『ミューズ・アカデミー』 がセビーリャ・ヨーロッパ映画祭「金のヒラルダ」受賞2015年11月18日 18:26

   セビーリャ・ヨーロッパ映画祭「金のヒラルダ」を受賞

 

★記憶が残っているうちにアップしようと思っている『ミューズ・アカデミー』「金のヒラルダ」Giraldeillo de Oro)を受賞しました。例年11月半ばにセビーリャで開催される映画祭の最高賞です。ヨーロッパ映画賞の前哨戦の意味合いがあり、この映画祭でノミネーションが発表される(今年は既に発表)。ここでの受賞作品はヨーロッパ映画賞ノミネーションの確率が高く、ただ『ミューズ・アカデミー』は選ばれませんでした。ヨーロッパ映画賞のうち技術部門(音響・衣装デザイン・編集など)は10月末に受賞者が決定されている。

 

    

       (ラファエレ・ピント教授と妻 『ミューズ・アカデミー』から)

 

★『ミューズ・アカデミー』受賞はちょっと意外、というのも下馬評ではポルトガルのミゲル・ゴメスのArabian Nights(“As mil e una noites”ポルトガル、仏、独、スイス)か、トルコ映画“Mustang”が高得点だったこと、既に発表されていたヨーロッパ映画賞の作品賞以下のノミネーションがゼロだったからでした。“Arabian Nights”は「銀のヒラルダ」Giraldeillo de Plata)を受賞、ヨーロッパ映画賞(技術部門)の音響デザイナー賞の受賞が決定しています。

 

★その他では、観客賞受賞のトルコのMustang(監督Deniz Gamze Erguven 仏、独、トルコ、カタール)が作品賞とディスカバリー賞にノミネーションされています。トルコ映画ですがフランス、ドイツが製作国に参加ですから対象作品です。カンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」の話題作、カンヌ以来、世界各地の映画祭、ベネチア、トロント、バジャドリード、ニューヨークと次々に招待され、フランス、ベルギー、アルゼンチンなどで公開、来年にかけても続々公開が決まっています。両親が亡くなり孤児となってしまったトルコ北部の村で暮らす5人姉妹のドラマ、祖母と叔父の庇護のもと、彼女たちがボーイフレンドたちと巻き起こす自由奔放な行動、フリーダム、女性の権利、親族によるレイプ、スキャンダル、死、社会的圧力など、現代トルコが抱える問題が描かれる。

               

                (“Mustang”のポスター)

 

★今年のセビーリャ・ヨーロッパ映画祭の授賞式は、パリで起きた同時多発テロの影響でキャンセルされました。セビーリャのロペ・デ・ベガ劇場で行われる予定だったアメリカの歌手ソフィー・オースターのコンサートも中止となり、テロの影響は深刻です。

 

★『ミューズ・アカデミー』のアップは、1回鑑賞ではすこぶる心もとないですが、「金のヒラルダ」を受賞したことだし、時間が経つと億劫になりそうなので、次回にまとめます。

 

トロント映画祭2015*ホナス・キュアロンFIPRESCIを受賞2015年09月25日 22:47

   父親は『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン

 

★年々注目を集めるようになった「トロント映画祭TIFF」も40回を数えた。米国の隣りということで地の利もいいので集客力も凄い。審査員を設定せず、つまり観客賞が最高賞です。ここでの受賞はオスカーにも繋がるから一石二鳥というわけです。2008年以来の受賞作7作のうち6作がノミネートされ、内3作がオスカー像を手にした。例えば、2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』、2010年の『英国王のスピーチ』、2013年の『それでも夜は明ける』の3作です。これらのデータから、1994年以来TIFFディレクターとCEOを兼ねるピアーズ・ハンドリングは、「国際映画祭として重要性が増し関心を示してもらえることに誇りに感じています」と。さて今年の受賞作“Room”は果たしてどうでしょうか。

 


          (キュアロン父子、『ゼロ・グラビティ』のころの写真)

 

★スペイン語映画の目ぼしいサプライズは、ホナス・キュアロンの長編第2DesiertoFIPRESCI国際映画批評家連盟賞を受賞したことです。1981年、アルフォンソ・キュアロンを父にメキシコ・シティに生れる。監督、脚本家、プロデューサー、フィルム編集、俳優と何でもこなす。長編デビュー作はAño uña2007)、このときの主演女優Eireann Harperと同じ年に結婚している。『ゼロ・グラビティ』の脚本を父と共同執筆、本作には父も製作者の一人に名を連ねている。親の七光りは大いに利用すべしです。

 


データ:メキシコ=フランス合作、スペイン語・英語、2015年、製作(Esperanto Kino / Itaca Films 他)、94分、トロント映画祭(913日)がワールド・プレミア、ロンドン映画祭(1014日)正式出品が決定している。

 

★物語はメキシコから米国へ徒歩での国境越え、いわゆる不法移民がテーマ、主役にガエル・ガルシア・ベルナルを迎えることができた。不法移民のテーマは過去にもあるし多分未来にも途絶えることなく選ばれると思います。それぞれ切り口は異なっても過去のことではなく、目下進行中のテーマだからです。急遽会場に駆けつけたガエル・ガルシア・ベルナル、「1時間前に到着したばかりで、まだふらふらです。しかしここに来られて最高です。この映画はこれからも息長く記憶に残るだろうと思います。移民問題は熟知してる人、それほどでもない人の違いはあっても、皆が知っている焦眉の急だからです。経済的あるいは治安の悪さと理由はいろいろですが、好き好んで国境越えをしているわけではない」とコメント。「どうか移民たちが生活できますように!」と立ち去り際に叫んでいた由。重いテーマですね。

 


   (当日駆けつけてきたGG・ベルナルと喜びのスピーチをするJ・キュアロン監督)

 

★その他、ベネチア映画祭監督賞受賞作品、パブロ・トラペロの“El clan「ザ・クラン」が審査員特別メンションを受賞、いわゆる佳作です。この映画についてはベネチア映画祭で記事にしています。


「ザ・クラン」の記事は、コチラ⇒201587921


マリア・リポルの新作*モントリオール映画祭観客賞受賞作2014年12月18日 18:04

★マリア・リポルのRastros de sándalo (西≂インド≂仏)については、モントリオール映画祭「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門で上映、観客賞を受賞した折りにごく簡単にストーリーをご紹介しました(コチラ⇒201496)。言語がカタルーニャ語と英語ということで、当ブログには該当しない作品ですが、バジャドリード映画祭Seminciでも上映され話題になったことや、監督並びに原作者アンナ・ソレル・ポントの紹介も兼ねて記事にしました。11月下旬バルセロナ、アリカンテ、マドリードでプレミア上映された後、1128日にスペインで公開、字幕入り上映ではなく吹替えのようです。

 


      Rastros de sándalo”(Traces of Sandalwood

製作Natixis Coficine / Pontas /

監督:マリア・リポル

脚本・プロデューサー・原作:アンナ・ソレル・ポント

音楽:Zeita Montes ゼイタ・モンテス/シモン・スミス

撮影:ラケル・フェルナンデス・ヌニェス

美術:アンナ・プジョル・タウラー

編集:イレーネ・ブレクア

プロデューサー(共同):リカルド・ドミンゴ(西)/マルク・ド・Gouvenain(仏)

