エンリケ・ウルビスの新作「Libertad」*TVシリーズの劇場版 ― 2021年04月06日 20:57
映画に戻ってきたエンリケ・ウルビスの新作「Libertad」
(女盗賊ルシア <ラ・ジャネラ> を演じたベベを配したポスター)
★エンリケ・ウルビスと言えば、ゴヤ賞2012の大賞6カテゴリーを制した『悪人に平穏なし』でしょうか。バスクに興味のある方、またはオールドファンでは2002年の『貸し金庫507』かもしれません。1962年ビルバオ生れ、監督、脚本家、マドリードのカルロスⅢ世大学でジャーナリズムとオーディオビジュアル情報学部で後進の指導に当たっている。コメディとスリラー・アクションを交互に撮っており、『悪人に平穏なし』以降、2015年に『アラトリステ』のTVシリーズ版(全13話のうち2話)、同じ年にバスクの監督8人によるコンピレーション・フィルム「Bilbao-Bizkaia Exp:Dia」、TVシリーズ「Gigantes」(全12話のうち9話)を手掛けていますが、ここ10年ほど長編映画は撮っておりませんでした。
*『貸し金庫507』の作品&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2014年03月25日
*「Gigantes」の作品紹介記事は、コチラ⇒2018年07月29日
(後進の指導にあたるエンリケ・ウルビス)
(ヒット作『悪人に平穏なし』の主人公ホセ・コロナドを配したポスター)
★このコロナ禍の中で久々の長編大作「Libertad」で映画界に戻ってきました。本作は全5話(各50分)完結のTVミニシリーズ「Libertad」として出発しましたが、第1話を完成させたところで製作側のモビスター+とのあいだで劇場版が決定されるという異例の展開になりました。多くが野外撮影となったのも劇場版を見据えてのこだわりでした。劇場版はTV版250分を115分縮小した135分となり、2021年3月26日、放映と公開が同時に行われた。専門家の劇場版の評価は概ねポジティブでしたが、230館で公開されたにもかかわらず、1週間の興行成績はベストテンに入れなかった。アメリカの観客が熱狂したと報じられた『ゴジラvsコング』、実写アニメ『トムとジェリー』、オスカー有力候補の『ノマドランド』などが上位を占めた。コロナ禍の中で、TV放映と劇場公開が同時という判断がベターだったのかどうかの検討はこれからでしょうか。
「Libertad」(Bandoleros)2021
製作:Movistar+ / LaZona Producciones (劇場版)A Contracorriente Films
監督:エンリケ・ウルビス
脚本:ミゲル・バロス、ミシェル・ガスタンビデ
撮影:ウナックス・メンディア
音楽:マリオ・デ・ベニト
編集:アスセン・マルチェナ
美術:マヌエル・ルデニャ
キャスティング:ロサ・エステベス、ルイス・ヒメノ
衣装デザイン:パトリシア・モンネ
メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス、ノエリア・ペソ、(特殊メイク、NDスタジオ)ナチョ・ディアス、ソフィ・エルナンデス、フアン・オルモ、(補足メイク)ロラ・エルナンデス、アリディアン・ノブレガ、(ヘアー)セルヒオ・ぺレス・ベルベル、(アシスタント)パウラ・クルス
製作者:ラファ・タボアダ、(エグゼクティブ)フラン・アラウホ、ドミンゴ・コラル、ゴンサロ・サラサール=シンプソン、
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、スリラー・アクション、撮影地マドリード周辺地区、セゴビア、クエンカ、グアダラハラ、カスティーリャ・ラマンチャのルピアナにあるサンバルトロメ修道院など、野外撮影期間はパンデミアで2020年3月末にロックダウンされる前の1週間に集中的に行われた。2021年3月26日TV放映と公開が同時に行われた。
ストーリー:1809年のアンダルシアが舞台、イギリス艦隊がスペインのトラファルガー岬の沖でナポレオンに勝利してから4年が経っていた。戦争で戦った兵士たちのポケットは空っぽで、仕事のない故郷に戻ることもかなわず、スペインは混乱と戸惑いに被われていた。一方、ガローテ刑の宣告を受けて収監中だったラ・ジャネラの異名をもつ女盗賊に恩赦が届き、独房で生まれた息子フアンと共に17年ぶりに出所した。フアンは死刑執行人の見習いをさせられ、塀の外の世界は何も分からなかった。釈放されたとはいえ完全な自由を得たわけではなく、フアンの父親である有名な盗賊ラガルティホ、別の有力な盗賊アセイトゥノ、頑迷な知事エル・ゴベルナドールが二人の行方を探し回っていた。長年自由を奪われていた母と息子は、自由に生きることを希求していた。ウエスタンとサバイバル・スリラーの要素を取り入れ、歌手のベベを主役に起用した、マッチョな時代のネオウエスタン女性版。
(息子フアン、ラ・ジャネラ、レイナ)
主なキャスト:
<ベべ>ニエベス・レボーリェド・ビラ(ルシア、ラ・ジャネラ)、ジェイソン・フェルナンデス(息子フアン)、ハビエル・デイベ(夫リサルド/ラガルティホ)、イサク・フェリス(アセイトゥノ)、ルイス・カジェホ(エル・ゴベルナドール)、ホルヘ・スケト(ジョン)、ペドロ・カサブランク(ドン・アナスタシオ)、マノロ・カロ、ソフィア・オリア(レイナ)、ホセ・ソスペドラ、ヒネス・ガルシア・ミリャン、アントニオ・ベラスケス(サルダ―ニャ)、ロヘル・カサマジョール(キャプテン・エクスポシト)、他多数
TV版「アラトリステ」失敗のトラウマに苦しんだエンリケ・ウルビス
