ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』*ネットフリックスで鑑賞 ― 2024年10月31日 11:01
『UFOを愛した男』――現実と伝説化されたエピソードが衝突する
(メインキャストをちりばめたポスター)
★ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』が、10月18日からネットフリックスで配信が始まりました。サンセバスチャン映画祭SSIFF 2024のセクション・オフィシアルにノミネートされた折、期待を込めて作品紹介をいたしました。フェイクニュースを演出する主人公ホセ・デ・ゼルの行動を批判することがテーマでないことは分かっていましたが、それでももう少し工夫が欲しかったと思いました。勿論、レオナルド・スバラリアの罪ではありません。混乱はアルゼンチンのアイデンティティーの基本、一貫性のないジグザクしたところを楽しむことをおすすめします。既に内容紹介をしておりますが、鑑賞したことではっきりしたところもありますので、データを加筆して再録します。謎の多いホセ・デ・ゼルの人物紹介記事は、以下にアップしております。
*『UFOを愛した男』内容紹介記事は、コチラ⇒2024年08月17日
(左から、レオナルド・スバラリア、ディエゴ・レルマン監督、レナータ・レルマン、
モニカ・アジョス、SSIFF2024、9月24日フォトコールにて)
『UFOを愛した男』(オリジナル題「El hombre que amaba los platos voladores」)
製作:El Campo Cine / Bicho Films 協賛Netflix
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス
音楽:ホセ・ビラロボス
編集:フェデリコ・ロットスタイン
撮影:ボイチェフ・スタロン
音響:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・デ・カミジス、他
メイクアップ:ベアトゥシュカ・ボイトビチ
衣装デザイン:フェオニア・ベロス・バレンティナ・バリ
製作者:ニコラス・アブル、ディエゴ・レルマン
キャスト紹介:
レオナルド・スバラリア(TVレポーター&ジャーナリストのホセ・デ・ゼル)
セルヒオ・プリナ(カメラマン、カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)
オスマル・ヌニェス(チャンネル6ニュース部長サポリッチ/サポ)
レナータ・レルマン(ホセの娘マルティナ)
マリア・メルリノ(ホセの元妻ロキシ)
アグスティン・リッタノ(超常現象研究家シクスト・スキアフィノ)
パウラ・グリュンシュパン(TV局職員アリシア)
エバ・ビアンコ(宇宙人報道の依頼人イサドラ・ロペス・コルテセ)
エレナ・ゲレロ・ブリ(ラ・カンデラリア・ホテルの受付エレナ)
フリオ・セサル・オルメド(チーフ製作者グティエレス/グティ)
ノルマン・ブリスキ(チャンネル6のCEOチェチョ)
モニカ・アジョス(踊り子モニカ/モニ)
エドゥアルド・リベット(セロ採鉱組合理事長ペドロ・エチェバリアサ)
ダニエル・アラオス(消防署長レカバレン)
ギジェルモ・アレンゴ(精神科医ドメネク)
ほか多数
ストーリー:1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバ県のラ・カンデラリアに向かうことにした。村に到着したが、丘の中腹に円形の焼け焦げた牧草地があるだけだった。しかし、その後に起きたことはアルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。類まれな才能の持ち主にして虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、未確認飛行物体UFOの存在を演出することだった。実際に起きた1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディ仕立てのドラマ。現実と伝説化されたエピソードの衝突。
「視聴率50パーセントでも家では一人でした」と娘
A: 監督は冒頭で主人公ホセ・デ・ゼルの人物像を明らかにする。ヘビースモーカー、一人暮らし、女性にはサービス精神旺盛のお豆ちゃん、根っからの迷信家で常に不安定、1967年に起きた第三次中東戦争、いわゆる「六日間戦争」に予備役少尉として従軍、シナイ砂漠を彷徨ったこと、どうやら宇宙人の存在を信じていることなどが、当時の予備知識ゼロの観客に知らされる。
B: シナイ砂漠の件は想像の産物だった可能性があり眉唾ものらしいです。要するにニュースを報道するジャーナリストというより、広く浅くエンターテイメントの報道をする芸能記者のアイコンだった。
(モニカ役のモニカ・アジョスとホセ・デ・ゼル)
A: 1982年4月、イギリスを向こうに回して戦ったマルビナス戦争、いわゆるフォークランド戦争の敗北は、1976年からの軍事独裁政権の崩壊、民政移管の引き金になりました。1985年には独裁政権歴代の指導者の裁判があり、国民は明るいニュースを欲していた。
B: 99パーセント捏造でも、宇宙人訪問は格好の話題だったに違いありません。あの白髪頭だがハンサムなホセ・デ・ゼルがホントだと言っているんだから。
(チャンネル6のマイクを手にフェイクニュースを届けるホセ・デ・ゼル)
A: 映画からは「UFO を愛した男」というより「視聴率を愛した男」という印象でしたが、実際のホセ・デ・ゼルは、家族のインタビュー記事などから「マイクをこよなく愛した男」のようでした。
B: 監督の娘レナータ・レルマンが演じたマルティナの本名は、パウラ・デ・ゼル(1971)、父親と同じチャンネル9のプロデューサーだったそうですが。
(父と一緒の写真をかざす娘パウラさん)
A: パウラさんによると、実は2歳のとき父親の女性問題が原因で両親は離婚していたので、劇中でのマルティナ登場はフィクション部分、パウラはコルドバには行ったことがない。マリア・メルリノ扮する元妻ロキシも同じだそうです。父親は時々パウラに会いにやって来たそうですが、母親はホセとの関係を断っていた。「パパは人生の90パーセントを仕事に費やし、視聴率50パーセントでも、家に帰れば一人、淋しい人生だった」、自分は一人娘というわけではなく、異母妹がいるとも語っている。撮影前にスバラリアが訪ねてきたので情報をいろいろ提供したようです。
(クリニックの受診を渋るホセ・デ・ゼル、娘マルティナ、元妻ロキシ)
見世物は真実より優位にある――チャンネル6はフィクション
B: まず映画では「チャンネル6」でしたが、本当は〈Nuevediario〉「チャンネル9」ですね。
A: やはりまだ実在している人が多いから差し障りを避けるためにも変更は必要です。監督は「9を180度回転させると6になる」と。
B: 最初、ホセが持ち込んだUFO ネタをガセネタとして即座に却下したオスマル・ヌニェス扮するニュース部長サポリッチ、「視聴者は政治問題の報道に飽きあきしている。視聴者が思い描くシナリオを物語るべき」と、ホセを援護する部下のアリシアも、モデルはいるとしてもフィクション部分。
(オスマル・ヌニェス演じるサポリッチ部長)
(サポ部長をけしかけるパウラ・グリュンシュパン扮するアリシア)
A: 視聴率低迷に悩んでいるサポ部長もアリシアの「他局に取られたら」に怖気づいて前言を翻す。真実より優位にあるのがショー、お茶の間も半信半疑で楽しんだのです。パウラさんの話では、父親も経済的に苦境にあり、どうしてもネタを手放したくなかったと語っています。
B: ノルマン・ブリスキが軽妙に演じていた「チェチョ」の愛称で呼ばれていたTV局オーナーもフィクションですか。
A: チェチョのモデルは、メディア界の大物アレハンドロ・ロマイで「チャンネル9の皇帝」と呼ばれていた人物。彼との出遭いが大きい、パウラさんによると父親の「長所と短所を認めて、ずっと目をかけてくれた」ということでした。
(チャンネル6のオーナー「チェチョ」役のノルマン・ブリスキ)
B: あるときは「バカ」、あるときは「天才」と言っていた。出番はここだけでしたが存在感があった。
A: 横道になりますが、つい最近マルティン・フィエロ賞2024のガラがあり、ブリスキは栄誉賞を受賞したばかり、文化軽視の現政権を皮肉たっぷりに批判したスピーチが話題になっている。芸術は政治とは無関係などくそくらえです。ついでですがレオナルド・スバラリアも2022年に製作された「Puan」で助演男優賞を受賞した。
フィクションと現実の境界をぼかした現代のエル・キホーテ
B: 実名が一致するのは、ホセ・デ・ゼルと、セルヒオ・プリナが演じたカメラマンのカルロス・〈チャンゴ〉・トーレスの二人だけのようですが。パウラさんは「叔父さんとして家族同然だった」と語っています。
A: ホセが現代のエル・キホーテなら、チャンゴはさしずめサンチョ・パンサです。二人は正反対のようにみえますが、実は深いところで似ているのです。チャンゴはホセを上から目線の男、しつこくてうざったく思っているのに離れない、彼もUFO の存在を信じているようだ。
(カメラマン〈チャンゴ〉役のセルヒオ・プリナ)
B: ホセの「ついて来い、チャンゴ、ついて来い!」の名セリフは、その年の流行語になった。
A: チャンゴを演じたプリナの淡々とした演技を褒めたいですね。どこかで見たことのある顔だなぁと思いながら観ていましたが思い出せないでいた。検索してみたら、アグスティン・トスカノの「El motoarrebatador」でバイク引ったくり犯を生業にしている男を演じていた俳優でした。当ブログでも紹介しているのでした。
*「El motoarrebatador」の作品紹介記事は、コチラ⇒2018年09月07日
★サンセバスチャン映画祭2018オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされ、オリソンテス賞スペシャルメンションを受賞、主役のミゲルを演じたセルヒオ・プリナがリマ・ラテンアメリカ映画祭、ハバナ映画祭で男優賞を受賞している。なら国際映画祭2018で『ザ・スナッチ・シィーフ』の邦題で上映された。ほかにマラガ映画祭2021フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(20)にも出演している。
B: UFOが着陸したと思われる牧草地、円形の黒こげのある丘も、同じコルドバ県ですが実際とは違うということですが。
A: 劇中のホセが登っていくコメルナ山ではなく、実際は海抜1979mの Cerro Uritorco ウリトルコ山ということです。当時とは景観が変わってしまっていて撮影地には適さなかった。それに消防署長以下、一般住民も大勢インチキに関わっていましたから。
「メシア主義」の存在とフェイクニュースの関係
B: セロ採鉱組合の目的が、かつては金の採掘で活気があった土地を買い占めた不動産会社の観光事業のやらせだったことが分かってからも、ホセはUFOの存在を裏付ける証拠改竄にムキになる。
A: 監督は「メシア主義」」の存在とフェイクニュースが関係していると指摘しています。救世主の到来を信ずることは、ユダヤ教の信仰のなかでも重要です。シナリオには幾つも穴があるけれども、宇宙から到来する存在の根拠に乏しい信念が、ホセの合理主義的思考を蝕んでいると語っています。
(UFO報道の仕掛け人、セロ採鉱組合役人を名乗るイサドラ役のエバ・ビアンコ)
B: 最後のシーンには唖然としました。本作は言うまでもなく、ホセ・デ・ゼルの人生を掘り下げるのがテーマではありません。
A: 深入りしたくありませんが、ホセは母親フローラがマイトレ劇場を経営していたので、後にアメリカに渡った女優の叔母さんに育てられたということです。その劇場のチケット売りをしていたが仕事が適当だったので辞めさせられた。その後、イスラエルのキブツにいた父親サミュエルに呼び寄せられてイスラエルに渡っている。謎が多くてどこまでが本当か分かりませんが、20代半ばで第三次中東戦争(1967)に従軍したのもそういう関係でしょうか。
B: その時まで父親がキブツにいたなんて知らなかったと言っている。ウイキペディア情報では、職業は「ジャーナリスト、軍人」です。帰国後、時期は不明ですが友人の紹介で「Gente」誌に就職している。ジャーナリスト誕生です。
A: 劇中でも息切れするほどの1日3箱のヘビースモーカー、そのうえコーヒー中毒者でもあり、1日12杯ぐらい飲んでいた。緊張からくるストレスで心も病んでいた。一番華やかだった時代は、チャンネル9に報道記者として在籍していた、1984年から1994年の10年間、1997年、罹患していたパーキンソン病と肺癌ではなく食道癌で56年の人生を駆け抜けた。旅立つときは「ママ、パパ、もう直ぐそっちに行くよ・・・行くから待ってて」と言ったとか。イスラエル人墓地に眠っている。
(妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー
カルロス・モンソンにインタビューするホセ・デ・ゼル、手にチャンネル9のマイク)
A: ホセになりきったレオナルド・スバラリア(ブエノスアイレス1970)は度々紹介しておりますが、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリアをアップしております。『10億分の1の男』で鮮烈デビューして以来、リカルド・ダリンに継ぐ知名度を保っています。
B: 監督は以前からタッグを組みたかったらしく、レオもオファーを待っていた。
A: ホセ役に「体型は拘らないが白髪頭は譲れないと考えていた」と監督。脚本は未完成だったが、即座にOK の返事がきた。
B: 前述したように「Puan」でマルティン・フィエロ助演男優賞を受賞したばかり、2025年の主演を期待したい。
A: ほかに超常現象や心霊現象を調べているシクスト・スキアフィノに扮したアグスティン・リッタノはサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、レルマンの『代行教師』、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』、管理人は未見ですが、デミアン・ラグナのホラー『テリファイド』に出演している。消防署長のダニエル・アラオスはマリアーノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの『ル・コルビュジエの家』の怪演でアルゼンチン・アカデミー賞2010の主演&新人男優賞のダブル受賞を果たし、レルマンの『家族のように』にも出演している。
B: いつの時代でも「信じたいものを信じ、見たいものを見る」のが人間のようです。
(本作撮影中のディエゴ・レルマン監督)
*主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年09月03日/10月23日
*主なレオナルド・スバラリアの紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日
オリソンテス・ラティノス部門第4弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑮ ― 2024年08月29日 15:11
アルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツの第2作
★オリソンテス・ラティノス部門の最終回は、変わり種としてアルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツが中国人の移民を主役にしてブラジルを舞台にした「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」、イエア・サイドの「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」、ソフィア・パロマ・ゴメス&カミロ・ベセラ共同監督の「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」の3作、いずれも長いタイトルです。
*オリソンテス・ラティノス部門 ④*
12)「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」
ブラジル=アルゼンチン=台湾=ドイツ
イクスミラ・ベリアク 2018 作品
2024年、ポルトガル語・北京語・スペイン語・英語、コメディドラマ、97分、撮影地ブラジルのレシフェ。脚本ピオ・ロンゴ、ネレ・ヴォーラッツ、撮影ロマン・カッセローラー、編集アナ・ゴドイ、ヤン・シャン・ツァイ、公開ドイツ6月13日
監督:ネレ・ヴォーラッツ(ハノーバー1982)は、監督、脚本家、製作者。アルゼンチン在住のドイツ人監督。長編デビュー作「El futuro perfecto」がロカルノ映画祭2016で銀豹を受賞している。アルゼンチンに到着したばかりの中国人少女のシャオビンが新しい言語であるスペイン語のレッスンを受ける課程でアイデンティティを創造する可能性を描いている。第2作は前作の物語にリンクしており、主人公が故郷の感覚を失った人の目を通して、孤立と仲間意識の物語を構築している。3作目となる次回作はドイツを舞台にして脚本執筆に取りかかっているが、監督自身もドイツを10年前に離れており、母国との繋がりを失い始めているため距離の取り方に苦労していると語っている。新作に製作者の一人として『アクエリアス』のクレベール・メンドンサ・フィーリョが参加、偶然ウィーンで出合ったそうで、撮影地が『アクエリアス』と同じレシフェになった。
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024「エンカウンターズ部門」のFIPRESCI賞受賞、韓国ソウルFF、カルロヴィ・ヴァリFF、(ポーランド)ニューホライズンズFF、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:リャオ・カイ・ロー(カイ)、チェン・シャオ・シン(シャオシン)、ワン・シンホン(アン・フー)、ナウエル・ペレス・ビスカヤール(レオ)、ルー・ヤン・ゾン(ヤン・ゾン)ほか多数
ストーリー:ブラジルの或るビーチリゾート、カイは傷心を抱いて台湾から休暇をとって港町に到着する。故障したエアコンをアン・フーの傘屋に送ることにする。友達になれたはずなのに雨季がやってこないので店はしまっている。アン・フーを探しているうちに、カイは高級タワーマンションでシャオシンと中国人労働者のグループの存在を知る。カイは、シャオシンの話に不思議な繋がりがあるのに気づきます。ヒロインは監督の外国人の視点を映し出す人物であり、帰属意識を失う可能性のある人の物語。
13)「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」
アルゼンチン=イタリア=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、コメディドラマ、73分、デビュー作、WIP Latam 産業賞&EGEDA プラチナ賞受賞、公開スペイン2024年10月4日、アルゼンチン10月31日
監督:Iair Said イエア(イアイル)・サイド(ブエノスアイレス1988)は、監督、脚本家、キャスティングディレクター、俳優。2011年俳優としてスタートを切り、出演多数。監督としては短編コメディ「Presente imperfecto」(17分)がカンヌFF2015短編映画部門ノミネート、ドキュメンタリー「Flora’s life is no picnic」がアルゼンチン・スール賞2019ドキュメンタリー賞受賞。長編デビュー作は監督、脚本、俳優としてユダヤ人中流家庭の遊び好きで無責任なゲイのダビを主演する。
映画祭・受賞歴:カンヌFF 2024 ACIDクィアパーム部門でプレミア、グアナフアトFF国際長編映画賞ノミネート、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:イエア・サイド(ダビ)、リタ・コルテス(母親)、アントニア・セヘルス(従姉妹)、フリアナ・ガッタス(姉妹)
ストーリー:ダビは叔父の葬儀のためヨーロッパからブエノスアイレスに帰郷する。母親が、長い昏睡状態にある父親ベルナルドの人工呼吸器のプラグを抜く決心をしたことを知る。ダビは、夫の差し迫った死の痛みに錯乱状態の母親との窮屈な同居と、自身の存在の苦悩を和らげるための激しい欲望とのあいだでもがいている。数日後、彼は過去と現在を揺れ動きながら、また最低限の注意を向けてセクシュアルな関係を保ちながら、車の運転を習い始める。さて、ダビは父親の死を直視せざるをえなくなりますが、呼吸器を外すことは適切ですか、みんなで刑務所に行くことになってもいいのですか。家族、病気、死についてのユダヤ式コメディドラマ。
14)「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」
チリ=アルゼンチン=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、スリラー・ドラマ、95分、脚本カミロ・ベセラ、ソフィア・パロマ・ゴメス、撮影マヌエル・レベリャ、音楽パブロ・モンドラゴン、編集バレリア・ラシオピ、美術ニコラス・オジャルセ、録音フアン・カルロス・マルドナド、製作者&製作カルロス・ヌニェス、ガブリエラ・サンドバル(Story Mediaチリ)、Murillo Cine / Morocha Films(アルゼンチン)、b-mount(スペイン)、公開チリ2024年5月30日(限定)、インターネット6月7日配信。
監督:カミロ・ベセラ(サンティアゴ1981)とソフィア・パロマ・ゴメス(サンティアゴ1985)の共同監督作品。ベセラは監督、脚本家、製作者。ゴメスは監督、脚本家、女優。前作「Trastornos del sueño」(18)も共同で監督、執筆している。意義を求めるような宗教セクト、口に出せないことの漏出、男性がいない家族、ヒメナのように夫を必要としない女性、これらすべてがこの家族を悲惨な事件に追い込んでいく。「私たちの映画は、どのように生き残るか、または恐怖にどのように耐えるかを描いており」、「この事件の怖ろしさがどこにあるのかを考えた」と両監督はコメントしている。
映画祭・受賞歴:SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:アリネ・クッペンハイム(ヒメナ)、カミラ・ミレンカ(長女タマラ)、フリア・リュベルト(次女アダリア)、マリア・パス・コリャルテ、アレサンドラ・ゲルツォーニ、ヘラルド・エベルト、マカレナ・バロス、他
*アリネ・クッペンハイムについては、マヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976』が東京国際映画祭2022で上映され女優賞を受賞した折に、キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。 コチラ⇒2022年11月06日
ストーリー:成功した精神科医のヒメナは、長らく或る宗派のコミュニティに入り疎遠だった長女タマラの思いがけない訪問をうける。タマラが母親と次女アダリアが暮らしている家に避難しているあいだ、タマラの生まれたばかりの赤ん坊がセクト内部の奇妙な状況で行方不明になったというので、ヒメナは赤ん坊の運命を知ろうと政治的な調査を開始する。実際に起きた「アンタレス・デ・ラ・ルス」事件*にインスパイアされたフィクション。
*アンタレス・デ・ラ・ルス「Antares de la Luz」事件とは、2013年、キリスト再臨を主張した宗教指導者ラモン・グスタボ・カステージョ(1977~2013)が、世界終末から身を守る儀式の一環としてバルパライソの小村コリグアイで、女性信者の新生児を生贄として焼いていたことが発覚した事件。当局の調査着手に身の危険を察知したカステージョは、逮捕に先手を打って逃亡先のクスコで首吊り自殺をした。チリ史上もっとも残忍な犯罪の一つとされる事件は、ネットフリックス・ドキュメンタリー『アンタレス・デ・ラ・ルス:光のカルトに宿る闇』(24)として配信されている。
(ネレ・ヴォーラッツ、イエア・サイド、ソフィア・パロマ・ゴメス、カミロ・ベセラ)
★オリソンテス・ラティノス部門は、以上の14作です。スペイン語、ポルトガル語がメイン言語で監督の出身国は問いません。ユース賞の対象になり、審査員は18歳から25歳までの学生150人で構成されています。
オリソンテス・ラティノス部門第2弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑬ ― 2024年08月23日 14:41
過去の受賞者フェルナンダ・バラデス、ルイス・オルテガなどの新作
★オリソンテス・ラティノス部門第2弾は、アルゼンチンに実在した美少年の殺人鬼を映画化した『永遠に僕のもの』(18)のルイス・オルテガ、2020年のオリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』のフェルナンダ・バラデスなどが新作を発表している。それぞれ4作ともカンヌ映画祭併催の「批評家週間」、ベネチア映画祭、ベルリン映画祭、サンダンス映画祭などでワールドプレミアされた作品ですが、スペインでは未公開なので選ばれています。本祭は開催時期が遅いこともあって二番煎じの印象が付きまとい分が悪い。第2弾として4作品をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Simón de la montaña / Simon of the Mountain」
