中堅と若手が競う主演女優賞*ゴヤ賞2020 ⑧ ― 2020年01月05日 11:16
予測が難しい主演女優賞――ベテランを追う若手の二人

(左から、ベレン・クエスタ、マルタ・ニエト、グレタ・フェルナンデス、ペネロペ・クルス)
★2020年が明けました。今年は1月中にガラ開催と早いのに未だ作品紹介が途中ですが、気分を変えてキャスト紹介から始めることにしました。4人の候補者のうち、本カテゴリーのノミネート及び受賞経験者は「Dolor y gloria」のペネロペ・クルス唯一人、他は初ノミネーションです。なかでグレタ・フェルナンデスが主演した「La hija de un ladrón」は未紹介作品ですが、簡単に触れますと、刑務所を出たり入ったりしている窃盗犯の父をもつ娘役、年の離れた弟と自身の赤ん坊の世話をして苦労する若い母親役、歯車が一つ狂うと不幸が連鎖する都会の断面が語られる。父親に実父エドゥアルド・フェルナンデスが扮していることでも話題になっている。
◎最優秀主演女優賞
ペネロペ・クルス 「Dolor y gloria」(ペドロ・アルモドバル)
〇「Dolor y gloria」に助演女優の該当者はいても主演女優はいないと考えておりますが、前者には久しぶりのアルモドバル作品出演となったベテラン女優フリエタ・セラノが控えており、クルス自身も久しぶりのアルモドバル作品、苦肉の策として主演にまわしたのではないでしょうか。ノミネーション常連の女優ですが受賞は、ゴヤ賞2009の『それでも恋するバルセロナ』(助演)を最後に受賞から遠ざかっています。本作での出番は少ないようですが彼女の演技を褒める批評家は多く好演していることは間違いない。監督自身の露出度が一番多いと言われる本作では、アルモドバルの分身をアントニオ・バンデラスが演じます。クルスは彼がまだ少年だった頃の母親役、晩年の母親をフリエタ・セラノが演じます。若くしてフランスのセザール栄誉賞、サンセバスチャン映画祭SSIFFドノスティア栄誉賞など受賞歴多数、国内外での活躍が際立っている。
*最近のキャリア紹介は、コチラ⇒2019年05月20日
*「Dolor y gloria」の記事は、コチラ⇒2019年04月22日

(ペネロペ・クルス、映画から)

(ドノスティア栄誉賞のトロフィーを手にしたペネロペ・クルス、SSIFF2019、9月28日)
ベレン・クエスタ 「La trinchera infinita」(アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、他)
〇ベレン・クエスタは、1984年セビーリャ生れの女優、マラガ育ちでマラガ高等演劇学校で演技を学んだ後、芸術コメディコース他で学びながら舞台女優としてスタート、TVシリーズ、映画の3本建てで活躍中である。映画の代表作品はラテンビート映画祭上映の、パコ・レオンのコメディ『KIKI~愛のトライ&エラー』(ゴヤ賞2017新人女優賞ノミネート)、ロス・ハビのミュージカル・コメディ『ホーリー・キャンプ!』(同2018助演女優賞ノミネート)、当ブログ紹介作品が代表作品です。主演女優賞は初ノミネーション、受賞すればゴヤ賞初受賞となります。他エミリオ・マルティネス=ラサロの『オーチョ・アペジードス・カタラーネス』(15 Netflix)にも出演しています。ゴヤ賞以外では、フェロス賞2017「TVシリーズ」部門の『パキータ・サラス』(シーズン1)で助演女優賞を受賞、2019年シーズン2ノミネート、今年2020年もシーズン3でノミネートされている。2012年からタマル・ノバスがパートナー、アメナバルの『海を飛ぶ夢』で主人公の甥に扮しゴヤ賞新人賞を受賞した若手です。
*「La trinchera infinita」の作品紹介は、コチラ⇒2019年12月20日


(フェロス賞のトロフィーを手にしたベレン・クエスタ、2017年)
マルタ・ニエト 「Madre」(ロドリゴ・ソロゴジェン)
〇1982年ムルシア生れ、2003年デビューの女優、またスペイン・ヨガの教師でもある。ゴヤ賞ノミネートは初めて。代表作品はアントニオ・バンデラスの監督第2作目『夏の雨』(ラテンビート2007)、ロドリゴ・ソロゴジェンの短編「Madre」(スペイン短編Fugaz賞2018女優賞受賞)、ベネチア映画祭2019「オリゾンティ」部門に出品された長編「Madre」で女優賞、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2019でも女優賞を受賞するなど、有力候補でしょうか。本作でゴヤ賞の他、フォルケ賞とフェロス賞2020にノミネートされています。TVシリーズでは「Hermanos y detectives」(2007~09)に脇役で出演している他、多数。ロドリゴ・ソロゴジェン監督がパートナーです。
*「Madre」の紹介記事は、コチラ⇒2019年12月26日

(銀獅子賞のトロフィーを手にしたマルタ・ニエト、ベネチア映画祭授賞式8月28日)
グレタ・フェルナンデス 「La hija de un ladrón」(ベレン・フネス)
〇グレタ・フェルナンデスは1995年バルセロナ生れの女優。サンセバスチャン映画祭2019で銀貝賞である女優賞を受賞している。父親が今回アメナバルの『戦争のさなかで』でミリャン・アストライ役で助演男優賞にノミネートされているエドゥアルド・フェルナンデス、既にゴヤ賞主演男優賞(2001、Fausto 5.0)を受賞しているので、グレタ受賞なら父娘で受賞となる。一番の若手だが子役時代を含めると芸歴はそこそこ長い。イサベル・コイシェの『エリサ&マルセラ』のマルセラ役、ラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』、イサキ・ラクエスタの『記憶の行方』、エステバン・クレスポの『禁じられた二人』、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』、など、Netflix配信が多いが字幕入りで観られる作品に出演している。
*主なキャリア紹介は、コチラ⇒2019年02月11日

(実の親子で父娘を演じた、映画から)

(銀貝賞のトロフィーを手にしたグレタ・フェルナンデス、SSIFF 2019授賞式9月28日)
ほぼ決まりの主演男優賞*ゴヤ賞2020 ⑨ ― 2020年01月06日 17:16
アントニオ・バンデラスVSカラ・エレハルデ

(左から、バンデラス、アントニオ・デ・ラ・トーレ、エレハルデ、ルイス・トサール)
★アルモドバルVSアメナバルという監督対決が、そのまま主演男優賞アントニオ・バンデラスVSカラ・エレハルデにもちこまれている。前者は海外での受賞歴に比してゴヤ賞は、ゴヤ賞2015栄誉賞を受賞しただけである。ハリウッド時代が長いこともあり、帰国後主演したアルモドバルの『私が、生きる肌』(11)でもノミネーションに終わっている。「Dolor y gloria」がカンヌ映画祭2019にノミネートされ、バンデラスは男優賞を受賞している。後者はスペイン映画史上最高額の5600万ユーロという破格の興行収益を上げたエミリオ・マルティネス=ラサロのコメディ「Ocho apellidos vascos」で2度目の助演男優賞を受賞している。
★アントニオ・デ・ラ・トーレは昨年、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」で宿願の主演男優賞を受賞しており、今回体重を15キロ増やして臨んだ「La trinchera infinita」ではあるが、連続受賞はないと予想します。残るルイス・トサールも長い下積み生活を乗りこえて、2004年イシアル・ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』、続く2010年ダニエル・モンソンの『プリズン211』のマラ・マードレ役で主演男優賞を受賞している。今回パコ・プラサのスリラー「Quien a hierro mata」がメイン・カテゴリーにノミネートされていないこともあり、若干分が悪いのではないか。
◎最優秀主演男優賞
アントニオ・バンデラス 「Dolor y gloria」 監督ペドロ・アルモドバル
〇アントニオ・バンデラス(マラガ1960)俳優、監督、製作者。ゴヤ賞2015栄誉賞のほか、1年に1人選ばれる国民賞の映画部門、スペイン映画国民賞を2017年に受賞している。ゴヤ賞以上に格上の映画賞である。キャリアについては以下の記事にワープして下さい。
*ゴヤ栄誉賞受賞についての記事は、コチラ⇒2014年11月05日/2015年02月15日
*スペイン映画国民賞についての記事は、コチラ⇒2017年09月28日

(映画「Dolor y gloria」から)

(カンヌ映画祭2019男優賞のトロフィーを手にしたバンデラス)
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「La trinchera infinita」 監督アイトル・アレギ、他
〇アントニオ・デ・ラ・トーレ(マラガ1968)は俳優、ジャーナリスト。ゴヤ賞関連ではダニエル・サンチェス・アレバロの長編デビュー作『漆黒のような深い青』(06)で助演男優賞を受賞して以来、毎年のように主演か助演にノミネートされるが縁遠く、昨年やっとロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」で主演男優賞を受賞した。今回の「La trinchera infinita」では、フォルケ賞とフェロス賞にノミネートされているが、多分ないと予想します。
*主なキャリア紹介は、コチラ⇒2018年08月27日

(映画「La trinchera infinita」から)

(主演男優賞のトロフィーを手にしたデ・ラ・トーレ、ゴヤ賞2019ガラ)
カラ・エレハルデ 「Mientras dure la guerra」(『戦争のさなかで』) 監督アレハンドロ・アメナバル
〇カラ・エレハルデ(バスク州ビトリア1960)は、俳優、脚本家、監督。ゴヤ賞絡みでは、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(『雨さえも―ボリビアの熱い一日』)でゴヤ賞2011助演男優賞を受賞、エミリオ・マルティネス=ラサロのコメディ「Ocho apellidos vascos」(14)で、2度目の助演男優賞を受賞している。脇役が多いので主演男優賞は初ノミネートです。
*主なキャリア紹介は、コチラ⇒2015年01月28日

(ミゲル・デ・ウナムノを演じたエレハルデ)