★監督は常日頃から望んでいた野外での撮影や馬と乗り手の配置、臨機応変に即興を可能にする作業計画を立てることができた。「このようなかたちの撮影は、私の人生の夢」だったことを認めている。歴史物を撮りたいと思っていたところ、17世紀を舞台にした「Las aventura del capitan Alatriste」のTV版を撮るチャンスを得た。2006年公開の劇場版は、スペイン国内ではレベルテのベストセラー小説のお蔭か大ヒットとなった。しかし当時の時代背景に暗い海外の観客には、原作のエピソードの数珠つなぎでは、ヴィゴ・モーテンセンの魅力だけでは成功しなかった。
★TV版の監督は5人、前述したようにウルビスは2話を監督した。アラトリステ隊長はその独特なキャラクターゆえに依然として人気がありました。しかしレベルテの小説に忠実に従えば、彼は自惚れやの剣客ではなく傭兵、雇われの殺し屋でしたが、そのことを私たちはよく理解していませんでした。スペイン黄金時代の撮影をブダペストでエキストラのハンガリー人に囲まれて撮った。みんな流暢なスペイン語を離したが、何かが違っていたとウルビスは回想している。
★「監督に負債を弁償する義務はなかったが恐怖に襲われた」とも告白している。谷底から彼を救い出してくれたのがMovistar+ の「Gigantes」(全12話)だった。以前作品紹介をした折には全8話でしたが、最終的には、2シーズン6話ずつの12話になり、彼は9話を監督した。このシリーズの好評が新作「Libertad」に繋がったようです。歴史物を撮りたいと思い、フランコ没後の1976年12月から放映が始まった長寿TVシリーズ「Curro Jimenez」(全52話)などの研究を重ねたという。これは19世紀前半に実在した盗賊クーロ・ヒメネスに材をとっている。「Libertad」に登場する女盗賊ラ・ジャネラはフィクション、当時女性の盗賊は多くはなかったがスペインやイタリアに存在していたという。「第1話のカットを製作のモビスター+に見せたところ、大画面で見たのですが、このような素晴らしい作品を劇場で見られないのは残念だ、と誰もが納得した。翌日映画化が決定したのです。私はスクリーンを諦めません」と監督。
★テレビは映画を食べて成長した、前者は後者に恩恵を受けている。お互いに助け合わなければならない。TVシリーズの話ばかりしていますが、些細なことです。また見たいと思うのは『ジョーズ』とか、ロベール・ブレッソンの映画でしょうか、あるいは『ゲーム・オブ・スローンズ』のようなTVシリーズでしょうか。監督は二つのフォーマットに同時に意欲を燃やし、20世紀のスペイン内戦など歴史物を視野に入れている。
ラ・ジャネラに歌手べべことニエベス・レボーリェド・ビラを起用
★<ベべ> ニエベス・レボーリェド・ビラ、1978年バレンシア生れの42歳、シンガーソングライター、映画俳優。ホセ・ルイス・クエルダの「La Educación de las hadas」(06)に出演、ゴヤ賞2007でルシオ・ゴドイと共同で歌曲賞を受賞、助演女優賞にもノミネートされた。2007年フリオ・メデムの「Caótica Ana」)にベベ・レボーリェドとして出演している。今回久しぶりの映画出演で主役のラ・ジャネラ役に起用された。以前から射撃の経験はあったが、今回のために刀の扱いを特訓して撮影に臨んだということです。息子フアンを演じるジェイソン・フェルナンデスは子役出身、アントニオ・クアドリの「El corazón de la tierra」に少年役でデビュー、TVシリーズや短編に出演、今回初めて大役を演じることになった。既に次回作のTVシリーズ「Alba」(13話)がネットで配信が始まっている。
(シンガーソングライターのベベ)
(ラ・ジャネラと息子フアン)
★盗賊アセイトゥノ役のイサク・フェリスは、1979年アンドラ生れの俳優、監督、編集。「Gigantes」に出演、ホセ・コロナド演じる麻薬組織のゲレーロ家の長男ダニエルを演じた。TVシリーズ出演が主だが、パストール兄弟の『ラスト・デイズ』(13)やガウディ賞2021のカタルーニャ語部門作品賞ノミネートのラモン・テレンスの「La dona il-legal」に主演している。短編だが3作を撮っている。ラ・ジャネラの夫リサルドで綽名ラガルティホ役のハビエル・デイベは1970年ア・コルーニャ生れ、TVシリーズ出演が主で、代表作は「Matalobos」(09~13、60話)、「Néboa」(20、8話)など。
(撮影中の監督とイサク・フェリス)
(マノロ・カロとラガルティホ役のハビエル・デイベ)
★ルイス・カジェホは、1970年セゴビア生れ、監督との接点はTV版「Alatriste」、当ブログではラウル・アレバロの『静かな男の復讐』/『静かなる復讐』(ゴヤ賞主演男優賞ノミネート)、アメナバルの『戦争のさなかで』、ベニト・サンブラノの「Intemperie」の悪役、ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」など、その都度キャリア紹介をしています。同じくソフィア・オリアもTV版「Alatriste」に続いて、「Gigantes」ではマフィアの孫娘に扮した。ほかドン・アナスタシオ役のペドロ・カサブランク、ホルヘ・スケト、マノロ・カロなど。
(ペドロ・カサブランクとソフィア・オリア)
(ソフィア・オリアとジェイソン・フェルナンデス)
★脚本家、助監督のミゲル・バロスは、「Gigantes」(12話)、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」、マテオ・ヒルとの共同執筆『ミダスの手先』(6話、Netflix配信中)など。ミシェル・ガスタンビデは、『貸し金庫507』からタッグを組み、「La vida mancha」、『悪人に平穏なし』、「Gigantes」(10話)のほか、フリオ・メデムの『バカス』やハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』などを手掛けている。
