金獅子賞はフィリピン映画*ベネチア映画祭2016結果発表 ④ ― 2016年09月17日 10:06
初出品のアマ・エスカランテが監督賞!
*オフィシャル・セレクション部門*
★金獅子賞はフィリピンの監督ラブ・ディアスLav Diazの“The Woman Who Left”が受賞。スペイン語映画は、昨年の金獅子賞受賞者ロレンソ・ビガスの“Desde allá”(ベネズエラ)に続いて、今年はメキシコのアマ・エスカランテの“La región salvaje”が監督賞、アルゼンチンのオスカル・マルティネスが男優賞(マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラット“El ciudano ilustre”)、英語映画だがパブロ・ララインの“Jackie”が脚本賞を受賞、今年もラテンアメリカ勢が気を吐いた。尚監督賞はロシアのアンドレイ・コンチャロフスキーと分けあった。
*アマ・エスカランテ監督賞(“La región salvaje”、メキシコ=デンマーク)
◎初めてのベネチアで監督賞とは何て強運の持ち主なのだろう。本人も「どんな賞も期待しないよう自制していた。だってそのほうが賢明でしょ。初めてのベネチアにこうしていられて素晴らしい。この賞はケーキに載ってるサワーチェリーのようなものです」とトロフィーを指した。
(トロフィーを手にしたアマ・エスカランテ)
*オスカル・マルティネス男優賞(マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラット“El ciudadano ilustre”、アルゼンチン=西)
◎アルゼンチンはノーベル賞に縁のない国ですが、オスカル・マルティネス扮する作家は、ノーベル文学賞受賞者の「名誉市民」、如何にも皮肉たっぷりのコメディ。ホルヘ・ルイス・ボルヘスは何回も候補に挙げられたが、スウェーデン・アカデミーは選ばなかった。マルティネスは1949年ブエノスアイレス生れ、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』に出演している。「30代から40代の若い監督は、おしなべてとても素晴らしい」と、二人の若い監督に花を持たせた。
(トロフィーを手にしたオスカル・マルティネス)
*パブロ・ラライン脚本賞(“Jackie”、米=チリ)
◎デビュー以来、弟フアン・デ・ディオス・ララインと二人三脚で映画作りをしている。脚本賞受賞のフォトが入手できなかったので、レッドカーペットに現れた3人で悪しからず。監督は授賞式前に帰国したのかもしれない。
(レッドカーペットに現れた監督とナタリー・ポートマン)
(レッドカーペットに現れたラライン兄弟)
★ロレンソ・ビガスが審査員の一人だったせいとは思いたくありません。彼自身も画家だった父親オスラルド・ビガスを語ったドキュメンタリー“El vendedor de orquídeas”(ベネズエラ、メキシコ)が特別上映された。“Desde allá”はラテンビート2016に『彼方から』の邦題で上映が決定しているようです。以前にご紹介した4作のなかで無冠だったのは、クリストファー・ムライの“El Cristo ciego”(チリ=仏)だけという効率のよいベネチアでした。
ルス・ディアスが女優賞―ラウル・アレバロのデビュー作
*オリゾンティ部門*
★ルス・ディアスが女優賞を受賞。「監督になるために、まず俳優から映画界に入った」と語っていたラウル・アレバロのデビュー作“Tarde para la ira”出演。主だったキャストとスタッフで乗り込んだベネチアで結果を出すことができて、ラウルもさぞかし満足していることでしょう。
◎「自分の名前が呼ばれたときには思わず涙が出てしまいました」と語っていたルス・ディアス、1975年カンタブリアのレイノサ市生れ、女優、監督。舞台女優として出発、1993年『フォルトゥナータとハシンタ』が初舞台、映画、テレビで活躍。チュス・グティエレスの『デリリオ―歓喜のサルサ―』に出演、他にジャウマ・バラゲロ、ハビエル・レボージョなどの監督とコラボしている。2013年 “Porsiemprejamón” で短編デビュー、脚本も手がけた。ただし、「何よりもまず、私は女優」ときっぱり。
(まずまずのファッションで登壇したルス・ディアス)