(助演男優賞のトロフィーを手にしたエレハルデ、ゴヤ賞2015ガラ)
ルイス・トサール 「Quien a hierro mata」 監督パコ・プラサ
〇ルイス・トサール(ルゴ1971)、ゴヤ賞関連では上述の他、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』(99)で新人男優賞ノミネートを皮切りに、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)で助演男優賞受賞、ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)、ジャウマ・バラゲロの『スリーピングタイト~』(11)、ダニー・デ・ラ・トーレの『暴走車ランナウェイ・カー』(15)の3作が主演男優賞にノミネートされており、シリアス・ドラマ、ホラー、スリラー、コメディと何でもこなすカメレオン俳優らしく比較的恵まれている。今回の映画はガリシアを舞台にしたスリラー仕立ての復讐劇、というわけで英題は「Eye for an Eye」です。他に彼が主演したアリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』や、ベニト・サンブラノ&レモン兄弟の「Intemperie」もノミネーションされているので、3グループをぐるぐる駆け回らなくてはならない。2015年からチリ出身の女優マリア・ルイサ・マジョールがパートナー、マラ・マードレも昨年2児の父親になった。
*最近のキャリア紹介は、コチラ⇒2019年12月17日

(介護士に扮したルイス・トサール、映画「Quien a hierro mata」から)

(『プリズン211』で2度目の主演男優賞のトロフィーを手にしたトサール、ゴヤ賞2010)
★2020年のフェロス賞(1月16日)には4人揃ってノミネートされ、ホセ・マリア・フォルケ賞(1月11日)にはルイス・トサール以外ノミネートされています。一人に集中するのかバラけるのか、間もなくです。
フリエタ・セラノが助演女優賞にノミネート*ゴヤ賞2020 ⑩ ― 2020年01月07日 18:13
パコ・カベサスの「Adiós」から2人がノミネート

(候補者がマドリードに参集したゴヤの夕べ、「Adiós」クルーのモナ・マルティネス、
ナタリア・デ・モリーナ、新人女優賞ノミネートのピラール・ゴメス、2019年12月17日)
★ゴールデン・グローブ賞の結果発表があり、スペイン各紙も写真入りで大きく報道していました。外国語映画部門にノミネートされていたアルモドバルの「Dolor y gloria」は、カンヌ同様ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(1月10日公開)に敗れました。監督もガラ当日に馳せつけましたが残念でした。しかし本番のアカデミー賞が残っておりますが(まだノミネートが確定していない)最近ではこのカテゴリーは一致する傾向にあるからダメかな。またドラマ部門の男優賞ノミネートのバンデラスは、今度は『ジョーカー』のホアキン・フェニックスに敗れました。

(ガラに駆けつけたアルモドバル監督、2020年1月5日)
★気を取り直して。「Dolor y gloria」にかつてのアルモドバル映画の常連フリエタ・セラノがノミネートされました。1980年のデビュー作『ペピ、ルシ、ボンと他のフツーの女たち』以来、1983年『バチ当たり修道院の最期』、1986年『マタドール』、1988年『神経衰弱ぎりぎりの女たち』から1989年の『アタメ』まで出演している。今回は久々のアルモドバル映画の出演となります。アメナバルの『戦争のさなかで』の中でサラマンカ市長夫人を演じたナタリエ・ポサ、パコ・カベサス(セビーリャ1976)のスリラー「Adiós」(未紹介)から、モナ・マルティネス、ナタリア・デ・モリーナが揃ってノミネートされていますが、予想は難しい。
◎最優秀賞助演女優賞
ナタリア・デ・モリーナ 映画「Adiós」 監督パコ・カベサス
〇ナタリア・デ・モリーナ(ハエン近郊のリナレス1990)は、非常に強い星のもとに生まれた女優。作品は未紹介ですが、セビーリャを舞台にしたドラッグ絡みの殺人劇のようです。主演はマリオ・カサスだが、運悪くアキがなくついてなかった。映画の評価が分かれていることも損しているようです。ゴヤ賞関連では、ダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』でデビューするや2014新人女優賞、フアン・ミゲル・デル・カスティジョの「Techo y comida」のシングルマザー役で2016主演女優賞と立て続けにゴヤ胸像を手にしたシンデレラガール。他にパコ・レオンの『KIKI~愛のトライ&エラー』(16)、カルロス・ベルムトの『シークレット・ボイス』(18)、イサベル・コイシェの『エリサ&マルセラ』(19)では男装姿をお披露目した。当ブログでは何回も登場してもらっている。独身にアディオスして音楽プロデューサーのヘスス・アモレスがパートナーです。
*「Techo y comida」&主なキャリア紹介は、コチラ⇒2016年01月16日

(マリオ・カサスと、映画「Adiós」から)

(涙が止まらなかった主演女優賞受賞のナタリア・デ・モリーナ、ゴヤ賞2016)
モナ・マルティネス 映画「Adiós」 監督パコ・カベサス
〇モナ・マルティネス(マラガ)は、2002年当時係争中だった事件をTVミニシリーズ化して話題になったベニト・サンブラノの「Padre coraje」でデビュー、ゴヤ賞受賞歴はない。サンブラノ監督が「Intemperie」で脚色賞他にノミネートされているが、本作にも出演している。「Adiós」が初ノミネーションだが、フェロス賞助演女優賞にもノミネートされている。他に当ブログ紹介作品としてアンドレア・ハウリエタの「Ana de día」(18)やロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」出演がある。作品についてはナタリア・デ・モリーナの項を参照、主人公の7歳になる娘の死が中心にあり、涙なしには見られない作品とか。


(モナ・マルティネスとマリオ・カサス、映画「Adiós」から)
フリエタ・セラノ 映画「Dolor y gloria」 監督ペドロ・アルモドバル
〇フリエタ・セラノ(バルセロナ1933)は、1964年TVシリーズでデビュー。ゴヤ賞関連では受賞は一度もなく、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』とグラシア・ケレヘタの「Cuando vuelvas a mi lado」(99)で2回助演にノミネートされている。上記のアルモドバル作品以外ではハイメ・デ・アルミニャンの「Mi querida señorita」(72)、TVシリーズ「Teatro de siempre」(1967~71)でフォトグラマ・デ・プラタ賞を受賞している。また『マタドール』ではファンタスポルト2005の国際ファンタジア映画賞、2014年第6回ガウディ賞栄誉賞、マラガ映画祭特別賞の一つ銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」を2015年に受賞している。デビュー以来生涯現役を続けているが、86歳という年齢から最後のチャンスかもしれない。

(バンデラス扮する主人公サルバドールの母親役、映画から)

(ガウディ栄誉賞のトロフィーを手にしたセラノ、第6回ガウディ賞2014授賞式)
ナタリエ・ポサ 映画「Mientras dure la guerra」(『戦争のさなかで』)
監督アレハンドロ・アメナバル
〇ナタリエ・ポサ(マドリード1972)は、ゴヤ賞関連ではノミネートに終わることが多かったが、2018年リノ・エスカレラの「No sé decir adiós」で主演女優賞を受賞している。本作はスペイン映画祭2019で『さよならが言えなくて』の邦題で上映された。他では脇役だが、アルモドバルの『ジュリエッタ』、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』などの公開作品に出演している。
*キャリア紹介は、コチラ⇒2017年06月25日

(芯の強いサラマンカ市長夫人に扮したナタリエ・ポサ、映画から)

(主演女優賞のトロフィーを手にしたナタリエ・ポサ、ゴヤ賞2018授賞式)
ベテランと中堅入りまじり混戦模様の助演男優賞*ゴヤ賞2020 ⑪ ― 2020年01月11日 07:10
難しい候補者選び――「Dolor y gloria」から2人ノミネート

(ライバル同士になったスバラグリアとエチェアンディア、スペイン・プレミア3月13日)
★ベテランのエドゥアルド・フェルナンデスは、娘のグレタと親子を演じたベレン・フネスの「La hija de un ladrón」では、主役の常習窃盗犯に扮した。主演男優賞からは漏れたがアメナバルの『戦争のさなかで』で、ウナムノを弾劾するホセ・ミリャン・アストライ役で助演にまわった。2002年、イシドロ・オルティス他の「Fausto 5.0」で主演男優賞を取っている。アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』では、サンセバスチャン映画祭2016で銀貝賞男優賞受賞だったのでゴヤも取るかと予想したが外れた。『イン・ザ・シティ』(03)で助演受賞以来、主演・助演ノミネーションの山を築くだけで賞からは遠ざかっている。
★アルモドバルの「Dolor y gloria」から、アルゼンチン出身ながらスペインでの出演が多いレオナルド・スバラグリアと、アシエル・エチェアンディアが揃ってノミネートされた。前者は甘いマスクから日本でもファンが多いと思いますが、後者は公開作品がないことから馴染みがないのではないでしょうか。パウラ・オルティスの「La novia」で主演男優賞にノミネートされている。アルモドバルのイマイチだった『抱擁のかけら』(09)でボーイ役として参加したそうですが、編集の段階でボツになりクレジットされなかった。というわけで今回は2度目のオファーでした。残るベニト・サンブラノの「Intemperie」のルイス・カジェホは、ゴヤ賞関連ではノミネートは今回を含めて3回、まだ受賞はない。Netflix配信されたラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』(16、『静かなる復讐』DVD)で主演男優賞にノミネートされたが受賞には至らなかった。
◎最優秀賞助演男優賞
アシエル・エチェアンディア 映画「Dolor y gloria」監督ペドロ・アルモドバル
〇アシエル・エチェアンディア(ビルバオ1975)は、俳優、舞台、歌手。バスク出身だが若くしてマドリードに移住、1995年TVシリーズで俳優デビュー。ゴヤ賞関連では、パウラ・オルティスの「La novia」で主演男優賞にノミネートされている。映画、TVに並行して舞台でも活躍、演劇界の最高賞マックス賞2012主演男優賞を「La avería」で、俳優ユニオン賞2011も受賞している。人気TVシリーズ「Velvet」(13~15)の第2シーズンで同じ俳優ユニオン賞2015助演男優賞を受賞するなどしている。アルフォンソ・アルバセテ他の群集劇『セックスとパーティーと嘘』(ラテンビート2009)、当ブログではフアンフェル・アンドレス他の『トガリネズミの巣穴』(同2014)やフリオ・メデムの『あなたのママになるために』(14)をアップしています。2005年ごろ出会ったホセ・ルイス・ウエルタスが別れていなければパートナー。