アルゼンチン=チリ=ウルグアイ=メキシコ
2024年、スペイン語、ドラマ、96分、公開アルゼンチン10月17日
脚本フェデリコ・ルイス、トマス・マフィー、アグスティン・トスカノ
監督:フェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990)は、監督、脚本家。ブエノスアイレス大学で社会コミュニケーションを専攻、2013年卒業制作「Vidrios」を共同監督し、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(Bafici)でプレミアされた。ほか短編がカンヌ、トロント、マル・デル・プラタ、アムステルダム・ドキュメンタリー(IDFA)など各映画祭で受賞している。本作が単独監督デビュー作である。
映画祭・受賞歴:カンヌFF2024併催の「批評家週間」グランプリ受賞、ゴールデンカメラ賞ノミネート、上海FF上映、ミュンヘンFFシネビジョン賞作品賞受賞、リマFFドラマ部門審査員俳優賞受賞(ロレンソ・フェロ)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ロレンソ・フェロ(シモン)、ペウエン・ペドレ、キアラ・スピニ、ラウラ・ネボレ、アグスティン・トスカノ、カミラ・ヒラネ
ストーリー:21歳になるシモンは、引っ越しのヘルパーをしている。なんとか現実を変えたいが料理もダメ、トイレ掃除もダメ、ただベッドメーキングはできる。最近、障害をもつ子供二人と友達になったことで変化の予感がしてきた。彼らは自分たちのために設計されていない世界を一緒にナビゲートし、愛と幸福のための独自のルールを発明していく。ルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』で実在した殺人鬼を演じたロレンソ・フェロがシモンを演じている。
6)「El jockey / Kill The Jockey」
アルゼンチン=メキシコ=スペイン=デンマーク=米国
2024年、スペイン語、犯罪ドラマ、97分、脚本ファビアン・カサス、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス。海外販売Film Factry Entertainment、公開アルゼンチン9月26日、Disney+でストリーミング配信される予定
監督:ルイス・オルテガ(ブエノスアイレス1980)、監督、脚本家。両親とも俳優、兄セバスティアンは映画製作者など、アルゼンチンでは有名なアーティスト一家。2002年、メイド・イン・スペイン部門に長編デビュー作「Caja negra」が選ばれている。公開された『永遠に僕のもの』はカンヌの「ある視点」のあと、本祭ペルラス部門にエントリーされた。監督キャリア&フィルモグラフィーは7作目となる『永遠に僕のもの』にアップしています。新作が8作目と若い監督ながらチャンスに恵まれている。
*監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年05月15日
映画祭・受賞歴:ベネチアFF2024コンペティションでワールドプレミア(8月29日)、トロントFF「センターピース」部門出品、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:ナウエル・ペレス・ビスカヤート(レモ・マンフレディーニ)、ウルスラ・コルベロ(レモの恋人アブリル)、ダニエル・ヒメネス≂カチョ(シレナ)、マリアナ・ディ・ジロラモ(アナ)、ダニエル・ファネゴ、ロリー・セラノ、ロベルト・カルナギ、アドリアナ・アギーレ、オスマル・ヌニェス
ストーリー:伝説の騎手レモ・マンフレディーニの自己破壊的な行動は、彼の才能に影を落とし始めている。恋人のアブリルとの関係も脅かしている。騎手であるアブリルはレモの子供を宿しており、子供か名声かを選ばなければならない。かつて命を救ってくれたマフィアのボスのシレナからの借金を精算しなければならない、彼の人生でも重要なレースの日、貴重な馬を死なせてしまう深刻な事故に遭ってしまう。病院から抜け出してブエノスアイレスの街路を彷徨います。自分のアイデンティティから解放されたレモは、自分が本当は誰であるべきなのか考え始める。一方シレナは生死にかかわらず彼を見つけだすための捜索を開始する。アブリルはシレナより先に彼を見つけようとする。
7)「Cidade; Campo」ブラジル=ドイツ=フランス
2024年、ポルトガル語、ミステリー・ドラマ、119分、脚本ジュリアナ・ロハス、製作者サラ・シルヴェイラ、音楽リタ・ザルト
監督:ジュリアナ・ロハスは、1981年サンパウロ州カンピナス生れ、監督、フィルム編集者、脚本家。サンパウロ大学の情報芸術学校で映画を専攻した。大学で出合ったマルコ・ドゥトラとのコラボレーションでキャリアをスタートさせ、数編の短編で注目を集める。2011年、ドゥトラとのデュオで長編デビュー作「Trabalhar Cansa / Hard Labor」を撮り、カンヌFF「ある視点」でプレミアの後、シッチェスFF新人監督賞、ハバナFFサンゴ賞3席、リマ・ラテンアメリカFFスペシャル・メンションなどを受賞した。2017年、ホラーファンタジー「As Boas Maneiras / Good Manners」でロカルノFF銀豹賞を受賞、翌年『狼チャイルド』の邦題で公開された。
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2024エンカウンターズ部門*監督賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
*エンカウンターズ部門は2020年に新設されたインディペンデント作品を対象にしている。作品・監督・新人監督・審査員特別賞などがある。
キャスト:フェルナンダ・ヴィアナ(ジョアナ)、ミレッラ・ファサーニャ(フラヴィア)、ブルナ・リンツマイヤー(マラ)、カレブ・オリヴェイラ(ハイメ)、アンドレア・マルケー(タニア)、プレタ・フェレイラ(アンヘラ)、マルコス・デ・アンドラーデ(セリノ)ほか
ストーリー:都会と田舎に移住した二つの物語が語られる。一つ目はジョアナの物語、貯水池が決壊して生れ故郷の土地が浸水してしまうと、彼女は孫のハイメと暮らしている姉タニアを頼ってサンパウロに移住する。ジョアナは労働者の都会で成功するため闘うことになる。不安定な雇用のなかより良い仕事を求めて同僚と絆を深めていく。二つ目はフラヴィアの物語、疎遠にしていた父親の死後、フラヴィアは妻のマラと一緒に父の農場に移り住む。二人の女性は新たなスタートを切りますが、田舎の厳しい現実に直面してショックを受けます。自然が二人の女性をフラストレーションに向き合わせ、古い記憶と幻影に立ち向かうことを強います。
(ジョアナ、ハイメ、タニア)
(マラ、フラヴィア)
8)「Sujo / Hijo de sicario」メキシコ=米国=フランス
2024年、スペイン語、ドラマ、126分、脚本アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス、撮影ヒメナ・アマン、編集スーザン・コルダ、両監督、録音オマール・フアレス・エスピナ、衣装デザインはアレハ・サンチェス。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。
監督:アストリッド・ロンデロ(メキシコシティ1989)、監督、製作者、脚本家、共同監督のフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』の脚本を共同執筆している。単独で監督した「Los días más oscuros de nosotras」(17)は、アリエル賞2019のオペラ・プリマ賞、主役のソフィー・アレクサンダー・カッツが女優賞にノミネートされたほか、ボゴタ、サンアントニオ、モンテレイ、サントドミンゴ・アウトフェスなどの国際映画祭で作品賞や脚本賞を受賞している。共同監督のフェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は、上述したようにSSIFF 2020オリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』を撮っている。キャリア&フィルモグラフィーについては、ロンデロ監督も含めて以下に紹介しています。両監督ともメキシコにはびこる暴力、麻薬密売、社会的不平等、女性蔑視などを映像を通じて発信し続けています。
*『息子の面影』の紹介記事は、コチラ⇒2020年11月26日
映画祭・受賞歴:サンダンスFF2024ワールドシネマ・ドラマ部門審査員グランプリ、ソフィアFFインターナショナル部門グランプリ、トゥールーズ・ラテンアメリカFFレールドック賞&シネプラス賞、スペイン・ラテンアメリカ・シネマ・フェスティバル作品賞他を受賞。ヨーテボリ、香港、マイアミ、ダラス、シアトル、シドニー、ミュンヘン、ウルグアイ、マレーシア他、各映画祭でノミネートされている。SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:フアン・ヘスス・バレラ・(スージョ)、ヤディラ・ペレス・エステバン(叔母ネメシア)、アレクシス・バレラ(ジャイ)、サンドラ・ロレンサノ(スーザン)、ハイロ・エルナンデス・ラミレス(ジェレミー)、ケヴィン・ウリエル・アギラル・ルナ(少年スージョ)、カルラ・ガリード(ロサリア)ほか
ストーリー:メキシコの小さな町、スージョが4歳だったとき、麻薬カルテルのヒットマンだった父親が残忍な方法で殺害されるのを目撃する。彼は叔母ネメシアの機転で間一髪で命を救われるが孤児となる。ネメシアは危険を避け、生れ故郷の暴力が届かないところでスージョを苦労を重ねながら育てていた。しかし彼の人生には暴力の影が付きまとい、成長するにつれ父親の過去の忘れられない暴力的な遺産にとらえられ、面と向かって立ち向かうことが自分の宿命のように思えてくる。カルテルがスージョとその友人たちを見つけだす。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。
(メキシコ版のポスター「Hijo de sicario」)
(アストリッド・ロンデロ、フェルナンダ・バラデス、サンダンスFF2024ガラにて)
(左から、フェデリコ・ルイス、ルイス・オルテガ、ジュリアナ・ロハス、
アストリッド・ロンデロ)
オリソンテス・ラティノ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャン映画祭2024 ⑫ ― 2024年08月20日 15:14
オリソンテス・ラティノス部門14作、最多はアルゼンチンの5作
★8月8日、オリソンテス・ラティノス部門のノミネート14作が一挙発表になりました。スペイン語、ポルトガル語に特化した部門、例年だと10~12作くらいなので多い印象です。ラテンアメリカの映画先進国アルゼンチンの監督が5人と最多、チリ、メキシコ、ブラジル、パナマ、ベネズエラ、ペルーと満遍なく選ばれています。3回ぐらいに分けてアップします。オープニングはチリのホセ・ルイス・トーレス・レイバの「Cuando las nubes esconden las sombras」、クロージングはアルゼンチンのセリナ・ムルガの「El aroma del pasto recién cortado」です。新人登竜門の立ち位置にある部門ですが、「Pelo malo」で2013年の金貝賞を受賞したマリアナ・ロンドンの新作もノミネートされております。作品賞にあたるオリソンテス賞には副賞として35.000ユーロが与えられます。
*オリソンテス・ラティノス部門 ①*
1)「Cuando las nubes esconden las sombras / When Clouds Hide The Shadow」
チリ=アルゼンチン=韓国
オープニング作品 2024年、スペイン語、ドラマ、70分
監督:ホセ・ルイス・トーレス・レイバ(サンティアゴ1975)は、監督、脚本家、編集者。「El cielo, la tierra, la lluvia」がロッテルダムFF2008でFIPRESCI賞、ヒホン、ナント、サンタ・バルバラ、トライベッカ、全州チョンジュFFほか多くの国際映画祭にノミネートされている。「Verano」はベネチアFF2011オリゾンティ部門でプレミアされている。本祭関連ではSSIFF2019の「Vendrá la muerte y tendrá tus ojos」で金貝賞やセバスティアン賞を争った他、マル・デル・プラタ映画祭でスペシャル・メンションを受賞している。サバルテギ-タバカレア部門には、「El viento sepa que vuervo a casa」(16、カルタヘナFFドキュメンタリー賞)、短編「El Sueño de Ana」(17)、「Sobre cosas que me han happens」(18)が紹介されている。新作でセクション・オフィシアルに戻ってきた。