マリサ・パレデス、ナント映画祭2021栄誉賞を受賞 ― 2021年04月11日 22:18
「決して無駄に生きてはこなかった」とマリサ・パレデス
(マドリードのカフェ・ヒホンで語るパレデス、2021年3月30日)
★マリサ・パレデス(マドリード1946)がフランスのナント映画祭2021で栄誉賞を受賞しました。受賞者の経歴については、ゴヤ賞2018栄誉賞を受賞した折りにフィルモグラフィーを紹介しておりますが、フランコ時代にデビュー、多くの先輩の薫陶を受けて舞台、映画、TV、ラジオと生きぬいてきた女優について、栄誉賞受賞を機に最近の出演映画や、今年公開が予定されているアンパロ・クリメントのドキュメンタリー・ドラマ「Las cartas perdidas」などをご紹介したい。本作はスペイン内戦を背景にした、オール女性出演のドクドラです。
★ゴヤ栄誉賞受賞後としては、バルバラ・レニーとの女優対決として話題を呼んだハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』(18)をご紹介しております。75歳のバースデーを祝ったばかりですが、歩みを止めない、時間を無駄にしない女優です。詳細をまだ明かすわけにはいかないという三つの企画が、プラハ、イタリア、スペインで進行中だそうです。
*ゴヤ賞2018栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年01月18日
*『ペトラは静かに対峙する』の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月08日
(『ペトラ』のテーマ、エゴについて語り合うマリサ・パレデスとバルバラ・レニー、
2018年10月、エル・パイスの編集室にて)
★75歳の誕生日を数日後に控えた3月30日、エル・パイス紙のインタビューで、ウィキペディアでも触れられていない、デビューの経緯、両親、特に賢明な助言者であった母親、祖母、最初の結婚相手アントニオ・イサシ=イサメンディ、一人娘マリア・イサシ、パレデスの教師であった今は亡き先輩フェルナンド・フェルナン=ゴメスやマヌエル・アレクサンドレなどのシネアスト、スペイン映画アカデミーの会長時代のゴヤ賞ガラなどについて、マドリードのカフェ・ヒホンで語りました。
(一人娘の女優マリア・イサシからゴヤの胸像を受け取る、ゴヤ賞2018ガラにて)
★少女のときから舞台女優になるのが夢だったマリサ(マリシータ)によると、初舞台は14歳のときの「El padrino」で、「トゥリノ小父さんが殺されちゃった」と言いながらデビューした。これを見ていたビクトル・バドレイ(監督、脚本家)から、コメディ劇場でリハーサルをしているコンチータ・モンテスに会いに行くように言われたという。前向きな母親はともかく、父親は怒って反対したという。しかしマリシータの決心をもはや誰も覆すことはできなかった。まさに人生はドラマです。
★カフェ・ヒホンのテーブルをそっと撫でながら壁を見上げ、「ここの椅子に座っていたんです、フェルナンド・フェルナン=ゴメス、マヌエル・アレクサンドレ、ホセ・ガルシア・ニエト、ペペ・ディアス・・・私は15歳で、彼らが政治やアートについて、文学について議論を闘わせているのを聞いて学んだのです。自分がしなければならないこと、してはいけないことを学びました。先人の教えを忘れてはいけないのです」と。母親からは「共和政時代には認められていた女性参政権や市民婚は、フランコ体制下では取り消された」と聞かされていました。今の自分があるのも母親の支えがあったからで、彼女は言わば<共犯者>だったと。母と祖母は私に「怯えるな」と教えてくれた。祖母ガブリエラ・クリアドは、農民で11人の子供を育てた肝っ玉母さんだったらしく、うち3人が今でも健在、最年長の叔父は99歳ということです。
★コンチータ・モンテスに会いに行くとき、母親は「いいかい、マリシータ、自分が信じる道を行きなさい」と言った。相手は既にメジャーなスターで、15歳の小娘には近寄りがたい存在だったが、私はちっぽけじゃない、情熱では負けない、大きな夢をもっている、とみずからを鼓舞した。60年代の街中では小児性愛者が少女たちを追いかけまわしたり、独裁、抑圧、沈黙と恐怖が蔓延し、「皆なひそひそと話をし、秘密をもち、怯えていた。家の中も同じ、父親が怖くて、パパが帰ってくるというと、子供たちは固まった」と。
★アントニオ・イサシ=イサメンディ(1929-2017)との結婚と「私の人生の花」と形容する娘マリアの誕生(1975)については、両親の考えは違ったという。母親は17歳の年齢差と離婚ができないことから正式に籍を入れるべきでないと言い、父親はアントニオが籍を入れないなら母娘の面倒をみないと主張した。現実的な母親、世間を重んじる父親は万国共通です。後には孫娘を溺愛したそうですが。「アントニオとは同じ目的をもっていたのですが、次第に行き違いが重なり、娘が6歳のとき終わりました。多くの恋をしましたが、1983年、撮影監督、元国立フィルムライブラリー館長のチェマ・プラド(ルゴ1952、ホセ・マリア・プラド)と出会い再婚した。彼は「とても厳しく少し頑固だが誠実な人、皆がOKを出してもダメと言える人」だそうです。
(チェマ・プラドとのツーショット、カンヌ映画祭2018にて)