(バンデラスとエチェアンディア、映画「Dolor y gloria」から)

(パウラ・オルティスの「La novia」で主演男優賞ノミネート、ゴヤ賞2016授賞式)
レオナルド・スバラグリア 映画「Dolor y gloria」監督ペドロ・アルモドバル
〇レオナルド・スバラグリア(ブエノスアイレス1970)は、アルゼンチン俳優ながらフアン・カルロス・フレスナディジョの『10億分の1の男』でゴヤ賞2002新人男優賞受賞、2007助演男優賞にマヌエル・ウエルガが実話をもとにして映画化した『サルバドールの朝』でノミネートされている。スペインとの繋がりはマルセロ・ピニェイロの実話に基づいた「Plata quemada」(00、アルゼンチン・スペイン他)に出演したこと、当時人気絶頂だったエドゥアルド・ノリエガとタッグを組んで悲劇の銀行強盗犯を演じた。2001年東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で『逃走のレクイエム』の邦題で上映され、第1回ラテンビート2004では『炎のレクイエム』と改題されて再上映された。本作の成功がきっかけになりスペインに軸足をおくようになった。翌年『10億分の1の男』(01)、マリア・リポールの『ユートピア』(03)、ビセンテ・アランダの『カルメン』(03)、『サルバドールの朝』(06)とスペイン映画が続いた。公開作品ではダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14、スール賞ノミネーション)、イスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』(17、銀のコンドル賞受賞)など故国アルゼンチンの映画賞、銀のコンドル賞、マルティン・フィエロ賞など受賞、ノミネーションはかなりの数にのぼる。Netflix配信作品(マルティン・オダラの『黒い雪』ほか多数)を含めるとかなりの作品が見られる。マラガ映画祭2017の最高賞「マラガ賞」を受賞して海岸沿いの遊歩道に手形入りの記念碑を建ててもらっている。
*『人生スイッチ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月29日
*『キリング・ファミリー 殺し合う一家』の紹介記事は、コチラ⇒2017年02月20日
*マラガ映画祭2017マラガ賞&キャリア紹介は、コチラ⇒2017年03月13日

(レオナルド・スバラグリア、映画「Dolor y gloria」から)

(マラガ賞の記念碑の前で両手を広げるスバラグリア、2017年3月)
ルイス・カジェホ 映画「Intemperie」 監督ベニト・サンブラノ
〇ルイス・カジェホ(カイェホもあり、セゴビア1970)は、1998年TVシリーズでデビュー。ゴヤ賞関連ではフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「Princesas」で2006年新人、上記したようにラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』で2017主演(俳優ユニオンは受賞)、今回の悪役農園主役で助演とノミネートは3回です。比較的遅いデビューの割には脇役が多いせいか出演本数はTVシリーズ、短編を含めると114作になる。なかでアントニオ・ムニョス・デ・メサの「Amigos de Jesús」(07)では主役を演じている。オスカル・サントスの『命の相続人』(ラテンビート2010)、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』(同2015)、パコ・レオンの『KIKI~愛のトライ&エラー』(同2016)、他にアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』(同2016)、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナのヒット作『ヤシの木に降る雪』にも出演している。他にセルヒオ・バレホンのデビュー作、コメディ「Jefe」(18)では清掃員フアナ・アコスタに翻弄される社長役で主演している。コメディを得意としているが、演技の幅は広い。
*『物静かな男の復讐』の主な紹介記事は、コチラ⇒2017年01月09日

(少年を追う農園主を演じたルイス・カジェホ、映画「Intemperie」から)

(主演男優賞にノミネートされたカジェホ、ゴヤ賞2017授賞式)
エドゥアルド・フェルナンデス 映画『戦争のさなかで』 監督アレハンドロ・アメナバル
〇エドゥアルド・フェルナンデス(バルセロナ1964)は、俳優。上記した以外に、主演・助演ノミネーションの山というのを列記すると、2000新人賞マリアノ・バロッソ「Los lobos de Washington」、2002助演ビガス・ルナ『マルティナは海』、2006主演マルセロ・ピニェイロ「Metodo」、2011助演アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『ビューティフル』、2015助演ダニエル・モンソン『エル・ニーニョ』(ザ・トランスポーター)、2019助演アスガル・ファルハディ『誰もがそれを知っている』などが主なものであるが、ゴヤ賞以外のガウディ賞、マラガ賞、サン・ジョルディ賞などに広げると書ききれない。バジャドリード映画祭2018栄誉賞を受賞している。
*『エル・ニーニョ』の主な紹介記事は、コチラ⇒2014年11月03日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月24日
*『誰もがそれを知っている』の主な紹介記事は、コチラ⇒2018年05月08日

(ホセ・ミリャン・アストライに扮したフェルナンデス、映画から)

(銀貝賞のトロフィーを手にしたフェルナンデス、サンセバスチャン映画祭2016授賞式)
第25回ホセ・マリア・フォルケ賞2020*結果発表 ― 2020年01月13日 14:37
最優秀作品賞はバスクの監督トリオの「La trinchera infinita」に!

(グレタ・フェルナンデス、アントニオ・レシネス、イツィアル・カストロ、第25回ガラ)
★1月11日、マドリード市庁舎IFEMAのイベント会場(1800人収容)で第25回ホセ・マリア・フォルケ賞の授賞式がありました。総合司会は今回3回目となるエレナ・サンチェスとサンティアゴ・セグラ。ホセ・マリア・フォルケの生れ故郷サラゴサ市で、2年連続開催されていたガラもマドリードに戻ってきました。ノミネーションを受けた人々、トロフィーのプレゼンターたちは勿論ですが、マドリードとあって多くのシネアストたちが赤絨毯を踏みました。ゴヤ賞の前哨戦といわれていた本賞も、フォルケ賞が始まってからはその役目は終わったと判断したのか、独自の視点で授賞者を選んでいるようです。監督のようには光の射さない縁の下の力持ち、製作者集団を讃える賞がその始り、従って監督賞はなく、現在ある俳優賞も後に追加されたものでした。

(息の合った総合司会者、エレナ・サンチェスとサンティアゴ・セグラ)
★フォルケ賞の選考母体はEGEDA(オーディオビジュアル著作権管理協会)で、会長はエンリケ・セレソです。会長がEGEDA金のメダルという栄誉賞のプレゼンターを務めます。今年は比類ないシネアストであるゴンサロ・スアレス(オビエド1934、85歳)が受賞しました。
*フォルケ賞2020のノミネーション記事は、コチラ⇒2019年11月27日

(EGEDA金のメダルを手にしたゴンサロ・スアレス)
第25回ホセ・マリア・フォルケ賞結果発表(*ゴチック体が受賞)
◎作品賞(長編ドラマ&アニメーション)
Dolor y gloria 監督ペドロ・アルモドバル
*La trinchera infinita 監督ジョン・ガラーニョ、アイトル・アレギ、ホセ・マリ・ゴエナガ
Mientras dure la guerra (『戦争のさなかで』)監督アレハンドロ・アメナバル
O que arde (『ファイアー・ウィル・カム』)監督オリベル・ラシェ

(プレゼンターのグラシア・ケレヘタ監督と女優のパス・ベガ)

(ジョン・ガラーニョ、アイトル・アレギ、ホセ・マリ・ゴエナガ)
◎女優賞
ベレン・クエスタ(La trinchera infinita)
*マルタ・ニエト(Madre)監督ロドリゴ・ソロゴイェン
グレタ・フェルナンデス(La hija de un ladlón)監督ベレン・フネス
ピラール・カストロ(Ventajas de viajar en tren)『列車旅行のすすめ』 同アリッツ・モレノ


(赤絨毯に現れたマルタ・ニエトとロドリゴ・ソロゴジェンのカップル)
◎男優賞
*アントニオ・バンデラス(Dolor y gloria)
アントニオ・デ・ラ・トーレ(La trinchera infinita)
カラ・エレハルデ(Mientras dure la guerra)『戦争のさなかで』
Enric Auquer(Quien a hierro mata) 監督パコ・プラサ
〇アントニオ・バンデラスは欠席。代理として製作者のアグスティン・アルモドバルが受け取りました。プレゼンターはナタリア・デ・モリーナとマルタ・アサス。
◎ラテンアメリカ映画賞
*La odisea de los giles(アルゼンチン) 監督セバスティアン・ボレンステインBorensztein
Monos(コロンビア)『猿』 監督アレハンドロ・ランデス
Araña(チリ)『蜘蛛』 監督アンドレス・ウッド
La camarista(メキシコ) 監督リラ・アビレス
〇受賞作は、ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にもノミネートされています。 リカルド・ダリンとチノ・ダリンが共演している。監督は長年リカルドを主役にした映画を撮っていることで有名)

(右側が製作者のフェルナンド・ボバイラ、『戦争のさなかで』もプロデュースしている)
◎ Cine en Educación y Valores 賞
Abuelos 監督サンティアゴ・レケホ
Vivir dos veces 監督マリア・リポル
Elisa y Marcela 『エリサ&マルセラ』 監督イサベル・コイシェ (Netflix邦題)
*Diecisiete 『SEVENTEENセブンティーン』監督ダニエル・サンチェス=アレバロ(Netflix邦題)
〇アスペルガー障害のある弟(ビエル・モントロ)と、彼に振り回される兄との再生を語るロードムービー『SEVENTEENセブンティーン』が受賞、前回の受賞作品であるハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(劇場公開中)に出演した視覚障害者のヘスス・ビダルがプレゼンターでした。
*『SEVENTEENセブンティーン』の紹介記事は、コチラ⇒2019年10月29日