映画祭・受賞歴:全州チョンジュ市映画祭プレミア、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
キャスト:マリア・アルチェ
ストーリー:マリア・アルチェは、映画で主人公を演じるために世界最南端の港町プエルト・ウィリアムズを訪れている女優です。激しい暴風雨が予定通りの撮影クルーの到着を阻んでおり、一人で待つしかありません。背中のひどい痛みの手当てを探しに、彼女は世界南端の村々を歩き回ることになるでしょう。彼女の人生で気がかりな物語の一つ、と同時に希望の物語であり、マリアと大陸の最南端の自然とその村人たちの間に起きる思いがけない出会いの物語である。
2)「El aroma del pasto recién cortado / The Freshly Cut Grass」
アルゼンチン=ウルグアイ=米国=メキシコ=ドイツ
クロージング作品 2024年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同製作フォーラム 2020
ドラマ、114分、脚本ガブリエラ・ララルデ、セリナ・ムルガ、ルシア・オソリオ、他
映画祭・受賞歴:トライベッカFF 2024脚本賞受賞(6月)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:セリナ・ムルガ(アルゼンチンのパラナ1973)は監督、脚本家、製作者。1996年映画大学で映画監督の学位を取得、制作会社「Tresmilmundos Cine」の共同設立者、映画研究センターで後進の指導に当たっている。本祭との関連では、話題のデビュー作「Ana y los otros」がオリソンテス2003、ボゴタFF作品賞、リオデジャネイロFFのFIPRESCI賞、ほか国際映画祭での受賞歴多数、「Una semana solos」がシネ・エン・コンストルクション2007、ミュンヘンFF2009 ARRI/OSRAM賞を受賞している。「The Side of The River」がオリソンテス・ラティノス2014にノミネートされている。
キャスト:ホアキン・フリエル(パブロ)、マリナ・デ・タビラ(ナタリア)、ルチアナ・グラッソ(ベレン)、アルフォンソ・トルト、ベロニカ・ヘレス(ルチアナ)、ロミナ・ペルフォ(カルラ)、オラシオ・マラッシ(ロベルト)、クリスティアン・フォント(マルセロ)、ロミナ・ベンタンクール(ソニア)、ほか多数
ストーリー:ブエノスアイレス大学の教授であるパブロは結婚していて2人の息子がいる。彼の学生であるルチアナと不倫関係にある。浮気が発覚すると仕事と家族を失うと脅されます。ここから同じ大学の教授であるナタリアの物語が始まります。彼女も結婚していて2人の娘がいる。彼女も生徒のゴンサロと不倫関係を始めます。二つの物語は、同じコインのウラオモテであり、男女間で確立された力関係と、事前に確立された性別の解体に向けた新たな道を問いかけることになる。ありきたりの倦怠期夫婦の危機が語られるが、新味がないのにパブロとナタリアの不倫が交差することはなく、その独創的な構成と達者な演技で上質のドラマになっている。
(左から、ホアキン・フリエル、ムルガ監督、マリナ・デ・タビラ)
3)「Reas」アルゼンチン=ドイツ=スイス
WIP Latam 2023 作品 ドキュメンタリー、ミュージカル、82分、
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024フォーラム部門ドキュメンタリーでプレミア、テッサロニキ・ドキュメンタリーFF金のアレクサンダー賞&マーメイド賞、ルクセンブルク市FFドキュメンタリー賞、シネラティノ・トゥールーズ2024ドキュメンタリー部門観客賞受賞、ほかノミネート多数、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:ロラ・アリアス(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、戯曲家、シンガーソングライター、舞台女優、演出家と多才、キャリア&フィルモグラフィーはドキュメンタリーのデビュー作「Teatro de guerra」(18)がサバルテギ-タバカレア部門にエントリーされた折、作品紹介とキャリアを紹介しています。新作は長編2作目で昨年のWIP Latamに選出され完成が待たれていた。
*監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年08月05日
キャスト:ヨセリ・アリアス、イグナシオ・ロドリゲス(ナチョ)、カルラ・カンテロス、ノエリア・ラディオサ、エステフィー・ハーキャッスル、パウラ・アストゥライメ、シンティア・アギーレ、パト・アギーレ、ハデ・デ・ラ・クルス・ロメロ、フリエタ・フェルナンデス、ラウラ・アマト、ダニエラ・ボルダ、ほか多数
ストーリー:麻薬密売が発覚して空港で逮捕された若いヨセリは、背中にエッフェル塔のタトゥーをしている。ヨーロッパ旅行を夢見ていたからだが、規則、制約、友情、連帯、愛で構成されたチームに参加することにした。ナチョは詐欺罪で逮捕されたニューハーフでロックバンドを結成している。もう使用されなくなっているブエノスアイレスの刑務所の敷地が、ドキュメンタリー、ミュージカル、ドラマを組み合わせた本作の舞台となる。過去に収監されていた人々が刑務所での記憶をフィクション化して再現します。控え目な人も荒っぽい人も、ブロンドも剃毛も、長期囚も最近入所した人も、シスもトランスも、ここには自分の居場所があります。このハイブリットなミュージカルでは踊り、歌い、フィクション化して自分の人生を追体験し、自身の可能性のある未来を創造します。
4)「Querido Trópico / Beloved Tropic」パナマ=コロンビア
2024年、スペイン語、ドラマ、108分、脚本アナ・エンダラ、ピラール・モレノ
映画祭・受賞歴:トロントFF2024「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門でプレミア(9月7日)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門
監督:アナ・エンダラ・ミスロフ(パナマシティ1976)は、ドキュメンタリーを専門とする監督、脚本家、製作者。フロリダ州立大学で社会学を専攻、キューバの国際映画テレビ学校で映画を学んでいる。2001年、ドイツのケルンにある芸術メディア・アカデミーの奨学金を得る。広告代理店のプロとして、ドキュメンタリーやオーディオビジュアルのプロジェクトを制作している。2013年コメディ・ドキュメンタリー「Reinas」でトロントFFグロールシュ・ディスカバリー賞、2016年「La Felicidad de Sonido」でコスタリカFFの審査員賞、イカロFF2017のドキュメンタリー賞を受賞している。マドリード女性映画祭2023の審査員を務めている。本作が最初のフィクションです。
キャスト:パウリナ・ガルシア、ジェニー・ナバレテ、フリエタ・ロイ
ストーリー:トロピカルな庭園は、時を共にすることになる二つの孤独の出会いの舞台になります。過去のすべてが奪われていく裕福だが認知症を患う女性、その介護者はたった一人で怖ろしい秘密から逃れてパナマに移民してきた女性、監督は二人の孤独を痛烈に解き明かします。
(コロンビア女優ジェニー・ナバレテ、チリのベテラン女優パウリナ・ガルシア)
(左から、ホセ・ルイス・トーレス・レイバ、セリナ・ムルガ、ロラ・アリアス、
アナ・エンダラ・ミスロフ)
★トロント映画祭2024は、9月5日から15日までとSSIFFに先行して開催されます。
ディエゴ・レルマンの新作はコメディドラマ*サンセバスチャン映画祭2024 ⑪ ― 2024年08月17日 10:41
フェイクニュースの先駆けホセ・デ・ゼルの人生を描くコメディ
★セクション・オフィシアル紹介の最終回、アルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El hombre que amaba los platos voladores」は、20世紀に実在したアルゼンチンのテレビレポーター、ホセ・デ・ゼルの人生が語られる。レルマンが初めてネットフリックスから資金援助を受けて製作した「UFOを愛した男」は、コメディドラマであると同時にファンタジックなビオピックでもあり、SFの要素も備えている。彼のデビュー作『ある日、突然。』(02、「Tan de repente」公開2004年)を、それこそトツゼンに思いだしました。ロカルノ映画祭銀豹を皮切りに新人が貰える国際映画賞を山ほど手にした映画でした。
★本名ホセ・カイゼルKeizer として1941年誕生したホセ・デ・ゼルは、アルゼンチンのエンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、ポップカルチャーのアイコンとして不思議な磁力で人々を引き付けていた。舞台は1986年のブエノスアイレス、ある人物から不自然で奇妙な提案を受けたホセ・デ・ゼルとその相棒カメラマンのチャンゴは、コルドバのラ・カンデラリアに旅立ちます。
「El hombre que amaba los platos voladores」
(英題「The Man Who Loved UFOs」)
製作:El Campo Cine / Bicho Films 協賛Netflix
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス
編集:フェデリコ・ロットスタイン(1983 BSAS)
美術:マホ・サンチェス・キアッペChiappe
録音:ナウエル・デ・カミジス、レアンドロ・デ・ロレド、ルベン・ピプット・サントス
製作者:ディエゴ・レルマン
データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、コメディドラマ、ビオピック、106分、配給元ネットフリックス、配信10月18日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024セクション・オフィシアル作品
キャスト:レオナルド・スバラリア(ホセ・デ・ゼル)、セルヒオ・プリナ(カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)、オスマル・ヌニェス、レナータ・レルマン、マリア・メルリノ、モニカ・アジョス(アヨス)、ダニエル・アラオス、エバ・ビアンコ、ノルマン・ブリスキ、アグスティン・リッタノ、ギジェルモ・プフェニング、他
ストーリー:1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバのラ・カンデラリアに旅立った。村に到着したが、丘の中腹に焼け焦げた牧草地があるだけで取り立てて調査するようなものは見つからなかった。しかし引き続いて起きたことは、アルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。隠された才能の持ち主で虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、地球外生命体エイリアンの存在を演出することだった。1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディドラマ。
(ラ・カンデラリアの丘でライブ放送をするホセ・デ・ゼル、フレームから)
★ホセ・デ・ゼル(José de Zer 本名 José Bernardo Kerzer)は1941年、劇場の照明デザイナーの息子としてブエノスアイレスで生れた。エンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、軍人、1997年、罹患していたパーキンソン病と食道癌と闘ったが56歳の若さで鬼籍入りした。彼の報道したニュース同様、ポップカルチャーのアイコンとして短いが波乱万丈の人生だった。映画からはフェイクニュースのパイオニアみたいな印象を受けるが、当時あらゆるタイプの記事をカバーできる実力のあるジャーナリストの地位を確立していた。だからこそ眉唾のフェイクニュースにお茶の間は釘付けになったのでしょう。今日のようにフェイクが民主主義を脅かす政治的武器ではなく、無害でエキサイティングな娯楽だった時代には、お茶の間で楽しむ人々も共犯者だった。いつの時代でも私たち庶民は、信じたいものを信じ、見たいものを見るという、操作されやすい存在ということです。