(ベネチアでの三人組、アレバロ監督、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ルイス・カジェホ)
★ガストン・Solnickiの“Kékszakallú”(アルゼンチン)も国際批評家連盟賞を受賞、タイトルはハンガリー語で「青ひげ」、バルトーク・ベーラの1幕物オペラ「青ひげ公の城」(1911作曲)からインスピレーションを受けて製作した由。Solnicki(ソルニッキー?)の長編第2作。
「国際批評家週間」の観客賞はコロンビアの“Los nadie”
★“Los nadie”(“The Nobody”)フアン・セバスチャン・メサ、コロンビア、2015、84分
*フアン・セバスチャン・メサの第1回監督作品、ベネチアでは2回上映された(8月31日、9月10日)。第56回カルタヘナ映画祭オープニング作品、トゥールーズ、サンティアゴなど各映画祭で上映されている。治安の悪い町として知られている通りで暮らしている。タトゥーで武装した5人兄妹(カミロ、メチャス、マヌ、アナ、ピパ)の愛と憎しみと常に破られる約束の物語。街路のグラフィティアート、音楽が楽しめる。スタッフ、キャストがオール若者の映画。コロンビア公開2016年9月15日
(フアン・セバスチャン・メサ監督)
アルモドバルの新作11月公開*「フリエタ」でなく『ジュリエッタ』 ― 2016年09月03日 18:24
危惧した通りの邦題「ジュリエッタ」になりした!
★サンセバスチャン映画祭に関する記事はちょっとお休みして、映画新情報を幾つかアップします。まずアルモドバルの新作“Julieta”(“Silencio”が途中で改題)が『ジュリエッタ』の邦題で11月5日に公開されます。危惧した通り「フリエタ」ではなく「ジュリエッタ」になりました。作中で「フリエタ」と呼ばれるシーンが出てくる度に、観客は「ジュリエッタ」という字幕を見るというわけです。スペイン語話者はスペイン、南北アメリカ、赤道ギニア、20カ国4億2000万人以上に上り、国際会議においては英語、仏語、露語、中国語、アラビア語と並ぶ6つの公用語の1つです。配給会社の関係者が考えるほどマイナー言語ではありません(配給元はブロードメディア・スタジオ)。
★当ブログでは既に「フリエタ」でご紹介しております。尚現在のフリエタを演じる女優名は公式サイトではエマ・スアレスですが、過去の「スペイン映画祭」ではエンマ・スアレス、こちらでご紹介しております。30年前のフリエタを演じるアドリアーナ・ウガルテはアドリアナと長音ナシのご紹介です。長音を入れるかどうかは好みの問題という立場をとっております。例年10月に開催される「ラテンビート2016」で多分先行上映会されるのではないでしょうか。
★トロント映画祭2016マスターズ部門ノミネーション、第29回ヨーロッパ映画賞2016オフィシャル部門、及び観客賞選考対象作品にノミネーションされています。アカデミー賞外国語映画賞2017のスペイン代表作品に“El olivo”(イシアル・ボリャイン)と“La novia”(パウラ・オルティス)、それに『ジュリエッタ』がアナウンスされています。アルモドバルは『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(88ノミネート)、『ハイヒール』(91落選)、『私の秘密の花』(95落選)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(99年受賞)、『ボルベール』(06最終選考)に続いて6度め、間もなく発表になります。
(公開に合わせてイギリス入りしたアルモドバル、2016年8月10日)
*エマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2015年4月5日
*アルモドバル、主な作品紹介の記事は、コチラ⇒2016年2月19日・2016年5月8日
ベネチアとトロントにノミネートされたラウル・アレバロのデビュー作
★ラウル・アレバロのスリラー“Tarde para la ira”(“The Fury ob a Patient Man”)は、ベネチア映画祭の「オリッゾンティ部門」に続いて、トロント映画祭の「ディスカバリー部門」にノミネーションされました。「俳優になったのは監督になる足掛かりをつくるため」と語っていたアレバロ監督、名優にして名監督、フェルナンド・フェルナン・ゴメスの有名な言葉「多くの人は、一介の俳優が監督するなんて、と驚くが少しも驚くことじゃない。監督したくない人なんていない」を引用して、「これは自然なことなのだ!」とベネチア出発直前のインタビューに応えていました。