(サンチェス=アレバロ監督、主役のビエル・モントロ、プレゼンターはヘスス・ビダル)

(マドリード市長ホセ・ルイス・マルティネス=アルメイダ、ヘスス・ビダル、
マドリード共同体委員長イサベル・ディアス・アジュソ)
◎長編ドキュメンタリー賞
Ara malikian: una vida entre las cuerdas 監督ナタ・モレノ
〇マドリード在住のレバノン人バイオリニストのアラ・マリキアンを主軸に国境を越えてきた移民たちの人生が語られる。
〇ゴヤ賞にもノミネートされています。

(トロフィーを手にしたナタ・モレノ監督とアラ・マリキアン)
◎短編映画賞
El nadador 監督パブロ・バルセ
〇ゴヤ賞にもノミネートされています。

(トロフィーを手にした中央がパブロ・バルセ監督)
◎ EGEDA金のメダル
〇ゴンサロ・スアレス(オビエド1934年)は、脚本家、脚本家。スペインの監督としては特異な地位をしめているスアレス監督ですが、御年85歳になっても現役です。長編デビューは1969年のコメディ・スリラー「Ditirambo」で決して笑わない風変わりな英雄ディティランボを演じた。代表作は、1974年のレオポルド・アラス筆名クラリンの同名小説「La Regenta」の映画化、1985年TVシリーズ「Los pazos de Ulloa」、「Remando al viento」がサンセバスチャン映画祭1988で監督賞を受賞(撮影監督の弟カルロスも撮影賞を受賞)、第3回ゴヤ賞1989でも監督賞を受賞した。「Don Juan en los infiernos」(91)、ハビエル・バルデム、スアレス映画の常連カルメロ・ゴメスやチャロ・ロペスが出演した話題作「El detective y la muerute」(94)、2000年マリベル・ベルドゥ、カルメロ・ゴメス、アントニオ・レシネスなどを起用した「El portero」などがある。
〇2007年の「Oviedo Express」は、クラリンの小説La Regentaを舞台化した演劇集団の巡業を描いたロマンス・コメディ。カルメロ・ゴメス、アイタナ・サンチェス=ヒホン、バルバラ・ゴエナガ、ナイワ・ニムリ、マリベル・ベルドゥ、ホルヘ・サンスなど豪華キャストだった。ゴヤ賞2008にノミネートされたが無冠だった。これを最後に引退したのかと思っていたら、昨年アニメーション「El sueño de Malinche」を発表、周囲を驚かせた。アステカ帝国崩壊を舞台にしたアニメ、マリンチェにマリアン・アルバレス、コルテス総督にサンティアゴ・メレンデス、モクテスマ王には数年前引退宣言をしたはずのカルメロ・ゴメスがボイスを担当していたのでした。
〇撮影監督のカルロス・スアレス(オビエド1946)は実弟、二人三脚で映画を製作していた。しかし兄より一足先に昨年10月に旅立ちました。スペインで最も愛されている監督ガルシア・ベルランガの撮影監督でもありました。弟のことを思い出しながら製作者について「一番いいのは私のことなど思い出さなくてもいいと考えているが、私は製作者のことを常に思い出している」~「製作は非常に困難な仕事で、とても尊敬している」とも。製作者に光を当てる EGEDA金のメダルを受賞できたことは嬉しいに違いない。会長エンリケ・セレソがスペイン映画の保護に果たしている努力を感謝したようです。

(エンリケ・セレソとゴンサロ・スアレス、フォルケ賞2020授賞式で)
★以前は地味だった授賞式も年々華やかになってきました。以下、こんな衣装のシネアストが赤絨毯を踏みました。お楽しみください。

(アンドレス・ウッド『蜘蛛』の主役マリア・バルベルデ)

(女優賞ノミネートのベレン・クエスタ)

(女優賞ノミネートのグレタ・フェルナンデス)

(ベストドレッサーのミシェル・ジェンナー、ディオールのデザイン)

(白いドレスが評判だったバネッサ・ロメロ)

(男優賞プレゼンターだったナタリア・デ・モリーナ、パンツルックは珍しい)

(いつも出席する律義なアレハンドロ・アメナバル)

(男優賞初ノミネートのEnric Auquer)
近未来SF「El hoyo」*ゴヤ賞2020 ⑫ ― 2020年01月14日 14:31
「El hoyo」はシッチェス映画祭2019のグランプリ作品

★シネアスト紹介に時間が取られ作品紹介がストップしていました。ガルデル・ガステル=ウルティアのデビュー作「El hoyo」は、新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞の3カテゴリーにノミネートされました。タイトルの意味は地中に掘られたズバリ<穴>ですが、唯の穴ではなくエゴイズムの穴のようです。ホラー、SF、スリラーなどジャンル分けを拒否している風ですが一応近未来SFです。トロント映画祭ミッドナイト・マッドネス部門でワールドプレミア、観客賞受賞を皮切りに、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞の4冠を制覇した。ゴヤ賞の他、結果待ちのスペイン映画賞のうち、フェロス賞、ガウディ賞にもノミネートされています。Netflix配信決定の記事に接し、やれ嬉しやと思いきや、よく読むとアジア諸国は除外されているのでした。

(作品賞のトロフィーを手にした監督とスタッフ、シッチェス映画祭2019ガラ)
★ガルデル・ガステル=ウルティアは、1974年ビルバオ生れの監督、脚本家、製作者。カテゴリー新人監督賞で触れたように短編2作を撮っている。このカテゴリーには『列車旅行のすすめ』のアリッツ・モレノもいるので予想は難しいが彼もサンセバスティアン生れとバスク出身、ベレン・フネスとサルバドール・シモーがバルセロナだから、若いシネアストはマドリード派以外から輩出しているようだ。
★ガステル=ウルティア監督がシッチェス映画祭で語ったところによれば、構想から4年掛かったが、撮影には「6週間しかかけられなかった」と語っている。「この映画の目論見は、愛情をもって額面通り以上に観客を誘導することなんです。主人公ゴーレンが陥っている事柄にどうやって対処するか、私たちのエゴイズムや無関心を他人の苦しみのほうへ観客を誘導させたいと思っている。人間であることは、あくまで個人的な意見ですが、ある種不幸なことなのです。この映画は泣き続け求め続けるエゴのボールの誕生に抗して闘うことについて語っています」と監督。

(作品賞以下3つのトロフィーを手にしたガステル=ウルティア、シッチェスFF2019)
「El hoyo」(英題「The Platform」)
製作:Basque Films / Mr. Miyagi Films / Plataforma La Película AIE
監督:ガルデル・ガステル=ウルティア
脚本:ダビ・デソラ、ペドロ・リベロ
撮影:ジョン・D・ドミンゲス
音楽:アランサス・カジェハ
編集:エレナ・ルイス、アリッツ・スビリャガ
美術:アセギニェ・ウリゴイティア
特殊効果&視覚効果:イニャキ・マダリアガ、マリオ・カンポイ、イレネ・リオ
製作者:カルロス・フアレス、ラケル・ぺレア、アンヘレス・エルナンデス、他
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、SF、ファンタジー・スリラー、ホラー、94分、公開スペイン11月8日、映画館上映後Netflix配信が決定(アジアは除く)
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019「ミッドナイト・マッドネス部門」でワールドプレミア、観客賞受賞、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞受賞、トリノ映画祭2019脚本賞受賞。以下はノミネーション、ゴヤ賞2020新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞、フェロス賞2020作品賞・監督賞・脚本賞・助演女優賞(アントニア・サン・フアン)、予告編賞(ラウル・ロペス)、ポスター賞(エドゥアルド・ガルシア)、ガウディ賞2020脚本賞・視覚効果賞・作品賞(カタルーニャ語以外部門)など。
キャスト:イバン・マサゲー(ゴーレン)、ソリオン・エギレオル(トリマガシ)、アントニア・サン・フアン(イモギリ)、エミリオ・ブアレ(バアラト)、アレクサンドラ・マサングカイ(ミハル)、マリオ・パルド(バアラトの友人)、エリック・ゴーデ(ブランバング氏)、ほか囚人、レストラン支配人、料理人など多数
ストーリー:近未来のある刑務所舞台、一人の男ゴーレンが真ん中に巨大な穴が開いているコンクリートの部屋で目覚めると、見知らぬ男が一緒だった。ベテランの囚人トリマガシである。地下に掘られた穴は垂直に何階にも分割され、ここはレベル18のようだ。床は階下の天井であり、天井は上階の床でもある。レベル0の居住者が社会的強者、彼らが食べ残した料理が順々に下りてくるが、止まっているのは2分だけ、猛スピードで食べなくてはならない。自分のレベルまで毎日ご馳走が下りてくることは期待できないからスピードが求められる。運次第でレベルを変えることもできるが、個々の違いを乗り越えて団結しなければ、今や正気をたもつことはできない。社会的不平等とエゴイズムむき出しの不正行為、団結と連帯が語られる。

エゴイズムの穴――社会的不平等についての薄暗いメタファー
★インパクトのある予告編を見ただけで食欲が失せてしまうでしょうか。かなり政治的なメッセージが読み取れます。近未来がバラ色でないことは判っているが、今より富の不正な分配が進み、社会的不平等が促進されるとするなら、ばらばらに分断された個人のミッションは何か。最下位が見えない分割されたコンパートメントは、閉所恐怖症に陥りかねない。カナダのヴィンチェンゾ・ナタリが国際映画祭で数々の作品・監督賞を受賞したSFスリラー「Cube」(97『キューブ』)を思い起こさせるようなシーンが頻出するようです。本作もシッチェス映画祭1998の作品賞を受賞しています。本邦では公開後テレビ放映(吹替)もされた。