★ユダヤ教徒のホセ・デ・ゼルは、第三次中東戦争(1967)に、予備役少尉としてイスラエルに派遣されている。別名「六日間戦争」と言われるようにイスラエルの圧倒的勝利で、たったの6日間の戦闘で終わった戦争なので、九死に一生を得るということではなかったと思うが、パタゴニアでの意識を失うほどの深刻な自動車事故を生きのびて以来、死を怖れるようになった。息切れするほどのヘビースモーカーでコーヒー中毒だったから長生は難しかったのではないか。1989年にゲリラによってブエノスアイレス州のラ・タブラダ軍事施設が襲撃されたときの現場報道、妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー、カルロス・モンソンのインタビューなど、堅実な報道も行っている。
★監督キャリア&フィルモグラフィーは紹介済み、主役のレオナルド・スバラグリア(スバラリア)は、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。公開、ミニ映画祭、ネット配信、DVDと電撃デビューした『10億分の1の男』(01)以来、20数作も字幕入りで鑑賞できる俳優はそんなに多くありません。
*主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年10月23日
*レオナルド・スバラグリア紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日
★ケイト・ブランシェットに続いて、二人目となるドノスティア栄誉賞受賞者ペドロ・アルモドバルの発表がありました。昨年授与式を延期していたハビエル・バルデムも今年は出席します。またオリソンテス・ラティノス部門、ペルラス部門、サバルテギ-タバカレア部門などのノミネートがアナウンスされ映画祭の全容が見えてきました。もう開催まで1ヵ月を切りましたので、バランスをとって作品紹介をしていく予定です。
追加情報:10月18日から『UFOを愛した男』の邦題で Netflix 配信が始まります。
マルティン=カレロの「El llanto」*サンセバスチャン映画祭2024 ④ ― 2024年07月25日 16:21
マルティン≂カレロの「El llanto」―セクション・オフィシアル ②
★セクション・オフィシアルのノミネート2作目、ペドロ・マルティン=カレロのデビュー作「El llanto」の紹介です。当ブログ初登場の若い監督、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。音楽産業、広告会社で働く。本作はロドリゴ・ソロゴジェンの共同脚本家としての実績豊富なイサベル・ペーニャと共同で脚本を執筆した。ホラー映画がコンペティションにノミネートされたのは2021年、パコ・プラサが初めてSSIFFに登場した「La abuela」でした。1973年バレンシア生れ、ジャウマ・バラゲロと共同監督した『RECレック』(07)や『エクリプス』(17)などで知名度もあるベテラン監督でしたが、マルティン=カレロは私たちにとって全く未知の監督、どんなホラーなのでしょうか。
*「La abuela」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月12日
「El llanto / The Wailing」
製作:Caballo Films / Setembro Cine / Tandem Films / Tarea Fina /
Noodles Production / El Llanto AIE 協賛RTVE / プライムビデオ
監督:ペドロ・マルティン=カレロ
脚本:イサベル・ペーニャ、ペドロ・マルティン=カレロ
音楽:オリヴィエ・アルソン
撮影:コンスタンサ・サンドバル
編集:ヴィクトリア・ラマーズ
キャスティング:マチルド・スノッドグラス、アランチャ・ベレス
プロダクションデザイン:ホセ・ティラド
美術:ルチアナ・コーン
メイクアップ&ヘアー:(ヘアー)フェデリコ・カルカテリ、ノエ・モンテス、(メイク主任)サライ・ロドリゲス、(特殊メイク)ナチョ・ディアス
プロダクションマネジメント:アルバロ・ディエス・カルボ、ベレン・サンチェス=ペイナド
製作者:エドゥアルド・ビジャヌエバ、クリスティナ・スマラガ、フェルナンド・デル・ニド、ジェローム・ビダル、イサベル・ペーニャ、ナチョ・ラビリャ、他
データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、2024年、スペイン語、サイコ・ホラー、107分、撮影地マドリード、ブエノスアイレス、ラプラタ、期間7週間、資金提供ICAA及びマドリード市議会、配給ユニバーサル・ピクチャーズ、海外販売フィルム・ファクトリー、公開スペイン2024年10月25日、メキシコ10月25日
映画祭・受賞歴:SSIFF 2024セクション・オフィシアル正式ノミネート
キャスト:エステル・エクスポシト(アンドレア)、マチルド・オリヴィエ(マリー)、マレナ・ビリャ(カミラ)、アレックス・モネル、ソニア・アルマルチャ、トマス・デル・エスタル、ホセ・ルイス・フェレル、リア・ロイス、クラウディア・ロセト、ラウタロ・ベットニ、ピエール・マルキーユ、他
ストーリー:時間の異なる瞬間に無意識に繋がり、自分たちを超えた脅威に直面する3人の女性のポートレート。何かがアンドレアをストーカーしているが、それを誰も彼女自身でさえも肉眼で見ることはできません。20年前、1万キロ離れた場所で同じ存在がマリーを恐怖させていた。それが何なのかカミラだけが理解できたのだが、誰もそれを信じなかった。その重苦しい脅威に直面したとき、3人は同じ抑圧的な泣き叫んでいるような音を聞きます。
(左から、イサベル・ペーニャ、マルティン=カレロ監督、エステル・エクスポシト)
★監督紹介:ペドロ・マルティン=カレロは、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリード映画学校ECAMで撮影演出を専攻、第1作ビデオクリップ「Blanc」がメディナ・デル・カンポ映画祭2014で審査員賞を受賞、インターネットで注目を集める。受賞は広告制作やロンドンのビデオクリップ制作会社 Blink Productions、バルセロナのCANADAの仕事に役立った。
(審査員賞の受賞スピーチをする監督、メディナ・デル=カンポFF 2014ガラ)
*主なフィルモグラフィー紹介は以下の通り:
2008年「5 segundos」短編13分、撮影。監督ジャン・フランソワ・ルゼ
2010年「Impares」TVシリーズ28話、脚本
2010~11年「Impares premium」TVシリーズ10話、脚本
2016年「Julius Caesar: Shakespeare Lives」短編3分、英語、監督
2017年「You Are Awake」短編4分、英語、監督、脚本、撮影
2017年「The Weeknd: Secrets」ミュージックビデオ3分、英語、監督
2018年「Who Stole the Cup?」ビデオ3分、英語、監督
2024年「El llanto」長編デビュー作、107分、監督、脚本(共同)
★脚本共同執筆者のイサベル・ペーニャ(サラゴサ1983)は、ロドリゴ・ソロゴジェンのデビュー作「Stockholm」(13)以来、SSIFF 2016コンペティション部門ノミネートの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(16、審査員賞)、同2018の「El reino」(ゴヤ賞2019オリジナル脚本賞)、同2022ペルラス部門の『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)、他にベネチア映画祭2019オリゾンティ部門の『おもかげ』を監督と共同で脚本を執筆している。マルティン=カレロとの接点は、マドリードの映画学校ECAMの同窓生、彼女もTVシリーズ「Impares」の脚本を17話執筆している。
*イサベル・ペーニャのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年07月19日
(オリジナル脚本賞のトロフィーを手にしたイサベル・ペーニャ、ゴヤ賞2019ガラ)
★音楽を担当したオリヴィエ・アルソンは、1979年パリ生れ、ペーニャと同様『ゴッド・セイブ・アス マドリード~』、『ザ・ビースト/理想郷』、他にカルロタ・ペレダの「PIGGY」(22)などを手掛けている。製作者の一人エドゥアルド・ビジャヌエバは脚本家でもあり、TVシリーズの「Impares」や「Impares premium」の脚本を執筆している。ソロゴジェンの「Stockholm」、『おもかげ』、『ザ・ビースト/理想郷』をプロデュースしている。クリスティナ・スマラガ(1990)は、ビクトル・エリセの新作『瞳をとじて』のほか、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)とイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)でそれぞれゴヤ作品賞を受賞しているスペインを代表する女性プロデューサーである。
★キャスト紹介:主役のアンドレアを演じたエステル・エクスポシト(マドリード2000)は、女優、モデル。人気TVシリーズ『エリート』(18~20、24話)のカルラ・ロソン役で人気に火がついた。映画デビューはミゲル・アンヘル・ビバスの「Tu hijo」(18、『息子のしたこと』)にホセ・コロナドと共演している。しかしジャウマ・バラゲロのヒット作「Venus」(22)でゴーゴーダンサーに扮してホラー映画デビューを果たした。これが今回の抜擢にも繋がったようです。2023年フォトグラマス・デ・プラタ(映画部門)女優賞を受賞。
(アンドレア役のエステル・エクスポシト、フレームから)
★共演者マリー役のマチルド・オリヴィエ(パリ1994)はフランスの女優、モデル、製作者。代表作はジュリアス・エイヴァリーのホラーSF『オーヴァーロード』(18、米国、プライムビデオ)、TVシリーズのスリラー『1899』(22、8話、Netflix)のクレマンス役。もう一人の共演者カミラ役のマレナ・ビリャ(ブエノスアイレス1995)は、アルゼンチンの女優、歌手、作曲家。代表作はサンセバスチャン映画祭2015でマルコ・ベルヘル監督がセバスティアン賞を受賞した「Mariposa」、彼女も銀のコンドル新人賞にノミネートされた。実話をベースにしたルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18、公開19)、フアン・シュニットマンの「Rompiente」(20)、サンティアゴ・フィロルのホラーミステリー「Matadero」(22)など。若手アレックス・モネル、他ソニア・アルマルチャやトマス・デル・エスタルのベテランが脇を固めている。
(マリー役のマチルド・オリヴィエ、フレームから)
(カミラ役のマレナ・ビリャ、フレームから)
追加情報:東京国際映画祭2024ワールド・フォーカス部門に『叫び』の邦題で上映が決定しました。
ボレンステインの『安らかに眠れ』鑑賞記*ネットフリックス配信 ― 2024年04月30日 16:56
アルゼンチン1990年代の政治経済危機をバックにしたサスペンス
★セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963)の『安らかに眠れ』のネットフリックス配信が始まりました。マルティン・バイントルブの同名小説の映画化、マラガ映画祭2024の銀のビスナガ主演男優賞、同助演男優賞受賞作品、『明日に向かって笑え!』の監督作品、などなど期待をもって鑑賞しました。
★主役のホアキン・フリエルの熱演は認めるとして、1994年7月18日に実際にブエノスアイレスで起きたアルゼンチン・イスラエル相互協会AMIA爆破事件*までのスピード感が、後半失速してしまった印象でした。国民にとっては90年代にアルゼンチンを襲った政治経済の危機的状況、ユダヤ系移民のアルゼンチンでの立ち位置などは周知のことでも、知識がない観客には主人公の短絡的な行動が分かりにくいのではないか。また後半にまたがる2001年12月23日の史上7回目となる債務不履行〈デフォルト〉という国家破産についてもすっぽり抜け落ちていました。