データ:スペイン≂インド≂フランス、カタルーニャ語/英語、201495分、同名小説の映画化、撮影地:ムンバイ、ハイデラバード、バルセロナなど、製作費:約180万ユーロ、20141128日スペイン公開、同118日インド・インディペンデント映画祭上映

 

キャスト:ナンディタ・ダス(姉ミナ)、アイナ・クロテット(妹シータ、パウラ)、Naby Dakhil(プラカッシュ)、Subodh Maskara(サンジャイ)、Godeliv Van den Brandt(ニッキ)他

 

ストーリー:母親の死によって、無理やり引き離されたインドの姉妹の物語。30年の時が流れ、今では姉ミナはボリウッド映画の大スターになっている。別れたとき幼かった妹シータのことが片時も頭から離れない。一方、今ではパウラと呼ばれているシータは、自分が養女であることも知らずに、生物学者としてバルセロナで暮らしている。姉の突然のバルセロナ到着は、インドの記憶がないパウラの世界を激しく揺さぶることになる。パウラはインドからの若い移民プラカッシュの助けを借りてアイデンティティ探しの旅に出ることになる。自分が何者であるか知らずに生きることはできるのか、二人の再会はやがて彼女たち自身の内面を探る旅となるだろう。

 

             (ムンバイで暮らしていたころの姉妹)

 

★ストーリーは日常を淡々と語る方法で進行するが、さりげなさの中に複雑な感情を織り混ぜ、唯のロマンティック・メロドラマという非難から救い出している。エル・パイス紙のコラムニスト、ハビエル・オカーニャによると、それはリポル監督の素晴らしい撮影技法が甘美なメロドラマ的な欠点を覆い隠しているからだという。また完全なフィクションでありながら、原作者でもある脚本家ソレル・ポントが、インドの伝統文化を守りながらバルセロナで暮らす移民たちの家族の現実をきちんと描いたからだという。そういう緻密な取材がモントリオールの観客を感動させたのかもしれない。有名女優になった姉が、はるばるムンバイからバルセロナに生き別れの妹を探しにくるという、少し突飛なストーリーでありながら、浮足立っていないということでしょうか。オール女性スタッフとは言えないが、殆どが女性という珍しい布陣にも注目したい。

 

              (姉ミナ役のナンディタ・ダス)

 

★“Rastres de sándal”は、比較的低予算で製作されたにしては良質のメロドラマと高評価です。アンナ・ソレル・ポントとAsha Miróが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化。ムンバイとバルセロナが舞台となり、撮影もインド、バルセロナと3週間ずつ、予算の関係でそれ以上の日数は掛けられなかったとエグゼクティブ・プロデューサーでもあるソレル・ポントは語っている。製作費180万ユーロのうち、バルセロナ自治州政府から7000ユーロの助成金を受けた。それっぽちと言うなかれ、そのお蔭でプロフェッショナルなスクリプト・エディター、コラル・クルスと契約できたとも語っている。

 

★この映画は、リポルの映画というよりソレル・ポントの映画の感が深い。文末の経歴を読んでいただければ、彼女の熱意のほどが分かります。スペインの映画界は男性優位で女性は低く見られてる。これは多くの女性シネアストの一致した声です。カンヌも似たようなものだが、ハリウッドはもっとヒドイ、女優は使い捨てが当たり前ですから。彼女によると「86回を数えるオスカー賞で、女性の監督賞受賞者は『ハート・ロッカー』(2009)のキャスリン・ビグロー唯一人しかいない」と。この第82回アカデミー賞は元夫婦対決として話題になった年、ジェームズ・キャメロンの3D『アバター』が涙を飲んだ授賞式でした。キャスリン・ビグローは、リポルと同じアメリカン・フィルム・インスティチュートAFIで学んでいますね。

 

★姉にナンディタ・ダスNandita Das1969デリー生れ)、妹に“Elisa K”(2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットAina Clotetが演じています。ナンディタは役柄と同じボリウッド映画の大スターですが、アイナ・クロテットは金髪のカタルーニャ人、それでも監督はアイナに拘った。当時、彼女はロスの舞台に立っていたのでEメールでやり取りした。監督は「この役はアイナ以外に考えていない」と口説き落としたようです。 それからアイナの猛勉強が始まった。「生物学から養子縁組の制度まで勉強して、撮影に入るまでにマックスの準備をして臨んだ」と語っています。 

                            (妹パウラのアイナ・クロテット)

 

*キャリアとフィルモグラフィー*

マリア・リポルMaria Ripoll1965年バルセロナ生れ、監督、脚本家。ロスアンジェルス・カリフォルニア大学UCLAで演技指導と脚本作法を学んだ後、ロスのアメリカン・フィルム・インスティチュートAFI1967設立)で演出を学ぶ。在籍中の1993年に撮った短編“Kill me later”が、ドイルのオーバーハウゼン映画祭で観客賞を受賞、以後アメリカで映画やテレビの仕事をする。1998年、ロンドンで撮影したコメディ、長編デビュー作となる“The Man with Rain in His Shoes”(Lluvia en los zapatos)が話題になる。2001年、ロスで撮影したロマンティック・コメディ“Tortilla Soup”(英語・西語)、2003年の第3Utopía”は『ユートピア/未来を変えろ。の邦題で公開された。「私の映画では、有名でない俳優を起用することが重要」と語っていたのですが、当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画でした。

 


スペインが製作国ということもあるのか一番評価の高いのが、第4作“Tu vida en 65 minutos”(2006)。アルベルト・エスピノサ(1973年バルセロナ生れ)の有名な同名戯曲の映画化、「自分が撮れるなんて信じられない」と語っていたリポル監督、映画のキイ・ポイントは、<><>という重いテーマでした。主役はハビエル・ペレイラ、ロドリーゴ・ソロゴジェンの“Stocholm”でゴヤ賞2014の新人男優賞を受賞しましたが、当時はまだ「有名でない俳優」でした。第5作目が本作です。第6作となるラブ・コメディAhora o nuncaが来年の完成を目指して撮影中、来年のゴヤ賞ガラの総合司会者ダニ・ロビラと『解放者ボリバル』で薄命のボリバル夫人を演じたマリア・バルベルデが夫婦役、クララ・ラゴも脇役で出演します。

 

    (左から、バルベルデ、ロビラ、ラゴ 進行中の“Ahora o nunca”)

 

アンナ・ソレル・ポントAnna Soler-Pont 1968年バルセロナ生れ、作家、脚本家、プロデューサー。バルセロナ大学でアラビア哲学を学ぶかたわら、出版社で校正の仕事、編集、翻訳などに携わる。199110月、カイロに1ヵ月滞在、尊敬するノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズ(191120061988年受賞)と知り合うことができた。エジプトの多くの女性作家たちと知己を得て、彼女たちからヨーロッパへの作品紹介の翻訳を依頼される。バルセロナに帰国すると作家や編集者とのコネクションを求めて、異なった文化の橋渡しに尽力する。