(主役イバン・マサゲーとソリオン・エギレオル、シッチェス映画祭のフォトコール)

(料理を貪り食う同階の住人トリガマシ、映画から)
★イバン・マサゲー(バルセロナ1976)は、2000年TVシリーズでデビューした俳優。ゴヤ賞関連ではノミネーションもありません。しかしTVシリーズでは主役を演じるほど人気がある。ギレルモ・デル・トロが「批評家からも観客からも受け入れられた初めての作品」と語った『パンズ・ラビリンス』(06)でセルジ・ロペス扮する冷酷無比なビダル大尉に抵抗するマキの兵士エル・タルタ役で出演している。その特徴ある鼻ですぐ分かる。他にダビ&アレックス・パストル兄弟のSFスリラー『ラスト・デイズ』(13)でホセ・コロナドやキム・グティエレスと共演している。TVシリーズのコメディ「Gym Tony」(14~16回)では、下町のジムのオーナー、トニー役でお茶の間の人気者になった。

(ゴーレン役イバン・マサゲー、映画から)

(エル・タルタ役のイバン・マサゲーとセルジ・ロペス、『パンズ・ラビリンス』から)
★アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)で、女性に性転換した男性を演じて多くのファンの心を掴んだ、アントニア・サン・フアンが出演する。1961年グランカナリア島ラス・パルマス生れの女優、監督、脚本家。2本の長編、5本のショートを監督している。うち2005年のディエゴ・ポスティゴと共同で撮り、自身も主演した「La China」(20分)がNYシティ短編映画祭(外国語映画部門)作品賞、パルマ・スプリング短編映画祭で審査員賞を受賞したほか、メディナ映画祭では女優賞を受賞した。ゴヤ賞関連では『オール・アバウト・マイ・マザー』で新人賞にノミネートされ、俳優ユニオンでは助演女優賞を受賞している。劇場公開作品では、ラモン・サラサールの『靴に恋して』(02)がある。他イバン・マサゲー主演のTVシリーズ「Gym Tony」(14~15、110話)に出演して、ジムの受付、メンテナンス責任者、同時に清掃員と三面六臂の大活躍。非常に頭の回転の速い女優で、ゴヤ賞の総合司会者を務めたことがある。

(イモギリ役のアントニア・サン・フアン)

(名演技を披露したアントニア、『オール・アバウト・マイ・マザー』から)

★オリジナル脚本賞ノミネーションのダビ・デソラ(バルセロナ1971)とペドロ・リベロ(ビルバオ1969)のキャリアは、オリジナル脚本賞でご紹介しています。
*カテゴリー「オリジナル脚本賞」の記事は、コチラ⇒2019年12月26日
ダリン父子が初共演の「La odisea de los giles」*ゴヤ賞2020 ⑬」 ― 2020年01月18日 17:25
イベロアメリカ映画賞にアルゼンチンの「La odisea de los giles」が有力

★アルゼンチン興行成績史上初という快挙を遂げたセバスティアン・ボレンステインの「La odisea de los giles」は、2019年8月15日公開以来過去の記録を更新し続けている。しかしアドベンチャー・コメディ、スリラーなら何でも成功するというわけではない。アルゼンチン人なら誰一人として忘れることができない2001年12月23日の<デフォルト>宣言に始まる<コラリート>を時代背景にしているからです。世界を震撼させた無責任国家の破産を舞台にして、煮え湯を飲まされた住民が反旗を翻す物語、それをリカルド&チノのダリン父子が初共演、ベテランのルイス・ブランドニやリタ・コルテセを絡ませているから、何はともあれ映画館に足を運ばねばならない。第1週380館でスタートしたが、12月半ばには482館、180万枚のチケットが売れたそうです。地元紙は2018年のルイス・オルテガの「El Angel」(『永遠に僕のもの』354館)をあっさり抜いたと報じている。因みにコラリートとは預金封鎖のことで、銀行に預けた自分のお金が引き出せないということです。

(現地入りしたダリン父子とブランドニ、サンセバスチャン映画祭2019フォトコールから)
★個人的には、アルゼンチン国民ほど近隣諸国から嫌われている国はないと考えていますが、このデフォルトによって中間層が貧困層に転落、それは国民の60%近くに及んだという。20世紀初頭には「南米のパリ」ともてはやされたブエノスアイレスも、夜中にゴミあさりをする人たちで、塵一つ落ちていない清潔な街になったと皮肉られた。アルゼンチン経済立て直しと称して、1990年にメネム政権が打ち出した1弗=1ペソ政策は見た目には成功しているかに思われたが、所詮錯覚に過ぎず、厚化粧が剥げれば経済だけでなく政治も社会も三つ巴になってデフォルトに直進した。相続・贈与税がそもそもなく、累進課税制度もないから、富める者はますます富み、貧しい人々はますます貧しくなる構図があり、自分さえよければよいという風潮が蔓延している。見た目と実態がこれほど乖離している国家も珍しい。そういう国で起きた騙されやすいオメデタイ人々が起こしたリベンジ・アドベンチャーです。
「La odisea de los giles」(「Heroic Losers」)2019
製作:Mod Producciones / K&S Films / Kenva Films 協賛:TVE / Televisión Federa(Telefe)
監督:セバスティアン・ボレンステイン
脚本:セバスティアン・ボレンステイン、原作者エドゥアルド・サチェリ
音楽:フェデリコ・フシド
撮影:ロドリゴ(ロロ)・プルペイロ
編集:アレハンドロ・カリージョ・ペノビ
特殊効果:Vfx Boat
録音:ビクトリア・フランサン
製作者:フェルナンド・ボバイラ、ハビエル・ブライア、ミカエラ・ブジェ、レティシア・クリスティ、チノ・ダリン、リカルド・ダリン、シモン・デ・サンティアゴ、Axel Kuschevatzky、他
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2019年、アドベンチャー・コメディ、スリラー、116分、配給元ワーナーブラザーズ。第92回米アカデミー賞国際映画賞アルゼンチン代表作品(落選)。公開アルゼンチン8月15日、ウルグアイ同22日、パラグアイ同29日、以下ボリビア、チリ、コロンビア、ペルー、ブラジル、メキシコなどラテンアメリカ諸国、スペイン11月29日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019特別上映、サンセバスチャン映画祭2019正式出品、パルマ・スプリングス映画祭2020外国語映画部門上映、など。
キャスト:リカルド・ダリン(フェルミン・ペルラッシ)、ルイス・ブランドニ(友人アントニオ・フォンタナ)、チノ・ダリン(息子ロドリゴ)、ベロニカ・リナス(妻リディア)、ダニエル・アラオス(駅長ロロ・ベラウンデ)、カルロス・ベジョソ(爆発物取扱いのプロ、アタナシオ・メディナ)、リタ・コルテセ(実業家カルメン・ロルヒオ)、マルコ・アントニオ・カポニ(カルメンの息子エルナン)、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツJucubowicz(エラディオ&ホセ・ゴメス兄弟)、アンドレス・パラ(弁護士フォルトゥナト・マンツィ)、ルチアノ・カゾーCazaux(銀行家アルバラド)、アイリン・ザニノヴィチ(弁護士秘書フロレンシア)、他
ストーリー:2001年8月、アルシナはこれといった資源もない、アルゼンチン東部の寂れた小さな町である。元サッカー選手だったフェルミンと妻リディアは、廃業したサイロを購入して協同組合を立ち上げ、地域経済の活性化を図ろうと決意する。年長者の友人アントニオ・フォンタナ(自称アナーキストでバクーニンの信奉者)、駅長ロロ・ベラウンデ、実業家カルメン・ロルヒオ、爆発物のエキスパートのアタナシオ・メディナ、ゴメス兄弟などが資金を出し合ってグループ事業を計画する。フェルミンとリディアは、アルシナには銀行がなかったので、銀行家のアルバラドを信用して金庫ごと、近郊のビジャグラン市に運ぶことにする。一方銀行家は彼自身の銀行に金庫の中身を移し替えるよう二人を説得にかかる。果たしてマネーの行方は・・・? 破産させられた住民たちが彼ら独自の方法でリベンジできるチャンスを見つけるが、その方法とは? コラリートを生き延びるために隣人たちが乗り出したアドベンチャーが語られる。 (文責:管理人)
『瞳の奥の秘密』の原作者エドゥアルド・サチェリの小説の映画化
★原作はエドゥアルド・サチェリ(カステラル1967)の小説 ”La noche de la Usina”(2016年刊)の映画化、サチェリは2個目のオスカー像をアルゼンチンにもたらしたフアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)の原作者でもあります。大学では歴史学を専攻、現に高校や大学で教鞭を執っているから、時代背景などはきちんと裏が取れている。アルゼンチンの経済危機は1998年から2002年まで、多くの国が煮え湯を飲まされた。IMFの不手際も原因の一つだったから、日本も借金を棒引きして救済したのでした。彼らにしてみれば、返せる能力もない人にお金を貸すほうが悪いというわけで、ぼくたちは悪くない。
★セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963)は、2011年のヒット作「Un cuento Chino」(「Chinese Take-Away」)で、リカルド・ダリンの魅力を思う存分引き出した監督。あれはまさにリカルドのための映画だった。アルゼンチン映画アカデミーの作品・主演男優・助演女優賞(ムリエル・サンタ・アナ)を受賞、米アカデミー賞アルゼンチン代表作品にも選ばれた。更にゴヤ賞2012イベロアメリカ映画賞も受賞した。