★忘れられない人として、「私をもっとも信頼してくれた」舞台演出家のリュイス・パスクアル、「自由な考え方、映画に起用してくれたことで私の人生を決定した」ペドロ・アルモドバルの名前を上げている。その他、監督のカエタノ・ルカ・デ・テナ、フアン・ゲレロ・サモラ、ホセフィナ・モリーナ、ピラール・ミロ、女優マリア・アスケリノも忘れられないと語った。ホセフィナ・モリーナ以外は鬼籍入りしています。彼女は映画やオーディオビジュアルで仕事をする女性の権利を守る組織CIMAの設立者で名誉会長、女性監督として2011年、初めてゴヤ賞栄誉賞を受賞した大先輩です。
(ビクトリア・アブリル、アルモドバルと。母と娘の愛憎劇『ハイヒール』から)
★2000年から3年間、スペイン映画アカデミー会長を務めた。2004年のゴヤ賞ガラも忘れられない。というのも大量破壊兵器保有を理由に米国がイラクに軍事介入した戦争に、当時のアスナール政権が同調したからだという。国民はこぞって戦争反対を表明した。仲間と「ノーモア・ウォー」のステッカーを付けてガラに出席した。いかなる戦争にも反対するのは母の教えだという。それは今年公開が予定されているアンパロ・クリメントの「Las cartas perdidas」出演にも繋がっている。
(撮影中のアンパロ・クリメント)
★新作はクリメント監督が演出をした同名戯曲の映画化、舞台は2年間のロングランをおさめたという。まだ内戦は終わっていないのです。プロットはスペイン内戦当時、追放または収監された女性たちの直筆の手紙がベースになっている、ドキュメンタリー・ドラマ、いわゆるドクドラというジャンルの映画です。共和政を支持した女性たちは、女子刑務所または強制収容所に送られた。撮影は最小のスタッフで、2020年9月24日クランクイン、撮影地は両軍の激戦地であったアラゴン州のベルチテ、カスティーリャ・デ・ラ・マンチャ、バレンシア、フランス南部など。出演はパレデス以下、ボイス出演のアナ・ベレン、『ペーパー・ハウス』のナイロビ役で知名度が上がったアルバ・フローレス、ベテランのノラ・ナバスなどオール女性、いずれご紹介する予定です。
(撮影中のマリサ・パレデス)
(全員マスク姿で撮影に臨むスタッフ)
第11回D'Aバルセロナ映画祭2021 ― 2021年04月17日 18:02
オープニング作品はアルベール・デュポンテルの辛口コメディ
★D'Aバルセロナ映画祭の正式名はFestival internacional de Cinema d’Autor de Barcelonaと長たらしいので当ブログでは略してD'Aバルセロナ映画祭として紹介しています(副賞は1万ユーロ)。バルセロナで11年前から始まった作家性に富んだインディペンデント映画祭で、映画とTVシリーズを配信するFilmin(月額7.99ユーロ)が主な母体ですが、バルセロナ現代文化センターCCCB、カタルーニャ・フィルモテカ(フィルムライブラリー)他で上映されます。特に今年はコンペティション以外はコロナ禍で多くがFilminで配信されるようです。ドキュメンタリーを含む長編62作、短編26作です。日本や台湾、韓国を含めたアジア作品も上映されますが、欧米が主力、半分ほどがスペイン映画です。今年は4月29日~5月13日まで、その後マドリードで5月7日~13日限定で12作品上映が予定されていますが、あくまで予定は未定です。
(映画祭の準備が進むバルセロナ市街)
★オープニング作品はギャスパー・ノエやジャン=ピエール・ジュネの映画でお馴染みの俳優で監督のアルベール・デュポンテルの「Adios, idiotas」(原題「Adieu les cons」、英題「Bye Bye Morons」)、いずれも「さよなら、おバカさん」でしょうか。今年のフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞7部門(作品・監督・脚本・撮影など)制覇した辛口コメディです。監督自身が脚本も書き主役を演じています。共演はヴィルジニー・エフィラ、訳あって別れたとき15歳だった息子を探すクレージーなロードムービーのようですが、本邦でも多分公開されるでしょう。今年のセザール賞ガラは衣装賞のプレゼンターを務めた女優コリンヌ・マジエロが、映画は「必要不可欠でない」という理由で映画館を閉鎖した政府に「文化なしに未来はない」とヌードの抗議をしたことでフランスじゅうが騒然となった。ワクチン接種が予定通り進まないマクロン政権、コロナ収束の道のりは各国とも厳しい。
(アルベール・デュポンテルとヴィルジニー・エフィラ、映画から)
★クロージング作品は、イタリアのスザンナ・ニッキアレッリの「Miss Marx」(原題「Miss Eleanor Marx」)、カール・マルクスの娘エリノアにロモラ・ガライが扮した。第77回ベネチア映画祭2020の話題作でしたが、賞には絡めませんでした。ということで開幕閉幕とも新作ではありません。日本からは河瀨直美の『朝が来る』、諏訪敦彦の『風の電話』、西川美和の『すばらしき世界』(英題「Under the Open Sky」で上映)などがアナウンスされていますが、それぞれ他の映画祭で既にエントリーされた作品です。
(エリノア役のロモラ・ガライ、ニッキアレッリ監督の「Miss Marx」から)
★スペイン語映画では、アルゼンチンのソル・ベルエソ・ピチョン=リビエレの「Mamá, mamá mamá」(才能部門)、本作はサンセバスチャン映画祭2020で簡単にご紹介している。地元バルセロナからはマルク・フェレールのコメディ「¡Corten!」(監督部門、21、ワールドプレミア)、ボルハ・デ・ラ・ベガのデビュー作「Mía y Moi」(才能部門、21,スペイン)がノミネートされています。本作には『悲しみに、こんにちは』で母親を演じたブルナ・クシ、『アルツォの巨人』の主人公を演じたエネコ・サガルドイなどが出演しており、タイトル「ミアとモイ」は姉弟の名前です。他にオンラインで上映されたラテンビート2020の目玉だったダビ・マルティン・ロス・サントスの『マリアの旅』が特別上映されるようです。