 


19925月、24歳のとき自ら文学仲介業の代理店ポンタスPontas を設立する。パリ、アムステルダム、フランクフルトなどのブック・フェアに参加して、アフリカ、アラブ、アジアの無名の女性作家の作品紹介及び販売に努める。ポンタスは映画やテレビのようなオーディオビジュアルな媒体にも進出して、アニメーションも製作している。これらのビジネス全てを独学で学んだというからその才能とバイタリティには舌を巻く。1992年には、バルセロナからトルコ、クルディスタン、イラン、パキスタンを通ってインドのニューデリーまで車で走破した。これが本作にも大いに役立っている。現在は文学と映画の橋渡しの仕事に力を注いでいる。

 

作品:“Cuentos y leyendas de Africa”(プラネタ社アフリカの短編のアンソロジー

   Rastros de sándalo”(2007プラネタ社アシャ・ミロとの共著、本作の原作

 

 

ルイス・マリアスのスリラー”Fuego”*暴力の連鎖2014年12月11日 19:14

2015年公開予定が早くも今月公開に早まりました。いわゆるETAものという範疇に入りますが、テロは終息しつつあるとはいっても、当事者にとって「傷口は開いたまま」ということでしょうか。本作については製作発表のとき既に記事にしており、プロット、監督、主演のホセ・コロナドなどの紹介を簡単にしております(コチラ⇒2014320)。製作発表段階の意図と完成作品に大きな違いがない印象ですので、参照頂けると嬉しい。

 

     Fuego

製作:Deparmento de Cultura del Gobierno Vasco / Fausto Producciones Cinematograficas 他

監督・脚本:ルイス・マリアス

撮影:パウ・モンラスPau Monras

音楽:Aritz Villodas

美術:ギジェルモ・リャグノLlaguno

製作者:エドゥアルド・カルネロス

データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、ETA、撮影地ビルバオ、第52回ヒホン国際映画祭2014コンペティション、20141128日スペイン公開

キャスト:ホセ・コロナド(カルロス)、アイダ・フォルチ(カルロス娘アルバ)レイレ・ベロカル(テロリスト妻オイアナ)、ゴルカ・スフィアウレ(同息子Aritz)、ハイメ・アダリド(マリウス)他 


プロット:元警察官カルロスの復讐劇。エタの自動車爆弾テロで妻を殺され、当時10歳だった娘は両脚を失う。11年後、カルロスは服役中のテロ実行犯に復讐を誓いながらバルセロナで暮らしている。自分の家族が受けた苦しみを同じだけ犯人の妻と息子に与える、「私こそが正義である」。憎しみと復讐で始まるがやがて内面の炎は悲しみとパッションに移ろっていく。登場人物たちは、それぞれ社会的イデオロギー的に異なった立場にいるため、その苦しみも複雑に交錯しながら物語は進行する。

 

52回ヒホン国際映画祭20141122日~29日)

★第52回ヒホン映画祭で唯一コンペに残ったスペイン映画、会場にはスタッフ、キャスト陣が揃って登場した。主役の三人のうち、コロナド、フォルチは既に登場、テロ実行犯の妻役ベロカルはまだ日本では未紹介です。スペインでもあまり知られていない女優、監督自身も脚本を手掛けたラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”(96)で知り合った由。

 

  (左から、ベロカル、中央監督、隣りフォルチ、最右翼コロナド、ヒホン映画祭にて)

 

「傷口は開いたまま」

★本作について、「このスリラーは、バスクの歴史に基づいているが、どこでも起こりうる事件であり、特別エタものとして撮ったわけではない。何故なら激しい苦痛を感じている人の憎しみや暴力、痛みがもたらす結果を描いているからです」と、ヒホンのプレス会見で語っています。ETAの暴力について撮ることには「はっきりしたタブー」があったが、やっと解禁された。未来志向の観客が、この映画を見ることで共生を深く考えるきっかけになればと願っている。「テロの犠牲者の傷口は開いたまま癒えていない」とも語っていました。難しいですね。

 

テロの犠牲者も幸せになる価値がある

★撮影は厳しかったそうだが、結果には満足している。しかし心にしこりをもったままで希望を抱くのは厳しい。それぞれ抱えている過去、傷痕、将来への考え方が異なるから当然です。ホセ・コロナドによると「寛容で乗り越えるのは容易なことではないが、でも乗り越えようという動きが出はじめている。この映画が皆の心を動かし、よい影響を与えあうようになることを期待している」と、既にこの30年間で40作の映画に出演しているベテランもコメントを寄せている。カルロスは元警察官だから正義を行う人だが、現在は復讐者である。実際まるで「ジギルとハイド」のモデルのような役だから、最後までどちら側に自分を置いたらいいのか難しかった。役柄を落ち着かせるため、<尊敬している>エンリケ・ウルビスがやるようにバスクをあちこち歩き回りながら観察してまわったそうです。結果的には、どちら側でもない第三の生き方を見つけることになるんでしょうね。監督からは凄い集中力を求められたが関係は素晴らしかったそうで、撮影は納得いくものになったということでしょう。ゴヤ賞に絡むと予想しますが、『悪人に平穏なし』に近すぎるかな

 

ルイス・マリアスLuis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。1988年、脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスの“Mensaka”(1998)の脚色が評価された。監督デビュー作は“X”(2002)とかなり前の作品、“Fuego”が第2作になります。TVミニシリーズ“Gernika bajo las bombas”(2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937426日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。


1作“X”にはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫5072002」でホセ・コロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じている。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。

 

ホセ・コロナドJosé Coronadoは、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていた。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義「移行期」というのは混乱期でもあった。映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです。その後30歳になる直前に演技の勉強を思いたち、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(87)で映画デビュー、1989『スパニッシュ・コネクション』の邦題でビデオが発売されている。初期の話題作では、イマノル・ウリベの“La luna negra”(89)、ビセンテ・アランダの“La mirada del otra”(98)、カルロス・サウラの『(ボルドーの)ゴヤ』(99)では青年時代のゴヤになった。

 

                  (撮影中のコロナド)

 

やはり今世紀に入ってからの活躍が目立ちます。主役を演じたエドゥアルド・コルテスの“La vida de nadie”(02)、エンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)、“La vida mancha”(03)とゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』(11)、ミゲル・コルトワのETAの実話を基にした“El Lobo”(04)と“GAL”(06)、アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』13)、オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』13)など、公開作品も多いほうですね。

 

アイダ・フォルチAida Folch1986年、カタルーニャのタラゴナ生れ、女優。子役でフェルナンド・トゥルエバの“El embrujo de Shanghai”(02)でデビュー、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、公開されたF・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』12)、本作でゴヤ賞2013主演女優賞ノミネート、トゥリア賞2013女優賞を受賞した。他にアントニオ・チャバリアスの“Las vidas de Celia”(06)、Patxi Amescuaの“25 kilates”(08)で翌年のマラガ映画祭の女優賞を受賞している。来年になるが、ホセ・コルバチョ&フアン・クルスのコメディ“Incidencias”(15)に出演している。他、短編、TVドラ多数。