★コメディとスリラーを交互に撮っている監督は、2015年にスリラー「Kóblic」(スペインとの合作)を撮った。マラガ映画祭2016に正式出品、1977年の軍事独裁政権を時代背景に軍務と良心の板挟みになるコブリック大佐にリカルド・ダリンが扮した。悪玉の警察署長を演じたオスカル・マルティネスが助演男優賞、撮影監督ロドリゴ・プルペイロが撮影賞を受賞した(プルペイロはロドリゴの愛称Roloロロでも表記される)。スペイン側からインマ・クエスタが出演しているが、なかなかマネできないアルゼンチン弁に苦労した。翌年9月『コブリック大佐の決断』でDVDも発売されている。当ブログでは、詳細な監督紹介と時代背景をアップしています。
*監督キャリア&フィルモグラフィーと「Kóblic」の記事は、コチラ⇒2016年04月30日

(『コブリック大佐の決断』撮影中のボレンステイン監督とリカルド・ダリン)
一癖も二癖もあるキャスト陣が大いに興行成績に寄与している?
★新作「La odisea de los giles」出演の顔ぶれを見ると、なかなか味のあるキャスティング、主演のダリン父子は何回か登場してもらっているので、さしあたり自称アナーキストでバクーニンのファンというフォンタナ役を演じたルイス・ブランドニから。1940年ブエノスアイレス州の港湾都市アベジャネダ生れ、俳優で政治家、アルゼンチン映画界の重鎮の一人、UCR(ユニオン・シビカ・ラディカル)党員で国会議員に選ばれている。1962年舞台俳優としてデビュー、翌年TVシリーズ、映画デビューは1966年。1970年代から主役を演じている。1984年のアレハンドロ・ドリアの「Darse cuenta」で主役に起用された。本作は銀のコンドル賞の作品・監督賞他を受賞したことで話題になった。ブランドニはドリア監督の「Esperando la carroza」(85)でも起用されている。『笑う故郷』のガストン・ドゥプラットの「Mi obra maestra」(18)にギレルモ・フランチェラ(ギジェルモ・フランセージャ)と共演している。間もなく80代に突入だが依然として主役に抜擢されている。

(ガストン・ドゥプラットの「Mi obra maestra」から、左側はギレルモ・フランチェラ)
★長寿TVシリーズ「Mi cuñado」(93~96)で2回マルティン・フィエロ賞を受賞、他作でも2回、計4回受賞している。新作ではロシアの哲学者、無政府主義者の革命家ミハイル・バクーニン(1814~76)の信奉者という役柄、日本では教科書で習うだけの思想家バクーニンが、アルゼンチンでは今でもファンがいるというのがミソ、マルクスのプロレタリア独裁に対立した革命家でもあった。
*リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年10月25日

(ラテンアメリカから初のドノスティア賞のリカルド・ダリン、SSIFF 2017)

(リカルド・ダリン、ベロニカ・リナス、ルイス・ブランドニの三人組、映画から)
★チノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスの「En fuera de juego」(11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』(「Muerte en Buenos Aires」14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニの「Pasaje de vida」(15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。他にルイス・オルテガの「El Angel」(18、『永遠に僕のもの』)、ウルグアイの監督アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』で実在した作家でジャーナリストのマウリシオ・ロセンコフを演じた。役者としての勝負はこれからです。
* 他にチノ・ダリンの紹介記事は、コチラ⇒2019年01月15日

(劇中でも父子を演じたリカルド&チノ・ダリン親子、映画から)
★女優軍は、フェルミンの妻リディア役のベロニカ・リナス、1960年ブエノスアイレス生れ、女優、舞台、TVシリーズで活躍、映画監督、舞台演出家でもある。父は最近癌で鬼籍入りした作家のフリオ・リナス、母は若くして癌に倒れた画家のマルタ・ペルフォ、映画監督のマリアノ・リナス(1975)は実弟。自らラウラ・シタレジャと共同監督・主演した「La mujer de los perros」(15)撮影中に夫も癌で亡くしている。本邦では馴染みがないなかで、サンティアゴ・ミトレの『パウリナ』に出演している。コメディ出演が多いが、マルティン・フィエロ賞をコメディとドラマ部門で受賞、銀のコンドル賞も受賞するなどの演技派です。

(デフォルトのニュースを聞いて気絶する夫フェルミンを支える妻リディア)

(監督&主演した「La mujer de los perros」から)
★実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』で、同僚のウエートレスの家族を破滅に追い込んだお客に猫いらず入りの料理を出して殺害しようとする料理女(ゴリラ)、塀の中体験者で「刑務所暮らしのほうがシャバより余程まし」とうそぶく、アルゼンチンの社会的不公平を逆手にとって金持ちに復讐する迫力満点の料理人を演じた。パウラ・エルナンデスの『オリンダのリストランテ』(01、08年公開)で主役のオリンダに扮した。ここでも料理をしていた(笑)。物言う女優の一人、リタ・コルテセについては別の機会にご紹介したい。

(カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ)

(料理人に扮したリタ・コルテセ、『人生スイッチ』から)
★その他の出演者たち、アレハンドロ・ヒヘナ&ギレルモ・ヤクボウィッツが扮したゴメス兄弟、アンドレス・パラが扮したマンツィなど。


★いずれ何かの形で、つまりネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、DVDなどで字幕入りで観られる機会があるのではないでしょうか。
*追加情報:邦題『明日に向かって笑え!』で公開されました。
第7回フェロス賞2020*結果発表 ― 2020年01月22日 13:57
アルモドバルの「Dolor y gloria」が6カテゴリーを独占したフェロス賞

★去る1月16日、第7回フェロス賞2020の結果発表が、マドリードのアルコベンダスで開催されました。総合司会は女優のマリア・エルバス。ドラマ部門は ペドロ・アルモドバルの「Dolor y gloria」がメインの作品・監督・脚本・主演男優・助演女優・オリジナル作曲賞の6冠を制しました。主演男優のアントニオ・バンデラスは欠席でしたが、ホセ・マリア・フォルケ賞に続いての受賞、第92回米アカデミー賞の男優賞にもノミネートされましたから、2020年は大変な年になりそうです。「Dolor y gloria」も国際映画賞部門の最終候補5作に選ばれ、師弟揃ってハリウッド入りになります。本作でアルモドバルの分身サルバドールを演じたバンデラスについて「彼は時には私の内面に入り込んできた」とガラで語っていた。

(赤絨毯に登場した総合司会者のマリア・エルバス)
★助演女優賞にはペネロペ・クルスとフリエタ・セラノの2人が同じ枠にノミネートされていましたが、予想通り先輩に軍配が上がりました。自分を起用してくれた監督に対して「贈り物だった」と感謝のスピーチをした。オリジナル作曲賞は最近のアルモドバル映画の殆ど全作を手掛けているアルベルト・イグレシアスでした。下の写真は6冠の「Dolor y gloria」、それぞれトロフィーを手にした4人、ペドロ・アルモドバルが3個手にしているのはバンデラスの分が含まれているのか。本当の勝負は間もなく開催されるマラガ対決です。

(左から、アルベルト・イグレシアス、監督・脚本賞のP・アルモドバル、
フリエタ・セラノ、A・アルモドバル)

(3個のトロフィーを手にしてご満足のアルモドバル監督)
★6部門ノミネートだった「La trinchera infinita」は、ベレン・クエスタの主演女優賞のみ、3部門ノミネートのアメナバルの『戦争のさなかで』は無冠でした。11部門しかないなかで、今年のように1作に集中した結果に白けた方もいたはずです。両作の監督たちの姿も見当たりませんでした。ベレン・クエスタの受賞は意外と受け止められたようです。下馬評ではロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」出演のマルタ・ニエトを推す人が多かったということでしたが、どちらも未見ですから何とも言えません。
★フェロス賞はドラマ部門とコメディ部門に分かれ、後者アリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』でした。ダニエル・サンチェス・アレバロの『SEVENTEENセブンティーン』は残念でした。以下が受賞結果です(ゴチック体が受賞)。
*映画*(11カテゴリー)
◎作品賞(ドラマ部門6作)
Dolor y gloria El Primer Deseo AIE / El Deseo DASLU (10個)
El hoyo(The Platform) Basque Films (6個)
La trinchera infinita Irusoin / La Claqueta / Manny Films / Moriarti Produkzioak(6個)
Lo que arde Miramemira, SL / Kowalski Filma / 4 a 4 Productions / Tarantura Luxemburgo
『ファイアー・ウィル・カム』(5個)
Los días que vendrán Avalon PC / Lastor Media SL
Quien a hierro mata Vaca Films / Atresmedia Cine, SLU

〇作品賞のプレゼンターはドレスが不評だった『アタメ!』主演のビクトリア・アブリル、「El Deseo」のアグスティン・アルモドバルが代表で受け取りスピーチ、続いて兄が弟より長いスピーチをしました。壇上にはペネロペ・クルス、フリエタ・セラノ、アルベルト・イグレシアス、助演ノミネートのアシエル・エチェアンディアなどが登壇しました。
◎作品賞(コメディ部門5作)
Diecisiete Atípica Films 監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ『SEVENTEEN セブンティーン』
El incríble finde menguante Montreux Entertainment / Trepamuros Producciones
Litus A Contracorriente Films / SL AlamoPASL / Neón Producciones SL
監督:ダニエル・デ・ラ・オルデン
Lo dejo cuando quiera Telecinco Cinemas, SAU / Mod Pictures, Mod Producciones, SL
Ventajas de viajar en tren Morena Films / Señor y Señora, SL 『列車旅行のすすめ』(7個)
〇ダニエル・サンチェス・アレバロ『SEVENTEEN セブンティーン』は残念でした。
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アイトル・アレギ 「La trinchera infinita」
ガルデル・ガステル⋍ウルティア 「El hoyo(The Platform)」
オリベル・ラシェ 『ファイアー・ウィル・カム』
アリッツ・モレノ 『列車旅行のすすめ』

