エンリケ・ウルビスの新作「Libertad」*TVシリーズの劇場版2021年04月06日 20:57

             映画に戻ってきたエンリケ・ウルビスの新作Libertad

    

        

             (女盗賊ルシア <ラ・ジャネラ> を演じたベベを配したポスター)

 

エンリケ・ウルビスと言えば、ゴヤ賞2012の大賞6カテゴリーを制した『悪人に平穏なし』でしょうか。バスクに興味のある方、またはオールドファンでは2002年の『貸し金庫507かもしれません。1962年ビルバオ生れ、監督、脚本家、マドリードのカルロスⅢ世大学でジャーナリズムとオーディオビジュアル情報学部で後進の指導に当たっている。コメディとスリラー・アクションを交互に撮っており、『悪人に平穏なし』以降、2015年に『アラトリステ』TVシリーズ版(全13話のうち2話)、同じ年にバスクの監督8人によるコンピレーション・フィルムBilbao-Bizkaia Exp:DiaTVシリーズGigantes(全12話のうち9話)を手掛けていますが、ここ10年ほど長編映画は撮っておりませんでした。

『貸し金庫507』の作品&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20140325

Gigantes」の作品紹介記事は、コチラ20180729

   

         

                                     (後進の指導にあたるエンリケ・ウルビス)

     

             

        (ヒット作『悪人に平穏なし』の主人公ホセ・コロナドを配したポスター)

 

★このコロナ禍の中で久々の長編大作Libertadで映画界に戻ってきました。本作は5話(各50)完結のTVミニシリーズLibertad」として出発しましたが、第1話を完成させたところで製作側のモビスター+とのあいだで劇場版が決定されるという異例の展開になりました。多くが野外撮影となったのも劇場版を見据えてのこだわりでした。劇場版はTV250分を115分縮小した135分となり、2021326日、放映と公開が同時に行われた。専門家の劇場版の評価は概ねポジティブでしたが、230館で公開されたにもかかわらず、1週間の興行成績はベストテンに入れなかった。アメリカの観客が熱狂したと報じられた『ゴジラvsコング』、実写アニメ『トムとジェリー』、オスカー有力候補の『ノマドランド』などが上位を占めた。コロナ禍の中で、TV放映と劇場公開が同時という判断がベターだったのかどうかの検討はこれからでしょうか。

   

   

  「LibertadBandoleros2021

製作:Movistar+ / LaZona Producciones (劇場版)A Contracorriente Films

監督:エンリケ・ウルビス

脚本:ミゲル・バロス、ミシェル・ガスタンビデ

撮影:ウナックス・メンディア

音楽:マリオ・デ・ベニト

編集:アスセン・マルチェナ

美術:マヌエル・ルデニャ

キャスティング:ロサ・エステベス、ルイス・ヒメノ

衣装デザイン:パトリシア・モンネ

メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス、ノエリア・ペソ、(特殊メイク、NDスタジオ)ナチョ・ディアス、ソフィ・エルナンデス、フアン・オルモ、(補足メイク)ロラ・エルナンデス、アリディアン・ノブレガ、(ヘアー)セルヒオ・ぺレス・ベルベル、(アシスタント)パウラ・クルス

製作者:ラファ・タボアダ、(エグゼクティブ)フラン・アラウホ、ドミンゴ・コラル、ゴンサロ・サラサール=シンプソン、

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、スリラー・アクション、撮影地マドリード周辺地区、セゴビア、クエンカ、グアダラハラ、カスティーリャ・ラマンチャのルピアナにあるサンバルトロメ修道院など、野外撮影期間はパンデミアで20203月末にロックダウンされる前の1週間に集中的に行われた。2021326TV放映と公開が同時に行われた。

 

