したばかりのアルモドバルによると「このコロナ感染の特別な年に、ティルダとベネチアに戻ることができて非常に嬉しい。本作は女優としてティルダが残した数多くの実績の一つです」と。それも自分が昨年受賞した栄誉賞をティルダが受賞するので喜びもひとしおのようです。映画祭ディレクターのアルベルト・バルバラも「今年も再びアルモドバル監督を迎えることができるのはとても光栄なことです」と呼応している。
★コロナの時代の映画祭は、すべてにおいて例年とは異なる。オンライン上映もあり、リド島以外のベネチアの映画館上映、レッド・カーペットは敷く予定だが、審査委員長のケイト・ブランシェット以外の大物シネアストの登場は予定にない由。コロナが世界の映画祭に及ぼす影響は計り知れない。ともあれクラスターを警戒しながら終了して欲しい。

(審査委員長ケイト・ブランシェット)
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