*「Mamá, mamá mamá」の紹介記事は、コチラ⇒2020年09月07日
*『マリアの旅』の作品紹介は、コチラ⇒2020年10月27日/同年11月29日
(「Mamá, mamá mamá」のポスター)
(姉役ブルナ・クシ、弟役リカルド・ゴメス、彼の恋人役エネコ・サガルドイ、
「Mía y Moi」から)
★2019年中に完成していた作品がコロナ禍で公開が2020年に延期されたり、2020年作品が今年にずれ込んだりしています。今年はなんとか開催できても来年はどうなるのでしょうか。文化は必要不可欠ではないとして切り捨てられるのでしょうか。今年のベルリン映画祭も史上初のリモート開催、スクリーンはどんどん遠のくばかりです。
第24回マラガ映画祭2021のポスター*マラガ映画祭2021 ① ― 2021年04月19日 14:22
第24回マラガ映画祭2021のメイン・ポスターが決定しました
(ベネズエラのデザイナー、ラミロ・ゲバラの作品「マラガの光」に決定)
★2021年のポスターがラミロ・ゲバラの作品Luz de Málaga「マラガの光」に決り、去る3月29日お披露目され、いよいよマラガ映画祭も始動しました。マラガ市長フランシスコ・デ・ラ・トーレが発表しました。今回オンラインで公募したところ135人が応募、ベネズエラのグラフィック・デザイナー、ラミロ・ゲバラの作品が選ばれ、副賞3000ユーロが与えられます。審査委員は、マラガ市議会文化部総ディレクターのスサナ・マルティン、ピカソの生家の管理所長ホセ・マリア・ルナ、ピカソ美術館芸術監督ホセ・レブレロ、マラガのティッセン美術館芸術監督ルルド・モレノ、他にマラガ大学美術学部長ヘスス・マリン・クラビホ、マラガ映画祭総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルなどで構成され、全会一致でラミロ・ゲバラの<マラガの光>を選びました。
★当日のプレス会見には、マラガ市長や映画祭総ディレクターのほか、マラガ政府副代表、マラガ市議会文化評議員、映画&視聴覚芸術研究所やアンダルシア同盟の面々、メリリャのラ・カイシャ財団、スール紙のディレクターなどなど大勢が参加しましたが、受賞者ラミロ・ゲバラはマイアミ滞在でオンライン会見でした。
(受賞者を発表するマラガ市長デ・ラ・トーレとオンライン参加の受賞者ラミロ・ゲバラ)
★ラミロ・ゲバラは、1969年カラカス生れ、現在米国とカラカスを往復して活躍。ベネズエラのプロデザイン協会でビジュアル・コミュニケーションを専攻(1991~95)する。エル・ナシオナル紙、ソニー・エンターテインメントTV、科学博物館、アレハンドロ・オテロ美術館、アンドレス・ベジョ・カトリック大学、ベネズエラ中央大学など、種々様々な企業や研究機関のデザイン・プロジェクトに参加している。1998年にデザイン会社Metaplug、2006年にIdeografを設立、出身校やヤラクイの国立実験大学に講座をもち後進にデザインを教えている。国際レベルのビジュアル・コミュニケーションのプロジェクト、デザイン・コンサルタント、ブランド開発を手掛けている。
★受賞者によるビジュアルのコンセプトは、マラガの起源から継続的に拡がっていく光のビームから始まります。画像は中心の球体を部分的に描く同心の白いラインで輪郭が描かれ中央で結合している。最初のフラッシュは、色、形、コントラストの連続する輪が領域を超える出発点であり、空間と時間を超える光の効果を感じることができる。<マラガの光>は、ユニークで、継続的であり無限です。生き生きした多様なカラー、動きがあり、音とリズム、境界を超えて拡がる空間を再創造している。難しいことはさておき、イベロアメリカの多様性を重んじ、祝祭と出会いのフェスティバルにふさわしいことが評価されたのでしょう。
★昨年は恒例の3月開催から8月に延期されるなど波乱含みでしたが、それでも開催に漕ぎつけました。ロックダウンなどがあれば別ですが、今年の6月3日~13日は予定通り開催されると思います。特別賞やセクション・オフィシアル部門以下各カテゴリーの発表はこれからです。
★マラガ特別賞の一つ「レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ」にスペイン映画アカデミー現会長のマリアノ・バロッソが選ばれました。昨年はメキシコのアルトゥーロ・リプスタイン監督でしたが、コロナ禍で来マラガが叶いませんでしたが、今年はその心配はありません。当ブログには度々登場してもらっていますが、フィルモグラフィーについては未紹介、次回に予定しています。
(スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
マリアノ・バロッソに特別賞「レトロスペクティブ賞」*マラガ映画祭2021 ② ― 2021年04月22日 14:27
マラガ特別賞<レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ>にマリアノ・バロッソ
★マリアノ・バロッソの名前はゴヤ賞の度に登場させているのですが、スペイン映画アカデミーAACCE副会長に就任した折に簡単なキャリア&フィルモグラフィーを紹介しただけでした(第15代会長はイボンヌ・ブレイク)。ブレイク会長が2018年新春3日にゴヤ賞ガラの準備中体調不良で緊急入院、回復することなく鬼籍入りして、ゴヤ賞2018のガラから実質的に会長職を担ってきました。AACCE会長の正式就任は2018年7月9日、現在にいたっています(任期は3年)。