レイレ・ベロカル
Leyre Berrocal1973年ビルバオ生れ、女優、脚本家。フアン・ビセンテ・コルドバの“Entre con sol”(95)、前出のラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”、ペドロ・ペレス・ロサドの“Agua con sal”(05)など。

 

              (レイレ・ベロカル、“Fuego”から)

モントリオール2014*受賞結果⑦2014年09月06日 11:20

モントリオール映画祭2014*受賞結果

★今年は日本映画も審査員特別グランプリに『ふしぎな岬の物語』、監督賞に呉美保(『そこのみにて光輝く』)が受賞するなどダブル・オメデタなモントリオールでした。

 

           (左から、呉監督、吉永小百合、ウルキサ監督)

 

★さてスペイン語映画では、メキシコが賞を独り占めした感のあるモントリオールでしたが、現地はガエル・ガルシア・ベルナル離婚報道のほうが大きかったでしょうか。昨今では結婚も容易ではなくなりましたが、もっと大変なのは長続きさせることですね。

 

★ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfecta ルイス・ウルキサがグランプリグラウベル・ローシャ賞のダブル受賞。監督自身も驚いたろうと思いますが、まさか、まさかの受賞でした。最優秀ラテンアメリカ映画に特化したグラウベル・ローシャ賞には一番近いかな、と予想していましたがグランプリとはね。審査委員長セルジョ・カステリット以下の審査員一同に感謝()。作品紹介は最近アップしたばかりです。

⇒コチラ、モントリオール映画祭⑤ 

                       (受賞を喜ぶルイス・ウルキサ監督)

 

ファースト・フィルム部門

Gonzálezクリスティアン・ディアス・パルドが金賞を受賞。

 

Los bañistas”マックス・スニノが国際批評家連盟賞FIPRESCI)を受賞。

 

(一番右側がマックス・スニノ監督)

 

両作品とも⇒コチラ、モントリオール映画祭③にアップ。

 

★今回ご紹介できなかったのがフォーカス・オン・ワールド・シネマ部門、観客賞受賞のマリア・リポルのRastres de sándal(西≂インド)やダニエル・アギーレのInvestigación policialなど、スペイン語映画は10本ほどノミネートされていました。

 

            (マリア・リポル監督)

 

Rastres de sándalの言語はカタルーニャ語と英語です。マリア・リポルは、Utopíaが『ユートピア/未来を変えろ。』(2003)の邦題で公開、DVDも発売されています。当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画です。受賞作はAsha MiróAnna Soler Pontが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化のようです。子供のときインドで生き別れになってしまった姉妹、インドで有名になった女優の姉と養女となってバルセロナに住んでる妹の物語。ボンベイとバルセロナが舞台になり、姉にNandita Das1969デリー生れ)、妹にElisa K2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットが扮しています。 

                                (映画のワンシーンから)

 

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑥2014年09月04日 12:00

★最後がペルー映画、サイコ・スリラーの要素をもつ政治サスペンス、ジャーナリストのリカルド・ウセダのMuerte en el Pentagonitoに着想を得て製作された。共同監督の二人はともに本作がデビュー作。話題の焦点は、新人監督より主役を演じたベテラン俳優‘Cachin’ことカルロス・アルカンタラにあるようです。ショーマンとしてテレビ界で活躍しています。

 

   ワールド・コンペティション部門(続き)

Perro GuardiánGuard Dogペルー Bacha Caravedo & Chinón Higashionna 監督

製作Señor Z

製作者マピ・ヒメネスロレナ・ウガルテチェ

監督:バチャ・カラベド/チノン・ヒガシオンナ

脚本:バチャ・カラベド

撮影:フェルガン・チャベス・フェレール

音楽:パウチ・ササキ

データ:ペルー、スペイン語、2014、ジャンル(スリラー、陰謀、犯罪)、ペルー内戦、パラミリタール(私設軍隊)、2012年ペルー文化省から企画賞として18万ドルが贈られた。モントリオール映画祭2014ワールド・コンペ正式出品(823日上映)、88分、ペルー公開201494

 


キャストカルロス・アルカンタラ(シカリオのペロ)、レイナルド・アレナス(アポストル)、マイラ・ゴニィ(ミラグロス)、ラモン・ガルシア(パドリーノ)、ミゲル・イサ(メンディエタ)、フアン・マヌエル・オチョア(オルメーニョ)、ナンシー・カバグナリ、フリア・ルイス、サンドロ・カルデロン、オズワルド・ブラボ、ホセ・メディナ他

 

ストーリー2001年リマ、反テロの闘争時代に人権侵害の廉で服役していた軍人と市民が、「軍人恩赦法」により釈放された。パラミリタール(私設軍隊)の元メンバーだったペロもその恩恵を受けた。今はある民兵軍組織のシカリオとして暗殺を請け負っている。部屋に閉じこもり上層部からの指令を実行するだけの日々を送っている。ある指令が「キリストの戦士」という教会に彼を導いていく。祈りと叫びのなかでカルトの指導者アポストルに出会うが、彼はペロの何かを嗅ぎつけているようだ。ペロはそこで出会ったミラグロスという娘に惹きつけられていく。任務をキャンセルしたペロは、教会に足しげく通い静かにミラグロスを見守っている。それまで冷酷なシカリオに徹していたペロも次第に任務を苦痛に思うようになっていった。暗殺には正当な根拠が必要ではないのか、彼の武器は神の剣に変わろうとしていた。

 

 
 (ペロに扮したカルロス・アルカンタラ)

★ペルー内戦後のリマが舞台、ファースト・フィルム部門のLa hora azul(アロンソ・クエトの同名小説の映画化)で触れましたように(⇒コチラ モントリオール映画祭④)、ペルーも長期間内戦に苦しみました。主人公ペロはパラミリタールという政府軍並みの軍事力を備えた私設軍隊のもとメンバー、恩赦で娑婆に戻っても結局彼にできるのはシカリオしかない。リマの工業地区のアパートの一室に閉じこもり機密の指令を待つ。「俺は背中にも目がある」と武器を通してしか自分を語れない男に扮するのがカルロス・アルカンタラ、ショーマンとしても人気があり、テレビ・インタビューでも若い二人の監督より彼に質問が集中しています。「前から映画化されたら演ってみたい役だった。願いが叶って嬉しい」と語るアルカンタラ、更に「主人公役でモントリオールに行けるのは、それだけで賞を貰ったようなもの。仕事に対する批評や意見が私の進むべき正しい道を教えてくれるから、それも受賞と同じです。ノミネーションされている作品が他に20作ほどあるけれど、男優賞を受賞することを夢見ている。もし叶ったら飛行機に乗ってすっ飛んで帰ってくるよ」とインタビューに語っています

既に発表になっており、中国のヤオ・アンリェンの手に渡ってしまいました)

 