(監督・脚本どちらか区別できませんが、受賞スピーチをするアルモドバル)
◎主演女優賞
ピラール・カストロ 『列車旅行のすすめ』
ベレン・クエスタ 「La trinchera infinita」
グレタ・フェルナンデス 「La hija de un ladrón」 監督:ベレン・フネス
マルタ・ニエト 「Madre」 監督:ロドリゴ・ソロゴジェン
マリア・ロドリゲス・ソト 「Los días que vendrán」 監督:カルロス・マルケス=マルセ

〇「La trinchera infinita」からは、ベレン・クエスタの1賞だけでした。今年のドレスは白と黒が流行でしたが、彼女のドレスはレトロ過ぎたということで若干不評でした。襟元がⅤ字にあいているのも今年の流行のようです。
◎主演男優賞
アントニオ・バンデラス 「Dolor y gloria」(欠席)
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「La trinchera infinita」
カラ・エレハルデ 『戦争のさなかで』(4個)
ルイス・トサール 「Quien a hierro mata」 監督:パコ・プラサ
ダビ・ベルダゲル 「Los días que vendrán」
◎助演女優賞
ペネロペ・クルス 「Dolor y gloria」
モナ・マルティネス 「Adiós」
ライア・マルル 「La inocencia」
アントニア・サン・フアン 「El hoyo(The Platform)」
フリエタ・セラノ 「Dolor y gloria」

〇大喜びの受賞者、自分を起用してくれたアルモドバル監督に感謝の辞を述べました。
◎助演男優賞
エンリク・アウケル Enric Auquer 「Quien a hierro mata」
アシエル・エチェアンディア 「Dolor y gloria」
エドゥアルド・フェルナンデス 『戦争のさなかで』
キム・グティエレス 『列車旅行のすすめ』
レオナルド・スバラグリア 「Dolor y gloria」

〇飛び上がって喜ぶ受賞者は、TVシリーズ部門でもレティシア・ドレラの「Vida perfecta」出演で助演男優賞を受賞しました。今宵のダブル受賞はこれからの人生でも忘れられない一日となるでしょう。
◎脚本賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ダビ・デソラ&ペドロ・リベロ 「El hoyo(The Platform)」
ホセ・マリ・ゴエナガ&ルイソ・ベルデホ 「La trinchera infinita」
オリベル・ラシェ&サンティアゴ・フィリョル 『ファイアー・ウィル・カム』
ハビエル・グジョン 『列車旅行のすすめ』
◎オリジナル音楽賞
セルティア・モンテス 「Adiós」
アルトゥーロ・カルデルス 「Buñuel en el laberinto de las tortugas」
アルベルト・イグレシアス 「Dolor y gloria」
パスカル・ゲーニュ 「La trinchera infinita」
アレハンドロ・アメナバル 『戦争のさなかで』
クリストバル・タピア・デ・ベエル 『列車旅行のすすめ』

〇トロフィーのコレクター、いつも穏やかで謙虚なアルベルト・イグレシアス。久しぶりに音楽を担当したアレハンドロ・アメナバルは残念でした。
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ 「Adiós」
ホルヘ・ルエンゴ 「Dolor y gloria」
ラウル・ロペス 「El hoyo(The Platform)」
マルコス・フロレス 『ファイアー・ウィル・カム』
ラファ・マルティネス 『戦争のさなかで』

◎ポスター賞
ミゲル・ナビア 「El crack cero」
エドゥアルド・ガルシア 「El hoyo(The Platform)」
ラウラ・レナウ 『8月のエバ』 監督:ホナス・トゥルエバ
アイトル・エラスキン&カルロス・イダルゴ 『ファイアー・ウィル・カム』
ホセ・アンヘル・ペーニャ 『列車旅行のすすめ』

〇このポスターは文句なしの受賞でしょうか。実に素晴らしい。「El crack cero」は引退したとばかり思っていたホセ・ルイス・ガルシが監督しました。私立探偵ヘルマン・アレタを主人公にした、1981年の「El crack」と1983年の「El crackⅡ」と合わせて三部作になる。今回はモノクロでガルシ監督が撮るということで、ルイス・アンヘル・ぺレス、カエタナ・ギジェン・クエルボ、カルロス・サントス、マカレナ・ゴメスなど演技派が参集しました。ガルシは『黄昏の恋』(82)でスペインに初のオスカーをもたらした監督です。
★TVシリーズ部門は、主要作品を満遍なく選び、4作品にばらけました。コメディ部門で選ばれた、レティシア・ドレラが監督主演した「Vida perfecta」は、第2回カンヌ国際シリーズ映画祭2019で作品賞に当たるシリーズ賞と主演賞(演技賞)をレティシア・ドレラ、アイシャ・ビリャグラン、セリア・フレイジェイロの3人が揃って受賞した作品。サンセバスチャン映画祭の大型スクリーンで上映されるベロドロモ部門でも上映されているから受賞は想定内でした。レティシアは主演、アイシャとセリアは助演女優賞にノミネートされていましたが、カンデラ・ペーニャ(主演)とヨランダ・ラモス(助演)の手に渡りました。代わりにエンリク・アウケルが今宵2個目となる助演男優賞を手にしました。
*「Vida perfecta」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月04日
*TVシリーズ*(6カテゴリー)
◎作品賞(ドラマ部門)
Hierro (Movistar+)

(Movistar+ の製作者のようですが・・・)
〇「Hierro」(シーズン1、8話)のキャスト陣は、主演女優賞のカンデラ・ペーニャの他、ダリオ・グランディネッティが主演男優賞ノミネートされていた。他にKimberley Tell、フアン・カルロス・ベジィド、マルガ・アルナウ、アントニア・サン・フアンも出演している。カナリア諸島を舞台にしたスリラー。
◎作品賞(コメディ部門)
Vida perfecta (Movistar+)

(喜びのスピーチをする監督主演のレティシア・ドレラ、右端)

(全員登壇して喜び合ったスタッフと俳優陣)
◎主演女優賞
カンデラ・ペーニャ 作品「Hierro」

〇ミニスカート姿のカンデラ・ペーニャ、以前と雰囲気が変わった印象、レティシア・ドレラやヨランダ・ラモスもミニスカートでしたが、これも今年の流行でしょうか。
◎主演男優賞
ハビエル・カマラ 作品「Vota Juan」(コメディ)


◎助演女優賞
ヨランダ・ラモス 作品「Paquita Salas」(コメディ『パキータ・サラス』Netflix配信)

◎助演男優賞
エンリク・アウケル 作品「Vida perfecta」

*特別賞*
◎栄誉フェロス賞(Premio Feroz de Honor)

(受賞者フリア・グティエレス・カバとエミリオ・グティエレス・カバの姉弟)

(左側にプレゼンターのベレン・ルエダの姿が見える)
★今年AICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)が選んだ栄誉フェロス賞は、フリア・グティエレス・カバ、エミリオ・グティエレス・カバの姉弟シネアストでした。フリアは1932年マドリード生れの舞台・映画・TVシリーズで活躍する女優。アントニオ・バルデムの「Nunca pasa nada」(63、1966フォトグラマス・デ・プラタ賞)やホセ・マリア・フォルケのコメディ「Un millón en la basura」(67)、代表作はマリオ・カムスの「El color de las nubes」で主役を演じゴヤ賞1998にノミネート、ホセ・ルイス・ガルシの「You're the One」でゴヤ賞2001の助演女優賞を受賞した。公開作品ではギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)がある。本作の主役を演じたベレン・ルエダがプレゼンターでした。シネマ・ライターズ・サークル賞3回、フォトグラマス・デ・プラタ賞2回、サン・ジョルディ賞2回、マラガ映画祭2019の特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞を受賞している。
*フリア・グティエレス・カバのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年03月17日

(ゴヤ賞2001助演女優賞のトロフィーを手にしたフリア)

(マラガ映画祭2019ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞の受賞スピーチをするフリア)
★エミリオ・グティエレス・カバは1942年バジャドリード生れの俳優。両親とも俳優という俳優一家の末っ子として父親と同じ名前エミリオを貰った。長姉イレーネも女優でしたが1995年に鬼籍入りしている。周囲の環境もあって子供の頃にスタート、芸歴は長く勿論現役で200作を超える。映画は1966年にカルロス・サウラの『狩り』やバシリオ・マルティン・パティノの「Nueve cartas a Berta」に出演した。ピラール・ミロの「Wether」(86)、マラガ映画祭1998に出品されたミゲル・アルバラデホの「La primera noche de mi vida」で男優賞を受賞した。しかし忘れていけないのがアレックス・デ・ラ・イグレシアのヒット作『13みんなのしあわせ』で第15回ゴヤ賞2001助演男優賞、スペイン俳優ユニオンやシネマ・ライターズ・サークルの助演男優賞などを受賞した。翌年アルバラデホのロマンティック・コメディ「El cielo abierto」で2個目のゴヤ賞助演を受賞した。

(『13みんなのしあわせ』でゴヤ賞助演男優賞受賞)
★他にパブロ・ララインの『ネルーダ』(16)でのピカソ役、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』(17)、Netflixで配信されたフェルナンド・ゴンサレス・モリナの『ヤシの木に降る雪』(15)やフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー~血族の秘密~』(18)がある。マラガ映画祭2016で姉より一足先に特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞に輝いた。
*エミリオ・グティエレス・カバのキャリア紹介は、コチラ⇒2016年04月14日

(マラガ映画祭2016ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞を姉から受け取った)
★ドキュメンタリー賞に、ビクトル・モレノの「La ciudad oculta」が受賞しました。ノミネートがあったのかどうか気づきませんでしたが、今までなかったカテゴリーです。ゴヤ賞にはノミネートされておりません。

(ビクトル・モレノ監督と撮影監督のホセ・アラヨン)
★ノミネートされたり、プレゼンターとして招かれた出席者のうち、ベスト・ドレッサー、ワースト・ドレッサーは、こんなシネアストたちでした。

(スパンコールのシャネル・スーツのペネロペ・クルス、エレガントではあるが平凡の採点)