ストーリー1809年のアンダルシアが舞台、イギリス艦隊がスペインのトラファルガー岬の沖でナポレオンに勝利してから4年が経っていた。戦争で戦った兵士たちのポケットは空っぽで、仕事のない故郷に戻ることもかなわず、スペインは混乱と戸惑いに被われていた。一方、ガローテ刑の宣告を受けて収監中だったラ・ジャネラの異名をもつ女盗賊に恩赦が届き、独房で生まれた息子フアンと共に17年ぶりに出所した。フアンは死刑執行人の見習いをさせられ、塀の外の世界は何も分からなかった。釈放されたとはいえ完全な自由を得たわけではなく、フアンの父親である有名な盗賊ラガルティホ、別の有力な盗賊アセイトゥノ、頑迷な知事エル・ゴベルナドールが二人の行方を探し回っていた。長年自由を奪われていた母と息子は、自由に生きることを希求していた。ウエスタンとサバイバル・スリラーの要素を取り入れ、歌手のベベを主役に起用した、マッチョな時代のネオウエスタン女性版。

  

            

                        (息子フアン、ラ・ジャネラ、レイナ)

 

主なキャスト

<ベべ>ニエベス・レボーリェド・ビラ(ルシア、ラ・ジャネラ)、ジェイソン・フェルナンデス(息子フアン)、ハビエル・デイベ(夫リサルド/ラガルティホ)、イサク・フェリス(アセイトゥノ)、ルイス・カジェホ(エル・ゴベルナドール)、ホルヘ・スケト(ジョン)、ペドロ・カサブランク(ドン・アナスタシオ)、マノロ・カロ、ソフィア・オリア(レイナ)、ホセ・ソスペドラ、ヒネス・ガルシア・ミリャン、アントニオ・ベラスケス(サルダ―ニャ)、ロヘル・カサマジョール(キャプテン・エクスポシト)、他多数

 

 

    TV版「アラトリステ」失敗のトラウマに苦しんだエンリケ・ウルビス

 

★監督は常日頃から望んでいた野外での撮影や馬と乗り手の配置、臨機応変に即興を可能にする作業計画を立てることができた。「このようなかたちの撮影は、私の人生の夢」だったことを認めている。歴史物を撮りたいと思っていたところ、17世紀を舞台にした「Las aventura del capitan Alatriste」のTV版を撮るチャンスを得た。2006年公開の劇場版は、スペイン国内ではレベルテのベストセラー小説のお蔭か大ヒットとなった。しかし当時の時代背景に暗い海外の観客には、原作のエピソードの数珠つなぎでは、ヴィゴ・モーテンセンの魅力だけでは成功しなかった。

          

TV版の監督は5人、前述したようにウルビスは2話を監督した。アラトリステ隊長はその独特なキャラクターゆえに依然として人気がありました。しかしレベルテの小説に忠実に従えば、彼は自惚れやの剣客ではなく傭兵、雇われの殺し屋でしたが、そのことを私たちはよく理解していませんでした。スペイン黄金時代の撮影をブダペストでエキストラのハンガリー人に囲まれて撮った。みんな流暢なスペイン語を離したが、何かが違っていたとウルビスは回想している。

 

★「監督に負債を弁償する義務はなかったが恐怖に襲われた」とも告白している。谷底から彼を救い出してくれたのがMovistar+ の「Gigantes」(全12話)だった。以前作品紹介をした折には全8話でしたが、最終的には、2シーズン6話ずつの12話になり、彼は9話を監督した。このシリーズの好評が新作「Libertad」に繋がったようです。歴史物を撮りたいと思い、フランコ没後の197612月から放映が始まった長寿TVシリーズCurro Jimenez(全52話)などの研究を重ねたという。これは19世紀前半に実在した盗賊クーロ・ヒメネスに材をとっている。Libertad」に登場する女盗賊ラ・ジャネラはフィクション、当時女性の盗賊は多くはなかったがスペインやイタリアに存在していたという。「第1話のカットを製作のモビスター+に見せたところ、大画面で見たのですが、このような素晴らしい作品を劇場で見られないのは残念だ、と誰もが納得した。翌日映画化が決定したのです。私はスクリーンを諦めません」と監督。