★日本デビューはダニエル・サンチェス・アレバロ監督のデビュー作『漆黒のような深い青』(06、ラテンビート2007上映)、アルモドバル作品の常連さん、最近ではアルベルト・ロドリゲスのスリラー仕立ての社会派映画『マーシュランド』が記憶に新しい。
(アレバロ監督、マドリードのデボド寺院公園にて、2016年8月)
★盟友アントニオ・デ・ラ・トーレ、ルイス・カジェホのプロ以外に、母親、伯母さん、兄弟、デ・ラ・トーレの娘さん、町を上げての協力のお陰で〈監督デビュー〉できました。それが三大映画祭の一つベネチアへ、米国市場への一番の近道トロントへ、さらに9月9日スペイン公開も決定しました。
*監督&作品の記事は、コチラ⇒2016年2月26日
*ベネチア映画祭2016の記事は、コチラ⇒2016年8月4日
ヨーロッパ映画祭賞2016オフィシャル部門出品作品
◎『ジュリエッタ』2016、アルモドバル、上記割愛
◎“El olivo”2016、イシアル・ボリャイン
*マイアミ、シアトル、エジンバラ、各映画祭2016出品、ブリュッセル映画祭観客賞受賞、ほか
*作品&監督フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2016年7月19日
◎“Truman”2015、セスク・ゲイ
*サンセバスチャン映画祭2015オフィシャル部門、男優賞受賞(リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ)、ゴヤ賞2016作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞受賞、ほか
*作品&監督フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2016年1月9日
◎“Mimosas”2016、オリヴェル・ラセ
*カンヌ映画祭2016のパラレル・セクション「批評家週間」のグランプリ作品、トロント映画祭2016「Wavelengths部門」出品、ほか
*紹介記事は、コチラ⇒2016年5月22日
アマ・エスカランテ新作”La región salvaje”*ベネチア映画祭2016 ① ― 2016年08月04日 16:37
アマ・エスカランテ―カンヌからベネチアへ鞍替えしました
★前回、パブロ・ララインの初英語映画“Jackie”をご紹介しました。他のオフィシャル・セレクション部門には、アマ・エスカランテの“La región salvaje”(メキシコ、デンマーク)、マリアノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの“El ciudadano ilustre”(アルゼンチン、西)、クリストファー・マーレイの“El Cristo ciego”(チリ、仏)、合わせて4作がノミネーションされました。昨年、「フロム・アファー」(“Desde allá”)で金獅子賞を受賞したベネズエラのロレンソ・ビガスが審査員の一人に選ばれ、彼自身も画家だった父親オスワルド・ビガスを語ったドキュメンタリー“El vendedor de orquídeas”(ベネズエラ、メキシコ)が特別上映されることになりました。
*ロレンソ・ビガス金獅子賞受賞の記事は、コチラ⇒2015年8月8日/9月21日/10月9日
(金獅子賞受賞のロレンソ・ビガス、2015年授賞式にて)
★オフィシャル・セレクション部門の審査員は、委員長がサム・メンデス、他キアラ・マストロヤンニ、ローリー・アンダーソン、ジョシュア・オッペンハイマーなど女性軍が5人、若いシネアストが目立ちます。昨年はベネチア映画祭に縁の深いメキシコのアルフォンソ・キュアロンが委員長、パブロ・トラペロが「ザ・クラン」(“El cran”)で監督賞受賞と結果的に有利に働いた印象を与えました。今年の審査委員長サム・メンデスは、イギリスの映画監督、デビュー作『アメリカン・ビューティー』でアカデミー監督賞、またローレンス・オリヴィエ賞を受賞している舞台演出家でもある。ボンド・シリーズ『007スカイフォール』や『007スペクター』も撮っている。ハビエル・バルデムが初の悪役を演じた後者では、今までの悪役には見られなかった複雑な人格設定が、彼の好演技とあいまって話題を呼びました。それにしてもバルデムのメイクアップは本人とは思えませんでした。