*AMIA爆破事件:1994年7月18日、ブエノスアイレスのアルゼンチン・イスラエル相互協会(共済組合)AMIA(Asociacion Mutual Israelita Argentina)本部ビルの爆破事件、死者85人、負傷者300人という大規模なテロ事件。イスラエルと敵対関係にあるイランの関与が指摘されているが真相は今以って未解決。1992年のイスラエル大使館爆破事件(死者29人、負傷者242人)に続くテロ事件。アルゼンチンにはユダヤ系移民のコミュニティーが多く存在し、ラテンアメリカでは最大の約30万人が居住している。シリアやレバノンからのアラブ系移民のコミュニティーの中心地でもあることから両国は複雑な政治的関係にある。
(左から前列製作者フェデリコ・ポステルナクとチノ・ダリン、後列ホアキン・フリエル、
ボレンステイン監督、グリセルダ・シチリアニ、ラリ・ゴンサレス、マラガFF2024)
*セバスティアン・ボレンステインのキャリア&フィルモグラフィー紹介
『コブリック大佐の決断』の作品紹介とフィルモグラフィーは、コチラ⇒2016年04月30日
『明日に向かって笑え!』の作品紹介は、コチラ⇒2020年01月18日
『安らかに眠れ』(原題「Descansar en paz」英題「Rest in Peace」)
製作:Benteveo Producciones / Kenya Films
監督:セバスティアン・ボレンステイン
脚本:セバスティアン・ボレンステイン、マルコス・オソリオ・ビダル
(原作:マルティン・バイントルブ)
音楽:フェデリコ・フシド
撮影:ロドリゴ・プルペイロ
編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ
美術:ダニエル・ヒメルベルグ
製作者:フェデリコ・ポステルナク、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、エセキエル・クルプニコフ、(エグゼクティブ)フアン・ロベセ
データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、サスペンス・ドラマ、107分、撮影地ブエノスアイレス、パラグアイの首都アスンシオン、撮影期間9週間、2023年3月25日クランクイン。公開アルゼンチン2024年3月21日、Netflix 配信2024年3月27日
映画祭・受賞歴:第27回マラガ映画祭2024セクション・オフィシアル上映、銀のビスナガ主演男優賞(ホアキン・フリエル)、同助演男優賞(ガブリエル・ゴイティ)受賞
キャスト:ホアキン・フリエル(セルヒオ・ダシャン/ニコラス・ニエト)、グリセルダ・シチリアニ(妻エステラ・ダシャン)、ガブリエル・ゴイティ(高利貸しウーゴ・ブレンナー)、ラリ・ゴンサレス(ゴルドの妻イル)、ラウル・ドマス/ダウマス(エル・ゴルド電器店主ルベン/愛称ゴルド)、マカレナ・スアレス(セルヒオの娘フロレンシア)、ソエ・クニスキ(フロレンシア12歳)、フアン・コテット(セルヒオの息子マティアス)、ニコラス・Jurberg(マティアス/マティ)、アルベルト・デ・カラバッサ(フロレンシアの夫アリエル)、エルネスト・ロウ(セルヒオの弟ディエゴ)、ルチアノ・ボルヘス(セルヒオの友人ラウル)、サンティアゴ・サパタ(役人)、アリシア・ゲーラ(ベアトリス/愛称ベア)、他多数
ストーリー:1994年ブエノスアイレス、多額の借金に追い詰められたセルヒオは、偶然AMIA本部ビルの爆破事件に遭遇する。軽い怪我を負ったセルヒオは、この予測不可能な状況を利用して姿を消すことを決意する。自分の死を偽装したセルヒオは、ニコラス・ニエトという偽りの身分でパラグアイの首都アスンシオンに脱出する。過去を封印した15年の歳月が流れるが、ネットで偶然故国に残してきた家族を発見したことで望郷の念に駆られ、それは強迫観念となっていく。安定しているが偽りの人生を続けるか、危険を冒して故国に戻るか。人間は一つの人生を永遠に消し去り、別の人生を生きることができるのか。ネット社会の功罪、現実逃避などが語られる。
(爆破されたAMIA本部ビルの瓦礫に佇むセルヒオ、フレームから)
「映画は映画、文学は文学であって別物」と語る原作者バイントルブ
A: 冒頭で本作は同名小説の映画化と書きましたが、マラガ映画祭のプレス会見でボレンステイン監督は「小説にインスパイアされたものだが、同じテーマの2冊の作品を土台にしている」と語っております。作家からは「映画と小説は別物であってよい」と、脚本に一切口出しは控えてくれたようです。
B: 小説の映画化でも「映画は映画、文学は文学であって別物」が原則です。作家によっては違うと文句いう人いますが。
A: 監督によると「小説の主人公はもっと嫌な人物で、映画のように頭に怪我を負っていない。想定外のテロ事件を利用して姿を消す決心をして、証拠となるようカバンを投げ捨て遁走する。
B: アリバイ工作をするわけですが、映画では意識が戻ったとき、カバンは持っていなかった。
A: 妻エステラも嘘つきのうえ夫に不実な女性で、総じて夫婦関係は壊れている。どちらかというと二人とも互いに憎みあっていたという人物造形のようです。
B: エステラが既に夫を愛していなかったのは映画からも読み取れます。贅沢が大好きで、夫を睡眠薬漬けにして苦しめた高利貸しブレンナーとちゃっかり再婚している。
A: 字幕はブレナーでしたが、この高利貸しの人物造形も一筋縄ではいかない。苗字から類推するにドイツからのユダヤ系移民のように設定されている。裏社会に通じていることは明白ですが、主人公を脅迫してまで容赦なく返済を迫っていた彼が、彼の妻エステラには借金を棒引きにしている。
B: これがユダヤ式のルールなのでしょうか。実父セルヒオをスーパーマンのように尊敬していたマティ少年をアブナイ道に誘い込んでいる。
A: ブレンナーを演じたガブリエル・ゴイティは、俳優のほかコメディアンとして〈El Puma Goity ピューマ・ゴイティ〉として知られています。本作の危険な男の役柄で「新境地を拓いた」と評価を高めています。マラガ映画祭には不参加でしたが、銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。
B: 敵役のホアキン・フリエルが代理でトロフィーを受けとった。
A: 本作に登場する人物では主人公が第二の人生を送るパラグアイの人々に比して、アルゼンチン人はこの国特有の嫌らしい気質で描かれていて面白かった。
B: 劇中、アルゼンチンでの仕事をゴルド社長から頼まれたセルヒオに「アルゼンチン人は注文が多くて行きたくない」と言わせており、図星をさされたアルゼンチンの観客は大笑いしたことでしょう。実態とかけ離れた特権意識が強いアルゼンチン人は、近隣諸国からはおしなべて嫌われていている。
(笑顔で脅迫する不気味なブレンナー役のガブリエル・ゴイティ、フレームから)
A: 主人公の過去を不問にして闇の身分証明書IDを入手してくれたエル・ゴルドをサンタクロースの衣装で急死させている。少し都合がよすぎて笑えましたが、このゴルド役ラウル・ダウマスは、映画データバンクによれば映画初主演です。舞台俳優かもしれない。
(エル・ゴルド役のラウル・ダウマス)
B: エル・ゴルドの話の分かる賢い妻イルを演じたラリ・ゴンサレスの演技が光っていましたが。
A: パラグアイ出身、1986年アスンシオン生れ、映画、舞台、TVシリーズで活躍するベテラン女優、弁護士でもある。フアン・カルロス・マネグリア&タナ・シェンボリの「7 cajas」で映画デビュー。本作はゴヤ賞2013スペイン語外国映画賞にノミネートされ脚光を浴びることになった。映画市場の小さいパラグアイでは活躍の場が少なく、本作のようにアルゼンチンや国外の映画に出演している。他の代表作は「Luna de cigarras」(14)、「El jugador」(16)など、ロマンス、アクション、スリラーなど演技の幅は広い。
*「7 cajas」の紹介記事は、コチラ⇒2015年12月13日
(イル役のラリ・ゴンサレスとホアキン・フリエル)
B: ベッドシーンは監督とカメラマンのみで行われ、監督の配慮に感謝したとか。
A: ラテンアメリカ諸国は数は減少しているとはいえ多くがカトリック信者です。すっぽんぽんには抵抗感があるからでしょう。
ストーリーのありきたり感を救ったホアキン・フリエルの演技
B: 主人公は前半を借金で首の回らないセルヒオ・ダシャンとして、後半を遁走中に乗ったタクシーの運転手の名前ニコラス・ニエトとして二つの人生を生きる。
A: まず名前から分かるように主人公の家族もユダヤ教徒のアルゼンチン人であることです。だから借金まみれでもユダヤ教徒に欠かせない女子の成人式を祝うバトミツワーのパーティーをしたわけです。本作はユダヤ系アルゼンチン人社会を背景にしたドラマであることを押さえておく必要があります。
(娘の12歳の成人式バトミツワーのパーティーで幸せを演出するダシャン一家)
B: ホアキン・フリエルが演じたセルヒオの苗字Dayanは、イスラエルではダヤンが一般的と思いますが、字幕も発音もダシャンでした。
A: スペイン語の〈y〉と〈ll〉の発音は国や地域によって違いがあり、アルゼンチンでもブエノスアイレス周辺では、日本語のシャ行に近い音になる。同じスペイン語とはいえ、先住民やそれぞれの移民コミュニティーの言語の影響を受けて違いが生じるのは当り前です。
B: 金貸しウーゴ・ブレンナーのBrennerはドイツ系の苗字、アルゼンチンはドイツからの移民も多く、第二次世界大戦後にはニュルンベルク裁判を逃げおおせたナチス戦犯を含めたナチの残党、反対にヒットラーに追われたユダヤ系ドイツ人の両方を受け入れている。
A: アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンや、戦時中にユダヤ人に人体実験を行っていた医師ヨーゼフ・メンゲレがアルゼンチンに潜伏できたのも、この強固なドイツ人コミュニティーのお蔭です。この歴史的事実は幾度となくドキュメンタリーやドラマ化されており、監督がAMIA爆破事件を取り入れた理由のひとつではないでしょうか。
B: 移民国家であるアルゼンチンは、セルヒオ同様、やむなく偽りの人生を送っている人が多いのかもしれない。裏社会に通じているブレンナーの謎の部分は詳しく語られないが、彼がユダヤ教徒であることは、フロレンシアとアリエルの結婚式ではっきりします。
A: ホアキン・フリエルは、1974年ブエノスアイレス生れの俳優、舞台俳優としてスタートを切る。最初はTVシリーズ出演が多く、映画デビューは実話をベースにしたセバスティアン・シンデルの「El patrón, radiografía de un crimen」(14)、本作で銀のコンドル賞、グアダラハラ映画祭男優賞、アルゼンチン・アカデミー主演男優賞などを受賞した。その他同監督の「El hijo」(19)と公開されたダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(16)で、アルゼンチン・アカデミー賞にノミネートされている。最近は映画にシフトしており、Netflix配信の『シャチが見える灯台』(16)、フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー、血族の秘密』(18)などが字幕入りで観ることができます。
(クロリンダ市から国境線パラグアイ川を越えるセルヒオ)
(銀のビスナガ主演男優賞のトロフィーを手に、マラガ映画祭2024ガラ)
B: 妻エステルを演じたグリセルダ・シチリアニは、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(22)に出演しています。
A: ダニエル・ヒメネス・カチョ扮する主人公の妻役、サンセバスチャン映画祭2022に監督たちと参加しています。1978年ブエノスアイレス生れの女優、TV女優として出発、2012年アルマンド・ボーの『エルヴィス、我が心の歌』で銀のコンドル賞にノミネート、スペインのセスク・ゲイの「Sentimental」で、ゴヤ賞2021新人女優賞ノミネートの他、サン・ジョルディ賞とモンテカルロ・コメディ映画祭の主演女優賞を受賞している。
*『エルヴィス、我が心の歌』の作品紹介は、コチラ⇒2016年06月22日
(死んだはずの夫の姿を目撃して驚愕するエステラ、フレームから)
伏線の巧みさと高利貸しの深慮遠謀
B: 幸い軽傷ですんだ爆破事件に遭遇した後、姿を消す決心をする引き金はどの辺でしょうか。セリフは全くありません。
A: 公衆電話でどこかに電話しますが繋がらない辺りでしょうか。失ったカバンはいずれ瓦礫の中から発見され、遺体が見つからなくても犠牲者の証拠品となる。伏線でブレンナーに返済すべき現金はカバンでなくウエストポーチに入れたと確認するシーン、好況だったときに掛けた高額な生命保険金で借金が完済できることなどが観客に知らされている。
B: 姿を消す条件は揃った。夫の苦悩より子供の授業料やクラブ費を優先する妻にはもはや未練はないが、二人の子供と別れるのは辛い。しかし子供の幸せには代えられない。