     

       

★テレビは映画を食べて成長した、前者は後者に恩恵を受けている。お互いに助け合わなければならない。TVシリーズの話ばかりしていますが、些細なことです。また見たいと思うのは『ジョーズ』とか、ロベール・ブレッソンの映画でしょうか、あるいは『ゲーム・オブ・スローンズ』のようなTVシリーズでしょうか。監督は二つのフォーマットに同時に意欲を燃やし、20世紀のスペイン内戦など歴史物を視野に入れている。

 

      ラ・ジャネラに歌手べべことニエベス・レボーリェド・ビラを起用

 

<ベべ> ニエベス・レボーリェド・ビラ1978年バレンシア生れの42歳、シンガーソングライター、映画俳優。ホセ・ルイス・クエルダLa Educación de las hadas06)に出演、ゴヤ賞2007ルシオ・ゴドイと共同で歌曲賞を受賞、助演女優賞にもノミネートされた。2007フリオ・メデムの「Caótica Ana」)にベベ・レボーリェドとして出演している。今回久しぶりの映画出演で主役のラ・ジャネラ役に起用された。以前から射撃の経験はあったが、今回のために刀の扱いを特訓して撮影に臨んだということです。息子フアンを演じるジェイソン・フェルナンデスは子役出身、アントニオ・クアドリの「El corazón de la tierra」に少年役でデビュー、TVシリーズや短編に出演、今回初めて大役を演じることになった。既に次回作のTVシリーズAlba13話)がネットで配信が始まっている。

 

         

         (シンガーソングライターのベベ)

 

           

                            (ラ・ジャネラと息子フアン)

 

★盗賊アセイトゥノ役のイサク・フェリスは、1979年アンドラ生れの俳優、監督、編集。「Gigantes」に出演、ホセ・コロナド演じる麻薬組織のゲレーロ家の長男ダニエルを演じた。TVシリーズ出演が主だが、パストール兄弟の『ラスト・デイズ』(13)やガウディ賞2021のカタルーニャ語部門作品賞ノミネートのラモン・テレンスLa dona il-legalに主演している。短編だが3作を撮っている。ラ・ジャネラの夫リサルドで綽名ラガルティホ役のハビエル・デイベ1970年ア・コルーニャ生れ、TVシリーズ出演が主で、代表作はMatalobos091360話)、Néboa208話)など。

 

       

                                             (撮影中の監督とイサク・フェリス)

   

       

                   (マノロ・カロとラガルティホ役のハビエル・デイベ)

 

ルイス・カジェホは、1970年セゴビア生れ、監督との接点はTV版「Alatriste」、当ブログではラウル・アレバロの『静かな男の復讐』/『静かなる復讐』(ゴヤ賞主演男優賞ノミネート)、アメナバルの『戦争のさなかで』、ベニト・サンブラノの「Intemperie」の悪役、ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」など、その都度キャリア紹介をしています。同じくソフィア・オリアTV版「Alatriste」に続いて、「Gigantes」ではマフィアの孫娘に扮した。ほかドン・アナスタシオ役のペドロ・カサブランクホルヘ・スケトマノロ・カロなど。

  

          

    (ペドロ・カサブランクとソフィア・オリア) 

 

           

        (ソフィア・オリアとジェイソン・フェルナンデス)

 

★脚本家、助監督のミゲル・バロスは、「Gigantes」(12話)、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」、マテオ・ヒルとの共同執筆『ミダスの手先』(6話、Netflix配信中)など。ミシェル・ガスタンビデは、『貸し金庫507』からタッグを組み、「La vida mancha」、『悪人に平穏なし』、「Gigantes」(10話)のほか、フリオ・メデムの『バカス』やハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』などを手掛けている。