(アマ・エスカランテのポスター)
オリゾンティ部門にラウル・アレバロの監督デビュー作がノミネーション
★オリゾンティOrizzonti に、「監督になるために、まず俳優から映画界に入った」と語っていたラウル・アレバロのデビュー作“Tarde para la ira”(スペイン)、ガストン・Solnickiの“Kékszakallú”(アルゼンチン)の2本が選ばれました。前者は「期待できるスペイン映画2016」でキャスト、物語、監督キャリアなどを大雑把にご紹介したスリラーです。後者のタイトルはハンガリー語で「青ひげ」、バルトーク・ベーラの1幕物オペラ「青ひげ公の城」(1911作曲)からインスピレーションを受けているようです。それだけで興味が湧いてきます。Solnicki(ソルニッキー?)の長編第2作、まだ詳細が検索できていません。
*“Tarde para la ira”の紹介記事は、コチラ⇒2016年2月26日
(ラウル・アレバロの“Tarde para la ira”)
★映画祭開催中(8月31日~9月10日)に受賞に絡みそうな作品をアップしていきます。サンセバスチャン映画祭の全体像も明らかになりましたので、時間の許すかぎり追い追いアップしていきます。
J・A・バヨナの新作「怪物はささやく」*トロント映画祭ガラコレクション ― 2016年08月02日 18:37
第41回トロント映画祭2016は9月8日から18日まで
★フアン・アントニオ・バヨナの新作“A Monster Calls”(仮題「怪物はささやく」米=西)が、サンセバスチャン映画祭に先駆けて開催される「トロント国際映画祭2016」でワールド・プレミアされることが発表になりました。本映画祭は非コンペティションですから審査員はおりません。「ガラコレクション」(19本)の中から選ばれた観客賞が事実上のグランプリとなります。米国に近い地の利をうけて本映画祭の人気度がオスカー賞に繋がることも多く、その後を左右することもあります。バヨナ監督の前作『インポッシブル』(2012)もトロントがワールド・プレミアでした。ガラコレクションにはこれ1作だけ、見落としがあるかもしれませんが、ラテンアメリカ諸国の作品は見当たりませんでした。
(モンスターとコナー少年、“A Monster Calls”から)
★シガニー・ウィーバーがサンセバスチャン映画祭2016の「栄誉賞」受賞の記事をアップしたばかりですが、トロントなら近くですからプロモーションに駆けつけるのではないか。栄誉賞の授賞式は本作上映の9月21日ですから日にち的には可能です。
*シガニー・ウィーバー「栄誉賞」受賞の記事は、コチラ⇒2016年7月22日
★「スペシャル・プレゼンテーション」(49作)に、当ブログのカンヌ映画祭2016「監督週間」でもご紹介した、パブロ・ラライン“Neruda”(仮題「ネルーダ」チリ=アルゼンチン=西=仏)が選ばれています。もう1本がヴェルナー・ヘルツォークの“Salt and Fire”(独=米=仏=メキシコ)、英語映画ですが製作国にメキシコが参加、「ネルーダ」にも出演しているガエル・ガルシア・ベルナルが重要な役柄で出演しています。
*“Neruda”の監督・キャスト・物語の紹介記事は、コチラ⇒2016年5月16日
(ネルーダになったルイス・ニエッコ)
★ベネチア映画祭2016のノミネーションも発表され、こちらにもパブロ・ララインの新作“Jackie”(「ジャッキー」)がノミネートされていました。ナタリー・ポートマンがジャクリーンを演じます。他にピーター・サースガードがロバート・ケネディ、キャスパー・フィリップ(Caspar Phillipson)がジョン・F・ケネディになるようで、結構ソックリさんです。彼は1971年デンマーク生れの舞台俳優、主にミュージカルで活躍している。デンマークではハリウッド進出が話題になっているようです。英語映画ですからいずれ公開されるでしょう。
(キャスパー・フィリップとナタリー・ポートマン)
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