            (ピエロに扮したショーマンのアルカンタラ)

 

★「キリストの戦士」と呼ばれる教会の指導者アポストルは、<キリスト再来>のメッセージをもたらすために神から選ばれた一種の救世主と感じている。冷静沈着、堂々としてエネルギッシュに響く声は伝道者として申し分がない。あたかも忠実な戦士のごとく士気を鼓舞する。「暗殺者は疑問を持たずに発砲する。しかし正義の人はまず何故かと理由を知りたく思う」ものだ。もう一人の重要登場人物に扮するのがレイナルド・アレナス(レイナルドのスペルが1字違うが、訳すと『夜になるまえに』のキューバ作家と同名になってしまう)。1944年生れ、1984年、フェデリコ・ガルシア・ウルタドのTupac Amaruで映画デビュー、ルイス・リョサのSniper1993、米国合作)のカシケ役で出演。リョサ監督はノーベル賞作家バルガス=リョサの従兄弟、彼の『ヤギの祝宴』を映画化した(2006、ラテンビート2006で上映)。

 

            

 

ミラグロス、一人前の女性に近づきつつある16歳。「時々体のなかにサタンがいるようで怖くなる。しかし聖霊がいるように感じるときは素晴らしい」と語るミラグロス。泣いたと思えば直ぐ笑い、優しさも簡単に残酷さに豹変する。心の中に矛盾を抱えて生きている。彼女が本当に望むことをやり続けるには、過失、宗教的罪、狂信的行為に包まれたキリスト教の現世で生きていかねばならない。マイラ・ゴニィは、2007TVドラ・シリーズに出演後、サンドロ・ベントゥラのEl Buen Pedro2012)で映画デビュー、本作が2本目の新人。

 


パドリーノ、リマの中心街で小さなペルー料理店を経営し、ミラグロスを育てている。「キリストの戦士」のナンバー2、この組織を動かしている。必要あれば、しばしばアポストルの代理人を務めている。ラモン・ガルシアは、フランシスコ・ロンバルディのLa ciudad y los perros1985)、ルイス・リョサFire on the Amazon1993、ペルー≂米国)、アルベルト・ドゥランAlias ’La Gringo’1991、ペルー≂スペイン他)などに出演。

 


メンディエタ、敵を圧倒する仕事のため今もペロと接触している。彼は武器を使わない書斎派の軍人、「恩赦は継続するだろうが、これはショーみたいなものだからほうっておくさ」。ミゲル・イサは、リマ出身、La ciudad y los perrosがデビュー作、ミゲル・バレダ≂デルガドの Y si te vi, no me acuerdoYVムービー1999、ペルー≂独)、ダニエル・ロドリゲスEl acuarelista2008)とファブリツィオ・アギーレTarata2009)の2作では主役を演じている。タラタは中流階級以上が住んでいる通りの名前、内戦でテロリストの攻撃を受け崩壊していく家族の肖像が描かる。 


★監督紹介:これがまだ詳細が分からない。バチャ・カラベドBacha Caravedoは、監督・脚本家、短編Papapa2000)とLos herederos2005)を撮っている。チノン・ヒガシオンナChinón Higashionnaは正真正銘のデビュー作、名前と風貌から類推して沖縄の東恩納出身の日系ペルー人のようです。

 

    (左がヒガシオンナ監督、カラベド監督)

★音楽担当のパウチ・ササキPauchi Sasakiも日系ペルー人、28歳と若いヴァイオリニスト、ニューヨーク他海外で学んでいる。東京にも来日しているようです。予告編からですが、これがなかなかいい。 


既に授賞式(91日)があり、本ブログにアップした作品がグランプリを含めて3作も受賞しました。次回は少しお祝いをして、モントリオールは閉幕します。

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑤2014年09月01日 15:22

★順序が逆になりましたが、ワールド・コンペティションには長編2本(メキシコ、ペルー)、短編3本(メキシコ)と、メキシコが目立つのが、今年のモントリオールです。審査員長セルジョ・カステリット、審査員の一人にアナ・トレント(スペイン)が参加しています。

 

  ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfectaPerfect Obedienceメキシコ、ルイス・ウルキサ監督

製作:AstilleroFilmsEquipmente & Film Design

プロデューサー:ダニエル・ビルマン・リプステイン(代表作にカルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』2002)、ルルデス・ガルシア、ヘオルヒナ・テラン他

監督・脚本:ルイス・ウルキサ(エルネスト・アルコセール著Perversidadからの着想)

撮影:セルゲイ ・サルディバル・タナカ(ロドリーゴ・プラのDesierto adentro2008

音楽:アレハンドロ・Giacoman(カルロス・カレーラのLa mujer de Benjamin1991

編集:ホルヘ・マカヤ

 

キャスト:フアン・マヌエル・ベルナル(アンヘル・デ・ラ・クルス神父)、セバスチャン・アギーレ(少年期のフリアン/サクラメント・サントス)、アルフォンソ・エレーラ(成人サクラメント・サントス)、フアン・イグナシオ・アランダ(ガラビス神父)、ルイス・エルネスト・フランコ(ロブレス神父)、フアン・カルロス・コロモ、アレハンドロ・デ・オジャス、ダゴベルト・ガマ、クラウデッテ・マイジェ他

  


データ:メキシコ、スペイン語、201499分、撮影地:ベラクルスとメヒコ州(メキシコシティの北側にある州)、映倫区分:メキシコD-1515歳以上)、メキシコ映画協会IMCINEInstituto Mexicano de Cinematografia)の支援を受けた。メキシコ公開201451日(約800のコピーが製作された)

 

ストーリー:カトリックの神学生サクラメント・サントス(フリアン) は、新しく設立された修道会Los Cruzados de Cristo(キリストの十字軍)で教育をうけることになる。そこでは神学生に<完全なる服従>Obediencia perfecta)が求められる。フリアンは設立者のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を信頼し、アンヘル神父も彼を愛するようになる。教会内部で秘かに行われていた聖職者によるスキャンダラスな少年愛、長年にわたって事実を隠蔽しつづけたバチカン、人間が犯す暗部についてのフィルム。

 

「私も8年間神学生だった」

*ルイス・ウルキサ・モンドラゴン Luiz Urquiza Mondrasonは、メキシコの監督、本作が長編デビュー作ですが、プロデューサーやプロダクション・マネジャーのキャリアは長い。最新作としては、本作のプロデューサーの一人ルルデス・ガルシアと携わったアントニオ・セラーノ監督のMorelos2012)、同監督のHidalgo-La historia jamás contada2010)などがある。本作を撮った理由として、「17年前にマルシアル・マシエルの未成年者性的虐待のニュースを知った。自分もかつて17歳までの8年間神学校で暮らした経験があり、知らないわけではなかったが、アルコセールのPerversidadを読んで映画化の準備を始めた」と動機の一つに挙げています。「以前からこのテーマで撮るアイデアは潜在的にあって、宗教者のおぞましい少年愛に警鐘を鳴らしたい」意図で製作した。

 