A: 伏線を張るのが好きな監督です。犬を連れた路上生活者が冒頭のシーンに出てくるが、これなんかもその一例。主人公は自分の将来の姿と重ねて怯えている。パラグアイで野良犬を名前も付けずに15年間飼い続けている。犬は心を許せる友であって唯の犬ではないのです。
B: 成長した娘フロレンシアをネットで偶然目にしたことで、偽りの人生に疲れ始めていた彼は自制心を失っていきます。
A: ネット社会の功罪が語られるわけですが、これは発火点にしか過ぎない。果たして人間は過去の人生を永遠に消し去ることができるのかという問い掛けです。このあたりから結末は想像できますが、管理人の場合、大筋では合っていましたが少し外れました。
B: お金が絡むと兄弟喧嘩はつきものだし、主人公は娘の養父が自分の運命を狂わせた高利貸しだったことに驚愕するわけですが、アルゼンチンのように政治経済や社会が常に不安定だと何でもありです。
A: ストーリーには多くの捻りがあり、それなりに魅力的でしたが、後半の継ぎはぎが気になりました。しかしセルヒオに欠けていた高利貸しの深慮遠謀や素早い行動力は、社会が常に不安定な国家では褒めるべきでしょう。現実逃避だけでは解決できません、悪は存在していますから。
アルゼンチン映画『安らかに眠れ』*ネットフリックス配信 ― 2024年04月16日 11:30
セバスティアン・ボレンステイン新作――ホアキン・フリエルの熱演
★しばらく休眠しておりましたが近所のサクラ並木も葉桜になり、お花見団子も食べたことだし、そろそろ再開します。オスカー賞にノミネートされていたフアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』もイギリス代表のジョナサン・グレイザー『関心領域』(5月24日公開)に軍配があがり、メイク・アップ&ヘアー賞は『哀れなるものたち』に、パブロ・ベルヘルの『ロボット・ドリームズ』は宮崎駿作品に、マイテ・アルベルディの長編ドキュメンタリーはウクライナ=アメリカ合作の『マリウポリの20日間』(4月26日公開)にと、軒並み賞を逃しました。特にロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間の実録に勝つのは難しかったことでしょう。本作がウクライナ映画史上初のオスカー受賞作ということでした。
★マラガ映画祭で紹介予告をしていたセバスティアン・ボレンステインの新作『安らかに眠れ』(「Descansar en paz」)も、気づけば配信されていたのでした。まだ一度しか観ていないので詳細は次回に回しますが、個人的にはリカルド・ダリンとルイス・ブランドニのベテラン二人を起用したコメディ『明日に向かって笑え!』(「La odisea de los giles」19、2021年公開)のほうが好みでしょうか。ただ主演のホアキン・フリエルがマラガ映画祭2024主演男優賞、ガブリエル・ゴイティが助演男優賞を受賞しており、紹介を兼ねてアップしたい。
*「La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ⇒2020年01月18日
(ホアキン・フリエル、フレームから)
(ガブリエル・ゴイティ、フレームから)
★当ブログ紹介のロドリゴ・モレノの「Los delincuentes」が東京国際映画祭2023の好評もあってか、邦題『ロス・デリンクエンテス』で公開されることになりました。公開、ネット配信の違いはありますが、アルゼンチン映画が字幕入りで観る機会が増えたことを素直に喜びたい。
*「Los delincuentes」の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月11日
★カンヌ映画祭もコンペティションと「ある視点」部門のノミネート作品が発表になりました。ポルトガルのミゲル・ゴメスの『グランド・ツアー』(2025年公開予定)ほか、コッポラ、クローネンバーグ、アンドレア・アーノルドなど大物監督の名前がずらり、もしかしたらと期待していたフリオ・メデムやルクレシア・マルテルのドキュメンタリーは姿を消し、スペイン語映画はお呼びでないようです。
フアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』*キャスト紹介 ― 2023年11月14日 15:20
死者にも声をあたえた ”La sociedad de la nieve” がバヨナを動かした
(ウルグアイ空軍機571便フェアチャイルドFH-227D、『生きてこそ』で使用された)
★『雪山の絆』は、ベネチア映画祭2023のクロージングでワールドプレミアされ、その後サンセバスチャン映画祭にやってきた。ベネチアにはJ. A. バヨナ監督やプロデューサー、出演者の他、遭難事故の生存者16名のうち、愛称カルリートスのカルロス・パエス・ロドリゲス、愛称ナンドのフェルナンド・パラッド、19歳だった医学生ロベルト・カネッサなど大勢で参加した。サンセバスチャン映画祭の上映はオープニングの9月22日、現地入りした数は減ったが、エンツォ・ヴォグリンチッチ(マヌ・トゥルカッティ役)、シモン・ヘンぺ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ役)、エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル役)、生存者のグスタボ・セルビノ、製作者ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダなどが参加した。以下に製作スタッフとキャストのトレビアをアップしておきます。
(サンセバスチャン映画祭の参加者、ビクトリア・エウヘニア劇場、9月22日)
(エンツォ・ヴォグリンチッチと監督、同上)
『雪山の絆』(原題「La sociedad de la nieve / Society of the Snow」)
製作:Misión de Audaces Films / Apaches Entertainment / Benegas Brothers Productions
/ Cimarrón Cine / Telecinco / Netflix 他
監督:フアン・アントニオ・バヨナ
脚本:ベルナト・ビラプラナ、ハイメ・マルケス、ニコラス・カサリエゴ、J. A. バヨナ
原作:パブロ・ヴィエルチ(原作「La sociedad de la nieve」2009年刊)
撮影:ペドロ・ルケ
編集:ジャウメ・マルティ
音楽:マイケル・ジアッキーノ
録音:オリオル・タラゴ
キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ、イアイル・サイド、ハビエル・ブライアー
セット・デコレーション:アンヘラ・ナウム
製作者:ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、J. A. バヨナ、(エグゼクティブ)サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、ハスミナ・トルバティ(Netflix)、他
データ:製作国スペイン=ウルグアイ=チリ=米国、2023年、スペイン語、ドラマ(実話)、144分、撮影地はスペインのシエラネバダ山脈、ウルグアイのモンテビデオ市、実際の墜落現場を含むアンデス山脈のアルゼンチンとチリ、撮影日数は138日間、製作費は6500万ユーロ以上。 配給Netflix(スペイン、米国)、Pimienta Films(メキシコ)、公開2023年12月15日、Netflix 配信2024年1月4日
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2023アウト・オブ・コンペティション閉幕作品、サンセバスチャン映画祭(ペルラス部門)観客賞受賞、ミルバレー映画祭観客賞受賞、ミドルバーグ映画祭観客賞受賞、Camerimage カメリマージュ映画祭(ポーランドのトルン)監督賞・撮影賞(ペドロ・ルケ)ノミネート、ハリウッド・ミュージック・イン・メディア賞2023オリジナル・スコア(マイケル・ジアッキーノ)、ホセ・マリア・フォルケ賞2023ノミネート、他
★主なキャスト紹介(順不同、ゴチック体は生存者、年齢は遭難時):
エンツォ・ヴォグリンチッチ(ヌマ・トゥルカッティ、法学部24歳、12月11日没)
アグスティン・パルデッラ(フェルナンド〈ナンド〉・パラッド、機械工学部学生23歳)
マティアス・レカルト(ロベルト・カネッサ、医学部学生19歳)
トマス・ウルフ(グスタボ・セルビノ、医学部学生19歳)
ディエゴ・ベゲッツィ(マルセロ・ペレス・デル・カスティリョ、ラグビーチーム主将、
25歳、10月29日雪崩で没)
エステバン・ククリチカ(アドルフォ〈フィト〉・ストラウチ、農業技術者24歳)
フランシスコ・ロメロ(ダニエル・フェルナンデス・ストラウチ、農業技師26歳)
ラファエル・フェダーマン(エドゥアルド・ストラウチ、農業技術者23歳)
フェリペ・ゴンサレス・オターニョ(カルロス〈カルリートス〉・パエス、
畜産技術学部学生18歳)
アグスティン・デッラ・コルテ(アントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン、
法学部19歳)
バレンティノ・アロンソ(アルフレッド・パンチョ・デルガド、法学部卒業生25歳)
シモン・ヘンペ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ、農業技術学部学生24歳)
フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア(アルトゥロ・ノゲイラ、経済学部学生
25歳、11月15日没)
ベンハミン・セグラ(ラファエル・エチャバレン、畜産学部学生26歳、11月18日没)
ルチアノ・チャットン(ホセ・ペドロ・アルゴルタ、経済学部21歳)
アグスティン・ベルティ(ボビー・フランソワ、農業技術学部学生20歳)
フアン・カルーソ(アルバロ・マンジノ、畜産技術学部学生19歳)
ロッコ・ポスカ(モンチョ・サベリャ、農業技術学部学生21歳)
アンディ・プルス(ロイ・ハーレイ、工学部学生20歳)
エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル、事業者37歳)
パウラ・バルディニ(リリアナ・メトル、ハビエル・メトルの妻34歳、10月29日雪崩で没)
サンティアゴ・バカ・ナルバハ(ダニエル・マスポンス、20歳、10月29日雪崩で没)
アルフォンシナ・カロシオ(スサナ・パラッド、ナンドの妹20歳、10月21日没)
イアイル・サイド(フリオ・セサル・フェラダス大佐、機長39歳、10月13日没)
マキシミリアノ・デ・ラ・クルス
カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ)
★原作と映画は同じ必要はないが、本作はエンツォ・ヴォグリンチッチ扮するヌマ・トゥルカッティが重要な役を担っている。ベネチアでもサンセバスチャンでも脚光を浴びていた。彼は遭難後60日目に足の怪我が原因で敗血症により生還できなかった人物で最後の死者になった。カニバリズムの嫌悪感から体力が急激に衰え、体重も25キロに落ちていた。トゥルカッティのように証言が叶わなかった犠牲者を軸にしていることが『生きてこそ』との大きな違いかもしれない。彼の死去は、ただ救助を待つのではなく危険を冒してでもアクションを起こすべきという結論を導き出す切っ掛けになった。
*ヴォグリンチッチは1993年ウルグアイのモンテビデオ生れ、ヴォグリンチッチはイタリアの隣国スロベニアに多い苗字。当ブログ紹介のウルグアイ大統領ホセ・ムヒカのビオピック『12年の長い夜』(18)の警官役で映画デビュー、代表作は名プロサッカー選手の孤独を描いた「9」でグラマド映画祭2022とバリ映画祭で主演男優賞を受賞している。TVシリーズにも出演して目下売り出し中。
(ヌマ・トゥルカッティを演じたエンツォ・ヴォグリンチッチ)
★アグスティン・パルデッラは、フェルナンド〈ナンド〉・パラッドに扮した。1994年アルゼンチン生れ、「Pinamar」でグラマド映画祭2017男優賞受賞、アルゼンチン映画批評家協会賞にノミネートされた。ホラー『ブラッド・インフェルノ』(17、「Los olvidados」)が公開されている。遭難後61日目にロベルト・カネッサとティンティンと共に救援隊を組織してチリに向かった立役者の一人、『生きてこそ』ではイーサン・ホークが扮した。遭難時に22歳だったナンド・パラッドはプロデューサー、テレビ司会者、作家と活躍しており、ベネチア映画祭にも出席している。