(『列車旅行のすすめ』で主演女優賞ノミネートのピラール・カストロ)

(昨年12月にはなかったというタトゥーを披露した、ベレン・ルエダ、栄誉賞プレゼンター)

(ベストに選ばれたグレタ・フェルナンデスの左右対称の黒のドレス)

(「El hoyo」で助演女優賞ノミネートのアントニア・サン・フアン、ワースト採点)

(ドラマ部門作品賞プレゼンターのビクトリア・アブリル、ワースト採点)

(今年の流行、黒のミニスカートのレティシア・ドレラ)

(セリア・フレイジェイロ、「Vida perfecta」で助演助演女優賞ノミネート)

(常に品よくはみ出さない、ロドリゴ・ソロゴジェンとマルタ・ニエトのカップル)

(グレーのスリー・ピースのアントニオ・デ・ラ・トーレ)

(相変わらず目立つスーツのアシエル・エチェアンディア)
第12回ガウディ賞2020*結果発表 ― 2020年01月23日 14:31
作品賞はカルロス・マルケス=マルセの辛口コメディ「Els dies que vindran」

★ガウディ賞の正式名称は「カタルーニャ映画アカデミー<ガウディ賞>」、2002年から始まったバルセロナ映画賞がその前進、第1回は2009年でした。カタルーニャ語映画に特化した映画賞ですが、別枠にカタルーニャ語以外の映画賞もあって、こちらにゴヤ賞やフォルケ賞にノミネートされた作品が並ぶことになります。しかし当然傾向は異なり、どちらかというとバルセロナ派の作品が選ばれています。アカデミー会員は年々増える傾向にあり、現在では400名を超えていると思いますが、メンバーの投票で決定します。授賞式の規模も大きく派手になってきております。マドリード派への対抗意識が強く、それがゴヤ賞とは異なる受賞結果になっています。
★作品賞(カタルーニャ語)は、カルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」(スペイン語題「Los días que vendrán」)、カタルーニャ語以外の作品賞は、ベレン・フネスの「La hija de un ladrón」が受賞しました。フネス監督は監督賞、共同執筆者マルサル・セブリアンと脚本賞も受賞しました。両作ともゴヤ賞作品賞にはノミネートされておりません。またゴヤ作品賞ノミネートの5作は、ガウディ賞ではノミネーションはゼロでした。21カテゴリーのうちメイン・カテゴリーの受賞作品は以下の通りです。
◎作品賞(カタルーニャ語)
Els dies que vindran 監督カルロス・マルケス=マルセ、脚本カルロス・マルケス=マルセ、クララ・ロケル、コラル・クルス
製作:Lastor Medias / Avalon Productora Cinematográfica 協賛TV3カタルーニャTV
*作品紹介は、コチラ⇒2019年04月11日

(カルロス・マルケス=マルセ監督)

◎作品賞(カタルーニャ語以外)
La hija de un ladrón 監督ベレン・フネス、脚本ベレン・フネス&マルシャル・セブリアン
製作:Obelon Cinematográfica / Bteam Pictures 協賛TV3カタルーニャTV

(実のエドゥアルドとグレタのフェルナンデス父娘が主役を演じた)
◎監督賞
ベレン・フネス 映画「La hija de un ladrón」

(ベレン・フネス監督)
◎脚本賞
ベレン・フネス、マルサル・セブリアン 映画「La hija de un ladrón」

(ベレン・フネス、マルサル・セブリアン)
◎主演女優賞
マリア・ロドリゲス 映画「Els dies que vindran」

(撮影中は大きなお腹を抱えて奮闘したマリア・ロドリゲス)
〇サンセバスチャン映画祭2019女優賞受賞のグレタ・フェルナンデス(「La hija de un ladrón」)と予想しましたが外れました。
◎主演男優賞
カラ・エレハルデ 映画『戦争のさなかで』(監督アレハンドロ・アメナバル)

(ノミネーションの山でしたが、やっと1賞しました)
〇他の候補者は、エドゥアルド・フェルナンデス(「La hija de un ladrón」)、ダビ・ベルダゲル(「Els dies que vindran」)などでした。
◎助演女優賞
ライア・マルル 映画「La inocencia」(監督ルシア・アレマニー)

(大喜びのライア・マルル)

(主演女優賞ノミネートのカルメン・アルファと母娘を演じたライア・マルル)
〇意外だったか意外でなかったかは人によるでしょう。他の候補者はアルモドバルの「Dolor y gloria」出演のフリエタ・セラノとノラ・ナバスなどでした。
*「La inocencia」の作品紹介は、コチラ⇒2019年07月24日
◎助演男優賞
エンリク・アウケル 映画「Quíen a hierro mata」(監督パコ・プラサ)

(受賞のアナウンスに白のロングコートで走り回って喜んだエンリク・アウケル)
〇フェロス賞の映画部門&TV シリーズ部門で2冠だったエンリク・アウケル、これで3冠となりました。ゴヤ新人賞が楽しみになってきました。対抗馬は『戦争のさなかで』のエドゥアルド・フェルナンデス、ロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」出演のアレックス・ブレンデミュール、「La hija de un ladrón」のアレックス・モネールでした。
◎プロダクション賞
オリオル・マイモ 映画「Quíen a hierro mata」

(パコ・プラサ監督のスリラー「Quíen a hierro mata」のポスター)
◎編集賞
アナ・プファフ、カルロス・マルケス=マルセ、オスカル・デ・ジスペルト
映画「Els dies que vindran」

(アナ・プファフ、カルロス・マルケス=マルセ)
◎撮影賞
マウロ・エルセ 映画『ファイアー・ウィル・カム』(監督オリベル・ラシェ)
〇本作では オリベル・ラシェがヨーロッパ映画賞の栄誉賞も受賞しました。

(やっと1賞したオリベル・ラシェ監督)
◎美術賞
マルタ・バサコ 映画「La hija de un ladrón」
★簡単でしたが以上です。去る1月19日(現地)に結果発表になっておりましたが、大分遅れてしまいました。いよいよ25日のゴヤ賞が目前となりましたが、どんな結果になるでしょうか。監督賞ノミネーションの4人の監督が出席して行われる恒例座談会(エル・パイス紙主催)で、それぞれ思いを語っていますが、今回はアルモドバルが取るのではないでしょうか。
ゴヤ賞恒例の監督座談会*ゴヤ賞2020 ⑭ ― 2020年01月25日 22:58
映画監督はもはや絶滅危惧種――生態系を守るため文化保護区が必要です

(作品賞ノミネートの5人の監督、右端がベニト・サンブラノ)
★エル・パイス恒例の監督賞にノミネートされた監督の座談会がもたれるのですが、今回は昨年末に行われました。1月はスケジュールが込み合っていることやマラガ開催だからでしょうか。年功序列で行きますと「Dolor y gloria」のペドロ・アルモドバル(70歳)、『戦争のさなかで』でのアレハンドロ・アメナバル(47歳)、「La trinchera infinita」を代表してホセ・マリ・ゴエナガ(43歳)、『ファイアー・ウィル・カム』のオリベル・ラシェ(37歳)、写真右端は作品賞にノミネートされた「Intemperie」のベニト・サンブラです。座談会は小一時間、ゴヤ賞、プラットフォーム、現実とフィクション、映画祭上映だけで公開されない映画も含めて国際映画祭が巻き起こす功罪、スペイン映画の未来について語りあいました。

(オリベル・ラシェ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アルモドバル、アメナバル、2019年12月末)
★特に今回のノミネーションでは、『戦争のさなかで』や「La trinchera infinita」のように、歴史に基づいた作品が選ばれたことで、歴史(Historia)と物語(una historia real)の違いについて意見が交わされていた。また米アカデミー作品賞にノミネートされている、スコセッシの『アイリッシュマン』や、ノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』がNetflix 配信の映画であることから、映画館のスクリーンで観ることの不思議な高揚感が語られました。互いに見知らぬ者同士が同じ空間で観ることの神秘的な関係性は謎だということでした。映画を映画館で観ることを前提に撮り続けている監督は減り続け、もはや絶滅危惧種で動物園の中にいるようなものだと。アルモドバルは「生態系を守るために文化保護区が必要」だし、TVシリーズやネット配信の作品を撮るだけでは「これからのスペイン映画はどうなるのか」と疑問を投げかけていました。示唆に富んだ座談会なので、いずれ個々の発言をアップするつもりです。
★ゴヤ賞2020のマラガ開催の授賞式が迫ってきました。会場となるホセ・マリア・マルティン・カルペナ・スポーツ場(3200人収容)も赤絨毯の準備に追われているようです。もともとはマラガ市スポーツセンターでしたが、2000年にETAによって殺害された国民党の政治家ホセ・マリア・マルティン・カルペラを讃えて2010年に名称が変更された。今年は主演男優賞にマラガ生れのアントニオ・バンデラスやアントニオ・デ・ラ・トーレがノミネートされているので、町全体も盛り上がっている。デ・ラ・トーレは既に現地入りして生れ育った界隈を散策、旧知の知人、隣人からの「オーラ!」にハグしまわっています。また著名な映画評論家たちの下馬評も出回っておりますが、結構ばらばらです。

(赤絨毯敷きつめに大わらわの関係者たち、ホセ・M・マルティン・カルペナ・スポーツ場)

(あちこちからの「オーラ!」に気軽に応えるアントニオ・デ・ラ・トーレ)
★昨年の好評につき今年も総合司会者を務める、コメディアン夫婦、シルビア・アブリル&アンドレウ・ブエナフエンテのカップルも用意万端、下記の写真はスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソとのスリーショット。年々ビジュアルなフィエスタが加速しているようです。セレブたちの赤絨毯登場からテレビ放映は始まると思いますが、開会式は1月25日(土)22:00~です。

(左から、マリアノ・バロッソ、シルビア・アブリル、アンドレウ・ブエナフエンテ)
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