21世紀に入ってから顕在化した聖職者による少年愛をバチカンも認めざるを得なくなった。本作はメキシコのプラネタ社から刊行されたエルネスト・アルコセールのPerversidad2007、邪悪という意味)に着想を得て製作されたフィクション。タイトルは同書の Obediencia perfecta 章から採用された。アンヘル神父のモデルとなったマルシアル・マシエルMarcial MacielMM、ミチョアカン1920~フロリダ2008、)は、1951年にカトリック信徒団Legión de Cristo/Legionarios de Cristo(映画ではLos Cruzados de Cristo)を設立した聖職者。

 (監督、アルコセール、ベルナル)

 

★教会内部で行われていた少年愛による性的虐待の告発状が、1990年代に既にバチカンに届けられていた。しかしMMの庇護者であった当時の教皇ヨハネ・パウロ二世(19782005)は事実を黙認した。かつてヨハネ・パウロ二世はMMの要請で3回(197919901993)メキシコを訪問している(メキシコが最初の訪問国)。しかしベネディクト十六世に変わった20065月、バチカンはMMの神学生の性的虐待と複数の子供の父子関係を認めて、「祈りと苦行」を公に行うことを禁じた(つまり退任)。国連の児童権利委員会もバチカンが黙認していたことを非難した。2008130日、フロリダで失意と非難の嵐のなかで87歳の生涯を閉じた。死後の2009年、あるスペイン女性が父親はMMと明らかにし、翌年Legión de Cristoも未成年者性的虐待を認め、設立者MMとの関係を断ち切った。

 

                   (ヨハネ・パウロ二世の祝福を受けるMM2004

 

マシエルの伝記映画ではない

★作家エルネスト・アルコセールは裏の取れた事実のみを執筆したと言明していますが、映画はあくまでフィクションです。素材はMMから採られていても、彼の伝記映画ではありません。教会内部で行われていた聖職者の少年愛は、教区民の信頼を裏切る行為のため論争を引き起こすテーマと言えます。カルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』は、本国では上映中止になったことは記憶に新しい。映画では少年愛に止まらず複数の女性との関係、富と権力に執着した人間として描かれている。ウルキサ監督も「この映画は子供たちを性的に誘惑し、権力をほしいままにして財産を築いた司祭の物語、象徴的なケースがMMだった」と語っています。「センセーショナルなスキャンダルとして描きたくなかった。シネアストとしての興味は、少年たちの信頼につけ込んで、どのようにして彼らの愛を勝ち取ったのか」その過程にあると語っています。

 

沈黙の時ではない

★主人公のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を演じたフアン・マヌエル・ベルナルは、「この物語はきちんと語る必要がある。やっと俎上にのせる時がやっと来た、黙っていられないことだよ」と語っています。「撮影に入る前に、少年愛をテーマにした映画は見たくなかった。代わりにフェリーニ、ロッセリーニ、パゾリーニなど、イタリアのクラシック映画をたくさん見て、それがとても参考になった」とも。更にMMの餌食になった犠牲者たちとも実際に会って話を聞いた。彼によれば、「時代背景は196070年代に設定されている。当時、神の国へ導く人として神父の占める位置は、家族の中でかなり大きかったと思う。そういう信頼を裏切って、複数の女性との間に子供までもうけており、権力と富に執着した、いわば二重生活を送っていた人物」。主人公アンヘル神父の「やったことはまったくひどい話だが、映画の中では複雑な主人公を裁くことはしていない」

 

★名誉枢機卿フアン・サンドバル・イニィゲスによると、「マシエルの行為についてはバチカン内にも強い非難の声があった。MMは精神病質者で統合失調症を患っている二重人格だった」と、2010年のインタビューに答えています。ちょっとやり切れない話です。

 

「とても怖かった」

★サクラメント・サントス役でデビューしたセバスチャン・アギーレ(14歳)は、「とても怖かった」と一言。監督によると、「テーマが分かると両親が出演を渋って難航した。結果約2000人の子供たちをオーデションで見た。美少年というだけではダメ、内面的なテーマを理解できる子供、更に両親も理解できることが必要だった」。撮影はボイコットを懸念して秘密裏に行われ、常にセバスチャンの両親を立ち合わせた。中には両親の立会いなしのシーンもあって、そのときは精神科医の応援を受けたということです。

 

(サクラメント・サントスとアンヘル神父)

 

★最初自分のできる限界を超えていると思ったが、「シナリオを読んで・・・そんなにどぎついとは思えなかった。自分を試してみたくなって・・・今では映画に出演した経験はとてもよかった」とセバスチャン。短編映画出演の経験はあるが、主役の長編は初めて、舞台出演もあるというから全くのズブの素人ではない。しかし既に20世紀中ごろのような神学校は珍しくなっているし、教会が家庭に占める位置も小さくなっているから、セバスチャンには全てが新しい体験、たくさんの出演者に囲まれて大型カメラの前に立つのは恐怖心を感じても当然です。

 

真実に近づく第一歩になるか?

MMの告発状をバチカンに送ったLegionarios de Cristo8人の元神父の一人ホセ・バルバのように今でもバチカンの責任を求め続けている人もいる反面、教会はかなりのダメージをうけるし、この映画に疑問を呈する人もいる。どの世界にも善と悪は存在する、この映画が真実に迫るとしても、すべての独身者が男色ではない。聖職者の妻帯を認めることが解決法になるのかどうかも含めて、今後論争は避けられない。


モントリオール映画祭2014*ノミネーション④2014年08月23日 17:34

★最後にペルー映画のご紹介、2005年に刊行されたアロンソ・クエトの同名小説La hora azulの映画化、同年エラルデ賞を受賞した作家自身もカメオ出演したという熱の入れようです。テロ・グループのセンデロ・ルミノソとペルー政府の対立をめぐる骨太な小説です。切り口は異なりますが、198090年代に吹き荒れたペルー内戦の傷跡をテーマにしたクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(2009)を思い出させます。

アナグラマ社(バルセロナ)の創業者エラルデの名を冠した文学賞。原作は、「青い時」とか「青い時間」というタイトルで紹介されていますが未訳です。ロベルト・ボラーニョも1998年に『野生の探偵たち』で受賞しており⇒コチラで紹介

 

ファースト・フィルム部門(続き)

La hora azulThe Blue Hour)ペルー、Evelyne Pégot-Ogier 監督・脚本、201490

助監督:ホルヘ・プラド(“Koko”)、スクリプト:Nury Isasi 製作:Panda Films(ペル   ー)、プロデューサー:グスタボ・サンチェス、フランク・ペレス・ガルランド他、撮影:ロベルト・マセダ、照明:フリオ・ペレス、美術:セシリア・エレーラ、衣装:エリザベス・ベルナル

 

キャスト:ジョヴァンニ・チッチャCiccia(アドリアン・オルマチェ)、ジャクリン・バスケス(ミリアム)、ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナド(アドリアン妻クラウディア)、アウロラ・アランダ(アドリアン秘書ジェニー)、ルーチョ・カセレス(ルベーン)、ハイディ・カセレス(ビルマ・アグルト)他 