*マリアノ・バロッソのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2016年10月29日
★更に映画祭では、バロッソ映画の多くの脚本を共同執筆したアレハンドロ・エルナンデスとの広範なインタビュー記事を集めた本がパリド・フエゴによって上梓される予定ということです。その中にはバロッソ監督のキャリア&フィルモグラフィーも含まれる。アレハンドロ・エルナンデスはキューバ出身だが、今世紀初めからスペインに軸足をおいている。2005年の「Hormigas en la boca」以来、「El mejor de Eva」、TVミニシリーズ「Todas las mujeres」や「La línea invisible」などが挙げられる。彼はアメナバルの『戦争のさなかで』や、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』など、他監督ともタッグを組んでいる脚本家です。
*アレハンドロ・エルナンデスの紹介記事は、コチラ⇒2018年06月01日
(ゴヤ賞2014脚色賞を受賞したバロッソ監督と脚本家のアレハンドロ・エルナンデス)
バルセロナ派を牽引する監督、脚本家、プロデューサー
★マリアノ・バロッソ、1959年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者、第16代スペイン映画アカデミー会長を2018年より務めている。ロスアンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート、インスティテュート・サンダンスで映画を学び、マドリードのスペイン・シアターやウィリアム・レイトン・ラボラトリーで演劇を学びました。キューバのサンアントニオ・デ・ロス・バニョスの映画TV学校(1997~99)、アリカンテのシウダッド・デ・ラ・ルスの映画学校、メネンデス・ペラヨ国際大学、プラハ・フィルム・スクール、コロンビア国立大学、ナッシュビルのワトキンス・カレッジで教鞭をとり、またマドリード映画視聴覚学校ECAMの監督コーディネーターも務めています。TVシリーズや広告も手掛けながら映画と舞台、かたわら後進の指導に当たっています。
(ゴヤ賞2021ガラで挨拶するマリアノ・バロッソ)
★フェルナンド・コロモに見出され、「Mi hermano del alma」(93)で長編第2作がベルリン映画祭に出品された。翌年のゴヤ賞新人監督賞を受賞、他カルロヴィ・ヴァリ映画祭1994で監督賞クリスタル・グローブやサン・ジョルディ賞を受賞した。1990年代のカタルーニャを舞台に全く性格の異なる兄弟を描く、いわゆるカインとアベルの物語、脚本はコロモとホアキン・オリストレルが共同執筆、キャストのフアン・エチャノベ(ゴヤ賞助演男優賞)、フアンホ・プイグコルベ(サン・ジョルディ男優賞)、カルロス・イポリット(ムルシアFFフランシスコ・ラバル男優賞)などがそれぞれ評価され、その演技力は後の活躍で証明されている。代表作は以下の通り(製作順)
(兄弟役を演じた左からプイグコルベとイポリットを配したポスター)
1990年Es que Inclan está loco (メキシコ映画)コメディ、長編デビュー作
1993年Mi hermano del alma
1996年Lucrecia (TVムービー)
1996年Extasis
1999年Los lobos de Washington
2000年Kasbah (アルゼンチンとの合作)
2001年In the time of the butterflies(En el tiempo de las mariposas、米=メキシコ合作)
2005年Hormigas en la boca (キューバとの合作、英題Ants in the Mouth)
2007年Invisibles(ドキュメンタリー)セグメント「Los sueños de Bianca」
2012年El mejor de Eva
2013年Todas las mujeres
*以下、TVシリーズ
1991~92年Las chicas de hoy en dia(5話)TVデビュー作
2010年Todas las mujeres(6話)2013年映画化された。
2018年El día de mañana(6話)
イグナシオ・マルティネス・デ・ピソンの小説をベースにオリオル・プラが脚色
2019年Criminal(3話)Netflix オリジナル作品、2019年9月20日より配信
2020年La línea invisible(6話)
★1996年アンテナ3 のためテレビ・ムービー「Lucrecia」をカルメ・エリアス、フアン・ディエゴ・ボトーを起用して撮る。同年国際映画祭巡りをした「Extasis」を撮る。ハビエル・バルデム、アルゼンチン出身のベテラン、フェデリコ・ルッピ、シルビア・ムントが出演、カルロヴィ・ヴァリ以下、ベルリン、ロンドン、ワシントン、マル・デ・プラタなどの映画祭で上映され、ニューヨーク批評家協会賞、ACE作品賞などを受賞した。脚本はホアキン・オリストレルと共同執筆、父と息子の関係がテーマ。
(ハビエル・バルデムを配した「Extasis」のポスター)
★1999年「Los lobos de Washington」は、脚本をフアン・カベスタニーが執筆したアクション・スリラー、バルを経営するハビエル・バルデムとエドゥアルド・フェルナンデスが金策に困り、裕福な古い友人ホセ・サンチョのマネーを横取りする。他にエルネスト・アルテリオ、アルベルト・サン・フアンなど芸達者が出演、スペイン公開後にトロント映画祭に出品された他、トゥールーズ映画祭でバロッソが監督賞を受賞した。バルデムはエグゼクティブ・プロデューサーも兼ねている。
