ダビ・マルティンのデビュー作 『マリアの旅』*ラテンビート2020 ⑦ ― 2020年10月27日 20:33
ベテラン女優ペトラ・マルティネスを主役に起用した自由への旅
★ラテンビートに新たにドラマ2作が発表になりました。共催作品ではありませんが、両作とも10月31日にオープンするTIFF東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門で上映されます。一つはスペイン映画からダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの長編デビュー作『マリアの旅』(「La vida era eso」)、もう一つはポルトガル映画からマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』(「Ordem Moral」)です。今回はTIFFがワールド・プレミアの前者のご紹介。監督のダビ・マルティンは短編では国際映画祭の受賞歴が多数あり、デビュー作とはいえ見ごたえのあるドラマになっているようです。

『マリアの旅』(「La vida era eso」英題「Life Was That」)
製作:Lolita Films / Mediaevs / Smiz and Pixel / Canal Sur Televisión / ICAA /
La vida era eso 協賛マドリード市、アルメリア市
監督・脚本:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス
撮影:サンティアゴ・ラカ(『さよならが言えなくて』『悲しみに、こんにちは』)
編集:ミゲル・ドブラド(『さよならが言えなくて』「La zona」)
美術:ハビエル・チャバリア
キャスティング:トヌチャ・ビダル(『さよならが言えなくて』)
録音:エバ・バリニョ(『悲しみに、こんにちは』「Yuli」)
衣装デザイン:ブビ・エスコバル
メイクアップ:マリア・マヌエラ・クルス
サウンドトラック:”LA VIDA ERA ESO”
フェルナンド・バカス&エストレーリャ・モレンテ曲
エストレーリャ・モレンテ歌
製作者:(エグゼクティブ)ダミアン・パリス、マリア・バロッソ、ホセ・カルロス・コンデ、他
データ:製作国スペイン=ベルギー、スペイン語・フランス語、2020年、ドラマ、109分、撮影地アンダルシア州アルメリアのカボ・デ・ガタ(猫岬)、クランクイン2019年5月26日
映画祭・受賞歴:東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門正式出品(11月6日上映)、第17回セビーリャ・ヨーロッパ映画祭セクション・オフィシアル部門(11月6日~14日)、ラテンビート2020オンライン上映
キャスト:ペトラ・マルティネス(マリア)、アンナ・カスティーリョ(ベロニカ)、ラモン・バレア(マリアの夫ホセ)、フローリン・ピエルジク・Jr.(バルのオーナー、ルカ)、ダニエル・モリリャ(ベロニカの元恋人フアン)、ピラール・ゴメス(美容室経営のコンチ)、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ(イロベニー)、アリナ・ナスタセ(クリスティナ)、ジョルディ・ヒメネス(看護師)、クリストフ・ミラバル(マリアの長男ペドロ)、マールテン・ダンネンベルク(同次男フリオ)、他
ストーリー:世代の異なる二人のスペイン女性マリアとベロニカは、ベルギーの病院で偶然同室となる。マリアは若い頃に家族とベルギーに移住してきた。ベロニカは故国では決して手に入れることのできないチャンスを求めて最近来たばかりであった。ここで二人は友情と親密な関係を結んでいくが、ある予期せぬ出来事が、ベロニカのルーツを探す旅にマリアをスペイン南部のアルメリアに誘い出す。それは彼女自身の世界を開くと同時に、人生の信条としてきた確かな土台を揺るがすことにもなるだろう。 (文責:管理人)

(マリア役のペトラ・マルティネス、ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ)
自由と欲求に目覚めた女性の未知への遭遇
★監督キャリア&フィルモグラフィー:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスは、監督、脚本家、製作者。短編やドキュメンタリーを手掛け、2004年の短編「Llévame a otro sitio」は、アルメリア短編FFのナショナル・プロダクション賞、ニューヨーク市短編FF観客賞ノミネート、2015年の「Mañana no es otro día」は、アルカラ・デ・エナレス短編FFのマドリード市賞・脚本賞を受賞、続く2016年の短編ドキュメンタリー「23 de mayo」は、メディナ映画祭の作品賞・撮影賞を受賞した。今回の「La vida era eso」が長編映画デビュー作。セビーリャ・ヨーロッパFFの上映日がまだ発表されていないようで東京国際映画祭がワールド・プレミアのようです。スペインはコロナ禍第2波の関係でカナリア諸島を除いて夜間外出禁止のニュースも飛び込んできているので、今後スペインで開催される映画祭の行方が懸念されます。