                 (ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナドとジョヴァンニ・チッチャ)

 

ストーリー:アドリアンは体面を重んじる成功した中年の弁護士、理想的な家族と暮らしている。それも過去の暗い秘密が明るみに出るまでのこと、というのはセンデロ・ルミノソが猛威を振るった内戦時代に政府軍の指揮官であった父親オルマチェの残虐行為を知ってしまったからだ。テロリストだけでなく彼らの支持者を含めて拷問、特に女性はレイプされ消されていった。ある日のこと、部下たちがしょびいてきた美しい娘ミリアムに一目惚れした指揮官は、娘を保護し捕虜として兵舎に留めておくが、このアヤクーチョの生き残りのミリアムは逃亡してしまう。このミステリアスな女性の存在がアドリアンの人生を脅かすようになる。彼女こそ父親が犯した残虐行為の唯一の目撃者であるからだ。やっと彼女を見つけ出したアドリアンに口を閉ざし続けるミリアムだが・・・

 

(ミリアムとアドリアン、映画のシーンから)

 

★テーマはクエトによれば「探求」、父と息子の関係、父は国家の代表として、息子は成功したリッチな弁護士としてミリアムに会い共に魅了される。母と息子の関係、息子は母と一体化している。魅力的な妻はどうなる? センデロ・ルミノソのテロリスト、バイオレンス、神への信仰、マイナイの聖女信仰、そして死などが語られる。

 

監督紹介Evelyne Pégot-Ogier(エブリン・ペゴト・オジェ?)はペルーの監督、脚本家。目下詳細が入手できませんが、スタッフにペルー・カトリカ大学PUCP**の卒業生が多いことから、本校のオーディオビジュアル情報科で学んだのかもしれない。「この映画は1990年代末のリマに設定した物語で、私にとってはテロリズムの映画ではありません。背景は内戦時代にアヤクーチョで生き抜いたミリアムとアドリアンの父親の過去を辿りますが、それは画布にしかすぎません」と語っています。「小説がとても気に入り、クエトにコンタクトをとると、映画化を承知してもらえた。個人的には最近父親を亡くしており、これも重要な動機の一つです」とインタビューに答えています。この物語が「探求と和解」を描いたという点で作家と監督は一致しており、これが二人を結びつけたようです。El vestido17分)がカンヌ映画祭2008の短編部門で上映され、これはYouTube で見ることができます。

**PUCPPontificia Universidad Católica del Perú):1917年設立のペルー初の私立大学、首都リマにあり、私立名門校の一つ。撮影監督のロベルト・マセダ、照明のフリオ・ペレスなどが学んでおり、彼らの参加がクエトの小説の映画化を可能にしたと言われている。

  

                       (撮影中の監督)

100%ドラマに違いありませんが、残虐行為はテロリストだけでなく、政府軍も無辜の民を殺戮したということです。20135月上旬から6週間かけてリマとアヤクーチョでPUCPも協力して撮影された。ロベルト・マセダは「主人公の瞑想的な気質をカメラに収めることが技術的に最も難しかった」と述べている。また監督以下、このプロジェクトは協力的でよく纏まっていて仕事は上手く運んだとも。撮影は一日で12時間に及んだから照明係のフリオ・ペレスは大変だったらしい。

 

★アロンソ・クエトAlonso Cueto1954年リマ生れ)は、弁護士アドリアンの依頼人としてカメオ出演、「少し恥ずかしかったよ」と。かなりの映画ファンで「映画を見るのは人生の一部、セットの中にいるときはとても興味深かった。もっとも以前、フランシスコ・ロンバルディが私のGrandes miradas2003)をMariposa Negra2006)のタイトルで映画化したときセットを訪れたことがあった。監督については「出来栄えに満足している。彼女は感受性がつよくインテリジェンスに優れている。脚本を読ませてもらって、小説をよく理解していることが分かった」とベタ褒め。リマを訪れた人がよく口にするように、「リマは金持ちと貧しい人が交錯しながら暮らしている都会」とも語っておりました。

 

(自作の映画化について語るアロンソ・クエト)

モントリオール映画祭2014*ノミネーション③2014年08月21日 17:13

★今年はメキシコが元気で2本ノミネート、「ワールド・コンペティション部門」にもルイス・ウルキサ・モンドラゴン、短編部門には3本もノミネートされています。

 

   ファースト・フィルム部門(続)

Los bañistasOpen Cageメキシコ、マックス・スニノ監督・脚本・製作)
  2014コメディ

共同脚本:ソフィア・エスピノサ、撮影:ダリエラ・ルドロウ、音楽:セバスチャン・スニノ 

音響:アシエル・ゴンサレス、編集:ヨアメ・エスカミラ、製作:Casas Productoras他 

プロデューサー:グロリア・カラスコ他

キャスト:フアン・カルロス・コロンボ(マルティン)、ソフィア・エスピノサ(フラビア)、ハロルド・トーレス(セバスチャン)、スサナ・サラサール(エルバ)、アルマンド・エスピティア(ペドロ)他 


ストーリー:経済が麻痺状態に陥り、そのせいで周囲の状況は道徳的貧困さえきたしている。甘やかされて育ったティーンエイジャーのフラビアは、アーティスト希望だが大学受験に失敗、挫折感を味わっている。そんなとき彼女は、自分とは正反対の堅物、大人の隣人マルティンと知り合いになる。初めはぶつかり合って上手くいきそうには思われなかったが・・・

 

(フラビア役のソフィア・エスピノサ、映画のシーン)

 

監督紹介マックス・スニノ Max Zuninoはウルグアイ生れ、子供のときにメキシコに移住してきた。監督、脚本家、プロデューサー。情報科学技術科を卒業後、キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画&テレビのコースで学ぶ。短編Recuerdo del mar2005)、本作が第29グアダラハラ国際映画祭FICG29)「イベロアメリカ・コンペティション部門」に正式出品、長編フィクションGuerrero de la PrensaPress Warrior 賞を受賞する。

 

        (左から、カラスコ、コロンボ、監督、ソフィア、FICG29にて)

 

ソフィア・エスピノサはマリサ・SistachLa niña en la piedra2006)で翌年のアリエル賞女優賞にノミネートされている。フアン・カルロス・コロンボは、ギジェルモ・デル・トロの『クロノス』(1993)やルイス・エストラーダのLa ley de Herodes1999)に出演、多くの国際映画祭で数々の賞に輝いた作品、本作でアリエル賞にもノミネートされたベテラン俳優。ペドロ役のアルマンド・エスピティアはアマ・エスカランテの『エリ』で主役エリを演じた俳優です。

 

 

Gonálezメキシコ、クリスチャン・ディアス・パルド(監督・脚本)
   2013、スリラー、102分、
メキシコ公開6

共同脚本:フェルナンド・デル・ラソ、撮影:フアン・パブロ・ラミレス、
 音楽:ガロ・ドゥラン、
編集:レオン・フェリペ・ゴンサレス、
 プロデューサー:ラウラ・ピノ、ハロルド・トーレス、
製作:FOPROCINEChacal Filmes