(バルデムを中央に5人の主演者を配したポスター)
★2001年「In the time of the butterflies」は、米国のTVムービーとしてMGM&ShowTimeが製作、言語は英語、メキシコ・シティやベラクルスで撮影された。サルマ・ハエックやプエルトリコ出身の歌手マルク・アンソニーが出演している。2005年「Hormigas en la boca」は、ジャーナリストで作家の実兄ミゲル・バロッソ(サラゴサ1955)の暗黒小説「Amanecer con hormigas en la boca」(1999年刊)の映画化、脚本をキューバ出身のアレハンドロ・エルナンデスと共同執筆したクラシックなフィルム・ノワール。革命前の1950年代のハバナが舞台、エドゥアルド・フェルナンデス、アリアドナ・ヒル、キューバのホルヘ・ぺルゴリアが主演、ハバナで撮影された。マラガ映画祭で審査員特別賞を受賞した他、主役のエドゥアルド・フェルナンデスが男優賞を受賞した。
(主演3人を配した「Hormigas en la boca」のポスター)
★ドキュメンタリー「Invisibles」は、バロッソを含む5人の監督、イサベル・コイシェ、ハビエル・コルクエラ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、ヴィム・ヴェンダースがそれぞれセグメントを担当した。アフリカで活躍する国境なき医師団の姿を追ったドキュメンタリー。ハビエル・バルデムが製作、ゴヤ賞2008長編ドキュメンタリー賞とフォルケ賞ドキュメンタリー賞を受賞した。
★「Todas las mujeres」は、2010年のTVミニシリーズの映画化、ゴヤ賞2014脚色賞をアレハンドロ・エルナンデスと受賞、3個目のゴヤ胸像となる。他サン・ジョルディ賞、トゥリア賞、ディアス・デ・シネ賞などを受賞。キャストはバロッソ映画の常連エドゥアルド・フェルナンデス、ナタリエ・ポサ、マリア・モラレス、ペトラ・マルティネス、ミシェル・ジェンナーなど。
(ゴヤ賞2014脚色賞の「Todas las mujeres」のポスター)
★TVミニシリーズでは、「Criminal」がNetflixで2019年9月から配信されている。脚本は第1話と第3話がアレハンドロ・エルナンデス、第2話がマヌエル・マルティン・クエンカ、キャストは、エンマ・スアレスを主役に、エドゥアルド・フェルナンデス、カルメン・マチ、ホルヘ・ボッシュ、インマ・クエスタ、アルバロ・セルバンテスと当ブログ常連の演技派を揃えている。このシリーズはイギリス編、ドイツ編、フランス編と4ヵ国対決となっている。
(エンマ・スアレスとカルメン・マチを配したポスター)
★演劇では、「El hombreelefante」(B・ポメランセ、出演アナ・ドゥアルト、ペレ・ポンセ)、「Closer」(パトリック・マルベル、出演ベレン・ルエダ、ホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス)、「Recortes」(出演アルベルト・サン・フアン、ヌリア・ガリャルド)が代表作。他にさまざまな市民団体のために「Medicos del mundo」や「Greenpeace」のようなドキュメンタリーも手掛けている。
チリのジェームズ・ボンド、ハリウッドへ*米アカデミー賞2021 ― 2021年04月23日 20:17
ドン・セルヒオ、重装備で初めての海外旅行
(第93回オスカー賞ドキュメンタリー部門ノミネートの『老人スパイ』のポスター)
★チリのジェームズ・ボンドことセルヒオ・チャミーが、第93回アカデミー賞授賞式(4月25日)出席のため監督マイテ・アルベルディ監督、代表プロデューサーのマルセラ・サンティバネスなど「老人スパイ」の御一行と一緒に現地入りできたようです。コロナ・ワクチンの2回接種(チリは南米の優等生で30%の接種率、ただし最近感染者が急増している)、何回も受けたPCR検査を合格して、写真のようなマスク&フェイスシールドの重装備で搭乗、これが初の海外旅行とか。2017年撮影時には御年83歳でしたが既に87歳、人生死ぬまで何があるか分かりません。
*アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネートの記事は、コチラ⇒2021年03月21日
*『老人スパイ』の紹介記事は、コチラ⇒2020年10月22日/11月22日
(少し緊張気味のドン・セルヒオ)
(アルベルディ監督とドン・セルヒオ)
★本作の製作国は、チリのほか米国=ドイツ=オランダ=スペインと大所帯、スペインはマリア・デル・プイ・アルバラド(エグゼクティブ、サンセバスティアン生れ42歳)とマリサ・フェルナンデス・アルメンテロス(共同製作者、サンタンデール生れ45歳)の二人、前者はロドリゴ・ソロゴジェンの短編「Madre」を手掛けている。これは第91回アカデミー賞短編部門のノミネート作品です。
(左マリア・デル・プイ・アルバラドとマリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、マドリード)