(短編「Llévame a otro sitio」のポスター)
★本作について、アルメリアのカボ・デ・ガタでクランクインしたときの監督インタビューで「マリアは家族つまり夫や子供たちや両親を優先するような教育を受けた世代に属している。自分自身の欲求は二の次、抑圧されることに甘んじていた。マリアのエロティシズムを目覚めさせることを含めて、観客は自由と友情を通して、マリアの未知への遭遇に沈思するだろう」とコメントしている。さしずめマリアは良妻賢母教育を受けた世代の代表者という設定です。いくつになっても人生の転機はやってくる、勇気をもらいましょう。

(自作を語るダビ・マルティン監督)

(ペトラ・マルティネスとアンナ・カスティーリョと打ち合わせをする監督)
★キャスト紹介:ペトラ・マルティネス(ハエン県リナレス1944)は、舞台、映画、TVの女優。父親がスペイン内戦で共和派で戦ったことで亡命、その後逮捕されてビルバオのタバカレア刑務所に収監された。3歳のときマドリードに移住、16歳のときロンドンに旅行して舞台女優になる決心をする。米国からスペインに移住した劇作家ウィリアム・レイトンが設立したTeatro Estudio de Madrid(TEM)に入学、そこで後に夫となる舞台演出家で俳優のフアン・マルガーリョと知り合う。演劇グループ Tábano に参加、フランコ末期の1970年代は国内では検閲のため上演ができなかったこともあって、米国やヨーロッパ諸国の国際演劇祭に参加している。1985年マルガーリョとUroc Teatro を設立、スペイン国内に限らずヨーロッパやラテンアメリカ諸国を巡業した。フアン・マルガーリョは、俳優としてハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(18)に出演、ゴヤ賞2019助演男優賞にノミネートされている。

(ペトラ・マルティネス)
★映画出演は、公開、TV放映作品ではマテオ・ヒルの長編デビュー作『パズル』(99)、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)の母親役、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード~孤独のかけら』(07、スペイン俳優連合主演女優賞)や『ペトラは静かに対峙する』(18)、ジャウマ・バラゲロの『スリーピング・タイト』(11、スペイン俳優連合助演女優賞)など上げられる。未公開作だが代表作に選ばれているのがミゲル・アルバラデホの「Nacidas para sufrir」(09)で、シネマ・ライターズ・サークル賞女優賞を受賞した。一見地味な辛口コメディだが、女性が置かれている社会的地位の低さや男性による不寛容、女性の不屈の精神を描いて訴えるものがあった。これは『マリアの旅』に繋がるものがあり、TIFF のスクリーン上映、並びに LBFF オンライン上映が待たれる。

(「Nacidas para sufrir」のポスター)
★ラテンビートの作品紹介にあるように、もう一人の主役ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ(バルセロナ1993)は、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』(16)でゴヤ賞新人女優賞を受賞している。共演のハビエル・グティエレスは「女優になるべくして生まれてきた」と。他にハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシの『ホーリー・キャンプ!』(17)に出演している。両作ともLBFF 上映作品です。

(ゴヤ賞2017新人女優賞のトロフィーを手に喜びのアンナ)
★他に評価の高かったセリア・リコ・クラベリーノの「Viaje al cuarto de una madre」(18)では、ロラ・ドゥエニャスと母娘を演じて成長ぶりを披露した。ガウディ賞、フェロス賞、シネマ・ライターズ・サークル賞の助演女優賞を受賞、ゴヤ賞は逃した。次回作はハイメ・ロサーレスの新作に起用されている。『オリーブの樹は呼んでいる』と「Viaje al cuarto de una madre」の作品紹介でキャリア紹介をしています。共演者にロラ・ドゥエニャスにしろペトラ・マルティネスにしろ、演技派の先輩女優に恵まれている。今後が楽しみな若手女優の一人。
*「Viaje al cuarto de una madre」は、コチラ⇒2019年01月06日
*『オリーブの樹は呼んでいる』は、コチラ⇒2016年07月19日

(ロラ・ドゥエニャスとアンナ、サンセバスチャン映画祭2018にて)
★エグゼクティブ・プロデューサーのダミアン・パリスは、制作会社 Lolita Films をハビエル・レボーリョとロラ・マヨと設立、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』でASECAN賞2018を受賞、同監督の「Australia」(14分)はゴヤ賞短編ドラマ部門にノミネートされた。ハビエル・レボーリョの「La mujer sin piano」(09、カルメン・マチが主演)や「El muerto y ser feliz」(12、ホセ・サクリスタンが主演)など高評価の作品を手掛けている。

(左から、ダミアン・パリス、ダビ・マルティン、フェルナンド・ヒメネス)
★次回はマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』の予定。
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