 

キャスト:ハロルド・トーレス(ゴンサレス)、カルロス・バルデム(エリアス牧師)、オルガ・セグラ(ベトサベ)、ガストン・ピーターソン(パブロ)他

 


ストーリー:平凡な若者ゴンサレスは長らく失業中であり、借金に苦しんでいる。大都会の片隅にある賃貸アパートに住んでおり、母親を養わねばならないが、心配をかけたくないので失業を隠している。ゴンサレス同様ここで暮らす多くの人が借金を抱えており、解雇されれば返済は滞り借金は増え続けるだけである。ゴンサレスはある教会付属のコール・センターで交換手の職を得る。仕事は主イエス・キリストの名において、彼より貧しい<隣人>からカネを毟るとることであった。このインチキ宗教のトップはブラジル人のエリアス牧師でかき集めたお布施を洗浄している。現代のペテン師は本当の<神性>とは程遠い典型的な社会の害虫だった。お金を生みだす簡単な方法を発見した無神論者のゴンサレスは、この汚いシステムに急降下していく。

 

*監督紹介クリスティアン・ディアス・パルドChristian Diaz Pardoは、監督・脚本家・製作者。11モレリア国際映画祭FICM201310月下旬開催)正式出品、第6回メキシコ映画祭FCM2013)で批評家賞を受賞した。短編Los esquimales y el cometa2005、モノクロ、
8分)、Antes del desierto2010、カラー、16分)。

 

クリスチャン・ディアス・パルド、メキシコ映画祭にて

 

★貧者の信仰を利用して大金を溜めこみ権力をほしいままにしている宗教活動家の問題についての映画である。ディアス・パルド監督によると、最初は同僚の女性から、ある宗派の教会をテーマにしたドキュメンタリーが提案された。調査を始めてみると、どうもドキュメンタリーは制約が多く難しいことが分かり、つまり撮影を断られたのでフィクションに変更したようです。暗部を描くわけだから当たり前ですよね。トーレスによって演じられたゴンサレスの人物造形はとても複雑で難しかった。孤立無援の社会に幻滅したただのワルにはしたくなかった。同時に大衆を魅了し、彼と接することで人々が一体感を持てるような人格にしたかった。またカフカの『変身』を自由に翻案して、心理的な色調の強いスリラーになっているということです。キャスティングはトーレスと一緒に選んだ。 


ハロルド・トーレスは、Los bañistasにも出演していますが、カルロス・キュアロン(クアロン)の『ルドとクルシ』(2008)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)に脇役で出演、リゴベルト・ペレスカノの話題作Norteado2009)で主役アンドレスを射止めた。翌年のアリエル賞主演男優賞にノミネートされている。豊かな北を目指すという『闇の列車、光の旅』と同じテーマながら、より現実に近い印象を受ける。かねてから知り合いであったバルデムにエリアス牧師役を打診したのがトーレスだった。

 

カルロス・バルデムは、メキシコ映画出演は3本目だそうで、トーレスからのオファーを即座にOKした由。ブラジルに4年間過ごした経験のあるバルデムはポルトガル語に堪能、ポルトニョル(ポルトガル風スペイン語)で教区民にミサを説教する。バルデムは「メキシコは良きにつけ悪しきにつけダイナミックな社会、伝統をもち端正な美しさも凄まじさも兼ね揃えている。自分にとっては魅力的、撮影中はごきげんだった。この手の教会の裏側を炙りだす物語は、資金の集め方、マネーロンダリングの枠組みなど興味は尽きない。メキシコだけでなくスペインもその他のヨーロッパ諸国もやってること」と語っています。

 

オルガ・セグラは製作者・女優とやり手の才媛、メキシコ・シティ生れだがパナマで育った。Jesse BagetCellmatesで映画デビュー、Omar YnigoのコメディMalcelo2012)など。ガストン・ピーターソンは、メキシコ版“Marcelino Pan y Vino”(2010)のパピージャ神父役で出演している。

モントリオール映画祭2014*ノミネーション②2014年08月18日 16:23

  ファースト・フィルム部門(続)

Schimbare(西)2014 アレックス・サンパジョAlex Sampayo Parra 監督・脚本

製作:Ficcion Producciones 共同脚本:ボルハ・カーマニョ、言語:スペイン語、スリラー 

 


監督紹介:1978年ガリシアのポンテベドラ生れ、監督・脚本家・プロデューサー他。14歳のときから短編を撮り始めたという経歴の持ち主。2000年に短編“Alzheimer”で監督デビュー、ガリシアTVドラマ“Terra de Miranda”(200714話、ガリシア語)、同“Padre Casares”(20084話、ガリシア語)他、多数の短編のあと、本作で長編デビューを果たした。

キャスト:カンデラ・ペーニャ(エルビラ)、ルイス・カストロ・サエラ(ルイス)、サンドラ・Mokrycka(少女)他

 

ストーリー:ルイスとエルビラは、東欧の犯罪組織と接触してルーマニアに行くことになる。二人は目的地近くでルート変更の連絡を受け取る。ブダペストに止まってあるものを収集しなければならなくなる。最初は簡単に思えたが、「ある収集物」とは8歳の少女であった。この瞬間から彼らは人生の岐路に立たされる。計画続行か、または少女解放かの決断を迫られる。彼らの決断次第で誰かが命を落とすことになるだろう。

 

まずタイトルの“Schimbare”は、「交換」を意味するルーマニア語から取られており、ゾッとするような違法臓器密売の事実が背景にあるようです。前半が社会派ドラマ、後半はスリラー仕立てになっている。監督によると、ベルギーのダルデンヌ兄弟の影響を受けているとインタビューで語っていますが、多分、前半と後半のトーンが分かれる『ロルナの祈り』あたりを念頭においているのかもしれない。ショッキングなテーマであるが、脚本執筆には世界保健機構WHOのデータを使用したと語っており、絵空事ではないようです。世界で行われている臓器移植の10%は違法臓器で、ヨーロッパでは組織されたグループによって主に東欧諸国が提供している。

 

     (撮影中の左から、監督、ルイス・サエラ、カンデラ・ペーニャ、サンドラ)

 

撮影は201311月にルゴ近郊のコルゴO Corgoでクランクイン、ルーマニアの部分はハンガリーで4週間かけて撮影された。キャスト陣は、カンデラ・ペーニャ、ルイス・サエラとベテランが演じているので自分は安心していられたとも。子役のサンドラは、ポーランド人で初出演、勘がよく、想像力豊かな少女で、実年齢は9歳だった由。カンデラ・ペーニャは、デビュー作『時間切れの愛』(1994)でゴヤ賞助演・新人女優賞を異例のダブルノミネート、『テイク・マイ・アイズ』(2003)他で助演女優賞を受賞した実力派、ゴヤ賞2013予想と結果②⇒コチラでご紹介済みです。ルイス・サエラは1966年サンチャゴ・デ・コンポステラ生れのベテラン、すでに『月曜日にひなたぼっこ』(2002)、『アラトリステ』(2006)、『第211号監房』(2009)などに出演しております。