★マティアス・レカルト(医学生ロベルト・カネッサ役)は、アルゼンチンの俳優、2019年TVシリーズ「Apache: La vida de Carios Tevez」(8話)でデビュー、「Ciegos」(19)が長編デビュー作、本作が2作目。人肉を食しても生きるべきと説得したロベルト・カネッサは、「命を救うのが私の使命だったし、遭難で得た教訓が医者になるというモチベーションを高めた」と語っている。現在ウルグアイの小児心臓外科医で、ナンドとともにベネチアFFに姿を見せている。
★アルゼンチンのラファエル・フェダーマン(エドゥアルド・ストラウチ役)は俳優のほか、短編「Luis」(16、18分)をパウラ・ブニと共同で監督している。2014年「Dos disparos」でデビュー、アルゼンチン映画批評家協会賞2015シルバーコンドル新人賞にノミネート、2016年フランシスコ・マルケス&アンドレア・テスタのデビュー作「La larga noche de Francisco Sanctis」に出演、本作はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品され、SSIFF オリソンテス・ラティノス部門にもノミネートされた。軍事独裁政権時代をバックにしたスリラー、「Los sonámbulos」でアルゼンチン映画アカデミー賞2019新人俳優賞にノミネート、本作はパウラ・エルナンデス監督の4作目、各国の映画祭で受賞歴を重ねた映画で、こちらもSSIFFにノミネートされた。話題作の出演本数は多いがフェダーマン(フェデルマンで紹介)は賞に恵まれていない。
*「La larga noche de Francisco Sanctis」の作品紹介は、コチラ⇒2016年05月11日
(「Dos disparos」から)
★シモン・ヘンぺ(ホセ・ルイス〈コチェ〉・インシアルテ役)は、1998年ブエノスアイレス生れ、TVシリーズ「Go! Vive a Tu Manera」(19、30話)でスタート、『2人のローマ教皇』(19)にドラッグ・ディーラー役で長編デビュー、本作が2作目。〈コチェ〉インシアルテは完成前に鬼籍入りしてしまい、生前に「最初のバージョンを見せた」とバヨナ監督。シモン・ヘンぺはSSIFF に参加している。
(左から、エンツォ・ヴォグリンチッチ、グスタボ・セルビノ、
エステバン・ビリャルディ、シモン・ヘンぺ、SSIFF 2023、9月22日フォトコール)
★フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア(アルトゥロ・ノゲイラ役)は、ラファエル・フェダーマンと同じ「Dos disparos」で長編デビューしている。サンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985~歴史を変えた裁判』(22)で証言者パブロ・ディアスを演じた他、『サミット』(17)にも出演、他に実話を映画化したルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18)にも出演している。アルトゥロ・ノゲイラは34日目の11月15日、足の怪我の炎症が原因で壊疽になり生還できなかった。当ブログではミトレやオルテガの作品紹介をしているが、彼については触れていない。
*『アルゼンチン1985』の主な作品紹介は、コチラ⇒2022年11月23日
(『アルゼンチン1985』から)
★アンディ・プルス(ロイ・ハーレイ役)は、イネス・マリア・バリオヌエボの「Camila saldra esta noche」(21)の小さな役でデビュー、2023年マリア・サネッティの長編デビュー作「Alemania」に出演、両作ともSSIFFオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた折、作品紹介をしているが、プルスについては触れていない。今後が期待される新人の一人。
★エステバン・ビリャルディ(ハビエル・メトル役)は、1973年ブエノスアイレス生れ、ベテラン俳優、ロドリゴ・モレノの「Un mundo misterioso」(11)に主演、「Reimon」(14)、最近では『犯罪者たち』(23)のロマン役で東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門に登場した。モレノ監督のお気に入りです。他にサンティアゴ・ミトレの『エストゥディアンテ』(11)、リサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)などに出演しているベテラン。SSIFF にも現地入りしている。
*『犯罪者たち』の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月11日
(『犯罪者たち』でロマン役に扮した)
★アルフォンシナ・カロシオ(スサナ・パラッド役)は、ウルグアイの監督ギジェルモ・カサノバの「Otra historia del mundo」(17)でデビュー、ホラー・スリラー『ヴァーダラック呪われた血族』(20)、メルセデス・コスコの監督第1作「Nina & Emma」(23)で主演するなど作品に恵まれている。本作では20歳で亡くなったナンド・パラッドの妹スサナ・パラッドを演じている。兄妹の母親も乗っていたが墜落時に即死している。
★パウラ・バルディニ(リリアナ・メトル役)は、ディエゴ・カプランのロマンス・コメディ「2+2」(12)、『愛と情事のあいだ』としてDVDで発売された。TVシリーズ出演が多いが、セバスティアン・デ・カロのコメディ「Claudia」(19)でドロレス・フォンシと共演している。リリアナ・メトルは、夫ハビエルとは異なって人肉を拒否していたが、10月29日の雪崩で死去している。
★イアイル・サイド(フリオ・セサル・フェラダス大佐役)は、アルゼンチンの俳優、キャスティング・ディレクター。本作では機長役とキャスティングも手掛けている。『犯罪者たち』やアリエル・ウィノグラードの「Sin hijos」(15)に出演、「Dos disparos」のキャスティングを担当している。フェラダス機長はアンデス越え29回のベテランだったが、悪天候にもかかわらず副操縦士の操縦訓練をしていたことも事故の原因のひとつだった。
★アグスティン・デッラ・コルテ(アントニオ〈ティンティン〉・ビシンティン役)は本作がデビュー作、ティンティンは、救援隊の一人としてナンドとカネッサとチリに向かうが、足りなくなりそうな食料を二人に託して途中で引き返している。
★カルロス〈カルリートス〉・パエス(カルリートスの父親カルロス・パエス・ビラロ役)は、生存者の中で唯一人、息子の生還を待ちわびる父親役でほんの少しだけ出演している。1953年生れのカルリートスは遭難時には18歳だったが山中で誕生日を迎えている。現在ライターの仕事をしている。カルリートス役はフェリペ・ゴンサレス・オターニョが演じている。2020年に映画デビュー、TVシリーズに出演している。
★リストではっきりするのは生存者が一人を除いて体力のある若いラグビー選手たちだったことが分かる。ラグビーのクラブチームの仲間同士で絆はすでに固く結ばれていた。同じ言語を話し、少年時代からの友達だった。二人の医学生(カネッサとSSIFF に現地入りしたグスタボ・セルビノ)が治療に当たったことやカニバリズムが関係していたのは事実ですが、それだけでは生き残れなかったことは想像に難くありません。「私が死んだら、生きのびるために私の体を使ってかまわない」ということが関係していると思います。
(医学生だったグスタボ・セルビノ、SSIFF 2023、9月22日フォトコール)
★バヨナ監督は「人生を肯定する映画」と、サンセバスチャン映画祭で語っています。またパブロ・ヴィエルチの原作 ”La sociedad de la nieve” は、辛くて一気に読み通せなかったが、「とても内省的な作品」と評している。原作と映画の大きな違いは、原作では救出後モンテビデオに戻った生存者の苦しみも書かれているが、映画は救出されたところで終わっている。
★トレビア:撮影ユニットは3チーム、メインはバヨナが率いるスペインのシエラネバダ山脈(2022年1月10日から4月29日まで)、第2ユニットはアルゼンチンの監督アレハンドロ・ファデルが率いてチリの風景を撮影した(2021年8月)。第3ユニットが最も危険な山岳地帯のシーンを任された。胴体の残骸のレプリカは3個作製され、1個は駐車場に建てられた格納庫に置かれ、2個目は人工雪に埋もれた胴体を移動できるようクレーンに支えられていた。もう一つは激突したとき氷河に滑落した機体の片割れのレプリカが、海抜約3000mのタルン(tarn氷河によって作られた山中の小さな湖)の上に置かれた。3チームのスタッフは300人に及んだということですから半端なお金ではありません。果たして資金が回収できるでしょうか。来年1月4日に配信後、観賞記を予定しています。
オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪ ― 2023年08月31日 11:11
ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート
★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。
*オリソンテス・ラティノス部門 ③*
9)「Heroico / Heroic」メキシコ
監督:ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。
(ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)
データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88分
キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ
ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。
10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画
監督:フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。
★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。
*作品&監督紹介記事は、コチラ⇒2023年05年15日
(フェリペ・ガルベス監督)
11)「Los impactados」アルゼンチン
監督:ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。
★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。
*監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ⇒2013年10月23日
*『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ⇒2013年10月11日
(ルシア・プエンソ監督)
データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90分
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)
ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。
(アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)
12)「Tótem / Totem 」メキシコ
監督:リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。
*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。
(リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023)
データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ
キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数
ストーリー:7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。
(ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)
(左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)
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