★「1年前は公開できるかどうかさえ分からず、袋小路に入っていました。しかしサンセバスチャン映画祭で息を吹き返しました」とフェルナンデス・アルメンテロス。1月にサンダンスでプレミアされ、9月にサンセバスチャン、観客の反応はとても違っていた。オランダだけリリースされたが、それも「10日後にはロックダウン」で市民は自宅監禁されたわけです。だからオスカー賞ノミネートのニュースには「涙が止まらなかったし、部屋の中を走り回りました」とも語っている。「チリのアルベルディに会いに行くことはできませんから、地球の反対側から朝の9時だというのにシャンペンで祝いました」と。「20パーセントの確率はあるわけだから、ガラは我が家かマリアの家かどちらかで見守ることになる」とフェルナンデス。
★アルバラドは「ダイヤローグはそのままで手を加えずに自然さを捉えるようにした。もっとも重要な質問は個人的なものでした。つまり、私たちの老後はどうなるの?老人ホームで暮らすようになるの?私たちは老人に何をしたらいいの?」と語っている。老人問題ではなく自分自身の問題だったのでしょう。「セルヒオは自分にあるルールを課した。重要なのはスパイすることや盗聴することではなく、相手の話を聞くことだと気づいたのです」とフェルナンデスは当時を思い出して語っている。アルベルディ監督も「老人たちは私たちがなりたい老人について決して尋ねません」と。
★コロナ禍の最中に開催されるオスカー賞、87歳という高齢を考えて授賞式が行われるドルビー・シアター近くのホテルが準備された由、ガラではトム・クルーズやマット・デイモンのクルーの近くの席とか、チリ政府もアメリカ側も気づかっているようです。人生終盤近くにこんな夢にも見なかっただろう晴れ舞台が準備されていたとは、ドン・セルヒオも想像していなかったでしょう。日本では26日月曜日午前中、WOWOWの独占生中継です。
残念ながら『老人スパイ』は受賞ならず*第93回アカデミー賞結果 ― 2021年04月28日 15:53
長編ドキュメンタリー賞は『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』
(三つ編みのお下げにエルメスのドレスと白のスニーカー、監督賞受賞のクロエ・ジャオ)
★視聴率過去最低の記録になった第93回アカデミー賞授賞式、従来の対面方式でしたがアーティストなどのライブもなく、死ぬほど退屈だったと酷評する向きもありましたが、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が作品賞・監督賞・主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)の主要大賞を制して終了しました。下馬評通りの結果でしたが、主演男優賞が本命視されていた『マ・レイニーのブラックボトム』の故チャドウィク・ボーズマンではなかったことで衝撃が走ったとか。それはそうでしょう、どの映画賞も大トリは作品賞と決まっているのに、順番を主演男優賞と入れ替えてガラを盛り上げようとしていたのですから。アカデミーもさぞかしガックリしたことでしょうが、Netflixもガックリだったようです。受賞はないと思っていたか、あるいは高齢のせいか欠席していた『ファーザー』(フロリアン・ゼレール)のアンソニー・ホプキンスがレクター博士以来29年ぶり、2回目のオスカー像を手にしました。しかし彼は少しも悪くありません。
(フランシス・マクドーマンドとジャオ監督、ピーター・スピアーズほかの製作者たち)
★期待の長編ドキュメンタリー賞、マイテ・アルベルディの『老人スパイ』は残念でした。受賞するに越したことはありませんが、今年7月には邦題『83歳のやさしいスパイ』でシネマカリテ他で公開されることになりました。これもひとえにノミネートのお蔭です。監督、主演のドン・セルヒオ以下チリの皆さん、お疲れさまでした。下馬評ではギャレット・ブラッドリーの『タイム』でしたが、ピッパ・エアリック他の『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』(原題「My Octopus Teacher」)が受賞しました。受賞作はスランプに陥っていた映像作家クレイグ・フォスターが偶然出会った1匹のタコとの1年間にわたる交流を軸にしたドキュメンタリー。海中の映像美に止まらずタコの未知の生態への興味、疎遠だった息子との共同作業を通してフォスター自身が再生していくドラマが、会員の心を打ったのかもしれません。
★Netflixは7冠を獲得、うち短編アニメーション賞『愛してるって言っておくね』もシンプルだが余韻が残る作品だった。他『Mank(マンク)』の美術・撮影、『マ・レイニーのブラックボトム』は、上記のように主演男優賞は逃しましたが、メイクアップ&ヘアー賞と衣装デザイン賞の2冠、前者の受賞者セルヒオ・ロペス=リベラはスペイン出身、二番目のオスカー受賞者となりました。最初のオスカー賞は、ギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(06)のダビ・マルティ、モンセ・リベの二人でした。
(受賞者の3人、右端セルヒオ・ロペス=リベラ)
★国際長編映画賞は、トマス・ヴィンターベアの「Druk」(デンマーク)、英題のカタカナ起こし『アナザーラウンド』として新宿武蔵野館ほかの公開が決定しています。短編ドキュメンタリー賞では、『ラターシャに捧ぐ 記憶で綴る15年の生涯』をご紹介しましたが、受賞作はアンソニー・ジアッチーノの「Colette」(米国、24分)でした。ナチ占領下のフランス、75年間記憶を封印してきたコレット・マリン・キャサリンが、歴史を学ぶ学生ルーシーに説得されて過去の忌まわしい亡霊と向き合うことを決心する。当時レジスタンスとして共に戦った兄ジャン=ピエールの最期の地、ナチ強制収容所を訪れる。言語は仏語と独語ですが英語字幕入りYouTubeで鑑賞できます。
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